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【投稿小説】第二次性徴異常発育症候群 性転換症 第三十五話 ボーダーレス

作 kyosuke

隼人はハンドルを操作しつつも時折菜緒を見る、小柄である以外は何処か男性を惹き付けるナニかがある……彼女に関する機密文書のシールとハンコが幾多も捺された表紙が印象的な報告書を見た時には医学に全く知識が無い自分でも驚く、これならリスクがあっても菜緒の身体にあるDNAを欲しがるのも頷け行動を移す輩が出て来る訳だ。最も日本政府も無能ではない、寧ろ騒ぎにならずに“処理”するのである。ここ数週間この手の任務が多かったが仮想敵国側の黒幕らもこれ以上手を出すと日本に送り出す人選や拠点作りをする事になるので諜報機関が政府要人を説得したと言う方が正しいだろう。
「別荘までは数時間かかります」
「そうなんだ」
「元々はバブル経済崩壊で頓挫した別荘地でしてね……交通アクセスも悪かったので我々には都合は良かったのですが、付近を通る国道が新ルートに切り替わるのと別荘地自体が土砂災害リスクがある……」
菜緒もこれで理解した、つまり万が一の時には使えない事もあるのだ。
「それで実弾演習する前に」
菜緒の苦笑交じりの笑顔に隼人は言う。
「あの、本当に古さだけの別荘です」
ナビゲーションシステムの音声が時折聞こえる中二人は会話をする。


一ノ瀬家リビングにて将は玲と宗介が巻き込まれた事件を把握して神妙な顔になる、怒ってはいるが既に警察が介入している。
「そうか……あの辺りは族の溜まり場には恰好の場所だからなぁ」
「舘が来なかったら危なかったさ……」
正弘も警察からの聴取を終えて帰宅したが伯父の迅は色々と動いている様だ。
「バイク二台を弾き飛ばしたって……兄さんも可也怒っていたな」
将は糸眼になりつつも思う。一度アイツラの所で話をつける必要があるな……。正弘までプッツンしたと言うのも分かる、ここ最近地元は学生らが被害者になる暴走族絡みのトラブルが相次いでおり将も気にかけていた。学生時代に拳を交わした相手にも耳に届く程だ……。
「橘さん、夕食まだでしょう……」
日菜子は手際よくドライカレーかつ丼とみそ汁を調理しており宗介の元に……。玲を守ってくれたお礼であろう。
「いただきます」
その様子を見る玲の表情は冴えない、将としてはどうする事もできないのだ。


「すごい、山奥なんですね……」
菜緒も驚く程だが隼人も初めて来た時には同様の言葉を発した……交通アクセスの悪さは想像以上で主要国道から通じる道も酷道の一歩手前、つまり舗装路面が酷い状況である。別荘自体も木々に覆われているので通常航空機でも見つけ難いだろう。
「ー遠山隼人曹長及び護衛対象楠瀬菜緒さんの本人確認を終えましたー」
ナビゲーションシステムの音声に菜緒は驚くも隼人は言う。
「HARU、訓練モードだ」
「ー了承ー」
別荘自体はなんも変哲もないがセーフティハウスとしての機能は十分だ。ガレージのシャッターが上がり隼人はハルシオンRLをバックで居れる。
「よっ……とっ、軽いな」
隼人は菜緒をお姫様抱っこして別荘へと入る。これも護衛対象が動けない場合を想定したのだろう。菜緒はドキっとする感情に迷うが女性器が湿り始めていた、どうも自分の女性器はこの手の男性が好みらしい。


ツインサイズのベットはシーツと大きな枕しかない……菜緒は寝かされると男を誘う言葉を発し、隼人もこうなると覚悟をしてキスをする。菜緒にとって異性から初めてキスされたのだ。
「(性転換症の子は発情するって言っていたけど……なるほどなぁ、確保されやすい訳だ)」
隼人も任務上幾多の女性をベットの上で堕とした事もあり未成年者だった事もある……性転換症発症者とは初めてするが出会って数時間でコレなら護衛が必要になる訳だ。
「あぅ!」
スカートの内側に手を入れてしまったが菜緒の手は拒否をせずに下着中央の部分に誘導する。
「!」
媚薬でも盛ったのかと言う位に濡れていた事が感触で分かる。隼人も状況次第では使う事もあるが菜緒が治験ナノマシンの副作用で性転換症発症したと言う事で市販のモノも危ない可能性もある。
「……」
菜緒も言葉が出ない程に恥ずかしいが体は肉棒を求めている、菜緒は直也だった時に筆下しする事になったが藍の気分も分かる……今自分は隼人さんに魅力を感じていると。
「少し激しくします」
任務で強い媚薬を盛られた女性隊員を鎮めた際に使った言葉だ、隼人は菜緒の下着股布をズラして花弁を撫でると菜緒はスカートのホックを外し隼人は起用にスカートを脱がし、ブラウスのボタンを外していく。今回は菜緒に予備の衣類は用意はしてあるが殆どが対象に着替えが無い状況なので自然と身に着けたテクだ。
「っ……隼人さんのモノ」
菜緒自身にもあった雄の器官に触れると何故か嫌悪感は無い、あの事故で失った時に身動きが取れなかった事で視認せずに精神的ショックが来なかったのも功を奏した。
「あっ……」
菜緒は軽く愛撫をするとそのまま肉棒を咥えた。藍が何時もしていたように……それは牡を惹き付ける為の行為と分かる。隼人も理解した……不安定になり何か背徳的なモノで解消しないとコワれてしまう。自然とシックスナインの形になり丹念舐めあう。
「隼人さん、寝てください」
「ああ……」
騎乗位を選んだのは体格差を考慮したのか……菜緒の唾液によりイキり起つ肉棒に菜緒は跨り腰を慎重に下す。
「っ……」
自身の処女華穴に隼人の亀頭が触れると徐々に腰を下ろした、途中で何かに引っ掛かり痛みが来た。処女膜だ……その膜を破られる側になる事になった菜緒は思う……藍の強さに。
「んぁ!!!!」
「無理はしないで……動きますよ」
隼人も処女を喰ったのは初めてではなく扱い方は心得ている。じっくりと男の味を教え込む。


「ありがとうございます」
「あ、その後半はもう……」
騎乗位で初めて膣内射精&雌絶頂した菜緒に隼人がそのまま押し倒してしまいバックのまま二回目の膣内射精してしまったのだ。隼人もハッとしたが菜緒は満足げである。
「あの……風呂入りましょう」
菜緒は頷くと隼人は抱えてそのまま浴室に……何分腰が抜ける程の快楽に驚くが隼人の激しさは軍内では有名であるのは後に知った。隼人は途中でマットの上にあるシーツを取り外して用意してあった専用袋に……菜緒の破瓜の血さえもサンプルになるので回収する様に厳命を受けていたのだ。


翌朝、初めての朝帰りをしたが藍も真奈美もニッとして言う。
「この分だと遠山さんの所に嫁入り濃厚かな」
「うん、従妹しては賛成だね」
「……はい?」
「私の母親、旧姓が遠山」
真奈美の言葉に隼人も苦笑する……従弟の時から変わらない性格なのだ。発症後に高校入学拒否されたが直ぐに陸軍士官高等学校が受け入れを表明、軍隊内で女性比率が多くなっている。


迅は社屋にてスカニアを見る、ブルバーと呼ばれる本来は野生動物から車体を守る装置であるがドレスアップのパーツでもある。
「社長、久しぶりにやっちゃってますね」
「ああ……正弘があんなにキレたのは久しぶりに見たよ。本当に」
専務をしている元銀行員の桐野 一郎も呆れるが大型牽引貨物車は制動距離が長くなる……仕方ない事だ。高校生であっても運転免許持ちなら分かる事だ、道路の真ん中でバイクを停車すれば……。
「バイクの所有者とは話ついているんですか?」
「そいつらのバックな……俺とは高校の同期でバイク屋とカフェを営んでいる、トラブった相手が俺と知った途端にLトークが入って来た。どうも路怒男爵の現総長とその側近らは色々と問題を起こしている様でね……今頃は捜査員らのモーニングコールでガサ入れされているかな?この分だとメンバーらは自身の保身に走るからね」
迅も遠目になるが仕方ない事だ、恐らく逮捕者の中に幹部が居たのだろう……現総長はあの現場に来なかったが遅かった様だ。やがて会社所有の駐車場に小太りした男性がドレスアップした軽トラから降りて来た。やはり険しい表情だ。
「迅!」
小暮 雷は迅とは高校時代からの友人であり暴走族をしていたが更生して今ではバイク屋とカフェを営んでいる。
「雷か……」
「バイクの事はこっちが責任を持つよ。元々事故車からの再生したモノだ」
雷の言葉に迅は察しがついた。なるほど解体屋があるか……。迅も時折世話になる業種である。
「それにあの二人はチームを抜け出したいって相談を受けている……現総長の津崎は許さなかったようだけどな……」
雷が言うには暴走族活動の資金面でのトラブルが表面化しており総長及び幹部らに対する反発も……粛清も頻発していたが昨晩の騒動により弱体化所か消滅の危機すらある。
「万が一の時にはこうするって決めていたしな……玲だったけ?」
「ああ、将の娘さ」
「……そりゃあ正弘が大立ち回りするな、よく病院送りが出なかったな」
雷は遠目になるのも無理はなく、程なくして路怒男爵総長津崎は刑事らにより逮捕された事を知った。


「逮捕か……アイツら色々と染めていたからな」
舘はバイト先の国道ガソリンスタンドにて来客したOGの一人から路怒男爵総長らの逮捕された事を知る。
「路怒男爵は解散するのか?」
「恐らくは……」
舘は給油装置のノズルを操作しつつ言う。彼自身も暴走族をしているので路怒男爵の面々の心情は理解している、新興の割には活動が続いていた方であるが現総長らは非合法で金を得ていた事は知っていた。一般人や学生が被害者になる犯罪行為によって……ロードウルフはそのような事を禁じており犯したメンバーを警察にも突き出した事もある。
「一ノ瀬社長の姪っ子ってそんなに価値があるんですか?変態が買い求めるって?」
バイト仲間でもあり別の暴走族/半グレに属している少年が尋ねると舘は言う。
「その変態が“有力者”ならあり得る話だ。まあ翠の姐御の所は断るさ……一ノ瀬家に恩があるから早々と引いた」
「ぁ……」
「玲ちゃんに絡んでマッポにしょっぴかれる、隣県の連中なんてPCの追跡を逃れたって思ったら事故って腕を電柱を支えるワイヤーに切断された」
「まじっすか」
「これが胴体や頭なら洒落にならないだろうよ」
舘はそう言いつつもOBの一人木藤の愛車から出たゴミを片付けた。彼は飲食店経営者であるが色気が漂う形態である、なお愛車はビンテージモノの外車バンである。
「木藤さん、空気圧も見ておきますか?」
「頼むよ、ちょい遠出するから。それと携行缶にも入れて置いてくれ」
ガソリン専用携行缶である、ガソリンは気化が激しいので専用出ないと爆発事故を起こす。それだけ燃費が悪いのだろう……。
「舘、関には報告しておけよ……他の族の動き次第じゃOBらに連絡とらないとな……」
「はい」
木藤は舘の傍で作業している子を思い出した。確かロードウルフとは友好的なチームである“馬沙羅”、ロードウルフと並ぶ古参である。
「馬沙羅の霧宮だったな……」
「はい」
「総長の様子は?」
「落ち着いてます、ただ何時キレるか」
GWの最中に総長の恋人が対立する半グレに性的暴行された,半グレの拠点になっている店に馬沙羅の総長が単身乗り込み性的暴行した半グレらを全員病院送りにした上に店内を半壊させた。木藤が経営している店舗の近くであり居合わせた彼が必死になって止めた。当然警察沙汰になり事件のきっかけになった恋人の性的暴行も発覚……半グレ連中も報復をするべく問屋街にて襲撃したが特攻隊長のジンを中心にして返り討ちにしており霧宮もその時に参加。
「確か最後は日下部の爺さんに絡んでしまって、交番に放り込まれたとか」
舘は日下部師範代の事は先輩らから教えられたので手は出しては無い。その半グレ連中は全員移住組だったんだろうな。
「警察もピリピリしているしな……祭の時に手打ちするべきかな?」
「それ新興の連中が納得しませんよ」
霧宮の言う通りだ、ここで言う祭とは集会の事であるが地元の祭りに合わせて開催される交流会でもある。参加者は男女問わず着飾る訳だがこれが暴走族が他の犯罪に手出す要因になっている訳だ。ロードウルフや馬沙羅の様に古参なら気にしてないが新興の所は名を売りたい、玲に賞金を懸けたのは半グレと言うか犯罪組織だ。
「この分だと動いているかもな」
舘は思う。のめり込むと危ないのだ。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                 

【投稿小説】第二次性徴異常発育症候群 性転換症 第三十四話 夏の情夜

作 kyosuke

隼人と菜緒は夕食後、ドライブインシアターイベントが開催される会場に自動車で入る。チケットを見せるとノベルティグッズが入った手提げ袋を貰い係員の誘導で駐車する。
「ピックアップトラックとかなら荷台から見てもいいかも……」
「スクリーンがおおきなぁ……」
トイレは大型トレーラータイプが三台用意、キッチンカーまで用意されており映画鑑賞に向けの食品が並ぶがアルコール飲料は提供されてない、これはドライバーが不意に呑んでしまい飲酒運転になる事を恐れを危惧した主催者側の決断である。ノベルティグッツが入った手提げかばんから出て来たチケットに菜緒は言う。
「あっ、ポップコーンの無料引換券だ」
「じゃあ取りに行こう」
あくまでカップルを装っての護衛任務、アサルトライフルが入ったケースも楽器ケースに偽装しているのである。襲撃の恐れは無いとは言い切れない……。
「(問題はないとおもうが……)」
本当に欲に眼が眩むと事の善悪がつかなくなるのだ。隼人はそう思いつつも愛車から出る。


「これで全部と……」
「助かりました、宗介さん」
玲と宗介は日菜子がご愛用しているスーパーマーケット“丸頓屋”に来ていた、元々は食品問屋でどちらかと言うと飲食店向けの食材販売を主にしていたが近年は一般小売も手掛けている。実家が料亭をしている日菜子にとっては馴染みがあり、彼女の愛車は三沢自動車が長年販売している軽トラ“キャロル”……実家で使っていたモノである。
「久しぶりに顔を出した方々ですからね」
就職や転任で三沢市から転出した門下生らが顔を出してそのまま宴会になったのである。調理に追われ買い出しに行くタイミングを失い困っていた所に宗介が来たので頼まれた訳だ。最もデートも兼ねているかもしれないが。
「ん?」
国道の方から響くエンジンサウンドは不快に聞こえるのも消音器を外している違法改造されたバイクから発しているのだ。
「この辺りって道路が広いから走りやすい上に集会に適した場所も多いから、あんまり夜間は近寄りたくないって言う人も多いんですよ」
正弘と玲の父親である将や伯父の迅が学生時代の時には暴走族同士の抗争が絶えずPCのサイレンが毎晩鳴り響いた、そして遂には数名命を落としてしまい暴力団やらも絡んでいた事もあり沈静化したのである。
「一ノ瀬運輸の社員って」
「その時の抗争を知っている方も少なくはないですからね……」
補導や保護観察で済めば御の字、これは宗介も分かる。
「じゃあ戻るか」
宗介は運転席のドアを開けようとした時に気が付いた。暴走族の少年らは玲に狙いを定めていたのだ。宗介はヤレヤレと思う……穏便に済ませよう。
「……悪いが、彼女と遊ぶのなら諦めな、君らの様な不良とはお付き合いはしないよ……」
「あぁ~なにいってるんだぁ」
迫って来る暴走族の少年は凶器を取り出すも宗介は殺気を出さない。特攻服に刺繍された路怒男爵と捻りも無いチーム名を見た玲は直ぐに新興と分かる。玲も身構えた瞬間に別のエンジンサウンドが鳴り響いた。
「芋野郎、これ以上彼女に付きまとうと酷い目に逢うぞ……」
ロードウルフの舘が言う。眼光鋭く路怒男爵の数人も少したじろく。
「玲、いくぞ」
一礼した玲は助手席に座ると同時に宗介はキャロルを急発進させた。足回りは少々イジっている事は宗介もハンドル握り挙動で分かる。
「玲、通報したのか?」
「うん……恐らく追って来る」
宗介もバイク二台が迫って来た事はバックミラーで分かる。時間帯的に交通量が少ないから立ち塞がれる。バイクから二人が降りて来る、手には凶器……幾ら何でも宗介も無事では済まされない。
「玲、何があってもあけるな」
宗介はそう言うと車外へと下りる。バイクを運転していた二人は直ぐにキャロルの方に近寄ろうとした瞬間バイク二台を弾き飛ばされバイク二台は路面を転がり大破する。
「!」
濃紺色に下部を耐摩耗塗装されたスカニア重トレーラーはループ上にあるフォグランプを点灯しており車外へと下りて来た男性は虚を突かれた路怒男爵のメンバー一人の視界に拳が写った瞬間暗転した。その時には彼は道路に倒れていた。
「一ノ瀬社長!」
「……この様なクソガキには言葉よりもな拳が効くんだよ」
因みにブルバーと呼ばれる本来は野生動物との衝突時に車体大破を防ぐプロテクターによりスカニアは無事である。吹き飛ばされたバイク二台はハンドル周りが損壊しており操作不能……残りの三人は迅の顔を見た瞬間に悟った、これはもう勝てない。
「テメーら、かくごはいいんだな?」
「社長、過剰は……」
「わかっているさ、俺はな」
何時の間にか一ノ瀬運輸のロゴがパネルバンに刻まれた三沢ロードポーターと呼ばれる四t車が止まっておりドライバーが降り、同時に各所に散らばっていたが仲間の危機に集まってしまった路怒男爵の面々を次々と叩きのめしていく。
「橘さん」
「わかりました」
手加減はするが正気に戻るのか心配だ。正弘さんがキレると収まるまで時間を要する。既に夜の九時を過ぎているがこの騒ぎだ……直ぐにPCが来た。こうなると路怒男爵の面々は逃げるしかないのだ。


「正弘も久しぶりに暴れたな」
「最近のガキは引き際を知らんのかな……たく、一撃で倒れるもんかね?」
顔面が腫れた路怒男爵は駆け付けた警察官に確保されて連行……夜須も久しぶりの光景だ。
「丸頓屋の方も逃げられた……喧嘩相手が舘だったら分かるけどな」
夜須は玲を見ると不安な表情になり宗介は寄り添っていた。
「バイク二台を弾き飛ばすとはなぁ」
「車線の真ん中に止める方が悪いさ……所有者は?」
迅の言葉に夜須は苦笑する。PC後部座席で項垂れているのだ。両サイドに警察官が乗り込んでいる。


ドライブインシアターイベントが終わり、隼人と菜緒は予定通り別荘へと向かう……今回は軍人もガッツリ出て来たので隼人は職業上気にする所であり、菜緒も分かる。ドライブインシアターの良さは会話が出来つつ鑑賞出来る……菜緒は隼人を見て思う、本当に恋人だったら……。

【投稿小説】第二次性徴異常発育症候群 性転換症 第三十三話 夏の一刻

作 kyosuke

楠瀬 菜緒は大学に復学するも直ぐに夏季休暇に突入、しかし長期入院による休学によって生じた遅れをカバーする為に補習やら課題を片付ける日々である。普通なら退学もあり得たが治験が予想外に効いている事を把握した大学側の温情に菜緒としても答えるしかない。新たなバイト先も問題無く学業と両立している。
「教授、ありがとうございます」
「……お盆に家に居ても息子に孫を押し付けられるし、楠瀬さんが復学したと聞いてね、デキが良いレポートを見ると嬉しいわよ」
個室にて女性教授はプリントアウトされたレポートを読み終えてにこやかに言う。やはり物足りないらしい事は確かだ。
「女の身体には慣れた?」
「はい」
菜緒は成人してからの発症であるが特殊な事例だ、遺伝子障害の治験が元での発症は何例かあるが全身大火傷の治験では彼女が初……これは遺伝子治療が安易に実用化出来ない事を意味している、しかしながらも菜緒が生存した事は事実だ。
「就職で男女の差がここまであるって思いもしませんでした」
「そうよね……どうしても女性は結婚と出産もあるからね、でも最近は雇用側も改善する動きも広がっているわよ」
女性教授の個室にて護衛の柊 真奈美も分かる気はする。軍隊でも同じ事なのだ……。


数分後、退室する菜緒と真奈美……夏季休暇でも校内にはチラホラと人はいる。
「……楠瀬さんは恋はどうするんですか?」
「同性愛になるかもしれないけど、双方の親からしてみれば理解が出来ないかな……」
「きっかけがあればいいのですね……」
真奈美はニッとしてスマホを操作し数秒画面を見つめて言う。
「身内で体力もテクも一押しの方をリストアップしてます」
この表情はもはや合コンのノリに近い……菜緒はそう思う当たる節がある。悪友らが合コンをセッティングする時の表情だ。
「はい?」
「藍さんも了承しました、菜緒さんがちゃんと男性と性行為出来る様に」
「ぃっ!」
「健康面では問題ありませんよ、菜緒さんは可愛いですから元男性であろうとでも……勃起します、自身を持って!」
真奈美は喜々しつつも言う。


真奈美はミサワハルシオンに乗り込む、この車種はハッチバックと呼ばれる車体形状を持ちミサワサザンをルーツに持つ……ギリシア神話に置いては“アルキュオネー”でありカワセミの由来にもなっている。今回の任務のために用意された車両の一台で菜緒の移動にも使われている。エンジンサウンドは自動車には疎い菜緒でも分かる程に力強くフルタイム4WD駆動も力強い。リアスポイラーが如何にもっていう感じを出しているが防弾仕様である。
「藍さんとは高校時代にセックスしたのですか?」
「否、小学生の時さ……“特別授業”で互いの性器に興味持ってね」
まだ直也だった頃の話だ、兄が持っていた18禁書物である程度は把握していたので藍の秘所を丁寧に開発出来たし藍に肉〇を扱いを教える事も出来た。その後は互いの両親を初めとする周囲の眼を気にしつつも秘め事が続き小学六年生の夏に童貞と処女を失った。
「まあ兄や姉にはバレたけどね」
菜緒は苦笑する……その後は父親の母校に藍と共に通う事になる、これには色々と事情があった事は真奈美は藍やその父親からも聞いている。ハルシオンの助手席に座った菜緒の言葉に真奈美は思う。本当に酷なのだ……菜緒はまだ異性との恋愛に迷いが生じている。




真奈美らが活動拠点にしているのは三沢市郊外にある流通倉庫の一角……昔から軍用車両を初めとする物資の運搬に請け負ってくれている運送倉庫会社の貸倉庫である。社長も従業員も元軍人であり予備役登録している社員も少なくはない……楊博士らの警備本部でもあるのだ。部屋の一室にて如何にも軍人って言う男性が待っていた。ポロシャツにスラックススタイルだが筋骨隆々って言うのは腕を見れば菜緒も分かる。
「真奈美か……」
「少佐、作戦行動中では?」
「ああ、米軍のガイドさ……アイツラも可哀そうにカリブの孤島送りさ」
菜緒はギョっとするのも無理はない、米国政府にはカリブ海にある某島にテロリストらを収監する施設がある事を公表している……主にイスラム系過激派組織だが民兵でも危険思想者なら送り込んでいる様だ。
「君が楠瀬 菜緒さんか……初めまして陸軍の陣原 士郎少尉だ、真奈美の上官の一式とは同期だ」
菜緒は一礼すると彼は笑う。
「何事かと思えば……確かにウチの様なロミオとジュリエットもやる所は性病はNGだからっていってもな」
「士郎、愚痴を零すな……彼女の場合は相当特殊だ」
一式は二人の背後から現れた……。苦笑交じりな表情であり何時のも事なんだろう、
「そうだったな」
少々口が悪いが軍人しているのだ……菜緒はそれが理解できる。
「申し訳ない……相手も聞き訳が良い面々ではないのが多い」
「幾度か警告しても平然としているからな……楠瀬さんを誘拐を企んだ所は全部潰したのか?」
頷く士郎に一式は呆れる、嘸かし永田町の面々に説明する六本木や市ヶ谷のキャリアは大変だろうなぁ。確か隣国でも問題視され始めたカルト教団でこの前本国幹部を事故を装って自動車丸ごと吹き飛ばした所だ……遺体が回収出来ただけでもマシとも言える。最も遺体の状態は最悪な状態であるが……。
「で……この子が瓜を割るのか?事情は分かるが」
「……」
士郎は菜緒の複雑な表情を見て言葉を選んで発言しているが……。
「幻肢痛でも性器の喪失は利く、男〇器を突然失ってしまうとな……よく精神が崩れなかったと思うよ」
同行している軍医の言葉に士郎は苦虫を嚙み潰したような表情になる。
「真奈美、彼女が楠瀬 菜緒さん?」
女性数人が姿を見せると麻奈美は頷くと菜緒を見た彼女達はニコっとする。
「うん、服装で少し大人っ気を出せば……」
「はい?」
「楠瀬さん、デートをしてからその夜に……セーフィティハウスの一つになっている別荘でしましょう」
「え!でもそれってダメじゃ」
「そこ……突入訓練した後で壊す予定さ……」
菜緒は彼女らに連行されて更衣室に消えた。




菜緒が処女を授ける相手として選んだ遠山 隼人と対面した菜緒は視線を向けた。見上げる程に背が高いと感じた。無表情であるが何処か安心感がある……。
「遠山 隼人曹長です、その……自分この様は事は不得意でして」
「その、変な事を頼んで申し訳ないです」
確かに規律を他職以上に求められる軍隊ではこの様な事が発覚すれば処罰も重たくなる。
「命令とあれば……楠瀬さんの経緯も把握してます」
自分は護衛対象だ、菜緒は苦笑するしかない。因みに何度か大学内やバイト先でも警戒警備しているが菜緒は気が付いてない。つまり護衛任務は問題は無い。
「おねがいします」
隼人としてはこの様な事は不得意であるが出会いが無い職業上、軍学校の同期からの合コンへの出撃要請は良く入る。顔立ちが少々オジサンになるのだが、合コン相手側の好みか安心感があるのか……。


隼人はミサワハルシオンRLのハンドルを握る、ハルシオンにメーカー純正ドレスアップパーツにエンジンにもチェーンを施したモデルだ。RL(ラリーレイド)は海外仕様になると内装を取ればサンデーラリーにも出れると言う程のスペックで特にラリー競技が身近な北欧では根強い人気を持つ。助手席に座る菜緒も普段乗る真奈美のハルシオンとは異なるエンジン音で気が付く。
「愛車なんですか?」
「はい、まあ……任務でも使いますので」
防弾加工済みであり後部シートにはアサルトライフルを入れたケースとハンドルロックと呼ばれる防犯器具がある。
「デートコースも決まっているんですね……」
「はい、今回は護衛任務の初等訓練も兼ねてますので……その不手際が生じると思います」
「……」
やはり裏があったか……まあ守って貰う身になってしまったので仕方ないと思う。デートと言う事で年齢相応の服装になっている……。





市民プールがある運動公園敷地内にある広場にはフードトラックや屋台が複数出店している。一昔は茶屋があったが経営者の引退と建物の老朽化で消滅、今は諸事情もあり起業者支援として市が提供しているのだ。運動公園と銘売っているだけに需要がある。それだけに審査も厳しいが魅力もある。
「それにしても……玲って美少女だよね」
枝島 麻里香は改め玲を見て言う。全員軽食を買い備え付けのベンチに座る。
「もう彼氏いるよね?」
玲は頷く、表情を赤らめている辺りを見ると麻里香は察した、既に開通している……最も玲は責任感の強い事は知っているから自分の意志で全裸に、正直リーナと既に肉体関係はあるとも思ってはいた。
「玲の彼氏ってどんな感じ?」
「例えるなら正弘さんに似ているかな……」
東中に進学した面々はこれで納得した、玲は少しブラコンな所もある……。
「もう、身体の全てを見せているわね……これは」
同席した男らはがっかりするが安堵感は得られる、玲の父親も兄もコワイのだ。
「そろそろ帰宅するわ」
敦らが言うとリーナは遠い目になる。
「おっ、俺だってそこまで不良じゃねぇよ……」
「ほんとう?」
「峰沢って消えただろ、探す過程でやたら職質されてな……補導と逮捕でうかうか繁華街も出歩けない状況になったのさ」
金髪にリーゼントで巨漢の少年が背後から声をかけた。
「江島さん!チィス!」
東中の男子生徒は挨拶するがリーナと玲は直ぐに眼が鋭くなるも彼は言う。
「っぁ……一ノ瀬 玲と楊 リーナか……敵対する気はないよ、三沢西高校の番長をしている江島 晴だ」
玲はふと思い出す、まさか……初対面で見知らない方がフルネームで言う……理由は複数推測できるが確実なのは。
「身内に一ノ瀬運輸の社員の方が」
「義兄さんが世話になっているから……姉貴の旦那」
やはりか……退院の時の写真は伯父により拡散しているからだ。
「峰沢らを倒したって言うから面拝もうとしたら姉貴に止められてね」
「同居しているんですか?」
「義兄さんの所にね……」
普通ならあり得ないが事情まで聴くまではしない。
「まっ、三沢中学には橋場がいるが、あいつは変に誘わない一匹オオカミだが悪い事は嫌いだし強いからな」
「?」
「一ノ瀬が来なかったら峰沢らはもっと酷い目に逢っていたさ……それこそ病院送りになっていた」
なるほど交流があるって言う事か……玲は苦笑するしかない。



「フェスイベント?機材搬送か?」
「違う、違う……トラックが主役のイベントさ。主に外車とカスタムトラックドライバーでLチューナーらが企画でやっているのさ」
迅が社長を務める一ノ瀬運輸でもLトークの企業チャンネルを開設しているがドラレコで捉えたヒヤリハットや走行や荷物の積み下ろし動画が主だ。迅はあるトラックステーションにて学生時代から顔馴染みになっているドライバーである瀬戸口 誠路と話していた。高校卒後直ぐに父方の祖父の地元に戻り運送会社に就職しており今や専務……Lトークのチャンネルを開設しており有名らしい。二人はある地方都市の倉庫街にあるトラックステーションに居た。
「迅のスカニアってファンに人気があるから是非って」
「開催日は……まあいけるかな?でも箱車と違って華やかじゃないぞ……重機回送屋は」
迅は苦笑交じりに言うも誠路もまた苦笑交じりで言う。
「載せて来るモノによってはセンスが出るからな」
誠路の会社も重機運搬を請け負っており、従兄が担当していると言う。
「趣味車は?」
「そこまで保有する程余裕ないさ、旧車趣味もないし……かといって社員の私物は借りるのも気が引ける」
トラックドライバーに多いのがデコトラの趣味車であるが道路交通法と車両に関する法律上公道走行を維持するのに難しいし、旧車もまた維持費がかかる。
「まっ、11月開催なら何とかなるだろう……」
迅は載せるモノに関しては少々アテがある、誠路も迅の表情から何かある事は分かる……。
「そう言えば誠路の所の碧(あおい)って性転換発症者だったな、昨年だったけ?」
「ああ、高校一年の初夏に発症してな……長女が喜んでいたなぁ、妹が出来たって……」
これが一年早かったら受験にも影響が出る所であるが……。本人にとっては想定外であるが交友関係で如何にか通学は出来ている。
「将の次男坊も発症したって聞いたが」
「みるか?退院した時に日菜子さんが使っていたセーラー服を着せている」
スマホの画像を見た誠路は悟った、これは長男には見せないでおこう。迅も将も怒らせたらコワイ事は学生時代によく知っている者としてだ。
「……血が流れるな」
「歯はまだ飛ばしてないが時間の問題だろうな……恋人もいるし」
「……」
「大丈夫だ、社や正弘と同じだ……」
成程、空手を嗜む好青年か……それなら盃の前に拳を交わしそうだ。
「碧ちゃんには恋人が居るのか?」
「ああ、幼馴染の一人でね。情緒不安定になっていた所で寄り添っていたら恋心が傾いてね……この分じゃ長女よりも先に嫁入りもあり得るかなぁ」
誠路としては碧にも兄や姉同様に大学も進学はして貰いたい、しかし本人は迷っているのだ。



