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1000万ヒット記念投稿TS小説 とらいある・とらいあんぐる(11) 作.うずら 挿絵.春乃 月
<11>
気がついたら、夜が明けていた。夕飯を食い損ねたせいで、空腹を通り越して腹が痛い。まだ身体が重いし、腹痛がなかったら、もしかしたら寝坊していたかもしれない。感謝していいのか、微妙に悩みながら、おれはタオルを手に取った。
若干時間もあるし、シャワーでも浴びて、さっぱりしたかった。
「にしても、何も思いついてないよ……」
どうしたもんかなぁ。封印したぬいぐるみに訊いたって、どうせいい案は返ってこないだろう。前みたいに卑怯なことはよくないなんて、説教されるに決まっている。
でも、正攻法では勝てない。それはわかっている。だったら、なにか裏をかくしかない。裏、裏ねぇ。そもそも魔法って時点で、なんでもあり。問題なのは、相手の出力のほうが大きいこと。ああ、もう、どうしたらいいんだろう。
ぐるぐると迷路の中をさまよいながら、服を脱ぎ捨てる。熱いお湯でも浴びたら、少しはしゃんとするはず。それから、また考えよう。
風呂場のドアをあけると、そこには先客がいた。
「あ、わるい」
「ひっ」
ふむ。妹のクセに、出るところは出ている。変身後のおれに比べて、ではあるけど。つまるところ、おれもこのぐらいにはなるのか。いや、おれは男だし、うらやましいわけでもないんだけど。でも、やっぱり、気になるんだから、どうしようもない。ん、そもそも、おれの方が年上だから、あの身体も姉ってことになるのか。だったら、アレ以上育つことを期待しない方がいいのかもしれない。釈然としない。半分ぐらい、分けてくれないだろうか。
「さ、さっさと出てけ、このエロ兄ーっ!」
唯の怒声が響いた。ぼうっとしていたせいで、回避は間に合わなかった。
冷水のシャワー。さらに、勢いよく閉められたドアで額を強打した。コンボのおかげで目は覚めたけど、気分は最悪だった。
「……ふぇっくしっ!」
さっさと服を着てストーブにでも当たろう。風邪でも引きそうだ。
コーヒーを飲みながら温まっていると、唯が脱衣所からでてきた。キッとおれをにらみつけ、それでも知らん顔で台所に向かう。牛乳を注ぎながら、やけに大きな声の独り言を繰り返す。
「ヘンタイの兄じゃなくて、妹だったらよかったのになぁ。妹だったら、いっぱい着飾らせて、いっぱい大事にしてあげるのに。なんでうちにはヘンタイがいるんだろう」
「ああ、もう、悪かったって!」
「言葉だけで済ますような野蛮人が兄弟だなんて、わたしって不幸よねぇ」
これは……脅してる、のか? 手に何やら、紙を握り締めている。それをおれに買えと、そういうことだろうか。
「わかったよ。何が欲しいんだ」
「コレ」
ころっと態度が変わった。ぴっと雑誌の切り抜きを差し出してくる。ゲンキンなやつ。こんな妹で嘆くべきは、おれの方だ。
で、香水なのはいいんだけど、ゼロが三つ並んでる上に、数字が二個もありますか。バイトもしてない学生には、かなりつらいぞ。
「それね、すごい人気なんだよ」
「そ、そうか。こっちのとか、どうなんだ?」
その横に掲載されているのは、ヨンキュッパで、まだなんとかって金額だった。
「おかあさーん、お兄ちゃんがー」
「ああああっ! わかった! それ買ってやるから!」
「へっへー、約束だからね」
途端に笑顔になる。女って……女って……。
最悪なテンションで学校に向かう。ずる休みでもしたいぐらいだ。下を向いて歩いていたせいで、曲がり角で人とぶつかってしまう。
「あ、すみま」
「ああ、わりぃ」
里井だった。見た目がそっくりな別人でなければ、間違いなく里井深澄その人だ。今までだったら誰かと肩が当たろうものなら、その場でケンカをふっかけられていた。それがどうだ。なんとも軽いノリで謝られた。明日は雪にでもなるのかもしれない。
「あ、あぁ」
そもそもおれとコイツに接点はない。だから、後は各自学校に向かうだけ。会話は途切れるはずだった。
そうならなかったのは、里井から話しかけて来たからだ。それも、つい数日前までありえないことだった。
「桝田さぁ」
「え、あ、なんだよ?」
「おれと那智のこと、ヤいてたのか?」
足が止まる。里井も二、三歩歩いて、振り向いた。茶化している様子はない。だからといって、おれには答える義理はなかった。無視して、再び歩き出す。
「あの後。あの後、ずっとお前のこと、監視してたんだ。悪いとは思ったけど」
「は?」
いつのことだ。監視? どこで? いろいろ訊きたいことはあったが、里井のしゃべるのに任せることにした。
「逃げるみたいに走っていって、家で、やけに男っぽい部屋で」
こいつは、なんのことを言っている? 逃げる……男っぽい……。
「泣き出したかと思ったら、こんどはいきなり、その、オナニーはじめて……那智のことを呼んでたみたいで。……正体は桝田でした。なんてな」
「お前……」
どくんどくんと、心臓の動きがはやくなる。全部知ってる。こいつが、みーぽん? じゃあ、キスしてたのも、ナツとエッチしたのも、こいつ? だから急に二人が仲良くなって。里井が落ち着いたのも、ナツと付き合いだしたから?
ズボンのポケットに入れっぱなしのリボンに触れる。何も作戦はないし、勝てると思えない。けど、このまま引き下がったんじゃ、おれは……。
「やー、今回は負けだも」
「な!? おま、出てくるなよ!」
「大丈夫じゅん。今は結界の中じゅん」
ぬいぐるみがお互いのカバンの中から顔を出す。いまさらのことだが、通学通勤時間帯にしては、たしかに人がいなかった。変身していないと、気づかないものなのか。
「それでマウシー、負けって言ったじゅん?」
「も。今回ばかりはジュンジュンの説が正しかったみたいも」
「前も勝ったじゅん。人は教育してこそ、礼節を身に付けるじゅん。甘やかすと、だめじゅん」
「違うも。今回はイレギュラーな男にレイにゃんが心を奪われたせいも」
ぎゃーぎゃーと、ぬいぐるみどもがわけのわからない会話を繰り広げている。でも、とにかく勝敗がついていないことをはっきりさせないといけない。
「おい、勝手に決めるな!」
マウシーをつかもうとしたとき、喉元に杖を突きつけられた。いつ里井が変身したのかもわからなかった。最初、おれが着てた服の色違い。まぶしいぐらいに白い。
「ごめんね。わたしの勝ち、だよね?」
動けなかった。どうしようもなかった。悔しいけど、どうにもなりそうにない。腹をくくって地べたにあぐらをかく。
初日にマウシーに言われたこと。勝者は望みをかなえることができる。そして、敗者を好きなようにすることができる。
「いっそ牛にでもなれば、いろいろなものに諦めがつく。好きにしろ」
「そんなことしないってば。わたし、そんなに意地悪じゃないよ?」
里井……みーぽんはそれから、急にもじもじし始めた。中身をアイツだと思うと、不気味でしょうがない。
「まず、一つ目、いい?」
「じゅん」
「ほんとうの女の子になって、ずっと彼といちゃいちゃしたい!」
「分かったじゅん」
おれがとやかく言う前に、みーぽんの身体が光を放った。目を開けていられないぐらい、強い光だ。それが収まると、うちの女子の制服に身を包んだみーぽんが立っていた。
「これでリボンを外しても、女の子じゅん」
「ありがと、じゅんちゃん」
「コレはどうするも?」
マウシーがおれを指し示した。いきなり扱いがぞんざいになった気がする。最後に、一度シメておこうかと思ったけど、みーぽんの言葉がおれの動きを止めた。
「ええと、きっと女の子同士なら仲良くできると思うの。だから、桝田君も女の子にしてあげて」
「あ、おい、まっ」
止める間もなく身体は縮み、髪は伸び。男としてのパーツをひとつとして残さず、レイにゃんへと変わってしまった。しかも、スクール水着姿で。
「ねえ、これじゃ、目立っちゃうよ?」
「そうだじゅん」
「もぉ……あ、せっかくだし、見た目に合わせてあげるも」

イラスト:春乃 月
本人は完全に蚊帳の外だ。敗者には口を挟む権利すら与えられないらしい。
白いブラウス。クリーム色のセーター。濃紺のプリーツスカートにジャケット。赤色のリボンタイ。ふとももまでの黒いニーハイ。去年まで、唯が通っていた学校の制服だった。
「これ、隣の中学のじゃ……」
もしかして、おれ、ほんとうに唯の妹になったとか、言わないよな?
「あわせてあげたも。もちろん、戸籍なんかもばっちりだも。感謝するも」
最悪だった。
頭を抱えてうずくまるおれをよそに、みーぽんはかわいいを連呼している。その賞賛の声がうれしく感じてしまうのが、イヤだ。
「それじゃあ、ぼくたちは帰るじゅん」
「あ、待て!!」
たしかにつかんだ。なのに、小さくなった手はむなしく空気をつかんだだけだった。マウシーにも、ジュンジュンにも、触れられない。その姿が次第にぼやけて、見えなくなってしまった。
「そんな……」
「よしよし。あ、そうそう。那智、ちょっと怪我したけど、大丈夫だったから、安心してね?」
へたり込んだわたしを、深澄さんがやさしくなでてくれる。うー、でも、この人、わたしから那智おにいちゃんうばった悪女。やさしいのが、すごく気に入らない。だから、とりあえず、叫んでおこう。
「元に、戻せええぇぇっ!」
<おしまい>
気がついたら、夜が明けていた。夕飯を食い損ねたせいで、空腹を通り越して腹が痛い。まだ身体が重いし、腹痛がなかったら、もしかしたら寝坊していたかもしれない。感謝していいのか、微妙に悩みながら、おれはタオルを手に取った。
若干時間もあるし、シャワーでも浴びて、さっぱりしたかった。
「にしても、何も思いついてないよ……」
どうしたもんかなぁ。封印したぬいぐるみに訊いたって、どうせいい案は返ってこないだろう。前みたいに卑怯なことはよくないなんて、説教されるに決まっている。
でも、正攻法では勝てない。それはわかっている。だったら、なにか裏をかくしかない。裏、裏ねぇ。そもそも魔法って時点で、なんでもあり。問題なのは、相手の出力のほうが大きいこと。ああ、もう、どうしたらいいんだろう。
ぐるぐると迷路の中をさまよいながら、服を脱ぎ捨てる。熱いお湯でも浴びたら、少しはしゃんとするはず。それから、また考えよう。
風呂場のドアをあけると、そこには先客がいた。
「あ、わるい」
「ひっ」
ふむ。妹のクセに、出るところは出ている。変身後のおれに比べて、ではあるけど。つまるところ、おれもこのぐらいにはなるのか。いや、おれは男だし、うらやましいわけでもないんだけど。でも、やっぱり、気になるんだから、どうしようもない。ん、そもそも、おれの方が年上だから、あの身体も姉ってことになるのか。だったら、アレ以上育つことを期待しない方がいいのかもしれない。釈然としない。半分ぐらい、分けてくれないだろうか。
「さ、さっさと出てけ、このエロ兄ーっ!」
唯の怒声が響いた。ぼうっとしていたせいで、回避は間に合わなかった。
冷水のシャワー。さらに、勢いよく閉められたドアで額を強打した。コンボのおかげで目は覚めたけど、気分は最悪だった。
「……ふぇっくしっ!」
さっさと服を着てストーブにでも当たろう。風邪でも引きそうだ。
コーヒーを飲みながら温まっていると、唯が脱衣所からでてきた。キッとおれをにらみつけ、それでも知らん顔で台所に向かう。牛乳を注ぎながら、やけに大きな声の独り言を繰り返す。
「ヘンタイの兄じゃなくて、妹だったらよかったのになぁ。妹だったら、いっぱい着飾らせて、いっぱい大事にしてあげるのに。なんでうちにはヘンタイがいるんだろう」
「ああ、もう、悪かったって!」
「言葉だけで済ますような野蛮人が兄弟だなんて、わたしって不幸よねぇ」
これは……脅してる、のか? 手に何やら、紙を握り締めている。それをおれに買えと、そういうことだろうか。
「わかったよ。何が欲しいんだ」
「コレ」
ころっと態度が変わった。ぴっと雑誌の切り抜きを差し出してくる。ゲンキンなやつ。こんな妹で嘆くべきは、おれの方だ。
で、香水なのはいいんだけど、ゼロが三つ並んでる上に、数字が二個もありますか。バイトもしてない学生には、かなりつらいぞ。
「それね、すごい人気なんだよ」
「そ、そうか。こっちのとか、どうなんだ?」
その横に掲載されているのは、ヨンキュッパで、まだなんとかって金額だった。
「おかあさーん、お兄ちゃんがー」
「ああああっ! わかった! それ買ってやるから!」
「へっへー、約束だからね」
途端に笑顔になる。女って……女って……。
最悪なテンションで学校に向かう。ずる休みでもしたいぐらいだ。下を向いて歩いていたせいで、曲がり角で人とぶつかってしまう。
「あ、すみま」
「ああ、わりぃ」
里井だった。見た目がそっくりな別人でなければ、間違いなく里井深澄その人だ。今までだったら誰かと肩が当たろうものなら、その場でケンカをふっかけられていた。それがどうだ。なんとも軽いノリで謝られた。明日は雪にでもなるのかもしれない。
「あ、あぁ」
そもそもおれとコイツに接点はない。だから、後は各自学校に向かうだけ。会話は途切れるはずだった。
そうならなかったのは、里井から話しかけて来たからだ。それも、つい数日前までありえないことだった。
「桝田さぁ」
「え、あ、なんだよ?」
「おれと那智のこと、ヤいてたのか?」
足が止まる。里井も二、三歩歩いて、振り向いた。茶化している様子はない。だからといって、おれには答える義理はなかった。無視して、再び歩き出す。
「あの後。あの後、ずっとお前のこと、監視してたんだ。悪いとは思ったけど」
「は?」
いつのことだ。監視? どこで? いろいろ訊きたいことはあったが、里井のしゃべるのに任せることにした。
「逃げるみたいに走っていって、家で、やけに男っぽい部屋で」
こいつは、なんのことを言っている? 逃げる……男っぽい……。
「泣き出したかと思ったら、こんどはいきなり、その、オナニーはじめて……那智のことを呼んでたみたいで。……正体は桝田でした。なんてな」
「お前……」
どくんどくんと、心臓の動きがはやくなる。全部知ってる。こいつが、みーぽん? じゃあ、キスしてたのも、ナツとエッチしたのも、こいつ? だから急に二人が仲良くなって。里井が落ち着いたのも、ナツと付き合いだしたから?
ズボンのポケットに入れっぱなしのリボンに触れる。何も作戦はないし、勝てると思えない。けど、このまま引き下がったんじゃ、おれは……。
「やー、今回は負けだも」
「な!? おま、出てくるなよ!」
「大丈夫じゅん。今は結界の中じゅん」
ぬいぐるみがお互いのカバンの中から顔を出す。いまさらのことだが、通学通勤時間帯にしては、たしかに人がいなかった。変身していないと、気づかないものなのか。
「それでマウシー、負けって言ったじゅん?」
「も。今回ばかりはジュンジュンの説が正しかったみたいも」
「前も勝ったじゅん。人は教育してこそ、礼節を身に付けるじゅん。甘やかすと、だめじゅん」
「違うも。今回はイレギュラーな男にレイにゃんが心を奪われたせいも」
ぎゃーぎゃーと、ぬいぐるみどもがわけのわからない会話を繰り広げている。でも、とにかく勝敗がついていないことをはっきりさせないといけない。
「おい、勝手に決めるな!」
マウシーをつかもうとしたとき、喉元に杖を突きつけられた。いつ里井が変身したのかもわからなかった。最初、おれが着てた服の色違い。まぶしいぐらいに白い。
「ごめんね。わたしの勝ち、だよね?」
動けなかった。どうしようもなかった。悔しいけど、どうにもなりそうにない。腹をくくって地べたにあぐらをかく。
初日にマウシーに言われたこと。勝者は望みをかなえることができる。そして、敗者を好きなようにすることができる。
「いっそ牛にでもなれば、いろいろなものに諦めがつく。好きにしろ」
「そんなことしないってば。わたし、そんなに意地悪じゃないよ?」
里井……みーぽんはそれから、急にもじもじし始めた。中身をアイツだと思うと、不気味でしょうがない。
「まず、一つ目、いい?」
「じゅん」
「ほんとうの女の子になって、ずっと彼といちゃいちゃしたい!」
「分かったじゅん」
おれがとやかく言う前に、みーぽんの身体が光を放った。目を開けていられないぐらい、強い光だ。それが収まると、うちの女子の制服に身を包んだみーぽんが立っていた。
「これでリボンを外しても、女の子じゅん」
「ありがと、じゅんちゃん」
「コレはどうするも?」
マウシーがおれを指し示した。いきなり扱いがぞんざいになった気がする。最後に、一度シメておこうかと思ったけど、みーぽんの言葉がおれの動きを止めた。
「ええと、きっと女の子同士なら仲良くできると思うの。だから、桝田君も女の子にしてあげて」
「あ、おい、まっ」
止める間もなく身体は縮み、髪は伸び。男としてのパーツをひとつとして残さず、レイにゃんへと変わってしまった。しかも、スクール水着姿で。
「ねえ、これじゃ、目立っちゃうよ?」
「そうだじゅん」
「もぉ……あ、せっかくだし、見た目に合わせてあげるも」

イラスト:春乃 月
本人は完全に蚊帳の外だ。敗者には口を挟む権利すら与えられないらしい。
白いブラウス。クリーム色のセーター。濃紺のプリーツスカートにジャケット。赤色のリボンタイ。ふとももまでの黒いニーハイ。去年まで、唯が通っていた学校の制服だった。
「これ、隣の中学のじゃ……」
もしかして、おれ、ほんとうに唯の妹になったとか、言わないよな?
「あわせてあげたも。もちろん、戸籍なんかもばっちりだも。感謝するも」
最悪だった。
頭を抱えてうずくまるおれをよそに、みーぽんはかわいいを連呼している。その賞賛の声がうれしく感じてしまうのが、イヤだ。
「それじゃあ、ぼくたちは帰るじゅん」
「あ、待て!!」
たしかにつかんだ。なのに、小さくなった手はむなしく空気をつかんだだけだった。マウシーにも、ジュンジュンにも、触れられない。その姿が次第にぼやけて、見えなくなってしまった。
「そんな……」
「よしよし。あ、そうそう。那智、ちょっと怪我したけど、大丈夫だったから、安心してね?」
へたり込んだわたしを、深澄さんがやさしくなでてくれる。うー、でも、この人、わたしから那智おにいちゃんうばった悪女。やさしいのが、すごく気に入らない。だから、とりあえず、叫んでおこう。
「元に、戻せええぇぇっ!」
<おしまい>
1000万ヒット記念投稿TS小説 とらいある・とらいあんぐる(10) 作.うずら 挿絵.春乃 月
<10>
目の前で、ナツが倒れている。額から血を流して、ぴくりとも動かない。ひとりでに杖が落ちた。拾う気にもならない。
おれが飛び掛ったとことで、結界も張られている。人に見られることはない。でも、今はだれかの助けが欲しかった。どうすればいいのかわからない。
自分の意思とは無関係に震えが止まらない。こんなときこそ魔法で助けないといけないのに、ぜんぜんイメージがわいてこない。このまま死んじゃったりしたら、おれ……。
呆然としていると、風が吹き寄せた。はっとしたときには、みーぽんがおれの前に立ちはだかっていた。ナツをかばうように身を寄せる。
露骨な警戒感を示しながら、みーぽんがそっとナツの顔に手を当てた。わずかだけど、たしかにうめき声が聞こえた。よかった、生きてる。
安堵して、ナツに近寄ろうとした。それをみーぽんがはばむ。なんで邪魔をするのか。そう訊こうと口を開いた瞬間。左の頬に熱い痛みが走った。じんじんする。
みーぽんの目に、強い光が宿っていた。絶対にナツは傷つけさせない。言葉はなくても、その意思が伝わってくる。

そして、はっきりとおれをののしった。
「他人を巻き込むなんて、さいってい!」
「ぁ……」
侮蔑の視線。身体がこわばる。絶望的な恐怖心に支配される。びりびりと魔力の波のようなものが身体に当たる。
抵抗なんて考えることすらできなかった。恥も外聞もなく、逃げ出した。ナツがほんとうに無事なのかとか、みーぽんを倒すとか。もう、そんなことを考えている余裕はなかった。ただ、怖かった。
どこをどう走ったかもわからない。我を取り戻したのは、布団の中でのことだった。頭が痛い。目が痛い。ついでに気持ちも悪かった。泣きつかれて、眠っていたのか。
元に戻っていないところを見ると、やはりエッチなことをしないといけないのだろう。
思いっきりなぐったおれの言っていいことじゃない。それはわかってる。けど……ナツくんだったら、やさしくしてくれるのかな。
その水着、良く似合ってるよ、なんて。いつもの笑顔で。
「……うれしくない。子供っぽいってこと?」
わたしはちょっとふてたそぶりを見せる。たぶん、どんなカッコでも、ナツくんにほめられたら舞い上がっちゃう。それは自覚してる。だからこれは、照れ隠し。
そんなことないよ。
だれにでも優しいから、ちゃんとなぐさめてくれる。でも、ほんとのわたしを見たら……?
左右の紐から手を抜き、ぺろりとうすい胸をあらわにする。同級生と比べるまでもなく、発育がおそい。
「これでもいいの?」
だいじょうぶ。これからもっと大きくなるって。
そう言って、ナツくんがわたしの乳首を指でつついた。たったそれだけのことなのに、カラダに電気が走った。自分でしたときとも、おもちゃともちがう。大好きな人だと、こんなにもきもちいいんだ。
「あぁっ」
敏感なんだ。顔真っ赤にして、すごくかわいいよ。背中とか、どうかな?
こわれものでも扱うみたいに、やわらかいタッチが背骨をはう。そんなとこ、感じるなんて知らなかった。ぞくぞくとした快感がカラダの芯から広がってきた。
もじもじしちゃって、そんなによかった? ほら、無言じゃわからないぞ。
「ぁっ、ひゃうっ、はぅぅんっ」
何度も何度も、ナツくんの手が往復する。うう、だめだよぉ。
黎の甘い声を、もっと聞いてみたいな。どうしてほしい?
「もっと、もっとなでて!」
背中、好きなんだ?
「違うよぉっ、ナツくんが、ぁんっ、ナツくんが触ってくれるからっ」
とても座っていられず、布団の上に横になる。これ以上されたら、ヘンになる。でも、やめてほしくない。
かわいいよ、黎。
「ナツくん、ナツくんっ」
何度も何度もなでてくれる。たったそれだけなのに、天に昇ってしまいそうな気分。カラカラと窓が開く音。そう、ナツくんが窓を開けて……窓?
「はー……やれやれだも。置いていくなんてひどいも」
「ふえ?」
隙間からするりと、ピンクの物体が入ってきた。短い手で肩をとんとんとたたいている。おやじくさい。確認するでもなく、マウシーだった。
「レイにゃん……なにしてるも?」
「な、なに、って」
ベッドでおっぱい丸出しで、くねくねしている、おれ。それをおもいきり見られている。
「も?」
「きゃああああああああっっ!」
甲高い悲鳴。意識していなかったリアクションに自分自身で驚いてしまう。マウシーはマイペースに、耳をふさぐそぶりを見せた。腕、届いてないけど。
「まったく、うるさいもぉ」
毛布を体に巻きつけ、とりあえずマウシーの視線から隠れる。少し、落ち着いた。
「で、なにしてたも?」
「なに……って、だって、エッチなことしないと、元に戻らないから」
きょとんと首をかしげた。なにやら考え込んでいる。やがて、ぽつりと口を開いた。
「リボンをはずしてみるも」
言いなりになるのはシャクだけど、どうせ高ぶっていた気分はしぼんでいる。どうにでもなれ、だ。留め具を外し、マウシーにリボンを見せる。その途端、身体が煙につつまれたか。
「なんだぁ!? って、声が元に……身体も……」
「戻るも。リボンをつけて変身をしたんだから、外せば解除されるのは、当たり前も? 牛が考えたってわかるも。レイにゃん、案外ばかも?」
「うっさい!」
ここぞとばかりに、おれをバカにしてくる。ふんぞり返っていて、非常に腹が立つ。一回目がソレで戻ったし、思わせぶりなことを言うから……。
「あ、レイにゃんはヘンタイさんなんだも。それなら仕方がないも。さあ、リボンをつけて、もっとやるも」
むふーっと鼻息荒く、おれにオナニーの続きを強要するぬいぐるみ。完全にエロオヤジだ。
やってやるもんか。元に戻るのにエッチなことをする必要がないのはわかった。だとしても、きもちいいし、その気になることはあると思う。けど、マウシーに晒したって、得はなにもない。だったら、見せてやる理由なんて、ないじゃないか。
「おことわりだ」
「えー……残念だも。ほんとうにしないも?」
「しないっつってんだろ」
「独り占めは反対も。富は平等に行き渡るべきも」
何を言ってるんだ、こいつは。拳、というか蹄を振り上げてとうとうと力説している。なんだか経済の話やら国家の話にまで飛躍している。でも、まあ、要するに。
「見たいんだ?」
「も!」
いままでにない力強さで頷いた。そうか、それなら仕方がない。
ぬいぐるみを荷紐でがんじがらめにして、カバンの中に放り込む。それじゃ、またな、マウシー。安物だけど、南京錠で鍵をかける。これで、どうあっても出てはこられない。
おれには考えることがあった。次で最後だ。あの圧倒的な力の差を覆して、勝つための方法を。方法を……。
だんだん視界が悪くなる。頭に霧がかかったみたいだ。最近、休まる暇がないから……眠く……。
<つづく>
目の前で、ナツが倒れている。額から血を流して、ぴくりとも動かない。ひとりでに杖が落ちた。拾う気にもならない。
おれが飛び掛ったとことで、結界も張られている。人に見られることはない。でも、今はだれかの助けが欲しかった。どうすればいいのかわからない。
自分の意思とは無関係に震えが止まらない。こんなときこそ魔法で助けないといけないのに、ぜんぜんイメージがわいてこない。このまま死んじゃったりしたら、おれ……。
呆然としていると、風が吹き寄せた。はっとしたときには、みーぽんがおれの前に立ちはだかっていた。ナツをかばうように身を寄せる。
露骨な警戒感を示しながら、みーぽんがそっとナツの顔に手を当てた。わずかだけど、たしかにうめき声が聞こえた。よかった、生きてる。
安堵して、ナツに近寄ろうとした。それをみーぽんがはばむ。なんで邪魔をするのか。そう訊こうと口を開いた瞬間。左の頬に熱い痛みが走った。じんじんする。
みーぽんの目に、強い光が宿っていた。絶対にナツは傷つけさせない。言葉はなくても、その意思が伝わってくる。

