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子供の神様 (51) <最終回>by.アイニス

(51)

 元旦。瑞穂と瑞樹の神社の境内は参拝客で賑わっていた。足の踏み場もないほどの盛況ぶりだ。再建された瑞穂神社は、厳かな品格を備えている。建物の歴史に違いがあっても、二つの神社は合わせ鏡のようだった。
「半年ぶりに訪れたけど思ったよりも混んでいるなぁ。正月とはいえ驚いたよ」
 あまりの賑わいぶりに祐輔は感心した顔をしている。伍良と祐輔は和装で神社に訪れていた。白い羽織袴を着た祐輔は威風堂々としている。伍良も華やかな赤い着物でお淑やかに連れ添っていた。美男美女の組み合わせで、誰も伍良が男だったとは思わないだろう。
「忘れられようとした神様とは思えないね。私も関わっていたことだから嬉しいな」
「喜ぶのはいいけど人波に揉まれないように気をつけて行こう」
 祐輔が大きな体で伍良を庇うようにして歩いてくれた。
 お賽銭を握って参拝客の列に並んでいると、千鳥足でふらふらとしている人影があった。酔っ払いは困るなと思っていると、その人物は伍良に近づいてくる。人影の正体に気づいた伍良は、唖然としすぎて顎が外れそうになった。
「まさか……」
「めでたいのぉ」
 白衣に身を固めた年齢不詳の美人が、大きな盃を片手に持っていた。神力を取り戻して大きく成長した姿になっているが、顔には童女だった瑞穂の面影がある。参拝客の列に瑞穂が近づくと、その周りだけ人が避けていた。誰も神の存在に気づかなくても自然と敬い畏れているのだ。
「神様がわざわざ外に出てきていいの?」
 参拝客に迷惑はかけられないので、伍良から瑞穂に近づくことにした。瑞穂の姿は妙齢の美人といった感じで、豊穣を司る神らしく胸が大きい。神としての威厳を取り戻していたが、酔っぱらっていてはそれも台なしだ。
「伍良、いや、今は良子か」
「伍良で構わないよ」
「そうかそうか。一段と女振りが上がったな。すっかり女が板についておるぞ」
「もうあれから三年が経つからね」
 女として生きるには伍良という名では差し障りがあるので、瑞穂の力で名前についての記憶と記載を書き換えてもらったのだ。もう元の名前を覚えているのは、瑞穂と祐輔しかいない。伍良と呼ばれると懐かしい気持ちになった。
「新年の挨拶に伍良が訪れてくれたのじゃ。妾が出迎えねば失礼というものであろう」
「それはありがたいけど、まずはお参りをしたかったなぁ」
 伍良が手を広げてお賽銭を見せると、瑞穂はそれをひょいっと拾い上げた。
「うむ、祈るべき神が目の前にいるのだ。これでよかろう」
「神様が自ら受け取ってくれたのに、ありがたみを感じないのは何故だろう」
 伍良が納得しかねる顔で苦笑する。瑞穂が神様としての力を取り戻しても、伍良にとっての印象は子供の神様のままだ。それはどんなに大人びた容姿になっても変わらない。
「良子、どこにいるんだ?」
「亭主が探しているようじゃな」
 祐輔が慌てながら伍良を呼びかけていた。すぐ近くに伍良がいるというのに全く気づいていない。神様と一緒にいる伍良の姿も人から認識されなくなっていた。祐輔は瑞穂との縁が薄いので、神様の加護がないらしい。
「このままでは不便じゃなぁ。妾が呼んでこよう」
 ふわふわと歩きながら瑞穂は祐輔に近寄った。間近に迫っても祐輔は瑞穂を見ていない。瑞穂は悪戯っぽく笑いながら、人差し指で軽く祐輔の目蓋をなぞった。
「ばぁ」
「うっ、うわっ!」
「はっはっは、素直な反応じゃ」
「趣味が悪いよ」
 突然現れた女の姿に祐輔は心底驚いていた。伍良が支えなければ転んでいただろう。神の力で祐輔も瑞穂を認識できるようになっていた。祐輔の驚いた姿を見て瑞穂は大笑いしている。外見が大人びても子供っぽいところは多分に残しているようだ。
「だ、誰?」
「お主に会うのも半年ぶりじゃな。とはいえ、祐輔が妾の姿を見るのは初めてだったかのぉ。妾がこの神社の主で瑞穂じゃ」
 伍良と祐輔は半年前に瑞穂神社で祝言をあげていた。祭事を行ったのは神主と巫女だったが、瑞穂もその場にいて祝ってくれた。もっとも、瑞穂がいるのに気づいたのは伍良だけだっただろう。
「もしかして、良子に呪いをかけて女にしたという神様?」
「うむ、その呪いのせいでお主は幸せになれたのだから問題あるまい」
「そ、そうですね」
 全く悪びれない瑞穂に祐輔は愕然としていた。伍良は瑞穂の性格を知っているので、少し苦笑するだけにとどめている。
「そんなことより、今日は無礼講じゃ。呑め呑め」
 瑞穂はひょうたんから並々と朱塗りの大盃に酒を注いだ。見ただけで胸焼けがして酔ってしまいそうな量だった。朱塗りの大杯を突きつけられて、伍良はどうしようか悩んでいる。そこそこは飲めるが、一気に飲んだら倒れてしまいそうだ。
「妻の代わりに飲みますよ」
 横から伸びた手が盃を受け取っていた。瑞穂の我儘は今に始まったことではない。伍良は断ることもできたが、祐輔にとって瑞穂は話に聞くだけの存在だ。下手に機嫌を損ねて呪いでもかけられたらまずいと思ったのだろう。
「よい呑みっぷりじゃ」
「無理だと思ったら止めてね」
 伍良が心配そうに夫を見る。祐輔は大杯を傾けて酒を飲み始めたが、途中で怪訝な顔をしていた。半分以上を飲んだところで、盃から口を放す。狐狸に騙されたような顔をしていた。
「どうしたの?」
「水っぽい」
 伍良も盃を受け取って飲んでみると、無味無臭で何の味もしなかった。酔いそうな気配もない。伍良は戸惑いながらも一応は残りの水を飲み干した。
「酒だと思ったけど違うみたいだね」
「はっはっは、今のは神水じゃ。神が飲めば酔うが、人が飲んでも水と変わらん。人に活力を与えて長寿を約束してくれるがのぉ。伍良がいつまでも若々しくて美人であれば、亭主も嬉しかろうよ」
「そんな効果があったのか……」
 瑞穂が無理を突きつけたと思ったが、伍良に恩恵を与えたかったらしい。女として瑞穂の気遣いが嬉しかった。
「祐輔のしている、えっと、サッカーじゃったか。あれは怪我も多いと聞く。傷の治りも早くなっておるぞ」
「そういえば打ち身が楽になっている。痛みを感じないな」
 祐輔はプロのサッカー選手として活躍していた。伍良の夢を代わりに叶えたのだ。ただ激しいスポーツなので怪我をすることもある。その怪我を瑞穂は治してくれたようで、祐輔は驚いた顔をしていた。
「瑞穂、ありがとう!」
「これくらい当然じゃ。妾のもう一人の姉妹には幸せになって欲しいからな」
 感激した伍良に抱きつかれて、瑞穂は照れながらも優しい顔をしている。慈しみのある表情を浮かべた瑞穂は、豊穣の神に相応しかった。
「奥の部屋に本当の酒と瑞樹が作ったおせち料理を用意してあるぞ。いや、伍良には酒は勧められんか。おめでたのようじゃな」
「えっ、ええっ!?」
 まさかと思って、伍良は狼狽えながら耳を疑った。祐輔と愛し合っていたが、今まで妊娠の兆候はなかった。男から女になったのだ。子供は望めないかもしれないと思っていた。
「伍良は妊娠しておる。うむ、めでたいぞ」
「良子、やったな!」
「あ、ありがとう。嬉しいよ」
 瑞穂に断言されて喜びが込み上げてきた。伍良は目元を潤ませ涙ぐむ。夫婦は抱き合って新しい命の誕生を喜んでいた。
「妊婦に寒さは禁物じゃ。奥の部屋で温まるとしよう。瑞樹も伍良の顔を見るのを楽しみにしておる」
「それじゃ御馳走になるね」
 近況を話しながら瑞穂の住む部屋に向かう。
 伍良は瑞穂との数奇な出会いを思い出しながら、今まで築いてきた関係を大切に思った。最初の出会いは不幸だったが、新しい道を見つけることができた。伍良は喫茶店を手伝いながら、オリジナルの手芸品を作っている。瑞穂と出会わなければ、目覚めることのない才能だっただろう。祐輔を愛することもなかった。伍良は過去を懐かしく思いながら、将来を思い描いて幸せそうに微笑んでいた。

子供の神様 (50) by.アイニス

(50)

「そろそろ伍良の大事なところが見たい」
「う、うん、構わない、よ」
 秘所から漂う生々しい女の匂いを嗅いで、男の息遣いが荒くなっていた。伍良の興奮も最高潮に達していたが、変わり果てた股間を見られるのは穴に隠れたいほど恥ずかしい。祐輔は男だった伍良の股間を知っているのだ。消え入りそうな声で少女は頷いた。
「うううぅぅっ、最後の一枚が脱がされていく。あううぅ、恥ずかしくて体が蒸発しそうだ……」
 水分を含んで皮膚に張りついたパンツが、男の手によって少しずつ下にずらされていく。パンツの隙間から熱い蒸気が漏れて、女の匂いが強く香った。祐輔が大きく喉を鳴らす。羞恥に耐えるように伍良が首を左右に振った。
「はぁ、はぁ、可愛くて慎ましい形だよ。ちゃんと割れ目があるね」
「うあぁっ、恥ずかしくて死ねる……」
 パンツを脱がされてしまった伍良は、全身の肌をピンク色に染めていた。燃えるような眼差しが秘所に注がれている。昔からの親友に割れ目を見られて、伍良は恥ずかしさで涙が滲んできた。
「もっとよく見せて」
「うううっ、ううっ、覚悟を決めていたはずなのに……」
 急に臆病になってしまって、伍良はなかなか足を広げられない。祐輔が興味津々で股の間に頭を突っ込もうとしている。突風のような鼻息が割れ目に当たって、少女は体を竦ませた。
「凄くエッチな匂いがしている。伍良が女の子になって蜜を流しているなんて不思議な眺めだなぁ。スポーツマンで男らしかったからね」
「お、俺だって祐輔に抱かれる未来は予想してなかったさ。ひゃぅぅん、ああっ、そんなところを舐めるなよぅ、はううぅっ、ああぁぁっ!」
「ぺろっ、れろっ、女の子の味がしている。ちょっと塩っ気があるね」
「うはあぁぁぁっ、あううっ、恥ずかしいのに感じちゃうよぅ。ううぅん、はあぁん!」
 祐輔は伍良の太ももを左右に押し広げると、舌を突っ込んで秘所を舐めてきた。伍良は白桃のような尻を震わせて甘い喘ぎ声を吐き出す。とてつもなく恥ずかしいのに凄く興奮してくる。男の生温かい舌が秘裂を這うと背筋に電流が駆け上った。脳が快感に痺れて、もっと刺激が欲しくなってしまう。
「はうあっ、ああぁん、俺のちんこがあった場所を祐輔が舐めているよぅ。ひゃあぁん、はくうっ、ビリビリ痺れてくるぅ!」
「ちゅるっ、じゅずぅ、不思議と飲みたくなる味だ。もう男の痕跡は何も残ってないね。じゅるぅ、ちゅぱぁ」
 秘所から愛液の飛沫が弾け飛ぶ。祐輔は口の周りをべとべとにしながら、伍良から流れる蜜を啜っていた。秘所から聞こえる淫靡な音に伍良は羞恥で身悶えする。恥ずかしいにも関わらず愛液の分泌はますます盛んになっていた。
「ううぅん、はあぁっ、祐輔ばかり舐めてずるい。はぁ、はぁ、俺にも大事な場所を見せてくれよ、ふうぅん、はぁぁっ」
「い、いいけど、伍良も持っていたから見知っている形だぞ」
 ずっと伍良が攻められていたので、少しは祐輔の悶えるところも見たい。祐輔は照れた顔をしながらズボンを脱いで全裸になった。お互いに生まれたままの姿になると、顔を見合わせてもじもじと恥ずかしがってしまった。
 外にペニスが解放されたことで、野性的な匂いが一気に漂う。独特の臭気を嗅いで、伍良は恍惚とした顔をした。舌に唾液が溢れてくる。女になった伍良にとっては性欲を刺激させる匂いだ。
「おおぅ、以前よりも逞しくなってないか。俺の持っていたモノより大きそうだ」
「そりゃ伍良の体で興奮しているから、今までで一番大きいと思う」
 亀頭が大きく膨れ上がった男根は直立していた。太く猛々しい姿になって、先端から汁を垂らしている。昔の伍良とさして変わらない大きさだったのに、異様に膨れ上がって肥大化していた。負けた気がして元男としてはちょっと悔しい。
「はぁ、はぁ、凄く美味しそうな匂いだ。たまらない……」
「うおっ、おおおっ!?」
 伍良は男の股間に鼻を近づけて匂いを嗅ぐと衝動のままに亀頭を口に含んでいた。いきなりペニスをしゃぶられて祐輔が素っ頓狂な声を出す。
「お、おい、汚くないか」
「じゅるうぅ、ちゅずるぅ、はぁ、逞しくてとっても美味しい……」
 呪いによる性欲を伍良は我慢し続けてきたので、男の強烈な匂いを嗅いで暴走してしまった。もごもごとペニスを口に含んだまま、舌を動かして亀頭を舐め回す。敏感になっている亀頭を弄られて、祐輔は背筋を震わせていた。
「くっ、はあぁっ、舌が絡みついてくる……あぅ、くぅ、感じやすいところばかりだ……」
「ちゅぱぁ、じゅずぅ、ちゅるぅ……んんぅ、ちゅちゅぅ」
 伍良は熱心に口を動かしていた。男だった頃の知識が舌の動きに反映されて、祐輔の敏感なところを探り当てている。熱烈な奉仕を受けて、男は悶えた声で呻いていた。
「ちゅっ、ちゅちゅぅ、んっ!? ますます大きくなった!?」
「うあっ、はぁ、伍良の舌が上手すぎて出てしまいそうだ……」
 亀頭が喉を突きそうになっている。ペニスの熱が高まって、口の中で膨張していた。さらに肥大化したペニスを舌で感じて、伍良が目を白黒とさせる。亀頭から溢れる我慢汁の量が増す。少女は喉を震わせて愛しい男の体液を飲んでいた。
「も、もう……くっ、くぅ、伍良の中に入れたいよ」
「ちゅっ、ちゅぽん……はぁ、う、うん」
 射精をこらえる祐輔の声が震えている。ペニスの振動が大きくなっていた。もっと男の味が知りたくて名残惜しかったが、伍良は亀頭を唇で拭いながら吐き出した。肥大化したペニスは炎のように燃え盛っている。うっとりとした瞳で伍良は逞しい男根を見詰めていた。
「まさか俺が祐輔を見上げる格好になるとは夢にも思わなかったよ」
 伍良はベッドに仰向けで寝て、祐輔の顔を仰ぎ見ていた。興奮と緊張で体が小刻みに震えている。半年前は将来好きになるのは女性だと疑っていなかった。
「そうだね。伍良が女の子になってこんな関係になるとは不思議な気分だ」
「俺は女の子になって、これから祐輔の女になる……」
 秘所はトロトロに濡れて準備は整っているが、臆病になってなかなか足が広がらない。伍良は羞恥に体を震わせながら、体を重ねやすい格好を取った。祐輔が股の間に体を割りこませながら、少女に口づけをする。
「い、いいよ」
「うん、好きだ」
 怖くてたまらなくなるが、キスをすると少し落ち着いた。か細い声で頷くと、灼熱の塊が股間に近づいてくる。
「あっ……」
 小さな声で少女は驚く。男根が秘所に触れて、股間が焙られていた。微かに粘着質な音を立てて、先端が伍良の体に潜っていく。
「こ、これが伍良の中か……先っぽだけでも凄く締めつけてくる……ううぅ、はぁ」
「はうぅ、ああっ、熱の塊が俺に入ってくるのを感じるよ、くっ、ふううぅ」
 愛撫で濡れているとはいえ、男との経験がない膣は狭い。亀頭が入っただけで膣壁は激しく収縮していた。熱烈な歓迎を受けて、祐輔が短く呻いて息を吐く。
「ああぁぁっ、んくううぅ、俺がどんどん女になっていく……はうぅ、本当に俺は男を受け入れられる体なんだ……ああぁん、ああっ!」
 体の奥深くまでは見えないので、内部まで本当に女なのか疑問があった。それを心配していたのだが、順調にペニスは伍良の中に埋まっていく。膣を広げながら突き進むペニスの振動を体で感じた。
「くううぅ、くっ、奥に行くほど締まりがきつくなる……」
「あぐっ、ううぅ、い、いたっ……つつっ、ぐあっ」
 硬く膨張したペニスの半ばまで埋まると、伍良を強烈な異物感が襲った。誰も踏み荒らしたことのない処女の花園に男が入ろうとしている。侵入者に抵抗するように膣が狭まって男根を締めつけた。痛いくらいの締め付けに祐輔は大汗をかいている。
「つあっ、ああっ、お、奥まで……いたぁ、ああっ、あああぁぁっ!」
 強烈な抵抗を押し退けて、じりじりとペニスが突き進んでいく。真っ赤に燃えた鉾で体を貫かれているようだ。体を真っ二つに引き裂かれるような痛みに伍良は大粒の涙をこぼしていた。痛みで泣くなんて情けないとは思うが、悲痛な声が漏れてしまう。
「ふぅ、ふぅ、一つに繋がったよ。よく頑張ったね」
「あぅ、くぅ……う、うん、これで俺は女になれた……」
 伍良の中にペニスが根元まで埋まっていた。結合部から愛液に混じって血の筋が流れている。処女の証だ。伍良は苦痛に顔を歪ませながら、破瓜の痛みに耐えている。祐輔は伍良を気遣って体を動かさないが、男根の微かな振動だけで傷口を抉られている気がする。伍良は苦しい息を吐きながら、痛みが去るのをじっと待っていた。
「はあぁっ、伍良の中は温かくて居心地がいいよ」
「そ、そうか、俺の中はそんなにいいか」
「絶対に伍良を手放せない。ちゅっ、ちゅちゅっ」
「んふぅ、頬がくすぐったい」
 愛しげに伍良を見詰めながら、祐輔は頬に軽いキスを繰り返した。唇の感触がこそばゆい。小鳥のようなキスをしていると痛みが弱まってきた。逆に不思議な熱が広がってくる。今まで感じたことのない感覚だ。
「だ、大丈夫になってきたかも。少し動かしてみて」
「ゆっくりと動かすから」
 祐輔が慎重に腰を動かす。亀頭が膣壁を擦ると僅かな痛みがあったが、伍良が耐えられないほどではない。むしろ小波のような快感で下腹部が温かくなってくる。体がペニスの存在を受け入れて、徐々に快感の波が大きくなっていく。伍良の表情が緩んできて、口元に微笑みが浮かんでいた。
「うぅん、はあぁっ、快感が膨れ上がって……ああぁん、んはぁ、体が熱くなる……ああっ、はぁん、これが女の感覚なのね。んんぅ、はぁ」
「ふううぅ、凄い、動けば動くほど気持ち良くなる、はあぁぁっ、くううぅ」
 一つに結ばれた実感が湧いてきて、伍良は眩いばかりに微笑んでいた。ペニスが抽送されるたびに伍良の表情が柔らかくなっていく。男を知ったことで伍良は女として目覚めていた。可憐な声で喘いで、艶めかしい姿態を震わせている。自然に腰を振って、男の動きに合わせていた。
「ひゃあぁぁん、ああぁっ、いいよぅ、凄いよぅ……はあぁぁん、ああっ、体が溶けてしまいそう……ひゃふぅ、ああぁっ!」
 媚肉が打ちつけ合う鈍い音がして、混じり合った体液がシーツに弾け飛んだ。少女の声はますます艶を帯びて、高らかに部屋に響いていた。二人の世界に没頭して、外のことはすっかり忘れている。瑞穂が音を遮断していなければ問題になっていただろう。
 ペニスが膣を何度も往復しているうちに、男の腰の動きがスムーズになっていた。それに伴って快感がどんどん増幅されていく。
「ああぁぁん、ああっ、んんんっ、も、もう……体が爆発しそう、ひゃふぅっ、はぁん!」
「うおぉっ、おおっ、こ、こっちも……くっ、うううっ」
 限界が近づいてきて、重なり合う男女の声が切迫してくる。祐輔は思いっきり深くペニスを突き刺した。子宮に振動が伝わってくる。伍良は噴火を感じ取って、祐輔の背中に手を回していた。

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挿絵:菓子之助

「くっ、うおおおぉぉっ、伍良、好きだ! ふぅ、おおおぉぉぉっ!」 
「ひゃっ、ひゃあぁぁん、熱いのがどんどん流れてくるぅ! あぁぁん、ああっ、お、俺も愛している! はぅうぅ、ああぁぁぁっ!」
 男根が大きく地響きを立てたかと思うと一気に白濁した溶岩を噴出していた。伍良の子宮を白く染める勢いで精液が放たれている。絶頂に達した伍良は一際高い嬌声を発した。精液の奔流を浴びて、蕩けた顔をしている。匂うような色気を発散して、完全に女の顔になっていた。
「どんなことがあっても伍良を守るよ」
「んちゅっ、んふっ、もう放さない……」
 深く繋がったまま、甘い唇の感触に浸る。ペニスは硬いまま伍良に埋まっていた。うっとりとしながらキスを繰り返す。甘い快感の余韻を味わいながら、伍良は女になった幸せを噛み締めていた。

子供の神様 (49) by.アイニス

(49)