菜緒は隼人にエスコートされて来たのは港湾施設跡を再開発したアーバンリゾート施設、家族向けでもあるがデートコースの定番でもあるので菜緒も直也だった時に何度か訪れた事がある。高層ホテルを中心に様々な施設がある。
「(結構高額だったよな……ホテル内レストランって)」
確かあの時はパンフを見た瞬間に藍も自分の財布と財政事情を察して周辺にあるショッピングモール内飲食店エリアにある和食チェーンである“神楽坂”に落ち着いた。今回も菜緒は考えた末に言う。
「神楽坂にしましょう」
「はい」
護衛演習に参加している同僚の面々から舌打ちやら冷たい眼にされるが隼人は菜緒が高級洋食系のテーブルマナーには疎い事はこれで確証した。自分もあれは食べた気がしないのだ。任務上多いのはそれだけ相手にしている“ターゲット”は日頃から好むのだろう……神楽坂なら定食とアルコールを提供しつつもリーズナブルである。

早めの夕食にしたのはアーバンリゾート施設内にある野外駐車場にてドライブインシアターをする、これは施設内にあるシネマコンプレックスが企画したイベントであり、藍は以前知り合ったイベント会社の方からチケットを貰っていたが二枚のみである。護衛役の真奈美の分を確保するのも難しく困っていた所、菜緒の疑似デートが急遽実施される事に……。
「しかし“ドライブインシアター”とはまた奇抜な」
真奈美の横に座る男性は苦笑するのも無理はない、1950年代~1960年代に自動車大国であった米国にて発展していたが技術や周辺環境に倫理的と色々と問題が生じ更にカラーテレビやビデオデッキの各世帯普及になり娯楽の多様性により廃れる事になる。
「今回はカーアクション作品のイベントの一環で何ならドライブインシアターでやろうと……」
藍も苦笑するが確かにインパクトはある。既に二人は夕食を終えてイベント会場にてスタンバイしている。
「それにしても元カレも悩んでいた訳か」
「菜緒は不完全のままに女性として生活する事になったから……」
藍としては菜緒になっても恋人に居たかったが……今後の事を考えると無理だろう。

【投稿小説】第二次性徴異常発育症候群 性転換症 第三十二話 育ちと格式

作 kyosuke

 久留実らも別荘に戻る為にプレジャーボートに乗り込む。学生らで催す“夜会”があるのでその準備だ。
「今回は欠席と言うのも納得しましたわ」
「ガキどもが残念がるが仕方ないさ……」
玲も慣れては来たが朱鳥や陸が通っている所は本当に名門なのだ。
「次回は是非、玲さんも一緒に……」
「……」
玲は苦笑するしかない、背後に居る陽菜さんの表情は嬉しそうなのだ。この分だとドレスやらフォーマル関係は困らないかもしれない。


「誠が事故った!」
邸宅の居間にて航が叫ぶと甚之助は淡々と説明する。
「はい、三沢市の幹線道路にてウィンカー無しでの左折車に衝突……放り出されましたが路上駐車してあったSUVの天井に背後から落下、意識がありましたが救急搬送されてます」
執事の甚之助が言うには緊急搬送された先の病院で免許証に記載された誠の名字にピンと来た医者が一ノ瀬運輸の隠居に問い合わせた事で事故に遭った事を知って帰省中の社も事故車引き取りに行くことになる。
「全身打撲で済んだか……事故現場は」
甚之助は電子端末で表示した場所を見た将は言う。衝突された軽自動車には母親と児童が乗っており左折した先にはコンビニ状況は推測出来た。恐らく児童がトイレと言いだして母親が後方確認をせずにハンドルを切った、誠のバイクもそれなりに速度が出ていたので止まり切れずに……。
「軽自動車の保険会社は何と言ってきている?」
「戒様によれば被害者は非を認めてますから保険会社もその方向で処理すると……ただSUVの方は揉めそうになる様子」
「ほぉ~名刺まで渡しって?」
将の眼が鋭くなるのも理解する、職業上路上駐車されると困る事が多いのだ。社から送られて来た画像を見て直ぐに職業が分かる。
「ホストクラブか……兄に任せた方がいいかな?」
航はキョトンすると将は言う。
「一ノ瀬運輸の社員は学生時代は不良で族だった奴が多いから夜の街で働いている同級生を一人は知っているからな……日下部先生にも聞いてみるか」
将がスマホを操作して会話を始めた。


「戒爺さん、申し訳ない……色々と」
「入院は数日か」
幸い帰省するので着替えは愛車のバイクに装着出来る専用鞄に入れていたので持って来てもらった。
「バイクに詳しい社員に見て貰った、バラさないと確かな事は言えないがメインフレームが歪んでいる可能性がある」
「……」
廃車、誠は天井を見て思う。一度ダメージを受けたフレームの耐久性は怪しいのだ。バイク屋の店主なら修理費を考えると買い替えるのもお勧めする。
「後は保険の事だが道を塞いだ軽自動車のドライバーは非を認めている、ただな……SUVの持ち主が喰ってかかってきたさ」
社は霧さんの事、霧山 秀介と言う社員と共に事故現場に来た時には既に誠は緊急搬送されていたが軽自動車のドライバーである母親に詰め寄っていたので社が間に入り押し問答に……誠もゾッとする。
「うぁ、やば、いっいたい」
先程の精密検査では骨折は無かったが精密検査の為に数日の入院は確定している。事故の状況を考えると重症にもなりえたからだ。
「親父来るかな?」
「来るってさ……将さんらも戻って来るし」
「忙しいんだ」
「俺も明日には東京に戻るしな……明後日からは仕事に戻る、後はSUVの持ち主は素性が分かったからな」
社は思う、あの幹線道路で路上駐車するとは……。


翌日、航が病室を訪れる……医者によればもう一日経過観察、そして保険の外交員に話を聞くと加害者の軽自動車側は解決済みであるがSUV側は交渉中……相手の素性も把握しており聞けば歌舞伎町界隈では絶縁状が回り、故郷の三沢市に戻って来たロクデナシである。
「親父……」
「相手側に怪我がないだけでも上出来だ……かあさんには巧く伏せている」
航は椅子に座るとバイクの写真を見せる、自身も免許を保有しある程度は整備も出来る。そして誠が使用していたバイクも元々は自分が使っていた。
「ごめんなさい」
「謝る必要はないさ……何度かコケたしな、ただフレームの新品は高いしな」
そこに玲が病室に……サマーワンピースを着ており靴もレディース用スニーカーだ。
「紹介するよ、将さんの娘になる玲だ。この前までは息子だったけどな」
玲は頭を下げるとベットの上で上半身を起こした状態で横になっていた誠も会釈する。
「性転換発症者って聞いたけど可愛いな、朱鳥に似ているな」
まだ痛みが残っているのか辛そうな表情を見せる。玲も事故の概要は知っているがよく重症にならなかったと思う。
「社はもう仕事か?」
「はい」
誠はため息をついた。バイクの事もあるのだが……。
「所で玲って何か部活でもしているのか?」
「あ~創作ダンスで、授業で柔道が出来なくなったから。それで補習も兼ねて……」
玲の足元に置かれたスポーツバックに航は何となく理解した、確かにこの胸に密着されるなら失神しても悔いは無いと言う中学男子が多いのは察しが付く。


玲は創作ダンスグループの面々と共に自主練に励んでいた。空調がある体育館と言えとも熱い。授業で使う体育服にして正解である。因みに夏季休暇中は私服登校も許可されているのでオシャレに敏感なお年頃にとってはありがたい。
「本当に熱心ね」
「授業だけじゃ不安になるから……ダンスなんてやった事もないし」
小学校の同級生で今は他のクラスになった女子生徒は苦笑するが玲は小学生の時から責任感は強い、リーナが恋を抱くのも分かる程に。
「親類の所を訪ねたんだよね?」
「うん、自分の所は分家。この先の冠婚葬祭もあるし……」
そこにリーナが来る、校内の自販機から紙パックドリンクを買って来たのだ。
「正弘さんの結婚が先か、それとも本家の御隠居の葬儀が先かよね」
リーナが知っているのは父親が教えたからだ。楊家にとっては恩義がある家の一つである。
「暑い」
玲が言うとリーナが天井を見て言う。
「空調効いてない?」
複数の生徒も同じ事を言う。これが少年だったら頭から水を被れば良いのだが……それが出来ないもどかしさ。
「空気が循環してないからね、下に大きな扇風機を置けばいいけど」
絵梨も汗だくである……大きな扇風機は今の校舎と共に出来た旧体育館で全部稼働しているのだ。数年後には取り壊すと言う噂がある、老朽化もあるが最大の問題は立地条件から不良の溜まり場でもある。
「ねえ、この後プールに行かない?市民プール」
「いいね~」
玲も断る理由はない、これを想定して水着も持ってきているのだ。


三沢市市民プールは市が所有する運動公園敷地内にある遊戯施設であり幼児から大人まで楽しめる。巨大な遊具もあるのはモノ作りの街である三沢市ならではであり、施設内も地元企業が試作した製品が寄付と言う形で置かれる事も多く、更衣室のロッカーも“耐久試験”名目で置かれている。
「学校指定……」
「まあ、校内で泳ぐかな~とおもって」
更衣室にて絵梨のジト目に玲は苦笑するしかない、仕方なく私物の水着を着る。視線が凄いのも分かる……。
「あっ、リーナじゃん」
「麻里香も来ていたんだ……」
小学校時代の同級生であった枝島 麻里香、今は隣の学区にある中学校の生徒で玲とも親しく接していた。
「……りーな、隣に居るっ子って」
「玲」
「……え!まさか」
「性転換発症したのよ、球磨先生から聞いてない」
球磨先生とは小学校時代の恩師の一人だ。一応知らせている。まあ添付した画像は退院当日のセーラー服姿にしたのはリーナの気配りだ。
「全然……じゃあ」
麻里香も玲に好意を寄せていた事はリーナも把握はしている。
「色々とバタバタして小学校の同級生全員に知らせてなくって……」
「麻里香~おまたっ……えっ」
「あっ、津田さん。お久しぶり」
津田 可南子は玲を見てキョトンする、こんな絵梨と並ぶ爆乳少女と何時知り合ったか……迷っていると絵梨は言う。
「玲、この分だと東中に行った子は知らない子が多いわ」
絵梨の言葉に可南子は驚く。東中とは三沢市立東中学校の事であり炭鉱全盛期に開校した中学校で今は三沢自動車株式会社本社工場や関連企業や工場のお陰で生徒数は維持している。


「驚いた……球磨先生も知らせるの躊躇するよね」
「絵梨並に大きいって……」
麻里香と可南子も胸のサイズや形状は中学女子の平均である……それが見せつけられるのは水着姿だ。
「アイツラは既に知っているかな」
「多分ね、ただ玲の事はよく知っているから接触してないだけよ……入院する前に番長グループ全員KOしちゃったからね」
二人は納得した、数える程だがリーナにちょっかい出した上級生に口答えして体を押された瞬間にはその上級生は玲の突きで白目を向き、頭に雛と星が回った光景を見た事があるからだ。流水プールに身を任せつつも会話する玲達……そこに近寄って来る少年らに玲は気が付く。何れもツーブロックに近い髪形をしており少々ヤンチャな感じだが肉体は引き締まっている。
「リーナ、隣に居る美少女は」
「一ノ瀬君よ、亘二」
「……マジかよ、球磨先生ブロックしたな」
「って……三年の峰沢らをシメたって言う」
「あの時はリーナが連れ込まれていたからね……全員分からせないと面倒な事になっていたから」
何人かは別の小学校だったのか玲とは初対面、ただ新堂 亘二と瀬藤 敦は父親が三沢自動車本社工場に勤めで双方社宅団地住まいなので仲が良い。
「絵梨と並ぶ巨乳が玲かよ……」
まあ残念がるのも分かる、二人も玲の父親の怖さはよく知っているのだ。


「東中の番長が手を出さない理由って?」
「玲の実家が運送業しているけど社員ドライバーの殆どが学生時代にヤンキーか暴走族だった面々さ。東中の番長もそれを知っていたとしたら?」
敦は遠目になった表情で言うと東中の同級生らは納得した。
「兄の正弘さんも人情味に溢れているけど……ただ」
「篝さんに既に尻に載られていると……分かるわ、あの人もスゴいから」
リーナも目の前で正弘さんとの熱々な関係を見せつけられ小学生でも分かる程に熱々である。
「あっ……理子も来ていた事忘れていた」
「ヤベ……妹ら押し付けていたから」
亘二も敦も小学三年の妹が居るのだが幼馴染の峠道 理子に頼む事が多い……最近はマセて来た。こうなると中学男子には手に負えない訳である。
「プールからあがるか」
夏とは言え身体が冷えるので上がる事にした、複数の入り口があるのだが何れも階段状で立てる様にしている。それ故にスイムパンツも丈があるとは言え股間部の盛り上がりは隠せない。
「(い、意外と大きかった)」
亘二も敦も小学校で使っていたモノを着用しており一物のサイズが大きくなっている事に気が付いてないのだ。
「あれ、楊に久遠じゃん……ん?」
理子は視線が合った巨乳美少女が目を背けた事に不振に想いそのまま腐れ縁幼馴染二人に視線を送る。亘二も敦も呆れる表情で言う。
「玲よ」
「……峠道さんお久しぶり。発症してから全く連絡とってなかった」
「球磨先生も驚いたでしょうね……」
最も自分はお喋りだから拡散を防ぐ意味が強かったのだろう。傍に居る少女は亘二の妹である香奈と敦の妹である朱美、小学校では何度か顔を合わせた事がある。
「玲さんって、っ!」
「うあっ、凄い胸……理子姉よりも」
理子も苦笑するしかなく、出来るだけ丁寧に性転換症について説明した。

【投稿小説】第二次性徴異常発育症候群 性転換症 第三十一話 自分らしさと女らしさ

 遥の問いに日菜子もふと思い出した、碧山って言う名字からして洋食の世界にて巨匠とされる方の一人で父が料理番組での共演した事もあり年賀状や暑中見舞いは毎年やり取りしている。
「御爺様は元気にされている?」
「はい、やはり玲さんにも教えているんですね」
「男でも料理出来ないとね……そこにある包丁セットは玲のモノでセカンドバースディのプレゼント……私も嫁入りの際に持たされたのよ」
日菜子は食材は“肉の塊”やら“魚丸ごと”であり、魚の切り身を買うとしたら調理に免許を要するフグか解体に専門職を要するウナギ、マグロか鯨位と言う位である。玲も小学校家庭科の調理実習前から包丁の使い方を覚えているのも日菜子の指導が如何に良いのか分かる。
「じゃあ、作業現場にいきましょう」


「かき氷か……ありがたい」
「相談役も会長も御年を考えてくださいね」
二人とも日菜子の実家が営む料亭のお得意さんであり幼少期の日菜子も知っているので娘同然である。
「「痴呆防止にはコレが一番だ」」
この分だと秘書も側近らも止められなかったんだろうなぁ、何時もは将がハンドルを握るスカニアを運転してきた女性ドライバーも苦笑する程現場が大好きなのだ。今回はお盆と重なるので家庭持ち社員はローテションから外している。
「倉敷、今年も帰らないのか?」
「故郷には嫌な事しかないですからね……近く両親も三沢市に移住しますから」
変性症発症者は本人だけではなく身内まで迫害に及ぶ事もあり倉敷 茉奈と両親はそれを経験している、一応被害届は警察に出されるも反応は薄かった……しかし国連からの非難決議で状況が一変する、永田町の住民と縁がある方がこの様な事をすると支援する先生にも迷惑が掛かる訳だ。最も茉奈は幸い戸籍の性別変更は裁判所が認められてはいたが中学校通学に高校入学まで拒否され三沢市にある医大が実施していた事業により高等教育課程を修了した事を示す“高等学校卒業検定”を取得している。これは大学入試資格を得ているのと同じであるが彼女がこの資格を得たのは20歳の時でこれ以上は勉学は両親にも負担が伸し掛かると感じ就職を選んでおり今ではトラックドライバー兼建機オペレーターだ。
「両親も完全に見切り付けますよ」
確か東京近郊のベットタウン出身で持ち家があるが、それを手放すと決意となれば如何に酷かったのか察する。三沢市の近くに父親の実家があり伯父夫婦と過ごしていたという、近所に叔父が所有する賃貸アパートがあるのだが老朽化したのと付近にマンションやアパートよりも見劣りするので取り壊しにしたという。
「主任の様な自宅もいいかなって」
「あれな目立つぞ、確かに立地条件なら建設できるが」
茉奈は何度か酒が入ってしまった将を自宅まで届けた事がある。


程なくして作業が終了し迅達が後にした。

【投稿小説】第二次性徴異常発育症候群 性転換症 第二十三話 女性向け風俗嬢の話

作 kyosuke

※23話は抜けてました。

 迅は手慣れた様に高所作業車を操作しトレーラに載せゴンドラから降りてチェーンで固定した。先程の喧嘩も収まってはいるように見えるが現場監督と職人の視線は完全に殺意を抱いている。双方口元にある血の滲みと衣類の乱れが激しさを物語っており、場所柄凶器になりえるモノが多く転がっている建設現場での喧嘩は周囲をヒヤリとする。それは出入りする迅でも同じである。
「大丈夫かあれ?」
「……連携不足だしな、それに今回は段取りが乱れてヒヤリハットが連発……職人の何人かはキレられた」
顔見知りの現場監督はベテランであるが何故か資材調達が上手く行かずに工期内に終わるかで気が気でなく……その部下の一人と出入りする職人らも幾度か衝突しており遂に拳が飛び交ったのである。
「二人とも性転換症発症者だろ?こー言うときは」
作業を終えた越智は現場監督に渡したのは風俗情報誌、しかも百合風俗専門誌である。レズは少々癪に障るので幾分柔らかい表現である。


性転換症発症者で不遇世代は未成年の時から風俗嬢をしているケースが多いが、中には男性を相手する事に嫌悪感を持ちレズ風俗嬢を生業にしている発症により女性になった方も少なくはない。キャリアに関しては下手すると中卒ではない方も居る……戸籍上は“御山 祐也”もその一人で家出して十年は経過している、警察に保護や逮捕されなかったと言うよりは今までの雇用主にその知人や客に恵まれており職場を変えて渡り歩くタイミングが良かったのに過ぎない。小柄な体形であるので学生服を着て置けば誰も気に留めないのだ。今の店では源氏名は“夕華”、形式はソープランド。昔は非店舗型が多かったけど男性向けの各種風俗店の飽和状態による競争激化や男性との交際に無理な風俗従事女性が増えた事によりレズ風俗に乗り出す社長さんが増えつつある。
「ご指名ありがとうごさいます、夕華です」
「夕華ちゃ~ん」
口元を見ると血が滲んでおり驚き尋ねつつも体を逢わせる。
「アキさん、急にどうしたんですか」
「監督と喧嘩した」
そうだろうなぁ、彼女は仕事が完全に終えるまでは酒も風俗遊び一切絶つのだがトラブルが起こると飛び込みで来る。確か照明機材の取り付けや修理をする職人で腕前は良い。
「あっ、汗臭くないかな?」
学生服姿の夕華はニコっとして言う。仕切りが無い風呂場から上がる湯気と女性が好む匂いが漂う室内にあるベットに倒してキス。手際よく衣類を脱がされる。
「私は好きな匂いだから……」
アキさんは自分よりも背が低い夕華はお気に入りで今回もオプションにセーラー服をチョイス……他の客は“小学女児制服+ランドセル”をする事が多いがアキさんは職種内容上常に仕事があるとは限らないのでノンオプションである“キャミソール+ヒモショーツ”になる事も……それが学生服オプションでは高級品の“本物セーラー服”って言うのは初めてだ。
「夕華ちゃ~~ん♪」
ベットの上で夕華のセーラー服の上着をたくし上げ貧相な胸に顔を埋める下着姿のアキさん、彼女も性転換症発症者で不遇世代であり中学生の時に発症し不登校を強いられ自宅学習になり高校受験の際にアキさんの窮状を知った地元名門女子高が無条件で受け入れを表明、先見の明があったのは事実でアキさんに“不登校を強要し故意的に中学卒業”させた中学校は後に文部科学省から厳格な行政処分を受けた、これは高校時代のアキさん自身落第阻止が精一杯で授業には苦労し補習があったとは言え大学進学を挫く結果なら文部科学省も処分する訳だ。夕華が知っているのはこれまでのトークで明かされたからだ、夕華の場合は家族からも高校も拒否され高校浪人の初めての夏に家出しており渡り歩いている、大きな怪我や病気は逢わずにするには苦労するが今の仕事は楽しい。
「はいはい、お体あらいましょうね~~」
アキさんは頷く。


一時間後、アキさんは満足した様に足早に退店……今の店に所属して初めて出来た常連(=リピータ)でもある。店の裏手にて煙草を吸おうとした時に夕華は電柱の影に隠れている人影に気が付き距離を詰められた。キャリアウーマン系の服装……夕華は店内に足早に入ろうとする。
「失礼、御山 裕也さんですね?」
「!」
本名で言われた、彼女は裁判所から性別変更を許可されてないのだ。
「逃げないでください!!!警察ではないです!!!!」
彼女は首にかけていたプレートを示した。息を少々切らして……。
「……弁護士?」
多分事務所があるテナントがオートロックになっているのかICカードには弁護士事務所の名称、裏にある名刺に記載された住所は夕華の故郷の近くに存在する大きな自治体だ。
「私を探していた!」
「はい……当時の裁判所は性別変更を認めない判例を出しましたが今となっては不利益になるとして……性別変更を受理してます」
「今更認める位ならその時の裁判官の信頼度ってどんなものなの?資格剥奪はして貰わないと……納得できないわよ!!!」
応接間にて夕華の言葉に女性オーナーもオロオロする。彼女の本名や性転換症発症者である事を知っている数少ない方で同業者から紹介で雇用した経緯がある。
「……その時の裁判官は過ちを認め先日辞任、同時に法務資格返納してます」
「だからって……津崎先生は地元なら私や家族に振り撒かれた悪評を知ってますよね?」
「はい……酷いモノです」
まるでエボラウィルス感染者の様な扱いにされたので矢面に立たされた母親は精神が壊れ、地元で職を得ていた父親は解雇、程なくして私は処女を散らされた……家出をしたのは逃げ出したい想いが強かったのだ。
「その後の国連の非難決議で真っ青になって探し始めたって言う事?」
「……双方の祖父母宅にも網を張っていたのですが空振りに終わり、警察も家出人として手配」
最も発症後の顔や全身の写真は病院で撮影されたモノしかなく情報が乏しい、所割警察署も犯罪者として摘発されるか遺体で見つかる最悪の事態を想定していた。
「百合風俗の情報誌に記載された写真で見つけた訳ね……」
女性オーナーの言葉通りだ、県警にある科捜研も協力してシュミレーションしたのだ。そして百合風俗情報誌に記載された夕華の顔写真にHITした。
「帰宅してもらえないでしょうか?裁判所の手続きもあります」
「……じゃあ男性化手術の許可を申請するにはどの書類を用意するの?」
夕華の言葉に津山先生は絶句するしかない。これ以上話しても押し問答だ……出直そう。


翌日、女性オーナーは事業家の夫と共に津山先生と会食していた。ルームメイトがベットの上で夕華を足止めする様に指示している……夫の友人からの紹介であるので家出した事は知ってはいた。
「……これは」
「昨年の健康診断、夕華は妊娠して出産経験があり、そして実の父親により処女を散らされた……知人に伝えている」
「!!!!」
診断書に記載されたのは“未成年懐妊及び出産形跡あり”と表示されていた。
「好々爺や好色マダムに飼われていたかもな、場所を辺鄙な別荘地して専門知識がある協力者がいれば……」
夫の表情は苦々しい、下手すると壊されていた可能性もある。変性症発症者の未成年女性を懐妊させて出産させると言う蛮行は珍しい話ではない、海外では割とよく聞く話だ。
「詳細は聞き出せないさ。あの娘は男性に戻りたいのよ、例え生殖機能が無く結婚できなくっても……無理に連れ戻してもあの子はまた出ていく“戸籍の性別変更を受理します”って今更言われてもな……誰の依頼で動いているかは聞かない方がいいだろ?」
夫の言う通りだ、津山先生は頷くしかない。
「戸籍変更はしておいた方がいいわね……説得してみるわ」
女性オーナーは思う……職業上性転換症発症者の方と接しているが夕華の青春時代は暗闇だったのだ。


「指名予約停止!」
「裁判所で性別変更に改名手続きをする事、私物のスマホや各種資格取得には戸籍が無いとダメよ」
夕方出勤した夕華は唖然とする。確かにこの仕事は年齢がネックになるから次の仕事の事は頭を抱えていた所である。
「両親もあなたの帰宅を待っているし、当時の加害者らも補償に応じるって……」
「今更学校に通えって言うのなら断ります」
「通信教育でも夜間中学や高校もあるし全額負担する意向を示しているわ」
「誰が?」
女性オーナーは津山先生から預かったファイルを出す。それは父の雇用主であり地元では名士である事は知っていた。
「……彼も貴方のお父さんを不当解雇した事を認めた上で再雇用している。実際仕事効率が悪くなって業績悪化で慌てて呼び戻した際に“一番の被害者が失踪している事”に気が付いて真っ青になった一人、津山先生は彼の依頼で動いたかも……数日休みなさい、探しているって言う事は両親に何かあるって言う事よ」
夕華は嫌な顔をするも応じるしかない。


「10年も経てば変わるもんね、寂れてきたかな?」
数日後、夕華は津山先生と共に故郷へ夕華が着用しているのはパンツルックの事務服である。
「私服ってないんですが?」
「こうでもしないと警察に捕まるからね……」
長年の癖なんだろう、津山先生は改めて彼女の闇を垣間見た。最寄り駅は典型的なベットタウンである駅である……寂れてはいるが仕方ない、基幹産業だった大出家電工場が撤退してしまったのだ。
「帰宅するんですか?」
「うん……」
津山先生も夕華の表情はさえない事に気が付く。


「……おかえり」
「ただいま」
自宅にて夕華は父を見て老けたと感じた、母親もだ……自宅の塀には素人作業の塗装がされているがよく落書き被害に逢った名残だ。津山先生は二人に家出した息子の現状を伝えている。
「部屋そのまんまなんだ」
「戻ってくると……」
夕華は裕也だった時の部屋を見て苦笑するしかない、気が付けば10年……ただあの時は彷徨っていたのだ。
「酒呑もうか?」
夕華は日本酒の一升瓶を紙袋から出した。親不孝してしまったから酒の力を借りないと場が持たない。


「名前ねぇ……」
裁判所の方も早急に対応したいのか裕也が戻った来たと知って直ぐにセッティングに……役所の戸籍関連部署もだ。
「娘だったら結子(ゆうこ)にって思っていたわ」
「それでいいや」
母親も治療により持ち直した、ただその途中で癌が見つかり一昨年摘出手術して成功、ただし再発のリスクがあるのでこれも家出してしまった子供を探す必要の一つに。
「……ねぇ、こっちで暮らさないの?」
「今の仕事は楽しいからね」
「……職なら紹介できるし」
「中卒でもないのに……相手に非があるけど厚かましい事は出来ないよ」
母親も後悔の想いがあるが事実だ。


翌朝、御山 結子として女性戸籍に変更し裁判所で戸籍謄本を得た。対応した裁判官が深く頭を下げたて困惑した結子である。この一件は当事者全員の合意で報道関係には丁寧に津山先生が取材を断っており報道各社も協定により報道される事はなかった。余りにも大騒ぎになる要素が多過ぎて収拾がつかないのだ。
「これで一段落かぁ」
「通信教育で中卒と高卒を……今の職で」
「うん、イメクラで働いたから職業病が出る」
結子の言葉に三人は薄ら笑いをするしかない。パンツスタイルなのは仕事とプライベートを分けている証拠だ。
「それに……顧客がね、私と同じ発症者もいるし」
そう簡単に辞められない訳だ。
「いいのですか直接謝罪は」
「……何が変わるって思うの、私も色々としているからね……」
見ず知らずの男児の精子と自分の卵子によりできてしまった乳児、だけど応じてなかったら結子としてここに居なかったのだ。

【投稿小説】よく知らないけど女になったら彼氏がいたらしい  ※レビュー追加

作 ととやす
イラスト 海渡ひょう

聖典館殺人事件さんからレビュー頂きました!

