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芦村君の体の事情~その4~

作.藤原埼玉
キャラ造形.こじか

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その1はこちら

その2はこちら
その3はこちら

「……こ、この前の……っつ、つづき……」

芦村は、興奮と不安と羞恥で上手く呂律が回らない。

「……」

神野は驚いた顔をした後、後ろめたいような微妙な顔をした。

「…いいのか??」

「……おなかが……じんじんして……つらくて……だから……かんのだったら……いい……っから……」

「……」

神野の返答がないので訝しく思って見上げると神野は少し険しい顔をしていた。

「……お前さあ……自分が何言ってるのかわかってんの??」

「え?」

そんな心情を知ってか、神野はぽんと少しぶっきらぼうに芦村の頭に手を置くと、ぐい、と顔を上向かせた。

「オレだからして欲しいくらい言え。この口で。今すぐ。じゃないと容赦なく全力で犯す。」

神野の目は笑ってなかった。芦村は血の気がさっと引く。でも今は兎に角理性が崩壊していた。

「か、神野に……神野だからして欲しいです……」

芦村は息を荒げて懇願するように言った。

「俺に何をして欲しいって?」

「わ、わかんない……」

「ちゃんと言え。ナニでナニをどうしてほしい?」

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芦村君の体の事情~その2~  (こじかさんの挿絵追加)

作.藤原埼玉
キャラ造形.こじか https://twitter.com/kojica_m45

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その1はこちら

その3はこちら


ざわざわ

「……」

芦村は自分の机の前で灰色の目で立ち尽くしていた。
その目線の先……芦村の机の上には……女子の体操着……しかも今の時代どこから調達してきたのかブルマが置いてあった。

「くそお!!誰だああああああ!!」

芦村は涙目でその体操着を掴むとゴミ箱に投げ捨てた。

「……流石にこんな嫌がらせはひどいね……」

「芦村くんが可哀想……」

芦村は同情の視線が降り注ぐ中でもういっそほっといて欲しいと思いながら机に突っ伏した。

ざわざわ

一際ざわめきが激しくなり、芦村は不思議に思い顔を上げた。すると………

「いでででででででででで!!」

教室に入ってきたのは神野と神野に耳を引っ張られて入ってきた男子生徒だった。

「か、神野?」

「犯人見つけた。こいつ。」

神野は連れてきたその男子生徒を指で指すと冷ややかに言った。

「ちげえよ!!」

その男子生徒は悪びれる様子もなく言ったが、今度は神野はそいつの目の中を見て言い放った。

「うっせえな、こっちには証人はいんだよ。しかも複数人。このこと担任に言っとくから覚悟しとけよ。」

そいつは神野の目の奥から放たれる怒気に気圧されたのか、今度は少し掠れた声で言った。

「ち、ちげえっていってんだろ!!……」

「弁解なら担任に言え、じゃあな」

神野が手を離すとその男子生徒はほうほうの体で教室から出ていった。

「か、神野……」

芦村は胸の奥がスッとしたと同時に、親友が見せた自分のための怒りに素直に感動で胸が熱くなった。

「神野くんすごーい!!」

「やるー!!」

「……あ」

女子生徒たちが神野の周りに群がり、にこやかに対応する神野。芦村はなんとなく近づき辛そうに遠巻きにしていると神野と目が合った。

「あ、ありがと……」

俯きがちにそれだけいうと芦村はふいと教室の外に出ていった。

「芦村君??どうしたんだろ?」

「なんか、そっけないね……助けてもらったのに」

「ああ、ちょっと今色々あって」

「そうなんだ」

「まあ、芦村君も色々大変だもんね~、可哀想―」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

全文を表示 »

芦村君の体の事情~その3~

作.藤原埼玉
キャラ造形.こじか

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その1はこちら

その2はこちら

(翌日の昼休み)
(……結局、全然寝れなかった……)

「芦村!どうしたそのクマ!?」

「昨日全然寝れなくてさ……」

「なんだ?エロ画像サーフィンでもしてたら寝付けなかった??」

「お前と一緒にするな!!」

話しかけてきたクラスメイトの関村は芦村の男友達の一人。芦村が女子になっても変わらず能天気にバカ話をしてくるので、芦村は話しやすいと感じているのだった。

「そうそう!そんな芦村にピッタリのものがあってな……これなにか分かるか?」

関村がカバンから取り出したのは見るからに妖し気な栄養ドリンクだった。

「なにそれ??『絶汁』??……」

「精力剤。アカマムシ的なあれだよ。」

「学校になに持ってきてるんだよ……」

芦村はあきれ顔で言った。

「駅前で配ってたんだよ。そんで何本かもらってきたんだけどお前にもやるよ。」

そういって芦村に手渡すと、関村は一口にドリンク一本を飲みほした。

「うわっ!大丈夫??」

「不味っ!?でも力付きそうだわ。」

「なんか変な感じとかしないの??」

「ん、全然。」

「じゃあ、僕も飲もうかな。昨日から体が怠(だる)くて……」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「はあ…はあっ…」

(なんか……お腹の奥の方があっつい……)

今は授業中。しかし、芦村は体が疼くように熱くなって授業の内容が全く頭に入らなかった。

(これ絶対……あのドリンクのせいだ……くそう……関村の奴は平気そうなのに……)

ちらりと見ると関村は相も変わらず授業中なのに能天気に鼻歌を歌っている。

(どうしよう……水たくさん飲めば治るかな……保健室行って…………)

芦村は時計を見る。あと三十分もすれば休み時間だった。

(でも、あと二限だから……がまんしよう)

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「はっ……はあ……」

「お、おい芦村大丈夫か??」

「すごい顔赤いよ?大丈夫?」

一限の間に芦村は、汗だくになっていた。顔は赤く紅潮していて太ももは痙攣するように震えていた。<追加イラスト希望>

「らい……じょぶ……あと、一限……だ……し……」

「おい、芦村どうした?」

聞きなれた声が頭上で聞こえた。神野の声だった。

芦村は緩慢な動作で、神野の方を見上げた。

「か……んの……?」

芦村は震える吐息を吐き出した。

欲しい。

欲しい?

え、ぼくは何が欲しいんだろう?

「お、おい大丈夫か?」

芦村の潤んだ瞳と吐息に神野は少し動揺したようだった。明らかに様子がおかしい。

「あ、芦村……大丈夫か?今のお前なんか……え、エロぶふう!」

関村の顔に神野の鉄拳が飛んだ。

「か、神野くん!落ち着いて!!」

「おい、どうした?もう授業始めるぞ?なんだ?芦村調子悪いのか?」

「……先生。なんか、芦村の様子がおかしいんです。」

神野は、教卓に向かって歩いていき何かを先生と話してるみたいだった。

「か……んの」

芦村は気が付いたら手を神野の手に向けて伸ばしていた。

どうしよう。あつい。からだがあつい。

へんなことばっかりあたまのなかでもやもやぐるぐるする。

どうしようもなくほしい。ほしい。ほしい。

さわってほしい。

かんのに。

……

神野に?

そこで芦村は考えるのを止めて素直に一番の欲求に従うことにした。

(なんかもう…なんでもいいや……)

芦村は汗だくになりながらがた、と席を立ちあがった。クラスの全員が芦村の方を振り向く。

「せ、先生……ちょっと保健室いってきます……」

「だ、大丈夫か??芦村??顔赤いぞ??」

「は、はい……っちょ、ちょっと歩けないので神野についてきてもらっていいですか??」

神野は少し驚いたような顔をしたが、直ぐに席を立つと芦村の脇を抱えて歩き出した。

「ああ、気を付けてな」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「ふう……はあ……」

「……」

神野は終始無言だった。少し不機嫌そうに見える。実際そうなのかもしれない。親友が苦しそうなのに一言も声かけしないなんて、神野にしてはあり得ない。

(…なんだろ……怒ってんのかな神野…)

「……」

(……っていうか一言声ぐらいかけてくれたっていいのに……)

「……」

(……こいつは昔っからいい恰好しいで、相手の気持ちなんか関係なくて……)

「……」

(なんで……僕はこんなに大変なのに……今もこんな大変な思いをしてんのにこいつは涼しい顔しやがって……)

「……」

(…僕は…こいつの……狼狽えた顔がみたいだけなんだ……これはきっとそうなんだ……)

神野は、いつもの優しい手つきでゆっくりとベッドに芦村を横たえ、毛布をかけた。
神野は、椅子を引っ張ってきてそこに無造作に腰かけた。

「熱……風邪か?……」

神野は芦村のおでこに手を触れた。そのひんやりとした人肌の感触にお腹がうずうずした。

「……わかんにゃい……」

「……じゃあ……オレ授業戻るからな」

神野は芦村のぼんやりとした瞳を少しだけ覗き込むと、そう言って椅子を立った。

「ま、待って……神野……」

芦村は、神野のシャツの端をぎゅっと掴んで上目づかいで言った。

「……はあ」

「え……あ」

神野はこれみよがしにため息をついた。そのことで不思議なくらい胸が詰まった。

「お前……これ以上近づいたらどうするって言った?忘れたか?」

神野は振り向かずに言った。吐き捨てる、という表現がしっくりくるような言い方だった。

「……いい…よ…」

「は?」

芦村は、上半身をなんとか起き上がらせると、おぼつかない手でシャツのボタンを外し始めた。

「……あ、あの……」

「……お前……」

神野が無言で佇んでる間にボタンはすべて外せてしまった。芦村はシャツの袖からゆっくりと腕を抜く。

「……こ、この前の……っつ、つづき……」

<つづく>

投稿小説『幸せの薬』 ⑤ by 名無しの権兵衛


 上層部が動かなかったのは、捕まえた男が漏らした『あの男なら薬の気体化くらいこれだけ時間があればしている可能性が高い』という情報があったからだ。突撃自体はガスマスクをすれば問題ないとはいえ、万が一にも周囲に漏らすわけにはいかない。人体を一から作り替える効果があり、しかも洗脳までしてしまうのだ。強力すぎて、場所が小学校の地下ということもあり、万一があっては取り返しがつかない。
 相沢の暴走を避けて情報を伏せていたのだが、現場を見張らせていた警官が『被害者の一団が入っていった』と報告を寄せたときは、『恥ずかしそうに俯いている小×生も一緒にいた』という情報のせいで、最初は迷子でも見つけて連れて行ったのか、あるいは被害者の一人がその小学校の卒業生だから、近所の子の付き添いで行ったのだろうと考えたが、署内から相沢の姿が消えていた事から、いつもの暴走だと判断して、行動に移したのだ。
 ことのあらましを後から聞いて、相沢は素直に謝った。一般人を巻き込んでもいるので、これは懲戒免職だなとのんびり考えていた。

「それが、こうなるなんてなぁ」

 相沢は目の前の4人を見ながら、苦笑を浮かべた。同じ制服を着たセミロングの少女と、金髪のロングヘア―の少女と、ツインテールの少女が、自分と同じ初等部のワンピースタイプの制服を着た少女とワイワイ言いながらケーキを食べていた。

「ねぇ、お姉ちゃん、あれも食べたい!」
「そんなに食べると、太りますよ」
「だいじょーぶ。その分走るから!」
「食べた分だけ運動すれば、大丈夫よね!」
「義果ちゃんは運動しないと思うから、太るだけだと思いますよ」
「ワタシもそうおもいマス」
「二人とも、ひっどーい!」

 あの二人は、元には戻らなかった。姫条澪も英語が堪能な警官と話してもらったところ『記憶はあるが、感性が変わったせいか前ほど戻りたいとは思わない』と言っていたそうだ。吹っ切れたからかはわからないが、今ではカタコトだが日本語も話せるようになっている。この調子でいけば、そのうち以前と同じように話せるようになるだろう。
 そういう相沢も、どこかこのままでいいやという思いもあるが、自分まで気を抜くわけにはいかない。
 4人目の少女――自分と同い年ということになっている少女は、あの男のなれの果てだ。ショートカットの見るからに活発そうな少女で、学校でも陸上部に入っている。聞いた話では、元は天才的な頭脳を持つ科学者ということだったが、今の彼女は勉強は全然だめだ。どうやら別のところに才能が移ってしまったらしく、陸上部以外の運動部から助っ人のお願いが後を絶たないのだ。

世の中には
キャラデザイン:松園

 もう心配がないとは思うが、今の自分の仕事はこの今回の元凶の監視だ。今回の被害者にはサポートが必要と、3人が姫条と同じお嬢様学校に編入させたのは、まぁわからなくはない。だが手続きがまとめてできるからという理由で公立校ではなくこの私立に自分たちも入れたのは、費用的にも本当にこれでいいのかと疑いたくなる。

