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「カレーライス」 終章 <18禁>
作.ダークアリス キャライラスト&挿絵:キリセ
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終章 カレーライス
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ワタシはうるさいメイドを手で追い払って、先生のお部屋に入った。
人工呼吸器の音が正常に作動している音がしていて、モニターをみると血圧も普段どおりで、脳波も正常の範囲内だった。
大好きな先生。
病に冒されていて、もうワタシを抱いて頭を撫でてはくれないけれど、ワタシは先生のことが大好き。
ずっといつまでも先生と二人で、静かで楽しくて、エッチな毎日を過ごしたかった。
でもワタシは……。それでもワタシは、今の自分に満足していた。
先生のおかげよ。
先生の乱れた前髪を掻きあげ、額にそっと唇を重ねると、先生が目を覚ました。
まぶたを開けて、ワタシの方を向いてくれたけど、開き切った瞳は、もうワタシを映してはいなかった。
「葵かい……、どうしたんだい? また、泣いているのかい?」
「ううん、先生。なんでもないの。ちょっと目にゴミが入っただけ。心配しないで」
「そうか……、それなら、いいんだ」
掠れた弱々しい声で先生が言う。
先生は何かを求めるように、左手を上げた。
ワタシは両手で先生の手をぎゅっと掴んだ。
やせ衰えて骨ばった手は、恐ろしいほどに冷たかった。
「先生、震えてるの? 寒いの? それともどこか痛むの?」
「ああ……。僕が、死んだ、後のことが……、心配、なんだ。もう……、葵の事を、守って、あげられなく、なる……」
「先生……」
震える途切れがちな声。ワタシは不安でいっぱいになる。
「僕が死んだ後……、葵が、どんな目に、あうのかと、思うと……、恐ろしくなる。死ぬのが……、怖いよ、葵……」
先生が死んだら、たぶんワタシはまた元の生活に逆戻り。
際限の無い、虐待の続く毎日に……。
「……葵は、生きているのが怖いわ、先生」
そういうと、先生はふっと笑うように微笑んで、手探りでワタシの頭を撫でてくれようとした。
けれどようやく持ち上がった右手は、力なくシーツをたたいて、先生はこん睡状態になった。
しばらくすると、モニターが耳をつんざく様な警告音を鳴らしたけれど、うるさいから直ぐに止めた。
全自動点滴装置から、間断なく投与され続ける薬のおかげで、先生は苦しまずに旅立ったみたいだった。
脳波を示すモニターは、どれほど目を凝らして見つめても、ずっとフラットなままだった。
心臓も動いていて、人工呼吸器が規則的な呼吸音を続けているけれど、先生が目覚めることは、もうないんだ……。
ワタシも、早く逝かなきゃ。
*---*---*---*---*---*---*---*---*---*---*
「ああ、葵さん! やっと出てきてくれたのですね。先生は?」
葵さんは何も答えず、黙ったまま手を差し出した。
小さな白い手のひらには、透明のビンが握られていて、その中には赤いカプセルが二つ入っていた。
「何ですか?」
「特殊な感染症のカプセル。“殺人ウィルス”って言えば、判りやすいかしら」
「殺人……?」
「この中のウィルスに侵されると、体がどろどろに溶けて腐って、後には骨しか残らないの。ううん、骨もぼろぼろになって、細かく砕けてしまうんだって」
「そんな危険なもの! どこから?」
「先生の通っていた研究所からもらってきたの。手に入れるのは苦労したけど」
「確かにあそこには、世界中のあらゆる病原体が保管されているP4施設があるわ。でもだからって、そんな簡単には……」
「私みたいな女の子には、男は誰だって隙を作るわ。だって何をしても、罪に問われないんだもの」
そういって、葵さんは痣だらけの左の腕にはめられた、腕輪を撫でた。
「……何に、使うつもりなの?」
「飲むのよ。先生と、私とで」
「飲む? そんなことしたら!」
「先生と私は、どろどろに溶け合って、一緒になるの。かき混ぜたカレーライスみたいにね」
「何の為に? どうしてそんなこと!」
「私は先生の病気がもう治らないことは知ってた。苦しそうな先生を見るのは、つらかった。でも……、それももう終わりなの。 だって! 先生は……、先生はもう、……目を開けては、くれないから……」
葵さんはぐっとこらえるように、下を向いた。
先生が、お亡くなりになった?
私は葵さんの言葉に、衝撃を受けた。
「せ、先生は……、亡くなられたのですか?」
そう私が問い直すと、葵さんはきっ、と顔をあげて言った。
「病気なんかに先生は殺させない! 先生の病気が治らないのならば、私が先生を殺すわ。あのとき先生が私を壊してくれたように、私が先生を壊すの!」
「葵さん……」
「私がこの部屋の戸を閉めたら、72時間は戸をあけてはダメよ。でないと、生きたウィルスが外に漏れるわ。あなたもこの屋敷から、離れていたほうがいいわ」
「でも、そんな……。先生は葵さんの未来を、あんなに心配していらしたのに」
「前にも言ったでしょう? 私は過去も未来もいらない。だから先生との"現在(いま)”が無くなってしまった以上、何一つ未練はないわ」
「私は、私はどうすれば……?」
「あなたは、あなたの未来の心配だけをしなさい。もう誰にも、先生との時間を邪魔されたくないの」
「……」
私は葵さんに、何と言えば……何を言えば良いのか、わからなかった。
それでも何かを言わなくてはならないと、ぎゅっと唇をかみ締めて、葵さんを見た。
けれど私とは逆に、葵さんの表情には迷いがなく、穏やかだった。
「さようなら。あなたの作ってくれたカレーライス、嫌いじゃなかったわ」

そう言って葵さんは微笑むと、先生の部屋に入り、戸を閉めた。
最初で最後の、私に向けられた葵さんの笑顔。
無邪気そうに小首をかしげた仕草とは裏腹に、聖者のように悟りきった、悲しげな微笑。
数奇で過酷な人生を経た者だけが見せる、儚い笑顔……。
カチャリと言う内側から鍵のかかる音にはっとしたが、もう遅かった。
私にできることは、何も無かった。何もしてあげられなかった。
二人の最期を看取ることすら、許されなかった。
メイドのくせに、何一つできなかった自分が、悲しかった。
だから私は、誰にも邪魔されたくないと言ったあの子のために、部屋の戸は開けなかった。
私は僅かな身の回りのものだけをカバンに詰めて、屋敷を後にした。
そしてあてもなく、街を彷徨った。
冷たい風の吹く夜だった。
一人でとぼとぼと歩く私に、声をかける人もいた。
けれど、無視していると悪態をついて去っていった。
腕輪の無い私は、力ずくで襲われたりする事は無い。
見えない法の網に、私は守られているのだ。
偶然通りかかった、深夜営業のカレーショップに入った。
そして、あの子がいつもそうしていたように……
ルゥとライスをぐちゃぐちゃにかき混ぜて、泣きながら食べた。
<了>
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終章 カレーライス
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ワタシはうるさいメイドを手で追い払って、先生のお部屋に入った。
人工呼吸器の音が正常に作動している音がしていて、モニターをみると血圧も普段どおりで、脳波も正常の範囲内だった。
大好きな先生。
病に冒されていて、もうワタシを抱いて頭を撫でてはくれないけれど、ワタシは先生のことが大好き。
ずっといつまでも先生と二人で、静かで楽しくて、エッチな毎日を過ごしたかった。
でもワタシは……。それでもワタシは、今の自分に満足していた。
先生のおかげよ。
先生の乱れた前髪を掻きあげ、額にそっと唇を重ねると、先生が目を覚ました。
まぶたを開けて、ワタシの方を向いてくれたけど、開き切った瞳は、もうワタシを映してはいなかった。
「葵かい……、どうしたんだい? また、泣いているのかい?」
「ううん、先生。なんでもないの。ちょっと目にゴミが入っただけ。心配しないで」
「そうか……、それなら、いいんだ」
掠れた弱々しい声で先生が言う。
先生は何かを求めるように、左手を上げた。
ワタシは両手で先生の手をぎゅっと掴んだ。
やせ衰えて骨ばった手は、恐ろしいほどに冷たかった。
「先生、震えてるの? 寒いの? それともどこか痛むの?」
「ああ……。僕が、死んだ、後のことが……、心配、なんだ。もう……、葵の事を、守って、あげられなく、なる……」
「先生……」
震える途切れがちな声。ワタシは不安でいっぱいになる。
「僕が死んだ後……、葵が、どんな目に、あうのかと、思うと……、恐ろしくなる。死ぬのが……、怖いよ、葵……」
先生が死んだら、たぶんワタシはまた元の生活に逆戻り。
際限の無い、虐待の続く毎日に……。
「……葵は、生きているのが怖いわ、先生」
そういうと、先生はふっと笑うように微笑んで、手探りでワタシの頭を撫でてくれようとした。
けれどようやく持ち上がった右手は、力なくシーツをたたいて、先生はこん睡状態になった。
しばらくすると、モニターが耳をつんざく様な警告音を鳴らしたけれど、うるさいから直ぐに止めた。
全自動点滴装置から、間断なく投与され続ける薬のおかげで、先生は苦しまずに旅立ったみたいだった。
脳波を示すモニターは、どれほど目を凝らして見つめても、ずっとフラットなままだった。
心臓も動いていて、人工呼吸器が規則的な呼吸音を続けているけれど、先生が目覚めることは、もうないんだ……。
ワタシも、早く逝かなきゃ。
「ああ、葵さん! やっと出てきてくれたのですね。先生は?」
葵さんは何も答えず、黙ったまま手を差し出した。
小さな白い手のひらには、透明のビンが握られていて、その中には赤いカプセルが二つ入っていた。
「何ですか?」
「特殊な感染症のカプセル。“殺人ウィルス”って言えば、判りやすいかしら」
「殺人……?」
「この中のウィルスに侵されると、体がどろどろに溶けて腐って、後には骨しか残らないの。ううん、骨もぼろぼろになって、細かく砕けてしまうんだって」
「そんな危険なもの! どこから?」
「先生の通っていた研究所からもらってきたの。手に入れるのは苦労したけど」
「確かにあそこには、世界中のあらゆる病原体が保管されているP4施設があるわ。でもだからって、そんな簡単には……」
「私みたいな女の子には、男は誰だって隙を作るわ。だって何をしても、罪に問われないんだもの」
そういって、葵さんは痣だらけの左の腕にはめられた、腕輪を撫でた。
「……何に、使うつもりなの?」
「飲むのよ。先生と、私とで」
「飲む? そんなことしたら!」
「先生と私は、どろどろに溶け合って、一緒になるの。かき混ぜたカレーライスみたいにね」
「何の為に? どうしてそんなこと!」
「私は先生の病気がもう治らないことは知ってた。苦しそうな先生を見るのは、つらかった。でも……、それももう終わりなの。 だって! 先生は……、先生はもう、……目を開けては、くれないから……」
葵さんはぐっとこらえるように、下を向いた。
先生が、お亡くなりになった?
私は葵さんの言葉に、衝撃を受けた。
「せ、先生は……、亡くなられたのですか?」
そう私が問い直すと、葵さんはきっ、と顔をあげて言った。
「病気なんかに先生は殺させない! 先生の病気が治らないのならば、私が先生を殺すわ。あのとき先生が私を壊してくれたように、私が先生を壊すの!」
「葵さん……」
「私がこの部屋の戸を閉めたら、72時間は戸をあけてはダメよ。でないと、生きたウィルスが外に漏れるわ。あなたもこの屋敷から、離れていたほうがいいわ」
「でも、そんな……。先生は葵さんの未来を、あんなに心配していらしたのに」
「前にも言ったでしょう? 私は過去も未来もいらない。だから先生との"現在(いま)”が無くなってしまった以上、何一つ未練はないわ」
「私は、私はどうすれば……?」
「あなたは、あなたの未来の心配だけをしなさい。もう誰にも、先生との時間を邪魔されたくないの」
「……」
私は葵さんに、何と言えば……何を言えば良いのか、わからなかった。
それでも何かを言わなくてはならないと、ぎゅっと唇をかみ締めて、葵さんを見た。
けれど私とは逆に、葵さんの表情には迷いがなく、穏やかだった。
「さようなら。あなたの作ってくれたカレーライス、嫌いじゃなかったわ」

そう言って葵さんは微笑むと、先生の部屋に入り、戸を閉めた。
最初で最後の、私に向けられた葵さんの笑顔。
無邪気そうに小首をかしげた仕草とは裏腹に、聖者のように悟りきった、悲しげな微笑。
数奇で過酷な人生を経た者だけが見せる、儚い笑顔……。
カチャリと言う内側から鍵のかかる音にはっとしたが、もう遅かった。
私にできることは、何も無かった。何もしてあげられなかった。
二人の最期を看取ることすら、許されなかった。
メイドのくせに、何一つできなかった自分が、悲しかった。
だから私は、誰にも邪魔されたくないと言ったあの子のために、部屋の戸は開けなかった。
私は僅かな身の回りのものだけをカバンに詰めて、屋敷を後にした。
そしてあてもなく、街を彷徨った。
冷たい風の吹く夜だった。
一人でとぼとぼと歩く私に、声をかける人もいた。
けれど、無視していると悪態をついて去っていった。
腕輪の無い私は、力ずくで襲われたりする事は無い。
見えない法の網に、私は守られているのだ。
偶然通りかかった、深夜営業のカレーショップに入った。
そして、あの子がいつもそうしていたように……
ルゥとライスをぐちゃぐちゃにかき混ぜて、泣きながら食べた。
<了>
「カレーライス」 第五章(7) <18禁>
(7)
先生はご負担が軽くなったのか、外出することが多くなった。
朝食の後、私が家事をこなしている間は、葵さんが先生にべったりと付いて離れないのは変わらない。
しかし昼食の後は、葵さんは昼寝の時間が長くなったのか、夕方まで自分の部屋で過ごしていることが多く、その時間を利用して先生は外出していた。
そして、毎夜の葵さんとの情事にもかかわらず、昂ぶる私の心が治まるはずもなく、葵さんの昼寝の間に、時々先生の前で自慰をするのを見て頂いたりもした。
けれども先生は、一度も私に触れる事はなかった。
そんな生活がしばらく続き、庭の落ち葉掃除が重労働になるにつれて、先生の健康が優れなくなっていった。
初めは葵さんがまた、先生にご負担を強いるようになったのかとも思ったが、先生はそれを否定した。
やがて庭掃除も楽になる頃、先生は外出を控え、床に就く時間が長くなった。
時折漏れ聞こえていた午前中の葵さんの嬌声も、前後してぱったりとしなくなった。
何かおかしい。
先生も葵さんも、何か私に隠している。
そして先生が一日中部屋から出る事が、殆ど無くなった。
それが気がかりになって、何と質問しようかと悩み始めた頃、先生に呼ばれた。
「これが、欲しかったのだろう?」
そういって、先生は封筒を差し出した。
受け取って中を見ると、自立生活の資格を認める診断書だった。
「こ、これ……」
「条件がある。判っていると思うが、私は自分の死んだ後に葵の面倒を君に見てもらうために、これを書いたのだ」
「死んだ後? 先生は何のご病気なのですか? そんなにお悪いのですか?」
「進行性の癌だ。白血病も併発している。余命もほとんど残っていない」
「そ、そんな……」
先生の言葉に私は驚いた。
まさか、そんなに悪くなっていただなんて……。
「この診断書があれば、君に施された深層心理のプログラムはリセットされ、君は再び自由を取り戻すことができるだろう。ひとりでも生活できるはずだ」
「葵さんに、……葵さんの診断書を出されても良かったのではありませんか? もっとも腕輪があっては、意味は無いでしょうけれど」
「君は何も知らないだろうが、OOLのプロトタイプである葵の、あの子の腕輪は外せない。外したらあの子は死ぬ」
「死ぬ?」
「腕輪は葵の体温と、バイパスされた血流から僅かな電力を発生させていて、葵の脳髄に埋め込まれたチップに電波を発信し続けている。構造の良くわからない腕輪を壊して外せば、暗号化された電波の発信は止まり、埋め込まれたチップは機能を停止する。そのとき、あの子の脳髄も破壊される」
「……」
「私が葵を引き取る時、腕輪を外さないことが条件だった。だが腕輪が外せなくても、私がいる限りあの子は守られる……筈だった」
そうだ。先生の死後、葵さんは誰からも守られる保証は無い。
だが、先生はそれを私に託そうとなさっているのだ。
「葵は生きている限りずっと、腕輪の運命からは逃れられない。だから、私はあの子を引き取ったのだ。法の網があの子を守ることが出来ないのならば、私があの子を守ってやろうと」
私は葵さんがいっていた、“OOLは一生OOL”という言葉を思い出した。
彼女を永遠に縛り付ける銀の腕輪。
「だが私の死後、あの子がそう長く生きていてくれるとも思わない。だから、君がこの家にいることも、それほど長くは無いだろう」
「先生……」
「君を抱いてしまったのは、間違いだった。だがまだ間に合う。葵の世話が必要なくなったら、この診断書を持って元いた施設に戻り、矯正プログラムを受ければ、人生のやり直しができるだろう」
「そんな、先生……」
矯正プログラム……それは再び私の記憶が、リセットされるということだ。
先生と葵さん、そしてこの屋敷のことも全て……。
「恵君。君の私への想いは、深層心理プログラムが作り出した、偽りの感情に過ぎない。だから、私は君の人生に責任は持てない」
先生の言葉は、私の胸を少しえぐって行った。
「私はもうこの部屋からは出ない。どの道私の命もそう長くは無い、もってあと一週間ぐらいだろう」
「入院なさってください。ここではできない治療を受ければ、まだ先生は……」
「その間、あの子はどうすればいい? 私が入院すれば、あの子は元の収容所生活に戻される。仮にこの家に残れても、寂しさでやがて飢餓の果てに死ぬだろう」
「しかし……」
「もう、決めたことだ。君ももうこの部屋に来てはいけないよ。この部屋の戸を閉じたら、君は二度と開けてはならない。いいね」
「ご命令……と、あれば……」
「うん、“命令”だ。葵を呼んでくれないか? そしてこれが、君への最後の命令だ」
「はい。……おっしゃるとおりに、いたします」
「ああ。今までありがとう。後の事は、葵に聞いてくれ」
これが先生と交わした、最後の会話になった。
*---*---*---*---*---*---*---*---*---*---*
数日後、葵さんは私を呼び止めて言った。
「明日の朝、荷物を取りに運送屋さんが来るの。出しておいてね」
「はい、かしこまりました」
珍しいこともあるのだとは思ったが、言われたとおりにした。
そしてその日から、葵さんの姿が屋敷のどこを探しても見当たらなくなった。
葵さんの部屋の戸の裏側には、
私の姿が見えなくても心配しないで。
先生のお世話をお願い。
ただし、私が居ないことは、先生には内緒。
と書かれたメモが貼ってあった。
先生には入るなといわれたが、葵さんの姿が見えない以上、私が葵さんの代わりをするしかなかった。
部屋の戸を開けると、先生には人工呼吸器や何種類もの薬液を制御することができる、自動点滴装置が取り付けられていた。
先生はずっと眠り続けていて、何度か部屋の様子を伺ったが、目を覚ました様子は無かった。
先生のベッドの横においてあった説明書のとおりに、一定時間ごとに点滴を交換し、袋にためられた汚物を検査キットにかけて異常がないかをチェックする。
モニターが警告音を発した場合の手順も書いてあったが、ランプはずっとグリーンのまま、表示を変える事はなかった。
医療関係の知識の無い私には、それ以上どうすれば良いのかがわからず、葵さんを探しに外出するか、医者を呼ぶべきか迷っていた。
だが3日後に、葵さんは意外な方法で戻ってきた。
私宛の大きな荷物が届き、誰からだろうと荷札を見ると、メモ欄に“到着後、直ちに開梱すること”と書かれていた。
疑問に思いながらも、荷解きをすると、中からは下着姿の葵さんが出てきた。
「あ、葵さん! いったいどうしてこんな?! 今までどこに? それに、その怪我はどうしたんです?!」
「一度に聞かないで。OOLの仕事をしてきただけだから」
「OOLの仕事って、葵さんはもうそんなことからは」
葵さんはうるさそうに手で払って、言った。
「あなたが気にすることは無いの。それよりも先生は?」
「……あれから、ずっと眠ったままです。お医者様を呼んだ方が、よろしいのでは?」
「いいのよ。先生にも、呼ぶなって言われているし。様子を見てくるわ」
「あ、ちょっと葵さん!」
葵さんは体にくっついた梱包材を振り払うと、すたすたと先生の部屋に向かって歩き出した。
私も後を追ったが、先生の部屋の戸の前で手で制されて、一緒に中に入ることは出来なかった。
<つづく>
先生はご負担が軽くなったのか、外出することが多くなった。
朝食の後、私が家事をこなしている間は、葵さんが先生にべったりと付いて離れないのは変わらない。
しかし昼食の後は、葵さんは昼寝の時間が長くなったのか、夕方まで自分の部屋で過ごしていることが多く、その時間を利用して先生は外出していた。
そして、毎夜の葵さんとの情事にもかかわらず、昂ぶる私の心が治まるはずもなく、葵さんの昼寝の間に、時々先生の前で自慰をするのを見て頂いたりもした。
けれども先生は、一度も私に触れる事はなかった。
そんな生活がしばらく続き、庭の落ち葉掃除が重労働になるにつれて、先生の健康が優れなくなっていった。
初めは葵さんがまた、先生にご負担を強いるようになったのかとも思ったが、先生はそれを否定した。
やがて庭掃除も楽になる頃、先生は外出を控え、床に就く時間が長くなった。
時折漏れ聞こえていた午前中の葵さんの嬌声も、前後してぱったりとしなくなった。
何かおかしい。
先生も葵さんも、何か私に隠している。
そして先生が一日中部屋から出る事が、殆ど無くなった。
それが気がかりになって、何と質問しようかと悩み始めた頃、先生に呼ばれた。
「これが、欲しかったのだろう?」
そういって、先生は封筒を差し出した。
受け取って中を見ると、自立生活の資格を認める診断書だった。
「こ、これ……」
「条件がある。判っていると思うが、私は自分の死んだ後に葵の面倒を君に見てもらうために、これを書いたのだ」
「死んだ後? 先生は何のご病気なのですか? そんなにお悪いのですか?」
「進行性の癌だ。白血病も併発している。余命もほとんど残っていない」
「そ、そんな……」
先生の言葉に私は驚いた。
まさか、そんなに悪くなっていただなんて……。
「この診断書があれば、君に施された深層心理のプログラムはリセットされ、君は再び自由を取り戻すことができるだろう。ひとりでも生活できるはずだ」
「葵さんに、……葵さんの診断書を出されても良かったのではありませんか? もっとも腕輪があっては、意味は無いでしょうけれど」
「君は何も知らないだろうが、OOLのプロトタイプである葵の、あの子の腕輪は外せない。外したらあの子は死ぬ」
「死ぬ?」
「腕輪は葵の体温と、バイパスされた血流から僅かな電力を発生させていて、葵の脳髄に埋め込まれたチップに電波を発信し続けている。構造の良くわからない腕輪を壊して外せば、暗号化された電波の発信は止まり、埋め込まれたチップは機能を停止する。そのとき、あの子の脳髄も破壊される」
「……」
「私が葵を引き取る時、腕輪を外さないことが条件だった。だが腕輪が外せなくても、私がいる限りあの子は守られる……筈だった」
そうだ。先生の死後、葵さんは誰からも守られる保証は無い。
だが、先生はそれを私に託そうとなさっているのだ。
「葵は生きている限りずっと、腕輪の運命からは逃れられない。だから、私はあの子を引き取ったのだ。法の網があの子を守ることが出来ないのならば、私があの子を守ってやろうと」
私は葵さんがいっていた、“OOLは一生OOL”という言葉を思い出した。
彼女を永遠に縛り付ける銀の腕輪。
「だが私の死後、あの子がそう長く生きていてくれるとも思わない。だから、君がこの家にいることも、それほど長くは無いだろう」
「先生……」
「君を抱いてしまったのは、間違いだった。だがまだ間に合う。葵の世話が必要なくなったら、この診断書を持って元いた施設に戻り、矯正プログラムを受ければ、人生のやり直しができるだろう」
「そんな、先生……」
矯正プログラム……それは再び私の記憶が、リセットされるということだ。
先生と葵さん、そしてこの屋敷のことも全て……。
「恵君。君の私への想いは、深層心理プログラムが作り出した、偽りの感情に過ぎない。だから、私は君の人生に責任は持てない」
先生の言葉は、私の胸を少しえぐって行った。
「私はもうこの部屋からは出ない。どの道私の命もそう長くは無い、もってあと一週間ぐらいだろう」
「入院なさってください。ここではできない治療を受ければ、まだ先生は……」
「その間、あの子はどうすればいい? 私が入院すれば、あの子は元の収容所生活に戻される。仮にこの家に残れても、寂しさでやがて飢餓の果てに死ぬだろう」
「しかし……」
「もう、決めたことだ。君ももうこの部屋に来てはいけないよ。この部屋の戸を閉じたら、君は二度と開けてはならない。いいね」
「ご命令……と、あれば……」
「うん、“命令”だ。葵を呼んでくれないか? そしてこれが、君への最後の命令だ」
「はい。……おっしゃるとおりに、いたします」
「ああ。今までありがとう。後の事は、葵に聞いてくれ」
これが先生と交わした、最後の会話になった。
数日後、葵さんは私を呼び止めて言った。
「明日の朝、荷物を取りに運送屋さんが来るの。出しておいてね」
「はい、かしこまりました」
珍しいこともあるのだとは思ったが、言われたとおりにした。
そしてその日から、葵さんの姿が屋敷のどこを探しても見当たらなくなった。
葵さんの部屋の戸の裏側には、
私の姿が見えなくても心配しないで。
先生のお世話をお願い。
ただし、私が居ないことは、先生には内緒。
と書かれたメモが貼ってあった。
先生には入るなといわれたが、葵さんの姿が見えない以上、私が葵さんの代わりをするしかなかった。
部屋の戸を開けると、先生には人工呼吸器や何種類もの薬液を制御することができる、自動点滴装置が取り付けられていた。
先生はずっと眠り続けていて、何度か部屋の様子を伺ったが、目を覚ました様子は無かった。
先生のベッドの横においてあった説明書のとおりに、一定時間ごとに点滴を交換し、袋にためられた汚物を検査キットにかけて異常がないかをチェックする。
モニターが警告音を発した場合の手順も書いてあったが、ランプはずっとグリーンのまま、表示を変える事はなかった。
医療関係の知識の無い私には、それ以上どうすれば良いのかがわからず、葵さんを探しに外出するか、医者を呼ぶべきか迷っていた。
だが3日後に、葵さんは意外な方法で戻ってきた。
私宛の大きな荷物が届き、誰からだろうと荷札を見ると、メモ欄に“到着後、直ちに開梱すること”と書かれていた。
疑問に思いながらも、荷解きをすると、中からは下着姿の葵さんが出てきた。
「あ、葵さん! いったいどうしてこんな?! 今までどこに? それに、その怪我はどうしたんです?!」
「一度に聞かないで。OOLの仕事をしてきただけだから」
「OOLの仕事って、葵さんはもうそんなことからは」
葵さんはうるさそうに手で払って、言った。
「あなたが気にすることは無いの。それよりも先生は?」
「……あれから、ずっと眠ったままです。お医者様を呼んだ方が、よろしいのでは?」
「いいのよ。先生にも、呼ぶなって言われているし。様子を見てくるわ」
「あ、ちょっと葵さん!」
葵さんは体にくっついた梱包材を振り払うと、すたすたと先生の部屋に向かって歩き出した。
私も後を追ったが、先生の部屋の戸の前で手で制されて、一緒に中に入ることは出来なかった。
<つづく>
「カレーライス」 第五章(6) <18禁>
作.ダークアリス キャライラスト&挿絵:キリセ
(6)
私は慌てていた。体の上に馬乗りになった葵さんの目が妖しく光って見え、レイプされる恐怖を感じ始めていた。
「心配しなくてもいいわ。OOLは女性を服従の対象とするようなプログラムはされていないの。私はそれを“経験”で知っているから」
「で、でも……」
「つべこべ言わないで! それに、私も体が疼くのよ! 忌まわしいことに!」
「で、でも、私は、その、女性とは……」
「私のする通りに、真似をしてくれればいいわ。あなた、オモチャ持ってる?」
「ひ、ひとつだけなら」
「なら貸して。最初はあなたからよ」
「そ、そんな……ああっ!」

葵さんの小さな手から繰り出される、股間への巧みな刺激に、私は本気になりかけていた。
乳房をもみ合い、秘貝をこすり合わせ、互いの蕾を舐め合っていた。
オンナのカラダを知り尽くした者同士の、いつ果てるとも知らない淫技。
何度イかされたのだろう?