そして、はっきりとおれをののしった。
「他人を巻き込むなんて、さいってい!」
「ぁ……」
侮蔑の視線。身体がこわばる。絶望的な恐怖心に支配される。びりびりと魔力の波のようなものが身体に当たる。
抵抗なんて考えることすらできなかった。恥も外聞もなく、逃げ出した。ナツがほんとうに無事なのかとか、みーぽんを倒すとか。もう、そんなことを考えている余裕はなかった。ただ、怖かった。
どこをどう走ったかもわからない。我を取り戻したのは、布団の中でのことだった。頭が痛い。目が痛い。ついでに気持ちも悪かった。泣きつかれて、眠っていたのか。
元に戻っていないところを見ると、やはりエッチなことをしないといけないのだろう。
思いっきりなぐったおれの言っていいことじゃない。それはわかってる。けど……ナツくんだったら、やさしくしてくれるのかな。
その水着、良く似合ってるよ、なんて。いつもの笑顔で。
「……うれしくない。子供っぽいってこと?」
わたしはちょっとふてたそぶりを見せる。たぶん、どんなカッコでも、ナツくんにほめられたら舞い上がっちゃう。それは自覚してる。だからこれは、照れ隠し。
そんなことないよ。
だれにでも優しいから、ちゃんとなぐさめてくれる。でも、ほんとのわたしを見たら……?
左右の紐から手を抜き、ぺろりとうすい胸をあらわにする。同級生と比べるまでもなく、発育がおそい。
「これでもいいの?」
だいじょうぶ。これからもっと大きくなるって。
そう言って、ナツくんがわたしの乳首を指でつついた。たったそれだけのことなのに、カラダに電気が走った。自分でしたときとも、おもちゃともちがう。大好きな人だと、こんなにもきもちいいんだ。
「あぁっ」
敏感なんだ。顔真っ赤にして、すごくかわいいよ。背中とか、どうかな?
こわれものでも扱うみたいに、やわらかいタッチが背骨をはう。そんなとこ、感じるなんて知らなかった。ぞくぞくとした快感がカラダの芯から広がってきた。
もじもじしちゃって、そんなによかった? ほら、無言じゃわからないぞ。
「ぁっ、ひゃうっ、はぅぅんっ」
何度も何度も、ナツくんの手が往復する。うう、だめだよぉ。
黎の甘い声を、もっと聞いてみたいな。どうしてほしい?
「もっと、もっとなでて!」
背中、好きなんだ?
「違うよぉっ、ナツくんが、ぁんっ、ナツくんが触ってくれるからっ」
とても座っていられず、布団の上に横になる。これ以上されたら、ヘンになる。でも、やめてほしくない。
かわいいよ、黎。
「ナツくん、ナツくんっ」
何度も何度もなでてくれる。たったそれだけなのに、天に昇ってしまいそうな気分。カラカラと窓が開く音。そう、ナツくんが窓を開けて……窓?
「はー……やれやれだも。置いていくなんてひどいも」
「ふえ?」
隙間からするりと、ピンクの物体が入ってきた。短い手で肩をとんとんとたたいている。おやじくさい。確認するでもなく、マウシーだった。
「レイにゃん……なにしてるも?」
「な、なに、って」
ベッドでおっぱい丸出しで、くねくねしている、おれ。それをおもいきり見られている。
「も?」
「きゃああああああああっっ!」
甲高い悲鳴。意識していなかったリアクションに自分自身で驚いてしまう。マウシーはマイペースに、耳をふさぐそぶりを見せた。腕、届いてないけど。
「まったく、うるさいもぉ」
毛布を体に巻きつけ、とりあえずマウシーの視線から隠れる。少し、落ち着いた。
「で、なにしてたも?」
「なに……って、だって、エッチなことしないと、元に戻らないから」
きょとんと首をかしげた。なにやら考え込んでいる。やがて、ぽつりと口を開いた。
「リボンをはずしてみるも」
言いなりになるのはシャクだけど、どうせ高ぶっていた気分はしぼんでいる。どうにでもなれ、だ。留め具を外し、マウシーにリボンを見せる。その途端、身体が煙につつまれたか。
「なんだぁ!? って、声が元に……身体も……」
「戻るも。リボンをつけて変身をしたんだから、外せば解除されるのは、当たり前も? 牛が考えたってわかるも。レイにゃん、案外ばかも?」
「うっさい!」
ここぞとばかりに、おれをバカにしてくる。ふんぞり返っていて、非常に腹が立つ。一回目がソレで戻ったし、思わせぶりなことを言うから……。
「あ、レイにゃんはヘンタイさんなんだも。それなら仕方がないも。さあ、リボンをつけて、もっとやるも」
むふーっと鼻息荒く、おれにオナニーの続きを強要するぬいぐるみ。完全にエロオヤジだ。
やってやるもんか。元に戻るのにエッチなことをする必要がないのはわかった。だとしても、きもちいいし、その気になることはあると思う。けど、マウシーに晒したって、得はなにもない。だったら、見せてやる理由なんて、ないじゃないか。
「おことわりだ」
「えー……残念だも。ほんとうにしないも?」
「しないっつってんだろ」
「独り占めは反対も。富は平等に行き渡るべきも」
何を言ってるんだ、こいつは。拳、というか蹄を振り上げてとうとうと力説している。なんだか経済の話やら国家の話にまで飛躍している。でも、まあ、要するに。
「見たいんだ?」
「も!」
いままでにない力強さで頷いた。そうか、それなら仕方がない。
ぬいぐるみを荷紐でがんじがらめにして、カバンの中に放り込む。それじゃ、またな、マウシー。安物だけど、南京錠で鍵をかける。これで、どうあっても出てはこられない。
おれには考えることがあった。次で最後だ。あの圧倒的な力の差を覆して、勝つための方法を。方法を……。
だんだん視界が悪くなる。頭に霧がかかったみたいだ。最近、休まる暇がないから……眠く……。
<つづく>
1000万ヒット記念投稿TS小説 とらいある・とらいあんぐる(9) 作.うずら 挿絵.春乃 月
<9>
「変身後の衣装には機能……仕掛けがあるも」
「仕掛け?」
いつもどおりに一眠りした後、マウシーと向かい合った。ただ、今回はおれの方じゃない。切り出したのはマウシーだった。
いきなりそんなことを言われても、困る。声音からして、大事なことみたいだ。それならそれで、最初に教えるべきじゃないのか。
「変身後の服の生地と、魔力の残量が比例してるんだも。レイにゃんはもともとそれが多くて、みーぽんは少なかったんだも」
「……だから、おれのはふわふわひらひらで、アイツはひもだったのか」
「も」
そこまでわかると、当然、別のことが疑問として浮かんでくる。今日の服。昨日もそうだけど、おれは布が減って、みーぽんは増えた。どういうことなんだ?
「体力と同じで、魔力も自然に回復するも。マウシーたちと契約したことで、二人とも回復力は高まったも。だけど、消耗しすぎると、それがおいつかないも」
「おいつかない……。おれが、使いすぎてるってこと?」
「だも」
魔法っていうのは、常識外のことができる力だって認識している。なんとなく。そう考えると、一回目も二回目も、今回も。おれは使いまくっていた。だって、そんなこと知らなかったし。
「服の布を見れば魔力がわかるんだよね? だったら、なんでアイツは、あんなに一気に増えたわけ?」
昨日はスケスケの、お世辞にも生地が多いとは言えないベビードールだった。それが今日、逆転していた。そこまでおれが魔法を使った記憶はないし、自然回復だというのであれば、あまりにも不自然。
マウシーは短い腕を組むようなそぶりの後、押し黙った。言葉を捜しているようにも見える。
「言っていいも?」
「なにか知ってるなら教えてくれないと、困る」
「も……。セーエキが注がれたも、たぶん」
「シェーキ? ミルクセーキのこと?」
ぬいぐるみの口から、物騒な一文が飛び出した。そんな気がしたけど、たぶん聞き間違いだろう。
「違うも。みーぽんが精液を介して魔力を吸収したんだも」
「ヤっちゃった、と?」
生々しい光景を想像してしまって、いやになった。でも、仕方ないか。あんな格好で街をうろうろしていたら、そんな風になっても。
そう、そこらの誰かに襲われたんだろうと思っていた。マウシーに次の言葉を聞くまでは。
「相手は、かなり濃い魔力の持ち主だも。一緒にいたあの男の人で間違いないも」
いつも以上に授業に身が入らなかった。先生の声も聞こえない。
斜め前のナツの背中。おれは男だし、親友に彼女ができることは、たぶん、喜ばしいことなんだ。それなのに、素直に喜べない。胸の奥のほうがもやもやして、もどかしい。
見つめていると、ナツが急に首をひねった。凝視しているのがばれたかと思ったけど、そうではなかったらしい。二つ横の席の里井となにやらアイコンタクトを交わしている。
里井は粗雑な性格だからともかく、ナツは交友関係が狭いとはいえない。特におれとは小学校からの付き合いだし、親しいつもりでいた。なのに、ここ数日の二人の様子はおかしかった。
おれが話しかけようとしても振り切られる。休み時間もこそこそと何かをしゃべっているし、連れ立ってどこかに行くこともあった。その割りには、深刻な相談をしている風情でもない。
口の悪いクラスメイトは、ホモだホモだと盛り上がっていた。それぐらい、その姿は露骨で異質だった。
チャイムが鳴るなりナツが立ち上がった。里井の方に向かおうとしたところを引き止める。一言、言ってやらないと。
「ちょっと、いいか?」
「何だよ。大した用事じゃないなら」
「ナツ」
さえぎってじっと目を見る。おれが真剣だと通じたみたいだった。里井に何か目配せをしてから、おれについてくる。人がいないところで、話がしたかった。
「それで?」
非常階段に続く扉の前。底冷えはするけど、人の影はない。真面目な話をするときなんかには、ちょうどいい。
「最近おかしいよ」
「いきなり何をバカなことを……。お前までホモだなんだって言うのかよ」
その声音はいらだちをはらんでいた。気にしない顔をしていても、実際にはストレスがたまっているのだろう。でも、そんなうわさが流れること自体が異常だと気づけない時点で、そこにいるのはいつものナツじゃなかった。
「そんなこと、言ってない。おれはただ、お前と里井の関係があまりにも不自然だって」
「あいつは!」
激昂した。おれは特に、変なことを指摘したつもりはない。長年当たり前にしていたことに文句をつけられたら、腹も立つ。だけど、ここ数日の間だ。ナツにだっておかしいことが、わからないとも思えない。
里井はいままで、ずっとすさんだ目をしていた。言葉遣いや態度の荒さも、際立っていた。だから嫌いだ。
それが多少なりともやわらいだのは、この二日ほど。二人が急に親密になったのも、ちょうどそのぐらいだった。なにかあるのは一目瞭然。それを知りたい。今までそんなことはなかったのに、ナツに秘密があるのがおもしろくない。
「あいつは、なに?」
ナツはうつむいたまま、黙ってしまった。どうしたもん、かな。ナツは里井と仲良くしたくて、それをおれが邪魔する。意地悪をしているつもりはないんだけど、このままじゃ、おれが悪者になってしまう。
「……いろいろあるんだよ」
おれには言えない、ってか。ますますもって、おもしろくない。あいつとナツが関係を築くことが、無性にイヤだ。
自分でもどうしてこんな気持ちになるのかわからないけど、ナツがだれかとしゃべってるのが、気に入らない。べったりなのを見ると、胸の中からどす黒い感情があふれ出てくる。昨日不意打ちをかけたときと同じ気分。ナツがかばうとなると、それも余計に激しくなった。
「そうか、そうか。おれよりあいつのことが、そんなに好きなのかよ!」
勝手に顔が引きつった。ナツも同様だ。
こんなこと、言うつもりはなかった。ただ、ナツが心配だっただけなのに。
「……そんなくだらない用事なら、話しかけないでくれ。じゃあな」
ナツが去っていく。呼び止めたいのに、言葉が出てこない。
ポケットに手を入れると、リボンが指に触れた。こんなもの、なければ、おれとナツはうまくやって行けてたのに。いや、それよりも、みーぽん。アイツさえ、倒してしまえば、もっと……。
変身したおれは、なぜだか学校指定の水着を身に着けていた。名札には、クラスの下にわざわざ“レイにゃん”と書かれている。恥ずかしい。これが魔力の足りていない証拠だとすると、おれに勝ち目なんてない様に思えてしまう。

昨日の敗因は、遠すぎたこと。だから、みーぽんが変身する時間があった。
変身と結界はイコールではない。だから、ずっと隠れていても、結界が張られる心配はない。だったら通り道で待ち伏せして、アイツが構える前に襲ってしまえばいい。そう結論付けた。
「レイにゃん、正攻法で行くべきも」
「うっさい」
「どんどん性格が悪くなって行ってるも?」
仕方ないじゃないか。ずっとイライラするんだから。おれだってこんなことしたくないけど、いまさら止められない。
「そんなのじゃ、好きな人も振り向かないも」
「うるさい!」
お互いににらみ合う。おれだって、おれだって、わかってる。もう勝ち目が薄いことだって。だからって、何もしないなんて、できない。ナツを取り返すためなら、おれはなんだってする。そう、決めたんだ。
目をそらしたのは、こちらが先だった。定期的に気配を探ってたから、大きな魔力がゆっくりと近づいてきているのはわかっていた。それが、すぐ、間近にいる。マウシーにかまっている場合じゃない。
あと少し……まだ、我慢。三歩、二歩、一歩、今!!
「てぇえい!」
気合とともに飛び出し、杖を振り下ろす。相手は悲鳴をあげて、地面に転がる。その姿は……。
「ナ、ツ?」
<つづく>
「変身後の衣装には機能……仕掛けがあるも」
「仕掛け?」
いつもどおりに一眠りした後、マウシーと向かい合った。ただ、今回はおれの方じゃない。切り出したのはマウシーだった。
いきなりそんなことを言われても、困る。声音からして、大事なことみたいだ。それならそれで、最初に教えるべきじゃないのか。
「変身後の服の生地と、魔力の残量が比例してるんだも。レイにゃんはもともとそれが多くて、みーぽんは少なかったんだも」
「……だから、おれのはふわふわひらひらで、アイツはひもだったのか」
「も」
そこまでわかると、当然、別のことが疑問として浮かんでくる。今日の服。昨日もそうだけど、おれは布が減って、みーぽんは増えた。どういうことなんだ?
「体力と同じで、魔力も自然に回復するも。マウシーたちと契約したことで、二人とも回復力は高まったも。だけど、消耗しすぎると、それがおいつかないも」
「おいつかない……。おれが、使いすぎてるってこと?」
「だも」
魔法っていうのは、常識外のことができる力だって認識している。なんとなく。そう考えると、一回目も二回目も、今回も。おれは使いまくっていた。だって、そんなこと知らなかったし。
「服の布を見れば魔力がわかるんだよね? だったら、なんでアイツは、あんなに一気に増えたわけ?」
昨日はスケスケの、お世辞にも生地が多いとは言えないベビードールだった。それが今日、逆転していた。そこまでおれが魔法を使った記憶はないし、自然回復だというのであれば、あまりにも不自然。
マウシーは短い腕を組むようなそぶりの後、押し黙った。言葉を捜しているようにも見える。
「言っていいも?」
「なにか知ってるなら教えてくれないと、困る」
「も……。セーエキが注がれたも、たぶん」
「シェーキ? ミルクセーキのこと?」
ぬいぐるみの口から、物騒な一文が飛び出した。そんな気がしたけど、たぶん聞き間違いだろう。
「違うも。みーぽんが精液を介して魔力を吸収したんだも」
「ヤっちゃった、と?」
生々しい光景を想像してしまって、いやになった。でも、仕方ないか。あんな格好で街をうろうろしていたら、そんな風になっても。
そう、そこらの誰かに襲われたんだろうと思っていた。マウシーに次の言葉を聞くまでは。
「相手は、かなり濃い魔力の持ち主だも。一緒にいたあの男の人で間違いないも」
いつも以上に授業に身が入らなかった。先生の声も聞こえない。
斜め前のナツの背中。おれは男だし、親友に彼女ができることは、たぶん、喜ばしいことなんだ。それなのに、素直に喜べない。胸の奥のほうがもやもやして、もどかしい。
見つめていると、ナツが急に首をひねった。凝視しているのがばれたかと思ったけど、そうではなかったらしい。二つ横の席の里井となにやらアイコンタクトを交わしている。
里井は粗雑な性格だからともかく、ナツは交友関係が狭いとはいえない。特におれとは小学校からの付き合いだし、親しいつもりでいた。なのに、ここ数日の二人の様子はおかしかった。
おれが話しかけようとしても振り切られる。休み時間もこそこそと何かをしゃべっているし、連れ立ってどこかに行くこともあった。その割りには、深刻な相談をしている風情でもない。
口の悪いクラスメイトは、ホモだホモだと盛り上がっていた。それぐらい、その姿は露骨で異質だった。
チャイムが鳴るなりナツが立ち上がった。里井の方に向かおうとしたところを引き止める。一言、言ってやらないと。
「ちょっと、いいか?」
「何だよ。大した用事じゃないなら」
「ナツ」
さえぎってじっと目を見る。おれが真剣だと通じたみたいだった。里井に何か目配せをしてから、おれについてくる。人がいないところで、話がしたかった。
「それで?」
非常階段に続く扉の前。底冷えはするけど、人の影はない。真面目な話をするときなんかには、ちょうどいい。
「最近おかしいよ」
「いきなり何をバカなことを……。お前までホモだなんだって言うのかよ」
その声音はいらだちをはらんでいた。気にしない顔をしていても、実際にはストレスがたまっているのだろう。でも、そんなうわさが流れること自体が異常だと気づけない時点で、そこにいるのはいつものナツじゃなかった。
「そんなこと、言ってない。おれはただ、お前と里井の関係があまりにも不自然だって」
「あいつは!」
激昂した。おれは特に、変なことを指摘したつもりはない。長年当たり前にしていたことに文句をつけられたら、腹も立つ。だけど、ここ数日の間だ。ナツにだっておかしいことが、わからないとも思えない。
里井はいままで、ずっとすさんだ目をしていた。言葉遣いや態度の荒さも、際立っていた。だから嫌いだ。
それが多少なりともやわらいだのは、この二日ほど。二人が急に親密になったのも、ちょうどそのぐらいだった。なにかあるのは一目瞭然。それを知りたい。今までそんなことはなかったのに、ナツに秘密があるのがおもしろくない。
「あいつは、なに?」
ナツはうつむいたまま、黙ってしまった。どうしたもん、かな。ナツは里井と仲良くしたくて、それをおれが邪魔する。意地悪をしているつもりはないんだけど、このままじゃ、おれが悪者になってしまう。
「……いろいろあるんだよ」
おれには言えない、ってか。ますますもって、おもしろくない。あいつとナツが関係を築くことが、無性にイヤだ。
自分でもどうしてこんな気持ちになるのかわからないけど、ナツがだれかとしゃべってるのが、気に入らない。べったりなのを見ると、胸の中からどす黒い感情があふれ出てくる。昨日不意打ちをかけたときと同じ気分。ナツがかばうとなると、それも余計に激しくなった。
「そうか、そうか。おれよりあいつのことが、そんなに好きなのかよ!」
勝手に顔が引きつった。ナツも同様だ。
こんなこと、言うつもりはなかった。ただ、ナツが心配だっただけなのに。
「……そんなくだらない用事なら、話しかけないでくれ。じゃあな」
ナツが去っていく。呼び止めたいのに、言葉が出てこない。
ポケットに手を入れると、リボンが指に触れた。こんなもの、なければ、おれとナツはうまくやって行けてたのに。いや、それよりも、みーぽん。アイツさえ、倒してしまえば、もっと……。
変身したおれは、なぜだか学校指定の水着を身に着けていた。名札には、クラスの下にわざわざ“レイにゃん”と書かれている。恥ずかしい。これが魔力の足りていない証拠だとすると、おれに勝ち目なんてない様に思えてしまう。