「まさに、この《あむぁいおかし製作所》に投稿された、ととやすさんの小説で、イラストは海渡ひょうさん。400字詰め原稿用紙で45枚と少しぐらいの読みごたえある短編です。ある朝目覚めると女性になっていた――という王道パターンで始まりつつも、主人公・満が変身していたのは、美少女とかではなくどこにでもいそうなぽっちゃり体型の美鶴という名のOLさん。世界もそれに合わせて改変されていて、しかも何と光哉というかっこいい彼氏もいるとわかります。彼とのデートのとき、すれちがった女たちから陰口をたたかれるほどの自分の冴えなさにがっかりする満=美鶴ですが、でもオタクっぽい光哉にとっては、自分を理解してくれる彼女はかけがえのないパートナーなのでした。
 男性としては経験しなかった性の歓びを与えられてゆき、彼のために可愛くなろうとがんばる美鶴。そしてみごとなまでのハッピーエンド。いやー、オタク青年(ただしイケメンに限る)とTSっ娘のカップリングは最高ですね。そして、この内容に花を添える海渡ひょうさんのイラストが素敵です。決してとびぬけて美人ってわけじゃないけど、愛らしくて親しめる美鶴の姿。どうせTSするなら、こっちですよ!」

ひょう1完成

1
カーテンの隙間から差し込む光とどこからか聴こえる鳥の声が、どうやらもう朝になったらしいと教えてくれる。昨晩は慣れない仕事の疲れからか、ベッドに入るやすぐに眠ってしまったようだった。まだ社会に出て会社というやつで働き始めて一年も経っていない俺にとって、週5日の労働はあまりにハードだ。今日は土曜日。ゆっくりとこのまま惰眠を貪るとするか。
そう決めた俺は寝ぼけ眼をそのままにうつ伏せになる。・・・胸元に圧迫感。何となくいつもより息がしにくいような。それに顔にかかる髪の毛も、俺の感覚よりも随分と長い。
「・・・?」
髪をかき上げる。ゴワゴワで指に刺さってしまいそうな普段の俺のそれと違う、サラッと流れるような柔らかさ。反射的に布団から飛び上がった。
「な、なんじゃこりゃ!?!? って声!?」
叫び声を上げると同時に、声にも強烈な違和感。めちゃくちゃ高い・・・まるで女性のような。否。ような、というのは正しくなかったかもしれない。視線を下ろすと、果たしてそこには寝巻き代わりのTシャツをこんもりと押し上げる膨らみがあった。間違いなく、それは俺の胸に鎮座していた。しかも・・・
「こ、これっ、ちっ、乳首!?」
寝汗のせいか白いTシャツは湿っていて、胸にある2つの膨らみの頂点がぷっくりと更に鋭い角度で隆起していたのだ。それは透けて下に包まれる桜色の突起物を晒していた。
「えっ、えっ、へぇっ!?」
未だ慣れない高い声を漏らしながら、前を見上げる。そこには見覚えのない大きな姿見があって。映っていたのは肩口くらいまでで茶髪を揃えた、俺と同じ歳くらいの若い女の子だった。鏡の中の彼女は、困惑した様子で大きな胸元に手をやっている。ちょうど今の俺のように。
「こ、これが、俺・・・?」
他に人が映っていない以上、そう判断するしかないのだろう。ゴクリ、と唾を飲み下し、一呼吸して姿見に映る像を眺める。よく見ると、元の・・・男の頃の面影がある顔立ちをしている。3つ下の妹が今の俺と同じ歳くらいになればこんな感じになるんじゃないだろうか。上は昨晩寝る時に来ていた安物の白Tシャツ、下はまるで違っていて、スウェットだったのが膝上丈のハーフパンツになっていた。そこから覗く、白くむっちりとした脚が目に毒だ。しかも起きた時からずっと乳首が透けている。若くて色々と持て余している俺には、それはあまりに刺激的すぎた。
「なんで・・・俺、女に・・・?」
この時の俺の頭にあったことは、確かめないと、の一点だけだった。身体に貼り付いたシャツを四苦八苦して剥ぎ取ると、ブルンッと勢いつけて乳房が揺れた。これはかなりの大きさだ。次いでハーフパンツを下ろしていく。艶のある太ももが露わになった。脚の付け根には色気のないベージュのショーツ。これも勿論身に付けた覚えなんてない。
自分が動かしているといえど、本来男である俺がそれをするのは少し躊躇われた。だけど。意を決してショーツを脱ぎ去り、俺は鏡の前で産まれたままの姿になった。

2
一糸纏わぬ女の自分を鏡越しに見た第一声は、
「び、微妙だ・・・」
だった。顔は自分で言うのも何だが、客観的にそれなりに整っている部類に入ると思う。ただ、それ以外の部分が微妙極まりない。自らの裸体を見た正直な感想だった。
「まぁ、元の男の時からしてそんなスタイル良かったわけでもないからな・・・」
顔の輪郭は丸く、いかにも女性らしい曲線を描いているが、少し膨れすぎな感もある。肩幅も広めでやや骨太な印象だ。そこから腕にかけて丸々と贅肉がついている。バストは流石のサイズで、圧巻だけど・・・重力に負けて垂れ気味だし、乳輪も大きめだ。お腹もタプタプで指でタップリと脂肪が摘めてしまう。脚も大根足だし・・・ある種で、すっごく女性らしいと言えるかもしれないが。そしてその付け根にはふさふさと生い茂った黒い陰毛。女性としては結構濃い方なんじゃないだろうか。そして、男の時分より幾分も小さく細くなってしまった指で掻き分ける。果たして股座に慣れ親しんだ逸物はなく、しっとりとした質感の溝がツッと一筋刻まれているだけだった。筋に沿って指をそっと動かす。花弁の入り口がほんの少しだけ広がり、指先に身体の熱量と粘膜の触感を伝えてくる。やがてそれは、敏感な突起に行き着いて。
「あんっ!」
思わず声が出てしまう。学生の頃付き合った女の子こそいたが、結局そういった行為に至るまでに破局してしまってばかりだった俺にとっては、初めて生で聴く「女の喘ぎ声」だった。姿見に目をやると、そこには股に手を添える妙齢の女性が頬を上気させていた。
「はぁっ・・・」
その姿に少し冷静になってしまう。何故だろう。若干凹んでしまう自分がいた。
「こういうのって、美女になるのがパターンじゃねぇのぉ?」
男の頃から緩み気味だった身体だ。女になったからといって一気にナイスバディになれる保証なんてない。当たり前なんだけど、なんかこう・・・。
立ったままなのにゆるゆるで、脂肪の段を形成してしまっている腹の肉を持ち上げる。客観的に見て、顔立ちは可愛いという部類に入ると思う。けど、こんなぷよぷよの身体では・・・男の頃の俺目線では、はっきり言ってストライクゾーン外だ。いきなり女になった上に、それが微妙なルックスのぽっちゃりさんだなんて。
やり場のない感情を抑えながら、ふと落ち着いて部屋をぐるっと一瞥する。昨日まではザ・一人暮らしの男の部屋といった面持ちだったが、今は違う。さっきから大活躍の姿見以外にも変化が。全体的にこざっぱりとして、整頓された印象だ。色味も寒色系から暖色系に変わってしまっている。覚えのない白いドレッサーがあり、その上には化粧品のポーチが置いてあった。絶対普段読まないだろう女性者のファッション誌も、綺麗に並べられてラックに収まっている。クローゼットを開くと、そこには鮮やかな女性物の服が架けられていた。クローゼットの隅には引き出しのついた小さな棚があり、そこを開けるとこれまた色とりどりの布切れが丁寧に丸めて収められていた。その一つの黒い布をつまみ上げると、巻き上げられたそれが広げられ・・・。
「こ、これ・・・パンツ!? ってことはこれはブラジャー、だよな・・・」
パンツと同じ色の少しごわついた手触りのそれは、女性の乳房を保護する下着だ。半球が二つに金属ホックの付いたこの下着は、多くの男性が普段身につけるものとは言えない。
「で、でっけぇ〜」
デパートなんかで女性向け下着コーナーの前を通ったことは何度もあるが、こんなに大きなブラジャーは見たことがなかった。反射的にタグを確認すると、H85と印字されていた。85という数字の意味はよく分からないが、その前のアルファベットから推測するに、今の俺はHカップらしい。
っていうか待ってくれ! 俺の身体は完全に女になっていて、部屋の様子まですっかり女の子に染められ上げている。と言うことは、だ。
「俺、これから毎日これ着けてなきゃいけないの・・・?」

3
途方に暮れていると、
ピンポーン
玄関のチャイムが鳴り、心臓が飛び上がる。
「えっ、えっ、誰?」
慌てて駆け出して・・・ブルンとおっぱいが跳ねる。と、同時に自分が今何も着ていなかったことを思い出した。反射的に両の乳房を手で抱え、インターホンのモニターをONにする。突然の来訪者は同年代の男のようだった。
「は、はい・・・」
おずおずと声をかける。
「おっ、もう起きてた? 準備出来てる〜?」
だ、誰だこのイケメン!? やけに親しげに声をかけてくるが、俺はこんな男知らない。思わず固まっていると、
「その感じじゃまだなんでしょ? 待ってるから、ごゆっくり! 今日は時間にゆとりあるからさ」
「う、うん・・・」
そう言って一旦インターホンを切る。いや、マジで誰だよあいつ。モニター越しの言動が一々爽やかで若干癇に障るが、悔しいかな、かなりのイケメンだ。女になったことで、人間関係も変わってしまっているのだろうか?
そう直感した俺は、すっぽんぽんのままで枕元に置いてあったスマホを手に取った。スマホリングが付いていたり、カバーが可愛らしいパステルカラーにこそなってはいるものの、機種自体は同じようだが、果たして・・・。あいつもごゆっくりって言ってたことだし、ちょっと確認させてもらおうか。

そう考えてスマホの中身をチェックしてすぐに、どうやら俺は生まれた時から女だったと認識されているらしいと分かった。名前も男の時は満(ミツル)だったのに、読みはそのままで表記が美鶴に変わっていた。性別が反転しただけで仕事の方はそのままだったのは幸いだった。OLということにはなってしまうのだろうけど。
仲の良かった男時代の友人たちとはほとんど縁がなくなっていて、その代わりに疎遠・・・というか一度も話したこともないような女子たちがそのポジションに置き換わっているみたいだった。っていうか、残ってる写真見るとJKの頃からぽっちゃり体型っぽいな、俺。今より幾分かはマシだけど。
そして、肝心の彼。彼は光哉(コウヤ)という同い年の会社員で、そして。・・・ありていにいってしまうと、今の俺の彼氏らしかった。

4
「待って、待って、待ってくれ・・・」
彼氏!? 女の俺に!? 
衝撃が強すぎて理解が追いつかない。元の俺は悲しいかな、今現在彼女なんていない。てっきり女の俺もそうだと思っていたが違ったようだ。ビジュアルもまぁ、微妙だし・・・まさかあんなイケメンと付き合っているなんて!
どうやらマッチングアプリ経由で出会ったようで、付き合い始めてまだひと月ちょっと。毎日のように電話やメッセージで連絡を取っている痕跡があったのだが・・・。自分じゃない自分が他人に送ってるメッセージ読んでると何かムズムズしちゃうな。どことない気持ち悪さが。今日はデートの予定だったみたいだけど、自分の知らないうちに自分の名前(美鶴表記だけど!)でデートの約束を取り付けて、「楽しみだね♪」なんてやり取りしているのを観測した日には、もう!
ともあれ、ここまで分かった以上、待たせっぱなしは良くないだろう。
買った覚えのない洋服ダンスからなるべく地味めな下着と服を引っ張り出す。なるべくならズボンが良かったのだが、見当たらない。どうも"美鶴"はゆったりとしたスカートやワンピースを好んできているようだった。
色気もくそもない無地でベージュのショーツを脚に通す。平たい股間にピッタリと貼り付き、改めて息子の不在を思い知らされる。大きく膨れたお尻で生地が引っ張られている気もするが、もう構っていられない。そのままブラジャーへ。
ヤバい。上手く着けれない。
何度やってもフィットしないというか、ホックもズレてしまう。悩んだ末に先にホックを止めてから上から被る形で装着することにした。ことの他うまくいって一安心だが、あくせくしてるうちに汗をかいてしまっていた。そして、気づく。
(胸の谷間、こんな汗出るんだ)
ギュッと締め付けられ、垂れ気味だったバストが寄せてあげられる。それによって形作られた豊かな谷間に、大粒の汗が。圧迫感もすごいし汗も出るし、世の女性はこんな不便なもの毎日着けてるのかよ!?
そのまま顔を真っ赤にしつつスカートを履く。ゆとりあるサイズ感はこの体型を隠す美鶴なりの努力だったのだろうか。ブラウスの袖がひらひらしてるのに気づいてさらに顔を赤くしたのは直で袖を通した後だった。
そのまま玄関を出ようとして、すっぴんなことに思い至ってしまった。でも俺、化粧なんてできるのか? 
それに、本当に光哉に会うのか? 会って、どうするんだ?
グルグルと頭の中を駆け巡る様々な思考。だけど、とにかく前に進むしかないのだ!

5
「あ、おはよ、う・・・?」
留守番中に来客が来た子供のように恐る恐るマンションのロビーでスマホをいじっている光哉に声をかける。その声にすぐ、
「やぁ、おはよう美鶴さん」
と返答してくる。その声に、姿に、胸がドクンと高鳴った。さっきモニター越しに見た時とは比べ物にならないほどに格好いい男だった。
(や、やべぇ、眩しい・・・イケメンすぎる・・・!)
結局妥協して化粧水を塗って薄く口紅をつけただけの自分は芋臭さ満載で、ギャップに居た堪れなさすら感じてしまう。いや、自分を棚に上げるわけではないが、目の前の青年、光哉は持っている雰囲気からして別格だ。とてもそこらの一般人とは思えなかった。一応会社員らしいけど!
180cm以上はあるだろうスラリとした長身。ただそこにいるだけで存在感は圧倒的だ。さらに、スカイブルーのシャツに黒いジャケットを嫌味なく見事に着こなし、まるで洗練されたモデルのようだった。そして極めつけがその顔。圧倒的な美形だ。サラリとした黒髪に切れ長の瞳、少し薄い唇もパーフェクトといってよい美貌。本来は同性のはずの俺から見ても、どこぞの美術品から飛び出てきたんですか?って聞きたくなるくらいの見目麗しさだった。
(なーんで俺と付き合ってるんだろうな?)
スマホの履歴からはそれを示す明確な答えは見つからなかった。女の俺、美鶴と彼の間には、二人だけの物語があったのだろう。
ズキリ
高揚感とは別の痛みが胸を刺した。
そんな俺をよそに、光哉は慣れた動作で手を差し出す。
「さぁっ、行こうか!」
「う、あ・・・はい・・・」
おずおずとその手を握る。暖かくて節くれだっていて、そして今の俺より一回り大きなその手に包まれ、どこかホッとした気持ちになってしまう。
「握り方、いつもと違うよね?」
「えっ!きゃっ!」
光哉は繋いだ手を組み替え、お互いの指と指が絡み合う形を作った。いわゆる、恋人繋ぎというやつだ。
「これでいいね」
そう言って涼しげに笑う。俺はというと、ドギマギとして、あっとか、うっとしか返せない。心臓が波打ち、耳まで赤くなっているのが分かった。会ったら事情を話して、解散か俺が男に戻る手伝いをお願いしようと思っていたのに、そんな思いを押し退けていく。
そうして俺たちは二人並んで街へと歩いていった。そんな俺たちは10人が見て10人、初々しい恋人同士に映っていたことだろう。

6
光哉に連れられるままに街へ繰り出し、ショッピングにランチに・・・午後からは水族館にまで足を運んだ。最初はこいつと何をどう話していいか分からずにぎこちなく愛想笑いするしかなかった俺も、実は光哉が結構なアニオタだということが分かって、お洒落な雰囲気なんてそっちのけでオタトークに花を咲かせていた。
「そうそう!あのシーンの演出って多分前クールの3話のオマージュで〜」
「絶対そうだよな!俺初見の時ピンと来たもん!」
あっ・・・
ついうっかりして、完全に男の・・・『俺』なんて言葉遣いをしてしまった。
やばい、しくじったか・・・!?
冷や汗をかく俺を、光哉はしばらくジーッと見つめて
「美鶴さん、普段は一人称俺なんだね。結構意外で・・・ギャップあっていいね!」
なんてニコッと笑うんだから!
「その、変じゃ、ない・・・? お、女が俺、だなんて・・・」
「全然!寧ろお付き合いしてから美鶴さんの素の部分が少しずつ見えてきて嬉しいよ!」
耳まで赤くなっていくのが分かった。
「そ、そっか。じゃあこれからちょこちょこ男っぽいところ見えちゃうかもしれないけど、許してね」
なんて予防線を引いてしまう。
「好きなように振る舞ってくれれば! っていうか、僕の方こそガッツリオタクで幻滅とかしてないから不安なんだけど」
いやいやいや、それこそ
「全然! 俺もこの通りオタクだし、共通の話題多くて助かるよ!」
本当にね。光哉が見た目通りのキラキラ系だったら、マジで何話せばいいか分からなくなってしまっていただろう。
盛り上がりを保ったまま、俺たちはレストランで引き続きオタク話を楽しんだ。心から楽しい時間だった。目が覚めると自分が女になっていて・・・しかも付き合いたての彼氏がいるなんて異常な事態に神経をすり減らしていた俺にとっては、光哉との他愛ない話はひと時とはいえど全てを忘れることができるくらいだった。
割り勘で支払いを済ませ、いいと言うのに送ってくれるというので俺たちはまた元のマンションへと向かっていた。手は、今回はこちらから握った。・・・少しだけだがお酒を飲んだから、ということにしておこう。
その道すがらのことだった。向こうから来た派手な格好をした若い二人組の女が、俺たちの、というより俺の方を見てニヤニヤと笑って通り過ぎた。なんだろうと思っていると、大きな声で
「あのカップルさ〜カレシさんめっちゃイケメンだけど女の方残念すぎん?」
「分かる〜デブ過ぎ〜もっと努力して女磨けって感じw」
「カレシさんあの顔でB専なんじゃね??」
ギュッと胸が痛くなる。
(あぁ、そうか。どんなに楽しくても、今の俺はぽっちゃり体型の女なんだ。美人でもないし、こんな俺が光哉といてもつり合いなんて取れないよな・・・)
薄々分かっていたことだった。今日会った周りの人、俺のこと見てデブ女がはしゃいでるよwとか思ったりしてたんだろうな。病んだ気分が心を身体を支配していく。そんな時だった。
「ざけんなよ、テメェら!! 美鶴さんはオメェらみてぇな頭も身体もスッカスカのバカ女とは違うんだよ!」
隣で背後の二人組に怒声を上げたのは光哉だった。当然の事態に、処理が追いつかない。
「顔だけ見て近づいて、僕の内面知った途端にイメージと違うだの何だのうるせぇんだよ!! 僕は僕で、僕は僕の好きなもん、好きな人を愛してるだけなんだよ!! 周りのオメェらが決めつけて押し付けてくんな、この・・・アホーーーー!!!!」
二人組の女はポカンとしていた。俺も同じだ。光哉はそのまま俺の手を握ると踵を返し、
「行こっか」
と耳元で囁いた。
「う、うん」
動揺冷めやらぬまま、俺たちはその場を後にしたのだった。

7
アパートの扉の前に着くや、光哉は俺の手を離し、バッと頭を下げた。
「ごめん、大声出して。でも、あんなの、許せなくて。もう二度としないから、ごめん。今回だけは許してほしい。美鶴さんに嫌われたら、僕、僕・・・」
そう言って肩を震わせる彼の姿を見て、彼のことを色眼鏡を付けて見てしまっていた自分自身に気がついた。
「そ、そんな! 俺が太っちょなのは事実だし、でもあぁいう風に言ってくれて、嬉しかったし!」
彼はスマートなイケメンくんでも、完璧超人でもない。穏やかで優しく、そしてオタク趣味のごく普通の男の子なのだと。だから、
「嫌いになったりなんて、しないから・・・」
ドクンドクンと心臓が高鳴る。今日一番の早鐘を打つ。光哉は一瞬だけ端正なその顔をくしゃっと歪ませて嬉しそうに、泣きそうに笑った。そして、その大きな手を俺の方に置き、ゆっくりと顔を近づけてくる。
(あぁ、これは)
男として経験はなかったが、分かってしまった。俺はゆっくりと目を瞑った。
「いいの?」
心配そうな声がして、思わず笑みがこぼれてしまった。ここまできてそんなこと・・・優しいなぁこの人は。
「うん」
「ありがと」
「んんっ・・・!」
返事をしようとした唇が塞がれる。目の前にいる彼と唇を交わし、舌先を絡め合う。
「っん、ん、んんっ、んっ・・・っ!」
その度に全身が熱くなり、声が漏れ出してしまう。股の付け根。かつて男性器があった場所よりもお尻側の部分が特に熱を帯びていく。切ない気持ちになって、無意識に両の腿で擦り付ける。それだけで理解してしまった。
(俺、今グチュグチュに濡れてる・・・)
雌の花弁から溢れ出た液がショーツを湿らせていく。それはやがて、布で吸える限界を容易に越えて。
ツゥッ・・・
(!?!?)
必然、股を伝って脚を通り抜ける。

長いキスが終わり、唇を離し、互いに顔を見合わせる。唾液が糸を引いて二人を繋いでいた。
(や、やばい・・・♡)
マンションの灯りに照らされた彼の顔はまるでおとぎ話にでも出てきそうなほどに美しかった。そんな光哉の紅潮した姿を見つめているだけでまた濡れてきそうだった。さっきまでの彼はこんなにも精悍で魅力的だっただろうか。
(ひょっとして俺、頭の中まで女の子に?)
だが、それは不思議と嫌な気分にはならなかった。女の子のキスを経た俺には、ある疑問が芽生えていた。
(キスだけでこれなら、セックスするとどうなっちゃうんだろう)

ひょう2清書

8
「もう遅いからさ・・・俺の家、泊まってく?」
心に沸き立つ熱にほだされてか、そんな言葉が口をついて出てしまった。溢れ出る情欲を止めることはできなかった。
「いいの?」
「うん」
部屋に入り靴を脱ぐや、俺たちは再び唇を重ねた。
「んんっ、んっ、はぁん・・・っ!?」
舌同士を絡ませ、踊らせていると、大きく張り出した胸を掴まれる感覚が。初めはどこかぎこちなく、だけどやがてリズミカルに光哉の掌が俺の乳房を弄ぶ。ブラジャー越しにおっぱいを揉まれ、気持ちいいというよりはくすぐったい。そう、思っていたのだが。
「んんんっ!? ぃやんっ、はぁん♡」
ブラとの間にできた隙間から、男らしい無骨な手が侵入して俺の乳に直で触れる。タプタプと双丘を下から持ち上げて揺らした・・・次の瞬間には、キュッと先端を直接摘まれていた。全身をゾクゾクッとした刺激が伝い、コリコリと擦られる乳首がビンビンに勃ち上がる。
「んんんっ♡ んんっ♡ あぁんっ♡」
硬くなった乳首に触れられるたび、俺は壊れたおもちゃのように、小さくなった両手で力の限り・・・光哉の大きな背中を抱きしめた。そうでもしないと、彼から与えられる快楽でどうにかなってしまいそうだったから。交わした唇から、無様な雌の啼き声が溢れる。女としての情動に抗うどころか、押し寄せる快感になすがまま振り回されるしかなかった。
「ひぅっ!んっ、あっ、はぁぁんっ♡」
いつの間にか彼の右手はスカートの中にまで及んでいた。平たくなった今の俺の股間に指を当て、すりっ、すりっとパンティ越しに擦り出す。
「あっ、あっ、やっ、あっ、ひっぃ♡」
指が前後し、薄布の内側にある女の子の大事な部分が刺激されるたび、俺の全身は耐えようのない快感に打ち震える。
「や、やらぁ・・・♡」
「気持ちいいの、美鶴さん?」
「ぅん・・・」
俺は本当は男なのに、そんな薄っぺらなプライドは、女体の肉欲にいっぺんに押し潰されてしまっていた。
「かわいいね」
ゾクゾクゾクッ!
耳元で囁かれたその声だけでまた一層感じてしまうのだった。

9
いつの間にか俺たちはベッドまで移動していて・・・それはつまりいよいよここからが『男と女の夜の運動』の本番ということで。男として経験が一度もない行為を女として味わうことになるなんて、昨日までなら噴飯もののジョークでしかなかった。だけど現実は。
ニチャッ・・・
「やぁん! は、恥ずかしいよぉ・・・」
今の俺は顔を真っ赤にして男と情事を交わす女そのものなのだ。抵抗の余地なくパンティを脱がされる。ここまでで随分と『温まって』しまっていた女陰から溢れ出た蜜が、グショグショに濡れそぼったパンティとの間に細い糸を引く。男を受け入れる準備は万端、ということになるのだろう。最後に残ったブラジャー・・・散々乳を揉まれ、ほとんど本来の役目を果たせていなかったけれど・・・のホックが外される。光哉の慣れた手つきに、彼の過去を垣間見た気がした。
(これだけのイケメンだし、さっき怒ってくれた時もそれっぽいこと言ってたし、たぶん昔から彼女いたんだろうな)
そのくらい分かってる。けれど、何故だろう。ちょっとだけ胸が痛む。
ブラジャーまで取り払い、いよいよ産まれたままの姿になる。でっぷりと垂れ気味のバスト、まるまるに膨れたヒップ、少し屈んだだけで容赦なく段々になるお腹・・・ぽっちゃり、というより既におデブちゃんに片足を突っ込んだ今の自分がこんなこと思うなんてやっぱりおこがましいことなんじゃ。
そんな俺の不安を察してか、彼はそっと俺の髪を撫でて
「かわいい・・・綺麗だよ、美鶴さん」
その一言だけで心がスッと軽くなるなんて、我ながらチョロい。でも、これが俺にとって何よりの救いなんだ。
ベッドに寝かされ、光哉は逞しい男性らしい腕で俺の両膝に手を置き、グッと広げる。
「きゃっ!」
両脚が開き、俺の全身が彼に晒される。もちろん、女の子の部分まで包み隠さずに。
(やだぁ・・・こんなこと見られてるぅ)
男の頃だって、股間を他人からそうマジマジと見られた経験はない。まして女の子になって何もない、溝だけの股間を男に凝視されるなんて耐え難い恥辱だ。対する俺の目線の先には、大きな乳房、脂肪が重なったお腹、ぐっしょりと濡れて縮れた陰毛と、
(お、おっきぃ!?)
ビンビンに勃ち上がった光哉のペニス。悲しいかな俺の元息子とは比べ物にならないほどのサイズ感!
こんなのをアソコに抜き差しされるとどうなっちまうんだ!?
(嘘ッ! 見てるだけで濡れてッ!)
トロリとした液がアソコから垂れ、お尻に伝っていった感覚があった。あぁ、もうこんなの・・・
「や、やだ、お、お願い・・・」
こんなの
「何をお願いしたいの?」
こんなの
「こ、光哉・・・くんの、おち◯ち◯を・・・い、挿れて下さい・・・ッ!」
嬉しそうな笑顔。それに胸ときめかせる間も無く。
「んはぁっっん♡」
下腹部を襲うとてつもない異物感。目線をくれると、俺の女の子としての孔が、屹立した肉棒を咥えて呑み込んでいく最中だった。徐々に、徐々に侵入したそれは、やがて俺の最奥に至り。
「んぁぁぁぁぁっっ♡」
その秘奥をコツン、と刺激する。全身に奔る高揚感と多幸感。とてもじゃないが、声なんて我慢できなかった。ゴリッゴリッと肉壁を摩擦し、ペースを上げてリズムが出来てくる。
「あっ♡あっ♡あっ♡はぁっ♡あんっ♡あっ♡はんっ♡」
その度に、俺は情け無い喘ぎ声をこぼしていく。それがまた彼を興奮させるようで、俺の中でグッと一層硬くなるのを感じとった。

10
いつの間にか、両手それぞれ指を絡ませ、手をぎゅっと握っていた。
「美鶴さん、美鶴さん!」
名前を呼ばれ、肌と肌が触れ合うだけでこんなにも幸せな気持ちになれるなんて!
「好きぃ♡大好きィ♡光哉くぅん♡」
脳が快楽に支配され、とんでもないことを口走っていてももはや分からない。ただただ、与えられる享楽に身を任せる一人の女でしかなかったのだ。
一突き一突きされるごと、だらし無く実った乳房がブルンブルンと四方に揺れる。ストロークは回を重ねる内により早く、より深くなっていって。
チカッチカッと頭に閃光が走り出す。
「やばいやばいやばいぃぃ♡気持ッ!よすぎるよぉ♡俺、女の子のままイっちゃう〜♡」
「僕も、そろそろ・・・愛してるよ、美鶴ッ!」
「うん♡俺も♡」
「ッッッ!アッ!」
「いやっ♡やっ♡あんっ♡あっ♡あぁぁぁぁ〜〜〜んん♡♡」
胎の中を暖かな液が埋め尽くす。同時に、頭の中の光が肥大化し、俺の意識まで奪い去っていく。俺は背骨を弓なりにして絶叫して、果てた。

11
そこからはなし崩し的だった。幸いにして周囲からは俺が男だったという記憶は失われていたため、四苦八苦こそしつつもなんとか生活していくことはできた。・・・元々の人間関係が結構様変わりしていたのでボロが出ないか心配だったが。リーマンだったのがOLとして扱われるのだけはちょっとだけプライドが傷ついた部分もあったけど、時間と共に解決できた。
そして彼、光哉とのこと。女として、というよりも人間として初のセックスになったあの夜のあとも、相変わらず彼氏彼女の関係は続いていた。平日は待ち合せしてディナー後にどちらかの部屋へ。休日は朝から昼過ぎに合流してどちらかの部屋へ。二人きりでプライベートな空間にいるとやはりどうしてもそういう雰囲気になってしまい、身体を重ねることに。どうやら俺たちの相性はかなり良かったみたいたった。初めの頃は、やはりどこか女性として彼に抱かれることに抵抗感があった(あの夜はその・・・特別だ!ヒロイックな気分に酔っていただけだ!と思う)のだけれど、光哉から女の子として大切に扱われることが嫌でない、むしろ嬉しいとすら思うようになっていった。そう自覚してからは坂を転げるように俺は女の子としてのセックスに溺れていった。フェラチオ、パイズリ、69に始まり、彼の望む体位やコスプレックスでも何でも受け入れた。彼の性欲を慰めるためならどんなことでもしてあげたくて、お尻の方も少しだけ・・・。日々開発され、プレイの幅が広がっていく俺に、光哉は満足そうだった。スタイルに自信のない俺にとって、屈託ないその笑みを見つめる瞬間だけが唯一女として誇りを持てるひと時になっていた。

「ねぇ、このまま一緒に住まない?」
ある夜、そう提案された。俺はというと、直前まで全身の穴という穴を使って彼を悦ばせていたばかりでクタクタで・・・特にお◯んこなんて、四、五発注いでもらってヒクヒクしていた。頭もぼーっとしていて思考もまとまらず、ただ彼に抱かれた幸福感に浮かされて
「うん、いいよ♡」
と答えてしまった。そこからは早かった。あれよあれとという間に同棲生活がスタートし、数日に一回だったセックスがほぼ毎夜の営みとなった。その頃には俺はもう、女の子としてのセックスを完全に愉しむようになっており、彼に抱かれ雌として嬌声を上げることが日々の糧となってしまっていた。
こうして一人の女として違和感なく生活するようになり、光哉くんとの関係も数年続いた。相変わらず彼はイケメンで、やはり芋臭いままの俺とは客観的に釣り合いが取れてるように見えない。これでも雑誌や動画なんかでファッションやらメイクやら髪の手入れやら気を遣うようにはなったのだが。
「美鶴さんはそのままでいいんだよ」
と彼は言ってくれているが・・・。
脱衣所の鏡の前。もはや見慣れた俺の女体。相変わらずぽちゃっとした締まりのない身体つき。いや、あの頃から時間も経ち、いわゆるアラサーという年代に差し掛かり、段々と肌から張り艶が曲がり角のような。気のせいか、バストも少しずつ垂れ始めてきたような。改めて見つめ直し、現状にゲンナリとしてしまう。
「でも、ここからここから!頑張らなくっちゃ!」
頬を軽く叩いて気合いを入れる。何故って?
それは・・・。俺は左手の薬指にはめたピンクゴールドの指輪を見つめ、発起したばかりなのにニヤニヤとこぼれ出る笑みを抑えようとして。
「やっぱ無理ー!」

ひょう3完成

12
この指輪を贈られたのは数日前。話がある、と光哉くんから改まって呼び出されたレストランでの食事の時だった。彼からプロポーズの言葉をもらった時は、嬉しいというよりビックリして思わず涙がポロポロと流してしまった。だけど今、ようやく嬉しいという感情が追いついてきたみたいだった。
だけど、それを受け容れる、ということは即ち。
(俺、このまま男には戻れないのかな)
もはや親兄弟に友人、同僚に至るまで俺が男だったと覚えている者はいない。実は俺が男だったなんていうのは思い込みで、元々女だったのにその事実から目を背けている異常者なのではないかと考えてしまっていた時期もあった。それに、現在の俺の姿はどうだ?
毎日ブラジャーを着けて化粧をし、スカートを履いて外に出る。男とデートして、夜には彼の逞しい男根に貫かれて大きなおっぱいを揺らし震わせ、喘ぎ声を上げる。自分より大柄な彼に抱かれて、すっぽり包まれていると、彼に守られているという安心感と幸福感を覚えてしまう。これが女でなくてなんなのか。どうしてもそう思ってしまうのだ。
近い将来、俺は何度も彼に組み敷かれそして・・・。これだけ膣内を満たされても上手く回避できているのは奇跡に近い。そうなった時、自分は・・・。
また一度頬を叩く。もう、そうなってしまったらそうなってしまった時だろう。どちらにせよ、俺はもう光哉くんのいない生活なんて想像できないから。だから・・・
「式までに絶対痩せてやる!」
晴れの舞台で彼に惨めな思いをさせることだけは断じて許せない。男とか女とかは関係ない。自分自身の矜持だった。
俺はネット購入したスポブラとジャージに身を包み、外へ出て走り出した。ブルブルと揺れる全身の脂肪に気を取られつつ、なすべき事に身をつぎ込む決意をしたのだった。

