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「分裂譚」 ~ ♂殖栗 玉造シリーズ♀ (1)
テキスト.ありす
挿絵.松園
(1)-------------------------------------------------------
「はぁー、彼女が欲しいなぁ……」
天気の良い昼下がり。バイトも学校もなく、暇をもてあましていた俺は、近所の公園のベンチでぼうっとしていた。
「お悩みですね」
「どわっ! 何だお前は!」
突然背後から話しかけられ、飛び上がるほどにびっくりした。
振り返ると黒のスーツに黒の帽子、そして黒のアタッシュケースを携えた中年男が立っていた。
典型的な営業スマイルに、メタボ街道まっしぐらという感じの、見るからに怪しい男だ。
こいつか! 俺を驚かしやがったのは!
「私ですか? 私、こういうものです」
差し出された名刺を反射的に受け取ると、そこにはこう書かれていた。
性の悩み解決します
コンサルタント
殖栗 玉造
「なんて読むんだ?」
「“ふぐり”です。ふぐりたまぞう」
「んで? そのフグリさんは、いったい俺に何の用だ?」
「あなたがお呼びになったのですよ」
「俺はお前なんか呼んでねえ」
「さっき“彼女が欲しい”と、そうおっしゃられたではありませんか」
俺は思いっきり不審な表情を浮かべて、そいつを見た。
「お前が彼女になろうってのか?」
「それでもよろしゅうございますが、そうではありません」
俺はすぐさま、にこやかな笑顔に変えた。
「紹介してくれるのか?」
「いいえ」
俺は手で追い払う仕草をした。
「しっしっ! 人をからかうのなら、どっかよそでやってくれ」
「まだ、お話の途中なのですが」
「どうせ、オナホールかダッチワイフでも売りつける気だろう? アダルトグッズのセールスなら、間に合ってるよ」
「さすがご明察……と言いたいところですが、そういう子供だましのおもちゃ等ではございません」
「オナホールもダッチワイフも、子供には売らんと思うが?」
「あなた意外に細かいですな。それではなかなか女性にはモテないでしょう?」
「ほっとけ!」
「ま、百聞は一見にしかず。これをご覧下さい」
男はそう言って、透明なガラスの小瓶を取り出した。中には黒くて丸い粒が数個入っていた。
「これは“分裂丹”と申しましてな。飲むと二人に分裂する薬なのです」
「分裂してどうするんだ? ホモニーでもしろってか?」
「なんです? “ホモニー”って」
「“ホモ”カップルで“オナニー”の略だ」
「なるほど! いい事を伺いました。メモしておきましょう」
「メモなんかせんでいい!」
「誠に残念ながら、この薬を飲んでも、ホモカップルにはなれません。分裂した片方は必ず違う性になってしまうのです」
「残念じゃねえよ! 俺は“女の彼女”が欲しいんだよっ! ……って、今なんていった?」
「“この薬を飲んでも、ホモカップルにはなれません”」
「そっちじゃねぇっ! 俺をからかっているのか! いま分裂した片方は……」
「……必ず違う性になってしまいます」
「それだ! ……ってよく考えると、それを俺が飲んだとして、分裂したもう片一方は女になるといっても、それも俺なのか?」
「はい。正確にはあなた様のDNA情報を基に、あなた様のとても他人には言えないような、恥ずかしくておぞましくて嫌らしい妄想を設計図として、異性を作り上げるのです」
「いま、さらっと失礼な事言わなかったか?」
俺は男を睨み付けたが、奴は暑苦しい顔を涼しい表情のまま続けた。
「なにせ相手は自分自身。どんなに変態的プレイも思いのまま。口に出すのもはばかれるであろうあなた様の変態願望も、公にはできないような性犯罪願望も、間違いなく警察沙汰になるような性的陵辱も思いのまま」
「いま思いっきり、俺のこと侮辱しただろう!?」