 軽い口づけを幾度となく交わす。そのたびに唇が熱く潤った。溜息交じりの熱い息が漏れる。涙の膜で覆われた瞳には、祐輔の姿がますます凛々しく見えた。
「祐輔の好きにして大丈夫だ」
「う、うん、触るよ」
 祐輔の手がぎりぎりのところで伍良の胸で彷徨っていた。おずおずとした手の動きが微笑ましい。伍良が軽く笑って許可を出すと、祐輔は緊張した声で手を押しつけてきた。
「……柔らかい」
「ふううぅっ、祐輔の手の動きが伝わってくるよ」
 伍良はチアガール姿のままだ。薄いユニフォームの上で祐輔の手がゆっくりと動いている。緊張で手が震えている。その振動が伍良の胸にまで伝わってきた。ブラジャーをしているので刺激は強くないが、大きくて逞しい手だとはわかる。
「ああっ、はぁ……」
 僅かな喘ぎ声が漏れた。男の手から熱が浸透してきて、伍良の肺を震わせている。甘く掠れた声を聞いた祐輔は、より興奮したようだ。臆病だった手の動きが大胆になっている。胸を大きく揉まれて、伍良の息が弾んできた。
「んくぅ、あぁん……恥ずかしい声が漏れてきちゃうな。はぁん、ああっ……」
「伍良が女の子の声で悶えている。奇妙な感じがするけど、凄く興奮するよ」
 記憶を取り戻したばかりで、男だった伍良の姿が脳裏に浮かぶのだろう。祐輔は不思議そうな顔をしながら手に力を込めていた。伍良は声を抑えようとするが、甘い疼きが胸に広がって止められない。むしろ喘ぎ声はますます大きくなっていた。
「ひゃぁん、くふぅ……はぁ、はぁ、昔の声を知っている祐輔に俺の喘ぎを聞かれるのは恥ずかしいな」
「いや、もっと伍良の可愛い声を引き出したくなるね。鼓膜に深く染み入る声だ」
「んっ、もう……はあぁん、ああっ!」
 伍良の喘ぎ声に祐輔はうっとりと聞き惚れている。もっと声を導き出そうと指の動きを激しくしていた。少女は羞恥に悶えていたが、甘い声が自然と溢れてくる。おっぱいに与えられた淫靡な熱が全身に広がり出していた。
「ちゅっ、ちゅぱぁ、んふぅ……」
「んんっ、ふはぁ……口の中が甘く痺れる」
 胸を押す熱い衝動に伍良はいきなり祐輔の唇を奪っていた。深く唇を押しつけられた祐輔は驚いて瞬きをしている。伍良は唇を吸いながら舌をちろちろと出していた。唇を舐められて男の呼吸が荒くなる。
「ふぅ、暑くて胸が苦しい」
「ぬ、脱がすぞ」
 伍良の肌が汗で濡れて血色を増している。蒸れた空気がユニフォームから漏れていた。少女の醸し出す甘い体臭を吸って、男の目がギラギラと輝いている。興奮で震える手がユニフォームを脱がしていく。シンプルな空色のブラジャーが露出した。
「今日するってわかっていたら、もっと可愛いのを着たのだけどさ」
 飾り気のないブラジャーだったことを少し後悔する。もっと男が好きそうな下着を着てないことが残念だった。
「十分似合っているよ」
「でも、俺が可愛いのを着るのは変かな」
 男だったことの後ろめたさがあるので、着飾らない方がいいかなとも思ってしまう。
「変じゃない。もっと色んな伍良を知りたいな」
「そ、そうか。努力はしてみるよ」
 手芸を趣味にするようになってから、可愛らしいものが好きになった。祐輔が認めてくれるなら、遠慮しないで心の赴くままに可愛い格好をしたい。
「おっぱいの感触がもっとはっきりしてきたね」
「はあぁん、くふぅ……ああっ、胸がどんどん切なくなるよ。うぅん、はぁ」
 おっぱいを覆うものがブラジャーだけになると、胸に対する刺激が強くなってきた。乳首が充血してきて乳房が張り詰めている。硬くなった乳首がブラジャーに突起を作っていた。祐輔の指が突起を掠めると、乳首がぴりぴりと痺れる。甘い熱が胸の中で渦を巻いて、狂おしい気持ちになった。
「はぁ、はぁ、もっと祐輔の手を感じたい。ブラジャーが邪魔だ」
「ああ、わかった」
 間近で伍良の生乳を見られるとあって、男の喉が大きく鳴る。祐輔は伍良の背後に回るとブラジャーのホックを外した。乳房を覆う布地が外れると、均整の取れた丸い双乳が転がり出る。柔らかい脂肪がプルプルと小刻みに震えていた。
「そんなにまじまじと見られると照れるな。俺も男だったから気持ちはわかるけどさ」
 濃い桃色になった乳首がぷっくりと膨れている。祐輔の熱い眼差しを感じた。大きくなった乳首を見られると恥ずかしいが、血が熱くなるような興奮も覚える。
「うぁ、鼻の奥が熱くなってきた」
「俺の胸っておかしくないよな。どうだろ」
「綺麗な形をしていると思う。触って調べてみるよ」
 祐輔の手がおっぱいに触れると伍良は体をくねらせた。今までと圧倒的に存在感が違う。逞しい男の手を肌で感じた。柔らかい脂肪の中に指が沈んでいく。大きな祐輔の手はおっぱいを包み隠していた。
「ああぁん、んんぅ、はあぁっ……俺の手とは比べ物にならない。ひゃあぁん、はうぅ、力強い波で揺さぶられるぅ、んくぅ、ああっ!」
「凄いなぁ、柔らかくて弾力のあるおっぱいだ。ちゃんとした女の子の胸で何もおかしくない。揉めば揉むほど手が離れなくなるよ」
 乳房を押し包む大きな手が淫らに動いている。おっぱいが男の手の中で弾んでいた。祐輔の手の動きに応じておっぱいが形を変える。膨大な熱が乳房に集まってきて、蒸し焼きにされているかのようだ。

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挿絵:菓子之助

「伍良の首筋からいい匂いがするよ」
「んんっ、はぁ、汗臭くないか。汗を落とさないまま来てしまったから……はうぅん、はぁ」
「必死に応援してくれた汗だろう。むしろ愛しく思えるよ」
「ひゃあぁん、ああぁっ、俺は首の後ろが弱いみたいだ。はあぁぁん、んあっ、ゾクゾクしてくるよ。ああぁぁぁん!」
 首に浮かんだ汗を太い舌で舐められて、伍良は潤んだ目で全身を震わせた。首筋で舌が這うたびに伍良は切なげな嬌声を響かせる。耳の先まで真っ赤になっていた。
「くううぅ、はぁぁ、弱いって言っているのに……」
「伍良の反応が可愛いから」
「はぁ、はぁ、まったく、しょうがないなぁ……んんぅ、ちゅっ、ちゅうぅ」
 潤んで大きくなった目が祐輔を軽く睨んだが、可愛いと言われると全て許せてしまう。ねだるように首を持ち上げると、祐輔が唇を重ねてきた。キスをすると優しい気分になれる。
「はあぁぁん、ああっ、胸の先が燃えるように熱い! んああっ、はうあっ!」
「桃色が濃くなって凄く硬くなっている。おっぱいの弾力が増しているみたいだ」
 伍良の息が落ち着いたところで、祐輔が乳首に手を伸ばした。指の間に乳首を挟んでいる。充血して敏感さを増した乳首に稲妻のような刺激が走った。背筋を通じて甘い電流が股間にまで到達している。パンツの染みが大きくなって、ミニスカートにまで広がりそうだ。
「うはぁ、うわぁ、尻の辺りから感じる熱がどんどん大きくなっている。あはっ、硬いモノが俺の尻を突いてくるよ、はううぅん、ああっ!」
「伍良の乱れる姿を見て勃たないわけがない」
「ははっ、俺の体でちゃんと勃起してくれるのが嬉しいな。ふぅ、はぁ、同じように俺の股間も熱くなっている。触って確かめてみろよ」
「う、うん、わかった」
 祐輔の手がそろそろとミニスカートに忍び込んだ。繊維の擦れる微かな音がして、男の手がパンツに触れる。濡れて重くなった布地から愛液が溢れてきた。
「うわぁっ、信じられないくらいパンツがぐちょぐちょだ。こんなに濡らしていたのか」
「ああぁぁん、はあぁぁっ、祐輔の手が俺の股間を触っているぅ! くううぅ、ああっ、女の体は感じやすくできているのさ、ひゃうぅ、はあぁん!」
 男の手がパンツを撫でただけで秘所から新しい愛液が溢れてきた。パンツから漏れた愛液が男の指を濡らす。ミニスカートから蒸れた空気が溢れ出して、淫靡な女の匂いが空中に撒き散らかされた。情熱的な匂いを嗅いで男の体温が一気に高まる。祐輔もサッカーのユニフォームを脱ぎ捨てて上半身を曝け出した。
「頼もしくて安心できる胸板だ。逞しいな」
 伍良が祐輔に寄りかかって、厚い筋肉で覆われた体を堪能する。男の体温に包まれていると安らぐものがあった。
「はあぁっ、汗の匂いがたまらない」
 女になった脳が汗に含まれるフェロモンでメロメロになる。伍良は大きく息を吸って、男の逞しい匂いを堪能していた。鼻をひくひくさせている間に祐輔がミニスカートに手をかける。伍良が軽く尻を持ち上げると、一気にスカートが剥ぎ取られた。
「ふふっ、これで俺の大事なところを隠すのは布切れ一枚になったな」
「はぁ、はぁ、なだらかな形だなぁ。それに情熱的な匂いがしているよ」
「そりゃ女の子だからな。男の印はもうないぞ」
「本当にすべすべだ。記憶には思い浮かぶのに、手には何の手応えもない」
「うあぁぁっ、ふくうぅ、祐輔の手が俺の股間を這い回っているよぅ」
 祐輔の手が確かめるように伍良の股間を撫でている。愛液が男の指にまとわりつくのを見て、伍良の頬が羞恥で真っ赤に染まる。優しく撫でられているだけで軽く達しそうだ。パンツのクロッチがぐっしょりと濡れていた。
「ひゃあぁぁん、ああっ、ああぁん、お、俺、おかしくなっちゃうよぅ!」
「どんどん汁が溢れてくるから指がべとべとになってきた。まるで洪水だね」
「はううぅ、んんぅ、ゆ、祐輔がじっくり撫でるからだぁ。くううぅん、はうあっ!」
 伍良は細い首を揺らして甘い嬌声を放ち続けた。足腰から力が抜けてしまいそうだ。べちょべちょに濡れたパンツが股間に張りついている。ぷっくりとした秘所の形が浮かんでいた。

子供の神様 (48) by.アイニス

(48)

 準優勝でも快挙には違いない。祐輔が戻ってきたら笑顔で出迎えるつもりだった。
「あれ、おかしいな」
「……約束を守れなくて、ごめん」
 笑うつもりだったのに、祐輔の顔を見た途端に涙が溢れてきた。手で押し留めても、ポロポロ流れ落ちてくる。本当に無念なのは祐輔のはずなのに涙が止まらない。
「本当にごめん」
「あっ!」
 伍良の泣き顔に耐えられなくなって、祐輔は逃げるように走り去った。まるで伍良に責められたように感じたのだろう。敗者に鞭打つような真似をしてしまった。
 涙を拭いて伍良は祐輔を追いかけたが、喫茶店のマスターに家に入れてもらえなかった。
「ごめんね、伍良ちゃん。今日はそっとしておいてもらえるかな」
「……わかりました」
 マスターに説得されて一応は引き下がったが、それで諦めるような伍良ではなかった。
「瑞穂、力を貸してもらえるか」
(構わぬぞ。恋の成就も妾の仕事じゃ)
 瑞穂に協力を確約してもらってから、伍良は暗くなるのを待った。裏手から壁を這い登って、屋根伝いに祐輔の部屋を目指す。
「窓のロックを外して、音が外に漏れないよう頼むよ。マスターに気づかれたくないからさ」
(それくらいお安い御用じゃ)
 祐輔の部屋は薄暗いままだった。晩秋の弱い夕日が窓から入るだけだ。ベッドには膝を丸めて俯く祐輔の姿がある。伍良の存在にはまだ気づかないらしい。忍び足で部屋に入ると、伍良は照明のスイッチを押した。
「えっ、伍良?」
 照明の光に気づいて祐輔は顔を上げた。伍良がいることに驚いている。
「今日はお疲れ様。それに準優勝おめでとう。本当に頑張ったな」
「あんなに応援してくれたのにすまなかった。約束を守れないんじゃ彼氏失格だな」
 伍良は励ますような声を出したのだが、祐輔の顔色は沈んで暗いままだった。沈鬱な声をしている。
「もう謝るなよ。それに謝らなくちゃいけないことなら俺にだってある」
「伍良が謝るようなことなんてないだろ」
「俺の事情で祐輔に無闇なプレッシャーを与えてしまった。それが原因で動きに精彩を欠いただろ。悪かったよ」
「決勝戦だからプレッシャーがかかるのは当然だ。伍良が気に病む必要はないよ」
 落ちこんでいるにも関わらず祐輔は優しい。だが、これからする話を聞いたら祐輔の態度が変わるかもしれない。それが怖くはあったが、ずっと隠したままでは祐輔と向き合えないと思った。
「それとさ、本当は俺の方が彼女失格なんだよ。祐輔を騙している、いや、隠していることがあるんだ」
 伍良の声が硬くなった。緊張で体が震えてきそうだ。伍良の変化を感じ取って、祐輔が怪訝な顔をする。
「伍良は気立てが良くて可愛くて行動力もある女性だよ。正直俺にはもったいないくらいだ。それに人間なら隠し事の一つや二つくらいはあるよ」
「あまり褒め殺すなよ。決意が鈍るじゃないか」
 べた褒めされた伍良は少し苦笑した。大きく息をしてためらいを吹き飛ばす。
「俺は優しくて男前な祐輔が好きだ。約束なんて関係なしに付き合いたい。でも、俺の過去を知ったら、祐輔は敬遠すると思う」
「そんなことない。どんな事情があっても俺は伍良が好きだ。その気持ちに偽りはないよ」
「ありがとう。でも、これからする話を聞いて結論を出して欲しい」
 緊迫した伍良の表情を見て、祐輔は真剣な顔になった。一言一句も聞き逃さないよう集中している。
「俺はさ、本当はこの姿じゃなかったんだよ」
「それは美容整形でもしたってことか。そんな覚えはないけどなぁ」
「いや、そもそも俺は女の子じゃなかったんだよ」
「は? 確かに昔から伍良はやんちゃで男の子っぽかったけどね。まぎれもなく女の子だった」
 祐輔の記憶は改変されているので、伍良は最初から女の子だったことになっている。伍良の言葉に戸惑うのは当然だ。
「俺が男だったから、子供の頃から祐輔と泥塗れ、草塗れになって一緒に遊んでいたと考える方が自然じゃないか。それに女の子なら俺の名前は変だろ。疑問に思わなかったか?」
「えっ……言われてみると確かに。指摘されるまでおかしいと思ってなかった。あれ、伍良って男の名前だよな。で、でも、子供は名前を選べないだろ」
 祐輔は動揺して納得のいく理由を探していたが、説得力のある答えを見つけられずにいた。
「俺は罰当たりなことをして神様に呪われたんだ。何とか仲直りはしたけど。これから神様に頼んで俺に関する記憶を戻してもらうよ。俺の話だけじゃ半信半疑だろうからさ」
「わ、わかった」
(ほ、本気か? 話すだけにして、伍良の元の姿まで思い出させなくてもよかろうに)
 伍良の頼みを聞いて、瑞穂が頭の中で大声を出す。呆気に取られたようだ。
「頼むよ。そうでなければ、俺は前に進めそうにない」
(仕方ないのぉ。正直というか、馬鹿というか。やれやれじゃわい)
 呆れたように笑って、瑞穂は伍良の頼みを承諾してくれた。伍良も自分のことが馬鹿だなと思う。でも、恋人には偽ったままでいたくない。
(では、祐輔の記憶だけ戻そう)
「驚くなとは言わないけど、慌てないでくれ」
「努力はするよ」
 祐輔は不安そうな顔で頷く。瑞穂が力を放つと祐輔は眠気に襲われたように頭を左右に振った。目蓋がゆっくり閉じられてベッドに倒れていく。祐輔は眠っているようだった。
「大丈夫なのか?」
(すぐに目を覚ます。多少は記憶の混乱があるだろうがなぁ)
 祐輔が目を覚ますまでの時間がやけに長く感じられた。手に汗が滲んでいる。心臓が激しく鼓動していた。
「う、ううっ……」
 瑞穂の言葉通り、五分も経たないうちに祐輔は目を覚ました。夢を見ていたかのようにぼんやりとした顔をしている。伍良はじっと祐輔の意識が覚醒するのを待った。
「……伍良だよな?」
「そうだ」
 多少は混乱しているようだが、祐輔は落ち着いているように見えた。
「記憶が戻ったよ。どうして記憶違いをしていたのか不思議だ」
「それが神様の力ってことだな」
「神様の力、呪いで伍良は女の子になったわけか」
「ああ、俺は元々男だったわけさ。男だったのに女の振りなんかしてさ。気味が悪いだろ」
 伍良は自嘲気味に笑った。女の立場を利用して、喫茶店でバイトをした。サッカー部の連中の好意を利用して材料を集めた。男だったにも関わらず、男を好きになってしまった。どれも気味が悪い話だろう。
「そうかな。どんな状況でも伍良が頑張っていたのはわかるよ。伍良が喫茶店のバイトをしてくれたお陰でうちの家族は助けられたんだ」
「で、でも、俺は男だったんだぞ」
 思ったよりも祐輔が冷静だったので、逆に伍良が感情的になってしまった。何か文句でも言ってくれた方が落ちつけた。
「今の伍良は女の子だよね。それでいいじゃないか」
「よくない。記憶が戻ったなら、俺が男だった頃の姿も思い出しただろ」
「そうだね。姿だけじゃなくて合宿で一緒に風呂に入ったこととか、キャンプで立ち小便をしたこととか、色々思いだしたよ」
「わ、わざわざそんなことまで口にしなくてもいい。それならなおのこと、俺のことが気色悪いだろ」
 祐輔と一緒にした行為を思い出して、伍良の顔は羞恥に染まった。
「伍良の性格が変わったわけじゃないからなぁ。それに男だった頃から伍良のことは好きだったよ」
「えっ」
「変な意味じゃないから。友人として好意を持っていたという意味だよ」
 伍良が引きつった顔をしたのを見て、祐輔が慌てて説明を加える。祐輔が男好きだったかと勘違いしそうになった。
「だから何も変わらない。伍良が元男であっても好きだよ」
「気の迷いや同情じゃないよな?」
「うーん、どうやったら信用してもらえるかな」
「俺も祐輔のことは好きだ。もっと好きになりたいと思う。だからこんな男女でも構わなければ抱いて欲しい」
 伍良がおずおずしながら伏し目がちに祐輔を見る。頬が熱くなっていた。
「それが証明になるならそうする。でも、初めてだから下手なのは勘弁してよ」
「うん、祐輔との絆が欲しい」
 どちらからともなく唇を近づける。祐輔と唇が触れ合った瞬間、伍良の体が甘く痺れた。唇が触れるだけの初心なキスだが、伍良は陶酔感に包まれていた。

子供の神様 (47) by.アイニス

(47)

「もちろん瑞鳳からの寄付金だけで神社の再建が決まったわけではありません。伍良さんの研究成果を使って、私も地道に姉上様のことを広めていました」
 瑞樹によるとお年寄りはまだ瑞穂神社のことを覚えている人が多かったようだ。そこから影響力を広げることで、役所にまで話を持っていくことができたらしい。役所から僅かではあるが助成金も出るという話だった。
「一度市長さんが視察でこちらを訪れましたよ。巫女の振りをして話をしたら、姉上様にかなり関心をお持ちのようでした」
 市長も乗り気なようなら、神社の再建はほぼ間違いないだろう。その時に撮ったという写真を見せてもらうと市長の顔に伍良は見覚えがあった。年配で物腰が柔らかそうな人だ。
「あれ、この人って」
 確か伍良が文化祭で瑞穂神社について説明した人だ。伍良の自由研究のことを知って、わざわざ顔を見に来たのだろう。賞状を見返すと市長の名前が書かれていた。
「神社の再建が叶ったのは、伍良さんの努力が実ったからです。これで男に戻れますよ」
「う、うん、そうですね……」
 伍良は歯切れの悪い返事を返した。半年前なら大喜びだったのに、今は心に大きな黒雲が広がっている。瑞樹は伍良の様子を怪訝な顔で見ていた。

 神社からの帰り道、伍良は浮かない顔で石段を下りていた。考えがうまくまとまらない。
「妾の神力が回復したとしても、伍良は男に戻らなくてもよいのだぞ」
 瑞穂が伍良にかけた声は優しかった。
「わかっている、わかってはいるけど、俺が後ろめたいんだよ。元に戻れるのに女のままでいたいなんて変じゃないか」
「男を好きになったからには仕方あるまい。それに祐輔との約束を破る気はないのだろう」
「そうだけど……」
 サッカー部が地区優勝したら、祐輔と恋人になるという約束をしている。それを裏切る気にはなれない。
「ならば悩むこともあるまい。今は応援に専念すればいいではないか」
「う、うん」
 伍良の返事は煮え切らなかった。男だったのを偽って祐輔を騙している気がする。男に戻れるというならなおさらだ。結局は答えが見つからず、結論を先延ばしにするしかなかった。

 サッカーの準決勝。母校のサッカー部は前半に得点して、終始リードのまま試合を進めた。試合前は不安な顔をしていた伍良だが、祐輔がシュートを決めると元気になった。グラウンドで活躍する祐輔は見惚れるような恰好良さだ。女でなくても目を奪われると思う。
「おめでとう、あと一試合だな」
 準決勝に勝利した祐輔が戻ってくると伍良は笑顔で出迎えた。この調子のままならサッカー部は優勝するだろう。約束を守るということで、伍良は女でいられるはずだ。
「おいおい、まだ全国があるよ。次の試合で一区切りだけどさ」
「そうだったな、頑張れよ」
 地区優勝が決まれば、そこがゴールのような気がしていた。目標が小さくなっていることに気づいて、伍良は少し赤面する。全国優勝という大きな目標を掲げる祐輔が男前に思えた。

 伍良にとっては決勝戦が始まるまでの一週間がやけに長く感じられた。授業にも部活にも身が入らない。手芸部で作品を作っていても、心が入っていなかった。
「決勝戦が終わるまで伍良君は使い物になりそうにないね」
 つまらない失敗を繰り返す伍良を見て、水咲がしょうがないなぁという顔をしていた。
「そりゃ優勝できるのが一番だろうけど、仮に破れたとしても伍良君が振られるわけじゃないでしょ。そこまで深刻にならなくてもいいじゃん」
「そうだけどさ……」
 水咲の言い分はもっともだと思う。勝とうが負けようが祐輔と恋人になればいい。それだけの話だが、伍良の方から祐輔と付き合うとなると、男だったという過去が暗い影を落とすのだ。
 もしサッカー部が破れたとしたら、伍良が男に復帰して来年チャンスを掴むということもできる。むしろそれが正しいかもしれない。
「駄目だ。祐輔を諦めるのは辛い」
 伍良としてはサッカー部が優勝して、自動的に祐輔と恋人になれれば楽だった。それならサッカーの世界で活躍するという夢を託して、伍良は女の子のままでいられる。週末が訪れるまで、伍良は繰り返し溜息を吐いていた。

