FC2ブログ

Latest Entries

【投稿小説】ボーイ・チアーズ・ガール 作:黒海高貴 キャラデザ:そらねこ

俺は応援することが好きだった。
小学校の運動会の応援合戦から始まり、中学では応援部に入った。運動会だけじゃない、ありとあらゆる部活の応援をした。3年の秋に出場した応援選手権大会では金賞も取った。でもそんなことよりも、俺の応援で皆が元気になってくれることが何より嬉しかった。
でも、それも高校で大きくつまずいてしまった。あまり頭の良くなかった俺は、憧れの応援部がある私立高校を推薦で受験したのだが、落ちてしまったのだ。当然、一般入試で入れるはずもなく、俺は応援部のない普通の公立高校に進学した。
応援という生きがいを奪われた俺は、このまま普通の高校生活を送っていく。そう思っていた。
だが、転機はすぐに訪れた。いや、人生の分岐点と言っても過言ではないだろう。
入学してすぐに、ある先輩が声をかけてきた。何でも中学時代の俺を知って勧誘に来たらしい。
「もし君に、まだ誰かを応援したいという熱意があるなら、僕と来て欲しい。」
その言葉に乗らない理由は無かった。きっと新しく応援部を設立するためにメンバーを集めている、そう思ったのだ。
目を輝かせながら先輩について行くと、たどり着いた部室には、チアリーディング部の札がかかっていた。中に入ると、掃除の行き届いたキレイな部屋がそこにはあった。チアリーディング部と交渉するのだろうかと思っていると、唐突に先輩から折り畳まれた布を渡された。広げてみると、可愛らしいスカートとトップスだった。誰がどう見てもチアガールの衣装だ。ご丁寧に下着まである。まさかこれを着ろと・・・。
俺が茫然としていると、衣摺れの音が聞こえた。見てみると、先輩が制服を脱ぎ、同じものを今にも着ようとしていた。ギョッとして見ているうちに先輩は着替えを終えてしまった。なんて人に目をつけられたんだ・・・俺が退散すべきと考えていたところに先輩の声が聞こえた。
「今から起きること、よく見ててね。」
心なしか熱がこもったように聞こえたその声は、すぐに先輩の悶える声にかき消された。
「んぐうううぅぅぅぅぅッッ!!!」
自分の体を抱きしめるように先輩はうずくまってしまった。俺はしばらく唖然としていたが、すぐにあることに気がついた。先輩が履いているスカート、その下から先輩のモノがかま首をもたげていた。赤黒く腫れ上がったそれは、一切触れていないのに先端からヨダレを垂らし、先輩の足元に水溜まりを作っていた。
だけどそれはただの予兆だった。
「ア、はぁあ、ひぐぅぅううう!」
先輩の喘ぎが激しさを増してくるのを待っていたかのように、その先輩の身体がみるみるうちに変化してきたのだ。
体をかき抱く両腕はほっそりと、それでいて健康的な肉付きのものに。
その腕の間からは俺の両手で鷲掴みにしてもなお余るであろう膨らみがどんどんと主張を強めていく。
しゃがみこんで折り曲げられた脚は、むっちりとした太ももと、しかし見ただけで分かるほどのしなやかさを見せつけている。
目の前で起きていることの理解が追いつかない中、先輩の声が一際大きくなってきた。
「あ、ぁア、くる、くるくる、きちゃうっっっっ!?!!」
同時に、うずくまっていた先輩が急に体を仰け反らせた。
その瞬間・・・
「いっっグぅぅうううウ゛ウ゛ウ゛!!!」
爆発した。
そう思わせるほどの射精だった。大きくそり返る肉の棒が、大量の白濁でアーチを描いていく。数十秒に及ぶ吐精を終えると、先輩のそれは小さくなり、やがてスカートの中に見えなくなっていった。
「はぁ・・・ハァ・・・・・ふぅ。」

追加イラスト(先輩)
追加キャラデザイン:そらねこ

荒い息をついていた先輩、だった人は、一呼吸つくとこちらに顔を向けた。思わず息を飲むような、黒髪の似合う美少女がそこに立っていた。だが俺は、まだ何が起きたか理解できず混乱していた。だから彼女(?)が発した言葉にも気づかなかった。
「さぁ、次は君の番だよ。」
そう言うと、俺が茫然としているのをいいことに、あっという間に服を脱がされ、チアガールの衣装を着させられていた。それに気づいたのは、着替えを終えた彼女に背中を叩かれた後だった。
ようやく我を取り戻すと、俺が着ていた制服はキレイに畳まれて置いてある。ご丁寧に下着まで。そして当然、今の俺はチアガール衣装を着ている。恥ずかしいどころの話じゃない。
俺が慌てふためいていると、先輩(多分)の透き通るような声が聞こえた。
「そろそろ、始まるよ。」
何が、と聞き返す前に、それはやってきた。


ドクンッ!!!


突然、俺の心臓が大きく鼓動を打ったと思うと、急激に身体が熱くなってきた。何が起きたか頭が理解するより先に、それは始まった。
さっき見たものーーうずくまる先輩、そそり立つ肉茎、変化していく体つき、そしてとてつもない射精。
それがフラッシュバックした時には、俺は立っていられずその場に崩れ落ちていた。

熱い、熱い、体が熱い。
体がどんどん熱くなっていく。特に自分の股間に強烈な熱を感じる。その熱は生理現象となり、俺の肉棒を固く太くいきり立たせた。そいつがこれ以上ない程に勃ったことを認識すると、その先端からドバドバと先走りがこぼれ出した。その生理現象はやがて快感となって俺の脳に返ってきた。
気持ちいい。こんなに気持ち良くなったことは一度もない。自分でいくらシゴいたところで、この快感には敵わないだろう。
辛うじて意識を保っていると、次第に身体中の熱が股間に集まってきた。熱は身体の先端から引いていき、それにしたがって身体が軽くなるのが分かった。まるで、男としての力、筋肉が削ぎ落とされたような、ある種不気味な感覚だ。だが不快感はない。身体中を快感が駆け巡ってそれどころではないのだ。
頭が重くなる。
手足が軽くなる。
胸のあたりが急激に重くなる。
次々と襲ってくる違和感と快感に翻弄されていると、身体中の熱が一気に股間に集中するのを感じた。同時にそれが爆発するように外に出ようとしていることも。だが今の俺にそれを押し留めるだけの理性も体力もなく・・・

ビクビク゛ン!!

俺は果てた。




どれくらい経ったのだろう、永遠に続くかと思った射精がようやく終わり、意識を朦朧とさせていると、急に頭がスッキリとした。それだけではない。あれだけ身体を支配していた疲労感や倦怠感がカケラも感じられない。有り体に言うと、絶好調なのだ。
ゆっくりと立ち上がってみるが、何ともない。そう思っていると、目の前に先輩がいた。

「ようこそ。我がチアリーディング部へ。」

ニコニコとした彼女の側にある姿鏡の中には・・・

そらねこさん2納品
キャラデザイン:そらねこ

俺と同じ髪色をしたロングヘアの、俺にとって理想的な美少女がポカンとしていた。
「これ・・・俺?」
呟いた声は、凛としながらも柔らかな響きをたたえていた。

<つづく?>

20180211初出

怪盗XXからの挑戦!

テキスト.あむぁい
キャラ&挿絵.七色 遥

女の子になった少年探偵

「つまり、犯人は月の満ち欠けを巧みに利用したトリックを使ったという事ですよ。
山猫と言えども猫である事にかわりはない。で、あるならば磐石に見えたアリバイも蟻の穴から崩れるがごとく。
要するに視点を変えただけ。
山野さんを突き落とした佐藤さんが、下剤を飲まされてトイレに行っている隙に、犯人はスリッパをすりかえた。
そして、読んでいた本のしおりを56ページから52ページに戻しておいたと言うこと。
桐嶋さんにある言葉を思い出させるために。
そんな事ができる人はこの中に一人しかいない。

したがって、犯人はあなたです。
ジェイソンさん」

ぼくの名推理にホッケーマスクをかぶった大男は「フシュー」と奇声をあげ、ショックにその手に持っていた血塗られたチェーンソーを落とした。

「そうか!そういう事か・・・」
感心する関係者ご一同様の中で、ぼくの名推理に慣れっこの大林警部が渋く警官隊に指示する。
「連行しろ」
うなだれたジェイソンは警官隊につれられてしおしおと部屋を出る。

「ありがとう。キミがいなかったら、もっと犠牲者が増えていただろう」
金田さんが深々と頭を下げる。
「なぁに、こんな推理。IQ13000のぼくの頭脳をもってすれば大した事ではありませんよ。すべてを論理的に考えれば解は一つです」
「あなたのお陰で事件が解決しました。本当にありがとうございます」
「いえいえ。亡くなられた方は本当に残念でした。それにしても痛ましい事件だった」
「はい」
なにげに金田さんの奥さんがついでくれたお茶を飲んだぼくはなんだか違和感につつまれる。
あ・・・れ?
なんだか胸のあたりがくるし・・・
「おい、どうした?近藤君!」
大林警部がぼくの名を呼ぶ。
「ど、どうしたの?」
おろおろと奥さんがうろたえる。
大丈夫です、と言いたかったが声が出せない。
え?え?
胸を押さえる手をゆっくりとだが力強く押す圧迫。
こ、これは?
その時、突然股間を激痛が走る。
「ぐ・・・ぎ・・・」
苦痛にぼくの口から奇声が漏れ、最後に大きな衝撃が体を訪れるとともに。
ぼくは意識を失って、その場に崩れた。



天井。
白い天井。
・・・どこだ、ここ?

見知らぬ天井。そして部屋。
ここは、病院?
大林警部?
逐次入力される情報にぼくの頭脳が急速に覚醒し、高速で回転を始める。
何者かが、ぼくに毒を?
奥さんが?
まさか。
「警部・・・あれ?」
口を出たぼくの言葉に驚く。声が裏返ってる?
「おお、気が付いたか、近藤君」
「ぼくは一体・・・」
毒の影響か声が変。まるで女の子みた・・・
「うわぁ!ちょ、これ!」
なぜだかいつの間にか、ぼくは何者かにピンクのネグリジェを着せられて病院のベッドに寝かされていた!
そして、胸が服の上からも分かるぐらい膨らんでいた!
いやいやいや。理由を推理するにこれは。
「何者かに毒、あるいは有害な物質を飲み物に混入されて、ぼくはそれを経口により摂取した。そして、気絶。その場にいた大林警部、あるいは金田さんらの手によりぼくは病院に運ばれ、治療を受けて回復した。そういうことですね?」
「おお。さすがは近藤君」
ぼくの名推理に大林警部が感心する。
「と言うことはやはり声が変なのは毒の影響か。それにしても、何でこんな格好に。パジャマに着替えさせたのはまぁ良いとして、これ。女物みたいじゃないですか。と言うか、なんでぼくの胸がこんな事に・・・柔らかい」
「察しが早くて助かる」
「・・・・・・」
胸を押さえるぼくの手の感触。手に押されるぼくの胸の感触。
その関係から推測するに。
「本物?いや、トリックか?」
そぉーっと、ボタンを2つ外し、隙間を空けて覗き見る。
凝視する。
触ってみる。
警部と目が合う。
「毒、の影響がまだ残ってるみたい。胸がはれてる。医師はなんと言っているのでしょうか?」
「身体はいたって健康、との事だ」
は?
あーいやいや。
「胸が腫れているみたいなんですが。まるで女の子みたいに」
ぼくは、パジャマの上をはだけて警部に見せる。
「知っている。全部見たから。全部完全に女の子だった」
「え?」
全部女の子?だれが?ぼくが?
「なんだとー!!」
「取り込み中悪いが、犯行予告が来ている」
犯行予告?それどころじゃないだろっ!
警部が差し出す封筒をひったくる。
白い封筒に悪趣味なマーク。

女の子にされた少年探偵

”キミの穿いているスキャンティを今夜いただきに参上する。 怪盗XXより”

「なんじゃこりゃあああ!」
「予告状だな」
「わかってます!怪盗XXって?」
「怪盗だろうな」
「そんなこと分かってます!スキャンティって?」
「女性用の下着で特に布地の小さいものを称するようだな」
「そ、そんな事はどうでもいい!そもそもぼくがそんなものを穿くわけが・・・」
警部と目が合う。
ちょっと待ってください。
そーっと、ズボンの腰の部分に手を伸ばす。ゴムをぎゅーっと伸ばすとそこから見えたのは・・・
「○△×▼!」
ぼくは手近の枕を警部に投げつける。
「なんでぼくがこんなの穿いてるんですか!」
「わしが穿かせたからだ」
「そんな事聞いてない!」
ああっ!もうっ!
「いいですか。これは犯行予告ですよ!なんで、ぼくにス、スキャンティを穿かせる必要があるんですか!」
「わしがキミにスキャンティを穿かせて、キミが今スキャンティを穿いている理由だが」
「スキャンチ、スキャンティ言うな」
あう。
「大丈夫か?」
「うるさいっ!」
「怪盗XXを逮捕する為だ。安心したまえ。そのスキャンティは国家の税金で購入したものだ。したがって万が一盗まれたとしても、キミに一円の損害もない」
「な!な!」
「キミが穿いているスキャンティを狙って怪盗XXがこの病院に来たらしめたものだ。なにせここには300人の警官が・・・」

ボグッ!

皆まで言い終わらずに崩れ落ちた大林警部の影から現れる怪しいカッコをした怪しい男が怪しく現れた!!
「やぁー、待たせてごめんね。こんばんは、マイレディ。キミとの約束を果たしにきたよ」
「な!まさか、お前が怪盗XX!」
「おおー、さすがは噂の天才探偵~。見事な推理だねえ」
「ふふん。300人の警官が守るこの病院にやすやすと侵入したその手際!只者ではないのは明らかだ。こう見えても優秀な警部である大林警部に気づかれずに接近する隠密性、さらに一撃で昏倒させる打撃力!さらにはいかにも怪盗ですと言わんばかりのコスチューム。これだけのヒントがあれば、ぼくの IQ13000の頭脳にとってはお前の正体をあばくことなど造作もないこと!」
「なるほど、おそれいった」
拍手する怪盗。
「では!」
身を翻した怪盗は、一気に距離を詰めてベッドの上に上る!そして、ぼくの肩に手を掛けて一気に押し倒す。
「わわっ!」
「ふふ。ではこれからわたしがキミに何をするかも推理できるかな、名探偵!」
わ、顔近い!
これから奴が何をするかだって。
「そ、そんなの簡単だ。ぼくとの頭脳戦に負けた怪盗は逆上して力づくでぼくからスキャンティを・・・ああっ!?」
キ、キスされてる!?
キス!
こ、このっ!
ぼくが噛み付くより一瞬早く、怪盗は口を離す。そしてすばやい身のこなしでおしりを向けると、体重を掛けてぼくの動きを封じる。
「くっ、重!」
そして、ぼくの腰を持ち上げるとズボンを一気に脱がそうとする。
「こ、こらっ!止めろ!ずるいぞっ!さっさと負けを認めて退散しろ!力づくなんて怪盗のやる事じゃないだろ!」
なんとか足をじたばたさせて抵抗するが、基本的に不器用な足で手に抵抗するのは無理がある。
そして、ぼくの右手は怪盗のお尻で動きを封じられ、かろうじてうごく左手でぽかぽかと怪盗を叩くがまったくダメージを与えているようには見えない。
「ははは。女の子に叩かれても痛くはない。むしろ気持ち良い!」
「なんだと、まさかっ!?」
ぼくの頭脳が高速に回転する。
「さてはぼくを女の子にしたのも貴様だなっ!300人の警官隊の警備をすり抜けるお前ならぼくのお茶にどこかで入手した女の子になってしまう薬を密かに盛るのも簡単な事!」
「ヒュー」
怪盗は口笛を吹き肩をすくめる。
「なんの証拠も残さなかったはずなのにまさか見破られるとは」
「さっきお前が言った女の子に叩かれても痛くないと言う言葉!これが、お前がぼくを女の子にした動機だな!」
なんて卑劣なやつだ!
「わずかの間にそこまで見破るとは・・・だが、それだけじゃないぞ。キミにスキャンティを穿かせる必要があったし、キスは、女の子とする方が楽しいからねぇ」
かぁっ、と頬に血が上る。
「おっと、お仕事、お仕事」
怪盗が一気にズボンを脱がせに掛かる。
と言うか、パジャマって脱げやすすぎっ!
「据え膳食わぬは男の恥と申しますからな」
「据え膳じゃねー!!」
ぎゃわー!脱がされた!ズボンが脱がされた!
「ぬほっ」
「やめろー!!」
じたばた動かす足がむなしく宙を切る。
「それでは、予告どおり。あなたの穿いているスキャンティをこの怪盗XXが頂きますよ」
びくっ。
ぼくのスキャンティと肌の隙間に奴の手が差し込まれ、いたぶるようにじっくりと脱がされていく。
「ああっ!見るなっ。見るなーっ!!」
「ふふっ。天才探偵の穿いていたスキャンティ。確かに頂きましたよ」
くちゅっ。
「はうっ」
な、なにっ。今、何した!?
どさりっ、とぼくの体がベッドに投げ出される。

「それでは失礼します。わたしの可愛い人」
笑顔を見せる怪盗をぼくは思い切り睨み付けた。

カシャ!