「レンちゃん、たべないならそれちょーだい!」
「うちの勝手に取らんといてーな」

 今はひとまず仕事の事は忘れて、皆と一緒に楽しもう。
 相沢はそう思うと、その輪の中に入っていくのだった。

終わり

投稿小説『幸せの薬』 ④ by 名無しの権兵衛


 ついにやった。ついにあの男も救済できた。
 英語が話せず、優秀な成績をとれず父親と義母との間でぎくしゃくしていた少年は、祖母の家で育てられた『二人の実子」として居場所を得た。有り余る力と熱い性格のせいで家族と壁ができてしまった少年は、おしとやかで礼儀正しい華奢な少女になったことで問題がなくなり、家族との幸せな暮らしに戻ることができた。人格面については変わったのか、現実逃避の結果なのかは判断に少し困るが、英会話が堪能になっていたことから、おそらくは変わったのだろうと結論付けた。最後にそのひねくれた性格から周囲から浮いていた少年は、表裏のない少女となることで、誰とでもすぐに打ち解けられるようになった。
 どの例を見ても、元の状態と比べて幸せになっていることは確かだ。この実験を経て誕生したあの薬を投与した刑事といえば、かわいらしい少女になっている。
経歴を見た限り特に不幸なことはなかったはずだから、今後どうなるのかはそれも含めて要観察だ。
 そう思って一人祝杯をあげていると、電話の音が部屋に鳴り響いた。こんなところにかけてくるとしたら、今回も力を貸してくれた同志たちしかいない。
 ワシはこんな時にかけてくるなよと思いながら、受話器を取ると相手は一方的に言うことだけを言って切ってしまった。なんでもあの男に薬を投与した男が捕まったらしく、しかもわしの居場所を言ってしまった可能性が高いらしい。
 電話口の男は逃げろと言っていたが、これはチャンスだ。ワシの薬を今度はガス化して準備をしておけば、ここに来た奴らを全員救済できる。
 時間が惜しい。のんびり祝杯を挙げている暇などない。ワシは急いで、薬の気体化の研究の準備を始めるのだった。



「もう、かんにんしてやー」
「だーめ」

 相沢は頭を撫でようとする手から逃げようとしたが、簡単に捕まってしまった。それだけではなく両手で抱え上げられ、そのうえ膝の上にのせられ、頭を撫でられる。

「ほ、ほんまにかんにんしてや」

 このままではだめだ。悔しくて仕方がないのに、撫でられると嬉しくて気持ちがいい。ずっと撫でてもらいたくなる。
 この気持ちに流されてはダメだと逃げようとするが、大人と子どもほどの体格差があるのだ。逃げ出そうにも、逃げられそうになかった。

「あんまり、相沢をおもちゃにするなよ」
「はーい」

 そういってやっと解放されると、相沢はかつての同僚を見上げてお礼を述べた。
ここにいるのは皆相沢の事を知っている。一応は新人の婦警ということで周囲には伝えてあるが、実際は違うし、鳳源花のことが本当ならば、ずっとこのままであるという保証もない。
 実行犯は確保できたし、場所も特定できた。あとはこの薬を作った犯人を捕らえて解毒薬を手に入れるだけなのだが、上は一向に動こうとしなかった。
 聞いた鳳や池田、姫条のような変化が自分にもあるかもしれない。そうなる前に解毒剤を手に入れたいと思うのだが、何故か以前のように『すぐに動かなくては』という気持ちがわいてこない。どこか、そのうちでいいやーとか、このままでいいやというのんびりとした考えが自分を満たしている。
 これが聞いていた変化なのだろうかと感じながら、相沢は逃げるように部屋から出た。このままここにいては、いつおもちゃにされるかわからない。
 部屋を出て人気のない廊下に身を隠すと、携帯にメールが来ていることに気が付いた。差出人を確認すると、今回の被害者の一人である池田からだった。

「ほんまかなぁー」

 そこには、犯人の居場所が分かったから、一緒にいこう! とだけ、書かれていた。


「よしかねーちゃん、ウチの恰好がめだつんはわかるんやけど、もうちょいどうにかならへんの?」
「えー!」
「私も、それはあんまりだと思いますが、一番いい変装だと思います」

 確かに、変装としてはこれ以上のものはないかもしれない。
 源花が小×生の頃に着ていたというワンピースに池田が持ってきたおしゃれなシュシュで髪を結んでいる姿は、どうみても年相応の女の子にしか見えない。頭には黄色の通学帽を被り、背中には赤いランドセルを背負ったその姿は、どうみても小×生にしか見えなかった。

「通学帽とランドセルはいらんのとちゃうん?」

 ほんとはこんな女の子っぽい恰好は男として避けたいし、本音を言えば恥ずかしさで死にそうなのだが、確かに変装としては良いだろう。だができれば通学帽とランドセルだけはやめてほしい。
 そう訴えるような目で見てみたが、二人とも首を横に振った。これから行くところを考えると、そのほうが良いらししいのだが、相沢は食い下がった。

「まさか隠れ場所が小学校やったとしても、ゴールデンウィーク中やし、これはいらんのとちゃうん?」
「あたしそこの卒業生だけど、みんな休みの日に行くときは帽子をかぶってたよー?」
「ランドセルがあったほうが、学校では怪しまれないと思います」

 本当にそうかとも思うが、譲ってはくれなさそうだった。
 相沢はあきらめ混じりにため息をつくと、3人に目をやった。行けばどんな危険があるかわからないのだ。警官としては一般人を危険な目にあわせるわけにはいかないのだが、状況が状況である。
 一人は人格と記憶と環境を変えられれ、別人へと仕立て上げられてしまった。一人は日本語が分からなくなり、周囲とコミュニケーションが取れなくなってしまった。一人は言動の自由を奪われ、別人格に体を支配されてしまっている。そして一人は、周囲から小動物のようにかわいがられ、かつての同僚を先輩として敬わなければならなくなってしまった。

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キャラデザイン:夏森深笠 http://www.pixiv.net/member.php?id=1469500

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「おれのみがわり」  第8話 by.おもちばこ

前回までのあらすじ
「キスケに彼女ができました」
「それだいぶ前の話だよねそれ」
「この話など覚えておるやつなど」
「やめろー!」

おれのみがわり 8話


ごくごく一般人の俺は目を覚ました。白い天井だ。俺のアパートではないようだ。病院の一室みたいな部屋だ。高校の保健室で眠っていたときを思い出す。
「ん?お、起きたか、アカネ」
「ん……?」
どこかで聞いた声がする。少なくとも高校時代に出会った人物ではないな。夢ではないとするとここはどこだ。話しかけている人物は誰だ。アカネって……ああ、俺が皮を着ていたときの偽名か。
そばにいた金髪碧眼で部屋の中にも関わらずコート姿の女性が電気ケトルに水を入れながら俺に話しかける。
「まさか1年もぐっすりとは思わなかったぞ」
「1年……へ!?今何月」



俺の複雑な感情がこもった叫び声が部屋いっぱいに響き渡った。



「まったく、喜助はこの私、みょりんに命をなぜかもわからぬまま狙われていたのだ、そこでグミョウジとやらが送りつけてきた完全に別人の女性を着ることによって私の目をごまかしていたわけだ、だがとうとう私にばれてしまったわけだ、なぜかな」
「何を今更なことを言っているんだ……」
「まあ忘れている事があるだろうからな、誰かとは言わんが」
それはともかく、とみょりんは続ける。
「まあ無理に決まっているがな…あれ?、分量を間違えたかな、ええとこの量を1day(日)だろ……あ、1week(週)だったということをやってしまっていてな、けっこう喜助は長い間眠っていたのだよ」
リアクションを気力も体力もなく、まっすぐな目の状態なので。俺はきっとみょりんを無視しているかのような状態なのだろうがみょりんは続ける。
「で……さすがに私も落ち度があったもんでな」
みょりんの話によると、俺の皮をコピーして代わりに俺として生活をしていたというのだ。それは何を隠そう俺はみょりんに生活パターンや行動パターンまで筒抜けであったということだ。
「授業やレポートも代わりにやっといた」
「あ、どうも、はああああああ!そんなことよりあおいちゃんはどうしたんだよ!」
「ああ、それについてもちゃんとやることはやっといたから」
サムズアップをするな。サムズアップを。しかも両手で。
「一応あおいルートは残しておいたから安心しろ」
(何勝手にやってくれちゃってんの!うまくいかないかもしれないけれど俺に段階を踏ませろよ!)
「改めて思うけれどなんか結構長い期間キスケのまねにしていたせいでしゃべり方が一緒になってしまったな」


俺はいくつか疑問を解決することにした。
「みょりんって皮の先輩ってことでいいの?変な言い方になったけれど」
「違うよ、だってさ、人格をのっとられたら自分に不利になるようなこと絶対にいわないと思うんだ」
「あー」
「だからキスケに見せたファスナーは偽者、はがすとき痛かったぞ」
「……そういえばグミョウジっていうジジイどうしてんの」
「生きてはいるが、君が知らないほうがいい」
みょりんはその言葉からずーっと表情を崩さない。死んでいるとかではないらしいが結構事態をややこしくしたということで相当絞られているようだ。誰からかは俺の知る由もないが。
「いっそのことぶっちゃけるが別にお前の命を狙っていたわけではない」
「へっ?」
「狙っていたのは前の住人だ、かつてここを根城として使っていたみたいだ」
「あー」
「グミョウジはその前の住人とつながっていてな、お前をその住人と勘違いしていたみたいなんだ、だからかくまった、電話番号は調べたらしいが本人である確信は最後まで持てなかったみたいだ、本人でないのだから当たり前だ」
お茶でも入れるかとみょりんは誘ったので俺はお願いすることにした。
「皮を着ていなければすでにターゲットは転居済みということで片付いていたのだがな」
「そうか」
俺が生身の状態であれば助かっていたのか、納得。
「じゃあいくぞ、ちょっほおはがふるうなってあふぁf(ちょっとお茶がぬるくなってるかな)」
「えっ、ちょっ、口移し!」
俺はおもいっきりむせた。








「ふふふ……よくも俺を振り回しやがって、だがそれも今日で終わりだ」



つづく

投稿小説『幸せの薬』 ③ by 名無しの権兵衛



 やはり、ワシは天才だ。
 狙った通り、鳳という小僧は元の存在があやふやになり、池田という小僧は言動に影響を与えられた。
 なぜあの光を浴びたものとワシだけ鳳の元の姿を覚えているのかはわからんが、いずれにせよ検証はおわった。たったこれだけのサンプルで分析できるのだから、間違いなくワシは天才だろう。
 液体化も難なくできたことだし、あとはこれをあの男に投与するだけだ。これくらいならば、あいつらに任せるとしよう。
 わしの悲願に協力的じゃった組織の生き残りだ。あいつらもさぞあの男にもわしらの理想の素晴らしさを伝えたいはずだから、きっと手伝ってくれるだろう。
 ワシは笑みを浮かべながら、受話器を手に取った。きっと、今回はうまくいくだろうと信じて……



 幸いなことに、何故か鳳は英語が分かった。話すこともでき、この姿で改めて3人の自己紹介を済ませた。状況を整理すると、鳳 源二 は 鳳 源花という少女に、池田 義景はその妹の池田 義果という女の子に、そして、姫条 澪 は 姫条 レイナという日本人とイギリス人のハーフの少女になっていた。
 よくもまぁ、これだけばらばらになったものだと頭をかきながら、3人は同じことを考えていた。長年つるんでいたこともあり、言葉に出さなくても、全員、結論は同じだと視線と頷きだけで把握した。
 目の前の刑事、相沢 恋壱にすべてを話す。信じてはくれないかもしれないが、もしかしたら信じてくれるかもしれない。本音を言えば、自分たちではこれ以上何もできず、力を貸してくれそうな大人に心当たりが他になかっただけなのだが、3人の思いは同じだった。
 あとは誰が話すかということだが、消去法で鳳が話すしかないと3人とも思っていた。本来ならば、一番温厚な姫条か、ひねくれてはいても交渉事が得意だった池田のほうが適任なのだが、今の二人はあれである。一番鳳がマシだと、3人ともが感じていた。

「相沢刑事、ちょっといい、ですか?」
「なんだい、もとかちゃん」

 できるだけ丁寧に話すことを意識しながら、鳳は少しずつ話し始めた。元の自分のこと、姫条の事、池田の事、そしてあの不思議な光と、今置かれている状況の事。いつもの鳳だったら、途中でため口になっていただろうが、不思議と丁寧な口調のまま最後まで続けられた。

「信じられないような、信じられるようなぁ……」

 意外なことに、相沢は最初から否定しなかった。不思議そうな6つの瞳を向けられ、相沢は口調を変えた。

「義景と澪だったら、もうこっちでええやろ。余所行きやったり、初見の相手用にしてきだけどよ、本当にお前らだったら、今さら驚かんよな」

 そういえば澪はどっちもいっしょかと笑いながら言うあたり、配慮というかデリカシーがない。だが、鳳も池田も、驚きはしなかった。

「驚かんところを見ると、ほんまっぽいな。こっちに戻すと、たいていの奴はギャップいから驚くんやけどな。あぁ、それよりも頭から否定せんのわな、お前や、鳳。お前が澪と義景の『友達』やと俺の記憶じゃなっとんやけど、それがどうにも引っかかっててな。なんで源花ちゃんみたいなええ子があんな奴らと仲良しなんやと不思議やったんやけど、その話通りやったら納得できるからなぁ」