 そろそろ冬が間近に迫ってきて、ミニスカートでは寒い季節だ。いよいよ決勝戦。空は青く澄み切っていたが、やや風がある。伍良の隣でチアガール姿の水咲が手を擦り合わせていた。
「絶対に負けるなよ」
「大丈夫。勝ってくるさ」
 試合前日、伍良は蒼白な顔で祐輔に何度も訴えた。祐輔は力強く請け負ってくれたが、伍良の不安は去らない。サッカー部の面々よりも緊張した面持ちだった。
「頑張れ、頑張れ! 負けるな、負けるな!」
 決勝戦ともなるとお互いの母校の生徒と父兄が応援に駆け付けていた。応援合戦でグラウンドに大声が響き渡る。試合が始まると、さらに声が大きくなった。
 伍良も水咲も全身を動かして声を枯らして応援した。
 相手チームも決勝戦に残った強豪だ。それでも僅かなチャンスを繋いで祐輔にボールが渡る。
「惜しい!」
 祐輔のシュートはゴールポストに跳ね返された。伍良が悔しそうに呻く。
「俺なら決められたのに……」
 ゴールを守るのはキーパーしかいない状況だった。それを外すなんて許せないと思ってしまう。
「外から見ているだけなら幾らでも言えるよ」
「うっ、そうだな。ごめん、変に熱くなっていた」
 伍良の独り言を聞いて、水咲が険しい顔をする。その通りだ。スポーツに絶対はない。苛立ちのあまり、つまらないことを口走っていた。
「あたしたちは応援に力を入れよう」
「おうっ、精一杯声を出すぜ」
 伍良は一心不乱にサッカー部を応援した。その熱気が伝わったのか、何度かチャンスが訪れる。だが、惜しいところで得点にならない。伍良の目には得点に繋がる位置にいるフォワードの二人の精彩が欠くように思われた。動きにキレがない。
「あっ、あーっ!」
 悲鳴のような声が母校の応援席から流れる。押している展開にも関わらず、相手チームにシュートを決められてしまったのだ。伍良の血が凍ったように冷える。時間がまだ残っているのに、膝から崩れ落ちそうになった。
「まだチャンスはあるよ!」
 水咲に励まされて伍良は平衡感覚を取り戻した。そうだ、祐輔の活躍を信用しないと。伍良は懸命に手足を振って応援を飛ばす。だが、点を取られたことでますますフォワードは焦ったようだ。伍良が監督だったら選手を入れ替えただろう。
「はーっ、はーっ」
「水分補給をしないと倒れるよ」
 声を振り絞ったので、喉が枯れて痛くなっていた。水咲に声をかけられて疲労を認識する。伍良の手足は熱を持って重くなっていた。水咲が心配して水筒からお茶を渡してくれる。お茶を飲んでしまうと疲れで伍良は動けなくなった。
「もう時間がないのに……」
 唇を噛み締めて試合を見守る。刻一刻と時間が過ぎていくが、得点に変化は見られなかった。
(伍良よ、祐輔を勝たせたいのだろう。妾にはこの試合の流れを変える力があるぞ。伍良が望むなら力を貸そう)
 残り時間が僅かになって、瑞穂が静かに声をかけてきた。伍良には神ではなく、悪魔の誘惑に聞こえた。あまりに甘美な誘いだった。
(伍良を男に戻さないならば、妾には十分な力が回復しておる。何度も試合を見たから、不自然ではない形で勝たせることは可能だぞ)
 重ねて瑞穂が伍良に呼びかける。誰も疑問を思わないように勝たせられるなら、それもありかもしれない。
「……駄目だ」
(何故じゃ?)
 誘惑に屈しそうになったが、伍良は掠れた声で答えた。瑞穂が冷静な声で問い返す。
「相手チームだってこの地域の学校だ。文化祭で来てくれた人もいるだろうから、瑞穂の力になっているよ。神様が裏切っちゃ駄目だろ」
(そうかもしれん。だが、妾は伍良を助けたいのじゃ。身近な人を助けたいと思うのは当然であろう)
「それに俺はサッカーから遠ざかったけど、反則はしたくないんだ」
(誰も反則だとわからないのだぞ)
「俺と、それに瑞穂がわかっている。嘘に嘘を重ねるような真似はしたくない。胸を張って祐輔と付き合えなくなるよ」
(そうか、そうじゃな……)
 苦笑が混じった声で瑞穂は引き下がった。瑞穂の誘いを蹴ったことで、伍良は全ての力が抜けそうになる。今からでも助けてくれと叫びたかった。
 無情にもホイッスルの音が鋭くグラウンドに響き渡る。勝敗は決したのだ。

子供の神様 (46) by.アイニス

(46)

「文化祭の最中は楽しもうぜ」
 二回戦も無事に祐輔のチームは勝ち上がっていた。祐輔は一得点して勝利に貢献している。週末にも試合はあるが、文化祭では気を抜いてもいいだろう。
「そうだね。喫茶店をやっている教室で息抜きをしよう」
「喉が渇いているからちょうどいいな」
 伍良は文化祭の準備に追われて、出店のチェックをろくにしてない。祐輔に誘われるまま、生徒が出している喫茶店に向かった。
「ここがそうか」
 教室の前の飾りつけに変わったところはない。平凡な喫茶店だと思って入ったのだが、注文を取りに来たウェイトレスの姿を見て驚いた。
「何を注文しますか?」
 丁寧だが野太い声だ。体格のいい男子生徒がウェイトレスの姿で給仕をしていた。どうやら女装喫茶らしい。ギャップによるウケ狙いのようだ。ウェイトレスをしているのは運動部が多い。サッカー部の連中も混じっていた。
「笑える恰好だよなぁ。うちの喫茶店の制服を参考にしたみたいだ」
「そ、そうか」
 筋肉質な男子生徒のちぐはぐな格好を見て祐輔は面白がっている。周りの客もそれなりに楽しんでいるようだ。もっとも、伍良は笑えなかった。
(俺も似たようなものじゃないか)
 外見が女になっているだけで、伍良の心は本物の女性とは違う。真似をしているだけという気がした。女としては贋物だ。男子生徒のウェイトレスと何ら違わない。バイトをしている喫茶店の制服に似せてあるので、伍良はウェイトレスに男だった頃の姿を重ねていた。日常的に目にしたら気味の悪い格好だと思う。
「伍良の口に合わなかったのか。文化祭で出すケーキなんて出来合いのものだからなぁ」
「砂糖が多そうだと思って。最近ダイエットを意識しているからさ」
 注文したケーキが届いても、伍良は一口食べただけだ。気分がもやもやして吐き気がしていた。祐輔の皿は空になっている。気遣ってくれる祐輔に伍良は女の子っぽい言い訳をした。ここのところ食が減っている言い訳にもなるだろう。
「伍良は太ってないと思うけどなぁ。それにどんな姿でも嫌いにはならないよ」
「……そんなことないだろ」
 思わず口の中で小さく呟く。男のままだったら、祐輔が伍良を好きになることはない。祐輔との仲が深まるにつれて、騙しているような罪悪感が大きくなっていた。
「何か言った?」
「いや、何でもない。悪いけど祐輔が食べてくれよ」
 伍良の呟きは祐輔に届く前に消えていた。祐輔は不思議そうな顔で伍良を見ている。伍良は軽く首を振って、ケーキを祐輔の前に差し出した。
 女装喫茶を出ても暗い感情は残ったままだ。祐輔と一緒に文化祭を回っても、素直に楽しめなかった。

 文化祭が終わると、伍良はサッカー部の応援に専念した。伍良が必死に応援したのは、後ろめたさを隠したかったかもしれない。サッカー部は順調に勝ち進んで、準決勝にまで駒を進めていた。
「夏休みが終わってから瑞樹神社に顔を出してないなぁ。サッカー部の勝利を祈りに行くかな」
(わかっておると思うが、祈っても効果はないぞ。そもそも信仰の分野が違うわ)
「気分の問題だよ」
 瑞樹神社のある山は紅葉で赤く染まっていた。そろそろ肌寒い季節だ。
「山に入ると寒いな。寒さがこれから厳しくなってくるし、祐輔に手袋とマフラーでも編んでやるかな」
 手編みの品をプレゼントできるなんて、下手な女よりも女らしいはずだ。祐輔が喜ぶ姿を思い浮かべると、外は寒くても心は温かくなってくる。
「秋らしくなってきたのぉ」
「瑞穂の格好は秋とは縁遠いけどね」
 瑞樹神社の石段に到着すると、瑞穂が伍良の体から出てきた。秋だというのに浴衣姿なので寒々しく思える。
「ならばこれでよかろう」
 瑞穂が手を振ると、浴衣が赤い着物に変わっていた。紅葉にマッチした衣装だ。
「それなりに力は回復したから、これくらいは容易いぞ」
「ふぅん、神様っぽいな」
「神様じゃからな」
 瑞穂の姿は童女のまま変わらないが、神々しさが漂っていた。微かに体が光っているような気がする。瑞穂だとわかっていても、崇めたくなる品格があった。
「よくいらっしゃいました」
 石段を登ったところで、瑞樹が微笑みながら出迎えてくれた。
「今日はいい報告に来たんですよ」
「奇遇ですね。私からもいい知らせがあります」
 伍良には聞いてもらいたい話題があったのだが、瑞樹も同じだったらしい。顔から喜びが溢れていた。かなりいいニュースのようで、伍良も話を聞くのが楽しみになる。
「まずは伍良さんの話から聞かせてください」
 瑞樹がお茶を淹れたところで伍良に話を促してきた。
「先日の自由研究が認められて、賞が取れましたよ。色んな人が瑞穂のことを知ってくれたわけです」
 伍良は真新しい賞状を机に広げた。高校生になってから表彰されたのは初めてだ。しかも、学問的なことで認められるとは思わなかった。瑞穂のことを調べるのは大変だったが、その成果が認められて嬉しい。
「おめでとうございます。私も我が事のように嬉しいですよ」
 姉に関連したことでもあるので、瑞樹は心から喜んでくれた。
「姉上様のことを知るということは、私を知ることにも繋がりますからね。ここのところ私に対する信仰も上昇しているようです」
 夏休み中よりも瑞樹の顔色が輝いている気がする。少しは教えてもらった恩も返せたようだ。
「それでは瑞樹の話も聞かせてもらうとしよう。話したくてたまらない様子じゃからなぁ」
「さすが姉上様。見抜かれてしまいましたか」
 瑞穂に指摘されて、瑞樹が恥ずかしそうに笑う。喜びを抑えかねているようだ。
「まだ本決まりではないのですが」
 前置きをしてから、瑞樹が話し始める。伍良は楽しみにしながら耳を傾けた。瑞樹の様子を見る限り、素晴らしいニュースなのだろう。
「姉上様の神社が再建される見込みがついたのです」
 興奮した様子で瑞樹が喋り始める。だが、伍良は氷の刃を心臓に突きつけられた気分になった。これで男に戻れる可能性が強くなったのだ。
「ほぅ、喜ばしいことだが、すぐには信じられぬ。どういった事情なのじゃ」
 神社が再建されると聞いても、瑞穂は冷静な様子で聞き返していた。伍良の事情がわかっているので、瑞穂も素直に喜ばなかったのだろう。喜びを共有しない二人に瑞樹は戸惑ったようだ。
「は、はい。実はずっと再建の為の寄付を募っていたのです。それで先日、かなり大口の寄付を頂いたのですよ」
「名を忘れ去られようとしている神に寄付するとは、奇特な人間がいたものじゃ」
 話を聞いて、瑞穂は不思議そうな顔をしている。伍良は顔を青ざめていた。気温がいきなり下がった気がする。なんで今寄付したのかと相手を責めたくなった。あと一か月も違えば事情は異なっていたはずだ。
「寄付したのはラーメン店を運営している瑞鳳(ずいほう)という会社ですね」
「知らん名前じゃ」
「元々の名前は大鳳といったようです。改名したようですね」
「……その名前には聞き覚えがある」
 瑞穂は知らなかったが、大鳳という名前に伍良は聞き覚えがあった。確か地元のラーメン屋で瑞穂と一緒に食べに行ったところだ。
「おうおう、あの店か。覚えておるぞ。また行きたいものじゃ」
 それを話すと瑞穂も思い出したようだ。ラーメンの味を思い出して、相好を崩している。
「大繁盛しているラーメン店のようですよ。支店も出して一気に拡大したようです」
「それだけの腕はあったからのぉ」
「噂によると、子供の姿をした神様が訪れた店ということですよ。その神様にあやかって、店の名前も変更したようです。姉上様に心当たりはありますよね?」
「あるにはあるが、妾はささやかな加護を与えただけじゃ。店が繁盛したのは店主の努力が実ったからだと思うぞ」
 意外なところからの寄付で瑞穂は驚いていた。伍良もまさか一度だけ訪れたラーメン店が関わってくるとは思わない。完全に意表を突かれていた。

子供の神様 (45) by.アイニス

(45)

 伍良が自由研究を発表してから、学校の話題は瑞穂で独占されていた。休み時間になると瑞穂の話を聞こうと学年を問わず人がやってくる。
「まさか部室にまで人が来るとは思わなかったなぁ」
 手では文化祭用の作品を作りながら、伍良の口は瑞穂のことを喋っていた。瑞穂の話をもっと聞こうと、手芸部の部室にまで人が押しかけてきたのだ。最初は数人だったので問題なかったが、今は部室が狭く感じるくらいに人が集まっている。部員に申し訳なかった。
「人が集まっても迷惑にならない場所を探してくるよ」
「私も先輩の話を聞くのは好きですから、そのままで構いません」
 騒がしくするわけではないが、部外者の存在は目障りだろう。伍良は部室から移動しようと思っていたのだが、後輩に引き止められて驚いた。寡黙な子で伍良とはあまり喋ったことがなかったからだ。
「文化祭の前なのにみんな集中できないだろ」
「問題ないですよ」
「先輩の話を聞くのも好きですけど、作品を作っているところも近くで見たいですから」
 判断に迷った伍良が困惑気味に尋ねてみると、部員の誰もが好意的な返事をしてくれた。
「あたしも瑞穂の神様について聞くのは好きだからね。それに瑞穂ちゃんとの関係も気になるなぁ」
 水咲も賛成に回ってくれた。伍良の話と一緒に手芸部の活動を見て、入部希望者が増えたことも理由の一つだろう。だが、瑞穂神社と瑞穂の関係について聞かれて、伍良はドキッとしていた。瑞穂のことを知る水咲が、同じ名前の神様と関連があると思うのは当然だった。自由研究の発表や文化祭の準備で頭がいっぱいで、つい水咲のことを失念していた。
「ミサキチが会ったこともある瑞穂は、瑞穂神社に関わりのある子だよ。今の瑞穂神社は寂れてしまったからさ。それで生活が苦しかったみたいだ」
「なるほどね。神社の家の子だったんだ。古風な喋り方をすると思ったよ」
 嘘にはならないぎりぎりのところだろう。まさか神様本人だと明かすわけにもいかない。深く事情を詮索されてら、伍良も困ってしまう。瑞穂との関係には女になった事情が含まれるからだ。男だったと知られるのは恐怖だ。同情も敬遠もされたくない。
「少しでも瑞穂神社のことを知る人が増えれば、瑞穂の家も家運が上向くかなと思っているんだ」
「瑞穂ちゃんの為になるならあたしも協力するよ。文化祭の時に作品を展示するだけじゃなくて、瑞穂神社について紹介するのもいいと思う。スペースは余っているからね」
(水咲は相変わらず優しいわ。直接会って礼を言いたくなるぞ)
「……頼むから出てくれるなよ」
 今にも瑞穂が体から出てきそうで、焦った伍良は小声で引き止めた。うまく水咲を誤魔化せたのだ。ここで瑞穂が現れたら、話が滅茶苦茶になってしまう。
 準備が増えるのは大変だが、文化祭には学校を解放して色々な人が訪れる。校外の人にも瑞穂のことを知ってもらう機会が得られるのは好都合だった。
(心配せんでもわかっておる。水咲と会う機会が欲しいとは思うがなぁ)
 水咲の顔をほぼ毎日見ていても、会話ができない瑞穂は面白くないらしい。拗ねた声には寂しさも混じっていた。

 喫茶店のバイトが終わって用意された食事がなかなか食べ進められなかった。マスターの腕が落ちたというわけではない。人よりもやや多いくらいの分量で満腹になってしまったのだ。
「伍良ちゃんは体調でも悪いの?」
「そ、そんなことはないですよ。マスターの料理も美味しいですし」
「無理することはないからね」
 残すのも悪いと思ってハンバーグを頑張って一切れ食べたが、それでもう限界だった。胃が逆流しそうな気がする。
「伍良が無理そうなら代わりに食べるよ」
「う、うん、食いかけで悪いな」
 伍良が無理そうなのを見て、隣にいた祐輔が助け舟を出してくれた。祐輔もかなり食べていたはずだが、伍良の残した料理を嬉々として食べている。運動部だけあって見事な食べっぷりだ。
「あっ、俺のナイフとフォーク……」
 祐輔は伍良が使っていた食器でハンバーグを食べていた。間接キスになってしまったので、ちょっと恥ずかしい。ニヤニヤしながらマスターは伍良の様子を見ていた。

「ここのところあまり俺が食べられなくなっているけど、瑞穂の調子でも悪いのか?」
 朝も夜も今までと比べるとそんなに食べられなかった。マスターだけでなく両親も伍良の体調を心配していた。
 大食いの瑞穂に問題が生じたのではないかと不安になってしまう。ここ最近は何もかも順調だと思える毎日だったので、瑞穂の異変が気がかりだった。
(むしろ逆じゃ。食事で力を補わなくても、存在に必要な力が入ってきておる。伍良が毎日のように妾のことを語っているからな。妾に興味を持つ人間が増えたのじゃ)
「ああ、そういうことか。驚かすなよ」
 理由がわかって伍良は安心した。瑞穂の力はどんどん回復しているようだ。常に空腹に悩まされる状況から解放されれば助かる面が大きい。女の子が大食いというのも、世間一般では聞こえが悪いだろう。
「……俺を男に戻せるくらいの力はあるのか?」
(それはまだ無理じゃ。消滅を覚悟の上で行ったとしても分が悪いのぉ。むしろ混乱を引き起こすことになりかねん)
「聞いただけだからさ。瑞穂に無理をさせる気はないよ」
 瑞穂の力が回復していても、男に戻れないと知って伍良は安堵の部分が大きかった。もっと可能性が高かったら、瑞穂について語るのをやめたかもしれない。一瞬だけ悪いことを考えていた。
「今男に戻ったとしても、練習が足りないから試合に出るわけにはいかないからなぁ」
 伍良は半ば無意識に男に戻らない理由を自分に言い聞かせていた。-

 九月中旬になって、文化祭が開催された。部室は手芸部の作品が展示され、木製のボードには瑞穂神社の歴史が貼られている。バイトもあるので伍良の準備はぎりぎりだったが、水咲も手伝ってくれたので無事に間に合うことができた。
 一段と目立つのは伍良の作品だった。何しろ大きい。幼稚園児ほどもある。子供の瑞穂をモチーフとしたぬいぐるみだ。ちゃんと手縫いの浴衣も着せている。生意気なところもある本人と比べると、ぬいぐるみの表情はかなり愛らしい。
「どうぞご覧ください」
 まばらではあるが、来場客が部室を訪れる。割合としてはやはり女性客が多い。
 展示物の紹介は部員が交代して行うことになっていた。今は伍良と水咲の番だ。
「瑞穂神社に興味を持ってくれる人もそれなりにいるみたいだね」
「頑張って作った甲斐があったよ」
 自由にお持ちくださいと書いて、瑞穂の逸話について印刷した紙を置いてある。手芸とは関係ないことだが、来場客の半分くらいは手に取ってくれた。
「熱心に見てくれた人もいたからな」
「伍良君に質問をした年配の方だよね? どこかで見た覚えがあるよ。誰だったかなぁ」
 年配客に瑞穂神社について質問されて、伍良はかなり詳しく説明したのだ。何しろ暇な時間の方が多い。喋っている方が退屈をしのげた。
「うーん、他人の空似だったのかな」
 水咲は年配客に見覚えがあったようで、しきりに首を傾げていた。
「少し早かったかな」
 交代時間がそろそろというところで、祐輔が部室に伍良を迎えに来た。待ち合わせは違う場所だが様子を見に来たらしい。
「後輩がもうしばらくしたら来ると思う」
 水咲にはともかく、祐輔と一緒にいるところを後輩に見られるのは何となく恥ずかしい。
「交代まであと僅かだからね。あたし一人で大丈夫」
「すまないな」
 伍良が困った顔をしていると、水咲が助けてくれた。本当に水咲には頭が上がらない。
「それじゃ行こう」
 祐輔の手を引っ張って部室を出る。その直後に後輩が部室に戻ってきた。現場を見られたらあとで冷やかされそうなので間一髪だった。

子供の神様 (44) by.アイニス

(44)

 抜けるような青空で日差しが強かった。秋に入ったとはいえ、夏の気配が残っている。じっとしていても汗ばんできそうだ。
「伍良君を応援するとは言ったけどね」
 空は澄み切っているというのに、伍良の隣にいる水咲は釈然としない顔だった。
「まさか本当に応援することになるとは思わなかったよ」
「今度パフェでも奢るからさ」
 伍良と水咲は青いチアガール姿だった。目の前のグラウンドではサッカーの地区大会が行われようとしている。伍良の学校には応援団はないので、自主的にユニフォームを用意して駆けつけたのだ。微力でも祐輔とサッカー部の力になりたかった。
「サッカー部が地区大会で優勝したら、祐輔君と付き合うことになるんだっけ。別にそんな条件はいらないと思うけど」
「恰好いいところを見てもっと好きになりたいからな」
「はいはい、御馳走様。伍良君の恋路を助けると思って、精一杯サッカー部を応援するよ」
 水咲は顔に苦笑いを滲ませながらも、伍良の為にやる気はあるようだ。一人でチアガール姿になるのは恥ずかしかったので、水咲の存在はありがたい。女になってからずっと助けられていると思う。
「伍良君は祐輔君をずっと見ているね」
「試合用のユニフォームを着るとますます男前に見えると思って」
「……こりゃ重病だ」
 サッカー部の面々は気合の入った表情をしていた。チアガールの存在には気づいているだろうが、表情を緩めることはない。祐輔が一割増しで凛々しく見えた。
「フレーッ、フレーッ!」
 試合が開始すると伍良は声を張り上げて応援した。即席のチアガールなので、他校の見様見真似でポンポンを振る。伍良が大きく足を上げると、ミニスカートが翻って健康そうな太股が躍動した。