13
「んしょ、んしょ」
少し動いただけで身体が重い。やはり体重も相応に増えるんだなぁ。ベンチに腰掛け、一休み。日が経つにつれて行動が制限されていくのを実感する。来るべき時に向け、全身がエネルギーを蓄えようとしているのかもしれない。いつ何時それが起こってしまってもいいように、ここ最近は昔みたいにゆったりとしたワンピースを着ている。光哉は「昔に戻ったみたい」だなんて呑気に言ってくれるけど、もう!
彼の笑みを思い出し、私もふふっと吹き出してしまう。変わらないんだから!
おっぱいも張ってきて、いよいよ本来の機能を発揮することになるんだなぁ。女は明確に変わるものね。
ふと思い出し、スマホで数年前に保存した写真を見直す。うわー、私若いなぁ。この頃はまだ自分のことを俺って言ってたっけ。我ながらスリムなのに出るところはしっかりと出ていて綺麗だなぁ。本気だったもんなぁ。本気出しすぎて、ドレス合わせの度にサイズ変更になって慌てていたのも良い思い出だ。
この頃の私なら、街で誰が見ても美人だって言ってくれるかな。
なんて、30過ぎの人妻が何言ってんだか!
さて、愛しの旦那様が待つ我が家に帰りますか。もうしばらくしたら、新しいキャストが増えることだし!
「早く産まれておいで。私と彼の、宝物♡」

14
妻の帰りを待ちながら、昔のことを思い出していた。思春期ごろからだろうか、顔が良いと言われて色んな女の子から声をかけられるようになった。それが高じて芸能事務所なんかの誘いもあったけれど、僕からしたら違和感しかなかった。顔ってあくまで僕を形成する一要素でしょと。
実際にお付き合いした人もいたが、結局僕の趣味や内面まで理解してくれることはなかった。勝手に期待されて勝手に失望されただけ。僕は心から僕を愛してくれる誰かに飢えていたんだ。
社会人になっても同じことを繰り返していた僕は疲れ果て、気晴らしにゲーセンへ行ったんだった。たまたま隣の台に座っていた男性・・・少し太っちょで、気のいい彼。
ゲームを通じてなんとなく波長が合って、そのまま缶コーヒー片手にだべっていた。
「結局あるがままが一番なんだよな。そんな素の自分を見て、ある程度は分かってくれる人とじゃないとどっかで無理が来そう。まぁ俺はあるがまますぎて未だに恋愛経験ないんだけどw」
彼はそう笑っていた。あっけらかんと、楽しそうに話をする彼。
「どうすればそんな素敵な人見つけるんです?」
「えっ、俺に聞く?話聞いてた? んー、分からんけどマッチングアプリとかで相性良い人見つけたら?」
そんな軽い一言に流されるままにマッチングアプリを始めて・・・なかなか上手くいかないこともあったなぁ。それで、確か近所にある縁結びの神社にお参りに行ったんだっけ。神頼みなんてらしくないかなとも思ったんだけど。
(僕のありのままを愛してくれる人とご縁を下さい。愛する女性と素敵な家庭を築くのが夢なんです)
ご利益は抜群だったと思う。だって、そのすぐ後だったから。美鶴と出会ったのは。
コロコロと表情が変わり、本当に愛らしい。素朴で純粋な女性。俺、なんて一人称だけどそれも彼女らしくて好きだった。僕の趣味にも理解があるし、なんなら僕より詳しいこともあるし。僕には勿体無いくらいだ。それに、実はスレンダーな娘よりも肉付きの良い娘がタイプな僕にはストライクだった。初めて彼女を抱いた時の興奮は忘れないだろう。あんな素敵な女の子が、僕と結ばれるまで処女でいてくれたなんて!
そこから僕に抱かれるごとにエッチを覚えてくれて。いじらしくてたまらない。
彼女との日々は夢のようだった。一緒に暮らし、婚約し、式を挙げた。あの時の彼女の覚悟たるや。搾り上げたあの肢体たるや、女神そのものだった。
そして、今。彼女は僕との愛の結晶を宿してくれて。これからもきっと素晴らしい毎日だろう。本当に本当に感謝している。

こうして美鶴と出会えたのも、ひいてはあの日話した彼のお陰、と言えるかもしれない。たった一度の出会いだったのでもう顔も覚えていないけれど、あの日のことはいやに印象に残っている。また会うことができたら自慢してやりたい。僕は素の自分を受け入れてくれる女性に出会えたよと。

初出20230716

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【投稿小説】第二次性徴異常発育症候群 性転換症 第三十話 歪(いびつ)な世界

作 kyosuke

少々ギクシャクした雰囲気の昼飯も終えると新たなボート小屋になる建材や道具と人員を搭載したトラック数台が来た。令も航も出迎える……二人とも小型船舶免許を保有しており航に至っては牽引免許も保有している。迅が愛車であるスカニアから降り二人に気が付いた。
「令に航か……」
「盆の時に申し訳ない、本当に」
令は気まずい表情になるも迅は笑いつつ言う。
「な~に、普段の顧客も盆休みだしな……だから将の勤め先も」
作業員の中に明らかに“初老”と見受けられる面々が居て令は気が付いた、将の表情が緊張している。
「会長、それに相談役まで……」
空調服に冷却タオルを頭に巻いての参加で御年を考えると止めたくなる、しかし二人とも叩き上げであり時折現場に来て社長業を“現実逃避”する一面も……将がハンドルを握るスカニアの助手席に座る事も多い。
「一ノ瀬本家当主の困りごとを聞いたしな……主任、巧い後継者が出て来たな。倉敷 茉奈か……」
あんな難コースだ、往路が控えているが安堵した表情は美しい……。
「主任、後一台はもう少しで到着します」
20ftコンテナ二個をメインにするボート小屋、道路条件が良ければ40ft用トレーラで行けるのだが、今回は作業工程の関係上二台チャータしている。迅のスカニア重低床トレーラの荷台には“ラフテレーンクレーン車”が搭載されオペレーターが下す作業をしていた。公道走行可能であるが使用する現場までのルートに変速機に負担を生じる峠道だったので陸送に……。
「朱鳥や陸は初めてか?迅伯父さんは」
「はい、あの父からは聞いた事があります」
「一ノ瀬運輸の社長をしている迅だ……こうして見ると玲とそっくりだな」
朱鳥を見た迅が発した言葉に玲は薄ら笑いをする、彼女が自分の故郷に来た時には誰か常にいないと危ないかもしれない。
「この分だと明恵さんにも逢ったか?」
「はい……母があれほど敵意を出すなんて初めてみました」
玲も驚くのも迅は分かっていた、結婚前に初顔合わせになった時の気まずさは今でも覚えている。
「ほう、可愛くなったなぁ。玲」
「田島相談役に錦社、いや会長、御無沙汰してます……」
玲は父の勤め先である建設会社の相談役と会長とは顔見知りであるのは年に一度家族を招いてのイベントを開催しているのだ。変性症発症した事も把握しており直ぐに休暇を与えた程だ。
「監督、準備OKです」
新たなボート小屋になるコンテナをトレーラから降ろす準備は終えていたのである。二人はヘルメットを被り相談役は視線を建設現場全体に向け、会長は設置個所に……。ラフテレーンクレーン車はコンテナを吊るし上げ始めた……海風の影響もあり開けた場所とは言え揺れる事に変わりはない。
「基礎が大分広いな」
「二隻追加になりそうだからな……親父の趣味仲間にレストアの達人が居る、俺は自前の船は持ってないって知ってな……」
令の言葉に迅はポケットからメモを取り出して言う。彼も営業する事もある事は令も分かる。
「サイズは?」
「動画でサイズを計測している、最寄りの漁港まで運んでくれると助かる。そこなら国道沿いだ」
航は自前のボートを持っているがメンテナンスの観点からライトトレーラで運べるサイズにしており自宅ガレージにある。この方が船体にフジツボやら付着しないのでメンテナンスが楽である。確かに漁港と言う場所柄大型車が出入りするので国道も整備される……漁港としても一部をマリーナに開放すれば収益が出て来るのだ。



客人である鷹を見送った朱鳥らは海を見る、浜辺はあるが遊泳には向かない……海底地形上海流が強いらしく陸が溺れて肝を冷やした事もある。
「あら……」
朱鳥はスマホを見て怪訝な顔になり、玲は尋ねる。
「クラスメイトが来るわね、玲……逢わない方がいいかも」
「……客室に戻るよ。陸君の他の宿題も見て置くわ」
玲は察した、余程癪に障る相手なんだろうなぁ。


玲は客室にて陸から聞き出す。通学している学園は戦前から歴史がある名門校な故に生徒の両親若しくは祖父母も大企業で重役や著名人も多く在籍している。一ノ瀬家は名門になるが事業規模は小さい方だ。この様な力関係を生徒が持ち込んでしまうのが多々あると言う。
「檜沢 久留実?」
「うん、中等部じゃ一番の実力者で祖父が理事長しているからね……嫌がらせも多いし。高等部に通う兄になる一騎さんが毎回対応しているからね」
スマホの画像を見ると確かに人が良い感じだ。ヤンチャな妹に苦労している事は分かる、久留実は雰囲気的に傲慢なのはどうも母親が少々問題がある。
「はいるよ、あれ?」
客室に来た少年は玲を見て驚く……確か妹と逢っている筈の朱鳥がここに居るのは?否違う……。
「っ!一騎先輩も来ていたんですか!」
「分家筋になる玲です、初めまして」
「……分家の子か、そりゃあ朱鳥も隠したい訳だな、ん?玲?」
彼は持っていたスマホを操作して動画を再生した。それは昨年玲が空手の流派対抗大会にて組手をしている姿、まだ少年だった頃の姿に玲は微笑む。
「去年の大会ですね、これ」
「性転換症発症したのか……今年はエントリー見送った知ったから色々と憶測飛んでいたが……」
「はい、もしかして嗜んでいるんですね」
「そうさ……日下部師範代は?」
「元気にされてますよ、最近も不届き者を成敗してますから」
「日下部師範代?」
「私と父、兄、そして伯父の空手の師匠になる方の一人」
陸はキョトンすると一騎は苦笑しつつ言う。
「先生かな……まあ怒らすとコワイ人さ。久留実も小学校低学年まではしていたけど母親が嫌がってね」
成程、世の中の実情に疎い方らしく息子も苦労している感もある。
「様子見に来たんですか?」
「ああ、宿題終わらしているかなぁと思ったが昨年よりは進んでいるな」
宿題を見て一騎は思う、玲の学力も中々だ……。
「ボート小屋建て替えるんだな、業者が来ていたけど」
「父の勤め先と伯父が社長をしている会社です」
「挨拶にいかないとな」



「おおっ、檜沢君か……神楽坂師範代は元気にされているかな?」
「押忍」
「玲の事か、見ての通りだ」
迅は一騎を見て直ぐに流派と師範代の名を告げると彼も返事する。作業は主要のコンテナ二個が到着し据付作業を終え、空調設備をクレーンで上げていた。将は機材の確認に余念がない、仮倉庫にしているJR貨物コンテナは自家発電ユニットに改造する予定であり太陽光発電と蓄電池を備えると言う。
「空手、続けさせているんですか?」
「三沢市は人の出入りが激しいからな、ならず者も多いし……」
一騎も師範代から聞いてはいたが三沢自動車本社工場に加えて関連する部品メーカーも製造工場や支社を設けているので自ずと人の出入りが激しい。期間工の中には素行が悪い方も珍しくない。この事は一騎も見聞きしているので分かる。
「まっ……玲にはもう恋人もいるしそいつとは裸で寝ている」
「……はい?」
「社と同類さ……組手しがいがある相手って」
彼は悟った、これはこれで自分が玲を女にすると言うお役目は無い事に安堵した……一ノ瀬兄弟はアマチュア空手家の間では全国区だからだ、当然社や正弘の事は知っているし何度か試合をした事もある。そのレベルと同等なら……。
「(大学生か社会人か)」
空手をしている身としては見てみたい気がした。彼女の恋人は……。
「玲、車内にモバイルバッテリーがあるからとってくれ」
「うん」
迅のスカニアに乗り込むと玲は気が付いた、朱鳥らが見えたので傍に居る陸にモバイルバッテリーを渡すと後部スペースに隠れた。大型トラックのキャブの後方はベットスペースになる仕様もあり、スカニアは本社工場がスウェーデンに拠点を置くので陸続きの欧州各国を走る事も珍しくない。
「(なるほどね、如何にも生意気な感じって……リーナと合わせたら……)」
小学校時代何度キャットファイトを止めたか……ビンタ喰らってもリーナはビンタで返した辺りは自制してくれているからよかったが。
「(お嬢様ね……ん?)」
玲はふと思い出した、一昨年流派対抗大会の際にリーナと対戦した相手の少女って……。スマホを操作して隆士にLトークを送信した。あの時勝敗が付かずに相手もリーナも過熱しバックヤードで場外乱闘寸前になりあちらの門下生らと一緒に間に入り止めた。
「(あっ……あのこが)」
迅のスカニア車内で玲は隆士からの返信にため息をついた。




久留実って言う子は昔から人を振り回す……朱鳥も辟易するが彼女の母親がどうしょうもないお嬢様、叔母同様……本当に。
「一ノ瀬さん、御爺様の御自宅まで押しかけて申し訳ないです。ご予定があったのに」
「いいのよ、あのこは言い出したら曲げないから」
朱鳥の横に居るのが幼馴染でもある碧山 遥、戦後に街の洋食屋を生業にする祖父を持ちそれを一大チェーン化し成功した両親を持つ。久留実は下僕と思っているが実際は違うらしい。
「例の従妹は?」
「隠れているから、でも奇妙な事もあるわね。久留実が一目ぼれしたって空手の少年の名前も“アキラ”だったし」
詳細は知らないが大会の際に出会ったらしいが、どうも母親が止めるように強要したぽい……一騎さんは男性だから必要って言うけど。
「……その方って変性症になって女性化ですよね」
「最近ね」
久留実はボート小屋建て替え作業を見ていると兄を見つけた。
「おにい……えっ」
直ぐに振り向くと朱鳥は居る、兄の隣に居る少女は……久留実は駆けだすと少女に向けて突きをするも彼女はヒョイと回避した
「やっぱり一昨年にリーナと喧嘩した方だったね」
「!」
「一ノ瀬 玲、分家の子だよ」
兄の言葉に久留実は動揺する。
「な、なぜ私の事をしっているんですが!!!」
「あの時は少年だったから」
一騎もわらうしかない、一目ぼれする程イケメンだったのが今や爆乳中学生……合掌モノの失恋である。
「錆びついてないね、こっそり鍛錬していたかな?自分の方は今の身体に慣れてないから寸止めとか出来ないよ」
「はい?」
玲の言葉に久留実はキョトンした。



「まあ、女性になると大変になるんですね」
遥も変性症の事は知ってはいたが実際に発症者と逢うのは初だ。
「胸と尻は重たくなるし……何よりもブラのバリエーションが無い」
そこは朱鳥の胸を見れば分かる、彼女も同様の事を言っている。遥も久留実も中学女子の平均サイズよりもやや上である事には救われている。
「朱鳥さんが隠したいのも分かりますわ……よくわかりましたね」
遥は清楚で本当に中学生離れしている美貌だ。
「幼馴染の祖父が師範代しているからね、対戦記録確認したら」
「楊はまだ空手をしているのか?」
「はい、部もないので……日下部師範代の元で。それに通っている中学校にも札付きのワルが居るから続けるられている」
玲は遠目になる、GW明けにプッツンして不良三年生らを全員KOさせたのだ。そりゃあ制服が開けたリーナを見れば……気が付いた時には生徒会副会長が抑えていた。
「もしかして茶道や生け花が苦手?」
「……」
久留実は頷くと朱鳥と遥も遠目になる。



「護身術は習わせた方はいいわね、茶道やら生け花で男性が釣れると思っているの?私も習っていたけど触り程度だったし」
本家屋敷にある厨房に居た日菜子はあっさり言う。
「?」
「私の父親は板長だからね……どうしても必要って思って」
「失礼ですが旧姓は」
「神田川」
遥は祖父からその名を聞いた事がある、洋食の面々も一目置く存在だ。置かれている包丁セットは主婦が持つ品物ではない……確実に料理人が使用する。
「女だから武道ははしたないっておもっていると取り返しがつかない事になるわね……」
久留実の我儘の原因はストレスだ。

【投稿小説】第二次性徴異常発育症候群 性転換症 第二十九話 本家と分家2

作 kyosuke

 蒼の旧友である遠野 鷹は一ノ瀬家とは家族ぐるみの付き合いである……栄枯盛衰を共に分かち合った仲である。
「飛鳥さんに似ているかな」
「……ああ」
彼女は蒼の従姉で本家長女、男子が産まれずに蒼が本家当主を務める事になりこれにより彼女は他家に嫁入りしたのである。最も嫁入り先の夫も家も宜しくなく苦労をしている事は二人の耳にも入り、夫に“苦言を呈した”事もある。最終的には夫も長年の不摂生が元で死亡、彼女が家を取り仕切り無事に後継者を育て上げた女傑である。
「お祖父さん、失礼します」
応接間に入って来た朱鳥は遠野を見て会釈する、正月の時に幾度もお年玉を貰った事もあるのだ。
「おおっ、朱鳥ちゃんか……その後ろに居るのが」
「はじめまして玲です」
「私は遠野 鷹だ、確か昨年の流派対抗試合の小学生の部で優秀な成績を収めているね」
「はい、ただ今年はエントリー受付期間が入院と重なって」
老紳士は仕事の付き合い上学生を対象にした各種格闘競技会の支援もしており、玲の事は知ってはいたが……今目の前に居るのは髪の毛の一部を編み込みされリボンを付けた可愛い少女だ。
「日下部師範代の背中を見て育ったか……女性になっても辞めてないんだな」
「続けさせないとこの先どんな事になるのやらですからね、遠野さんご無沙汰してます」
将はため息交じりで玲の背後に立ち、頭を下げる。鷹も頷く、建設現場用ヘルメットで空調服姿であるが仕方ない。
「大変だのぉ、嫁に貰う男は」
すると玲は顔を赤らめ、将は苦笑交じりの顔になり鷹は察した……うん既に“開通”させたか、孫には悲報だろうなぁ……こんな可愛い子に異性として認識されない事に……否、将の様な父親に挑める度胸も無いか。
「ボートの格納庫どうですか」
「問題は無い、ドームハウスも好評でな……」
一昨年、別荘にあるボート格納庫が台風により倒壊。木造だった事もあり予想以上に老朽化と白蟻被害が進行していた。建て替えを検討していた矢先だ……取引先の紹介である建築家に相談した所コンテナハウスを提示、更にコテージとしてドームハウスを提案された。この頃はあの双子の親権譲渡で忙しかった事もあり即決、その晩は妻や息子らに白い眼にされた、いざ完成品を見ると一転好評で苦笑した。しかも施工した会社が将の勤め先である事は偶然である。
「先程、移し終えましたので」
「おおっ……ご苦労だったのぉ」
プレジャーボートを所有する事はある程度は持ち主がメンテナンスをする……海難事故は些細な事で発生し、尚且つ被害がでかくなる。それを防ぐにも日頃の点検は欠かせないが……船体を塗装する為の機材一式やら年代物の高圧洗浄機まであり予想外の作業になった。ただ将も正弘も大の自動車好きで世間で言う“ミサワリスト”なので趣味の手入れ道具は揃えたいのは理解している。
「御昼過ぎには同僚と兄がここに来ますので……」
「確か撤去用の重機とオペレーターと作業員だったのぉ」
「はい」
木造であり年式から断熱材としてアスベスト使用も想定していたが幸いにしてアスベストは無い事は事前調査で判明している。アスベストは断熱材として優秀であるが後年人体に重篤な健康被害を及ぼす事が判明しており建築業は解体作業も含まれる……アスベスト除去作業と処分費用だけでも可也の額だ。将は勤め先では現場で使用する建機若しくは機材輸送をしているが時折アスベストが発見し除去の為に関係機関に申請や機材準備で工期が間に合わない事態に陥る程だ。本家では邸宅からプレジャーボートの格納庫も兼ねた倉庫を初めとする建造物が事細かく記録保管し実際に確認している。
「一日もあれば終わりますので」
「その前にお昼ね……明恵も居るしどうしょうかしらね?」
二日酔いの日菜子も復活していたがため息交じりな表情だ。無理もない航の妻である明恵が来て居るのだ……実家が一ノ瀬家以上に格式がある家柄で相当な傲慢ぶり、そんな女性が恋愛は常に末路は悲惨……幼馴染でもある航は明恵の父親に気に入りであるが娘の明恵は好みではない。そんな折に彼女の実家が運営する学園法人も性転換症発症者の通学拒否を指示していた事が発覚、明恵の理事会入りも見送り学園法人運営も手を引かざる得ない状況……明恵が航の元に嫁入りした事情は実家に居場所が無くなったのだ。航もこの無理難題な女性を生涯添い遂げる相手にする事を了承したのは転落する光景を観たくはなく、一ノ瀬本家にも過去に明恵の実家に事業を助けて貰った事もある。
「玲、一応紹介しておくわ……来なさい」
日菜子も出来れば玲を逢わせたくないだろうなぁ、人生設計を狂わせた性転換症発症者……それが親戚に居たのだから。
「俺も同席するよ、明恵は昔から知っているからね」
鷹も哀れと思う、だが学園法人の経営と公共性を考えると創始者一族の理事会入りを避けたのは当然だろう……無論それを指示した保護者にもそれなりの責任を執らせたが彼女は専業主婦を強いられたおり、最近は息子も娘も然程手が掛からない様になったが……彼女のやりたい事をするには遅すぎたらしい。


「……ふぅん、貴方が玲ね」
嫁が嫁ぎ先実家での振る舞いにして、他人から見れば少々癪に障る雰囲気である明恵は玲を見るが視線は厳しく自然と玲も少し身構える。
「陽菜子も面食らったでしょうね……」
「そうね、暫くして貴方に逢わすべきか迷ったけど冠婚葬祭の時に水を差す事は無い様にするのも礼儀よ」
将も航も冷汗が出る程に二人の視線が交差する場所でスパークしている。鷹が居なかったらもっと酷い事になっていただろう。
「もう二人とも……」
陽菜も毎回二人の間に入るのも疲れる。明菜は手元にあったグラスを手に取る、琥珀色に浮かぶ氷が入っており、玲もそれが酒と分かる。
「肴で好みはありますか?」


玲は航から聞いた明菜の好物を調理していた……航も厨房に入り差し入れされた魚を三枚に下ろす。
「申し訳ないね、明菜の実家が興した学園法人でも性転換症発症者の通学拒否をしていた事は事実だ、しかも一部の保護者によってね……寄付金を減らすやら返金しろって迫った事もあったのさ」
「酷い」
「ああ……この事は監督官庁でもある文部科学省も厚生労働省も把握して裏付けされている事実さ……明菜の実家も経済面でも関係が深い御方からの頼まれごとだったから断れなかった」
その結果は彼女の夢を砕いた、教師になる事を……どの学校も採用する事もなく疲れ果てた明菜は航の妻に……優雅な専業主婦を演じるしかなかった。
「教員免許を持っているのに……」
「数年後、私は教員免許を返納したわ……どの学校も雇ってくれないならね」
明恵は空になったグラス用氷を入れるガラス製容器を置く。
「程々にしておけ」
「……事の重大さを理解した時の面々の顔は愉快だったわよ。私はもう好きなようにして生きるから、社会は私を必要にしてないし……」
足取りも少し危ういのは玲も分かる。この分だと明日の朝も御粥を用意しておいた方がいいかもしれない。

【投稿小説】「生徒に厳しい体育教師に女子化薬ぶっかけてみた」

by 中島しのぶ
イメージイラスト カネコナオヤ

 俺はTS学園高等学校教諭の山下。担当する教科は保健体育。泣く子も黙る体育教師だ。
 全くこの学校は生徒もゆるいが、教師もゆるい!
 昨日物理の教師が「いたずら」で女子化されたと今朝、職員室での伝達事項で聞いた。彼は「生徒指導」だったハズだぞ?
 しかも驚いたことにその教師……高田教諭は女子化したままで出勤し、あまつさえ昨日とは違う服で出勤している。なんてことだ!

 ここは体育教師として、明日は当番ではないが7時半前に出勤し正門前で生活指導をすると申し出た。

ーー明朝、正門の前に竹刀を持って立ち、生徒に挨拶をしながら様子を観察し注意をする。
「おはよう! そこの男子、ちゃんと学ランのボタンを全部とめなさい。 そこの女子? あ、TS娘か。だからといってそんなにスカートを短くしないように、パンツが見えてる。 それから……」
 身だしなみが整っていない生徒に対してビシビシ注意していく。

***

 8時30分からの1、2限目は3年C組とD組の合同授業だ。
 この2クラスのうち、C組は昨日問題を起こしたクラスだ。物理教師がされた「いたずら」をされないよう念のため用心するに越したことはない。
 もう一人の体育教師に注意を促し授業を始める。最初は軽くストレッチ。
 今日はランニングがメインだ。
 途中給水のため、生徒は各自ボトルを持参しているが、怪しいものは持っていないようだった。
 そして何事もなく授業を終えた。

 生徒が更衣室に戻るのを見ながら、では俺たちも……と体育教官室へ戻ろうとした時に後ろから「何か」をかけられた気がし、「やったぜ〜」と逃げていく生徒の声を遠くに聞きながら気を失うーー。

フリーかねこ0818

 そして目が覚めるとーーやられた! さっきかけられた「何か」は「女子化薬」だった。
 顔は見えないがジャージの下にはかなり大きい双丘とむちむちの太もも! ご丁寧にも昔懐かしいブルマを履いている。股間と太ももに食い込むこの感触! よもや自分が履くとは……俺が高校の頃に憧れていたブルマ!!

 いやいやいや、今はそれどころじゃない。急いで保健室に常備されている「元に戻る薬」をもらいにいかなければ!

【リレー投稿小説!?】「生真面目な生活指導の先生に女子化薬のいたずらをしかけてみた」つづき?

by 奈落
イメージイラスト カネコナオヤ

なんと!中島しのぶさんのSSに触発されて、奈落さんがつづきっぽいやつを投稿してくれました!

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「ムフン!!多少のアクシデントはあったが授業を開始する。」
俺が教壇に立つと
「「え~~~ッ!!」」
との声が沸き上がる。
「この程度で自習になると思ってたのか!!」
語気を荒めたが、どうも女の声では迫力に欠ける。
まぁ、授業を開始したとしても「いつも」のクラスである。
おしゃべり、スマホ閲覧が無くなることはない。
が、いつもと違いスマホのレンズがこちらを向いているのが気に掛かった…

チャイムが鳴り、授業を終えて準備室に戻ると
「ぁあ、先生もやられましたか♪」
先輩教師がニヤニヤ顔で俺を迎え入れた。
「まぁ、恒例ですね。「生徒指導」が厳しいとなるとやられるイタズラですが…」
そこで先輩教師は言葉を区切り、俺の姿を頭の天辺からつま先まで見分した。
「それにしても美人ですね。ここまでというのは滅多になかったですよ♪」
「まだ、鏡とか見てないんで…そんな…ですか?」
「ほら、既に授業中の写真が出回ってますよ♪」
と見せてくれたスマホの画面には…

「…ハァ…」
俺は席に着くと溜息を吐いた。
机に伏せると長い髪の毛が垂れ落ちてくる。
授業中は気が張っていた所為か気にもならなかったが、机との間に挟まるバスト…
ブラジャーの締め付け、肩紐の感覚が一気に押し寄せて来る。
脚を包むタイツとスカートの感覚…
そしてなにも無い股間と腹の奥に生まれた新しい器官を想像する。
「元に戻るのであれば保健室に薬が常備されていますよ。」
と先輩…
多分、その「薬」のひとつを盗みだして仕掛けたのであろうことは充分に想像がついた。

「いえ、今日はもう授業がないのでこのまま帰りますよ。」
…俺は明日は何を着て来ようか♪…
と部屋のクローゼットの奥に仕舞ってある女装用の服達を頭の中で選び始めていた。

【投稿小説】「生真面目な生活指導の先生に女子化薬のいたずらをしかけてみた」

by 中島しのぶ
イメージイラスト カネコナオヤ

 俺……あ、仮にも高等学校教諭たる者がいかんな。改めて、私はTS学園高等学校教諭の高田。担当する教科は物理だ。
 この学校は中高さらには大学までほぼ一貫教育校の私立学校なのではっきり言って『ゆるい』。

 他の大学に進学する生徒もいるが、その多くは経済学部あたりの文系に進学する。
 理系へ進む者もいなくはない。が、そうであるならば数学的な考え方で解いていけるので、物理を選択すべきだろうがそういった生徒は数少ない。
 理系で一科目選択であれば、化学を選択する者がほとんどだ。センター試験でしか理科を使用しない生徒の多くは生物を選択する……つまり!物理は不人気である!

 だからなのだろう、授業中のおしゃべり、スマホ閲覧は当たり前。
 まぁ私学でしかもTS娘も多いから学級崩壊なんて状態ではないが、突然女子る生徒の短いスカート、ブラウスのボタンを外しブラをチラ見せする生徒等々風紀の乱れが散見される……。
 風紀の乱れは心の乱れ!ひいては学業に影響する!

 このままではいかんーーそう思い、四月からの校務分掌で私は「生徒指導」を買って出た。
 短いスカート、ブラウスのボタン、ネイル、化粧、香水など次々と厳しくチェックしていった……。

ーーそんな矢先、普段からかなり厳しく指導していた三年C組の扉を、無警戒に開けてしまったーー。

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 頭の上に小瓶が落ち、内容物を浴びてしまい、そしてしばらく気を失う。
 やがて生徒の騒ぎで目が覚める……数分の出来事だったらしいが、自分の姿に驚く!

 先ほどまで着ていたスーツのズボンがスカートに!さらには細かい目の網タイツと赤のハイヒールを履かされてるではないか!
 私は気を失っている間に「解剖」されたのか? この風紀の乱れた生徒共に!
 が、手元を見ると長い髪……胸元にはかなりの巨乳……そして網タイツの先には先ほど落ちてきたと思しき「♀♂」マークの付いた小瓶!

「お、おまえらやりやがったなぁぁぁぁぁ!」
 そう叫んだ声は、甲高い大人の女性の声だった。

Fin.