いつの間にか怪盗の手に握られていた小さなカメラがぼくを写す。
げっ!?
「とってもセクシーだよ。名探偵」
「待てっ、逃がすかっ!」
怪盗は身を翻して去っていく、それを追いかけるぼくの足を引っ掛ける邪魔ッけな障害物!
ぼくは盛大にすっころぶ。
「う・・・うん。はっ、近藤君。スキャンティは無事・・・じゃないな」
「ぎゃー!!!」
見るなーっ!
遅い!気づくの遅い!役立たず!税金泥棒!!
「次はキミの女の子を奪うとするよ、近藤くん。また逢おう、名探偵!」
ああっ。待て、待てー!
「そんな格好で外へでたらキミが捕まるぞ」
「うわああーん!」



「悪いけど、規則なんで被害届を書いてもらわないとな」
「うう・・・。なんで、ぼくが・・・」
天才探偵なのにスキャンティを盗まれましたと言う被害届を大林警部に書かされるこの屈辱っ!涙で前が見えないっ!
「しかし、奴はとんでもないものを盗んで行きましたな」
「?」
いぶかむぼくに警部はニカッっと笑って言った。
「あなたの心です」
「なんでだー!!」
ぼくの絶叫がこだました。

<おしまい>





無料アクセス解析


全文を表示 »

TSビーチ 後編(作.ととやす 絵:蜂密柑)

前編はこちら
beach(2)_20171208091204f19.jpg

8変化 飛鳥
うぐ!背骨が、痛む。
「まず、身長は、150センチメートルくらいでいいか」
ヨウさん・・・ヨウの声とともに目線がガクッと下がる。
先ほどまで見下ろす形だったヨウよりも、下に。
俺は185センチもあるはずなのに!
「髪の毛は、うーん、活動的にショートカットでいいか。お顔も、ボーイッシュなかわいい系にして・・・」
頭に悪寒が走り、髪の毛が目にかかってくる。
「ふふ・・・手だけは動かせるようにしたので確認していただいて大丈夫ですよ」
言われるや頭へ手をやる。本当に手は動かせるみたいだな。
物心ついて以来ずっと短く刈っていた髪だが、いまはもう肩にかかるまで伸びてしまっているようだ。
ええい!うっとうしい!
顔を確認したところ、まつげが長くなり、各パーツのサイズも小さくなっているようだ。
頬っぺたもなんだかぷにぷにしている。・・・ええい!これは贅肉だ!敵だ!
「さぁ、本番ですよ・・・自分の性にお別れの時間です」
!? なんだ、なんか・・・股間に違和感が・・・。
反射的に海パンに手を突っ込み、自分のモノを確認する。あれ? さっきからのあまりの出来事に縮こまっているにしても
小さすぎる、ような?
いや! 違う! 現在進行形で小さくなっているんだ!
ドクン!と鼓動が波打つ。それに呼応するように、少しずつ、だが確実に俺のモノが小さくなっていく。
「ちょ、ちょっと待て!」
だが、俺の願いもむなしく、股間のモノは小指の先程度の大きさにまで縮小してしまう。
「よ、よくも・・・」
「まだですよ」
「えっ?」
ズキッ! 今度は下腹部が痛む!? 内臓が、ぐるぐるかき回されるようだ。
「女性にしかない器官が形成されているのです。あなたが女性である証、
これから男性を愛し、子を為す象徴です。」
「・・・ぁぁあ!」
思わず声が出る。今の声!? 俺の声か? いつもより全然高い!
まるで声変わり前に戻ったような、いや、むしろ女性のような!
ゾクゾク・・・! いよいよ俺は自分が女性にされてしまっているのだと実感せざるを得なかった。
「ふふ、女性としての身体に変わる過程ですからね、声も当然変わってしまいます」
「くそ!やめろぉ」
違和感しかない自分の声になさけなくなる。なんだ!このキンキンな声は!
頼りない・・・。
いまだ継続する下腹部の痛みと股間の違和感。
だが、それも最終段階に入ったようだ。
「!? お、俺のが・・・」
そう。自分のモノ。男性自身がとうとう消滅してしまったのだ。残っているのは豆粒サイズの突起。
「・・・ぃや」
声が漏れる。豆粒まで縮んだことで敏感になっているのか?
自分の声なのにやけに色っぽい。男らしさのかけらもない。
「あ、あぁ・・・」
指で股間に触れていると徐々に、モノや金玉のあった位置に一筋の溝が形成されていく。
陰毛も、元よりは薄くなっているが残っているようだ。
あまりの変化にたまらず股座をかきむしる。
「ん・・・」
全身に電流が流れるような快感。こ、こんなの今まで感じたことが・・・。
「まだまだ身長、顔、性器をいじっただけなのにずいぶんとお盛んですね」
ヨウの声にはっとする。
「! 黙れ!」
「あんなうれしそうな顔をして何をいっているやら? 
まぁ、これから先はもっと気持ちよくなりますから安心してください。
次は他の部分を変えさせてもらいましょうか。
ふふ、安心してください。大好きな陸上は続けられる程度に筋肉は残しておいてあげましょう。
巷で噂の腹筋女子ってやつですかね。」
薄笑いを浮かべながらヨウが手をかざす。
「ああ!」
今度は全身。腕や腹、尻、腿などに違和感が。中でも
「む、胸が・・・」
下を見やると瞭然。鍛え上げた胸筋にしまりがなくなったかと思うと、少しずつ乳首が桃色に染まる。
桜色の乳首は徐々に大きくなり、そこを中心に、膨らみ始める。
胸が膨らむということは・・・その中身は・・・。
「いやだぁ! 筋肉を返してくれ!」
「あはは! いやですね。全身の筋肉を奪うわけないじゃないですか!
精々体脂肪率が一けた台から20%前後に増えるだけじゃないですか!」
くそう、その一けた台にいたるまで俺がどれだけ努力したと思ってやがる。
そうこう考えうちに乳はぐんぐん成長する。
さっと触ってみたが、尻にも、太ももにも肉はついていっているようだ。
げんなりする・・・これを落とすのにどれだけの苦労がいるんだ。
サイズが変わったからか、はいていた海パンがずり落ちている。
「うん! 大きすぎず、小さすぎずの良いサイズになりましたね!
形もきれいだし。あぁそうだ。いつまでも海パン姿は変でしたね」
ヨウがそう言うや、はいていた海パンはサイズを変え、肌にぴちっとした張り付く。
張り付いてももう、股間が押しつぶされる感覚はない。
さらに気が付くとどこからともなく布が現れ、出来立て(!?)の胸を覆う。
これはいわゆるビキニ、というやつだな。
少なくとも男が着る水着ではないだろう。
うぅ・・・。動かせる手を使って全身を撫でまわす。
ふっくら、張りがある尻。以前より明らかにむっちりした太もも、そして男にあるまじき大きな胸。
これらがすべて今の自分に備わっているのだ。
あの全身鋼のようであった俺の肉体は・・・もうないのだ。
じんわりと涙がにじむ。これまでの自分を否定されたような気分だ。
「泣かないでくださいよ。
我々も術や呪いをかけた人間の感情エネルギーを吸収して生きている。いわば共生関係であるはずです。」
「どのツラ下げて共生だよ!」
「そうですね。アフターケアはしっかり行います。
身体こそ変えさせていただきましたが、それでもあなたが幸せになるのをサポートします。」
意味が分からない。やはりこいつらは俺たち人間と価値観が違う。
これまでの人生をかけて培ってきたものを一瞬で奪っといて幸せだと?
「バカやろーーー!」
「さて、向こうも終わったようですね」
そうだ!祐樹は!?
「うっうっ・・・」
自分に必死で気づいていなかったが、泣き声、悲しいことにもちろん女の、が聞こえる。
振り返るとそこには今の自分より長髪で、・・・ムチムチのビキニ姿の女が突っ立っていた。
あの水着の柄には見覚えがある。と言うことは、あれが今の祐樹なのだろう。
・・・なんだよ、祐樹のやつ・・・俺より胸も大きいし、お尻だって・・・なんだか悔しいな。
!? なんだ、今の気持ちは!?
俺が自分より女らしい身体になった祐樹に嫉妬でもしたというのか!? ありえない!
「終わったわよ♪」
「ネネ姉さん。って、なんですか、その結果は! こんなみだらな身体に変えて! 破廉恥です!」
「まぁまぁ、そういわずに、ね?
ヨウは真面目にやりすぎよぉ。せっかく自分で理想の女の子を作れるんだから、やりたいようにやったらいいじゃない!
エッチな体つきの娘にしちゃう方が楽しいしね?」
「はぁ、もういいです。これで新術1号実践は成功ですね。」
ひょっとしたらこれでもう解放?
今日はいろいろありすぎた。早く帰って、今後のこと、特に筋肉を取り戻す方法を考えなくては・・・。
しかし現実は甘くなく。
「ではこのまま2号実践しましょうか♪」
俺たちはまたも絶望へ追いやられた。

9改変 祐樹
「記憶を見るにィ、祐樹君って結構ムッツリさんだったのねぇ。
じゃあ、とことんHな女の子にしてあげるわぁ」
そんな言葉とともに、僕はネネさんの手によってグラマーな女の子にされてしまった。
なんなんだよ・・・こんなセクシーなビキニまで着せられて・・・。
どうしてこんな目にあわなきゃいけないんだ・・・うぅ・・・。
大きく膨らんだ胸にポチャとしたお尻。手で少し動かすだけでふるふると震える。
もう、男には戻れないのだろうか。
「新術2号はあなた方と周りの方々の認識をゆがめる魔法です」
「要するにぃ、女の子になっても周りから不自然に思われないように
初めから女の子だったって思いこませちゃうってこと♪
あぁ、二人の男の子のころの記憶は少しずつ薄れていくから安心してね♪」
もはや絶望しかない・・・。
このまま女として生活することを求められ、いずれは結婚して子供を産んで・・・。
いや、それよりも、男と夜の営みをしないといけないの!?
男の記憶を持ったまま!?
「や、やめ・・・」
もはや何度目になるのかわからない嘆願の言葉は、今回も受け入れられることはない。
「では始めるわね♪」
変わり果てた飛鳥の顔を見やる。スレンダーだけど引き締まった身体だ。
正直かわいい・・・こんな状況じゃなかったらなぁ。
・・・でも今の僕の方が肉付きもいいし、髪だって長いし絶対モテるよ!
あれ?なんで僕こんなことを?
「あなたたち二人ここまで何しに来たんだったかしら?」
「か、彼女がほしくて・・・」
「ぼ、僕も・・・」
「違いますよね?」
? 違う?
「彼氏を作りに来たんです。そうでしょう?」
そんなバカな・・・。僕たちは確かにかの・・・
いや・・・?あってるのか?彼氏、ほしかったんだっけ?
「二人ともまだ処女だものねぇ。この夏で思い切ってロストヴァージン、したかったのよね♪」
・・・うん。そうだ。周りはみんな彼氏を作ってエンジョイしてるのに、なんで僕ばっかり。
身体を作り替えられたときみたいにまた頭がぼんやりと・・・。
「うふふ、慌てなくても大丈夫よ、祐樹君。
いいえ、優姫ちゃん。あなたすごくエッチな身体してるものぉ。
男の子が見たらほっとかないわぁ」
そう!そうよ! 私、今まで出会いがなかっただけで、絶対いい男捕まえられるもん!
昔はこの大きな胸とお尻がコンプレックスだったけど、今では完全に私の武器!
ぺちゃぱいのアスカには負けないわ!
「飛鳥さん、いや明日香さんもですよ。
確かに優姫さんほどグラマーではないですが、スレンダーで引き締まった身体をされていて憧れます。
お料理も上手ですし、なにより愛する人に一途な性格をされているんですから。
きっと一度お付き合いまで発展したらなかなか離してもらえなくなりますよ!」
確かに明日香は一途な娘だけどさぁ、ちょ~っと真面目すぎるのよね。
身持ちも堅いし、頑固だしでぜ~ったい彼女にすると面倒よ!
まぁ、私にとってはいい引き立て役になってくれるだろうしぃ、表では仲良くしてあげるけど?
「・・・さて、そろそろお別れ、というより選手交代ねぇ♪
ありがと、結構楽しかったわよ♪」
ネネさん、ヨウさんの姿が少しずつ薄れていき、やがて跡形もなく消えてしまう。
まるではじめからここにいなかったみたい!
あぁ、そんなことよりも・・・男遊びしたいわぁ・・・。

全文を表示 »

TSビーチ 前編(作.ととやす 絵:蜂密柑)

1始まり 祐樹
カンカン照りの太陽。ざぁ、という心地よい波の音。どこか懐かしい風の香り。
そしてビキニ姿の女性たち。
そう、ここは海だ。
「つ、ついに来たな・・・祐樹」
「いよいよだね・・・飛鳥・・・!」
いつもよりややこわばった声色の飛鳥に、僕もつられて緊張してしまう。

「ついに俺にも彼女が・・・」
「気が早すぎでしょ・・・そもそも飛鳥が女の子としゃべってるところなんて見たことないけど?」
「うぐ! ・・・大学に入るまでは陸上しか考えてなかったんだよ!
まさか大学の部の奴らにみんな彼女がいるなんて・・・軟弱だ!」
隣でぶつぶつぼやく飛鳥を横目で見やりながら、僕は今日こうして海までやってきた経緯を思い出していた。

2発端 祐樹
「祐樹、明日は暇か?」
金曜日の講義明け、僕は高校時代から付き合いのある飛鳥にそう声をかけられた。
(・・・珍しいこともあるもんだな)
飛鳥といえば、高校時代から大学の今に至るまで、自他ともに認める陸上バカだ。180cm超えのがっしりした体格で、
暇さえあれば肉体トレーニングにいそしみ、バイト代を僕にはよくわからないプロテインやら栄養剤、
筋トレグッズに費やしている飛鳥―昔「低脂質なたんぱく質だけを摂取したい」とか言っちゃって、
三食サラダチキン生活を三か月続けた挙句病院送りになったのは伝説だ―からお誘いがある日が来ようとは。
僕はといえばずっと帰宅部で、クラスがいっしょだった飛鳥とはなぜか馬が合うものの、
遊びに行くのは初めてのことになる。
「空いてるよ~何するの?」
僕にとっては何気ない返事だったが、飛鳥からの返事はなかった。
「・・・?」
いぶかしむ僕の顔をしばし見つめていた飛鳥は、ややあってこう答えた。
「・・・海でナンパだ」
僕は絶句した。

3事情 祐樹
今日、海への道中で聞き出したところによると、
飛鳥は大学でカルチャーショック(?)を受けたのだという。
禁欲的な生活を送り、大会でも上位の成績を残していた飛鳥だが、
大学に入り、周りに自分より好成績の選手しかいない環境に自信を無くし気味だったのだそうだ。
そして、そうした周りのメンバーの全員が彼女もち。
「勝負に勝つためには他の全てを捨てるべきであり、彼女などもってのほか!
そんな時間があればプロテインを低脂肪乳で割って飲むべきだ!
・・・そう考えていた俺にとってこれは自分のアイデンティティすらも揺るがす大事件だった・・・。」
大げさでは・・・?
極め付けに、部内トップの先輩から
「お前も彼女くらいつくれよ。愛はすべてを変えるぞ~」
とまで言われてしまったのだという。
たぶんからかわれてるんだろうなぁ。
この言葉を真に受けた飛鳥は、手っ取り早く彼女をつくるべく、ナンパ決行の決心を固めたのだという。
でも女の子としゃべった経験のない飛鳥にとって、単独でのナンパはあまりにハードルが高い。
「陸上のハードルなら余裕なんだが」
あんまりうまくないぞ、それ。
そこで白羽の矢が立ったのが僕。
背も低くおとなしいせいか昔から女の子と話すことの多かった僕は、飛鳥にはナンパの達人に映っていたらしい。
う~ん、ナンパどころか僕も彼女いない歴=年齢なんだけどな・・・。
やっぱり飛鳥ってどこかずれてるよなぁ。
ため息をつきながら、僕は電車の窓に映る海を見つめていた。
・・・でも、もし僕もナンパが上手くいけば僕にも彼女が・・・。
飛鳥には悪いけど、飛鳥の天然ボケをダシにしていけば僕にもチャンスが回ってくるかも。
いままで女の子からマスコット扱いされるだけで恋愛対象にされなかった僕にも・・・。
僕にだってもちろん性欲はあるんだぜ。
そんなことを考えているとにやけが止まらなくなるのだった。

全文を表示 »

【投稿小説】第2型ライフ  《サブエピソード ~縁日~》

①はこちら ②はこちら ③はこちら ④はこちら サブエピソード ~プリモアモーレ・ディ・キノット 1~はこちら  サブエピソード ~プリモアモーレ・ディ・キノット 2~はこちら
 ⑤はこちら ⑥はこちら ⑦はこちら サブエピソード ~ヴァカンツァ・ディ・ミカン~

作:旅わんこ https://twitter.com/Bul_let
イメージキャラデザイン:ささみ https://skima.jp/profile?id=16473

高校生活にも慣れ、初めての夏。
 地元・詩の月町の神社でのお祭り。
 たくさんの屋台が並び、神社ではステージイベントが催され、浴衣や甚平に身を包んだ人たちが祭りを楽しんでいる。
 あたしは高校のクラスメイトでもある男友達と一緒に訪れていた。金髪にピアスにと言う不良っぽい感じの三住真(みすみ まこと)、クラスの雑学王で黒縁メガネがトレードマークの八神朔太郎(やがみ さくたろう)だ。
 そんなあたしたちの格好だけど、あたしは紺色の甚平と雪駄(せった)、マコトは十字架のネックレスや指輪やダメージジーンズなどで着飾ったストリートファッション、朔太郎ことサクはどことなく女の子っぽい金魚柄の水色の浴衣に下駄と言った具合。
 マコトは言う。
「なぁなぁ。さっきの舞を踊ってた巫女さん見たか? あの胸、帯に乗っかるくらいぼいーんだったよな? な!?」
「またマコトはそう言うところばっかり目が行く。しかも大声で言う。だから彼女ができないんじゃないの?」
「うるせーなー、お前だけひとりジェントルマンぶりやがって。あ、ほら。少し前にいる甚平の女の子。ちょっと胸はないけど顔は可愛いよなー!」
「見られた見られた! だからそう言う恥ずかしいこと言うなぁぁぁ! ……ねぇサク。きみからも何とか言ってやってよ」
 あたしはそう言うけれど、サクは首を横に振るとメガネを押さえて言った。
「真くんのスケベは小×生のころからだからね。スカートめくりして先生に説教食らっても、その日のうちにまたやらかしてたんだから。僕が言ってやめてくれるならとっくにやめてるよ」
「……ダメか」
 諦めない限り人はなんだってできるって言うのはゲームの中だけの話だったか……
 もうダメ。へっちゃらじゃないよ。
 しょうがない、ちょっと懲らしめよう。
「じゃあ悪いけど、ぼくはこれで帰るよ? せっかく今からグラビアアイドルのミカンのお父さんがやってるお好み焼きの屋台に連れてってあげようとしたのに、友人がこんなにスケベだと向こうも迷惑かなー?」
「マジ!? あのグラビアアイドルの湯河原蜜柑か!? キノット、お前あの子と知り合いだったのか!? 行く行く! もちろん行くぜ! なぁ朔太郎? 行くよな!? 頼む、お前からもキノットを説得してくれよ?」
「……こうなると止まらないからね、真くんは」
 マコトのスケベさに小学校のころから悩まされていると言う幼馴染のサク。やれやれと言いたげに顔を横に振ると、あたしに言った。
「あんまり暴走するようなら僕が止めるから、連れてってあげてくれないかな。それに詩の月高校から生まれたアイドルなんだ、僕も興味がないわけじゃないし。頼めるかな、キノくん?」
「さっ、サクがそう言うなら、しょうがないなぁ……」
 お祭りともなればいろんな人が破目を外す。小さな子どもたちは親の心配をしり目にはしゃぎまわり、いい年した大人は酒を飲んで千鳥足。祭りの役員はテントでビールをあおり、若者もやはり酔った勢いで適当な人に絡む。
 マコトもそんなひとりだ。高校生のくせに青テープ本買ってきて高校の教室でそれを開いては、女子に白い目で見られた挙句先生にそれを取り上げられてあたしとサクを巻き込んで先生に説教されても平然としているようなやつだ。ここで大人しくしていないわけがない。
「そうと決まれば行こうぜぇー! お好み焼き屋だったな、キノット、案内しろよ!」
「うぁっ!?」
 マコトがあたしの手を取って先に歩き始めた。おかげであたしは足をもつれさせバランスを崩し、かかととサンダルがずれたことでそのまま転んでしまった。「うづづづづづ……!」
「キノット!」「キノくん!」
 マコトが振り返り、サクも小走りで駆け寄ってくる。
 あたしは何とか砂利の地面に両手をついて上半身を起こした。まだ転んだ先が大粒の石を敷き詰めた砂利だったからよかったものの、石畳の参道との段差のせいでまた足をひねってしまったようだ。踏み外して捻った右足が痛い。
「ごめん、捻った…… 誰か、手を貸してもらえる?」
 すると。

