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「TS男子がメイド学校に通う話」② by ロロ (キャラデザ そらねこ)

「ん……ここは……どこだ……?」
 目が覚めると、知らない部屋にいた。床は板張りで、高そうな絨毯が敷いてある。アンティークっぽい椅子やテーブルもある。中世の英国のお屋敷みたいな雰囲気だ。
 コンコン……
 部屋のドアがノックされて、メイド服を着た美少女が入ってきた。
「まだ新入生が残っていたのですね」
 キリッとした表情。長い黒髪。僕と同年代の子だ。シックなデザインのメイド服を着ていて、本格的なメイドっぽい。
「あなたは桜アリスさんですね。他の入学生たちは既に身体測定を終えていますよ」
「身体測定……?」
 入学生がそんなことをするの?
 いや、それより、僕を入学生扱いしているということは……魔女の言うとおり……。
「ここって、メイド学校なの……? 僕は入学生……?」
「当然です。何を当たり前のことを言ってるのですか」
 メイド服の美少女は呆れたように言った。
「早く支度をしてください。おふざけをしていると、メイド長の権限でお仕置きしますよ?」
「メイド長なの? 君が……?」
「入学式で自己紹介したでしょう。聞いていなかったのですか? アリスさん」
「う……」
 入学式なんて出てないよ……。
 僕の知らないところで、僕はメイド学校に入学して、入学式を出たことになってるのか。魔女の魔法はとんでもないな。
「アリスさん、メイド候補生としての自覚を持ってくださいね」
「はい……」
 僕は仕方なく返事をした。
 話を合わせておいた方がよさそうだ。隙を見て逃げられそうだったら逃げよう。
「それでは奥の部屋で身体測定を行いますから、こちらへ来てください」
「は、はい……」
 僕はメイド長の後ろについていく。
 廊下には壺や鎧、高そうな絵画があった。学校と言うよりは、豪華なお屋敷っぽい。
「こちらの部屋に入ってください」
「はい、失礼します……」
 部屋の中には、メイド服を着た女の子たちが並んでいた。三十人くらいいる。たぶん、メイド候補生たちだ。
 みんな手を前に揃えて、綺麗な姿勢で立っている。メイド人形のコレクションみたいだ。

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「TS男子がメイド学校に通う話」① by ロロ (キャラデザ そらねこ)

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キャラクターデザイン:そらねこ

朝起きたら、胸が大きくなっていた。Fカップくらいある。
 ウエストは細いのに、胸だけ飛び出ていて、ワイシャツのボタンがはちきれそうになってる。
 寝ぼけた僕はあくびをしながらそれを揉んでみた。
 柔らかくてふわふわだ。
 手のひらいっぱいの弾力と柔らかい感触。
 ぷにぷにぷに……
 そんな揉み心地を堪能していると、徐々に恐怖心が湧いてきた。
「あ、あれっ……? これって何が起きてるの……?」
 声が女の子っぽい。
 寝起きなので頭が働かない。
 僕はまだ夢の中なのか?
「っ……」
 僕はベッドから起きて、鏡に向かった。
 歩くとおっぱいがプルプル揺れる。
 重い。
 巨乳は肩がこるという女子の台詞をこれまでエロいニュアンスで受け止めてたけど、当事者になってみると本当に重い。なんで僕が巨乳女子の体験をしなきゃいけないんだろう。
 心の中で愚痴をこぼしながら鏡に到着すると、清楚系の美少女が困惑した顔をしていた。
 パッチリした目、長いまつげ、抜群のスタイル、サラサラのロングヘア。
 僕好みの完璧な美少女だ。顔のパーツが少し僕に似てるので、親しみやすい。
 これが僕じゃなければ、完璧だった。
 でも残念なことに……。
「これ、僕が女の子になってるってことだよね……」
 僕が右手を挙げると、鏡の中の美少女は左手を挙げた。僕がほっぺたをつねると、美少女が涙目になる。
「痛てて……」
 やっぱり僕だ。僕が女の子になってるんだ。夢じゃなさそうだ。
 昨日までは普通の男子高校生だったのに、寝て起きたら女の子になってしまった。
 な、なぜ……?
「佐倉実くん、おはよう」
「ッ!」
 誰もいないはずの背後から、突然声をかけられた。
 おそるおそる振り返る。
「だ、誰……?」
 僕の部屋に見知らぬ美女がいた。
 黒い帽子を被っていて、手には杖のようなモノを持ってる。不審者のお手本みたいな格好だ。
「私はキミに性別逆転魔法をかけた魔女よ」
「ま、魔女……!?」
 そんなファンタジーな人が実在したのか。
 可愛い系とかホラー系とか色々いるけど、この魔女はちょうどその中間くらいの外見だ。しいて名前を付けるならリアル系……?
 そう考えてみると、妙に生々しい。
 帽子は斜めになってるのに、不思議なバランスで頭に乗ってる。杖は木みたいな素材なのに、切り出した痕がなくて、はじめからその形で生えてきたみたいに樹皮がついてる。
「本当に魔女なの……?」
「そうよ。人間界の可愛い子を攫おうと思って、ここへ来てみたの」
「えっ、誘拐目的なの!?」
「まあ、そんなところかしら」
 そんなのんびり犯罪計画を告白されても、どう反応したらいいんだ……?
 ここは逃げるべき? それとも警察に通報するべき?
 でも、それより大事なことがあった。危うく聞き流すところだったけど。
「あなたが魔法で僕を女の子にしたの?」
「そうよ」
「ぼ、僕はちゃんと……男子に戻れるんだよね?」
「戻せるけど、戻さないつもり。私はキミをメイドとして育てようと思ってるの」
「メイド!? ちょっと待って!? どういうこと!?」
 育てるってことは、まさか誘拐のターゲットって、僕なの!?
「魔法の眼で街中を探してたら、すごく可愛い子がいたの。それが佐倉くん。それで、佐倉くんをメイドにしたら、もっと可愛いんじゃないかと思って」
「何その発想!? クレイジーすぎるでしょ!」
 怖すぎる。なんでそんな理由で性別を変えられなきゃいけないんだ。
「ちなみに、佐倉君をメイドにする為の手続きは済ませてあるから」
「手続きって何……?」
「これよ」
 美女は何もないところからポンッと紙を出現させた。
 ナチュラルに魔法を使ってる……もうやだこの人。この人の話を信じるしかないじゃないか……。僕はまだ現実と向き合いたくないのに。
 魔女はパチンと指を鳴らした。
 今度は紙に金色の文字が浮かんできた。こう綴ってある。
「メイド育成……学校…………入学……パンフレット……?」
「そう、この学校で調きょ……勉強すれば、卒業するころには佐倉君もメイドになれるわ」
「今、調教って言いそうになったよね?」
「気のせいよ」
 魔女は無表情で誤魔化した。
 怪しさ満点だ。メイドの学校なんて聞いたことない。こんなところに入学したら、何されるかわからないぞ。
「ちなみに、嫌だと言ったら……?」
「別に、佐倉君に拒否権はないから大丈夫。この学校は全寮制だから、学校に転送させてしまえば、メイドになるまで出られないわ」
 なんだその刑務所みたいな学校。
「嫌だよ……。僕は男子なんだから、メイドなんかにならないよ。それに、僕をメイドにして、あなたになんの得があるのさ?」
「私は佐倉君を私の専属メイドにしようと思ってるの。たくさん可愛がってあげる」
「ッッ……」
 一瞬、二つの意味でドキッとしてしまった。
 一つは専属メイドという奴隷みたいな響きの言葉への恐怖。そして、もう一つは美女に可愛がってもらえるというドキドキだ。
 いや、何考えてるんだ僕は。
 冷静になれ。
 こんなクレイジーな魔女のメイドになるなんて、危険すぎる。ここはなんとしても断るんだ。
「佐倉君、今まんざらでもなかったでしょ?」
「ッッ……!」
 心の中を見抜かれた。
 魔女はそんな魔法まで使えるのか!?
「別に魔法は使ってないよ。でも、佐倉君には女の子の素質があるから。きっと可愛いメイドになると思うよ」
「女の子の素質ってなんだよ……」
 僕は根っからの男子だ。たとえメイドの学校に入れられたって、女子なんかにはならない。
「そのままの意味よ。佐倉君は誰よりも従順な女の子になれるわ」
「そんなわけないよっ……!」
「ふふ、その態度は三日も持たないでしょうね」
 魔女が僕に杖の先を向けてきた。
 魔法を撃つつもりか?
 どうしよう、部屋が狭くて避けるスペースがない。
 しかも、魔女がどんな魔法を使ってくるのかわからない。
「あ、そうそう。最後に一つだけ伝えておくわ。佐倉君の名前は『桜アリス』で入学手続きを済ませておいたから。がんばってね、アリスちゃん」
 そう言うと、魔女の杖が発光した。
 僕は白い光の中に吸い込まれて、気を失った。

②はこちら

魔神とアイツと私と (後編) by.今生康宏 キャラデザ:蜂密柑

作:今生康宏 https://skima.jp/profile/?id=26530 キャラデザ:蜂密柑

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前編はこちら

 その週末。オレたちはデートをすることになった。
 主な目的は映画で、最近よくテレビで番宣をやっている恋愛系の映画だ。それから、映画館の近くのちょっと洒落たカフェで昼食を食べて、後はオレの服なんかも見ることになっている。
 ……突然、女になったオレだが、ちゃんと体は女の生活に適応していて、下着や服の着脱の仕方もわかっている。……さすがに風呂に入る時は、自分自身の体に照れてしまったが、まあなんとかなった。
「ごめん、待った?」
「いや、今来たとこだよ」
「もうっ、集合時間ギリギリだよ?今来たところって、危うく遅刻じゃない!」
「ははっ……ごめんごめん」
 そんなお約束のやりとりを、なぜか最寄り駅でするオレたち。
 どうせ家も近いんだから、一緒に出ればいいっていうのに、総司はしっかりオシャレしてキメてきたところを見てもらいたいから、とわざわざ駅で集合することになった。わざわざ家から遠回りして駅にやってきて、道中で会うことも避けていたらしい。
 そして、そこまで気合入れてしてきた格好っていうのは……。
「どうかな?」
「うん、すっごくかっこいいよ……!」
「なんだよー、それじゃ元々の俺がかっこよくなかったみたいじゃないか」
「そんなことないよー。でも、特にかっこいいってこと!」
「はははっ、ありがとう。広美ちゃんも最高に可愛いよ」
「そう?嬉しいっ」
 ……なんだこの会話。
 でもまあ、総司にしてはがんばった格好かな……とは思う。
 いつもはもっと適当な服を着ている感じなのに、ものすごく贔屓目で見てやれば、雑誌のモデルをしていてもおかしくない……かもしれない。
 でもまあ、そんなのはそれこそ雑誌を読めばできるようなオシャレだ。……果たして、初めて彼女ができたこいつに、ちゃんとデートなんてできるのか?
 オレは半信半疑で、いつかこいつがボロを出さないか、と思いながらデートをすることにした。
 男同士でデートなんて気持ち悪くてやってられないけど、まあ、いつかオレのこの魔法も解けるだろう……それまでは付き合ってやるか、という気持ちがオレには生まれてきていた。
 ……いや、本当にいつか解けるんだよな?特にいつまでとか説明されてないけど、本当にいつまでもこれじゃたまったもんじゃない。……本当、頼むぞ。
「じゃあ、行こっか。……あっ、手、つなごうか?」
「もうっ、駅でいっぱい人が見てるんだよ?それにどうせ、改札通る時は離さなきゃだし……」
「あっ、それもそっか。ごめん」
 早速、こいつはアホなことを……。
 どうせ、恋人だから手をつなぐものだ、とか思っているんだろう。単純なやつ。
「手をつなぐのは、人混みの中ではぐれそうな時とか……そういう時でいいでしょ?」
 そうそう。何も義務感からする必要はない。よく覚えておけよ、総司くん。
「うん、わかった」
 ……ったく、世話が焼けるやつだ。オレだから許してやってるけど、本当に何も知らない女の子なら、これだけで失望されてるぞ。

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魔神とアイツと私と (前編) by.今生康宏 キャラデザ:蜂密柑

作:今生康宏 https://skima.jp/profile/?id=26530 キャラデザ:蜂密柑

「そういう訳でさ、俺は黒髪ロングの身長160センチの彼女が欲しいんだよ」
「……はぁ。そうかよ。というか、黒髪ロングはともかく、なんで身長まで決まってるんだよ?」
「そりゃあ、俺が170センチだからだよ!!」
「えぇっ……?」
「お前、知らないのか?キスする時の身長差は、10センチが一番ちょうどいいんだ!ちょうどいいぐらいにこう、背伸びしてもらえてっ……」
「うわぁっ……」
「うわぁっ、とはなんだ、うわぁっ、とは!!男のロマンだろ!!」
 バカなこいつは、秋山総司。一応……オレの親友だ。ものすごく不本意ながら。
 見ての通り、清々しいほどバカで、可愛い女の子のことばっかり考えてるナンパなやつ。その癖、女の子に好かれる努力はしてないし、自分から女の子に声をかける勇気もない。本気である日、空から女の子が降ってこないかな、とか考えちゃうタイプの夢見がちなやつだ。
「彼女が欲しけりゃ、努力しろよ。そろそろ中間テストだし、ちょっとはいい点数でも取ったら、女の子の見る目が変わるかもしれないぞ」
「努力ねぇ……俺が一番嫌いな言葉だからなぁ」
「……ダメだこりゃ」
「いいよなー、お前はちょっと勉強するだけでいい点取れて」
「ちょっとって、ちゃんと努力してるから結果が出てるんだろ」
「へーへー、宏樹は昔っからそうだよな。まっ、彼女いないのは同じだけど」
「オ、オレは作りたくないから作ってないだけだ」
「彼女できないやつの決まり文句だよなー。なら、俺みたいに彼女ほしーって言いまくってる方が健全と思うぜ」
「なんだってぇっ……!!」
 ――なんて、一緒に登校して来ながら、馬鹿騒ぎをし合う。
 これがオレ、大河宏樹の当たり前の日常だ。確かに女っ気はないけど、男友達同士でバカやってる、最高に無駄で、有意義な時間。だが、それはすぐに一変することになる。
 “それ”は、そこにあるのが当然のことであるかのようにして、道端に転がっていた。
「なんだ、これ……?」
 古びた、土汚れの付いたランプ……だろうか。そう、童話なんかに出てくる、魔神が出てきそうな魔法のランプ。
 正直、こんなゴミに興味はなかったんだけど、オレはなぜか拾い上げてしまっていた。
「おっ、なんだなんだ?願い事でも叶えてくれるのか?」
「だからお前、夢見すぎ。……まあ、こんなのが転がってるなんて不思議だけどさ」
 隣から総司が茶化してくるが、なんとなく気になったオレは――そいつを磨いてみる。すると、ランプの口から、妖しげな煙が噴き出して――。
「うわっ!?」
 思わず俺は、ランプから手を離して、そのまま地面に落としてしまった。
「あたっ!?」
「しゃ、喋った!?」
 慌ててまた俺はランプを拾い直す。すると、煙の中から小さな女がにゅいっと出てきていた。
「当然、喋るに決まっておろう!……妾はこのランプの魔神。いきなり妾を地面に放るとは無礼千万……じゃが、妾を呼び出したのはお主のようじゃな?」
「あ、ああ…………」
 魔神はオレの方を見つめてきて、どこか満足気に笑う。
「ならば、お主が妾のご主人ということになる」
「お、おおっ……!おいおい、これはお決まりの展開なんじゃないのか、宏樹!」
「……うるさいな。ていうか、お前本物だよな……?」
「妾を疑うか?まあ、無理もない……実際に願いを叶えれば、信じたくもなろう。――ならば、選ぶがよい。妾はお主の選んだ人間の願いをひとつだけ、叶えてやることができるのじゃ」
「えっ、オレの願いじゃなくて、か?」
「うむ。何、そこの少年はお主の友人じゃろう?そやつにお主にとって都合のいい願いを言ってもらえばよい。もっとも、妾への願いは相談しては無効になるから、必ずしもお主の望む通りの願いをそやつが言うとは限らんが……」
「…………総司に。こいつに任せるのか……」
 こんな適当なやつに、せっかくの願い事を叶えるチャンスを任せていいのか?
「おい、信じてくれよー!悪いようにはしないって、だって俺、お前の親友だぜ!!」
「いや、だからこそ信じられないんだが……」
「ひでぇっ!!なーなー、魔神さん。俺でいいと思うよな?」
「ご主人が決めない限り、妾はなんとも言えんな。――妾も早く次の仕事に行かねばならんのじゃ、早く決めてもらいたいのだがのう」
「魔神にシフトとかあるのかよ!?」
「このままだと、願いを叶えずに行かねばならんかのう――」
「わかった、わかったよ!願いはこいつ、総司に言ってもらう!それでいいんだろ!!」
「よしきた!じゃあ頼むぜ、俺の願いは――」
 そしてまた周囲は。そしてオレの体は煙に包まれた――なぜだか、甘い香りがする……?
 そして、それが完全になくなった時――ランプもまた、消滅してしまっていた。魔神の言葉によれば、次の仕事先に行ったんだろう。
「おーっ!!すげー!!」
 そして、こいつはどんな願いごとをしたんだ、よ……っ!?
「総司くん!私、総司くんのこと大好き!!!」
「おお、そうかいそうかい。可愛いなー、広美ちゃんは」
 広美?誰だそいつは……いや、それよりっ……!
「んーっ、ぎゅーってしちゃうっ!!」
「はははっ、そんなに体を押し付けてきたら……胸が、当たるよっ……」
 オレは、なぜだか総司に抱きついていた。そして、胸でこいつの腕を挟み込むように抱きしめる。……胸?
 それに、目線の高さがさっきよりも低い気がする……見上げないと、総司の顔が見えない。
 まさか、総司……!お前っ……!!