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挿絵:菓子之助

 試合は一方的な展開だった。初戦の相手はあまり強くないこともあって、母校のサッカー部は有利な試合運びだった。
「やった、やった!」
「凄い、生で見ると迫力が違うね」
 初得点を決めたのはフォワードの祐輔だった。興奮した伍良は飛び上がって水咲に抱きつく。体が痺れて熱くなっていた。
「俺もサッカーがしたくなるなぁ」
 祐輔の活躍を心から喜んでいたが、伍良もフィールドに立ちたくなった。本来なら祐輔のポジションに伍良がいただろう。試合を見ると血が騒いで、サッカー部だった頃の気持ちが蘇っていた。
「勝ったね」
「ここで負けたら話にならないからな」
 危なげなく祐輔のいるサッカー部は勝利を収めていた。祐輔は二本シュートを決めて、三点差をつけて第一試合は終わった。実力が伯仲した試合ではなかったが、伍良はサッカーがしたくてたまらない気持ちになった。チアガールで思いっきり汗を流したのに、今からでもサッカーがやれそうだ。
「あたしは先に帰るからね。伍良君は祐輔君と帰ればいいと思うよ」
「悪い」
 水咲は一足早く家に帰った。気遣ってくれた水咲の友情に伍良は感謝する。
「応援してくれてありがとう。励みになったよ」
 試合が終わってから祐輔が伍良のところに来た。申し分ない活躍をしたので、満面の笑顔を浮かべている。
「まずまずだったじゃないか」
 意地っ張りな部分が出て、手放しで褒めるのが少し恥ずかしい。それにサッカー少年だった嫉妬も混じっている。微妙な心情だったのだ。
「伍良の見ている前で恥ずかしい姿は晒せないからな」
 日焼けした顔で爽やかに笑う祐輔は凛々しかった。内心の複雑な心境を忘れて、伍良は惚れ惚れしそうになる。祐輔の湿った髪から漂う汗の匂いが好ましい。
「俺が応援しているんだから当然だ」
「頑張るよ。伍良のチアガール姿なんて貴重だからね。気合が入った」
 外でミニスカートを穿くのは恥ずかしかったが、祐輔の活力になるなら今後もやろうという気になる。試合会場となったグラウンドからは歩いて帰れる距離なので、伍良は祐輔と手を繋いで帰り道を歩いた。サッカーの余熱が残った祐輔の手は、大きくて温かかった。

 サッカーの応援と文化祭の準備で忙しいというのに、自由研究の発表でやることが増えたのは大変だった。瑞穂神社の歴史は長いので、そのまま発表すると時間が足りない。簡潔にまとめる必要があった。
「瑞穂のことをみんなに知ってもらえば、多少は力が回復するだろうから頑張るか」
(信仰の始まりはまず名を知ってもらうことじゃからな)
 退屈な話にならないように笑い話に近いものを中心にして原稿を作った。瑞穂神社の歴史はかなり簡略化している。
(まるで妾が食いしん坊のようではないか)
「事実だろ」
 瑞穂から文句が飛んだが、発表中に寝てしまう生徒もいるのだ。話の内容が偏ることになっても、興味を引く話題を話す必要があった。

「緊張するなぁ」
 出番を待って控えている伍良は緊張で身震いした。いよいよ全校生徒の前で自由研究の発表だ。サッカーの試合とは別種の緊張感だった。入念に準備をしてきたのに不安が去らない。
「我々の住んでいる地域のことをもっと知ってもらおうと、伍良さんの自由研究を発表してもらうことになりました。では、よろしくお願いします」
「は、はい」
 担任の合図で伍良は体育館の壇上に向かった。全校生徒の目が伍良に注がれている。手足が凍ったように強張っていた。まさか在学中に全校生徒の前で喋ることになるとは思ってなかった。
「手元にある用紙をご覧ください。今日は昔から私たちの住む地域で信仰されていた土地神である瑞穂について話したいと思います」
 伍良の声がマイクで増幅されて体育館に響き渡った。最初の一声で喉がからからになった気がする。視界には全校生徒がずらっと並んでいる。なかなか壮観な眺めだ。伍良のクラスに目を向けると祐輔と視線が交わった気がした。元気づけられた気がして、体から余計な力が抜けた。
「今は住宅地となっていますが、昔は盛んに農業が行われていました。この地域を守護し、五穀豊穣を司っていたのが瑞穂という神です」
 透き通るような声が滑らかに流れていく。伍良は適度な緊張感を維持して喋っていた。
「瑞穂は災害から作物を守り、人々の暮らしを豊かにしていました。とても美人で立派な神様だったのですが、面白いところも多々ありました」
 瑞穂のことを美人と説明したので、内心では笑いたくなった。瑞樹と瓜二つなら美人のはずだが、今の童女の姿からはそうは思えない。
「子供たちとも遊んでくれる気の良い神様だったのですが、非常に負けず嫌いなところもありました。川釣りで負けそうになったところで、瑞穂は大物を引っかけたことがあります。川の主とも言われる大きな鯉で、瑞穂は逆に川に引きずり込まれました」
 伍良の声の調子に引き込まれて、全校生徒は話に聞き入っていた。
「いつまで経っても瑞穂は戻りません。村人は大慌てです。必死に呼びかけていると、夕方になって泥塗れになった瑞穂が戻ってきました。神様とは思えない姿でしたが、子供たちの前で瑞穂は大威張り。その腕には銀色に輝く大きな鯉が抱えられていたのです」
 一つ目の逸話を終えると小さな笑い声が漏れた。体育館の空気が温まっている。まずまずの反応を得られて、伍良の声が一段と伸びやかになった。
 正月に餅食い競争になって、餅を詰まらせた瑞穂がひっくり返った話をした時には、笑い声が一層大きくなった。話に熱が入った伍良は、与えられた時間が過ぎても喋り続けていた。
「伍良さん、そろそろ……」
「あっ、すいません。もし興味を持った方がいれば、私のところに来てください。瑞穂の逸話はまだありますので。どうもありがとうございました」
 担任に注意を促されて、伍良は体育館の時計を見た。予定時間をかなり過ぎている。伍良は焦っておたおたしながら、壇上から立ち去ろうとした。その瞬間、体育館が大きな拍手で包まれる。無数の花火が炸裂したような音だ。伍良が立ち去っても拍手は続いている。大きな満足と感動が伍良の心を満たしていた。

子供の神様 (43) by.アイニス

(43)

 夏休み中は、宿題、バイト、創作に明け暮れた。宿題の大半は祐輔と協力して夏休みの前半に終わらせたのだが、自由研究を終わらせるのに時間がかかった。瑞穂神社について調べたわけだが、神社の歴史を紐解くとなると地域の歴史にも触れることになる。思ったよりも大変な作業になってしまった。
「これが俺のまとめた瑞穂神社についてです。なるべく正確に調べたつもりですが、昔のことですから誤って伝えられたこともあるかもしれません」
 夏休みの終わりになって、ようやく完成した自由研究のコピーを瑞樹に渡した。瑞樹神社の歴史にも多く触れているからだ。
「これを読むと昔のことが思い出されますね。よくまとめてあります。資料として使わせて頂きますね」
「資料なんてそんな大げさなものじゃないですよ。でも、何かの役に立つなら使ってください」
 世話になった恩を少しでも返せたなら嬉しい。瑞樹からは木工細工だけではなく、様々な技術を教わることができた。
「それでは作業場を使わせてもらいます」
「あと少しですね」
 木工細工の技術が上達したので、伍良は奉納物の和人形や木製の玩具の修理を進めていた。それもほとんどが終了している。あとは細かな作業を残すだけだ。
「よし、最後まで気合を入れていこう」
「妾も作業を見ていよう。まさか伍良が奉納品の修理をやり遂げるとは思わなかった。途中で投げ出すものだと思っていたぞ」
「俺も最初は長続きしないかもと思っていたけどさ。やり始めてみると面白かったよ」
 伍良は細筆で人形の顔を描いていた。手先が全くぶれていない。マジックで人形の顔を描こうとした時とはまるで別人のようだ。瑞穂は息を潜めて人形の顔を見詰めていた。
「ふうぅ、あとは乾くのを待とう」
 人形の顔を描いた伍良は筆を下ろすと緊張を解く。手が僅かに震えていた。
「気品が感じられるぞ。魂が宿っておるわ」
「瑞穂がそう言うなら安心するよ」
 太鼓判を押されて、伍良は軽く笑った。乾くのを待ってから作業を続ける。
「これで完成!」
 時間の流れを忘れて作業に没頭する。外が暗くなる頃になって、古色を残しながらも新たな息吹を得た和人形が置かれていた。
「今まで御苦労じゃったな。これで奉納品の修理も終わりじゃ」
「やり遂げたって感じがするよ」
 伍良は大の字になって床に倒れた。瑞穂の力の回復は僅かだろうが、これで解放されたという気分になる。木工細工も奥が深いとは思ったが、布と糸で創作する方が向いていた。これで心置きなく好きなことができる。
「思ったより力は回復したようじゃ。伍良が真剣に取り組んでいたということがよくわかる。感謝するぞ」
「いいって」
 普段と違って神妙な顔で瑞穂に礼を言われると照れ臭くなる。
「力が回復したなら、俺から離れることもできそうか?」
「完調には遠いからのぉ。伍良の近くなら姿を現すこともできるといったところだ」
 さすがに伍良を男に戻すような力は回復していないようだ。少し残念に思ったが、安堵の方が大きい。これで迷うことなく女でいられるからだ。
「神社を再建して信仰を取り戻さないことには力の回復は難しいか」
「馬に蹴られるつもりはないから、伍良が生き方を決めれば妾は出ていくぞ。それまでは一緒にいたいところじゃが」
「それは構わないけど、秋が終わるまでには結論を出すつもりだよ。その頃にはサッカーの地区大会も終わっているはずだ」
 今年のサッカー部の戦力は充実している。主力選手である祐輔も闘志に燃えていることだろう。伍良は地区大会の優勝を疑っていなかった。

 楽しくて忙しい夏休みが終わると、日常の学校生活が戻ってきた。勉強はそんなに好きではないが、同級生と会えるのは楽しい。それに九月中旬には文化祭が行われる。手芸部はそれぞれの部員が作品を展示することになっている。文化祭までの期間はそんなにないが、伍良は新しい作品を作ろうと思っていた。
「伍良君、夏休み中にかなり練習したみたいだね」
 部室で布を縫っていると、水咲が伍良の手元を覗いて感心した声を出した。
「あたしより上手いかもしれない」
「そんなことない、まだまだだよ。手芸や工作が得意な知り合いがいて教えてもらったんだ」
 芸術の神様に教えてもらったとは言えないので、名前に関してははぐらかした。
「へぇ、いいなぁ。凄く縫い方が正確になっているよ。それに楽しそうだね」
「懸念材料の一つが解消されたからかな。昔の玩具を修理する羽目になったんだけど、それが全部終わったんだ。それで気が楽になったと思う」
 奉納品の修理が終わって、それらは全て瑞穂の社に納められた。これで責務から解放されたので、表情が明るくなっていたのだろう。
「そんなことがあったんだ。でも、伍良君の機嫌がいいのは、別の理由もあると思う。夏休み前と違って祐輔君と仲が良さそうだもの」
「うえぇ、そ、そうかな?」
 伍良の声が上擦った。そんなに特別なことをしてないつもりだったので、水咲に心を読まれたかと思った。
「夏休み前も仲が良かったけど、それは友達としてでしょ。今は明らかに祐輔君を見る伍良君の目が違っている。男子ならともかく女子なら気づくよ。恋する乙女の顔になっていた」
「……そんな顔していたかなぁ」
 火照った頬を撫でて、伍良は戸惑っていた。そんな目をしていた自覚はない。水咲に乙女なんて言われると、やけに気恥ずかしかった。
「登下校や昼休みはいつも一緒だし、祐輔君のお弁当まで用意しているじゃん。バレバレだよ」
「夏休みの宿題を手伝ってもらったお礼のつもりだったけど……」
 水咲に言われてみると、わかりやすい行動をしていたとは思う。それでも、伍良にとっては正式な恋人関係ではないつもりだったのだ。友人以上恋人未満だと思っている。
「あたしは伍良君の恋を応援しているからね。手伝えることがあれば手を貸すよ」
「その時はミサキチを頼らせてもらうよ」
「任せておいて。親友の為には一肌脱ぐから」
 女の子として歳月の浅い伍良には、女としての知識や感性に欠けるところがある。全面的に協力してくれる味方がいるのは心強かった。

 夏休みが終わって数日後。伍良は担任から職員室に呼び出された。心当たりは全くない。宿題はきちんと提出したはずだ。授業中に騒いだ覚えもない。
「説教されるような覚えはないぞ。わからないなぁ」
 まさか祐輔との関係を問いただすつもりだろうか。うちの学校は生徒の恋愛には寛容だったはずだ。伍良は首を傾げながら職員室に入った。
「何か用でしょうか?」
 伍良が担任に話しかけると、周りの教師からも注目されている気がした。どうも居心地が悪い。
「夏休みの自由課題を見せてもらったよ」
「はい」
 瑞穂については荒唐無稽な逸話もある。神様らしからぬ失敗談も多い。まさかふざけて書いたと思われたのだろうか。伍良の顔が緊張で強張った。
「自由研究とは思えぬ出来だった。瑞穂神社と地域の歴史についてよくまとめてある。素晴らしかったよ」
「……ありがとうございます」
 伍良は軽く頭を下げた。サッカー以外のことで教師に褒められたことはないので驚いている。担任は歴史について教えているので、伍良の研究が気に入ったらしい。
「それで我が校の生徒にも自らの街について知ってもらおうと思ってね。伍良には全校生徒の前で発表してもらうことになった。よろしく頼むよ」
「……神様とは思えない間抜けな話も入っていますが、それでもいいのですか?」
(そう強調するものではないわ)
 伍良に貶されて瑞穂が不機嫌な声を出す。
 褒められるだけではなく、全校生徒の前で発表しろと言われるとは思わなかった。もはや決定事項らしい。肝が太い伍良でも慌ててしまった。
「神様には失敗談がつきものだからね。何もおかしくはないし面白いよ。校長先生にも話は通してある。他の先生方も褒めていたよ」
「わ、わかりました」
 どうやら伍良の学年の先生と校長はもう自由研究の中身を見ていたらしい。発表の件は担任だけが決めた話ではなかったようだ。自由研究を認められるのは嬉しいが、プレッシャーも大きかった。

子供の神様 (42) by.アイニス

(42)

 風呂から上がって頭の血が下がると、伍良は己のした行為に赤面してしまった。あれだけ大声で喚いたのだ。瑞樹に聞かれたのは間違いない。面の皮が厚い瑞穂は平気な顔でくつろいでいるが、伍良は気が気でなかった。廊下を渡る足音が聞こえてくると、足が震えだしてしまう。
「お待たせしましたね。夕飯をお持ちしました」
 瑞樹が襖の向こうから一声かけてくる。声には怒った響きはないが、顔を見るのが恐ろしかった。神社で恥も外聞もなく騒いだのだ。怒りを押し殺しているのかもしれない。
「ほほぅ、蕎麦か。気が利くのぉ」
「はい、姉上様の好物ですからね。私が腕を振るいました」
 室内に瑞樹が入ってくると瑞穂の目が輝く。夕飯として用意されたのは山盛りの蕎麦と天ぷらだった。瑞穂の喜んだ顔を見て、瑞樹が微笑みを浮かべる。怒っていないように思えるが油断はできない。瑞樹は姉に対しては甘いようだからだ。それが伍良に適用されるとは限らない。
「伍良さんの分は並盛にしましたが、足りないようであれば仰ってください」
 机に置かれた蕎麦は角が立って瑞々しい。まるで職人が打ったような見事な出来栄えだ。伍良が迷惑をかけても手は抜いていなかった。
「そ、その、さっきは風呂場で騒いで申し訳ありません」
「別に気にしていません。私も若い頃には色々としたものです。伍良さんの声を聞いて、久々に血が燃えました。私も混ぜて欲しかったですよ」
「えっ、冗談ですよね」
 瑞樹から艶やかな流し目を送られて、伍良は狼狽していた。冗談には思えない色っぽい微笑みを見ると、身の内が震えそうになってくる。瑞樹の肌からは芽吹いたばかりの新緑のような爽やかな匂いがしていた。
「伍良は妾のものじゃ」
「あらあら、それは残念ですわ」
 瑞穂が止めなければふらふらと誘いに乗ってしまったかもしれない。危ないところだった。
「瑞樹は清楚なように見えて、妾よりもねちっこいところがあるぞ。下手に相手をしたら伍良が枯れてしまうわ」
「姉上様が相手をしてくださらないのが悪いのです。それに昔とは違って自制するようにはなりましたよ」
「この件に関しては信用できんわ。もっとも、妾の力が復活したら、相手をするのもやぶさかではない」
「約束ですよ。楽しみにしております」
 姉妹の会話が終わると、瑞樹は部屋から退出した。近くで会話を聞いていた伍良は、瑞樹が乱れるところを想像して体を火照らせている。清楚な雰囲気を持つ瑞樹がどんな風になるのか興味津々だった。
「瑞樹が本気になったら伍良は搾り取られるぞ。くれぐれも手は出すな」
「わ、わかったよ」
 真剣な顔で瑞穂に注意をされて、浮ついていた伍良は気を引き締めた。人が良いように見えても相手は神様だ。理解が及ばないところもあるだろう。油断は禁物かもしれない。
「わかったならよい。それでは頂くとしよう。久しぶりの蕎麦じゃ」
「うん、頂きます」
 朱塗りの箸を持った瑞穂は、涎で口元が濡れそうになっていた。ずっと我慢をしていたらしい。まずは一口、何もつけずに啜っていた。
「口の中で蕎麦が弾けるわ。瑞樹の腕前はなかなかのものじゃ」
「喉越しがいいから幾らでも食べられそうだ」
 瑞穂は薬味を入れずに蕎麦を啜っていた。天ぷらにも手をつけていない。僅かな蕎麦の香りを楽しんでいるようだ。
 伍良が天ぷらにも手を出してみると、衣がさくさくとして美味しい。どんどん腹に入っていったが、蕎麦が空になる頃には満腹になっていた。
「もっと食べられる気がしたのになぁ」
 瑞穂が体の中にいないので、胃袋が並の大きさに戻っていた。いつもでは困るが、美味しいものはたくさん食べたくなる。伍良の隣ではまだ山盛りになった蕎麦を瑞穂が食べていた。おそらく十人前以上あっただろう。食の衰えない瑞穂を羨ましそうに伍良は見る。小柄な女の体なのが少し残念だ。
「足りぬのか。仕方ないのぉ、少し妾の分を分けてやろう」
 伍良の顔を見て、まだ空腹だと思ったらしい。瑞穂は物惜しみしながらも、一人前分の蕎麦を分けてくれた。
「あ、ありがと」
 男の時だったらともかく、今の状態ではかなり苦しい。だが、食い意地の張った瑞穂が、折角譲ってくれたのだ。無下にはできない。
「ああ、蕎麦だけではなく天ぷらも欲しいのか。これは手落ちじゃったな」
「うぉ、もう十分だよ」
 僅かに滲んだ悲壮な顔を見て、瑞穂はまたもや勘違いしていた。蕎麦だけでは伍良が不満だと思ったらしい。わざわざ一番大きいえび天を乗せてくれた。
「そうかそうか。一緒に同じものを食べる夕飯はいいものじゃ」
「……俺もそう思うよ。ううっ、山葵が鼻に染みるなぁ」
 瑞穂の好意が腹に重たい。伍良は笑顔がひきつりそうになりながら、必死に蕎麦を啜っていた。