 その方法が全く思いつかないから、完全には信じられへんと続けながら、相沢は席を立った。

「今はそれだけで十分です」
「うん、あたしも!」

 姫条もそうだとばかりに頷いている。完全に信じたわけではないのだが、美少女3人に輝いた目で見られると、なんだか照れ臭くなる。

「ひとまず、今の仕事が終わったら、休みがもらえるんや。そんときにでも、ワイがしらべたるわ」

 だから早く終わらせるんだとばかりに、相沢はドアノブに手をかけ、もう片方の手を上げながら外に出ようとした。

「うぉ、なんや!?」

 瞬間、こわもての男が相沢にタックルをし、そのままのしかかった。

「よくも組織をつぶしてくれたな!」
「組織って、お前が残党が!」

 相沢は必死に抵抗をするが、男からは抜け出せそうになかった。いつもの鳳ならば、何も考えずにこの不審者に殴り掛かったのだろうが、今は足を震わせながらただ見ているだけだった。
 澪は何やら英語で叫んでいるし、池田に至っては「おまわりさーん!」と叫んでいる。男はそんな3人を一瞥しただけで無害と判断すると、懐から一本の注射を取り出した。

「これでもくらえ!」

 男はそう叫ぶと、相沢の腕を無理やり固定してそれを刺した。少しずつ中の液体が相沢の体内へと入っていき、それがすべてなくなったのを確認すると、男は相沢から飛びのき、外に向かって走り去った。

「お、お巡りさんを呼ばなくちゃ!」

 池田はそう叫ぶと、スマホを取り出した。姫条はいち早く相沢のもとに駆け寄り、心配そうな顔で手を貸していた。鳳は一人、その場にしゃがみこみ、両手で自分の体を抱え込んだ。
 本気で怖かった。これまでどれだけ怖くても、恐怖で動けないということはなかった。恐怖で足がすくみ、息が止まるかと思った。その事実と、自分の変化に、鳳はただ震えることしかできなかった。

「う、くっ……」
「相沢さん、どうしたの! きゅ、救急車も呼ばなくちゃ!」

 突然苦しみだした相沢を見て、池田はまたスマホを取り出した。そして電話を切ると、半ば反射的に動画のアプリを起動させ、スマホを相沢に向けた。
 二人の目の前で、相沢の姿が少しずつ変わり始めた。175cmはあったはずの体が縮みはじめ、警官としては若干問題のあった茶髪も、その根元から黒く染まっていった服の中に埋まっていった体は、その見えないところで脂肪に包まれ、その胸元が気持ち程度膨らんだ。体の変化に合わせて顔も小顔になり、子ども特有のやらかそうな感じに変わっていった。毛先まで黒く染まった髪の毛は、今度はその長さをどんどん長くしていくと、腰のあたりまで伸びて床にきれいに広がった。
 そこには、元の鍛えられた刑事の姿はなかった。スーツに埋もれたかわいらしい少女が、かわいらしい寝息を立てながら、幸せそうな顔で眠っていた。

「相沢さんが、女の子に……?」

 鳳はそうつぶやくと、ゆっくりと意識を失った。これ以上は、もう限界だった。

あいざわ
キャラデザイン:キリセ

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投稿小説『幸せの薬』 ② by 名無しの権兵衛



 すごいものを作ったかもしれない。
 ワシは調査機の映像と手元の銃を見比べながらそう思った。
 画面には、かわいらしい衣服を前に戸惑う少女が映し出されている。ワシが被験者の元の姿を覚えているので、少年が消えてしまったわけではない。しかしあの部屋の様子やあの女の反応を見ている限りでは、先ほど生まれたばかりのはずであるあの少女は、元からこの世界にいたことになっている。
 これは、思っていたものとは違うが、いいものができた。これと依然作った『幸せな夢を見せる薬』を合わせれば、より良いものができるかもしれない。
 すべては人類救済のため。かわいそうな人々を救うためだ。運のいいことにあの忌々しい男が今どこにいるのかもわかった。ワシの悲願を台無しにいたあの男を救済するためにも、できるだけ早く新薬を作りたい。
 調査機は残り3機ある。最後の1機はあの男に使うとして、実験に使えるのはあと2機だ。変化前と後の情報を多く知るためにも、あの少年の知り合いを選ぶのが一番だろう。
 そうときまれば、善は急げだ。ワシは電話をとると、そういうことに手慣れている友人に連絡をとるのだった。



 やばいことになった。真面目で気のいい同居人が、何の連絡もなしに帰ってこないのだ。これは絶対何かに巻き込まれている。
 もう高校生なのだから、帰ってこなくても心配することではないのかもしれない。だが、もしかしたら自分に恨みを持つ誰かにさらわれたのかも知れない。いや、昨日も一昨日も大喧嘩をしたばかりなのだ。普通に考えたら、あいつらの誰かにさらわれたと見るべきだろう。
 あいつらは、手段を選ばない。俺も選びはしないし、実際同じように相手の親しい人間をいたぶったこともある。だから、これがどれだけやばいことが、よくわかる。
 ケンカには自信がある。ひとまず持てるだけの武器をもって、心当たりのある場所を巡ろう。もしかしたら最悪の事態になるかもしれないが、その時はその時だ。
 腹をくくると姫条にばれないように隠しておいた凶器を取りに隠し場所に向かった。そのとき、ちょうど窓際に立ったときだ。突然外から眩しい光が差し込んできた。思わず腕で目を覆いながら、おかしいことに気付く。今は朝方だ。西向きのこの窓に朝日がさすはずはないし、車の光ということも考えられない。
 やられた! おそらくは姫条をさらった連中が奇襲をかけてきたのだ。
まずは俺の目をライトで潰し、その隙に攻撃をするつもりに違いない。幸いにもここは2階だから、攻め入ってくるとしたら玄関からしかありえない。
 目がやられていても玄関の方向はわかる。来るなら来いと意識を集中したところで、構えた手が自分の胸に当たった。おかしなことに当たった感触がえらく柔らかかったが。少しずつ目が慣れてきたこともあり、ゆっくりと目を開けながら視線を下に向けると、柔らかそうなお胸が、自分の胸についていた。
 なんだこれは。まるで女の胸みたいではないか。そういえば手もなんだか細くなった気がするし、足元も何だかおかしな感じがする。
 もしかしたら、先ほどの光のせいかとも思うが、現実的に考えてありえない。こんな技術聞いたこともないし、そもそも不良のけんかで使われるようなものでもないはずだ。
 とにかく今は相手の襲撃に備えなければならない。けれども1分、2分、3分と経ったが、誰も入ってくる気配がない。さすがにこれはおかしいだろうと、金属バットを両手に持って玄関へと向かった。
 窓から外をのぞいてみたが、誰もいない。人っ子一人いない。静かな街並みが、そこにあるだけだった。

「はぁ……」

 ひとまず、よかった。だが、さらにやばいことになったのは確かだ。前までは片手で扱えた金属バットが、両手でやっと持ち上げられる程度なのだ。筋力はかなり落ちていると見るべきだろう。
 姫条には悪いが、自分の今のスペックを確認しよう。今まで使ったことのないチェーンロックをかけると、部屋へ戻り、一つずつ確認するのだった。


 結論から言うと、さんざんな結果だった。
 腕立て・腹筋・背筋はそれぞれ2回しかできず、反復横とびは3回しただけで息切れを起こした。おまけに隠しておいた凶器の数々は、そのどれもがへそくりになっていた。これでは、姫条を助けに行こうにも、いけるわけがない。どうしたものかと途方に暮れていると、突然電話が鳴り響いた。
 反射的に電話に出ると、なんといえばいいのか迷った。今の自分の声は以前とは全然違う。名乗ったところで、相手にはわからないだろう。そう困惑していると、能天気な声が受話器から聞こえてきた。

「もしもーし、池田だよ! げんちゃん、今から会えないかな? あ、なんかさっき変な光を浴びちゃってから、あたしちょっとかわっちゃったんだー。信じてくれないかもだけど、いつもの駅まで来てね!」

 それだけ言うと、池田と名乗る女は電話を切った。おそらくは質問されるのを嫌ったのだろうが……。

「まさか、あいつもか?」

 知り合いに池田という名字の奴は一人しかいない。普通なら違う奴だと思うところだが、残念ながらそうは思えなかった。

「スカートであっちゃ、やべぇよな」

 鏡がないのでわからないが、変態じみた格好にはなっていてほしくない。だが女ものの服を着てあいつに会って、変態だと思われるのも嫌だ。
 ぶかぶかでも、似合ってなくてもいつもの服で会おう。そう考えると、自分用のクローゼットを開けたが、そこで目を疑った。

「女のばかりだと……ありえねぇだろ、これ」

 そこにあたのは、革物の女もの一式と、スカート、それにパンクファッションと思われる服の山だけだった。これを見ていると、今着ている服のほうがはるかにましな気がしてくる。
 姫条には悪いが、あいつの服を借りよう。そう考え、あいつのクローゼットを開けたところで、絶句した。そこは黒と白と、フリルで満ち溢れていた。

「まさか……あいつもかよ!?」

 どうやら、3人揃って何かに巻き込まれたらしい。そしてそれは断じて自分のせいではない。いや、あってたまるかと思いながら、そそくさと部屋を飛び出すのだった。



「げんちゃーん、まった?」
「お前、義か?」
「うん、そうだよ!」

 元気の良い女の子が、キャピキャピしながら寄ってきた。元の捻くれた奴からは想像ができない言動に驚きながら、ふと気になったことを聞いてみた。

「それより、よく俺だとわかったな。普通わからんだろ」
「だって、あたしがこうなっちゃったんだよ? それにほら、あたしとちがってげんちゃんには面影があるもん! ほら、これ!」

 そういって指さしたのは、腕の入れ墨だった。以前金を貯めて実際に掘ってもらったもののはずだが、さっき確認したところタトゥーシールになっていた。好みの柄ではないからはがそうとも思っていたのだが、どうやら義景はこれで区別したらしい。

「それより、どこかのお店に入ろうよ! 立って話すのも疲れちゃってあたし嫌だなぁー、ほら、あそこにはいろーよ!」

 そういって指さしたのは、おしゃれなカフェだった。本当にこいつ、あの義景かと疑った、続く言葉に俺は凍り付いた。

「ごめんね。あたし自分の思った通りには、あまり動けないんだ。だから、ゴメンね?」

 自分ももしかしたらこうなってしまうのか。さぁ、いこう、と手を引かれながら、その可能性を考えずにはいられなかった。

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絵師:そら夕日 (うずら夕乃)

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投稿小説『幸せの薬』 ① by 名無しの権兵衛



 世の中には、かわいそうな人で満ち溢れている。
 家族に愛されず非行に走る者や、金がないために犯罪に手を染める者など、数え上げたらきりがない。
 だが、これさえあれば万事解決だ。どんな者だろうと、たちどころにその元を絶ってしまう。まだ使ったことがないから副作用などはわからないが、理論上は解決するはずだ。
 誰か丁度いい実験体・・・もとい被検体、いやかわいそうな迷える者はいないかと夕暮れ時の街を徘徊していると……見つけた。ちょうどよさそうな若者だ。
 髪を金髪に染めた、チャラそうな男だった。見るからに非行に走っている。きっと、何か不幸なきっかけがあったのだろう。
 草むらに隠れ、ターゲットが射程に入ると、迷わずに引き金を引いた。白い閃光が銃身から放たれると、ターゲットを包み込んだ。
 まばゆい光が治まると、そこには少年の姿はなかった。金髪のかわいらしい少女が、目を瞑って立っていた。
 どういうことだろうか。機械は無事に作動したのだろうか。あれは何かの副作用だろうか。そもそも、あの少女は誰なのだろうか。先ほどの少年と関係があるのだろうか。
 調べないといけない。調査用の機械を起動させると、ばれないようにその場を離れるのだった。





 何がお先に失礼だ。あの野郎。
 にやけた笑みのまま去っていく池山の顔を思い出すと、今でも殴りたくなる。あいつとは小学時代からの付き合いだが、鳳も俺もあいつのひねくれた性格にはいつもイライラさせられる。
 昔お世話になった先輩に誘われて合コンに行ったものの、なぜかあいつだけすぐに相手が見つかる。そして先輩もその友達も見つかるが、なぜか俺だけ一人寂しく変えることになる。鳳と一緒に騒ごうと思っても、電話に出ないのだから仕方がない。おそらくはまたどこかで喧嘩でもしているのだろう。
 仕方がなしに一人でゲーセンにでも行こうと裏道を歩いていると、突然目の前が真っ白になった。こんな裏道に車がっと思いながら思わず腕で顔を覆ったが、いつまでたっても痛みを感じない。おかしいと思いながら、ゆっくりと腕をどかした。
 徐々に目が慣れてきたが、どこにも車はいない。車どころか、人っ子一人いないし、先ほどの光の原因が、影も形もない。今のはいったい何だったんだと思いながら周囲を見渡していると、それらしきものを見つけた。何の変哲もないカーブミラーだ。きっとあそこに夕日が反射して、それが運悪く直撃したのだろう。そう思いながら視線をそれに向けると、首を傾げた。
 そこにはかわいらしい少女が映っていた。長くきれいな金髪を赤いリボンで結んでいる。この界隈じゃ有名な私立の女子中学校の制服を着ていることから中×生であることは分かるのだが、問題はそこではない。
 鏡に映っている。しかし周囲にそれらしい人影はない。まだ春の、それも明日からゴールデンウィークというこの時期にお化けかと思って走り出そうとしたところで、あることに気が付いた。
 位置が悪いのかと思い、唾をゴクンと飲み込むと、ゆっくりとカーブミラーに近づいた。すると先ほどの少女もミラーに近づき、俺が近づけば近づく程、少女も大きくなる。
 認めたくない考えが、頭の中で強くなってきた。歩くときに感じる足元の違和感や胸に感じる妙な重み、そして背中にちょくちょく当たるものの感覚が、その考えが正しいのだと主張しているように思えた。
 とうとうカーブミラーの真下にたったが、やはり鏡には見慣れた自分の姿はない。あるのは見慣れた自分とはかけ離れた、金髪の美少女の姿だけだった。
 あきらめて確認するしかない。見たくないという気持ちを押し殺して下に視線を向けると、あの有名女子校の制服が目に飛び込んできた。
 やっぱりか……。
 事前にある程度予測がついていなければ、おそらく悲鳴を上げていただろう。これからどうすればいいのかと途方にくれながら、俺はその場に座りこむのだった。