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キャラデザ:蜂密柑

「いや、本当にすげぇな!可愛い俺のこと大好きな女の子が欲しいって言ったら、本当に出てきちまった……!!しかも黒髪ロングで、身長はちょうど俺より10センチ低いぐらいで……なぁっ、広美ちゃん!!」
「はいっ……総司くんのこと、大好き過ぎて、総司くん好みの見た目になっちゃいましたっ……」
「ありがとう、ありがとう広美ちゃん!!」
 いや、誰が広美だぁっ……!!オレは宏樹だ!!てめぇ、いい加減に……!!!
「……まあ聞けよ。広美ちゃんの中の宏樹。俺は本気でお前のこと……好きだったんだ。友達としてじゃない。……人間として。もっと言えば、パートナーとして……」
 なっ……お、お前っ…………。
「まあ、ウソだけどさ。まさかお前が美少女に変身しちゃうとは思わなかったよ。でも、全く知らない彼女ができるより、ずっとやりやすいよな」
「うんっ、私も総司くんとこうなれて……すっごく嬉しいよ」
「おぉーっ、そうかそうか。いやー、俺たちの相性、ぴったりだよな!」
 だ、だから、なんでこんなこと言ってるんだ、オレ……!
 こいつは総司だぞ?オレの男の友達なのに、なんで平気でこんなことを言うことができているんだ。
「ところで、広美ちゃんは普通に学校行けるの?」
 そんなことオレに言われても、知ったこっちゃない。
 とりあえず、行ってみればわかることだろう……クソッ、本当にこのまま生活しなきゃいけないのか……?寝て起きたら、魔神の魔法が解けているんじゃないか?それとも、これが全部夢なんじゃないのか……?
 もしも夢なら、起きてすぐに総司をぶっ飛ばしてやろう……そう考えながら、広美は普通に登校していった。


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美少女になるための学校に無理やり編入される男の子③ 作:Kiro キャラデザイン:雪島べま

雪島べま

最初から読むならこちら

「……」
 明日もまた、授業を受けねばならない。
 それならデートの授業を続ければ、自ら女へと踏み出す必要はないのだ。
 天井を見上げながら、そう思う彼の心はひっそりと侵食されていく。
 何故黒髪が難しい道だったのか、どれだけの苦労を重ねて楓の様な子ができたのか。
 気になると同時に、彼女が微笑みながら歩く姿から目が離せない。
 顔や胸元ではなく、何故か揺れるスカートの端に胸がときめく。
 今更パンチラに興奮するフェチでも湧いたのだろうかと思えば、嘆息を零しつつ寝返りを打つ。
「このままじゃ、ここ出れねぇよな」
 全寮制の学校を出ていけるのは、少女になった者だけ。
 それ以外の方法を模索して、男として出ていく方法もあるはずだ。
 しかし、重ねたデートの記憶が女への興味に変わってしまう。
(「なんなんだよ、まったく」)
 彼も気付かぬまま、その身体は変化を与えられていた。
 そもそも、性別というのは生まれる時のホルモンの与え方によって決まる。
 男性なら男性ホルモンを、女性なら女性ホルモンを、それは誰にでも分かるだろう。
 しかし。トランスジェンダーが生まれる要因も、そこにあると言われている。
 身体が形成される時、そして脳が形成される時の2つに分けてホルモンが分泌される。
 その際、何らかの要因で後者のタイミングでホルモンが少なかったり、逆のホルモンを浴びてしまう事で、身体と心が離反するのだ。
 身体は出来上がってしまい、その器に違う心を埋め込まれる。
 だが、それを敢えて利用しようと考えたのがこの政策の一環であることは、公に伏せられていた。
 秋良達が口にする食事には、普通とは異なるホルモン剤が混入されているのだ。
 体内に吸収されたそれは、脳へと至り、脳内のシナプスに働きかける。
 麻薬の投薬のように、脳を徐々に書き換え、身体と離反させていく。
 あとは何かのきっかけさえあれば、心身が綻びるのだ。
 秋良の様に、楓という心惹かれる少女が現れるだけでも十分なのだ。

 翌日、秋良は自ら女装の授業を覗きに行った。
 女へ変わるための苦労をみたい、というのもある。
 しかし、自分のような男が女に変わるわけがないという諦めを裏付けたかった。
 廊下の窓から教室を覗き込むと、その日に限って何故か生徒はいない。
 代わりに、妙齢の女性が化粧道具や洋服の手入れをしているのが見える。
「……あら」
 目元の黒いアイラインと、赤い唇が印象的な女教師が顔を上げ、彼に気付く。
 目を細めながら立ち上がると、足早に窓へと近づき開いていった。
「飛び込みの生徒かしら、綺麗な子ね」
「なっ!? ち、ちげぇよ、俺は」
 かっこいいと言われることはあっても、綺麗と言われたことはない。
 全く違う褒め言葉に面食らった様子で視線をちらし、秋良の言葉がどもる。
 クスクスと微笑む教師はドアへと移動し、そこを開いて廊下へ抜けていった。
「そう? でも興味ぐらいはあるんじゃない?」
 グイグイと引き寄せるような勢いの女教師。
 それに言葉が詰まる中、一つの言葉が胸を貫いていく。
 興味ぐらいはあるんじゃない? それを全く否定できない。
「それは……」
「ほらね、決まりっ、さぁ行きましょう?」
 チラチラと教師を見上げながら呟くと、はいはいと微笑みながら彼の手を捕まえる。
 こうしてみてみると、180cm超えの背丈をした彼女は随分と大きい。
 そのまま引きずられるように、秋良は教室へと連れ去られた。
 粉と香水の香りに満ちた、女の世界に。
「君、こういうの初めてでしょ? ちょっと雰囲気だけ味あわせてあげるわね」
 肯定も否定もするよりも先に、鏡の前に座らされる秋良。
 一体何をしようというのか。
 鏡の後ろでいそいそと準備する教員を眺めながら、疲れた表情で溜息を零す。
「これでよしっと、じゃあ始めるけど、目つぶってた方がいいわよ? その方が抵抗ないもの」
 絵の具のパレットのように散りばめられた、カラフルなアイシャドウのケース。
 筆も絵画用とは違うが色んな毛先や形状があり、鏡越しにそちらへ視線を向けていた。
「わぁったよ、勝手にしろ」
 ここまで来て嫌だと言っても許されないのだろう。
 哀れなオカマ顔を見て、現実へ戻ろうと翡翠色が閉ざされていった。
「~♪」
 鼻歌混じりにメイクを始める女教師が、その顔に何かを塗りつける。
 絵の具のようなベタッとした感触、そしてそれを塗り拡げるパフの感触は慣れない。
 肌に張り付く油がこんなにも嫌なものとは思いもせず、母親が直ぐにメイクを落としたがるのも分かる気がした。
 ポフポフと肌を柔らかな感触が叩き、濡れた肌に粉が吸着していく。
 目元をなぞる感触も、瞼を軽く小突く毛先も全てが鬱陶しい。
 おまけにヘアネットで尖った髪を抑え込まれてしまうのも、何だか慣れない。
 数十分ほどだろうか、最後に唇に張り付く油の感触を覚えながら、どうぞと囁かれた。
「……」
 ゆっくりと翡翠色が広がっていくと、怪訝そうな顔が崩れていく。
 桜色の唇が半開きになりながら、切れ長だった瞳が子供の様に大きく見開かれる。
「これが……俺…?」
 下地に合わせたのは、自然な色合いのファンデーション。
 首筋との境界線も曖昧で、無理に白く染め上げるよりも綺麗に凹凸を塗り潰す。
 目元は、焦げ茶色のアイライナーでパッチリとした仕上がり。
 眉も一度専用の化粧品で全て塗りつぶし、そこからライナーで細い眉を形成していた。
 アイシャドウは少しだけ冒険。
 瞳の下にピンク色を乗せ、瞼にベージュと可愛らしく。
 チークは薄っすらと桜を乗せ、唇はシミ消しのコンシーラーと併せて口角の尖りを消したもの。
 髪はゆるふわのフェミロングヘアのウィッグをかぶせてあった。
 これは顔のラインを隠しながら、小顔に見せる視覚効果だ。
「君、綺麗だから可愛い系も綺麗系もどっちも行けるけど、若いから可愛い系がいいなぁ~って。甘すぎないように、ちょこっと大人びた感はいれたの」
 自信満々に、女教師が耳元に囁きかける。
 鏡に写りこむ彼女の顔は満面の微笑みであり、背中越しに鏡を見やりながら両肩に触れた。
「……なぁ、黒髪って難しいのか?」
 自分をこれだけ簡単に女顔にした相手なら、この答えを知っているはず。
 感想よりも先に、鏡に映る彼女へその問いを投げかけた。
「黒髪ね、そうね~……男の人が黒髪で女の子すると、どうしても暗い感じだったり、日本人形みたいになって、変なのよね」
 身体のパーツが男だから、そう付け加えながら苦笑いを浮かべる。
 楓は、そんな違和感すら感じないほどの装いを見せていた。
 薬で身体を女体化しつつあるとはいったが、男らしい筋肉やラインは日々のシェイプアップや手入れで形成されるもの。
 一朝一夕で出来たものではない、彼女の少女に向ける想いに息を呑む。
「楓ちゃんとデートしてたのって、もしかして君?」
 女教師が耳元に唇を寄せ、そっと囁く声に身体が小さく跳ねる。
「っ!? な、何で知ってんだよそんなことっ」
 何故と顔に驚きとなって浮かぶ中、彼女へ振り返っていく。
 クスッと可笑しそうに笑う女教師は、傍らの椅子を引き寄せると、そこへ腰を下ろす。
「私の教え子ですもの、貴方のこと楽しそうに話してたわ」
 二人の間のことが、全て筒抜けになるような心地。
 実際、カラオケでのことは流石に口にしていないだろうとは思う。
 それでも恥ずかしくて顔が赤くなっていく様子は、彼女から見ても少女そのものに感じた。
「出来れば、無理矢理じゃなくて理解しながらここを出れたらいいなって心配してたわ」
 それと、と呟きながら何故か女教師は目を細める。
「卒業近くなってから、スカートに視線が集まってる気がするって。エッチな気分のせいかしら、それとも……スカートが気になるのかしら?」
 どくんっ!!
 鼓動が爆発しそうなほど膨れ上がり、わかり易いほどに瞳を見開いた。
 その顔を隠そうと勢いよく顔を反らしたが、それすらも肯定しているのと同じだ。
 クツクツと微笑み方が嗜虐的に変わっていくも、冷静さを欠いた彼が変化に気づくことはない。
「なら着てみるといいわ、違うなら、嫌な感じだけのはずだから」
 ――そうだ、それで嫌だといえばいいんだ。
 彼女の言葉にすがるような思いで脳内で繰り返すと、小さく頷いた。
 言葉で否定しても、何処か振り払えない。
 ずっとずっと脳内に引っかかるモヤは、時間が立っても抜けきらない。
 ならば、自ら振り払うべきだと椅子から立ち上がった。

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美少女になるための学校に無理やり編入される男の子② 作:Kiro キャラデザイン:雪島べま

 男女として過ごす練習ということもあって、校外への外出も許可されている。
「どこに行きたい?」
 舵取りの最初は女性へ渡し、特になければ相手に合わせた最適な場所へ導く。
 普段と変わらぬデートの切り出し方をしているが、それだけ彼が楓を少女として扱っている証拠だ。
 ある意味、ツクリモノと言われる存在を紛い物と言えない現実は怖いもの。
 微笑み合う二人は、お互いを本物だと信じているのと変わりないのだから。
「カラオケに行きたいです。こうしてお話できた時に備えて、たくさん頑張ったんですよ?」
 何を頑張ったのか、はてと首をかしげるもご要望とあらば進むのみ。
 そのままありふれたカラオケ店のビルに向かうと、2時間ほど確保して部屋へ。
「~♪」
「……ははっ、マジか」 
 女性向けの歌謡曲、流行りの歌の中でも彼女が歌唱するのは甲高い声が必須となるもの。
 膝を揃えて座ったまま、胸元でマイクを握ったままモニターの歌詞を見つめる。
 薄桜色のリップが塗られた唇が艷やかに開く度に、甘い甘い声がメロディとなっていく。
 彼が驚きの声を溢したのは、その違和感の無さと上手さだ。
 歌い方の仕草一つとっても御令嬢そのもので、ちょこんと座った姿から崩れることはない。
 裏声ではなく、はっきりと地声のように響く少女声の歌も音程とリズムが保たれる。
 声出すだけではなく、声を自分のものにした証拠とも言える姿。
「――いつまでも、そこにいてね?」
 最後の歌詞、愛する人に再び会う事を明るく誓うフレーズ。
 微笑みながら軽く首を傾げ、人差し指を斜めに傾けてウィンクをする。
 彼女ものめり込んでいたのか、PVで見せる本人と同じ仕草だ。
 きゅぅっと胸の奥が締め付けられるような心地と共に、瞳孔が僅か絞られる。
「――っ、ご、ごめんなさい。忘れてくださいっ」
 そのポーズのままでいた彼女だが、数秒後に爆発するように羞恥が込み上がったようだ。
 みるみるうちに耳まで真っ赤になる。
 マイクに素っ頓狂な声をぶつけながらソファーに倒れると、顔を押し付けて隠していく。
 嗚呼、可愛い。
 男がこうも女になれるものだろうかと思いつつも、思わずにニヤけているのに秋良は気付かなかった。
 他愛も無い会話と、歌を交えながら時が過ぎ、15分程の中途半端な時間が空いてしまう。
 少し息切れ気味に肩を揺らして息をする楓に、一休みしようかと声をかけたのは秋良だった。
「しかし……どこからどう見ても、もう女の子だよ。楓は」
「ふふっ、良かったです。安心しました」
 上品な微笑みも、まるでイヤミがない。
 時折電車から見下ろした先にいる、お嬢様女子校の少女達と何ら変わらない。
 だが、よくよく見ると小さな違和感が一つだけある。
 胸元の小ささ、だがそれはスレンダーだと言えばいいのだろうか?
 何となく視線がその辺りに向かっていたのか、楓の頬が徐々に朱色に染まる。
「あまり……そんなに見られると……」
「ぇ、あっ、わ、わりぃ……! そうじゃねぇんだ、その、あー……」
 胸元を抱くように隠す彼女から、バッと顔ごと視線をそらす秋良。
 どんだけ初な男になっているのだと、己を叱りつける脳内。
 だが、その行動の理由は考えずとも明らかだった。
 少しずつ開く唇は、ためらいがちに声を絞り出す。
「……信じられねぇんだ、楓が男だって」
 そろりと視線を向けると、まだ頬の熱が引かぬ楓の顔がみえる。
 さらりと流れる黒髪が、ぱっちりとした焦げ茶色の瞳を隠していく。
 白と黒のコントラストが艷やかで、上品なのに何処か子供っぽい一面も併せ持つ。
 なのにツクリモノ、自分と同じ同性だというのだ。
 色んな奴らがグルになって、自分を騙そうとしているのではないか?
 信じられないという気持ちが強く、膝の上に乗せた掌がスラックスに皺を寄せる。
「素直ですね、秋良さんって……それに優しいです」
「何だよそれ、答えになってねぇし」
 安堵の微笑みを浮かべながら俯く楓に、拗ねたように呟きながらそっぽをむく。
 いきなり大人びた答えを掛ける彼女。
 それがまるで、自身の先を行くかのようで男のちっぽけなプライドに傷がつく。
「……確かめ、ますか?」
 震える声に、へっ? と間抜けな声を上げてしまう秋良。
 再び彼女を見つめると恥じらいに頬は上気し、彼の視線から逃げるように濡れた瞳を逸らす。
「……男の人の、あるかどうか……触ればわかりますよね」
 黒いスカートの下、その下も厚めの黒タイツが素肌を隠し、厳重に白を守る。
 そこへの侵入を許す声に、秋良の鼓動はどんどん加速した。
 なんと言えばいい、何と答えればいい。
 そんな事を考えるのも、答えるのも野暮な気がした。
 無言のまま身を乗り出すと、細い方を抱き寄せながら秋良はスカートの中へ手を忍ばせる。
「あ……っ」
 触り心地のいいタイツの上を掌が滑り、太腿をなで上げながら禁忌へと近づく。
「……ちっちぇ」
 ビキニラインを通り抜け、とうとう中央へと指が届く。
 ふにゅりと感触を押し返すのは、たしかに雄の印だった。
 けれど、まるで赤子のように小さく、そして固さもなくて柔らかなそれは、妙な興奮を煽る。
 呟きながら、何度か指で突っつくように撫で回すと、腕の中で楓の身体が跳ねていく。
(「何だよこれ、すげぇ可愛い……」)
 瞳をギュッと閉ざしながら、曲げた右手の人差し指を唇に押し当てながら、必死に声を堪える。
 クリトリスと同じなのだろう。
 亀頭の辺りを優しく突っつくだけでも、腰が大きく震えていた。
「ひっ……んぁ、あっ……あ…っ」
 その波がどんどん大きくなり、こそばゆい声が次第に唇から溢れる。
 もっと聞きたい、もっと溢れさせたい、崩したい、溶かしたい。
 いつもの相手を征服するという、雄の欲とは全く違う気持ち。
 この綺麗で可愛い彼女の平常を崩して、溶かしてしまいたい。
 無言のまま、ぎゅっと肩を抱き寄せながら指のタップは加速する。
「ひんっ、ぁ駄目っ、だ、駄目っ、い、ぅぅっ、イ……く、ぅぅ――っ、ぁ、ぁぁ」
 くんと仰け反っていく白い喉に、僅かに出っ張りが見える。
 総身が壊れた玩具のように激しく震えると、甲高い声を抑えるように掌を唇に押し当てていた。
 何度も痙攣を繰り返しながら、大きな波が過ぎ去る。
 ぱたりと彼の方に寄り掛かりながら、荒い息が胸板をくすぐった。
「……意地悪、です」
 翡翠色を見上げる焦げ茶の瞳は、一瞬だけ視線を重ねた後、直ぐにそらされる。
 濡れた瞳から僅かに涙がこぼれ落ちるも、それは快楽に溢れた甘露なもの。
 可愛いと改めて思うも、今更ながらにハッとなにかに気づいた。
「わりぃっ! パンツの中、汚しちまって……」
 男の絶頂にはつきものの白濁が、ショーツの中で暴れているはず。
 いきなり相手の服を汚させるのは、なかなかにNGな行為。
 最初からマズイ行動をしてしまったと慌てふためくも、淡い噛み跡の残る人差し指が彼の唇に添えられた。
「女の子……に、なりたいから、もう白いのはそんなに出ません。あと、ナプキン、付けてたので」
 気分を高めるためにと、小さく呟く声と共に俯く。
 確かにタイツやショーツとは異なる分厚い何かを感じていたが、それだったとは思いもせず。
 何度か瞳を瞬かせると、クツクツと笑いながら改めて楓を抱き寄せる。
 そんな甘い雰囲気を切り裂く、5分前のコールが鬱陶しかった。