「ま、いろいろ思うところもおありでしょうが、あなた様の遺伝情報を基に、あなた様にぴったりのダッチ……いえ、彼女が作れる薬なのですよ」
「信じられんな」
「就寝前に一粒飲んで、翌朝には出来上がっているという寸法です。効果は一粒24時間。24時間経つと、跡形もなく消えてしまいます」
「消耗品ってことか?」
「どうです? ワンセット3回分」
「人体に害は……」
「もちろん、ありませんとも」
「で、いくらなんだ?」
「やっぱ思ったとおりの変態さんですねぇ、うふふふふふふふ」
「うるせえっ! お前、本当に失礼な奴だな!」
「これでいかがでしょう?」
男は懐から電卓を出して見せた。
「高い! まけろ」
「では、これぐらいで」
「もう一声!」
「あなた、随分としみったれていますなぁ」
「やかましい! そんな金あったらソープにでもいってらぁ。言ってみれば道具を使ったオナニーみたいなもんだから、アダルトグッズ程度の値段が相場だろう?」
「むちゃくちゃな理屈ですなぁ。仕方がありません。こちらの2級品でよろしければ、このお値段で」
「2級品って、何か質的に問題があったりするのか?」
「たまに不良品が混じっているんですよ」
「不良ってどんな?」
「さぁ? 何せ人知を超えた薬なので……。でも、人畜無害なので大丈夫ですよ、タブン」
「多分……か、まぁいいや。それをもらおうか」
「ありがとうございます」
「嘘だったら、金返してもらうからな」
こうして、俺は男から3日分の怪しい丸薬を買い帰宅した。
明日になったらどんなことをしてやろうかと、期待に胸と股間を膨らませながら、いつもよりも早めに寝た。
*---*---*---*---*---*---*---*---*---*---*
そして翌朝。
おれは何者かに起こされた。
「おい、起きろよ」
あぁ? なんだよ、体がだるくって、起きる気がしないな……。
「おい! 起きろ!」
「うるさいなぁ……、っておれか!?」
「やっと起きたか。寝ている間にいたずらしても良かったんだが、一応起こしてからと思ってな」
そういえば昨晩、怪しい男から分裂丹とか言うのを買って飲んだんだっけ。
期待感半分、不信感半分の妙な表情の自分の顔を見つめながら、妙なだるさを感じる体を起こした。
「って何だ! この体は!!」
先ず目に付いたのは真っ白くて細長い手。パジャマ代わりのTシャツは明らかにだぶだぶで、裾から伸びている足は、これまた頼りないぐらいに細くてネギみたいに白い。あわてて自分の体をまさぐると、股間には握りなれた自分のイチモツが痕跡すらなく、胸は……残念だった。
「怪しい薬の、しかも2級品だからどうかと思っていたが、本当だったな」
「……いや、やっぱり2級品だ! おれの方が女になって……こ、声まで変わっている?!」
聞きなれない甲高い自分の声を確かめるように、“あーあー”などと声を出しながら喉をさすった。
「記憶も引き継がれているのか? お前が俺のコピー異性体なんだろ?」
「いや、多分お前のほうが、コピーだと思う」
「何でだ?」
おれはちゃぶ台の上に乗っていた小さな鏡をとってコピーに突きつけた。
「ほら、鏡見てみろ。額のところに“複”って書いてあるぞ」
「なんだって? ホントだ……。“複”って複製のことか!?」
「そういうことだろう。おれがオリジナル」
「なんだよー。せっかく分裂したって言うのに、俺のほうがコピーだったのかよ……」
「そういうおれだって……。って、なんでおれのほうが女なんだよ!」
「俺に言ってもしょうがないだろ?」
「本当はお前が女になるはずだったのに……」
「「はぁ~」」
おれたちは顔を見合わせながら、互いに溜息をついた。
コピーに突きつけた鏡を奪い返し、あらためて自分の顔を確かめた。

元の自分とは似ても似つかない……いや、似ていないことも無いだろうか?