【投稿SS】悪霊に体を半分乗っ取られ抵抗する巫女SS

作 つくも
イメージイラスト 不二家あぽ太

「俺はもうダメだ・・・」
深夜の公園、一人の男がベンチに座りうなだれていた。男は投資に失敗し、多額の借金を背負ってしまった。
「う、うああ・・・」
男が突然苦しみ始めると男の背中に黒いモヤが現れた。その黒いモヤには不気味な形相の顔があり、時折笑みを浮かべている。
『ニシシ・・・お前の人生終わったな』
「な、何を言うんだ!?」
『だってそうだろ。借金取りはお前を目の敵にするだろうし、家族からは見放されるぞ。それに誰もお前を助けない、みんなお前の元を離れていく。』
「そんな・・・」
男の心が黒いモヤに汚染されていく。最初は自己破産さえすればまだ人生やり直せると思っていた。しかし、悪霊の言葉で男の心が折れ始める。
「や、やっぱり俺はダメなんだ」
『ふ、そう落ち込むなよ。俺がお前を生まれ変わらせてやる!』
すると背中の黒いモヤが男の中に入っていく。
「あ・・・うあああ・・・」
男は苦しんでいるのか喜んでいるのかわからない声を上げながら体をガクガクと痙攣させる。
「あ・・・もう人生どうでもいいや」
男は力尽きたようにぐったりとベンチに仰向けに倒れこんだ。
『ふ、これでお前はもう自由だ。』
「自由・・・」
『だが、俺の欲はまだ収まらないのだ。だからお前が死ぬまでずっと力を貸してやる!』
「ああ・・・力が抜けていく」
男は虚ろな目で虚空を眺める。
そして突然立ち上がると、さっきまでの生きる気力の感じられない表情から一変、目がらんらんと輝き、獲物を見つけた獣のような笑みを浮かべている。

「そこまでよ!」

悪霊は声をした方向に顔を向けるとそこには一人の少女が立っていた。
少女は白と赤を基調とした和服で、髪の毛は紅白のリボンで結わえたポニーテール、赤いミニの袴から伸びる細長い美脚は黒いニーソックスで包まれている。
少女の正体は巫女で悪霊を退治する役目を持つ者だ。
「あなた、最近悪さをしている悪霊ね」
少女は指がでているタイプの白い長手袋をつけた腕で男を指さす。
『ちっ、面倒な奴が来たな。俺は自由に動ける体が欲しいのだ!だからまだこの体を手放したくないんだ』
悪霊は邪魔されたことにイラついたのか、声を荒らげる。その鋭い目は少女を威圧するように睨みつけるが少女はひるむことなく冷静に対応する。

「大人しく私に除霊されなさい」

『ふん、お前みたいな小娘が俺様を除霊できると思うなよ!』
悪霊は巫女に向かって突進する。
「そんな単純な攻撃当たらない!」
巫女は軽いステップを踏んで回避し、すれ違いざまに悪霊の腕をつかむと長身を生かし、背負い投げをした。
『ぐはっ!』
地面に叩きつけられた悪霊は痛みのあまり悲鳴を上げた。巫女は、悪霊を起き上がらせないように、今度は悪霊の腹をブーツで踏みつける。
『ぐふっ!』
巫女の体重がかかり、悪霊は苦悶の声を上げる。
『や、やめろ!』
「さっきまで威勢がよかったのに急に弱気になっちゃってどうしたの?w」
挑発する巫女。清楚で大人しそうな見た目とは裏腹に意外と意地悪な性格のようだ。
「ねえ、知ってる?このビンの中に入っているお清めの水が悪霊にかかると、硫酸をかけられたような痛みが襲ってくるのだよ?」
巫女は悪霊の顔の目の前に、瓶に入った水を見せつける。
『そ、そんなものをかけられたら俺は・・・』
「さあ、覚悟しなさい!」
巫女がビンを振りかざした瞬間、悪霊の様子が急変した。
『お、お願いだ!やめてくれ!』
突然命乞いをし出したのだ。
「あら、急にどうしたの?さっきまでの威勢はどこにいったのかしら?」
ニコニコ笑顔で答える。この巫女どSだ。
『た、助けてくれ!』
「だ~め、この世の未練を忘れ、大人しく成仏しなさい。」
巫女はビンの蓋を開け、悪霊の首元に水をぶっかけた。
『ギャアァァー!』
強烈な痛みに襲われた悪霊は悲鳴を上げた。その場から逃げたくても腹を踏みつけられており、動けない。
そして、体から黒いモヤが出ていくと男は徐々に力が抜けていった。
「ふふふ、除霊成功!」
足元には気を失っている男が転がっており、その表情を穏やかだ。
一仕事終えた巫女は満足そうに笑い、男の腕を首に回し、体を起こし、近くのベンチまで連れていくことにした。
さすがにこのまま地面に転がった状態でほっとくのはかわいそうだと思ったようだ。
「よいしょっと・・・」
いくら鍛えているからといってもしょせんは女だ。成人男性を担ぐのはそれなりにしんどい。男を半分背中に乗せ、前かがみになりながら引きずるように運んだ。
「んー?」
『ブチュッ』
突然、意識のないはずの男の手が巫女の頭をつかみ、自分のほうを向かせると巫女の柔らかい唇にキスをした。
不意打ちを食らった巫女は驚き声を上げることができないままでいると、男の口から何かが流れ込んでくる。
慌てて押し返そうと、再度倒れこんだ。
「今のはなんだったの!?」
恥ずかしそうな表情で口元を左手で拭きながら状況を整理しようとする。男の頬っぺたを左右に叩くが意識はない。
『ヒッヒッヒ~~』
突然、謎の声が聞こえてきた。
「誰!?」
巫女は驚き回りを確認するが誰もいない。
『俺ならここにいるぞ』
脳内から声がすると思ったら右手が上がり、挙手の状態になった。
「???!!!」
巫女は理解ができない。なぜなら自分の意志で右手をあげたわけではないからだ。
「ちょっと、どういうことよ!右手に感覚がない!」
巫女の焦りを気にもせず、右手は挙手した状態で左右にゆらゆらと揺れる。すると右手の人差し指が巫女の口を押し当てる。
『さっきキスしたときに俺の本体をお前の体に流し込んだのさ』
事態をようやく飲み込んだ巫女は、左手を右ポケットに入れようと慌てるがその腕を右手がつかむ。
『おまえの作戦はお見通しだ』
巫女はとっさに左手を後ろに下げ、右手を払いのけると、右手は右ポケットからさっきの清水が入った小ビンを取り出し、目の前に差し出した。
『同じ攻撃は受けない。』
ビンを奪い返そうと左手を伸ばすがポイっと投げ捨てられ、数m先の地面に転がった。
とっさにビンを拾いに向かおうとすると右手が右襟をひっぱり、巫女の綺麗で真ん丸な右胸がポロンッと露になった。
『御開帳~』
「ちょっと!何するのよ!」
足を止め、慌ててはだけた襟をつかむが、そのすきに逆の襟が引っ張られ、左胸もポロンッとあらわになった。
『へへへ。柔らかい胸だな。乳首も立っているし、感じているのか?』
「っ・・・!」
左手は右胸を揉んだり、先端の突起物を引っ張ったりする。巫女は右手を外そうと体を揺らし抵抗をするが、服がより乱れる、悪霊をより喜ばせるだけだった。
大きな2つのたわわが上下左右に揺れる。巫女の顔が徐々に赤くなってきた。それは恥ずかしいからではないようだ。
そのことに当然体の感覚を共有する悪霊も気づいている。
巫女は心の中では否定をしたいが、乳頭を爪で引っ掛かれたり、痛みと同時に襲ってきた快感で、否定の言葉が出でこない。
『ほらほらどうだ』
「やめて!」
巫女の心情変化を見て悪霊はますます調子に乗ってくる。
『何がやめてだよ。本当は気持ちいいんだろ?』
「違う!」
悪霊はニタァと笑い、右手を巫女の下腹部に持っていくとスカートの中に手を入れ、下着越しに秘部に触れた。
「ひぁっ!?」
その刺激で身体がビクっと跳ね上がった。
『なんか湿っているけどどうしてかな?』
悪霊は秘部を直接指先でなぞるように撫で回す。右手の暴走を抑えるため、白く艶めかしい両太ももを内側に閉めようとするが右脚が動かない。
それどころか意志とは逆方向に動き、立っていた巫女は右斜め前によろけてしまった。
「あう!?」
このままでは地面に倒れこんでしまう。そのままよろけながら数m先にある最初に男を座らせようとしたベンチに背中から座り込んだ。
「まさか右脚も乗っ取ったの!?」
『ああ、そうだよ。さっきま〇こを触った時に動かせるようになったのさ』
脳内の悪霊が回答すると勝手に右脚が上がり、ほらほらと煽らんばかりに空中に円を描くように動いた。
「くぅ、卑怯よ!」
『なんとでも言え。この身体は俺のものだ!それにしても長い脚だな』
脚を目の前にかざすと、右手は巫女の秘部から離れ、右脚の白をベースに赤色の縁でカラーリングされたブーツを脱がし、その場に落ちた。
右脚の綺麗な光沢を帯びた黒色ニーソックス全体があらわになる。
「ちょっ、何するのよ!」
『んー?お前の右脚を堪能しようかと』
続いて、右脚を手前に曲げ、ニーソックスの指先をつかむと、蹴り上げるように右脚を前方にすばやく移動させ、しなやかな美脚が露になった。
『ああ、柔らかいスベスベとした触り心地の良い肌の感触。すばらしい。』
内腿から足首にかけ、さらけ出された生足を右手が撫でる。
白くしなやかな肌で摩擦が少ないためか、艶めかしく輝いているように見えた。
足首やふくらはぎには産毛一本生えていないことがわかるほどきめ細やかな白い肌だ。
「やめっ、、、あぁっ・・・!」
きめ細かなスベスベとした肌が撫でられ、巫女の口から艶めかしい声が漏れる。
『脚を触られただけで気持ちいいのか?巫女ちゃん?』
「そんなわけないじゃない!」
否定の意思を示すため目を閉じ、下を向きながら首を左右にふり、美しい黒髪が波を打つ。そこから柑橘系のような甘酸っぱい匂いが漂ってくる。
赤面し、羞恥心に満ちていた巫女の表情が一変、無表情になった。歯を食いしばって左右細長かった唇は元の円形に戻る。
そして、巫女は顔を上げると、指先のみ動いている右脚をじっと見つめた。わずかに開いた口からはスーハーと吐息が漏れる。
『綺麗な生足をじっくり見せろよ』
「え?声が勝手に・・・」
一つの口から巫女と悪霊の両方の言葉が発せられた。
続いて右手はベンチの上に置いてあるさっき脱がした右脚のニーソックスをつかむと鼻に近づけて思いっきり空気を吸い込む。
『すぅー、はぁ~~、美少女でも脚は臭いんだな。』
巫女が静止の声をあげるが、そんなのお構いなしでニーソックスを密着させ、吸って吐くを数回繰り返した。
「いい加減に、しなさいっ!」
『そうだな、遊びはここまでだ』
ニーソックスを地面に落とすと、右手は再度秘部に移動、指先を奥に差し込み、先ほどよりも激しく動かす。
すると、巫女の秘部からクチュクチュといやらしい水音がしだし、体のあちこちがぴくぴくと震えだす。
左手は右手をつかんでいるが右手の暴走は止められなかった。
[ここから:巫女は自慰ではてる]
「やめなさい!んっ、あっ・・・だめぇー!」
『いいぞ、どんどん濡れてきてるぞ。』
右手は人差し指と中指を膣内に挿入し、かき回すように動かす。
クチュクチュといやらしい水音を立てながら、巫女の羞恥心を煽り立てる。
「あっ、ん、やぁ・・・」
巫女の声も甘くなり、吐息も荒くなる。
気が付いたら右手をつかんでいた左手は左胸の乳首を摘まみ、内側に力を入れていた左脚は右脚と同様外側を向いていた。
巫女の体に快楽が襲い、頭の中が真っ白になりそうになり、一瞬意識を失いかける。
『おいおい、まだ早いぞ』
右手は、中指を膣に差し込んだまま人差し指でクリトリスの皮を剥き、露わになった敏感な部分に爪を立てる。
「っ~~!!」
強制的に意識を戻され、ビクンと体が跳ね上がる。
巫女は必死に声を抑え、左手で口を押さえるが、鼻から甘い吐息が漏れてしまう。
「はぁ、はぁ・・・もう、やめて」
『やめろと言われてやめるかよ』
右手の動きはさらに激しくなり、巫女の呼吸も荒くなっていく。
それに比例して少女の体からは汗が流れだし、視界をぼやけさせる。
「ああっ!、イクッ!」
巫女は絶頂を迎え、背中を仰け反らせる。
秘部から潮が吹き出し、ベンチを濡らした。
「はぁ、はぁ・・・」
巫女の体からは力が抜け、ベンチに仰向けに倒れ、両腕はだらんと重力に従って下に垂れている。
体中が汗で濡れ、所々透き通るほどの白い素肌に淫猥な光沢を放つ。
巫女の呼吸が荒くなり、肩で息をしている。
胸は大きく上下し、下の秘部からは大量の愛液があふれ出し、足はピクピクと痙攣していた。
右手で秘所をかき回され何度も達した結果、巫女の意識は疲労で虚ろになっていた。
1分ほどたったかな。巫女は大きく深呼吸をすると、背中を起こし、前かがみになる。
右手でスカートをめくりあげ自分の秘部を確認すると秘部から愛液があふれ出し、ベンチを濡らしていた。
続いて、だらんと垂れていた左手が動くと、自分の左胸を揉みだした。
『ヒヒヒ・・・』
巫女の口から、笑い声が漏れる。
下を向いていた顔がゆっくりと正面を向くと、表情はニヤニヤと笑っていた。
『乗っ取り成功♪』
巫女の口から発せられた言葉は、悪霊のものだった。
ベンチから立ち上がると股間から透明な液体がふとももを伝って下にたれ、左脚のニーソックスを濡らす。
裸足の右脚からは冷たい土や小石のとんがりの感触が伝わってきた。
悪霊は両手を上にあげ、体を伸ばす。続いて、左右に体をねじる。露になっている両胸はその動きに合わせるかのように上下左右に揺れた。
今宵は夜風が気持ちいなぁ。
「なんで私の体が勝手に動くのよ!!」
脳内では巫女が騒いでいる。
『安心しろ、おまえの体を俺様が有効に活用してやる。ではまたな』
「ちょっと待ちなさ・・・」
ここで巫女の意識が途絶えた。
『では、俺様のやりたいようにやらせてもらうぜ』
悪霊は満面の笑みを浮かべた。

20230709112447ef7_20230823224852641.jpg

-完-

【投稿小説】私は女スパイ……

舞方雅人さんに投稿して頂きました♪

イメージイラスト:どぶ
小説:舞方雅人

 「あ……れ?」
 意識がゆっくりと戻ってくる。
 俺……どうしたんだっけ?
 気を失っていたのか?
 ここはいったい?

 ゆっくりと目を開ける。
 見慣れない白い天井。
 どうやらベッドのようなものに寝かされているらしい。
 躰にはシーツがかけられているようだ。
 はは……
 病院にでも担ぎ込まれたかな?
 熱中症で倒れでもしたんだっけ?

 とりあえず起きよう。
 俺はゆっくりと上半身を起こす。
 はらりと上にかけてあった白いシーツが落ち、ぶるんと丸く巨大なおわん型の二つの胸があらわになる。
 「ふぁっ?」
 な、なんだと?
 なんで俺におっぱいがあるんだ?
 しかも二つも……って、おっぱいは二つか……
 いや、そうじゃない!
 なんで男の俺におっぱいがって……
 えっ?
 ウソ……
 えっ?
 俺は股間に手を伸ばす。
 な……い……?
 お、俺のチンポが……
 俺のキンタマが……
 あるべきはずのものが……無い?

 慌ててシーツをまくってみる俺。
 目に飛び込んできた抜けるような白い肌の躰。
 二つの丸いおっぱいに小さなおへそ。
 そして薄い陰毛に覆われた股間。
 そこにはあるべきものは無く、女性にあるはずのものが付いていた……
 いや、この場合付いていたというのだろうか?

 待て。
 待て。
 落ち着け。
 これは夢だ。
 社会人にもなったのに、まともに女性と付き合ったこともないから、淫夢を見ているに違いない。
 目を覚ませば、また社畜の日々が始まるんだ。
 そうに決まってる。

 俺は再び横になってシーツをかぶり、目を閉じて眠ろうとする。
 これは夢だ。
 これは夢だ。
 俺の躰が女になっているなんてありえない。

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 その時、ドアが開く音がして部屋に誰かが入ってくる。
 医者か?
 俺が目を開けて確認すると、二人の男が俺のそばに来るところだった。
 一人はまさに医者っぽい眼鏡をかけて痩せた白衣の男。
 もう一人は仕立てのいいスーツを身に着けた太った中年男性だ。
 もちろん俺は二人とも見覚えがない。
 いったい彼らは何者なんだ?

 「目を覚ましたようだね。どうかね? 躰におかしなところはないかね?」
 俺が何かを言う前に、白衣の男が俺の顔をのぞきこむようにして話しかけてくる。
 「あ、いえ……その……」
 変なもので、おかしなところがないかと聞かれると、別におかしなところはないと答えてしまいそうになる。
 確かに痛いところや具合が悪いわけじゃないし、むしろ調子がいいと言ってもいいくらいだ。
 でも、一番の問題はそこではない。

 「ふむ。混乱しているようだね。自己認識をまだ変更してないから無理もないか」
 白衣の男はなんだか勝手にうんうんとうなずいている。
 「あ、あの……俺はいったい……」
 女のように高く聞きなれない俺の声。
 いったい何がどうなっているんだ?
 「ああ、君は女性になったんだよ。君はまだ混乱しているかもしれないが、変換手術は無事に終わっている」
 は?
 俺が聞きたいことをあっさりと答えてきた白衣の男。
 女性になった?
 俺が……女性に?
 本当に女性になったというのか?

 「君は女性に変わった。これからは自己認識の変換を行う。そうすれば君はもう自分を女性と認識し、その躰に違和感を覚えることもなくなるよ」
 「そ、そんな……ど、どうして?」
 どうして俺が女性になどならなきゃならないんだ?
 いったいこいつらはなんなんだ?
 「どうしてかって? 教えてやろう。我々の手駒にするためさ」
 今まで無言で壁のそばに立っていた中年男が口を開く。
 「手駒?」
 「そうだ。お前はこれから我々のために働く女スパイになるんだ」
 「お、女スパイ?」
 俺は思わず聞き返す。
 女スパイってなんだよ?
 なんで俺が女スパイになんてならないといけないんだよ?
 いったい何がどうなっているんだよ?

 「まあまあ、落ち着いて。今はまだ自己認識の変換を行っていないから混乱するのも無理はない。だが、これから自己認識の変換を行えば、君はすぐに自分を組織の女スパイと認識するようになる」
 「な、なんですか、それ? まるで映画や小説みたいじゃないですか? どうしてそんなことが? なんで俺なんですか?」
 俺はガバッと起き上がり男たちをにらみつける。
 なんなんだよ!
 こいつらはいったい俺に何をしたんだよ!

 「なんでお前か……については特に理由はないな。たまたま目についた健康そうな若い男だったからというだけにすぎん」
 「は? そんな理由で?」
 俺は中年男の言葉に愕然とする。
 たまたま……だと?
 「そうだ。お前がどこの誰でどんな生活をしてきたかなどどうでもいい。たまたまそこにいて、たまたま手軽に拉致できて、たまたま変換手術に適合した。それだけだ」
 「そんな……」
 にやりと笑う中年男に俺は絶句する。

 「まあまあ、大丈夫ですよ。今も言いました通り自己認識の変換を行えば、あなたはもう自分が女性であることを受け入れ、喜んで組織の女スパイとして働くようになります。それまでの辛抱ですよ」
 「ふざけるな! 戻せ! 俺の躰を元に戻せ!」
 俺は白衣の男の胸倉をつかみ上げる。
 ふざけるな!
 人をなんだと思っているんだ!

 「やめろ」
 中年男の声に俺はすぐさま手を放す。
 えっ?
 どうして?
 俺はいったい?
 「ふう……命令に従う暗示は効いているようです。やれやれ」
 つかまれて乱れた白衣を直すメガネの男。
 暗示?
 命令?
 俺は自分の思い通りにすることさえできないのか?

 「くそっ!」
 俺は歯噛みしながら自分のほっそりした腕を見る。
 白い肌をした美しい腕。
 指なんか使い古された言い草だが、まさに白魚のようだ。
 爪も健康的なピンク色で美しい。
 こんな手が俺の手だなんて……

 「すぐに終わる。そこに寝ておとなしくしてろ」
 「くっ!」
 中年男のその一言で、俺の躰はベッドの上で寝てしまう。
 悔しい!
 女の躰にされたばかりか、動くことも自由にできないなんて……
 ちくしょう!
 ちくしょう!
 俺を元に戻せぇ!

 「大丈夫ですよ。恐れることはありません。さあ、これを見て」
 メガネの男がペンライトのようなものを俺に向ける。
 見たくないのに俺はその光を見てしまう。
 「いいですか? これからあなたの自己認識を変えていきます。あなたは今日から女として生きるのです」
 「いやだ! 女になんかなりたくない! やめろ! やめてくれ!」
 俺は必死に首を振る。
 だが、目は光を見るのをやめてくれない。
 何かが俺の頭に流れ込んでくる。
 俺は……
 あれ?
 俺……は……
 「やめ……やめてぇ! いやぁっ!」
 俺は何かが変わっていくことに恐怖した。

                   ******

 「ん……んちゅ……れろ……」
 舌を這わせると熱さを感じる太いペニス。
 私の舌遣いで大きくなってくれるのは単純にうれしいし、技量の向上も自分で感じることができる。
 「ふふ……だいぶうまくなったな」
 椅子に座って私にペニスをしゃぶらせているチームリーダー。
 あの時私に動くなと命じてきた中年男性が、今はこうしてチームリーダーとして私の指導に当たってくださっている。

 「ん……お褒めのお言葉、ありがとうございます」
 私は礼を言いつつも指での奉仕を忘れない。
 男を気持ちよくさせるのは私の大きな仕事だからだ。
 だからほかの訓練よりも性的技術には時間をかけている。
 「んむ……」
 口の中に広がるペニスの味。
 いつの間にか好きになってしまった味。
 「うっ」
 タイミングを合わせて玉を愛撫するだけで、口の中に吐き出されてくる白濁液。
 「ん……んぐ……」
 私はいかにもおいしそうに喉を鳴らせて飲み込んでいく。
 男を気持ちよくさせ、私に対して心を許させるのだ。
 そうすれば相手は口が軽くなる。

 「おいしかったです。ご馳走様」
 私は口の中を見せて飲み干したことを確認させる。
 「ふふ……そうだ。そうやって相手を喜ばせろ。相手の口を軽くさせるんだ」
 「はい」
 私は舌で唇を舐め、もう何度味わったかわからないチームリーダーの味を味わっていく。
 「お前はその顔と躰でターゲットを誘惑し、情報を奪い取るのが役目だ。そのためにいることを忘れるな」
 チームリーダーの手が私の顎を持ち上げる。
 「もちろんです。お任せください。初任務が待ち遠しいです」
 私は偽りのない言葉を返す。
 女スパイとして組織の役に立つのよ。
 「それでいい。下がっていいぞ」
 「はい。失礼します」
 私は立ち上がって一礼し、チームリーダーの部屋を出た。

 「ふう……」
 自室に戻った私は思わず息をつく。
 あの日、私は女スパイに改造されてしまった……
 自己認識の変換も行われ、今の私は自分を女と認識している。
 組織の一員としての自覚もあるし、女スパイとして組織の役に立ちたいとも思っている。
 私は組織の女スパイ。
 コードネームはマリー。
 私はマリー。

 鏡に映る私の姿。
 躰にフィットしたレザースーツが、私のボディラインを余すところなくあらわにしている。
 男にはありえない二つの大きな胸を、私は手で持ち上げる。
 はぁん……
 感度もいい……
 女の躰は最高。
 男だったという記憶はある。
 でも、以前の私が何者だったのか、名前すら思い出すことはできない。
 今の私は女スパイのマリー。
 それ以外の何者でもないわ。

 「ん……」
 私はスーツの上から股間を愛撫する。
 気持ちいい……
 さっきのフェラチオを思い出す。
 あん……
 ダメ……
 躰がうずいちゃう……

 私はレザースーツを脱ぎ捨てて、ベッドにもぐりこむ。
 ん……
 これもスパイとしての訓練よ……
 私はまだ見ぬターゲットを誘惑することを考えながら、ゆっくりと股間に手を伸ばすのだった。

END

【販売4周年】10億円誘拐の人質となった俺がどんどん女体化調教される件 第1章-1

2019Q3おかし製作所DMM販売数11位


ときどき出す小説作品です!TAMAこんにゃくさんに書いてもらって、挿絵はもろへいやさんにお願いしました!

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第一章 誘拐された俺

「ふい~っ、今週もよく頑張ったな~」
 金曜日の夜、俺は会社帰りの道をいつものように歩いていた。
俺の名前は中村裕明(なかむらひろあき)。中肉中背の、まあどこにでもいる一般的なサラリーマンといったところか。
「明日は、待ちに待った休日か……」
 季節は六月。五月はゴールデンウィークがあったものの、今月ときたら祝日がない。
 故に、通常の土日が待ち遠しくてたまらなかった。
(そういえば、明日はあの日だったような?)
 ふと頭に湧き上がった気づきに、俺は歩行を止める。
 左腕を眼前に掲げ、紺色のスーツを右手でまくり、むき出しにした腕時計にそっと語りかけた。
「日付を教えてくれ」
 すぐさま、正面にぼうっと『二〇四〇年六月八日金曜日・午後七時十分』と白文字が浮かび上がる。
「ってことは、明日は母さんの誕生日じゃないか……!」
 はっと気づいた俺は、続けて腕時計に問いかけ、
「丸野百貨店までナビして」
「OK、このまま道なりに進んでください」
 落ち着いた女性の声が聞こえてくる。ナビゲーションに従い、俺は歩みを再開した。
 もうお気づきかもしれないが、俺が今左腕に装着している腕時計、もとい腕時計型ウェアラブル端末が、この時代では個人間の通信を司(つかさど)るデバイスとして用いられている。
 この手の端末は十年前、つまり二〇三〇年辺りから急速に普及していった。
 それまで人々は、薄くて平べったい長方形のデバイス、いわゆるスマートフォンを使用していたのだが、空間上に画面を投影し、それを操作できる技術が確立されると、それに対応したウェアラブル端末が主流となり、スマートフォンは一気に廃れていった。
 実際、スマホは幼×園・小×生の時分(じぶん)にはよく見かけたものの、中学に入る頃にはすっかり見なくなったものだ。
 ウェアラブル端末がスマホよりも明らかに優れているのは、頑丈に作られているので落下させて壊す心配がない・表示される画面が目に優しい・かさばらないetc。
 今や当たり前になっている技術ではあるが、改めて考えてみると凄さを実感する。
「突き当たりを右に行ってください」
 技術の進歩にしみじみしていると、ナビの音声が聞こえてきたので、その通り右に進む。
(母さんのプレゼント、何がいいかな? 順当なところでブローチか? でも去年あげたし……お菓子とかはどうだろう? でもなあ、太るって遠慮しそうだ……)
 頭の中で逡巡する。迷っているこの時でさえも、ぶっちゃけ楽しく感じるものだ。
(なら紅茶はどうだろう? うん、悪くないチョイスだ)
 それほど苦労することなく結論が出た。
 歩行する速度が、自ずと速くなっていく。
 目的となる丸野百貨店まで徒歩十分程度なので、閉店時刻の午後八時までにはまだ余裕がある。
 もちろんこれは、プレゼントを選ぶ行為そのものが楽しみで仕方ないからだ。
 去年もこんな感じで、誕生日前日にわくわくして百貨店に駆け込んだことを思い出す。
 いきなりの独白になるが、俺は母子家庭で育てられてきた。
 幼い頃に父親が不慮の事故で他界したあと、地方公務員の母親は女手一つで立派に育ててくれた。
 給与は安定していたものの、家事やその他諸々の負担は察するに余りある。
 その背中を見て育った俺は、少しでも母親を助けたい、いつか恩返しがしたいと願い続けてきた。
 そして去年、大学を卒業し就職した俺は家を出て、新社会人として一人暮らしを始めたのだ。
 正直まだまだ半人前ではあるが、これからは俺が母親を支えるのだという気概を持って、日々の業務に一生懸命に取り込んでいた。
 こうした経緯で、母親の誕生日には自分で稼いだお金でプレゼントするのが、俺にとって何よりも誇らしく、楽しいことになっていたのであった。
「次の曲がり角を左に行ってください」
 そうナビゲーションの指示が響いたものの、あべこべに俺は右の小道に進み出る。
 道路沿いをそのまま進む左のルートより、裏通りとなる右のルートのほうが近いからだ。
 飲み屋などの飲食店・雑貨店などが立ち並んでいる通りのちょうど裏、午後七時台というゴールデンタイムにも関わらず閑散としている薄暗い路地裏で、俺はいそいそと歩みを進める。
 今思えば、この小道を選択した時点で、俺は正常な人生のルートを盛大に踏み外す羽目となったのだろう。
 だが、期待感でいっぱいの俺の胸に、悪い予感など感じ取る余地などない。
 屋根上から虎視眈々と視線を向けている、いくつもの怪しい影についても気づくことがなかった。
 突然、目の前にすたんと落下してくる一つの影。
「えっ……!?」
 呆気に取られる間もなく、
「何っ……!」
 続けざまに落下したもう一つの影が、背後から俺をいきなり羽交い締めにする。
「はっ、離せっ!」
 当然抵抗する俺だったが、もがけばもがくほど、がっちりと固定された両腕に相手の腕が食い込んできて、とても振りほどくことが叶わない。
 ここで俺はようやく、薄暗闇に浮かび上がる白いシルエットを直視する。
(これは……お面……?)
 角付きで恐ろしげな形相をした、般若のお面だった。それを顔面に装着した目の前の影の全身は、周囲の薄暗さに紛れて判然としない。おそらく、隠密行動に適したカラーリングの服を着用しているのだろう。
「お前らは誰だ! いったい俺に何の用なんだっ!」
 声高に叫ぶものの、目の前の影はおろか、いつの間にか周囲に降り立った、いくつもの影から返答は返ってこない。
 皆それぞれ、目が細長くて真っ白な女性のお面、髭が付いた翁面、角が生えた鬼面など、ヴァリエーション豊かな能面を被っている。
「ごくっ……」
 異様な能面姿に包囲されるという、とてつもなく異様な状況に、無意識のうちにカラカラになった喉を、口内の唾を飲み込んでどうにか潤す。
(どうしていきなり、こんな連中が……まるで、映画やアニメに出てくる暗躍集団みたいじゃないか……)
 立ち込める緊迫感はすごいが、あまりに突然すぎるせいか、なんとも現実味がない。
 そのうち前方から、こつこつと近寄ってくる足音が聞こえてくる。
「お前はっ……」
 接近してきた人物の、首から下は薄暗さに紛れてよく見えず、そのうえ顔面には覆面を被っていた。髪はボブ程度の長さで、性別はわからない。ただ、爛々と輝く眼光の鋭さがビシリと伝わってくる。
「中村裕明だな?」
「――そうだ」
 目の前にまで迫ってきた人物からの問いに対し、俺は正直に答える。嘘をついたところで、懐の社員証を探し出されたら一目瞭然だからだ。
 ひとまずは勇気を振り絞り、逆に質問をぶつけてみる。
「お前は誰だ! いったい俺をどうするつもりだっ!」
「答える必要はない。おとなしく来てもらおう」
 彼の声は、想像していたより幾分か低めである。
(男? 若そうだな。年齢は俺と同じか、若干下か……)
 覆面下の素顔を見てみたい思いに駆られつつ、質問を続ける。
「来てもらうってどこにだよ!」
「それにも答える必要はないな」
 ぴしゃりと返答される。取り付く島もない。
 らちが開かないと判断した俺は、
「離せっ! お前らに付き合う道理はないっ!」
 それこそ無我夢中でもがき、羽交い締めになった両腕を何が何でも振りほどこうとする。このまま奴らに連れ去れたら、間違いなく非常にやばいことになるという直感があった。
「おとなしくしてろと言ったはずだ。やむを得ん。手荒な真似はしたくなかったのだが――」
 その言葉とともに、真正面の覆面の男は両腕を伸ばし、こちらの首元を両手でつかむと、左右親指をぐいっと沈め込む。
「ぐえっ……!」
 強烈な圧迫感を感じるとともに気道が狭くなっていき、一気に呼吸が苦しくなる。
 締め上げる力はますます強くなり、
(かっ、母さんっ……!)
 急速に遠ざかっていく意識に浮かび上がってきたもの。それは母親のいつも通りの、気取らない気丈な笑顔であった。

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【投稿小説】とある冒険者の受難 第1話 

作:馬耳エルフ
イメージイラスト&挿絵 えたみ https://twitter.com/eta_64
えたみさん3

かつてこの地には戦乙女の異名で呼ばれた伝説の聖女がいた。
その名が示す通り、彼女の強さは規格外のものだった。
当時この世に跋扈していた強大な力を持つ魔物たちにその身一つで戦いを挑み次々と討滅し勝利しを重ね、やがてこの世界に平和をもたらした。
そして今も尚、その戦乙女がこの世を去る前に残した遺品がひそかに収められたといダンジョンがこの世の何処かに存在しているらしい。