何度彼女を淫具で突いたのだろう?
呼吸が落ち着いて、数えてみたが正確にはわからなかった。
でも、体の疼きは治まっていた。
力尽きた私の隣で、葵さんは私の玩具で激しく自分を突いていた。
やがて体をびくびくとひくつかせて最後の絶頂を終えると、私の横に体を放り出した。
彼女はこれで、満足できたのだろうか?
夜も深まった寝室。
情事の後の、気だるい心地良さに、私はまどろんでいた。
少しだけ開いているベランダのガラス戸からは、ひんやりとした風が流れ込んでいて、背徳的な情事に熾った体を鎮めていた。
細い月明かりがうっすらと射し込むだけの、ほのかな照明。
モノクロームの静かな夜のベッドの上、私は裸の少女を傍らに従えていた。
白く光る肌に今も残る、傷痕だらけの小さな裸身。
これほどの傷を少女は、どれほどの苦痛とともに、その身に受けたのだろうか。
何もかも無抵抗に晒らされた躰に、どんな恥辱を重ねられてきたのだろうか。
陵辱者はどれほどの愉悦の表情で、この儚げな裸身を爪で引き裂き、牙で喰い散らかしたのだろうか。
私は無意識のうちに彼女の裸の腰に手を回し、自分のほうへと引き寄せた。
「ねぇ、あなたは自分がしたことを、覚えているの?」
感情の乏しいその声に、私は戦慄に近い恐怖を感じた。
自分は何をしようとして、彼女に手を伸ばしたのだろう?
私はこの行為が、自分の犯した遠い過去の犯罪を暴いたのだと思った。
だが、そんな罪深い行為は、今の私の記憶の抽斗(ひきだし)のどこにもなかった。
それは経験とは程遠い、過去に起きた事件の知識との、照合でしかなかった。
私はすぐに平静を取り戻し、葵さんの体を気遣うように、そっと抱きしめた。
彼女は抵抗せず、私の抱擁を黙ったまま受け止めた。
「……覚えているというより、記録として知っています」
私は自分が昔、どんな人間だったかを知らない。
この体で目覚め、あの薄いファイルに書かれていた内容が、私の過去を知る全て。
それ以外、自分の元の顔すら覚えていなかった。
そのファイルの内容だって、本当にそれが自分のものなのか、それですら本当は確信が持ててはいなかった。
「昔の事を、夢に見る?」
「いいえ……。そう言う記憶は、全部消されてしまいました」
「そう、うらやましいわ……」
「私は葵さんがうらやましいです。どんな過去でも、自分が何者だったかを知る、手がかりになりますから」
「うらやんでもらえるほどの過去なんて、私には無いわ。自分でも嫌になるような、屑人間の記憶よ。そんなものいらないわ」
私はいつか、自分がどんな人間だったのか、この体にされる前、何を見て経験してきたのか、知りたいと思っていた。
それは葵さんの様に、捨ててしまいたくなるような過去かもしれない。
でも……、それでも……。
「それでも、過去は過去です」
「私は、過去なんていらない。未来だって、無くてもかまわない」
「でも先生は、葵さんの未来を、とても気にかけておいでですよ」
「そうね……」
葵さんは少し考え込むように、私の胸に顔をきゅっと押し付けたが、すぐに体を引き離して毛布を頭から被って言った。
「朝になったら、私が寝ている間に部屋に連れて行って」
「はい、起こさないように気をつけます」
そしてその晩から、葵さんの夜伽は、私が勤める事になった。
<つづく>
(6)
私は慌てていた。体の上に馬乗りになった葵さんの目が妖しく光って見え、レイプされる恐怖を感じ始めていた。
「心配しなくてもいいわ。OOLは女性を服従の対象とするようなプログラムはされていないの。私はそれを“経験”で知っているから」
「で、でも……」
「つべこべ言わないで! それに、私も体が疼くのよ! 忌まわしいことに!」
「で、でも、私は、その、女性とは……」
「私のする通りに、真似をしてくれればいいわ。あなた、オモチャ持ってる?」
「ひ、ひとつだけなら」
「なら貸して。最初はあなたからよ」
「そ、そんな……ああっ!」

葵さんの小さな手から繰り出される、股間への巧みな刺激に、私は本気になりかけていた。
乳房をもみ合い、秘貝をこすり合わせ、互いの蕾を舐め合っていた。
オンナのカラダを知り尽くした者同士の、いつ果てるとも知らない淫技。
何度イかされたのだろう?
何度彼女を淫具で突いたのだろう?
呼吸が落ち着いて、数えてみたが正確にはわからなかった。
でも、体の疼きは治まっていた。
力尽きた私の隣で、葵さんは私の玩具で激しく自分を突いていた。
やがて体をびくびくとひくつかせて最後の絶頂を終えると、私の横に体を放り出した。
彼女はこれで、満足できたのだろうか?
夜も深まった寝室。
情事の後の、気だるい心地良さに、私はまどろんでいた。
少しだけ開いているベランダのガラス戸からは、ひんやりとした風が流れ込んでいて、背徳的な情事に熾った体を鎮めていた。
細い月明かりがうっすらと射し込むだけの、ほのかな照明。
モノクロームの静かな夜のベッドの上、私は裸の少女を傍らに従えていた。
白く光る肌に今も残る、傷痕だらけの小さな裸身。
これほどの傷を少女は、どれほどの苦痛とともに、その身に受けたのだろうか。
何もかも無抵抗に晒らされた躰に、どんな恥辱を重ねられてきたのだろうか。
陵辱者はどれほどの愉悦の表情で、この儚げな裸身を爪で引き裂き、牙で喰い散らかしたのだろうか。
私は無意識のうちに彼女の裸の腰に手を回し、自分のほうへと引き寄せた。
「ねぇ、あなたは自分がしたことを、覚えているの?」
感情の乏しいその声に、私は戦慄に近い恐怖を感じた。
自分は何をしようとして、彼女に手を伸ばしたのだろう?
私はこの行為が、自分の犯した遠い過去の犯罪を暴いたのだと思った。
だが、そんな罪深い行為は、今の私の記憶の抽斗(ひきだし)のどこにもなかった。
それは経験とは程遠い、過去に起きた事件の知識との、照合でしかなかった。
私はすぐに平静を取り戻し、葵さんの体を気遣うように、そっと抱きしめた。
彼女は抵抗せず、私の抱擁を黙ったまま受け止めた。
「……覚えているというより、記録として知っています」
私は自分が昔、どんな人間だったかを知らない。
この体で目覚め、あの薄いファイルに書かれていた内容が、私の過去を知る全て。
それ以外、自分の元の顔すら覚えていなかった。
そのファイルの内容だって、本当にそれが自分のものなのか、それですら本当は確信が持ててはいなかった。
「昔の事を、夢に見る?」
「いいえ……。そう言う記憶は、全部消されてしまいました」
「そう、うらやましいわ……」
「私は葵さんがうらやましいです。どんな過去でも、自分が何者だったかを知る、手がかりになりますから」
「うらやんでもらえるほどの過去なんて、私には無いわ。自分でも嫌になるような、屑人間の記憶よ。そんなものいらないわ」
私はいつか、自分がどんな人間だったのか、この体にされる前、何を見て経験してきたのか、知りたいと思っていた。
それは葵さんの様に、捨ててしまいたくなるような過去かもしれない。
でも……、それでも……。
「それでも、過去は過去です」
「私は、過去なんていらない。未来だって、無くてもかまわない」
「でも先生は、葵さんの未来を、とても気にかけておいでですよ」
「そうね……」
葵さんは少し考え込むように、私の胸に顔をきゅっと押し付けたが、すぐに体を引き離して毛布を頭から被って言った。
「朝になったら、私が寝ている間に部屋に連れて行って」
「はい、起こさないように気をつけます」
そしてその晩から、葵さんの夜伽は、私が勤める事になった。
<つづく>
「カレーライス」 第五章(5) <18禁>
(5)
深夜。戸締りとガスの元栓を確認するのを忘れていたことを思い出し、私は階下へ降りて行った。
ついでに屋敷の各部屋も確認しておこうと廊下を歩いていると、先生の部屋から微かに嬌声が漏れていることに気が付いた。
小娘が夜の情事を、先生にねだっているのだろう。
私はなんとなく好奇心に駆られて、部屋の前に立ち扉に耳を当てた。
中では小娘が悩ましげな喘ぎ声を上げ、先生が言葉で責めているのが聞き取れた。
多分、そういうプレイをしているのだろう。
聞き耳なんか立てるんじゃなかったと、後悔したときにはもう遅かった。
私の股間は濡れていて、何かで刺激しないことには、いてもたってもいられないぐらいに、体がうずいて仕方がなかった。
私はこの屋敷に来てから、一度も男性に抱かれていない。
というより、私はまだ処女だった。
施設の研修で、性技も一通り仕込まれて自慰もしたが、男性とのセックスだけは“この体”では、まだ未経験だった。
あの娘のように、それなしでは生きていけないほどではないが、先生がおっしゃるように、贖罪の時に深く刻まれた心と体への爪痕が、消えたわけではなかった。
毎日玩具で自分を慰めていても、僅かな不満が蓄積していた。
そんな私が、扉一枚隔てたリアルな出来事に、衝動を抑えることなど無理だったのだ。
元OOLの自分の罪を呪ったがもう遅かった。私は部屋の扉を開けてしまった。
そして中では――小娘がベッドの上に大の字に拘束され、股間を淫具で突かれていた。
その光景を見たとたん、頭の中がフラッシュした。
その後のことは良く覚えていない。
朝、目覚めたら、先生を挟んで3人で眠っていた。
私は全裸で、太ももに残った残滓が、情事があったことを示唆していた。
抑えていた、胸の痞(つかえ)が無くなっていた。
記憶はなくても、体の渇きは癒えていた。
癒えた渇きと入れ替わるように、私の胸には大きな空洞が生まれた。
*---*---*---*---*---*---*---*---*---*---*
後で彼女が教えてくれた。
私は泣き叫んで半狂乱になり、先生にしがみついたんだそうだ。そして、火がついたように泣き出して、先生を求めた。彼女との間に割って入り、無理やりに先生にキスをしたのだそうだ。
そう聞かされた私は、施設の監督官の言葉を思い出した。
“誘っても良いが、強要してはならない。与えても良いが、奪ってはならない”
私は先生に強要し、彼女から奪った……。
改めて、自分の侵した罪と、心と体に刻まれた宿命に、愕然とした。
OOLの忌まわしい傷口が、開いてしまったのだと思った。
「すみません、葵様。先生は、あなたのものだったのに……」
「いいわ。あなたの気持ちは、私にも痛いほどわかる。私は嫌だけど、先生がなさったことだから、私はそれを受け入れるしかないの……」
「葵様……」
「それから、私を“様”付けで呼ぶのはやめて。私はOOLよ。そんな風に呼ばれると、かえって惨めになる」
そう言うと、葵さんは毛布をかぶってベッドに潜り込んでしまった。
“これ以上は何も話したくない”というサインだった。
彼女の部屋を出ると、廊下で先生に出くわした。
気まずさが先にたち、挨拶が遅れ、先生のほうから声がかかった。
「葵の部屋にいたのかい?」
「はい……」
「そうか……。葵は、何か言っていたかね?」
「昨夜の事を、お聞きしました」
「そうか」
「すみません、先生。私……」
「いや、君たちの体のことは良く知っているつもりだ。無理をせずに、つらくなったら言うがいい」
「え……?」
それは、私も抱いてくださるということだろうか……?
「女性向けのそう言う風俗もあると、聞いたことがある。お金は出してあげるから、我慢できなくなる前に言いなさい」
「あ、……ありがとう、ございます……」
先生が葵さんの部屋に消えると、私はその場に倒れるように座り込んでしまった。
「うっ、ううぅ……、ううぅぅ……」
私は今の自分と過去の罪が強いる境遇に、ただ泣き崩れることしかできなかった。
*---*---*---*---*---*---*---*---*---*---*
人肌が恋しくなる、さびしい夜が来た。
目覚めてしまった肉体の疼きを沈めるために、私は自慰を始めた。
漏れる嬌声が先生に届けば、また情けをかけてくださるかもしれないなどと考えて、部屋の扉をわざと少し開けていた。
半開きの扉から黒い影がすっと中に入ってくるのを横目でみながら、私ははやる気持を抑えながら、動かしていた手を止めた。
だが、ベッドの横に現れたのは、記憶にあったあの方の影よりも、ずっと小さかった。
「葵、さん?!」
「し、大きな声を出さないで。先生には内緒にしておきたいの」
「ここは2階ですよ。どうやって階段を?」
「この家の構造はもうすっかり頭に入っているわ。だから目をつぶって、這ってならば階段も上れるの。だから先生には内緒」
「で、でも、どうしてこんな?」
「あなた、自慰だけで満足できるの?」
「そ、それは……」
「先生があなたを抱くのを、私は我慢できないの。もちろん先生は、もうその気は無いっておっしゃっていたわ。でも、あなたの方に節度がなければ、どうなるかわからないわ。だから仕方ないから、私が先生の代わりをするのよ」
「そ、そんな、あっ!」
私はあっという間に、ネグリジェを脱がされた。
<つづく>
深夜。戸締りとガスの元栓を確認するのを忘れていたことを思い出し、私は階下へ降りて行った。
ついでに屋敷の各部屋も確認しておこうと廊下を歩いていると、先生の部屋から微かに嬌声が漏れていることに気が付いた。
小娘が夜の情事を、先生にねだっているのだろう。
私はなんとなく好奇心に駆られて、部屋の前に立ち扉に耳を当てた。
中では小娘が悩ましげな喘ぎ声を上げ、先生が言葉で責めているのが聞き取れた。
多分、そういうプレイをしているのだろう。
聞き耳なんか立てるんじゃなかったと、後悔したときにはもう遅かった。
私の股間は濡れていて、何かで刺激しないことには、いてもたってもいられないぐらいに、体がうずいて仕方がなかった。
私はこの屋敷に来てから、一度も男性に抱かれていない。
というより、私はまだ処女だった。
施設の研修で、性技も一通り仕込まれて自慰もしたが、男性とのセックスだけは“この体”では、まだ未経験だった。
あの娘のように、それなしでは生きていけないほどではないが、先生がおっしゃるように、贖罪の時に深く刻まれた心と体への爪痕が、消えたわけではなかった。
毎日玩具で自分を慰めていても、僅かな不満が蓄積していた。
そんな私が、扉一枚隔てたリアルな出来事に、衝動を抑えることなど無理だったのだ。
元OOLの自分の罪を呪ったがもう遅かった。私は部屋の扉を開けてしまった。
そして中では――小娘がベッドの上に大の字に拘束され、股間を淫具で突かれていた。
その光景を見たとたん、頭の中がフラッシュした。
その後のことは良く覚えていない。
朝、目覚めたら、先生を挟んで3人で眠っていた。
私は全裸で、太ももに残った残滓が、情事があったことを示唆していた。
抑えていた、胸の痞(つかえ)が無くなっていた。
記憶はなくても、体の渇きは癒えていた。
癒えた渇きと入れ替わるように、私の胸には大きな空洞が生まれた。
後で彼女が教えてくれた。
私は泣き叫んで半狂乱になり、先生にしがみついたんだそうだ。そして、火がついたように泣き出して、先生を求めた。彼女との間に割って入り、無理やりに先生にキスをしたのだそうだ。
そう聞かされた私は、施設の監督官の言葉を思い出した。
“誘っても良いが、強要してはならない。与えても良いが、奪ってはならない”
私は先生に強要し、彼女から奪った……。
改めて、自分の侵した罪と、心と体に刻まれた宿命に、愕然とした。
OOLの忌まわしい傷口が、開いてしまったのだと思った。
「すみません、葵様。先生は、あなたのものだったのに……」
「いいわ。あなたの気持ちは、私にも痛いほどわかる。私は嫌だけど、先生がなさったことだから、私はそれを受け入れるしかないの……」
「葵様……」
「それから、私を“様”付けで呼ぶのはやめて。私はOOLよ。そんな風に呼ばれると、かえって惨めになる」
そう言うと、葵さんは毛布をかぶってベッドに潜り込んでしまった。
“これ以上は何も話したくない”というサインだった。
彼女の部屋を出ると、廊下で先生に出くわした。
気まずさが先にたち、挨拶が遅れ、先生のほうから声がかかった。
「葵の部屋にいたのかい?」
「はい……」
「そうか……。葵は、何か言っていたかね?」
「昨夜の事を、お聞きしました」
「そうか」
「すみません、先生。私……」
「いや、君たちの体のことは良く知っているつもりだ。無理をせずに、つらくなったら言うがいい」
「え……?」
それは、私も抱いてくださるということだろうか……?
「女性向けのそう言う風俗もあると、聞いたことがある。お金は出してあげるから、我慢できなくなる前に言いなさい」
「あ、……ありがとう、ございます……」
先生が葵さんの部屋に消えると、私はその場に倒れるように座り込んでしまった。
「うっ、ううぅ……、ううぅぅ……」
私は今の自分と過去の罪が強いる境遇に、ただ泣き崩れることしかできなかった。
人肌が恋しくなる、さびしい夜が来た。
目覚めてしまった肉体の疼きを沈めるために、私は自慰を始めた。
漏れる嬌声が先生に届けば、また情けをかけてくださるかもしれないなどと考えて、部屋の扉をわざと少し開けていた。
半開きの扉から黒い影がすっと中に入ってくるのを横目でみながら、私ははやる気持を抑えながら、動かしていた手を止めた。
だが、ベッドの横に現れたのは、記憶にあったあの方の影よりも、ずっと小さかった。
「葵、さん?!」
「し、大きな声を出さないで。先生には内緒にしておきたいの」
「ここは2階ですよ。どうやって階段を?」
「この家の構造はもうすっかり頭に入っているわ。だから目をつぶって、這ってならば階段も上れるの。だから先生には内緒」
「で、でも、どうしてこんな?」
「あなた、自慰だけで満足できるの?」
「そ、それは……」
「先生があなたを抱くのを、私は我慢できないの。もちろん先生は、もうその気は無いっておっしゃっていたわ。でも、あなたの方に節度がなければ、どうなるかわからないわ。だから仕方ないから、私が先生の代わりをするのよ」
「そ、そんな、あっ!」
私はあっという間に、ネグリジェを脱がされた。
<つづく>
ありすさんの作品 インデックス
ありすさんの作品へのリンク集です。
最初のアリスドール(1)が記事番号273番だったりして、かなり長いおつきあいです。たくさんの素敵な作品をありがとうございます。
長編 <18禁>
カレーライス 第一章 医師:罪深きもの 第二章 葵:贖罪 第三章 葵:破壊 第四章 葵:生きる理由 第五章 恵:冷たい家族
絵師:キリセ







星の海で(1)
星の海で(2)
星の海で(3)
星の海で(4) 〜トイブルクのエミリア〜
「製作所へようこそ」
鶉谷くん、インデンジャー外伝 奇譚 「Zaubermedizin」
双子%ぽんぽこ%兄妹
双子%ぽんぽこ%兄妹 2 トゥルー・ロスト・バージン
アリスドール(2)[番外](3)(4)(最終話)
長編 <全年齢>
そんな、おままごとみたいな……
「カストラート」 (そんな、おままごとみたいな……Noch einmal)
「Kleiner Engel des Priesters」 (そんな、おままごとみたいな……Ausserdem noch einmal)
SS
バーカ! オマエが男だなんて信じられっかよ!!<甘口・辛口+中辛>
いいか、お前が・・・(辛口)
いいか、お前が・・・(甘口)
ラグ投げ○ン(笑)
最初のアリスドール(1)が記事番号273番だったりして、かなり長いおつきあいです。たくさんの素敵な作品をありがとうございます。
長編 <18禁>
カレーライス 第一章 医師:罪深きもの 第二章 葵:贖罪 第三章 葵:破壊 第四章 葵:生きる理由 第五章 恵:冷たい家族
絵師:キリセ







星の海で(1)
星の海で(2)
星の海で(3)
星の海で(4) 〜トイブルクのエミリア〜
「製作所へようこそ」
鶉谷くん、インデンジャー外伝 奇譚 「Zaubermedizin」
双子%ぽんぽこ%兄妹
双子%ぽんぽこ%兄妹 2 トゥルー・ロスト・バージン
アリスドール(2)[番外](3)(4)(最終話)
長編 <全年齢>
そんな、おままごとみたいな……
「カストラート」 (そんな、おままごとみたいな……Noch einmal)
「Kleiner Engel des Priesters」 (そんな、おままごとみたいな……Ausserdem noch einmal)
SS
バーカ! オマエが男だなんて信じられっかよ!!<甘口・辛口+中辛>
いいか、お前が・・・(辛口)
いいか、お前が・・・(甘口)
ラグ投げ○ン(笑)
「カレーライス」 第五章(4) <18禁>
(4)
私がこの家に派遣されてから1週間が経ったが、なかなか先生と二人きりになる機会が得られなかった。
あの葵というOOLは起きている間中、いや夜もベッドを共にし、片時も傍を離れることが無かったのだ。
唯一あの子が先生の傍を離れるのは、昼寝の時間だけだった。
だがこの一週間、先生は彼女の昼寝の時間を利用して、外出していた。
たまっていた用を済ませるとのことで、私は留守を預かる為に見送るしかなかった。
しかし、今日は外出の予定はないと聞かされていた。これは待ち望んだチャンスだ。
何とか先生に取り入り、やっと勝ち得た社会復帰の道を確実なものとしたい。
先生は不治の病に犯されていて、まだ当分先だとは言え、いずれはこの世を去られてしまう可能性が高かった。
その前に、なんとしても気に入られなくては。
元OOLの私がひとりで生活できる、“自立行動許可診断書”とまでは行かなくても、次の派遣先の推薦状ぐらいは欲しい。
昼下がり、小娘が昼寝のために自室のベッドに潜り、先生が戻られたのを見計らって、書斎の戸をノックした。
「入りたまえ」
「お茶をお持ちしました」
「ありがとう。この家には慣れたかね?」
「ええ、先生が私を引き取ってくださったおかげで、人並みの生活が送れて感謝しております」
「知人のツテを頼ったら、君を紹介されただけのことだ。感謝するなら私ではなく、その人物にすることだ」
「それでも先生は、私を採用してくださいましたわ」
まだ派遣されたばかりで、少々馴れ馴れしいかとも思ったが、私はソファに席を移した先生の直ぐ隣に、体を密着させるように座った。
私は部屋に入る前に、夜伽用のメイド服に着替えていた。
少々恥ずかしいが、大きく胸元の開いたブラウスにミニスカートと、申し訳程度の小さなエプロン。少し歩きにくい上にヒールの高い、脱げ易いサンダル。ストッキングはスカートの丈が必要最低限なまでに短いから、ガーターベルトのストラップまで見えている。ブラを外しているので、体に張り付くような薄手のブラウスには、乳首がはっきりと浮かんでいた。
不自然にならないように、二の腕で乳房を寄せて胸元の谷間を強調しながら、先生に話しかけた。
「先生は、私が元OOLであることも、ご存知なのでしょう?」
「ああ、履歴書はちゃんと読んでおくべきだったと、後悔している」
「ずいぶんなおっしゃりようですわ。ならば、私が今こうしている理由もお分かりでしょう?」
私は元OOLだ。だから主への性的奉仕なくして、自分に価値は無い。
この体を求めてもらえなければ、自分を認められていないのと同じだとさえ思っていた。
前の私が望んだいうこの容姿。栗色の長い髪、少し垂れ気味の大きな目に、長いまつげと細い眉。豊かな乳房に細い腰。小娘ほどではないが、白い肌にはシミひとつ無い。
自分で言うのもなんだけれど、男好きのする美しい体に奉仕の精神。
この私が、貧弱で傷だらけのあの我侭娘に見劣りするなど、ありえない。
先生は独身だ。小娘に成り代わり、先生に気に入られれば、単なるメイドではなく、もしかしたらこの家にずっと住まわせてもらえるかもしれない。
そうなれば、もう将来に何の不安も無い。
私はカップを持ったままの先生に手を伸ばし、首元に両手でそっと絡みついた。
「元OOLだと知っていたら、君を採用しなかった」
私は頭を先生の頬にそっと摺り寄せた。微かに匂う程度に付けた甘い香りのコロンが、先生の鼻をくすぐっている筈だ。
「あの小娘を、気遣っていらっしゃるのですか?」
「葵は大切な家族だ。小娘などではない」
「家族? 咎人ですよ、あの小娘は。先生もそのおつもりで、お傍に置いていらっしゃるのでしょう?」
「そんな風に、葵を思ったことはない」
「毎晩のようにあの子をお抱きになるのは大変でしょう? たいそうなわがまま娘のようですね。先生のお体が心配です」
「メイドの君が心配する必要は無い」
「では、生活を共にする者として、ご忠告させていただきます。先生には養生していただかないと困ります」
「これは、私に課せられた義務……いや、私が望んでそうしているのだ」
「先生はああいうのがお好みなのですか? 傷痕だらけで貧相な体つきの小娘が」
「あの子から自分が犯した罪の記憶が消えないように、心と躰に刻みつけられた性の欲求と服従への悦びも消し去ることもできない。ならばせめて、葵が望むようにしてあげることが、唯一僕に出来る彼女への愛情だ」
「偽善ですわね」
「何とでも言うがいい。だが君はどうなんだ? その体に刻まれた、忌まわしい刻印を、克服できているとでもいうのかね?」
「私は、少なくとも耐えることができます。あの小娘のようにだらしなく股を開くような、性奴隷ではありませんわ」
「葵を侮辱するのは止めたまえ。君は我慢できるといったが、それはいつ解消されるのかね? ずっと溜め込んだままか? 溜め込んで溜め込んで、いつかそれが爆発して、再び忌まわしい犯罪を犯すことになるまで、耐え続けられるのかね?」
「それは……、先生次第ですわ」
私は先生に体を密着させ、手をとった。
「私にはその気は無い。いずれ、私は死ぬのだから」
「先生が私をお抱きになるのに、理由なんか必要ありません。私はそのために派遣されてきたのですから。ですからたまには、私にも情けをかけていただきたいと、思っただけですわ」
「私が君に望んでいるのは、葵の世話をしてくれる事だけだ」
先生は私の手を振り解くようにして、席を立った。
「私はそのように命じられて、ここに派遣されてきたのではありません」
「では現在の主人である、私が命じよう。葵の世話をしたまえ。葵のことを第一に考え、行動したまえ。それがこの家で君に課せられた職務だ」
「私に勤まりますでしょうか?」
「是非ともやってもらう。私がずっとあの子と一緒にいられるとは限らないからね」
「それは、どういう意味ですか?」
「あの子は、私なしでは生きていけないだろう。私がそうしてしまった。あの子に優しく接して、毎日を普通に過ごしていれば、いつか人並みの生活ができるだろうと、あの時の私は単純にそう思っていた」
先生は、窓の外に眼をやって、続けた。
「だが、それは間違いだった。OOLというのがどういうものであるのか、あの子に刻み付けられたものが何であるのか、私にはそれがわかっていなかった!」
先生は悔やむように、だんっ! と机をたたいた。
「あの子に必要以上に愛情を注いではいけなかったのだ。特定の人間からの愛情に依存することを覚えてしまったら、もうその相手がいなければ生きていけない」
「それが、OOLだった者の消えない宿命ですから……」
「そうだ、だから君とは親しくしない。君には必要以上にかかわりを持たない。君はここではただのメイドだ。私と葵のような関係になってはいけない。私を慕ってはいけない。私と葵は家族だが、君は違う。同じに家に暮らしているというだけの、“冷たい家族”で無ければならないのだ。そのことを君も、肝に銘じておいて欲しい」
「“ご主人様”の、仰せの通りに……」
「下がりなさい。葵がそろそろ目を覚ます頃だ」
「ご主人様? ひとつ、よろしいでしょうか?」
「何だ?」
「葵様が性的欲求を感じられたら、私はそれを解消するための行動をとっても、よろしいでしょうか?」
「どういう意味だね?」
「いえ……。夕食の支度がありますので、これで失礼いたします」
先生は、私の顔を一度も見なかった。
<つづく>
私がこの家に派遣されてから1週間が経ったが、なかなか先生と二人きりになる機会が得られなかった。