 その日の夜、自室で見慣れてきた天井を見上げていた。
 そのまま一緒に夕食を食べた後、学校へと戻ってそれぞれの寮へ戻ったのは数時間前。
 今日のことを思い出しながら、次の授業の事を考えていた。
(「あんなになれるなんてな、男が」)
 楓は元からあんなお淑やかな子だったのだろうか?
 自分のような跳ねっ返りで、ヤンチャな少年だったとは思えない。
 きっと、図書館で本の虫になりながら、穏やかに微笑む優しい少年だったのではないか?
 彼女がどうしてああなったのか、それが気になったのが一つ。
(「楓と……誰かがデートすんのか」)
 次のデート、その時に自分以外の男が手をのばすのだろうか。
 そう思うと、嫉妬に似た感情が胸に去来し、チクチクと奥底を痛めつける。
 男が男に嫉妬するなんて馬鹿馬鹿しい、同性同士ではないか。
 けれど、カラオケボックスの最後の一コマは同性だなんて忘れていた。
 悔しいが、学校の理念たる少女にするという集大成に心奪われた結果とも言えよう。
「……続けりゃ、フザケたことしなくて済むんだ」
 まるで己に言い聞かせるようにつぶやき、秋良は起き上がる。
 傍らに放り投げていた携帯電話を手に取ると、森崎の番号を呼び出す。
「……俺だよ、朝倉。好きにやっていいんだろ、じゃあ今日と同じ奴ならやってやるよ。あと、相手はあの娘……楓なら許す」
 上から目線の言葉だが、素直ではないお強請り。
 それに電話の向こうの森崎は、満面の笑みを浮かべて承諾していった。

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美少女になるための学校に無理やり編入される男の子① 作:Kiro キャラデザイン:雪島べま

雪島べま

 地球温暖化、水質汚染、環境破壊。
 それらの結果なのか、それとも生命の進化の果てにきたのか。
 人の世界に小さな変化が生まれ、大きな社会問題へと発展した。
 種の維持に個を殺すのは、果たして正しいのか?
 それを議論しなくなった世界は、もう壊れているのかも知れない。

「わりぃな、無理だ」
 とある高校の一コマ、学校の裏庭に呼び出された男子が苦笑いで呟く。
 ライトベージュの髪に染まった長めの髪は、彼の気の強さを示すように、不規則に毛先を尖らせていた。
 翡翠色の瞳には自信が満ち溢れるのも、眉目秀麗といった顔立ちのおかげだろう。
 目の前に居る少女も、彼に見合った可愛らしさがある。
 ライトブラウンのセミロングヘアに、焦げ茶色の丸い大きな瞳。
 童顔気味ながらも、少女らしい愛らしさのある顔は悲しみに包まれる。
「俺さ、もうちょっと身体が大人っぽくないとグッと来ないんだよね」
 少女の体は発展途上といったところで、胸元は淡い膨らみ程度しかないが、臀部はまだ揉み応えがありそうな発育具合。
 しかし、その青い果実の酸味は嫌いだった。
 そんな…… と、言いたげに開かれた唇を遮るように、彼は踵を返す。
「そういうわけで、じゃあな」
 ひらひらと掌を振って歩き出すと、後ろで少女が崩れ落ちる。
 嗚咽の声も今となっては耳障りで、鬱陶しそうに半目閉ざし、彼は歩き続けた。

「をっ、帰ってきたな。茜ちゃん何だって?」
「あ゛? お付き合いしてくださいだとさ」
 教室の引き戸を開けると、悪友のニヤケ顔の問いが飛び込んだ。
 げんなりと言った様子で即答すると、彼は自分の席に座る。
 それで? と言葉を続ける悪友に、頬杖を付きながらニタリと笑ってみせる。
「振った。ガキくせぇ女は趣味じゃないってな、まぁ、角立たねぇ様に……もうちょいやんわり言ったけどな」
 彼の悪人面に、悪友はくぅっ! と唇を噛み締めながら天井を仰ぐ。
「もったいねぇっ!! 滅茶苦茶可愛いじゃん! お前絶対後悔すんぞ!」
「誰がするかバーカ! 俺はな、もっと胸があって面倒くさくない女が好きなんだよ」
 この自信に満ち溢れた言動も、振る舞いも、彼らしいと言えるものだった。
 朝倉 秋良(あさくら あきら)。
 クラスでも一番の美男子であり、生意気小僧である。
 本気になれないまま付き合い、飽きてきたときが面倒なのだ。
 長い経験から心の中で思うものの、口にすれば友人達には羨ましい悩みだとやっかまれるだけである。
 だからそれらしい理由を並べてあしらい、ただ面白おかしく過ごす。
 青春の合間は火遊びを楽しまねば、その時期を失うのを幼いなりに理解してのことでもあった。
 今日も明日も、このくだらない日常を楽しんでいく。
 それが誤りだとは気付かぬまま……。

「ただいまーっと」
 放課後となり、いつものように帰宅。
 靴の踵をすり合わせるようにして革靴を脱ぐと、そのまま自室へと向かおうとする。
「秋良、ちょっと来なさい」
 リビングから顔をのぞかせた母親が、彼を呼び止める。
 なんだよと悪態をつこうと顔をしかめたが、普段と違って何処か気落ちした表情に声は続かない。
 わかったよと小さく呟くと、そのままリビングへ。
 扉を開くと、そこにはスーツ姿の体躯のいい男が二人。
 学校の教員というよりは、まるで警察からやって来た覆面刑事といった印象。
 それも、こちらへと向けられた眼鏡越しの視線の鋭さに、彼が僅かに萎縮したからだろう。
「君が秋良くんだね、私は聖(セント)ラナンキュラス学園の森崎。こちらは私の部下の山下だ」
 森崎と名乗った男はメガネを掛けた、胸板の広い男だ。
 髪は短くオールバックといった雰囲気に整えられており、やはり学園の男とは見えない。
 傍に居た山下は森崎ほどの厳つさはないものの、やはり体付きはハッキリしている。
「ど、どーも……」
「ははっ、すまないね。唐突の訪問で困惑しているだろう。既に親御さんには話を終えたんだが、君を転校させる必要が出たんだ」
 ぎこちない挨拶に対し、森崎は明朗な人当たりで説明を並べていく。
 転校? と首をかしげる彼へ、森崎は微笑みのまま近づき、書類を差し出す。
 なんだろうかというように首を傾げ、書類を受け取る秋良。
 しかし、そこに記載されていた事実に瞳を大きく見開くのだった。
『第12回 性別均一化政策該当者へのご案内』
 近年、この国だけでなく、色んな国で出生率に大きな変化が発生した。
 子供が少ないというのは、先進国では話は上がるところだが、問題はその割合である。
 男性の割合が多く、女性は毎年二割しか生まれない異常事態が発生しているのだ。
 遺伝子の変化、あるいは種の保存として人間を減らす無意識の本能か。
 どちらにしても、看過できない減少である。
 そこで政府が12年前より開始したのが、この性別均一化政策だ。
「はぁ!? このオレがなんで、美少女になるための学校になんて行かなきゃなんねーんだよ、ふざけんなっ!」
 嘘だというように頭を振り、書類を握りつぶすように丸めて床に叩きつける。
 彼の行動に、森崎は困ったように嘆息を溢しながら口を開く。
「先日の身体検査で血液検査があっただろう? あれで、君の遺伝子に適正があることを確認したんだ」
 脳裏によぎるのは、健康診断の時のことだ。
 血液に異常がないかのチェックということで、全校生徒の採血が行われたのを思い出す。
 痛ってぇよな? なんて言いながら友達と笑いあい、腕を抑えていたあの日。
 まさか、自身の遺伝子を調べられていたとは思いもしなかった。
 この制作の対象者は、まず遺伝子に適正があるかを調べる必要があるのだ。
 適性ありと見つかった、若い少年だけを対象とし、特殊な薬物投与によって変化を促す。
 少年から少女へ、そして女性へ。
 彼は今、男性失格の烙印を押し当てられそうになっているのだ。
「まぁ落ち着いて欲しい、我々も無理強いしに来たわけではない。別の方法で回避も可能なのでね、それの提案も仕事の一つだ」
 わずかに差す希望の光、それに不安に揺れる翡翠の瞳孔が男を見上げる。
 これだというように彼に寄り添うように近づき、書類を見せようとした。
「っ……!? て、めぇ……」
 その瞬間、まるで暗殺術のごとく静かに彼の首筋へ注射針を突き刺す。
 注入された劇物は、強制的に彼の意識を剥ぎ取っていき、深い眠りへと落としていった。
 彼に見せようとした紙は、政策に対するただの説明書き。
 抜け道なんて、存在などしていなかったのだ。

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ドッペルゲンガーの君と俺 (作:なつのみ イラスト:ジンドウ) 後編

作:なつのみ https://twitter.com/NA_TSU_NO_MI
イラスト:ジンドウ https://www.pixiv.net/member.php?id=14186691

前編はこちら

「はぁ…はぁ……」

ここまで来れば…。

「あれ?美咲ちゃん?」

声をかけられた方を向くと斉木がいた。
部活終わりのようで汗が少し見える。

「斉木…くん…」
「こんな遅くにどうしたの?あ、その服かわいいね」
「あ、これ、繁華街のおばさんのとこで…」
「田中さんのとこだね!すごく似合ってるよ!」
「え、あ…ありがとう」

顔がとても暑い。
斉木の顔から眼を逸らして、両手で顔を覆う。

「美咲ちゃん、最近会えなかったから嬉しいよ。そうだ!今日俺の家で飯食う?」
「えっ、悪いよ…」
「いいじゃん!美咲ちゃん一人暮らしで寂しいでしょ?今日俺んち親いないけどそれでもいいなら!」

少し考える。
特に夕食の準備はしていない。
それなら、と考えることをやめた。
いつの間にか一人暮らしになっていた自分の境遇に違和感を覚えることはない。

「じゃあ…ごはんだけ」
「うん!じゃあ行こうか!」

自分はとても幸福な気持ちになって少し背伸びをして斉木の家へ上がった。

「荷物はそこに置いといて、手洗ってきて!」
「うん」

昔から知っていたような初めて来たような不思議な感覚に陥る。
二階建ての一軒家で、特に迷うことなく洗面台に来る。

「あ…」

髪が少し乱れている。
夜風に煽られたからかと考えながら軽く手櫛で整える。

「美咲ちゃーん!ちょっと二階来て!見せたいものがあるんだ!」
「うん、今行く」

私はとたとたと足音を立てながら階段を登る。
そしてとある扉の前で立ち止まる。
ガチャ、と扉が開く。

「入って」
「…」

中は斉木くんの部屋らしく私は言われるがまま入る。
ドンっ

「きゃっ」

ガチャッ
突き飛ばされた音、私の悲鳴、鍵の音、全てが一連の流れのように思えた。

「美咲ちゃん…」

斉木くんがベットに倒された私に覆いかぶさる。

ジンドウさん 挿絵完成

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ドッペルゲンガーの君と俺 (作:なつのみ イラスト:ジンドウ) 前編

どっぺる表紙完成

作:なつのみ https://twitter.com/NA_TSU_NO_MI
イラスト:ジンドウ https://www.pixiv.net/member.php?id=14186691

「お前って妹か姉いたっけ?」

昼下り、都会の高校で悪友はいきなり馬鹿なことをいう。

「俺は一人っ子だって前にも言ったことあったよな?」
「そうだよなぁ…」

やつはいつになく真剣な面持ちで首をかしげている。
確かに兄弟が欲しいなんて思ったことは何回か思ったことはある。
しかしもう高校生だ。
さすがに今になって妹が欲しいなんて親にどんな顔をするのだろう。

「実はさ、最近三崎に似た同い年くらいの女の子を見かけるようになったんだよ」
「ふーん?」

自分に似た女の子というワードに心が惹かれた。
従妹の可能性を疑ったが父の実家は仙台で母の方に年齢の近い肉親はいない。
だとするとやはり気になる。

「先月に駅前の喫茶店でたまたま見つけてさ。
ほら、先々月開店したから試しに行ったところな。
それがまあまあかわいい系でさ」
「俺に似てるってその時点で思ったのかよ?」
「いや、その時にはそんなこと思わなかったんだけどその後もう一度その子に会ったんだよ」
「会った?見かけたんじゃなくて?」
「そう、文字通りさ。しかも俺の名前を知ってたんだ!びっくりしたよ。
そんでよく見たら目とか鼻だったりのパーツが三崎に似てて俺のこと話したんかなって思ったわけ」
「そうか…ちなみにどこで会ったんだ?」
「それもさっきの喫茶店のある繁華街だね。一人で歩いてたよ。俺と目が合った時に微笑んでくれたんだぜ!にこってな!」

どうやら嘘を言っているようには思えない。
普段適当な感じが目立つため余り鵜呑みにしないのが正解なんだが、こいつの想像力でここまで現実味のある流れは作れないだろう
なんだかモヤモヤした感じが残るが丁度今日は放課後暇なためついでに繁華街へ寄ってみるか。

「あ、その顔は興味津々だな!ちなみに俺は部活あるから行くなら一人で行けよな!」
「まあそんな都合よく会えると思ってないさ。本当に信じたわけでもないしな」
「ははは!でも会えたら連絡先聞いといてくれよ。俺結構好みなんだよね」
「お前巨乳好きだよな、その子胸でかいのか?」
「いや!そんなあるようには見えなかったな!その分腰つきがよかった!」
「正直な奴」
「そんじゃ明日進捗聞くわ!楽しみにしてるぜ」

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

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虹のしずく ⑤⑥⑦ 文:巫夏希 キャラデザ:ミュシャ

文:巫夏希 https://skima.jp/profile/?id=30287

最初から読むならこちら



「ところでさ」
「どうした?」
「汗臭いからシャワーを浴びたいのだけれど。宿屋もあるし、そこでシャワーを浴びない?」
「は? お前が?」
「うん。君も汗臭く感じない?」
 すんすん、と匂いを嗅ぐマリー。
「そう言われてみれば……。でもちょっと待て、今のお前の身体は『女』だぞ? その状態でシャワーを浴びるなんて」
「知ってる宿屋に個室に風呂付きの店がある。そこなら見られないと思うけれど、どうかな? 流石に汗臭いまま最終決戦に臨もうとは思わないだろ?」