「でもそれって単なるおとぎ話だろ」
冒険者・湊潮は装備している大剣を背中の鞘に戻しながら言った。
「ここの魔物どもはたしかに手強い。
しかし並のやつに比べれば比較的強いってくらいのもんで、戦乙女の形見の品を守るのに相応しいレベルじゃねえぞ。
やっぱここが戦乙女の遺品が眠ってるって噂はガセじゃないのか。
だとしたら今回はもう引き返したほうが良いかもな」
「おかしいのう、情報を掴んだ時は信憑性があると思ったんじゃが」
老魔術師・マロックは小柄な体を丸めため息をついた。
冒険者にとってダンジョン探索が空振りに終わるのはよくある話だ。
それでも、このダンジョンに戦乙女の秘宝が眠っているという情報が本物と信じていたのか、この老人は見るからに落胆した表情で落ち込んでいた。 
しかし、このまま手ぶらで帰れるはずもなくダンジョン探索は続いた。
その過程で手に入れたお宝はどれも女物ばかりだった。
短い外套にリボン、そしてやたらと際どい露出度の上下対となる鎧。
どれも大した値打ちものには見えない品々。
これが戦乙女の遺品に関係あるのかどうかは判別がつかないが、何も成果が獲られないまま帰るよりはマシということで、潮とマロックは見つけたお宝はすべて回収した。


そしてその日の夜のことである。
マロックが魔術で周囲に魔物避けの結界を張り、そこでキャンプを張り一夜を過ごすことになった時のこと。
ダンジョンに持ち込んだ安酒を飲んでいた潮に
「なあ、潮。これを装備してみんか?」
マロックはこのダンジョンで回収した女物の品々を潮の前に並べてみせた。
「なんだ爺ちゃん。これ全部女もんだぞ。冗談だろ?」
潮はマロックと違って下戸のくせに酒好きである。
すっかり酔っ払って顔を赤らめていた。
「あまりにも退屈なもんでな。仮にこれらが本当に戦乙女の遺品なら、お前さんの能力ならこれを装備したことでなにか変化があるかもしれないと思ってのう」
潮には、生まれつき他者とは違う特殊な能力があった。
装備したものに対応するように自身の能力を変化させるという異能を生まれながらに宿していた。
彼が大剣を装備すれば、それを自在に操れる強靭な腕力を肉体に宿し、また投擲用の小刀を持てば特に訓練しておらずとも数十メートル先の標的に命中させられるようになった。
そんな潮がこれらの武具を身に着けた際の変化で、この武具に特別な力があるかどうか真贋を見極めようというマロックの提案だった。
「うーん…」
さすがに露出過多の女物を男の自分が着用するのは気が引けたが、この装備の価値を確かめるのには有効な手段だと判断し了承した。
「よし、いいぜ。着てみようじゃねえか。
それにしても男にこんなもん着せようなんて物好きな爺さんだな」
「ワシだって本当は武器屋のクレアちゃんに着せたいわ。
ああ、でもあの慎ましいボディじゃこれを着こなすのにはボリューム不足かのう。
それを着こなすには最低でも乳がF、いやGカップは欲しいところじゃわい」
体積のやたら大きな胸当てを手にとってマロックは言った。
クレアとは潮とマロックが行きつけの武具屋の娘の名前である。
常連客であることを理由に女好きのマロックのセクハラの被害にあっているかわいそうな娘である。
このダンジョンに来る前に店を訪れた際もマロックに尻を撫でられる被害にあった挙げ句、胸の小ささを茶化されていた。
「全く。このスケベジジイは…」
潮は服を脱ぎ入手した武具を身に着けた。
そして…そこには女物の露出度の高い装備を身に着けた長身の筋肉質な男がいた。
「な、なんとおぞましい光景か…」
「やかましい。てめえが言い出したことだろうが。
さてと、特に何も変わらないしもういいだろ」
その時だった。
潮の体に熱を帯びた波動のようなものが駆け抜けた。
続いて鋭い痛みが全身に走る。
うずくまる潮の肉体に変化が訪れた。

じわじわとその肉体が別の物へと組み代わりはじめる。
筋肉質の男の長身がどんどん柔らかな体のラインへと変わっていく。
短かった髪の毛がするすると伸び、肩の後ろまで伸びていく。
体積の大きな胸当てをはち切れんばかりの柔らかそうな2つの山が狭苦しそうに押し上げる。
腰まわりが徐々に細くくびれて、臀部が後ろへと盛り上がる。。
太い2本の足はプニプニとした質感の柔らかそうな太ももへと変化した。
やがて、肉体の変化は収まりそこには1人の美女が完成した。

「な、何だこれ。胸が、声まで変わって…」
急激な肉体の変化に困惑する潮。
潮自身も自分の肉体が急激に変化していることは理解できたがその外見が見目麗しい美女に変わった事実には気づいていなかった。
逆にマロックはその変化の一部始終を目の前で観察していたため眼前の現象の正体を大まかにではあるが理解できた。
「なんだこれ…。何が起こったんだ…」
「おそらく、その装備は本物だったのじゃろう。
 我々が手に入れたのは、太古の時代にかの戦乙女が身につけていた正真正銘の聖なる遺物。
 しかし、男のお前さんが身につけたためその能力を十全に発揮できるようにお前さんの異能が発動した。
 大剣を装備した際に自在に振り回せるよう怪力が宿るように、戦乙女の装備を身に纏ったお前さんは、その防具を扱えるよう肉体が女に変わったのじゃろう。
 いや、しかしそれにしても…」
マロックは変わり果てた潮の姿をつま先から頭までじろりと舐めるように見定めていた。
大きな瞳に鼻筋が通った麗しい容貌は大きな青いリボンも不思議と似合っていた。
次に胸にある自己主張が激しい2つの双璧は大きく白銀色の胸当てを圧迫し素晴らしい双璧を形成している。
比類なき女好きで大の巨乳好きのマロックにとって、これだけでもたまらない気分になるが、さらに目を引いたものがある。
視線を下にやると綺麗なへそがあり、そこから臀部にかけての絶妙なラインは腰当ての布の上からでも理解できた。
今まで星の数ほどの女の肢体をこの目で愛でてきたマロックだが、目の前にいる潮は今まで自分が出会った女の中でも最上級の美女だ。
それを認識した瞬間、マロックの理性は跡形もなくはじけ飛んだ。


一方、女体化した潮は混乱の真っ只中にいた。
自身の肉体が別のものに変化するという衝撃を前に冷静な感覚など欠片ほどもも消し飛ばされ混乱していた。
そんな時に自分にとって冒険者としての師匠であり、育ての親であり最も信頼を置いている相棒でもあるマロックが邪な気持ちで
自分との距離をゆっくりと縮めていることに気付かないのも無理はない。
「潮おおおおおおおおおおお!!」
マロックは信じられない勢いで潮に抱きついてきた。
いきなりのことで驚いた潮だが、意外にもマロックの抱擁を素直に受け入れた。
なぜならば、湊潮という人間にとってマロックという男はこの世で最も信頼を置ける人物であるからだ。
極東の島国から流れ着いた身寄りのない自分を13年間に渡って、まるで実の息子のように育ててくれただけでなく、冒険者として生きていけるよう1からイロハを教え込んでくれた男。
好色ぶりにうんざりするところもあるが、それを帳消しにするほど優秀な冒険者であり大魔術師である男なのだ。
そんな己の尊敬する男が自分に対して肉欲をたぎらせ自分に抱きついてきたなど彼は想像もしなかった。
その結果、潮は半ば自主的にマロックの抱擁をまともに受け止めることとなる。
「おお潮。体が様変わりしたようじゃが大丈夫か?どこか痛くないか?」
「おう。一応、どこも痛めてはいないみたいだ…」
潮の口から漏れた言葉は男の時とは比べ物にならないほど高く綺麗だった。
マロックが自分に駆け寄り抱きしめていたわりの言葉を投げかけてくれたと勘違いして潮は安堵していた。
肉体が別のものへと変化していく怪現象に陥った自分に対してこの人は本気で心配してくれているのだと解釈した。
一方のマロックは自分が抱きしめ、あまつさえ胸に顔を密接させているのに何の抵抗もしない潮に対し己の欲望を全開にしていた。
時間にして2分ほど潮とマロックが抱き合う体勢は続いた。


そしてようやく、潮はある違和感に気付いた。
マロックがグリグリと顔を自分の胸に押し付けている事に気づいた。
身長差からすれば長身の自分と小柄な老人ゆえに、抱きつけば必然的にこの老人の顔は自分の胸に顔を押し付ける形になるのは潮にも理解できる。
だが、これが偶然では済まされないことに気付いた。
マロックが抱きついた際に、自分の腰に回されている手がいつの間にかお尻に移動し撫で回されていたからだ。
ひとたび思考がまともに回り始めた途端、自分の今置かれている状況が冷静に自覚できた。
マロックはひたすら潮の尻を執拗にいやらしく撫で回している。その両手は臀部の肉をまさぐり続けている。

えたみ0605納品

ここに至り潮はマロックの自分自身に向けられたスケベ心に完全に気付いた。
それを自覚した頃には時既に遅し。
マロックは顔を左右へグリグリと動かしながら潮の胸を堪能していた。
尻を這いずり回る手の動きもさらにエスカレートして、もはや触るというよりは肉付きのよい尻を指に力を込めてを込めて揉みしだいている。
「おい、悪い冗談は止めていい加減離れっ…ひゃわっ!」
自分の胸に顔を埋める体勢で抱きついているマロックを引き剥がそうとした潮だが予想以上に力強く抱きつかれているので上手く引き剥がせない。
それどころか、潮の拒絶の意思をあざ笑うように胸に埋められたマロックの動きは激しくなっていく。
「おお潮。どこも痛くないか、ここは平気か?
 ここはどうじゃ、このへんはどうじゃ。おお、こっちなんかとても心配じゃ」
「変なところをっ、んっ、ふぁぁ。あっ、あんっ!やめっ、くうっ!」
マロックの手のひらは尻、背中、へその周り、太腿と欲望のおもむくままに這い回っている。
そのたびに言葉にできない奇妙な快感が潮の背筋を駆け上リ思わず変な声を上げてしまう。
混乱のさなか、潮はマロックの左手がするすると潮の下腹部のさらに下にある“大事な部分”へと伸びていくのを感じた。
このまま数秒でも放置しておけばその大事な部分にマロックの指が到達して言葉にするのもおぞましい狼藉を働くのは明らかだった。
(いくら何でもさすがにそれは、それだけは許すわけにはいかない。胸や尻を触られるのとではわけが違うぞっ!)
「いい加減にしろっ!このエロジジイ!!」
右拳に渾身の力を込め密着しているマロックをぶん殴った。
己のすべての集中力を潮の女体を堪能することに集中していたマロックにその鉄拳を避けられるわけもなく、マロックの禿頭に拳が命中した。
殴られたマロックは低い悲鳴を上げながら後方へと信じられない速さで殴られた方向へと吹き飛んでいったのだ。
やがてマロックが吹き飛んだ闇の中から鈍い音がしてその空間には静寂の空気が流れるのみとなった。
「何だこれは…」
殴り飛ばした張本人である潮がこの状況に衝撃を受けていた。
自分はたしかに全力でマロッを殴ったがあの吹っ飛び方は異常だ。
この体に何が起きている。
冷静に自分の体に気を向けてみると妙に自分の奥から活力が湧き出るんを感じる。
今まで味わったこともない赤々と燃え上がる太陽のようなエネルギーが自分の肉体に宿っているのを感じた。
その時、潮は今の自分の身にに起きた変化を理解した。
この体は伝説の戦乙女の装備を着るにふさわしい肉体に変化したのならば、見た目だけではなくその強さも戦乙女と同等のものになったのではないかと。
マロックの吹き飛び方から察するに、今の自分の腕力は男の頃の数十倍、いやそれ以上のものになっているに違いない。
1人になって少しずつではあるが冷静さを取り戻した潮は状況を整理し始めた。
どうやら自分が女のからだになったことは胸の膨らみや23年連れ添った股間のモノの喪失を見ても明らかだった。
持ち込んだ荷物袋から手鏡を取り出し自分の顔を確認する。
そこには見知らぬ美女が写っていた。
なるほど、伝説の戦乙女の再臨と自称していい美貌だと我ながら思ってしまった。
そして、こんないい女が女日照りのダンジョン探索の最中に目の前に現れたのではあの超好色のマロックでは理性を保つのは難しいだろうと納得してしまった。
そう考えれば先程の自分に対するセクハラ行為も感心はしないが腑に落ちてしまう。
吹っ飛んでいったマロックのことを考えて潮ははっとした。
ここはマロックが貼った結界が機能しているが魔物が跳梁跋扈するダンジョンに違いない。
ここは魔物ひしめくダンジョンの奥地。結界の外では何時何処で魔物に襲われるかなど予想できない。
殴った時の手応えと吹き飛び方を考えれば、普通に考えればマロックはご臨終だろう。
仮に運良く生きていたとしても、全身複雑骨折の重症に違いない。
そんな状況で魔物に襲われたら…。
潮は大急ぎで荷物をまとめマロックが吹っ飛んだ方向へ向かった。


もはやダンジョン探索どころではない。
マロックを連れていち早くここから地上へ脱出しなければならない。
全速力で走る自分の規格外のスピードに驚きつつも一直線に潮は走った。
通路の突き当りにたどり着くとそこには壁に顔を深く埋め込ませた体勢でぐったりしているマロックを発見した。
ここに来るまでの天井や床が不自然な形にへこんでいることから察するにマロックはこの廊下をピンボールのように弾みながらこの壁に頭から着弾したのだろう。
ピクピクと動いていることから察するに怪我の度合いは大きそうだが、どうやら生きているようだ。
完全に気を失っているマロックを引き抜いて潮はダンジョンを脱出するべく階段のある方向へと向かった。
階層を行き来する場所だけは絶対に頭に刻んでおけ。
13年前に弟子入りした際、マロックに教えられた最初の冒険者心得だった。
それがこの窮地で役に立つとは潮は左手に抱えている老人に感心した。
その時である。
「グオオオオオオオオオオオ!!」
「な、なんだこいつら…」
眼前に立ちふさがったのは見たこともないほど巨大な魔物だった。
このダンジョンで交戦した今までの魔物以上に凶悪な気配を感じる。
ここに来るまでに姿を表していないにもかかわらず、今になって群れで襲いかかってきたことから察するにこれは戦乙女の武具を盗み出されるのを防ぐ役目を担っているのだろう。
その証拠に、戦乙女の装備を身に着けた潮に対し並々ならぬ害意を向けている。
おそらくは、このダンジョンで今まで戦った魔物に比ではない。
しかし、不思議だと潮は思った。
これほど絶体絶命の状況にもかかわらずまるで負ける気がしない。
マロックを脇に抱えながら戦わなくてはならないこの状況も、まるで取るに足らないことのように思えた。
そして、その予感は的中した。
魔物に雷光の如き速さで距離を詰めた潮は全力で魔力を込めた一撃を放った。
潮の拳が魔物の腹に突き立てられるとそこを中心に巨大な円の崩壊が起き、魔物の腹に巨大な丸い穴を開けた。
そして、魔物はその巨体を倒し熱湯に入れられた角砂糖のように体を崩壊させ消滅した。
魔力の込め方などは昔マロックに習った通りに行ったがこの体ならここまでの威力が出るのかと潮は驚いた。
その後、急いで階段から上の階へと移動し地表へと向かった。
途中で何体か先程戦った魔物と同じような姿のものとも戦ったが今の潮の相手ではなかった。
あっという間にダンジョンから脱出し、最寄りの町へと向かいそこに取ってあった宿へと向かった。
夜中ではあったが宿の主人は1階の受付カウンターに居たのは幸いだった。酒を飲んでいるのか顔が少し赤く色ずいている。
潮は宿屋の主人から鍵を受け取り自分たちが宿泊している部屋へと向かった。


ベッドが2つと大きめの鏡しかない簡素な部屋は先ほど点けた蝋燭の明かりに照らされていた。
マロックをベッドに丁寧に仰向けの形で寝かせると、潮は自分の着ている装備を髪をくくってある青いリボンも含めて全て脱ぎ捨てた。
潮は自分の体を確認するため鏡の前へ移動する。
今の潮は装備どころか指輪やイヤリング、髪飾りと言った装飾品すら身に着けていない裸の状態。
言ってしまえばすっぽんぽんの産まれたままの姿、完全な全裸状態である。
鏡の前に立った自分は髪が長く胸の大きい完全な女だった。
「こ、これが俺…」
しばらくぼうっっとした潮は我に返り自分の体に気持ちを集中させた。
自分の特殊能力を使った過去の影響から鑑みて、装備を手放してから10分も経てばその影響は完全に消える。
鏡の前で全裸で立ち尽くすこと5分経った…。6分…7分…8分…9分…。
その時だった。鎧を身にまとっていたときにこの身に宿っていた絶対的な魔力は体から消え失せていた。
装備した武器の影響が消えるのはいつも通りだ。
このままこの体も元の状態に戻るに違いない、そう思っていた。しかし…。
「なんだこれ…」
いつまで経っても鏡に映る自分は女のままそこにいる。これはどういうことなのか。
「恐らくは、この鎧とお前さんの能力によるものじゃろう」
大怪我を負ったマロックがベッドから語りかけた。
「お前さんの能力は装備した武具の性能を最大限にまで引き出すために自身の能力を合わせるというものじゃったな。
 そのために、武器に合わせて本来の腕力や魔力を人間離れしたレベルで高める能力変化を強制的に行うというのが今回お前さんの身体で起こった変化の原因なわけじゃ。
 しかし、今回装備したのは伝説の戦乙女の遺品。
 性能を最大限に引き出すためには自身の能力の向上だけでは足りずに自分の体すら戦乙女と似たものに変化させざるを得なかった。
 その結果、過剰に自身の肉体を女のものに作り変えてしまったわけじゃ。
 しかし、装着した超弩級の武具に合わせるために急激に体を作り変えてしまったため勢い余って元に戻れない状況まで行き着いてしまったのじゃろう」
「そ、そんなぁ…」

えたみ0527

自分はまさか今後一生、女のままなのか…。
その予感の正しさを証明すように鏡に映る潮の体は女のまま男に戻る気配はない。
男の体を失った絶望に潮は体を震わせた。
一方、ベッドに横たわったマロックは大怪我の痛みで薄れゆく意識の中、潮の大きな生尻を眺めていた。
(うひょおおう、ええのう。白く大きくて肉付きの良いいヒップじゃのう…元気な赤ちゃんが沢山産めそうじゃわい…)
マロックは、鏡の前で青ざめて頭を抱える潮の白く大きな尻を堪能しながらベッドの上で気を失った。



第一話 了 <第二話はこちら>

初出は20210621?

【投稿小説】とある温泉宿で起きたこと 後編 

作 ととやす
挿絵 海渡ひょう  https://skima.jp/profile?id=92480

前編はこちら

11
〜〜〜
頭が痛い。本来ならあり得ない『真咲』の記憶を無理矢理ねじ込まれているからだろうか。
(俺は男で!海斗とは親友の、はず、なのに)
その一方で『真咲』は海斗とは恋人で、既に何度も何度も身体を重ねている。その事実が実感として思い起こされるのだ。
そんな俺の思いなどお構いなしに、背後から俺を、というより俺の胸を抱きしめる格好の海斗。存在感たっぷりのバストは、腕が動かされる度にぷるんぷるん震える。
「あっ、や、やめろ・・・」
一度収まった火照りが再び押し寄せる。
「真咲って、本当におっぱい大きいよな~」
「っ!」
顔が真っ赤になるのがわかった。気を抜くとすぐに乙女そのものな反応をしてしまうのが情けない。身体が女だからなのか、感情の起伏がとても激しくてうまくコントロールできないのだろうか。
「あっ、ちょっ・・・やんっ!」
海斗はその大きな両手を俺の胸と股間に滑り込ませ、ゆっくりと指を動かす。
もう、頭の中はパニックだ。
(俺ッ!親友のはずの海斗に女の子の大事な部分弄られてっ!)
事態を直視できず、身体が強張る。
「こんなにデッカくて柔らかいのに、形も綺麗だしな〜最高♪」
「あ、あぅ・・・」
照れたらいいのか、怒ったらいいのか。
海斗が俺の身体に顔を寄せて、クンクンと鼻で嗅ぎ回る。ややあって愉快そうな声で、
「真咲のエッチな匂い・・・いい匂いだぁ。ゾクゾクするぜ」
「あ、やぁっ!」
さっきまで自分で慰めていた『あたし』、否。俺の体臭を嗅がれている・・・。また耳まで赤くなった。股間の敏感な部分を指でくすぐられる。
「ひゃあっ!」
「本当に感じやすいな。もう、ぬるぬるだぜ?」
見せつけるようにぬめった液を滴らせた太い指を鼻先に突き付けられる。そこからふわりとまるでチーズのような香りが鼻をついた。これって、まさか・・・あたしの!?
思わず絶句する。
この状況がどれだけヤバイかわかっていても、脚も痺れて動けない。
そんな俺を余所に、海斗はしゃがみこんで俺の股間に顔を近づけて行く。
「ああ・・・いい匂いだ。真咲のアソコの匂い、ホントに興奮する」
「やあっ! あっ、だ、ダメ・・・ダメェ! か、嗅ぐなぁ〜!」
「そう? その割にはここ、ほぅら」
海斗が股間を指でつぅっと撫でた。
「ひうっ!」
全身にびりびりっとした刺激が走る。
「こんなにトロトロにして?」
「やだぁ・・・だめぇ・・・」
「そんなこと言って。腰動かしてるじゃん!」
「だって・・・」
そう。そうなのだ。いつの間にか海斗の指から与えられる刺激に合わせて腰を振り、より気持ちイイところを探してしまっていたのだ。
(だって・・・だって、海斗にアソコ触ってもらうの、何だかすっごく、気持ちがいいんだもん・・・ッ!)
だから。
「もっと、もっとしてぇ・・・ッ!」
女の子が『彼氏』にそうおねだりするのはきっと変なことじゃないんだ、よね?

12
海斗の顔が俺のあそこに近づき、そして。
「んっ・・・!」
舌が中に、入って・・・くる! なんて、きも、ち・・・いい・・・よすぎる。
脚ががくがくしちゃって、俺は思わず海斗の頭を押さえて、それでやっと立ってられた。
中だけじゃなくて、アソコの内側をつぅっとなぞるように舐められたり、クリトリス?の周りを焦らすように舐め回されり、舌全体で膨らんだ股間を舐められたり、リズムを変えてつつかれたり・・・。
(ヤバい・・・気持ちいいよぉ)
自分でも、濡れてるのがわかってしまった。
「や、いやぁっ、は、恥ずかしいっ!」
「可愛いよ、真咲♡」
俺の知る海斗からは聞いたことのない甘い声に胸がキュンキュンと疼く。真咲にとっては毎日聞く言葉なのだろうが、正樹である俺にとって、これは・・・。
「ふぁぁっ!」
ゾクゾクっときた。これでついに俺の腰が砕けてしまった。耳元で囁かれただけでこんなになっちゃうなんて、変じゃないだろうか。ぺたっと床にへたり込むと、目の前には真剣な表情の海斗の顔。普段俺を見るニヤけた馬鹿面とは違う。愛おしい・・・守るべきものを見る優しい目をしていた。それに見惚れていると顔がほんの僅か離れ、傾いて、そして唇が近づいてくる。
・・・あ、だめ。 次にされることは、分かっていた。
「んっ・・・」
柔らかい唇同士が触れ合い、舌を絡めてくる。おずおずと差し出した俺の舌を、海斗が舐め、吸い上げる。気持ちいい・・・。俺は手を海斗の分厚い肩の後にまわして、身体をくっつける。柔らかい胸と硬い胸がくっついて、俺の胸が押し潰れる。
(温かい・・・柔らかい・・・)
気づけば俺は夢中になって海斗の舌を吸っていた。たっぷりと時間をかけてキスをして、俺は夢の中にいるようなフワフワとした気持ちだった。
「このままだと冷えるから」
と湯船に二人で浸かる。促されるまま海斗に背を向け、湯船の縁を掴んで四つん這いに近い体勢になる。
クパァ・・・
太く逞しい指で女陰が押し広げられる。恥ずかしい。やがて俺は本番の気配を感じ始めた。海斗は男性自身を俺の股の孔へ当てがう。それは愛しい恋人との時間を紡ぐため、固く太く屹立していて。男の頃の俺には向けられることのなかった情欲が、剥き出しのまま女の俺にぶつけられる。
「あ、ああっ・・・いやぁ・・・」
「悦んでるくせに・・・」
「い、言わない、でぇ・・・」
ゆっくりと、ゆっくりと海斗の逸物が俺の女陰を押し広げ、侵入を始める。
ニュルン!
驚くほど滑らかに俺の孔はそれを受け入れて包み込む。この身体は何度もそうやって海斗を迎え入れているのだと感じざるを得なかった。アソコに広がるくすぐったい感覚が、徐々に痺れるような、そして蕩けるような気持ち良さへと変わってゆく。 全身を貫かれ、他の誰かのモノにされてしまっているような、初めての、不思議な感覚。
脚を広げて、海斗のチ◯ポが挿る角度を変える。くんっ!と一息に奥まで入り込んだ海斗のアレが、俺にとっての気持ちいいスポットを捉えた。
「あぁぁぁぁぁ〜〜〜ん♡」
身体をのぞけって、俺は情けない声をあげてしまう。快楽に打ち震える女そのものの。
「まだ挿れただけなのに、今日は随分と感じてるじゃんか」
愉快そうに笑う海斗に、俺は心からの本当を告げる。
「きょ、今日はいつもより・・・気持ちイイ、のかも・・・?」

ひょうモザイク2


13
パン!パン!パン!パン!
狭い部屋付きの露天風呂に、肉と肉がぶつかる音が響く。それに合わせて、
「あっ♡ あっ♡ あっ♡ あっ♡ あんっ♡」
だらし無く肉欲を貪る女の声が追いかけてくる。一突きされる度にたわわに実った大きな乳房を震わせて、俺たちは恋人同士の時間を過ごす。
「真咲がッ!可愛いこと言うからッ!もう加減なんてしてやらねぇッ!」
「きゃあ♡ あぁん♡ 気持ちイイ♡ 激しいッ♡ もっと、もっとしてカイちゃん♡♡」
本来の真咲が海斗のことをカイちゃんなんて呼んでたかどうかなど知らない。俺・・・あたしは今自身の意志でこいつのことをいつの間にかそう読んでいた。
ニュルニュルと何の抵抗もなく海斗のペニスの出し挿れを許すあたしの女陰は、やはり幾度となく海斗と愛し合った証なんだ。真咲としての記憶では、カイちゃんが初カレなんだから。
(だから・・・あたしのオ◯ンコはカイちゃん専用なんだ♡)
その合間にも指が、舌が、唇が、俺の柔肌を這い回る。撫で回す。舐め回す。
「あはぁぁぁっ・・・」
「真咲、すごく可愛いよ!」
ゾクゾクゾク・・・ッ!
今はどこを触られても、何を言われてもたまらなく、嬉しくて気持ちイイ。全身を温かな幸福が包んでいって。
一層あたしの尻を突くペースが上がっていく。カイちゃんもそろそろ限界が近いのか、息を荒げていっている。
(・・・あぁ、嬉しい。あたしで気持ち良くなってくれてるんだ♡)
堪らなく愛おしくて。おへその下がキュンと疼いた。
「あぁ、ヤバっ! も、もう出そ・・・ッ」
「いいよきてぇ!もっと気持ちヨクしてぇ!?」
勢いつけての深い一挿し。と同時に、腹の中に熱い液が注がれ、あたしは視界がチカチカと瞬くのを感じていた。自分が、女としてイッたのだ。そう理解する間も無く、俺の意識は闇の底へと消えていった。

14
「ん・・・」
朧げながら意識が戻ってきた。どうやらあのまま気を失っていたようで、俺は浴衣を着せられて部屋の布団で寝かされていたようだった。ちらりと目線を壁掛けの時計にやると、もう夜明けも近いようだった。顔だけを起こして海斗の方を見ようと努力するが、身体を起こす力が出ない。だめだ。なんか胸が押し潰されて苦しいけど、顔さえ持ち上げられない。
(っていうか俺、なんであんなことを・・・俺は男で、海斗は親友だったはずなのに!?)
先程までの痴態が夢幻でないことはこの身体に残る熱が伝えてくれていた。つまりそれはさっき俺の言動は紛れもない事実ということで。
(穴があったら入りてぇ!)
寝ぼけ眼にそんなことを考えていると、隣で寝ていたであろう海斗が立ち上がってこっちにやってくる気配がした。
(ああ、ちゃんとこいつも布団に入れていたのか)
俺が安心して、そのまま眠りの世界に沈みこもうとした、その時だった。
「真咲・・・」
えっ・・・えっ?
俺の上に、海斗が覆いかぶさってきた。
「海斗、なにしてるんだよ」
俺は上に乗っかってきた海斗を払いのけようとするが、どっかりとして動かない。さっきまでの疲労と、悲しいことに女の身になって力が弱くなってしまったこととが相まって、俺は身動きできないでいた。
「重いって・・・お、おぃ!」
返事が無い。睡魔が否応なく襲いかかって来るのに、上に乗る海斗がそれを許さない。
「・・・っんんっ、やぁっ!」
俺は声を上げ、目を見開いた。海斗が指で俺の身体をつぅっとなぞっている。
「ひゃあっ! な、なにっ! どうして、こらっ!ひゃんっ!」
ビリビリとした痺れが身体を走り、その度に跳ねてしまう。暴れて抜け出そうとするけれど、どうしても身体が言うことを聞いてくれない。海斗は止めどなく俺の身体のあちこちに触れていく。
「海斗ぉ、やめっ、んやあっ! やめろ、やめろって!」
「真咲、やっぱエロいよな。浴衣の上からでもこんなに感じてるなんて・・・」
「ま、真咲だなんて・・・あっ、呼ぶ・・・なぁ、んんっ!」
同じ発音。だけど、男と女とで微妙な言い回しの違いが今の俺にははっきりと感じ取れた。心臓が激しいリズムで早鐘を打つ。頭に血が昇って、顔も真っ赤になって火照っているのだってわかる。
(女の、真咲って呼ばれてると・・・自分が俺なのかあたしなのか分からなくなっちゃうよぉ)
ただでさえ今の俺の中には、男として生きてきた記憶だけじゃなく、女の『真咲』の記憶もあるのだ。
「真咲は真咲じゃん?」
海斗はそんな俺の心情を知ってか知らずか、そのまま背中を指でなぞり続ける。
「だ、ダメだって! こ、こら、やめろって!」
じわじわと身体が熱を帯びてくるのが分かった。いや、正直に言うと、股間がまたじっとりと湿り気を帯び始めているのが分かってしまった。
だんだん頭がぼんやりと霞みがかっていく。次第に海斗の太い指で触れられるのに悦びを感じ始めてきた。先ほどの情事のように。
「はぁ、はあっ、はっ、あっ」
息が荒くなってくる。
「ダ、ダメぇ」
「いーじゃん。彼氏彼女なんだしさー。それに、そう言ってる割には抵抗しないじゃんか」
「だって、力が入らないんだもん・・・」
その言葉は事実でもあり、半分は嘘だった。
(気持ちイイよぉ・・・もっと触って欲しい・・・!)
それが本音だった。これがこの身体の、真咲の望みだった。