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絵師:liya http://crowclock.sakura.ne.jp/

 どのくらい時間が過ぎただろうか。気が付けば、既に薄暗くなっていた。
 いつもなら真っ暗な道だろうが平気だったのに、なぜか心細く、不安な気持ちになってきた。このままこの場所にはいたくない。
 まるで何かにせかされるようにその場を離れると、繁華街へと向かった。いつもならここから走ってもすぐに着くのだが、ほんのちょっと走っただけで息が上がってそれどころではなくなった。どうやら、体力も、筋力も落ちてしまっているらしい。
 苦しいのを我慢して人気の多いところまで走ると、その場にしゃがみこんだ。おかしい。なんで俺がこんな目にあわなければならないんだ。そう思うと悔しいやら悲しいやらで、気を抜くと泣き叫びそうだった。

「嬢ちゃん、大丈夫か?」

 叫びだしたいのを抑えていると、見慣れた奴が心配そうな顔でこちらを見ていた。

「あ、い、ざ、わ、さん?」

 俺と池山と鳳。悪ガキ三人組がいつもお世話になっている警官が、そこに立っていた。

「俺と会ったことあったか?」

 こんなかわいい子はあったら忘れないはずだとか小さくつぶやいているが、最後にひとまず交番に来るかと聞かれ、俺は小さく頷いた。
 差し出された手を握って立ち上がると、以前はそう変わらない身長だったはずなのに、見上げる形になっていた。先ほどまでなら悔しくて仕方がなかったはずなのに、逆に不思議と安心感を抱くと、俺はそのまま手を引かれて、通いなれた交番へと連れていかれるのだった。


 何を言っているのかわからない。相沢が必死に何かを言っているようだが、本当に何を言っているのかわからなかった。
 周りを見てみても、張り紙に書いてある人の名前も読めない。相沢に話しかけても、どうやら伝わっていないらしく、そのたびにため息をつかれた。
 自分の身に一体何が起こったのかと思っていると、相沢が俺の鞄を指さすと、何かを身振り手振りで必死に伝えようとしている。どうやら鞄の中を見たいということらしいと察すると、俺は小さく頷いた。
 相沢は律儀に手袋をすると、一つずつ机の上に置きはじめた。懐かしさを感じる教科書の中に、見慣れない教科書もあった。それを手に取ると、試しに開けてみた。
 それを見て、俺は自分の置かれている状況を理解した。『アルファベットで書かれている日本語の解説文はすらすら読める』のに、『書かれてある日本語は、全くと言っていいほど読めなかった』のだ。
 何故かはわからない。意味不明だし、困ったことになったなとも思う。だけど同時にこうも思ってしまった。これだけ英語で困らなければ、親と不仲になることもなかっただろうに、と――。
 そんなことを考えていると、相沢が今度は電話をしてもいいかと身振り手振りで伝えてきた。俺自身どこに電話をすればいいのかわからないので、頷いておいた。
 今の自分はいったい誰なのだろう。元の自分はどうなったのだろう。相沢に姫条澪を覚えているかと聞いてみたが、困った顔で首を傾げられるだけだった。


「レイナちゃん!」

 交番に駆け付けた人の顔を見て、俺はいやな顔になった。実際に会うのは2年ぶりくらいだが、それより前は毎日のように顔を合わせていた相手――母親が、心配そうな声を上げて駆け込んできた。

「お巡りさん、ご迷惑をおかけしてしまって、申し訳ございません。まだこの子、日本に来て間がないものでして……」
「いえいえ、お気になさらず……」

 相沢とアイツが何やら話しているようだが、しばらく話すと幼少期のころにしか見たことのない笑顔でこちらを向いた。

「さぁ、帰るわよ!」

 嫌な奴とはいえ、相手の言っている意味が分かる。たったそれだけの事なのに、不思議とほっとした気持ちになった。
 今の姿のままシェアしている部屋に戻ったところで、鳳に怪訝な顔をされるだけだろう。どうやら今の自分は、中×生だ。そのうえ、実家の世話になっているらしい。中卒の時点ですら、親元を離れて暮らすのに苦労させられたのだ。中×生の時点で、不本意だが保護者の元で――実家で暮らすしかない。
 今が何年生かわからないが、今はひとまず帰るしかない。俺は相沢に頭を下げると、アイツの後に続いて、実家に帰るのだった。

「さて……俺も仕事に戻るか」

 相沢はそんな二人を見送ると大きく伸びをして、ネオンに照らされた街中へと向かうのだった。

【投稿作品】芦村くんの体の事情 (こじかさんの挿絵2枚目追加)

作.藤原埼玉
キャラ造形.こじか https://twitter.com/kojica_m45

TW-178_201603271551231c8.jpg

芦村一朗太はイケメン、学力、運動神経、優しく穏やか真面目な性格。そのどれをとっても非の打ち所のないイケメンだ。
芦村の親友の神野(かんの)は同じく眼鏡と肩まで流れるような髪の似合うイケメン、学力、運動神経、ニヒルだが優しい性格(但し、女子に対してに限る)と芦村と双頭を為す学園きってのイケメンだ。

折しも今日はバレンタインデー。只でさえ目立つ二人に学園中のチョコが集まることは自明すぎるほど自明の理であった。そのチョコラッシュは放課後になってもやむ気配はなく、芦村は少し困った様子で女子たちの相手となっていた。

「おい、芦村。帰るぞ。」

神野はそんな芦村の様子を見かねて声をかけた。

「あ、うん!ごめんねみんな。神野が呼んでるから。」

『えー!!芦村君帰っちゃうのー!!』

「ちょっと芦村君のこと考えなよー!困らせちゃダメだよー!」

「芦村君ばいばーい!!」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「神野、悪い……助かったよ」

そう言うと芦村は困ったような笑みを浮かべた。その手には紙袋五個分と紙袋に収まり切らなかった分の両手一杯のチョコがあった。

「おまえ、そんな量のチョコレートどうするつもりだよ。」

神野は見かねて若干冷たく言い放つ。自分の手に余る分は捨てる、と事前に明言するのはこの男のむしろ好感が持てるところで羨ましいところでもあると芦村は常々思って居るところである。

「あ……はは……い、妹に食べてもらおうかな……」

「お前は環奈ちゃんを糖尿病にでもするつもりか……おまえなあ……そうゆうの後手後手っていうんだよ。やさしさでもなんでもないから。」

「…そうだね…」

痛いところをつかれて芦村は黙って項垂れてしまう。すると急に神野は芦野の持ってる紙袋の内三つをひったくった。

「母さんに言って町内会の集まりの菓子作りとかに使えないか聞いてみるよ。」

「か、神野!」

芦野の顔に感謝と喜びの色がぱあっと咲いた。

「ただし」

神野が釘を刺すように付け加えた。

「それでも使い切れなかったり使えない分は容赦なく捨てるからな!食いもん捨てるの大嫌いなオレが!!優柔不断なお前に代わって!!」

「ごめん……」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「じゃあな」

「色々とありがとう神野」

芦村はふうとため息をつくと、よいしょと紙袋を抱えて帰途につく。そしていつもの公園に差し掛かった時だった。

がさ!

「あ、芦村一朗太!!」

突如公園の生垣から姿を現した影があった。

「え、な、なに?」

その顔には見覚えがあった。確か体育の時間のバスケで一回だけ一緒のチームになったことがある……

「あ、君は同じクラスの……ええっと、ネクラくん!」

「オレは米倉だあああああああああ!!」

「ご、ごめん」

その男の憤慨やるかたない様子に芦村は漸く相手との温度感に大きな落差があることに気づき始め、一歩後ずさった。つまりは引いていた。

「おまえさえ……おまえさえいなければ坂代さんは……」

「坂代さん?」

「うるさい!!バインド!」

そういうと米倉が手に持っている分厚い広辞苑ぐらいの本が光り、芦村が気が付いた時には芦村はその光の帯に手と足を拘束されていた。

「え、なにこれ?………」

「ふはははははは!!あ、あれ?」

米倉は高らかに哄笑したかと思うと膝をがくりと崩し、ひゅーひゅーと肺から漏れ出るような呼吸をした。

「か、体に力が……し、死ぬ!死ぬお!……」

米倉は地面を必死で掻きむしった。

「おのれ芦村一朗太あああ……!呪ってやる……なんでもいいから呪ってやるぞおお!」

そういうと米倉は必死で例の分厚い本のページを震える手でめちゃくちゃにめくった。

「な、なんでもいいって……」

「とにかくこのページよ!!なんでもいいから奴を不幸にしてしまえ!!」

「なんでもいいってええええええ!!??」

米倉がそういうと一際強い光りが辺りを埋め尽くした。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

(い、いきが……できない!!)

芦村は光の中でもがいていた。まるで深い海の中にいるような異常な圧力を感じて恐怖から体をよじるが、その光からも圧力からも逃れられそうにはない。

(し、しぬ……!!)

……

「あれ?」

芦村が目を開くとそこはさっきの公園だった。いつの間にか光も圧力もきれいさっぱりと消えている。

「え?え?」

芦村は混乱から辺りを見渡した。するとそこにはさっきの男、米倉が倒れていた。

「ね、ネクラくん!!ネクラくん!!ちょっと起きてよ!!」

芦村は米倉に駆け寄り体を揺する、まさかとは思ったが呼吸はあるようで一先ずは安心したが一向に目覚める気配はない。

ふと、芦村は自分のスラックスのかかとが地面に引きずられていることに気付いた。訝しく思って裾を上げようとすると……

ふに

なにやら膝を圧する柔らかい感触があった。芦村がまたも訝しく体を見下ろすと、そこにはふくらみがあった。

なにか詰め物でも入りこんだか?と芦村はそのふくらみを自らの手で掴む。

ふにゅ

「いだあ!?」

芦村は慌てて手を離した。どうやらこれは体の一部のようだ。

芦村は生死のパニック状態から頭が冴えてくるに従って、自分の今の状況がパズルのピースのようにつながってくるのを感じた。つまりは……

芦村はここが公共の場であることも忘れ咄嗟に自らの股間に手をやり一撫でする。

「……ない。」

それは感想とも呼べない。何の感情も伴わない一言だった。厳然たる事実を口にしただけである。

「ということは」

つまりは……

「女の子になっちゃった??……」

…………

「どっ」

芦村の額に幾筋も冷たい汗が噴き出した。

「ど、どどどどどどどうしよう……」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「あ、お帰りー!おにいちゃん!」

「……」

ぱたん

「??」

環奈は兄が何の返事もなく自室に飛び込むように入っていったのを訝しく見送った。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

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チェンジ・ライフ・ラプソディー2 (21)~(24)エピローグ

作.エイジ

 それから数日が経ち、本日は休日。
 当然学校はなく、今日は部活も休みだ。
 だけど俺は部室にいて、剣道着に着替えていた(防具はつけてないけど)。
 なんでか? それは鷹野が言った『ゲーム』に俺が参加しているからだ。
 目を閉じて、記憶を呼び起こす。


『そう。ゲームですわ。飛鳥さん、あなたウォークラリーはご存知?』
『ウォークラリーってチェックポイントを順番にまわっていって最後にゴールを目指すっていうあれ?』
『そう。それをやろうと思いますの』
『………なんとなくわかった。当然ゴールには直樹がいるわけね』
『そして最後のチェックポイントには私がいますわ』
『………………』
『まあ、参加する、しないは一応自由にしてあげます』
『………参加しないわけにはいかないでしょ』
『わかっているなら結構。まあ、告白させてあげるのですし、これくらいは乗り越えてもらわなくてはね』
『………嬉しくて涙が出るね』


 目を開き、竹刀を手に取る。
 いくつチェックポイントがあって、誰が待っているのかはわからないけど、鷹野がいる以上絶対に必要になるはずだ。これは。
 鷹野との決着は『これ』以外にありえない。
 いや。ひょっとしたら鷹野以外にも使う相手が出てくるかもしれない。
「さて、と。それじゃあ始めますかね」
 自分の気持ちに決着をつけるために。
 そして前に進むために。
 俺は部室を出て、体育館へと向かった。
 そこで待っていたのは―――
「最初は春菜ちゃんか」
 同じ剣道着姿、そして同じくその手には竹刀が握られている。
「私程度じゃ不服でしょうけど。でも―――」
 竹刀を構える。
「私程度も越えられないなら、この先に行っても意味ありません」
「でしょうね」
 俺も同じく竹刀を構えた。
「………行きます」
 こくりと俺は頷く。
 それとほぼ同時に、
「胴!」
 ガッ。
 春菜ちゃんの胴打ちを俺は竹刀で受ける。
 予想済みだったんだろう。すぐに春菜ちゃんは竹刀をひるがえして、
「小手! 面!」
 と連続して打ってくる。
 だけどそれを通す俺じゃない。確実に、余裕をもって防ぐ。
 確かに彼女は強くなった。この前の団体戦で初勝利をおさめて以来、その成長速度にはさらに磨きがかかっている。将来が楽しみな逸材だ。いつか俺を超えるかもしれない。
 だけど、今はまだ俺の方が上―――!
「小手ぇっ!」
 バシィッ!!
 俺が繰り出した竹刀の一撃は春菜ちゃんの手に命中し、彼女は竹刀を取り落とした。