昨日の敗因は、遠すぎたこと。だから、みーぽんが変身する時間があった。
変身と結界はイコールではない。だから、ずっと隠れていても、結界が張られる心配はない。だったら通り道で待ち伏せして、アイツが構える前に襲ってしまえばいい。そう結論付けた。
「レイにゃん、正攻法で行くべきも」
「うっさい」
「どんどん性格が悪くなって行ってるも?」
仕方ないじゃないか。ずっとイライラするんだから。おれだってこんなことしたくないけど、いまさら止められない。
「そんなのじゃ、好きな人も振り向かないも」
「うるさい!」
お互いににらみ合う。おれだって、おれだって、わかってる。もう勝ち目が薄いことだって。だからって、何もしないなんて、できない。ナツを取り返すためなら、おれはなんだってする。そう、決めたんだ。
目をそらしたのは、こちらが先だった。定期的に気配を探ってたから、大きな魔力がゆっくりと近づいてきているのはわかっていた。それが、すぐ、間近にいる。マウシーにかまっている場合じゃない。
あと少し……まだ、我慢。三歩、二歩、一歩、今!!
「てぇえい!」
気合とともに飛び出し、杖を振り下ろす。相手は悲鳴をあげて、地面に転がる。その姿は……。
「ナ、ツ?」
<つづく>
1000万ヒット記念投稿TS小説 とらいある・とらいあんぐる(8) 作.うずら 挿絵.春乃 月
<8>
三十分ほど経っただろうか。ふらふらと商店街をさまよっていた二人が、ようやく立ち止まった。どうやら、そこで分かれるみたい。
そっとみーぽんの方から近寄った。目を閉じて、上を向く。ナツが抱きしめて、軽く、だけどたしかに口付けをした。胸が苦しくなる。なんで今、あそこにいるのはおれじゃないんだろう。だから、はやく勝って、おれが……。
一人になったみーぽんはくねくねと道を曲がり、団地の中に入っていく。道は暗く、人はいない。……もう、いいころかな。ナツの邪魔も入らないだろうし。
楽しそうな光景を見せ付けられたんだ。ちょっとぐらいひどいこと……してもいいよね。
「そういうの、やめたほうがいいも」
「うっさい」
「むやみに力を振りかざすのはよくないも」
リボンを取り出すときに、マウシーに文句をつけられた。当然、無視。元はといえば、自分が撒いた種なのに、いまさらだ。
今回は手助けを借りなくても、いい感じにリボンをつけられたみたいだった。とたんにピンク色の空間に包まれる。
身体の変化が終わり、服がはじけた。いままでのショーツだって面積が大きかったとは言いがたいけど、今度はそれ以上だった。
白黒チェックなのは変わらないけど、限界に挑戦したかのように、ローライズだった。当たっている感触からして、お尻も半分は出ているだろうことがわかる。当然のごとく、ブラジャーも小さい。全面カバーしていたのが、ギリギリ乳首が見えないぐらいになっている。
服の方も、いっそう布地が少なくなった。パフスリーブは残っているけど、そこから首にかけてあったはずのブラウスが完全になくなっていた。そのせいで胸元の編み上げ部分から、わずかなふくらみがブラとともに露出している。
スカートはお尻の辺りから、レース状に。はっきりとは見えないだろうけど、下着も肌も透けている。ニーソックもハイソックスぐらいの長さにまで、短くなってしまった。
くるりと杖を回して世界が戻る。とたんに、激しい羞恥心にかられた。
だれもいない。だれもいないんだ。頭の中で強く念じて、前を歩くみーぽんに狙いを定めた。遠くから聞こえていた電車の音もざわめきも消えた。結界が張られたんだ。同時にみーぽんの足も止まる。気がつかれた? かまうもんか。
ビームを撃つイメージ。ゲームやアニメなんかで、よくある。大丈夫、やれる。
杖が輝き、光が収束していく。
「いっけぇっ!」
叫びとともに、凝縮された光が解き放たれた。発射の反動で数メートル後ろに転がった。
上半身を起こしてその場に座り込む。煙が立ち昇り、視界は最悪だ。だけど、これでおれの勝ち、だよね。自然と笑いがこみ上げてきた。
「ははっ、ははは……」
「もう、悪い子っ」
「へ?」
こつんと後頭部を小突かれる。この数日間、何度も聞いた声。恐る恐る、振り返る。
おれの格好と対を成すように純白である以外は、同じような格好だった。ただ、ちゃんと胸は隠れているし、スカートも透けていない。要するに、まっとうな服。なんで、なんで無事なの?
「じゅんじゅん、どうしたも。みーぽん、急に魔力があがってるも」
「外部から供給されたみたいじゅん」
「ということはアレかも?」
「じゅん」
外野がなにか話している。気になるけど、それよりも今は目の前の少女が怖かった。にこやかな分、不気味。
「さっきので終わり? だったら、私の番ってことでいいかな?」
「ま、まだまだっ!」
飛び退って、地面についた反発で飛び掛った。振り下ろした杖を簡単に受け止められる。なんで、昨日は通じたのに!
みーぽんが繰り出す杖も防ぐことはできる。でも、重い。
打ち合うたびに、手が痺れる。短期決戦ならまだなんとかなったかもしれない。だけど、今のままじゃ……。こんなやつに、ナツが取られて……。
気がそれたせいなのか。攻撃を防ぎきれずに、塀にたたきつけられてしまう。
「今回はわたしの勝ち、だね?」
目の前に宝石が突きつけられる。くやしい。今まで負けなかったのに。ぽろぽろと涙がこぼれた。
「ぅう……」
「ああ、泣かないで。よしよし」
この撫でてる手がナツのなら、よかったのに。振り払うと、ちょっとむっとした様だったけど、ひとつアドバイスをしてくれた。
「もうっ……。あ、そろそろ結界が解けちゃうから、早く戻ったほうがいいんじゃない? そのカッコ、見られたらケーサツにつかまっちゃうよ」
子供みたいな扱いには文句を言いたかったけど、たしかにその通りだった。部屋を、部屋を頭に描く。おれは今、自室にいる。
風景がゆがみ、クリアになったときにはベッドの上だった。完全にぬいぐるみになったマウシーもいっしょだ。カーテンを閉め、鍵をチェックする。すでに恒例行事みたいになっている。
「負けちゃった……」
どうしよう。これでナツを取り戻せると思ったのに。ほかにもツレはいるけど、あいつだけはずっといっしょで、特別なんだ。なのに……。
ぼうっとしていると、鏡が目に入った。あ、元に、戻らないと。
「はぁ、ほんと、どうしよ」
ため息をついたとき、男の人が後ろからだきついてきた。大きくて、包み込まれるというよりもつぶされそう。
今日は一段とエッチな格好だな。
その人が耳元でささやく。否定はできなかった。上も下も、完全に下着が見えているうえに、それが明らかにふつうの形状ではない。
今度は両方ともいっしょにやってみようか。
「い、いっしょって……」
ほら、こうやって。
男にわたしの手が誘導させられる。右手は胸に、左手は股間に。
好きなようにいじってごらん。ああ、この前のローション、欲しかったらつかっていいよ。エッチが好きな女の子には、ぴったりだろう?
「いらないもんっ」
そんなの、いらない。わたしはヘンタイじゃない。そりゃ、ぬるぬるはきもちよかったけど……。
乳首やその周りを愛撫したり、割れ目に触れてみたり。だけど、全然気分が高まってこない。
やっぱり、みーぽんに負けたのが原因? それとも、ナツくんのキスシーンなんて見ちゃったのが……。付き合ってるのかな、あの二人。エッチなこととかも、しちゃったり、するのかな。
手が留守になってるよ。集中しないと、元に戻れないぞ。
「ご、ごめんなさい」
いっそ、それでもいいかも、なんて。だって、そしたら、ナツくんにアタックできるし。でも、わたし、みーぽんみたいにおっぱいないし、子供っぽいし、うぅー。
しょうがない。おれがやってやるよ。
いろいろ考えていると、男の人が勝手に引き出しを開けて、ローションとローターを取り出した。
「や、やだ」
やだじゃない。ちゃんとしなかったお仕置きだ。
ぬるぬるして冷たい液体を、股間にぬりたくられる。いやなのに、この間のことを思い出して、身体が熱くなってきた。指でいじられると、勝手に反応してしまう。
「あっ、はぁっ」
すぐにその気になったな。やっぱりお前は淫乱だ。こんなに小さいのに、カラダをくねらせて。見てみろよ、鏡。
乱暴な声が聞こえる。ぜんぜん知らなかったのに、毎日されてたら、変にもなるよ。言えないけど、そう思う。
「だめ、いやなのっ」
口だけではなんとでも言えるよな。じゃあ、これはどうだ?
低い音を響かせたローターが乳首に当てられる。触れるか触れないかの微妙なところ。それといっしょに、下もさわさわとなでられて。
「ひぁっ、ごめ、なさいっ」
何がかな? ちゃんと言わないと、わからないぞ。
両手の動きがはやくなる。こんな、知らない男にいかされる。やなのに、ナツくんがいいのに。
「きもちいい、きもちいいのっ、だから、ゆるしてぇ!」
許すもなにも、気持ちいいならいいじゃないか。それに、半端にとめられるのも、イヤだろう?
そう言って、男は指をわたしの中にもぐりこませた。さんざんじらされていたせいか、いっしゅんでわたしは飛んでしまった。
「ひゃぁん、だめぇ、いっちゃぅ、ああぁぁんっ!」
<つづく>
三十分ほど経っただろうか。ふらふらと商店街をさまよっていた二人が、ようやく立ち止まった。どうやら、そこで分かれるみたい。
そっとみーぽんの方から近寄った。目を閉じて、上を向く。ナツが抱きしめて、軽く、だけどたしかに口付けをした。胸が苦しくなる。なんで今、あそこにいるのはおれじゃないんだろう。だから、はやく勝って、おれが……。
一人になったみーぽんはくねくねと道を曲がり、団地の中に入っていく。道は暗く、人はいない。……もう、いいころかな。ナツの邪魔も入らないだろうし。
楽しそうな光景を見せ付けられたんだ。ちょっとぐらいひどいこと……してもいいよね。
「そういうの、やめたほうがいいも」
「うっさい」
「むやみに力を振りかざすのはよくないも」
リボンを取り出すときに、マウシーに文句をつけられた。当然、無視。元はといえば、自分が撒いた種なのに、いまさらだ。
今回は手助けを借りなくても、いい感じにリボンをつけられたみたいだった。とたんにピンク色の空間に包まれる。
身体の変化が終わり、服がはじけた。いままでのショーツだって面積が大きかったとは言いがたいけど、今度はそれ以上だった。
白黒チェックなのは変わらないけど、限界に挑戦したかのように、ローライズだった。当たっている感触からして、お尻も半分は出ているだろうことがわかる。当然のごとく、ブラジャーも小さい。全面カバーしていたのが、ギリギリ乳首が見えないぐらいになっている。
服の方も、いっそう布地が少なくなった。パフスリーブは残っているけど、そこから首にかけてあったはずのブラウスが完全になくなっていた。そのせいで胸元の編み上げ部分から、わずかなふくらみがブラとともに露出している。
スカートはお尻の辺りから、レース状に。はっきりとは見えないだろうけど、下着も肌も透けている。ニーソックもハイソックスぐらいの長さにまで、短くなってしまった。
くるりと杖を回して世界が戻る。とたんに、激しい羞恥心にかられた。
だれもいない。だれもいないんだ。頭の中で強く念じて、前を歩くみーぽんに狙いを定めた。遠くから聞こえていた電車の音もざわめきも消えた。結界が張られたんだ。同時にみーぽんの足も止まる。気がつかれた? かまうもんか。
ビームを撃つイメージ。ゲームやアニメなんかで、よくある。大丈夫、やれる。
杖が輝き、光が収束していく。
「いっけぇっ!」
叫びとともに、凝縮された光が解き放たれた。発射の反動で数メートル後ろに転がった。
上半身を起こしてその場に座り込む。煙が立ち昇り、視界は最悪だ。だけど、これでおれの勝ち、だよね。自然と笑いがこみ上げてきた。
「ははっ、ははは……」
「もう、悪い子っ」
「へ?」
こつんと後頭部を小突かれる。この数日間、何度も聞いた声。恐る恐る、振り返る。
おれの格好と対を成すように純白である以外は、同じような格好だった。ただ、ちゃんと胸は隠れているし、スカートも透けていない。要するに、まっとうな服。なんで、なんで無事なの?
「じゅんじゅん、どうしたも。みーぽん、急に魔力があがってるも」
「外部から供給されたみたいじゅん」
「ということはアレかも?」
「じゅん」
外野がなにか話している。気になるけど、それよりも今は目の前の少女が怖かった。にこやかな分、不気味。
「さっきので終わり? だったら、私の番ってことでいいかな?」
「ま、まだまだっ!」
飛び退って、地面についた反発で飛び掛った。振り下ろした杖を簡単に受け止められる。なんで、昨日は通じたのに!
みーぽんが繰り出す杖も防ぐことはできる。でも、重い。
打ち合うたびに、手が痺れる。短期決戦ならまだなんとかなったかもしれない。だけど、今のままじゃ……。こんなやつに、ナツが取られて……。
気がそれたせいなのか。攻撃を防ぎきれずに、塀にたたきつけられてしまう。
「今回はわたしの勝ち、だね?」
目の前に宝石が突きつけられる。くやしい。今まで負けなかったのに。ぽろぽろと涙がこぼれた。
「ぅう……」
「ああ、泣かないで。よしよし」
この撫でてる手がナツのなら、よかったのに。振り払うと、ちょっとむっとした様だったけど、ひとつアドバイスをしてくれた。
「もうっ……。あ、そろそろ結界が解けちゃうから、早く戻ったほうがいいんじゃない? そのカッコ、見られたらケーサツにつかまっちゃうよ」
子供みたいな扱いには文句を言いたかったけど、たしかにその通りだった。部屋を、部屋を頭に描く。おれは今、自室にいる。
風景がゆがみ、クリアになったときにはベッドの上だった。完全にぬいぐるみになったマウシーもいっしょだ。カーテンを閉め、鍵をチェックする。すでに恒例行事みたいになっている。
「負けちゃった……」
どうしよう。これでナツを取り戻せると思ったのに。ほかにもツレはいるけど、あいつだけはずっといっしょで、特別なんだ。なのに……。
ぼうっとしていると、鏡が目に入った。あ、元に、戻らないと。
「はぁ、ほんと、どうしよ」
ため息をついたとき、男の人が後ろからだきついてきた。大きくて、包み込まれるというよりもつぶされそう。
今日は一段とエッチな格好だな。
その人が耳元でささやく。否定はできなかった。上も下も、完全に下着が見えているうえに、それが明らかにふつうの形状ではない。
今度は両方ともいっしょにやってみようか。
「い、いっしょって……」
ほら、こうやって。
男にわたしの手が誘導させられる。右手は胸に、左手は股間に。
好きなようにいじってごらん。ああ、この前のローション、欲しかったらつかっていいよ。エッチが好きな女の子には、ぴったりだろう?
「いらないもんっ」
そんなの、いらない。わたしはヘンタイじゃない。そりゃ、ぬるぬるはきもちよかったけど……。
乳首やその周りを愛撫したり、割れ目に触れてみたり。だけど、全然気分が高まってこない。
やっぱり、みーぽんに負けたのが原因? それとも、ナツくんのキスシーンなんて見ちゃったのが……。付き合ってるのかな、あの二人。エッチなこととかも、しちゃったり、するのかな。
手が留守になってるよ。集中しないと、元に戻れないぞ。
「ご、ごめんなさい」
いっそ、それでもいいかも、なんて。だって、そしたら、ナツくんにアタックできるし。でも、わたし、みーぽんみたいにおっぱいないし、子供っぽいし、うぅー。
しょうがない。おれがやってやるよ。
いろいろ考えていると、男の人が勝手に引き出しを開けて、ローションとローターを取り出した。
「や、やだ」
やだじゃない。ちゃんとしなかったお仕置きだ。
ぬるぬるして冷たい液体を、股間にぬりたくられる。いやなのに、この間のことを思い出して、身体が熱くなってきた。指でいじられると、勝手に反応してしまう。
「あっ、はぁっ」
すぐにその気になったな。やっぱりお前は淫乱だ。こんなに小さいのに、カラダをくねらせて。見てみろよ、鏡。
乱暴な声が聞こえる。ぜんぜん知らなかったのに、毎日されてたら、変にもなるよ。言えないけど、そう思う。
「だめ、いやなのっ」
口だけではなんとでも言えるよな。じゃあ、これはどうだ?
低い音を響かせたローターが乳首に当てられる。触れるか触れないかの微妙なところ。それといっしょに、下もさわさわとなでられて。
「ひぁっ、ごめ、なさいっ」
何がかな? ちゃんと言わないと、わからないぞ。
両手の動きがはやくなる。こんな、知らない男にいかされる。やなのに、ナツくんがいいのに。
「きもちいい、きもちいいのっ、だから、ゆるしてぇ!」
許すもなにも、気持ちいいならいいじゃないか。それに、半端にとめられるのも、イヤだろう?
そう言って、男は指をわたしの中にもぐりこませた。さんざんじらされていたせいか、いっしゅんでわたしは飛んでしまった。
「ひゃぁん、だめぇ、いっちゃぅ、ああぁぁんっ!」
<つづく>
1000万ヒット記念投稿TS小説 とらいある・とらいあんぐる(7) 作.うずら 挿絵.春乃 月
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うずらさんのHP 春乃さんのHP
<7>
どうやら、一眠りしていたらしい。目を覚ましたら男に戻っていたけれど、憂鬱な気分は変わらない。幸い、家族はまだ帰っていない様で、声を荒げるたとしても気兼ねはない。マウシーを問い詰めるにはいい機会だった。
枕の上にちょことんと腰をかけているぬいぐるみと向かい合う。
「どうして結界の中に、ナツが……一般人がいたのかな」
「知らないも」
にべもなかった。答えがわからなくても考えるとか、可能性がありそうなことを言うとか、あるだろうに。頭にそっと手を添えて、もう一度確認する。
「本当に思い当たる節は何もない?」
「うう、怖いも。でも、ないものは……」
言いかけて固まった。どうも何やら思い出したみたいだ。そのまましばらく沈黙が続いた。時計の秒針の音が、やけに耳につく。
「まずありえない、も」
それでもいいからと促すと、しぶしぶといった風情で話しはじめた。いつもみたいにすれ違わないようにという配慮なのか、わかりやすい説明だった。できるなら、最初からそうだったらありがたいけど。
「たとえば、たとえばも。レイにゃんが壁を破ろうと思ったら、どうするも?」
「ドリルとか、ハンマーとか、そういった道具を使う、かな」
「そういうことだも。結界を魔法で作られた壁だと思えばいいも。普通は見えないけど、物体を隔離するという機能は変わらないも。じゃあ、破るにはどうすればいいも?
これは禅問答なのかな。ツッコミを入れる前に、マウシーが続けた。
「さっきレイにゃんが言ったとおりだも。それより強いなにかをぶつける。さっきの男の人がドリルだも」
せっかく順序だててくれてるのに、意味がつかめなかった。ナツがドリル?
反芻するたびに、だんだんとマウシーの言葉が、頭の中でこんがらがってきた。このままだといつものペースになってしまう。混乱する前に、話の流れを止める。
「つまり、どういうこと?」
「も?」
「あー、と……」
微妙な沈黙が二人を流れた。たぶん、マウシーにはおれがなにを理解できていないのか、通じてない。でも、おれは逆に、どう説明すればいいのかわからなかった。
「ナツが、魔法の壁より、強い?」
「そうとしか思えないも。ルールに則って結界は作られるも。今まで、それがイレギュラーを起こしたことはなかったも。かなり強い魔力を持った人間がその場にいた、としか考えられないも」
「そういうこと、ね」
ナツの魔力が高い。ようやく合点がいった。最初からそう言えばいいのに。まあ、今回は伝わるよう努力してただけ、マシかな。
「でも、おかしいも。本来、そこまでの力を持ちあわせているのは女性だけだも」
「……もしかして、だから、おれもあんな姿に?」
「も」
これについても、ようやく納得できた。いや、できたかどうかは微妙だけど、なぜあんな格好なのかはわかった。
まあ、でも、これもあと一回の辛抱のはず。二回とも楽勝だったんだし、次で勝ち越しを決めてしまおう。そうすれば、この変なぬいぐるみとも、縁が切れるわけだし。
「ナツ、この後さ」
「あ、悪い。ちょっと里井と用事があるから」
それでなくても、授業ごとの休み時間に昼休みまで、二人はべったりだった。里井があまりうるさくなかったから、悩みの相談でもしているのかもしれないけど、気に入らない。帰りにもって、ほんと、どうかと思う。
一人で帰ろうとカバンをつかんだところに、わざわざナツが戻ってきた。
「なに?」
「あいつのこと悪く言ってるけど、いいやつなんだぞ、ホント。口調は雑だけどさ」
それだけで、すぐ後ろを向いた。去っていく後姿が、無性におれをいらだたせる。恋人かっての。
だいたい、おれもおれだ。なんでこんなにムカついてるんだ。それこそ嫉妬……。なんて、そんなわけない。男になんて興味はない。そう、ただ、ナツがつるんでる相手が悪いんだ。
膨れ上がったストレスを解消するためか、足は自然とゲーセンに向かった。中に入るなり、電子音やら音楽やらがあふれ出してくる。ここだって、本当ならナツと来た方がおもしろいのに。
格闘ゲームをやったり、ガンシューティングをやったり。なにをしても、結果は最悪だった。このままじゃ憂さを晴らすつもりが、余計に鬱憤が溜まるだけ。さっさと見切りをつけて店を出た。
そのままふらふらと人の多い街をうろつく。ふと、目に付く物を見つけて立ち止まった。
イラスト2
ショーウィンドウに飾られた、白い服。ふりふりしているのは同じだけど、おれのはここまで露骨に乙女を強調していない。黒いせいか、もっとシックな感じだった。でも、こんな服を着られたら……。
「変じゃない、かな?」
「ああ、大丈夫」
「それだけ?」
「ははっ、かわいいよ、黎。すごく似合ってる」
ナツがなでなでしてくれる。
そんな夢想の途中で我に帰った。あのまま突き進んでいたら、はぅん、なんて声が口からこぼれていた。完全に思考が毒されてる。コレも全部、あの露出狂と里井のせいだ。むかつく。
後ろ髪を引かれながら、店の前からゆっくりと離れる。と、店の名から出てきた人とぶつかりそうになる。おれも相手もなんとかその場に踏みとどまった。
全身ベビーピンク。ケープも、ブラウスも、大きく広がったスカートも。底の厚いブーツさえも。
おれも、着てみたい。そんな欲求が首をもたげるのを押さえつけ、とにかく謝っておく。
「すみません」
「いえ、その、わたし」
途中で言葉を切られた。何があったのか、口が半開きでかたまっている。マスカラで際立たせている目が、余計に大きく開かれていた。
服も全然違うし、化粧をしているせいで、わからなかった。じっくりと観察して、相手がみーぽんだと、ようやく気がついた。
「そのっ、失礼します」
「あっ、おい!」
あいつにもバレたのかも。するりと脇を通って行ってしまった。
いや、でも、おれの変身前の姿を知っているとは、思いづらい。たしかに最初は狙撃された。けど、その後、おれが相手の位置を探したときには、ぼんやりと見えていただけだった。顔の形や服装なんかは、全然わからなかった。
ということは、普段の知り合い? それもない。もしかしたら全学年探せばいるのかもしれないけど、記憶になかった。少なくともクラスはいっしょになったことがない。であれば、なんで逃げるんだろう。
逃げる……? ああ、そうだ。なにもいつもおれが守りに回る必要はないんだった。こっちから攻めても、いいんだよ。
小走りだけど、まだ姿は視界の中にある。後をつけて、人通りが少なくなってから変身しよう。ストーカーじみたまねをするのは、好きじゃないけどね。
特に不自然のないように、焦らずゆっくりとついていく。この方向だと、駅に向かってるのかも。だとすると、面倒だ。
電車に乗られてしまうと、あきらめるしかないかもしれない。その前に襲うには、人が多い。変身のためにリボンを取り出すのもはばかられる。
ただ、予想に反してそうはならなかった。それ以上に悪くなった、と言えるかもしれない。駅で彼女を待っていたのは、ナツだった。気安げに手をあげたのを見て、みーぽんが走り寄った。
幸せそうな顔。二人はそのまま手をつないで歩いていく。さっきまで収まりかけていたイライラが、また昂ぶってくる。すでに憎悪とでも読んだほうがよさそうだ。自分の中にこんな激しい感情があるなんて、知らなかった。
完全に自分たちの世界を作り上げている二人の後をついていく。こんなにじっと見ていたら、どちらかが振り返りそうなのに、それもない。
この行為にどれだけの意味があるんだろう。じくじくと治りきらない傷口に、指をつっこんでいる。そんな自虐的な行為に思えた。
でも、それを今日で、今日だけで終わらせるんだ。
<つづく>
うずらさんのHP 春乃さんのHP
<7>
どうやら、一眠りしていたらしい。目を覚ましたら男に戻っていたけれど、憂鬱な気分は変わらない。幸い、家族はまだ帰っていない様で、声を荒げるたとしても気兼ねはない。マウシーを問い詰めるにはいい機会だった。
枕の上にちょことんと腰をかけているぬいぐるみと向かい合う。
「どうして結界の中に、ナツが……一般人がいたのかな」
「知らないも」
にべもなかった。答えがわからなくても考えるとか、可能性がありそうなことを言うとか、あるだろうに。頭にそっと手を添えて、もう一度確認する。
「本当に思い当たる節は何もない?」
「うう、怖いも。でも、ないものは……」
言いかけて固まった。どうも何やら思い出したみたいだ。そのまましばらく沈黙が続いた。時計の秒針の音が、やけに耳につく。
「まずありえない、も」
それでもいいからと促すと、しぶしぶといった風情で話しはじめた。いつもみたいにすれ違わないようにという配慮なのか、わかりやすい説明だった。できるなら、最初からそうだったらありがたいけど。
「たとえば、たとえばも。レイにゃんが壁を破ろうと思ったら、どうするも?」
「ドリルとか、ハンマーとか、そういった道具を使う、かな」
「そういうことだも。結界を魔法で作られた壁だと思えばいいも。普通は見えないけど、物体を隔離するという機能は変わらないも。じゃあ、破るにはどうすればいいも?
これは禅問答なのかな。ツッコミを入れる前に、マウシーが続けた。
「さっきレイにゃんが言ったとおりだも。それより強いなにかをぶつける。さっきの男の人がドリルだも」
せっかく順序だててくれてるのに、意味がつかめなかった。ナツがドリル?
反芻するたびに、だんだんとマウシーの言葉が、頭の中でこんがらがってきた。このままだといつものペースになってしまう。混乱する前に、話の流れを止める。
「つまり、どういうこと?」
「も?」
「あー、と……」
微妙な沈黙が二人を流れた。たぶん、マウシーにはおれがなにを理解できていないのか、通じてない。でも、おれは逆に、どう説明すればいいのかわからなかった。
「ナツが、魔法の壁より、強い?」
「そうとしか思えないも。ルールに則って結界は作られるも。今まで、それがイレギュラーを起こしたことはなかったも。かなり強い魔力を持った人間がその場にいた、としか考えられないも」
「そういうこと、ね」
ナツの魔力が高い。ようやく合点がいった。最初からそう言えばいいのに。まあ、今回は伝わるよう努力してただけ、マシかな。
「でも、おかしいも。本来、そこまでの力を持ちあわせているのは女性だけだも」
「……もしかして、だから、おれもあんな姿に?」
「も」
これについても、ようやく納得できた。いや、できたかどうかは微妙だけど、なぜあんな格好なのかはわかった。
まあ、でも、これもあと一回の辛抱のはず。二回とも楽勝だったんだし、次で勝ち越しを決めてしまおう。そうすれば、この変なぬいぐるみとも、縁が切れるわけだし。
「ナツ、この後さ」
「あ、悪い。ちょっと里井と用事があるから」
それでなくても、授業ごとの休み時間に昼休みまで、二人はべったりだった。里井があまりうるさくなかったから、悩みの相談でもしているのかもしれないけど、気に入らない。帰りにもって、ほんと、どうかと思う。
一人で帰ろうとカバンをつかんだところに、わざわざナツが戻ってきた。
「なに?」
「あいつのこと悪く言ってるけど、いいやつなんだぞ、ホント。口調は雑だけどさ」
それだけで、すぐ後ろを向いた。去っていく後姿が、無性におれをいらだたせる。恋人かっての。
だいたい、おれもおれだ。なんでこんなにムカついてるんだ。それこそ嫉妬……。なんて、そんなわけない。男になんて興味はない。そう、ただ、ナツがつるんでる相手が悪いんだ。
膨れ上がったストレスを解消するためか、足は自然とゲーセンに向かった。中に入るなり、電子音やら音楽やらがあふれ出してくる。ここだって、本当ならナツと来た方がおもしろいのに。
格闘ゲームをやったり、ガンシューティングをやったり。なにをしても、結果は最悪だった。このままじゃ憂さを晴らすつもりが、余計に鬱憤が溜まるだけ。さっさと見切りをつけて店を出た。
そのままふらふらと人の多い街をうろつく。ふと、目に付く物を見つけて立ち止まった。
イラスト2