15
海斗は抵抗できない俺を仰向けに寝かせ、浴衣(気がつけば女性ものを着させられていたようだった)を前からはだけさせる。形の良い豊満なバストは、覚えのない花柄のレースが施された黒いブラジャーに包まれていた。
海斗は手を大きく広げ、ブラジャー越しに俺の乳を揉み始める。
「いくつだっけ?」
「な、何がだよぉ?」
すると海斗はちょうど乳首の上の生地を指でくるくるとなぞった。
「ひゃぁっんっ!」
思わず身体がのけぞってしまう。ブラの下で乳首がキュッと固くなるのが自分でも分かった。
「おっぱい。何カップだっけ?」
こいつは本当に!!
そんなもの、昨日今日女になった俺が分かるはず・・・。
「・・・じ、Gカップ・・・70の・・・」
(なん、で?)
意に反して口をついて出た言葉に驚愕する。だが、確かに自分のバストと頭の中で検索するとG70というカップがパッと出てきてしまうのだった。真咲としての記憶が、俺にとって当たり前のものになってきているのか!?
「やっぱデッカいなぁ・・・揉み応えあるわ」
「や、やだ・・・い、言わない、でぇ」
中×生くらいまでは周りの女の子と変わらなかったのに。高校生になってから一気に膨らみ始めた記憶が蘇る。女子校の友人にはイジられたし、電車で会う男性たちにいやらしい目で見られたことも。それがトラウマで大学に入ったころはやや男性不信だったのに。今や『あたし』は海斗にそれを弄ばれて羞恥に頬を染める女なんだ。
(カイちゃん、あたしのトップが94だよって言ったらどんな顔するかなぁ)
海斗に触れられる度、心の中でどんどん『あたし』が、真咲の存在が大きくなっていく。あたしは本当は男の正樹なのに、違和感がどんどんなくなっていく。怖い。だけどそれ以上に自分の体が熱くなって・・・。
カイちゃんがあたしの乳首をブラ越しに指でキュッとつまむ。既にビンビンに勃ち上がった乳首は、それだけであたしの全身に快楽を与えてくる。
「んはぁんっ♡」
あたしは顔を横に背ける。すると海斗は慣れた手つきでブラのホックを外し、一気にまくりあげようとする。
「きゃあっ♡」
彼氏に脱がされて悦ぶ女、まさにそう表現する他ない甘えた声。
「嬉しそうじゃん?」
「だって、あたし、あたし、んっ・・・」
カイちゃんが唇を重ねてきた。 舌と、唾が入り込んでくる。身体を重ね、彼の背中に手を回してぎゅっと抱きしめる。
(どうしてだろう。なんか、安心する・・・)
彼の身体がとても大きく感じられる。 女になって一回りは背も縮んだからだろうか。彼の大きな腕に包まれているだけで安心感を覚えてしまう。
(でも、あたしは、俺は、いいの、かな?)
チクリと胸が痛む。本来は男のはずで、彼とは親友だったはずなのに。本当は、彼とこんなことをできるはずはないのに。
そんなドロっとする心と、彼を愛しく思う心があたしの中で蠢いている。
だけど、そんなあたしの心の内なんて置いてけぼりで情事は進んでいく。カイちゃんの舌を恐る恐るに咥内に迎え入れる。途端に全身が弛緩していく。
「ん、ふぁっ・・・」
ダメだ、これは。幸福感が身体を支配し、そのままフワリと浮いてしまうようだった。頭の中はそんな風に浮ついてしまっているのに下半身が熱っぽくなって疼き出す。
(あぁ、これはもう、濡れて・・・)
抑えきれない愛液が染み出しているのがよく分かってしまった。それを自覚するとまた更に彼と身体を重ねたくなってしまう。あたしは、カイちゃんに飢えていた。
(もっと、もっとカイちゃんが欲しい・・・)
長い口付けの中あたしの頭はそのことでいっばいいっぱいだった。

16
カイちゃんの手が、あたしの下半身に伸びてゆく。
「や、やだぁ・・・お願い・・・」
自分でもよく分かった。声が、甘い。甘えた声になってる。 カイちゃんは何も言わずに指でショーツ越しにあたしの股間をそっと撫で上げた。
「あんっ♡」
「気持ちよさそうじゃん?」
「う、うん・・・やばいかも、これ♡」
力は全然入ってくれないし、それなのにこの柔肌はどこを触られても敏感に反応してしまっている。
「んぁぁ、やんっ、あっ、あぁっ!」
嬌声は止まらない。そのうちに慣れた手つきでショーツが剥がれ、いよいよあたしは生まれたままの姿にされてしまった。さっきのお風呂と違い、一旦着ているところから裸になったので全然違う胸の高鳴りがあった。
「すごっ真咲、ビッショビショじゃん」
「は、恥ずかしい・・・」
返す言葉も無い。穿いた覚えのないセクシーな黒いショーツとあたしの股座の間には透明な粘液がへばり付いて糸を引いているのが嫌ってほどよく分かる。
カイちゃんはそのままショーツを放り投げ、あたしの股間に顔を近づけて、スンスンと鼻を鳴らした。
「良い匂い♪」
その言葉にあたしの顔がカッと熱くなる。続け様に、
「相変わらず結構濃いよね、アソコ」
「やだぁ・・・やめて・・・」
カイちゃんからの意地悪にあたしは顔を両手で覆い隠すしかなかった。
(なんでお手入れしてこなかったんだろう)
なんて風に考えてしまうこと自体もうあたしがすっかり女の子になっちゃってるということなんだろう。親友だった海斗に、いいように弄ばれている。
(悔しい・・・だけど)
女体の快楽を感じ、そしてあたしは海斗の見たことのない表情・・・愛しい人を見つめる優しい笑顔に触れることができている。それも、その対象はあたし自身なんだ。これはあたしが俺だった時の望みの結果・・・なのだろうか。

17
「これだけ濡れてるから、もう前戯はいいかな?」
こくりと頷くと、カイちゃんはニッと嬉しそうに微笑みを浮かべた。この段になって気づいたけど、いつの間にか太ももやシーツまでぐつしょりと濡れていた。それだけじゃなく、お尻を伝う液の感触まで。
(確かにこれだけ濡れてたら十分過ぎるくらいだよね)
カイちゃんも裸になり、互いに生まれたままの姿になってギュッと抱き合う。肌と肌が密着して心地よい。だけど、それは長くは続かなくて。気がつくと、あたしは両脚を広げられたまま寝かされていた。
なんとなくカイちゃんの裸と目線を直視することができず、目を背けてしまう。そんな耳元へ
「いくよ」
という優しい声色。心臓が激しく脈を打つ。ドキドキという胸の音が聞こえてしまってるんじゃないかってほどに。
(あぁ、言わないで欲しかったかもなぁ)
真咲の身体は何度も何度も海斗を受け入れているし、あたし自身もお風呂場で既に一度彼に抱かれている。だけどこうして宣言されてコトに及ぶとどうしたって身構えてしまうじゃん!
・・・そういうところ、ホントにカイちゃんだな。
「んっ・・・」
怒張したカイちゃんのあそこがあたしの中に押し入ってくる。力を入れることができず、あたしはなすがままにそれを受け入れる。
「んんっ、あっ、やっ♡」
グッと少し乱暴に奥の方まで押し込まれる。
「ふぅっ、んんっ」
ちょっとだけ頭を起こすと、凄まじい光景が目に映った。
(うわぁ・・・これは女の子しか見られない景色ね)
大きなおっぱいの向こう側。男の頃は決して見たことのなかった、勃起したカイちゃんのチ◯ポがあたしのアソコにゆっくりと入っていく結合部。さっきは後ろからだったからなぁなんて・・・なんとも呑気に思ってしまう。
って、ちょっと待った!
「ちょっと! ひ、避妊はぁ?!」
「え? 車ん中で今日は大丈夫って言ってなかった?」
思わず頭の中で計算する。えっと、今は確かに大丈夫な時期か。僅かな間でそこまで考えが回ってしまうなんて!
「っていうか普通にそういうのは挿れる前に言ってよぉ!」
「ごめんって!次から気をつけるから!」
「もう!」
プクーッと口を膨らませるあたし。しかし、間抜け面のカイちゃんを見てるとなんだか吹き出して笑ってしまう。つられて彼も笑った。風呂場の時と違い、あたしも凄くリラックスしている自覚がある。挿入されたアソコも、痛みや圧迫感なんかより、それ以上の満足感?のようなものがあった。
(あぁ、あたしは本当に親友のこいつとセックスしちゃうんだな)
昨日までだったらタチの悪い冗談にもならなかった関係になってしまって。
(こいつと、カイちゃんと恋人同士か)
きっと大変だろう。それはよくよく知っている。だけど、きっと楽しいはずだ。
何故だろう。彼の柔らかな笑みを見つめながら、その時のあたしはそれだけは確信していた。

ひょうモザイク3

18
カイちゃんが腰を動かし始めた。ゆっくりと、じっくりと。
「あぁん♡いやぁぁん♡」
それは次第に勢いを増して。
「真咲、かわいいよ」
「あんっ、あんっ、あっあっあっ♡」
胸がブルンブルンと震える。それだけで感じてしまう。彼のペニスが動く度に、あたしの孔が擦れて気持ち良くなっていく。彼の固い肌と自分の柔らかい肌が触れ合う。厚い胸板にたわわな乳房が押し潰される。
海斗と真咲
彼とあたし
男と女
あたしは逞しい男性に抱かれ、挿れられ、咽び泣く。あたしの肢体は異性のそれを受け入れて悦びに悶えている。

カイちゃんの動きが徐々に大胆さを増していく。
「あっあっあっやばっ♡ そこ気持ちイイ! もっともっと♡」
頭の中がチカチカと瞬いてあたしは愛しい人の名を呼ぶ。
「あっ、あっ、あっ♡ カイちゃん、カイちゃん! き、気持ちイイよぉ♡ キ、シュゥ、キシュしてぇ♡ ん、んんんっ、あぁっんっ♡」
熱く唇を重ね、あたしはカイちゃんの舌を舐め回す。ディープキスしたまま押し倒され、腰の動きは最高潮を迎えた。
「んんんっ!? んんっ、んっあっはぁっん♡」
声が裏返る。目の前に星が瞬いて、急速にあたしの視界が狭まっていく。気がつけばあたしは彼の背に手を回し、力の限り抱きしめながら叫んでいた。
「あぁ〜ん♡ あっ、やっ、カイちゃっ♡ 気持ちイッ! 出して・・・出して出して出してぇ♡ あたしの膣内に出してぇ〜♡」
「ッ! 真咲ッそろそろ・・・ッ」
ドクンッ!
あたしの中でカイちゃんのチ◯ポが一際大きく膨れたと同時に、あたしの中にドロリとした熱く液が注がれていく。
「あぁぁぁぁ〜〜〜〜んんん!!!」
あたしは手で、足で、全身の力でカイちゃんにすがりつく。そのままあたしの意識はホワイトアウトしていくのだった。
「大好きだよ、真咲」

19
中に出されてからも、あたしと海斗のセックスは終わらなかった。 あたし自身の踏ん切りがついてしまったからか、そこからは文字通り、転げるように女としての快楽に溺れていった。
そこから何時間もかけて、あたしたちは貪るように何度も何度もセックスを楽しんだ。言葉も無く、お互いが限界を迎えるまで、あたしたちは激しく求めあった。でも、止められない。止められるはずもなかった。
女の快感に飲み込まれ、海斗と身体を重ねるごとにあいつに感じていた親友としての感情は全て彼への恋愛感情に置き換わっていった。夜明けを迎える頃には男の正樹としての自分は押し流され、心のほぼ全部が女の真咲としてのそれに置き換えられてしまっていたと、はっきりと分かってしまった。だが、それは自分が望んでしたことだった。
大学で出会い、男同士の友情を深める内に海斗は正樹の中で大きな位置を占めていた。もっと彼を知りたいという気持ち。男のままだったら恐らくそれ以上の進展はなかっただろう。たぶんだけど、恋愛関係にはならなかったはずだ。だけど不思議な湯の効力で女になり、真咲として、彼女として扱われる中で初めて見た海斗の表情。それはあまりに魅力的で・・・端的に言って、あたしは彼を女の子として愛してしまったのだ。

長かった夜が明け、いつの間にか二人とも眠ってしまっていたみたいだった。目を開くとカイちゃんもちょうど目を覚ましたようで、少し照れくさそうに笑った後、
「おいで」
そうあたしを呼んだ。正直言って夜通しのエッチでフラフラだ。だけどあの目で、あの声で求められるなら。吸い寄せられるように身を寄せる。もう、身体が疼き始めている。

(あたしはもう、あたしとして生きるから)
あたしは心の中で、『正樹』に別れを告げた。淫らな愛液が割れ目から滴り落ちていた。

20
カイちゃんを布団に仰向けに寝かし、あたしはその上に跨った。彼のイチモツをあたしの鈴口にあてがい、そして
「いひぃんっ!」
カクンと腰を落とし、ズプッという音とともに一気に奥まで入ってしまう。視界の中に火花が散った。全身を駆け巡る快楽に身を任せ、膝ををバネにして上下運動を繰り返す。繰り返す度にごりっごりっとあたしの中が擦れる。
「あ、あひっ、ひっ♡」
「もっと良くしてあげるからな」
「あ、はぁっん♡ カイちゃん、ダメッ♡ 激しっ♡」
下から突き上げられ、胸がたっぷんたっぷんと大きく揺れる。それだけで乳首がジンジンと痺れて気持ち良い。
その時だった。
「朝食のお時間でございます・・・」
コンコンと戸を叩く音。そして扉が開いた。「あっ」という暇も無かった。扉の向こうには豪勢な和風の朝食を配膳に来た若女将。露骨に固まってしまっていた。だが、それも当然だろう。何しろ、大股を広げた女が下から男性に突かれ喘いでいたのだから。しかも最悪なことにあたしが邪魔になって海斗は若女将に気づいていない!
「あっ!」
一気に冷静になる自分がいた。
(めちゃめちゃ恥かしい、じゃん!)
だって今、あの人にあたしの女の全てを見られている。その羞恥からか、知らず知らずのうちにあたしは膣をキュッと締めてしまっていたみたいで・・・
「うぉぉ!しっ、締め付けヤベェ! 真咲ィ、気持ち良すぎるっ!」
こいつ、まだ事態を把握していない!
「ストップストップストップ!もうダメだってぇ!」
「今更何恥ずかしがってんだよ!一晩中愛しあった仲じゃねぇかよ!」
「違う、そうじゃなあぃやぁぁぁんっ♡」
変な方向に興奮してしまったのか、海斗の鼻息が荒くなる。そんなあたしたちの様子をまるで目を逸らすことなく見つめる若女将。あぁ、なんとかフォローしたい!
だけどあたしはそれどころじゃ・・・。絶頂を間近に控えた海斗からの激しい突き上げに、堪えようと思っていても声が出てしまう。
「やぁん♡ いいっ♡ カイちゃんのぉおっきい♡ 奥まで入れてぇ♡ はぁっ♡ やっ、やっ、やっやぁぁぁん♡」
エッチな部分を全部見られている。そう思うだけでさらにあたしの身体は興奮を増していく。
キュュン♡
「出っ、出るぅぅぅ!!!」
勢いよく突き上げられて、あたしは今までで一番大きな声で叫んだ。
「あぁあああああああぁぁぁっ♡ いっ、イックゥゥゥゥゥゥゥ♡♡♡」
頭の中が真っ白になってゆく。薄れゆく意識の中、笑顔を貼り付けた若女将が後退り、ゆっくりと戸を閉めたのが見えた、気がした。

21
「あの、ほんとすみませんでした」
「? ナンノコトデショウネ??」
チェックアウトの際、若女将に謝罪したのだが。都合よく、なかったこととして処理してくれるらしい。迷惑料や追加料金もなし。あぁ、助かった・・・。
あたしは真咲のものだろう花柄のワンピースに身を包み、この不思議な宿を後にした。帰り際、若女将から
「あなたの望みは叶いましたか?」
と聞かれたように思えた。驚いて振り返ったがそこには誰もおらず、終ぞその真意を確かめることはできなかった。

こうしてあたしは海斗のボロ車に乗って日常へ戻った。やはりというべきか、両親や友人一同、あたしは生まれた時から女だったというコトになっていたみたいだった。しかも、あたしの元の下宿は綺麗さっぱり無くなっており、代わりに海斗と同棲する少し広めのアパートに住んでいた。環境のギャップで色々とやらかしもあったけれど、真咲としての知識を活かしていくうちにものの一週間ほどで違和感なく過ごせるようになっていった。

そんな日が続いたある昼下がり。あたしたちは部屋で二人、午後のコーヒーを味わっていた。
実はつい三十分ほど前まで、あたしは犬みたいにバックから突かれていた。時間に空きがあれば身体を求め合うのは爛れた関係なのだろうか。でも、あたしたちは互いのことを深く理解し合えていると思っている。
たぶん、 元から男と女だったら、こんな関係にはならなかったと思う。あたしが男としても、女としても彼と接してきたというのが大きいのかなって。本来はそれぞれの立場しか見ることのできない側面を両方知っている。・・・頼んでもないのに急に女の子にされちゃったんだ。そのくらいの役得はいいよね?

「いやー次はどこに行こうか! きっと楽しいぞ〜!」
なんてはしゃぐ海斗に、
「好きだよ」
はっきり言ってやる。口をパクパクさせちゃって。いつも突拍子ないコトしてくるお返しだ。そこからすました顔でこいつの馬鹿げた計画の話を聞いてやるのだ。いつものように。
あたしと海斗の新しい思い出はこれからも増え続けていくのだ。これまでよりも、ずっと近い場所で。

『萌着!超絶激萌戦士ストラングル☆メイディ!』 by.箱詰め羊

★大分前にはこさんに掲載許可をもらっていたものを今頃実行ですw

『萌着!超絶激萌戦士ストラングル☆メイディ!』
「メイディ、爆誕す!・前編」

20XX年、世界は人類史上、最悪の危機に直面していた。
地球人類の支配を画策する謎の秘密結社が、その野望を達成せんがために活動を開始したのだ。
一体どうなる地球人類!?
この危機を救うヒーローはいないのか!?

私立明度高校、2年3組の朝はその日もいつも通りに始まった。
「みんな、おはよう!はい、出席をとるから席につきなさい」
担任教師がくるまで騒然としていた生徒たちが、その一言でそそくさと自分の席につき、おとなしく自分の名前が呼ばれるのを待つ。
「えと、朝倉君。…朝倉佑紀くん?」
2年3組学籍簿の筆頭、朝倉佑紀。
いつもなら、元気に返事をするはずの彼がいない事にきずき、担任教師である榊玲子は怪訝な表情をうかべた。
「今日、学校で朝倉君を見かけた人はいない?」
生徒全員が首を横にふる。
「あら、まだ寮で寝てるのかしらね?」
榊は学籍簿に「遅刻」と書き込もうとした。
ガララッ…
そのとき、突然いきおいよく開け放たれた教室のドアに、クラス全員の視線が集中し、そして釘付けになる。
そこに立っていたのは、濃紺のエプロンドレスと真っ白なブラウスとのコンストラクトが目に映える、一人の美少女だった。
クラス中の視線が自分に集中しているのを確認したメイド少女は、優雅な仕草で丈のあるプリーツスカートの膝上辺りをつまむと、華麗に、そして清楚 な雰囲気大爆発なお約束ポーズで会釈し、とどめに、少し小首を傾けて、ほのかに笑みを浮かべてみせる。
「……」
「…メイドさんだ!」
「…はにゃん!カワイイん!」
「…おおーっ!生メイドーッ!」
一瞬の静寂の後、教室全体に「激萌え」な歓声が湧き起こった。
教師である榊も含め、2年3組の教室内の人間は何かにとりつかれたかのごとき形相で、この、「メイドが教室を訪れる」という非現実的状況に対し て、異常なほどに熱狂している。
そのうちに、他のクラスでも同様の絶叫があがりはじめた。
騒ぎをききつけ、何事かと様子をみにきた教頭や校長も、何かを言いかける前に例の「ご挨拶」を受け、次の瞬間にはメイドを崇め奉る集団の一部と化 してしまう。
そうこうしているうちに、校内にいたほとんどの人間は、突如として現れた13人のメイドたちに完全に魅了されてしまっていた。

「ふふふ…実験は大成功のようだ…」
薄暗い部屋の中で、校内がメイドたちによって制圧されていく様をモニター越しに見物していた少年は、計算どうりとはいえ、そのあまりに絶大な成果 に一人ほくそえんだ。
「これなら、あのお方も僕の案に賛成せざるを得なくなりますね…」
にんまりと笑みをうかべつつ、デスクの上に投げ出した脚を少年が組み変えたとき、部屋のドアがひかえめにノックされた。
「誰だ?」
「ユウキに御座います。ご主人様、入ってもよろしいでしょうか?」
涼やかな声が、少年の声に答える。
「ああ、入れ」
慇懃無礼な答えに応じて、一人の少女が暗い部屋へと入ってきた。
2年3組に現れたメイド少女である。
「ご主人様、明度高校内の全生徒及び教職員を完全に支配下におきました事をご報告しに参りました」
深々と頭を下げ、両手をスカートの前で合わせたまま、主の次の言葉を待つユウキ。
そんなユウキの姿を眺めながら、主と呼ばれる少年は先ほどまでのものとは異質な、下卑た笑みを唇に浮かべた。
「ユウキぃ…いい格好だな。どうだ?女にされた上にメイドの格好をさせられ、しかも俺に絶対服従してしまう気分は?」
「ぐ…」
屈辱的な言葉に、なお頭をたれたままの少女の肩が一瞬震え、そろえた両手が強く拳を握り締める。
しかし、その動揺もせつなのことで、すぐに元のとうりの「主の言葉を賜る従順な使役人」としての態度を取り戻した。
「…主に仕えるは私の至上の喜びに御座います。この姿、この声、この服…ご主人さまより賜りしものに感謝こそすれ、不満などあろうはずが御座いませ ん…」
薄桃色の形良い唇から、完璧なまでに淀みない「忠誠の言葉」が紡ぎ出される。
しかし、その言葉には彼女の表情同様、一片の感情も込められてはいない。
「くくくく…はーっはははは…!」
そんな少女の様子に、少年は椅子から転げ落ちんほどの勢いで爆発的に高笑いし始めた。
椅子の上でのけぞり、腹を抱え、デスクも壊れよとばかりにばしばしと叩く。
「ひーひひひ…」
5分程笑い続けていただろうか?
少年の高笑いがぴたりととまった。
そして、先ほどからずっと同じ姿勢で待機したままのユウキを見やる。
「おい…なんで笑わん?」
主の言葉に、無表情な少女の顔があがり、同じく感情のこもらない声が答えた。
「笑え、とお命じになられませんでしたので…」
「ちっ…」
少年の舌打ちに、少女は言葉を続けた。
「笑ったほうがよろしいなら、今から笑いますが?」
少女の問いに、少年は不愉快さをあらわにしつつ、シッシッと犬でも追い払うかのような動作をする。
「では、失礼させて頂きます。御用の節はお呼びつけ下さいませ…」
あくまで優雅な動作で退室する少女。
その人間味に欠けた動作を見ながら、少年はデスクの引きだしから作りかけの電子部品のようなものを取り出すと、それを組み立てる作業に没頭しはじ めた。

その頃、突然現れたメイドたちになんらかの力で魅了されてしまった校内の人々は、全員が講堂に集められていた。
そこにいる全員が、まるで何かに取りつかれたかのように、壇上に整列した12人のメイドに見入っている。
咳払い一つ聞こえない静けさの中に、異常なまでの熱気をはらんだ空間。
例えるなら、超人気アーティストの登場を待つ、ライブハウスの観客といった所か。
そこに、いま一人のメイド少女が小走りに姿を現したことで、講堂内のボルテージは不気味な沈黙のままMAXに達した。
「あ、あ、テステス…」
仲間から受け取ったマイクの電源を入れてマイクテストを行なうユウキ。
その計算されつくしたかのような、完璧なまでの可愛らしさに、講堂内の全員がグビリと喉を鳴らしつつ生唾を飲み込んだ。
そんな異様な状況に気押される様子も見せず、壇上の中央へと進んだユウキはマイクを可愛らしく両手で持ち、第一声を群衆に発した。
「みんなぁ☆メイドさんのこと、好きぃ?」
『好きぃーっ!!!』
声をそろえて答える群衆たち。
その様子に、壇上のメイドたちがそろってニヤリと笑うが、誰も気にとめた様子はない。
「それじゃあ、あたしたちのお願い、聞いてくれるぅ?」
『聞くぅーっ!!!!』
いつの間にか壇上に姿を現した少年に気づき、一斉に膝まづくメイドたち。
ユウキも片膝をつきながら、さらに言葉を続けた。
「みんなにも、わたしたちのご主人様に忠誠を誓って欲しいのぉ☆」
『誓っちゃうーっ!!!!!』
そろってとんでも無いことを叫びながら、講堂内の全員が、メイドたちと同様に少年に対して膝まづく。
そんな様子を満足気に見下ろしながら、少年はユウキからマイクを受取る。
壇上の中央に進んだ少年は、しばらくマイクを片手に講堂を覆い尽くす平伏した人の波を見回し、至福の瞬間を味わっていたが、ふと我に返るとマイク を持ち直し、いまや自分の完全なる下僕と成り果てた群衆に対して演説を開始した。

「素晴らしいお言葉でした」
「わたくし、感動のあまり失禁してしまいましたわ」
「ああ…これから佑二さまによる、佑二さまのためだけの、素晴らしき世界がつくられていきますのね…」
講堂での一仕事を終えた少年は、13人のメイドたちの賛辞と賞賛に囲まれながら、これまで活動の拠点としてきた、学校校舎の裏に位置する男子寮の 自室でくつろいでいた。
「ふふふ…これで僕の世界支配の為の尖兵が、13人から一気に400人に増えた訳だ」
講堂でひとしきり好き放題な事を言ったあと、少年はメイドたちに命じて、そこにいた全ての人間に小型のカプセルを飲み込ませ、解散を命じた。
このカプセルには、少年がひそかに開発したマイクロマシンが詰められており、これに体を侵されたものは、少年に完全なる忠誠を誓う奴隷と化してし まうのである。
もちろん、今、彼の周りできゃいきゃいとはしゃいでいるメイドたちも、そのマイクロマシンの支配下にあった。
つまり、本来の彼女たちの意志は、その大脳に巣くった微少な機械によって大きくゆがめられているのである。
いや、彼女たちにいたっては、精神だけでなく、その性別や容姿に至るまで、存在の全てを少年の手によって改造されてしまっていた。
明度高校男子寮。
そこで暮らしていた13人の男子生徒に、遺伝子改造と整形手術、そしてマイクロマシンによる洗脳をほどこし、己の忠実な下僕とする。
狂った少年の陰湿な計画の第一段階の犠牲者。
それがメイド軍団の正体だったのである。
しかし、13人のメイドたちの中で、ただ一人、マシンによる支配ではなく、別の方法で操られている者がいた。
「朝倉佑紀」いまは「ユウキ」と呼ばれる少女である。

半月前…
「おい、佑二、なにやってるんだ?」
突然、背後から声をかけられ、朝倉佑二は手にしていた微少なマイクロマシンの詰まったカプセルをとりおとしそうになった。
「なんだ?それ?」
佑紀が覗きこんでくる。
「な、なんでもないよ兄さん。今度の文化祭に出す作品さ…」
何気ない様子を装いながら、つとめて冷静にふるまう佑二。
「ふーん、お前は俺と違って頭いいからなぁ。ま、俺にはよく解らんが、なんかすごいモンなんだろうな」
(ふん、自分の馬鹿さ加減がよくわかってるじゃないか…)
声には出さずにつぶやく佑二。
「それじゃあ、俺は明日も朝練があるから寝るぞ。お前も夜更しするなよ」
「うん、おやすみ、兄さん」
ガチャリ
ドアが閉められ、佑紀の足音が遠ざかるのをまってから、佑二はもう一度カプセルを手にした。
こんこん…
控え目なノックに、佑二の顔が邪悪な笑みをうかべる。
先ほどまでの佑紀に対するいい子ちゃんな表情からはまったく想像できない、ネジ曲がった心がそのまま現れたような顔だ。
「入れ」
兄に対するものとはまるで正反対な、自信にみなぎった声で命じる佑二。
その声に応じて、人目をはばかるように周囲を見回して素早く部屋に入ってきたのは、佑紀と同じクラスで、佑紀と同じく柔道部に所属している2年生 の高村樹だった。
「佑二さま、準備が整いました」
一学年後輩で、しかも悪友である佑紀の弟である佑二に対し、敬語で喋る高村。
その様子に佑二は満足気にうなづくと、高村を従えて他の下僕たちの待つ1Fのレクリエーションルームへと向かった。
そこには、揃いのエプロンドレスを着た11人のメイドが彼を待ちわびていた。
『お待ち申し上げておりました。佑二様』
11人の美少女が、見事なハモリで毎夜の夜とぎの前には恒例となっている台詞を口にする。
それに軽く手を挙げて応えながら、佑二は部屋の中央にしつらえられたソファに、どっかりと腰を下ろした。
そのまわりに、メイド少女たちが思い思いの姿勢ではべっていく。
「おい、樹!お前もとっととダミースキンを脱げ!」
高村の方を見やりもせず、鷹揚に言い放つ佑二。
「はい!」
その声に、高村は喜々としてうなづくと右手首のリストバンドのスイッチをひねった。
きゅうう…
かん高い音が響きわたったかと思うと、日々の部活で鍛えあげられた高村少年のゴツイ肉体に何百本もの切れ目が生じ、次の瞬間、背中部分で分割され て何千もの肉色の短冊と化した彼の皮膚は、音もなくリストバンドの中へと巻きとられていく。
「あ、あはあぁ…」
解放されていく肉体の感覚に、今まで少年の姿をしていた者は歓喜の吐息をあげ、そのプロセスが終了した時、そこには、長い黒髪をもったスレンダー な体型の少女が、高村少年が着ていたトレーナーを着て立っていた。
「イツキ、早く着替えろ!」
「はぁい、佑二さまぁ」
ぶかぶかになったトレーナーの袖口からちょこんと指先だけをのぞかせた格好で返事をすると、「イツキ」へと変貌した高村少年は、いそいそと自分た ちのメイド服が収納されている物置へと走り去った。
残ったメイド少女たちは、そんな二人のやりとりを羨ましげに見つめている。
「どうしたお前ら。さっさと始めろ!」
『はいっ!』
またもやハモリで応えると、少女たちは思い思いに佑二の全身に群がり、愛撫を施し始めた。
大股を広げた佑二の股間に顔を埋めて奉仕するショートカットの娘。
その下で佑二の袋に舌を這わせる眼鏡っ娘。
体の左側から、へそに形良い鼻をつっこんでいるのは、ポニーテールがよく似合う小柄な少女だ。
右足の指をむさぼるように舐め立てているのは、勝気そうなつり目を潤ませた娘と、彼女とは逆に大人しそうな顔を真っ赤にした垂れ目ぎみの娘。
左足では、自分の股間を佑二の足に擦り付けながらあえぐ、他の少女たちより少し大人っぽい雰囲気の娘が奉仕している。
左右の乳首と唇にも一人ずつ少女がとりつき、懸命の奉仕を行なっていた。
ソファの前の床では、あぶれてしまった二人の少女が、せめて視覚で主を楽しませようとレズプレイに興じはじめる。
「ん、いいぞ。お前ら最高だ…」
この上もなく贅沢な快楽に、佑二が思わず歓喜の言葉を漏らしたとき、突然、部屋の扉が開け放たれた。
『!!』
全員の視線がドアに集中する。
「あのぅ…」
そこに立っていたのは、エプロンドレスに着替えてきたイツキ…と、その後ろで驚愕に目を見開いたまま固まっている佑紀だった。
「見つかっちゃいました☆」
舌を出して自分の頭をこつんと叩くイツキ。
「な、な、な、な…」
その後ろで、佑二を指さした佑紀が、パニクリまくった表情で馬鹿みたいにどもりまくっている。
その様子に落ち着きを取り戻した佑二は、静かな声で命じた。
「お前ら、兄貴をふんじばっちまえ…」

[後編へつづく]

おかし製作所には20140107掲載

【投稿小説】とある温泉宿で起きたこと 前編 

作 ととやす
挿絵 海渡ひょう  https://skima.jp/profile?id=92480

1
「ふぅ〜やっと着いたな正樹!」
「いや・・・覚悟はしてたが遠すぎるだろ・・・」
呑気に笑う海斗に愚痴をこぼしながら、俺はここまで二人を運んでくれたオンボロの中古車から身を下ろす。貧乏学生の俺たちにとってはエンジンがなかなかかからないこんな車だって大切な相棒だ。
「ここまで俺たちを連れてきてくれてありがとう〜愛しのベーたん号よ〜」
「こないだまでべーくん号じゃなかったか?」
「そだっけ? 正樹が言うなら・・・そうなのかも?」
バイト代を貯め込んで買ったはずの自分の愛車のニックネームすら満足に覚えてない・・・いつも通りの海斗の雑さに思わず吹き出してしまう。
「しかし本当に遠かった・・・まさかお前の家から半日かかるとは・・・尻と腰が・・・」
「正樹は乗ってるだけだったじゃねぇかよ〜」
「はぁ!? 道順とかガソスタの位置とか、ちゃんとナビゲートしてやっただろうが!?」
何時間も車に乗っていたとは思えない程に騒々しく喋りながら、俺たちは後部座席に投げ込んであったカバンを取り出して旅館へと歩き出した。そこまできて、ふと俺は今日何のためにここまで来ることになったのかを思い返していた。友人になってからこっち、きっかけはいつもそう。海斗の急な思いつきだったのだ。

2
海斗>明日暇か?