「しゃーねぇな。ほら」

 その声は、高く凛としていた。
 マコト、サク、そのどちらでもない、女の子のものだった。
 そしてその声は、あたしにとってとても身近な声。
 そう。
「ミカン……?」
 声が聞こえた方を見上げると、そこにその人はいた。
 あたしの前に手を差し伸べてくれている、あたしの想い人、ミカン。
 参道との境界、そこで転んだあたし、そこに手を差し伸べてくれるミカン。何もかも、あたしとミカンが出会った瞬間と同じ。違うのはあたしたちの性別くらいだった。
 強いて服装の違いまで挙げるとするなら、ミカンは赤い法被に青い帯、足袋、そしてハチマキと言うお祭りカラーを押し出した祭り装束に身を包んでいた。胸にさらしを巻いても、そのたわわに実った果実はどうにも人の視線をくぎ付けにしてしまうものだ。
「ミカン……?」
「ほら、手」
 そう言ってミカンは改めて手を差し出す。
 あたしはミカンが差し伸べてくれたその手を、ゆっくりと掴んだ。
「あ、あの、ありがとう……」
「どいたま。ったく、また似たようなところで転んでんのかよ。俺たちが出会った時と同じじゃね、これ?」
 そうだった。
 あの時は冬、初詣に訪れた時だったし、ミカンは男の子であたしも女の子だった。でもあの時も、あたしはちょうど参道と砂利道の境目で転んで足をくじき、動けないでいたところをミカンに助けてもらったのだ。
「そう、だったね…… またミカンに助けてもらっちゃった」
「いつだって助けてやるよ。俺もキノットに支えてもらってるからな」
 そう言って、相変わらず少年っぽく笑うミカン。
 そしてあの日と同じ、チャームポイントの八重歯が下唇に引っかかっている。女の子になった今、それがよりミカンのかわいさを引き立てている。
 ミカンは言った。
「どうする、足冷やすか?」
「ううん。あの時ほどひどくないから。あんまり痛くなるようだったら自分で手当てするし」
「そっか? キノットがそう言うならあまり節介焼かない方がいいよな。よし、うちの店に来なよ、うんとおいしいお好み焼き作っちゃうからさ!」
 ダメージは少ないので、あたしは自分の両足でしっかり立った。それなのに、ミカンはまだあたしの手をつないだまま。それを見て、マコトとサクは言う。
「何だよ何だよ? お前ら、ずいぶん仲良さげじゃねぇか。知り合いってレベルじゃねぇんじゃねぇのか!?」
「そうだね。何て言うか、かなり親しい間柄とか?」
 そう尋ねてくるふたりに、あたしは、
「そうそう。紹介が遅れたけどミカンはあたしの恋び……」
 恋人、と言おうとしたのに。
 なんとミカンはとんでもなく甘酸っぱい爆弾を投下してきたのだ。
「キノットの未来の旦那さんで~す。お前みたいにスケベ丸出しなやつにキノットを取られてたまるかって話だ!」
 そのたわわな胸を、あたしの腕に押し付けながら。
「違う! いろいろと違う! ミカンがお嫁さんなの! ってやっぱりそうじゃなぁ~いっ!」
「バカな! 湯河原はオレが狙ってたのに! 高校卒業したら告白するぞって決めてたのに! あぁぁんまりだぁぁぁぁぁぁあああっ!」
「……残念だったね、真。新しい恋を一緒に探そうじゃないか」
 血の涙を流しながら崩れ落ちるマコトと、そんな彼の肩に手を置いて慰めるサク。
 そんなふたりをしり目に、ミカンはあたしの腕に抱き着いて胸を押し付けながら歩きだした。しかも背中越しに、マコトに対して意地悪で幼稚な「あかんべー」をしながら。

 そして、ミカンは小さな声で囁く。
「……まあ? たまには浮気してもいいけど、ちゃんと俺のところに帰ってくるんだぞ?」
「さっきの話聞かれてた!?」
「あぁ、しっかりとな。……きししし!」
 そう言ってミカンは、やっぱり意地悪く笑う。
 かわいい八重歯が、今は軽く憎たらしい。



 神様。
 いっそ軽く殺してください。

完成

全文を表示 »

【投稿小説】第2型ライフ 《サブエピソード ~ヴァカンツァ・ディ・ミカン~》

①はこちら ②はこちら ③はこちら ④はこちら サブエピソード ~プリモアモーレ・ディ・キノット 1~はこちら  サブエピソード ~プリモアモーレ・ディ・キノット 2~はこちら
 ⑤はこちら ⑥はこちら ⑦はこちら

作:旅わんこ https://twitter.com/Bul_let
イメージキャラデザイン:ささみ https://skima.jp/profile?id=16473

さて、季節は秋。

 水泳部を引退したあたしたち3年生は、(したくない)受験勉強にいそしんでいる。
 そのはずだ。
 そのはず、なんだけど……

 とある三連休の初日。
 ミカンの実家、湯河原家、ミカンの部屋。
 あたしは現在、そこにお邪魔している。
「さて今日の予定を確認します」
 ミカンは参考書やノートを開くでもなし、筆記用具をあさるでもなし、ベッドに腰かけて言った。
「うちの父さんは町内会に出かけており夜まで帰りません。母さんは母さんで学生時代からの友人と温泉旅行に行くとか言ってやっぱり帰りません。柚木のバーローは八重山と一緒に勉強するとかで俺の誘いを断りやがりました。しかし男女が一緒になるってどうなることになるか分からない、それほど俺たちはバカじゃーねぇはずです」
 うん、分かる。
 今頃あのふたり、(勉強の息抜きに)イチャイチャしてるんだろうなぁ。
 あたしはそわそわしながら、柚木の勉強机の椅子に腰かけてミカンの愚痴を聞いていた。
 ってことは、あたしたちも……?
 あたしはミカンの次の言葉が出てくるのを待った。そしてその言葉が。
「本当に悪い。食材が何もねぇんだ。錬金術が使えれば葉っぱ1枚をパンに錬成することもできるんだけど。てなわけで、カップラーメンでいい? 育ちのいいお嬢様には申し訳ない話だけど」
「頂けるだけありがたいです。うちの屋敷のガスボンベも配管の破裂で厨房が使えなくてね、厨師(ちゅうし)(中国語でコックのこと。つまりコックさんは中国人)がいても料理を出してもらえない状態なの」
「分かった。じゃあしゃーねぇ、お湯でも沸かすか。……おやつでも頂いてからな」
 おやつ?
 そうだね、ちょっとはお腹の足しになるかも。
 あたしがそう答えるや否や、ミカンはベッドから立ち上がる。
 だけど、向かったのはミカンの部屋のドアではない。あたしがいる机に向かってきた。成る程、勉強机の引き出しにしまってあるのか。
 と思ったその時。
「はむ……」
 なんと、何の前触れもなしにミカンはあたしにキスしてきたのだ。
 綺麗に腰から折れて、まるで置物のドリンキングバードが水を飲む時のようにして。
 あー、やっぱりか。やっぱりやっちゃうのか。
 ――「しかし男女が一緒になるってどうなることになるか分からない、それほど俺たちはバカじゃーねぇはずです」
 バカじゃなかったら、あれだよね?
 やっちゃうよね!?
 そしてミカンはあたしの肩を掴んで、秋物ジャケットを脱がす。暑くもなければ寒くもなく、ジャケットの下はTシャツ。ミカンは右手であたしの両の手首をつかむと、左手でそれすらはぎ取った。
「ひゃめ、ふぁぶかぴぃ……!」
 あたしは本当に恥ずかしかった。
 できれば『女子として通している』うちは見せたくなかった、あたしの裸。
 ブラジャーはしている。だけど、その内側はあまりにも男の子だった。
 そこそこあった(ただしミカンにはどう足掻いても負ける)胸はTS病を患ったことですっかり平らになり、そんな胸を以前と同じに見せるために2重にしたヌーブラまで使って盛り上げていたのだから。
「ダメ、ミカン! そこまで取らないでぇ!」
「男の裸なんて…… いや、そんな野暮なことはどうでもいいや。いっそもっと恥ずかしがっちまえよ。その方がお互いに萌えるだろ」
 字が違くない!? いやむしろ合ってる!?
 まぁどっちでもいっか、いいよね!?
 とうとうあたしは裸にされた。
 ブラもヌーブラも取られ、露わにされた甲板胸。ミカンは、そこに吸い付いてきた。
「ひゃうん!」
「ふぃっぺうふぁ(知ってるか)? ぷはっ。乳首で感じるの、女だけじゃねぇんだとか。あ、俺が男だった時に試したことはねぇぞ?」
 そうなんだ。あたしは感心した。
 いや、別にひとりえっちなんて誰でもするでしょ? ミカンがそんなことしてても別にあたしは気に、しな…… しないかな? うん自信が持てないや。
「だっ、だから、何……」
「もっとえっちにしてやるよ。うら」
「ひゃう!」
 そしてミカンはあたしの腰を両腕で抱きしめて、そのままミカンのベッドの上にダイビングした。とてもいいベッドなのだろうか、そんなにバウンドしないのに心地よく体が沈み込む。
「今日の勉強決定。保健体育な?」
「そんなの高校の受験にでーまーせーんー!」
「高校側の気まぐれってことも、あるんじゃね?」
 そう言ってミカンはとうとう、ショーツごとスカートまで脱がした。
 出てきたのは、あたしの元気な『欲望の化身』。
 骨格こそまだ女の子だけど、それ以外ではあたしは完全に性転換しているのだ。だから当然『これ』だって。
「ないないないないないない! ぜぇーったいに、ない!」
「じゃあ、これは自由研究に回すとすっか」
「出さないでぇ! こんな恥ずかしいレポート提出(だ)さないでぇぇえ!」
 ミカンはあたしから脱がせたスカートをベッドのわきに落とした。しかも、いつの間にか脱いでいたミカン自身のシャツやブラジャーまで混ざっていて、ミカンもあたし同様(上半身は)すっぽんぽんだ。水着を着ていてもその存在を主張する大きな胸が、あたしの目の前でタワンと揺れる。あのーどこの先輩さんですかあなたは。
「ほらほら、もんでもいいんだぜ?」
「うっ……! じゃあ遠慮なく! ミカンってば、男だったくせに元からの女子を差し置いてこんなにおっきくなっちゃうんだもん、軽くこれが憎たらしいよっ!」
 半分『女子としてのうらやましさ』、半分『男子としての性欲』に任せて、あたしはミカンの胸を揉んだ。時に衝動に任せて、時にミカンをいじめるつもりで。
「ひゃう! 自分でやるのとは、違う……」
「へぇ~え? やっぱ自分でやってたんだぁ、へぇ~え? そんな『どえろす』なミカンには、もっとえっちなお仕置きが必要なんじゃないかなぁ!?」
「えっ? あれっ!?」
 攻守交代。
 あたしはミカンの背中に腕を回して今度はミカンをベッドに沈めた。
 ミカンのショートパンツのベルトとボタンを外し、ジッパーを下げ、全部放り投げる。
「ミカン。ジャポネ(日本)のこんな歌知ってる? 男はオオカミなので気をつけましょうってね。さっき、カップラーメンのお湯を沸かす前におやつにしようって言ってあたしを食べようとしたじゃない。でもね、実際に食べられるの…… ミカンだから。綺麗にきれいに皮を剥いて、甘酸っぱいその身を食べてあげるから。」
「ふぇぇぇぇっ!?」

 そしてあたしは、ミカンを『喰らい尽くした』。
 綺麗な部分もいやらしい部分も、みんな、あたしの体中を使って味わい尽くした。
 切ったばかりの短い爪でミカンの体を引っかき、まだ女の子らしさが残る指の腹で神経に近い部分を撫で、味覚を感じ取るはずの舌で撫でまわしながら味わい、汗と湿り気を帯びた皮膚で相手のぬくもりを感じ、そしてあたしが男であるという真実をミカンの延髄に届くほど突き刺した。
 そのたびにミカンは声を上げた。もともと男の子だったとは思えない、女の子よりも甘く切なく狂おしい声を。普段からぶっきらぼうで意地っ張りな男の子キャラだったミカンを、もっともっと『女の子』で染め上げたい。ミカンが心から女の子になっちゃったらどんなことになるのだろう。そんな意地悪な興味に後押しされ、あたしはミカンの体に快楽と言う快
楽を刻みつけた。
「ひゃううう! もうらめ、やめひぇ! おりぇ、ふぇんりなりゅぅぅぅ!」
「変に! なっちゃえ! そのほうが! いいから!」
「ふぁぁああああああああああああっ!」
 そしてミカンは、人の言葉を忘れてしまうほどに、女の子としての悦びに溺れた。

 はっきり言おう
 ミカンは、とてもおいしかった。



 その後、あたしはミカンの家のキッチンを借りて勝手にカップラーメンを作っていた。
 何度かお互いの家に行ったり来たりして、その度に何かを食べたり食べさせてもらったりしていた。あたしだってインスタント食だったら簡単に作れる。
 そんなあたしの服装は、裸エプロン。うん、男がやって画(え)になるものじゃない。骨格はまだ女の子だから、後ろから見れば何とかなるか。
 それをやってほしかった相手、ミカンは、いまだけいれんしながら夢の中だ。
「やれやれ。未来のお嫁さんは手間がかかるなぁ」
 目を覚ましたら、ラーメンを食べてもらう前にもう1回くらい味わわせてもらおう。
 何をとは言わない。

性転換小説第65番 ジーナ! 合体版 ※レビュー追加

COOLさんからレビュー頂きました!

『このレビューが載っているサイトの管理人である、あむぁいさんが自ら執筆された作品です。自分の学力を鼻にかけた主人公は、ある日クラスメイト達が「猫耳巨乳の美少女に脱皮」するところを目撃してしまいます。彼女達はクラス2位の学力を持った自分に次々と詰め寄り、セックスを求められる主人公。しかしクラス1位のクラスメイトが自分の前に現れた時、主人公自身にも変化が現れ始めて‥
短編ですがあむぁいさんの支配被支配の世界観をたっぷりと味わえる作品です。自分より成績の悪い人間を見下す不快な性格でありながら、コミカルな印象を残す主人公、そしてクラス1位のクラスメイトが猫耳美少女達に、自分の体だった皮を引き千切られ同じ姿に変えられるシーンは、南の島の管理人さんの可愛らしいイラストと合間って、非常に鮮烈な印象を残します。
ちなみにこのレビューを書くに当たって、製作所の過去ログを見直したのですが、この作品はなんと2005年の作品でした。初代PSPが発売された年です。‥歳をとるわけですね。』


受験まであと3ヶ月。
ぼくは追い込みに燃えていた。
自慢じゃないがぼくは学年でもトップクラスの成績だ。
成績の良さは頭の良さと勉強の量の積で決まる。
正直なところ頭の良さ自体で言えばぼくよりも良い奴はもっとたくさんいる。
だが、それはぼくのせいじゃない。
ぼくの両親のせいだ。
ぼくの偉いところはそこを埋めるべくちゃんと努力するところだ。
だから、音楽の時間なんかは当然さぼるのだ。
そんで保健室で勉強するのだ。
保健室へ行くまでの廊下でもこうやって歩きながら参考書を読んでいるのだ。
なに、危ない事はない。
こんなの慣れればどうって事……うおっ!?
何か柔らかいものに蹴躓いて、ぼくは思いっきり転ぶ。
「うわぁぁぁ」
まずいっ。ぼくはすばやく怪我を確認する。
よし、大丈夫。
ぼくは少し安心する。
この大事な時に怪我をしては一流大学に入って一流会社に入るというぼくのパーフェクションな計画が台無しだ。柔らかいものがクッションになったのが良かったんだな……
……
……
ぼくは手の先にある柔らかいものから目が離せない。
指を動かすと指の隙間から肉がはみ出てその弾力がとても気持ちいい。
「あんっ」

全文を表示 »

【投稿小説】(淫魔の)血を分けた姉妹 by.鎖連鎖

作:鎖連鎖
キャラクターイメージ:あるびの https://skima.jp/profile?id=14993

「急患です!通りの交差点で衝突事故!男性一名重傷‼」
 救急病院に、そんな声が響く。
(ああ……。道理で、体が、動かないわけだ…)
 そんなことを思いながら、“俺”の意識は暗闇に消え……

 ――あなた、生きたい?

(…え?)

 ――あなた、生きたい?

(…そりゃ、生きたい)

 ――そのためなら、何でも捨てられる?

(…何だよ、いきなり)

 ――そのためなら、何でも捨てられる?

(しつこいな……。ああ、…捨てられる)

 ――そう。なら、あなたを生かしてあげましょう。

 そして、今度こそ“俺”の意識は暗闇に消えた。

 そして、目覚めると、“俺”は少女の姿になっていた。

「……え?」

20170823075817485s_20171011092350e04.png

全文を表示 »

【投稿小説】第2型ライフ ④ ※挿絵追加

①はこちら ②はこちら ③はこちら ④はこちら サブエピソード ~プリモアモーレ・ディ・キノット 1~はこちら  サブエピソード ~プリモアモーレ・ディ・キノット 2~はこちら
 ⑤はこちら ⑥はこちら

作:旅わんこ https://twitter.com/Bul_let
イメージキャラデザイン:ささみ https://skima.jp/profile?id=16473