ショーウィンドウに飾られた、白い服。ふりふりしているのは同じだけど、おれのはここまで露骨に乙女を強調していない。黒いせいか、もっとシックな感じだった。でも、こんな服を着られたら……。
「変じゃない、かな?」
「ああ、大丈夫」
「それだけ?」
「ははっ、かわいいよ、黎。すごく似合ってる」
ナツがなでなでしてくれる。
そんな夢想の途中で我に帰った。あのまま突き進んでいたら、はぅん、なんて声が口からこぼれていた。完全に思考が毒されてる。コレも全部、あの露出狂と里井のせいだ。むかつく。
後ろ髪を引かれながら、店の前からゆっくりと離れる。と、店の名から出てきた人とぶつかりそうになる。おれも相手もなんとかその場に踏みとどまった。
全身ベビーピンク。ケープも、ブラウスも、大きく広がったスカートも。底の厚いブーツさえも。
おれも、着てみたい。そんな欲求が首をもたげるのを押さえつけ、とにかく謝っておく。
「すみません」
「いえ、その、わたし」
途中で言葉を切られた。何があったのか、口が半開きでかたまっている。マスカラで際立たせている目が、余計に大きく開かれていた。
服も全然違うし、化粧をしているせいで、わからなかった。じっくりと観察して、相手がみーぽんだと、ようやく気がついた。
「そのっ、失礼します」
「あっ、おい!」
あいつにもバレたのかも。するりと脇を通って行ってしまった。
いや、でも、おれの変身前の姿を知っているとは、思いづらい。たしかに最初は狙撃された。けど、その後、おれが相手の位置を探したときには、ぼんやりと見えていただけだった。顔の形や服装なんかは、全然わからなかった。
ということは、普段の知り合い? それもない。もしかしたら全学年探せばいるのかもしれないけど、記憶になかった。少なくともクラスはいっしょになったことがない。であれば、なんで逃げるんだろう。
逃げる……? ああ、そうだ。なにもいつもおれが守りに回る必要はないんだった。こっちから攻めても、いいんだよ。
小走りだけど、まだ姿は視界の中にある。後をつけて、人通りが少なくなってから変身しよう。ストーカーじみたまねをするのは、好きじゃないけどね。
特に不自然のないように、焦らずゆっくりとついていく。この方向だと、駅に向かってるのかも。だとすると、面倒だ。
電車に乗られてしまうと、あきらめるしかないかもしれない。その前に襲うには、人が多い。変身のためにリボンを取り出すのもはばかられる。
ただ、予想に反してそうはならなかった。それ以上に悪くなった、と言えるかもしれない。駅で彼女を待っていたのは、ナツだった。気安げに手をあげたのを見て、みーぽんが走り寄った。
幸せそうな顔。二人はそのまま手をつないで歩いていく。さっきまで収まりかけていたイライラが、また昂ぶってくる。すでに憎悪とでも読んだほうがよさそうだ。自分の中にこんな激しい感情があるなんて、知らなかった。
完全に自分たちの世界を作り上げている二人の後をついていく。こんなにじっと見ていたら、どちらかが振り返りそうなのに、それもない。
この行為にどれだけの意味があるんだろう。じくじくと治りきらない傷口に、指をつっこんでいる。そんな自虐的な行為に思えた。
でも、それを今日で、今日だけで終わらせるんだ。
<つづく>
1000万ヒット記念投稿TS小説 とらいある・とらいあんぐる(6) 作.うずら 挿絵.春乃 月
<6>
結界が解かれる前に、家にたどりついた。窓から入り込んで、ドアに鍵をかける。カーテンも閉めて、これで誰にも見られない。
ため息混じりにマウシーを見ると、案の定、布の塊になってしまっていた。
さっきのことを思い出す。ナツの声が頭に響く。
今の姿とおれとは、結びつくはずがない。それなのに、なんでこんなにショックなんだろう。恥ずかしいっていう点では、昨日みたいに大勢に見られるほうが恥ずかしい。だけど、ここまで憂鬱な気持ちになることはなかった。
家の外を車が通る音で我に帰った。どうやら、世界が動き出したらしい。
家の中には誰かがいる気配はない。とにかく今は男に戻らないと。
どくんどくんと胸が高鳴る。魔力の補充のためだ、これは、仕方のないこと……儀式みたいなものなんだ。
ブーツを脱ぐのがもどかしい。ベッドに寝転んで、そっとスカートをめくる。白黒チェックのショーツが姿をあらわす。トランクスとは違い、するするしていてなでるときもちがいい。
お前もそうなんだろ?
「そ、そんなこと、ない」
へぇ、それは残念。でも、その割には顔が赤くなってない? それに、息も荒いよ。
少女が首を振って否定する。そんなことをしても、たまにぴくぴくと動くカラダが本当のことを教えてくれるから意味はないのに。
あ、もしかして、濡れてきたのかな、これ。ちょっと撫でられただけで、気持ちよくなっちゃうんだね。
「ちが、ちがうってば」
そうなんだ? じゃあ、もしかして……おもらしとか?
そう言ってやると、少女は先ほどよりもいっそう顔を赤くした。きゅっとにらみつけてくる目に力がこもっている。
冗談だって。わかってるよ。えっちな女の子が嫌いな男なんていないんだから、そんなに心配しなくても大丈夫だよ。
「だ、だって、感じすぎちゃう、から」
そんなところもかわいいよ。あ、触ってないのにもっと濡れてきたみたいだ。かわいいって言われるのが、うれしいのかな?
「ぁ、言わないで、よぉっ」
手を動かすのをやめる。モノ欲しそうな顔で、少女が顔を上げた。強気そうな顔立ちに、不安そうな色が見えるのが実にイイ。
机の引き出しに、ああ、そう。そこにプレゼントが入っているから、あけてみて。
気だるげに、少女が机をあさる。見つけたみたいだ。ぎょっとしたように固まった。
「こ、れ……」
細い指でつまみあげたのは、鶉の卵大のピンクの塊。そこから伸びた線に、四角い箱がつながっている。
ローター。知らない?
「そんなわけないでしょっ」
少女がふてくされたように、言い放った。視線がうろうろとさまよっている。本当は知らないのか、知っているから戸惑っているのか。その判断は難しい。だから、けしかける。
使ってみようか。
「え……わたし、が?」
ほかに誰もいないよ。それとも怖いのかな。ああ、いいよ、それなら。
「や、やればいいんでしょ、やれば!」
しばらくの間、うぅっとうなっていたが、意を決したみたいだ。ゆっくり股間に近づけていく。
当たるか当たらないかというところで、カチリとスイッチが入った。少女がローターを取り落とす。ベッドに転がり、振動音が静かな部屋に響く。
どうしたの? やっぱりやめる?
「ち、ちがうわよ。ちょっと驚いただけだもの」
じゃあ、続きをどうぞ。
おれの言葉に、顔をしかめる。口調とは裏腹に、やっぱり恐怖感もあるんだろう。先ほど同様、いや、それ以上にじれったい動きでスカートの中へと手を進める。
やがて、湿りきったショーツに、塊が押し当てられた。
「ぁっ、これ……んんっ、なんかヘン……っ」
荒い息と、モーターの音と、押し殺したような声。当てては離し、離しては当ててを繰り返している。
そんなので満足できるのかな。
「だ、だって、ほかにどうすれば」
入れてみたら、どう?
少女の動きが完全に止まる。じっとピンクの物体を見つめ、息を吐いた。
無言のまま、ショーツに手をかける。膝の辺りまでずらされ、誰にも汚されたことのない肌があらわになった。濡れてはいるけど、割れ目はぴったりと閉じられている。
さあ、指で開いて。
「う、うん」
左手で作った隙間に、右手が近づいていく。押し当てられた瞬間、つるりと中に滑り込んだ。もっと抵抗があるかと思ったのに。
「ひあぁんっ!」
スイッチは切れていたけど、未知の快感に少女は嬌声をあげた。酸素を求める魚のように、しばらく口をぱくぱくさせていた。
落ち着いたころを見計らって、声をかける。
なんだ、そんなに欲しかったんだ。じゃあ、これも。
「ま、待って、いま」
だーめ。
少女の手が伸び、箱に触れる。親指に力が入った。同時にその小さな体躯からくぐもった音が流れ始めた。
「んぁあっ、中、でぇ、ふるえてっ」
気持ちいい? ま、そんな顔してたら、聞かなくてもわかるけど。
「ば、かぁっ」
聞かないでってことだろう。でも、それじゃおもしろくない。ちゃんと自分の口から、自分の言葉で、ね。
そんな口の悪い子には、おしおきが必要かなぁ。
返事がない。ときたまカラダをのけぞらせている。どうもそれどころではないらしい。もう一度、ちゃんと言ってやる。
お・し・お・き。して欲しい?
「ひっ、いらな、もう、だめなのぉっ!」
まだそんな態度を取れるなら、余裕だよね。ほら、自分で出力を上げてみて。
少女が首を振った。さらさらと髪とシーツの擦れ合う音がする。
仕方ないね。おれが手伝ってあげるよ。
「だめぇっ、おねがい、これいじょう、されたらっ」
懇願してくるその顔には、期待の色が見て取れた。嫌がってみせても、明らかに声が違う。とろけきっていた。
スイッチを少女の眼前にさらし、“強”に切り替える。途端にモーターの響きが変わった。
「ふぁ、おなか、中で、あばれて、はぁあんっ」
やっぱり。エッチだね、お前は。
だけど、すでにおれの声は届いていないみたいだった。目をつぶったまま、カラダをくねらせている。
次第に限界が近くなってきたのか、震えが大きくなっていく。ぎゅっとシーツをつかんで、何かに耐えるように叫び声をあげた。
「わたし、ぁあっ、エッチなおもちゃで、いちゃ、あぁあああっ!!」
<つづく>
結界が解かれる前に、家にたどりついた。窓から入り込んで、ドアに鍵をかける。カーテンも閉めて、これで誰にも見られない。
ため息混じりにマウシーを見ると、案の定、布の塊になってしまっていた。
さっきのことを思い出す。ナツの声が頭に響く。
今の姿とおれとは、結びつくはずがない。それなのに、なんでこんなにショックなんだろう。恥ずかしいっていう点では、昨日みたいに大勢に見られるほうが恥ずかしい。だけど、ここまで憂鬱な気持ちになることはなかった。
家の外を車が通る音で我に帰った。どうやら、世界が動き出したらしい。
家の中には誰かがいる気配はない。とにかく今は男に戻らないと。
どくんどくんと胸が高鳴る。魔力の補充のためだ、これは、仕方のないこと……儀式みたいなものなんだ。
ブーツを脱ぐのがもどかしい。ベッドに寝転んで、そっとスカートをめくる。白黒チェックのショーツが姿をあらわす。トランクスとは違い、するするしていてなでるときもちがいい。
お前もそうなんだろ?
「そ、そんなこと、ない」
へぇ、それは残念。でも、その割には顔が赤くなってない? それに、息も荒いよ。
少女が首を振って否定する。そんなことをしても、たまにぴくぴくと動くカラダが本当のことを教えてくれるから意味はないのに。
あ、もしかして、濡れてきたのかな、これ。ちょっと撫でられただけで、気持ちよくなっちゃうんだね。
「ちが、ちがうってば」
そうなんだ? じゃあ、もしかして……おもらしとか?
そう言ってやると、少女は先ほどよりもいっそう顔を赤くした。きゅっとにらみつけてくる目に力がこもっている。
冗談だって。わかってるよ。えっちな女の子が嫌いな男なんていないんだから、そんなに心配しなくても大丈夫だよ。
「だ、だって、感じすぎちゃう、から」
そんなところもかわいいよ。あ、触ってないのにもっと濡れてきたみたいだ。かわいいって言われるのが、うれしいのかな?
「ぁ、言わないで、よぉっ」
手を動かすのをやめる。モノ欲しそうな顔で、少女が顔を上げた。強気そうな顔立ちに、不安そうな色が見えるのが実にイイ。
机の引き出しに、ああ、そう。そこにプレゼントが入っているから、あけてみて。
気だるげに、少女が机をあさる。見つけたみたいだ。ぎょっとしたように固まった。
「こ、れ……」
細い指でつまみあげたのは、鶉の卵大のピンクの塊。そこから伸びた線に、四角い箱がつながっている。
ローター。知らない?
「そんなわけないでしょっ」
少女がふてくされたように、言い放った。視線がうろうろとさまよっている。本当は知らないのか、知っているから戸惑っているのか。その判断は難しい。だから、けしかける。
使ってみようか。
「え……わたし、が?」
ほかに誰もいないよ。それとも怖いのかな。ああ、いいよ、それなら。
「や、やればいいんでしょ、やれば!」
しばらくの間、うぅっとうなっていたが、意を決したみたいだ。ゆっくり股間に近づけていく。
当たるか当たらないかというところで、カチリとスイッチが入った。少女がローターを取り落とす。ベッドに転がり、振動音が静かな部屋に響く。
どうしたの? やっぱりやめる?
「ち、ちがうわよ。ちょっと驚いただけだもの」
じゃあ、続きをどうぞ。
おれの言葉に、顔をしかめる。口調とは裏腹に、やっぱり恐怖感もあるんだろう。先ほど同様、いや、それ以上にじれったい動きでスカートの中へと手を進める。
やがて、湿りきったショーツに、塊が押し当てられた。
「ぁっ、これ……んんっ、なんかヘン……っ」
荒い息と、モーターの音と、押し殺したような声。当てては離し、離しては当ててを繰り返している。
そんなので満足できるのかな。
「だ、だって、ほかにどうすれば」
入れてみたら、どう?
少女の動きが完全に止まる。じっとピンクの物体を見つめ、息を吐いた。
無言のまま、ショーツに手をかける。膝の辺りまでずらされ、誰にも汚されたことのない肌があらわになった。濡れてはいるけど、割れ目はぴったりと閉じられている。
さあ、指で開いて。
「う、うん」
左手で作った隙間に、右手が近づいていく。押し当てられた瞬間、つるりと中に滑り込んだ。もっと抵抗があるかと思ったのに。
「ひあぁんっ!」
スイッチは切れていたけど、未知の快感に少女は嬌声をあげた。酸素を求める魚のように、しばらく口をぱくぱくさせていた。
落ち着いたころを見計らって、声をかける。
なんだ、そんなに欲しかったんだ。じゃあ、これも。
「ま、待って、いま」
だーめ。
少女の手が伸び、箱に触れる。親指に力が入った。同時にその小さな体躯からくぐもった音が流れ始めた。
「んぁあっ、中、でぇ、ふるえてっ」
気持ちいい? ま、そんな顔してたら、聞かなくてもわかるけど。
「ば、かぁっ」
聞かないでってことだろう。でも、それじゃおもしろくない。ちゃんと自分の口から、自分の言葉で、ね。
そんな口の悪い子には、おしおきが必要かなぁ。
返事がない。ときたまカラダをのけぞらせている。どうもそれどころではないらしい。もう一度、ちゃんと言ってやる。
お・し・お・き。して欲しい?
「ひっ、いらな、もう、だめなのぉっ!」
まだそんな態度を取れるなら、余裕だよね。ほら、自分で出力を上げてみて。
少女が首を振った。さらさらと髪とシーツの擦れ合う音がする。
仕方ないね。おれが手伝ってあげるよ。
「だめぇっ、おねがい、これいじょう、されたらっ」
懇願してくるその顔には、期待の色が見て取れた。嫌がってみせても、明らかに声が違う。とろけきっていた。
スイッチを少女の眼前にさらし、“強”に切り替える。途端にモーターの響きが変わった。
「ふぁ、おなか、中で、あばれて、はぁあんっ」
やっぱり。エッチだね、お前は。
だけど、すでにおれの声は届いていないみたいだった。目をつぶったまま、カラダをくねらせている。
次第に限界が近くなってきたのか、震えが大きくなっていく。ぎゅっとシーツをつかんで、何かに耐えるように叫び声をあげた。
「わたし、ぁあっ、エッチなおもちゃで、いちゃ、あぁあああっ!!」
<つづく>
1000万ヒット記念投稿TS小説 とらいある・とらいあんぐる(5) 作.うずら 挿絵.春乃 月
コーナー:うずらの小部屋はこちら
<5>
「ぶえっくしゅ!!」
「派手なくしゃみだなぁ、風邪か?」
ゲーセンにでも行こうと思っていたのに、ナツのやつ、里井の方に行ってしまった。おれがアイツのこと嫌いだって知ってるのに。そう言う度にナツはフォローするけど、おれにはどうしても受け入れられない。
「うっせ」
「お前がバカじゃないって証明になってよかったじゃないか。万年最下位クン」
「ケンカ売ってんのか、てめ」
……帰るか。
下駄箱に向かう最中、急に喧騒が途切れた。放課後の廊下が静かになるなんて、ありえないことだった。物音がしない。もしかして、アレなのだろうか。カバンの中で約束どおりにおとなしくしていたマウシーを取り出す。
「だも」
こちらが尋ねる前に、重々しくうなずいた。どこから取り出したのか、リボンが渡される。自分で付けろ、ってこと?
「変身しないも?」
「するよ。するけど、さぁ」
昨晩の勢いはすでにしぼみかけていた。強制的に変身させられるのなら言い訳もできるけど、能動的にやるとなると……。気が重い。
場所も問題。これで昨日みたいに逃げ遅れたら、どうなるんだろう。学校って、外部の人間のすごく目立つ場所だ。下手をすると、職員室に連れて行かれて……。
でも、結局、変身しないことには、殺されかねないんだよね。矢で撃ってくるような危険な相手だし。
「さあ、変身の言葉を唱えるも」
「は?」
「みらくるレイにゃん爆誕、だも。あ、別にアレンジしてくれてもいいも」
「……必要は?」
「雰囲気も」
いらないってわけね。だったら、言わない。誰もいないってわかってても、こっぱずかしい。無言のまま、頭にリボンをつける。って、あれ……こうか?
「ずれてるも」
「お前の感性が?」
「違うも。リボンの位置と角度も。そんなのじゃ変身できないも。まったく、世話が焼けるも」
肩まで上ってくるなり、耳元でため息をつきましたよ、この牛。校庭に向かって投げつけたくなったけど、我慢我慢。深呼吸をして、気を落ちつかせる。
「これで大丈夫も」
ひょんっとマウシーが飛び降りた。同時にピンク色の光が景色を塗りつぶした。
相変わらず目がちかちかする空間の中で、再び身体が作り変えられる。されるがままに身を任せ、これには慣れるってことがないんだろうな、と思う。
くるりと杖を回転させて、元の世界に戻ってきた。はぁ、またこのふりふり姿で戦うのか。……ってぇ!?
「も?」
服が違う。基本的なスタンスというか、造形はいっしょ。だけど、明らかに布地が少なくなっていた。
袖はふくらんだ肩口がきゅっとしまって、そこで終了。全体的に装飾が簡素になっている。そこまではいい。
問題は下半身。階段状になっているスカートの最後の部分が消え去っていた。膝上何センチと考えるのがすでに馬鹿らしいぐらいだ。ニーソックスとスカートの間の白い肌が、引き立っている。
たぶん、ちょっと動くと、見える。見上げているマウシーからはパンチラどころじゃないはず。昨日空を飛んでいたときので、味をしめたとか?
「……いや、うん。ナンデモナイ」
「変なやつだも」
だからって、わざわざ聞くのも指摘するのも、恥ずかしい。ええい、おれは男だ。ちょっと下着が見えたからって……見えたからって……。
「みーぽん、いたじゅん!」
「てめ、昨日の続きだ、おら! オモテに出ろや!」
ああ……うるさいのが来た。
曲がり角に現れたみーぽんの姿も前とは異なっていた。白いシースルーのベビードールに、これまた白のTバックショーツ。肩紐のフリルが愛らしい。ま、外に出る格好じゃないけど。持っているのも弓ではなく、おれのとよく似た杖。ただし、宝石の色が青色だった。
ぶちのめしてやる、なんて汚い言葉を叫んでいる。人が苦悩してるっていうのに、脳みそ極楽っぽくて、非常に気に食わない。
「こんにちは、ヘンタイさん」
「ぐっ……てめぇだって、スカート短くして、男でも誘ってるんだろ!」
「鏡でも見たら?」
わざとくすくす笑ってみせる。単純なのか短気なのか。五メートルほどの距離を一歩で詰め寄ってきた。スピードはある。でも、それだけ。性格同様の直線的な動きが、実にわかりやすい。横にずれて足を軽く出してやる。
「へゃっ!?」
さすがに転びはしなかったけど、バランスを崩してたたらを踏んだ。自分でもいやらしいと自覚しつつ、さも心配そうにたずねる。
「ごめんねぇ、大丈夫?」
「て、め……」
逆上しているのがすぐわかる。この手のタイプは扱いやすくていい。けど、注意は必要。猪突猛進っていうのは、馬鹿にしつつも警告しているんだと思う。ゲームでも、知力が低い場合は武力が高いってのが相場だし。
要は、正面からぶつからなければ済む話。ちらっとクラスメイトの顔が浮かんだけど、すぐに頭から追い出す。今は戦闘中だ。
油断していたつもりはない。でも、考えに沈んでいたせいか、気がつけば目の前に杖が迫っていた。
「きゃぁ!」
とっさに動いた腕が辛うじて杖を受け止める。壁まで弾き飛ばされて、ようやく止まった。背中と左手がしびれている。利き手じゃなくて、よかった。
「はっ、パンツ丸見えだぜ?」
「露出狂のクセに……」
ぴしっと空気に亀裂が入った。剣呑な雰囲気のまま、にやっと口角をあげるみーぽん。ぽわわんとした顔立ちのせいで、全然似合っていない。ただ、言い草だけが癇に障った。
「ふふん、てめぇみたいなお子様にはできないだろ?」
「だれが!」
「凹凸もなにもねーじゃんか。だからごてごてした服で隠してるんだろう?」
「あ、あるもん!!」
むかつく、むかつくむかつくむかつく。なんでか知らないけど、すごくむかつく。おれは男だし、別にこの身体がどうであれかまわない。そのはずなのに……。
「なにをケンカしてるも?」
「女の闘いに理屈はないじゅん」
観客を決め込んでいる牛にも腹が立つ。でも、目の前の存在ほどではない。昨日みたいに追い払おうと思ってた。でも、それだけじゃ済ませたくない、かな。
イメージしたら、空だって飛べた。だったら……。
勝ち誇っているみーぽんの背後に、低空飛行で回りこむ。とっさに反応ができなかった様だ。振り向こうとしたたときには、おれの足払いが決まっていた。よろめいたところに追い討ちで、床にたたきつける。
「うぐっ」
抵抗されないように杖を弾き飛ばす。分厚い靴底で肩を踏みつけると、ものすごい優越感に浸ることができた。ぞくぞくする。
「みーぽん!」
「レイにゃん、やりすぎだも! もう勝負は」
「うっさい」
そんなのどうでもいい。それよりも、今はこいつのことが――。
「誰か、いるのか?」
「え?」
「うぅ……」
まだ結界は解かれていない。なのに、なんで、ナツがここに?
おれの奇妙な格好に目を丸くし、床で倒れているみーぽんに目をむいた。この状況じゃあ、どう見てもおれの方が悪役だ。現にみーぽんを助けようと、こっちに向かって走ってくる。
「アンタ、何してんだよ!」
「っ」
言われるまでもなかった。こんな姿をナツに見られたくないし、勝負はついたというのであれば、長居の必要もない。マウシーだけをひっつかんで、空に向かって地面を蹴った。
「あ、おい!!」
昨日みたいに気持ちよくはない。ナツの声が、いつまでも耳に残っていた。
<つづく>
<5>
「ぶえっくしゅ!!」
「派手なくしゃみだなぁ、風邪か?」
ゲーセンにでも行こうと思っていたのに、ナツのやつ、里井の方に行ってしまった。おれがアイツのこと嫌いだって知ってるのに。そう言う度にナツはフォローするけど、おれにはどうしても受け入れられない。
「うっせ」
「お前がバカじゃないって証明になってよかったじゃないか。万年最下位クン」
「ケンカ売ってんのか、てめ」
……帰るか。
下駄箱に向かう最中、急に喧騒が途切れた。放課後の廊下が静かになるなんて、ありえないことだった。物音がしない。もしかして、アレなのだろうか。カバンの中で約束どおりにおとなしくしていたマウシーを取り出す。
「だも」
こちらが尋ねる前に、重々しくうなずいた。どこから取り出したのか、リボンが渡される。自分で付けろ、ってこと?
「変身しないも?」
「するよ。するけど、さぁ」
昨晩の勢いはすでにしぼみかけていた。強制的に変身させられるのなら言い訳もできるけど、能動的にやるとなると……。気が重い。
場所も問題。これで昨日みたいに逃げ遅れたら、どうなるんだろう。学校って、外部の人間のすごく目立つ場所だ。下手をすると、職員室に連れて行かれて……。
でも、結局、変身しないことには、殺されかねないんだよね。矢で撃ってくるような危険な相手だし。
「さあ、変身の言葉を唱えるも」
「は?」
「みらくるレイにゃん爆誕、だも。あ、別にアレンジしてくれてもいいも」
「……必要は?」
「雰囲気も」
いらないってわけね。だったら、言わない。誰もいないってわかってても、こっぱずかしい。無言のまま、頭にリボンをつける。って、あれ……こうか?
「ずれてるも」
「お前の感性が?」
「違うも。リボンの位置と角度も。そんなのじゃ変身できないも。まったく、世話が焼けるも」
肩まで上ってくるなり、耳元でため息をつきましたよ、この牛。校庭に向かって投げつけたくなったけど、我慢我慢。深呼吸をして、気を落ちつかせる。
「これで大丈夫も」
ひょんっとマウシーが飛び降りた。同時にピンク色の光が景色を塗りつぶした。
相変わらず目がちかちかする空間の中で、再び身体が作り変えられる。されるがままに身を任せ、これには慣れるってことがないんだろうな、と思う。
くるりと杖を回転させて、元の世界に戻ってきた。はぁ、またこのふりふり姿で戦うのか。……ってぇ!?
「も?」
服が違う。基本的なスタンスというか、造形はいっしょ。だけど、明らかに布地が少なくなっていた。
袖はふくらんだ肩口がきゅっとしまって、そこで終了。全体的に装飾が簡素になっている。そこまではいい。
問題は下半身。階段状になっているスカートの最後の部分が消え去っていた。膝上何センチと考えるのがすでに馬鹿らしいぐらいだ。ニーソックスとスカートの間の白い肌が、引き立っている。
たぶん、ちょっと動くと、見える。見上げているマウシーからはパンチラどころじゃないはず。昨日空を飛んでいたときので、味をしめたとか?
「……いや、うん。ナンデモナイ」
「変なやつだも」
だからって、わざわざ聞くのも指摘するのも、恥ずかしい。ええい、おれは男だ。ちょっと下着が見えたからって……見えたからって……。
「みーぽん、いたじゅん!」
「てめ、昨日の続きだ、おら! オモテに出ろや!」
ああ……うるさいのが来た。
曲がり角に現れたみーぽんの姿も前とは異なっていた。白いシースルーのベビードールに、これまた白のTバックショーツ。肩紐のフリルが愛らしい。ま、外に出る格好じゃないけど。持っているのも弓ではなく、おれのとよく似た杖。ただし、宝石の色が青色だった。
ぶちのめしてやる、なんて汚い言葉を叫んでいる。人が苦悩してるっていうのに、脳みそ極楽っぽくて、非常に気に食わない。
「こんにちは、ヘンタイさん」
「ぐっ……てめぇだって、スカート短くして、男でも誘ってるんだろ!」
「鏡でも見たら?」
わざとくすくす笑ってみせる。単純なのか短気なのか。五メートルほどの距離を一歩で詰め寄ってきた。スピードはある。でも、それだけ。性格同様の直線的な動きが、実にわかりやすい。横にずれて足を軽く出してやる。
「へゃっ!?」
さすがに転びはしなかったけど、バランスを崩してたたらを踏んだ。自分でもいやらしいと自覚しつつ、さも心配そうにたずねる。
「ごめんねぇ、大丈夫?」
「て、め……」
逆上しているのがすぐわかる。この手のタイプは扱いやすくていい。けど、注意は必要。猪突猛進っていうのは、馬鹿にしつつも警告しているんだと思う。ゲームでも、知力が低い場合は武力が高いってのが相場だし。
要は、正面からぶつからなければ済む話。ちらっとクラスメイトの顔が浮かんだけど、すぐに頭から追い出す。今は戦闘中だ。
油断していたつもりはない。でも、考えに沈んでいたせいか、気がつけば目の前に杖が迫っていた。
「きゃぁ!」
とっさに動いた腕が辛うじて杖を受け止める。壁まで弾き飛ばされて、ようやく止まった。背中と左手がしびれている。利き手じゃなくて、よかった。
「はっ、パンツ丸見えだぜ?」
「露出狂のクセに……」
ぴしっと空気に亀裂が入った。剣呑な雰囲気のまま、にやっと口角をあげるみーぽん。ぽわわんとした顔立ちのせいで、全然似合っていない。ただ、言い草だけが癇に障った。
「ふふん、てめぇみたいなお子様にはできないだろ?」
「だれが!」
「凹凸もなにもねーじゃんか。だからごてごてした服で隠してるんだろう?」
「あ、あるもん!!」
むかつく、むかつくむかつくむかつく。なんでか知らないけど、すごくむかつく。おれは男だし、別にこの身体がどうであれかまわない。そのはずなのに……。
「なにをケンカしてるも?」
「女の闘いに理屈はないじゅん」
観客を決め込んでいる牛にも腹が立つ。でも、目の前の存在ほどではない。昨日みたいに追い払おうと思ってた。でも、それだけじゃ済ませたくない、かな。
イメージしたら、空だって飛べた。だったら……。
勝ち誇っているみーぽんの背後に、低空飛行で回りこむ。とっさに反応ができなかった様だ。振り向こうとしたたときには、おれの足払いが決まっていた。よろめいたところに追い討ちで、床にたたきつける。
「うぐっ」
抵抗されないように杖を弾き飛ばす。分厚い靴底で肩を踏みつけると、ものすごい優越感に浸ることができた。ぞくぞくする。
「みーぽん!」
「レイにゃん、やりすぎだも! もう勝負は」
「うっさい」
そんなのどうでもいい。それよりも、今はこいつのことが――。
「誰か、いるのか?」
「え?」
「うぅ……」
まだ結界は解かれていない。なのに、なんで、ナツがここに?
おれの奇妙な格好に目を丸くし、床で倒れているみーぽんに目をむいた。この状況じゃあ、どう見てもおれの方が悪役だ。現にみーぽんを助けようと、こっちに向かって走ってくる。
「アンタ、何してんだよ!」
「っ」
言われるまでもなかった。こんな姿をナツに見られたくないし、勝負はついたというのであれば、長居の必要もない。マウシーだけをひっつかんで、空に向かって地面を蹴った。
「あ、おい!!」
昨日みたいに気持ちよくはない。ナツの声が、いつまでも耳に残っていた。
<つづく>
1000万ヒット記念投稿TS小説 とらいある・とらいあんぐる(4) 作.うずら 挿絵.春乃 月
<4>
「お兄ちゃん、ご飯できたって! ……お兄ちゃん!?」
どんどんと叩く音。ドアの外から声がする。いつ閉じていたのかわからない目を開ける。
寝てたのか、おれ。特に代わり映えのしない、見覚えのある自分の体がそこにあった。あくびをこらえながら、唯に返事をする。
「ん、今行くー」
普通に考えたら、そうだよな。あんなことがあるわけない。夢に決まってる。
ぬいぐるみがしゃべったり、空を飛んだり……あまつさえ、女の子になって、エッチなことをするなんて。やけにはっきり覚えてるけど、唯に似てたんだよなぁ。妹みたいな子に劣情をもよおすなんて、欲求不満だろうか。そんなに溜め込んでいるつもりはないのに。
よっこいせと、ベッドに手をついて身を起こす。ちょうどそこには、もこっとした暖かい感覚が。おれの部屋には似つかわしくない物体だ。
「い、痛いも」
……なんでウシがしゃべってるのかな?
「前も言ったも。マスコットだからも。それより早く手をどけるも」
「じゃあ、さっきはなんで」
「お兄ちゃーん!?」
「あ、ああっ、わかった!!」
言いさしたとき、階下から再び唯に呼ばれた。憎たらしい敵を置いて、というのは気に入らないけど空腹には勝てない。夕飯だと思うと、それだけで自然と腹は減る。腹が減っては戦はできない。
騒いだり逃げたりできないように、マウシーを縛ってクローゼットに放り込む。なんだか犯罪チックだけど、人権はないと思うし、大丈夫。
リビングでは、すでに母さんと唯が箸を動かしていた。酢豚に中華スープ、サラダ、昨日の残りの煮しめ。テレビがにぎやかな音を垂れ流している。特にいつもと変わりのない光景だ。手を合わせて挨拶してから、おれも食事にかかる。
「そういえば、今日、こずえがクッキー作ってきてたよ。ほら、前、お母さんがレシピ書いてくれたやつ。彼氏にあげるんだぁって」
「あら、そうなの。あんたも少しは見習ったら?」
「ヤ。めんどうだし」
会話もいたって普通。二人の間で通じ合うアレが何のことかわからないし、おれは黙々とメシをほおばるのみ。ただ、やっぱり唯のことが気になる。ちらちらと見てたのに気がついたのか、ふいに視線がかち合った。
「……なに?」
「いや、なんでもない」
「あっそ、変なの」
ほんのりきつめの顔立ちのせいで、言い捨てられるとぐさっとくる。だけど、うん、やっぱり唯を見ておかしな気分になることはない。近親相姦に走るほど、ダメじゃないってことかな。少し、ほっとした。あとはあのウシを追求すればいい。さっさと食べてしまおう。
「さあ、答えてもらおうか」
「なにをだも?」
しらばっくれているのか、それともただ単に分かっていないのか。まったく動かないわけではないけど、ぬいぐるみの表情なんて読めるはずがない。
「さっきのこと」
「だから、なんのことだも?」
「いきなり電池が切れたみたいに動かなくなってたじゃないか。おれのことを元にも戻さずに」
おかげでいろんな人に、あの格好を見られて……。どこの誰だかバレるわけはないとしても、だからって問題ないわけじゃない。ちょっと、ほんのちょっと、注目される心地よさを覚えてしまった。自覚してからは、当然、自己嫌悪に襲われたんだけど。
「もじもじしてキモチワルイも」
「お前が言うな」
「マウシーはぷりちぃだも」
どの口が言うかとどつきたくもなったけど、ここは我慢。どうせ、口はひとつしかないとか、人の神経を逆なでするに決まっている。っていうか、さっきから話が進まない。
「それで? なんだっていきなり死んだみたいになったわけ」
「さっきレイにゃんが言ったとおりだも」
「っ」
伸ばした手をかいくぐられる。いい加減学習してきたのだろうか。ぬいぐるみのくせに。
当のマウシーは枕の上に着地して、くるりとこちらに向き直った。若干、自慢げに見えるのがよけいむかつく。
「魔力がなくなってたも」
「なくなるものなのか?」
「人間、ご飯を食べなければどうなるも?」
そりゃ、死ぬよ。つまりエネルギーを補給していた、と。ってことは、寝てると回復するのか。違うな。だったら、食事をたとえにするとは思えない。つまるところ、要するに、おれがエッチなことしたのが、そうだと?
「……アレ、が?」
「も」
「おれがあんな風になったのも?」
「勝手に補充されるから、詳しいことは知らないも。“あんな風”ってなにも?」
被害妄想かもしれないけど、声がにやついている様に聞こえる。そうか、やっぱりそうなのか。だから唯に対して、変な気分になることはなかった。逆に言うと、こいつが動かなくなったら、おれがああいうことをしてやらないと、元に戻れない……?
「最悪だ」
「も?」
プラスチックっぽい瞳でおれを見つめるウシ。つぶらな瞳という点ではチワワなんかに通じなくもないけど、心は動かない。さっさと縁を切ってしまおう。
「おれ、勝ったんだよね?」
「だも」
「それって、もう変身しなくていいってこと……にはならない?」
「むう、したくないも? 大きい男の子は魔法少女が大好きって聴いたも?」
ちがう、それは違うんだっ! いや、ある意味では正しいのかもしれないけど、だとしても、自分がそうなりたいって意味では、絶対にない!
脱力したところに、追い討ち。マウシーのズレたフォローが心をえぐる。
「だ、大丈夫も。ちゃんとかわいかったも」
「……ソレはソレとして。勝ったんだから、これで終わりだよね?」
「何を言ってるも」
不思議でしょうがないという風情で、意味がわからないという風味に。
それはおれのだ。おれのセリフだ。でも、通じないんだろうな。一から説明しないと。
「おれは変身しました。敵を倒しました。勝ちました。なのに、まだ、変身する必要はありますか?」
「どうして変身する必要がないも?」
これぐらい順序だてて言えば、わかってくれる。そんな期待をするおれが愚かだったのだろう。ウシに言葉が通用しないことを学べ、ということなのかもしれない。
ただ、マウシーも多少は考えてくれる気になったみたいだ。短い腕を組んで悩み始めた。しばらく見ていると、ぽんっと手を打った。
「もー……わかったも」
「何がどうわかったんだ?」
「すっかり忘れていたも。もともと、五ラウンド勝負だも。だから、勝ち越さないとだめなんだも。話が食い違うと思ったら、最初に言ってなかったも。もー、そういうことは早く言うも、レイにゃん。……も?」
だめだなぁ、こいつぅ。とでも言わんばかりの声色に、血圧が急上昇するのがわかった。まるで自分が悪いと思っていない態度にも、余計に腹が立つ。
「あ、その代わり、ちゃんと報酬があるも」
「ほうしゅう? 牛肉一年分とか?」
「ひっ、マウシー、食べてもおいしくないも!」
そんなに全力で逃げなくても、ピンクの牛はさすがに食べる気にならない。っていうか、前、牛だって言ったら否定してなかった?
「ちがうも。大抵の願い事はかなうも。もちろん、さっき言ったのでもいいも」
「大抵、ね」
“多少”の願い事がかなう、だと思っていたほうがよさそう。そもそも出会ったときからすれ違いが多すぎて信用できない。それよりも後に続けたマウシーの言葉のほうに惹かれるものがあった。
「ついでにライバルを好きにする権利が与えられるも」
「好きに、ってことは思い通りに?」
「も」
そう、か。露出狂だったけど、胸は大きかったよね……。話半分だと思っても、カノジョにするぐらいはできる、かも。
今日戦った感じからすると、それほど賢くはなさそうだった。けっこう楽勝っぽい。あの姿は恥ずかしいけど、俄然やる気が出てきた。やるぞ、おーっ!
<つづく>
「お兄ちゃん、ご飯できたって! ……お兄ちゃん!?」
どんどんと叩く音。ドアの外から声がする。いつ閉じていたのかわからない目を開ける。
寝てたのか、おれ。特に代わり映えのしない、見覚えのある自分の体がそこにあった。あくびをこらえながら、唯に返事をする。
「ん、今行くー」
普通に考えたら、そうだよな。あんなことがあるわけない。夢に決まってる。
ぬいぐるみがしゃべったり、空を飛んだり……あまつさえ、女の子になって、エッチなことをするなんて。やけにはっきり覚えてるけど、唯に似てたんだよなぁ。妹みたいな子に劣情をもよおすなんて、欲求不満だろうか。そんなに溜め込んでいるつもりはないのに。
よっこいせと、ベッドに手をついて身を起こす。ちょうどそこには、もこっとした暖かい感覚が。おれの部屋には似つかわしくない物体だ。
「い、痛いも」
……なんでウシがしゃべってるのかな?
「前も言ったも。マスコットだからも。それより早く手をどけるも」
「じゃあ、さっきはなんで」
「お兄ちゃーん!?」
「あ、ああっ、わかった!!」
言いさしたとき、階下から再び唯に呼ばれた。憎たらしい敵を置いて、というのは気に入らないけど空腹には勝てない。夕飯だと思うと、それだけで自然と腹は減る。腹が減っては戦はできない。
騒いだり逃げたりできないように、マウシーを縛ってクローゼットに放り込む。なんだか犯罪チックだけど、人権はないと思うし、大丈夫。
リビングでは、すでに母さんと唯が箸を動かしていた。酢豚に中華スープ、サラダ、昨日の残りの煮しめ。テレビがにぎやかな音を垂れ流している。特にいつもと変わりのない光景だ。手を合わせて挨拶してから、おれも食事にかかる。
「そういえば、今日、こずえがクッキー作ってきてたよ。ほら、前、お母さんがレシピ書いてくれたやつ。彼氏にあげるんだぁって」
「あら、そうなの。あんたも少しは見習ったら?」
「ヤ。めんどうだし」
会話もいたって普通。二人の間で通じ合うアレが何のことかわからないし、おれは黙々とメシをほおばるのみ。ただ、やっぱり唯のことが気になる。ちらちらと見てたのに気がついたのか、ふいに視線がかち合った。
「……なに?」
「いや、なんでもない」
「あっそ、変なの」
ほんのりきつめの顔立ちのせいで、言い捨てられるとぐさっとくる。だけど、うん、やっぱり唯を見ておかしな気分になることはない。近親相姦に走るほど、ダメじゃないってことかな。少し、ほっとした。あとはあのウシを追求すればいい。さっさと食べてしまおう。
「さあ、答えてもらおうか」
「なにをだも?」
しらばっくれているのか、それともただ単に分かっていないのか。まったく動かないわけではないけど、ぬいぐるみの表情なんて読めるはずがない。
「さっきのこと」
「だから、なんのことだも?」
「いきなり電池が切れたみたいに動かなくなってたじゃないか。おれのことを元にも戻さずに」
おかげでいろんな人に、あの格好を見られて……。どこの誰だかバレるわけはないとしても、だからって問題ないわけじゃない。ちょっと、ほんのちょっと、注目される心地よさを覚えてしまった。自覚してからは、当然、自己嫌悪に襲われたんだけど。
「もじもじしてキモチワルイも」
「お前が言うな」
「マウシーはぷりちぃだも」
どの口が言うかとどつきたくもなったけど、ここは我慢。どうせ、口はひとつしかないとか、人の神経を逆なでするに決まっている。っていうか、さっきから話が進まない。
「それで? なんだっていきなり死んだみたいになったわけ」
「さっきレイにゃんが言ったとおりだも」
「っ」
伸ばした手をかいくぐられる。いい加減学習してきたのだろうか。ぬいぐるみのくせに。
当のマウシーは枕の上に着地して、くるりとこちらに向き直った。若干、自慢げに見えるのがよけいむかつく。
「魔力がなくなってたも」
「なくなるものなのか?」
「人間、ご飯を食べなければどうなるも?」
そりゃ、死ぬよ。つまりエネルギーを補給していた、と。ってことは、寝てると回復するのか。違うな。だったら、食事をたとえにするとは思えない。つまるところ、要するに、おれがエッチなことしたのが、そうだと?
「……アレ、が?」
「も」
「おれがあんな風になったのも?」
「勝手に補充されるから、詳しいことは知らないも。“あんな風”ってなにも?」
被害妄想かもしれないけど、声がにやついている様に聞こえる。そうか、やっぱりそうなのか。だから唯に対して、変な気分になることはなかった。逆に言うと、こいつが動かなくなったら、おれがああいうことをしてやらないと、元に戻れない……?
「最悪だ」
「も?」
プラスチックっぽい瞳でおれを見つめるウシ。つぶらな瞳という点ではチワワなんかに通じなくもないけど、心は動かない。さっさと縁を切ってしまおう。
「おれ、勝ったんだよね?」
「だも」
「それって、もう変身しなくていいってこと……にはならない?」
「むう、したくないも? 大きい男の子は魔法少女が大好きって聴いたも?」
ちがう、それは違うんだっ! いや、ある意味では正しいのかもしれないけど、だとしても、自分がそうなりたいって意味では、絶対にない!
脱力したところに、追い討ち。マウシーのズレたフォローが心をえぐる。
「だ、大丈夫も。ちゃんとかわいかったも」
「……ソレはソレとして。勝ったんだから、これで終わりだよね?」
「何を言ってるも」
不思議でしょうがないという風情で、意味がわからないという風味に。
それはおれのだ。おれのセリフだ。でも、通じないんだろうな。一から説明しないと。
「おれは変身しました。敵を倒しました。勝ちました。なのに、まだ、変身する必要はありますか?」
「どうして変身する必要がないも?」
これぐらい順序だてて言えば、わかってくれる。そんな期待をするおれが愚かだったのだろう。ウシに言葉が通用しないことを学べ、ということなのかもしれない。
ただ、マウシーも多少は考えてくれる気になったみたいだ。短い腕を組んで悩み始めた。しばらく見ていると、ぽんっと手を打った。
「もー……わかったも」
「何がどうわかったんだ?」
「すっかり忘れていたも。もともと、五ラウンド勝負だも。だから、勝ち越さないとだめなんだも。話が食い違うと思ったら、最初に言ってなかったも。もー、そういうことは早く言うも、レイにゃん。……も?」
だめだなぁ、こいつぅ。とでも言わんばかりの声色に、血圧が急上昇するのがわかった。まるで自分が悪いと思っていない態度にも、余計に腹が立つ。
「あ、その代わり、ちゃんと報酬があるも」
「ほうしゅう? 牛肉一年分とか?」
「ひっ、マウシー、食べてもおいしくないも!」
そんなに全力で逃げなくても、ピンクの牛はさすがに食べる気にならない。っていうか、前、牛だって言ったら否定してなかった?
「ちがうも。大抵の願い事はかなうも。もちろん、さっき言ったのでもいいも」
「大抵、ね」
“多少”の願い事がかなう、だと思っていたほうがよさそう。そもそも出会ったときからすれ違いが多すぎて信用できない。それよりも後に続けたマウシーの言葉のほうに惹かれるものがあった。
「ついでにライバルを好きにする権利が与えられるも」
「好きに、ってことは思い通りに?」
「も」
そう、か。露出狂だったけど、胸は大きかったよね……。話半分だと思っても、カノジョにするぐらいはできる、かも。
今日戦った感じからすると、それほど賢くはなさそうだった。けっこう楽勝っぽい。あの姿は恥ずかしいけど、俄然やる気が出てきた。やるぞ、おーっ!
<つづく>
1000万ヒット記念投稿TS小説 とらいある・とらいあんぐる(3) 作.うずら 挿絵.春乃 月
<3>
「ともあれ、これでおれの勝ちってことでいいんだよね?」
「も」
「ってことは、なにか見返りがもらえ」
「あぁっ、そろそろ魔法が切れるも!」
誤魔化した? っていうか、切れるってなにかな、切れるって。いや、効果がなくなるって意味なのはわかるんだけど。
「戦闘してる最中は、一般のヒトやモノを巻き込まないように、結界の中にいるんだも」
「へぇ、便利だね」
よく考えてみれば、当たり前のことだった。まだ日は落ちていない。橋を通って下校する学生もいるだろうし、車の通りだって少ない場所じゃない。それなのに、動くものは猫の子一匹いやしなかった。
「それに見られたら騒ぎになるも」
ごもっとも。ん? ってことは、話の流れからして、もしかして。
「変身中はさらに強固なものになるも。あ、ちなみにどちらかが戦闘開始すると、自然に結界はできあがるも」
「……つまり、終了したら……」
「もちろん、解除されるも」
マウシーが言うと同時だった。街がざわめきをとりもどした。おれはまるで羞恥心をかなぐり捨てたかのような格好のままで、ぽつんと取り残された。嫌な汗がだらだらと流れる。
「ねぇねぇ、あの子」
「アレ、オタクってやつ?」
「やっだぁっ」
近くの高校の制服を着た女子が、くすくす笑いながら通ろすぎていく。言えやしないけど、自分の趣味じゃないと叫びたい。