自分に姉か妹がいれば、こんな顔なのかもしれない。
残念ながらそれを確かめる手立ては無いが、もしかして母親の若い頃って……いや、想像するのは止めよう。実家に帰った時に、このことを思い出したくない。
それにしても、この体の小ささはなんだ?
おまけに薄茶色に色素が抜けかけた髪も、腰まで伸びている。
邪魔というか、くすぐったいというか……。
だが、自分で言うのもなんだが、
“かわいい”
髪と同じ色の、大きなくりくりの瞳に細い眉。
顔の真ん中にはちゃんと穴ある? って言うぐらいに小さい鼻。
……こ、コレがおれか?
ふと、気がつくと、コピーの奴がニヤニヤしながらおれの顔を覗きこんでいる。
「それにしても、予想外にかわいいな。コレが女になった自分だと思うと、恥ずかしいのが半分、親を恨むキモチ半分ってとこかな?」
「何でそこで親を恨むんだよ?」
コピーはおれのあごに手を当てて、自分の方を向かせると、おれの顔を覗きこむようにしていった。
「いや、だって、こんだけかわいければだな、女に産んでくれてれば、随分とイイ思いができたに違いない」
「馴れ馴れしく、顔に触るな!」
コピーの手を振り払って、改めてもう一度自分の顔を確かめた。
「……ま、確かに我ながらかわいいとは思うが、イイ思いばかりできるとはかぎらんだろう?」
「そうかな?」
現に今、おれはなんとなく不安な気持ちでいっぱいだ。
なんだこの感覚?
「まぁ、ごたごた言っていても仕方ないから、始めようか」
「始めるって何をだ?」
「ヤるんだろ? そのつもりで薬を飲んだんじゃないのか?」
不安の正体はコレだ!
おれはにじり寄ろうとするコピーから遠ざかろうと、後ずさった。
「いや、確かにそうだがこれは想定外だ。本当はおれが男で、お前が女になるはずだったんだぞ」
「だが、現状は見てのとおりだ。しょうがないだろ?」
「しょうがないで済むか! まったく、何だってこんな……」
「安く買い叩いたのが、原因じゃないのか?」
2級品だとかいっていたからなぁ……。
早まったかと後悔していると、コピーの奴が背中に手を回して迫ってきた。
「優しくするから」
「ちょっと待て」
「なんだよ?」
「いきなりは無いだろ! おれにも心の準備ってモンが……」
いくら自分とは言え、そう簡単に体を許せるか!
「面倒なくどき文句でも言えってか?」
「面倒とはなんだ! 他人にお願いするには礼儀って物があるだろう」
「お前は俺本人なんだろ? 遠慮なんか必要ないだろう」
そう言いながら、おれが着ていたパジャマ代わりのTシャツに手をかけた。
「いいから! おあずけ!! しっ、しっ!!」
「おれは犬かよ」
「いくら本人だって言っても、いまは別の体。少しは配慮してくれても良いだろう? 女の子初心者なんだぞ」
「手軽にエッチできると思ったのになぁ」
「“エッチ”が目的じゃなくて、“彼女がほしい”ってのが、本来の目的だ!!」
「ま、俺は何しろコピーだからな、細かいところが抜けているのかも知れんな。ははは」
「“ははは”、じゃないだろう!」
「でも、ホンネは……だろ?」
コピーはニヤニヤしながらおれの顔を覗きこんだ。
いや、そうだけどよ……。
正直いって、おれも興味がある。
女の体がどんな風に感じるのかって……。
「じゃ、早速女体探検といこうか。お前だけ先に知っているなんて、ずるいじゃないか」
「いま目が覚めたばかりだ! まだ何もしてねぇっての!! ……あ!」
「ん? なんだ?」
「トイレに行きたい」
「それじゃ俺も」
おれが布団から立ち上がると、コピーの奴も立ち上がった。
「ついてくんなよ」
「いいじゃないか、見せてくれても」
「見せるか! おまえ、自分だと思って、ホントに遠慮が無いな!!」
「こんなこと、自分じゃなきゃ頼めないだろう? お前だってAVの放尿シーンを見て、興奮したことがあったじゃないか」
「放尿シーンに興奮したんじゃなくて、女の子が恥ずかしくて顔を手で隠しながら、半泣きになっているところに興奮したの!!」
言ってからおれは、がっくりと首をうなだれた。
「ん? どうした?」
「いや、なんつーか自分の自覚すらなかった性癖を暴露しているみたいで、すんげーヘコむんだけど……」
「いいじゃないか、本人なんだから」
「よくねえよ!」
「俺、今お前が恥ずかしくてヘコん出る姿に、ちょっと萌えたかも……」
ボカッ!