 山奥にある神社では、夜になると物音が一切しなかった。あまりに静かで怖いくらいだ。少しは雑音が聞こえた方が安心できる。いつもとは違う環境で寝付くのに時間がかかるかと思ったが、目覚めた時には朝になっていた。
「伍良は寝るのが早かったな。布団に入ると同時に寝息を立てていたぞ」
「……思ったより疲れていたのかな」
 睡眠を削ってバイトや小物作りに勤しんでいた。体力はあるので平気なつもりだったが、疲労は蓄積していたらしい。爽快な目覚めだった。
「朝食をお持ちしました」
 昨日は苦しくなるまで蕎麦を食べたのに、瑞樹の用意した朝食を見ると空腹を覚えた。味噌汁、焼き魚、漬物といった純和風の献立だ。瑞穂の茶碗は大ぶりなもので、御飯が山盛りになっている。
「おかわりじゃ」
 蕎麦を十人前は食べたというのに、瑞穂の食欲は衰えることを知らない。見た目は小さくても、力士のように大食漢だった。
「瑞樹の味噌汁は懐かしい味がしたぞ」
「自家製の味噌で昔から作り方は変えていませんから」
「ふぅ、満腹じゃわい。やはり自らの口で味わうのはいいものじゃ」
 伍良の口で食事を味わっている時には、瑞穂が満足してなくて空腹感が残っていた。常に伍良は空腹に悩まされたのだが、今日の瑞穂は食事に満足しているようだった。
 このままお茶でも飲んでゆっくりとしたくなるが、伍良は木工細工について習わなければならない。あまりのんびりはできなかった。
「それでは作業場に行きましょうか」
「はい、お願いします」
 そわそわした様子の伍良を見て、瑞樹から声をかけてくれた。
「姉上様はどうされますか?」
「では、邪魔にならぬところで見ているとしよう」
 作業場に行くと木の匂いが充満していた。様々な太さの材木が置かれている。古い器具ばかりかと思ったが、電動のドリルもあった。
「年季の入った道具が多いですけど、新しいものもあるんですね」
「便利ですからね。まずは木に親しむところから始めましょうか。材料は幾らでもありますから、失敗しても大丈夫ですよ」
 瑞樹は手頃な大きさの角材を手に取ると、目にも留まらぬ速さで削り始めた。木くずが飛び散ったかと思うと、あっという間に木彫りの熊が完成する。猛々しいものではなく、ぬいぐるみのように可愛らしい子熊だ。
「やけに愛らしいですね。厳めしい神様の像でも彫るかと思いましたよ」
「伍良さんの作ったぬいぐるみを参考にしました。馴染みのある形の方が立体を思い浮かべやすいでしょう」
「確かに似ていますね。でも、瑞樹さんの手が早すぎて、飲みこめなかったです」
 芸術に対する理解力は高くなったつもりだが、瑞樹の技術が卓越し過ぎて理解が及ばなかった。
「今作ったのは見本ですから安心してください。一から教えますので。まずは下絵からですね」
 瑞樹は新しい木材を手に取ると、子熊の木彫り人形を正面、左右、背面から見た図面を描きこんだ。それを参考にして立体を思い浮かべながら彫っていくということらしい。
「まずは伍良さんも角材に下絵を描いてください。それからノミや彫刻刀で彫っていきましょう」
「わかりました。確かに実物大のモデルがある方がやりやすいですね」
 指示に従って、子熊の木彫り人形を参考にしながら伍良は木材に絵を描いた。実物があるので、図面を描くのはさほど難しくなかった。何もないところから立体図面を描くとしたら大変な作業になっただろう。
「では、ノミを使って輪郭を粗く彫っていきます。それから彫刻刀で形を整えましょう」
 瑞樹から道具の使い方を教わりながら、伍良はほぼ一日中角材を彫っていた。休憩したのは昼におにぎりを食べた時くらいだ。
「広い作業場が使えるのはありがたいですよ」
 木くずが大量に飛び散るので、広い場所を使えるのは助かる。掃除をする手間を考えると、自宅ではなかなか作業できないだろう。彫刻刀を握る手が赤くなったが、伍良は手を放さなかった。
「見ているだけでは飽きてきたぞ。瑞樹よ、何か遊ぶものでも作ってくれ」
「わかりました。少々お待ちくださいね」
 瑞穂は伍良の作業をずっと眺めていたが、短時間で変化が現れるようなものではない。素人なので作業の進みは遅いのだ。暇になってきた瑞穂は、瑞樹に頼んで玩具を作らせていた。
「さすがに神業だなぁ」
 瑞樹の作業を見て伍良が息を呑む。図面もなしに木材からけん玉や独楽が生まれていた。まるで市販品のように整った形で、あとは色さえ塗れば完璧だろう。
 奉納品の修理も瑞樹が行えば簡単なのだろうが、それでは人の想いが再生されない。壊してしまった伍良の手で修理しなければ意味がないのだ。
「独楽の図柄は妾も描くとしよう。さて、どんな形が良いかのぉ」
「回転した時に綺麗な模様が浮かぶようにしたいですね」
 姉妹で語らいながら玩具を作っている。楽しそうな会話を聞いていると、作業に必死な伍良の気分も少し和んだ。
「妾は伍良が来るまで独楽遊びを欠かしたことはなかったぞ。瑞樹では勝負になるまい」
「さすが姉上様ですね。でも、そう簡単には負けませんよ」
 独楽が完成すると、姉妹は投げゴマで勝負を競っていた。最初は声が控えめだったが、段々と熱狂的になっていく。
「……仲が良いのはいいことだよな」
 本気の声で騒ぐ姉妹に伍良は溜息を吐いた。作業に集中できない。瑞樹は礼儀正しくはあるが、姉妹だけあって本質では瑞穂に似ているのかもしれなかった。一声かけたくなったが、神様の立場では対等に遊ぶ機会は少ないのだろう。伍良はもう一度息を吐くと、黙々と木材を削っていた。

子供の神様 (41) by.アイニス

(41)

 瑞樹に教えてもらった風呂場は、個人で使うには浴槽が広かった。神様専用ということで贅沢な作りなのだろう。脱衣所には和装の寝間着が用意されていた。
「まるで旅館にでも泊まりに来た気分になるよ」
「ヒノキ風呂か。眺めもいいのぉ。夕焼けで山が赤く染まっておるわ」
 浴室にある大きな窓からは山の景色を見渡せるようになっている。雄大な景色を見ていると開放的な気分になれた。これなら創作意欲も高まりそうだ。
「伍良に妾の髪を洗ってもらうとしよう」
 風呂椅子に座った瑞穂は、伍良に洗ってもらう気満々だった。表に出てくると、相変わらず手間がかかる。洗うには団子頭を解かねばならないが、伍良には結び直す自信がない。
「瑞穂の髪は長いから面倒だなぁ。それに俺じゃミサキチみたいに髪を結べないぞ」
「記憶はしておるから大丈夫じゃ」
「それならいいけどさ」
 黒い光沢のある髪に触れると簡単に泡立つ。瑞穂の体はほとんど外に出てないので、あまり汚れていないのだ。瑞穂の髪を触っていると銭湯に行った時のことが思い出される。あの時の瑞穂はまるで乞食のようにみすぼらしい姿だった。
「これでいいかな」
「今度は妾が伍良の体を洗ってやろう」
「それじゃ任せるよ」
 瑞穂を洗い終わると、今度は伍良が洗ってもらうことになった。場所を交代して、今度は伍良が風呂椅子に座る。
「久しぶりに触ったが、相変わらず滑らかな髪じゃ」
「少しはシャンプーとかに気を使うようにしたからね」
 以前は洗浄力の強いアルカリ性のシャンプーを使っていた。髪のダメージなんて気にしなかった。今はバイト代が入ったこともあって、髪に優しいシャンプーを使っている。容姿の維持には金がかかるが、女を磨くことに努力はしている。伍良は今の可愛い姿も好きだからだ。
「前と比べると肌にも潤いが増した気がするのぉ。胸も僅かだがまた膨らんだのではないか」
「……そんな些細な違いがよくわかるな。確かにブラのサイズが窮屈かなと思えてきたから、そろそろ買い替えようと思っていたけどさ」
 ブラの買い替えで出費があるのは痛いが、肌の質感を褒められたのは嬉しい。高い石鹸を買った意味があるというものだ。
「いつでも男に応えられる体にしておるわけか。可愛い奴じゃのぉ」
「べ、別にそうじゃないけどさ」
「ここもよく洗っておくとしよう」
「ひゃうぅん、あっ、ああっ……」
 瑞穂の手が忍び寄って、伍良の秘所を撫でている。泡塗れのヌルヌルの手で敏感な場所を弄られて、伍良は裏返った声を漏らしてしまった。自分の手で触るのとは刺激が違う。
「かなり欲求不満が溜まっておるな。休みだというのに忙しく働いておったからのぉ。妾は男でも女でも相手が出来るぞ。どれ伍良の体を慰めてやろう」
「いや、いいって。んああっ、くううっ、ど、どうしてそんなに上手いんだよ」
 瑞穂を振り払おうと思ったが、体を軽く撫でられただけで力が抜けてしまう。まるで体から骨が抜けたみたいだ。
「妾に仕えた巫女を何人も相手にしたものじゃ。痛くするつもりはないから安心するがいい。今までの褒美じゃ。極楽に連れていってやろう」
「ああぁん、んんっ、俺の体は祐輔だけに預けたいのに、声が止まらなくなるぅ」
「愛いのぉ。だが、少しは経験をしておくのも必要じゃ。何も処女を奪おうというわけではない。お互いが初めてでは余裕がなかろう」
「きゃふぅん、はううぅ、そ、そうかもしれないけどさ」
 言い含められている気はしたが、快感に飢えている体は瑞穂の手を受け入れていた。意志の力で耐えているが、伍良の体は呪いで性欲が強いのだ。スイッチが入ってしまったら、快楽の虜になってしまう。
「蕩けた顔になっておる。これがあの小僧だったとは思えぬわい」
「んふううぅ、ちゅぷぅ、ちゅぱぁ……むううぅ、んんっ、ふはぁ……」
 瑞穂は伍良の顔を横に向かせて唇を交えてきた。唇に火が灯ったように熱くなる。柔らかくて優しい感覚に、触れたところから唇が溶けそうだ。初めてする女性とのキスに伍良は陶然と酔った。
「心残りは少ない方がよかろう。男の未練も妾が晴らしてやる」
「う、うん、もっと欲しい……」
 伍良が祐輔と恋人になれば、女と触れ合う機会はもうない。中途半端な立ち位置にいる今しか許されないことだ。伍良の心に残る男の心を払拭させるには、瑞穂との肉体的接触が必要かもしれなかった。
「ちゅぱぁ、んちゅっ……ちゅぷぅ、んふぅ」
「んふううぅ、これが大人の味じゃ」
 見た目は子供ではあるが、瑞穂の舌技は巧みだった。するすると伍良の口に小さな舌が忍び込んだかと思うと、口中の粘膜に甘い疼きが走り抜ける。伍良は夢中になって瑞穂の唇を求めていた。
「トロトロになってきておるな」
「ひゃうぅ、ああっ、瑞穂に触られると俺の股間が勃起してくるようだぁ」
 瑞穂の繊細な手で大事なところを弄られると、男の力が蘇って股間が勃起するような気がした。沸騰した血液が股間に漲って、男の証が猛々しく反り返っているようだ。
「肉芽が充血して膨れておるぞ。可憐な姿になりながらも、己を激しく主張しておるわ」
「み、瑞穂、俺もう我慢できないっ」
「あいたぁ、尻が痛いわ」
 伍良は荒々しい衝動に襲われて瑞穂を押し倒していた。尻を床にぶつけて瑞穂が文句を言う。伍良は野獣のような目をして組み敷いた瑞穂を見ていた。
「やれやれ、そうがっつくでない。仕方のない奴じゃ。伍良の好きにさせてやるわ」
 伍良が吼えるような息を吐き出して獲物を見下ろしても、瑞穂は苦笑をするだけでゆったりと構えていた。
「はぁ、ふぅ、俺の股間が爆発しそうだ……」
 女を演じて封じてきた雄の獣が解き放たれようとしていた。これが最後とばかりに荒れ狂っている。伍良は瑞穂の中に挿入する意気込みで股間を近づけた。
「くっ、おおおぉっ、今だけは俺は男だ!」
「……んんっ、はぁ、そうじゃな。男としての力強さを感じるぞ」
 伍良は甲高い叫びを発しながら、瑞穂の秘所に深く密着していた。男の象徴が戻ったわけではないが、荒々しく腰を振って男の気分に浸る。秘所から漏れ出た愛液が摩擦で白く泡立っていた。

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挿絵:菓子之助

「うおおおぉっ、おおおっ!」
「はぁ、はぁ、凄い勢いじゃなぁ。火傷しそうじゃぞ」
 男としての感情を全て吐き出すように、伍良は猛々しく吠えていた。ただ必死に雄獣の声を出そうとする女の声には物悲しい響きがある。どんなに男の気分に浸ろうとも、伍良の体は女なのだ。
「くっ、ううううぅっ!」
 膨張した陰核で瑞穂の膣内を乱暴に擦りまくる。恨みを晴らすかのような執念深い動きだ。容赦ない摩擦によって、強烈な快感と苦痛が伍良を襲う。暴力的な刺激によって、秘所は洪水になっていた。
「ぐおおおぉっ、くぅ……おおっ、うああぁぁっ!」
 嵐のような快感と苦痛が蓄積されて一気に弾けた。限界を迎えた伍良の体から力が抜ける。だが、どんなに猛々しく赤熱していても、肉芽から精液が迸ることはなかった。それが少し物悲しい。神様の呪いは勢いで解けるような簡単なものではなかった。女として生きるには好都合ではあるのだが。
「はぁ、はぁ、駄目か……」
「少しは満足したか」
「すっきりはしたよ。その、乱暴にして悪かったな」
「謝ることはないぞ。伍良のしたことは妾からすれば児戯じゃ。屁でもない」
「うっ、それはそれでショックだけど……」
 多少は息が乱れているが、瑞穂は平然としている。伍良が必死だっただけのようだ。経験の差ではあるが、ちょっと悔しい。それでも男としての欲望を吐き出して、区切りをつけられたような気がした。

子供の神様 (40) by.アイニス

(40)

 週末の日曜日、伍良は瑞樹神社に訪れていた。奉納品の修理には専門の知識が必要なものもある。芸術の神である瑞樹ならば知識や技術は豊富だ。それに道具も取り揃えてあるだろう。瑞樹に教えてもらいながら、技術を磨くのが伍良の目的だった。
「伍良は女になることを決めたのじゃろう。奉納品の修理を急ぐ必要はないではないか」
 石段を登りながら、瑞穂が不思議そうな顔をしていた。海から帰ってきた伍良は気を抜くどころか、精力的に小物雑貨の制作に取り組んだ。今日持ってきた荷物には、壊れた奉納品の他に伍良の作った創作物も入っている。
「そういう可能性もあるってことだよ。祐輔が不甲斐なかったら、俺は男に戻るつもりだぜ」
「ふぅん、とても信じられぬのぉ。あの時の伍良は女の顔をしておったぞ」
「うるさいなぁ。それに、仮に、仮にだ。祐輔と一緒になったとしても、瑞穂の目がいつもあったら落ち着かないだろ。力が回復しないまま放り出すのはなぁ」
「これは妾の手落ちじゃなったな。肝心なことを忘れておったわい。夜の生活も充実させたいだろうからのぉ」
「だ、だから、せめて俺から離れても平気なくらいに力を回復してもらわないと困るのさ」
 夜の生活と聞いて、祐輔に抱かれる淫らな姿が思い浮かぶ。伍良は内心の動揺を隠そうと怒ったように言った。
「そうかそうか。妾としても力が戻るのは助かる。もうしばらくは人の暮らしを見たいと思うしのぉ」
「すぐに瑞穂を追い出す気はないさ。一緒にいる生活もそれなりに慣れたよ」
「安心したぞ」
 瑞穂がほっとしたように微笑んだ。我儘なところもあるが、素直に感情を表すところは可愛いと思う。
 石段を登り詰めると、瑞樹が出迎えてくれた。柔らかな笑顔を浮かべている。二人の来訪を待ち遠しく思っていたようだ。
「姉上様、よくいらっしゃいました。自らの家だと思って気兼ねなくお過ごしください」
「うむ、世話になるぞ」
「伍良さん、姉上様を連れてきてくださってありがとうございます」
「いえ、こちらもお願いがあって来たわけですから。瑞樹さんの持っている技術、特に木工細工について教えて欲しいのですよ」
 頼みごとがあって来たのに、ちゃんとした神様に礼を言われて恐縮した。慌てて伍良も深く頭を下げる。和人形の修復には木を加工する技術が必要だった。
「構いませんよ。木材を細工するのは私の得意とするところです。ここは山の中ですから材料には事欠きませんしね」
「助かります」
「奥にある部屋を自由に使ってください。よほどのことがない限り、神職の者も訪れないと思います。何泊でもしてくださって大丈夫ですよ」
 瑞穂の宿主ということで、瑞樹は伍良のことも丁重に扱ってくれた。案内された部屋は二人で使うには広い。小市民の伍良としては落ち着かない気分になる。逆に瑞穂は座布団に座って気楽にしていた。机に置かれた茶菓子をぱりぱりと食べている。
「すぐにお茶を用意しますね」
「うむ、やや温い方がよい」
「態度がでかいなぁ」
 我が物顔で振る舞う瑞穂を見ていると、伍良も肩に入っていた力が抜けてくる。必要以上に気構えて固くなることはないなと思った。
「美味しいお茶ですね」
「いい茶葉を使っておるな。もう一杯もらおう」
「はい、お口に合ったようで何よりです。すぐに二杯目を用意しますね」
 瑞樹が淹れてくれたお茶は甘みと渋みが調和していて、すんなりと喉に吸いこまれた。山登りをしてきて喉が渇いている。大きめの湯呑だったが、すぐに空にしてしまった。
「たくさんの荷物を持って、山にある神社まで訪れるのは大変だったでしょう。足を崩してくれて大丈夫ですよ。正座は慣れないでしょう」
「いい運動になりましたよ。それにお茶を飲んだら疲れも和らぎました」
 二杯目のお茶は最初と比べて熱かった。ゆっくりとお茶を啜っていると、気持ちがゆったりとしてくる。伍良は瑞樹の言葉に甘えて、少し足を横にずらして楽な姿勢を取った。あぐらの方が楽ではあるが、女がやるとなると礼を失することになるだろう。
「荷物には俺が作った小物も入っています。もし神社で市を開くことがあれば、売って欲しいのですよ」
「品物を見せてもらってもいいですか」
「もちろんです。でも、芸術の神様に見せるとなると少し気恥ずかしいなぁ」
 照れた顔をしながら、伍良は段ボール箱を開いた。ぎっしりと荷物が詰まっている。伍良は畳の上に手作りの創作物を並べた。動物のぬいぐるみ、手提げ袋、財布といった布で作られた品が大半だ。どれも可愛らしくて伍良の自信作だった。
「まるでおとぎの国を訪れたかのようですね」
 殺風景だった和室の部屋は、ミニチュアの遊園地のような様相を呈していた。広かった室内はぬいぐるみが占拠している。材料は布と綿であっても重いのは当然だった。
「どれも素晴らしい品ですね。伍良さんが一生懸命だったことが伝わってきます。市を開いたら目玉商品になりますね」
「ありがとうございます。布と糸を使って作るのは好きですから。もっともっと上達したいとは思いますよ」
 瑞樹から手放しで褒められて、伍良ははにかんだ笑顔を見せた。
「市を開催したら、売り上げを伍良さんに渡しますね」
「いえ、それは全て瑞穂の神社の再建に役立ててください。焼け石に水かもしれませんが」
「いいのですか!?」
 全額を神社に寄付すると聞いて、瑞樹は非常に驚いた声を出した。信じられないという顔で伍良の顔を見ている。
「神社を壊したのは伍良ではないのに申し訳ないぞ。妾は時間を惜しんで伍良が作業に没頭していたのをこの目で見ておるしのぉ」
「いいんだよ。小物作りが好きだから苦じゃないさ。それに手はかかるけど俺は瑞穂のことを嫌いじゃない」
「ほほぅ、それは妾に対する告白というわけじゃな。神に懸想するとは伍良もやるのぉ」
「そ、そうなのですか。姉上様と結ばれる為に男に戻ろうとしているわけですね」
「どうしてそうなるんだよ!」
 瑞穂に話を混ぜ返されて、伍良が大声で突っ込む。疑うことを知らなさそうな瑞樹は、瑞穂の話を鵜呑みにしていた。
「ははっ、冗談じゃ。感謝しておるぞ」
「まったく……」
「本当だと思って驚きましたよ。でも、姉上様と伍良さんは仲がよろしいですね」
「慣れの問題ですよ」
 仲が良いと言われると反発したくなる。共同生活を続けていれば、相手の性格はわかるし折り合いもつくものだ。
「伍良は照れ屋だのぉ」
「もうそのネタはいいから」
 誰の目も気にせず自由に喋れるとあって、瑞穂は饒舌になっていた。かなり上機嫌のようだ。少しのつもりで伍良も雑談をしていたら、時刻は夕方になっていた。外を見ると日が落ちかけている。作業を進めようと思っていたので、時間の経過に伍良は驚いた。
「話しこんでしまいましたね。夕餉の準備をしてまいります。今日はゆっくりとしてください。明日から木工細工の手ほどきを致しましょう」
「俺も手伝いますよ」
「いえいえ、お任せください。先に湯あみを済ませては如何でしょうか」
 下へも置かないもてなしなのでせめて夕飯の手伝いはしようと思ったのだが、瑞樹にやんわりと断られてしまった。瑞樹が退出してしまうと、手持ち無沙汰になってしまう。ずっと喋っていたので特に話題もない。
「風呂に入るか」
「妾も自らの体で風呂に入るのは久しぶりじゃ。珠の肌を磨くとするかのぉ」
「俺と一緒に銭湯に入って以来か」
 まさかあの時は瑞穂と共同生活をする羽目になるとは思わなかった。

子供の神様 (39) by.アイニス

(39)