あの葵というOOLは起きている間中、いや夜もベッドを共にし、片時も傍を離れることが無かったのだ。
唯一あの子が先生の傍を離れるのは、昼寝の時間だけだった。
だがこの一週間、先生は彼女の昼寝の時間を利用して、外出していた。
たまっていた用を済ませるとのことで、私は留守を預かる為に見送るしかなかった。
しかし、今日は外出の予定はないと聞かされていた。これは待ち望んだチャンスだ。
何とか先生に取り入り、やっと勝ち得た社会復帰の道を確実なものとしたい。
先生は不治の病に犯されていて、まだ当分先だとは言え、いずれはこの世を去られてしまう可能性が高かった。
その前に、なんとしても気に入られなくては。
元OOLの私がひとりで生活できる、“自立行動許可診断書”とまでは行かなくても、次の派遣先の推薦状ぐらいは欲しい。
昼下がり、小娘が昼寝のために自室のベッドに潜り、先生が戻られたのを見計らって、書斎の戸をノックした。
「入りたまえ」
「お茶をお持ちしました」
「ありがとう。この家には慣れたかね?」
「ええ、先生が私を引き取ってくださったおかげで、人並みの生活が送れて感謝しております」
「知人のツテを頼ったら、君を紹介されただけのことだ。感謝するなら私ではなく、その人物にすることだ」
「それでも先生は、私を採用してくださいましたわ」
まだ派遣されたばかりで、少々馴れ馴れしいかとも思ったが、私はソファに席を移した先生の直ぐ隣に、体を密着させるように座った。
私は部屋に入る前に、夜伽用のメイド服に着替えていた。
少々恥ずかしいが、大きく胸元の開いたブラウスにミニスカートと、申し訳程度の小さなエプロン。少し歩きにくい上にヒールの高い、脱げ易いサンダル。ストッキングはスカートの丈が必要最低限なまでに短いから、ガーターベルトのストラップまで見えている。ブラを外しているので、体に張り付くような薄手のブラウスには、乳首がはっきりと浮かんでいた。
不自然にならないように、二の腕で乳房を寄せて胸元の谷間を強調しながら、先生に話しかけた。
「先生は、私が元OOLであることも、ご存知なのでしょう?」
「ああ、履歴書はちゃんと読んでおくべきだったと、後悔している」
「ずいぶんなおっしゃりようですわ。ならば、私が今こうしている理由もお分かりでしょう?」
私は元OOLだ。だから主への性的奉仕なくして、自分に価値は無い。
この体を求めてもらえなければ、自分を認められていないのと同じだとさえ思っていた。
前の私が望んだいうこの容姿。栗色の長い髪、少し垂れ気味の大きな目に、長いまつげと細い眉。豊かな乳房に細い腰。小娘ほどではないが、白い肌にはシミひとつ無い。
自分で言うのもなんだけれど、男好きのする美しい体に奉仕の精神。
この私が、貧弱で傷だらけのあの我侭娘に見劣りするなど、ありえない。
先生は独身だ。小娘に成り代わり、先生に気に入られれば、単なるメイドではなく、もしかしたらこの家にずっと住まわせてもらえるかもしれない。
そうなれば、もう将来に何の不安も無い。
私はカップを持ったままの先生に手を伸ばし、首元に両手でそっと絡みついた。
「元OOLだと知っていたら、君を採用しなかった」
私は頭を先生の頬にそっと摺り寄せた。微かに匂う程度に付けた甘い香りのコロンが、先生の鼻をくすぐっている筈だ。
「あの小娘を、気遣っていらっしゃるのですか?」
「葵は大切な家族だ。小娘などではない」
「家族? 咎人ですよ、あの小娘は。先生もそのおつもりで、お傍に置いていらっしゃるのでしょう?」
「そんな風に、葵を思ったことはない」
「毎晩のようにあの子をお抱きになるのは大変でしょう? たいそうなわがまま娘のようですね。先生のお体が心配です」
「メイドの君が心配する必要は無い」
「では、生活を共にする者として、ご忠告させていただきます。先生には養生していただかないと困ります」
「これは、私に課せられた義務……いや、私が望んでそうしているのだ」
「先生はああいうのがお好みなのですか? 傷痕だらけで貧相な体つきの小娘が」
「あの子から自分が犯した罪の記憶が消えないように、心と躰に刻みつけられた性の欲求と服従への悦びも消し去ることもできない。ならばせめて、葵が望むようにしてあげることが、唯一僕に出来る彼女への愛情だ」
「偽善ですわね」
「何とでも言うがいい。だが君はどうなんだ? その体に刻まれた、忌まわしい刻印を、克服できているとでもいうのかね?」
「私は、少なくとも耐えることができます。あの小娘のようにだらしなく股を開くような、性奴隷ではありませんわ」
「葵を侮辱するのは止めたまえ。君は我慢できるといったが、それはいつ解消されるのかね? ずっと溜め込んだままか? 溜め込んで溜め込んで、いつかそれが爆発して、再び忌まわしい犯罪を犯すことになるまで、耐え続けられるのかね?」
「それは……、先生次第ですわ」
私は先生に体を密着させ、手をとった。
「私にはその気は無い。いずれ、私は死ぬのだから」
「先生が私をお抱きになるのに、理由なんか必要ありません。私はそのために派遣されてきたのですから。ですからたまには、私にも情けをかけていただきたいと、思っただけですわ」
「私が君に望んでいるのは、葵の世話をしてくれる事だけだ」
先生は私の手を振り解くようにして、席を立った。
「私はそのように命じられて、ここに派遣されてきたのではありません」
「では現在の主人である、私が命じよう。葵の世話をしたまえ。葵のことを第一に考え、行動したまえ。それがこの家で君に課せられた職務だ」
「私に勤まりますでしょうか?」
「是非ともやってもらう。私がずっとあの子と一緒にいられるとは限らないからね」
「それは、どういう意味ですか?」
「あの子は、私なしでは生きていけないだろう。私がそうしてしまった。あの子に優しく接して、毎日を普通に過ごしていれば、いつか人並みの生活ができるだろうと、あの時の私は単純にそう思っていた」
先生は、窓の外に眼をやって、続けた。
「だが、それは間違いだった。OOLというのがどういうものであるのか、あの子に刻み付けられたものが何であるのか、私にはそれがわかっていなかった!」
先生は悔やむように、だんっ! と机をたたいた。
「あの子に必要以上に愛情を注いではいけなかったのだ。特定の人間からの愛情に依存することを覚えてしまったら、もうその相手がいなければ生きていけない」
「それが、OOLだった者の消えない宿命ですから……」
「そうだ、だから君とは親しくしない。君には必要以上にかかわりを持たない。君はここではただのメイドだ。私と葵のような関係になってはいけない。私を慕ってはいけない。私と葵は家族だが、君は違う。同じに家に暮らしているというだけの、“冷たい家族”で無ければならないのだ。そのことを君も、肝に銘じておいて欲しい」
「“ご主人様”の、仰せの通りに……」
「下がりなさい。葵がそろそろ目を覚ます頃だ」
「ご主人様? ひとつ、よろしいでしょうか?」
「何だ?」
「葵様が性的欲求を感じられたら、私はそれを解消するための行動をとっても、よろしいでしょうか?」
「どういう意味だね?」
「いえ……。夕食の支度がありますので、これで失礼いたします」
先生は、私の顔を一度も見なかった。
<つづく>
「カレーライス」 第五章(3) <18禁>
(3)
私は夕食の支度をしようと、台所の冷蔵庫を開けてびっくりした。
ある程度予想していたとはいえ、ほとんど何も入っていなかったからだ。
その代わり食料庫には大量のレトルトカレー。
私はあわてて買い物に走り、なんとか食卓を整え終えたころには、すっかり日が暮れていた。
支度に時間がかかった事を先生に内線電話で詫びると、暫くして葵さんを連れた先生がダイニングに現れた。
「葵、今日は彼女が夕食を作ってくれたよ。戴こう」
「なに? それ」
小娘がテーブルに並べられた料理を指差して言った。
まさか見た事がないとは言わないとは思ったが、当たり障りのない答えをした。
「ハンバーグです。毎日カレーばかりだとお聞きしましたので、たまには違うものがよろしいのではないかと。お嫌いでしたか?」
「いらない。お風呂に入って、もう寝るわ」
「葵……」
先生は悲しそうに呟いたが、小娘が出て行くのをとめたりはしなかった。
「仕方が無いな……」
と呟いたきり、もそもそと食事を始めた。
生意気でわがままな娘。OOLを甘やかしたって、仕方が無いのに!
だが、あんなOOLの娘に、私の料理を食べてなんか欲しくは無い。
主人である先生にだけ、満足してもらえばいいのだ。
私は先生の脇に立って控えていたが、先生はそれに気づいていった。
「ああ、せっかく用意してもらったのに、すまないね。もったいないから、良ければ君も一緒に食べないか? 私のことはいいから」
「では、仰せの通りに」
私は会釈をして、先生の向かいの席に座り、自分で用意した料理に手をつけた。
「葵様には、後で何かお持ちしましょうか?」
「いや、一度言い出したら聞かない子だからね。それにもともと食が細い子でね。食べないことも良くあるんだ」
「そう、ですか……」
その翌日の朝食も、先生が運んだ牛乳を少し飲んだだけで、昼食もとらなかった。
いくら食が細いとはいえ、丸一日ほとんど食べないのでは、体に悪いだろう。
だが翌日になっても、小娘は頑として私の料理は食べなかった。
心配した先生がお菓子等を与えるとそれは口にするが、同じものを私があげても駄目だった。
どうもとことん、嫌われているらしい。
これでは、口にするものに気をつけるどころの話ではない。
「やれやれ、困ったね」
「手の施しようがありませんね」
「こちらもハンストしてみるか」
「ハンストって、先生まで?」
「ああ。もしかしたら、解決になるかもしれない」
「しかし……」
こうして、全員が何も食べない一日が始まった。
先生が食事を召し上がらない以上、私だけが戴くというわけにも行かない。
だが、さすがにスープや飲み物だけではちょっとつらい。
コーヒーばかりお飲みになっている、先生のお体も心配だ。
*---*---*---*---*---*---*---*---*---*---*
三日目。修行僧よりも質素な食生活に音を上げた私は、小娘に言った。
「葵様、いい加減に折れて下さいませんか?」
「食べたくない物は食べたくないの。放っておいて」
「そうは参りません。先……」
言いかけたところで、わたしのお腹がぐーっっと派手な音を立てた。
私はあわてた。小娘の前でなんて醜態を……。
「せ、先生だって、葵様が何も召し上がらないのをご心配なさって、ずっと断食されているんですよ」
小娘はしばらくそっぽを向いていたが、やがて半分ふてくされた声で言った。
「カレー」
「え?」
「カレーライスが食べたい」
「かしこまりました」
もちろん先生にも、夕飯の献立を尋ねたが、『君に任せる』といって、書斎にひきこもわれてしまった。
こうなったら、腕によりをかけて極上のカレーライスを作ってやろう。
そう意気込んで、高級レストランで出しても恥じないほどの、コース料理のように彩を添えた、カレーのディナーを用意した。
先生の『ほう、これはすごいね』という賞賛の声に満足したのもつかの間、あの小娘はこともあろうに、サフランライスにカレーソースを無造作にかけ、ぐちゃぐちゃと音を立ててかき混ぜ始めた。
私があっけにとられて見ていると、先生がそれに気づき、
「ああ、あれは葵がお気に入りの食べ方なんだ、気を悪くしないでやってくれ」
と言った。
スプーンで一口すくって食べた小娘に先生は、
「おいしいかい? 葵」
と尋ねた。
「まぁまぁね」
小娘はそういうと、添え付けのミニサラダやラッシーにまで手を伸ばして皿の上にぶちまけ、さらにドレッシングをかけて、ぐちゃぐちゃとかき混ぜ始めた。
『気を悪くしないでやってくれ』と先生に言われた手前、小娘の下品な振る舞いを咎めるわけにも行かず、この野猿の振る舞いを黙って見ているしかなかった。
それでもこの前のように一口も手を付けなかった事と比べると、出した料理を残さず全て平らげたのは、喜ぶべきことなのだろうか!
二人が部屋に戻り、自分も簡単な夕食を済ませて、後片付けをしていると、いつの間にかあの子がキッチンの入り口に立っていた。
「何か御用ですか? お水でも?」
「金曜日はカレーの日よ。約束できるなら、この家にいてもいいわ」
「承知しました。では私からも一つお願いが」
「何?」
「ぐちゃぐちゃとかき混ぜるのは、お止めになっていただけませんか?」
そういうと、彼女はくるりと背を向けて言った。
「そんなの、約束できるわけ無いじゃない!」
そういって、ぱたぱたと駆けていった。
ちらりと見せた横顔は、笑っているようにも見えた。
やれやれ……と苦笑しながら、私は洗い物を再開した。
<つづく>
私は夕食の支度をしようと、台所の冷蔵庫を開けてびっくりした。
ある程度予想していたとはいえ、ほとんど何も入っていなかったからだ。
その代わり食料庫には大量のレトルトカレー。
私はあわてて買い物に走り、なんとか食卓を整え終えたころには、すっかり日が暮れていた。
支度に時間がかかった事を先生に内線電話で詫びると、暫くして葵さんを連れた先生がダイニングに現れた。
「葵、今日は彼女が夕食を作ってくれたよ。戴こう」
「なに? それ」
小娘がテーブルに並べられた料理を指差して言った。
まさか見た事がないとは言わないとは思ったが、当たり障りのない答えをした。
「ハンバーグです。毎日カレーばかりだとお聞きしましたので、たまには違うものがよろしいのではないかと。お嫌いでしたか?」
「いらない。お風呂に入って、もう寝るわ」
「葵……」
先生は悲しそうに呟いたが、小娘が出て行くのをとめたりはしなかった。
「仕方が無いな……」
と呟いたきり、もそもそと食事を始めた。
生意気でわがままな娘。OOLを甘やかしたって、仕方が無いのに!
だが、あんなOOLの娘に、私の料理を食べてなんか欲しくは無い。
主人である先生にだけ、満足してもらえばいいのだ。
私は先生の脇に立って控えていたが、先生はそれに気づいていった。
「ああ、せっかく用意してもらったのに、すまないね。もったいないから、良ければ君も一緒に食べないか? 私のことはいいから」
「では、仰せの通りに」
私は会釈をして、先生の向かいの席に座り、自分で用意した料理に手をつけた。
「葵様には、後で何かお持ちしましょうか?」
「いや、一度言い出したら聞かない子だからね。それにもともと食が細い子でね。食べないことも良くあるんだ」
「そう、ですか……」
その翌日の朝食も、先生が運んだ牛乳を少し飲んだだけで、昼食もとらなかった。
いくら食が細いとはいえ、丸一日ほとんど食べないのでは、体に悪いだろう。
だが翌日になっても、小娘は頑として私の料理は食べなかった。
心配した先生がお菓子等を与えるとそれは口にするが、同じものを私があげても駄目だった。
どうもとことん、嫌われているらしい。
これでは、口にするものに気をつけるどころの話ではない。
「やれやれ、困ったね」
「手の施しようがありませんね」
「こちらもハンストしてみるか」
「ハンストって、先生まで?」
「ああ。もしかしたら、解決になるかもしれない」
「しかし……」
こうして、全員が何も食べない一日が始まった。
先生が食事を召し上がらない以上、私だけが戴くというわけにも行かない。
だが、さすがにスープや飲み物だけではちょっとつらい。
コーヒーばかりお飲みになっている、先生のお体も心配だ。
三日目。修行僧よりも質素な食生活に音を上げた私は、小娘に言った。
「葵様、いい加減に折れて下さいませんか?」
「食べたくない物は食べたくないの。放っておいて」
「そうは参りません。先……」
言いかけたところで、わたしのお腹がぐーっっと派手な音を立てた。
私はあわてた。小娘の前でなんて醜態を……。
「せ、先生だって、葵様が何も召し上がらないのをご心配なさって、ずっと断食されているんですよ」
小娘はしばらくそっぽを向いていたが、やがて半分ふてくされた声で言った。
「カレー」
「え?」
「カレーライスが食べたい」
「かしこまりました」
もちろん先生にも、夕飯の献立を尋ねたが、『君に任せる』といって、書斎にひきこもわれてしまった。
こうなったら、腕によりをかけて極上のカレーライスを作ってやろう。
そう意気込んで、高級レストランで出しても恥じないほどの、コース料理のように彩を添えた、カレーのディナーを用意した。
先生の『ほう、これはすごいね』という賞賛の声に満足したのもつかの間、あの小娘はこともあろうに、サフランライスにカレーソースを無造作にかけ、ぐちゃぐちゃと音を立ててかき混ぜ始めた。
私があっけにとられて見ていると、先生がそれに気づき、
「ああ、あれは葵がお気に入りの食べ方なんだ、気を悪くしないでやってくれ」
と言った。
スプーンで一口すくって食べた小娘に先生は、
「おいしいかい? 葵」
と尋ねた。
「まぁまぁね」
小娘はそういうと、添え付けのミニサラダやラッシーにまで手を伸ばして皿の上にぶちまけ、さらにドレッシングをかけて、ぐちゃぐちゃとかき混ぜ始めた。
『気を悪くしないでやってくれ』と先生に言われた手前、小娘の下品な振る舞いを咎めるわけにも行かず、この野猿の振る舞いを黙って見ているしかなかった。
それでもこの前のように一口も手を付けなかった事と比べると、出した料理を残さず全て平らげたのは、喜ぶべきことなのだろうか!
二人が部屋に戻り、自分も簡単な夕食を済ませて、後片付けをしていると、いつの間にかあの子がキッチンの入り口に立っていた。
「何か御用ですか? お水でも?」
「金曜日はカレーの日よ。約束できるなら、この家にいてもいいわ」
「承知しました。では私からも一つお願いが」
「何?」
「ぐちゃぐちゃとかき混ぜるのは、お止めになっていただけませんか?」
そういうと、彼女はくるりと背を向けて言った。
「そんなの、約束できるわけ無いじゃない!」
そういって、ぱたぱたと駆けていった。
ちらりと見せた横顔は、笑っているようにも見えた。
やれやれ……と苦笑しながら、私は洗い物を再開した。
<つづく>
「カレーライス」 第五章(2) <18禁>
(2)
「葵様」
私が声をかけると、毛布の動きが止り、そしてくぐもった声がした。
「入ってこないで。この部屋に入って良いのは先生だけよ。出て行かないのなら、力づくでも追い出すわ」
「私は恵と申します。新しくこの家に、お手伝いに来たメイドです。葵様のお世話もするように、先生から言いつかって参りました。ご挨拶に伺ったのですけど……」
「メイド……?」
毛布の山の下からは、真っ白な長い髪に、紅い瞳の少女が現れた。
だが、小さな体に纏われた白いワンピースから伸びる細い手足には、無数の傷痕があった。
そして何よりも驚いたことに、その貧相な体つきの少女の左腕には、見覚えのある銀色の腕輪があった。
「あ、あなた! その、腕輪……」
「これを知っているの?」
「OOL……Outside Of Law。法の庇護下に無い者という意味よ。何をしてもオオルOKなどという人も……」
「そうよ。殴っても、蹴っても、怪我をさせても、レイプしても! 殺しさえしなければ何をしてもいい。いいえ! たとえ殺されたって、脳さえ死んでいなければ体は再生されて、永遠に陵辱され続けるのよ。死ぬ自由さえ無いの」
「……私もそうよ。OOLだった」
「うそ! 貴女には腕輪が無いじゃない! この忌々しい腕輪が!」
「確かに私には腕輪が無いわ。私はOOLだったけれど、赦されたの。施設で何ヶ月も更生プログラムを受けて、奉仕活動をして、市民権は無いけれど、先生のような有資格保護者の下でなら、制限つきだけど普通の人とあまり変わらない生活ができるの」
「そんなの嘘! OOLは一生OOLよ! 死ぬまで……、いいえ! 死んでも脳さえ蘇生できれば、新しい体でまた生かされ続けるのよ! 永久に消えない罪が償われるまで! いいえ、誰かが私の脳を破壊するまで、私はずっとゴミみたいに扱われるのよ!」
「あ、あなた、記憶が無いはずじゃ……」
「ワタシは正気よ。自分が誰であったのか、何をしてこんな体にされて、どうして先生と二人で隠れるように暮らしているのかも、全部覚えてる」
「先生を騙していたの?」
「黙りなさいっ、性奴隷!! あんたなんかには、ワタシの気持ちはわからないわ。先生のことだって!」
性奴隷? 私は貴女なんかとは違うわ! だって私は赦されたのだから!
そう言いたい気持をぐっと抑えて言った。
「あなたは、先生に虐待されているの? 先生はあなたに酷いことをしているの?」
「失礼な事言わないで! 先生はとってもお優しいわ! 何にも知らないアンタなんかに、関係ないわ!」
「なら、あなたの罪だって、償われたのだと思わない? あなたがこうして、先生の下で静かに暮らしているのならば。あなただって、もう赦されたのよ」
「じゃぁ、この腕輪は何? ワタシ先生に見放されたら、きっとまたもとの生活に逆戻りだわ。自分で死ぬこともできない、惨めで何の希望も無いゴミ屑に!」
「…………」
確かに、彼女の腕にはあの呪わしい腕輪がついたままだ。
「帰りなさい。ここは先生とワタシだけの家よ。邪魔をするものは誰であっても許さない」
「あなたの大切な先生は、ご病気なのよ。体が弱っているの、だから……」
「そんなこと知ってる。先生が病気だってことも、ワタシが先生の負担になっていることも。でもワタシたちの邪魔をしないで!」
「先生はあなたのために、私を呼んだのよ。万が一先生が入院するようなことになられたとしても、残されたあなたが、少しでも不自由が無い様に暮らして行ける様に」
「酷いことを言わないで! 先生はきっと良くなる! ワタシだって家事ぐらいできる!」
「でも、先生のご病気が重くなったらどうするの?」
「ワタシはこれからもずっと先生と一緒なのよ! 先生が行くところなら、どこまでもついていくの!」
「もし先生が死んでしまったら、あなたは一人ぼっちよ……」
ぱぁん! と音がして私の視界はぐらついた。
頬を押さえて立ち上がると、小娘が私の頬を張った姿勢のまま、目にいっぱいの涙をためていた。
「言ったでしょう。先生とワタシはどこまでも一緒だって! あんたなんか大嫌い! 今すぐこの家から出てって!!」
小娘は吐き捨てるように叫ぶと、部屋を飛び出していった。
*---*---*---*---*---*---*---*---*---*---*
先生の部屋に入ると、先生はソファに座り、小娘を膝の上に抱いていた。
彼女はじっとしていて、眠っているようだった。
先生は愛惜しげに小娘の頭を撫でながら言った。
「この子を、あまり刺激しないでもらいたいな」
「すみません。でも、その小む……葵様は、本当は記憶が」
「それは、葵の描いた、妄想かもしれない……」
「でも、彼女は私に……」
「人は、たとえどんな過去があっても、生きている限り幸福を追求する権利がある」
「OOLですよ、彼女は」
「そんなことは関係ない。いや、僕が間違っているかもしれない。だが、夜中に過去を思い出してすすり泣く少女を見て、何とかしてやりたいと思うのは、正常な感覚だと、僕は信じている。君はそうは思わないかね?」
「…………」
「君にはここにいてもらうつもりだ。しかし、葵とは仲良くなってもらいたい。いいね?」
「ご命令とあれば」
「僕の“希望”だよ。どうしても、ソリの会わない相手というものはいるものさ。じゃ、ちょっと手を貸してくれないか? 泣きつかれて眠ってしまった、お姫様をベッドに運ばなくては」
「はい」
先生が小娘を抱きかかえ、私はその後に続いて部屋に入った。
私はベッドに寝かしつけようとする先生に、“少々お待ちください”と言ってから、洗濯の済んだ新しいシーツと毛布に取り替えた。
「このお部屋、あまり日当たりが良くないのですね。私にとご用意していただいた、2階のテラスのあるお部屋のほうが、葵様にもよろしいのではありませんか?」
「葵は階段を使えない。理由は説明しないといけないかね?」
「……飛び降りることが、できるから?」
私は募集要項に、“自殺願望のある少女”の注意書きがあった事を思い出した。
「そうだ。僕が2階へ上がると、葵はすごく不機嫌になるんだ。自分は階段を登って僕を追いかけることができないからね。逆に葵を2階に上げてしまえば、彼女はずっと降りてくることはできない」
「その場合、先生が1階に下りたら、葵様は不機嫌になりますね。」
「そうだ。だから多少問題があるとしても、葵には1階の部屋を与えているし、僕もなるべく2階へは行かない」
「……」
「それと、問題ないとは思うが、一応気をつけていてほしいことがある」
「なんでしょう?」
「葵は死にたがっている。それは今も変わっていない」
「……」
「僕が死ねと命じれば、いや、単に無視するだけでも良い。葵はためらいも無く、そうする筈だ」
「でも、OOLなら心理的に自殺はブロックされているのでは?」
「それは刃物なんかを自分に突き立てたり、高いところから飛び降りたり、といった危険行動を伴うものだ。だが目をつぶって飴かなにかを飲む様に、毒を飲むことぐらいはできる」
「……」
「この家には危険な毒物や薬品は勿論おいていない。だが知っているように、食品の中には大量に摂取すれば死に至るものもある」
「つまり……」
「葵が口にするものには、常に気をつけていて欲しい」
「それは結構大変ですね」
「調味料の類は、葵の手の届かない高いところの棚にしまってくれ。洗剤類は必ず鍵のかかるロッカーに入れておくように。特に洗濯や掃除のときは気をつけてくれ」
「わかりました」
言われた事をよく考えてみれば、これは幼児に対する注意事項とさほど変わらない。
見た目以上に小さな、手のかかる子供だと思えばいいということか。
<つづく>
「葵様」
私が声をかけると、毛布の動きが止り、そしてくぐもった声がした。
「入ってこないで。この部屋に入って良いのは先生だけよ。出て行かないのなら、力づくでも追い出すわ」
「私は恵と申します。新しくこの家に、お手伝いに来たメイドです。葵様のお世話もするように、先生から言いつかって参りました。ご挨拶に伺ったのですけど……」
「メイド……?」
毛布の山の下からは、真っ白な長い髪に、紅い瞳の少女が現れた。
だが、小さな体に纏われた白いワンピースから伸びる細い手足には、無数の傷痕があった。
そして何よりも驚いたことに、その貧相な体つきの少女の左腕には、見覚えのある銀色の腕輪があった。
「あ、あなた! その、腕輪……」
「これを知っているの?」
「OOL……Outside Of Law。法の庇護下に無い者という意味よ。何をしてもオオルOKなどという人も……」
「そうよ。殴っても、蹴っても、怪我をさせても、レイプしても! 殺しさえしなければ何をしてもいい。いいえ! たとえ殺されたって、脳さえ死んでいなければ体は再生されて、永遠に陵辱され続けるのよ。死ぬ自由さえ無いの」
「……私もそうよ。OOLだった」
「うそ! 貴女には腕輪が無いじゃない! この忌々しい腕輪が!」
「確かに私には腕輪が無いわ。私はOOLだったけれど、赦されたの。施設で何ヶ月も更生プログラムを受けて、奉仕活動をして、市民権は無いけれど、先生のような有資格保護者の下でなら、制限つきだけど普通の人とあまり変わらない生活ができるの」
「そんなの嘘! OOLは一生OOLよ! 死ぬまで……、いいえ! 死んでも脳さえ蘇生できれば、新しい体でまた生かされ続けるのよ! 永久に消えない罪が償われるまで! いいえ、誰かが私の脳を破壊するまで、私はずっとゴミみたいに扱われるのよ!」
「あ、あなた、記憶が無いはずじゃ……」
「ワタシは正気よ。自分が誰であったのか、何をしてこんな体にされて、どうして先生と二人で隠れるように暮らしているのかも、全部覚えてる」
「先生を騙していたの?」
「黙りなさいっ、性奴隷!! あんたなんかには、ワタシの気持ちはわからないわ。先生のことだって!」
性奴隷? 私は貴女なんかとは違うわ! だって私は赦されたのだから!