 ◇◇◇

 そして。現在に至る。
 お互いがお互いの身体を洗う、という形になったのだが、結局どちらが先に洗うか、ということになった次第で。
 最初は、マリーの身体を洗うことになった。
 背中、身体、手、足、綺麗に石けんのついたタオルでごしごしと磨いていく。
「あー、気持ち良い……。久しぶりに他人に洗って貰った感覚がある」
「だろ? あー、そうだった。ちょっと今から触るけど『感じるな』よ?」
「へ?」
 そうしてルークは思い切り、騎士の身体についている立派な『それ』を握った。
「~~~~~~?!?!」
 慌てて壁に寄りかかるマリーだったが、それを見て深い溜息を吐くルーク。
「あのなあ……流石に見たことはないとは言わせないぞ? 家族の『あれ』とか見たことないのかよ」
「あったとしても触られたことはないだろ普通っ!」
「あーあー、分かった。大声を出すな、大声を。あと一応言っておくけれど、流石に大声は出すな。変な感じに言われるから。……それとも、お前が洗うか?」
「そ、それは……」
 マリーは考える。私が洗う? これを? 握って? タオルで? こする?
 ……いやいや、そんなこと考えられないっ!
「やっぱり、お前が洗ってくれないか」
 その言葉を待っていたかのように、溜息を吐くと、ルークは、再び屈む姿勢となる。
「だったら黙って洗われていろ。そんな時間はかからない。直ぐに終わるから」
 ……ちなみにその後、騎士も同じように女性の『それ』を洗うタイミングで同じように慌てて、盗賊が笑い返したのだが、それはまた別の話。




 そうして。
 魔女の家に到着した彼らは、唾を飲んだ。
「……案外、近かったな」
「まさか一日で行くことが出来るとはな。……そりゃ、移動魔法もめったに使おうとはしないわけだ。意外とあの魔女、健康志向なのかもしれないな」
 扉を開けると、そこには魔女が待ち構えていた。
 何かをぐつぐつと煮込んでおり、材料を入れているところだった。
「おーっほっほっほ! ついにやってきたわね、ミス・クランベリーとその仲間達!」
「仲間は一人しか居ないだろ! ……それはそれとして、この姿を早く戻せ」
「出来ない、って言ったら?」
「は?」
 歌うように、魔女は言う。
「術式を解くには、術者を倒さないと行けないのよ。とどのつまり、私を倒さない限り、あなたたちは永遠にそのまんま♪ どう、面白い話でしょ?」
「どこが面白い話よ。私たちにとってみれば最悪よ」
「だったら、簡単な話だ」
 早かった。
 ルークはその話を聞いてから、目にもとまらぬ早さで魔女の隣に立つと、そのまま魔女の右腕を切り落とした。
 切り落とされた右腕はそのままぼとりと鍋の中に落ちていく。
「ああああああああああああああああああああああああ!?!?」
 絶叫が、家の中に響き渡る。
「どうせ死んだら治るんだ。城の秘宝を盗んだ罪と合わせて、苦しんでから死んで貰おうか」
「待って、ちょっと待って……」
「待たぬ!」
 ルークの持っていたナイフは、的確に魔女の心臓を貫いた!
「ぎゃああああああああああああ!!」
 そうして、魔女はそのまま鍋の中にぼとりと落ち、そのまま溶けていくのだった。
「……これで、終わりね。何というかあっさりとしていたけれど」
 結果的には何もしていないマリーは両手を後ろに組んで、そんなことを言いながら、椅子に腰掛けた。
「問題はいつになったら解けるか……だが、」
「ねえ、これちょっと見て?」
「うん?」
 マリーの持っていたのは、ある書物だった。その書物は難しい書物でも何でも無く、ただの薬の配合が書いているように見える。
 そして、ある位置に付箋を貼っていた。
「……『入れ替わりの薬』?」

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虹のしずく ③④ 文:巫夏希 キャラデザ:ミュシャ

文: 巫夏希 https://skima.jp/profile?id=30287



 地下室に到着すると、魔女は透明化魔法――正確には認識しづらくする魔法――を解除した。
「あれ? 解除して良かったの?」
「……まあ、流石にここまでやってくる人は居ないでしょう。夜の見回りと言ってもここは城の外れ。だから人がやってくることは……」
「お前達、ここで何をしている」
 第三者の声が聞こえて、思わず彼女たちは身構えた。
 そして、階段の手前に、一人の騎士――ルークが立っているのが見えた。
「……まさか、この城にこのような地下室があるとは思わなかったが……。お前達はいったい何者だ? 何を目的にここにやってきた? 大人しく答えるのが身のためだ」
「それを答えるとでも?」
 くすくすと笑みを浮かべる魔女。
 それを見て、ルークは見覚えがあるようだった。
「貴様……、まさか夕闇の魔女か! どうしてこのような場所に……。かつて王国の宮廷魔女として活躍していた時もあったが、急に行方不明になったと聞いた。どうしてこのような場所に居るのか、そしてそのような盗賊風情の女と一緒に居るのか、お教え願おうか!」
 剣を構え、魔女に立ち向かおうとするルーク。
 しかし魔女はなおもあまり気にする様子はない。
「ははは。……私に立ち向かうか。私が夕闇の魔女と知ってなお、立ち向かうか!」
「夕闇の魔女だからって、絶対に死なないはずがない!」
「ふふふ。だが、これなら……」
 彼女の手には、瓶が握られていた。
 その瓶の中身は虹色に輝き、どろどろとしている。
「それは! この城に伝わる秘宝、虹のしずく!」
「飲むことにより大量の魔力を与えるといわれているその液体。まずはあんたたちで試してみようかしらねぇ!」
 そして。
 魔女は瓶の中にあった液体をそのまま飲み干した。
「秘宝、虹のしずくが……!」
「おーっほっほっほ! これで私も魔力を無尽蔵に使えるはず……! まずはあなたたちで試して差し上げましょう!!」
 そうして。
 魔女は、そのまま杖を振りかざした。
 すると、マリーとルークを囲むように煙が立ちこめていく。
「げほっ、げほっ。何だ、魔力が無尽蔵でも、使えるのはこんな目眩ましか……!」
「おい、夕闇の魔女! 何で私まで魔法をかける必要があるんだ……!」
 そうして、煙が消えていくと――魔女の不敵な笑みが見えてきた。
「おい、夕闇の魔女! いったい全体どういうことだ……あれ? 私、こんな声低かったっけ?」
「おい……! どういうことだ、なんで僕の目の前に、僕がいるんだ!」
 声色がマリーのままで、目の前にマリーが立っていた。
 しかし、そこに鏡があるというわけでもないし、話をしているのも自分というわけでもない。つまりこれは――。
「まさか、」
「もしかして、」
「「入れ替わってるーーーーーー!?」」
 二人はお互いを指さし、叫ぶ。
 それを見ていた魔女は、右手で口元を隠しながら、高笑いをした。
「おーほっほ! 入れ替わりの魔法はかなり魔力を使うと聞いたけれど、こうも簡単に使えるとはね! さすがは、魔力の塊である『虹のしずく』を飲み干しただけのことはある!」
「まさか入れ替わりの術を覚えているとは……。さすがは夕闇の魔女、といったところか!」
「おおい、ちょっと待って待って! その格好で胸を気にせず動かないでえええっ!」
「えっ?」
 そう言った瞬間、ぼろん、とマリーの胸が露わになった。
「……!?!?」
「ほうほう。どうやら、入れ替わりの後も行動は前の人間に依存するものらしいなあ?」
 露わになってしまった胸を見て、顔を赤らめるルーク。
 対してマリーは、入れ替わった後のその大柄な身体にもかかわらず、俊敏な動きを見せると、ルークの頭にチョップを食らわせて、何とか胸を収納した。
「人の胸をじろじろと見ているんじゃないわよ! ……あー、でも今はあんたの身体か。でも! 元々は私の身体だったんだから!」
「ああ……、それは済まない。けれど、けれどだね! これで見るなというのもおかしな話ではあるまいかね!」
「それとこれとは話が別だ!」
「あーはっはっは! 戻したくば、私の家まで来るんだね! そうしたら報酬を差し上げようじゃないか、ミス・クランベリー!」
 そうして、再び高笑いをして、あっという間に消えてしまった。
 残されたのは、心が入れ替わったマリーとルークの二人だけだった。

ミュシャさん納品
キャラデザ:ミュシャ https://skima.jp/profile/?id=22398



「とにかくだ、対策を立てようじゃないか。問題はどうすれば良いか、という話だ」
 城下町の酒場にて、崇高たる騎士様となったマリーが骨付き肉にがっついている。
 対して盗賊になってしまったルークは「うん……」と俯きつつ、少しずつゆっくりと紅茶を飲んでいる。
 普通に見ると、「何か性格がそれっぽくない」的に思うかもしれないが、それもそのはず。今の二人は心が入れ替わっているのだ。
「おい、いい加減にしろ。私の顔でしょぼくれるな。私はいつも前しか見てないんだ」
「だったら! 僕の身体でそういう汚らしい食べ方しないでよ! 口の中に食べ物が入ってるじゃないか」
「何だと?」
「やるかい、ここで」
 二人の雰囲気が険悪になる。
 しかし、直ぐにそれを排除したのは、マリーの方だった。
「やめだ、やめ。二人は被害者なんだぞ。こんなところで争ってどうする。絶対にあの夕闇の魔女を倒して魔法を解除してもらうしかねーんだからよ」
「そりゃそうだけれど……」
 ルークとマリーは食べ終えたのか、食後のティータイムに移行していた。
「とはいえ……何だ、お前、意外ともてるのな。何度も女性陣に声をかけられたぞ。何度、言葉遣いを直されたことか」
「王国の騎士と言えば、高給で、戦力が強くて、顔も整っているの三本柱だからね……。はっきり言って、安定した職業と言えるだろうね。特に、戦争も起きない今の世界じゃ」
「そりゃそうだな。戦争も起きないから、このような世界になった。人間が、仮に罪を犯しても罰が低くなったのもそれが原因だ。人間の権利を主張しだしたのも、最後の戦争裁判が終わってからだったか?」
「詳しいんだね、意外と。……そういう情勢には耳を傾けない人間だと思ってたけど」
「私の父親はな、戦争で死んだんだよ」
 ルークは、それを聞いて何も言えなかった。
 そして、少しして、謝罪する。
「ごめん」
「別に良いよ。昔の話だ。……だから私はまともな職業には就けなかった。この国には、『レール』というシステムがあるだろ? 成人になったら自分がどの職業に就くのか占って貰って、そのあとはその職業に就くというシステム。きっとあんたもそうやって騎士になったんだろうけれどよ」
「まあ、そうなるね。僕の場合は……父も騎士だったから、偶然だったけれど」
「ふうん。成る程ね。……で、話を戻すけれど、私の場合は父が死んでから母がずっと私を育ててくれた。けれど、母も病気で亡くなった。それからだよ、私が盗賊をやり始めたのは」
「サポートシステムに加入することは考えなかったのか?」
「私はこの国が大嫌いだ。だから、私は国が運営している孤児サポートシステムなんてものに加入しようなんて思いもしなかった。当然、あんたも嫌いだ」
 食べ終えた後のナイフでびしりと差すマリー。
「……ま、国のすべてがすべて良いことをしているとは言えないよ。確かに、国が悪いことをしてしまったという事実だって歴史の上では残ってる。だから二度と戦争を引き起こさないように、システムを構築した。それが……」
「それが『レール』って訳かい? へっ。魔女みたいなレールからの外れ物だって居るのに、よくそのシステムが十中八九正しいって言えるね。結局は、今居る外れ物には蓋をして、今居る人間からそれを出さないための苦渋の策だろう?」
「そりゃ、そうかもしれないけれど……。でも、はっきり言って詳しいことは誰にも分からない。全部は国王殿下の意のままだからね」
「どっちが正義なんだか、分かったもんじゃねえな」
 そうして、マリーは立ち上がった。
「何処へ?」
「決まってる。あの魔女をぶっ潰す。勿論お前も手伝えよ? お前も被害者なんだからな」
「そりゃ分かってるが……。対策とか何も考えなくて良いのか?」
「考えたところで、魔女の家には罠がたくさん散りばめられているだろうさ。だったら、真っ正面から向かってやる。それが私の考え方だよ」
 それを聞いて、ルークは深い溜息を吐く。
「やれやれ。盗賊ってのは乱暴って聞いていたけれど……ほんとうにその通りなんだね」
「おいおい。今、外から見れば盗賊なのはお前だぞ? ……まあ、いい。ややこしいことになるから、それについては言わないでおこうか」
 そうして、二人は旅立つ。
 目的地は、城下町の外れに建つ、夕闇の魔女の住まう家。

虹のしずく ①② 文:巫夏希 キャラデザ:ミュシャ

文:巫夏希 https://skima.jp/request/offer?id=14274



 酒場のカウンターにて、一人の少女が水を飲んでいた。年齢的には酒も飲めないから仕方ないのかもしれないが、ぶつくさ文句を垂れている様子だった。
「それでよ、マスター。聞いてくれよ。私の仕事がそれで全部ぱあ! 帰ったら親方にどやされちまうし、大家に家を追い出されちまうんだよ~」
「ここで飯を食わなければ、払えるんじゃねえのか? 金は」
「でも食わないとだめってどこかのお偉いさんも言ってたじゃねえかよ」
 乱暴な言葉遣いではあったが、彼女は立派な盗賊だ……と言われれば、納得する人も出てくるであろう。彼女としては、今金欠で大ビンチ。しかし食べれば食べるほどお金が減っていくのも常。どうしたものかと葛藤に苛まれていたのだった。
「ちょいと、そこの嬢ちゃん。……今、仕事無いんだって?」
 少し離れたテーブルに居た、ローブを被った女性がそう言った。
 それを聞いてざわついていた酒場の空気が一瞬にして凍り付く。
「嬢ちゃんじゃねえよ、私にはマリー・クランベリーという立派な名前が……。何だよ、夕闇の魔女じゃねえか……。なんでこんなところに……!?」
「なあに、別に取って食おうとはしないよ。ここにはご飯を食べに来てるんだ。分かる? 魔女だって人間だって、腹が減ったら食事を取るのは当たり前。だからここに来ているわけだけれど……」
 ずいと近づいて、彼女の目を見る。
 燃え上がるような、真っ赤な盗賊の目を。
 突然魔女に近づかれて何をされるのかと思ったが、普通に見つめてきただけなので彼女は驚いていた。というか少し緊張していた。あまり人にじろじろ見られるのが嫌いだからかもしれない。あまりそういう経験が無いから、嫌いだと言っただけなのかもしれない。
「な、何だよ。人の顔をじろじろ見つめて……」
「いいねえ、面白い顔をしている。あんた、私の依頼を受けないかい? 値段はそのまま、あんたがぽかした仕事の分出してやるよ」
「私は仕事にケチをつけたことは一度だって……え? いいのか?」
「その代わり、私の依頼は難易度ダブルエスだ。並の盗賊じゃ、やりたがらないことだよ。それでもいいのならね」
「ありがてえ! それでも全然構わねえぜ!」
 その言葉を聞き、笑みを浮かべる魔女。
 そして、魔女はこう言った。
「その言葉、忘れないことね」




「虹のしずく?」
「そう。かつて魔王が復活したときに、魔王の住まう島に橋を架けたというおとぎ話は聞いたことがあるでしょう?」
「あー。まあ、聞いただけだが」
 王城の中を歩く夕闇の魔女と盗賊マリー。
 とはいえ今は、魔女の魔法を使って、彼女たち以外の存在にはそれがオブジェか何かにしか見えていない。或いは視認していない。だからこそこうやって自由に行動できるというのだが。
「それを使えばどうなるんだ? まさか魔王の城まで向かうなんてことは無いよな?」
「そんなこと、あるわけがないわ! あれには大量の魔力が封じ込められていて、『どんなことだって思うがまま』なのよ。逆に、そのエキスを浴びた物は副作用を得るとも言われているけれど」
「どんな?」
「さあ? 流石にそこまでは知らないわ。ま、おとぎ話の範疇だしね。実際やってみないと分からないでしょ。それとも、あなた、それを試してみる価値もあるけれど、どう?」
「嫌だね。流石にそこまではやりたくないよ。……で、どこにあるのさ、その虹のしずくとやらは」
「ええと、それは確か……地下の宝物庫にあるはずなのだけれど、その宝物庫へ続く道が見当たらないのよねえ」
「魔法で爆発させちまえばいいじゃん。或いは、兵士から情報を盗み取るか」
「それが出来るなら苦労しないわよ。それに、爆発させたところで音に気づかれてお終いよ。あくまでこの魔法は人に私たちを認識させづらくする能力なのであって、その条件が満たされない限りは……」
「ああ、もういいわよ。あんたの魔法うんちく。或いは魔法知識? どうだって良いけれど、これ、報酬のこと忘れないでおいてよ」
「分かっているわよ。あんたも抜け目がないわね」
「当然でしょう? 生命がかかっているのよ! 一人のか弱き乙女のね!」
「はいはい、か弱き乙女ねー」
「あ、今馬鹿にした! 馬鹿にしましたね!」
 そんなことを言いながら魔女と盗賊は城内をくまなく捜索し続けた。
 しかし、問題の宝物庫へと向かう入り口がまったくもって見つからないのだった。
「こんな様子じゃ、日が暮れますよー。流石に夜になると出入りも厳しくなるような……」
「五月蠅いわね! それくらい、わかっているわよ。それより、あなたも探しているんでしょうね?」
「探してるよ、それくらい……」
 しかし、流石に疲れたのか壁に寄りかかりながらあたりを見渡すマリー。
 すると、マリーの寄りかかった壁がゆっくりと後ろに移動し始めた。
「うわっとっと。……何よ、これ!」
「成る程……隠し扉ってことね」
 先程まで壁があった場所は、その壁がなくなり、地下へと深く続く階段が伸びていた。
 明かりも付いていないからか、その先は完全な漆黒。入るには少し躊躇してしまうくらいだ。
「でかしたわよっ! きっとこの先に宝物庫か何かの類いがあるはず……」
「報酬のこと、忘れないでおいてよね!」
「もっちろーん」
 そう言いながら、鼻歌交じりに降りていく魔女。
 本当にお金を払ってくれるんだろうか……? そんなことを思いながら地下へと降りていくのだった。