「待たせて悪かったな」
「……うあ」
 緊張を隠して素っ気なく祐輔に声をかけた。伍良の姿を見た祐輔は、立ち尽くしたまま言葉を発しない。目を丸くしてじっと伍良を見ていた。
「な、何か言えよ」
 沈黙に耐えられなくなって、伍良は怒ったような顔で催促した。無言で体を観察されている。特に胸と股間に熱い視線を感じた。三角布で覆われた股間は、何の突起物もなく平面だ。友人に見られていると男だった頃を思い出して身悶えしそうになった。
「女神が降臨したかと思って言葉を失っていた」
「大袈裟だなぁ。でも、祐輔も日焼けして男ぶりが上がっているとは思うよ」
 連日のサッカーの練習で、祐輔の肌は褐色に焼けていた。筋肉の厚みが増して逞しくなっている。腹筋を触ってみるとまるで鉄のようだった。
「硬くて羨ましいな。練習が厳しいのがよくわかる」
「そんなに撫でられるとくすぐったいって」
 強靭な筋肉の感触が好ましくて、伍良は祐輔の腹を触りまくっていた。伍良も女性にしては力がある方だが、見た目にはそんなに筋肉は発達してない。スポーツマンだったので逞しい肉体には憧れがあるのだ。
「伍良もいい体をしていると思うけどなぁ」
「内側の筋肉はあると思うけど、表面はプニプニだぞ。試しに触ってみろよ」
「じゃ、じゃぁちょっとだけ。うわぁ、すべすべで柔らかい」
「だろう。あまり肉がつかない体質なのかなぁ」
 遠慮がちに祐輔の大きな手が伍良の腹を撫でている。円を描くように男の手がゆっくりと動いていた。くすぐったくて、変な気分になる。腹だけでなく全身を撫でられたくなった。
「んっ、あははっ、くすぐったくて笑ってしまうな」
「あ、あぁ、悪い。手が離れなくなっていた」
 伍良は大きな笑い声を出して、危ない気分になったのを誤魔化した。夢から覚めたような顔で慌てて祐輔が手を放す。伍良の腹にはまだ男の手の感触が残って汗ばんでいた。男の体温が体の中にまで浸透して、子宮に悩ましい熱を与えている気がする。伍良は気づかれないように熱くなった息を吐き出した。
「準備運動をして早く海に入ろうぜ」
「お、おう、そうだな」
 股間が湿っぽくなった気がして、伍良は証拠隠滅を図ろうとした。もっとも、祐輔の股間は明らかに盛り上がっている。祐輔はうろたえていたが、水着なので隠しようがない。醜態を晒さずに済んで、伍良は女であることを感謝していた。祐輔の恋愛感情は嬉しく思うが、伍良の想いは気づかれたくない。
「うわぁ、海の水が冷たくて気持ちいい」
 体をほぐし終わって足元を海水に浸けるだけで、伍良は溢れんばかりの笑顔を弾けさせた。津波が押し寄せてきて、飛沫が伍良の白い足に飛ぶ。海水が引くと砂浜に伍良の足跡が残された。それが再度押し寄せた波ですぐに消される。それだけで楽しい。小物や雑貨を作るのは好きだが、ずっと家に閉じこもるのは辛いのだ。
「太陽の光を全身に浴びると生き返る気がするよ」
 伍良は波打ち際でちゃぷちゃぷと水音を立ててはしゃいでいた。その姿を鼻の下を伸ばして祐輔が眺めている。
「目に焼き付けるだけじゃもったいないなぁ。写真も欲しくなるね」
「うりゃぁ、変なことを考えている顔をしているから頭を冷やしてやる。俺ばかり見てないでもっと遊ぶぞ」
 伍良は祐輔に駆け寄ると、押し寄せてきた波をすくった。砂の混じった冷たい海水を浴びて、砂まみれになった祐輔がぽかんとした顔になる。
「そんなに欲しければあとで一枚くらいは撮らせてやるからさ。今は海を堪能しようぜ」
「そうだな、伍良の水着姿があまりに色っぽいからついつい見てしまったよ。そら、お返しだ」
 祐輔も海水をすくうと思いっきり伍良に浴びせてきた。容赦なく海水が降り注ぐ。一気にびしょ濡れになってしまった。
「ぺっ、ぺっ、やったなぁ」
 口に入った砂を吐き出して、髪を濡らした伍良が負けん気の強い顔になる。膝まで海水に浸かってしばらく水の掛け合いに興じていた。
「俺ばっかり海水を浴びていた気がするぞ。少しは女の子に手加減しろよ」
「手を抜いたら伍良に失礼だと思ってさ」
「……そうだな。次は負けないぞ」
 体格と腕力に差がありすぎて、伍良ばかり海水を浴びていた。正面からだと打ち負けてしまう。あまりに不利な気がして、無意識に女としての甘えが出ていた。
「今度は水泳で勝負しよう」
「ハンデをつけようか?」
「いるわけないだろ」
 祐輔の申し出を伍良は唇を尖らせて断った。対等な条件で勝ってこそ満足できるのだ。久しぶりの真剣勝負に伍良の顔が引き締める。男だった頃を彷彿とさせる勇ましい顔つきになっていた。
「スタート!」
 伍良の合図で二人は一斉に泳ぎ出す。まずは伍良がリードした。懸命に腕と足を動かして、全速力で海原を切り裂いていく。しばらく伍良はリードを保っていたが、目的地点まであと半分のところで失速してきた。
(くっ、手足が重い)
 体力配分を考えないで全力を出したので、急激に疲労が襲ってくる。後ろから徐々に水音が近づいて祐輔が迫ってきた。
(負けられるかよ!)
 本来の体ならスタミナ切れは起こさなかったはずだが、それを言い訳にはしたくない。伍良は体力を振り絞って必死になって泳いだ。祐輔も疲れているはずだが、泳ぎに衰えは見られなかった。
「はぁ、はぁ、俺の負けか」
 半身ほどの差で伍良は敗れた。へろへろになって海から上がる。全身が鉛と化していてなかなか息が整わない。激しい泳ぎでビキニのブラがずれて乳首が露出していた。それを正す気力すらない。遊ぶのに適したビーチから離れてしまったので、人がいないのが幸いだった。
「あと少しで負けるところだったよ。さすがは伍良だ」
 互角の勝負だったように祐輔が言ったが、足元はしっかりしていて余力が残っているのが窺える。すぐに呼吸も整っていた。伍良は荒い息をするのが精一杯で喋る余裕なんてない。大きく息をするたびに豊かな胸が上下に揺れる。それを困ったような顔で祐輔は見ていた。
「ふうぅぅ、完全に俺の負けだったな。焼きそばくらいは奢るから海の家まで戻ろうぜ。それとも他のものがいいか?」
 やっと息が整ってきてビキニのブラを直す。砂浜は小石が多くなっていて、素足で歩くと痛い。人がいないのも当然だ。休憩には適した場所ではなかった。
「その前に話があるんだ。焼きそばもいいけど、もっと違うものが欲しい」
「俺の負けだったからな。出来る範囲で引き受けるぞ」
 伍良の乳首を見て照れていた祐輔が急に真剣な顔になる。雰囲気の変化を怪訝に思いながら、伍良は祐輔の欲しいものを聞いてみた。
「伍良が欲しいんだ。付き合って欲しい」
「……えっ、待て待て。俺の聞き違いか。もう一度言ってくれ」
 ストレートな欲求に伍良の頭は混乱した。耳鳴りがして地面が揺れているように思える。祐輔の気持ちは知っていたが、半信半疑なところもあったのだ。それに急に言われるとは思わなかったので心の準備ができていない。
「何度でも言うよ。恋人になって欲しいんだ」
「うっ、うぅ、祐輔の気持ちは嬉しいが、気の迷いじゃないのか。身近な女性は俺だけだからさ」
「そんなことはない。伍良には言わなかったけど、女子からラブレターを貰ったことは何度もある。全部断っているけど」
「そ、そうなのか」
 考えてみれば、伍良のいないサッカー部において祐輔はエースだ。顔も精悍で勇ましい。女の子が放っておくはずがなかった。伍良は他の女子の行動に少し嫉妬すると同時に、一途な祐輔に女心を刺激されていた。
「ほ、本当にいいのか。俺はこんな喋り方だしかなりの男勝りだぞ」
「そのさっぱりとした性格も好きなんだ」
「うぁ、よくそんな恥ずかしいことを連続で言えるなぁ」
「伍良を好きな気持ちに偽りはないからね」
「わ、わかった。もうこれ以上言われると俺が蒸発しそうだ」
 正面から告白の嵐を浴びて、伍良は茹でた蟹のように真っ赤だった。頭が沸騰して思考が停止しそうになる。祐輔の勢いに負けて頷きそうになった。どうにか心の片隅にある男の心が警告を発して、僅かばかりの理性を取り戻す。
(男らしい真っ直ぐな告白じゃなぁ。妾は好感が持てるぞ。伍良も祐輔を好いているようじゃし、そのまま女として生きるのも悪くはあるまい)
 瑞穂の言う通り、祐輔とは気心が知れていて、一緒にいるのは楽しい。男としても頼りがいがあるだろう。伍良が男に戻れる可能性は僅かなのだ。このまま女として生きる選択肢もありだとは思ってしまう。それでも、まだ伍良にはためらいがあった。少し前まで男として生きてきたのだ。簡単には割り切れない。
「じょ、条件がある。俺に祐輔の恰好いいところを見せて欲しい。もし地区大会で優勝できたら、祐輔の彼女になることを決めるよ」
 プロのサッカー選手になりたいという夢があった。その夢を託せるくらいに祐輔にはサッカーで活躍して欲しい。それなら伍良も女になる覚悟が定まるというものだ。
「わかった。伍良に相応しい男であることを証明してみせる。元から目指しているのは優勝だからね。これでますます燃えてきた」
 伍良の出した条件に怯むどころか、祐輔は全身からやる気を漲らせていた。闘志を燃やした勇ましい祐輔の顔を見て、伍良は惚れ惚れとしている。乙女心がキュンと疼く。伍良の事情で結論を先延ばししたのが申し訳なかった。
「楽しみにしているよ。ちょっとしゃがんでくれ」
「何かな?」
 伍良の頼みを聞いて、祐輔が地面に片膝をつく。伍良は頬を火照らせながら、祐輔の額に軽く口づけをしていた。

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挿絵:菓子之助

(ほほぅ、やるのぉ)
「しょ、勝利を祈っているからな。俺にとっての一番は祐輔だ」
 照れと恥ずかしさで伍良は耳まで真っ赤になっている。悶絶しそうだったが、全身が陶酔感に包まれていた。
「お、おぅ、何にも増してやる気が出たよ。女神の加護があるなら負けない」
「その意気だ。試合の時には応援に行くから」
 海の家まで引き返す時には、男女は手を自然に握っていた。男の力強い手が頼もしい。伍良は女の子としての幸せを感じていた。

子供の神様 (38) by.アイニス

(38)

「あっ、これは!」
 脱衣所にある洗濯機の上に置かれていたのは祐輔のトランクスだった。祐輔の股間と同じ臭気を放っている。股布には白く乾いた跡があった。
「……これは祐輔の我慢汁だろうな。俺と一緒にいて密かに興奮していたのかも」
 祐輔が伍良の体で発情していたと考えるとちょっと嬉しいような気がした。欲情を我慢して平静を装っていたと思うと紳士な祐輔が可愛く思える。伍良はトランクスを手に取って鼻に当てた。
「強い臭気にクラクラする……」
 伍良は酔ったように目をトロンとさせていた。深く息を吸い込んで逞しい臭いを存分に味わう。秘所から愛液が溢れ出し太ももに伝わっていた。
「すぅ、はぁ、たまらない」
 トランクスから手を放せなくなった伍良はそのまま風呂場に入った。異様に秘所が疼いている。今までにない興奮だった。
「これは俺の意思じゃない。呪いのせいだ……」
 言い訳を口にしながら秘所に触れると驚くような熱さだ。もう媚肉がトロトロに溶けている。べっとりと指が愛液で濡れた。
「くぅん、んんっ……はあぁ、ああぁん、すごっ……感じるぅ」
 秘所に指を入れてみると、膣壁が押し寄せてきた。非常に敏感になっている。甘い電流が尻から背筋に走り抜けた。自然と艶かしい声が漏れていた。
「ううぅん、はぁ……聞かれたらまずいのに……」
 いけないことをしている背徳感がますます伍良を加速させていた。口をどうにか閉じようとトランクスを口に咥える。
「ふぐぅううぅっ、んんぅううぅ!」
 舌に刺激的な味が爆発して、伍良は悶えながら目を瞬かせた。逞しい精臭が口から鼻に抜ける。伍良は白く汚れた布地を口にしていた。
(こ、これが祐輔の精液か……)
 祐輔のペニスを口に咥えているように錯覚した。汚らしい行為だと思うのに舌が勝手に動いて乾いた精液を舐め取る。体が燃えるように熱くなって、汗ばんだ肌が桜色に染まっていた。
「ふぐうぅん、んくうぅっ……むふううぅ、くうぅん!」
 トランクスを口に咥えたまま、伍良は秘所と乳房を手で乱暴に弄った。肌に指の痕が残るくらいに強く柔肉をこねる。脳裏には男に抱かれる姿を思い浮かべていた。口を閉じていても押し殺した喘ぎが漏れる。
「んはぁ、ああっ……凄く、感じるぅ……くはあっ、んんっ……」
 激しい指の動きで漏れ出る愛液には泡が混じっていた。男に貫かれる姿を想像しながら膣を掻き混ぜる。頬を染めて瞳を潤ませた顔は、女の表情になっていた。
「くううぅぅっ、あああぁぁっ!」
 ペニスに見立てた指を深く突っ込むと、伍良は背筋を仰け反らせ甲高い嬌声を響かせた。涎で汚れたトランクスが口元から落ちる。
「ふぅ、ふぅ、とてつもない快感だった……」
 脳に直撃した激しい快感で体は甘く弛緩していた。しばらく動けそうにない。伍良は足を大きく広げた格好のまま、体に残った熱を楽しんでいた。
(似た者夫婦じゃなぁ)
「うぇ!」
 興奮し過ぎて瑞穂の存在をすっかり忘れていた。羽目を外した姿を見られて顔が羞恥で真っ赤になる。
(お主の友人も同じようなことをしておったわ。伍良の下着姿を見ながら抜いていたぞ)
「マジかよ……」
(祐輔は伍良を好きなようじゃなぁ。お主もまんざらではなさそうだし、そのまま結ばれてもいいではないか)
「いやいや、俺らの年齢だと生の下着姿を見たら簡単に興奮するって。祐輔にしてみたら、俺でなくても興奮したと思う」
 祐輔が伍良の寝姿で自慰に耽っていたと聞いて、形容しがたい感情が沸き上がった。嫌だとも嬉しいとも思う。男としては敬遠したいが、女としては愉悦を感じていた。
「でも、二人とも隠れていけないことをしていたのは面白いな」
(そうだのぉ)
 瑞穂には誤魔化したが、両想いかと思うと幸せな気分になってくる。元男としてはおかしいとは思うが、祐輔に対して恋心に近いものを抱いていた。

 夏休みの宿題を順調に片づけ、小物作りもいいペースで進んでいた。試しに喫茶店に手作りのオリジナルぬいぐるみを置かせてもらうと、それなりの値段だったのに数日で完売してしまった。もっとも、購買客は女性や子供よりも伍良のファンである男性の割合が高かった。これでは参考にならないかもしれない。
「そろそろ遊びに行きたいなぁ」
 毎日が自宅と喫茶店の往復では飽きが出てくる。自由研究で瑞穂神社についてまとめようと図書館で調べることもあるが、それでも内にこもる作業ばかりで息が詰まる。伍良は本来アウトドアな性格だったのだ。
「気分転換に水着を買いに行くか」
 祐輔と近場で遊ぶことはあっても、まだ海には行ってなかった。カラオケやボーリングもいいが、青空の下で思いっきり体を動かしたい。
「祐輔はどんな水着が好きなのかなぁ」
 デパートに行った伍良は男が好きそうな水着を考えていた。男だった頃の感覚から考えると、派手で露出が多いものがいいだろうか。布地の多い競泳タイプも考えたが、祐輔を喜ばせることが優先になっていた。
「俺は背が低くて子供っぽく見えるから、大人っぽい水着に挑戦してやろう。ビキニにするつもりだけど、これなんてほとんど隠れないな」
 乳首と秘所しか隠れない水着は見ているだけで恥ずかしくなる。ほとんど紐だ。勇気を振り絞っても敷居が高すぎた。
「赤い水着の方が大人の色気があるかなぁ。でも、半分尻が見えそうだ」
 色が気に入って手に取った水着は、伍良には布地がやや少ないように思えた。他の水着と見比べて悩んでいたが、大差ないかなと自分に言い聞かせる。
「試着してから考えるか」
 下着の上から水着を試してみると、明らかに下着よりも小さい。胸の谷間が見えるのは確実だった。ボディラインには自信があるが、海水浴場には他の人間もいるのだ。祐輔以外の男にも見られるかと思うと恥ずかしくなる。
「ま、まぁ、これでいいか」
 赤いビキニを着た伍良は、大人っぽい魅力が発散されていた。可愛いというより綺麗だと思う。これなら誰だろうと悩殺されるだろう。祐輔の反応が知りたくて、伍良は赤いビキニを買うことにした。
「海が楽しみだなぁ」
 会計を済ませて紙袋を受け取った伍良は、軽い足取りで笑顔を溢れさせていた。

 海に行くのは伍良から誘った。水着を買ってしまうと一日でも早く海に行きたかった。
「明日にでも海に行こうぜ」
「伍良が誘ってくれるのは嬉しいけど、サッカー部の練習がハードでへたっているんだよなぁ。週末でもいいか?」
「もう一日だって待ちたくない。それに俺の水着姿を見れば間違いなく元気になるぞ」
 海に行きたさに男を挑発するようなことを言ってしまって、急激に恥ずかしくなった伍良は顔を俯けていた。朱色に染まった頬がプルプルと震えている。
「そ、そうか。それなら午前の練習が終わったらすぐにでも海に行こう。すっげぇ楽しみだ」
 伍良の態度が感染して、照れた祐輔は鼻の頭をかく。二人とも気恥ずかしそうな顔をしていた。

 翌日、海水浴場に到着すると人で溢れかえっていた。伍良よりも派手な水着を着ている女性がいて何となく安心する。家族連れやカップルの姿も多かった。
「男女でいるとカップルみたいに思われそうだなぁ」
「そ、そういう風に見られると伍良は嫌なのか?」
「べ、別にそうじゃないけどさ。嫌な奴と一緒に海に来るほど俺は酔狂じゃないぞ。それじゃ着替えてくる」
 不安そうな顔で祐輔が訊ねてきたので、伍良は慌てて否定した。恋人でも構わないと受け取れる発言をしてしまって、逃げるように更衣室に走る。心臓がやけにドキドキしていた。
「恥ずかしくない、恥ずかしくないぞ」
 自分に言い聞かせながら、情熱的な色をした赤いビキニを着た。下着よりも確実に面積が狭い。大事な部分が今にも見えそうだった。この姿を大勢の人に晒すかと思うと足が震えてくる。伍良は更衣室でしばらく息を整えていた。
(もたもたしておるのぉ。男が待っているぞ)
「わ、わかっているって。よし、行こう」
 あまりに待たせると祐輔が心配するだろう。伍良は勇気を振り絞って更衣室の扉を開けた。素足で砂浜を踏むとその熱さに驚く。女になって足の裏が薄くなっているのだ。慌ててビーチサンダルを履いた。

子供の神様 (37) by.アイニス

(37)

 早くなっていた心臓の鼓動は、冷たい水で顔を洗うと落ち着いた。飲み物を用意して部屋に戻る。祐輔の顔を見ると頬に微熱を感じた。
「祐輔は夏休みどう過ごすんだ?」
 氷の入った飲み物を飲んで体を冷やしながら、適当な話題を振ってみた。座る位置は祐輔の正面に戻っている。
「秋になったらサッカーの地区予選が始まるからなぁ。練習漬けの毎日になりそうだ。伍良は?」
「俺は手芸に励むよ。時間があるうちに作りたい」
 大会に間に合う可能性は低くても、足掻かなければ気持ちが納得しない。山のように小物を作るつもりだった。
「伍良も夏は忙しそうだね。でも、ちょっとは遊びに行かないか? 練習漬けの毎日というのも寂しいからさ」
「祐輔のお陰で補習は回避できそうだから、息抜きに出かけるのは構わないぞ」
 雑貨や小物を作るのが好きになったとはいえ、ずっと家にこもるというのは息が詰まる。サッカー少年だった伍良は外で遊ぶのも好きなのだ。
「それなら海水浴に行きたいよ」
「海で思いっきり泳ぐのはいいな。夏らしい気分になりそうだ」
「そうか、伍良の水着が楽しみだな」
 祐輔の頬が緩んで口元が笑みこぼれている。伍良は水着のことをすっかり失念していた。体育で水泳のない学校なので、今まで水着の必要はなかったのだ。肌を多く露出した姿で外に出るかと思うと急に体温が上昇してきた。友人が期待しているのにいまさら嫌とは言えない。
「……もうグラスが空か。今日はやけに暑いなぁ」
 喉が異様に乾いて、伍良は飲み物を何度も口にする。空になったことに気づかずグラスを傾けていた。

 勉強を再開してもなかなか集中力が高まらない。どんな水着を選ぼうか考えてしまう。これでは駄目だと思って、伍良は夕飯の準備をすることにした。
「夕飯ができたら部屋に持っていくよ」
 伍良は台所でまな板を軽快に叩いた。祐輔に手料理を食べてもらうかと思うと自然と気合が入った。男だった頃に料理をしたことがなかったとは思えない手際の良さだ。
「これで完成。祐輔の感想が楽しみだ」
「やけに機嫌がいいわね。まるで恋人に料理を作るみたいだわ」
 先に家族の分をテーブルに置く。伍良の料理している姿を見て、母親が笑いながらそう評した。
「そ、そんなことないよ。俺と祐輔は気の合う友人ってだけさ」
「とてもそう見えなかったわ。伍良が急に女の子らしくなったのは、祐輔君が理由だと思っていたのよ」
「冗談が過ぎるよ」
 伍良は苦笑したが、内心では心臓がバクバクしていた。祐輔のことを異性として強く意識しそうになる。急いでお盆に料理を乗せて台所から立ち去った。ゆっくりと歩いて深い呼吸を何度も繰り返す。
「待たせたな」
 部屋に戻ると照れ隠しで叩くようにお盆を机に置いた。乱暴な振る舞いをしなければ、気恥ずかしさで顔が赤くなりそうだ。
「喫茶店で出すような軽食かと思ったけど家庭料理ばかりだね。正直意外だった」
「俺だってこれくらいは作るさ。温かいうちに食べてくれよ」
「どれも美味しそうだ。早速頂くよ」
 祐輔が料理を食べる姿を伍良はやや緊張しながら観察していた。
「ど、どうかな」
「優しい味わいで飽きが来ない。幾らでも食べられそうだ」
「そ、そうか。足りなかったら俺の分もやるよ」
(あっ、あーっ、妾にとって食事は数少ない楽しみなのじゃぞーっ)
 祐輔の皿におかずを移そうとすると瑞穂が悲痛な声で喚いた。伍良も空腹なのだが祐輔の喜ぶ顔がもっと見たかったのだ。
「食べ過ぎても頭の回転が鈍くなるから大丈夫だよ。期末試験は敬遠したいけど、テスト勉強で伍良の料理が食べられるかと思うと悪くない」
「そんなにおだてるなよ。これくらいの料理なら誰だって作れるって」
 褒められて嬉しくなった伍良は、食事が終わってもずっと顔がにやけていた。勉強を再開した時には祐輔の正面にいたのに、いつの間にか隣に座って体をくっつけていた。祐輔の体温を感じながら勉強をする時間は楽しかった。

 期末試験が終わってテストが返ってきた。連日の試験勉強の成果が出て、伍良の成績は普段よりも高い。祐輔も上位に入る点数を取れた科目もあったようだ。これなら夏休みを補習で潰すことはない。
「夏休みの宿題も一緒にやらないか?」
「完全に気が抜けていたなぁ。祐輔がそう言ってくれるなら助かるよ」
 伍良は夏休みが終わる間際になって宿題に追われることが多い。試験が終わるとすっかり勉強のことが頭から抜けていたので、祐輔の申し出はありがたかった。
 その結果、喫茶店のバイトもあるので、夏休みになってもほぼ毎日祐輔と会っていた。昼間はバイトか小物作りをして、夜は宿題を一緒にやるという生活だ。サッカーをやってないのに忙しく充実した毎日を送っていた。
「ふわぁっ、明日は朝からバイトか。また来るのも手間だからそのまま泊まってくぞ」
 祐輔の家で夏休みの宿題をやった夜。伍良は眠くなって帰るのが面倒になった。どうせバイトでまた来なければならないのだ。
「う、うーん」
「返事が煮え切らないな。もう何度も泊まった仲だろ。困ったことでもあるのか?」
「ま、まぁ、伍良がいいなら構わないよ。おかしいなぁ、以前ならそんなに気にしなかったのに」
 不思議そうに祐輔は首を横に振っている。泊まっていいと聞いた瞬間、伍良はもう眠りかけていた。警戒心なんてない姿だ。
「そのまま寝られたら困る。せめてベッドに入ってくれよ」
「そうするかのぉ。お主はいい男じゃから、妾が隣に入ることを許そう」
「は、はぁ」
 伍良の意識が眠ったので、体の主導権が瑞穂に移っていた。伍良とは思えない喋り方と申し出に祐輔は戸惑っている。
「せめて服は脱ぐとするか。しわになっても困るからのぉ。今の季節では風邪を引くこともあるまい」
「え、ええっ!」
 瑞穂は伍良の服を脱ぎ始めた。慌てたような声で頬を赤くしながらも、祐輔は伍良の体だから目を離せない。
「はぁ、伍良のスタイルがまた良くなった気がする……」
「胸と尻が少し成長したからのぉ。それでは寝るぞ」
「うはぁ、生殺しもいいところだ……」
 瑞穂がベッドに入ってしばらく黙っていると布団が持ち上げられた。祐輔の荒い息遣いが聞こえる。瑞穂が薄く目を開くと男の影が伍良の体にかかっていた。
「ね、寝ているよな」
 伍良の下着姿を見ながら、祐輔は自慰に励んでいた。短い呻き声がして、独特の臭気が部屋に広がる。
「はぁ、はぁ、最低なことをした……」
(さすがに手は出さんか)
 若い男の控えめな行為を見て、瑞穂は微かな笑みを口元に浮かべていた。