「平気?」
「大丈夫です」
 春菜ちゃんの手に濡れタオルを当てながら俺は問いかける。
 防具もつけてないむき出しの手に竹刀を打ち込んだんだ。当たり所が悪ければ骨折していてもおかしくない。
 でも春菜ちゃんは首を振って、
「ちょっと赤くなってますけど、平気です」
「本当?」
 その言葉をそのまま信じるような事はしない。手首を取って揺らしてみたり、強く握ったりして反応を確かめる。
 でも春菜ちゃんは眉一つ動かさない。
 俺はほっとして息を吐き、
「本当に大丈夫みたいだね」
「だから言ったじゃないですか。信用しないんですから」
 春菜ちゃんはぷぅっと膨れる。
「ごめんってば」
 それに俺は平謝り。
 それでも春菜ちゃんは膨れていたけど、やがて、
「わかりました。今日はこれぐらいで許してあげます」
「あ、ありがと」
「それじゃあ部長。次はここに行ってくださいね」
 そう言いつつ春菜ちゃんが取り出したのは一枚の紙切れ。
 そこに書かれていた文字は『サッカー部・部室』。
 とすると待っているのは―――
「まあ誰が待っているかなんてわざわざ言う必要ないですよね?」
「まあね」
 そんな所にいる人物なんて一人しか思い浮かばない。
 そして今回の事に絡んでくるのも当然といえば当然か。ある意味あいつが一番巻き込まれているわけだし。
「部長」
「なに?」
「―――いえ。なんでもありません」
「―――そう。大丈夫だと思うけど、念のために保健室で診てもらいなよ?」
 俺はそう言い残し、体育館を後にした。

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チェンジ・ライフ・ラプソディー2 (16)~(20)

作.エイジ

 パン。パン。パパァーン!
「面! 手ぇ!」
「胴! 面!」
 竹刀の打ち合う音と、気合の入ったかけ声が体育館に木霊する。
 我が剣道部はこの前の練習試合に勝利し、かつてない程盛り上がっていた。
 特に勝利を収めた三人のうち二人―――花穂と春菜ちゃん。この二人は今ノリにノッていて、その成長速度はめまぐるしいものがあった。
 今も現に―――
「面!」
 パァン!
 春菜ちゃんの繰り出した面が俺の竹刀をかいくぐって炸裂する。
 文句なし。一本だ。
 だというのに春菜ちゃんは面を外すと、
「部長! 真面目にやってください!!」
 と声を荒げた。
「………真面目にやっているつもりなんだけど」
 俺はそう言うが、
「嘘もいい加減にしてください。真面目にやって部長が私なんかに一本取られるわけないじゃないですか。いくら練習で、私が以前より上手くなっていたとしても、です」
 そんな事はない。
 そう言おうとして―――
「………………」
 口を紡ぐ。
 ………確かにいい攻撃だったし、春菜ちゃんも上手くなった。それはまぎれもない事実。
 事実だけど、それを差し引いても俺と春菜ちゃんでは絶対的な実力差があるのもまた事実だった。
 現に今の攻撃は俺にはきちんと見えていたし、反応もできた。防ぐどころか、返し技を仕掛ける事だって可能だった。
 だけど俺はそれをしなかった。
 確かに怠けていると言われても仕方ないかもしれない。
 何も言えない俺に焦れたのか、
「もういいです!」
 そう言い放ち、
「いつまでもそんな調子なら部活にこないでください。迷惑です!」
『!!?』
 流石にその言葉は聞き流せなかったのか、雪緒達三姉妹が反応する。
 だけど俺は彼女達を手で制し、
「………わかった。確かにあたしがここにいても邪魔だけみたいだし、今日はもう帰るね」
 春菜ちゃんは俺のその言葉に驚きながらも、
「そうしてください」
 俺は頷き、鷹野に視線を向けて、
「後の事は任せてもいい?」
「心配無用ですわ。あなたはまず自分の事をなんとかしなさいな」
「………はは」
 俺は最早返す言葉もない。
 そして部室に入って防具を脱ぐと着替えもせず、荷物も持たないまま、ふらふらと出て行った。


 どこをどう彷徨ったのか。俺はふと気がつくと見知らぬ廊下に立っていた。
 高さから考えて多分三階の辺りだろうか。時間が時間なので人の姿はほぼ皆無だ。
 俺はなんとなしに無人の教室を覗き込み、
「………失礼しま~す………」
 そ~っと中へと入り込む。
 そこにあったのは見慣れた机と椅子と黒板。そして窓から覗く見慣れぬ風景だ。
 それをぼ~っと見ながら俺は考える。
 考えるのは部活の事。雪緒達の事。春菜ちゃんの事。勇助の事。鷹野の事。自分の事。
 そして―――直樹の事。
 それぞれがバラバラで。でも実はそれらは全部繋がっていて。どれか一つを解決すれば終わりじゃない。複雑に絡み合っている糸を慎重に解きほぐさなくちゃいけない。
「………そんな事、できるんだろうか………」
 できない。とは言いたくない。
 でも難しい事は間違いない。
 ………前途多難だ。
 ………そしてそんな事を考えていたからか、俺は気づかなかった。背後から忍び寄る人影に。
「わ!」
「うわあああぁぁぁ!?」
 俺は飛び上がらんばかりに驚き、背後を振り向く。
 そこにいたのは―――
「よっ」
「勇助~っ!」
 俺は驚きを怒りに変えて、勇助の首を絞める。
「ちょっ! 死ぬ!!」
「いっそ死んでしまえ!」
 そう言い捨て、投げ捨てる。
 勇助は咳き込みながら、
「ごほごほっ。ったく、ひでえなぁ………」
「自業自得だ!!」
 ふんっと息を吐く。驚かせやがって………。
「まあいいや。で? 仁はこんなところでなにを?」
 立ち上がり尋ねてくる勇助。
 俺はそれに対してただ、
「なんでもいいだろ」
 と素っ気なく答える。
 すると勇助は、
「そ~だな~。今は部活中なのにどうしてこんな所にいるのか、とかささいな問題だよな」
 ぐっ………
「………そういう勇助はなんでこんな所にいるんだよ」
 せめてもの抵抗でそう返すが、
「俺? 俺は自主休養中」
「………あっそ」
 なら俺が言うことはなにもないな。
「で、だ。こうやって休養しているわけだが、思いのほか暇でね。せっかくだし一緒に休もうぜ?」
「は?」
 なにを言い出すんだ、こいつは。
 そんな俺に構うことなく勇助は、
「いいだろ? 茶ぐらいは出すからよ。どうせやることもないんだろ?」
「………………」
 黙りこむ。悔しいが図星だ。
 確かにやる事があるわけじゃない。ここにいつまでもいるわけにもいかないだろうしな。
 なら勇助とダべるのも悪くない………か。
「わかったよ。ご馳走になる」
「よっし。そうと決まれば善は急げだ!」
「わっ! 押すな馬鹿!」
 背中を押され、俺はサッカー部の部室へと向かう。
 ………この時に気がついてもよかった。これは仕組まれた事だって。

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【投稿TSF小説】インプリンティング by矢的春泥

作.矢的春泥 http://xmypage.syosetu.com/x6431p/
イメージキャラ.倉塚りこ

大安祥太朗(親戚・性欲処理)

 オレが家に帰ると、リビングに見知らぬ女の子が座っていた。
「あっ、祥ちゃんやっと帰ってきた。この子、覚えてるでしょ? イトコの明美ちゃん」
 振り返ってオレの顔を見た女の子は一瞬ビクッとした様子を見せ、ペコッと一礼した。
「明美ちゃんこれから家に住むことになったの。祥ちゃんと同じ学校にも転校するの。仲良くしてあげてね。
 私、もうレッスンの時間だから、あとは二人でよろしくね」
 それだけ言い残して、母親はそそくさと出かけて行った。一旦出かけるとレッスンが終わるまで2時間は帰ってこない。
 あんまり覚えのないイトコと二人っきりでどうしろと。
 とりあえず、オレの部屋まで連れて行った。
「えと……初めまして。じゃないか、久しぶり」
 女の子はオドオドして喋らない。
 イトコにこんな子いたっけ? 記憶を遡ると小×生時代に辿り着いた。
 いた! でも、あの時の子はこんなオドオドした感じじゃなくて、もっと明るくハキハキしていたはず。
 いやそれどころか、もっと生意気で……。
「あっ! 思い出した! 明美ちゃん!」
 明美ちゃんは大声にビックリしていた。
「雰囲気が変わっていたんで分からなかったよ」
 小×生時代の明美ちゃんは活発で、すぐオレにちょっかいを出してきていた。しかも、年下のくせに生意気な口をきいて……。そうだ、あまりにムカついたからボコボコに殴ってやったんだ。
「その……、あの時は殴ったりしてゴメン」
 明美ちゃんはうつむいていた。
 こんなに可愛いい子に成長するんだったら、小×生時代にもっと優しくしてやるべきだったな。
「あの時はオレも若かったし……」
 オレは小×生時代の恥ずかしい態度を思い出し、照れ隠しのポーズで右手を挙げて後頭部の首の根元へ移した。
 その瞬間、明美ちゃんがビクッとして動かなくなった。
 手を降ろし、再び挙げてみた。
 明美ちゃんはビクッとして動かなくなった。
 これには覚えがあるぞ。確か、明美ちゃんが最後に家に遊びに来た時だ。
 また生意気なことを言ったので殴ってやろうと手を挙げたらビクッとなって動かなくなったんだ。
 殴るそぶりを見せるだけで黙るのが面白かったし、拳をチラつかせるだけで何でも言うことを聞いた。
 そうだ、あの日もパンツを脱げと命令して、明美ちゃんの股間をじっくり観察したんだっけ。
 ひょっとして、いまだにオレの拳が怖いとか?
 オレは殴るそぶりを見せて、明美ちゃんに命令をした。
「よし! 明美ちゃん! 服を脱げ」
 明美ちゃんはプルプルと首を振った。
「言うことを聞かないとこうだぞ!」
 オレは拳を明美ちゃんの顔の近くまで持っていった。
 明美ちゃんは何も言わずに服を脱いだ。ブラに包まれた大きな胸。ウエストもくびれていてスタイルがいい。
「スカートも脱げ!」
 明美ちゃんはホックを外し、スカートをすとんと床に落とした。
 下着姿で立ち尽くす明美ちゃん。
「次はブラも外してもらおうか」
 ブラから解放されたふくよかな胸は弾けるようにその姿を現した。
「最後はパンツも脱いでもらおうか」
 明美ちゃんはプルプルと首を振ってパンツを手で押さえた。
「仕方がないな」
 オレは拳を高く上げて殴るふりをした。
 明美ちゃんは渋々とパンツを脱ぎ始めた。
 小×生時代に見た明美ちゃんの股間とは違い、大人の女性へと成長した股間。
 こいつ、何でも言うことを聞きそうだな。
 これから一緒に住むってことは、これから毎晩性欲処理には困らないってことだな。
 これはラッキーだ。
 オレは明美ちゃんの唇に自分の唇を重ねた。
 思いもよらず、明美ちゃんの舌がオレの口の中に入ってきた。
 この女、見かけによらず慣れてるな。
 激しく舌を絡ませる明美ちゃん。一旦、自分の口に戻った明美ちゃんの舌。明美ちゃんの口の中で何かを噛んだ気配がした。
 再び明美ちゃんの舌が入ってきたときには、何か薬のような苦い味がした。
 ごくりと唾を飲み込んだ。
 すると、明美ちゃんが抱きしめていた腕をほどいた。
「飲んだわね?」
 初めて明美ちゃんの声を聞いた。
「な、何を飲ませた!?」
 何か、頭がぼうっとしてきた。
「精神を入れ替える秘薬よ。ずっと口の中に隠してたから喋りにくかったこと。
 この薬はね、唾液に反応して、ほら」
 目の前から色が消えていき、視界が真っ白になった。
 徐々に色を取り戻していくと、目の前にオレの顔。えっ鏡? いや、精神を入れ替える秘薬とか言ってたな。ということは……。
 自分が真っ裸で立っていることに気がついた。大きな胸。背中でわさわさする髪の毛の感触。
 オレの体が明美ちゃんになっている!?
「あなたのおかげで私の人生はメチャクチャにされたのよ。罰としてこれからは大安明美として生きるのよ」
「えっ、どういうことなんだ? 元に戻してよ」
 オレはオレの体である明美ちゃんに掴みかかろうとしたとき、明美ちゃんが右手を上げた。
 ビクッ!
 明美ちゃんの体が膠着してしまった。殴られる恐怖を体が記憶しているのだろう。
「あなたに殴られたトラウマで私がどれほど苦労したか……。殴るそぶりを見せられるだけで言うことを聞くようになったせいで、学校で男子に好きなようにいたぶられ、女子からはビッチだ不潔だとのけ者にされ……。
 もう学校にいられなくなって転校したのよ。全部、あなたの所為よ。
 でも、もう昨日までの私は死んだの。今日からは生まれかわって新しい人生を生きるわ。大安祥太朗としてね」
「そんな、勝手な! いいから元に戻せ!」
「あら、生意気な口をきくのね。そんなヤツはこうよ!」
 明美ちゃんは右手を高く挙げた。
 オレは恐怖で竦んで足が動かない。
「お、お願いします。元に戻してください……」
「戻す方法なんて無いわよ。もう一生あなたは大安明美なのよ」
「そんなぁ……」
「大丈夫、色々教えてあげるわ。今まで大安明美が経験したこととかをね。
 まずは学校の男子にどんな辱めを受けたかを体に教えてあげる」
 オレはベットへと押し倒され、オレの体の明美ちゃんによって凌辱された。
 最初は抵抗していたオレだが、拳を突き付けられると体の力が抜け何もできなくなった。
 そのうちに抵抗する気さえもなくなった。
 幸い、転校先で明美ちゃんの体に刷り込まれた記憶のことを知っている人はいないので、そこそこ楽しい学校生活を送ることができた。
 でも家の中でのオレは、相変わらず毎晩オレの体の明美ちゃんに性欲処理をさせられている。