 そして、それを唯一見ていた人間がいた。
 夜の見回りをしていた騎士だった。彼の名前はルーク・カズン。突然壁が前に動いたかと思いきや、そこには階段が広がっていた――というのだから驚きだ。
 勝手に動いたのだろうか?
 否、そんなことはあり得ないだろう。
「まさか、誰かが透明化魔法を使って侵入してきた……?」
 だとすれば一大事である。その階段の向こうに何があるのかははっきりと分からないが、しかし賊の可能性もある。もしそうであるなら、賊を見逃した彼が咎められる危険性があった。
「それだけは……それだけはあってはならない!」
 それは正義感によるものか。
 それは罪悪感に駆られたものなのか。
 いずれにせよ、ルークもまた階段を、音を立てることなく、ゆっくりと降りていくのだった。

③④につづく

【投稿小説】目つきの悪いボクは彼の視線を釘づけにしたい ⑧最終回(猫野 丸太丸)

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挿絵 鯨野

 翌日、僕は手品先生に会ってなにがなんでも話を進めることにした。先生は、シャツの上からでも分かる僕のおっぱいを怖がった。でも昨日の約束についてはちゃんと守ってくれた。
 放課後の面談室に余分な椅子を運び込んで、関係者全員、つまり僕、ベン、マヤ、サリーを招いたのだ。
 机に向かって左から僕、サリー、マヤ、一番右がベン。ベンはいままででいちばんうなだれていて、マヤがそれをにらみつけている。サリーは小さくなっていてベンのほうを見ようともしない。そして手品先生がいちばん最後に部屋に入ってきた。先生が机の向かい側に座るなりマヤはうなり声をあげた。
「もう、手品先生だからって生徒をミスディレクションばっかりし過ぎです。だから話がややこしくなったんじゃないでしょうか」
「すまん。確かに面倒を起こした。説明するとだなあ」
 先生が言いそうになるのを僕は止めた。
「僕から言わせてください! まず昨日僕がベンに押し倒されたことだけど、ベンは手品のタネを見たかっただけだから! 服だって僕が自分で破ったからね。だからだれも被害にはあっていないの」
 僕はサリーに向かって言ったのだけれど、サリーは小声で
「べつに、あたしは……」
 とつぶやいただけだった。僕は説明を続けた。
「今回のことは、僕が手品でベンをからかったのがきっかけだったんだよ。だからベンもサリーもマヤにもごめんなさい。ただ後半は手品じゃなくって……」
「いーや、わりとそれもいまとなってはどうでもいいから」
 ベンが口をはさんだ。
「手品とかじゃなくて現実のリアムの体がおかしいのを説明するのが先だろ? いいかげんばれてるぜ?」
「うん。僕、ほんとに女の子になっちゃいました。手術とかじゃないよ、謎の現象で」
 ベンはこぶしを握りしめてうめいた。
「だと思ったよ。でなきゃ俺がリアムにここまでプレッシャーを感じていないっつうの。はは、冗談じゃないや」
 ベンの声が心底、元気がないから僕も悲しくなった。サリーはじと目で僕を見つめている。そしてマヤはこの展開にあわてている。
「どうして? リアムは最初から女の子だったんじゃないの?」
「先々週までは百パーセント男だったよ。だましたみたいになってごめん」
「かえって入学式のときから女の子みたいって思ってたのに」
「おいおい……。でもマヤも悪いんだよ。思い込みでつっ走るしなんでも話を恋愛に結びつけてさ。まず僕とベンとの間には恋愛感情、いっさいないから」
 僕が言うと、ベンがはっきりとうなずいた。
「そそ、そうだよ! リアムあいてにかぎって恋愛は絶対ないから、なあ!」
「まあ、ね」
 近ごろにしてはいちばんベンと意見が一致した気がする。それだけで僕の心は少し軽くなった。
 それを聞いてマヤは素直に謝った。サリーは
「でもなんだかあたし、疲れた」
 と言ってマヤにもたれかかる。マヤはため息をついた。
「ていうかみんなで素直ないい子さんぶってれば解決するのー。いかにも面談室にふさわしい会話だこと」
「はっきり言ってくれてありがと。もちろん解決しないさ」
 僕はベンに向かった。ベンはやっぱり僕の顔を見てくれない。でも絶対に伝えなければいけないことがあるのだ。
「きっかけになったことを解決しないとすっきりしないんだよ」
「なんだよ、それ」
「えー、それはー」
 面と向かってだと言いづらい。サッカー場のときと同じ、いちばん言いたいことなのにうまく言えないものだ。
「ベン! ほら、あれ、もう分かってるだろう……。目を見てくれよ」
「いま言うことか」
「いまだよ! それこそ僕の体のほうがどうだっていい。いいかげん僕の目のこと認めてくれよ! 全ての始まりはそれなんだからな」
 だめだ、気分が高ぶると僕の目つきはきっとまたけわしくなる。だからベンはやっぱり僕の目を見てくれない。ほら、もう胸が痛くなってきた。もしかして女の子の体だと胸が苦しくなりやすいんだろうか。
 と、そこで意外な人が視界に割りこんできた。サリーだ! サリーは僕の前に来て、まるで僕をかばうかのようにベンと対峙した。
「ねえ、女の子がここまで言っているのに無視だなんてひどいよ。ベンはどうしてリアムの目を見てあげられないの?」
 こんな台詞、分かっていてもなかなか言えない! さすがはサリーだ、ベンにはこういう素直な女の子に嫌われる男にはなってほしくないもんだ。
 ベンはうつむいていたけど、やがて強くうなずくと顔を上げた。
「リアムにはさんざん恥ずかしいことを言わせちゃったからな。俺も白状しないと卑怯になるってところか。こうなりゃ秘密を言ってやろうじゃないか」
「ああ」
「リアムのいまの体って女の子として俺の好みなんだ」
 僕よりも先にサリーが反応して、僕をまじまじと見つめた(たぶん全身を)。背後でククク、とのどで笑う声をたてたのはマヤだろう。
 僕はとにかく気持ちを押し殺した。なんだか反応したら負けだ。ベン、なんで? どういうこと?
「だってリアムってば百パーセント俺の好み通りに格好を整えていくんだぜ? 半ズボンとか、髪形とか、においとか! わざとやっていないんならなおさらどうしてリアムって俺の好みになれるの? 本能か?」
「まじで意味不明としか答えられない」
 いや違う、先生やマヤが介入したにせよ、僕自身だってわざとベンの気を引こうとして手品をしたのだ。そのせいで僕が完全にベンの好みになったのなら最初のもくろみってとんでもない大成功だったことになる。皮肉な結果に我ながらあきれる。
 現にベンは僕の体を見ているのだ。あいかわらず目は見ないのに体はしつこく観察されている。
「だからさぁ、かえって正視しづらいような、ずっと見ていたいような気分なわけ」
 おへそのあたりに視線をすえたままベンがしゃべるのが腹立たしい。
「ちょっと待って。目は? 肝心の目はどうなんだよ」
「それはずっと変わらないだろ、正直苦手だよ! だけど、俺が嫌ってたらリアムが困るんだろ? だったら見てやるよ」
 黙って聞いていた先生がベンの台詞にうれしそうな声をあげた。
「よく言った! それでこそ男だ」

 さて。見るといっても特別なことをするわけじゃない。マヤとサリーが席を離れ、僕とベンが椅子に座って向かいあうだけだ。僕はベンの目を見た。ベンの視線は僕のおっぱいに向いていたけれど、だんだんと上ってきて、ついに僕の視線とからみあった。
 視線がこんなにつながるのって初めての体験だ! 眼鏡ははずしたほうがいいのかな、かけたままでいいのかな。笑ったらにらめっこになってしまうから、真面目な顔のほうがいいのかな。とにかくベンの目は怒っても嫌そうでもない。本気で僕を見てくれている。
 僕の瞳、いまこそ輝いてほしい!
 ベンの瞳にはきっと僕が映っている。アッシュブルーの光が反射して再び僕を照らす。あれ、なんだか部屋が暗くなってきた。サッカー場で倒れたベンを見つめたときの再演だ。暗がりをちら、ちら、と蛍のように飛び交うアッシュブルーの光点たち。どこからか妖精の声まで聞こえてきた。
「とってもかわいいリアム、ベンのお気に入り。ベンが大好きな女の子」
「このままベンの彼女になっちゃえ。そうすれば大好きな男の子に永遠にきれいだって見つめてもらえるよ」
「リアムはベンの瞳に映るたったひとりになれるの」
 ……な、なんだこの洗脳電波っぽいつぶやきは! こんなことを言われてうん、そうしようなんて考える中×生はいないよ……。
 頭がくらっと来た。ブラジャーの下でおっぱいがきつくなってくる。なにかとんでもない事態に気づいた僕はあわてて頭を振った。視線が切れたとたんベンも顔をしかめて「うえっ」とうめいた。部屋に明るさが戻ってくる。
 僕の振った頭に突然すごい重さが乗った。手を伸ばすと大量の柔らかい繊維だ。モップ? 違う、これって僕の髪の毛か!?
「イリュージョン! リアムの髪が伸びた!」
 サリーが言ったから事態が飲み込めた。僕は頭のてっぺんから髪をなでる。長くなった髪の毛が肩にかかっている。毛先を手に取って持ちあげたらなんてきれいな栗色だろう、これ!
「またリアムがかわいくなったあ! おいこら悪化してるじゃないか!」
 ベンの言葉に僕は戦慄した。かわいいって、これってベンが好きな髪型なのか? つまり僕はさらにこいつ好みの女の子に変身してしまった!
「じゃあなに……。僕はベンに見つめられるたびに女の子になってたってこと? 今も……、今までも?」
 だったら僕の目が悪いんじゃなくてベンの視線こそが魔眼なんじゃないか! さっきの妖精魔法っぽいのもベンの目から生み出されたのかもしれない。
 同じく事態を飲みこめたのか、ベンが自分の目を手のひらでしっかり隠してこっちを向いた。
「とりあえずもう二度とリアムのことは見たくないっ!」
「それじゃ困るよ、僕の瞳を見てもらえないじゃん! 女の子に変身損だよ!」
「変身損ってなんだよ」
 僕は自分の肩を抱いた。すっかりベン好みの細さに仕上がっている。マヤが手鏡を貸してくれた。もとから顔は丸いほうだけれど、鼻もあごもさらに丸くなってつるつるだ。半ズボンから伸びるふとももも、ますますやわらかい。
「これじゃただの女の子じゃーん!」
「問題発言よ、リアム。ただの女の子じゃありません、十分かわいいから」
「まぜっかえさないでよぉ。僕は女の子になりたいんじゃなくてベンと見つめ合いたいだけ」
 サリーが腕を伸ばして僕の髪を触ってきた。
「あたしも髪を伸ばそうかな」
「そうだよ、サリーのほうがきっと似あうと思うよ」
 なぜかむっとした顔をしてサリーが髪から手を離した。
「ねえリアム、ずっと目を見つめてもらえるってある意味恋人の特権と言ってもいいんだよ」
「そうかなぁ。ベンならきっと体は普通の恋人に預けて、瞳は僕に向けてくれると思うよ」
「変態みたいに言うなよリアム。まあ、目を見てあげたいつもりはあるんだけどな」
 ベンが目を押さえながら口だけ動かした。
「いまのリアムの姿は誘惑が強すぎるじゃん! 近づきすぎたら理性がもたない。だからあんまり期待するなって」
「ちょっとずつでいいよ、僕は諦めてないから」
 ここでマヤが、サリーや先生を呼び寄せて三人でなにやら話しはじめた。
「どうしたの?」
 三人はうなずくと、僕とベンをとり囲んだ。六本の手が僕たちにつかみかかる。
「わ、くすぐったい!」
 僕とベンはぎゅうぎゅうと押された。椅子から跳ね出され、ベンの腕の中に納まる僕。すごい、体がすっぽり入ってしまう。温かい、男らしい腕に抱かれたら心拍が跳ね上がる。みんなが叫んだ。
「じれったい! もうくっついちゃえ!」
「「だから違うんだってば!!」」


【投稿小説】目つきの悪いボクは彼の視線を釘づけにしたい ⑦(猫野 丸太丸)

早くなんとかしないとな……、などと考えていた僕はあまりに遅すぎた。僕の心配はその日の残り時間で本当になってしまったのだ。
 夕方だしもう宿舎に帰ろう。そう思っていたのに、後ろから乱暴に首筋をつかんでくるやつが現れた。そいつは昨日僕の胸をつっついた男だ。
「なんだ?」
「ちょっと来いよ」
「断る理由もないけど……、手短かにしてくれよ」
 ついていくと、空いた教室のなかに男子ふたりに加えて上級生までいた。そして中心にいるのがベンだ!?
 ベンは僕を見るとすぐに顔をそむけて先輩たちになにか話している。相手がベンなら逃げるいわれはない。僕はやつの目の前にまで行ってにらみつけた。
「ケガしたばっかりなのに大勢でどうしたんだよ、用があるなら直接呼べばいいだろ、ベンってうわっ?」
 あろうことか僕のせっかくの視線は茶色い紙で遮断された。後ろから紙袋を頭にかぶせられたのだ。視覚を奪われるとうまく動けないものだ、手足をつかまれ僕は上級生たちにあお向けに寝かされてしまった。そして筋肉質のひざが僕の上に馬乗りになった。きっとベンだ。
 ベンが僕の胴体を締めつけてくる。顔面にパンチが来たら避けられない。やばいと思ったが攻撃なんて来なかった。
「手品先生から聞き出したぞ、この体って全部、手品なんだろ! 俺がリアムの正体を暴いてやるからな」
 だめだ、話が変な風に伝わっている、だいたい正しいけれど。ベンの手の感触は僕の胸に来た。シャツのボタンをはずそうとするのだ。なんだよ、僕の胸なんか見たいのか、と思ったが直後に大変なことに気づいた。いまはだめだ、だって僕ってばブラジャーをつけているじゃないか!?
「わー、だめ、だめ、見るな!」
「うるさい、女子と女子トイレに入ったり更衣室に入ったりよ! おまえ本気でおかしくなってるだろ? 手品なら悪趣味すぎるぜ、俺だってはっきりさせたいんだ」
 直前のことまで全部ばれてる! ベンはどれだけ僕のことを偵察していたんだよ。
「だからってむりやり襲ったりしなくっても。あとでほら、先輩がいないところでベンにだけ見せるよ」
 僕は落ち着かせるためになるべくほがらかに言ってみた。でもベンの手は止まらない。
「ふたりきりなら見せるって、気持ち悪いこと言うなよ!」
 あー、やっぱり気持ち悪いって言った!
「まだ僕の目を見ていないくせになんで僕が気持ち悪いんだよ! なにかにつけて他人に気持ち悪いとか不快だとか言う精神、なんとかしろ!」
「いまはそれとは関係ないだろ!」
「あるだろ!」
 もういつものベンとのケンカだこれ!
 と、そこでなぜか上級生が握っていた右手が外れた。僕はチャンスを逃さずベンの手を……無視して自分の胸もとを探った。
「もう勝手にしろ、気持ち悪いかどうか見てみろよ!」
 ベンにぐだぐだやらせず自分からさらけ出してやる。僕は力任せにシャツを引っぱった。残ったボタンを丁寧には外せないから思いきり弾け飛ばした。胸もブラジャーもあらわになったはずだ。「うわ」と叫んだのはベンではなくって手を離したほうの先輩だ。
「ちょっとやばいだろ? ベンは俺たちをなにに巻きこんでるんだよ、犯罪じゃないか」
「犯罪じゃないですよ、ほら、ブラジャーまでしている! ふざけた男に態度を改めさせなきゃ」
「男か? 実際……」
 左手を握っていたほうの上級生も手を離した。
「胸だけじゃないだろ、手とか肩とか細いの分かるか? こいつ柔らかいし」
「違うくて、きっとこれはリアムとくいの手品です」
「ベンはガールフレンドがいないから知らないだろうけど、この体ってほぼ女子くさいぜ」
 なんだかすごいことを言われている気がする。とりあえず両手が空いたから僕は顔の紙袋を脱いだ。そして目の前を見たらベンの顔があった。
 至近距離で僕の胸を見つめていた。呼吸が荒い。うそだろ、なんだか変なこと考えてる?
 ベンの鼻息が素肌にかかった。
「おまえ……男、だよな?」
「またキスしたりしないよね」
 ベンの手が僕から離れて自分の口を押さえた。
「やっぱりしたのかよ!? キスしてきたのはリアムのほうだろ!」
「ベンのほうだろぉっ!」
 あー、キスしたのをふたりで再確認してしまった。そして周囲にばれてしまった。先輩たちは絶句している。目の前のベン、なんで顔が真っ赤なの。正視できなくて僕はベンから視線をそらせた。
「おい顔をそむけるなよー!」
 ベンが叫んだ、そしてタイミング悪いことに教室の扉が開く音がした。
「キャーーー!」
 女子の悲鳴だ。この声、サリーだ!? それをきっかけにすごい勢いで身をふりほどいたベンは僕から逃げていった。上級生たちも後に続く。僕は部屋に取り残された。
 僕が胸を押さえてひと息ついていると、案の定走ってきて僕を助け起こしたのはサリーだった。
「大丈夫? ひどいことされたの?」
「されてない、大丈夫だから」
「されてるじゃない! 服がやぶけてる、学校で信じられない……」
 僕を抱きしめながらサリーはめちゃくちゃ泣いた。誤解の誤解の、誤解の累乗なのに。こんなに泣かれたら僕まで悲しくなってくる。
 確かめかたは乱暴だったけれど、ベンを不安にさせたのは僕が原因だ。だからいま女の子にぎゅっとされたのも、悲しませたのも百パーセント僕が悪い。なのにこのままだとベンが暴行犯にされてしまう。せっかくサリーがベンを好きになりそうだったのに、これじゃ絶対ぶち壊しだ。
 もうすべて解決しないといけない。