《エピソード4》
 目を覚ましたのは、どのくらい時間が経ってからだろう。
 ――あったかい。ふわふわしてる。
 ――腕や足の感覚がねぇ。体が溶けちまったみてぇだ……
 だが、次第に意識がはっきりしてきた。
 ここは風呂だ。そして俺はあおむけの状態で湯船につかっている。
 だが、見えるのは俺の家の風呂の天井じゃない。
 ここで第三新東京市を舞台にしたネタを言うだけの気力はなかった。
「ここは、どこ……?」
「あ。気が付いた、ミカン?」
 ふと顔を動かすと、さかさまになったキノットの顔があった。エメラルドグリーンの両眼が俺の視線と交わる。銅色の髪は純白のタオルに巻かれている。
「キノット……?」
「ここはあたしの家のお風呂だよ。湯加減どう? ぬるめとあったかめの間に調整しといたから、心地いいんじゃないかな」
「あぁ、とても心地いい…… ………… ………… ………… ……え?」
 今、なんて言った?
「ここお前の家ぇ!?」
「そだよ。保険の先生にも手伝ってもらったけど、スカートびちょぬれのミカン背負って帰るの大変だったんだから、いろんな意味で」
「ちと言葉選んでくれる!? って言うかそれ色々まずガボガボガボガボ……!」
 浴槽から出ようともがいた途端、俺は湯に沈んだ。
 当たり前だ。手足の感覚もまともに機能していないのにいきなり体を動かそうとしたのだから。
 落ち着きを取り戻した途端に落ち着かなくなるという矛盾が発生。
 浴槽の中、俺はキノットの隣でまた膝を抱えて縮こまっていた。
「俺とキノットが一緒のお風呂に入ってるなんて。水着を着ているならまだしも……」
「お風呂で水着を着ている方がおかしいってフツー」
「デスヨネー」
 いやでもそうじゃない。色々そうじゃない。
「でもさっき『発散』したから、あたしが裸で横にいても息苦しくなるほどドキドキしないでしょ?」
 思い出した。
 女子更衣室でパニックに陥っていた俺を、キノットが解放してくれたのだ。まともに覚えてはいないが、大声を上げ、涙を流し、全身を痙攣させながら気をやっていた気がする。思い出しただけでまたエッチな気分になりそ…… なった。
「まあでも」
 そう言ってキノットは「う~ん!」と伸びをして答える。おいおい、胸隠せ。
 どうやら俺もバスタオルは巻かせてもらえていないようだけど(髪をまとめるためのタオルは巻かれている)。
「驚いたよねー。ユズキとスグちゃんがあんなだったなんて。特別に仲がよさそうな雰囲気なんてこれっぽっちも見えなかったのに」
「あぁ、ホントに。まぁ人の恋愛事情に首突っ込むつもりはねぇけど、ひょっとしたら衝動的な何かかも知んねぇぞ。柚木が八重山を手伝っている最中にどっちかが告白か~ら~の~? ってこともあるかもだし」
「成る程ね。だとしたらどっちがどっちを好きなんだろ?」
「俺の知ったこっちゃねぇな。けど、俺もいつか誰かを好きになることあるのかな。だとしたら男だけは遠慮するな、ホモになりたくねぇし」
「………… ……――のに」
「え?」
「何でもない」
 そう言って、キノットはザバッと水音を立てて湯船を出た。
「あぁそうそう。ミカンの分の新しい下着とパジャマ用意しといたから、今日は泊まっていくといいよ。ごはんもあるからさ」
 そう言って今度こそ、キノットは浴室を出て行った。
 あとには俺ひとり、湯船の中に残されてしまった。
 俺はありがたくキノットのおもてなしを受け、買ったばかりらしい下着とキノットのパジャマを借りて夕食をごちそうになった。家への連絡は、メールで済ませることにした。
「悪いな、洗濯までしてもらっちまって」
「いいのいいの。ベッドまでは用意できないからソファーで寝てね?」
 キノットの家は、かなり豪華な一軒家だった。
 さすがに風呂まで入ったのは今日が初めてだが、何度か遊びに来たことがある。ローカル鉄道に沿って走る大通りに面しており、芝生の庭とシンメトリーの煉瓦壁調の邸宅と言ってもいい建物が構えている。庭ではガーデニングをやっているらしく、広さのある畑とひな壇の花壇には様々な植物が育っている。
 キノットの部屋は2階にあり、バルコニー(屋根のないベランダ)に出ることもできる。よく晴れた夏の日は、キノットはそこにハンモックを運び出して夜風に揺られながら寝ることもあるらしい。
「泊めてもらうんだ、贅沢は言わねぇよ」
「あははは。そうだ、明日の準備できた?」
「明日の教科書以外はな。アラームも30分早くセットしたし、いつでも寝れる」
「じゃあさ、ベッドにおいでよ。寝るまで女子トークしない?」
「女子トークって何だよ」
「そうだね、ファッションとかトレンドとか、あとは好きな人を語り合ったりして夜の時間を無駄に過ごすの」
「無駄にって言った!?」
「その無駄な時間が大事なのさ。情報交換ついでに女の子同士の親睦を深めるって言うね」
「親睦を深めるって言っても、俺たちいつも一緒にいるし、今更……」
「まぁまぁ、こっちおいでって」
 通学カバンにしているメッセンジャーバッグをソファーのひじ掛けの下に立てかけると、俺は頭を掻きながらキノットのベッドの端に腰かける。ベッドの上には、キノットが『女の子座り』でちょこんと座っている。おい、その座り方は骨盤によろしくないってテレビで言ってなかったか?
「いきなりだけど、ミカンには好きな人っていないの?」
「い、いや、今までずっと水泳ばっかりだったし。それと男を好きになるのだけはねぇな」
「そっか、今はフリーなんだ」
「まあ、その、そうなる? ……じゃあキノットには好きな奴いるのかよ」
「いるよ」
 キノットはためらうことなく言い放った。
 今、胸の真ん中にとげが刺さったような気がしたのは気のせいだろうか。
 少し気分が悪くなったが、寝て起きれば大丈夫だろう。構わずキノットに尋ねた。
「ふ、ふ~ん……? それって同い年?」
「うん。部活も一緒だよ」
「水泳部の男子か、誰だろ。本栖? 河内? じゃなきゃ……」
「じゃあヒント。その人は男子ではありません」
「爆弾発言!? じゃあ女子かよ、お前ってレズだったのかよ!? となると須田? 小松? まさかあの八重山とか言わないよな……?」
「じゃあラストヒント。その人は1年の時から好きな人で、記憶が確かならあたしの初恋の人。その人は友人のキスシーンを目撃しただけで発作を起こすほど初心(うぶ)な性格。去年の水泳大会では女子代表に選ばれるも今年はタイムが伸び悩み、その原因は誰にもその成長を止められない、グラビアアイドルも真っ青のわがままボディー。ちなみにあたしはレズではありません。好きになった人がたまたま女の子なだけです。しかもその女の子は、少し前まで男の子でした。さて誰でしょう?」
「はぁ!?」
 ラストヒントにしては情報量多すぎ!
 だがそれを叫ぶほど、今の俺はノリがよくない。
 去年は代表入りしても今年は選ばれなかった、元男子の現女子。
 友人のキスシーンを目の当たりにして発作を起こしたやつ。
 その条件を満たす水泳部の女子生徒って言ったら。
 まさかとは思うけど、それ以外の人物いるわけがない。
「…………… ……俺?」
 自分の顔を指で差し、キノットに尋ねた。
 当のキノットは。
「やっと分かってくれたか、この鈍感」
「何が鈍感!?」
「鈍感だよ。ずーっとシグナル送ってたのに気づかないのはどこの誰かな?」
「……ごめん、気付かなかった。何がシグナルなのか」
「だから鈍感なのさ」
 そう言って、キノットは右手で俺の左頬を撫で、そのまま俺の髪を梳いて。
「あたし、元々全然泳げなかったんだ。だから中×生の時はプールが大嫌いで、海に行っても釣りしかすることなくて。焼きそばとラーメン食べ過ぎて太ったこともあったなぁ」
「……マジ?」
「マジ。でも中学1年の初詣の時。ミカンに出会って、ミカンと何とか友達になりたくて2年生の夏に水泳部に入って、ビーチ板を使って25メートをクリアすることから始めて、気が付けば今年の大会のレギュラー。あたし自信びっくりしてる」
「そうだったのか。全然分からなかった。俺、自分のことばっかりでさ」
「そんなことないよ。あたしが泳げないでいると自分の練習を中断しても教えてくれたのはミカンだけだったから。ミカンが教えてくれたから、今のあたしがいるんだよ」
 すると、髪を梳いていたキノットの手が後頭部に回される。
「ずっと友達になりたいと思ってた。でも今は違う。あたしは、ミカンが」

納品 挿絵 旅わんこ
挿絵:ささみ https://skima.jp/profile?id=16473

 俺の頭に回されたキノットの手、その指先に力が入ったのを感じると。
「はむ……」
「あふぁふぃわ、むぃはんわふひ(あたしは、ミカンが好き)……」
 唇に、やわらかくて甘い感触を感じた。
 俺にとって、初めてのキス。
 男としても女としても、初めてのキスだった。
 キノットはどうなのだろう。ひょっとしたら、キノットも。
「ふぃもっぽ(キノット)……?」
 唇が離れる。
 互いの唇の間に、銀色の絹糸が輝く。
 キノットは言った。
「ミカン。きみだけは絶対に手放したくないから。たとえ水泳の代表に選ばれなくても、超絶エッチな女の子になっても、あたしはどんなことがあってもミカンのことをずっと好きでいるから。これだけは、絶対だよ」
 そしてまた、唇を重ねてくる。
 それはまさに、夕方、互いを求め合っていた八重山や柚木のように。
 それを思い出した途端、また俺の胸の奥が震えた。
 あの時と同じ発作だ。
 だがあの時ほど息苦しくなかったし、身動きが取れないほどパニックになるようなことはなかった。むしろ、ゆっくりとではあるが手足が動き、そして興奮する反面それ以上に癒される。心地よくて、チョコレートのように甘い。
「キノット。俺、もうダメかもしれない……!」
「ダメになっていいよ。いっぱいダメになって、あたしだけのミカンになって。凛々しくてカッコいいだけのミカンじゃない、あたしだけにしか見せないダダ甘のミカンになっていいんだよ。ううん、なっちゃって、あたしのために」
 溶ける。とろける。甘くなる。
 深く、白く、あたたかく。
 現実なのか、夢なのか。
 癒されながら、興奮している。
 もうどうだっていい。
 TS病のせいでとてつもなくいやらしくなってしまった自分を、
 キノットのために、
 いっそ受け入れてしまおう。
「キノット……」
「ん? なぁに?」
「俺は……」
 言おう。
 いっそ言っちゃおう。
「お前が、好きだ」

【投稿小説】第2型ライフ ⑦

①はこちら ②はこちら ③はこちら ④はこちら サブエピソード ~プリモアモーレ・ディ・キノット 1~はこちら  サブエピソード ~プリモアモーレ・ディ・キノット 2~はこちら
 ⑤はこちら ⑥はこちら

作:旅わんこ https://twitter.com/Bul_let
イメージキャラデザイン:ささみ https://skima.jp/profile?id=16473

《エピソード7》

 ウイルス性性別転換症。通称TS病。
 現在は第2型がメジャーであるため、原初の病原体やそれによる症状は「第1型」とつけて呼ぶ場合が多い。
 1型TS病、発祥の地アメリカでは『プリミティブ型』とも呼ばれるそれは、男女どちらにも同じ割合、同じ確率出かかる病気だ。風邪と同様に初期段階で治療すれば反転しかけた性別も元に戻ることもあるし、性徴が現れない事もある。
 2型TS病、これは外来の病原体と反応して突然変異した病原体によるものと言われている。男性が発症することが多く、一度発症したらその進行は止められず、ほぼ完全に性別は反転する。「ほぼ」と言うのは、あまり年を取ってから発症するとかなり中途半端な性転換で終わってしまうらしい。
 そもそもどうしてこの病原体は人間(広く言えば多くの脊椎動物)の性別を反転させるのだろう? そのメカニズムはまだ解明されていないが、ある学者が建てた仮説によると「あまねく生命体の性別バランスを保ち種の保存の一助となるために存在するのでは」とのこと。本当のところはどうなのか。
 ところで近年、新たな突然変異体が出現した。まるで毎年のように新型が現れるインフルエンザウイルスのように。
 それが、第3型のTS病だ。

 第3型TS病。
 これは第2型と逆で女性に多く見られる(いや現在のところ男性が患った例のない)症状だ。その症状は男性に比べて発症率の低い女性が第2型を患って性転換する場合と全く同じで、ただ発症率の割合と病原菌の違いしか存在しない(研究者たちによる今の考え)ようだ。
 第2型の登場で、世界中の先進国では女性の割合が多くなってきている。学者が唱える「あまねく生命体の生物バランスを保つ」のがTS病の役目だと言うのなら、第2型の誕生で偏った男女比を元に戻そうとしているのだろうか?
 それは、成績が中の下のおバカな中学生ごときには分からない。
 分かることは、たったひとつ。
 せっかく俺に好意を告白してくれたキノットが、
 せっかく恋人同士になれたキノットが、
 それを患ってしまったのだ。

 旅館、名桜(めいおう)。
 ロビー。
 俺はただ、自失呆然としていた。
「キノットが、TS病……? 第3型って……?」
「うん。だから半年のうちにあたし、男の子になっちゃう」
 追い打ちのように改めて言われた。
 俺にはもう、キノットにどんな言葉をかければいいか、いや自分をどう納得させるかも分からないでいた。
 キノットは続ける。
「もう1週間くらい前かな、少し体中の節々が痛くなって病院に言って相談したら分かったんだ。でも代表に選ばれたからには、どうしても出場したい。先生に相談して、痛み止めをもらってたんだ。
 それとこの病気のことも、大会が終わったらミカンに真っ先に言うつもりだった。ホントだったら詩の月町に帰ってこっそり言うつもりだったけど」
「そ、そっか。俺だけに。そりゃありがとう…… でも、いつかはバレるぞ? 少なくとも中学卒業までには性転換も終わってるんだろ?」
「そうだね。だからお医者さんやお母さんたちとも一緒に考えたんだ。
 中学生のうちは女子で通す。その代わり高校には男子として入学すると言って受験するつもり。体育は本格的に体つきが替わったら休むことにする。水泳部も10月の県大会で終わりだし、そこまでは水泳も続けたいかな」
「………… ……そっ、か」
 俺は小さくつぶやき、キノットも静かにうなずいた。
 俺はぬるくなり始めた甘酒をぐいと飲み干し、ゴミ箱にむかってポイと放り投げる。きれいな放物線を描き、ゴミ箱に吸い込まれた甘酒のガラス瓶は「ガチャン」と音を立てた。
「ねぇ、ミカン」
「ん?」
 キノットもコーヒーをひと口飲んで、小さく言った。
「あたしが男の子になっても、好きでいてくれる?」
「……そんな当たり前なこと聞くなよ」
 俺はそう答えて、キノットの背中に腕を回す。
 そして。

「はむ……」

 俺は、キノットの唇に少し残るコーヒーの味を感じた。
 ブラックコーヒーとか、かなり久しぶりだ。
「みふぁん……?」
 唇を放す。
 あとには銀色の光がひと筋。
 俺は言った。
「それでも俺は、お前が男でも女でもキノットのことが好きなんだ。あ、でもそしたらホモになっちまうかな、俺。キノットこそ、そんな俺でも好きでいてくれるのか?」
「……えへへへ。そんな当たり前なこと、聞かないでほしいなぁ」

 その日の夜は、ずっとロビーにいた。
 ずっと眠れないでいるキノットはソファーに腰かけ、甘酒を飲んでいい気分になった俺はそんなキノットの太ももに頭を預けて膝枕を堪能していた。
 翌朝、それを見て騒然となった水泳部員に尋問の嵐を受けたのは言うまでもない。

 やがて。
 夏休みが終わり、新学期になって校長先生に水泳部の功績をたたえられ、様々な部活では2学期中盤の試合やイベントなどを期に3年生が続々と引退し、高校受験のための勉強に励む。
 俺はキノットとふたりで一緒に受験勉強に取り組んだ。たまに樋本と江戸川も顔を出すが、ふたりはふたりで別の場所で一緒に勉強しているらしい。柚木は八重山部長…… 前部長といっしょの高校を目指しているようで、こちらもこちらで一緒に勉強している。
 キノットが俺の家で勉強をしているとたまに柚木がひとりで来ることがある。その時はよき友人としておもてなしし、たまに勉強のはかどり具合を交換し合って、互いに分からないところを教え合う。
 アセロラジュースを3人で飲んでいると、キノットが柚木に尋ねた。
「それでさユズキ。スグ(=八重山の名前)とはうまくいってるの?」
「ん? ああ、そこそこね。たまに家に押しかけてくることもあるから、マンガ雑誌とかマメに捨てないとちょっと白い目で見られるのがちょっと大変かな。八重山、ああ見えてヤキモチ焼きで束縛強いところがあるから。まぁ、日ごろからポカーンとしているオレにはそんなに苦にならないのかもな」
「うまくいってるんだ。そりゃよかったよ。確かにユズキってどこかポカーンとしてるもんね。何て言うか、ミステリアス?」
「八重山もそんなこと言ってた。オレのどこが好きなの? って聞いたら、キノットが言ったようにミステリアスなところに魅かれたんだと。こっちは普通にしてるつもりなんだけどなぁ」
 まあ、何にしてもうまく言っているのはいいことだ。
 柚木も言う。
「そう言うお前たちこそどうなんだよ」
「あたしたちもいい感じだよ。ねー、ミカン?」
 キノットは臆面なく答えるが、俺は頭を掻いて詰まった答えを何とか引っ張り出そうともがく。
「恋愛事情ってもうちょっとつつましやかであるべきなんじゃないかなぁ……」
 そんなこんなで、受験勉強は進んだり進まなかったり。

 そんなこんなで俺たちは、部活動引退後の日々を過ごす。
 時に水泳部にお邪魔して後輩たちの指導および新部長である小松伊代を励ましに。
 時に受験勉強の息抜きに遊園地に遊びに出かけに。
 時に、恋人同士でしかできないイチャイチャした時間を満喫しに。
 他人から見ればあまり面白くない、それでもそれぞれに充実したとも言える時間を……
 ……ちょっとだけすっ飛ばすか。

 そして翌年。
 まあそんなこんなで、俺たちはめでたく高校生になった。
 ……ちょっとだけじゃないな。半年はすっ飛ばしたか。
 俺とキノット、柚木、そして八重山は同じ詩の月高等学校に、江戸川と樋本は別の高校に、それぞれ進学した。
 そして。
「……ねぇ、ミカン。変じゃないかな?」
 俺にそう言うのは、前は長かった銅色の髪を短く切りそろえたひとりの男子生徒。
 色白で女顔。ついこの前まで中学生だったのだからと言われそうだが、本当に中学生が無理して高校の制服を着ているようにしか見えない。ましてや、半年前まで女の子だったのだから。
「それを言うなら俺だって。どうかな、キノット?」
 すっかり男子への性転換を終えてしまった、キノットだった。
「うん、似合ってる。上を着崩してスカートも詰めたら、もっとミカンらしくていいんじゃないかな」
「入学式からそりゃ無理だな。男子制服のキノットも何だか新鮮だ。卒業式は女子の制服着てたのに」
「あははは!」
 詩の月中学校の卒業式では、キノットは女子の制服を着て臨んだ。
 中学校卒業と同時に女子としての自分も卒業し、高校生となって新しい未来をスタートした今、男子としてのスタートも切るのだと言ったのだ。
 そこに。
「おーい、入学式遅れるぞー!」
 そう遠くから声をかけてきたのは、柚木だった。隣には八重山もいる。
 おーおー入学早々お熱いねぇとからかってやりたかったけど、俺は人のことなど言えそうにない。
「おう、今行く!」
 そう短く返して、俺はキノットの手を取った。
 俺の方が握ったのに、キノットの手は少し俺の手よりも力強さを感じる。
「なぁ、キノット」
「ん?」
「俺ら、互いに性別が逆転しちまった同士だよな」
「言われてみれば、そうだったね」
「何て言えばいいか分からないけど、これからもよろしくな」
「どこからどうそこにつながったか分からないけど、ぼくこそよろしく」
 そして互いに笑って。

「あ~あ、何だか甘酸っぱいなぁ」
「何が?」
 一緒に、歩き出す。



《世界設定》
神奈川県桜原市
 よく作者の作品の舞台となる街。
 モデルは作者の地元。あまり有名じゃないけど意外とラーメン大国。
 よろしければ一度お立ち寄りください。
 作者の他の作品は、そのついでにお読みください。



《THE END》



……『?』

【投稿小説】第2型ライフ ⑥

①はこちら ②はこちら ③はこちら ④はこちら サブエピソード ~プリモアモーレ・ディ・キノット 1~はこちら  サブエピソード ~プリモアモーレ・ディ・キノット 2~はこちら
 ⑤はこちら ⑥はこちら

作:旅わんこ https://twitter.com/Bul_let
イメージキャラデザイン:ささみ https://skima.jp/profile?id=16473

《エピソード6》

 そして大会当日。
 8月第2土曜日。
 神奈川県北部、桜原市に位置するスポーツ施設。
 全日本中学生水泳競技大会会場、桜原ヴィゴラススポーツセンター。
 水泳用のプールのほか、大小の体育館、道場、アスレチック施設などが充実しており、屋上ではフットサルやテニスなどができる人工芝具もある。そのうちプールは地下に位置し、ひな壇の客席の最後列をぐるっと囲むガラス窓から自然光を取り入れることができる(天井の上は体育館になっていて、直射日光は届かない)。
 八重山部長をはじめとする俺たち選ばれなかった組は、柚木やキノット達を全力で応援した。
 個人競技やリレーなど、選手6人は大活躍してくれた。
 300メートルリレーでは女子の須田と小松のタッチ&ゴーのタイミングのずれが多少タイムに影響したようだが、個人では誰もが全力を発揮できたと思う。もちろん優勝候補とされた手ごわい選手には悔しさを味わわされたが、個人では男子の河内夏文が準優勝及びキノットが三位入賞、300メートルリレーでは三位の中学校と僅差と言う健闘を果たした。
 柚木やキノットたちはもちろん入賞できなかったことを悔やんでいた。小松は泣き出してしまったが、俺たちは責めることなくよくやったと肩を叩いて彼女を励まし続けた。
 もちろん、団体でも個人でも優勝を手にしたかった。それは誰でも、どの中学校のどの選手でも同じ。数ある選手の中かから個人入賞を手にしただけでも快挙だ。八重山部長はそう言って部員一同をねぎらった。