海斗からメッセージが届いたのは昨夜のことだった。その時の俺はバイト明けで疲れ切った身体をなんとかやりくりしながら下宿までの帰路に着こうとしていたところ。ぶっちゃけ面倒で一瞬の逡巡があったことはこの際否定すまい。だが、こいつが急に思いついてメッセージを送ってくるということは・・・

正樹>行ける

直ぐに既読が付き、返事がやって来る。

海斗>やったぜ!まぁ無理って言っても勝手に車で乗り付けるつもりだったけどなw

やっぱりかよ。大学の入学式で知り合ってから早二年。こいつは一度やると決めたらテコでも変えない。海斗の中で「明日俺と何かする」ということは、思いついた時点で既に実行が確定事項なのだ。これで断ったりすると面倒なことになるから、俺もある時を境にこいつの言い出すことには敢えて流されるようにしている。ガキっぽいなとも思うけど、何かと出不精で篭りがちな俺を無理矢理引っ張り出してくれるという点で感謝する部分もある、というのが正直なところ。・・・無論面と向かって伝えたことなんてないが。

正樹>何するんだ?
海斗>車買ったからドライブの練習付き合って!!!
正樹>いいけど、目的地どうする?

既読は付けど、返事は来ない。海斗のやつ、何も考えてなかったな。顔も体格も良いくせに、こういう大雑把で能天気なところがあいつのモテない理由なんだろうな。

正樹>例えばだが温泉でも行くか?

深い理由なんてなかった。ただなんとなし、男同士ゆっくりと湯に浸かって語らうのも一興かと思った。ただそれだけだった。が、それは想定以上に海斗の琴線に触れたようで。

海斗>めっちゃいい!!!名案すぎ!!!

派手なスタンプとともに返事がやってくる。続けて地図アプリの位置情報が。

海斗>ここ行こ!

リンクを開いてびっくり。どう軽く見積もっても日帰りなんて無理な距離。都市部からも離れていて、まさに秘湯といった面持ちだ。こんなところ、いきなり初心者ドライバーで行けるものか?
そう懸念を呈したものの、やはり海斗はここにすると決めてしまったらしい。あらゆる角度から説得を試みたが、
「二人とも講義のない金曜に出発して一泊して帰ればいい」
「日曜日に休めばいけるいける!」
「運転は気合いで何とかする!」
「レビューとか少ない秘湯の方が面白そうじゃん!」
などと言って聞く耳を持たない。今回も海斗とのやり取りのいつものパターンに入ってしまったようだった。結局俺が折れて

正樹>分かった。行くよ、行けばいいんだろ!
海斗>楽しみ〜

「あのバカめ・・・」
なんて呟きながらも、未知の秘湯に海斗と乗り込んでいく高揚感があった。明日は朝イチで出発だから、と頭の中で準備すべきことを整理しながら、俺は下宿までの帰路を急いだのだった。

3
こうしてたどり着いた(ここに至るまでの道のりにも相当な数のトラブルや事件に巻き込まれたのだが、それは割愛する)温泉宿『ていえ荘』は、まさに秘湯と呼ぶに相応しい佇まいだった。山に囲まれた人里離れたロケーションに、歴史を感じさせる木造りの建物。聞こえてくるのは鳥に風、虫や水の音だけだった。
「おい、これは・・・」
「あぁ、当たりだな」
旅の疲れも吹き飛ぶ素晴らしい雰囲気だった!
「いらっしゃいませ・・・遠いところをわざわざ起こしいただきまして・・・どうぞこちらに・・・」
俺たちを出迎えてくれたのは、和服姿の女性。まだ30歳前後だろうか。田舎の温泉宿には似つかわしくないと言っては失礼かもしれないが、およそこの辺りの人とも思えないほどの美女だった。
「こちらの部屋でございます・・・」
「「・・・」」
ともに彼女いない歴=年齢な俺たち(二人とも男子校出身だからしょうがない!)は、ドギマギしながら女性に案内された部屋に通された。そこは年代を感じさせる落ち着いた雰囲気の和室だった。
「いい部屋ですね・・・」
俺は窓の向こうに映る美しい山々の姿に思わず声を漏らしていた。
「今日は、お客様以外いらっしゃりませんので・・・このお部屋は、当館では一番景色の良い部屋でございます・・・また、部屋付きの露天風呂も備えておりますので、よろしければ・・・」
恭しい仕草で指差した先を見やれば、部屋の隅に小さな扉が。曰く、その先に小さな脱衣スペースがあり、さらにその奥に大人二人程度が入れる露天風呂があるとのことだった。
「共用の大浴場も露天のお風呂です。お湯の質がそれぞれ違いますので、お気分に合わせてお試しください・・・」
そう言うと、その女性は部屋の入り口できちんと姿勢を正して座りなおすと、
「申し遅れました・・・私、本日お客様のお世話をさせていただく、当館の若女将でございます」
そう言って彼女は俺たちに深々と頭を下げた。
「こちらこそ、お世話になります」
「お、お世話になります! マジかよ・・・若女将・・・アテッ!」
余計なことを口走りそうな海斗に一発食らわせてやりながら、俺も正座して頭を下ろす。
彼女はそんな俺たちを見てニコリと微笑み、静かにふすまを閉めて部屋を後にした。
「正樹〜やってくれたなテメェ〜」
「お前なぁ・・・若女将に色目なんて使ってみろ、ややこしくなっちまうじゃねぇかよ」
「別にそんなつもりじゃねーし! ったくよぉ・・・さてと、食事前にさっそく温泉に入ろうぜ!」
俺たちは浴衣と着替えを持って大浴場に向かったのだった。
4
「はあ~~~・・・気持ちいいよなぁ! 正樹!!」
俺は、露天風呂でまわりの景色を見ながら湯船に浸かっていた。ふと、海斗に視線を移すと・・・彼は、何やら神妙な顔で俺を見つめていた。
「ありがとよ、ここまで付き合ってくれて・・・」
「何だよ急に」
「俺の思いつきにぶー垂れながらも何だかんだで乗っかって来てくれるのは正樹くらいだ。これでも、一応感謝してんだぜ?」
「・・・明日は槍でも降ってくるのか?」
「あ〜!!せっかくマジメに話してるのにバカにしやがって!テメェ〜!」
お湯を顔にかけてくる海斗はいつも通りの馬鹿面だ。だけど、さっきの表情は・・・。
(まだまだ俺もこいつのこと全部知ってるって訳じゃないんだな。当たり前だけど)

「うわはははは!!すげぇ料理!!」
部屋に戻ると、俺たちの部屋には夕食の準備がされていた。
「当館の料理長が腕によりをかけておりますから・・・きっとお気に召して頂けるかと」
「やべ〜早くいただこうぜ、正樹!」
「がっつくなよ、みっともない・・・なんかすみません」
「うふふ、さあ、召し上がってください・・・」
彼女は慣れた手つきでビール瓶の栓を抜くと、手を添えて持ち上げる。
「さぁ、どうぞ・・・」
「あっ、ありがとうございます!」
若女将は俺たちのグラスにビールを並々と注いでいく。俺も海斗もドキドキしながら乾杯し、その中身をグッと一息に飲み干す。
「まぁ!」
気品ある仕草で口を抑えた若女将。すぐに二杯目を注いでくる。それを即座に空にする海斗。
「お、おい海斗・・・」
「なんだぁ〜正樹?」
はぁ。溜息をついて俺も勢いをつけグラスを空ける。このペースだと、早々に二人とも潰れるのは確定だな。疲れも溜まっているし、明日の出発は予定より遅くなるかも。
なんてことを考えつつ、次々と運ばれてくる美味珍味に舌鼓を打ち、俺も海斗もバクバクとよく食べ、よく飲んだ。
・・・思えば、俺も海斗も旅の雰囲気に当てられておかしくなっていたのかもしれない。間をおかずにビールから日本酒、焼酎へ移行して酒を飲み続ける。普段よく行く学生向けの居酒屋とは比べ物にならない旨い酒に呑まれ、俺たちはあっという間に酔っていったのだ。

5
「フ~ッ・・・美味しかったなあ海斗?」
俺は、ほろ酔い気分で海斗に声をかけた。海斗は横でグーグーといびきを立てて寝入っている。しばらくは起きないだろう。俺はクラクラとした頭を抑えながら、後片付けをしていた若女将に
「本当に美味しかったです・・・ごちそうさま!」
酒のせいもあっていつもより高めのテンションで言った。
「そうですか・・・それは良かったです・・・」
彼女は食器を片付けながらそんな俺に微笑んだ。俺は酔覚ましに窓を開け、すっかり暗くなった窓の外の景色を眺めていた。夜風に当たっていると多少頭の揺れもマシになってきた気もする。そんな時、ふと先ほどの若女将の言葉がよぎった。
「ところでさっき、共同の露天とこの部屋のお湯は性質が違うっておっしゃられてましたけど、どう違うんですか?」
と尋ねてみた。本当に単なる好奇心だった。
「そうですねえ・・・」
彼女は小首をかしげると、
「このお部屋の温泉は、『願掛けの湯』と言われているんですよ」
そうクスクスと笑いながら言った。
「願掛けの湯?」
「ええ・・・この温泉のお湯に浸かりながら願ったことは叶うと、この辺りでは言い伝えられていますね」
「へえ~・・・」
想像よりも胡散臭い・・・もとい、科学的根拠に乏しい話だ。もっと足腰とか、そういうのかと。
「入られるなら、落ち着いてからにされた方がいいかと思いますよ・・・随分と嗜まれておりましたし・・・私が飲ませ過ぎてしまいましたかね?」
「いえいえ、そのような!俺も海斗も、楽しい時間でした!」
「うふふ、仲がよろしいんですね?」
「そう、ですかね・・・?」
言葉を返しながらも、俺はさっきの風呂での海斗の表情を思い返していた。俺の知る海斗は、バカで鈍感で能天気で・・・底抜けに明るくて。だから、あんなことを言って、あんな表情をするなんて、知らなかった。そりぁ、あいつだって人間だ。落ち込んだり、考え込むこともあるのは分かってるんだけど・・・知っているつもりの友人の、知らない表情を見ただけで俺はどうしてこうも心乱される? なんて、酔っ払いすぎか?
「・・・俺はあいつのこと、知ってるつもりになってるだけだったのかもしれません」
答えはなかった。面を上げると、俺がずっと黙っていたからか、眠ったと思ったのだろう、既に若女将は部屋を後にしていた。相変わらず横では海斗が寝息を荒くしている。時計を見ると、結構な時間が経っていたらしい。
「人の気も知らないで、呑気しやがって」
そう独りごち、立ち上がる。時間のおかげか、酒はかなり抜けたようだった。
「気分転換に一風呂浴びるか」
なんとなしにモヤッとしていた俺はそのまま部屋の隅にある小さな戸の前まで歩き、その中へと入っていった。

6
脱衣スペースで服を脱ぐ。といっても、先程共用の温泉に入るのに浴衣へ着替えていたので脱ぐのは一瞬だった。あっという間に俺は生まれたままの姿になって露天風呂への扉を開く。
開けるとひんやりとした空気が肌に触れていく。そこには本当に小さな・・・二人分の大きさと言っていたが男二人ではとても無理だろう。ささやかな木造の湯船に湯気立った温水が満たされている。足を上げて身を浸すと、ジャァァという豪快な音とともに湯が流れていく。仄かに香る木の匂いと温泉の香りが混ざり合い、なんとも言えない深い奥行きを作り出す。時折山間の方から吹き下りる風がひんやりと心地良い。
「あぁ〜〜・・・」
俺はおっさんそのものの声を出していた。いい湯は心と身体に染み渡るな。
「願掛け、ねぇ・・・」
人心地着き、ポツリと言葉が溢れる。何となく湯船に顔をつけてお湯の中で呟いてみる。
(あいつのこと・・・海斗のこと、知ってるつもりで知らないことがいっぱいあった・・・だから、もっと知りたい、色んな面・・・って!)
慌てて水面から顔を出す。
「何言ってんだ俺・・・重っ!キモい・・・よな・・・たかが二年前に知り合った大学の友達のこと、こんな・・・」
無茶をして酔いがまた回って来たのか、全身が湯船の湯を吸ってしまったように重くなってきた。まぶたがゆっくりと閉じていき、頭がかっくんと横に倒れる。
「それ、より、早くあいつ起こし・・・て・・・」
湯船から上がろうとするも、既に俺の身体は言うことを聞いてくれなくなっていた。
俺の意識は、沈んでゆく。
深く、深く・・・どこまでも、どこまでも。
だから、
「よかろう、その願い承った」
そんな声が聞こえていたのに、随分と先になるまで思い出すことなんてなかったのだ。

7
「・・・っ!」
目が覚めた。 同時に慌てて立ち上がった。お湯が全身を伝って滴り落ちていく。
あたしは激しく上下する胸をそっと抑える。思春期を迎えた頃から膨らみ始め、今や世間的には巨乳とまで言われる水準まで大きくなった脂肪の塊の下で、バクバクと心臓が波打っている。
「うわー、なんか夢見たなぁ」
完全に寝落ちしてしまっていた。このまま気づかずに眠りこけていたら、湯冷めして風邪を引いちゃったり、最悪の場合は・・・。
ふるふる!
うーん、縁起でもない!頭を振ると、数年がかりで伸ばした黒髪が顔や肩にへばり付く。
「あれ、あたし・・・髪まとめるのも忘れてたの!?」
右手に付けたヘアゴムを外し、サッと髪をまとめる。うーん、いくら何でもうっかりしすぎかも。足を上げて湯船から出る。夜風が火照った身体を冷やし、何とも心地良い。
「あ〜しまった、油断したなぁ」
ふと目線を下にやったところ視界に入る黒い茂み。最近はバイトなんかで色々バタついてて、Vラインのお手入れがちょっとご無沙汰になっていた。・・・今のうちにやっておこうかな。
部屋に置いてあるポーチに入れてあるはずだから、そう思って扉へ歩くと、ぶるんぶるんと胸が揺れる。
「・・・?」
そっとおっぱいを下から持ち上げ、手をどける。重量感ある乳が何度か揺れて元の位置に戻る。いつも通りの当たり前のことのはずなのに、何故だか妙に気恥ずかしい。おかしいなぁ。また大きくなった? んー、でもブラのサイズはここ最近変わってないはずなのに・・・。そんな風に考えながら、扉に備えられた窓に反射する自分の姿を眺める。

ぱりん・・・!

あたしの頭の中で、何かが砕けた。 違う。いや、そうだ。 あたしはあたしなんかじゃなくって・・・そう、『俺』だ。 俺だったはずだ。
「・・・え?」
俺って? あたしは『真咲』で・・・いや、発音は同じだけど似て非なる全くの別人だ。だけど、鏡面になったガラスの中に映るのは肉付きの良い全裸の美女だった。自分が本来映るはずの場所に、男の姿は存在しない。
俺は、俺は。
単刀直入に言うと、目が覚める女になっていたのだ。そう理解せざるを得なかった。何故だかは全く以て解らない。自分の脳の理解範囲を完全に越えた現象だ。寝ている間に一体俺の身体に何が起きたというんだ!
「あ、あ・・・」
反射的に俺は慌てて股の間を弄ったが、触り慣れたあの生暖かいモノは無く、代わりに溝が一筋刻まれていた。これは錯覚や虚像なんかじゃない。現実に今ここに立っている俺自身も女だという事になる。
反射する窓に映る一糸纏わぬ女性。呼吸に合わせて、たわわに実った乳房が揺れる。
これは・・・これは果たして本当に本当に俺なのか?
周りの風景は間違いなく、先程までゆったりと過ごしていた小さな湯船もそこにある。
しかし。この外見は。この美しい同年代の女性は。さっきまでの腐れ大学生だった俺とまるで違う。これが、俺・・・
「あ、あぁ・・・い、いやぁ」
そこで漸く俺の口から言葉が溢れ出した。
「いやぁぁぁぁぁっ!!」
それは甲高い、女の声による悲鳴に他ならなかった。

ひょうモザイク1

8
俺はまじまじと自分の姿を見つめた。紛れもなく美女、と言って差し支えないだろう。小さな顔に切れ長の黒い瞳。長い睫毛に濃いめの眉。 目元にある泣きぼくろが印象的だ。
・・・ここまできて、よくよく見ると元の、男の自分の面影が意外と残っていることに気がついた。目の形や泣きぼくろなんかは元々と似ている。しかし、印象を大きく変えるのは豊かな艶のある黒髪に桜色の頬、すうっと形の良い鼻。その下にはやや下唇のぽってりとした小さめの口。何よりその華奢な体型。肩幅は細くなり、身体の厚みがなくなって浮き出た鎖骨が何とも色っぽい。そしてそのラインを辿ってみると、そこには男には無いモノ・・・華奢な体格に似つかわしくない程大きく膨らんだ乳房があった。
ゴクリ
女性と一夜を共にした経験のない俺にとって、こんな間近で拝むおっばいは初めてだった。ましてや、触れるなんて・・・。
俺は男の頃から幾分も小さくなった手を、大きく膨らんだ両の乳房にそっと当てがった。
「・・・んっ!」
思わず声が漏れて赤面する。柔らかい。そして温かい。女性の胸ってこんなに優しいものだったのか。
「んんっ、あっ、はぁっ、やぁん・・・」
手のひらを伝って心臓がドクンドクンと脈打っているのを感じる。そのまま俺は乳房をじっくりと、ねっとりと五本の指を使って弄っていく。ビクッと五体に奇妙な感覚が走った。男の身体では決して味わうことの無かった、痺れるようなくすぐったいような甘いような不思議な感覚。 何度も、何度も乳房に指を押し付け、円を描く。
「あぁ、あっ、き、気持ちいい・・・」
俺は自らの乳房を揉み上げながら、頬を上気させていく。指を回す度に丸い乳はその形を変えていく。その膨らみの先に付いた桜色の乳首は次第に仰け反る様に上を向いていき、固くなっていった。
「やぁん、あんっ・・・っん!」
左手の指先でビンビンに勃ち上がった乳首を転がしながら、右手の指を下腹部のくびれに手を滑らせる。鬱蒼とした柔らかな陰毛に覆われた恥部に指で触れると、いつの間にかそこはしっとりと濡れていた。
「だ、だめぇ・・・興奮しちゃってるぅ・・・自分にぃ」
息を上ずらせながら、無意識で左手を乳房に、右手を恥部にあてがっていた。側から見るとその姿は自分を慰める淫らな女そのものだったろう。
ややあって右手の中指を、黒い茂みの中に滑らせ、赤く染まった女性自身に忍ばせる。
「あぁっ、あっ、やっ、やっ、やらぁ! 俺、女の子のオナニー、しちゃって、るぅ!?」
中指の腹で恥部を押し、撫でる。それを繰り返すたび、
クチュッ、クチュッ、クチュッ・・・
淫靡な液体の音が響いていく。その音にリズムを合わせて右手が乳房を揉んでいく。胸と股座を中心に熱く切ない感覚が広がっていき・・・ふいに頭に海斗の顔が浮かんだ。その瞬間
「あっ、あっ、あぁっ、あんっ、やっ、やだぁっ!指、とまんない・・・よぉっ!?」
何かがもの凄い勢いで全身を駆け、指遣いが速くなっていく。
「やっ、やっ、いやっ、いやぁっ!?」
リズムは止まることなくどんどん早くなり、俺の身体中に快感の連鎖反応を起こしていく。海斗の顔を思い出すだけで、ゾクゾクと快楽が膨れ上がり身体の敏感な部分を震わせる。
(気持ち良い・・・男のときより、ずっと)
「海斗・・・海斗っ!海斗ぉ!」
止まらない。手を動かすのが。 快感が。凄い。手の動きはどんどん速くなる。
クチュクチュクチュクチュクチュ・・・
俺はいつの間にか汗で垂れた前髪を頭を振って掻きあげ、汗とお湯とでぐっしょり濡れた肢体の全てを欲望に委ねている。髪を止めたバンドがどこかへ行ってしまったのなんて知らない。下腹部の中心で見えない何かが跳ね上がり、抜き差しする指を女陰のヒダが絡めとる。
「いやッ!」
ビクンと身体に電流が駆け巡る。
(イく・・・イく・・・イっちゃう・・・)
火照りが頂点に達し、俺は全てを解き放った。
「あっ、あっ、あんッ!あぁぁっ!いやぁぁぁぁッ!!イくっイくっイくっ、イっちゃぅぅぅぅぅ〜〜!?!?」

9
女の快楽ってすごい。 軽くシャワーで身を清めて再び露天風呂に浸かりながら、俺はそう思い返していた。
女性のそれは男がするようなそれとは全く別次元のものだったのだ。 俺はその事実を身を持って知ることになってしまった。絶頂時にはすべてを包み込まれるような・・・そんな気持ちよさだった。 喩えるならば広い広い海に抱かれるような。海、海・・・
(なんで俺は女のオナニーしながら海斗のことを・・・まるで俺・・・)
顔が真っ赤になっているのが自分でもよく分かった。女の子の身体になったから? それとも・・・?
ザブンと波を立てて立ち上がり、肉付きのいい女の身体を見つめる。
「あいつは女になった俺のこと、分かってくれるのかな」
そう俯きながら呟いた時のことだった。不意に脇の下からニョキッと二本の腕が現れ、そのまま俺の乳房を掴んで揉み始めたのだ。
「キャァァァ〜!!」
思わず女の子そのものの悲鳴を上げてしまう俺。気がつくと背後に気配を感じる。振り返ったその先にいたのは・・・海斗だった。
「おいおいおい〜寝落ちしてたからって一人で随分と楽しんでたみたいじゃん?」
「か、海斗・・・!」
「俺も混ぜてくれよ。付き合ってんだからいいだろ、『真咲』?」

10
海斗の一言に頭がクラっとした感覚に襲われた。俺は『正樹』のはずであって『真咲』なんて名前じゃ・・・。女の子なんかじゃ。そう思っていたのに。
(なんだこれは・・・こんなの知らない/知ってる!?)
男の俺と女の俺は同一人物であり、別人でもある・・・矛盾しながらも奇妙に整合性のある記憶が一気に頭の中に溢れてくる。
〜〜〜
大学の入学式。俺は海斗と隣の席で、喋ってみると同じ学科って分かって。そこから顔を合わせるたびに話すようになって。雑だけど行動力だけは一端のあいつに振り回される内に・・・俺(あたし)はだんだんあいつに惹かれていった。女子校出身で同年代の男の子と話なんてしたことなかったのに、海斗とだけは別だった。

(違う・・・違う・・・)

あいつの方も男子校出身だからか中々互いに進展しないまま時間だけが過ぎて。互いを一歩近いところに置いた関係になるまでに一年もかかってしまった。それもきっかけは酔った勢いで。試験明けで深酒が過ぎたあたしは海斗に支えられて夜道を歩いていた。ふらふらと足元もおぼつかないまま、一先ずあたしの下宿に向かういつものコース。
「真咲・・・飲み過ぎだって。・・・そんな無防備だと勘違いしちまうだろ!」
あたしはようやく試験から解放された安心感と海斗との進まない関係に焦ったためか、今にして思うとかなり大胆に事を進めた。足を止めて海斗の逞しい胸板に身体を預け、上目遣いで
「・・・して、くれないの?」
(違う・・・俺とあいつは単なる親友で・・・)
次の瞬間にはあたしの唇は海斗に塞がれていた。
「んん!?んっ、んぁっ・・・」
「真咲ッ!真咲ィッ!」
お互いにファーストキスのはずなのに舌を絡め合い、体液を混じらせる。あたしの全身は悦びと興奮に打ちひしがれ・・・自分でもはっきり分かるくらいにグチョグチョに濡れていた。切なげに太ももを擦り寄せるあたしの様子に気づいたのか、海斗は耳元で
「もう、我慢しねぇからな」
と呟いた。思わず唾を飲み込んだ後、あたしはこくりと頷いた。そのまま無言で歩を進め、下宿まで辿り着いたあたしたちは、部屋に入るや生まれたままの姿になって抱き合った。女の子としては長身のあたしも、大柄な海斗にすっぽりと包まれて・・・そしてその夜、あたしたちは彼氏彼女になったのだ。

後編に続く

ダークエルフ奴●の娘と愛を育もうとしたら、油断した隙を突かれてカラダを入れ替えられてしまったオレ サンプル①

2021Q3おかし製作所FANZA販売数35位
ダークエルフ奴●の娘と愛を育もうとしたら、油断した隙を突かれてカラダを入れ替えられてしまったオレ FANZA版
ダークエルフ奴隷の娘と愛を育もうとしたら、油断した隙を突かれてカラダを入れ替えられてしまったオレ DLsite版

犬神教授に書いて貰った弊所TSF小説です!挿絵は夜宮さん。

ダークエルフ奴●の娘と愛を育もうとしたら、油断した隙を突かれてカラダを入れ替えられてしまったオレ

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大陸を南北につなぐ街道と、定期船の航路が重なるこの交易都市は、あらゆる珍品が行き交うが、なかでも亜人種の〈性奴隷〉は、闇市場の目玉商品であった。

 銀糸の束のような長髪。
 瑞々しい果実を思わせる唇。
 なにより、子猫のようにつり上がった紺碧の瞳が、非常に愛らしい。
 壇上のダークエルフは、とても奴隷という身分とは思えぬ相貌を、薄明かりの下でたたえていた。
 聖堂の地下で催される秘密の奴隷市でのこと。――そのような場所に、突如あらわれた褐色の少女を、多くのものが、息をのみながら見つめている。
 何人もの愛玩少女を屋敷に抱える子爵は、ゴクリと生唾をのみ、また、兵の慰安目的でやってきた将軍は、素早く手元の金を確認していた。
 興奮しているのは、この市場を初めて訪れた青年貴族――マルティンも同じであった。
「なあ、オーラフ。あの女の子、オレでも買えると思うか?」
「お前、あんな娘を手に入れたいのか? アレはダークエルフだぞ?」
「――ああ。でも、一目惚れなんだ」
 熱い視線で少女を見つめるマルティンの無茶を、友人であるオーラフはたしなめた。
「あのなあ……。ダークエルフは〈呪う〉と言うじゃないか。確かに見目麗しい小娘ではあるが、あんなのを手元に置いて、本当にだいじょうぶか?」
 オーラフの言うとおり、ダークエルフは、評判のいい種族ではない。彼らにまつわる迷信は数多く、きまぐれに人を〈呪う〉という噂も根強かった。
 だが、いまのマルティンにとっては、すべて、どうでもいいことであった。――なにしろ、心の底から惚れてしまったのだから。
「足りない分は、後で払う。少しばかり貸してくれ」
「うーん……」
 オーラフは、わずかに呆れた様子であったが――、
「まあ、これまでのマルティンは、淡泊すぎたくらいだからな。……本当に〈呪い〉が存在しないなら、ワタシだって手元に置いておきたい器量だ」
 と、つぶやき、皮肉に口の端を上げた。
「競り落としちまえ、マルティン」
「ああ」
 まもなく、入札が始まった。



 マルティンは、いわゆる〈放蕩貴族〉であった。
 地方貴族の三男として生まれた彼は、成人した後も、特に何もすることなく、暇な毎日を過ごしている。
 与えられた所領は、果実酒の原料を作るための広い畑と、周辺の山々、そして、田舎暮らしに相応しい小さな屋敷のみであった。
 その邸宅に、いま――、
「ここが、ご主人さまの……?」
 と、ダークエルフの少女は、広間を眺めながらつぶやいた。
「ああ、自邸だ。そして、今日からはキミの家でもある」
 マルティンはコートを脱ぐと、それを使用人に預け、少女の上着を手ずから脱がした。
「あの……、ご主人さま……」
「これくらいはさせてくれ。なにしろ、オレはキミに惚れているんだ。つまりは、愛情表現だよ」
「愛……?」
「そう、〈愛〉だ。――この世で、もっとも尊いものさ」
 そのまま、マルティンは自ら屋敷の中を案内した。
 かつて本家の別荘であった邸宅は、独身の青年貴族には、ほどよい広さであり、使用人の数もわずかで事足りた。
 そんな邸宅の調度品を、ダークエルフの少女は、物珍しげに眺めている。
「そういえば、さっき名前を教えてもらったけど、エルフ語の発音は、どうにも難しくてね……。もっと簡潔に、なんと呼べばいい?」
「では〈ヘラ〉と……。これなら、この国の言葉に近いかと思います」
「そうだね。じゃあ、ヘラ……。こっちへおいで」
 マルティンはヘラを呼び寄せ、地下へ続く階段を下っていった。
「あの、ここは……?」
「キミの部屋さ。もう、使用人に調えさせてある。すぐにでも使えるはずだよ」
 いくつもの鍵のついた、重い扉を開ける。
「――っ?」
 ヘラは言葉を失った様子であった。
 無理もない。――そこは、かつて父が〈性奴隷〉を調教するために使用していた一室であった。
 ――手足を固定できる鉄製の椅子。
 ――壁に立てかけられた磔台。
 ――天井の滑車に巻きついた荒縄。
 どれもこれも、か弱い奴隷を恐怖させるには、充分な代物であった。
「ああ、心配しないでくれ。あんな無粋なものを、キミに使うつもりはないよ。――ほら、こっちにおいで」
 マルティンは、部屋の中央に据えられたベッドに腰掛け、ヘラを招き寄せた。
 恐る恐る、褐色の少女が近づいてくる。
 その細い手首を、青年は素早くつかみ、自分の胸元へと引き寄せた。
「きゃあっ!」
「だいじょうぶ……。キミは何も心配しなくていいんだよ」
 いまだ、恐怖に身を震わせる少女の頭を、優しく抱きしめながら、そっと撫で上げる。
「少しばかり厳つい内装だけど、我慢してくれ。世間の手前、安易に性奴隷を外へ出すわけにはいかなくてね……。でも、絶対にヘラにあんなものは使わないから。――愛するキミを、あんな恐ろしい道具で傷つけるはずないじゃないか」
「……本当に?」
「ああ」
 マルティンは、そのままヘラの顔へ唇を寄せ、軽くキスをした。
 こうして、ダークエルフの少女との、甘い生活が始まった

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