「いってえな! 殴ること無いだろ」
「おれは自分がそんなだと思うと情けなくて、情けなくて……」
「泣くなよ、俺はお前の劣化コピーだからこんななんだって、思えばいいじゃないか」
「ぐすっ……、ホントに涙出てきた」
「おーよしよし、慰めてやるから、泣くなよ」
と、自分に抱きしめられた。
あ、意外に……なんか安心する。
頭なでられて、背中さすられていると、なぜか懐かしく……。
そうだ、子供の頃にこんな風に母親に慰められたことが――と思い出しかけたところで、背中に回された手が、なにやら腰の辺りに。
「おい。どさくさにまぎれて、ドコ触ってんだよ?」
「え? このまま身を任せてくれるんじゃないのか? そういう流れだろ?」
ゴスッ!
「うぐぉっ! ……み゙、み゙ぞお゙ぢ、ぐるじぃ……」
「トイレ行ってくるから、ついてくんなよ!」
蹴り込まれた腹を抱えて崩れ落ちたコピーをそのままにして、おれはトイレに入った。
<つづく>
挿絵.松園
(1)-------------------------------------------------------
「はぁー、彼女が欲しいなぁ……」
天気の良い昼下がり。バイトも学校もなく、暇をもてあましていた俺は、近所の公園のベンチでぼうっとしていた。
「お悩みですね」
「どわっ! 何だお前は!」
突然背後から話しかけられ、飛び上がるほどにびっくりした。
振り返ると黒のスーツに黒の帽子、そして黒のアタッシュケースを携えた中年男が立っていた。
典型的な営業スマイルに、メタボ街道まっしぐらという感じの、見るからに怪しい男だ。
こいつか! 俺を驚かしやがったのは!
「私ですか? 私、こういうものです」
差し出された名刺を反射的に受け取ると、そこにはこう書かれていた。
性の悩み解決します
コンサルタント
殖栗 玉造
「なんて読むんだ?」
「“ふぐり”です。ふぐりたまぞう」
「んで? そのフグリさんは、いったい俺に何の用だ?」
「あなたがお呼びになったのですよ」
「俺はお前なんか呼んでねえ」
「さっき“彼女が欲しい”と、そうおっしゃられたではありませんか」
俺は思いっきり不審な表情を浮かべて、そいつを見た。
「お前が彼女になろうってのか?」
「それでもよろしゅうございますが、そうではありません」
俺はすぐさま、にこやかな笑顔に変えた。
「紹介してくれるのか?」
「いいえ」
俺は手で追い払う仕草をした。
「しっしっ! 人をからかうのなら、どっかよそでやってくれ」
「まだ、お話の途中なのですが」
「どうせ、オナホールかダッチワイフでも売りつける気だろう? アダルトグッズのセールスなら、間に合ってるよ」
「さすがご明察……と言いたいところですが、そういう子供だましのおもちゃ等ではございません」
「オナホールもダッチワイフも、子供には売らんと思うが?」
「あなた意外に細かいですな。それではなかなか女性にはモテないでしょう?」
「ほっとけ!」
「ま、百聞は一見にしかず。これをご覧下さい」
男はそう言って、透明なガラスの小瓶を取り出した。中には黒くて丸い粒が数個入っていた。
「これは“分裂丹”と申しましてな。飲むと二人に分裂する薬なのです」
「分裂してどうするんだ? ホモニーでもしろってか?」
「なんです? “ホモニー”って」
「“ホモ”カップルで“オナニー”の略だ」
「なるほど! いい事を伺いました。メモしておきましょう」
「メモなんかせんでいい!」
「誠に残念ながら、この薬を飲んでも、ホモカップルにはなれません。分裂した片方は必ず違う性になってしまうのです」