 旅館、名桜(めいおう)。
 その名の通り、旅館のいたるところに桜の木が植えられており、大きな庭園にはこれまた大きな桜の木が鎮座している。まるで龍が空に上るかのようにうねりにうねった幹が美しい。
 その庭園を一望できる2階の広間で、俺たち水泳部の部員たちは夕食を取っていた。明日に試合を控えた柚木と須田に合わせて、旅館にはタンパク質と野菜を中心にした食事を用意してもらった。俺たちのような試合に出ない組、キノット達のように今日で試合が終わってしまった組も同様だ。
 川夏先生が音頭を取る。
「みなさーん、今日は大変お疲れ様でしたぁ! 優勝こそ逃しましたが、詩の月中学校からふたりの入賞者が出たことは大変誇らしいことです。河内くんとサンペレグリノさんの栄光を称えるとともに、選手皆さんのがんばりとその他の部員の応援の頑張りを称えたいと思います!」
 川夏先生はビールが入ったグラスを手にし、僕ら部員たちは続く。
「それでは、乾杯!」
 川夏先生の言葉に、部員たちも続いて乾杯と叫ぶ。
 そこからは大盛り上がりだった。
 疲れのあまり食が進まない部員もいれば、カラオケマシンの電源を入れて音痴な歌を歌う部員もいたり、他にはお膳を女子の列に持って行っていちゃつく男女もいたりした。八重山部長はその立場からあからさまに柚木に絡む様子はないが、事情を知っている俺は八重山部長の視線がよく柚木に向いているのにいやでも気づく。
「ん……?」
 ふと見れば、キノットが僕の方を見ている(俺は女子の列に座っており、キノットは俺の隣の席だった)。
 どうやらキノットも八重山部長のことに気付いているようだ。
 ――たぶんあとで抜け駆けするよねー?
 ――ああ、するだろうな。
 アイコンタクトでうなずき合う。
 すると、ほかの女子部員がキノットを取り囲んだ。
「キノちゃーん! 入賞おめでとー!」
「ホントホント! 詩の月中のヒーローだよぉ!」
「キノちゃんは女の子なんだからヒロインでしょー?」
「やめてって、やめて、首折れる、あたたた!」
 北斗〇拳継承者か。一子相伝か。
 するとキノットを取り囲んだ女子たちのうち俺に近いところにいた女子、江戸川はるみが背後から俺に抱き着いてきた。
「ユガっちぃ~。キノちゃんの師匠としてどうなのよ。誇らしいんじゃないの、この胸が?」
 江戸川はそう言いながら、中学生にしては発達して泳ぐのに邪魔になった胸を揉んできた。
「ひゃっ!? やめろよ江戸川! 飯食ってんだぞ、男子の前だぞ!」
「じゃあ男子の前じゃなければいいんだ、このエッチ~!」
「お前にだけは言われたくねぇよこのおっぱい星人が!」
 おかげで煮込みシイタケが胸の谷間に落ちてにゅるにゅるしている。男子が見て赤くなって、茶碗を持った左手で股間を押さえてる。やめろやめろ。
 するとキノットは言った。
「うん、本当にミカンには感謝してるよ。ろくに泳げないまま入部したあたしに丁寧に泳ぎ方を教えてくれて、たった1年ちょっとで大会に出られるまでになったんだもん。今日の3位は、ミカンと一緒に勝ち取った賞だと思うよ」
「お~お~、青春だねぇ! もうあんたら付き合っちゃいなよ!」
「付き合ってるよ?」
 キノットの爆弾発言。
 これには「付き合っちゃいなよ」とはやし立てた部員、樋本伊代もその表情が凍りつく。
 いや、周辺にいた女子部員全員が凍りつき、男子部員たちも箸でつまんでいた料理をぽろっと落とす。
「………… ……マジ?」
「マジ」
「……うおぉ! うおぉマジか! 手ぇ出しちゃったか、いやこの場合は出されちゃったのか! あぁもう本当にごちそうさまだよあんたたちは!
 その後はもう、ただただ騒々しかった。
 いつの間にか河内とキノットの入賞祝い兼慰労会から俺とキノットのカップル成立祝いへとなり果て、キノットを狙っていた男子は滝のように涙を流しながら俺の首やら浴衣やらをひっつかんで揺さぶり続けた。
「うおおおおお! オレが狙ってたサンペレグリノをよくも横取りしやがってぇぇぇ!」
「許さないからな! 彼女を幸せにしないと絶っ対ぇーに許さないからな!」
「分かったから、分かったって、むち打ちになる! あとセクハラ!」
「何がセクハラだ、元男のくせに!」
 俺は俺で男子に恨み交じりの激励をもらい、隣を見ればキノットもキノットでたくさんの女子たちに囲まれ、抱きつかれていた。
 結局せっかくの料理は冷めてしまい、食べ終わったのは1時間後。しかもお膳が何度も蹴飛ばされたために食べたい料理がこぼれてしまって食べられなかった。あいつらにはあとで何かおごらせよう。

 その日の夜。
 就寝時間をとうに過ぎた、午前0時過ぎ。
 俺はふと目が覚めてしまった。
 むくりと起き上がって周りを見て見れば、同室の女子たちが小さな寝息を立てている。だが、そこにキノットの姿がない。
「キノット…… トイレかな?」
 女子に割り当てられた客室を出てスリッパをはき、非常口の誘導ランプだけの薄明かりを頼りにトイレへと向かう。結局用を済ませてトイレから出てくる間に、キノットとはすれ違わなかった。
 ――じゃあどこだ? ロビーかな。ついでに自販機にも寄って行こう。
 思った通り、階段を下りてロビーに行くと、そこにキノットはいた。
 ソファーに深く腰掛けて、手にはホットコーヒーの缶を両手で握っている。
 ロビーは薄暗く、照らしているのはわずかなオレンジ色の光とやはり非常口への誘導ランプ、そして自動販売機のショーウィンドーから洩れる光だけ。それなのにと言うべきかだからと言うべきなのか、キノットの銅色の髪が、いつもより際立って輝いている。
「キノット?」
 俺の言葉に、キノットはこちらを向いた。
「ミカン? 眠れないの?」
「いや、ちょっくらトイレに。そう言うキノットは?」
「うん。今日の大会で3位入賞したこともそうだけど、ミカンと付き合ってるって告白して水泳部のみんなにもみくしゃにされたのがどうも落ち着かなくて。もう興奮しっぱなしだよ」
「そっかぁ。そりゃ悩ましい嬉しさだな。そんでコーヒー飲んでたらまた眠れなくなるぞ?」
「いいよ、もうあきらめた。眠くなるまで起きといちゃう。大会までたくさん頑張ったんだから、今くらいは色々あきらめちゃっていいよね?」
「いいと思うぞ、俺は」
 そう言って、俺は持っていた小銭入れからコインを取ってホットの甘酒を買う。
 キノットの隣に座ってそれを開封すると、ガラスの容器からは甘い香りが立ち込め、俺とキノットはそろって飲み口に鼻を近づける。すると必然とふたりの頬が当たってしまうため、俺たちは慌てて顔を離した。
「あははは…… こうしてると恋人っぽいね」
「だな。もう恋人同士だけど。性別は同じなのに」
「あ、そうだ…… それなんだけどね、ミカン」
 俺が甘酒に口をつけると、キノットは少し思いつめたような表情と声になって、言った。
「中学生だからドーピング検査はないしそんなヤバい薬はもちろん使ってないけどね、あたし、痛み止めを飲んで今日の試合に出たんだ」
「痛み止め? どこか悪いのかよ」
「悪いって言うか、ちょっとね。でも、ミカンにとってかなりショックな話だからちゃんと聞いてね?」
「ショックなって、おい……!?」
 待てよキノット。
 痛み止めを飲んで試合に臨むほど、それも俺にとってかなりショックな話って。
 一体お前、どんな病気にかかってんだよ。それとも大ケガでもしていたとか?
 せっかくの甘い甘酒の味、甘い香り。
 もう一度寝るために心落ち着かせるために甘酒を飲んだはずなのに、全然落ち着かない。
 俺は前身の血液が凍るような感覚を覚えた。
 呼吸ができなくなっていくような気がした。
 そして。
「あたしね……?」
 キノットは告白した。



「TS病なんだって。それも第3型の」

【投稿小説】第2型ライフ ⑤

①はこちら ②はこちら ③はこちら ④はこちら サブエピソード ~プリモアモーレ・ディ・キノット 1~はこちら  サブエピソード ~プリモアモーレ・ディ・キノット 2~はこちら
 ⑤はこちら ⑥はこちら

作:旅わんこ https://twitter.com/Bul_let
イメージキャラデザイン:ささみ https://skima.jp/profile?id=16473

《エピソード5》

 翌日。
 歌の月中学校3年C組。
 キノットとは違うクラスだが、柚木とは同じクラスだ。
 通学カバンを机に放り投げるなり、中身を机に詰めず俺は柚木の机に向かった。柚木は席に座ってスマホをいじっている。
「よう、柚木」
 俺が声をかけると、柚木はスマホの電源を切って俺を見上げた。
「ああ。おはよう、ミカン」
「おはよう。早速だけど柚木。昨日は八重山とお楽しみだったな」
 俺がそう言うと、柚木は戦慄してスマホを机に落とした。奴のスマホは机の上でバウンドし、そのまま床に落ちた。仕方がないから拾ってやった。
「お、おま……! おい蜜柑! お前どこまで知ってんだ!?」
 できるだけ声を押し殺したようだけれど、近くにいるクラスメイトたちの視線を多少集めてしまったようだ。まあホームルームが始まる前の友人同士の雑談ととらえたようで、クラスメイト達はすぐにまた元の様子に戻る。
「体育館の柱の陰でイチャイチャしてるのを見て、あとは見ていられなくってそこから逃げた。おかげで俺の方がキノットの前で大恥かいたんだからな」
「そこで何でキノットが出てくるんだよ! まさか一緒に見たのかよ!? ……まぁ何でもいいや。お前らにあのシーンを見られてたなんて最悪だな。言っとくけどな、俺は悪くないぞ!」
「悪いか悪くないかを言うつもりはねぇよ。俺はただお前に八つ当たりしたいだけだ」
「いい迷惑だ!」
「そりゃお互い様だ」
 ふぅとため息をつくと、たわわな胸がふるんと揺れる。
 柚木の視線に気づいた。その胸に一度視線が向くと、今度は右にそれて焦点が合わない感じになる。俺も男だったし覚えはある。元から女子だった女子はどう思うか分からないが、俺はものすごく恥ずかしい。そして前までは俺も同じだったのかと思うと情けなくなってくる。
 俺の席は柚木の席の左隣。俺は教科書などを机の中にしまうと、机を気持ち柚木の方に寄せた。
「おい柚木。いつから八重山のことが好きだったんだ?」
「は? そんなことねぇよ。昨日は八重山さんの方からオレに言ってきたんだ」
「ふーん? じゃあ逆に八重山の方がお前のこと好きだったと。あの水泳バカの堅物部長がなぁ」
「あ、水泳バカって点についてはお前も人のこと言えねぇから」
 そうか?
 そうでもないと思ってたんだけど。
「確かに柚木、背は高いしそこそこ几帳面だし細マッチョだし、女子からモテる要素あるよな。顔は地味だけど」
「うっせ!」
「じゃあさ、お前には好きな人いるのかよ。水泳部の部員だと、そうだな。樋本伊与(ひのもと いよ)とか江戸川(えどがわ)はるみとか?」
「どっちでもねぇよ。そう言うお前はどうなんだよ、蜜柑?」
「こっちが質問してんだ、お前が先に答えろ」
「マジかい…… オレが好きなやつ? 言わなきゃなんないの?」
「なんない」
「あーそうかい」
 柚木はそれまでもてあそんでいたスマホを制服のポケットにしまい、椅子を俺の席の側に傾け、そして神妙な面持ちで言った。
「そいつのことが好きなのかどうなのかは分からない。だけどずっと気になってるやつがいるんだ。ずっと友達でいるもんだと思ってたのに、やっぱりそいつも女なんだなーって思って」
「…………」
「好きかどうかは別として、蜜柑。オレはお前のことをもう男友達として見られそうもない」
 まさかの言葉だった。
 俺としても、柚木は男友達だと思っていた。
 柚木は俺のことをもうそうとは思っていないらしい。
 それなのに、俺は不思議と落ち着いていた。
 たぶんその原因は、昨日のこと。
 キノットの告白のおかげだ。
「そんなオレはホモなんだろうか。色々考えていたところを八重山さんの方から声をかけてきて、そんで蜜柑のことで悩んでいるって言ったら、八重山さんは言ったんだ。湯河原みたいな男女よりもわたしの方を見なさいよって。それで、だからオレ……」
「……ふーん。八重山がねぇ。で、お前はどうなんだよ。八重山とはこのまま付き合っちゃうのか?」
「八重山さんには悪いけど、八重山さんはオレの好みじゃない。どっちかって言うと、八重山さんみたいにぐいぐい人を引っ張っていくタイプよりも蜜柑のようにとなりを一緒に歩いてくれるような人が…… って、これじゃあホモ発言してるようなもんじゃん!」
「どこが。女性のタイプを言っただけだろ? 俺が好きだとか言ったらそれはそれで考えもんだけど」
「うぅぅ~~~」
 俺がそうフォローするも、柚木は頭を抱えてうなっている。
 クラスメイト達は相変わらず自分たちのグループで戯れているか、ぼっちなやつは分厚い本を読んだりスマホをいじったりそれぞれの世界にいる。俺たちがどんな会話をしていようと全くのお構いなし。それはそれで助かる。
 隣の席では自分の性癖について悩んでいるバカがいる。そんなに思いつめなくたっていいのに。お前がホモじゃないことくらい俺がよく分かっている。
 すると、柚木はやっとうめくのをやめて俺に言った。
「じゃあさ、蜜柑」
「ん?」
「付き合ってくれって言ったら、お前はどう答える?」
「は!?」
 いきなり過ぎる。
 だが柚木の目は真剣だった。
「今時TS病で性転換してしまった元同性同士のカップルだって珍しくないじゃん、生物学的には男と女なんだし。だからオレが今は女の子の蜜柑と付き合ったって何の問題もないわけじゃん?」
「まっ、まぁ、そういうケースもよくテレビで見るけど」
「だから、どうだろ? 蜜柑、ちょっくらオレと付き合ってみないか?」
「………… ……何だろ、すげぇアプローチの仕方」
 今度は俺が頭を抱えた。
 たぶん柚木にしてみれば、いろんな意味で『お試し』のつもりなんだろう。
 自分の恋愛観が正常であるかを確かめ、また男女の付き合いとはどういう者かを自分なりに模索するための。
 でも、俺は柚木の思いには応えられない。
「悪い、売約済みなんだな」
「……そうか。ごめんよ」
「相手、聞かねぇのかよ?」
「大体わかるさ。それに聞いたところで何になるよ」
「相変わらず妙にクールなやつ」
 そう言って、柚木は机に突っ伏した。そしてそのまま、クラスの担任の先生が出欠確認を取ってホームルームを終えて1時間目の数学を担当する『鬼の長谷川』こと長谷川甘平(はせがわ かんぺい)先生に竹刀で頭を叩かれるまで組んだ両腕の中に頭をうずめて寝こけていた。

 放課後。
 この日は午後から雨が降ったため、水泳部は休みだ。
 使われることのなかった水泳セットを肩に引っかけて、俺とキノットはハンバーガーショップ『ワイルドビリー』にいた。俺はてりやきバーガーとコーヒーを、キノットはフライドフィッシュバーガーとチョコスティックが添えられたアイスメロンソーダを頼んだ。
 適当な席に座り、俺はキノットに今朝の話をした。
「……ふーん、ユズキがねぇ」
「まぁ確かに、TS病で性転換した男が男と付き合ってそのまま結婚、またその逆の例も珍しくないらしいからな」
 そう言って俺は、シロップとミルクをコーヒーに溶かした。
 その様子を見ながら、キノットは言う。
「話は変わるけど、ミカンって甘党になったよねー」
「そうだな。前はブラックで飲んでたんだけど、最近と言うかここ1年の間にブラックが苦く感じ始めてさ」
「ふーん……」
 そこで言葉を切るキノット。
 しかもその目つきはジトーッとしていた。
 何だかものすごく居心地が悪い。
「何だよその目ぇ」
「いーや、なーんにも?」
「何にもなくねぇだろ。あ、分かった。味覚が意外とお子様ねって笑ってんだろ」
「うん、今別の理由で笑いたい」
 何だそりゃ。

「……さてミカン。今ひとつ確認しておきたいんだけど、いい?」
 キノットな急に神妙な表情になった。
「なっ、何だよ、改まって?」
「ミカンはTS病で体は女の子になったし、女子の制服や水着を着ることも女子更衣室で着替えることも抵抗はなくなってきたよね?」
「いっ、いや、んなこたねぇぞ? 特に女子更衣室がまだ苦手だぞ?」
「1年前に比べたらマシになったって意味。でも心はどうなの? メンタルの方は、まだミカンは男のままなの?」
「……そこ、どうなんだろうな」
 体は女の子だけど、心はどうなのだろう。
 改めて尋ねられると、確かに答えに迷う。
 だから俺は、男か女かよりも素直に感じていることを言葉にした。
「俺は去年の春まで男として生きてきたし、言葉遣いや態度も男や女に対する考え方もそんなに変わってないと思う。キノットに好きだって言われてすごくうれしかったし、俺もキノットが好きだ。そう考えると、俺はまだ男なのかな……?」
「照れること言ってくれるなぁもう。でも、そっか。人はいきなりは変われないもんね。それに変わってしまうものもあるし、変わらなくていいものもある。ミカンは今のミカンのままでいいと思うよ。いやでもこれから、少しずつ変わっていくと思うし」
 そう言ってキノットはストローに口をつけてメロンソーダを吸い上げた。水面と一緒に、乗っていたバニラのアイスクリームも沈む。
「ミカン。これからも好きでいてくれる? 友達じゃなくて、恋人として」
「ああ。俺もそうあってくれると嬉しいな」
「ありがと。じゃあ」
 そう言ってキノットはチョコスティックの端を口にくわえ、テーブルに両腕の肘を突き立てて前のめりになった。
 成る程。俺は心の中でひとつつぶやくと、水平になったチョコスティックのもう片方の端を口にした。ザクザクとチョコスティックを噛み砕く音が響くごとにチョコスティックはふたつの唇に吸い込まれ、そしてとうとう。
「はむ……」
 唇同士が触れ合った。
 チョコレートとは別の、甘い味がしたような気がした。
 触れあうのと同じに見つめ合うのも一瞬。
 そして唇が離れた時、俺は少し情けない悲鳴を小さく上げた。
「ひっ……」
「ミカン? どったの?」
 どこかの3代目大泥棒みたいな尋ね方をしたキノット。
 そんな彼女に、俺は答えた。

「……ごめん。かなりいろいろ落ち着かなくなった」
「あ~あ」

 悪いな、いろいろ。

全文を表示 »

【投稿小説】第2型ライフ EX 《サブエピソード ~プリモアモーレ・ディ・キノット 2~》

《サブエピソード ~プリモアモーレ・ディ・キノット 2~》
①はこちら ②はこちら ③はこちら ④はこちら サブエピソード ~プリモアモーレ・ディ・キノット 1~はこちら  サブエピソード ~プリモアモーレ・ディ・キノット 2~はこちら
 ⑤はこちら ⑥はこちら