イラスト:春乃月
選択肢として、飛んで逃げるというのもないじゃない。だけど、それをしてしまうと、ケータイでの動画や写真撮影されることは確実だ。おれでも撮るし。よって却下。正体がバレないとしても、進んで人の話題になるようなことはしたくない。
となると、変身の解除は、とマウシーを見ると、さっきまでの生命力あふれた姿はどこへやら。土の上に弛緩しきった状態でねそべっていた。ぬいぐるみとしてはこれが当たり前なんだけど、どういうことだ。このまま元に戻らない、なんてことはないよね。
「マウシー? 聞こえてる、マウシー?」
「ままぁ、あのおねーちゃん、うしさんとおはなししてるー」
「あの人はね、不思議の国に住んでるの。だからお話できるのよ」
「そうなの!? ゆかも住みたいっ!」
「ゆかちゃんももうちょっと大きくなれば、住めるかもね。そのためには、うんっといい子にしてないとだめよ」
「うんっ、ゆかいいこにするよっ!」
ほほえましいなぁ。おれが出汁じゃなければ。でも、おかげで、今のおれがウシと会話をすることの危険性は認識できた。とっても簡単に不思議ちゃんのできあがり、と。
スカートがめくれ上がらないように気をつけながら、マウシーを拾う。はあ……さっさと歩いて帰ろうか。
「って、うわぁ!?」
いつもの調子で方向転換したせいで、足を取られてしまった。よろめきながらも、なんとかその場に踏みとどまる。それが悪かった。変な風に力が入ったのか、足首に嫌な痛みが走る。
ただでさえ目立つ格好。余計な注目を集めたくはない。何事もない顔を装って、少しずつ歩を進める。ほんとうは早く帰りたいんだけど、急ごうとするとよろけてしまうのだから仕方ない。いまのおれにできることは、視線を受け流し、ゆっくりと家に向かうことだけだった。
なんとか公開羞恥プレイに耐え忍び、家の近くまでやってきた。明かりがついていないところを見ると、家族はまだ帰ってきていないらしい。そこだけはせめてもの救いだ。
前後左右確認。よし、今なら誰もいない。足の痛みと厚底に耐えながらダッシュ。幸いというかなんというか。無用心なことに、おれは鍵も閉めずに家を空けてしまっていた。おかげで、手間取らずに玄関に入り込むことができた。
やれやれ、だ。靴についた土を払って、それも一緒に自分の部屋に持ち込む。ドアに鍵をかけて、カーテンを閉める。電気と暖房をつけて、ようやく一息つくことができた。
「ああ、矢もなくなってるんだ。よかった」
これなら親に追及されることもない。安堵して、ベッドに放り投げたマウシーを見る。頭をさすることもなく、しゃべることもない。力が抜けて、その横に腰を下ろす。……どうするんだよぉ、こんな、女の体のままで。
「おんなの……」
つばを飲み込む音が聞こえた。しばらく間が空いて、それが自分自身のだと気がついた。いい、んだよな? 自分の、だし……。
ブラウスのボタンをそっとはずす。変身させられたときには切羽詰ってたし、冷静に自分の体を見るのは初めてだ。
ふと気がついて、鏡を自分の顔が見える位置に移動させる。ふんわりとしたボブカットで、きつい感じは受けるものの整った顔立ちをしている。ずば抜けてってわけではないけど、そこそこかわいいってレベル。
そんな子がブラジャーが見えるほどボタンを開け、顔を赤くしている。自分なのだとは理性でわかっていても、本能の部分が自然と高まってくる。
頭の中でおれがささやく。わかってるよね?