(了)

チェンジ・ライフ・ラプソディー2 (11)~(15)

作.エイジ

2-11
 ………俺は一体なにをしているんだろうな………
 木陰に隠れていた俺は、ふぅっ………とため息を吐く。
 あれから。春菜ちゃんと花穂に二人の居場所を吐かせ、雪緒と月夜の二人と合流し、こうしてこそこそと尾行している。
 ちなみに勇助、花穂、春菜ちゃんの三人には別行動をしてもらっている。さすがに全員で固まって行動するのは目立ちすぎる。―――そこ。今でも充分目立ってるって言わない。
 ―――それはともかく。
 尾行そのものはいたって順調。相手二人に決して悟られることなく、相手の行動を見ることが出来ている。だけど俺はそれを手放しで喜ぶことなんて出来なかった。
 むしろ逆。二人の様子を見れば見るほど気持ちは沈んでいく一方だ。
 遠目から見た二人はとても仲が良さそうだ。終始鷹野がリードしていて、直樹もそれを受け入れている。
「………………」
 ぎゅっと心臓辺りを押さえる。なんだか凄く痛かった。
「………先輩………?」
「………すまん。俺、抜けるわ」
 声をかけてきた月夜に俺はそれだけを返し、その場を後にした。


 皆と別れ、俺はベンチに座り込み、ぼーっと空を見上げていた。
「………ほんと、なにやってんだろうな。俺は………」
 先程胸中で呟いた台詞を今度は声に出して呟き、再びため息を吐き出す。
 今日の目的はWデートのはずだった。制限時間つき。しかも相手を途中でチェンジするというちょっとおかしいWデートだが。
 だけど最初の相手である勇助とはデートにもならず、わがままを言って直樹達の尾行に変えてもらったが、それも途中で逃げ出してしまった。
 悪いとは思っているし、後で勇助にはきちんと謝るつもりだ。
 でもあそこにあれ以上はいられなかった。
 より正確に言うならあれ以上直樹と鷹野。二人の姿を見ていられなかった。
 なんでだろう。わからない。わからないから俺はただ、
「………直樹のバカ野郎………」
「今のお前ほどじゃないな」
 !?
 声の方向に視線を向ければ、
「直………樹………?」
 そこには呆れ顔をした直樹の姿が。
「どうして………時間は………?」
「時間ならとっくに過ぎてる」
 直樹は「ほら」と時計を目の前に突きつける。
 そして確かに時計の針は約束の12時半を超え、1時を回っていた。
「で、どうする? どこか回るか?」
「いい。ここにいたい」
 胸中に渦巻く感情を抑え込むのに精一杯で、とても楽しむような余裕は今の俺にはなかった。
「そうか」
 直樹はただ頷く。
 そしてお互い無言。
 俺から話すような気力はないし、それを察してか直樹も話しかけようとはしてこない。
 こいつは昔からそうだ。他人の空気を読むことに長けていて、でもそのくせひどく鈍い。
 だからなのか。俺は気がつくと、
「………なあ」
 話しかけていた。
「なんだ?」
「鷹野のこと、どうするんだ?」
「どうって?」
「振るのか、それとも付き合うのかってことだ」
「そんなの決まってる。俺は鷹野さんと付き合うつもりはない。―――いや、鷹野さんだけじゃない。俺は誰とも付き合うつもりはない」
 その言葉に俺はなぜか胸が締め付けられるような感覚を得た。
「なんでだ………?」
「………………言えん」
 俯いて直樹はそう小さく答えた。
 そしてその答えを聞いて俺が抱いた感情は、
「………他に好きな奴でもいるのか?」
 不安だった。
 直樹は………答えない。
「………俺が知ってる奴か? それとも知らない奴か?」
「………………」
 直樹は沈黙したままだった。
 それを見た俺は、
「答えろ!! 直樹!!」
 激昂し、襟をつかみ、ゆさぶって問い詰める。
 直樹は視線を逸らし沈黙していたが、やがて俺の気迫に押されたのか口を開いてこう言った。
「………お前には、言えない」
 その瞬間、俺を貫いたものはなんだったのか。
 わからない。だけど俺は手を離し、
「………なんだよ、それ。………訳わかんねえよ………」
「仁………?」
「なんで俺には言えないんだよ! なんで!?」
「それは………」
 そこで直樹の言葉が止まる。そして俺から視線を逸らした。
 これ以上の言葉はない。俺はそれを理解し、
「直樹の………バカ野郎!!」
「仁!!」
 呼び止められるが、今の俺がそれくらいで止まるわけがなかった。


 そして俺はまた一人になっていた。
 今いる場所がどこなのかわからないが周囲には誰もいなかった。ひょっとしたら遊園地の敷地から出てしまったのかもしれない。
 それは少し困る。皆と合流する時に迷惑がかかってしまう。
 そこまで考えてふっと自虐的に笑った。
 もう迷惑なら充分にかけているんだ。なにを今更言っているのやら。
 いっそもう先に帰った方がいいかもしれない。正直、皆と会わせる顔もない。………特に直樹とはなおさらだ。さっきの態度なんて褒められたものじゃない。
 そもそも、だ。なんで俺はこんなに直樹のことを気にかけているんだろうか。
 確かに直樹とは友達だし、もし力になれるなら助けたい。最初に鷹野と勝負したのだって直樹が迷惑そうにしていたからだ。
 だけど今はどうだ? 果たして直樹はあの時と同じか?
 違う。直樹は一人でどうにかするつもりだ。『鷹野と付き合うつもりはない』。はっきりとそう言った。なら直樹は絶対に鷹野と付き合ったりなんてしない。
 それどころかこう言った。
『俺は誰とも付き合わない』
 不思議だった。だから問いかけた。なんでと。他に好きな奴がいるのかと。
 もし、他に好きな奴がいるのなら俺は応援してやるつもりだった。
 だけど返ってきた答えは、
『お前には、言えない』
 その瞬間、わかってしまった。
 直樹にとって、俺は必要ないんだって。
「………あ、あれ………?」
 視界が突然ぼやける。そして頬に熱い感触。
 それを手で触って確かめて、その答えを知る。
「………涙? 嘘。なんで………?」
 それは本心からの言葉。なんで泣いているのか。その原因がわからない。
「………どれだけ鈍いんですか。あなたは」
 声がし、振り返るとそこには右手を振りかぶった鷹野が―――
 パアン!
 乾いた音と衝撃。そして徐々に広がる痛みに自分がなにをされたのかを悟る。
 ずばり。平手打ちをくらった―――
「これで少しは目が覚めましたかしら?」
 その言葉に俺はカッと頭に血が上る。
「覚めるわけがないだろ!」
「なら覚めるまで何度でもはたいてあげますわ」
「ふざけんな!!」
「ふざけてるわけがないでしょう。本気です」
「なおさら悪いわ!!」
 そこから先は取っ組み合いの壮絶な喧嘩だ。ただがむしゃらに平手を、拳を振るう。
さすがにそれを聞きつけたのか、俺達は直樹と勇助、それぞれに後ろから羽交い絞めにされて押さえつけられた。俺を勇助が。鷹野が直樹を押さえつけている。
 そして鷹野はそんな態勢のまま叫んだ。
「まったく! お互いに好き合っているくせに、お互いまったくそれに気づいてなくてイライラします! しかも片方は自分の気持ちにすら無自覚で!!」
「鷹野さん!!」
 直樹が慌てて声を上げるが、鷹野はキッ! と睨みつけて、
「高島さんもなんでハッキリ言わないんです! 下手に曖昧に言うから飛鳥さんも混乱するんですわ!!」
「それは―――」
「言えないのなら私が代わりに言って上げます。というかこれ以上は我慢の限界ですわ!!」
「待っ―――!!」
 直樹の制止の言葉もむなしく、鷹野はハッキリとこう言った。
「『俺は飛鳥仁美が好きなんだ』って!!」
 ………………
 ………え? なに? 今の?
 直樹が………好き? 俺を?
「う………そ………?」
「嘘なものですか。ねえ? 高島さん?」
 直樹は………答えない。ただ俺と視線を交えると、ふっとそれを逸らした。
 それが、答えだった。

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チェンジ・ライフ・ラプソディー2 (6)~(10)

作.エイジ

2-6

 ………一言。一言だけいわせてもらいたい。
 どうしてこうなった!?
 俺は思わず頭を抱えてうずくまる。すると、
「なにやってるんだ?」
 ………………
「現実逃避かね。簡単に言えば」
「なんでまたそんなこと」
 なんで? なんでだと!?
「『なんで』はこっちのセリフだ! なんで勇助じゃなくて直樹がここにいるんだよ!?」
「さっき説明しただろ。勇助の代わりだって」
「だからなんで!? そもそもどうやってこの事知ったんだよ!!」
「勇助に聞いた」
 ………あの野郎~!!
「まあ、お前の様子がおかしい事には前から気づいていたしな。だから最初は剣道部の子に話を聞こうとしたんだが、なぜか門前払い。それでダメ元で勇助に聞いてみたんだよ。そしたら全部教えてくれた」
「全………部………?」
 ちょっとまて。全部ってどこからどこまでだ………?
「すまない。俺の事が原因でお前にも、剣道部にも迷惑かけたみたいで。だからせめて罪滅ぼしとして―――」
「ま、待て! ちょっと待て!!」
 俺は慌ててストップをかける。
 なんか直樹のやつ、勘違いしてないか!?
「勇助からどう聞いたんだ!?」
「どうって………そうだな………」
 直樹はあごに手をやって、
「まず発端は俺がお前の所に逃げ込んだせいでお前が鷹野さんにキレて勝負を挑んだけど返り討ち。これは間違いないな?」
「………ああ」
 俺は思わず顔をしかめる。
 その時の記憶はできればあまり思い出したくはない。
「それで、そこから先は知らなかったんだが、聞いた話によると彼女剣道部に入部したんだって? でも態度が悪くてお前が怒ってまた勝負を挑んだけど負けて。それで彼女の態度を直すために三度目の勝負を挑むって聞いた。でも、このままじゃ彼女に勝てないからその為の特訓だって」
 な―――
「なんだそれ!!?」
「違うのか?」
「違う違う! 全然違う!!」
 ぶんぶんと俺は首を振って否定する。
 なんだそれは! 誤解どころか捏造レベルだぞ!!
 そうして俺は直樹に説明した。今までの事を。鷹野の事を。
「―――というわけだ。わかったか!? 特に鷹野の事についてはまったくの誤解だからな!?」
「………そうか。それならいいんだ」
 安心した様子の直樹。それに俺は首を傾げる。
「………なんか随分ほっとしてるな」
「そうか? ………いや、そうかもな」
「理由………聞いてもいいか?」
 それは二人のプライバシーの問題かもしれない。でも、俺はそう聞いていた。
 直樹は、
「大した理由じゃないさ。………最初のお前との対決のあと、彼女謝ってきたんだよ。『迷惑かけてごめんなさい』って。『これからはあなたは勿論、あなたの友達にも迷惑かけませんから』ってな。あまりに必死だったから俺も許したんだが………」
「なるほどね」
 俺はその言葉に納得する。
 ようは鷹野の事を信じたかったわけだ。直樹は。
「………そんなに悪い奴じゃないと思うぞ、俺は」
 俺は思わずそう口走っていた。
 直樹は俺を見つめる。その視線が恥ずかしくて目を逸らしながら、
「………手合わせした時の感だけどな」
 ただ純粋なだけだろう。………だから暴走するんだろうけど。
「ずいぶん認めてるな」
「まあな。………だからこそ勝ちたいんだ。だけど、お前が俺のそばにいるのは不公平だ」
 なにせ鷹野は直樹に惚れているんだから。
「………仁」
「なんだよ………!?」
振り返ると直樹の顔が思ったより近くにあって、俺はドキリとする。
「俺は鷹野さんの事は嫌いじゃない。だがお前と彼女、どちらかを選ぶなら、俺はお前を選ぶ。だから協力させてくれ」
 その言葉を聞いた瞬間、かぁぁっと顔が染まっていくのが自分でもわかった。
 俺は口をパクパクさせ、ようやく出した言葉が、
「バ、バカッ!!」
「………ダメか?」
 あ~も~!!
「す、好きにしろ!!」
 他にも言いたいことは山程あったが、俺は結局それだけを言うことしかできなかった。