そう言いたい気持をぐっと抑えて言った。
「あなたは、先生に虐待されているの? 先生はあなたに酷いことをしているの?」
「失礼な事言わないで! 先生はとってもお優しいわ! 何にも知らないアンタなんかに、関係ないわ!」
「なら、あなたの罪だって、償われたのだと思わない? あなたがこうして、先生の下で静かに暮らしているのならば。あなただって、もう赦されたのよ」
「じゃぁ、この腕輪は何? ワタシ先生に見放されたら、きっとまたもとの生活に逆戻りだわ。自分で死ぬこともできない、惨めで何の希望も無いゴミ屑に!」
「…………」
確かに、彼女の腕にはあの呪わしい腕輪がついたままだ。
「帰りなさい。ここは先生とワタシだけの家よ。邪魔をするものは誰であっても許さない」
「あなたの大切な先生は、ご病気なのよ。体が弱っているの、だから……」
「そんなこと知ってる。先生が病気だってことも、ワタシが先生の負担になっていることも。でもワタシたちの邪魔をしないで!」
「先生はあなたのために、私を呼んだのよ。万が一先生が入院するようなことになられたとしても、残されたあなたが、少しでも不自由が無い様に暮らして行ける様に」
「酷いことを言わないで! 先生はきっと良くなる! ワタシだって家事ぐらいできる!」
「でも、先生のご病気が重くなったらどうするの?」
「ワタシはこれからもずっと先生と一緒なのよ! 先生が行くところなら、どこまでもついていくの!」
「もし先生が死んでしまったら、あなたは一人ぼっちよ……」
ぱぁん! と音がして私の視界はぐらついた。
頬を押さえて立ち上がると、小娘が私の頬を張った姿勢のまま、目にいっぱいの涙をためていた。
「言ったでしょう。先生とワタシはどこまでも一緒だって! あんたなんか大嫌い! 今すぐこの家から出てって!!」
小娘は吐き捨てるように叫ぶと、部屋を飛び出していった。
先生の部屋に入ると、先生はソファに座り、小娘を膝の上に抱いていた。
彼女はじっとしていて、眠っているようだった。
先生は愛惜しげに小娘の頭を撫でながら言った。
「この子を、あまり刺激しないでもらいたいな」
「すみません。でも、その小む……葵様は、本当は記憶が」
「それは、葵の描いた、妄想かもしれない……」
「でも、彼女は私に……」
「人は、たとえどんな過去があっても、生きている限り幸福を追求する権利がある」
「OOLですよ、彼女は」
「そんなことは関係ない。いや、僕が間違っているかもしれない。だが、夜中に過去を思い出してすすり泣く少女を見て、何とかしてやりたいと思うのは、正常な感覚だと、僕は信じている。君はそうは思わないかね?」
「…………」
「君にはここにいてもらうつもりだ。しかし、葵とは仲良くなってもらいたい。いいね?」
「ご命令とあれば」
「僕の“希望”だよ。どうしても、ソリの会わない相手というものはいるものさ。じゃ、ちょっと手を貸してくれないか? 泣きつかれて眠ってしまった、お姫様をベッドに運ばなくては」
「はい」
先生が小娘を抱きかかえ、私はその後に続いて部屋に入った。
私はベッドに寝かしつけようとする先生に、“少々お待ちください”と言ってから、洗濯の済んだ新しいシーツと毛布に取り替えた。
「このお部屋、あまり日当たりが良くないのですね。私にとご用意していただいた、2階のテラスのあるお部屋のほうが、葵様にもよろしいのではありませんか?」
「葵は階段を使えない。理由は説明しないといけないかね?」
「……飛び降りることが、できるから?」
私は募集要項に、“自殺願望のある少女”の注意書きがあった事を思い出した。
「そうだ。僕が2階へ上がると、葵はすごく不機嫌になるんだ。自分は階段を登って僕を追いかけることができないからね。逆に葵を2階に上げてしまえば、彼女はずっと降りてくることはできない」
「その場合、先生が1階に下りたら、葵様は不機嫌になりますね。」
「そうだ。だから多少問題があるとしても、葵には1階の部屋を与えているし、僕もなるべく2階へは行かない」
「……」
「それと、問題ないとは思うが、一応気をつけていてほしいことがある」
「なんでしょう?」
「葵は死にたがっている。それは今も変わっていない」
「……」
「僕が死ねと命じれば、いや、単に無視するだけでも良い。葵はためらいも無く、そうする筈だ」
「でも、OOLなら心理的に自殺はブロックされているのでは?」
「それは刃物なんかを自分に突き立てたり、高いところから飛び降りたり、といった危険行動を伴うものだ。だが目をつぶって飴かなにかを飲む様に、毒を飲むことぐらいはできる」
「……」
「この家には危険な毒物や薬品は勿論おいていない。だが知っているように、食品の中には大量に摂取すれば死に至るものもある」
「つまり……」
「葵が口にするものには、常に気をつけていて欲しい」
「それは結構大変ですね」
「調味料の類は、葵の手の届かない高いところの棚にしまってくれ。洗剤類は必ず鍵のかかるロッカーに入れておくように。特に洗濯や掃除のときは気をつけてくれ」
「わかりました」
言われた事をよく考えてみれば、これは幼児に対する注意事項とさほど変わらない。
見た目以上に小さな、手のかかる子供だと思えばいいということか。
<つづく>
「カレーライス」 第五章(1) <18禁>
作.ダークアリス キャライラスト&挿絵:キリセ
-----------------------------------------------------------
第5章 恵:冷たい家族
-----------------------------------------------------------
(1)

「では、恵君か。よろしく頼むよ」
「はい、先生。何なりとおっしゃってください」
私は深々と頭を下げた。施設を出ることになり、私の後見人として目の前の人物が引き取ってくださったおかげで、何とか社会復帰を果たすことができた。
私が元OOLだとは言え、専属メイドとして召抱えることが出来るということは、この人物はよほどの金持ちか、力のある人物に違いない。なんとしても気に入られなければ……。
派遣先のこの家には目の前の人物。今は病気のため、非常勤の研究医師である先生と、記憶を無くしたせいで、人見知りの激しい自殺願望の少女が一人、住んでいるだけだということだった。
あまり大きい屋敷ではないが、家事と子守が必要なので、たまたま保母の資格も取っていた私に、声がかかったのだった。
メイド兼保母。それが今度の私の新しい仕事だ。
その前は、公娼兼AVモデルだったそうだ。
伝聞なのは、私に過去の記憶が無いからだった。
公娼の前は、福祉施設の性ボランティア。その前はまた公娼。
そして監督官が私に見せたファイルの一番最初の欄にはこう書かれていた。
“23歳、男性。連続婦女暴行致死の罪で起訴。2審で有罪が確定。OOL法適用第58号。”
たったそれだけ。それがどうやら本当の、元の自分だったらしい。
一行しか書かれていないプロフィールには顔写真すらなく、自分がかつてどんな人間だったのか、知る術は無かった。
いや、自分は性犯罪者だったのだ。
だから、その罪の償いとして、性にかかわる仕事に、強制的に心身を供させられていたのだ。
OOLの証である、銀色の腕輪を嵌められて……。
――この体で目覚めた時、私は記憶を失っていた。
そして何も知らされないまま受けさせられた、施設での教育カリキュラム。
自分がなぜこんな目に会わなくてはならないのか、その理不尽さに徹底抗議したところ見せられたのが、例のファイルだった。
なぜ自分は何度も記憶を奪われ、同じような事を繰り返させられているのか、その経緯を一つ一つ詳しく説明された。
始めのうちは監督官の言葉を、身に覚えの無い他人事のように聞いていた。
だが、記憶をリセットされる原因になった経緯についてのくだりを聞かされたとき、私は泣き出していた。
耳をふさぎ目を閉じても、監督官はそれを許さず、過去に繰り返された陵辱と暴行の様子を事細かに説明していった。
そして同じ事を、私も受けてきたのだという。その度に私は体を変え、記憶を奪われて、それを罪の数だけ繰り返してきたのだという。
それからの私は、監督官に逆らうことはせず、ただひたすら従順に、どんなことでも素直に従った。
たとえ覚えていなくても、また同じ経験をするのは嫌だと、強く思っていた。
凄惨な“私の”殺害現場写真……。あんな目に、“自分は”会いたくないと思っていた。
そして数ヵ月後、監督官の“おめでとう”という笑顔とともに、私の左腕に嵌められていた銀色の腕輪が外され、求人票を見せられた――
そして今、私はここにいる。
「では、お嬢様にもご挨拶をしてまいります」
「葵にかい? もうそろそろ昼寝から目覚めるころだとは思うが……」
「では、様子を伺って、起きていらっしゃるようでしたら、ご挨拶をしてまいります」
「あ! いや……、なんでもない。よろしく頼むよ」
「はい」
先生の態度がちょっと気になったが、私は教えられた部屋のドアをノックした。
返事が無いのは、まだ寝ているのだろうか?
『失礼します』と一言声をかけてから、ドアを開け部屋に入った。
「こ、これは……」
部屋の中は先生で埋め尽くされていた。壁と天井は先生の顔や全身を大きく伸ばした写真で埋め尽くされ、至るところに写真立てが並んでいる。そのどれもが先生の姿を捉えたもので、先生の個人的なアルバムからなのか、若い頃の写真もあった。
そして床には、用途の良くわからない、しかし淫具であることが一目でわかるそれらが、無造作に散らかされていた。
私は異常な部屋の光景に、不安を感じた。
部屋の真ん中にはベッドが置かれていて、山の形になった毛布の塊がごそごそと動いていた。
<つづく>
-----------------------------------------------------------
第5章 恵:冷たい家族
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(1)

「では、恵君か。よろしく頼むよ」
「はい、先生。何なりとおっしゃってください」
私は深々と頭を下げた。施設を出ることになり、私の後見人として目の前の人物が引き取ってくださったおかげで、何とか社会復帰を果たすことができた。
私が元OOLだとは言え、専属メイドとして召抱えることが出来るということは、この人物はよほどの金持ちか、力のある人物に違いない。なんとしても気に入られなければ……。
派遣先のこの家には目の前の人物。今は病気のため、非常勤の研究医師である先生と、記憶を無くしたせいで、人見知りの激しい自殺願望の少女が一人、住んでいるだけだということだった。
あまり大きい屋敷ではないが、家事と子守が必要なので、たまたま保母の資格も取っていた私に、声がかかったのだった。
メイド兼保母。それが今度の私の新しい仕事だ。
その前は、公娼兼AVモデルだったそうだ。
伝聞なのは、私に過去の記憶が無いからだった。
公娼の前は、福祉施設の性ボランティア。その前はまた公娼。
そして監督官が私に見せたファイルの一番最初の欄にはこう書かれていた。
“23歳、男性。連続婦女暴行致死の罪で起訴。2審で有罪が確定。OOL法適用第58号。”
たったそれだけ。それがどうやら本当の、元の自分だったらしい。
一行しか書かれていないプロフィールには顔写真すらなく、自分がかつてどんな人間だったのか、知る術は無かった。
いや、自分は性犯罪者だったのだ。
だから、その罪の償いとして、性にかかわる仕事に、強制的に心身を供させられていたのだ。
OOLの証である、銀色の腕輪を嵌められて……。
――この体で目覚めた時、私は記憶を失っていた。
そして何も知らされないまま受けさせられた、施設での教育カリキュラム。
自分がなぜこんな目に会わなくてはならないのか、その理不尽さに徹底抗議したところ見せられたのが、例のファイルだった。
なぜ自分は何度も記憶を奪われ、同じような事を繰り返させられているのか、その経緯を一つ一つ詳しく説明された。
始めのうちは監督官の言葉を、身に覚えの無い他人事のように聞いていた。
だが、記憶をリセットされる原因になった経緯についてのくだりを聞かされたとき、私は泣き出していた。
耳をふさぎ目を閉じても、監督官はそれを許さず、過去に繰り返された陵辱と暴行の様子を事細かに説明していった。
そして同じ事を、私も受けてきたのだという。その度に私は体を変え、記憶を奪われて、それを罪の数だけ繰り返してきたのだという。
それからの私は、監督官に逆らうことはせず、ただひたすら従順に、どんなことでも素直に従った。
たとえ覚えていなくても、また同じ経験をするのは嫌だと、強く思っていた。
凄惨な“私の”殺害現場写真……。あんな目に、“自分は”会いたくないと思っていた。
そして数ヵ月後、監督官の“おめでとう”という笑顔とともに、私の左腕に嵌められていた銀色の腕輪が外され、求人票を見せられた――
そして今、私はここにいる。
「では、お嬢様にもご挨拶をしてまいります」
「葵にかい? もうそろそろ昼寝から目覚めるころだとは思うが……」
「では、様子を伺って、起きていらっしゃるようでしたら、ご挨拶をしてまいります」
「あ! いや……、なんでもない。よろしく頼むよ」
「はい」
先生の態度がちょっと気になったが、私は教えられた部屋のドアをノックした。
返事が無いのは、まだ寝ているのだろうか?
『失礼します』と一言声をかけてから、ドアを開け部屋に入った。
「こ、これは……」
部屋の中は先生で埋め尽くされていた。壁と天井は先生の顔や全身を大きく伸ばした写真で埋め尽くされ、至るところに写真立てが並んでいる。そのどれもが先生の姿を捉えたもので、先生の個人的なアルバムからなのか、若い頃の写真もあった。
そして床には、用途の良くわからない、しかし淫具であることが一目でわかるそれらが、無造作に散らかされていた。
私は異常な部屋の光景に、不安を感じた。
部屋の真ん中にはベッドが置かれていて、山の形になった毛布の塊がごそごそと動いていた。
<つづく>
「カレーライス」 第四章(4) <18禁>
(4)
ワタシは今日も先生の傍を離れない。
朝起きたら、先生のために朝食を用意する。
朝食といっても、先生のために牛乳をカップに入れて、トースターでパンを焼くだけ。
ワタシは包丁を握ったり、コンロを使ったりすることができないから、できることはとても限られている。
食べ終わったら、お掃除。
掃除器をかけて、雑巾がけをして、時々お庭の草むしりをする。
洗濯や食器洗いは、先生のお仕事。
『葵は洗剤を使っては駄目』と先生がいうから、素直に従う。
階段も使えないから、2階のお掃除もできない。
先生のために、もっと家事ぐらいはしたいけれど、ワタシの体のせいで、先生に負担ばかりかけている。
だからお掃除が終わったら、ワタシは先生にごめんなさいを言いに行く。
泣きべそをかきながら。
すると先生は、ワタシの頭を撫でながら言うのだ。
『葵は自分にできることをしてくれればいいよ』って。
先生は本当に優しい。だからワタシは先生が大好き。
ご褒美のセックスの後、先生が言った。
「葵。よく聞いてほしい」
「なあに先生?」
「葵は僕のことが好きなのかい?」
「好きとか嫌いとかじゃ無いわ。葵は先生のためだけに生きているの」
「葵は自分のために生きなければいけないよ」
「先生が生きる理由をくれるから、葵は生きていられるの」
「葵……」
「ワタシ、毎日誓うわ。先生が私を愛してくれたら、一日の終わりに先生に誓う。明日もきっと、先生のために生きるって」
先生は困ったような、うれしい様なよくわからない顔をなさったけど、すぐに優しく微笑んで、小指を絡ませた。
*---*---*---*---*---*---*---*---*---*---*
ワタシは幸せな篭の中に自ら望んで入る、手乗りの鳥と同じ。
先生のそばにいないと不安が押し寄せてくる。
先生に触れていないと、体が震えてくる。
先生の声を聞かないと頭が狂いそうになってくる。
先生とのセックスなしでは、生きていけない。
先生に性器と肛門を弄られないと排泄しても排泄しきれない。
先生の精を飲み干さなければ、どんなものをどれだけ口にしても満たされない。
だからワタシは起きているときは、先生から一時も視線を離さない。
先生が私を見つめてくれたら、心が安らぐ。
先生が手を伸ばしてくれたら、体を摺り寄せる。
先生の声を聞いたらキスをせがむ。
そして、朝と晩にはセックスを欠かさない。
それだけが、ワタシが生きている意味。
だからワタシは、明日もきっとワタシでいられる。
先生と二人ぼっちで暮らす、この家の中がワタシの存在していられる全て。
だからワタシは、他人の侵入を許さない。
この家に来ても良いのは新聞や食料を持ってくる配達員だけ。
それも玄関より中には行かせない。
ガスの点検? そんなの知らないわ。
この家は私と先生が守っているから、そんなことはしなくても大丈夫。
ああ、テレビもうるさいわ。だって、知らない他人が家の中にいるみたいなんだもの。
コンセントを抜いて、アンテナも外してしまおう。
ねぇ、先生。外に行っちゃ嫌よ!
どうしても行かなきゃ行けないのならば、私が昼寝をしている間にお願い。
帰ってきたら、先生のキスでワタシを目覚めさせて。
『子供みたいにわがままだね』って?
だって先生が言ったのよ。
『赤ん坊みたいに笑って、食べて、好きなことをして、一日を過ごせばいいよ』って。
だからワタシは先生に甘えているの。
それだけが、ワタシが生きている意味。
だからワタシは、明日もきっとワタシでいられる。
ワタシは今日も、先生にセックスをおねだりする。
傷だらけ、アザだらけの貧弱な体だけど、先生はそれでも良いって言ってくれた。
ワタシは薄布でできたワンピース一枚だけをまとう。
それは不意に現れる窓の外の珍客に体を見せないためよ。
庭に遊びに来る小鳥や猫さんにも、見せてはあげない。
ワタシは、先生にだけ裸を見せるの。
さぁ先生、カーテンを引いたわ。もう誰の目も気にならない。
エッチなことを始めましょう。
先生はもっと胸の大きい女のほうが好き?
でもワタシの胸だって、形は悪くないと思うし、感度だって十分よ。
先生の愛撫に十分応えられると思うわ。
ワタシの膣内はどう?
みみず千匹とか数の子天井とかってよく判らない。
だけど、先生のモノを受け入れて、こうしてちょっと力を込めればどう?
ほら、気持良くなってくるでしょう?
物足りなければ、後ろの穴も使ってね。
あ、でも使う前にはおなかを良くキレイにしてからじゃないとね。
ナマでやっちゃ駄目なんだって。
先生が買ってきてくれたエッチな本には、そう書いてあった。
でも先生、あまり無理はしないでね。
疲れたら、葵にはバイブを挿入れたり、薬を使ったりしても良いのよ。
葵はそういうこともできる、先生だけの大人のオモチャなんだから。
ロープで縛っても良いし、ムチで叩いても良いわ。
でもひとつだけお願い、葵がイクところだけは見ていてね。
先生にはワタシの全てを見ていて欲しいの。
それだけが、ワタシが生きている意味。
だからワタシは、明日もきっとワタシでいられる。
ずっと、こんな生活が続けられると信じていた。
先生が、不治の病に侵されている事を、知るまでは……。
<つづく>
ワタシは今日も先生の傍を離れない。
朝起きたら、先生のために朝食を用意する。
朝食といっても、先生のために牛乳をカップに入れて、トースターでパンを焼くだけ。
ワタシは包丁を握ったり、コンロを使ったりすることができないから、できることはとても限られている。
食べ終わったら、お掃除。
掃除器をかけて、雑巾がけをして、時々お庭の草むしりをする。
洗濯や食器洗いは、先生のお仕事。
『葵は洗剤を使っては駄目』と先生がいうから、素直に従う。
階段も使えないから、2階のお掃除もできない。
先生のために、もっと家事ぐらいはしたいけれど、ワタシの体のせいで、先生に負担ばかりかけている。
だからお掃除が終わったら、ワタシは先生にごめんなさいを言いに行く。
泣きべそをかきながら。
すると先生は、ワタシの頭を撫でながら言うのだ。
『葵は自分にできることをしてくれればいいよ』って。
先生は本当に優しい。だからワタシは先生が大好き。
ご褒美のセックスの後、先生が言った。
「葵。よく聞いてほしい」
「なあに先生?」
「葵は僕のことが好きなのかい?」
「好きとか嫌いとかじゃ無いわ。葵は先生のためだけに生きているの」
「葵は自分のために生きなければいけないよ」
「先生が生きる理由をくれるから、葵は生きていられるの」
「葵……」
「ワタシ、毎日誓うわ。先生が私を愛してくれたら、一日の終わりに先生に誓う。明日もきっと、先生のために生きるって」
先生は困ったような、うれしい様なよくわからない顔をなさったけど、すぐに優しく微笑んで、小指を絡ませた。
ワタシは幸せな篭の中に自ら望んで入る、手乗りの鳥と同じ。
先生のそばにいないと不安が押し寄せてくる。
先生に触れていないと、体が震えてくる。
先生の声を聞かないと頭が狂いそうになってくる。
先生とのセックスなしでは、生きていけない。
先生に性器と肛門を弄られないと排泄しても排泄しきれない。
先生の精を飲み干さなければ、どんなものをどれだけ口にしても満たされない。
だからワタシは起きているときは、先生から一時も視線を離さない。
先生が私を見つめてくれたら、心が安らぐ。
先生が手を伸ばしてくれたら、体を摺り寄せる。
先生の声を聞いたらキスをせがむ。
そして、朝と晩にはセックスを欠かさない。
それだけが、ワタシが生きている意味。
だからワタシは、明日もきっとワタシでいられる。
先生と二人ぼっちで暮らす、この家の中がワタシの存在していられる全て。
だからワタシは、他人の侵入を許さない。
この家に来ても良いのは新聞や食料を持ってくる配達員だけ。
それも玄関より中には行かせない。
ガスの点検? そんなの知らないわ。
この家は私と先生が守っているから、そんなことはしなくても大丈夫。
ああ、テレビもうるさいわ。だって、知らない他人が家の中にいるみたいなんだもの。
コンセントを抜いて、アンテナも外してしまおう。
ねぇ、先生。外に行っちゃ嫌よ!
どうしても行かなきゃ行けないのならば、私が昼寝をしている間にお願い。
帰ってきたら、先生のキスでワタシを目覚めさせて。
『子供みたいにわがままだね』って?
だって先生が言ったのよ。
『赤ん坊みたいに笑って、食べて、好きなことをして、一日を過ごせばいいよ』って。
だからワタシは先生に甘えているの。
それだけが、ワタシが生きている意味。
だからワタシは、明日もきっとワタシでいられる。
ワタシは今日も、先生にセックスをおねだりする。
傷だらけ、アザだらけの貧弱な体だけど、先生はそれでも良いって言ってくれた。
ワタシは薄布でできたワンピース一枚だけをまとう。
それは不意に現れる窓の外の珍客に体を見せないためよ。
庭に遊びに来る小鳥や猫さんにも、見せてはあげない。
ワタシは、先生にだけ裸を見せるの。
さぁ先生、カーテンを引いたわ。もう誰の目も気にならない。
エッチなことを始めましょう。
先生はもっと胸の大きい女のほうが好き?
でもワタシの胸だって、形は悪くないと思うし、感度だって十分よ。
先生の愛撫に十分応えられると思うわ。
ワタシの膣内はどう?
みみず千匹とか数の子天井とかってよく判らない。
だけど、先生のモノを受け入れて、こうしてちょっと力を込めればどう?
ほら、気持良くなってくるでしょう?
物足りなければ、後ろの穴も使ってね。
あ、でも使う前にはおなかを良くキレイにしてからじゃないとね。
ナマでやっちゃ駄目なんだって。
先生が買ってきてくれたエッチな本には、そう書いてあった。
でも先生、あまり無理はしないでね。
疲れたら、葵にはバイブを挿入れたり、薬を使ったりしても良いのよ。
葵はそういうこともできる、先生だけの大人のオモチャなんだから。
ロープで縛っても良いし、ムチで叩いても良いわ。
でもひとつだけお願い、葵がイクところだけは見ていてね。
先生にはワタシの全てを見ていて欲しいの。
それだけが、ワタシが生きている意味。
だからワタシは、明日もきっとワタシでいられる。
ずっと、こんな生活が続けられると信じていた。
先生が、不治の病に侵されている事を、知るまでは……。
<つづく>
「カレーライス」 第四章(3) <18禁>
(3)
月明かりのさすベッドの上。先生がワタシの服を脱がせる。
昔の俺は、服を剥ぎとられ、怯える女の顔を見るのが大好きだった。
ワタシは今、そんな顔をしている。
「せんせぇ、ワタシ怖いの」
ワタシは嘘をつく。快楽を予感して期待に身を震わせている事を、気づかれたくないから。
「もう葵を虐める者はいないよ。もう怯えなくていいんだ」
先生はワタシを気遣って優しい声で言う。
骨ばった男の指が、乳房を撫で乳首を軽くつまんで離す。
昔の俺は、女の乳房をこね回し、ぷるんと震えるのを愉しんだ。
ワタシの胸も今、そんな風に震えている。
「せんせぇ。もっと強く揉んでよ」
ワタシは本当の気持ちを言う。もっと強い刺激を望んでいる事を、知って欲しいから。
「痛くないかい?」
先生の指に力が込められる。
躊躇いがちに伸ばされた手が、股間にある肉の谷間をなぞる。
昔の俺は、無理矢理に押し開く、女の秘所が濡れて行くのが楽しかった。
ワタシのアソコも今、濡れているに違いない。
「せんせぇ、葵、感じちゃう……」
ワタシは嘘をつく。先生の愛撫がもどかしいなどと思っている事を、悟られたくないから。
「葵は敏感なんだね」
先生の指が、ワタシの膣内に伸ばされる。
挿入された肉棒が躰を貫き、躰の奥深くを突く。
昔の俺は、女を犯すのが大好きだった。
ワタシは今、男に貫かれ、満たされている。
「あはぁっ♥ せんせぇ、もっと、もっと強くぅ……」
私は本当の気持ちを言う。開発され尽くした肉体を満たすのが、激しいセックスである事を、知って欲しいから。
「葵、僕はもう、イキそうだ……」
先生は体を震わせ、ワタシの膣に精を放った。
うつ伏せになって、余韻に息を切らせながらベッドに横たわる。
昔の俺は、犯された女が、こうして打ち伏して乱れた長い髪を体にまとわり付かせているのを見るのが大好きだった。
ワタシも今、傷痕だらけの素肌に、白髪をまとわり付かせている。
「先生。葵、とっても良かった。今とってもいい気持ちなの。先生のおかげよ」
ワタシは嘘をつく。まだ満足しきれていないカラダの疼きを、悟られたくないから。
「葵、もういいのかい?」
先生の股間は、まだ元気だった。
やっぱり、思ったとおり。
だって、病院のベッドでは、もっと激しく愛し合った事があったでしょう?