作:旅わんこ https://twitter.com/Bul_let
イメージキャラデザイン:ささみ https://skima.jp/profile?id=16473

 ある日の朝。
 詩の月中学校、昇降口の陰となっている壁際。
 そこであたしは、ミカンから衝撃的な告白をされた。

「……え? ユガワラ、TS病って、それって……!?」
「ああ。俺、女になっちまうみてぇなんだ」

 TS病と言えば、ウイルス性性別転換症。文字通りウイルス感染によって引き起こされ、発症すれば性別が反転してしまう症状だ。
 それも、ミカンが発症したのは第2型。これは性別が反転するまで発熱や体の軋みなどの症状が治まらず、しかもかなりエロティックな感情に流されやすくなるらしい。
「どうしよう…… 俺、このまま女になっちまうのかな。そんなの嫌だよ、これまで16年間男としてやってきたのに、水泳でも男子としてやってきたのに、男友達もそこそこいるのに、こんなのってねぇよ……!」
「落ち着いて、ユガワラ! とりあえずどこかに行こう、ねっ!?」
 体育館の裏だって、人が来ないわけではない。
 確実に人通りが少なく、人が来ればすぐに息をひそめられる場所、あたしはそこにミカンを連れて行った。
 思い当たる場所は、屋上しかなかった。
 屋上に来る頃にはミカンも少しは冷静になれたらしく、死んだような顔はそのままでも、取り乱している様子はなかった。
「ユガワラ。さっきの話、ホントなの?」
「ああ。しかも2型だ」
 それは第1型のように発症からすぐに対処すれば元の性別に戻る可能性があるものではなく、確実に性別が反転してしまうことを意味している。
「そっか……。でっ、でもユガワラ。そんなに落ち込むことはないよ。水泳の選手としては男子から女子になるだけで水泳そのものは続けられるし、女の子はおしゃれの幅が広がったり映画館やアミューズメントではレディースデーが豊富だったりするからいろいろお得だよ? 悪いことばかりじゃないって。ね?」
「……悪いことだよ」
 ミカンは言い切った。
「なっ、何が?」
「去年、俺の小学校の頃の友達も同じような病気にかかってさ、いじめにあったんだ。やーい男女、ヘンタイ、おかま野郎。挙句の果てにお前なんか俺たちの友達じゃねぇって、それまで仲が良かった男子のグループからはじき出されただけじゃねぇ、女子からも一緒の授業を受けることを拒否され、SNSに裸にひん剥かれた画像をアップされ、挙句そいつは引きこもりになったんだ。
 心配した俺がそいつの家に行くとどうしてたと思う? それまで大切にしてたおもちゃ屋マンガ本はみんな売り払い、自殺に関するサイトをあさり、墓には大切にしていたサッカー選手のサイン入りユニフォームを一緒にしまってくれとか言い出しやがったんだ。
 お前なんてこと言ってんだって最初はぶん殴ってまで食い止めたよ。けどそいつは、それほどまで追い込まれてたんだ。性別が反転してしまう、たったそれだけのことで、友達がいなくなってしまうだけじゃない、社会からヘンタイのレッテルを貼られちまうんだ。
 だから……」
 ミカンはそう言ってコンクリートの床に座り込み、膝を抱えて震えた。
「俺もそうなっちまうのかなって、怖くてさ。でもそうなる前に、サンペレグリノには知ってほしかったんだ」
「そう、だったんだ…… うん、それはひどい話だね。性教育でそう言ういじめはやめようって、小学校のうちから習ってたはずなのに。でもね」
 あたしはミカンの左に座り、肩を寄せた。
「どんなことがあっても、あたしはユガワラの味方だから」
「サンペレグリノ……?」
「大丈夫だから」
 ミカンの左手を両手で包み、そして心成しか以前より小さくなったミカンの肩に頬を乗せた。
「大丈夫だから……」

 しばらくするとミカンは落ち着いたようだ。
 チャイムは何回か過ぎてしまったようだ。
 ――もう2時間目の授業中かな。
 ――このまま保健室に行って、具合が悪くて寝ていたことにしてもらお。
 ミカンはなお膝を抱えてうつむいたまま。
 あたしはミカンの方に預けていた顔を上げて、ミカンに言った。
「あのさ、ユガワラ」
「ん?」
 横目でちらりとあたしを見る。
「あたしたち、友達ってことでいいよね?」
「……そうだな。いつの間にかよく話すようになったし。からかわれてばっかだけど」
「じゃあさ。ミカン、って呼んでいいよね?」
「え?」
 ぽかんとした表情になる。
 鳩が豆鉄砲を食ったようとはこんな状態を言うのかもしれない。
「だから、ミカンもあたしのこと名前で呼んでよ。キノットって」
「サンペレグリノ……?」
「いいから、ほら。ミカン!」
 あたしは両手の人差し指で、ミカンの頬を左右からはさんだ。
 ぽかんと開いた口の中に、押し出された頬の内側の粘膜が見える。
「キ・ノ・ッ・ト! あたしの名前、呼んでみてよ」
「………… ………… ……ふぃもっ、ぽぉ?」
「うん」
 両手を戻した。
 そしてもう一度。
「ね、ミカン」
「……いいのか?」
「うん、全然」
「……そっか」
 名前を、呼んでもらおう。
「じゃあ、これからも友達としてよろしくな、キノット」

 それからしばらくして。

 水泳部活動場所、詩の月町民プール。
 TS病にかかったとはいえすぐに体に変化が現れると言うわけではないけれど、ミカンの少しずつ体つきは変わり始めているらしい。TS病の代表的な症状のひとつである体の軋みが始まり、ミカンは水泳どころか私生活すらままならないのだとか。
 それでもミカンはショートパンツタイプの水着(いわゆる男子用スクール水着)と言う格好で部活に参加している。それはどうしてかって言うと。
「ほらキノット! もっとリズミカルに! 足はしっかり延ばす!」
 プールサイドでバインダーとストップウォッチを持って、ほかの部員のタイム計測をしたりあたしのように泳ぎがまだまだ下手な部員の指導をしたりしている。特にあたしは年明けに入部したばかりなので誰よりも泳げない。
「だめー! 息継ぎのタイミングがよく分からない!」
「しゃーねぇな。ちょっと横で泳いでやっから、リズム掴めよ?」
 やがて、ミカンは体の軋みがひどくなるとプールに入ることがなくなった。胸がすれる感じにまで襲われるようになったからだ。それでも、ミカンは水泳部を休むようなことはしなかった。膨らみ始めた胸や変わり始めた体のラインを隠すようにジャージを着て、プールサイドでできることをこなした。
 ある時、あたしはミカンに尋ねた。
「どうして、そんなに水泳に一生懸命になれるの? あたしだったら、体中が痛いのに部活はがんばれないよ」
「ああ、俺も何度もいい加減休みてぇなーって思った。今も休みてぇさ。そんでも一生懸命に頑張ってるやつがいるってのに、俺だけ休んでらんねぇよ」
「ミカン……」
 ミカンはそう言って、飛び込み台に座った。
 あたしを見上げる形になったミカン。
 そんなミカンの表情は、年齢よりも幼くなったようにも、ボーイッシュな女の子のようにも見える。上目遣いのミカンの表情は、凛とした中にどこかはかなさすら感じる。
「お前こそ何で一生懸命になれるんだよ。こんな時期に水泳部に入部してまで。何か夢でもあるのかよ」
「ううん、そんなんじゃない。ただ、同じことがしたいだけかな」
「同じこと?」
「うん。ある人にあこがれて」
「そっか。そりゃいい目標だ」
 そう言ってミカンは笑う。
 下唇に八重歯を引っかけて、にかっと笑うミカン。

 ――そんでも一生懸命に頑張ってるやつがいるってのに、俺だけ休んでらんねぇよ。
 ――お前こそ何で一生懸命になれるんだよ。こんな時期に水泳部に入部してまで。

 きみは知らないのだろう。
 その目標は、きみだと言うことを。
 自分のことにも自分以外の人にも全力になれる人。
 人に優しいくせにそれがなかなかわかりづらい、ぶっきらぼうな人。
 それでも、あたしはこの人に魅かれていった。

 のちにあたしは、ミカンに「お前ってレズだったのかよ」と酷いことを言われてしまう。
 でもそうではない。
 もちろんあたしの恋愛対象は男子だ。
 だけど、どうしようもなく意識してしまった相手がたまたま『やがて絶対に女の子になってしまう男の子』だっただけの話。
 あたしは間違いなく、ミカンと言う人間を好きになったのだ。
 友達として、そして初恋の人として。

 そして、あたしは言ってしまうのだ。
 ――「ずっと友達になりたいと思ってた。でも今は違う。あたしは、ミカンが好き」
 ――「あたしはどんなことがあってもミカンのことをずっと好きでいるから。これだけは、絶対だよ」

 ……、と。



《登場人物紹介》
リモンチェッロ・サンペレグリノ
 キノットの姉。3歳年上の高校生。今後の出番は……未定。
 名前の由来は、イタリア発祥のレモン酒。

川夏綾子(かわなつ あやこ)
 水泳部顧問の女性教師。今後の出番は……同じく未定。
 名前の由来は、カワノナツダイダイ。

【投稿小説】第2型ライフ EX 《サブエピソード ~プリモアモーレ・ディ・キノット 1~》

《サブエピソード ~プリモアモーレ・ディ・キノット 1~》
①はこちら ②はこちら ③はこちら ④はこちら サブエピソード ~プリモアモーレ・ディ・キノット 1~はこちら  サブエピソード ~プリモアモーレ・ディ・キノット 2~はこちら
 ⑤はこちら ⑥はこちら

作:旅わんこ https://twitter.com/Bul_let
イメージキャラデザイン:ささみ https://skima.jp/profile?id=16473

 それは、あたし=キノット・サンペレグリノが中学1年の時だ。

 12月31日。日付が変わり、1月1日となった新年の元旦。
 ここ詩の月町の神社、朝倉神社。
 あたしは姉=リモンチェッロ・サンペレグリノ(家族や親しい人は「リモ」と呼んでいる)と初詣に来ていた。姉妹でお揃いの日本の伝統衣装である着物を着て、長い髪はかんざしで留めて。防寒のために履物はブーツにしているけれど、母の知り合いの日本人の方からは「明治っぽい」って言われた。
 神社のテントでは温かいスープとして配っていた甘酒と言うドリンクはアルコールではないらしく、雪が降りそうなほど厳しい寒さもたちどころに忘れてしまいそうにやさしい温かさに、あたしはほっと息をつく。
「キノットぉー! こっちの屋台でおいしそうなの売ってるよー! おいでー!」
 母国語であるイタリア語で、リモがそう叫んできた。
「何、リモ?」
「オコノミヤキって言うんだってさ。みんなまぜこぜになったピザみたいなやつ。食べてみようよ」
「オコノミヤキ! 面白い響きだね。じゃあ食べてみようかな」
 そう言ってあたしは歩き出そうとした。すると。
「あっ!?」
 敷石と砂利の境目を踏んでしまってバランスを崩し、そのままあたしは砂利の中に倒れてしまった。
「キノット! 大丈夫なの!?」
「あうつつつ……!」
 リモは駆け寄ってこようとするけれど、着物のせいで歩幅が開かない。しかもあたしは右足をくじいてしまったみたいで、立とうにも立ち上がれない。
「ひねった…… ヤバい、立てない……!」
 すると。

「大丈夫か? ほら、手ぇ貸して」

 男の人の声が、聞こえた。
「えっ?」
 あたしは顔を上げ、声が聞こえた方を見やる。
 そこにいたのは、見覚えのある顔。
 当時クラスが一緒だった、ユガワラ・ミカンだった。
 夜でも鮮やかに輝く天然のオレンジの髪が目を引き、童顔で小柄ながら筋肉が引き締まっている。水泳部の部員だけど冬は屋内の温水プールで練習しているため、女の子のように肌は白い。女子の間では「かわいい系男子」と呼ばれているミカンだけど、目つきも言葉遣いもかなりぶっきらぼうな男子だ。
「って、お前。確かサンペレグリノ。お前も来てたんだな」
 そう言うミカンに答えようとしたら、あたしは気づいた。
 ――あ、八重歯だ。
 ――なんか可愛いかも。
 日本以外の国において八重歯は、可愛いどころか吸血鬼の牙と関連付けられて不気味がられたりすることがあるらしい。けれど八重歯をかわいいと思っているあたり、あたしはイタリア人の血を引いている日本人なんだなと思う。
「うん。……でもユガワラ、何なのその格好?」
 ミカンの格好は、紺色の甚平に豆絞り(ドット柄のタオル)。どう考えても季節を4か月ほど間違えている。しかも、頭からは滝のように汗を流している。
「親の手伝いだよ。そこでお好み焼き屋をやってて、今ジュースを買いに行ってた。ほら、手」
 改めて自らの右手を差し出すミカン。
 あたしはその手を取った。
 ミカンはその手に力を込めてぐいとあたしの右手を引っ張り上げた。あたしも何とか、くじいていない左足だけで立ち上がる。
「あ、ありがと……」
「どういたしまして」
 そこに姉のリモが来た。
「きみ、妹をありがとう。もしかして学校の友達?」
「はい、クラスメイトの湯河原蜜柑って言います。ひょっとしてサンペレグリノのお姉さんですか?」
「ええ。私はリモンチェッロ。よろしくね」
「こちらこそ」
 するとミカンは、あたしに言った。
「足、大丈夫か? ひょっとしてひねった?」
「あ、うん、まぁ。でも大丈夫だよ、リモ…… あ、お姉ちゃんがいれば帰って帰れないことないし」
「そりゃダメだ、ちょっとこっち来い」
 そう言ってミカンはあたしの手を軽く引き、あたしがつまずかないくらいの速さであるところに連れて行った。
 そこは、手水(ちょうず)所。神様にお参りする前に手と口を清める場所だ。
 手水所の参道側には人が多い。反対側に回り込んで柄杓を手にし、あたしの右側のブーツを脱がせると足に水を直接かけた。
「ひっ!?」
「冷たいだろうけど我慢しろ。腫れるよりマシだろ」
 何度かかけると、ミカンは自分の頭に巻いた豆絞りをほどいてそれに柄杓の水をかけて洗い、何度か洗うとそれをあたしの右足首に巻いた。湿布代わりだ。
「じゃあサンペレグリノ。帰ったら無理しねぇで休めよ。あとタオルがあんまり冷えるようなら外した方がいい。捻挫が凍傷になったら話になんねぇし、無理して巻きっぱなしにしなくていいからな」
「うっ、うん…… ありがとね、ユガワラ」
「ああ。……そうだ、ちょっと待ってろ。お姉さんはここで妹さんを支えといてくださいね」
 そう言ってミカンは手水所から離れていった。
 そして戻ってきたときには、さっきまでは持っていたはずの飲み物の缶は持っておらず、その代わりにビニール袋を持っていた。どうしたのだろう。
「持ってけよ、これ」
 ミカンはそのビニール袋をあたしの前に突き出した。ふわっと温かいソースの香りが漂ってくる。
「ユガワラ、これって……?」
「オヤジのお好み焼き。帰ったらお姉さんと一緒に食ってくれないか。食いたかったんだろ?」
「うっ、うん…… でも……」
「初詣の屋台は向こう3日間やってる。足を治してまた来りゃいいじゃんか。……お姉さん。サンペレグリノを頼みますね。俺、まだ屋台の手伝いがあるんで、そんじゃ」
 そう言って再び、ミカンは屋台の方に戻って行った。

 当時、クラスメイトだったはずなのに、まともに会話もしたことのない男子。
 湯河原蜜柑。
 ぶっきらぼうな物言いで少し近寄りがたい雰囲気をまとっていた彼の優しさに触れた時、あたしは彼と友達になりたい、そう思うようになった。
 たぶんだけど、その時はまだ『恋心』と呼べるレベルではなかったと思う。友達になりたい、異性としては少し気になる、その程度だったと思う。けれどあたしにとって、大事な出会いだった。
 ……そして冬休みが明けて。

 歌の月市民プール。
 冬の間の詩の月中学校水泳部の部活動場所だ。
 水泳部顧問の川夏綾子(かわなつ あやこ)先生の隣で、あたしは紹介された。
「ハーイ、皆さんゴチューモク! 今年最初の水泳部の部活動でいきなりですが、今日から新しい仲間が増えましたぁー! ご紹介しますねっ。イタリア生まれ日本の育ち、陽気なやつはだいたい友達。キノット・サンペレグリノさんでーす!」
 カワナツ先生は、背も低ければ顔も言動も幼く、着ている水着もどういうわけか紺色の旧式スクール水着の上にピンク色のパーカーと言うもの。教師のはずなのに、どう見ても中学生にすら見えない。
「きっ! キノット・サンペレグリノです。皆さんより遅い入部ですが、どうぞよろしくお願いします!」
 1年生から3年生までずらりと並んだ部員たち。
 その中にはもちろんミカンもいた。
「よぉ、サンペレグリノ。捻挫治ってねぇのに大丈夫なのか?」
「まだちょっと紫色だけど歩けるよ。ありがとね、ユガワラ」
「そっか。ならよかったよ」
 その途端、水泳部の先輩部員たちはどよめきだした。
「どうしたどうした? お前らいい雰囲気だな、付き合ってるのか?」
「ひょっとして湯河原がイタリアガールを水泳部に誘ったのか?」
「捻挫ってどうしたんだ? 送ったのか? 送りオオカミやっちゃったのかユガッチ!?」
「水泳バカの湯河原がまさか女子と仲良くなってるなんて氷河期突入だな!」
 先輩たちは言いたい放題だ。
「……バカみてー。同じ男なのが情けねぇや」
 ミカンはそっぽを向いてうつむき、不愉快そうな顔をして八重歯を唇に突き刺していた。
 目つきは悪くて物言いはぶっきらぼうで回りを寄せ付けないタイプのミカン。
 でも本当は優しくて冷静で気が利いて、そのぶっきらぼうさがどこか可愛らしい。
 あたしは、そんなミカンの友達になりたいから水泳部に入部したのだ。
 でも、それともうひとつ。
「それと…… あたしまったく泳げないのでゼロからの出発になりますので、どうかよろしくお願いします」

 こうしてあたしは、ミカンと、そしてミカンの友達のユズキとも友達になれた。
 ユズキとの出会いは、ふたりがタイムを競い合っているときにタイム計測を任された時がきっかけで、それからよく3人で下校途中にコンビニで買い食いをしたりゲームセンターに遊びに行ったりするようになった。
 きっかけはミカンとの出会いだったけれど、今ではユズキともいい友達だと思っている。
 そしてこの友情はずっと変わらないものだと思っていた。
 ……それなのに。

 あたしたちが2年生に上がってすぐのころ。
 桜が満開となり、新しいスタートと共に未来に思いをはせる、そんな季節。
 詩の月中学校、体育館の裏。
 ミカンは、初詣で出会った時のような凛々しく見えるぶっきらぼうさが嘘のような顔をしていた。
 その原因は。



「……え? ユガワラ、TS病って、それって……!?」
「ああ。俺、女になっちまうみてぇなんだ」

【投稿小説】chain change extension

文:鎖連鎖
キャラデザイン&挿絵:桐山マチ

関連作品:chain changeはこちら

「……ん」
 いつの間にか眠っていたようだ。
「すう…すう…」

amha_170815.jpg

 横を見ると、昨日の晩に愉しんでいた女の子がいる。
 この子は、元は男の子だったけど、私と交わらせて女の子にしてやった。
 そして、その後すぐに処女も奪った。
 どういうわけか私はサキュバスでありながら、男の子と交わることでインキュバスになれる。
「うふふ…」
「う?う~ん…」
 どうやら、その子が起きたようだ。
 今まで色々な男の子を女の子にしてきたけど、この子とは身体の相性がいいみたいで、手放したくないのよねー。
 まあ、この子も、
「リージュ様ぁ…、今日もまた、あたしを可愛がってくれますか…?」
 私と一緒にいたいみたいだし、ね。