「残念じゃねえよ! 俺は“女の彼女”が欲しいんだよっ! ……って、今なんていった?」
「“この薬を飲んでも、ホモカップルにはなれません”」
「そっちじゃねぇっ! 俺をからかっているのか! いま分裂した片方は……」
「……必ず違う性になってしまいます」
「それだ! ……ってよく考えると、それを俺が飲んだとして、分裂したもう片一方は女になるといっても、それも俺なのか?」
「はい。正確にはあなた様のDNA情報を基に、あなた様のとても他人には言えないような、恥ずかしくておぞましくて嫌らしい妄想を設計図として、異性を作り上げるのです」
「いま、さらっと失礼な事言わなかったか?」
俺は男を睨み付けたが、奴は暑苦しい顔を涼しい表情のまま続けた。
「なにせ相手は自分自身。どんなに変態的プレイも思いのまま。口に出すのもはばかれるであろうあなた様の変態願望も、公にはできないような性犯罪願望も、間違いなく警察沙汰になるような性的陵辱も思いのまま」
「いま思いっきり、俺のこと侮辱しただろう!?」
「ま、いろいろ思うところもおありでしょうが、あなた様の遺伝情報を基に、あなた様にぴったりのダッチ……いえ、彼女が作れる薬なのですよ」
「信じられんな」
「就寝前に一粒飲んで、翌朝には出来上がっているという寸法です。効果は一粒24時間。24時間経つと、跡形もなく消えてしまいます」
「消耗品ってことか?」
「どうです? ワンセット3回分」
「人体に害は……」
「もちろん、ありませんとも」
「で、いくらなんだ?」
「やっぱ思ったとおりの変態さんですねぇ、うふふふふふふふ」
「うるせえっ! お前、本当に失礼な奴だな!」
「これでいかがでしょう?」
男は懐から電卓を出して見せた。
「高い! まけろ」
「では、これぐらいで」
「もう一声!」
「あなた、随分としみったれていますなぁ」
「やかましい! そんな金あったらソープにでもいってらぁ。言ってみれば道具を使ったオナニーみたいなもんだから、アダルトグッズ程度の値段が相場だろう?」
「むちゃくちゃな理屈ですなぁ。仕方がありません。こちらの2級品でよろしければ、このお値段で」
「2級品って、何か質的に問題があったりするのか?」
「たまに不良品が混じっているんですよ」
「不良ってどんな?」
「さぁ? 何せ人知を超えた薬なので……。でも、人畜無害なので大丈夫ですよ、タブン」
「多分……か、まぁいいや。それをもらおうか」
「ありがとうございます」
「嘘だったら、金返してもらうからな」
こうして、俺は男から3日分の怪しい丸薬を買い帰宅した。
明日になったらどんなことをしてやろうかと、期待に胸と股間を膨らませながら、いつもよりも早めに寝た。
そして翌朝。
おれは何者かに起こされた。
「おい、起きろよ」
あぁ? なんだよ、体がだるくって、起きる気がしないな……。
「おい! 起きろ!」
「うるさいなぁ……、っておれか!?」
「やっと起きたか。寝ている間にいたずらしても良かったんだが、一応起こしてからと思ってな」
そういえば昨晩、怪しい男から分裂丹とか言うのを買って飲んだんだっけ。
期待感半分、不信感半分の妙な表情の自分の顔を見つめながら、妙なだるさを感じる体を起こした。
「って何だ! この体は!!」
先ず目に付いたのは真っ白くて細長い手。パジャマ代わりのTシャツは明らかにだぶだぶで、裾から伸びている足は、これまた頼りないぐらいに細くてネギみたいに白い。あわてて自分の体をまさぐると、股間には握りなれた自分のイチモツが痕跡すらなく、胸は……残念だった。