 僕は宿舎に帰って、粘着テープとか手品用具は全部捨てた。シャワー室で全身を洗う。おっぱいは腫れあがって隠しようがなくなっているけどしかたがない。先輩も言っていたとおり手足まですっかりふわふわで柔らかくなってしまった。いまこの瞬間胸つっつき男子が現れなくてよかった。
 そしていよいよ僕は股間にお湯を当てて、丁寧にテープをはがした。
「うわー」
 なんだかそんな気がしていたけれど、全部きれいにはがしても、ええと、ちんこがない。指で間を広げてみた。手品じゃなくて本当にないってこんな風になるんだ。「本当にない―」というマヤの声が頭のなかで再生される。おなかから下へ、そして後ろへなでても割れ目しかない。
「本当に女の子になっちゃった」
 お尻も丸くてきゅっとしている、きっと半ズボンが似あってしまうだろう。
 眼鏡をかけ直して、裸のまま鏡に映ってみる。さんざん見せつけたふとももも、股間のラインも、おっぱいももうふつうに女の子じゃないか。
 非常事態っていう気持ちよりも、やっと手品が終焉した、そして気になっていた僕自身の変化が予感からついに現実になったって気持ちだった。
「先生が知ったらやっぱり手品の範疇を超えているってあわてるかな……」
 最後に眼鏡を外して、鏡におもいきり顔を近づける。いつもの僕の瞳が見えてくる。アッシュブルーのとってもきれいな瞳だ。さすが、これだけは変わらない。
 そのことが謎のヒントになっている気がするんだ。

【投稿小説】目つきの悪いボクは彼の視線を釘づけにしたい ⑥(猫野 丸太丸)

 その日の夜も翌日も僕は悩んだ。ベンのケガは単なる打撲ですんだらしい。脳の機能に異常がなくて良かった。でもだったらどうしてあいつは僕にキスしたんだろう? ベン本人は念のため先生と一緒に病院に行ったりして忙しく、いまのところ僕は直接理由を尋ねることができていない。
 宿舎のシャワー室で、僕はシャンプーしながら考えた。ベンは打撲のショックで混乱していたに違いない。絶対そうだ、でなければ僕にキスなんてありえない。でもベンはあのとき僕の名前を呼んだのだ。相手が僕だと分かってキスしたんじゃないか! それってなんでだ?
「リアム、おいリアム、こっち向いてみろ」
 後ろから誰かに呼ばれたのに気づいて僕はふり返った。そのとたん二本の指が伸びて僕の乳首に命中した。
「へひゃあっ」
 痛くすぐったかったのでへんな声が出た。乳首をつっついた当の男――たしか別クラスの男子――も自分がやったくせにびっくりした顔をしている。僕は泡のついた手で自分の胸を押さえた。
「なにするんだよ、もう!」
「いや、だってリアム、おまえ胸も乳首も変だぞ?」
「変? べつに男だってこのくらい大きいやついるだろ……。あ」
 男だけれど大きいって言ってしまった。それってつまり普通に見るなら女の子みたいな乳首ってことじゃないか。いま触っている自分の乳首、指先の半分くらいはある。白状すると一昨日や昨日より断然大きくなっている。そのまわり、お肉の部分もなんとなく手のひらにフィットしてきた。
「おまえ、そろそろあっちのシャワー室に入ったほうがいいんじゃないか」
「あっちってどっちだよ、あはは。不可能だろ」
「そりゃ不可能だけど? こっち側だって不可能になってきているぞ」
「それこそ不可能だろ」
「だいたい腰に巻いてるタオルってなんだよ、なに隠してるんだよ」
「ナニを隠してるんだよ! 君こそ男の股間が見たいの?」
「べつに」
 抽象的な会話をしてしまった。でも意味することは分かる、分かりすぎる。股間だって最近小さくなりすぎて他人に見せるのが恥ずかしくなってきているのだ。圧迫しすぎたからかテープ無しでも簡単に折りたためるようになってしまった……。
 僕が背を向けると、おふざけ男子は後ろから手を伸ばしてきた。
「最後におっぱいもませて」
「させるか!」

 でもこのままでは冗談で済まなくなる。翌日の放課後、僕は面談室で手品先生に会うことにした。
「大変です、僕、体がどんどんへんになってきてるんです」
 僕のひと言に跳び上がった先生は椅子からひっくり返って落ち――はしなかったけれど、先生が蹴った椅子は大きな音を立てて倒れた。
「へ、へんだよね? へんだよねー、リアムくん。ごめん、悪い意味じゃないが、君の体がなんだか変わってしまったようには見える」
 先生が近づいてくるとき、僕はなぜかサッカー場でベンが走ってきたときのような違和感を覚えた。つまり先生も僕になにか不安を感じている? だったらはっきり説明しないといけない。
「分かるでしょうか。このあいだから手品をしていただけなのに僕、本当に胸が大きくなってきていて」
 ネクタイをほどいてシャツのボタンを外そう。そして実際の状態を見てもらおうとした。それだけなのに先生は僕の手をめちゃくちゃすばやく押さえた。
「脱ぐのはだめ! 密室で生徒とふたり、生徒が服を脱いだりしたら要らぬ誤解を招きかねない」
「どうしてですか? 僕、男子ですよ。ていうか先生だってこのあいだ自分の胸を見せていたし」
「先生のは手品だったからいいんだよ! 先生を手品でからかう気か。いや、違うか、変なことを言った。お互い手品をしていたからなにが本当か分からなくなってきているのか」
「あ、そうか、ややこしいですね……。まず今日の僕は手品をしていません。手品なしでこんなおっぱいだから困っているんです」
 僕はもう一度シャツを脱ごうとしたけれど先生には
「やっぱり脱ぐのはダメだ! 保健室の先生か女子たちに見てもらいなさい!」
 と、断られてしまった。
 うー、途中で止められたからよけいに、自分におっぱいがあることを意識してしまって恥ずかしい。隠そうとして肩をすぼめて横を向いたら、先生まで赤くなって横を向いた。
 少し落ち着いたところで先生は椅子に座って僕を見つめた。
「なあ、リアムくん。君はベンくんに良い印象を持ってもらうために、今回手品を計画したんだったな」
「そうです」
「手品というものには必ずタネがある。タネや仕掛けはありませんと術者が言ったとしても、観客は内心、これは手品だからタネがあってのミラクルなんだと安心して見てもらえる。それが手品というエンターテインメントなんだ」
「原則ですね」
「先生が誘導しておきながら申し訳ないが、リアムくんの変身は見ていて心配になってきた。本気過ぎて、冗談じゃなくなってきているんじゃないか」
 先生はため息をついて、ごめんと謝りだした。
「実はベンくんにも確認したんだ。彼、君の変身を手品だと気づいていなかった。言わば冗談が本当になってしまったようなんだ。さすがにそれはやり過ぎだった。先生からもこれは遊びだと謝っておいたよ」
「すみません、僕もやり過ぎだったとは認めます。あいつにケガさせちゃったし……。でもちょっと待ってください」
 気になる言葉があったので僕は先生をさえぎった。
「冗談じゃないのは確かです」
「え? でも手品だろう?」
「はい、僕だってほんとに手品をやっただけなんです。手品は手品だしフィクションです。でもベンのやつに僕の目を見てほしい、僕の目を認めてほしいって思ってる気持ちは絶対本気です! 冗談や遊びじゃなくて、本気であいつに僕の目のことを好きになってほしいんです!」
 そうだ、口に出して分かった。さんざんバカにされたから仕返ししてやりたいっていう気持ちもあった。でもそれが最大の本心じゃない。僕は自分の目に誇りを持っていて! 胸を張って眼鏡をかけて! そしてベンにいちばん、そのことを認めてほしいんだ!
 先生にもこの気持ちが通じたかは分からない。ただ先生は急に明るく笑って、僕に親指を立てて見せた。
「よし、分かった。とりあえず体が変だってことは誰か専門家に診てもらおう。そのうえで一度ベンと直接会って話をしてみようじゃないか」
 手品先生らしい、まとまっているんだかまとまっていないんだから分らない結論だった。でもとりあえず僕は納得して面談室を出た。

 しかし保健室って言われたけれど、保健室は病気の人用の行先である。病気じゃなくて手品をやり過ぎたら腫れたんですって説明したら怒られるんじゃないだろうか。もっと気軽に相談できる相手はいないかと考えて、思いついたのがマヤだった。
 放課後の学校中を探してマヤを捕まえた。女子宿舎に帰ってしまう前に間にあって良かった。
「マヤ、へんなことを頼んでごめん。僕、胸のことで心配があるんだ」
 そんな言いかただったのに、なんとマヤは「任せなさい」と即答してくれた。
 しかし連れて行かれたのは女子更衣室だった! そりゃ僕たちの設定は女の子どうしだからそうなるけど更衣室は女子トイレよりやばい! 幸いほかの生徒は引き上げていて、ロッカーが並んだ更衣室は無人だった。でも制汗スプレーのにおいかなにかが残っていて、なんとなく雰囲気が女子くさい。
 僕がシャツを脱ぐと、とうとう左右の乳首がつん、と上を向いた気がしてどうしよう。マヤはじっくりそれを見ている。
「ブラジャーしていないの」
「粘着テープ」
「おバカ! なにがどうして粘着テープなの、それじゃお胸がおかしくなって当然! もう、リアムちゃんのおっぱい、かわいそう」
 マヤの両手が僕の胸を優しくすくい上げるように触った。
「サイズは合うかなー。とりあえずあたしのを貸すね」
「いいの? ていうか着けるの?」
「しなさい。これ以上乳首が痛くなりたいんじゃなければね」
 マヤはロッカーの中から灰色の丈夫そうな幅広のなにか、たぶんスポーツブラを取り出した。僕がとまどっていると、つけるところまで手伝ってくれる。
 なにもない、肉が少し盛り上がっただけと思いたかったのに、布地に包まれたら僕の胸が「かわいく命名された丸み」に思えてくるじゃないか。
「でもすごい、ぴったりした。歩くのが楽」
「でしょ? ようやく文明の利器に触れたのね、良かった」
 僕が求めていた解決法と明らかに逆方向に体が楽になってしまった。しかしこのブラジャーがぴったりだってことは、僕の胸が本物の女子なみに育ってしまったってことなんだろうか? 怖くなって僕はその考えを頭から払いのけた。
「でもマヤって僕のことを本当に女の子だと思っているんだね」
「もちろんよ? そのおっぱいが証拠じゃない。でも女の子っていうか、ジャングルで育てられた野生児みたいよね。男世界で育てられて自分のことを男だと思っている女の子なんだわ」
「なにそれ」
「だって精神的にはまるで男の子だもん。ほら、すぐにシャツを着なさい」
「……ごめん」
 僕がネクタイまで直すと、マヤはさらに僕をベンチに座らせた。後ろに回って僕の髪を整えてくれるようだ。
「リアムってさ、このあいだのサッカー場で肝心なこと聞かなかったじゃん」
「なに?」
「サリーが好きな男子の名前。普通の女の子なら真っ先に確認するよ」
「それはそうか」
「あの子、ベンのことが好きだったんだから」
「えええーっ!!」
 僕がふり向こうとすると、頭を無理やり前に向けさせられた。まだまだ髪をいじるらしい。
「……でもそれならなんでサリーはわざと僕をサッカー場に誘ったの?」
「ベンとリアムの仲を知るためよ? ふたりがラブラブならサリーは黙って身を引くつもりだったし、仲が悪そうなら正式にベンとおつき合いしようとしてた。結果は想像もつかないものだったけどね」
 そんな理由があったのか、女子って怖いな。でも僕とベンとが想像もつかない関係か。ただの男の友人関係なんだけどね。そう言おうとしたところであのキスのことを思い出した。もし仮にキスしたのはなぜって聞き返されたら答えられないじゃないか、頭が痛い。
「リアムってばベンを大好きのくせに自分の恋心に気づいていない。ベンもリアムのこと、どうしていいか分からないみたい」
「待ってよ、まず前半は無茶苦茶な推論だよ。そして後半は、まさかベンに直接訊いたの?」
「訊いたよ、怪しい質問だと気づかれないように遠回しにね。リアムの秘密も口外していないし」
「どうだった? 僕、あいつに嫌われてた? 気持ち悪いと思われてた?」
 僕はまたふり向いていた。マヤは首を振って、僕の首も向け直した。
「気になるのね。ベンはべつに嫌ってないよ。ただただ心配なだけ、最近のリアムってどうしたんだろうって」
 あいつが僕を心配しなくても、ケガをしたベンのほうが心配されていればいいのに。でも現に僕だって胸とかおかしくなっているしなあ。
「はい、できた」
 ロッカーにくっついた鏡がそばにあるから、僕は立ち上がってのぞきこんでみた。
「髪がヘヤピンで留めてある」
「髪をサイドに回して形を作ってみました。絶対このほうがいいって」
「そんなに変わってなくない? むしろそれならいいか、ありがと。でも下着は洗濯して返すからね」
「そうしてねー。あなた専用のを早く買いなさい」
 これでブラジャーまで買ったら男として最後だろう。ぐずぐずしているとさらになにかされかねないから、僕は女子更衣室を脱出した。体は楽になったけれど事態は解決していない。ベンにも無駄な心配をさせたみたいだ。少なくともからかうのは一切止めないとベンのやつ、イライラが爆発してしまうかもしれない。とにかく誤解を解こう。それからどうするかは、ごめん、まだ分からない。

【投稿小説】目つきの悪いボクは彼の視線を釘づけにしたい ⑤(猫野 丸太丸)

「ベン、どうしたんだよ。なんで興奮してる?」
「うっさい!」
 男子たちの疑問にベンはしっかり怒号で答えた。正直ごめんなさい。
 さすがに僕も怖くなって後ずさりする。女子たちも一緒に動く。ベンを先頭に男子がのろのろ近づいてくる。なんとなく始まった移動が、ベンが殺気立ってくるものだから追いかけっこぽくなってきた。
 追いつかれたらなんだか面倒な気がして、僕たちはついゴール裏に回った。そうしたらベンが本気で走りはじめた。こっちが逃げると思ったからだろうか、もうためらわずにまっすぐ来る。本当にまっすぐ来るのはなんでだ――。あ、いや、理由がうすうす分かった。なぜならベンは僕だけを見つめているのだ。
 ごん、と嫌な音がした。ふつうなら間にあるゴールを避けるはずなのに、顔面からゴールポストに突っ込んだからだ。ベンはそのまま膝をついてグラウンドに倒れこんだ。
「こらー、ベン! なーにやってんだよ!」
 一瞬まわりが暗くなったみたく錯覚したじゃないか。だからベンはバカだ! 僕は駆け寄ってそばにしゃがみこむ。あおむけで目を閉じているベン。右目の上のあたりが腫れてこぶになりそう。呼吸はふつう、顔色はふつう。とりあえず彼の頭を僕の膝の上に載せた。
「おい、ベン、声出るか? 手は握れるか?」
 ベンは弱々しく、右手で顔の前を払った。
「……なんでおまえがそっち側にいるんだよ」
 僕のことだ。やっぱりベンは、僕が女子たちと一緒に来たこと、ていうか女の子になって女子たちの一員になっちゃっていたことが気にさわったのだ。耳が熱くなるのを感じる。
「誤解だよ。でもいまはそれどころじゃないから。ゴールに衝突って大ケガになることもあるんだぞ? ほら、医務室へ行く!」
 首を痛めていないことを確認したあとに、サッカーウェア姿のベンを抱え上げ、背中に回して背負う。ベンなら持ち上げるくらいわけはないのだ。
 僕はグラウンドにある小さな建物目指して小走りに進んだ。
 そうして建物に入ってからしまったと思った。小さい施設なんだから医務室なんてない、更衣室やシャワー室があるだけだ。
「ベン、どうする? とりあえず更衣室に寝る?」
 返事はなかった。ベンは僕の背中につかまっている。腕に力が入っているから完全に気絶したわけではないみたいだ。他の生徒はまだ追いついてきていない。
 男子更衣室の扉を開けて薄暗いなかを見渡す。隅に横になれそうなベンチを見かけたので僕はそっちへ歩いて行った。
「いいにおい」
 ベンがいきなり口走ったので僕は聞き返した。いいにおい? 古くさい更衣室がか? まさか錯乱したんじゃないだろうな。ベンチでベンの体を下半身のほうから下ろす。腕も外そうとして、できないことに気がついた。ベンがスポーツ選手らしい強い力でしがみついているのだ。首を引っ張られて僕はバランスを崩した。ベンの体はぐるっと回って、僕の胸に抱きつく形になった。