それにね、ワタシは経験豊かな淫婦なのよ。
男の人が満足しない射精のさせ方だって、知っているの。
「先生、葵がどんな事をされてきたか、ご存知でしょう? だからウソでもかまわないから、こう言って」
ワタシは先生の耳に唇を寄せて、ある言葉を囁く。
ワタシの嘘と本当と望みを。
先生はちょっと躊躇った後、ワタシをベッドに押し倒しながら言ってくれた。
「『葵、お前はすごいマゾだったな。これからは毎日犯してやる』」
セックスの余韻と収まりきれない興奮が、男と女を狂わせる。
ワタシは両手を揃える様にして前に出し、立てた膝を大きく開いた。
それからのセックスはとても激しく、乱暴で、イヤらしかった。
先生はワタシだけの、性犯罪者になってくれた。
<つづく>
月明かりのさすベッドの上。先生がワタシの服を脱がせる。
昔の俺は、服を剥ぎとられ、怯える女の顔を見るのが大好きだった。
ワタシは今、そんな顔をしている。
「せんせぇ、ワタシ怖いの」
ワタシは嘘をつく。快楽を予感して期待に身を震わせている事を、気づかれたくないから。
「もう葵を虐める者はいないよ。もう怯えなくていいんだ」
先生はワタシを気遣って優しい声で言う。
骨ばった男の指が、乳房を撫で乳首を軽くつまんで離す。
昔の俺は、女の乳房をこね回し、ぷるんと震えるのを愉しんだ。
ワタシの胸も今、そんな風に震えている。
「せんせぇ。もっと強く揉んでよ」
ワタシは本当の気持ちを言う。もっと強い刺激を望んでいる事を、知って欲しいから。
「痛くないかい?」
先生の指に力が込められる。
躊躇いがちに伸ばされた手が、股間にある肉の谷間をなぞる。
昔の俺は、無理矢理に押し開く、女の秘所が濡れて行くのが楽しかった。
ワタシのアソコも今、濡れているに違いない。
「せんせぇ、葵、感じちゃう……」
ワタシは嘘をつく。先生の愛撫がもどかしいなどと思っている事を、悟られたくないから。
「葵は敏感なんだね」
先生の指が、ワタシの膣内に伸ばされる。
挿入された肉棒が躰を貫き、躰の奥深くを突く。
昔の俺は、女を犯すのが大好きだった。
ワタシは今、男に貫かれ、満たされている。
「あはぁっ♥ せんせぇ、もっと、もっと強くぅ……」
私は本当の気持ちを言う。開発され尽くした肉体を満たすのが、激しいセックスである事を、知って欲しいから。
「葵、僕はもう、イキそうだ……」
先生は体を震わせ、ワタシの膣に精を放った。
うつ伏せになって、余韻に息を切らせながらベッドに横たわる。
昔の俺は、犯された女が、こうして打ち伏して乱れた長い髪を体にまとわり付かせているのを見るのが大好きだった。
ワタシも今、傷痕だらけの素肌に、白髪をまとわり付かせている。
「先生。葵、とっても良かった。今とってもいい気持ちなの。先生のおかげよ」
ワタシは嘘をつく。まだ満足しきれていないカラダの疼きを、悟られたくないから。
「葵、もういいのかい?」
先生の股間は、まだ元気だった。
やっぱり、思ったとおり。
だって、病院のベッドでは、もっと激しく愛し合った事があったでしょう?
それにね、ワタシは経験豊かな淫婦なのよ。
男の人が満足しない射精のさせ方だって、知っているの。
「先生、葵がどんな事をされてきたか、ご存知でしょう? だからウソでもかまわないから、こう言って」
ワタシは先生の耳に唇を寄せて、ある言葉を囁く。
ワタシの嘘と本当と望みを。
先生はちょっと躊躇った後、ワタシをベッドに押し倒しながら言ってくれた。
「『葵、お前はすごいマゾだったな。これからは毎日犯してやる』」
セックスの余韻と収まりきれない興奮が、男と女を狂わせる。
ワタシは両手を揃える様にして前に出し、立てた膝を大きく開いた。
それからのセックスはとても激しく、乱暴で、イヤらしかった。
先生はワタシだけの、性犯罪者になってくれた。
<つづく>
「カレーライス」 第四章(2) <18禁>
作.ダークアリス キャライラスト&挿絵:キリセ
(2)
夜も更けた頃、ワタシは体が疼くのを感じて目が覚めた。
ワタシは自分の体に何が起きているのかわけもわからず、ベッドの中でもじもじするように身をくねらせていた。
何かの弾みで、胸の先端がシーツで擦れて、懐かしい甘い感覚が全身を駆け抜けた。
(ああ、そうか)
半分寝惚けていたワタシは、迷うことなく自分の胸に手を伸ばした。
適度な弾力を持って手のひらに押し返してくる、ぷにぷにとした乳房の感触。
先端の尖りを刺激することで、胸の奥から沸き起こってくるじれったいような感覚。
やわらかな双丘からの心地よい快感に、夢中になっていた。
そして濡れ始めた股間の違和感に、自然に伸びた指先が忘れかけていた性器を弄る快感を掘り起こしていくのに、それほど時間はかからなかった。
自分を慰めることで求め得た快感に軽い絶頂を覚え、満たされた体を震わせたけれど、冷めてくると複雑な寂しさを感じて、再び乳首とクリトリスに手が伸びた。
繰り返し訪れる官能の波。どれもが形良く現れて、波頭が砕けていったけれど、呪われたこの体が満足することは出来なかった。
何度繰り返しても、何度自慰で高みに自分を追いやっても、達した快感の高みから堕ちる度に、体の震えが増すばかりだった。
そしてその震えを治めるために、また乳房や性器に手が伸びる。
“こんなものじゃなかった筈!”
そう躰が、訴えていた。
躰の叫びは心の叫びとなって、それはやがて口から漏れ出す。
「おねがい……、誰か、助けて……、もっと……違うの……こうじゃないの……」
次第に声が大きくなり、嬌声と苦痛の入り混じった叫びが、夜中に目を覚ました先生を罠に誘い込んだ。
「葵、どうしたんだ! 苦しいのか?」
先生が心配して私の体をゆすった。
ワタシは一瞬だけ自分を取り戻す。
快楽に溺れて、自分が何者であるかを忘れていた。
だめ! 先生にこんなところ、知られたくない!
せっかく淫獄から開放してくれた先生の好意を、無に帰したくない!
けれど、とっくに火が点いて昂ぶっていた躰は、ワタシの心を裏切ろうと囁くのを止めない。
『暗闇の中、お前の体を揺さぶっている男は、お前を殺めようとする者でもなく、陵辱する者でもない。さぁ、キスをねだれ、愛撫を乞え、セックスを求めろ!』
「せ、先生ぇ……わ、ワタシ……」
「葵、やめるんだ。もうこんなことをしてはいけないよ」
「で、でもぉ、先生ぇ」
ワタシは自分の乳房と股間を弄る手を止めることが出来ず、涙目で先生に訴えた。
「おねがい、先生。 ワタシ、ワタシ……、駄目なのぉ……。はぁんっ! こんなのじゃ、このままじゃ……」
ワタシは居ても立ってもたまらず、先生にぎゅっと抱きついた。
「葵……」
「おねがい、せんせぇ。ワタシ、おかしくなっちゃう! ワタシを……ワタシを犯してぇっー!」

<つづく>
(2)
夜も更けた頃、ワタシは体が疼くのを感じて目が覚めた。
ワタシは自分の体に何が起きているのかわけもわからず、ベッドの中でもじもじするように身をくねらせていた。
何かの弾みで、胸の先端がシーツで擦れて、懐かしい甘い感覚が全身を駆け抜けた。
(ああ、そうか)
半分寝惚けていたワタシは、迷うことなく自分の胸に手を伸ばした。
適度な弾力を持って手のひらに押し返してくる、ぷにぷにとした乳房の感触。
先端の尖りを刺激することで、胸の奥から沸き起こってくるじれったいような感覚。
やわらかな双丘からの心地よい快感に、夢中になっていた。
そして濡れ始めた股間の違和感に、自然に伸びた指先が忘れかけていた性器を弄る快感を掘り起こしていくのに、それほど時間はかからなかった。
自分を慰めることで求め得た快感に軽い絶頂を覚え、満たされた体を震わせたけれど、冷めてくると複雑な寂しさを感じて、再び乳首とクリトリスに手が伸びた。
繰り返し訪れる官能の波。どれもが形良く現れて、波頭が砕けていったけれど、呪われたこの体が満足することは出来なかった。
何度繰り返しても、何度自慰で高みに自分を追いやっても、達した快感の高みから堕ちる度に、体の震えが増すばかりだった。
そしてその震えを治めるために、また乳房や性器に手が伸びる。
“こんなものじゃなかった筈!”
そう躰が、訴えていた。
躰の叫びは心の叫びとなって、それはやがて口から漏れ出す。
「おねがい……、誰か、助けて……、もっと……違うの……こうじゃないの……」
次第に声が大きくなり、嬌声と苦痛の入り混じった叫びが、夜中に目を覚ました先生を罠に誘い込んだ。
「葵、どうしたんだ! 苦しいのか?」
先生が心配して私の体をゆすった。
ワタシは一瞬だけ自分を取り戻す。
快楽に溺れて、自分が何者であるかを忘れていた。
だめ! 先生にこんなところ、知られたくない!
せっかく淫獄から開放してくれた先生の好意を、無に帰したくない!
けれど、とっくに火が点いて昂ぶっていた躰は、ワタシの心を裏切ろうと囁くのを止めない。
『暗闇の中、お前の体を揺さぶっている男は、お前を殺めようとする者でもなく、陵辱する者でもない。さぁ、キスをねだれ、愛撫を乞え、セックスを求めろ!』
「せ、先生ぇ……わ、ワタシ……」
「葵、やめるんだ。もうこんなことをしてはいけないよ」
「で、でもぉ、先生ぇ」
ワタシは自分の乳房と股間を弄る手を止めることが出来ず、涙目で先生に訴えた。
「おねがい、先生。 ワタシ、ワタシ……、駄目なのぉ……。はぁんっ! こんなのじゃ、このままじゃ……」
ワタシは居ても立ってもたまらず、先生にぎゅっと抱きついた。
「葵……」
「おねがい、せんせぇ。ワタシ、おかしくなっちゃう! ワタシを……ワタシを犯してぇっー!」

<つづく>
「カレーライス」 第四章(1) <18禁>
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第4章 葵:生きる理由
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(1)
先生はワタシを解放してくれた。
これからは先生と二人。
夫婦みたいに……っていうのは、ちょっと気が引ける。
仲の良い兄妹みたいな、二人ぼっちの家族みたいに、暮らしていければ良いなと、思っていた。
……妹?
いつの間にか、ワタシは自分が女であることを、素直に受け入れるようになっていた。
自分のこの体を毎日呪い続けていた筈なのに。
ワタシは女の体が大嫌いだった。
犯罪者の過去を持つ自分が大嫌いだった。
でも、今はこの体であることがうれしい。
どうしてうれしいんだろう?
先生と一緒にいられるから?
先生を愛せるから?
先生に愛してもらえるから?
きっとそうだ!
ワタシは答えを見つけたと思った。間違っていてもいい。
先生はワタシを開放してくれたのだから、ワタシはワタシのしたいようにしたい。
先生に愛されたい。
先生はどんな女の子が好きなんだろう?
やっぱりかわいい子だよね。
ワタシはことさら無邪気な女の子を演じるように、先生の周りを舞った。
真っ白なかわいいワンピースを纏って、ひらひらと蝶の様に歩いた。
先生の肩につかまり、耳元で感謝と愛の言葉を囁いた。
*---*---*---*---*---*---*---*---*---*---*
ワタシって先生の何だろう?
恋人って思ってくれたら、とても嬉しい!
でも先生のワタシへの接し方って、なんだか小さい子にするのと、同じ感じがする。
そりゃ、確かにカラダは小さいけれどさ……、胸だってあんまり無いし……。
ううん、先生はそんなこと望んでない。
じゃぁ、そうね……子供! は、ヘンだから、やっぱり妹かなぁ?
先生のこと“おにいちゃん”って呼んだらどんな顔するかなぁ?
でもそれで、嫌われちゃったりしたら悲しい。
先生とワタシ、兄と妹って言うほど似ていないもん……。
ううん……そうだ!
“家族”
先生とワタシは“家族”なんだわ。
ワタシは先生と家族になったんだ。
だからワタシはいやなことは全部忘れて、先生と新しい人生をはじめるの。
家族だからワタシは、先生の子供でもあり、妹でもあり、妻……は恥ずかしいけど……。
全部ひっくるめて、先生とワタシは家族になったの。
*---*---*---*---*---*---*---*---*---*---*
「さ、お食べ。今日は葵の大好きなカレーライスだよ」
先生がうれしそうに言う。別にカレーライスがそんなに好きなわけじゃないけれど……。
でも……カレーの香りはいろんなことを思い出させる。
つらくて悲しいことも、苦しくて死んでしまいたかったことも。
でも、一番新しい思い出は先生のこと。
これからはカレーの香りは、先生との思い出の香りにしたいな……。
食卓には、皿に盛られたサフランライスと、銀のポットに注がれたカレールゥが載っていた。
先生がこれを作ったの? それともどこかのデリバリーサービスかしら?
ワタシはなんとなく皿の上のライスにポットのルゥを全部かけ、ぐちゃぐちゃにかきまぜはじめたところではっとした。
先生の視線が固まってる。
乏しいテーブルマナーの記憶によれば、これはかなり下品な行為だ。
せっかく先生が用意してくれた、最上のカレーライスになんて事を!
ワタシは自分のあまりの行為に泣きそうになった。
それを見かねた先生は、うつむいたままべそをかいているワタシを、そっと抱き上げると膝に乗せ、手をとって言った。
「こうやって混ぜて食べると、おいしいよね」
先生は笑顔で、一緒に更に盛られたカレーライスを、ぐちゃぐちゃとかき混ぜてくれた。
ワタシは恥ずかしさとうれしさで、頭が真っ白になってしまった。
そして、まるで無垢の少女のように顔を赤くして、こんな事を言ってしまった。
「うん。ワタシ、毎日カレーが良いな」
この時から、ぐちゃぐちゃにかき混ぜたカレーライスは、ワタシの大好物になった。
そして先生は、一日に一回は必ず、カレーライスを用意してくれた。
*---*---*---*---*---*---*---*---*---*---*
食事が終わって、ワタシは部屋に戻った。
先生との楽しい時間が終わって、一人の時間。
口の中にちょっと残ってる、カレーの味。ちょっと辛かったかな?
まさか、黄色いのが、口の周りとかについていたりしないよね?
ワタシはちょっと気になって、今さらながらだけど、鏡を見た。
鏡には、もうすっかり見慣れた少女の顔が映っていた。
不安そうな顔。何をそんなに怖がっているの?
大きくて丸い瞳。紅いのはワタシの罪の証。
腰まで届く長い髪。真っ白なのは罰の証。
小さな体に、細く伸びた手足。傷痕と痣でいっぱいなのは、償いの証。
見れば見るほど、辛い事を思い出し、悲しくなってくる。
ワタシはいたたまれなくなり、毛布を被ってベッドにもぐりこむ。
先生がこんなワタシを好きになってくれる筈が無い。
男だったことは忘れられても、罪人だったことは隠せない。
こんな醜いワタシを愛してくれる人なんか、どこにもいない。
体を小さく丸めて、自分の犯した罪の重さに震え、償ってなお癒えない心の病に泣いていた。
そしていつの間にか、ワタシは泣き疲れて眠っていた。
<つづく>
第4章 葵:生きる理由
-----------------------------------------------------------
(1)
先生はワタシを解放してくれた。
これからは先生と二人。
夫婦みたいに……っていうのは、ちょっと気が引ける。
仲の良い兄妹みたいな、二人ぼっちの家族みたいに、暮らしていければ良いなと、思っていた。
……妹?
いつの間にか、ワタシは自分が女であることを、素直に受け入れるようになっていた。
自分のこの体を毎日呪い続けていた筈なのに。
ワタシは女の体が大嫌いだった。
犯罪者の過去を持つ自分が大嫌いだった。
でも、今はこの体であることがうれしい。
どうしてうれしいんだろう?
先生と一緒にいられるから?
先生を愛せるから?
先生に愛してもらえるから?
きっとそうだ!
ワタシは答えを見つけたと思った。間違っていてもいい。
先生はワタシを開放してくれたのだから、ワタシはワタシのしたいようにしたい。
先生に愛されたい。
先生はどんな女の子が好きなんだろう?
やっぱりかわいい子だよね。
ワタシはことさら無邪気な女の子を演じるように、先生の周りを舞った。
真っ白なかわいいワンピースを纏って、ひらひらと蝶の様に歩いた。
先生の肩につかまり、耳元で感謝と愛の言葉を囁いた。
ワタシって先生の何だろう?
恋人って思ってくれたら、とても嬉しい!
でも先生のワタシへの接し方って、なんだか小さい子にするのと、同じ感じがする。
そりゃ、確かにカラダは小さいけれどさ……、胸だってあんまり無いし……。
ううん、先生はそんなこと望んでない。
じゃぁ、そうね……子供! は、ヘンだから、やっぱり妹かなぁ?
先生のこと“おにいちゃん”って呼んだらどんな顔するかなぁ?
でもそれで、嫌われちゃったりしたら悲しい。
先生とワタシ、兄と妹って言うほど似ていないもん……。
ううん……そうだ!
“家族”
先生とワタシは“家族”なんだわ。
ワタシは先生と家族になったんだ。
だからワタシはいやなことは全部忘れて、先生と新しい人生をはじめるの。
家族だからワタシは、先生の子供でもあり、妹でもあり、妻……は恥ずかしいけど……。
全部ひっくるめて、先生とワタシは家族になったの。
「さ、お食べ。今日は葵の大好きなカレーライスだよ」
先生がうれしそうに言う。別にカレーライスがそんなに好きなわけじゃないけれど……。
でも……カレーの香りはいろんなことを思い出させる。
つらくて悲しいことも、苦しくて死んでしまいたかったことも。
でも、一番新しい思い出は先生のこと。
これからはカレーの香りは、先生との思い出の香りにしたいな……。
食卓には、皿に盛られたサフランライスと、銀のポットに注がれたカレールゥが載っていた。
先生がこれを作ったの? それともどこかのデリバリーサービスかしら?
ワタシはなんとなく皿の上のライスにポットのルゥを全部かけ、ぐちゃぐちゃにかきまぜはじめたところではっとした。
先生の視線が固まってる。
乏しいテーブルマナーの記憶によれば、これはかなり下品な行為だ。
せっかく先生が用意してくれた、最上のカレーライスになんて事を!
ワタシは自分のあまりの行為に泣きそうになった。
それを見かねた先生は、うつむいたままべそをかいているワタシを、そっと抱き上げると膝に乗せ、手をとって言った。
「こうやって混ぜて食べると、おいしいよね」
先生は笑顔で、一緒に更に盛られたカレーライスを、ぐちゃぐちゃとかき混ぜてくれた。
ワタシは恥ずかしさとうれしさで、頭が真っ白になってしまった。
そして、まるで無垢の少女のように顔を赤くして、こんな事を言ってしまった。
「うん。ワタシ、毎日カレーが良いな」
この時から、ぐちゃぐちゃにかき混ぜたカレーライスは、ワタシの大好物になった。
そして先生は、一日に一回は必ず、カレーライスを用意してくれた。
食事が終わって、ワタシは部屋に戻った。
先生との楽しい時間が終わって、一人の時間。
口の中にちょっと残ってる、カレーの味。ちょっと辛かったかな?
まさか、黄色いのが、口の周りとかについていたりしないよね?
ワタシはちょっと気になって、今さらながらだけど、鏡を見た。
鏡には、もうすっかり見慣れた少女の顔が映っていた。
不安そうな顔。何をそんなに怖がっているの?