 目覚めた時には手元が温かかった。ぼんやりしながら朝の目覚めを味わう。ゆっくりと目蓋を開いていくと室内の様子がいつもと違った。隣には至近距離に祐輔の顔がある。寝惚けていた頭が一気に覚醒して、伍良は布団から起き上がった。
「やばっ、寝る前のことを覚えていない」
 起きてみると下着姿だった。体は二人分の体温で汗ばんでいたが、特に変わったようなところはない。寝惚けていた拍子に一線を越えたかと焦ったが、祐輔が手を出したような気配はなかった。
「寝惚けていたから危機感なんてなかったな。相手が祐輔だったこともあるけど」
 何事もなくて安心したが、僅かに残念な気もした。伍良の呪われた体は男を求める傾向にある。たまに情欲が高まって、体が疼いてたまらないことがあった。
「うはぁ、俺が触っていたのは祐輔の股間か」
 手が温かいと思ったら祐輔の股間を押さえていた。朝勃ちして大きく膨れている。パジャマからにょっきりと先端が飛び出していた。伍良は思わず亀頭を見詰める。やけに喉が渇く。以前なら伍良も持っていたのに懐かしい代物だった。
「はぁ、はぁ、欲しくなる……」
 失われたモノを体が欲しがっていた。祐輔の股間に顔を近づけると独特の臭気を鼻の粘膜に感じる。異臭ではあるのだが、興奮するものがあった。祐輔が熟睡しているのをいいことに伍良の手はパジャマを下にずらしていた。
「……ごくっ、やっぱり大きいなぁ。これが俺の中に入ったらどう感じるんだろう」
 たまに体を慰めたことはあったが、常に物足りない気がした。伍良の体を蝕む女の呪いは男の精を求めているのだろう。子をたくさん産ませようと性交を強要してくるのだ。伍良は頬を火照らせながら、もぞもぞと太ももを擦り合わせていた。
「やばっ、我慢できそうにない」
 危ない気持ちが限界を突破しそうで、伍良は部屋から抜け出して浴室に向かった。まだ早い時間なので人の気配はしない。
「シャワーでも浴びて頭を冷やそう」
 艶かしい溜息を吐きながら、伍良は下着を脱いだ。パンツが湿り気を帯びている。秘所が疼いて愛液が漏れ出していた。

子供の神様 (36) by.アイニス

(36)

「姉想いのいい妹さんじゃん。どうして瑞穂が神社に来るのを嫌がったんだ?」
「妾にも姉としての意地というものがある。幼い姿で現れるのがやっとだから、軽く見られることを恐れたのじゃ。本来の妾は妹と姿はさほど変わらぬがのぉ。むしろ胸については大きかったぞ」
 困難な状況に置かれても片意地を張る神様だ。それでも伍良に助け舟を出したのだから、最初に会った時と比べれば性格が丸くなったのだろう。
「姉妹だから似るのは当然だろうね。本当に瑞穂が大きかった時代があったんだな」
 母娘と言われたら納得するくらいに瑞穂と瑞樹は似ていた。瑞穂に力があった時代は、威厳のある姿をしていたのだろう。資料から墨で描かれた瑞穂の絵を見た時は過剰な美化がされていると思ったが、瑞樹の清らかな美しさから考えると当然の描写だった。
「残念じゃが、外の空気を吸うのはここで終わりか。伍良の中に戻らせてもらうぞ」
 石段を降りると瑞穂の姿がぼやけていた。社から離れると姿を維持するのは難しいようだ。
「久しぶりに懐かしい気分になれたわ。たまには瑞樹の顔を見るのもいいかもしれんのぉ。次は茶菓子でも求めてゆっくりしたいものじゃ」
「それはいいかもね。俺も一人になりたいことはあるしさ」
 姉妹が仲良くするのはいいことだと思う。瑞穂の妹とは思わなかったが、優しそうな神様で安心した。自転車で訪れるのは少し遠いが、時々は遊びに行ってもいいだろう。
「一人になって自慰にでも耽りたいのか? そういえば妾の目を気にして我慢しておるようじゃしなぁ。そんなことを気にするような妾ではないぞ」
「ち、違うって。静かな環境の方が手芸や修理に身が入ると思ったのさ」
 伍良は真っ赤な顔になって否定する。もっとも、エッチな気分になって体を慰めたくなることはあった。かなり我慢しているので欲求不安が溜まっている。誰の目もなかったら自慰に夢中になるかもしれない。
「そういうことにしておくかのぉ」
 瑞穂は愉快そうに悪戯っぽく笑うと、伍良と体を重ねた。瑞穂の姿が消えて、体が重くなったような気がする。空腹を強く感じた。
(久しぶりに表に出たから腹が減ったわ)
「神社に戻って飯を要求したくなった。次からは見栄を張るなよ……」
 社の近くでも姿を現すことで瑞穂は消耗したらしい。それが空腹という形で出たようだ。神社にまた戻るというのは格好悪いので、伍良は空腹を我慢しながら自転車を漕ぐ羽目になった。

「まさかこんなに効果があるとは思わなかったな」
(疲労を覚えるくらいに神力を伍良に注いだようじゃからなぁ。これで効果がなければ、瑞樹が泣くわ)
 瑞樹の加護を受けてから、伍良の手芸の腕前は飛躍的に上昇した。創作をしようと思うと次々に新しいアイデアが湧いてくる。初めて行う作業でも職人のように手先が動いた。
「俺が作ったとは思えないな」
 試しに作ってみた手編みの人形は、売り物のような出来栄えだった。余っていた糸と布で作ったようには見えない。
「これなら本当に売れるかもしれないな。時給に換算したら知れているけどさ」
 サッカー部の連中から貰った材料の余ったところを使ったから材料費はタダだとしても、作業した時間を考えると割がいいわけではない。それに実際に売るとなると、高校生では手段が限られるだろう。
「マスターの許可を取って、喫茶店で売れないかな。俺のファンはいるみたいだし」
 喫茶店で可愛い笑顔を振りまいたお陰で、伍良は客から好かれていた。仕事熱心だったということもある。ここで築いた人脈を生かせるかもしれない。
「フリーマーケットに出るのも手かな。同人即売会でキャラ物を売るのもいいか」
 多分にグレーなところはあるが、人気のあるアニメのキャラ物を作るのもありだろう。マニア心をくすぐる品を作れば、趣味には金を惜しまない人もいる。芸術家として考えるなら失格かもしれないが、趣味と実益を兼ねるには手段を選んでいる暇はない。
「夏休み中に思いっきり稼げたとしても、秋の大会には間に合わないだろうけどさ。それでもまだ来年がある」
 もっとも、夏休みに創作とバイトに専念するには、期末試験で赤点を取らないようにしなければならない。補講で時間を潰す余裕はないのだ。
「学問の神様の加護も欲しくなるよ」
(贅沢なことを言っておるなぁ)
 伍良の学力はそんなに高くない。真ん中から下だろう。試験前に気を抜いたら赤点の可能性があるので、神頼みをしたくなった。
「祐輔の頭の方が俺よりはましか。一人で勉強をやっても進まないからなぁ」
 勉強に関しては集中力が続かない。手芸やサッカーでは時間を忘れるのに、机に向かうとなるとすぐ根気が尽きる。頼れそうな友人は祐輔と水咲だが、最初に頭に思い浮かんだのは祐輔だった。
「試験期間中は俺と一緒に勉強をしてくれよ。そんなに頭がいい方じゃないからさ。手伝ってくれると助かる」
 思い立ったらすぐに実行だ。伍良はバイトをやった帰りに祐輔に頼んでみた。これからしばらくバイトはお休みだ。本当なら祐輔の家に行く必要はない。
「伍良の頼みを断れるわけがないよ。でも、うちじゃなくて伍良の家でやるのはどうだろう。しばらくお邪魔してないからね」
「そういえばそうか。どっちでも構わないけど、俺が教えてもらう立場なのに家に来てもらうのは何だか悪いな」
「遅くまで勉強しても男なら一人で帰れるからさ。その代り手料理を御馳走してよ。伍良がバイトに入った日は父親が楽だと話していた」
「いいけどさ、せいぜい人並みだと思うぞ」
 喫茶店のバイトをしているうちに簡単な料理なら作れるようになった。それに最近では家庭料理も覚え始めた。瑞穂のせいで伍良は大食いなので母親は大量に食事を作ることになる。せめて家事を手伝わないと申し訳なかったのだ。
「やった!」
 握った手を振り上げて喜ぶ祐輔。かなり楽しみにしているようで、伍良としては照れそうになる。期待に応えて頑張って腕を振るおうと思った。

「前に遊びに来た時よりも部屋が女の子っぽいね。空気まで違うような気がする」
 伍良の部屋を訪れた祐輔は面食らっていた。部屋に手製の人形が飾られていたからだろう。それとも優しい色のクッションが置いてあるからか。喫茶店の給料が入ってから、部屋を少し模様替えしたのだ
「そうかな。少し手を加えたけどさ」
 女ばかりの手芸部にいれば、感受性に多大な影響を受ける。伍良の趣味は女の子っぽくなっていた。
「置いてある人形は俺が作ったものだよ。なかなか上達しただろ」
「へぇ、買ったものだと思った。最初とは比べ物にならないな」
 祐輔の手首には色あせたミサンガが巻かれている。激しいスポーツをしているので痛みが早い。今見るとかなり粗が多かった。人にやるような腕前じゃなかったと思う。
「新しいミサンガを作ろうか?」
「いや、伍良も同じのをしたままだろ。気に入っているからそのままでいい」
 そのまま祐輔に古いミサンガをしたいと言われて伍良は嬉しかった。同じデザインのミサンガをしていると、深い繋がりがあるような気がする。その感覚は快いものだ。
「それじゃ試験勉強をしようぜ」
 機嫌を良くした伍良はクッションに座って勉強を開始する。祐輔はあぐらだが、伍良は正座だった。スカートを穿くようになってから、女の子の振る舞いが板についてきた。言葉遣いは男の時と同じでも、自然に物腰が柔らかくなっていた。
「やっぱり勉強がはかどるな。一人だとこうはいかない。怠けちゃうからな」
「こっちも伍良と一緒ってことで気合が入るよ」
「そうかぁ。俺が足を引っ張ってそうで悪いな。質問が多くて邪魔になっているだろ」
 最初は対面に座って勉強をしていたが、それだと教わるのに都合が悪い。伍良は祐輔の隣に座っていた。二人が並ぶには狭い机なので、体が触れ合う結果になっている。
「伍良に教えることで復習になっているから大丈夫だ」
 祐輔の言葉に甘えて伍良はわからないところは次々に質問した。必死になっているので、祐輔の肘に胸が当たっても気にしない。時間が経つにつれて、祐輔の体温はどんどん高くなっていた。
「ふううぅ、暑いね」
「少し休憩にしようか」
 気を抜いたところで、祐輔に寄りかかっていたことに気づいた。胸がぐいぐい祐輔の肘に当たっている。祐輔が暑いといった理由に気づいて、伍良の顔も真っ赤になっていく。
「へ、変なものを押しつけて悪かったな」
「えっ、そ、そんなことはない。柔らかくて最高だと思う」
「お、おう、そうか。俺も暑いから飲み物を取ってくるよ」
 逃げるように部屋を出た伍良は乳首の先が疼いていた。硬い肘で乳房が擦られていたらしい。男と触れていた部分が熱い気がする。それは悪くない感触だった。

子供の神様 (35) by.アイニス

(35)

「反省しましたか」
「するわけあるかぁ、たわけっ! 一発なら許そうと思ったが、ただで済むと思うなよ!」
 女性から解放された瞬間、瑞穂は跳び上がって蹴りを空中に放った。綺麗な放物線を描いて蹴りが女性の顎に直撃する。見事なオーバーヘッドキックだ。顎が砕けそうな一撃を受けて、女性は地面に崩れ落ちた。

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挿絵:菓子之助

「みずきぃ、姉に手を上げるとはいい度胸だ。覚悟はできておろうな」
「ひっ、ひぃ」
 瑞穂は般若のように恐ろしい顔をして、グリグリと女性の頭を足で踏み潰す。姉という言葉を聞いて、女性は震えながらも顔を上げた。
「も、もしかして瑞穂の姉上様ですか?」
 厳しそうな雰囲気が霧散して、女性は瑞穂の剣幕に怯えていた。見た目は親娘のようだが、瑞穂の言う通り姉妹らしい。そういえば妹がいるという話だった。
「もしももかかしもあるか! 見ればわかろう」
「いえ、外見が幼くなっていますし、神力がほとんど感じられなかったので。申し訳ございません」
「もうそれくらいでいいだろ」
 伍良は頭を地面に押し付けて謝る女性が気の毒になってきた。もともと勘違いされるようなことをしていたのはこっちだ。伍良が口を挟むと、瑞穂は渋々引き下がった。
「紹介が遅れたな。妾の妹の瑞樹じゃ」
「草木を守り、芸術を司る神、瑞樹でございます」
「ど、どうもご丁寧に。俺は瑞穂の宿主で仁田伍良です」
 深々と神様にお辞儀をされて伍良は恐縮してしまった。童女のような瑞穂とは違って、瑞樹は大人の女性なのだ。外見の差というのは大きい。それに瑞樹は姉と違って礼儀正しい性格のようだ。
「妾の神社は壊されてしまったからのぉ。今は伍良のところで居候をしておる」
「姉上様、私のところに来ればいいではないですか」
「狭いところに押しこめられるのは好かん」
「再建した社が狭いのはわかります。ですから、私の神社で一緒に暮らしませんか」
 必死に瑞樹は懇願していた。姉想いなのだろう。伍良も瑞樹の申し出は悪くないように思えた。
「瑞樹には感謝しておる。小さくはあるが妾の社を用意してくれたことで、消滅を免れた一因ともなったのだろう」
「それでは一緒に暮らして頂けるのですね」
「すまぬが、そうはいかん。妾は今の人の暮らしを見たいのじゃ。それに伍良に対する責任もある。せめて伍良が生き方を決めるまでは一緒にいたい」
 折角の瑞樹の申し出を瑞穂は断っていた。伍良のことを気にはしてくれているようだ。
「それなら瑞樹さんが俺の呪いを解いてくれませんか? 俺が男に戻れれば、瑞穂も気がかりがなくなると思うのです」
 瑞穂と違って、瑞樹は神としての力を持っているように思える。姉の為になるならば力を貸してくれそうだ。伍良は男に戻れるのではないかと期待した。
「姉上様は短気なところがあるので、あなたに迷惑をかけたようですね。まずは呪いについて調べさせてください」
 瑞樹が伍良の額に手をかざすと温かな光が放たれた。伍良は緊張と期待で顔が強張っている。待つ時間が長く感じられた。
「ど、どうでしたか?」
 光の放出が終わると、伍良は待ち切れずに瑞樹に話しかけた。心臓が激しく鼓動して息苦しい。
「調べてみた結果、かなり複雑な呪いのようです。おそらく激情にかられて力を振り絞ったのでしょう。姉上様本人でなければ解呪は難しいと思います」
「そ、そんな、どうにかならないのですか?」
 期待していただけに伍良の失望は大きかった。膝から力が抜けて足ががくがくと震える。大地震が起きたかのように平衡感覚を失っていた。
「姉上様ほどではありませんが、私に対する信仰も減っているのです。神としての姿は保っていますが、さほど力はないのですよ」
「名前の通り、瑞樹は草木を司る神なのだ。だが、今となっては芸術の神としての面が大きい。神としての性質を変えて信仰を集め、どうにか力を維持しているのじゃ」
「……神様の事情なんて知りたくなかったよ」
 伍良は力なく笑っていた。笑わなければ泣いてしまいそうだ。神様であれば解決策が見つかるかと思ったのだ。
「結局は地道に瑞穂の力を取り戻すしかないのか……」
 今までと同じ努力をするだけだと思っても心が挫けそうだった。奉納品を修理して人々の瑞穂に対する信仰を回復する。長い道程だ。ただ信仰の拠点となる社が小さいながらも存在するというのは救いだった。
「ここの敷地は余っているのですか?」
「ええ、この山全てが神社の所有になります。姉上様の住む神社を再建しようと思ったのですが、私の力が足りずに小さな社を建てるのが精一杯でした」
「あまりこの神社も裕福ではないということですか」
「情けない話ですがその通りです」
 神社の維持にもそれなりに金がかかるようだ。神主もいるなら人件費もかかるだろう。神としての地位を維持するのも楽ではないようだ。
「つまり金さえ用意できれば、神社の再建も不可能ではないのか……」
 土地はもう用意されてあるのだ。神社を管理する神主もいる。神様である瑞樹も陰ながら協力してくれるだろう。つまり信仰の拠点となる神社を再建できる可能性はあるのだ。ここに神社を再建できれば、神の力の源になる人々の信仰も集めやすくなるだろう。
「少しずつではありますが、神社の再建に向けて貯蓄しております。姉上様を待たせるのは恐縮ですが、二十年ほどで再建の目途をつけるよう努力しますね」
「そ、そんなにかかるのか……」
「長い年月を生きる神にとって二十年はさほど長くはない。妾の為に瑞樹が必死なのはわかるが、人の子にとっては長すぎる時間じゃな」
 瑞樹の計画はとても悠長に思われた。とても伍良が待ち切れる話ではない。二十年といったら、今までの人生よりも長いのだ。人と神では時間の価値が違っていた。
「信仰を継続的に集めるには神社を建てるのが一番か。俺が金を集めるしかないのだろうなぁ……」
 まだ社会に出ていない身の上で大金を稼ぐにはどうしたらいいのか見当がつかない。バイト代を寄付しても焼け石に水だろう。
「俺は賢くないからなぁ。スポーツには自信があるから、プロのサッカー選手になれば大金を稼げたかもしれないけどさ」
 女のままではサッカーの才能も持ち腐れだ。伍良は必死に頭を回転させたが、金儲けに繋がるいいアイデアが思い浮かばない。
「力になるかはわかりませんが、あなたには芸術に関する才能もありそうです。私は芸術の神でもあるので、あなたの眠っている才能を開花させることはできますよ」
「神の司ることであれば神力の消耗は少ないとはいえ、なかなか加護は得られるものではないぞ。何かの役に立つかもしれん」
「……大変そうで残していた奉納品の修理もあったか。それに手芸をするのは楽しいから、才能が伸びるなら嬉しいかな」
 物作りをするのは楽しいし、完成品が見事ならもっと楽しくなる。それに芸術の才能を生かせば金も稼げるかもしれない。目的の為の手助けになるならどんな力でも欲しかった。
「それでは私の加護を与えましょう。もちろん努力を怠ってはいけませんよ」
 瑞樹が呪いを調べた時と同じように手をかざす。温かな光が顔を照らしたかと思うと加護の付与は終わっていた。伍良は体を見回したが、特に変化が起こったようには思えない。
「これで終わり?」
「ええ、これからは芸術に関することであれば、才能が今まで以上に発揮できますよ」
 頭の中身が変わったようには思えず伍良は半信半疑だった。ただ瑞樹の顔には疲れが滲んでいる。瑞穂は神力の消耗が少ないとは言ったが、信仰の少なくなった今の世の中では身にこたえるらしい。
「どうもありがとうございます」
 伍良は深く頭を下げた。加護の有無はまだわからないが、瑞樹の神社を訪れたことは一歩前進だった。事情を理解して味方になってくれる存在が一人でもいるのだ。神の力で元に戻れなかったのは非常に残念だが、目的を叶える為の指針を決められたのは大きかった。

子供の神様 (34) by.アイニス

(34)