納品2鯨野
挿絵 鯨野

 ベンが僕の胸に顔をうずめている!? 僕は下を向いてとんでもないことに気がついた。確かにいいにおいがする。、言ってみれば女の子みたいな香水の香りだ。なんでブルゾンの胸からそんな香りがするのか。僕はすぐに思い出した。マヤにもらったハンカチが胸ポケットに入っているからだ。マヤってば僕のことを男くさいと思って、体臭を消すために女の子の香りがするハンカチをわざとくれたんだ!
 いいにおいがする僕の胸。顔を押しつけているベン。そしてベンが、さらに僕を引き寄せた。
「うーん……、リアムぅ」
 僕の眼鏡が揺れた。至近距離に、瞳を閉じたベンの顔。そして僕の唇に、乾いた、でも柔らかいものが触れた。息を吸っていいのか吐いていいのか分からない。僕はベンにキスをされたのだ。
 ファーストキスはグラウンドの土の味がした。
 ベンを必死で振りほどいてベンチに叩きつけたのと他の女子が僕たちを見つけたのが同時くらいだった。そのあとはもう監督や他の男子に任せて、僕は女子たちと一緒に帰った。
 ベンとのキスは誰にもばれなかった、ばれてたまるかっての。

【投稿小説】目つきの悪いボクは彼の視線を釘づけにしたい ④(猫野 丸太丸)

 土曜日の朝、有機化学の本でも図書館に借りに行こうと思って僕は制服で外に出た。暖かい秋の日差しだ。校門のところでまた女子に捕まった。
「え、なに」
「男子に詳しいリアムちゃんにたってのお願いなの!」
 マヤの友達、金髪の巻き毛がかなりきれいな子、サリーだ。サリーは遠慮なく僕の手を引く。いきなり手をつかんでくるなんて、やっぱり同性だと思われてるなー。そして引っぱって行かれた校庭の隅にはマヤたち仲よし女子グループがいた。
 僕の体が女の子であることをあれこれ言われると思いきや、サリーは真剣な顔で身を寄せてきた。
「お願いがあるの。サッカーの試合を応援しに行きたくって助けてくれる子を探してるの!」
 事情を詳しく聞くと、どうもサリーはクラスのある男子のことが好きらしい。その男子もベンと同じく選手で今日は他校と対外試合をやるんだそうだ。そのサッカーの試合を応援しに行けば、サリーは目当ての男子との関係を一歩前進できるとのもくろみだ。
「いいんじゃないか? そういうのされて嬉しくない男はいないと思う」
「ほんと? ありがと!」
 ただ一人では心細いからサリーは友達全員で行きたいらしい。さっそく行こうとする女子たちを押しとどめて、僕は各自にブルゾンやジャケットを持ってこさせた。サッカー場でじっと観戦していたらこの季節でも制服だけでは寒いだろうからだ。
(そしてそのすきに僕自身も体のしたくをする。女子たちに体が男だとばれたら怖いからね。本末転倒かな?)
 準備ができたら門を出て、女子たちといっしょに中心街を歩いた。朝の街はレンガ造りの商店もまだ閉まっていて静かだ。面白いのは微妙に歩くコースが男子と違うことだ。ゴミで汚れた道や怖いっぽい店は避ける。側溝にたまった落ち葉をわざと踏みに行ったりもしない。路面電車の走る、きれいな日差しの表通りをみんなで固まって歩いた。
 でも他のみんなが制服の膝下スカートなのに僕だけ半ズボンだったりする。つまり僕のほうが女子より太ももの露出が多い……、恥ずかしいし寒い。
「上着があって良かったねリアムちゃん、アメイジング!」
 サリーが長い袖から指だけ出して、指に息を吹きかけて笑った。あーこいつ、自然な動作がかわいくなるタイプだ。マヤは逆にがさつっぽい。横ならびでサリーの仕草を真似たかと思えば、
「でもリアムの下半身は寒そうだね」
 と言っていきなり自分のスカートをまくり僕と同じくらいふとももを出してみせた。
「寒ーい」
 女子たちは爆笑、そしてみんな揃ってスカートをまくった。うわ、女同士ならただのおふざけなんだろうけど、男の自分が見てしまってごめんなさい。
 サリーが急に立ち止まって、自分のスカートにゆっくりと手をかけた。
「あ、あたしも寒さにチャレンジしようかな」
「サリーはいいのよ! あなたはおしとやかなままでいて!」
 マヤはサリーをからかい終わったらこんどは僕のほうに来た。
「でもリアムちゃんは気が利くねー。ごほうびとしてマヤが絶対に役に立つアイテムを貸してあげる、どうぞ」
「ハンカチだね? きれいな刺繍だけどこれがなにか」
「いいからいいから胸ポケットに入れておきなって」
「理由は分からないけどとにかくありがとう」
 僕はハンカチを畳んで手の甲から袖の中に隠して反対の手のひらに入れて最後に頭の上から出してみせた。
「すごい、なにそれ? 手品先生の手品?」
「そうだよ、先生に習ったんだ」
「あの人、もう先生なのか手品師なのか分からないよねー。えこひいきさえしなければ素敵な手品師さんなのに」
「ひいきしないよ、手品を教えてって言えば誰にでも教えてくれるよ」
「先生としていまいちピントがずれている気がする。……あ、リアムちゃん、あのお店知ってる? 焼きドーナツがめちゃおいしいからって手品先生が通いまくってるんだよ!」
 しゃべっているうちにレンガの街を外れ、フェンスに囲まれたサッカー場まで来た。監督が怒鳴っている声が外まで聞こえてくる。試合はもう始まっているのだ。
 フェンス越しに見たがベンがどこにいるかはぱっとわからない。僕たちは入口を探して外周沿いに歩いた。でもここまで来たのにサリーの足がなんだか遅い。
「あたしどきどきしてきた。へんに思われたらどうしよう」
「毎日教室で顔を合わせてるんだからさ、気にするほうがへんだよ」
「サッカー場にまで来たのは初めてだよぉ」
 集団の最後尾になるサリーに、マヤが後戻りして手を差し伸べた。
「大丈夫だって。いざとなったらリアムちゃんがベンを応援しにきたことにしよう」
「僕は違うよ!」
「サッカーを観に来たんだからこれって応援じゃない」
 しまった、その解釈もありか。ベンを僕が応援する。なぜか数日前にそんな話をしたような気もする。けれど僕がわざわざベン目的で来たりするか? 冗談じゃない。
 しかし僕の前には他の女子たち、後ろにはサリーとマヤがいる。女子たちに囲まれた形で僕は進まざるをえなかったのだ。
 サッカー場のなかは小さな更衣室の建物があるくらいで視界をさえぎるものもなかった。だから入ってすぐに広い芝生が見渡せた。知っている顔の生徒がプレーしているのが見える。座るところもないから、僕たちは集団で団子になったままで試合を見つめた。
「もう後半戦だね……。勝ってるの? 思ったよりうまくないか」
「なに言ってるのよ、うちの学校、強いんだよ」
 今年の戦績についてマヤがあれこれしゃべり出す。サリーはじっとグラウンドを見ている。頬をこわばらせて、ときどき首をすくめている。その態度はかえって男子に自分のことを見つかりたくないみたいだ。
「……声出して応援しようか?」
「やっ、止めて! 邪魔しちゃ悪いし静かにしてていいよ!」
「応援に来たのに邪魔だなんてさ。気づかれなかったら意味ないんじゃないか」
 まずは率先してやってみようかな。僕はサッカーの応援としてふさわしい発声を考えた。
「校歌ならみんな歌っても大丈夫かい?」
 マヤたちはうなずく。サリーは思いきり首を振る。せっかく来たんだから引っ込み思案はよそうよ。僕は口に手のひらを当てた。
 遠くの端でベンがボールを奪う。ゆっくりと前進したと思ったら急に横へパスを出した。僕らに近い側へボールが来て他の選手が走ってくる。ベンは当然こっちを向く。うわ、いま僕のこと見えた?
 我に返った。ベンは事情を知らないから僕のことを引率役だとか考えないだろう。女子たちの一員としていま応援したら、僕ってば本当の本当にベンが好きで応援に来たみたいなことになる?
 女子トイレに続いて誤解される、それってつまり……。へんに思われたらどうしよう?
 固まる僕の袖をサリーが引っ張った。。
「どうしたの?」
 ボールがスローインされ、集団が別方向に行ってからようやく僕は息をついた。
「あはは、いざ歌おうとしたけれど思ったより恥ずかしい」
「イクザクトリィ! そうでしょ! リアムちゃんも分かるよね?」
 サリーが僕の袖をつかみながらぴょんぴょん跳ねた。
「リアムちゃんって普段からベンと仲がいいしどんなすごい子かと思ったの。でも気持ちは普通の、好きな子がいる女の子だよね」
「うえっ、そうなの?」
「そこは『そうだね』って肯定しておいてよぉ。ほら、どきどきしてる」
 サリーの長い袖から真っ白な手のひらが出てきて僕の胸に触れた。ふにゃ。ベンに続いて二度目の胸ふにゃ! 女の子の手のほうが、僕の胸も触られごこちが良かったりする(ごめん)。
 とかなんとかふざけているうちに試合は終わってしまった。結果は我が校の勝利だ。女子たちはみんな声を出して喜んでいる。
 ベンたちはかえって静かで、監督のもとに集まって話を聞きはじめた。二つの集団の距離は三十メートルくらい。女子の声が聞こえないはずないのだけれど、誰もこちらを向こうとはしない。
「どうしようか」
 サリーを見ると、サリーは静かに首を振った。残念だけどやっぱり勇気が出ないかな。勝利の高揚にのってなかよし、というわけにはいかないのだ。選手たちに声をかけることもなく僕たちはゆっくり後退した。そのままグラウンドを去るのみだ。
 そのときだ。
「監督! ちょっと先にすることがあって」
 誰かが声を上げて監督の講評をさえぎった。ベンだ! それを合図に選手たちがこちらへ向かってきた。控えも含めて全員だ。
「あ……」
 サリーが顔を隠して僕の後ろに隠れる。まだ遠くにいるけれど、僕は選手たちとはっきり目を合わせた。もちろん明らかにこちら女子たちのことに気づいている。
「なんだよ、わざわざ来たんならボールを片づけるの手伝えよ」
「は? なんでそんなことしなきゃいけないのよ!」
 男子とマヤとで言い合いになったが、男子たちは笑っている。まあサッカー場に女子たちが来たことにまんざらでもないらしい。
 ただベンだけは違った。僕はベンの顔を見つめてぞっとした。鼻の頭にしわが寄っているのって、やっぱり怒り、だよね? そしてもちろん僕に対しての怒りだよね?
 選手たちもベンの様子に気づいた。

【投稿小説】目つきの悪いボクは彼の視線を釘づけにしたい ③(猫野 丸太丸)

 また翌日、僕は作戦を考えてからベンの席に行った。かわいそうに僕のことが気になってしかたがなくって、僕の後ろ姿を見つめすぎていたベン。その様子はすでに鏡などで確認済みだ。
「ねえ、ベン!」
 逃がさないように通路側から近づいて彼の机の横に立つ、昨日とは逆の立ち位置だ。
「なんだよ」
「んーとね」
 話題を振りたいけれど、わざわざ改まってベンと話すことなどない。適当にサッカーの話をしよう。
「土曜日はいつも練習してるのかい?」
「もちろんだよ。誰に聞いてるつもりだ、レギュラーだぜ?」
「対外試合とか応援で見に行けるのかな?」
「なんでいまその質問なんだよ、おまえうちのサッカーのことなにも知らずに過ごしてきたのか……う」
 話している最中に僕は自分の股間が机の角に当たるようにした。ちょうど半ズボンの平らになったところが机に乗るのだ。
 丸みをおびた平らな逆三角形をベンの目が捕らえた。視線が股間に固定される。ずっと見つめたらやばいと思ったのだろう、目をそらす。でも気になるのか、また目を向ける。
 僕にはわかる。いま彼の脳は制服ズボンの生地を透視してなかがどうなっているかを想像している。ダメなやつだなーこいつは。やがてベンがギュッと両手を握りしめた。
「リアム、こっちこそ質問があるんだけど」
「どうぞ」
「リアムってこのあいだから変だろ? 急に半ズボンを履くとか」
「どうだろうねー。科学実験で穴を開けられたくないからズボンを履き替えたのかもね」
 そしてとうとうベンがこっちを見た。僕と視線が合った。……でもすぐに切れた。
「実験のときのことは謝るから! 普通にしていていいんだぜ?」
「僕はいつも普通だよ? それより嬉しいなぁ、ベンのほうから謝ってくれるなんて」
 しらじらしくも僕は前かがみになって机にひじをついた。もちろん今度は胸もとを強調するポーズなのだ。

納品鯨野1
挿絵 鯨野

「僕のほうこそ、イヤミったらしいことばかり言ってごめんね」
 ベンは僕を押しのけようとした。そして伸ばした右手が僕の胸の上でふにゃっとなった。
「!? ……!?」
 なんだかよく分からないうなり声をあげてベンは逃げていった。さすがに気持ち悪すぎたろうか?

 ところがその後、僕が教室を移動しようと廊下を歩いているところへ一人の女子が向かってきた。
「リアムぅ、あなたに聞きたいことがあんだけど」
 誰だと思ってよく見ようとしたから僕の目つきはまたきつくなったはずだ。相手は赤っぽい髪をリボンで結んだそばかすの少女。あー、手鏡を借りた子だ。名前はマヤ。あまり話したことはないけれど、噂話とかでいろいろ騒ぐのが好きな子だったはずだ。
「単刀直入に言うよ。あなた、ついてないでしょ」
 意味の分からないことを言われて僕はたじろいだ。人通りの少ないタイミングを狙われたようだ。マヤは思いもよらないすばやさで背の低い身を寄せてきた。彼女の右手がなんと僕の股間にそえられる。つるん。避ける間もなくひとなでされてしまった。女の子の柔らかい手のひらの感覚を股間で受けるなんてめったにない経験だ。白状すれば幼稚園でさわりっこしたとき以来かな(ごめん)。
「ちょっと、なんだよ」
「すごい、本当になーいー」
 マヤは右手をグーパーさせてなにかの成果を喜んでいる。逃げようとしたら
「股間のことをばらされたくなかったらついてきて」
 と言われてしまった。まさかこの子は僕の半ズボン姿でなにかに気づいて、さらに一瞬のボディタッチで仕掛けを見破った――ということか? この子も感性を鍛えたマジシャンなのだろうか? はたして彼女に連れてこられたのは校舎の一階隅、女子トイレだった。マヤはためらうことなく僕を女子トイレのほうに引っ張った。
「だめだよこれ!」
「あらー、本来のあなたなら問題ないんじゃなくて、リアムちゃん」
 本来? 僕はマヤに連れこまれた。女子トイレって入るのは初めてだ。個室のトイレばかりで扉が閉まっているからすごく狭い印象である。そのうえ通り道にはクラスの女子が四人も立っていたのだ! 普通なら大騒ぎされる絶対ありえないシチュエーションなのに、女子たちはなぜかみんなにこやかな表情だ。
 僕はマヤ含めた女子たちに囲まれてしまった。マヤが咳払いをした。
「あたしたちのリアムは本当に女の子だったよ! おっぱいあるし股間はつんつるりんだし」
 ちょっと待って、手品は仕込んだけれどそれはベンを驚ろかすためだ。僕は自分を女だと思ってもらうつもりはなかったよ? しかし反論する間もなく女子たちはマヤの言葉に喝采を上げる。
「リアムって自分が女の子なことを隠してたんだね?」
「おっぱいは最近大きくなってきたのかな? よく隠し通せてるよ」
「それで男子宿舎に住んでるんだもんね! やるじゃん!」
 ここまで一気呵成に攻められて、そして結論が
「男装までして男子たちに混じってた理由って……、やっぱり恋なの? ベンを追いかけちゃってるの?」
 そう来たかー!
「……つまり最近僕がベンの目を引こうとしてたのがばれていたって? そのうえ僕がベンに恋してるって?」
「やっぱり目を引こうとしてたんだね、アメイジング!!」
「君の考えている意味では違うよ!」
「えー、でもリアムがベンを追っかけてるのバレバレだよ。クラスの全員気づいているって」
 僕はむっとした。
「訂正してよ。僕がベンを追いかけてるんじゃなくてベンに僕を追いかけさせたいの!」
 思わず言ってしまったこれ、かえってミスリーディングする台詞だったようだ。女子たちはほあーっ、とため息をついた。
「ほんとに同じ中×生なの? 先を行きすぎてもう神々しい」
「いまのはさすがにビッグマウスと受け取っとくわ」
 なんだかよく分からないけどマヤが手を振ってみんなの興奮を沈めた。
「あたしたちはリアムを理解するよ。サッカーチームでもイケてるほうのベンに惹かれる気持ち、すっごく分かるから」
「ベンがイケてる? ないでしょ、さっきから誤解だよ、あらゆる面で誤解だよ」
「隠さなくても大丈夫だよ、あたしはリアムちゃんを応援したっていいんだから、ね」
 まずい、僕が女子たちをだましたことにはなりたくないし、この場で本当の性別を分かってもらわないといけない。でも胸と股間を女装している男だなんて思われたらそれはそれで致命的な変態あつかいかも。どうしたらいいんだ。
「僕……、本当に男なんだよ?」
「分かってるよー。男子宿舎を追い出されないようにリアムの秘密は公言しないって」
 僕たちは女子トイレを出た。恥ずかしいのに女子たちは僕に「リアムちゃん、バーイ」と大声であいさつして去っていく。そのときだ。別方向から殺気を感じて僕はふり向いた。遠くに男子の背中が見える。まちがいなくベンだ!
 ベンは顔を見せずに校舎の反対の端へと消えていった。もしかしたら女子トイレを出たところをベンに見られたかもしれない。
 なんだかすごく恥ずかしかった。