イラスト:春乃月
「うん」
それに応えて、少女が動く。右手を袖から抜き、次いで左を。胸の下まで、服がはだけてしまう。生地の色と相まって、その肌の白さが引き立っている。
細い腕や鎖骨のラインが、さらにおれをかきたてた。次は、どうするのかな?
少女は黙ったまま、背中に手を回す。パチンと音がした。するりとブラジャーを脱ぎ去る。わずかに隆起した丘の上に、ピンク色の頂がついている。
まだまだ小さいね。
「これから大きくなるんだから」
強がってみても、気にしているのは一目瞭然だ。恥ずかしそうに耳まで真っ赤にして、腕で隠して。触ってみたら、どうかな? 揉むと大きくなるって言うよ?
「ほ、ほんとに?」
きれいな指が、そおっと肌をすべる。なにかを恐れるように、やわらかく触れたり、また離したり。そんなんじゃ、大きくならないぞ。
「だって……」
おれがやってあげようか。
「痛くしない?」
するわけないじゃないか。ほら、任せてごらん。
おれの手が小さな胸をつつみこむ。体がびくりと震えた。
怖いかな?
「そ、そんなわけないでしょ」
じゃあ……ああ、そうだ。すこし待っていて。
机の引き出しにローションが入っているはずだ。あった。これなら、すぐに気持ちよくなれるんじゃないかな。とろとろの液体を掬い取る。
「なにそれ、ひゃっ、つめたいっ」
ごめんね。でも、すぐに慣れるから。こうやって揉んだり、こねたりしてる内に、ね。
少女の息が荒くなってきた。目が潤んでおれを見つめている。なのに、もぞもぞと体をくねらせて、おれから逃げようとする。
「ぁっ、やだ、ぬるぬるするのが……」
ぬるぬるするのが、なに? 聞きたいな。
もちろん、逃がさない。それにほんとうは、もっとして欲しいみたいだし。
「言えるわけな、きゃうっ! な、なんで、その、乳首つねるの?」
んー、言って欲しいから。ほら、またやっちゃうよ?
「だ、だめっ、気持ちいいの、ぬるぬる、きもちいいの!」
よくできました。それじゃご褒美にもっと良くしてあげようか。
「ひゃぁん、指でこりこりしちゃ、だめぇっ」
さっきからだめ、だめって何ならいいのかな? それに、ほら、鏡には誰が映ってる? すごくえっちな顔をしてるのは、ねえ、いったいだれかな?
「ちがうの、わたしじゃ、ふぁっ、あああぁんっ!」
<つづく>
「ともあれ、これでおれの勝ちってことでいいんだよね?」
「も」
「ってことは、なにか見返りがもらえ」
「あぁっ、そろそろ魔法が切れるも!」
誤魔化した? っていうか、切れるってなにかな、切れるって。いや、効果がなくなるって意味なのはわかるんだけど。
「戦闘してる最中は、一般のヒトやモノを巻き込まないように、結界の中にいるんだも」
「へぇ、便利だね」
よく考えてみれば、当たり前のことだった。まだ日は落ちていない。橋を通って下校する学生もいるだろうし、車の通りだって少ない場所じゃない。それなのに、動くものは猫の子一匹いやしなかった。
「それに見られたら騒ぎになるも」
ごもっとも。ん? ってことは、話の流れからして、もしかして。
「変身中はさらに強固なものになるも。あ、ちなみにどちらかが戦闘開始すると、自然に結界はできあがるも」
「……つまり、終了したら……」
「もちろん、解除されるも」
マウシーが言うと同時だった。街がざわめきをとりもどした。おれはまるで羞恥心をかなぐり捨てたかのような格好のままで、ぽつんと取り残された。嫌な汗がだらだらと流れる。
「ねぇねぇ、あの子」
「アレ、オタクってやつ?」
「やっだぁっ」
近くの高校の制服を着た女子が、くすくす笑いながら通ろすぎていく。言えやしないけど、自分の趣味じゃないと叫びたい。

イラスト:春乃月
選択肢として、飛んで逃げるというのもないじゃない。だけど、それをしてしまうと、ケータイでの動画や写真撮影されることは確実だ。おれでも撮るし。よって却下。正体がバレないとしても、進んで人の話題になるようなことはしたくない。
となると、変身の解除は、とマウシーを見ると、さっきまでの生命力あふれた姿はどこへやら。土の上に弛緩しきった状態でねそべっていた。ぬいぐるみとしてはこれが当たり前なんだけど、どういうことだ。このまま元に戻らない、なんてことはないよね。
「マウシー? 聞こえてる、マウシー?」
「ままぁ、あのおねーちゃん、うしさんとおはなししてるー」
「あの人はね、不思議の国に住んでるの。だからお話できるのよ」
「そうなの!? ゆかも住みたいっ!」
「ゆかちゃんももうちょっと大きくなれば、住めるかもね。そのためには、うんっといい子にしてないとだめよ」
「うんっ、ゆかいいこにするよっ!」
ほほえましいなぁ。おれが出汁じゃなければ。でも、おかげで、今のおれがウシと会話をすることの危険性は認識できた。とっても簡単に不思議ちゃんのできあがり、と。
スカートがめくれ上がらないように気をつけながら、マウシーを拾う。はあ……さっさと歩いて帰ろうか。
「って、うわぁ!?」
いつもの調子で方向転換したせいで、足を取られてしまった。よろめきながらも、なんとかその場に踏みとどまる。それが悪かった。変な風に力が入ったのか、足首に嫌な痛みが走る。
ただでさえ目立つ格好。余計な注目を集めたくはない。何事もない顔を装って、少しずつ歩を進める。ほんとうは早く帰りたいんだけど、急ごうとするとよろけてしまうのだから仕方ない。いまのおれにできることは、視線を受け流し、ゆっくりと家に向かうことだけだった。
なんとか公開羞恥プレイに耐え忍び、家の近くまでやってきた。明かりがついていないところを見ると、家族はまだ帰ってきていないらしい。そこだけはせめてもの救いだ。
前後左右確認。よし、今なら誰もいない。足の痛みと厚底に耐えながらダッシュ。幸いというかなんというか。無用心なことに、おれは鍵も閉めずに家を空けてしまっていた。おかげで、手間取らずに玄関に入り込むことができた。
やれやれ、だ。靴についた土を払って、それも一緒に自分の部屋に持ち込む。ドアに鍵をかけて、カーテンを閉める。電気と暖房をつけて、ようやく一息つくことができた。
「ああ、矢もなくなってるんだ。よかった」
これなら親に追及されることもない。安堵して、ベッドに放り投げたマウシーを見る。頭をさすることもなく、しゃべることもない。力が抜けて、その横に腰を下ろす。……どうするんだよぉ、こんな、女の体のままで。
「おんなの……」
つばを飲み込む音が聞こえた。しばらく間が空いて、それが自分自身のだと気がついた。いい、んだよな? 自分の、だし……。
ブラウスのボタンをそっとはずす。変身させられたときには切羽詰ってたし、冷静に自分の体を見るのは初めてだ。
ふと気がついて、鏡を自分の顔が見える位置に移動させる。ふんわりとしたボブカットで、きつい感じは受けるものの整った顔立ちをしている。ずば抜けてってわけではないけど、そこそこかわいいってレベル。
そんな子がブラジャーが見えるほどボタンを開け、顔を赤くしている。自分なのだとは理性でわかっていても、本能の部分が自然と高まってくる。
頭の中でおれがささやく。わかってるよね?