 そして私は、今はサキュバスの身体で、今日も彼女を“開発”した。
 …その内、私だけに快楽を感じるようにね…。

全文を表示 »

【投稿小説】 chain change

文:鎖連鎖
キャラデザイン:涼川ゆい

2013082122124765a_201704041340235e7.jpg

「ねーねー君一人?」
「俺らと一緒にどこか遊びに行かない?」
 そう言ってあたしに声をかけてきたのは、いかにもチャラい男たちだった。
 あたしも前までそっち側だったから気持ちはわかるけどね。
 っと、そうじゃなくて。
「ごめんなさい…ちょっと連れを待ってるので…」
「連れって女の子?」
「え、そうですけど…」
 しめしめ、かかった。
 内心でそう呟く。
「じゃその子も一緒にどこか行こうよ。そうしたらちょうど二対二だしさ」
「あ、それならいいと思います」
 この男たちをリージュ様に差し出して、また激しくセックスしてもらおっと。

 あたしが女の子になったのは数日前。まだ男だった時にいつものようにナンパしている時だった。
「ねぇ彼女、暇だったら俺と一緒にお茶でもしませんか?」
「彼女って、私のことかしら?」
 そう言って振り向いたのは、桃色の髪をした美人の人だった。
「そうね…。一緒に行ってあげてもいいけど、一つ条件があるわ」
「え、な、何ですか?」
「どこに行くか、私に決めさせてくれない?」
「よ…、喜んで!」
 そんな感じで連れてこられたのは、ラブホテルの一室だった。
(うわ…初めて入った)
「さてと…ここなら人目もないから思う存分吸えるわね…」
「え?吸う?」
 そんな声が聞こえて振り向くと、彼女の目は妖しく光り、
「さてと…それじゃいただきます」
 そして、意識が飛んだ。

全文を表示 »

【投稿小説】第2型ライフ ③

①はこちら ②はこちら ③はこちら ④はこちら サブエピソード ~プリモアモーレ・ディ・キノット 1~はこちら  サブエピソード ~プリモアモーレ・ディ・キノット 2~はこちら
 ⑤はこちら ⑥はこちら

作:旅わんこ https://twitter.com/Bul_let
イメージキャラデザイン:ささみ https://skima.jp/profile?id=16473

《エピソード3》

 その日の部活終わり。
 プールサイドからさらに奥まった、コンクリート製のひな壇。
 同級生で部長の女子、八重山直(やえやま すぐ)がバインダーを持って俺たちに言った。
「えー、諸君。来月行われる『全日本中学生水泳競技大会』のメンバーを発表する。
 男子。本栖大地(もとす だいち)、河内夏文(かわち なつふみ)、遊佐柚木。
 女子。須田千秋(すだち あき)、小松伊代(こまつ いよ)、キノット・サンペレグリノ。
 男女各3名の、合わせて6名となる。
 日程は8月第2金曜・土曜・日曜の3日間にかけて行われる。各自それまで以上に練習に励むように。選抜されなかった各部員たちも、それぞれにできることをしっかりこなすように。以上、本日は解散!」

 下校後。
 中学校そばのコンビニ。
 他にも同じ中学校の生徒が群がる中に、俺とキノットもいた。それぞれ、オレンジジュースと炭酸水を呑みながら。
 柚木は部長とすることがあるとかで、今日の帰り道は一緒ではない。
 俺は小さくつぶやいた。
「分かっちゃいたけど、こうして選考に落ちたってのはさすがに堪(こた)えるよな……」
「そう落ち込まない。たぶん部長も、ミカンと同じ気持ちだよ」
 キノットはそう励ましてくれる。
 選ばれたやつの励ましはあまり心に届かないと思ってた。
 けど八重山部長のことを考えれば、俺ばかりひねくれてばかりもいられない。
 キノットは続ける。
「部長も…… スグちゃんもあたしたちと同じ中3。それに今年の優勝を期待されて部長になったんだもん。でも、この前の交通事故で……」
「あぁ。入院レベルじゃなかったけどあれで右肩壊しちまって……」
 口に出せばそれだけ、やるせなくなる。
 このままブルーな感情に浸り続けるのは、俺にとってもよくないし八重山部長にも悪い。俺はつとめて声を高くして言った。
「だからキノット。俺の想いを柚木とお前に託す。部長やその他選ばれなかった連中の分も、がんばってきてくれ」
「もちろんだよ。任せといて!」
 そう言ってキノットは、俺の前に右拳を掲げる。
「キノット…… あぁ、そうだな」
 俺も持っていたボトルを右手から左手に持ち替えてキノットの拳を右拳で叩き、改めて思いを託した。
「認めたくない。今でも思い切り泳ぎたい。でも、俺にはもうお前たちに頑張ってもらうしかねぇんだ」
「でもミカンは何も悪くない。全部2型TS病が悪いんだよ。ミカンはそんな病気で女の子になっちゃって、ほかの女の子がうらやむくらいにお胸が大きくなっちゃって、泳ぎにくい体になって言ってもがんばってきた。誰よりもがんばってきた、それはあたしが知ってる。だからミカン、もう悔まなくていいよ。自分を責めなくたっていいんだよ」
 ぶつけていた俺の右手を、キノットは自分の右手で、そして両手でやさしく包んでくれた。
「……ありがとな。けど情けねぇな、女の子に励まされるなんて」
「今はミカンも女の子だよ」

 コンビニ外のゴミ箱に空っぽのペットボトルを捨て、俺はキノットに言った。
「悪い、女子更衣室にちょっと忘れ物しちゃったみたいなんだ。取りに行くけど、キノットはどうする、先に帰る?」
「ううん、一緒に行くよ。お互い、女の子がひとりでいるのはヤバいでしょ?」
「そっか。じゃあ一緒に来てくれ」
 キノットは炭酸水を一気に飲み干してペットボトルをゴミ箱に捨て、先に歩き出していた俺に追いつく。コンビニは中学校の本当に目の前なので、戻ると言うほど距離は歩かない。
「ミカン、ところで何を忘れちゃったの?」
「水筒。更衣室のロッカーまで持ってきたまではいいんだけど、あのあとまた胸のことでからかわれてさー」
「なるほど。ミカンのおっぱいって格好のセクハラ材料だもんねー」
「女子にしてみりゃスキンシップのつもりかも知れないけど、ありゃいくら何でも……」
 校舎の裏、体育館の前を通り、プールまで戻ってきた。
「よかった、まだ部長は帰ってねぇみてぇだ」
 当然だが、プールは高いフェンスに囲まれ、出入り口もフェンスと同じ格子状の扉となっている。もちろん錠前も設置されている。
 俺はまだ施錠されていない扉を開いて女子更衣室に足を向ける。だが。
「ん?」
 俺のブレザー(もちろん女子用)が引っ張られる感触を覚えた。
 キノットだ。
「どったよ、キノット?」
「み、ミカン…… あれ、見てよ……」
 左手を口元に充て、声を押し殺すように俺に言う。
 そんなキノットの顔は、リンゴのように赤く染まり、まぶたは半閉じになっている。心成しか声も震えているようだ。キノットの視線は俺ではなく、プールと隣接している体育館の方を向いている。
 俺はキノットの視線の先、体育館の方を見やった。
 すると。
「……? う、嘘だろ……!?」
 俺の目に飛び込んできた光景。
 それは、目の当たりにしてもなお信じられないものだった。
 体育館の柱の陰になっているところで、想像もしていない出来事が起こっていた。
「ミカン……!」
「キノット。あれ、何なんだ……?」

 そう言えば柚木は言っていた。
 ――「悪い、ミカン、キノット。俺、部長とやんなきゃいけないことがあるんだ。データの編集とか備品の整理とかいろいろ」
 そう言っていたはずなのに。
「こりゃどういうこったよ!」
「あたしに聞かれても分かるわけないでしょ!?」

 八重山部長と柚木が、体育館の柱の陰でキスをしていた。それも。
 まるで欲望に任せてむさぼるような濃いキスを。
 キスだけではない。八重山部長も柚木も相手の腰に手を回し、しかもその様子は「抱き寄せる」と言うよりは「撫でている」ようだった。
 間違いなく、ふたりは好き合っている。
 そこに俺の親友としての柚木の顔はなかった。そこにいつもの凛とした部長としての八重山直の顔はなかった。ふたりとも、まるでトーストされたばかりの食パンの上に落とされたバターのようにとろけきっていた。
 俺はまるで脳みそがぐちゃぐちゃにかき回されたような感覚を覚え、何も考えられなくなった。
 キノットが言う。
「うっわぁ~。中3なのにテレビドラマの最終回でやるようなことやっちゃってるよ。ねぇねぇミカン。あれ色々とまずいんじゃない?  ……って、ミカン?」
「ふぇっ?」
 俺は口がぽかんと開いていてまともに返事もできなくなっていたのを自覚した。
 その様子に、キノットは叫ぶように言う。
「あんたどうしたの!? 具合悪いの!? とっ…… とにかくこっち!」
 そう言ってキノットは俺の手を引っ張り、プールの扉をくぐって滑り止めのスロープを駆け下り、そして女子更衣室に飛び込むなり乱暴に鍵をかけた。
「ミカン、大丈夫? いくらユズキとスグちゃんのあんなシーン見たからって息切れしたり目を回したりする!? とにかく深呼吸、落ち着いて、はい落ち着いて……」
「ダメなんだ。キノット、こうなったら俺ダメなんだよ」
「どういうこと?」
 キノットの質問にまともに答えられない俺は、スカートのままだろうと濡れたままの床に座り、膝を抱えて縮こまった。
「……2型TS病のせいなんだよ」
「えっ? どういうこと?」
「2型が1型と違うところは感染力が強くなったことや感染したら元の体に戻らないだけじゃない、とてもエッチな感情が強くなるんだって」
「えっ…… えぇぇっ!? それって!?」
「うん」
 そのうち胸と言い背中と言い、全身がカタカタと震えてきた。寒くないのに、まるで寒気に襲われたような感じに。
「クラスメイトが持ち込んだマンガ雑誌のグラビアなんか見たらもうその日の授業に集中できなくてさ、そういう色っぽいものとは距離を置くようにしてたんだ。でもラブストーリーもののテレビドラマやお色気全開のアニメ見ちゃってエッチな気分になったら、自分の部屋でまぁ、その…… ひとりで発散することもあって。
 でも! でも今みたいに動けなくなるほどひどいのは今日が初めてだよ。こんな感じ初めてなんだ。どうしよう、キノット? 俺、このままエロいことしか考えられないド変態になっちゃうのかな? なぁ!?」
「落ち着いて! ミカン、とりあえず落ち着いて!」
「無理だよ…… もう、無理だよ……!」
 俺はもうパニックだった。体の奥からどんどんあふれてくるエロい感情をもう抑えられなかった。
 そんな俺を。
「落ち着いて!」
 キノットが抱きしめてくれた。
「キノット……?」
「大丈夫、ミカンはド変態なんかじゃない。病気のせいなんだからしょうがない。ミカンは何も悪くない、だからネガティブに考えないで。もしミカンがどうしようもないドスケベになっちゃっても、あたしだけはミカンを助けてあげるから。ずっと味方であげるから。ね?」
 するとキノットは、俺の右足の膝に手を重ねるとそのまま太ももの内側を滑らせてゆく。まるで、指先を血管で逆撫でするように。
「ひうぅ!?」
 それだけで体全体に電気が走ったような感触を覚える。
 何も考えられなくなり、言葉を失う。
「はわわ、うおあ……」
「大丈夫、任せて」
 そしてキノットの指はやがて鼠径(そけい)部に到達し、

 そこで俺の意識は途切れた。

全文を表示 »

【投稿小説】第2型ライフ ②

作:旅わんこ https://twitter.com/Bul_let
イメージキャラデザイン:ささみ https://skima.jp/profile?id=16473

①はこちら

《エピソード2》
 10か月前、季節は秋。
 詩の月町、海岸線とは直角の大通りに位置する喫茶店、西の夕日(ウェスタン・サン)。
 西の夕日は西部開拓時代のアメリカをイメージしており、バッファローの角やシェリフバッジ、ウィンチェスターライフルまで飾られており、内装はもちろん木造。メニューはハンバーガーやサンドイッチなど手軽に食べられるものを主にしている。
 そこに、俺と柚木、そしてクラスメイトで同じ水泳部員でもあるキノット・サンペレグリノはいた。
 キノットは俺よりも握り拳ひとつ分背が高く、ウェーブがかった銅色の髪とエメラルドグリーンの両眼を持つ。スタイルはよく胸もそこそこ大きく、肌は水泳部で健康的に焼いている。イタリア生まれ日本の育ち、陽気なやつはだいたい友達、そんなやつだ。
 それぞれが注文したハンバーガーやサンドイッチ、そして好みの飲み物をテーブルに並べる。俺が青いリボンでまとめたポニーテールをいじっていると、キノットが切り出した。
「今年の水泳部も、やること終わっちゃったね」
 キノットの言葉に答えたのは柚木だった。俺も続いた。
「だな。あと1年やることねーし、今から来年に向けて体力つけるっきゃねぇよ」
「俺も早く女の体に慣れて、来年こそはリベンジしねーとな!」
 そう言う俺だが、キノットは俺の胸を一瞥して俺に言った。
「本当に大丈夫なの、ミカン?」
「大丈夫って何がだよ」
「言っちゃ悪いけど…… その胸。夏の大会よりも明らかに大きくなってる」
 言われて、俺はとっさに胸を両手で覆った。
 そして感触として伝わる、自分の胸が両腕に押し潰されている感じと、その両腕がとても柔らかく心地のいいものに触れていると言う感じ。顔が熱くなるのを覚えながら、俺はキノットをにらんだ。だがキノットは容赦なく言う。
「ミカンが病院に行って2型TS病にかかったって言われて、そのあたりからミカンの胸は少しずつ大きくなった。大会のころには体つき全体がもう女の子で、女子としてエントリーされた。でもミカン自身はその体に全然慣れなくて、結局ビリでゴール。
 ひょっとしたら来年になれば、女の子の体にも慣れてまた前までの活躍を見せてくれるかもしれない。でもミカンの胸は女子のあたしでもうらやましいくらいに少しずつ大きくなってるよね。今はまだミカンがその体になれさえすればいいタイムを残せると思うけど、来年まで成長が続けばかなり危ないと思うよ?」
「成長って…… やだね! そんな心配するよりも、来年の大会で優勝することを考えるべきじゃねぇのか?」
「そうかもしれないけど、でも! ……ううん、そうだよね。悩んでいるよりも行動した方がいいよね」
「そゆこった。お前ら、まだサンドイッチ残ってんぞ」
 俺は俺が注文したハンバーガーを平らげ、コーヒーも飲み干し、カウンターに行って次のハンバーガーを注文しつつコーヒーのお代わりをもらった。
 だが当然、その時の俺には知る由もなかった。
 キノットの忠告が現実のものになると言うことを。
 そして現在、当然のように俺の胸は大きく成長し、それが抵抗となって思うような成績を残せなくなっている。
 それでも、俺は立ち止りたくなんてなかった。
 その半年後の冬。すなわち今から半年前。
 2学期末試験を終え、クリスマスを控えている頃。
 歌の月町営、町民プール。
 町民プールは上から見下ろせばコガネムシのようなシルエットの、のっぺりとした施設。プールのほかにも、トレーニングジムやカフェなどもある。売店では水着も販売している。
 そこに、俺、柚木、キノットの3人は訪れていた。
 柚木とキノットは専用のレーンで泳ぎの特訓が、そして俺は長時間サウナにこもっての体脂肪の削減が目的だった。
「そう、おっぱいの大部分は脂肪分。だったらその脂肪を減らせばいいって簡単な話じゃんか。食事制限、毎日のサウナ通い、これで何とかなんねぇわけがねぇ。脂肪を減らして筋肉をつける。それさえすれば、来年の大会だって何とかならぁ!」
 ひたいをぬぐう。
 ぬるぬるとした汗。俺はサウナ減量作戦に効果を感じていた。
 それでも水分は必要不可欠。一度サウナを出て女子更衣室に戻り、(ほかの女性利用客が着替えをしている方に目を向けないようにして)ミネラルウォーターのボトルを買う。そして一気にそれをあおった。
「ふー! 戻るかな」
 500ミリあった空っぽのペットボトルを自販機横のダストシュートに放り投げて更衣室を出た。
 プールに戻ると、利用客はみんなプールサイドで体をほぐしたり雑談したり、あるいはサウナや温泉にいる。休憩時間のようだ。人だかりの中に、柚木とキノットを見つける。
「ミカン! どこに行ってたのよ、サウナにいなかったから捜したじゃない!」
「わりわり。ちょっと水分補給にな」
「それならいいけど、女の子ひとりでいると変なのに絡まれるんだから気をつけなさいよね?」
「おっ、おお。……そうだ、柚木、キノット。休憩が終わったらあっちのレーンでタイムアタックしねぇか?」
「ごまかすなーって。まぁ、でもいいよ。無暗に練習するよりも楽しそう。ユズキもいいでしょ?」
 キノットの言葉に、柚木も「よっしゃ乗った!」と張り切って答え、ちょうど休憩時間を終えるチャイムが鳴った。
 タイムは俺が持ってきた防水スポーツウォッチで測ることに。
 そして俺たちは時間を忘れてタイムアタックを楽しんだ(制限時間の3時間を軽くオーバーしてしまったため延長料金を払う羽目になったが)。プールを楽しんだ後はロッカーに預けていた100円で仲良くアイスクリームを買って、その日は解散となった。
「柚木、次は負けねぇからな!」
「あぁ。リベンジ待ってる。キノットはもうちょっと泳ぎを覚えた方がいいぞ?」
「ふーんだ。どうせ水泳部唯一の金づち部員ですよーだ」
「あははは。たぶん古式泳法とかの方がキノットには似合ってるかも」

 そして今。季節は夏。
 歌の月中学校、プール。
 水泳部活動中。
「くそっ! なんで男の時のように早く泳げねーんだよ!」
「ま、あまり無理するんじゃねぇぞ」
「はん。ここで無理しなきゃいつ無理しろって。少なくともお前との決着つけるうちは水泳やめるわけにゃいかねぇんだよ」
 キノットの心配は現実のものとなり、TS病の発症から15か月経った現在、俺の胸はスクール水着を押し上げてしまうくらいの巨乳に成長してしまった。去年編み出したサウナ減量法も意味をなさず、泳ぐための筋肉以上に豊かなバストがついてしまった。TS病恐るべしだ。
 柚木からもらったタオルで頭を拭きながらそちらに向き直った。巨乳はそれだけでふわりと浮き上がり、たわんと揺れる。
「忘れてねぇよな、去年のタイムアタック。このまま勝ち逃げとか許さねぇからな」
「勝ち逃げもなにも…… いや、まぁ」
 柚木はその先の言葉を切った。
 たぶんそれはあいつなりの気遣いなのだろう。
 もし柚木の方から「そんなつもりはない、お前のタイムが伸びないのは仕方のないこと」なんて言っても、気休めにもならないどころか勝者の嫌みになってしまうと思ったのだろう。俺にしてみればその優しさも、胸を刺すように痛い。
 どっちにしても苛立ちは治まらない。
 すると。
「しょーがないじゃない! みかんちゃんのおっぱいは豊作なんだから!」
「みかんちゃんには悪いけど、ふかふかのおっぱいに癒されるのよね~!」
 こういう時にセクハラ女子が俺の上半身にしがみつく。ある人は背後から胸をわしづかみにし、ある人は正面から谷間に顔をうずめる。時には水着の中にまで手を滑り込ませてくるからタチが悪い。
「だーっもう! やめろよお前ら!」
「やーだ、やめなーいっ!」
「やーーめーーろーーっ!」
 俺、湯河原蜜柑にとって最後の夏。
 ホント、もう憂うつを通り越して何のビジョンもない……