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チェンジ・ライフ・ラプソディー2 (1)~(5)

20120222初出

作.エイジ
キャラクター:倉塚りこ
チェンジ・ライフ・ラプソディー (1)はこちら

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2-1
「面! 面! め~ん!!」
 かけ声と共に振り下ろされる竹刀を俺は見つめながら、
「遅い! 腋をしめてしっかり足を踏み込む! 腕だけで振らない!!」
「はいっ!」
 俺の言葉に春菜ちゃんは頷いてその通りに行動する。すると竹刀の風きり音が鋭くなり、スピードも上がる。
 それに驚いて彼女は竹刀を止めるが、
「いちいち驚かない! ほら、あと素振り100回!!」
「はいいっ!」
 俺の言葉に慌てて素振りを再開する。
 それを見て俺は、
「それが終わったら胴打ち100回と小手打ち100回! いい!?」
「は、はい!」
 返事を聞き終えて、俺は彼女の元を離れ、
「ごめん。待たせた」
「いえ。平気です」
 待っていた雪緒は首を振って否定。
 そしてお互い無言で面をつける。
「先輩も雪緒ねぇも準備いい?」
 審判役の花穂の問いに俺と雪緒はこくりと頷いた。
 既にお互い戦闘態勢。竹刀を構え、視線は相手に向けられている。
 今は力を溜めている状態だ。
 この後の瞬間に爆発させるために。
「はじめ!」
 花穂の声とほぼ同時に俺と雪緒は肉薄し、相手を倒さんと竹刀を振り下ろした。


 時刻は6時。空が暗くなり、一部の人達を除いて生徒は皆下校する時間だ。当然、俺達剣道部もその例外じゃない。
「じゃあこれで解散!」
『ありがとうございました!!』
 号令を済ませると空気が緩み、開放感が漂う。そして皆は各々にくつろぎ休んだ後自宅へと帰っていく。
 だが俺はそんな皆を尻目に急いで着替え、身支度を済ませると、
「それじゃあ俺はこれで帰るけど、皆は寄り道せずにまっすぐ帰ること」
「………先輩に言われたくないです」
 半眼で言う月夜に俺は苦笑を漏らす。あまりにもっともすぎて。
「それはそれ。これはこれ―――じゃあまた明日」
「お疲れ様でした」
 その声に後押しされるようにして、俺は部室を出て行った。


 校門のところに目的の人物達がいるのを確認すると俺は駆け寄り、
「すまん。待ったか?」
「大丈夫だよ。俺達だってほんの数分前に来たばっかなんだから。なあ?」
「………ああ」
 振られた直樹は答えるものの、なぜかそっぽを向いたまま。
 それに俺と勇助は顔を見合わせ、ため息を吐く。
「………ま~だ慣れないのか。お前は」
 勇助の言葉に直樹はうっ、と詰まる。
「ったく。仁が変わってからどれだけ経ったと思ってるんだ。いい加減慣れろ。決めただろうが」
「………わかってる。悪い、仁」
「………いや。仕方ないことだと思う。むしろ勇助みたいにすぐに切り替えられる方が変だからな」
「なんだよ。お前『女の子』として扱ってほしいのか?」
「んなわけないだろ」
 勇助の言葉を俺は否定する。
 この二人は俺が『飛鳥 仁次郎』として振舞える数少ない相手なんだ。
 だから、
「でも。できれば俺は『仁美』じゃなくて『仁次郎』として扱ってほしいんだ。じゃないと―――」
「わかった」
 言葉の途中で直樹がそう言ってくれる。
 俺の言葉を遮る形だが、俺はそれに満足し、
「じゃ、行こうぜ」
 言って歩き出す。勇助もそれに続く。
 だけど。
「………直樹? どうした?」
 なぜか直樹はあさっての方向を見つめたまま動かない。
 やれやれ…
「ほら! 行くぞ!?」
「っ!? 仁!?」
 俺は直樹の手を取り、慌てる直樹を尻目に再度歩き出した。

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チェンジ・ライフ・ラプソディー (9)~(12)

作.エイジ 
キャラクター作成.倉塚りこ

 学校の廊下。そしてとある一教室の扉の前。俺はそこに所在無く立っていた。
 見慣れた場所で毎日いた場所なのにな。どうも落ち着かん。やっぱり俺がこんな姿に変わったからかねぇ?
「先輩。落ち着いてください。何事も初めが肝心ですよっ!」
「…ファイトです」
「大丈夫。先輩なら上手くできますよ」
 そんな俺を見て傍にいた三姉妹が口々に言う。励ましてくれてるんだろうが…だ。
「…なんでここにいるんだよ! 授業はどうした授業は!」
「愚問ですね。サボったに決まってるじゃないですか」
 雪緒の言葉に残り二人も頷く。…なんでそんなに誇らしげなんだよ…。
 呆れ果ててそれ以上何も言えず、ただため息を吐き出していると、
「では飛鳥さん。中へ入ってきてください」
 教室の中から俺を呼ぶ声が聞こえてきた。
 う~…なんか緊張するな…。
 胸を抑えて心臓の鼓動を確かめる。心臓はトクントクンと鳴っていてそれが俺を落ち着かせてくれた。
 俺が緊張した時にやるいつもの儀式。これをすることによって俺は一歩前へ踏み出せる。
 ………………
「………じゃあいってくる」
 三姉妹にそう言い残して俺はがらりと扉を開け、教室の中へと入っていった。


 がやがやがや………。
 俺が教室の中へと入り、教卓の前に立つと教室内に巻き起こったのはどよめきだった。
 俺は教室内をさっと見回し、見知った人物を見つける。直樹と勇助だ。その二人は俺を見るとそれぞれ異なった反応を示した。
 直樹はポカンと呆気に取られた表情をしていたし、勇助はうずくまって肩を震わせていた。
 …あの二人は…。
 視線を扉へと移せば、こっそり覗き見ている三姉妹の姿。
 …これはどんな羞恥プレイだ。マジで。
 俺は湧き上がる恥辱と怒りをこらえ、にっこりと笑って自己紹介をした。
「今日からお世話になります飛鳥 仁美(あすか ひとみ)です。よろしくお願いします」
 飛鳥 仁美。それがこの身体になった、この身体にふさわしい俺の新しい名前だ。
 ちなみにこの身体がどういった身分なのかというと、
「え~飛鳥さんは名前からわかるように飛鳥 仁次郎の関係者にあたり従兄妹になるそうです。―――違いありませんね?」
「はい」
「ちなみに飛鳥 仁次郎の方は諸事情によりしばらく学校にこれないそうだ。だからその代わりというわけではないが…まあ、そういうことだ」
 その言葉にまたしても教室内がざわめいた。
「はい静かに! じゃあ空いてる席は…と」
「先生! ここが空いてますよ!!」
 挙手してそう言ったのは勇助だ。そこは前の―――飛鳥 仁次郎の席でもあり、勇助の隣でもある。
 俺は怒りにこめかみがひくつくのを感じた。
 あの野郎。絶対おもしろがってやがる…!
 先生は「ふむ」と頷くと、
「飛鳥はそこでいいか?」
 …選択の余地などない。
「はい。かまいません」
「じゃあよろしく頼む」
 俺はゆっくりと移動し席に座る。その途端、
「俺の名前は鳳 勇助。まあ、隣の席なんで仲良くやっていこうぜ。飛鳥 仁美ちゃん♪」
「―――そうね。こちらこそよろしくね。鳳 勇助くん♪」
 互いに視線を絡ませ、ニッコリと笑い合う。―――その胸の内は正反対だろうけどな。


 多少時間をすっ飛ばして昼休み。俺と三姉妹。それに直樹と勇助の計六人は我が部室、剣道部の部室に集まっていた。
 理由はまあ、今までの説明とこれからのフォローを直樹と勇助の二人に頼むためだ。
 正直フォローを頼むなら同性の方がいいんだが…ないものねだりをしても仕方がない。
 三姉妹は下級生だしな。頼もうにも無理というもんだ。
「しかしまあ、驚いた」
「ほんとほんと。まさか名前やら経歴やらを偽って学校に来るとはなぁ」
 説明を聞き終えた直樹、勇助の両名が最初に漏らした言葉がこれだ。
「…他に方法がなかったんだよ」
 方法があるなら俺だってそっちを選んでるわい。誰が好き好んで『女』として通うか。
「まあそんなわけで、だ。万が一のときはフォローを頼む」
「男の俺達にいったいどうしろっていうんだ?」
「それはわかってるんだが…」
 直樹の言葉に俺は呻くしかない。
「一応女としての立ち振る舞いなんかは教えてもらっているんだろう?」
「それはもう!」
 胸をはって雪緒が答える。
 確かにみっちりしごかれた。…正直思い出したくもないが。
 俺の表情から察したのか直樹は苦笑を浮かべて、
「なら平気じゃないか? 俺が見る限りだが。勇助はどうだ?」
「俺?」
「そうだ。席は隣なんだし、よくわかるだろ」
「そうだな…」
 勇助は俺をじっと見つめ、
「80点。まあAランクってところだな」
 がくっ。
「…なに言ってるんだ。お前は…」
「いや、外見だけならAAをつけてもいいんだがな? やっぱ中身が仁だとわかってるとマイナスをつけざるを得ないっていうか…なあ?」
「なあ? じゃねえよ…」
 ほんとなに言ってるんだか。こいつは…。
「そんなに落ち込むなよ。中身が仁だって知らなきゃ俺でさえAAクラス認定なんだぜ? もっと誇ってもいいくらいだ。そう思うだろ?」
 勇助の言葉に頷く三姉妹。
「あり? 直樹はそう思わんの?」
 聞かれた直樹は半眼で、
「アホか。どれだけ外見が変わっても仁は仁だろう」
 直樹…。
 俺は感激のあまり瞳を潤ませてしまう。
 今この時ほどおまえと友達でよかったと思ったことはない!
 だが勇助はその言葉にニヤリと笑うと、
「へえ~二人で抱き合ってたくせにか?」
『なっ!?』
 俺。直樹。三姉妹。それぞれの声が見事に重なった。
 こ、こともあろうになんつ~事を!?
 殺気を感じ、おそるおそる振り向くと、
「せ~ん~ぱ~い~?」
 そこにいたのは鬼か悪魔か。
 怒りのオーラを身にまとった雪緒がいた。
 雪緒だけじゃない。月夜は目が据わっているし、花穂も不機嫌そうだ。
 俺は思わず直樹の後ろに隠れ、
「た、助けてくれ! 頼む!!」
「お、おい!!」
「こんなことになったのはおまえのせいでもあるんだから、助けるのが当然ってもんだろう!」
「俺が一体なにをした!?」
 ぎゃあぎゃあと言い争いを始める俺と直樹。
 それを見た雪緒達は、
「月夜! 花穂! 二人をひっ捕らえなさい!! そしてなにがなんでも事情を聞きだすのよ!!!」
「わかった…!」
「まかせて!」
 襲い掛かってくる二人。
「ぎゃー!?」
 俺ができた最後の抵抗は悲鳴を上げることだけだった。

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チェンジ・ライフ・ラプソディー (5)~(8)

作.エイジ 
キャラクター作成.倉塚りこ
その1はこちら
飛島仁次郎

 抜き足、差し足、忍び足…っと。
 俺は辺りに誰もいない事を確認しながらゆっくりと移動する。
 格好といい、挙動といい、誰がどう見ても不審者そのものだが…仕方ない。今ここで見つかるわけにはいかないんだ。背に腹は替えられん。
 …まあ、時間的に見つかる可能性は低いだろうが。
 携帯で時間を確認すると、現在の時刻は九時を回っている。この時間なら生徒は授業中だし、先生もほぼ同様だ。
 唯一注意しなくちゃいけないのは体育の授業を受けている奴等だろうが、俺がいる部室棟近辺はグラウンド、体育館共にまったくの別方向。したがって問題はない…はず。
 あ。ちなみに直樹、勇助の両名はちゃんと授業に出ている。…直樹がやたら心配していたが。あまりにしつこいから蹴飛ばして勇助に強制連行させたがな。
 まったく、子供じゃないんだぞ…。
 っと。そんな事をやってるうちに目的地―――裏門が見えてきた。
 いくら人がいないとはいっても正門から堂々とは出て行けないからな。出て行くならこっそりと出て行かないと…。
 周りをキョロキョロと見回して、周囲に誰もいないことを再度確認する。
 ―――よしっ。今だ!
 俺は駆け出して一気に裏門を突っ切り、学校を飛び出した。