 夏休み前になって奉納品のうち、半分は修理することができた。瑞穂が伍良から離れられるほど力が回復したわけではないが、頭に聞こえる声がはっきりした気はする。
「置く場所に困ってきたなぁ」
 修理した奉納品は部屋に飾ってあるので、室内が狭くなってきた。このままでは足の踏み場にも困ってしまう。
「倉庫が欲しくなってくるよ。でも、手元で管理しないと不安だからなぁ」
 伍良の目が届かない場所で壊れるような事態は避けたい。奉納品の修理には少なくない金銭と労力がかかっているのだ。奉納品が作られた当時と同じような素材を求めたら思ったよりも高くついた。神様に捧げるものなので、高品質なものが多かったらしい。
(……この家から少し離れておるが、倉庫にするのに向いた建物があるにはある)
 伍良が置き場所に悩んでいると、瑞穂から珍しく解決策を提案してきた。瑞穂が世の中に及ぼせる事柄なんてないと思っていたので意外な感じだ。
「うーん、折角瑞穂が教えてくれたけど、近くで管理できないのは不安だなぁ」
(……その場所には妾の知り合いがおる。それについて心配は無用じゃ)
 やや瑞穂の歯切れは悪かったが、問題ない場所のようだ。まだこれからも奉納品を修理しなくてはならないので、作業に向いた部屋の面積は確保しておきたい。
「その知り合いってやっぱり神様?」
(……そうなるのぉ)
「それなら俺が持っているより安心だ。瑞穂以外にも身近なところで神様っているんだな」
 神様が管理してくれるなら心置きなく預けることができる。それに瑞穂以外の神様から話を聞きたかった。もしかしたら男に戻る手段が見つかるかもしれない。二か月近くを女として過ごしていると、生まれた時から女だったような錯覚に陥ることがある。このままでは女であることに疑問を感じなくなりそうだ。
「それじゃ箱に梱包してそこまで持っていくか」
 奉納品を一つずつ衝撃で壊れないよう丁寧に布で包んで木箱に入れた。木箱を大きな段ボールに詰めて風呂敷で包む。それを自転車の荷台に紐で固定した。
「それじゃ場所を案内してくれよ」
(あの山に向かえばいい)
 瑞穂が指図した方角に向かって自転車を走らせた。山に近づくについて道の傾斜が険しくなってくる。整備されているとはいえ、車が一台通るのがやっとの道だ。
「ふぅ、ふぅ、このところ手芸に夢中だったから、ちょっと運動不足気味だな」
 サッカーをしなくても気にしなくなっていた。サッカーは好きなままだが、今は手芸で様々な創作をするのが楽しい。伍良の優先順位がサッカーより手芸に傾いていた。
(あとはこの石段を登った先じゃ)
「うわっ、まだ登るのかよ。俺の中にいるから瑞穂は動かなくて楽でいいよなぁ」
(それなら一緒に登るとしよう)
 何を言ってんだと思った瞬間、体が浮くような感じがして眩暈がした。頭の中が軽くなった気がする。ぶれていた視界が回復すると、悪戯っぽく笑った童女が隣に立っていた。姿が消えた時と同じく浴衣のままの姿だ。
「久しぶりに自らの足で地面を踏みしめるのはいいものじゃのぉ」
 空気を介して瑞穂の声が聞こえていた。飽きるほど聞いた声なのに新鮮に思える。瑞穂の姿を見ると喜びで体が震えた。面倒な神様ではあるが、伍良は瑞穂に妹のような親しみを持っていた。
「ほ、本当に瑞穂だよな。俺の見ている幻覚とかじゃなく」
「それなら触ってみればはっきりするではないか」
 心の衝動の赴くままに伍良は瑞穂を抱き締めていた。小さくはあったがちゃんとした体だ。温もりも感じられる。瑞穂の息遣いが首筋を掠めた。
「……良かった。俺の努力は無駄じゃなかったんだ」
 伍良が奉納品を直しても瑞穂の力が回復しないのではと疑っていた。回復しても微々たるもので、もう二度と瑞穂が姿を現すことはないと覚悟していた。希望が全く見えなくて、最近では女として生きていくことも考えていたのだ。
「心配をかけたのぉ。もうここは神の住まう神域じゃからな。妾の今の力でも出現できるというわけじゃ。もちろん伍良が丁寧に修理してくれたことも大きい」
「それじゃここから離れたらまだ駄目なのか」
「残念なことじゃがなぁ」
「それでも少し希望が見えただけいいよ」
 瑞穂が今にも消えそうな気がして、手を繋ぎながら石段を登った。疲れなんて完全に吹き飛んで、荷物を背負っていても重さを感じない。石段を登った先には広大な敷地が広がっていた。
「立派な神社だなぁ。ここに瑞穂の知り合いの神様がいるのか」
 山の上に建てられた神社は古くて荘厳な雰囲気があった。毎日きちんと掃除されているのだろう。広い敷地ではあるが、ゴミが転がっていることもない。神主がきちんと管理しているのだろう。
「それじゃ神社を訪ねてみるか」
「……いや、まずは奉納品を置くとしよう。伍良もそのままでは大変じゃからな」
 神社を見た瑞穂の表情は冴えなかった。知り合いとは言ったが、怖がっているようでもある。神社が立派なことから考えると、格の高い神様だろうか。
「やっぱり格の高い神様と会うとなると、自由気ままな瑞穂でも気詰まりするのか」
「……そんなことはない。同格じゃぞ」
「神社が立派だから同格に思えないなぁ」
「綺麗に整備されているからわからぬとは思うが、妾が住んでいた神社と造りはさほど変わらぬ」
「ううん、確かに見覚えのあるような気がする。でも、受ける印象が全く違うよ」
 じっくりと神社を観察してみると、瑞穂のいた神社と造りは似ていた。造られた年代がほぼ同じなのだろう。人の手が入らなくなるだけで、印象がまるで違った。
「ここがその場所じゃ。この倉庫、いや、社に奉納品を入れればよい」
 瑞穂が案内した場所には三メートル四方ほどの建物があった。作られて間もないようで木目が新しい。小さな賽銭箱が置かれていなければ、社ではなく倉庫に思えただろう。
「瑞穂の知り合いといっても、先に許可を取った方が良かった気もするなぁ」
「気にすることはないわ。ここに本来住むのは妾じゃからな」
 不機嫌そうな顔で瑞穂は吐き捨てたが、伍良には意味がわからない。
「えっ、どういうことだ?」
「合祀、つまり神の住む場所を移転させたわけじゃ。ここに住む神の尽力で、妾は完全な取り潰しは免れた。それには感謝しておるが、こんな狭いところに住もうとは思わん」
 社の戸を開いて中を覗くと、伍良の部屋よりも狭い。天井もあまり高くなかった。圧迫感があって好んで人が住みたい場所ではない。
「土地だけは広く取ってあるがのぉ。もっとも、広い土地にぽつんと小さな社があるというのも情けない話じゃ。こんな有様では参拝する人もおるまい」
 瑞穂は貯金箱のような大きさの賽銭箱を逆さに引っくり返した。五円玉が一枚落ちて、地面に澄んだ音を奏でる。思ったよりも大きな音がした。
「それでも少しは参拝する人がおるのか。誰もいなければ、妾も表に出られなかったからのぉ」
 地面に落ちた硬貨を見て瑞穂は寂しそうな顔をした。
「こらっ、見ていましたよ。悪戯をしてはいけません!」
 瑞穂が五円玉を拾おうとしたところで、境内に女性の怒った声が響いた。そんなに大きな声ではないが、凛として威厳がある。声に打たれて伍良はびくっと体を震わせた。
「うぁ……」
 女性の顔を見た瑞穂は体を震わせて泣きそうな顔をしていた。怖がっているようだが、それだけではなさそうだ。伍良は神社に仕える巫女かと思ったが、服装は真っ白で平安貴族のような格好だった。
「巫女でなければ神主なのか?」
 見た印象では身分の高い神職に思えた。女性の年齢ははっきりしない。若いようにも年長者にも思える。不思議な雰囲気の女性だ。
「ここは瑞穂の神を祀ってあるのです。悪戯は許しません」
「うぎゃっ!」
 女性は瑞穂を腕に抱えると尻を平手で叩いた。空気を切り裂く鋭い音が鳴って、近くで聞いている伍良は震え上がる。尻を叩かれた瑞穂は涙目になっていた。女性はもう一度手を高く上げると、勢いよく振り落す。
「ふぎゃっ!」
 悲鳴を発した瑞穂の顔が真っ赤になる。涙で目が潤んでいたが、怒りで眉毛が釣り上がっていた。

子供の神様 (33) by.アイニス

(33)

 女になって一か月。本格的に夏になって毎日が暑い。男に戻る目途はついてないが、手芸部に所属して小物作りに励んだお陰で技術が身についてきた。それに創作する楽しみを知ったように思う。
「男に戻ってからも手芸を趣味にしてもいいかもな」
 手芸から離れる気がなくなるくらいにはまっていた。最近は水咲に教わるだけでなく、図書室で手芸関連の本を借りて自力でも学んでいる。瑞穂のことを調べている最中、目についた手芸の本を読んだら意外に面白くて参考になったのだ。
「材料も溜まってきたから、そろそろ修理もできそうだ」
 サッカー部の連中に頼まれていたミサンガは全員の分を完成させた。ミサンガと交換で得た材料はかなりの量がある。気のいい奴らが多いので、伍良の為に頑張って材料を集めてくれたのだ。専門的な工具や材料も買う必要があるので奉納品の全てを修理できるわけではないが、半分くらいは取り掛かることができる。
「バイト代も入ったから、足りない物は買えばいいしな」
 喫茶店で週に三日働いたので、バイト代は高校生が持つにはかなりの金額になった。財布に余裕ができたので、必要な道具も買うことができる。それに服も欲しかった。食費で親を圧迫している気がして、服は安物で済ませていたのだ。
「少しは洒落た格好もいいよな」
 手芸に熱心になってからは芸術に対する関心が高まった。それに伴って美的センスも向上していた。安物の服だとなかなか満足できるものが見つからないのだ。
 時間が経つに従って、伍良は女としての姿をそれなりに気に入っていた。学校では上位に入る可憐な容姿だと思う。美少女に相応しい可愛い服を着ないのは、伍良の魅力を損ねることになる。
「女でいるうちは女であることを楽しまないと損だよなぁ。男に戻れないと悲嘆しても解決にならないし暗くなるばかりだ」
 最初のうちは女の体に不満を持っていたが、今では割り切れるようになってきた。仲良く喋れる女子も増えてきたので、考え方に影響を受けたのも大きい。休み時間に男友達と一緒にいることもあるが、女子と喋ることが多くなっていた。

 朝のろのろと起きた伍良は、ネグリジェ姿のままベッドに座っていた。半透明の服にも慣れて、今では色っぽい姿を気に入っている。だが、伍良の表情は冴えなかった。
「眩暈がしてクラクラするな。頭が重い……」
 風邪とは縁がなかったのにあまり調子が良くなかった。眩暈がして頭がはっきりしない。
「体調を崩すような真似はしなかったはずだけど、瑞穂が夜更かしでもしたのか?」
(悪いことが起こったら妾のせいにするではないわ。伍良の体に疲れが残るほど起きてはおらん)
 疑いをかけられた瑞穂はプンプンとした口調で反論する。確かに体がだるいだけで眠気はそんなに残ってない。十分に睡眠は取れているようだ。
「風邪をどこかで拾ったか。でも、周りは風邪を引いてないし、流行っているとも耳にしないけどなぁ」
 原因に見当はつかないが、大人しくしていれば大丈夫だろう。幸いなことに今日はバイトがない。仮にバイトがあっても祐輔の母親は退院したので、伍良が急に休むことになっても何とかなるだろう。
「今日は大人しくしていよう」
 授業を聞いても内容が頭に入ってこない。だるそうな顔で黒板を見ているのが精一杯だ。休み時間でも騒ぐ気力がなかった。女友達と会話を楽しむことが増えたが、今日は女子の甲高い笑い声が頭に響く。両耳を腕で塞いで机に突っ伏していた。
「なかなか調子が戻らないな」
 熱が出るわけではないが、放課後になっても気分の悪さは続いていた。手芸部の活動を楽しみにするようになったが、今日は集中力が高まらなくて些細なミスばかりしていた。
「今日は駄目だ。やけに苛々するなぁ」
 好きなことをすれば気分転換になると思ったが、一向に調子が元に戻らない。それにパンツが濡れている感じがして気持ち悪かった。汗かと思ったが体調が悪くて漏らしたのだろうか。それは嫌だなと思いながら、伍良はパンツに手を入れて確認してみた。
「体調が悪いなら保健室に行った方がいいよ。あたしも付き添うから」
 水咲が気遣って声をかけてきたが、パンツから引き抜いた指を見た伍良は声を失っていた。思いもしないショックで伍良の肩が震えている。知識として知ってはいても、頭が真っ白になってうまく働かない。
「伍良君、どうしたの?」
「ゆ、指が赤いんだ」
 様子がおかしいことに気づいて、水咲が心配そうに訊ねてくる。伍良は茫然としたまま、赤く濡れた指を見せた。
「作業中に指を切ったの?」
「い、いや、違う。その、怪我をしたわけじゃないと思う。股から血が出ているみたいだ」
「深く切ったのかと思って焦っちゃったよ。もしかして生理?」
「……ちゃんと見てないからわからないけど、おそらくはそうだと思う」
 水咲の口から生理という言葉を聞いて、伍良の耳が真っ赤になった。一生縁がないと思っていた症状なので、冷静に対処できない。怪我をしてないのに股から血が出てくるというのが信じられなかった。
「そういえば朝から調子が悪そうだったものね。もしかして、伍良君は初めてなの?」
「そ、そうなるのかな。経験がないから焦ったよ」
 原因がわかっても、心細いことには変わりがない。男から女になったのだ。正常な生理だという自信もなかった。
「高校生で初潮を迎えるのは珍しいね。伍良君は発育がいいから当然済ませていると思ったよ」
「う、うん。まさか今になって生理を迎えるとは思わなかったから、何の準備もしてなかった」
 女になっても生理とは無関係だと思いこんでいた。生理用品なんて当然用意してない。
「保健室に行けばナプキンをくれると思うよ」
「先生に言うのが恥ずかしいなぁ」
 初潮を迎える時期は小学校高学年から中学の間が多いらしい。高校生にもなって遅い初潮を迎えたことを言ったら、どんな対応をされるかわからなかった。医者を勧められたとしても、まともな女の体ではない気がして診せたくない。
「それじゃあたしのナプキンを貸そうか?」
「悪い、本当に助かる。恩に着るよ」
 水咲の顔が仏様に見えた。分厚い雲の隙間から日の光が差した気がする。伍良は両手を合わせて水咲を拝んでいた。
「大袈裟だなぁ。はい、これを使ってね」
「これがそうかぁ」
 しげしげと袋に包まれた生理用ナプキンを見る。まさかお世話になる日が来るとは予想外だ。水咲から簡単に生理用ナプキンの使い方を聞いて、女子トイレに向かった。
(めでたいことじゃ。今日は赤飯だな)
「喜べるわけがないよ。まさか生理があるとは思わなかった。こんなとこまで女にしなくてもいいだろ」
 女として生まれたならともかく、男だった伍良には祝い事に思えない。廊下を一人で歩いている時に瑞穂に愚痴ってしまった。女の体に慣れたつもりだったが、大きな落とし穴だった。
(豊穣の神として子供が産めない体など考えられぬ。出産することができるならば、生理があって当然じゃろう)
「呪いとしてかけたなら、そこまでこだわるなよ」
 生理痛のせいで苛々しやすかった。瑞穂の顔が見えていたら喚いたかもしれない。
 女子トイレに入ってパンツを下ろすと、股布が赤く汚れていた。秘所を見ると血液が付着して乾きかけている。股から血が出ているのを見ると、顔から血の気が引きそうになった。
「女はよく毎月この症状に耐えられるよな」
(男と比べれば身体能力で劣っていても、女というのは強いものなのじゃ)
 サッカーをやっていて怪我をしたことはある。血を見たのが初めてではないが、見えない場所から出血しているのが恐ろしかった。
「はぁ、帰りに生理用品を買わないといけないなぁ」
(昔と比べれば手間ではないな。そんな便利な品はなかったからのぉ)
 袋から出したナプキンをパンツに貼りつける。履き心地が少し悪くなったが、これでパンツが汚れる心配はない。生理が原因だとわかってその対処をしたことで、体調は悪くても気持ちが落ち着いてきた。
「生理は一日で終わらないみたいだから厄介だ。早く楽になって欲しいよ」
 帰りは水咲と一緒に薬局に寄って生理用ナプキンを買った。タンポンについても教えてもらったが、膣に棒状のものを入れておくことに抵抗がある。自慰をした経験はあってもたったの一回だ。女としての伍良はまだまだ若葉マークだった。

子供の神様 (32) by.アイニス

(32)

「やけに嬉しそうだね」
「俺はもう何ヶ月もサッカーをしてない気分だからな。祐輔とサッカーが出来るのが嬉しくてたまらないぜ」
 人の少ない広場に到着した伍良は、満面の笑みを浮かべていた。
「大袈裟だなぁ。十日前にサッカー部の練習に混じってプレイしただろ」
「日数にしてみるとそんなでもないなぁ」
 伍良が男として最後にサッカーをしたのがそれくらいだろうか。サッカーをするのが当たり前の生活だったので、ボールに触れるのが懐かしく感じられる。準備運動をして体を温めると、リフティングで体の調子を確かめてみた。
「感覚がずれるな」
 女の体を使うのには慣れたつもりだったが、長年やっているサッカーだと男だった頃の感覚が根強く残っている。ボールを地面には落とさなかったが、何となくぎくしゃくとした感じが抜けなかった。
「パスの練習からやろう」
「わかった。いくよ」
 女相手ということで最初は手心を加えたようだが、伍良が素早いパスを返すと祐輔も本気になってきた。体育の授業で女子を相手に体を動かした時は物足りなかった。運動部に所属している男の祐輔なら全力でぶつかることができる。
「くそっ、なかなか抜けないな」
 ボールを足でキープしたまま相手を抜く練習をしたのだが、祐輔にはなかなか隙が見つからない。大柄な体を素早く動かして伍良の行く手を阻んでくる。女になって背が縮んだ伍良にしてみれば、高い壁がそびえ立っているかのようだ。強引に抜こうとしても祐輔にボールを外に蹴られて保持できない。
「むちゃくちゃ悔しい。一度も抜けなかった」
「毎日練習をしているからね。それでも手強かったよ」
「ふぅ、ふぅ、慰めにならないなぁ」
 あと一歩のところで及ばない。本来なら伍良が僅かに実力で上回っていたのだ。女の体になったことを理由にしたくないが、男と比べて身体能力が落ちていることは否めない。それに伍良の息が切れてきたのに、祐輔はまだ平気な顔をしていた。このまま続けても疲労で伍良が不利になるばかりだろう。
「それじゃ最後にシュート練習だ。強いパスをゴール前に送ってくれよ。トラップしてシュートするからさ」
「わかった。強く蹴るよ」
 ゴールに向かってダッシュすると、コーナーから祐輔がボールを蹴り上げた。空気を貫いてボールが弾丸のように飛んでくる。
「なかなかいい場所だ」
 ゴールを狙うには絶好の位置だ。伍良はボールを胸でトラップしてシュートの体勢に持っていこうとした。
「ぐぅうぅっ、いってぇぇっ!」
 胸でボールを受け止めた瞬間、おっぱいに激しい痛みが炸裂した。息が止まって地面に倒れる。サッカーに夢中になって硬い胸板でないことを忘れていた。まさかこんな強い痛みが襲うとは夢にも思わない。目から涙が滲んで体が痙攣しそうだった。
「大丈夫か!?」
「……そんなに心配した顔をするな。少し休めば平気だから」
 祐輔が心配した声を出して駆け寄ってくる。伍良は痩せ我慢をして声を絞り出した。強がりだとは思っても、サッカーをしていて弱いところは見せたくない。
「くっ、大丈夫だと言っているだろ」
「女の子を冷たい地面に放置はできない。休むにしてもベンチまで運ぶよ」
 祐輔は伍良を横から抱えて軽々と持ち上げた。伍良が女になって体重が落ちたといっても、人一人分の重さはそれなりにある。足元を揺らさず伍良を運ぶ祐輔の姿は力強かった。
「まったく、見られたら恥ずかしいだろ……」
 真っ赤な顔をした伍良は口の中で小さく文句を言っていた。人が少ない広場といっても近くを通る人はいるのだ。もっとも、口では不平を言いつつも、祐輔の逞しさに感心していた。まだ蒸気を発している熱い胸板が好ましい。
「運んでもらって悪かったな」
 ベンチに置かれて祐輔の体から離れると少し残念な気がした。祐輔の肉体は触れていると頼もしくて安心するものがある。怪我をしても頼れる男性が近くにいるという状況は、それだけで傷の痛みを楽にしていた。感じたことのないおっぱいの痛みに驚いたというのも大きい。冷静になれば耐えられないほどではなかった。
「重くて大変だっただろ」
「これくらいなら軽いものさ。それに伍良の太ももに触れていたから苦じゃなかったよ」
「馬鹿。運ぶのに一生懸命だったから、そんな余裕なんてなかったはずだろ」
 何でもない顔をして祐輔は軽口を言ったが、額から大量の汗が流れて息が乱れていた。全力だったに違いない。伍良はベンチに座る祐輔の膝にちょこんと頭を乗せて休んでいた。硬い枕だがそんなに悪くはない。痛みが完全に胸から消えても、伍良はしばらく筋肉の感触を味わっていた。

「痛みが残るようなら医者に診てもらいなよ」
「祐輔は心配性だな。もう大丈夫だ」
 自宅まで祐輔に送ってもらってそれから別れた。部屋に戻って胸を確認してみたが、特に赤く腫れてはいない。
「ボールが当たった直後は胸が破裂したかと思ったからなぁ。やっぱり女の体はサッカーに向いてないな」
 伍良のおっぱいは大きめなので運動には向いてない。ブラジャーをしていても激しい運動をすると胸の存在が邪魔だった。スポーツをするにはもっと胸を固定するブラジャーが欲しいところだ。
「……祐輔に優しくされたのは嬉しかったけどさ」
 紳士的にベンチまで運んでくれた祐輔の姿を思い出すと、胸が甘く疼いて幸せな気持ちになる。男だった頃には持ちえなかった感情だ。こんな気分を味わえるなら女の子も悪くはなかった。
(少し優しくされただけでのぼせてしまったのか。確かにあの男は頼りがいがありそうじゃがなぁ)
「ちょっと格好良かったと思うくらいはいいだろ。それに風邪みたいなもので一晩寝れば元の俺に戻るさ」
 幸せそうな面持ちでぼやぁと祐輔の顔を思い出していると、瑞穂が悪戯っぽい声で伍良を茶化した。恋心に似た気持ちだと伍良も自覚していたが、寝てしまえば忘れてしまうささやかな感情だと思っていた。今だけ女の子気分を楽しんでいるのだ。
(引き始めは症状の軽い風邪でもこじらせれば高熱になることもあるがのぉ。今の妾は見ることしか出来んから、伍良が起伏の富んだ毎日を過ごしてくれれば退屈もしのげるというものじゃ)
「暇なのはわかるけどさ。あまり茶化すなよ」
(伍良が人といると妾はなかなか話せぬからのぉ。楽しんできた見返りとして、これくらいの戯言は許すべきじゃ)
「仕方ないなぁ、わかったよ」
 瑞穂が我儘を言いだしたら止める術がない。一人で寂しくしていた神様の話を適当に聞いてやろう。それで瑞穂の気持ちがすっきりするなら、日常に邪魔が入ることも少なくなる。
(わかればいいのじゃ。いつの時代でも人の恋話というのは見ていて楽しい。初々しい振る舞いの男女を見ていると応援したくなるわ。豊穣を司る妾は縁結びの神としての側面を持つからのぉ)
「頼むから余計なことはしないでくれよ」
(残念ながらそんな力は残っておらぬ。ただ伍良の微かな恋心を燃やしたらどうなったか興味はあるな)
「うへぇ、勘弁してくれよ。それは祝福じゃなくて呪いだろ」
(どちらも似たようなものじゃ)
 縁結びの神としても祀られていたならもうちょっと神社が繁盛してそうだが、世話好きでお節介なおばさんと同じで今の人には敬遠されるのかもしれない。助けられることもあるだろうが、面倒事にも巻きこまれやすくなる。片方の恋心ばかり燃やしても、その相手にとっては迷惑なこともあるだろう。瑞穂は基本的には人が好きなのだろうが、干渉が過ぎるところがあるのが厄介だ。神様というのは人を見守るだけで十分な存在かもしれない。

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