イラスト:春乃月
「うん」
それに応えて、少女が動く。右手を袖から抜き、次いで左を。胸の下まで、服がはだけてしまう。生地の色と相まって、その肌の白さが引き立っている。
細い腕や鎖骨のラインが、さらにおれをかきたてた。次は、どうするのかな?
少女は黙ったまま、背中に手を回す。パチンと音がした。するりとブラジャーを脱ぎ去る。わずかに隆起した丘の上に、ピンク色の頂がついている。
まだまだ小さいね。
「これから大きくなるんだから」
強がってみても、気にしているのは一目瞭然だ。恥ずかしそうに耳まで真っ赤にして、腕で隠して。触ってみたら、どうかな? 揉むと大きくなるって言うよ?
「ほ、ほんとに?」
きれいな指が、そおっと肌をすべる。なにかを恐れるように、やわらかく触れたり、また離したり。そんなんじゃ、大きくならないぞ。
「だって……」
おれがやってあげようか。
「痛くしない?」
するわけないじゃないか。ほら、任せてごらん。
おれの手が小さな胸をつつみこむ。体がびくりと震えた。
怖いかな?
「そ、そんなわけないでしょ」
じゃあ……ああ、そうだ。すこし待っていて。
机の引き出しにローションが入っているはずだ。あった。これなら、すぐに気持ちよくなれるんじゃないかな。とろとろの液体を掬い取る。
「なにそれ、ひゃっ、つめたいっ」
ごめんね。でも、すぐに慣れるから。こうやって揉んだり、こねたりしてる内に、ね。
少女の息が荒くなってきた。目が潤んでおれを見つめている。なのに、もぞもぞと体をくねらせて、おれから逃げようとする。
「ぁっ、やだ、ぬるぬるするのが……」
ぬるぬるするのが、なに? 聞きたいな。
もちろん、逃がさない。それにほんとうは、もっとして欲しいみたいだし。
「言えるわけな、きゃうっ! な、なんで、その、乳首つねるの?」
んー、言って欲しいから。ほら、またやっちゃうよ?
「だ、だめっ、気持ちいいの、ぬるぬる、きもちいいの!」
よくできました。それじゃご褒美にもっと良くしてあげようか。
「ひゃぁん、指でこりこりしちゃ、だめぇっ」
さっきからだめ、だめって何ならいいのかな? それに、ほら、鏡には誰が映ってる? すごくえっちな顔をしてるのは、ねえ、いったいだれかな?
「ちがうの、わたしじゃ、ふぁっ、あああぁんっ!」
<つづく>
1000万ヒット記念投稿TS小説 とらいある・とらいあんぐる(2) 作.うずら 挿絵.春乃 月
<2>
頭の後ろ、たぶんリボンから光があふれて、おれを包み込んだ。床も壁も、矢も消え去って、まっピンクの空間が形成される。その様に思えた。そこには足場も何もなく、ちょっと気を許すと方向もわからなくなりそうだった。
その中で体が勝手に動き出す。悪態をつこうにも、目以外には口さえも自由にならない。
足はぴたりと閉じられ、両手を軽く開く。何がおきてるのかわからないまま、おれは身を任せる以外にできることはなかった。
ぽわんと間抜けな音がして、胸にくすぐったい感覚を覚えた。なん、だ? 視界の隅にわずかに盛り上がったシャツが見える。布と擦れる感触が、強制的に膨らんだ部分も自分の体だと教えてくれる。
音がするたびに変化が起きた。腰がしめつけられ、ズボンのお尻が窮屈になる。頭皮が引っ張られる。背骨がきしみ、手足の肉が波打つ。股間に痛みが走る。
体の変化が終わったのだろう。いきなり服がはじけとんだ。素っ裸の、明らかにおれのものではない体があらわになる。誰にも見られていないとはいえ、恥ずかしくて仕方がない。
呆然としていると、帯状の光がくるりと下肢の付け根を一周した。その帯が皮膚に張り付き、物質化する。黒と白のチェック柄のパンツ。ご丁寧にレースで縁取られている。
次いで胸元に走った光が同タイプのブラジャーに変わった。控えめなふくらみのせいか、まるで背伸びした子どもが身に付けているみたいだ。
そこまで終わると、一気に漆黒の布が体にまとわりついた。肩口は風船のようにふくらみ、肘から先は釣鐘状に。のどを軽く締め付けているのは、襟だろうか。胸のすぐ下で一旦絞られたかと思うと、そこからどんどん円周が広がっていく。かなり上の位置からはじまったティアードスカートは、膝位置で伸びるのをやめた。スカートの中にさらにスカートができた様で、ふんわりと持ち上がる。
ようやく終わったのかと思いきや、さにあらず。袖口には白いレースのフリルが飾られる。襟から胸の頂まではこれまた白いブラウスに。スカートの段にも、精緻な装飾がほどこされていく。黒いニーソックスの入り口に、レースの飾りがつけられるのが肌で感じられた。仕上げとばかりに、ムダに底の分厚い革靴が履かされた。
たぶんそれで変化は完了だったのだろう。手がひとりでに伸び、どこからともなく現れた杖をつかむ。先端には大きな真紅の宝石がついている。くるくると回し、握りなおす。
そこまで操作されて、ようやく光の海から開放された。元通り、自分の部屋だ。矢が三本突き立っていること以外は。数秒後、体を動かせることに思い当たった。
「これは、なにかな?」
「魔法少女だも」
落ち着け。呼吸は深く。せめて元に戻る方法を教えてもらってからじゃないと、燃やすわけにはいかない。
「だぁかぁらぁ、なんでおれが少女なのかって聞いてるんだよ!」
「みらくるレイにゃんだからだも。あ、マジカルの方がよかったら、そっちでも良いも」
このウシはわざとおれを挑発しているのだろうか。だとしたら、その試みは文句なく大成功だと言える。
頭痛を感じて頭を振る。と、机の上に置いてある鏡が幾分幼さの残る少女を映し出した。
これが、おれ、なのか……。常軌を逸した格好も、不思議と似合っていた。数年前の妹がこんな感じだったかも。今は大人ぶって化粧なんか、ってそうじゃない。
ウシに視線を戻すと、頬に短い手を当てて首をかしげていた。そんなポーズ、お前がやっても不気味なだけ。それなら、いっそ、今のおれの方が……。
四度目の、いい加減聞きなれた音。矢だと判断する前に、体が杖を突き出していた。澄んだ高音が響く。同時に、見えないなにかにぶつかった矢が、ポトリと床に落ちた。
「え、何、今の? 魔法みたい」
「魔法だも。レイにゃんになったからには、そう簡単には負けないも!」
最後に、たぶん、と呟いた様に思えたけど、気のせいだとしておく。生身よりは圧倒的にマシなはずだし。とりあえず、コレで相手のパートナーとやらに対抗はできそう。
「精神を研ぎ澄ませたら、きっとジュンジュンたちのいるところがわかるも」
「……そっか」
ウシへの制裁は後でもいいや。とりあえず、そっちをなんとかしないとね。
狙撃されないように、壁に張り付いて目を閉じる。何度か深呼吸している内に、脳裏に川原がよぎった。ぼんやりと射手の姿が見える。橋のそばだ。
けっこう距離があるから、本来は見えるはずがない。だから、閃いたって表現が一番近いと思う。確証はないし、理も論もないんだけど、これが確かな答えだという感覚。そういうときはテストでもなんでも、たいてい当たる。
「マウシー、今のおれって飛べたりはしない?」
「飛べるも。イメージしてみるも。イメージは力になるも」
よし、それなら。羽、羽……。杖の宝石が輝いたかと思うと、背中にわずかな重みが加わった。振り返ってみると、なんていうか、コウモリ? いや、ある意味、服装とはぴったりマッチしてるんだけど。でも。
「なんだか悪役っぽい……」
「見た目なんて関係ないも!」
だったら、なんでゴスロリで少女なのか問い詰めたいところだ。きっとまた、魔法少女だからも、とか言うに決まってるけど。
「まあ、今はたしかに、飛べればなんでもいいや」
割られた窓から飛び立つ。すごい。風を切って、飛ぶ。グライダーに魅せられる人の気持ちが、はじめてわかった。しかも、思いのままに方向も高度も変えられる。すぐ横を矢がかすめていった。
「ひ、ひぃぃっ、はやいもぉっ」
情けない声に気づいて後ろを見ると、マウシーがブーツに張り付いていた。……もしかして、そこ、下着見えてない?
そりゃ、おれは男だから抵抗感は薄いけど、それでも気持ち良いものじゃない。足を振ってみても落ちやしない。もっと空を楽しみたいのに。さっさとケリつけて、そっから遊ばせてもらうか。
一直線に相手の見えた橋に向かう。ビジョン通りに橋の欄干に人が立っていた。なんか、ばかっぽい。くるくると旋回して様子を伺う。
想像通り、アーチェリーに似た弓を構えている。どうやら的であるおれがじっとしてないせいで、狙いが定まらないみたいだ。……それはいいとして……。
「寒くないの、アレ?」
「魔法の膜で包まれるから、見た目ほど寒くないも」
見た目ほどは、ねぇ。でも、アレって露出狂だよね? 身に付けているのは、白い紐ビキニ。むしろ紐。申し訳程度に、乳首と股間を布らしきものが覆っているのが見て取れる。胸が谷間を形成していて、夏場のビーチなら、男の視線は釘付け間違いなし。でも、今は真冬で、ここは街中。しかも橋の上。冷たい視線を浴びるか、目をそらされるかだと思う。
正直、相手したくないんだけど。なんて言ってられないんだよね。狙われてるわけだし。
撃たれないように、急旋回からの急降下。華麗に相手の眼前に着地。
「えっ、きゃあ!?」
「ったぁ……」
……のはずが、勢いあまって露出魔にぶつかってしまった。バランスを崩した彼女は、そのまま落下して。水しぶきがキラキラと輝いて。からからと弓が転がった。
「寒いよね、アレは」
「普通よりはいくぶんマシだも?」
つまり、冷たくないわけではない、と。心臓発作で死んだりしなきゃいいけど。
今度はあわてず騒がずゆっくりと川原に降り立つ。自分まで寒中水泳はごめんです。
岸に近づくと、マウシーとは色違いのぬいぐるみがひざまずいていた。布地というか肌はちゃんと白黒で、それだけなのにものすごくまともに見える。
「みーぽぉぉおんっ!! だから、だから、狙い撃ちなんてやめようって言ったじゅん!」
涙腺があるとは思えないけど、滂沱の涙を流している。なんか、悪いことしたかなぁ。先に狙われたとはいっても、罪悪感に駆られてしまう。
「ジュンジュン、久しぶりだも」
「く、マウシー、不意打ちとは卑怯だじゅん」
見た目は思い切りファンシーなぬいぐるみが、ダンディズムにあふれた声で語り合う。語尾のせいもあるのだろうけど、無性にうざい。
少し離れようかと思案していると、ざばぁっと川面に顔が出てきた。とろんと垂れた瞳でおれの方を見つめてくる。たぶん、にらんでるんだろうなぁ。なんだか憐れになって手を差し伸べる。だけど、その手はすぐに引っ込めることになった。
「おい、てめ、ざけんなよ、あ!?」
「うっわぁ……」
「ジュンジュン、いくらなんでもこれはひどいも」
「仕方ないじゅん。選んだのはぼくじゃないじゅん」
なんとも素敵な言葉遣いだ。同情する余地、なし。ガチガチと歯を鳴らしながら、丘に向かって歩いてくる。寒いせいなのか、それともただ単にとろいのか。緩慢な動作。
「なに黙ってんだ、こら!」
「自分のこと、けっこう忍耐強いと思うんだよね」
「ああ!?」
「でも、きみみたいなの、嫌いなんだよね」
「んだと、こら! ふざけてんのか!?」
語彙が乏しい。ついでに、怖くもなんともない。なんだか下手な芝居を見ているような気持ちにさせられる。でも、それとすごまれて腹が立たないのとは、別問題。
「えいっ」
なんてかわいこぶって、みーぽんとやらを杖でぶん殴る。ちゃんと、川の真ん中に飛ぶようにイメージして。鈍い当たり心地がして人が宙を舞った。
「えげつないも」
「マウシーだって、ヒトのこと言えないじゅん」
ウシどもがとやかくわめいてる間にも、みーぽんが浮かび上がってきた。脂肪と男のロマンがつまった浮き袋が大きいせいか、浮力も高いと見える。そのままこっちに向かって泳いでくる。
たどり着いたところで、にっこり一言。
「もいっかい、飛びたい?」
「ひっ……」
おびえた目。完全にひるみきった態度。衣装といいなんといい、こう、むらむらとおれの嗜虐心を刺激してくる。特に自分のことをSだと意識したことはなかったけど、うん、どうもそうだったみたいだ。
「うぅぅぅっ、ばかぁああっ」
「あぁ、みーぽん、待ってじゅん!!」
口調も体の向きも一転。女の子っぽく涙目で叫ぶなり、向こう岸へ走っていってしまった。水上歩行の術、みたいな。そんなところで魔法を使うなら、最初から防ぐなり逃げるなりすればいいのに。
<つづく>
頭の後ろ、たぶんリボンから光があふれて、おれを包み込んだ。床も壁も、矢も消え去って、まっピンクの空間が形成される。その様に思えた。そこには足場も何もなく、ちょっと気を許すと方向もわからなくなりそうだった。
その中で体が勝手に動き出す。悪態をつこうにも、目以外には口さえも自由にならない。
足はぴたりと閉じられ、両手を軽く開く。何がおきてるのかわからないまま、おれは身を任せる以外にできることはなかった。
ぽわんと間抜けな音がして、胸にくすぐったい感覚を覚えた。なん、だ? 視界の隅にわずかに盛り上がったシャツが見える。布と擦れる感触が、強制的に膨らんだ部分も自分の体だと教えてくれる。
音がするたびに変化が起きた。腰がしめつけられ、ズボンのお尻が窮屈になる。頭皮が引っ張られる。背骨がきしみ、手足の肉が波打つ。股間に痛みが走る。
体の変化が終わったのだろう。いきなり服がはじけとんだ。素っ裸の、明らかにおれのものではない体があらわになる。誰にも見られていないとはいえ、恥ずかしくて仕方がない。
呆然としていると、帯状の光がくるりと下肢の付け根を一周した。その帯が皮膚に張り付き、物質化する。黒と白のチェック柄のパンツ。ご丁寧にレースで縁取られている。
次いで胸元に走った光が同タイプのブラジャーに変わった。控えめなふくらみのせいか、まるで背伸びした子どもが身に付けているみたいだ。
そこまで終わると、一気に漆黒の布が体にまとわりついた。肩口は風船のようにふくらみ、肘から先は釣鐘状に。のどを軽く締め付けているのは、襟だろうか。胸のすぐ下で一旦絞られたかと思うと、そこからどんどん円周が広がっていく。かなり上の位置からはじまったティアードスカートは、膝位置で伸びるのをやめた。スカートの中にさらにスカートができた様で、ふんわりと持ち上がる。
ようやく終わったのかと思いきや、さにあらず。袖口には白いレースのフリルが飾られる。襟から胸の頂まではこれまた白いブラウスに。スカートの段にも、精緻な装飾がほどこされていく。黒いニーソックスの入り口に、レースの飾りがつけられるのが肌で感じられた。仕上げとばかりに、ムダに底の分厚い革靴が履かされた。
たぶんそれで変化は完了だったのだろう。手がひとりでに伸び、どこからともなく現れた杖をつかむ。先端には大きな真紅の宝石がついている。くるくると回し、握りなおす。
そこまで操作されて、ようやく光の海から開放された。元通り、自分の部屋だ。矢が三本突き立っていること以外は。数秒後、体を動かせることに思い当たった。
「これは、なにかな?」
「魔法少女だも」
落ち着け。呼吸は深く。せめて元に戻る方法を教えてもらってからじゃないと、燃やすわけにはいかない。
「だぁかぁらぁ、なんでおれが少女なのかって聞いてるんだよ!」
「みらくるレイにゃんだからだも。あ、マジカルの方がよかったら、そっちでも良いも」
このウシはわざとおれを挑発しているのだろうか。だとしたら、その試みは文句なく大成功だと言える。
頭痛を感じて頭を振る。と、机の上に置いてある鏡が幾分幼さの残る少女を映し出した。
これが、おれ、なのか……。常軌を逸した格好も、不思議と似合っていた。数年前の妹がこんな感じだったかも。今は大人ぶって化粧なんか、ってそうじゃない。
ウシに視線を戻すと、頬に短い手を当てて首をかしげていた。そんなポーズ、お前がやっても不気味なだけ。それなら、いっそ、今のおれの方が……。
四度目の、いい加減聞きなれた音。矢だと判断する前に、体が杖を突き出していた。澄んだ高音が響く。同時に、見えないなにかにぶつかった矢が、ポトリと床に落ちた。
「え、何、今の? 魔法みたい」
「魔法だも。レイにゃんになったからには、そう簡単には負けないも!」
最後に、たぶん、と呟いた様に思えたけど、気のせいだとしておく。生身よりは圧倒的にマシなはずだし。とりあえず、コレで相手のパートナーとやらに対抗はできそう。
「精神を研ぎ澄ませたら、きっとジュンジュンたちのいるところがわかるも」
「……そっか」
ウシへの制裁は後でもいいや。とりあえず、そっちをなんとかしないとね。
狙撃されないように、壁に張り付いて目を閉じる。何度か深呼吸している内に、脳裏に川原がよぎった。ぼんやりと射手の姿が見える。橋のそばだ。
けっこう距離があるから、本来は見えるはずがない。だから、閃いたって表現が一番近いと思う。確証はないし、理も論もないんだけど、これが確かな答えだという感覚。そういうときはテストでもなんでも、たいてい当たる。
「マウシー、今のおれって飛べたりはしない?」
「飛べるも。イメージしてみるも。イメージは力になるも」
よし、それなら。羽、羽……。杖の宝石が輝いたかと思うと、背中にわずかな重みが加わった。振り返ってみると、なんていうか、コウモリ? いや、ある意味、服装とはぴったりマッチしてるんだけど。でも。
「なんだか悪役っぽい……」
「見た目なんて関係ないも!」
だったら、なんでゴスロリで少女なのか問い詰めたいところだ。きっとまた、魔法少女だからも、とか言うに決まってるけど。
「まあ、今はたしかに、飛べればなんでもいいや」
割られた窓から飛び立つ。すごい。風を切って、飛ぶ。グライダーに魅せられる人の気持ちが、はじめてわかった。しかも、思いのままに方向も高度も変えられる。すぐ横を矢がかすめていった。
「ひ、ひぃぃっ、はやいもぉっ」
情けない声に気づいて後ろを見ると、マウシーがブーツに張り付いていた。……もしかして、そこ、下着見えてない?
そりゃ、おれは男だから抵抗感は薄いけど、それでも気持ち良いものじゃない。足を振ってみても落ちやしない。もっと空を楽しみたいのに。さっさとケリつけて、そっから遊ばせてもらうか。
一直線に相手の見えた橋に向かう。ビジョン通りに橋の欄干に人が立っていた。なんか、ばかっぽい。くるくると旋回して様子を伺う。
想像通り、アーチェリーに似た弓を構えている。どうやら的であるおれがじっとしてないせいで、狙いが定まらないみたいだ。……それはいいとして……。
「寒くないの、アレ?」
「魔法の膜で包まれるから、見た目ほど寒くないも」
見た目ほどは、ねぇ。でも、アレって露出狂だよね? 身に付けているのは、白い紐ビキニ。むしろ紐。申し訳程度に、乳首と股間を布らしきものが覆っているのが見て取れる。胸が谷間を形成していて、夏場のビーチなら、男の視線は釘付け間違いなし。でも、今は真冬で、ここは街中。しかも橋の上。冷たい視線を浴びるか、目をそらされるかだと思う。
正直、相手したくないんだけど。なんて言ってられないんだよね。狙われてるわけだし。
撃たれないように、急旋回からの急降下。華麗に相手の眼前に着地。
「えっ、きゃあ!?」
「ったぁ……」
……のはずが、勢いあまって露出魔にぶつかってしまった。バランスを崩した彼女は、そのまま落下して。水しぶきがキラキラと輝いて。からからと弓が転がった。
「寒いよね、アレは」
「普通よりはいくぶんマシだも?」
つまり、冷たくないわけではない、と。心臓発作で死んだりしなきゃいいけど。
今度はあわてず騒がずゆっくりと川原に降り立つ。自分まで寒中水泳はごめんです。
岸に近づくと、マウシーとは色違いのぬいぐるみがひざまずいていた。布地というか肌はちゃんと白黒で、それだけなのにものすごくまともに見える。
「みーぽぉぉおんっ!! だから、だから、狙い撃ちなんてやめようって言ったじゅん!」
涙腺があるとは思えないけど、滂沱の涙を流している。なんか、悪いことしたかなぁ。先に狙われたとはいっても、罪悪感に駆られてしまう。
「ジュンジュン、久しぶりだも」
「く、マウシー、不意打ちとは卑怯だじゅん」
見た目は思い切りファンシーなぬいぐるみが、ダンディズムにあふれた声で語り合う。語尾のせいもあるのだろうけど、無性にうざい。
少し離れようかと思案していると、ざばぁっと川面に顔が出てきた。とろんと垂れた瞳でおれの方を見つめてくる。たぶん、にらんでるんだろうなぁ。なんだか憐れになって手を差し伸べる。だけど、その手はすぐに引っ込めることになった。
「おい、てめ、ざけんなよ、あ!?」
「うっわぁ……」
「ジュンジュン、いくらなんでもこれはひどいも」
「仕方ないじゅん。選んだのはぼくじゃないじゅん」
なんとも素敵な言葉遣いだ。同情する余地、なし。ガチガチと歯を鳴らしながら、丘に向かって歩いてくる。寒いせいなのか、それともただ単にとろいのか。緩慢な動作。
「なに黙ってんだ、こら!」
「自分のこと、けっこう忍耐強いと思うんだよね」
「ああ!?」
「でも、きみみたいなの、嫌いなんだよね」
「んだと、こら! ふざけてんのか!?」
語彙が乏しい。ついでに、怖くもなんともない。なんだか下手な芝居を見ているような気持ちにさせられる。でも、それとすごまれて腹が立たないのとは、別問題。
「えいっ」
なんてかわいこぶって、みーぽんとやらを杖でぶん殴る。ちゃんと、川の真ん中に飛ぶようにイメージして。鈍い当たり心地がして人が宙を舞った。
「えげつないも」
「マウシーだって、ヒトのこと言えないじゅん」
ウシどもがとやかくわめいてる間にも、みーぽんが浮かび上がってきた。脂肪と男のロマンがつまった浮き袋が大きいせいか、浮力も高いと見える。そのままこっちに向かって泳いでくる。
たどり着いたところで、にっこり一言。
「もいっかい、飛びたい?」
「ひっ……」
おびえた目。完全にひるみきった態度。衣装といいなんといい、こう、むらむらとおれの嗜虐心を刺激してくる。特に自分のことをSだと意識したことはなかったけど、うん、どうもそうだったみたいだ。
「うぅぅぅっ、ばかぁああっ」
「あぁ、みーぽん、待ってじゅん!!」
口調も体の向きも一転。女の子っぽく涙目で叫ぶなり、向こう岸へ走っていってしまった。水上歩行の術、みたいな。そんなところで魔法を使うなら、最初から防ぐなり逃げるなりすればいいのに。
<つづく>
1000万ヒット記念投稿TS小説 とらいある・とらいあんぐる 作.うずら 挿絵.春乃 月
うずらさんのHP 春乃さんのHP
<1>
「なんだろ、これ?」
道端に落ちていた塊を拾い上げる。ソレは牛のぬいぐるみだった。控えめに言ったところで、かなり悪趣味。蛍光ピンクにおなじみの黒い模様。見ているだけで、気持ち悪くなってしまいそうだ。
拾い上げてみたけど、どうしようか。ポイ捨てはちょっといやだし、コンビニのゴミ箱にでも持って行こうかな。
「よっす」
「うわ、しゃべった!?」
驚きのあまり、その物体を地面にたたきつけてしまう。……よし、おれは何も見てない、聞いてない。帰ろう。っていうか、ぬいぐるみのくせにちょっと生意気かも。
「捨てるなんてひどいヤツだも」
「ひっ!」
耳元にふっと生暖かい息が吹きかけられた。息……息!?
しゃべったのはたぶん、マイク。いつの間にか肩までよじ登って来ているのも、ラジコンと思えば不可能じゃないのかもしれない。テレビなんかでも、最近の技術進歩はすごいと喧伝しているし。
でも、だ。空気を出すだけなら図工レベルでどうにでもなるけど、生暖かいっていうのはわからない。夏ならいざ知らず、今は冬。モーターや動力源による発熱? それにしても、あの湿っぽさといい、肌に走る感覚といい、ヒトの吐息そのもの。
……持って帰ってみようかな。いい暇つぶしになるかもしれないし。肩に載った不思議生命体もとい物体を手に、おれはうきうきと家路についた。
「ぁっ、もぉ、そんな激しくしちゃ、んぐ、もごごご」
ちょっと黙ってて、うるさいから。あ、触感はウサギに似てなくもないかも。
ベッドに牛を放り投げる。さも痛そうに頭をさすっているけど、痛覚、あるのかな。だとしたら、やっぱり生き物? でも、しゃべってるし……。とにかく、本人に聞くのが一番かな。
「で?」
「でって言われても、困るも」
それもそうか。でも、つっこみどころが多すぎて、どこから訊ねたものだろうか。ええっと。
「なんで牛がしゃべってるんだ?」
「失礼も。牛じゃないも。マウシーだも。このスタイリッシュなボディ、整った顔立ち……どこが牛だも!」
全体的に。牛のぬいぐるみ以外には見えない。色以外。っていうか、名前にもウシってついてるし。まあ、本人が違うって言うなら、わざわざ指摘しなくてもいいか。
「そのマウシーは、なんでしゃべってるの?」
「おつきのマスコットだからだも」
うわぁ、えらそう。ふんぞり返ってるよ。声がむだにダンディな分、なんだか無性に腹が立ってくる。燃えるゴミの日って、明日だっけ。
マウシーをゴミ箱に放り込もうと思ったときだった。背後でガラスの割れる音がした。
振り返ったおれの鼻先を、細長いものが横切る。鋭い痛みとともに、鼻の頭から血がにじむのがわかった。飛んでいった先を見ると、壁にアーチェリーの矢のようなものが刺さっている。恐怖のせいか、吹き込んでくる冷たい風のせいか、体が自然に震えた。
「先制攻撃してきたも」
「攻撃? なにか知ってるわけ?」
「大変な事態なんだも」
うん、実に大変だ。こうやってぬいぐるみと対面で話をしている時点で、すでに人生末期症状、みたいな。おまけに弓で射られるって、もう、何なんだよ。
「きっとジュンジュンがパートナーに狙わせてるんだも」
そうかぁ、ジュンジュンかぁ。って、ダレ?
いきなり言われて、理解できるわけがない。同類か、牛なのか、お前のせいか。なんてシメてやろう考えていたら、また矢が飛んできた。すでに割れた窓を貫通して、今度は耳をかすめていった。
「どこのだれだか知らないけど、殺意がびんびんに伝わってくるんだけど?」
「とりあえず、頭を下げておくも」
言いなりになるのはなんだか癪だったけど、ここは仕方がない。腹ばいになって、とりあえずの身の危険を回避することにした。
でも、いつまでもこうはしてられない。なんとか犯人を見つけて、ケーサツに突き出さないと。
「きっと、いまのはジュンジュンのパートナーの仕業だも」
「だから、それがわからないって。ちゃんと説明しろよ」
「ジュンジュンはライバルなんだも」
「いまいち状況が理解できないけど、つまりお前がここにいるせいで、おれは狙われてるってこと?」
「く、くるしい、も……」
本当の意味でシメる。だけど、ここで止めを刺すわけにもいかない。この牛が何かを知っているなら、最低限、それは聞きだす必要がある。
ちょっとだけ首の拘束をゆるめてやる。息はできる、けど、いつでも絞めることができる。死にたくなかったら、わかってるよね、と指にちょっと力を入れる。
「うう、ひどいも」
「うっさい。そっちの都合で巻き込まれてるんだから、このぐらい当たり前。で、そのパートナーとやらを見つけたら、おれが襲われることはなくなるんだよな?」
当然の理屈だろう。ジュンジュンとやらは、マウシーの邪魔をするためにおれを狙っている。つまるところ、この牛を窓から捨てれば、命の危険はなくなる。だけど、そんな期待はあっさりと否定された。小憎らしいまでに。
「それは無理だも」
「あ?」
「だ、だめ、それ以上、はげしくし、ないでも」
「だったらさっさと、わかりやすく説明すること」
「我々は基本的に契約を結ぶまでヒトの目に見えないし、触れないも。それを見つけたヒトが、すなわち契約者になるんだも」
すると、こっちの都合は完全無視しますよ、と。そう言ってる? やっぱり絞め殺したほうがよくないだろうか。人間じゃないし、だいたいほんとうに生き物かも怪しい。犯罪にはならないんじゃないかな。
指に力をいれたとき、風を切る音とともに、床に矢が突き立った。びよんびよんとシャフトは間抜けな音を立てているが、深々と突き刺さったそれは十分な殺傷能力を証明していた。つぅっと嫌な汗が流れる。
「……さっき伏せたら大丈夫って言わなかった?」
「頭を下げたほうがいいと教えただけも。そうじゃなかったら、今頃、その頭蓋骨に刺さってるも」
言い草はともかく、正論ではある。最初の二本も、たまたま当たらなかっただけ、と考えたほうがいいかもしれない。
「……さっき、契約がどうのって」
「お前がマウシーの契約者も」
「それは要するに、この状況をなんとかできるってことだよね?」
「ジュンジュンの相方をやっつけてしまえば、オーケーも」
わかりやすい。つまりは代理戦争ってわけだ。このぬいぐるみの代わりに、ヒトサマが戦わされる。そういうこと。嫌だというのは簡単だけど、命がかかっているとなれば話は別。なにより、無抵抗なのに容赦なく攻撃してくるヤツは、まあ、正直気に食わないよね。
「わかった。どうすればいい?」
「ほんとかも? 後から辞めたとか言い出したら、ひどいことになるも」
「疑り深いなぁ。なんだったら、燃えてみる? たしか、ゲーセンで取ったライターがあったはず……」
「わ、悪かったも。今からチカラを授けるから、名前を教えるも」
なんだか詐欺にひっかかった気もするけど、クーリングオフとか、利かないよねぇ、やっぱり。命の危機だし。
「レイ。桝田黎」
「わかったも! それじゃあ、しばらく目をつむっておくも」
床に伏せた状態のまま、目を閉じた。マウシーがなにかつぶやいている。耳慣れない言語だ。ほんとうに言葉なのかも怪しい。そんなことを思っていると、軽い金属音がして、後頭部になにかをつけられたのがわかった。
「契約完了だも。目を開けていいも」
「頭につけたのはなんだよ?」
鏡を見るために体を起こすわけにもいかず、仕方なく牛にたずねる。触ってみても、覚えのない感触なんだから、ほかにどうしようもない。
「リボンだも」
「は? やっぱり燃えるほうがいい……?」
伸ばした手は軽くかわされ、それと同時にピンクの物体が宣言した。高らかに、歌い上げるように。心地よい、バリトンで。果てしなく、ばかっぽく。
「みらくるレイにゃん爆誕っ、だも」

<つづく>
<1>
「なんだろ、これ?」
道端に落ちていた塊を拾い上げる。ソレは牛のぬいぐるみだった。控えめに言ったところで、かなり悪趣味。蛍光ピンクにおなじみの黒い模様。見ているだけで、気持ち悪くなってしまいそうだ。
拾い上げてみたけど、どうしようか。ポイ捨てはちょっといやだし、コンビニのゴミ箱にでも持って行こうかな。
「よっす」
「うわ、しゃべった!?」
驚きのあまり、その物体を地面にたたきつけてしまう。……よし、おれは何も見てない、聞いてない。帰ろう。っていうか、ぬいぐるみのくせにちょっと生意気かも。
「捨てるなんてひどいヤツだも」
「ひっ!」
耳元にふっと生暖かい息が吹きかけられた。息……息!?
しゃべったのはたぶん、マイク。いつの間にか肩までよじ登って来ているのも、ラジコンと思えば不可能じゃないのかもしれない。テレビなんかでも、最近の技術進歩はすごいと喧伝しているし。
でも、だ。空気を出すだけなら図工レベルでどうにでもなるけど、生暖かいっていうのはわからない。夏ならいざ知らず、今は冬。モーターや動力源による発熱? それにしても、あの湿っぽさといい、肌に走る感覚といい、ヒトの吐息そのもの。
……持って帰ってみようかな。いい暇つぶしになるかもしれないし。肩に載った不思議生命体もとい物体を手に、おれはうきうきと家路についた。
「ぁっ、もぉ、そんな激しくしちゃ、んぐ、もごごご」
ちょっと黙ってて、うるさいから。あ、触感はウサギに似てなくもないかも。
ベッドに牛を放り投げる。さも痛そうに頭をさすっているけど、痛覚、あるのかな。だとしたら、やっぱり生き物? でも、しゃべってるし……。とにかく、本人に聞くのが一番かな。
「で?」
「でって言われても、困るも」
それもそうか。でも、つっこみどころが多すぎて、どこから訊ねたものだろうか。ええっと。
「なんで牛がしゃべってるんだ?」
「失礼も。牛じゃないも。マウシーだも。このスタイリッシュなボディ、整った顔立ち……どこが牛だも!」
全体的に。牛のぬいぐるみ以外には見えない。色以外。っていうか、名前にもウシってついてるし。まあ、本人が違うって言うなら、わざわざ指摘しなくてもいいか。
「そのマウシーは、なんでしゃべってるの?」
「おつきのマスコットだからだも」
うわぁ、えらそう。ふんぞり返ってるよ。声がむだにダンディな分、なんだか無性に腹が立ってくる。燃えるゴミの日って、明日だっけ。
マウシーをゴミ箱に放り込もうと思ったときだった。背後でガラスの割れる音がした。
振り返ったおれの鼻先を、細長いものが横切る。鋭い痛みとともに、鼻の頭から血がにじむのがわかった。飛んでいった先を見ると、壁にアーチェリーの矢のようなものが刺さっている。恐怖のせいか、吹き込んでくる冷たい風のせいか、体が自然に震えた。
「先制攻撃してきたも」
「攻撃? なにか知ってるわけ?」
「大変な事態なんだも」
うん、実に大変だ。こうやってぬいぐるみと対面で話をしている時点で、すでに人生末期症状、みたいな。おまけに弓で射られるって、もう、何なんだよ。
「きっとジュンジュンがパートナーに狙わせてるんだも」
そうかぁ、ジュンジュンかぁ。って、ダレ?
いきなり言われて、理解できるわけがない。同類か、牛なのか、お前のせいか。なんてシメてやろう考えていたら、また矢が飛んできた。すでに割れた窓を貫通して、今度は耳をかすめていった。
「どこのだれだか知らないけど、殺意がびんびんに伝わってくるんだけど?」
「とりあえず、頭を下げておくも」
言いなりになるのはなんだか癪だったけど、ここは仕方がない。腹ばいになって、とりあえずの身の危険を回避することにした。
でも、いつまでもこうはしてられない。なんとか犯人を見つけて、ケーサツに突き出さないと。
「きっと、いまのはジュンジュンのパートナーの仕業だも」
「だから、それがわからないって。ちゃんと説明しろよ」
「ジュンジュンはライバルなんだも」
「いまいち状況が理解できないけど、つまりお前がここにいるせいで、おれは狙われてるってこと?」
「く、くるしい、も……」
本当の意味でシメる。だけど、ここで止めを刺すわけにもいかない。この牛が何かを知っているなら、最低限、それは聞きだす必要がある。
ちょっとだけ首の拘束をゆるめてやる。息はできる、けど、いつでも絞めることができる。死にたくなかったら、わかってるよね、と指にちょっと力を入れる。
「うう、ひどいも」
「うっさい。そっちの都合で巻き込まれてるんだから、このぐらい当たり前。で、そのパートナーとやらを見つけたら、おれが襲われることはなくなるんだよな?」
当然の理屈だろう。ジュンジュンとやらは、マウシーの邪魔をするためにおれを狙っている。つまるところ、この牛を窓から捨てれば、命の危険はなくなる。だけど、そんな期待はあっさりと否定された。小憎らしいまでに。
「それは無理だも」
「あ?」
「だ、だめ、それ以上、はげしくし、ないでも」
「だったらさっさと、わかりやすく説明すること」
「我々は基本的に契約を結ぶまでヒトの目に見えないし、触れないも。それを見つけたヒトが、すなわち契約者になるんだも」
すると、こっちの都合は完全無視しますよ、と。そう言ってる? やっぱり絞め殺したほうがよくないだろうか。人間じゃないし、だいたいほんとうに生き物かも怪しい。犯罪にはならないんじゃないかな。
指に力をいれたとき、風を切る音とともに、床に矢が突き立った。びよんびよんとシャフトは間抜けな音を立てているが、深々と突き刺さったそれは十分な殺傷能力を証明していた。つぅっと嫌な汗が流れる。
「……さっき伏せたら大丈夫って言わなかった?」
「頭を下げたほうがいいと教えただけも。そうじゃなかったら、今頃、その頭蓋骨に刺さってるも」
言い草はともかく、正論ではある。最初の二本も、たまたま当たらなかっただけ、と考えたほうがいいかもしれない。
「……さっき、契約がどうのって」
「お前がマウシーの契約者も」
「それは要するに、この状況をなんとかできるってことだよね?」
「ジュンジュンの相方をやっつけてしまえば、オーケーも」
わかりやすい。つまりは代理戦争ってわけだ。このぬいぐるみの代わりに、ヒトサマが戦わされる。そういうこと。嫌だというのは簡単だけど、命がかかっているとなれば話は別。なにより、無抵抗なのに容赦なく攻撃してくるヤツは、まあ、正直気に食わないよね。
「わかった。どうすればいい?」
「ほんとかも? 後から辞めたとか言い出したら、ひどいことになるも」
「疑り深いなぁ。なんだったら、燃えてみる? たしか、ゲーセンで取ったライターがあったはず……」
「わ、悪かったも。今からチカラを授けるから、名前を教えるも」
なんだか詐欺にひっかかった気もするけど、クーリングオフとか、利かないよねぇ、やっぱり。命の危機だし。
「レイ。桝田黎」
「わかったも! それじゃあ、しばらく目をつむっておくも」
床に伏せた状態のまま、目を閉じた。マウシーがなにかつぶやいている。耳慣れない言語だ。ほんとうに言葉なのかも怪しい。そんなことを思っていると、軽い金属音がして、後頭部になにかをつけられたのがわかった。
「契約完了だも。目を開けていいも」
「頭につけたのはなんだよ?」
鏡を見るために体を起こすわけにもいかず、仕方なく牛にたずねる。触ってみても、覚えのない感触なんだから、ほかにどうしようもない。
「リボンだも」
「は? やっぱり燃えるほうがいい……?」
伸ばした手は軽くかわされ、それと同時にピンクの物体が宣言した。高らかに、歌い上げるように。心地よい、バリトンで。果てしなく、ばかっぽく。
「みらくるレイにゃん爆誕っ、だも」