 とある二階建てアパートの一室。そこが今の俺の家だ。
 駅から歩いて十分。学校まで二十分という場所で住み心地も悪くない。良物件だな。
 だが俺はそんな自宅に入ることができず、近くの物陰に身を潜めていた。
 その理由は…予想がついてるかもしれないが一応説明しておくと…だ。俺の部屋の前に一人の人間が立っているからだ。その人物は…まあ、雪緒なわけだが。
 なるべく目立たないようにするためか、その姿は私服だけど。でもこんな時間にあんな場所でずっと立っていたら目立って仕方ないんだけどな。
 とはいえ、このままじゃ俺が部屋に入れないことには変わりない。…はてさて、一体どうするか…。
 などと考え込んだのがいけなかったのか。俺は背後から近づいてくる気配に気づかなかった。気づいたのは、
 
 むにゅ。

「ひゃあ!?」
 胸を鷲づかみにされてからだ。
 後ろを振り向くとそこには、
「月夜!?」
「先輩…後ろがガラ空き…」
「くっ!」
 言われて唇を噛みしめる。
 確かに雪緒にばかり注意を向けていて、周りに対する警戒が甘くなっていたのは事実だけど…!
「離せ、月夜!」
「…嫌。離したら先輩逃げちゃいますし…。逃がしたら雪緒に怒られるから…」
「…このっ!」
 言葉ではもはや説得は不可能。
 俺はそう判断し、力ずくで月夜を振り解こうとするが、
「無駄…。今の先輩と私なら、私の方が力は上です」
 その通りだった。いくら力を込めても月夜はびくともしない。
 そんな俺を見て月夜は笑い、
「…やっぱり先輩可愛い…。食べちゃいたいです」
 そう言って耳にふっと息を吹きかける。
「んんっ!」
 途端、全身に鳥肌が立ち、俺は声を漏らしてしまう。
「ふふっ…」
 さらに月夜は胸をつかんでいる手を激しく動かし、俺の顔を自分の方へと向けて唇を重ねようと―――
「やめなさい。月夜」
 その声にピタリと月夜の動きが止まる。
「雪緒…」
 またしても行為を途中で止められて月夜は不満気だったが、
「こんな往来でする事じゃないでしょ? それに相手は飛鳥先輩よ? わかってる?」
「…わかった」
 渋々とだが、月夜は俺から離れた。そして開放された俺はへなへなと脱力して地面に座り込んでしまう。
「…大丈夫ですか? すみません。二度もこんな目に遭わせちゃって」
 そんな俺を雪緒は心配そうに覗き込み、手を差し出してくる。
 その途端、俺は緊張の糸が切れたのか、ぽろぽろと涙を流し、
「雪緒ぉ…」
 抱きついて泣きじゃくってしまった。
「…ね? 可愛いでしょ?」
「…そうね。これは苦労しそうだわ…」
 そう言ってなぜか二人はため息を吐き出した。


 …………………
 室内になんともいえない空気が漂う。そしてそのせいで誰も話すことができずにいた。
 俺は恥ずかしさで。雪緒と月夜は気まずさで。
「…えっと。飛鳥先輩、あまり気にしない方がいいですよ? 私達も気にしてませんから」
 おずおずと雪緒がそう声をかける。月夜も頷いて、
「…うん。先輩とても可愛かったですから。気にしてません」
 ギロッ!
「月夜…」
「…ごめんなさい」
 俺に睨まれ、雪緒にたしなめられ、月夜は頭を下げる。
「はあああ~…」
 そして俺の口から漏れたのは深いため息だ。
 思えばこの身体になってからろくな目に遭っていない。
 縛られて身体を弄られたり、不審者として追われたり、友人に抱きついてしまったり。
 そしてさっきは無様にも泣いてしまった。
 …男の身体とは様々な所が違うから、どうにも調子が狂ってしまう。
「先輩…その…大丈夫ですか?」
「…大丈夫じゃない…」
 雪緒の言葉に俺は不機嫌さを隠さずに答える。
「…で。何しにここに来たんだ?」
「それは…こんなことになってしまったお詫びと、理由を説明しようかと…」
「理由っていっても、花穂と月夜が興味半分でやったことなんだろ?」
「…そうなんですけど…その…」
「ちなみに、元に戻れる方法は?」
 その答えは予想できていたが、一応尋ねる。
「…すみません。わかりません…」
 俺はうなだれた。…予想はしていたとはいえ、こうはっきり言われるキツい…。
「で、でもなんとかします。性転換させる薬があったくらいですから直す薬もあるはずですっ!」
「…それを信じるしかないか…」
 望み薄な感じもするが…。
「ですから先輩が元に戻るまでの間、私達が全面的にサポートしますから。安心してください」
「え”」
 雪緒の言葉に俺は思わず声を上げ、後ずさる。
「…なに。その反応」
 そんな俺の態度に月夜がムッとする。
「いや、その…今までの事を考えると、とても安心なんてできないぞ…」
 特に月夜からは『そういう事』を何回もされているんだ。警戒するなというほうが無理というもの。
 雪緒は苦笑して、
「なるべく先輩には私がつく様にしますから」
「そ、そうか…」
 雪緒にも不安がまったくないわけじゃないが、他の二人よりはマシだろう。…多分。
 すると、
「ずるい雪緒。…先輩独り占め…」
「ち、違うわよ!」
 言われた雪緒は手を振って否定する。
 それでも月夜は疑いの視線を外さない。
 しかし、やがて雪緒から視線を外すと今度は俺に移し、
「…隙があれば襲うから、そのつもりで…」
 俺はその言葉に震え上がった。

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チェンジ・ライフ・ラプソディー (1)~(4)

20100211初出

作.エイジ 
キャラクター作成.倉塚りこ

        
 竹刀がぶつかり合い、かん高い音が道場に鳴り響く。
「面! 小手ぇっ!」
 相手の連続技が襲い掛かるが、俺はこれを余裕を持って捌く。そして次々にくる打ち込みも俺は余裕で捌き続けた。
 相手が弱いわけじゃない。打ち込みの速さは十分だし、力もそれなりにある。剣道を始めて一年の人間にしてはよくやっているほうだと思う。
 だがそれでも、俺とは力量差がありすぎた。
 それは経験の差(俺は小学校の頃から剣道をやっている)であり。
 そして―――
「胴ぉっ!」
 バァン!
 相手の一瞬の隙をついて放った俺の胴が相手に炸裂し、
「胴あり! それまで!」
 審判が一本と認めて試合が終了する。
 両者、面を脱いで一礼。
「飛鳥 仁次郎(あすか にじろう)対 御島 雪緒(みしま ゆきお)の練習試合は飛鳥 仁次郎の勝利! 両者! 礼!」
『ありがとうございました!』
 そして相手が女子だということだ。


 改めて自己紹介しようと思う。
 俺の名前は飛鳥 仁次郎。今年から三年になり、一応剣道部主将だ。
 剣道の腕はそんなに悪くないと思う。過去何回か個人戦で全国にも行ったしな。
「飛鳥先輩」
 呼ばれて視線を向けると、近づいてくる女の子達の姿が目に映る。
「雪緒。それに月夜(つくよ)、花穂(かほ)も。いったいどうした?」
 先程の対戦相手である御島 雪緒の他に、その姉妹である月夜、花穂も一緒だった。
 ちなみにこの三人は三つ子で、今でこそ区別がつくものの、知り合った当初は左サイドの髪を三つあみにしているのが雪緒。ショートカットが月夜。ツインテールが花穂、と区別していた。
「あの…よかったら一緒に帰りませんか?」
「ついでに夕ご飯も一緒にどーでしょー?」
 雪緒の言葉に花穂が続く。
「夕飯?」
「そうです」
 頷いたのは月夜だ。
「今日はすき焼きだから。私達三人じゃ余っちゃうし…」
「三人って…おじさん達帰ってきてないのか」
 姉妹達はそろって頷く。
 実を言えば、こういう誘いは初めてじゃない。姉妹達の両親はよく家を空けることが多いので、今までにもこうやってお呼ばれされている。
 俺は実家を出て一人暮らしだから正直に言えば凄くありがたいし助かるが…
「いいのか?」
「誘ってるのは私達なんですからいいに決まってるじゃないですか」
「何も問題ありません」
「帰ったらゲームやりましょ、ゲーム。今日こそ勝ちますよー!」
 俺の質問に三人は口々に返してくる。
「わかった。ならごちそうになるな」
 俺がそう言うと、三人は「やった」と手を叩いて喜んだ。


 陽の光が差し込んで俺は目を覚ます。
「う………」
 周りを見てみると、そこにはやっぱり寝転んでいる三姉妹の姿があった。
「…あちゃ~…」
 俺は思わず顔を覆う。どうやら昨日晩御飯を食べた後そのまま寝てしまったらしい。やってしまったって心境だ。
 時計を見ると時刻は五時半を回ったところだった。今から家に帰って今日の学校の準備をしても十分な時間がある。
 よし。そうと決まれば行動あるのみだ。俺は立ち上がり、移動しようとして、
「…ん?」
 違和感に足を止める。順番にその違和感を確かめる。
 まず違和感その1。制服の裾が長い。手足がすっぽりと隠れてる。昨日まではこうじゃなかった。
 続いて違和感その2。髪が伸びている。たぶん腰ぐらいまであるんじゃないか? いくらなんでも伸びすぎだ。俺はこんな長髪じゃなかった。
 最後に違和感その3。胸が膨らんでいる。明らかにおかしい。どう考えてもこれは男の胸じゃない。これは――
 嫌な予感がふくれ上がり、俺はそーっと洗面所へと移動する。そこに鏡があるからだ。鏡を見れば今の自分の姿を見ることができる。
 そして見なきゃよかったと後悔した。
「なんだこれは!?」
 俺の口から悲鳴とも怒号ともつかない声が飛び出す。
 鏡に映っていたのは、今まで見たこともない『女』だったからだ。

飛島仁次郎

全文を表示 »

バレンタイン♡とらいあんぐる (小説版) <後編> ※倉塚りこさんの追加挿絵挿入!

原作:あむぁい&倉塚りこ
小説:ナナシノ @nanashino_TSF
    http://www.pixiv.net/member.php?id=8821121

前編はこちら

■後編■


「ぐずっ・・・・・・ぐずっ・・・・・・」

寒空の下で少女が泣いていた。

酷い辱めを受けたのだ。

そして、もう一人の少女がひょっこり顔を覗かせる。

「なによぉ、女の子同士で胸揉んだくらいで・・・・・・ま、よかったわよヒロシ・・・・・・ううん、ヒロ子ちゃん!!」

「だ、誰がヒロ子ちゃんだ!! つーか俺は男だ!!!」

そう反論する『彼』の表情は、数時間前まで『男』だったとは思えないくらいだった。 今にも「私、もうお嫁に行けない!」なんて言い出しそうな顔である。

憧れの先輩に渡そうとしていた手作りチョコを、勝手につまみ食いした幼馴染に恨みを晴らして満足したのか、もう一人の少女、ユキは上機嫌だった。

「さぁて、気も済んだし今度こそ先輩に手作りチョコ渡すわよ~♪」

だが、ヒロ子・・・・・・もといヒロシはふと疑問に思った。

「なあ、手作りチョコ渡すって・・・・・・その女の子になっちまうチョコしか作ってないんだろ? そんなもん渡したら先輩が女の子になっちまって大変なんじゃねーか?」

「・・・・・・ああ、そっか!? 危うく先輩を女の子にしちゃうところだったよ。いや~、ヒロシがつまみ食いしてくれて良かったぁ~」

「全然良くねえよ!!」

ひたすらマイペースな少女である。

「でも、どうしよう・・・・・・確かに他のチョコ用意してないし・・・・・・ヒロシが女の子からチョコ貰ってるわけ無いから間に合わせもできないし・・・・・・」

「俺を使おうとするな!! ・・・・・・まあ、確かにチョコ貰ってないけど・・・・・・ぐずっ・・・・・・」

ヒロシが現実に打ち負けそうになっていると、長身で爽やかな顔をした青年が現れた。

「やあ、君たち。 こんなところで何しているんだい?」

「・・・・・・せ、せせせ・・・・・・先輩!!?」





この青年こそユキの憧れている先輩である。

ユキやヒロシよりひとつ上の学年で運動部のエース。

容姿端麗、運動神経抜群、成績優秀で性格も普段は穏やかで優しい・・・・・・と、基本的に非の打ち所がない好青年。

「・・・・・・! キミ、可愛いね」

ナンパ癖があり、チャラい所を抜かせば、だが。

「先輩! あわわ・・・」

彼が声を掛けたのは目の前にいるユキでも、回りにいる他の女の子でもなかった。

彼の目に止まった人物。それは・・・・・・

「げっ? なんでお前が!」

女の子になった、ヒロシだった。

幼少の頃からの知り合いで、今も同じ部活に入っているヒロシにとって、先輩は良くも悪くも腐れ縁だった。

そんな男が急に抱きついたのだ。

「ちょ、ちょっと!? なにすんだよ、離せ!!」

傍から見れば男女だが、ヒロシにとって見れば男同士で抱き合ってるようなものなので、気分が悪いらしい。

先輩はというと、彼が知人の『男』だということに気づいていない。そればかりか・・・・・・

「君のこと、一目見て心を奪われたよ・・・・・・ああ、一目惚れさ!!」

「・・・・・・は?」

「う、うわあああああっっっ!!? せ、せせせ、先輩がヒロシに・・・・・・こ、告白―――!!?」

【完成(差し替え)】バレンタイン02(ブログ用)

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