「怪しい薬の、しかも2級品だからどうかと思っていたが、本当だったな」
「……いや、やっぱり2級品だ! おれの方が女になって……こ、声まで変わっている?!」
聞きなれない甲高い自分の声を確かめるように、“あーあー”などと声を出しながら喉をさすった。
「記憶も引き継がれているのか? お前が俺のコピー異性体なんだろ?」
「いや、多分お前のほうが、コピーだと思う」
「何でだ?」
おれはちゃぶ台の上に乗っていた小さな鏡をとってコピーに突きつけた。
「ほら、鏡見てみろ。額のところに“複”って書いてあるぞ」
「なんだって? ホントだ……。“複”って複製のことか!?」
「そういうことだろう。おれがオリジナル」
「なんだよー。せっかく分裂したって言うのに、俺のほうがコピーだったのかよ……」
「そういうおれだって……。って、なんでおれのほうが女なんだよ!」
「俺に言ってもしょうがないだろ?」
「本当はお前が女になるはずだったのに……」
「「はぁ~」」
おれたちは顔を見合わせながら、互いに溜息をついた。
コピーに突きつけた鏡を奪い返し、あらためて自分の顔を確かめた。

元の自分とは似ても似つかない……いや、似ていないことも無いだろうか?
自分に姉か妹がいれば、こんな顔なのかもしれない。
残念ながらそれを確かめる手立ては無いが、もしかして母親の若い頃って……いや、想像するのは止めよう。実家に帰った時に、このことを思い出したくない。
それにしても、この体の小ささはなんだ?
おまけに薄茶色に色素が抜けかけた髪も、腰まで伸びている。
邪魔というか、くすぐったいというか……。
だが、自分で言うのもなんだが、
“かわいい”
髪と同じ色の、大きなくりくりの瞳に細い眉。
顔の真ん中にはちゃんと穴ある? って言うぐらいに小さい鼻。
……こ、コレがおれか?
ふと、気がつくと、コピーの奴がニヤニヤしながらおれの顔を覗きこんでいる。
「それにしても、予想外にかわいいな。コレが女になった自分だと思うと、恥ずかしいのが半分、親を恨むキモチ半分ってとこかな?」
「何でそこで親を恨むんだよ?」
コピーはおれのあごに手を当てて、自分の方を向かせると、おれの顔を覗きこむようにしていった。
「いや、だって、こんだけかわいければだな、女に産んでくれてれば、随分とイイ思いができたに違いない」
「馴れ馴れしく、顔に触るな!」
コピーの手を振り払って、改めてもう一度自分の顔を確かめた。
「……ま、確かに我ながらかわいいとは思うが、イイ思いばかりできるとはかぎらんだろう?」
「そうかな?」
現に今、おれはなんとなく不安な気持ちでいっぱいだ。
なんだこの感覚?
「まぁ、ごたごた言っていても仕方ないから、始めようか」
「始めるって何をだ?」
「ヤるんだろ? そのつもりで薬を飲んだんじゃないのか?」
不安の正体はコレだ!
おれはにじり寄ろうとするコピーから遠ざかろうと、後ずさった。
「いや、確かにそうだがこれは想定外だ。本当はおれが男で、お前が女になるはずだったんだぞ」
「だが、現状は見てのとおりだ。しょうがないだろ?」
「しょうがないで済むか! まったく、何だってこんな……」
「安く買い叩いたのが、原因じゃないのか?」
2級品だとかいっていたからなぁ……。
早まったかと後悔していると、コピーの奴が背中に手を回して迫ってきた。
「優しくするから」
「ちょっと待て」
「なんだよ?」
「いきなりは無いだろ! おれにも心の準備ってモンが……」
いくら自分とは言え、そう簡単に体を許せるか!