<つづく>
投稿TS小説第117番 秘密のバスオイル(1)
作.うずら
アドバイサー:かんきり
初出:2006.8.9
イラスト:いずみやみその みそ屋本舗
楓 変身前/後 ラフデザイン

今日は安藤が泊まりに来ている。
と、言うより、サークルの打ち上げで酔いつぶれたのを、仕方なく引き取ってやったというのが正しい。
ついさっき、目を覚まして風呂に入りに行った。
安藤の下着やシャツが洗濯機の中で回っているが、二度と使うことはないだろう。
面倒だと思いつつも介抱してやった理由は、怪しげな中国人の露天商から買った入浴剤を試すためだ。
身振り手振りと片言の日本語で説明された内容によると、その入浴剤を使って風呂に入った者は女になるのだとか。
入っている時間に比例して女らしい体型になる、などなど……。
いくつか制約があったりするみたいだが、正直な話、良く分からんかった。
五千円のところを半額まで負けさせた商品だ。
偽物でも、別に懐は痛まない。
「うわあああああああ!?」
風呂場から悲鳴が聞こえたが、安藤の声じゃない。
明らかに女、いや、女の子の声だ。
ガラガラと大きな音を立てて、風呂場から白い塊が飛び出してくる。

アドバイサー:かんきり
初出:2006.8.9
イラスト:いずみやみその みそ屋本舗
楓 変身前/後 ラフデザイン

今日は安藤が泊まりに来ている。
と、言うより、サークルの打ち上げで酔いつぶれたのを、仕方なく引き取ってやったというのが正しい。
ついさっき、目を覚まして風呂に入りに行った。
安藤の下着やシャツが洗濯機の中で回っているが、二度と使うことはないだろう。
面倒だと思いつつも介抱してやった理由は、怪しげな中国人の露天商から買った入浴剤を試すためだ。
身振り手振りと片言の日本語で説明された内容によると、その入浴剤を使って風呂に入った者は女になるのだとか。
入っている時間に比例して女らしい体型になる、などなど……。
いくつか制約があったりするみたいだが、正直な話、良く分からんかった。
五千円のところを半額まで負けさせた商品だ。
偽物でも、別に懐は痛まない。
「うわあああああああ!?」
風呂場から悲鳴が聞こえたが、安藤の声じゃない。
明らかに女、いや、女の子の声だ。
ガラガラと大きな音を立てて、風呂場から白い塊が飛び出してくる。

テーマ:同性愛、ホモ、レズ、バイセクシャル - ジャンル:アダルト
投稿TS小説第146番 サッカー部へようこそ(13)最終回<18禁> by.うずら
なんだ。
そんなことかぁ。
緊張して損しちゃった。
当たり前じゃない、そんなこと。
「大スキだよー?」
「そっか」
「直くんは、違うの?」
「いや。俺の方がお前のこと好きだよ」
「えーっ! 私の方が好きだもん!」
こんなこと言い合ってるのって、バカップルだよねぇ。
でも、いいんだ。
お互い好きなんだもんね。
……やっぱり、男の子のが入ったまんまで言い合うのは変かも。
「改めて言うのもなんだけど、動くぞ?」
「う、うん」
言い置いてから直くんが腰を引いた。
根元まで入っていたのが、ずるずると引き出される。
先っぽだけが残ってる状態。
うーん。間が開いちゃって、変な感じ。
なんで続けなかったんだっけ?
よく覚えてないけど、エッチな気分じゃなくなっちゃった。
あ、御香が消えてる。
もしかしたら、アレのにおいが興奮させてくれたのかも。
またつけてくれたらいいのに。直くん、気づいてないのかな。
されるがままになっていたら、今度はぐっと奥まで入れられた。
あ、そういえば、何かで読んだかも。
テキトーにあえいでたら、男は勝手にイイ気になって逝っちゃうって。
試してみようかなー。
「んぁっ、はぁんっ」
直くんが出したり入れたりするのにあわせて、声を出してみる。
あ、速くなった。
「ぁあん、やっ、はぅっ」
少しは気持ち良いけど、やっぱりノってこない。
どうせなら、もっと優しく愛撫して欲しいなぁ。
でも、直くんだって気持ちよくなりたいんだもんね。
次するときは私を優先してもらわなきゃ。
そのまま何度か直くんのが行ったり来たり。
あ、中でちょっとおっきくなった。
気持ち良いのかな?
「んっ、でる、ぞ」
あ、あっ。
ビクビクって震えた途端、精液が奥で出されたのが分かった。
そっか。直くん気持ちよかったんだ。
女の子が乗り気じゃないのに一人でいっちゃうなんて、まだまだダゾ。
「あぁぁぁんっ」
でも自信なくされたらヤだから、私もイったふり。
あれ?
今日って安全日だったっけ?
この前、生理がいつあったか覚えてない。
うーん……まあ、いっかぁ。
直くんとの子供なら出来たって。
どうせなら女の子が良いかな。
かわいい服着せたり、お料理一緒にしたりできるしね。
「こずえ、気持ちよかった?」
「あ、うん〜」
ぽけーっとそんなこと考えてると、余韻に浸ってると思ったみたい。
出し切ってしぼんだものを抜きながら、変なことを尋ねてきた。
勘違いなんだけど、わざわざ傷つける必要もないよね。
頭を撫でてくれたから、お返しにぎゅって抱き締める。
今度はちゃんと逝かせてね、直くん?
「大好きだよー」
「俺もだよ」
「だから、浮気しちゃダメだからね?」
カッコイイし、サッカー部エースだもん。
当然女の子が寄ってくる。
それはそれで嬉しいんだけど、やっぱり複雑。
そんなことかぁ。
緊張して損しちゃった。
当たり前じゃない、そんなこと。
「大スキだよー?」
「そっか」
「直くんは、違うの?」
「いや。俺の方がお前のこと好きだよ」
「えーっ! 私の方が好きだもん!」
こんなこと言い合ってるのって、バカップルだよねぇ。
でも、いいんだ。
お互い好きなんだもんね。
……やっぱり、男の子のが入ったまんまで言い合うのは変かも。
「改めて言うのもなんだけど、動くぞ?」
「う、うん」
言い置いてから直くんが腰を引いた。
根元まで入っていたのが、ずるずると引き出される。
先っぽだけが残ってる状態。
うーん。間が開いちゃって、変な感じ。
なんで続けなかったんだっけ?
よく覚えてないけど、エッチな気分じゃなくなっちゃった。
あ、御香が消えてる。
もしかしたら、アレのにおいが興奮させてくれたのかも。
またつけてくれたらいいのに。直くん、気づいてないのかな。
されるがままになっていたら、今度はぐっと奥まで入れられた。
あ、そういえば、何かで読んだかも。
テキトーにあえいでたら、男は勝手にイイ気になって逝っちゃうって。
試してみようかなー。
「んぁっ、はぁんっ」
直くんが出したり入れたりするのにあわせて、声を出してみる。
あ、速くなった。
「ぁあん、やっ、はぅっ」
少しは気持ち良いけど、やっぱりノってこない。
どうせなら、もっと優しく愛撫して欲しいなぁ。
でも、直くんだって気持ちよくなりたいんだもんね。
次するときは私を優先してもらわなきゃ。
そのまま何度か直くんのが行ったり来たり。
あ、中でちょっとおっきくなった。
気持ち良いのかな?
「んっ、でる、ぞ」
あ、あっ。
ビクビクって震えた途端、精液が奥で出されたのが分かった。
そっか。直くん気持ちよかったんだ。
女の子が乗り気じゃないのに一人でいっちゃうなんて、まだまだダゾ。
「あぁぁぁんっ」
でも自信なくされたらヤだから、私もイったふり。
あれ?
今日って安全日だったっけ?
この前、生理がいつあったか覚えてない。
うーん……まあ、いっかぁ。
直くんとの子供なら出来たって。
どうせなら女の子が良いかな。
かわいい服着せたり、お料理一緒にしたりできるしね。
「こずえ、気持ちよかった?」
「あ、うん〜」
ぽけーっとそんなこと考えてると、余韻に浸ってると思ったみたい。
出し切ってしぼんだものを抜きながら、変なことを尋ねてきた。
勘違いなんだけど、わざわざ傷つける必要もないよね。
頭を撫でてくれたから、お返しにぎゅって抱き締める。
今度はちゃんと逝かせてね、直くん?
「大好きだよー」
「俺もだよ」
「だから、浮気しちゃダメだからね?」
カッコイイし、サッカー部エースだもん。
当然女の子が寄ってくる。
それはそれで嬉しいんだけど、やっぱり複雑。
投稿TS小説第146番 サッカー部へようこそ(12)<18禁> by.うずら
首の後ろに絡めていた手を放す。
ほら、好きにして良いんだよ、直くん?
いつもより張っている胸に、直くんの手が伸びる。
揉んだりこねたり。
左右のおっぱいがぐにぐに形を変えていく。
「あふっ、そんな、にっ、乱暴にしちゃ、やだぁ」
ホントはもっとしてほしい。
けど、そんなこと言えないよね。
それなのに、直くんには全部お見通しなのかな?
私の心の声までわかったみたいに、もっと激しくしてくれる。
「その割りに、嬉しそうだな?」
「ひゃう、もぉ……」
ちょっとふくれっ面。
別におねだりしたわけじゃないもん。
「こうやって乳首引っ張ったりして」
「ああぁっ」
そんな、きゅってつねられたら感じちゃうよぉ。
じわぁってゆっくりだけど、奥から愛液が出てきてる。
「こずえはひとりエッチの時、胸ずっといじってたよな。こんな風にされるの、好きなんだろ?」
「あっ、はぁ、ん゛っ」
好きだよぉ。
ほら、好きにして良いんだよ、直くん?
いつもより張っている胸に、直くんの手が伸びる。
揉んだりこねたり。
左右のおっぱいがぐにぐに形を変えていく。
「あふっ、そんな、にっ、乱暴にしちゃ、やだぁ」
ホントはもっとしてほしい。
けど、そんなこと言えないよね。
それなのに、直くんには全部お見通しなのかな?
私の心の声までわかったみたいに、もっと激しくしてくれる。
「その割りに、嬉しそうだな?」
「ひゃう、もぉ……」
ちょっとふくれっ面。
別におねだりしたわけじゃないもん。
「こうやって乳首引っ張ったりして」
「ああぁっ」
そんな、きゅってつねられたら感じちゃうよぉ。
じわぁってゆっくりだけど、奥から愛液が出てきてる。
「こずえはひとりエッチの時、胸ずっといじってたよな。こんな風にされるの、好きなんだろ?」
「あっ、はぁ、ん゛っ」
好きだよぉ。
投稿TS小説第146番 サッカー部へようこそ(11)<18禁> by.うずら
香炉を持った直がゆっくりと近寄ってくる。
そこから溢れ出ている煙が二人を包み込んだ。
段々頭がはっきりしなくなってきた。
股間がむずむずしている。
この感覚はすでに経験したから分かる。
直を受け入れる準備が出来つつあるんだ。
「こっちにおいで」
言われるがままに歩み寄った。
手を引かれ、ベッドまで連れて行かれる。
「ここで、いつもしてるみたいに、オナニー見せてくれるか?」
「うん」
少し恥ずかしいな。
着たばかりのTシャツをはだける。
ブラジャーもさっと外す。
ベルトを外すのももどかしく、ズボンをショーツごと床に脱ぎ捨てた。
「いきなり全部脱いじゃうのか、こずえは」
「うん、その方が気持ち良いんだよー」
そこから溢れ出ている煙が二人を包み込んだ。
段々頭がはっきりしなくなってきた。
股間がむずむずしている。
この感覚はすでに経験したから分かる。
直を受け入れる準備が出来つつあるんだ。
「こっちにおいで」
言われるがままに歩み寄った。
手を引かれ、ベッドまで連れて行かれる。
「ここで、いつもしてるみたいに、オナニー見せてくれるか?」
「うん」
少し恥ずかしいな。
着たばかりのTシャツをはだける。
ブラジャーもさっと外す。
ベルトを外すのももどかしく、ズボンをショーツごと床に脱ぎ捨てた。
「いきなり全部脱いじゃうのか、こずえは」
「うん、その方が気持ち良いんだよー」
投稿TS小説第146番 サッカー部へようこそ(10)<18禁> by.うずら
「お待たせしました。アイスティー、いちごみるく、チョコミントのトリプルです」
「は〜い」
普段は頼めないような、可愛らしいアイスを受け取る。
飲食用スペースの椅子に腰掛け、味見をしてみる。
お、やっぱり甘くて美味い。
疲れも吹き飛ぶぐらいだ。
女子はいいな。平然とこんなのが注文できるんだから。
今度また、皮を持ち出して買いに来よう。
つい顔がにやけてしまう。
直もバニラのを手に、俺の正面に座った。
黙って食うのも気まずくて、さっきの件で引っかかっていたことを口にする。
「ねえ、やっぱり送って行った方が良かったんじゃ……」
「つったって、アイツはいらないって拒否しただろ」
それはそうなんだが。
泣かせてしまったことが申し訳なくて、直に送らせる事を提案した。
だが、あんなことがあった後なのに吉沢はしっかりしていた。
どうせならあなたに送って欲しい、なんて冗談まで口にして一人で帰ったのだ。
「でも、完全に失恋したばっかりだしさぁ」
「っせぇよ。もういいだろ」
はぁ。
「は〜い」
普段は頼めないような、可愛らしいアイスを受け取る。
飲食用スペースの椅子に腰掛け、味見をしてみる。
お、やっぱり甘くて美味い。
疲れも吹き飛ぶぐらいだ。
女子はいいな。平然とこんなのが注文できるんだから。
今度また、皮を持ち出して買いに来よう。
つい顔がにやけてしまう。
直もバニラのを手に、俺の正面に座った。
黙って食うのも気まずくて、さっきの件で引っかかっていたことを口にする。
「ねえ、やっぱり送って行った方が良かったんじゃ……」
「つったって、アイツはいらないって拒否しただろ」
それはそうなんだが。
泣かせてしまったことが申し訳なくて、直に送らせる事を提案した。
だが、あんなことがあった後なのに吉沢はしっかりしていた。
どうせならあなたに送って欲しい、なんて冗談まで口にして一人で帰ったのだ。
「でも、完全に失恋したばっかりだしさぁ」
「っせぇよ。もういいだろ」
はぁ。
投稿TS小説第146番 サッカー部へようこそ(9)<18禁> by.うずら
3時少し前に駅に着いた。
二人でベンチに座っていると視線が集まる、集まる。
少しわずらわしくもあるが、優越感に浸れてなかなか悪くない。
なにしろ今の俺は身体も顔も一級品だ。
もっとも、直と『将』だった場合は劣等感にさいなまれるだけだが……。
「ね、直くん、あれじゃない?」
「ん? あ、そうだな。おーい!」
「あ、直君!」
3時を3分ほど過ぎてから吉沢がやってきた。
大事な約束に遅刻するとは、ルーズな性格なんだな。
嬉しそうに化粧の濃い顔が近寄ってくる。
「……ちょ、ちょっと、何よ、その女!!」
あと数メートルというところで立ち止まる。
俺の存在に気づいたのだろう。
ついでに負けも悟ったのかもしれない。顔が青ざめている。
「何って、カノジョだよ」
「う、うそ……」
「嘘じゃないぜ、わりぃけど。だから、お前とは付き合えないよ」
「いや、いやぁ!!」
髪を振り乱しながら人目も気にせず叫ぶ吉沢。
涙が溢れて、化粧が崩れている。
なんだか哀れになってきた。
「ね、ねえ、直くん……」
「カノジョだから、こんなことだって出来るぞ」
「んん!?」
「ひっ」
二人でベンチに座っていると視線が集まる、集まる。
少しわずらわしくもあるが、優越感に浸れてなかなか悪くない。
なにしろ今の俺は身体も顔も一級品だ。
もっとも、直と『将』だった場合は劣等感にさいなまれるだけだが……。
「ね、直くん、あれじゃない?」
「ん? あ、そうだな。おーい!」
「あ、直君!」
3時を3分ほど過ぎてから吉沢がやってきた。
大事な約束に遅刻するとは、ルーズな性格なんだな。
嬉しそうに化粧の濃い顔が近寄ってくる。
「……ちょ、ちょっと、何よ、その女!!」
あと数メートルというところで立ち止まる。
俺の存在に気づいたのだろう。
ついでに負けも悟ったのかもしれない。顔が青ざめている。
「何って、カノジョだよ」
「う、うそ……」
「嘘じゃないぜ、わりぃけど。だから、お前とは付き合えないよ」
「いや、いやぁ!!」
髪を振り乱しながら人目も気にせず叫ぶ吉沢。
涙が溢れて、化粧が崩れている。
なんだか哀れになってきた。
「ね、ねえ、直くん……」
「カノジョだから、こんなことだって出来るぞ」
「んん!?」
「ひっ」
投稿TS小説第146番 サッカー部へようこそ(8)<18禁> by.うずら
ディスカウントストアに向かおうとすると、直に引っ張られた。
「そっちの肉より、こっちのスーパーのが良い」
「えー、安い方がいいでしょ。味なんて変わらないんだし」
「いーや、違うね。金払うのは俺なんだから、別に構わないだろ」
金のことを言われると弱い。
仕方なく手を引かれるまま、直についていく。
こんな方に普段来る事がないから、地理もさっぱりわからない。
何箇所か角を曲がると、そこそこの規模の店が見えてきた。
「普通のスーパーじゃん」
「甘いな。ここはウチのマンションの住人御用達だぜ?」
あそこに住んでるセレブたちが買ってるって……?
どんだけすごいんだ、この店。
直がカゴを持って中に入っていく。
庶民な自分が場違いに思えて、急いで直に張り付く。
「お?」
俺が腕を抱き締めるなり、嬉しそうに相好を崩した。
勘違いだと教えてやるべきだろうか。
まあ、このぐらいは良いか、うん。
しかし、店内も金持ち向けなのかと思ったが、そうは見えない。
「やっぱり普通のスーパーじゃないの?」
「ふっ、ここにある野菜を見ろ!」
キャベツをぐわしっと掴んで高々と掲げる直。
うあ、店の人に見られてる。
恥ずかしいな、こいつ。
仕方ないので下のプレートを覗き込む。
有機無農薬。
「へー」
「それだけか……?」
なるほど、だから値段が相場より高いのか。
反応の薄さにがっかりしたのか、直の元気がなくなった。
持っていたキャベツを棚に戻して、俺が指示した方に歩き出す。
「ニラ、と……もやし、しょうがとにんにく」
「あいよー」
「あ、さすがに油ぐらいあるよね?」
「馬鹿にしてんのかよ」
「冷蔵庫に飲み物しかいれてないんだもん。分かんないでしょ」
「ぐっ」
「次、肉のところ行くよー」
そんな調子で材料を買い込んでいく。
いくら料理しないからって、本当に役に立たないとは。
途中でオヤツが欲しいとか言い出したときは、殴ってやろうとか思った。
子供をなだめすかしてる母親って、こんな気分なんだろうか。
そんな思いに浸りながら会計を済ませる。
店を出るまでぶつぶつ文句を垂れていたが、さすがにマンションに着くころには収まっていた。
「なあ、何作るんだ?」
「分からないなら楽しみに取っといてね」
「ええー、教えろよ」
ウリウリと直が頭を頬をつついてきた。
笑いながらそれを手で払いのける。
「ぁー……ごほんっ」
通りすがりのオジサンが咳払いをしながら去っていった。
おかげで我に帰る。
もしかして俺、素でラブコメしてたか?
たしかに流され易い性格ではあるが、相手は直だぞ。
いや、問題は俺じゃない。この皮のせいだ。
「おーい、どうかしたか?」
「何でもないよぉ」
とりあえずご機嫌な直はごまかしておく。
昼飯食ったら、吉沢を呼び出してる店まで行かないとなぁ。
化粧もした方がいいのかもと思うが、スッピンでも美人だから構わんだろう。
やれやれ、今日も疲れそうだ。
「そっちの肉より、こっちのスーパーのが良い」
「えー、安い方がいいでしょ。味なんて変わらないんだし」
「いーや、違うね。金払うのは俺なんだから、別に構わないだろ」
金のことを言われると弱い。
仕方なく手を引かれるまま、直についていく。
こんな方に普段来る事がないから、地理もさっぱりわからない。
何箇所か角を曲がると、そこそこの規模の店が見えてきた。
「普通のスーパーじゃん」
「甘いな。ここはウチのマンションの住人御用達だぜ?」
あそこに住んでるセレブたちが買ってるって……?
どんだけすごいんだ、この店。
直がカゴを持って中に入っていく。
庶民な自分が場違いに思えて、急いで直に張り付く。
「お?」
俺が腕を抱き締めるなり、嬉しそうに相好を崩した。
勘違いだと教えてやるべきだろうか。
まあ、このぐらいは良いか、うん。
しかし、店内も金持ち向けなのかと思ったが、そうは見えない。
「やっぱり普通のスーパーじゃないの?」
「ふっ、ここにある野菜を見ろ!」
キャベツをぐわしっと掴んで高々と掲げる直。
うあ、店の人に見られてる。
恥ずかしいな、こいつ。
仕方ないので下のプレートを覗き込む。
有機無農薬。
「へー」
「それだけか……?」
なるほど、だから値段が相場より高いのか。
反応の薄さにがっかりしたのか、直の元気がなくなった。
持っていたキャベツを棚に戻して、俺が指示した方に歩き出す。
「ニラ、と……もやし、しょうがとにんにく」
「あいよー」
「あ、さすがに油ぐらいあるよね?」
「馬鹿にしてんのかよ」
「冷蔵庫に飲み物しかいれてないんだもん。分かんないでしょ」
「ぐっ」
「次、肉のところ行くよー」
そんな調子で材料を買い込んでいく。
いくら料理しないからって、本当に役に立たないとは。
途中でオヤツが欲しいとか言い出したときは、殴ってやろうとか思った。
子供をなだめすかしてる母親って、こんな気分なんだろうか。
そんな思いに浸りながら会計を済ませる。
店を出るまでぶつぶつ文句を垂れていたが、さすがにマンションに着くころには収まっていた。
「なあ、何作るんだ?」
「分からないなら楽しみに取っといてね」
「ええー、教えろよ」
ウリウリと直が頭を頬をつついてきた。
笑いながらそれを手で払いのける。
「ぁー……ごほんっ」
通りすがりのオジサンが咳払いをしながら去っていった。
おかげで我に帰る。
もしかして俺、素でラブコメしてたか?
たしかに流され易い性格ではあるが、相手は直だぞ。
いや、問題は俺じゃない。この皮のせいだ。
「おーい、どうかしたか?」
「何でもないよぉ」
とりあえずご機嫌な直はごまかしておく。
昼飯食ったら、吉沢を呼び出してる店まで行かないとなぁ。
化粧もした方がいいのかもと思うが、スッピンでも美人だから構わんだろう。
やれやれ、今日も疲れそうだ。



