 そのまま校内では粘着テープをはがすタイミングがなかったから、放課後の男子宿舎でネクタイをゆるめたら僕は少しほっとしてしまった。
 自室の姿見の前で考えた。ベンはもう宿舎に戻っただろうか、それともサッカーの練習をしているだろうか。先週までは普通に話していたのに、いまはなんだか顔を合わせるのが怖い。
 あいつになにか誤解されたかもしれない。女子トイレには強制的に連れて行かれたんだと説明しようか。でももし目撃されていなかったとしたら、自分からベンにそんなことを説明するなんてバカみたいだ。
 ベンのことになると無駄に困らされるなぁ。そう感じながら僕はシャツを脱いだ。
「……あれ?」
 粘着テープで寄せた胸が、テープをはがしてもまだふくらんでいるように見える。手のひらを当ててみたら三センチくらいの硬いしこりがあって乳首の下が痛い。
 テープの刺激ではれてしまったのだろうか。それとも男子の胸にも出るっていう思春期の一時的なふくらみ? 女子どもはこれをおっぱいと見なしたのかな。変な気分になりながら僕は部屋着に着がえた。

【投稿小説】目つきの悪いボクは彼の視線を釘づけにしたい ②(猫野 丸太丸)

「反応はありました。僕のひざ裏をがん見してましたよ。態度はあいかわらずでしたけど」
「よしよし、つかみはばっちりだな」
 僕は再び手品先生のところに来ていた。今日の手品先生は話をする前からにやにや笑っている。というより部屋を訪ねた時点でなにか態度が怪しい。僕は浮かれていた頭を切り替えた。先生はつぎの仕掛けをしているのだ。
「ところでなにか気づかないかね」
「ギャグだったら申し訳ないんですけど。先生、胸になにか仕込んでますね」
「ご名答。よっく見てみろ」
 たくましい手が首のネクタイをほどき、ワイシャツのボタンを外す。のぞきこんだ僕の前にいきなりベージュの山が爆発したっ!
 おっぱい!? そしてやわらかい谷間を包むワイン色のブラジャーっ?
「なんですかそれはっ」
「注目度抜群だろう」
 大きな乳房をゆっさゆっさ揺らして笑う先生。かっちりした背広と太い首におっぱいは似あわない。正直、すごく気持ち悪い。
「衝撃的ですね悪い意味で。どうしたんですか」
「もちろん手品だ。粘着テープとかで工夫すればこのくらいの見た目が作れるんだぞ。もし教室でやったら大変なことになるがな」
「そうですね見るのは遠慮します」
 ただこの手品、驚きが激しいのは認める。僕は胸を作るやりかたを先生から教わって帰った。
 夜、宿題をやりながら自分の個室で考えてみる。ベンのやつをびっくりさせるには並大抵の見た目ではだめだ。しかし皆の前でおっぱいをおおっぴらにやるのは恥ずかしい。

 翌朝、僕は一計を案じた。数学の時間の前にわざとらしく教科書とノートを机の上に広げたのだ。するとベンはやっぱり僕の机まで来た。僕にノートを見せてもらうのがこいつの習慣になっているからだけど、うん、いつもより格段にきょろきょろしている。
「べべべべつに、おまえが見せてくれるならでいいんだけど」
 気まずそうな声で言うベン。僕はなるべくにこやかに答えた。
「ああ、いいよ、ベン。しっかり見ていきなよ」
 立っているベンの前で僕は前かがみになる。シャツの胸ボタンはふたつはずしてある。そして服の下には、手品先生から習った例のやわらかい仕掛けがしてあるのだ。
 わざとページをめくってじらしてから、僕はノートを差し出した。そして顔を見たとたん笑いそうになるのをこらえた。
 見下ろしているベンの表情がひきつり過ぎて、シャウトしたロックシンガーみたくなっている。
「ん? どうしたの?」
「おまえいったい……、いや、なんでもない」
 ベンはノートをひったくって逃げていった。間違いない、僕の手品に反応している。落ち着いて胸のボタンを直してから、僕は周囲を見回した。他の生徒にはばれていない、ベンだけを驚かせることに成功したわけだ。なにより嬉しいのは、ベンがあわてているあいだ僕と視線が合っても目をそらさなかったし、目のことをバカにしなかったのだ。

 ちなみに胸の加工は体育の時間が来るまでにすばやくはずしておいた。だからシャワールームで着替えたって、僕は他の男子たちからなにも怪しまれずにすんだ。ただし大事なポイントとしてベンが見ている前では着がえないようにしたのだ。その結果ベンの頭のなかには一日中、おっぱいが大きな僕の像が残り続けることになる。いかがだろうか?

 三たび手品先生のもとに舞い戻り、僕たちはさらに作戦を練った。
「威力が発揮されてきたみたいですよ。ベンの態度が変わりました」
「そうだね、リアムくんの態度も改善されたようで良かった良かった」
「はい? なにがですか?」
「いやいやこっちの話だ。それでつぎはどうする、君自身にもなにか案があるんじゃないかね」
 その通りだった。僕はうなずいて作戦を話すことにした。
「ベンってば他人の身体特徴に興味がありすぎるんですよ。今日のことで思い出したんだけど体育の時間にベンが、他のやつの股間が盛り上がっているのを指さして『あいつ、いま勃起しているぜ』とか言うんですよ、信じられます? ……だから逆に僕がわざと股間に細工をしたらベンは絶対見ます、気づきます」
「むむっ、股間か。するとこんなのだな」
 部屋を訪れるたびになにかしてくる手品先生だから僕もたいがいのことでは驚きたくないのだけれど、先生の右手からいきなり転がり出たピンク色の棒を見て僕はぎゃっと叫んでしまった。 それはピンク色の巨大な、棒と呼ぶにはあまりにリアルに血管や亀頭を作りこんだ物体だった。
「だからなんなんですか!」
「もちろんおもちゃだよ」
「大人がおもちゃって言ったら変な意味になるじゃないですか」
 学校にそんなもの持ちこまないで下さいよ、と言ったら先生はしぶしぶその模型を片づけた。
「これが股間から出てきたらびっくりすると思うけどなぁ」
「犯罪的変態と呼ばれるでしょうけどね! 僕は他のみんなには目立ちたくないんです、あくまで手品にかけるのはベンひとり。だから逆でいいんです……。股間のふくらみを目立たなくする方法ってあるでしょうか?」
 先生は珍しく驚いて目をきょろきょろさせた。
「あるぞ? その手段はあるが、ただ意図が変わってしまうんじゃないか。なんだかその……」
「意図は同じですよ。ベンが体の他の特徴ばかりを気になって、目つきのことをどうでも良くなればいいんですから。実際これまでそういうふうに誘導できています」
 先生はいぶかしがりながらも僕に股間を隠すテクニックを黒板で図解してくれた。粘着テープって胸以外にもいろいろ使い道にコツがあるんだな。
 それで終わりかと思ったら、先生は曇った顔で僕を呼び止めた。
「なあ、リアム。いまからでも巨大なちんちんにしないか」
「しません! ちょうど半ズボンを履いているんだしベンにはこれがいいんです」

 先生の前でいじるのも変だったから、自室に行ってから僕は自分の股間を加工した。ちんこを股の後ろへと折りたたんで周りの肉を寄せて、テープで止める。その状態で半ズボンを履くと前がぺったんこになって変な気分だ。姿見に映る全身像も雰囲気が変わった気がする。この格好を見てベンはどう思うだろうか? うーん、と悩むと、鏡に映る僕の目つきはやっぱりけわしくなった。困ったもんだ。

【投稿小説】目つきの悪いボクは彼の視線を釘づけにしたい ①(猫野 丸太丸)

作.猫野 丸太丸
イラスト.鯨野 https://skima.jp/profile?id=12623

鯨野さんメイン

 とある国の寄宿舎制中学校、晩秋の昼休み。栗色の髪と丸い眼鏡にアッシュブルーのとってもきれいな瞳だと自分で言っちゃうレベルの瞳を持つ僕、リアム=グレイスが頭を悩ませているのは級友のベンのことだった。
 ベンは同じクラスの、高身長黒い目黒い短髪のサッカーが得意な男子だ。午前中の科学の実験、同じ班のベンに対して嫌な予感はしていたのだが、ベンのやつってばまた手順を間違えてビーカーを焦げたコーヒーみたいな物体にしてしまったのだ。だから僕は彼をたしなめた。
 そのことを根に持ったベンはランチの時間に僕の座るテーブルまで突っかかってきた。右手にはあんまりきれいじゃない白衣を握りしめていたから、僕は早めに自分のサンドイッチをテーブルの上から避難させた。
「おまえ、なんだよさっきの言いかたは!」
「僕は硫酸の扱いには気をつけろって忠告しただけだよ」
「分かってるよ、俺だって酸くらい! ……トイレ掃除に便利なやつだろ」
 ベンが白衣を振り回す。僕がのけぞって避けるとベンは体を一回転させた。
「化学物質がこぼれていたらどうするんだ、君の手だって危なかった」
「危ないわけないだろ」
「白衣の焦げているところ! それが硫酸だよ!」
 ベンが白衣の袖を広げてみせた。茶色く変色した斑点がいくつも見える。衣服のセルロースが化学変化を起こしたのだ。うえっと驚きの声をあげてから、ベンは白衣を僕の前からかたづけた。
「やばかった、ごめん」
「分かればいい。下手に中和とかせずに流水で洗っておけよ」
「いや、だからってよ? なにか知ってるからって先生みたいにいちいちさぁ?」
 僕たちの口論が常々だとはいえ、他の生徒もいぶかしんで遠巻きにこちらを見ている。恥ずかしいことだがベンは大声を止めようとはしない。
「リアムはいつも上から目線なんだよ!」
「正しいことに上からも下からも関係ない。非を認めるのなら素直に反省すれば?」
 皮肉で言ってるんじゃない、僕だって本気なのだ。でも――、ベンの次の言葉を僕は正直予想してしまっている。
「だからその目で見るなよ。眼鏡の底からじとーっと見られたら誰だって逆らいたくなるだろ」
「う……。いいかげん目は関係ないだろ」
「関係あるって!」
 ベンは僕の眼鏡のレンズに向けて無礼にも指を差してきた。
「不快になるだろ! 陰険な目つきしてさ」
 陰険な目つき。一番言われたくないことを言われたので僕は思わず立ち上がった。自分自身気にしていることなのに、ベンはいつも一番悔しいタイミングでそのことを指摘してくる。
 分かっているのだ。僕の瞳はすごくきれいかもしれないのに自分自身がだいなしにしてしまっている。目つきの時点で避けられているんだ。ただでさえ深い眉間のしわが、よけいにきつくなっていることを自分でも分かる。そして僕のにらみつけに、さっきまで怒っていたはずのベンが言葉を途切れさせてしまう。
「……なんだよ、にらむなよ」
「にらんでないよ!」
 僕はサンドイッチを抱えてその場を走って逃げた。

「……というわけでした」
 秋の日が沈みつつある放課後の面談室。普通はお説教に使われるから生徒が近づきたがらない部屋なんだけど、僕はそこで手品先生を訪ねていた。手品先生は僕たちの学校でカウンセリングのようなことをやっていて得意分野が手品という変わった人物だった。面談での説明に手品を交えるからすごく分かりやすく、先生は僕が尊敬している大人のひとりであった。手品に興味があった僕は先生からこっそり手品の技を習うと同時に、学校生活で困ったことがあったとき相談に乗ってもらっていた。
 部屋には木の机がひとつと椅子がふたつ、壁には小さな黒板があった。背広にネクタイ姿の先生は先に腰掛けていて、僕の報告を聞いてから、まず座りたまえ、と言った。
「はいそれで、僕はいったいどうしたらいいのでしょう」
「友人に忠告するときは態度に気をつけたらいいではないですか」
「でもあいつ、厳しくしていないといつか自滅すると思います。それなのに僕が言ってもいつも目つきのせいで避けられてしまって」
 先生は少し首をひねってうなった。
「たしかにベンくんの君への言いかたにもトゲはあるね。ただ他人に言われた理由を目つきのせいにするのはなにかおかしい」
「おかしいのは僕のほうですか!? ひどい、プールのあとも花粉症のときも夕日が目に染みるときも目つきが悪いことにされるのに!」
「君の目は美点でもあるのだから、目のせいにするのは自分のためにも良くないということさ。君に自信をつけたいなぁ。手品を試してみるか」
 出た、期待の手品だ。僕は目を見開いた。先生は立ち上がって、僕の座る椅子、そして机のまわりを一周する。
「視線誘導のトリックは知っているかね」
「はい! 手もとで手品のタネを操作しているときに反対側の手に注目させたりして、お客さんをミスディレクションする技術です」
 視線誘導はもちろん先生の得意とする技術だ。そんな話題を振られているのだから、僕は当然先生の全身や背景にまで注目する。それなのに一周するうちに、先生の手にはバラの造花が握られていた。次はどうなる、上か、下か、という予測をすべて外して花が先生の袖から、背広のなかから、ズボンの裾からとどんどん出てきて、やがてバラの花束が僕に渡された。
 花束を抱えるはめになった僕はどうしていいか分からない。先生は説明を続けた。
「目つきに注目されるのが難しいなら違うところに気を向けてもらおう。君の魅力をほかに作るんだ」
「僕は自分の瞳がいちばん好きなのですが」
「情報の提示には順番というものがある。瞳はきっと最後に見てもらえるさ。そのための準備としてまずはこれだ」
 先生は空中から紺色の布地を取り出してみせた。うちの制服と同色の四角い衣服。ポケットがついていてサスペンダーで吊るすことができる。
「半ズボンじゃないですか」
「懐かしいだろう。これを履きたまえ、一応制服として過去に採用されていたものだ」
「なんだか初等部みたいだ」
 僕は半信半疑で半ズボンを受け取った。効果が分からない、でもだからこそ手品のネタとして役に立つのかもしれない。
 僕は先生の目の前でスラックスを脱いで半ズボンに履きかえた。
「すうすうする……。久しぶりにはくと体操着とも違う感じがしますね」
「似あうよ」
「幼稚だってことですか、それ」
 去りぎわに先生が手を叩いた。
「そうそう、すね毛は剃っておけよ」
「生えてませんよ、そんなに!」

 翌日、半ズボンを履いて教室に入った僕は友人たちにあれこれ言われたが、替えの制服ズボンを切らしたからとか適当に言ってごまかした。ベンはとくに話しかけてこない。離れたところにいてこちらに見向きもしない様子だ。
(あれだけ昨日騒いだからな、僕の目を避けているのかも)
 悲しい感じになったけれど、僕のほうから視線を向けるのもしゃくだ。なるべくふり返らないようにして授業を受けた。
 ただときどき背中に視線を感じる気がする。とくに休み時間や移動時間、自由に動けるタイミングでだ。僕は女の子に頼みこんで手鏡を借りた。廊下で歩いているふりをして、隠し手鏡で後ろを映す。
(ベンが見ている……!)
 ベンが明らかにこちらを見ている。気づかれたらまずいのでその姿をよく記憶しておいて手鏡をしまった。廊下を曲がり、人ごみに入ったところで立ち止まって思案する。
(ベンは見ていた。視線は少し下のほう、僕のむき出しのひざ裏に向いていた! 半ズボンに効果があったんだ。表情は、頬がちょっと緊張していた。気おくれしているような……。もしかして怒ったことを後悔して僕に謝ってくれるのかも)
 どうしようか迷ったけれどベンに遠慮していてもしかたがない。相手の気がそれているときに近づいて、後ろから急に声をかけてみた。
「昨日は悪かったな。気のせいかな? 僕になにか言いたいことがありそうだけど」
 ベンは明らかに驚いた顔でこっちを見たけれど、すぐに目をそらして首を振った。
「知るか、うっとうしい視線向けてくるなって言っただろ?」
「むー」
 腹の立つやつだ。

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