「面倒なくどき文句でも言えってか?」
「面倒とはなんだ! 他人にお願いするには礼儀って物があるだろう」
「お前は俺本人なんだろ? 遠慮なんか必要ないだろう」
そう言いながら、おれが着ていたパジャマ代わりのTシャツに手をかけた。
「いいから! おあずけ!! しっ、しっ!!」
「おれは犬かよ」
「いくら本人だって言っても、いまは別の体。少しは配慮してくれても良いだろう? 女の子初心者なんだぞ」
「手軽にエッチできると思ったのになぁ」
「“エッチ”が目的じゃなくて、“彼女がほしい”ってのが、本来の目的だ!!」
「ま、俺は何しろコピーだからな、細かいところが抜けているのかも知れんな。ははは」
「“ははは”、じゃないだろう!」
「でも、ホンネは……だろ?」
コピーはニヤニヤしながらおれの顔を覗きこんだ。
いや、そうだけどよ……。
正直いって、おれも興味がある。
女の体がどんな風に感じるのかって……。
「じゃ、早速女体探検といこうか。お前だけ先に知っているなんて、ずるいじゃないか」
「いま目が覚めたばかりだ! まだ何もしてねぇっての!! ……あ!」
「ん? なんだ?」
「トイレに行きたい」
「それじゃ俺も」
おれが布団から立ち上がると、コピーの奴も立ち上がった。
「ついてくんなよ」
「いいじゃないか、見せてくれても」
「見せるか! おまえ、自分だと思って、ホントに遠慮が無いな!!」
「こんなこと、自分じゃなきゃ頼めないだろう? お前だってAVの放尿シーンを見て、興奮したことがあったじゃないか」
「放尿シーンに興奮したんじゃなくて、女の子が恥ずかしくて顔を手で隠しながら、半泣きになっているところに興奮したの!!」
言ってからおれは、がっくりと首をうなだれた。
「ん? どうした?」
「いや、なんつーか自分の自覚すらなかった性癖を暴露しているみたいで、すんげーヘコむんだけど……」
「いいじゃないか、本人なんだから」
「よくねえよ!」
「俺、今お前が恥ずかしくてヘコん出る姿に、ちょっと萌えたかも……」
ボカッ!
「いってえな! 殴ること無いだろ」
「おれは自分がそんなだと思うと情けなくて、情けなくて……」
「泣くなよ、俺はお前の劣化コピーだからこんななんだって、思えばいいじゃないか」
「ぐすっ……、ホントに涙出てきた」
「おーよしよし、慰めてやるから、泣くなよ」
と、自分に抱きしめられた。
あ、意外に……なんか安心する。
頭なでられて、背中さすられていると、なぜか懐かしく……。
そうだ、子供の頃にこんな風に母親に慰められたことが――と思い出しかけたところで、背中に回された手が、なにやら腰の辺りに。
「おい。どさくさにまぎれて、ドコ触ってんだよ?」
「え? このまま身を任せてくれるんじゃないのか? そういう流れだろ?」
ゴスッ!
「うぐぉっ! ……み゙、み゙ぞお゙ぢ、ぐるじぃ……」
「トイレ行ってくるから、ついてくんなよ!」
蹴り込まれた腹を抱えて崩れ落ちたコピーをそのままにして、おれはトイレに入った。
<つづく>
コメント
おー、ほっほっほっ……❤
この薬どこで売ってますか?(1級品と2級品)
ヤバい!これは期待せざるおえない。
続きをお待ちしてます。
続きをお待ちしてます。
出だしでわかるとおり、今回はエロコメです。
贅沢にも毎回イラスト付き、テキスト増量で全6回です。
松園さんの描く、レーティングぎりぎり❤のエロカワキャラにご期待ください。
贅沢にも毎回イラスト付き、テキスト増量で全6回です。
松園さんの描く、レーティングぎりぎり❤のエロカワキャラにご期待ください。
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でも、いつかあなたの街にも……?