大きくて丸い瞳。紅いのはワタシの罪の証。
腰まで届く長い髪。真っ白なのは罰の証。
小さな体に、細く伸びた手足。傷痕と痣でいっぱいなのは、償いの証。
見れば見るほど、辛い事を思い出し、悲しくなってくる。
ワタシはいたたまれなくなり、毛布を被ってベッドにもぐりこむ。
先生がこんなワタシを好きになってくれる筈が無い。
男だったことは忘れられても、罪人だったことは隠せない。
こんな醜いワタシを愛してくれる人なんか、どこにもいない。
体を小さく丸めて、自分の犯した罪の重さに震え、償ってなお癒えない心の病に泣いていた。
そしていつの間にか、ワタシは泣き疲れて眠っていた。
<つづく>
「カレーライス」 第三章(3) <18禁>
(3)
次の日、先生は私を別の建物の中にある、一室に連れて行った。
「先生、何が始まるの?」
何かの装置がたくさん並んだ部屋の中に置かれたベッド。
そのベッドの上で私は服を脱いで、体中に電極を貼り付けられていた。
「これはOOLを作るときに使う装置だよ、君も一度経験している」
「良く覚えていないけど。でもそれじゃ、あまり効果は無いんじゃないの? だって、一度受けているんでしょう?」
「催眠中にね。でも今度は違う。プログラム内容も変更して、君が覚醒中の状態で作動させる。装置の出力も最大にセットした」
「ふうん……」
「さ、腕を出して。ちょっと痛いけど、我慢するんだ」
電極を貼り付け終えた先生は、何かの薬液を私に注射した。
「寒いかい?」
自分でも気がつかないうちに、体が小刻みに震えていた。
「ううん……。なんだか、ちょっと怖いかなって……」
強がりを言っても始まらない。私は素直に言った。
「薬のせいだね。じゃあ、早く始めよう」
そういうと先生は、私の両手足と、腰、太ももと最後に首に拘束用の枷を手早くはめて、ベッドに繋いで拘束した。
「苦しくないかい?」
「大丈夫だけど、ちょっと恥ずかしいかな、えへへ……」
こんな風に裸を見られるのには慣れていたけれど、先生の顔が緊張に凝り固まっていたので、少しでも場を和ませたかった。
先生はちょっと顔を赤くしてから視界の外に消え、何かの作業を続けた。
「やっぱり、そういうのつけるんだ……」
再び先生が視界の中に戻ってきた時、手にはコードのついた、黒い男性器を模した淫具が握られていた。
「ごめんよ」
表情を隠したまま先生はそういって、私のアソコにローションを注入し、淫具を奥深くまで押し込んだ。もちろん後ろにも。
そして、アイマスクをされて視界が遮られると、暫くして右、直ぐに左の乳首に何かで挟まれる快感が走り、最後にクリトリスにも何かを取り付けられた。
「こういうので感じちゃうなんて、やっぱり私、変態だよね」
「この作業が終わったときには、そうでなくなっているよ」
「そうだと、いいけど……」
「葵……」
「なぁに? 先生」
「すまない……」
先生は返事を待たずに、私に口枷をはめた。
覚醒時に行われる、OOLプログラム。それは本当の地獄だった。
体中に取り付けられた電極からは、苦痛というには生易しすぎる激しい電撃が加えられ、暴れても外れないように取り付けられたイヤフォンからは、私の罪をなじる恐ろしげな呪詛の声が流されていた。
精神と肉体を同時に痛めつけられたか思うと、今度は脳が痺れるほどの快感を浴びせられた。イヤフォンからは、自分が淫らな快感に打ち震える醜い人間であることを詰る、卑猥な言葉が延々と繰り返され、虐待を自ら望みそれに感謝する言葉を強要された。
気を失うたびに、肌を刺すような冷水や電気ショックで意識を回復させられ、また際限の無い過酷な責めが始まる。
性器といわず、肛門と言わず、体中の穴という穴を通じて流される高圧電流の衝撃に、いつまで自分はこんなことに耐え続けて居ればいいのだろうと思った。
『……耐える必要なんて、無いんでしょう、先生? 耐えられなければ、私は壊れるんだから』
ふと私は、自分の言葉を思い出した。そうだ、耐えなければいいんだ。
何を今まで我慢していたんだろう、バカだなぁ私って……。
私の顔が笑うように歪んで、心臓が一度止まったのだと、ずいぶん後になってから、先生が教えてくれた。
*---*---*---*---*---*---*---*---*---*---*
気がつくと、私はまだベッドの上だった。一瞬何がなんだったかわからなかったけど、目が覚めたときに、目の前には最愛の人物の顔があった。
「先生……。私、壊れたの?」
私は心の奥底からこみ上げてくる嬉しさに、思わずそうつぶやいてしまったが、先生の顔が不安から驚愕に変わるのを見て、私は正気を取り戻した。
失敗だった。私は壊れなかった……。
壊れたのなら、目の前の人物が誰かもわからない筈だし、何をされたのかも覚えていない筈だ。
だが先生は直ぐに気を取り直し、身動きできないでいる裸の私に何かを注射すると、頭に何かをぺたぺたと貼り付けていった。薬が効きはじめたのか、朦朧とした意識のままの私に、先生はいくつもの質問をしていった。質問の内容すら理解できないほど混濁した頭で、「うー」とか「あー」とか答えにならない言葉を発していたような気がする。
この時のワタシの記憶は、今でも曖昧なままだ。
でも、次にワタシが正気を取り戻したときには、先生の私邸の小さな部屋のベッドに、寝かされていた。
初めて見る天井を仰ぎながら、視界に入ってきた狂おしいほどに愛しい顔を見つけ、ワタシは安堵のため息をついた。
優しく頭を撫でてくれていた先生は、ワタシが意識を取り戻したのに気がつくと、ゆっくりと低い声でおっしゃった。
「葵。君はもう、何も覚えていないし、何もする必要がない。赤ん坊みたいに笑って、食べて、好きなことをして、一日を過ごせばいい。だからもう、何も心配しなくていいんだ」
「先生……、でも、ワタシ……」
「葵、良く聞くんだ。君は生まれ変わったんだよ。だから昔のことは何一つ知らないし、思い出す必要もない。僕のそばにいる限り、もう誰にも葵に酷いことなんかさせない」
「……ほんと?」
「ああ、本当だ。だから、葵は安心していい。ゆっくりとこれからのことを考えて、そして幸せになるんだ……」
優しい笑顔と声に、ワタシはずっと望んでも得られなかった心の休まる場所に、やっと辿り着いたと思った。
「ありがとう、先生……」
そういうと、先生はワタシを強い力でぎゅっと抱きしめて、すすり泣きを始めた。
それが悲しみからではないと判ったから、息が苦しいのを我慢して、じっとしていた。
<つづく>
次の日、先生は私を別の建物の中にある、一室に連れて行った。
「先生、何が始まるの?」
何かの装置がたくさん並んだ部屋の中に置かれたベッド。
そのベッドの上で私は服を脱いで、体中に電極を貼り付けられていた。
「これはOOLを作るときに使う装置だよ、君も一度経験している」
「良く覚えていないけど。でもそれじゃ、あまり効果は無いんじゃないの? だって、一度受けているんでしょう?」
「催眠中にね。でも今度は違う。プログラム内容も変更して、君が覚醒中の状態で作動させる。装置の出力も最大にセットした」
「ふうん……」
「さ、腕を出して。ちょっと痛いけど、我慢するんだ」
電極を貼り付け終えた先生は、何かの薬液を私に注射した。
「寒いかい?」
自分でも気がつかないうちに、体が小刻みに震えていた。
「ううん……。なんだか、ちょっと怖いかなって……」
強がりを言っても始まらない。私は素直に言った。
「薬のせいだね。じゃあ、早く始めよう」
そういうと先生は、私の両手足と、腰、太ももと最後に首に拘束用の枷を手早くはめて、ベッドに繋いで拘束した。
「苦しくないかい?」
「大丈夫だけど、ちょっと恥ずかしいかな、えへへ……」
こんな風に裸を見られるのには慣れていたけれど、先生の顔が緊張に凝り固まっていたので、少しでも場を和ませたかった。
先生はちょっと顔を赤くしてから視界の外に消え、何かの作業を続けた。
「やっぱり、そういうのつけるんだ……」
再び先生が視界の中に戻ってきた時、手にはコードのついた、黒い男性器を模した淫具が握られていた。
「ごめんよ」
表情を隠したまま先生はそういって、私のアソコにローションを注入し、淫具を奥深くまで押し込んだ。もちろん後ろにも。
そして、アイマスクをされて視界が遮られると、暫くして右、直ぐに左の乳首に何かで挟まれる快感が走り、最後にクリトリスにも何かを取り付けられた。
「こういうので感じちゃうなんて、やっぱり私、変態だよね」
「この作業が終わったときには、そうでなくなっているよ」
「そうだと、いいけど……」
「葵……」
「なぁに? 先生」
「すまない……」
先生は返事を待たずに、私に口枷をはめた。
覚醒時に行われる、OOLプログラム。それは本当の地獄だった。
体中に取り付けられた電極からは、苦痛というには生易しすぎる激しい電撃が加えられ、暴れても外れないように取り付けられたイヤフォンからは、私の罪をなじる恐ろしげな呪詛の声が流されていた。
精神と肉体を同時に痛めつけられたか思うと、今度は脳が痺れるほどの快感を浴びせられた。イヤフォンからは、自分が淫らな快感に打ち震える醜い人間であることを詰る、卑猥な言葉が延々と繰り返され、虐待を自ら望みそれに感謝する言葉を強要された。
気を失うたびに、肌を刺すような冷水や電気ショックで意識を回復させられ、また際限の無い過酷な責めが始まる。
性器といわず、肛門と言わず、体中の穴という穴を通じて流される高圧電流の衝撃に、いつまで自分はこんなことに耐え続けて居ればいいのだろうと思った。
『……耐える必要なんて、無いんでしょう、先生? 耐えられなければ、私は壊れるんだから』
ふと私は、自分の言葉を思い出した。そうだ、耐えなければいいんだ。
何を今まで我慢していたんだろう、バカだなぁ私って……。
私の顔が笑うように歪んで、心臓が一度止まったのだと、ずいぶん後になってから、先生が教えてくれた。
気がつくと、私はまだベッドの上だった。一瞬何がなんだったかわからなかったけど、目が覚めたときに、目の前には最愛の人物の顔があった。
「先生……。私、壊れたの?」
私は心の奥底からこみ上げてくる嬉しさに、思わずそうつぶやいてしまったが、先生の顔が不安から驚愕に変わるのを見て、私は正気を取り戻した。
失敗だった。私は壊れなかった……。
壊れたのなら、目の前の人物が誰かもわからない筈だし、何をされたのかも覚えていない筈だ。
だが先生は直ぐに気を取り直し、身動きできないでいる裸の私に何かを注射すると、頭に何かをぺたぺたと貼り付けていった。薬が効きはじめたのか、朦朧とした意識のままの私に、先生はいくつもの質問をしていった。質問の内容すら理解できないほど混濁した頭で、「うー」とか「あー」とか答えにならない言葉を発していたような気がする。
この時のワタシの記憶は、今でも曖昧なままだ。
でも、次にワタシが正気を取り戻したときには、先生の私邸の小さな部屋のベッドに、寝かされていた。
初めて見る天井を仰ぎながら、視界に入ってきた狂おしいほどに愛しい顔を見つけ、ワタシは安堵のため息をついた。
優しく頭を撫でてくれていた先生は、ワタシが意識を取り戻したのに気がつくと、ゆっくりと低い声でおっしゃった。
「葵。君はもう、何も覚えていないし、何もする必要がない。赤ん坊みたいに笑って、食べて、好きなことをして、一日を過ごせばいい。だからもう、何も心配しなくていいんだ」
「先生……、でも、ワタシ……」
「葵、良く聞くんだ。君は生まれ変わったんだよ。だから昔のことは何一つ知らないし、思い出す必要もない。僕のそばにいる限り、もう誰にも葵に酷いことなんかさせない」
「……ほんと?」
「ああ、本当だ。だから、葵は安心していい。ゆっくりとこれからのことを考えて、そして幸せになるんだ……」
優しい笑顔と声に、ワタシはずっと望んでも得られなかった心の休まる場所に、やっと辿り着いたと思った。
「ありがとう、先生……」
そういうと、先生はワタシを強い力でぎゅっと抱きしめて、すすり泣きを始めた。
それが悲しみからではないと判ったから、息が苦しいのを我慢して、じっとしていた。
<つづく>
「カレーライス」 第三章(2) <18禁>
(2)
3日間も先生が病室を訪ねてこない日が続いた。
私は一日中、ベッドの中でじっとしていた。
何もせずに、じっとして一日を過ごす事には慣れていた。
きっとまた、飽きられて捨てられたのだろうと思った。
いつまでここにいられるだろう?
体が回復したら、また違う男に地獄へ還されるのだろうか?
それとも私が寝ているうちに、薬か何かで何も知らないままに殺されて、処分されるんじゃないだろうか?
自分では埋められない寂しさが広がっていって、今度こそ自分は何も感じなくなるか、それとも発狂してしまうかもしれないと思った。
「葵、元気にしていたかい?」
ぼんやりと転寝をしていた私は、先生の声を聞いたとたんにベッドから跳ね起きて、先生にしがみついていた。
孤独と、やがて待ち受けているかもしれない終末に、気が狂いかけていた。
先生の優しい声が、私の心に新しい“主人”であると刻み込まれ、先生の薬品交じりの体臭が、精神安定剤として強く記憶された。
「お、おい、葵……。ごめんよ、出張でしばらくこれなかったんだ」
そういいながら私の頭を撫でようとした先生の手を強引にとり、自分の性器に当てた。
先生はびっくりした顔をして、私の股間から引き剥がそうとしたが、私はありったけの力を振り絞って、阻止した。
「おねがい……先生。哀れだと思うのなら、……判ってるでしょう?」
そういうのが精一杯だった。
「本当にごめん、葵」
そして私は、初めて先生と結ばれた。
本当は、別に誰でも良かったのかもしれない。
溜め込んだ性欲を満たしてくれるのであれば、先生でなくても。
自分を殴ったり、罵ったりせずに、抱いてくれる人ならば。
私は、そうしてもらえる機会を逃さなかっただけなのだ。
先生が帰って、一人暗い病室に残された私は、心の平穏を取り戻していた。
優しく慰められながら、いたわる様にそっと重ねられた体の重み。
切ないほどに、もどかしい愛撫。
私を辱めるでも、痛めつけるでもない、優しいセックス。
子供の児戯とすらに錯覚させられるほどの交わりだったが、私は満たしてもらえた。
セックスの余韻に、私の体は不平をもらすことなく、ゆっくりと静まっていった。
だが私は、潮が引くように醒めていった自分の中に、何かが残されていることに気が付いた。
炭火がなかなか消えないように、私の躰は静かにじんわりと熾っていた。
それが何なのかはわからなかったが、先生の顔が頭の隅を掠めると、その小さな芽生えはどんどんと成長していった。
先生の顔、先生の瞳、先生の声、先生の腕、先生の体温、先生の……。
思い出すたびに、その心の中の“何か”は大樹へと成長し、その幹の中に空洞が生じた。
私の心はそれを埋めようと、先生との記憶を辿り始める。
先生と初めて顔を合わせた時のこと。先生を罵った時のこと。先生が優しく語りかけてくれた時のこと。先生が優しく抱きしめてくれた時のこと。先生がカレーライスを用意してくれると言ってくれた時のこと。先生が三日も来てくれなかった時のこと。先生と初めてセックスをした事。
でも、まだ足りない……。
そうだ、明日も先生は来てくれる。
帰りがけに、先生は私の頭を撫でながら、そう言い残して行ったのだから。
早く明日にならないかなぁ……。
そして私は、気がついてしまった。
自分がまだ、生きていることを。
私はなんて駄目なんだろう。
……死にたい。
先生のために、私は死にたい。
*---*---*---*---*---*---*---*---*---*---*
日を置かずに私を見舞いに来てくれる先生に、私は決まって尋ねた。
「ねぇ、先生。先生はいつ、私を殺してくれるの?」
身繕いをしていた先生は、悲しそうな顔をした。
でも私が死ねば、先生はもうこんなことを続けなくても済む。
元犯罪者で、服従し虐げられ続けながらも、男から与えられるセックスだけを、唯一の悦びとしている醜い躰。
死ぬことだけが唯一の希望の、こんなゴミ屑以下の私なんかに、煩わされることも無くなる。
私の死が、最後に情けをかけて貰った先生にできる、唯一の奉仕だと思うと、悲しかった。
けれど、それが一番いいとさえ思っていた。
そしてできることなら、先生に私を殺して欲しかった。
「何度も言っているように、僕は君を生かすために、君を診察しているんだ」
何かの機械を操作しながら、先生は頭を振りながらいった。
「先生は、私をどうしたいの? 私の傷が癒えたら、また私を知らないどこかへやって、地獄のような生活を送らせたいの?」
「そんなことはさせない。だが、どうすればそれを避けられるか、僕にもまだ答えが見つからないんだ」
「私が自分で死ぬこともできないのを、先生は知っているでしょう?」
私は一度だけ、食事のときに出される食器を使って、自殺できないかを試したことがあった。
でも、プラスチックのフォークを窓のサッシで研いで、喉につきたてようとしたけれど、見えない何かがそれを阻み、自分に何かの暗示がかけられていることを悟った。
「唯一今考えられる方法は、君の人格を破壊することだ。君が自分が誰であったかも判らなくなってしまえば、もう君を罪に問う者もいないだろう。実際……いや、なんでもない」
「私が、私でなくなればいいってこと?」
「そうだ。だがそれでは、君を生かすことにはならない」
「ねぇ、先生。それなら私を壊してよ。自分で死ぬこともできない私を可哀相だと思うのならば、先生の手で私を壊して。それならば私、納得できる。先生に私を壊してほしいの!」
「だが、僕には……」
「いいえ、ほかの誰であっても駄目なの。きっとまた同じこと。だから先生が私を壊して!」
「君は人格が破壊されるということが、どういうことか判っているのか? 今まで君が受けてきたのとは違う、もっと酷いことだ。ショックで本当に死んでしまうかもしれない。それに耐えられるのか?」
自分が受けてきた以上に酷いことなんて、この世に存在するとは思えなかった。
でも、今の自分には罪の記憶があり、そのために堕とされた地獄のような日々も、はっきりと心と体に刻み込まれている。
私は傷痕だらけの自分の体を見つめ、シーツをぎゅっと掴んで言った。
「……耐える必要なんて、無いんでしょう、先生? 耐えられなければ、私は壊れるんだから」
とにかく今の生活からは、なんとしても逃れたかった。
私が自嘲気味に笑顔を見せると、先生ははっとした顔をして、そして何かを決意したように私を見つめて言った。
「そうだな……。わかったよ、葵。だが、本当にいいのか?」
「もちろん。私を殺せないのなら、せめて壊して。でも、ひとつだけお願い。もし私が死なずに、生きたまま壊れて目が覚めたとき、最初に目にするのは先生の顔であって欲しいの」
「わかった。約束しよう」
この時はまだ、私の中では完全に先生への敵意が消えたわけじゃなかった。
私にこんな運命を背負わせた、その責任の一端でもある先生に、少しでも罪の意識を植え付けたかったのだ。
だから他の誰でもない、自らの罪の意識を感じていた先生に追い討ちをかけることで、私のささやかな復讐が果たせると思った。
それで壊れてしまうにしろ、死んでしまうにしろ、本望だった。
<つづく>
3日間も先生が病室を訪ねてこない日が続いた。
私は一日中、ベッドの中でじっとしていた。
何もせずに、じっとして一日を過ごす事には慣れていた。
きっとまた、飽きられて捨てられたのだろうと思った。
いつまでここにいられるだろう?
体が回復したら、また違う男に地獄へ還されるのだろうか?
それとも私が寝ているうちに、薬か何かで何も知らないままに殺されて、処分されるんじゃないだろうか?
自分では埋められない寂しさが広がっていって、今度こそ自分は何も感じなくなるか、それとも発狂してしまうかもしれないと思った。
「葵、元気にしていたかい?」
ぼんやりと転寝をしていた私は、先生の声を聞いたとたんにベッドから跳ね起きて、先生にしがみついていた。
孤独と、やがて待ち受けているかもしれない終末に、気が狂いかけていた。
先生の優しい声が、私の心に新しい“主人”であると刻み込まれ、先生の薬品交じりの体臭が、精神安定剤として強く記憶された。
「お、おい、葵……。ごめんよ、出張でしばらくこれなかったんだ」
そういいながら私の頭を撫でようとした先生の手を強引にとり、自分の性器に当てた。
先生はびっくりした顔をして、私の股間から引き剥がそうとしたが、私はありったけの力を振り絞って、阻止した。
「おねがい……先生。哀れだと思うのなら、……判ってるでしょう?」
そういうのが精一杯だった。
「本当にごめん、葵」
そして私は、初めて先生と結ばれた。
本当は、別に誰でも良かったのかもしれない。
溜め込んだ性欲を満たしてくれるのであれば、先生でなくても。
自分を殴ったり、罵ったりせずに、抱いてくれる人ならば。
私は、そうしてもらえる機会を逃さなかっただけなのだ。
先生が帰って、一人暗い病室に残された私は、心の平穏を取り戻していた。
優しく慰められながら、いたわる様にそっと重ねられた体の重み。
切ないほどに、もどかしい愛撫。
私を辱めるでも、痛めつけるでもない、優しいセックス。
子供の児戯とすらに錯覚させられるほどの交わりだったが、私は満たしてもらえた。
セックスの余韻に、私の体は不平をもらすことなく、ゆっくりと静まっていった。
だが私は、潮が引くように醒めていった自分の中に、何かが残されていることに気が付いた。
炭火がなかなか消えないように、私の躰は静かにじんわりと熾っていた。
それが何なのかはわからなかったが、先生の顔が頭の隅を掠めると、その小さな芽生えはどんどんと成長していった。
先生の顔、先生の瞳、先生の声、先生の腕、先生の体温、先生の……。
思い出すたびに、その心の中の“何か”は大樹へと成長し、その幹の中に空洞が生じた。
私の心はそれを埋めようと、先生との記憶を辿り始める。
先生と初めて顔を合わせた時のこと。先生を罵った時のこと。先生が優しく語りかけてくれた時のこと。先生が優しく抱きしめてくれた時のこと。先生がカレーライスを用意してくれると言ってくれた時のこと。先生が三日も来てくれなかった時のこと。先生と初めてセックスをした事。
でも、まだ足りない……。
そうだ、明日も先生は来てくれる。
帰りがけに、先生は私の頭を撫でながら、そう言い残して行ったのだから。
早く明日にならないかなぁ……。
そして私は、気がついてしまった。
自分がまだ、生きていることを。
私はなんて駄目なんだろう。
……死にたい。
先生のために、私は死にたい。
日を置かずに私を見舞いに来てくれる先生に、私は決まって尋ねた。
「ねぇ、先生。先生はいつ、私を殺してくれるの?」
身繕いをしていた先生は、悲しそうな顔をした。
でも私が死ねば、先生はもうこんなことを続けなくても済む。
元犯罪者で、服従し虐げられ続けながらも、男から与えられるセックスだけを、唯一の悦びとしている醜い躰。
死ぬことだけが唯一の希望の、こんなゴミ屑以下の私なんかに、煩わされることも無くなる。
私の死が、最後に情けをかけて貰った先生にできる、唯一の奉仕だと思うと、悲しかった。
けれど、それが一番いいとさえ思っていた。
そしてできることなら、先生に私を殺して欲しかった。
「何度も言っているように、僕は君を生かすために、君を診察しているんだ」
何かの機械を操作しながら、先生は頭を振りながらいった。
「先生は、私をどうしたいの? 私の傷が癒えたら、また私を知らないどこかへやって、地獄のような生活を送らせたいの?」
「そんなことはさせない。だが、どうすればそれを避けられるか、僕にもまだ答えが見つからないんだ」
「私が自分で死ぬこともできないのを、先生は知っているでしょう?」
私は一度だけ、食事のときに出される食器を使って、自殺できないかを試したことがあった。
でも、プラスチックのフォークを窓のサッシで研いで、喉につきたてようとしたけれど、見えない何かがそれを阻み、自分に何かの暗示がかけられていることを悟った。
「唯一今考えられる方法は、君の人格を破壊することだ。君が自分が誰であったかも判らなくなってしまえば、もう君を罪に問う者もいないだろう。実際……いや、なんでもない」
「私が、私でなくなればいいってこと?」
「そうだ。だがそれでは、君を生かすことにはならない」
「ねぇ、先生。それなら私を壊してよ。自分で死ぬこともできない私を可哀相だと思うのならば、先生の手で私を壊して。それならば私、納得できる。先生に私を壊してほしいの!」
「だが、僕には……」
「いいえ、ほかの誰であっても駄目なの。きっとまた同じこと。だから先生が私を壊して!」
「君は人格が破壊されるということが、どういうことか判っているのか? 今まで君が受けてきたのとは違う、もっと酷いことだ。ショックで本当に死んでしまうかもしれない。それに耐えられるのか?」
自分が受けてきた以上に酷いことなんて、この世に存在するとは思えなかった。
でも、今の自分には罪の記憶があり、そのために堕とされた地獄のような日々も、はっきりと心と体に刻み込まれている。
私は傷痕だらけの自分の体を見つめ、シーツをぎゅっと掴んで言った。
「……耐える必要なんて、無いんでしょう、先生? 耐えられなければ、私は壊れるんだから」
とにかく今の生活からは、なんとしても逃れたかった。
私が自嘲気味に笑顔を見せると、先生ははっとした顔をして、そして何かを決意したように私を見つめて言った。
「そうだな……。わかったよ、葵。だが、本当にいいのか?」
「もちろん。私を殺せないのなら、せめて壊して。でも、ひとつだけお願い。もし私が死なずに、生きたまま壊れて目が覚めたとき、最初に目にするのは先生の顔であって欲しいの」
「わかった。約束しよう」
この時はまだ、私の中では完全に先生への敵意が消えたわけじゃなかった。
私にこんな運命を背負わせた、その責任の一端でもある先生に、少しでも罪の意識を植え付けたかったのだ。
だから他の誰でもない、自らの罪の意識を感じていた先生に追い討ちをかけることで、私のささやかな復讐が果たせると思った。
それで壊れてしまうにしろ、死んでしまうにしろ、本望だった。
<つづく>
「カレーライス」 第三章(1) <18禁>
作.ダークアリス キャライラスト&挿絵:キリセ
第3章 葵:破壊
-----------------------------------------------------------
(1)
「誰? 私を殺しに来てくれたの?」
うつろに見上げていた天井の一角に、人の気配を感じて、私はそう呟いた。
「僕は君を、生かすために来たんだ」
「生かす? 冗談は止めて。私、死にたいの。それ以外は何も望んでいない」
「誰も君を殺すことなんかできない。それに、僕はこれでも一応医者なんだ。君の体のことも、どんな仕打ちを受けてきたかも知っている。だから余計に、君を殺せない」
「あなたが、私を地獄に堕としたの?」
「君をこんな酷い目にさせたのは僕ではないが……、確かに僕にも罪はあるかもしれない。いや、ある。君の体を作ったのは、僕だからだ」
「あなたが?」
私はわずかに動かせる頭をめぐらせ、声の主を確かめた。眼鏡をかけた中年の男だった。見覚えがあるような、無いような……。
「君の体を作り変え、瀕死の君を何度も蘇生させていたのは僕だ」
「なぜ、私をこんな体にしたの?」
「ごく普通のGID患者。そう説明を受けて、新しい方法の性別再判定術を行ったのが、最初に君を診た時の事だった。それがこんなことのために利用されているなどとは、夢にも思わなかった」
「あなたは私が、連続強姦殺人の元犯罪者だったって、知らなかったっていうの?」
「さっき知った。君が何度も瀕死の状態で、体に酷い傷を負って運ばれてくるのを不審に思って、ここの所長を問い詰めたんだ。いつも君を運んで来る男は、ノイローゼによる自傷行為だとか言っていたが、明らかに不自然な点が多かった」
「右腕が無かったり、膝から下が無かったりしたこともあったのよ。そんなことが自分にできる人が、いると思っていたの?」
「“事故にあって”という説明だった。それにプライバシー保護のためという名目で、君にはマスクが被せられていることが多かった」
「そんなこと、覚えていないわ」
「多分、薬で眠らされていたんだと思う。でも、僕は君がこんな酷い目に合わされていたことは知らなかった。差別主義者に酷い迫害を受けた患者の、再生術を手伝っているのだとばかり……」
「私は死刑判決を受けた、犯罪者だったのよ」
「ああ、それもさっき聞いたよ」
「そう。なら判ったでしょう? 今すぐ殺してよ。もう私を生き返らせないで!」
「そんな事は僕にはできない。君が犯罪者であると言う記憶を持ったままなら、尚更だ。君が何も覚えていなければ、僕が何かしらの口実を付けて、“実験体”として君を引き取ることもできたかもしれないが……」
「実験体? そうね、私は人なんかじゃないものね」
「いや、それは口実だ! 僕は君を……」
「出てって! 私を殺してくれないのなら出て行って! 出てけっ!」
「また、来るよ……」
その後も、先生は毎日、何度も私の病室を訪れた。
でも、私のささやかな希望すら叶えてくれない、役立たずの先生に暴言を吐き、何度でも追い返した。
けれど、私を気遣う先生が病室を訪ねてきてくれている間は、レイプされることも殴られることも無かった。
そして私は、情けないことに、先生が病室を訪ねてくるのを、心待ちにするようになっていた。
優しい言葉をかけられ続け、陵辱でない抱擁を受けているうちに、私の心はまた作りかえられようとしていた。
決してもう自傷行為はしないと約束させられ、引き換えに先生は私の拘束衣を解いてくれた。
頭を撫でられ、低い声で諭すように話しかけられると、先生の言うことだけは、聞かなくてはいけないような感じがした。
忘れかけていた、自分の手の感触に戸惑いすら感じながら、私は何となく呟いた。

「カレーライスが、食べたい……」
「そうか、わかった。用意させるよ。だから早く元気になるんだ」
先生はにっこりと笑って、そう言ってくれた。
ずっと点滴だけで生かされていたから、あまり食欲は感じてはいなかった。
でも、毎日を怯えながら暮らしていたあの牢屋で、“いつかまた本物のカレーが食べたい”と、思い続けていたからなのかもしれない。
本物の香辛料の香りを嗅いで、暖かくて白い、やわらかなご飯を口にしたかった。
その日の夕方、太った機嫌の悪そうな看護婦が持ってきたのは、確かにカレーライスだった。
けれど恐らく、その看護婦がやったのだろう。ぐちゃぐちゃにかき混ぜられていた。
ドレッシングだけが底に僅かに残った空の小皿を見ると、添え付けのサラダも混ぜられているらしかった。
「本当なら、お前のようなゴミが口にできるような物じゃないんだから!」
太った看護婦は鼻を鳴らしながら、吐き捨てるように言って、サイドテーブルの上に投げ出すように置いていった。
それでも、あの独房で食べていたものと違って、本物のカレーの匂いと味がした。
あの先生が用意してくれたものだからと思うと、なぜかとてもおいしく感じた。
次の日もカレーが出された。あの太った看護婦は私の目の前でトレーの上に載っているものを全部ぶちまけて、ぐちゃぐちゃにかき混ぜたものを私の鼻先に突き出した。
私は言った。
「あなた、レイプされたことある?」
「なに?」
「石をぶつけられたり、殺されかけたりしたことがある?」
「無いわよ。私はそんなことをされる理由なんか無いもの。あんたなんかと違ってね!」
私は静かな怒りを感じていた。“先生のカレー”を汚されたことに、腹が立っていた。
「そうよ! 私は罪を犯し、そのせいでこんな目にあっている。でも、私があなたに何をしたっていうの? あなたがやっていることは、自分に無関係な他人をレイプしたり暴力をふるったりしても、当然だと思っている、私のような最低人間と同じことよ!」
私がそう叫ぶと、看護婦は投げつけるようにして私にトレーを押し付けて、出て行った。
その次の日。昨日までとは別の看護婦が、食事を運んできた。
また同じカレーライスだったけど、混ぜられてはいなかった。
やせ気味の看護婦は一言も発せずに、食事の載ったトレーを置いていった。
私は勝ったと思った。
そして自分で、トレーに乗っていたものを全部お皿にぶちまけて、ぐちゃぐちゃにかき混ぜて食べた。
<つづく>
第3章 葵:破壊
-----------------------------------------------------------
(1)
「誰? 私を殺しに来てくれたの?」
うつろに見上げていた天井の一角に、人の気配を感じて、私はそう呟いた。
「僕は君を、生かすために来たんだ」
「生かす? 冗談は止めて。私、死にたいの。それ以外は何も望んでいない」
「誰も君を殺すことなんかできない。それに、僕はこれでも一応医者なんだ。君の体のことも、どんな仕打ちを受けてきたかも知っている。だから余計に、君を殺せない」
「あなたが、私を地獄に堕としたの?」
「君をこんな酷い目にさせたのは僕ではないが……、確かに僕にも罪はあるかもしれない。いや、ある。君の体を作ったのは、僕だからだ」
「あなたが?」
私はわずかに動かせる頭をめぐらせ、声の主を確かめた。眼鏡をかけた中年の男だった。見覚えがあるような、無いような……。
「君の体を作り変え、瀕死の君を何度も蘇生させていたのは僕だ」
「なぜ、私をこんな体にしたの?」
「ごく普通のGID患者。そう説明を受けて、新しい方法の性別再判定術を行ったのが、最初に君を診た時の事だった。それがこんなことのために利用されているなどとは、夢にも思わなかった」
「あなたは私が、連続強姦殺人の元犯罪者だったって、知らなかったっていうの?」
「さっき知った。君が何度も瀕死の状態で、体に酷い傷を負って運ばれてくるのを不審に思って、ここの所長を問い詰めたんだ。いつも君を運んで来る男は、ノイローゼによる自傷行為だとか言っていたが、明らかに不自然な点が多かった」
「右腕が無かったり、膝から下が無かったりしたこともあったのよ。そんなことが自分にできる人が、いると思っていたの?」
「“事故にあって”という説明だった。それにプライバシー保護のためという名目で、君にはマスクが被せられていることが多かった」
「そんなこと、覚えていないわ」
「多分、薬で眠らされていたんだと思う。でも、僕は君がこんな酷い目に合わされていたことは知らなかった。差別主義者に酷い迫害を受けた患者の、再生術を手伝っているのだとばかり……」
「私は死刑判決を受けた、犯罪者だったのよ」
「ああ、それもさっき聞いたよ」
「そう。なら判ったでしょう? 今すぐ殺してよ。もう私を生き返らせないで!」
「そんな事は僕にはできない。君が犯罪者であると言う記憶を持ったままなら、尚更だ。君が何も覚えていなければ、僕が何かしらの口実を付けて、“実験体”として君を引き取ることもできたかもしれないが……」
「実験体? そうね、私は人なんかじゃないものね」
「いや、それは口実だ! 僕は君を……」
「出てって! 私を殺してくれないのなら出て行って! 出てけっ!」
「また、来るよ……」
その後も、先生は毎日、何度も私の病室を訪れた。
でも、私のささやかな希望すら叶えてくれない、役立たずの先生に暴言を吐き、何度でも追い返した。
けれど、私を気遣う先生が病室を訪ねてきてくれている間は、レイプされることも殴られることも無かった。
そして私は、情けないことに、先生が病室を訪ねてくるのを、心待ちにするようになっていた。
優しい言葉をかけられ続け、陵辱でない抱擁を受けているうちに、私の心はまた作りかえられようとしていた。
決してもう自傷行為はしないと約束させられ、引き換えに先生は私の拘束衣を解いてくれた。
頭を撫でられ、低い声で諭すように話しかけられると、先生の言うことだけは、聞かなくてはいけないような感じがした。
忘れかけていた、自分の手の感触に戸惑いすら感じながら、私は何となく呟いた。

「カレーライスが、食べたい……」
「そうか、わかった。用意させるよ。だから早く元気になるんだ」
先生はにっこりと笑って、そう言ってくれた。
ずっと点滴だけで生かされていたから、あまり食欲は感じてはいなかった。
でも、毎日を怯えながら暮らしていたあの牢屋で、“いつかまた本物のカレーが食べたい”と、思い続けていたからなのかもしれない。
本物の香辛料の香りを嗅いで、暖かくて白い、やわらかなご飯を口にしたかった。
その日の夕方、太った機嫌の悪そうな看護婦が持ってきたのは、確かにカレーライスだった。
けれど恐らく、その看護婦がやったのだろう。ぐちゃぐちゃにかき混ぜられていた。
ドレッシングだけが底に僅かに残った空の小皿を見ると、添え付けのサラダも混ぜられているらしかった。
「本当なら、お前のようなゴミが口にできるような物じゃないんだから!」
太った看護婦は鼻を鳴らしながら、吐き捨てるように言って、サイドテーブルの上に投げ出すように置いていった。
それでも、あの独房で食べていたものと違って、本物のカレーの匂いと味がした。
あの先生が用意してくれたものだからと思うと、なぜかとてもおいしく感じた。
次の日もカレーが出された。あの太った看護婦は私の目の前でトレーの上に載っているものを全部ぶちまけて、ぐちゃぐちゃにかき混ぜたものを私の鼻先に突き出した。
私は言った。
「あなた、レイプされたことある?」
「なに?」
「石をぶつけられたり、殺されかけたりしたことがある?」
「無いわよ。私はそんなことをされる理由なんか無いもの。あんたなんかと違ってね!」
私は静かな怒りを感じていた。“先生のカレー”を汚されたことに、腹が立っていた。
「そうよ! 私は罪を犯し、そのせいでこんな目にあっている。でも、私があなたに何をしたっていうの? あなたがやっていることは、自分に無関係な他人をレイプしたり暴力をふるったりしても、当然だと思っている、私のような最低人間と同じことよ!」
私がそう叫ぶと、看護婦は投げつけるようにして私にトレーを押し付けて、出て行った。
その次の日。昨日までとは別の看護婦が、食事を運んできた。
また同じカレーライスだったけど、混ぜられてはいなかった。
やせ気味の看護婦は一言も発せずに、食事の載ったトレーを置いていった。
私は勝ったと思った。
そして自分で、トレーに乗っていたものを全部お皿にぶちまけて、ぐちゃぐちゃにかき混ぜて食べた。
<つづく>
「カレーライス」 第二章(12) <18禁>
(12)
バシッ!