《登場人物紹介》
湯河原蜜柑(ゆがわら みかん) 主人公
 水泳部員の少年。中学2年生の春、2型TS病にかかって女の子になってしまった。
 名前の由来は、湯河原みかん(神奈川県)。
遊佐柚木(ゆさ ゆずき)
 蜜柑と同級生の少年。クールな性格だが、勝負となれば負けず嫌い。
 名前の由来は、柚子。
キノット・サンペレグリノ
 イタリア生まれ日本の育ち、陽気なやつはだいたい友達。本文より。
 名前の由来は、キノット(イタリア)と、イタリアのミネラルウォーターブランド。
立花日乃(たちばな ひの)
 女性教師、通称ひのちゃん。蜜柑のクラスの担任。
 名前の由来は、ニッポンタチバナ。

《世界設定》
神奈川県詩の月町(うたのつきまち/ちょう)
 相模湾に面する、田舎町でも都会でもない、どこにでもあるような海沿いの町。
 少年少女文庫様で公開しているリレー小説『くろす・あこーど』の舞台。
 本作では世界設定&キャラ設定、第4話執筆を担当(石積ナラ名義)。
ウイルス性性別転換症
 病原性疾患。性別を反転してしまう。
 若いうちに患ったほうがきれいに性転換し、美男美女もそれなりにいる。
 アメリカ先住病原菌を「第1型」、突然変異型を「第2型」と呼称する。
 拙作『緋色の風』ではヒロイン、ジェーン・デツェンバーが患っている(少年少女文庫ご参照)。

【投稿小説】第2型ライフ ①

作:旅わんこ https://twitter.com/Bul_let
イメージキャラデザイン:ささみ https://skima.jp/profile?id=16473

①はこちら ②はこちら ③はこちら ④はこちら サブエピソード ~プリモアモーレ・ディ・キノット 1~はこちら  サブエピソード ~プリモアモーレ・ディ・キノット 2~はこちら
 ⑤はこちら ⑥はこちら

完成(水泳部)

《プロローグ》

「くそっ! なんで男の時のように早く泳げねーんだよ!」
 俺はプールサイドのはしごをのぼりながら毒づいた。
 プールサイドにキャップを叩きつけ、オレンジ色の髪をかき乱す。そこに、声をかけてくる奴がいた。
「そうカッカするな。ほれ」
 そちらを向くと、俺の視界は白く染まった。それがタオルと分かると、俺は俺よりも自由に空中を泳ぐタオルをえぐるようにつかんだ。
「!? あぁ、柚木。ありがとな」
 同級生で同じ水泳部の遊佐柚木(ゆさ ゆずき)だった。
「おう。ま、あまり無理するんじゃねぇぞ」
「はん。ここで無理しなきゃいつ無理しろって。少なくともお前との決着つけるうちは水泳やめるわけにゃいかねぇんだよ」
 柚木の言葉を鼻で笑い飛ばしたが、笑える余裕なんてこれっぽっちもなかった。



《エピソード1》

 空気さえ焦がすほどの夏の日差し。
 手を伸ばせば食べられそうな白い綿雲。
 汗が止まらなくなるほどの蒸し暑さ。
 小うるさいくらいが丁度いいセミの鳴き声。
 夏。それはプールの季節。
 水泳部にとっては数少ない活躍の季節。

 ……けど。
 俺にとって、それは過去の話。
 俺はもう、あの時のように思い切り泳げない。
 俺は女になってしまった。
 しかも今では、胸が泳ぐのに邪魔なほど大きくなってしまったのだ。

 15か月前、季節は春。
 相模湾に面する町、神奈川県南部、詩の月(うたのつき)町。
 総合詩の月厚生病院。
 そこで医者が俺に言った病名と言うのが。
「……はい? んなバカな。俺が女になるって言うんですか?」
「そうだ、湯河原蜜柑(ゆがわら みかん)くん」
 カルテから俺の方に向き直り、その医者は続けた。
「きみの病名は、『第2型ウイルス性性別転換症』。男性に多く発症する傾向にあり、第1型と違って発症したら元の体に戻ることなく、そのまま症状は進行し続け、体は完全に反対の性別になってしまいます。きみの場合は間違いなく、女性のものになるでしょう」
「第2型、性転換……? ちょっと待ってください。んなの無理ですよ。今までずっと男として育ってきたのに!」
「きみをもとの体に戻す治療法はありません。しかし一度落ち着いてください」
 医者は立ち上がりかけた俺の方をやんわりと押して、再び椅子に座らせた。
 俺は大人しく椅子に座った。いや、たぶん大人しくじゃない。
 あとから気付いたけど、俺の両手の掌には四本の指の爪の先が食い込んで赤くなっている跡があった。その時は気づかなかっただけで。
 少し落ち着いたと言う自覚はあった。そして俺は、医者に言われた病気に関する症例を思い出し、それを医者に確認するように尋ねた。
「通称『2型TS病』。元々北アメリカ大陸にあった第1型の変異型、1620年にイギリスからやってきたピルグリム・ファーザーズが持ち込んだ病原体と反応を起こして第2型へと突然変異し、感染力も症状も強くなった。しかもそれにかかった人はたいてい、その…… いやらしくなる」
 医者はうなずいた。
「よく分かっていますね」
「当たり前です。この前も性教育と一緒に学校で習ったんですから。でも嫌ですよ! 俺、今度の夏の水泳大会で優勝したいんですから!」
「それはカウンセラーと一緒に学校側と話し合っていただきたいとしか、僕の方からは言えないんです。それにきみは中学2年生。もっと年を取って中途半端な外見のまま変身が終わってしまう事もないでしょう。気休めかも知れませんが、どうか気を強く持ってください」
「…………」
 気を強くなど持てるわけがなかった。

 その3か月後、つまり今から1年前。
 季節は夏。
 女として初めての夏でもあった。
 詩の月中学校、2年A組。担任でもある女性の先生、立花日乃(たちばな ひの)先生、通称ひのちゃん先生が、俺を黒板の前に立たせていった。
「はーい注目!」
 クラスメイトは、俺の方を向く。
 だが向いたのはひのちゃん先生に言われたからではなく、俺の服装に注目していたからだ。
「さて諸君。きみたちのクラスメイトの湯河原蜜柑くんだが、今日のプールの授業から女子生徒と一緒に授業を受けてもらうこととなった。男子は冷やかさないように、女子は寛大に受け入れるように。もしも湯河原をさらし者にしたり村八分にしたりするようなことがあれば、連帯責任として全員の授業態度を問答無用でE評価にする。当事者の湯河原も例外ではない。それが嫌なら、分かっているよな?」
 俺の服装、それは詩の月中学校指定の女子制服。
 上は襟と袖に青いラインが2本ずつある白いセーラー服、下は前面にボタンが4つある青いスカート。TS病と診断されたあたりからか急速に伸び始めたオレンジ色の髪は背中にまで届き、親のアドバイスで制服のスカートの色に合わせて青いリボンで結っている。
 クラスメイト達はひのちゃん先生の台詞に戦慄しながら、まるで赤べこが首を揺らすようにうなずいていた。

 ところ変わって、プール女子更衣室。
 俺が筒状の水着袋を前にして固まっていると、クラスメイトの女子が声をかけてくれた。
「どうしたのさ、湯河原くん。さっさと着替えちゃいなよ」
「そうそう、時間もないんだし。たぶんだけど男子よりも着替えに時間かかるよ?」
「それに今の湯河原くんなら、あたしたちに変なことしないだろうし」
「っちゅーわけで、いつまでも着替えに戸惑ってるくらいならうちらに任しとき!」
 そう言って勝手に俺の水着袋を開けて、タオルの奥にしまわれていた学校指定の水着を取り出した。カラーは紺色、背中では白い紐が交差しているタイプ。それをひとりの女子生徒が広げている間に、別の女子が俺のセーラー服を脱がしにかかってきた。
「おい、やめろ! やめろったらぁ!」
 女になってからもそれなりに体力は維持してきたつもりだが、セーラー服の構造については女子の方が俺なんかよりも知っている。あっという間に脱がされ、下着まで脱がされ、終(つい)にはタオルにすら守られていないすっぽんぽんの姿をさらされた。
「うっわー! 湯河原くんの肌すべすべ―!」
「胸は…… 今んとこあたしの方が勝ってる。よっし!」
「成る程、オケケはなしと。TS病になったら全身の毛根の構造がリセットされるらしいけど」
「つるつるは今しか味わえない。ボクたちももうこの時代には戻れない! 今のうちに堪能させてもらってもいいよね!?」
 着替えさせてるはずが俺の裸体を撫でまわし、いじくりまわし、そしてとうとう女子がひとりも出てこないことに疑問を抱いたらしい体育の先生が女子更衣室のドアを開いたのは、俺が『身体検査』と称されたあれこれをやりつくされ、思考力を失って痙攣しながら床に這いつくばっている時だった。

 言うまでもないけど。
 プールの授業デビューの日に、まともにプールの授業を受けられるわけがなかった。

【投稿TSF小説】淫らの写し身③ by.tefnen(てふ) &まこも葦乃 

作:tefnen(てふ) https://twitter.com/tefnen
キャラ&挿絵:まこも葦乃 https://twitter.com/0w0_CaO

望は姿勢を変えずに、周りをキョロキョロと見回した。

「健二、くん?」
「よ、よかった……」

だが、健二が安心したのもつかの間、望はタプンタプンと揺れる胸を垂らしたまま、健二に少し近づいた。そして、シャツ越しに、豊満な果実が、勃起したままの健二のペニスを包み込んだ。

「うおっ!の、望、離れてくれっ……!」
「え、なんで?」

望はもっと健二に近づく。健二の男性器を胸とシャツで擦り上げながら。

「んおおおっ!!や、やめろぉ!」
「そんなことより、これ、気持ちいいんだよ?」

望はなにを思ったか、シャツをまくり上げ、露出した下乳でペニスを挟み込んだ。

「お、お前、何するつもりだっ!」
「え、何って、次の、サービスだよ。ボクが気持よくしてあげる」

そこで、健二は気づいた。健二が喋りかけていたのは、単に口調を変えて演技しただけの魔女だったのだと。

「ま、魔女めっ……!」
「あ、気づいた?じゃあ、聞きたいんだけど、ボクの話し方と……アタシの攻め方、どっちがいいかしら?」

答えを待たずに、乳ごしに健二をマッサージし始める魔女。

「んひぃっ!そろそろ、で、出てくるっ……!」
「早いわねぇ……、でも、まだ答えを聞いてないよ?」
「ふおおっっ!!!」

ついに耐え切れず、ぶしゃぁっと胸の中に出してしまう健二。それは勢い余って胸の間から飛び出し、望のシャツにかかった。魔女は少し驚いたようだったが、すぐにニヤリと笑った。

「元気いいね……でももうちょっと欲しいわね……」

口調をコロコロと変える魔女。まるで望と魔女、二つの人格が同時に健二を攻め立てているようだった。

「も、もうやめてくれ……」
「いやよ」

魔女は体を起こすと、縫い目がほつれ、ボロボロになっていたシャツを破り捨てた。

「えいっ」
「うわぁっ!」

そして、健二を押し倒すと、パーカーのジッパーを降ろし、中に来ていたシャツを破って、筋肉が発達した胸板の上に直接のしかかった。巨大な胸は、健二の上でムニッと形を歪めた。

「おほっ……」
「どう?ボクのおっぱい、大きいでしょ?……これでイカせてあげる」
「の、望の口真似は、やめろっ!」
「そんなに強く言わなくたって、やめてあげるわよ」

魔女は、ムチムチとした太ももを、健二の足に絡めるようにしてこすり付けたり押し付けたりした。一回射精したものの興奮が収まらない健二は、もともと自分より小さかったとは思えない親友の体に包まれ、もうどうすることもできなかった。

「ん、んうううっ!!!」

さっきよりも強い勢いで、ブッシャァアアッっと飛び出る白濁液とともに、健二の意識も飛んでしまった。

「ふふっ、子供の割にはがんばったじゃない……」

自分の足や、床に撒き散らされた精液を見て、魔女は感心したような声をだす。そして、自分の胸に向かって声をかけた。

「さぁ、そろそろ起きなさいよ」
「(ん、んっ……あれ、ボク、どうしたの……?)」

今度はまぎれもない望の精神が、魔女の中で目を覚ました。

「キミの親友の、健二、だったっけ。おいしかったわよ」
「(け、健二!?この魔女め、体を返せ!)」
「ムリよ。それに……」

魔女は、さらけ出された自分の乳首や、クリトリスをなでた。

「あぁんっ……」
「(ひゃんんっ!!!)」

快感が共有され、自分で触った時よりも強い快感に魔女の中で望は必死に耐えた。

「(だ、ダメだ、ボクは男なんだ……)」
「オンナになったほうが、気持ちいいわよ?んんっ……」

魔女は、自慰を続け、望の精神に攻撃を仕掛ける。

「(ああっ!ひゃっ……や、だぁっ……)」
「ほらほらぁ……」

容赦なく続く魔女の攻めに、疲弊していた望はついに自分を投げ出してしまった。

「(ん、くぅっ……きもち、いいの……もっとほしい……)」
「うふふっ、いいわ……でも、次は自分で、ね……?」
「(うん……自分で……獲物……見つける……)」
「そう、見つけるのよ……」

望と魔女の精神が同化を始め、望の純真さが、魔女に殺され、そして記憶を読まれ、操作される。

「(キミの友達、芳雄……そう、芳雄がいい……)」
「芳雄がいい……」

瞳の色が赤から、青に変わる。体がシュルシュルと元に戻っていき、大きかった胸や尻は引っ込むように無くなり、髪も短くなる。背の高さも元の小さいものに戻ると、破れていた服が魔法のように繋ぎ合わされ、修復された。望は無言でそれを着ると、そばでう〜んと呻きながら倒れている健二に声をかけた。

「健二、行こうか」

魔女と同化を終えた望の言葉は、強い魔力を帯びていた。そして、健二の体がぐいっと立ち上がった。開かれた目は虚ろだった。

「マスター……」
「さ、帰ろう、おいしいご飯が待ってる……」

望の青い瞳が、不気味に光る。望が指をパチッとならすと、二人の姿がフッと消えた。

ところ変わって、ここは二人の住む街の路地裏。

「あいつら、こんなに暑い中を遠くまで行ったんだろうな。いい気味だぜ、あの森の中にそんな家あるわけないっつーの!」

そこには、二人を魔女の廃屋に行くように仕向けた芳雄の姿があった。炎天下を、自分の家にいればいいものの、汗だくで歩いている。

「あ、俺、なんでこんなところにいるんだ?」

そう、彼も魔女の魔力に操られ、自分の意志とは無関係に、路地裏にふらふらと歩いてきたのだ。そんな芳雄の背後から、望の声が囁いた。

「ボクが、呼んだからだよ」
「ひぇっ!!?望、それに健二!?」

遠くにいるはずの二人が急に自分の後ろにあらわれ、心臓が飛び出そうなほど驚かされる芳雄。

「お、お前ら、廃屋は行ったのかよ!まさか、ビビって途中で帰ってきたわけじゃねーだろうな!」

光っているようにも見える望の青い瞳と、何の感情も示さないで、望の後ろに立っている健二の姿にたじろぎながら、芳雄は叫んだ。その声は、恐怖で裏返っている。

「まさかぁ。ボクたちに教えてくれたのに、行かないわけないじゃないか。ねぇ、健二」
「あ……ぁ……」

芳雄が知っている明朗なものとは違う、ねっとりとした語調で望は言葉を発し、魂の抜けたような声で健二が応える。

「な、なんなんだよお前ら……っ、なにか、なにかおかしい!」
「なにか……って?例えば……」

恐怖に震える芳雄の前で、望の姿が変わり始めた。手足がメキメキと伸び、身長が同じはずだった芳雄を見下ろすくらいに背が伸びる。

「ボクがこんなに背が高かったりとか?」
「な、なななっ!!!???」

芳雄は、急に大きくなった望を前に、腰を抜かしてその場で倒れてしまう。

「こんなに、髪が長かったり、……声が、大人っぽかったり……?」

ざわざわと伸びる髪。そして、子供のものから女性の大人のものに変わる声。芳雄の理解を超えた現象が、現実となって彼に襲いかかる。

「お、おまえ、まるで、女じゃ……」
「え?これくらい健二でもできるよ……?でしょ?健二?」
「はい、マスター……」

望の後ろで、健二も姿を変えていく。髪が長くなり、体格が華奢になって、あっという間に三人と同世代の少女に変身した。

「け、健二!?」
「……なぁに?……芳雄くん?」

透き通った声にも、誘惑的なしゃべり方にも、健二の面影はない。逃げ場を完全に失った芳雄の前で、望の胸がむくむくと膨らんでいき、ものの数秒で芳雄が見たことのないほどの大きさまでに成長する。

「の、望……そ、それは、お、女の、おっぱい、なのか……?」
「他に、何があるの?」

ゆさゆさと揺れる巨大な乳房と、大きく押し上げられたプリントシャツに浮き上がる突起に、思わず興奮してしまう芳雄。それに気を取られている隙に、芳雄は望に取り押さえられた。そして少女に姿を変えた健二が、芳雄に襲いかかろうとしていた。

「さぁ、芳雄。存分に、精をちょうだいね」
「や、やめろ!健二、お願いだから!」
「……いただき……まぁす」

健二の虚ろな目は、芳雄にロックオンしていた。

「うぎゃああああっ!!!」

救いようのない芳雄の絶叫が、街にこだました。

«  | HOME |  »

DMMさんの宣伝

 

初めての人はこちら

ts_novel.jpg

 

性の揺らぎに関する作品でお勧めのもの

ts_syouhin_20090318225626.jpg

 

性の揺らぎに関する作品(一般)

ts_syouhinもと

 

ブログ内検索

 

最近のコメント

プロフィール

あむぁい

  • Author:あむぁい
  • 男の子が女の子に変身してひどい目にあっちゃうような小説を作ってます。イラストはパートナーの巴ちゃん画のオレの変身前後の姿。リンクフリーです。本ブログに掲載されている文章・画像のうち著作物であるものに関しては、無断転載禁止です。わたし自身が著作者または著作権者である部分については、4000文字あたり10000円で掲載を許可しますが、著作者表記などはきちんと行ってください。もちろん、法的に正しい引用や私的複製に関しては無許可かつ無料でOKです。適当におだてれば無料掲載も可能です。
    二次著作は禁止しません。改変やアレンジ、パロディもご自由に。連絡欲しいですし、投稿希望ですけど。

 

全記事表示リンク

ブロとも申請フォーム

月別アーカイブ

 

最近の記事

 

ブロとも一覧


■ ブログ名:M物語(TSF小説)

 

カテゴリー

新メールフォーム

イラスト企画ご案内

20080810semini.jpg

 

リンク

RSSフィード

2018-02