男の持つムチが全裸の躰に打ち下ろされる。
音は派手だけれど、たいした痛みは感じない。
男が使っているのは、ひらひらの黒いリボンが房になっているような“バラムチ”とかいうものだ。
家畜を追いやるときに使うような、一本の革のムチだと、私の体が本当に壊れてしまうからと言う理由で、最近はこればかりだった。
男は私以外にもこれを使ったことがあるのか、そのムチ裁きは絶妙だった。
いつも痛いのは最初のうちだけ。
絶妙な力加減で打ち鳴らされるムチ。
私の裸身が立てる悲鳴の音。
股間の二つの穴を掻き回すバイブが生み出す快感。
時折男が口にする、私を辱める陵辱の言葉。
それらが渾然一体となり、時に打ち寄せる波のような快感、あるいは激しい雷のような痛み、そして引き潮のような脱力感が、間断なく私を襲う。
その度毎に私は、嬌声と悲鳴と溜息を漏らす。
男は私の口から漏れる音や、裸体が打ち鳴らされる音に、満足げに笑う。
“まるで楽器を奏でているようだ”と。
おそらくその楽譜のタイトルには、こう書かれているのだろう。
『マゾ狂想曲』
そう想像しただけで、躰が新たな期待に打ち震える。
“次はどんな曲だろうか?”と。
*---*---*---*---*---*---*---*---*---*---*
夜が来る。私を痛めつけ辱める苦悶の夜が。
いつものように、男が私を牢から連れ出す。
裸のまま、後ろ手に縛られ、首枷につけられた鎖を引っ張られ、処刑場に引っ立てられる。
そしていつものように両手を高く上げるように天井から吊るされ、脚は肩幅よりも大きく広げられて床に固定される。
そして無抵抗の生贄をいたぶる宴が始まる。
バシッ! パシィッ! ピシュッ! バシッッ!
続けざまに男が振るうムチ。
アザとミミズ腫が目立ち始めた裸の体に、容赦無く傷痕が重ねられていく。
けれど、マゾ奴隷に堕とされた私は、この程度の責めにもう慣れてしまっていた。
いつも同じパターンでは、マゾの心に応える刺激が無い。
「下手糞。そんなんじゃちっとも感じないわ」
男の手が止まり、私のあごを持ち上げ、顔をくっつけるほどに近づけた。
「楽しいことをいうじゃないか、ならばもっとだ!」
男は私の顔につばを吐きかけてから、洗濯バサミをポケットから取り出すと、固くとがった両方の乳首と、すっかり皮をめくりあげて飛び出していた、ツヤツヤのクリトリスを挟んだ。
苦痛と快感の織り交ざった鋭い刺激に、思わず顔を歪めた。
「じゃあいくぞ。気を失うなよ」
バシンッ!
激しく打ちのめす様に男は渾身の力で、ムチを振り下ろした。
激痛とともに、敏感な尖りを戒めていた洗濯バサミが、三つとも弾け飛んだ。
「うぐぅ、はぁっ……」
目の前に火花が飛んで息が止まり、頭の中が真っ白になった。
同時にゆっくりと、膣に入っていたバイブレータが抜け落ちた。
生暖かいものが股間からだらしなく垂れ流され、すえた様な悪臭が鼻を突いた。
震えながらやっとの思いで顔を上げると、男の顔はかつてないほどの歓喜に満ちていた。
「気を失わなかったのだけは褒めてやろう。だが、それも何回持つかな?」
男は抜け落ちたバイブレータを拾い上げると、再び私の膣にねじ込み、ポケットからは新しい洗濯バサミを、乳首と言わず、クリトリスと言わず、全身のいたるところを挟んでいった。
そして、ぞっとするような甲高い笑い声とともに、今度は太い一本ムチを私に振り下ろした。
いくつもの洗濯バサミが弾け、同時に私の体の皮膚が裂けて、血が飛び散るのをぼんやりと眺めながら、私の記憶はそこで途切れた。
*---*---*---*---*---*---*---*---*---*---*
あれほど美しかった細い白磁の体も、紫色のアザとミミズ腫が作る赤黒いまだら模様で埋められ、皮膚が裂けた生傷が無数にちりばめられていた。
艶のあった黒髪も白髪の方が多くなり、髪質はバサバサになっていた。
そんな状態にされながらも、快感を求めようとする躰の要求は際限がなく、どんな苦痛も辱めも、快感に塗り替えていった。
そして、男が私に飽き始めた頃、私の体は感染症を発症し、長く続く微熱と、時折の高熱にうなされるようになった。
それでも体の疼きは衰えず、男に抱かれない寂しさを紛らわす為に、性具で自らを慰める毎日だった。
そんな私に、利用価値はもうなくなったと判断されたのか、窓も無い薄暗い牢屋に閉じ込められ、ろくな治療も受けずに放置された。
死なない程度に、毎日食事と抗生物質だけは与えられていた。
食事……。果たしてそれが食事に値するかと問われれば、NOと答えるしかない酷い代物だった。
それはカレーライスに良く似ていたが、違うものだった。
残飯を寄せ集めてどろどろに煮込み、得体の知れなくなったものに味をつけるために、安物の香辛料と唐辛子を粉にしたものを混ぜただけの代物。それを冷えて硬くなったまだら模様の冷や飯にかけたものだった。
看守はそれを“カレー”などと呼んでいたが、カレーなどとは程遠い、ただの残飯だった。それでも飢えをしのぐには、それを口にするしかなかった。
はじめの何回かは、あまりのまずさに口にしたとたん吐き出してしまっていた。でも他に無ければ、それを食べるしかなかった。
残せばそれは、看守が私を殴る口実になる。
食べ残さなくても、看守の機嫌が悪ければ、殴られることには変わりなかったけれど。
数日もすると、胃ごと吐き出したくなるような不味さにも、内臓が焼け付くような食後感にも、いつの間にか慣れていた。毎回味付けが変わるのは、もちろん給仕が味見なんかしていないからだろう。
薄暗い独房に閉じ込められ、冷たいコンクリートの床に直に座って食べながら、本当のカレーをいつかまた食べたいと、そればかり考えていた。
そんな生活を何日……いや、何ヶ月続けただろう。壊れたバイブで子宮口を小突く自慰にも飽きていた私は、自傷行為を覚えていた。食事のときに出されるスプーンで自分の体を突付きまわすのだ。
最初は腕、次に脚、そして性器。皮膚が赤くなる程度で満足していた疼きも、やがて血が噴出すまでつつかないと、満足できなくなっていた。
*---*---*---*---*---*---*---*---*---*---*
いつの間にか拘束衣を着せられていて、身動きのままならないまま、ベッドに寝かされていた。
点滴で流される薬液の効果なのか、正気を取り戻し、自分が壊れかけたことを自覚した。
自らを破壊する行為を思い出し、軽い恐怖を感じたが、なぜそのまま壊れてしまわなかったのかと、落胆した。
身動き一つできないまま放置されたら、気が狂ってしまうと訴えたら、膣と肛門に硬い棒を押し込まれた。
それだけでも苦痛だったが、その棒は一定時間ごとに動いて、電撃を私に浴びせた。
この終わりのない拷問に、私は心の奥底に押し込めていた事を、やっと思い出した。
「そうだ。私、死刑囚だったんだ。誰か、私を殺してくれないかなぁ……」
<つづく>
バシッ!
男の持つムチが全裸の躰に打ち下ろされる。
音は派手だけれど、たいした痛みは感じない。
男が使っているのは、ひらひらの黒いリボンが房になっているような“バラムチ”とかいうものだ。
家畜を追いやるときに使うような、一本の革のムチだと、私の体が本当に壊れてしまうからと言う理由で、最近はこればかりだった。
男は私以外にもこれを使ったことがあるのか、そのムチ裁きは絶妙だった。
いつも痛いのは最初のうちだけ。
絶妙な力加減で打ち鳴らされるムチ。
私の裸身が立てる悲鳴の音。
股間の二つの穴を掻き回すバイブが生み出す快感。
時折男が口にする、私を辱める陵辱の言葉。
それらが渾然一体となり、時に打ち寄せる波のような快感、あるいは激しい雷のような痛み、そして引き潮のような脱力感が、間断なく私を襲う。
その度毎に私は、嬌声と悲鳴と溜息を漏らす。
男は私の口から漏れる音や、裸体が打ち鳴らされる音に、満足げに笑う。
“まるで楽器を奏でているようだ”と。
おそらくその楽譜のタイトルには、こう書かれているのだろう。
『マゾ狂想曲』
そう想像しただけで、躰が新たな期待に打ち震える。
“次はどんな曲だろうか?”と。
夜が来る。私を痛めつけ辱める苦悶の夜が。
いつものように、男が私を牢から連れ出す。
裸のまま、後ろ手に縛られ、首枷につけられた鎖を引っ張られ、処刑場に引っ立てられる。
そしていつものように両手を高く上げるように天井から吊るされ、脚は肩幅よりも大きく広げられて床に固定される。
そして無抵抗の生贄をいたぶる宴が始まる。
バシッ! パシィッ! ピシュッ! バシッッ!
続けざまに男が振るうムチ。
アザとミミズ腫が目立ち始めた裸の体に、容赦無く傷痕が重ねられていく。
けれど、マゾ奴隷に堕とされた私は、この程度の責めにもう慣れてしまっていた。
いつも同じパターンでは、マゾの心に応える刺激が無い。
「下手糞。そんなんじゃちっとも感じないわ」
男の手が止まり、私のあごを持ち上げ、顔をくっつけるほどに近づけた。
「楽しいことをいうじゃないか、ならばもっとだ!」
男は私の顔につばを吐きかけてから、洗濯バサミをポケットから取り出すと、固くとがった両方の乳首と、すっかり皮をめくりあげて飛び出していた、ツヤツヤのクリトリスを挟んだ。
苦痛と快感の織り交ざった鋭い刺激に、思わず顔を歪めた。
「じゃあいくぞ。気を失うなよ」
バシンッ!
激しく打ちのめす様に男は渾身の力で、ムチを振り下ろした。
激痛とともに、敏感な尖りを戒めていた洗濯バサミが、三つとも弾け飛んだ。
「うぐぅ、はぁっ……」
目の前に火花が飛んで息が止まり、頭の中が真っ白になった。
同時にゆっくりと、膣に入っていたバイブレータが抜け落ちた。
生暖かいものが股間からだらしなく垂れ流され、すえた様な悪臭が鼻を突いた。
震えながらやっとの思いで顔を上げると、男の顔はかつてないほどの歓喜に満ちていた。
「気を失わなかったのだけは褒めてやろう。だが、それも何回持つかな?」
男は抜け落ちたバイブレータを拾い上げると、再び私の膣にねじ込み、ポケットからは新しい洗濯バサミを、乳首と言わず、クリトリスと言わず、全身のいたるところを挟んでいった。
そして、ぞっとするような甲高い笑い声とともに、今度は太い一本ムチを私に振り下ろした。
いくつもの洗濯バサミが弾け、同時に私の体の皮膚が裂けて、血が飛び散るのをぼんやりと眺めながら、私の記憶はそこで途切れた。
あれほど美しかった細い白磁の体も、紫色のアザとミミズ腫が作る赤黒いまだら模様で埋められ、皮膚が裂けた生傷が無数にちりばめられていた。
艶のあった黒髪も白髪の方が多くなり、髪質はバサバサになっていた。
そんな状態にされながらも、快感を求めようとする躰の要求は際限がなく、どんな苦痛も辱めも、快感に塗り替えていった。
そして、男が私に飽き始めた頃、私の体は感染症を発症し、長く続く微熱と、時折の高熱にうなされるようになった。
それでも体の疼きは衰えず、男に抱かれない寂しさを紛らわす為に、性具で自らを慰める毎日だった。
そんな私に、利用価値はもうなくなったと判断されたのか、窓も無い薄暗い牢屋に閉じ込められ、ろくな治療も受けずに放置された。
死なない程度に、毎日食事と抗生物質だけは与えられていた。
食事……。果たしてそれが食事に値するかと問われれば、NOと答えるしかない酷い代物だった。
それはカレーライスに良く似ていたが、違うものだった。
残飯を寄せ集めてどろどろに煮込み、得体の知れなくなったものに味をつけるために、安物の香辛料と唐辛子を粉にしたものを混ぜただけの代物。それを冷えて硬くなったまだら模様の冷や飯にかけたものだった。
看守はそれを“カレー”などと呼んでいたが、カレーなどとは程遠い、ただの残飯だった。それでも飢えをしのぐには、それを口にするしかなかった。
はじめの何回かは、あまりのまずさに口にしたとたん吐き出してしまっていた。でも他に無ければ、それを食べるしかなかった。
残せばそれは、看守が私を殴る口実になる。
食べ残さなくても、看守の機嫌が悪ければ、殴られることには変わりなかったけれど。
数日もすると、胃ごと吐き出したくなるような不味さにも、内臓が焼け付くような食後感にも、いつの間にか慣れていた。毎回味付けが変わるのは、もちろん給仕が味見なんかしていないからだろう。
薄暗い独房に閉じ込められ、冷たいコンクリートの床に直に座って食べながら、本当のカレーをいつかまた食べたいと、そればかり考えていた。
そんな生活を何日……いや、何ヶ月続けただろう。壊れたバイブで子宮口を小突く自慰にも飽きていた私は、自傷行為を覚えていた。食事のときに出されるスプーンで自分の体を突付きまわすのだ。
最初は腕、次に脚、そして性器。皮膚が赤くなる程度で満足していた疼きも、やがて血が噴出すまでつつかないと、満足できなくなっていた。
いつの間にか拘束衣を着せられていて、身動きのままならないまま、ベッドに寝かされていた。
点滴で流される薬液の効果なのか、正気を取り戻し、自分が壊れかけたことを自覚した。
自らを破壊する行為を思い出し、軽い恐怖を感じたが、なぜそのまま壊れてしまわなかったのかと、落胆した。
身動き一つできないまま放置されたら、気が狂ってしまうと訴えたら、膣と肛門に硬い棒を押し込まれた。
それだけでも苦痛だったが、その棒は一定時間ごとに動いて、電撃を私に浴びせた。
この終わりのない拷問に、私は心の奥底に押し込めていた事を、やっと思い出した。
「そうだ。私、死刑囚だったんだ。誰か、私を殺してくれないかなぁ……」
<つづく>
「カレーライス」 第二章(11) <18禁>
(11)
私は両方の手首に幅広の枷を嵌められて、天井から下がっていた鎖に頭の上でつながれていた。
足首にも枷を嵌めた上で長い棒を取り付けられ、肩幅よりも広く開くようにされた。
太ももには食い込むように細い革のベルトが巻かれて、ロープで引っ張られ、ひざを寄せることもできなかった。
私の躰の全ては、何もかも無防備に晒されていた。
目の前には大きな鏡が置かれていて、私の恥ずかしくて惨めな姿を映している。
そういえば、こんな風にじっくりと自分の裸を見たのは、初めてのような気がする。
最初は目を背けていたけれど、私の中に残っていたわずかな男の心が自分の、裸の少女の恥ずかしい痴態に目が離せなくなっていった。
小さいけれど張りのある形のいい乳房。あれほど悪戯されていたにもかかわらず、小さな乳輪には桜色にとがった乳首がのっている。その乳房から下に目をやると、縦に長い女のへそを真ん中にあしらった細いウェスト。丸みを帯びた腰から太ももを経て、細い足首へと流れる優美な曲線。
無毛の股間には、使い込まれた事を感じさせない、閉じられた柔肉の亀裂があった。
鏡に映る全裸の少女。その体に刻み付けられてきた、さまざまな性的陵辱の思い出。
ああ、私はこんな体で、男たちと交わってきたんだ……。
男の欲望を掻き立てる性器を無防備に晒し、拘束されている現在の自分。
考えまいとしていても、心と体の中心にまで侵蝕した性感が刺激され、恥ずかしい欲望が口をついて出てくる。
「ああ、お願い、誰か! 私を、お、犯してぇ……。いやらしいことを、してください。こんなのいつまでも、我慢できない!」
はじめは囁く様な自分を辱める懇願は、口にしているうちに、やがて叫びとなっていた。
目からは涙が頬をつたい、口元からは涎が垂れて胸元をぬらし、股間からは愛液が泉のように溢れ出して、太ももを伝い、床に水溜りを作っていた。
男がやってきて、いった。
「そろそろいいかな」
そして妖しい笑みを浮かべながら、いきなり手にしていたムチを振るった。
バシン! という音とともに、背中を衝撃が走り、左の肩から右のお尻に向けて焼け付くような痛みが走った。
私は絶叫した。
あまりの痛みと激痛に尿を漏らし、足ががくがくと震えた。
「い、痛いよぉっ! そうじゃないの! 気持ちよくして欲しいのぉっ!!」
「うるせぇっ! すぐにこれも気持ちよくなる。いや、そうさせてやる。こうやってな!」
再びバシン! と言う音とともに衝撃が体を走り、肉体を切り裂くようなビリビリとする激痛が襲った。
「お、お願い……。もう、やめてぇっ!!」
「ああ、うるさいな。俺は女の悲鳴が大嫌いなんだ」
男はそういうと、私に口枷を嵌めた。
それから、何度も男はムチをふるい、私の身体は砕かれていった。
しかし全身の焼け付くような痛みにもかかわらず、あれほど疼いて仕方がなかった肉体の火照りは、治まっていた。
*---*---*---*---*---*---*---*---*---*---*
「お願いいたします。どうか、ワタクシめにお情けと苦痛をお与えください……」
私は冷たくてざらざらとしたコンクリートの床に、額を擦り付けながら土下座をした。
「そうか、そんなにこの鞭が欲しいか?」
「はい、どうかお願いいたします」
「ではお前に、快楽と苦痛を与えてやろう」
「はい、ありがとうございます」
憐れみを請うように、顔を上げて微笑むと、男は満足そうに言った。
「ふふふ、すっかり従順なマゾ奴隷になったな……」
むごたらしい虐待を避ける為、そして体が求める快感を得る為に、男に媚を売る方法を覚えた。
裸に剥かれて蔑む様な言葉を浴びせられても、少女の様に恥じらい、無理やりに脚を開かされ、陵辱されてもなお求めた。
「おい、マゾ奴隷! 立ってこっちに来い」
私はいそいそと立ち上がり、男の示す部屋の中央に歩み寄った。
天井からは2本の鎖が垂らされていて、私の両手首には皮の枷がはめられている。
そして男はそれらを使って私をばんざいをする姿勢で拘束するのだ。
ぷるんと震える胸の膨らみは、程よい張りとしなやかな弾力を失ってはいない。
乳輪も乳首も処女のようにピンク色のままだ。
しかし、色白の乳房には大きなミミズ腫れが斜めに刻まれていた。
千切れるといけないからと言って、外された乳首のピアスの痕も、まだ癒えてはいない。
両膝は脚を閉じることができないように、枷のついた棒で固定される。
開かれた股間の割れ目からは、小陰唇が少しはみ出している。クリトリスもだ。
初めのころは少しぐらい脚を開いていても、恥ずかしい肉の亀裂はぴったりと閉じていた。
けれど、毎日器具で引っ張られ、指で執拗に揉み込まれていては、中身が出てきちゃうのは仕方ないかもしれない。
嫌らしい形に変えられていく恥ずかしい部分。私にはそれがちょっと悲しかった。
すでに潤い始めている私の膣に、極太のバイブレータをねじ込みながら、男が言う。
「ベルトはいるか?」
私はちょっと悩んでから、首を横に振る。
これから私はいつもの様に、鞭で叩かれる。
ベルトがないと、衝撃でバイブが抜ける可能性もあるし、私が気を失って踏ん張りが利かなくなれば、バイブ自身の重みで抜けてしまうだろう。
けれどバイブが抜けたら、それを理由に男がさらに刺激的な快楽を、私に与えてくれるのだ。 適度な苦痛は快感と直結している。それをこの男はムチを使ってこの体に教えてくれた。
「ふふふ……、じゃ、抜けにくいように、こっちにも入れておくか」
そういいながら、肛門にもバイブを突っ込まれた。
どっちにしろ、両方の穴に挿れるつもりだったのでしょう?
そして太ももに細いベルトがまわされて、バイブレータのコントローラーが内股に挟まれる。
「ねぇ、スイッチは?」
「慌てるな。今入れてやる。最初は中くらいでいいか?」
「面倒だから、MAXでいいわ」
「スケベな奴だな……」
男はニヤつきながらそういうと、ベルトに挟んだコントローラーのスイッチを入れた。
鈍い唸りを上げるモーターの音とともに、私の下腹部が掻き回され始める。
違和感があるのは最初のうちだけだ。すぐに性器と直腸をこねられる刺激は快感となって、私をうっとりとさせてくれる。
でも、それにうつつを抜かしてしまうと、バイブが抜け落ちてしまう。
そうならないように、適度に締め付けていなければならない。
「ああ、もうこんなにたらしてきやがって……」
蠢くバイブの刺激で、性器から愛液があふれ出しているのだろう。
自覚はなかったけれど、男の手で太股に塗り広げられると、ひんやりと乾いていくのがわかった。
念のためにと足首の枷も床に固定されると、私はもう身動き一つできない。
「それじゃいくぞ!」
男の声に、きゅっと目を閉じると、最初の一撃が私に加えられた。
<つづく>
私は両方の手首に幅広の枷を嵌められて、天井から下がっていた鎖に頭の上でつながれていた。
足首にも枷を嵌めた上で長い棒を取り付けられ、肩幅よりも広く開くようにされた。
太ももには食い込むように細い革のベルトが巻かれて、ロープで引っ張られ、ひざを寄せることもできなかった。
私の躰の全ては、何もかも無防備に晒されていた。
目の前には大きな鏡が置かれていて、私の恥ずかしくて惨めな姿を映している。
そういえば、こんな風にじっくりと自分の裸を見たのは、初めてのような気がする。
最初は目を背けていたけれど、私の中に残っていたわずかな男の心が自分の、裸の少女の恥ずかしい痴態に目が離せなくなっていった。
小さいけれど張りのある形のいい乳房。あれほど悪戯されていたにもかかわらず、小さな乳輪には桜色にとがった乳首がのっている。その乳房から下に目をやると、縦に長い女のへそを真ん中にあしらった細いウェスト。丸みを帯びた腰から太ももを経て、細い足首へと流れる優美な曲線。
無毛の股間には、使い込まれた事を感じさせない、閉じられた柔肉の亀裂があった。
鏡に映る全裸の少女。その体に刻み付けられてきた、さまざまな性的陵辱の思い出。
ああ、私はこんな体で、男たちと交わってきたんだ……。
男の欲望を掻き立てる性器を無防備に晒し、拘束されている現在の自分。
考えまいとしていても、心と体の中心にまで侵蝕した性感が刺激され、恥ずかしい欲望が口をついて出てくる。
「ああ、お願い、誰か! 私を、お、犯してぇ……。いやらしいことを、してください。こんなのいつまでも、我慢できない!」
はじめは囁く様な自分を辱める懇願は、口にしているうちに、やがて叫びとなっていた。
目からは涙が頬をつたい、口元からは涎が垂れて胸元をぬらし、股間からは愛液が泉のように溢れ出して、太ももを伝い、床に水溜りを作っていた。
男がやってきて、いった。
「そろそろいいかな」
そして妖しい笑みを浮かべながら、いきなり手にしていたムチを振るった。
バシン! という音とともに、背中を衝撃が走り、左の肩から右のお尻に向けて焼け付くような痛みが走った。
私は絶叫した。
あまりの痛みと激痛に尿を漏らし、足ががくがくと震えた。
「い、痛いよぉっ! そうじゃないの! 気持ちよくして欲しいのぉっ!!」
「うるせぇっ! すぐにこれも気持ちよくなる。いや、そうさせてやる。こうやってな!」
再びバシン! と言う音とともに衝撃が体を走り、肉体を切り裂くようなビリビリとする激痛が襲った。
「お、お願い……。もう、やめてぇっ!!」
「ああ、うるさいな。俺は女の悲鳴が大嫌いなんだ」
男はそういうと、私に口枷を嵌めた。
それから、何度も男はムチをふるい、私の身体は砕かれていった。
しかし全身の焼け付くような痛みにもかかわらず、あれほど疼いて仕方がなかった肉体の火照りは、治まっていた。
「お願いいたします。どうか、ワタクシめにお情けと苦痛をお与えください……」
私は冷たくてざらざらとしたコンクリートの床に、額を擦り付けながら土下座をした。
「そうか、そんなにこの鞭が欲しいか?」
「はい、どうかお願いいたします」
「ではお前に、快楽と苦痛を与えてやろう」
「はい、ありがとうございます」
憐れみを請うように、顔を上げて微笑むと、男は満足そうに言った。
「ふふふ、すっかり従順なマゾ奴隷になったな……」
むごたらしい虐待を避ける為、そして体が求める快感を得る為に、男に媚を売る方法を覚えた。
裸に剥かれて蔑む様な言葉を浴びせられても、少女の様に恥じらい、無理やりに脚を開かされ、陵辱されてもなお求めた。
「おい、マゾ奴隷! 立ってこっちに来い」
私はいそいそと立ち上がり、男の示す部屋の中央に歩み寄った。
天井からは2本の鎖が垂らされていて、私の両手首には皮の枷がはめられている。
そして男はそれらを使って私をばんざいをする姿勢で拘束するのだ。
ぷるんと震える胸の膨らみは、程よい張りとしなやかな弾力を失ってはいない。
乳輪も乳首も処女のようにピンク色のままだ。
しかし、色白の乳房には大きなミミズ腫れが斜めに刻まれていた。
千切れるといけないからと言って、外された乳首のピアスの痕も、まだ癒えてはいない。
両膝は脚を閉じることができないように、枷のついた棒で固定される。
開かれた股間の割れ目からは、小陰唇が少しはみ出している。クリトリスもだ。
初めのころは少しぐらい脚を開いていても、恥ずかしい肉の亀裂はぴったりと閉じていた。
けれど、毎日器具で引っ張られ、指で執拗に揉み込まれていては、中身が出てきちゃうのは仕方ないかもしれない。
嫌らしい形に変えられていく恥ずかしい部分。私にはそれがちょっと悲しかった。
すでに潤い始めている私の膣に、極太のバイブレータをねじ込みながら、男が言う。
「ベルトはいるか?」
私はちょっと悩んでから、首を横に振る。
これから私はいつもの様に、鞭で叩かれる。
ベルトがないと、衝撃でバイブが抜ける可能性もあるし、私が気を失って踏ん張りが利かなくなれば、バイブ自身の重みで抜けてしまうだろう。
けれどバイブが抜けたら、それを理由に男がさらに刺激的な快楽を、私に与えてくれるのだ。 適度な苦痛は快感と直結している。それをこの男はムチを使ってこの体に教えてくれた。
「ふふふ……、じゃ、抜けにくいように、こっちにも入れておくか」
そういいながら、肛門にもバイブを突っ込まれた。
どっちにしろ、両方の穴に挿れるつもりだったのでしょう?
そして太ももに細いベルトがまわされて、バイブレータのコントローラーが内股に挟まれる。
「ねぇ、スイッチは?」
「慌てるな。今入れてやる。最初は中くらいでいいか?」
「面倒だから、MAXでいいわ」
「スケベな奴だな……」
男はニヤつきながらそういうと、ベルトに挟んだコントローラーのスイッチを入れた。
鈍い唸りを上げるモーターの音とともに、私の下腹部が掻き回され始める。
違和感があるのは最初のうちだけだ。すぐに性器と直腸をこねられる刺激は快感となって、私をうっとりとさせてくれる。
でも、それにうつつを抜かしてしまうと、バイブが抜け落ちてしまう。
そうならないように、適度に締め付けていなければならない。
「ああ、もうこんなにたらしてきやがって……」
蠢くバイブの刺激で、性器から愛液があふれ出しているのだろう。
自覚はなかったけれど、男の手で太股に塗り広げられると、ひんやりと乾いていくのがわかった。
念のためにと足首の枷も床に固定されると、私はもう身動き一つできない。
「それじゃいくぞ!」
男の声に、きゅっと目を閉じると、最初の一撃が私に加えられた。
<つづく>
「カレーライス」 第二章(10) <18禁>
(10)
ふと気がつくと、部屋は夕焼けの残照に染まっていて、私は乾いた汗と愛液と精液を、体中にこびりつかせて横たわっていた。
若いオスたちの宴はとうに終わっていて、私は一人残されたベッドの上で、気だるいセックスの余韻に浸っていた。
とにかく疲れた。快感を楽しむ余裕もなかった。
快感を楽しむ……?
そうだ、私はあの男の子たちとの乱交に翻弄され、暴走していた。
好奇心と冒険心を満たす男の子たち。
私は彼らを導くように、児戯混じりのセックスをし、夢中になっていた。
若茎の皮を口唇で剥き、脚を広げて誘い、嬌声をあげて彼らを惑わせた。
全員の最初の儀式が終わると、その後は何がなんだかわからなかった。
若いオスたちは、先を争うように私を貪った。
誰もが私の全身の隅々までを探検しつくそうとし、初めて見る女穴を広げては、奥の方まで覗き込んだ。
そして口々に、『これはどう? 気持良い?』、『ここは感じる? それとも痛い』等と質問攻めにされた。
その一つ一つに、私の躰は悦んで応えた。
無数の言葉と指と舌とペニスに蹂躙されることを、私の心は望んでいたのだった。
まるで女王のように、セックスに不慣れな若いオスたちを従え、快楽を与え、悦楽を享受していた。
そう、昼間教師が私の肉体を暴いたように、男の子たちは私の性癖までも暴いていったのだった。
そのことを思い出し、私は恐怖を感じた。
もう、戻れないと思った。
今日一日で、私の身に起こったことは、それまで完全にあきらめてはいなかった、男性への回帰願望を粉々に打ち砕いていた。
*---*---*---*---*---*---*---*---*---*---*
日が暮れて夜になり、独りぼっちのまま放ったらかしにされて途方にくれていると、突然部屋の明かりがつけられた。
入り口のほうを見ると、昼間“私の体の講義”をしていた教師が立っていた。
手には記憶のある香りを漂わせた、トレーを持っていた。
「食べるかい? 学食の残りを暖めなおしたもので、すまないけど」
「カレーライス?」
「そうだよ。嫌いだったかな?」
「ううん。ありがとうございます」
「ここの生徒たちの人気メニューだからね。君も気に入ると思うよ」
私は足元のシーツを体に巻きつけてから、トレーを受け取り食べ始めた。
教師はそんな私をじっと見ていたが、私はどう反応してよいのかわからず、ずっと黙ったまま食べ続けた。
やがて、最後の一口を食べ終えてしまうと、教師が言った。
「おいしかったかい?」
気を使ってくれているのだろうか?
戸惑うような、あいまいな表情で尋ねたので、私は
「ええ、おいしかったです。ごちそうさま」
と答えた。
愛想ではなく、本心からだった。“生徒たちの人気メニュー”の名に恥じない味だった。
教師は私の手から空のトレーを受け取ると、床に置いて更に言い難そうに言った。
「その……、食後の腹ごなしなんて、どうかな?」
教師の股間に視線を移すと、そこは彼の表情とは違って、確かな主張を持っていた。
「ええ、いいわ。カレーライスのお礼に……」
私は口の周りを手でぬぐってから、体に巻いていたシーツを解いて、目の前の男に抱きつき、躰の自由を許した。
*---*---*---*---*---*---*---*---*---*---*
その翌日。私は別のクラスで、昨日と同じ授業の教材になっていた。
でも、もう私は泣きたくもならなかったし、叫びだしたくもならなかった。
教師や生徒たちが、私の体と心の全てを暴いていくのを、赦していた。
自分よりもずっと年下の男の子たち。若くて純情で、好奇心いっぱいの残酷な彼ら。
そして私は可愛くてエッチで、何をしても許される、大人へと続く階段の途中にある“性の教育玩具”だった。
アイドルのようにもてはやされ、アダルトビデオの女優の様に見つめられ、風俗嬢の様に性の奉仕をした。
男子生徒たちの拙い性技は、直腸に埋め込まれるあの座薬がなくても、否応なく私を絶頂に追いつめた。
でもここの人たちは、私をこんな体にして監禁し、陵辱していた男たちと違って、優しかった。
私がつらそうな顔をすれば慰めてくれたし、私がうれしそうな顔をすれば、もっと気持ちよくしてくれた。
「ねぇ、この学校って何人ぐらいいるの?」
「生徒のことかい? 300人ぐらいだよ」
「そう……」
そして下校時刻が過ぎ、生徒たちが終わると、今度は男性教師たちと交わった。
夜中も宿直の教師や警備員を慰め、僅かな睡眠時間が終われば朝が来て、また別のクラスの「教材」になった。
何本の若茎を受け挿入れただろう?
来日も来る日も、セックスに明け暮れる毎日。羞恥と快感を織り交ぜた、大人の遊戯。
全学年のクラスを一巡すると、私には女子生徒が着るような制服が与えられ、男子生徒たちに混じって授業に参加するようになった。
ここは全寮制の男子校だったので、女子生徒は私一人だけ。
体育の授業では水着なしでプールに入り、美術の時間には素肌を晒してヌードモデルになり、休み時間には生徒たちの尽きない性的興味と、好奇心を満たした。
そして放課後には、選ばれた有志による、いつもの課外授業。
私はこの学校唯一の女生徒であり、“性教育専門”の女教師でもあった。
私はそんな日々を、受け入れていた。
恥ずかしいことをされても、体を貪られても、罵声と暴力のない学校での日々に、安息を見出していた。
*---*---*---*---*---*---*---*---*---*---*
連日の肉体の酷使に、私の体は悲鳴を上げていた。
薬を使っても性器の腫れが治まらなくなり、生徒たちが私に飽き始めたころ、とうとう私は“返品”されてきた。
「どうだった、“学校”は? 楽しかったか?」
「……」
久しぶりに見る、冷酷な表情をした男の問いにずっと黙っていると、突然殴られた。
そういえば久しぶりだった。誰かに殴られるのは。
学校では、毎日のように恥辱を求められたけど、暴力を振るわれたことは一度も無かった。
「痛い……」
「殴られたくなかったら、質問には答えるんだ」
「……た、楽しかった、です」
他になんて答えればいいんだろう?
これ以上殴られないためには。
「どうした、何を怯えている」
「べ、別に……。ちょっと寒いかなって」
辛そうな顔で微笑んで見せても、『大丈夫?』と気遣ってくれた男の子たちは、ここにはいない。
目の前の男は、下卑た薄笑いを浮かべるとこう言った。
「寒い? では暖かくしてやろうか」
早速犯されるのか……。
「お、おなか、空いちゃったかも?」
「あん? しょうがねえな、ちょっと待ってろ!」
どうせ無理にでも強姦されることは判っていた。
けれど、少しでもそれが引き伸ばせるならと思った。
そしてこのとき出されたカレーライスが、この牢獄で口にした、最後の人間らしい食事だった。
<つづく>
ふと気がつくと、部屋は夕焼けの残照に染まっていて、私は乾いた汗と愛液と精液を、体中にこびりつかせて横たわっていた。
若いオスたちの宴はとうに終わっていて、私は一人残されたベッドの上で、気だるいセックスの余韻に浸っていた。
とにかく疲れた。快感を楽しむ余裕もなかった。
快感を楽しむ……?
そうだ、私はあの男の子たちとの乱交に翻弄され、暴走していた。
好奇心と冒険心を満たす男の子たち。
私は彼らを導くように、児戯混じりのセックスをし、夢中になっていた。
若茎の皮を口唇で剥き、脚を広げて誘い、嬌声をあげて彼らを惑わせた。
全員の最初の儀式が終わると、その後は何がなんだかわからなかった。
若いオスたちは、先を争うように私を貪った。
誰もが私の全身の隅々までを探検しつくそうとし、初めて見る女穴を広げては、奥の方まで覗き込んだ。
そして口々に、『これはどう? 気持良い?』、『ここは感じる? それとも痛い』等と質問攻めにされた。
その一つ一つに、私の躰は悦んで応えた。
無数の言葉と指と舌とペニスに蹂躙されることを、私の心は望んでいたのだった。
まるで女王のように、セックスに不慣れな若いオスたちを従え、快楽を与え、悦楽を享受していた。
そう、昼間教師が私の肉体を暴いたように、男の子たちは私の性癖までも暴いていったのだった。
そのことを思い出し、私は恐怖を感じた。
もう、戻れないと思った。
今日一日で、私の身に起こったことは、それまで完全にあきらめてはいなかった、男性への回帰願望を粉々に打ち砕いていた。
日が暮れて夜になり、独りぼっちのまま放ったらかしにされて途方にくれていると、突然部屋の明かりがつけられた。
入り口のほうを見ると、昼間“私の体の講義”をしていた教師が立っていた。
手には記憶のある香りを漂わせた、トレーを持っていた。
「食べるかい? 学食の残りを暖めなおしたもので、すまないけど」
「カレーライス?」
「そうだよ。嫌いだったかな?」
「ううん。ありがとうございます」
「ここの生徒たちの人気メニューだからね。君も気に入ると思うよ」
私は足元のシーツを体に巻きつけてから、トレーを受け取り食べ始めた。
教師はそんな私をじっと見ていたが、私はどう反応してよいのかわからず、ずっと黙ったまま食べ続けた。
やがて、最後の一口を食べ終えてしまうと、教師が言った。
「おいしかったかい?」
気を使ってくれているのだろうか?
戸惑うような、あいまいな表情で尋ねたので、私は
「ええ、おいしかったです。ごちそうさま」
と答えた。
愛想ではなく、本心からだった。“生徒たちの人気メニュー”の名に恥じない味だった。
教師は私の手から空のトレーを受け取ると、床に置いて更に言い難そうに言った。
「その……、食後の腹ごなしなんて、どうかな?」
教師の股間に視線を移すと、そこは彼の表情とは違って、確かな主張を持っていた。
「ええ、いいわ。カレーライスのお礼に……」
私は口の周りを手でぬぐってから、体に巻いていたシーツを解いて、目の前の男に抱きつき、躰の自由を許した。
その翌日。私は別のクラスで、昨日と同じ授業の教材になっていた。
でも、もう私は泣きたくもならなかったし、叫びだしたくもならなかった。
教師や生徒たちが、私の体と心の全てを暴いていくのを、赦していた。
自分よりもずっと年下の男の子たち。若くて純情で、好奇心いっぱいの残酷な彼ら。
そして私は可愛くてエッチで、何をしても許される、大人へと続く階段の途中にある“性の教育玩具”だった。
アイドルのようにもてはやされ、アダルトビデオの女優の様に見つめられ、風俗嬢の様に性の奉仕をした。
男子生徒たちの拙い性技は、直腸に埋め込まれるあの座薬がなくても、否応なく私を絶頂に追いつめた。
でもここの人たちは、私をこんな体にして監禁し、陵辱していた男たちと違って、優しかった。
私がつらそうな顔をすれば慰めてくれたし、私がうれしそうな顔をすれば、もっと気持ちよくしてくれた。
「ねぇ、この学校って何人ぐらいいるの?」
「生徒のことかい? 300人ぐらいだよ」
「そう……」
そして下校時刻が過ぎ、生徒たちが終わると、今度は男性教師たちと交わった。
夜中も宿直の教師や警備員を慰め、僅かな睡眠時間が終われば朝が来て、また別のクラスの「教材」になった。
何本の若茎を受け挿入れただろう?
来日も来る日も、セックスに明け暮れる毎日。羞恥と快感を織り交ぜた、大人の遊戯。
全学年のクラスを一巡すると、私には女子生徒が着るような制服が与えられ、男子生徒たちに混じって授業に参加するようになった。
ここは全寮制の男子校だったので、女子生徒は私一人だけ。
体育の授業では水着なしでプールに入り、美術の時間には素肌を晒してヌードモデルになり、休み時間には生徒たちの尽きない性的興味と、好奇心を満たした。
そして放課後には、選ばれた有志による、いつもの課外授業。
私はこの学校唯一の女生徒であり、“性教育専門”の女教師でもあった。
私はそんな日々を、受け入れていた。
恥ずかしいことをされても、体を貪られても、罵声と暴力のない学校での日々に、安息を見出していた。
連日の肉体の酷使に、私の体は悲鳴を上げていた。
薬を使っても性器の腫れが治まらなくなり、生徒たちが私に飽き始めたころ、とうとう私は“返品”されてきた。
「どうだった、“学校”は? 楽しかったか?」
「……」
久しぶりに見る、冷酷な表情をした男の問いにずっと黙っていると、突然殴られた。
そういえば久しぶりだった。誰かに殴られるのは。
学校では、毎日のように恥辱を求められたけど、暴力を振るわれたことは一度も無かった。
「痛い……」
「殴られたくなかったら、質問には答えるんだ」
「……た、楽しかった、です」
他になんて答えればいいんだろう?
これ以上殴られないためには。
「どうした、何を怯えている」
「べ、別に……。ちょっと寒いかなって」
辛そうな顔で微笑んで見せても、『大丈夫?』と気遣ってくれた男の子たちは、ここにはいない。
目の前の男は、下卑た薄笑いを浮かべるとこう言った。
「寒い? では暖かくしてやろうか」
早速犯されるのか……。
「お、おなか、空いちゃったかも?」
「あん? しょうがねえな、ちょっと待ってろ!」
どうせ無理にでも強姦されることは判っていた。
けれど、少しでもそれが引き伸ばせるならと思った。
そしてこのとき出されたカレーライスが、この牢獄で口にした、最後の人間らしい食事だった。
<つづく>
「カレーライス」 第二章(9) <18禁>
作.ダークアリス キャライラスト&挿絵:キリセ
(9)
「ねえ、君。名前は?」
一人の男の子が私に尋ねた。私は脇に立っている男のほうを見ると、男は小さくうなずいた。
「あ、葵……です」
「葵ちゃんか。どこから来たの?」
もう一度男のほうをちらと伺うと、男は無表情のまま私を見ていた。
「とおい、とこ……」
「ふうん……」
次の質問をどうしようかと男の子が考え込もうとすると、それまで黙って立っていた男が言った。
「葵が君たちに教えて上げられるのは、女の体とセックスについてだけだ。葵がそれ以外のことを秘密にしたくなるのは、君たちにもわかるだろう?」
「個人的なこと以外なら、聞いても良いってことでしょうか?」
眼鏡をかけた、少し賢そうな男の子が言った。
「そうだ。君は賢いね」
「いえ、それほどでもありません」
「よし、じゃあ君からだ。服を脱いで、ベッドの上に上がりなさい」
言われると男の子は、顔を赤くしながら上着を脱ぎ始めた。
ほかの生徒たちにはやし立てられながらパンツも脱ぐと、私が縛り付けられているベッドにのし上がった。
私の目は、その男の子の股間に釘付けになった。
かろうじて先端が覗いている、つやつやとした若茎の先端は、すでに透明な粘液を光らせていた。
「ほんとに、いいの?」
男の子は、私の顔と脇の男の顔を交互に見た。
(いいわけ、ないじゃない!)
そう言いたかったけど、この期に及んで拒否しても、聞いてくれる筈もなかった。
「俺がいてはやりにくいだろうから、後は君たちの好きなようにして良いよ」
男はそういうと、そちらを見なくても判るほど冷たい視線を私に浴びせ、部屋から出て行った。
私の両足に手をかけていた男の子は、ほっと安心した表情をすると、私の顔を伺いながら言った。
「じゃぁ、行くね」
男の子の緊張が移ったかのように、私も極度に緊張していた。
いや、その緊張は部屋の全員に伝染していて、校庭からの賑やかな生徒たちの声だけが、遠く聞こえていた。
私はゆっくりとうなずくと、男の子は捕まえていた私の足首を更に強くつかんで大きく広げ、私の中に割って入ってきた。
私の膣は前技もまだしてもらっていないのに、肛門にねじ込まれたあの媚薬のせいで濡れて、蜜を滴らせていた。
だから授業でやり方を学んでいた、この賢そうな男の子は、迷うことなく私の一番敏感な花びらを押し開き、自分自身の先端をあてがった。
私はまるで処女喪失に怯える少女のように体を震わせ、ぎゅっと目を閉じた。
『ごくり』、というつばを飲み込む音は、誰のものだかわからなかった。
けれどその音が合図だったかのように、私はいきなり奥深くまで貫かれ、それだけでイってしまった。
「か、はぁっ……」
それまでの緊張のせいだろうか? それともやはりあの媚薬のせいなのだろうか?
私は衝撃を伴ったその快感に眼を見開き、開いた口からはだらしなくよだれが垂れた。
私への侵入を果たした男の子は、挿入されられただけで達してしまった淫女のことなどかまう余裕もなく、私の背中に手を回して、より深くまで刺し貫こうと、抽送をはじめた。
「……っ、……kうっ、はぁっ、……んっ! はぁん……はぁっ! あぁん、 ああぁん❤ あぁん❤!」
私の口からは、この若いオスに蹂躙されるのを悦ぶかのように、嬌声が漏れ始め、それがさらに二人の興奮を煽っていった。
彼の“筆おろし”に要した時間は、それほど長くはなかったのかもしれない。
けれど、挿入れられた時に直ぐに一度達していた私は、この稚拙だが激しい、貪る様なセックスの虜になっていた。
そして頭の中に白い霧が立ち込めようとするまさにその瞬間、私の子宮口にそれまで感じたこともなかったような、熱い迸りを感じた。
(ああぁ、射精されてる。私のナカに……)
まるで溶けた岩がゆっくりと体の中に流れ込んでくるような、熱くて重いオルガスムスだった。
私を犯していた眼鏡の男の子が、体力を使い果たしたかのように、ゆっくりと私から体を離すと同時に、部屋の中に他の男の子たちの声が響き渡った。
「次、俺な!」
余韻が冷めきっていなかった私は、乱暴に足首をつかむ体格の良さそうな男の子の性急な侵入を、無抵抗のまま許した。

<つづく>
(9)
「ねえ、君。名前は?」
一人の男の子が私に尋ねた。私は脇に立っている男のほうを見ると、男は小さくうなずいた。
「あ、葵……です」
「葵ちゃんか。どこから来たの?」
もう一度男のほうをちらと伺うと、男は無表情のまま私を見ていた。
「とおい、とこ……」
「ふうん……」
次の質問をどうしようかと男の子が考え込もうとすると、それまで黙って立っていた男が言った。
「葵が君たちに教えて上げられるのは、女の体とセックスについてだけだ。葵がそれ以外のことを秘密にしたくなるのは、君たちにもわかるだろう?」
「個人的なこと以外なら、聞いても良いってことでしょうか?」
眼鏡をかけた、少し賢そうな男の子が言った。
「そうだ。君は賢いね」
「いえ、それほどでもありません」
「よし、じゃあ君からだ。服を脱いで、ベッドの上に上がりなさい」
言われると男の子は、顔を赤くしながら上着を脱ぎ始めた。
ほかの生徒たちにはやし立てられながらパンツも脱ぐと、私が縛り付けられているベッドにのし上がった。
私の目は、その男の子の股間に釘付けになった。
かろうじて先端が覗いている、つやつやとした若茎の先端は、すでに透明な粘液を光らせていた。
「ほんとに、いいの?」
男の子は、私の顔と脇の男の顔を交互に見た。
(いいわけ、ないじゃない!)
そう言いたかったけど、この期に及んで拒否しても、聞いてくれる筈もなかった。
「俺がいてはやりにくいだろうから、後は君たちの好きなようにして良いよ」
男はそういうと、そちらを見なくても判るほど冷たい視線を私に浴びせ、部屋から出て行った。
私の両足に手をかけていた男の子は、ほっと安心した表情をすると、私の顔を伺いながら言った。
「じゃぁ、行くね」
男の子の緊張が移ったかのように、私も極度に緊張していた。
いや、その緊張は部屋の全員に伝染していて、校庭からの賑やかな生徒たちの声だけが、遠く聞こえていた。
私はゆっくりとうなずくと、男の子は捕まえていた私の足首を更に強くつかんで大きく広げ、私の中に割って入ってきた。
私の膣は前技もまだしてもらっていないのに、肛門にねじ込まれたあの媚薬のせいで濡れて、蜜を滴らせていた。
だから授業でやり方を学んでいた、この賢そうな男の子は、迷うことなく私の一番敏感な花びらを押し開き、自分自身の先端をあてがった。
私はまるで処女喪失に怯える少女のように体を震わせ、ぎゅっと目を閉じた。
『ごくり』、というつばを飲み込む音は、誰のものだかわからなかった。
けれどその音が合図だったかのように、私はいきなり奥深くまで貫かれ、それだけでイってしまった。
「か、はぁっ……」
それまでの緊張のせいだろうか? それともやはりあの媚薬のせいなのだろうか?
私は衝撃を伴ったその快感に眼を見開き、開いた口からはだらしなくよだれが垂れた。
私への侵入を果たした男の子は、挿入されられただけで達してしまった淫女のことなどかまう余裕もなく、私の背中に手を回して、より深くまで刺し貫こうと、抽送をはじめた。
「……っ、……kうっ、はぁっ、……んっ! はぁん……はぁっ! あぁん、 ああぁん❤ あぁん❤!」
私の口からは、この若いオスに蹂躙されるのを悦ぶかのように、嬌声が漏れ始め、それがさらに二人の興奮を煽っていった。
彼の“筆おろし”に要した時間は、それほど長くはなかったのかもしれない。
けれど、挿入れられた時に直ぐに一度達していた私は、この稚拙だが激しい、貪る様なセックスの虜になっていた。
そして頭の中に白い霧が立ち込めようとするまさにその瞬間、私の子宮口にそれまで感じたこともなかったような、熱い迸りを感じた。
(ああぁ、射精されてる。私のナカに……)
まるで溶けた岩がゆっくりと体の中に流れ込んでくるような、熱くて重いオルガスムスだった。
私を犯していた眼鏡の男の子が、体力を使い果たしたかのように、ゆっくりと私から体を離すと同時に、部屋の中に他の男の子たちの声が響き渡った。
「次、俺な!」
余韻が冷めきっていなかった私は、乱暴に足首をつかむ体格の良さそうな男の子の性急な侵入を、無抵抗のまま許した。

<つづく>









