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「カストラート」 (そんな、おままごとみたいな……Noch einmal) (12) 作.ありす 挿絵.東宮由依

第11幕 ピクニック

 そして日曜日。ミサの終わった午後、四人でピクニックに出かけることになった。
 秋が近づき、魚たちが産卵場所を求めて川を上ってくる季節。気の早い木々が、栄養価の高い実をもう生らせ始めている。

「あ、ほらあそこ。あの木の下にいっぱい落ちていると思うんだ。殻を割るのが大変だけど、とっても栄養のある実が詰まっているんだよ」
「クノ、走ったら危ないだろう?」
「大丈夫だって、クララ。この道には慣れている、うわっ!」

 足元の木の根をジャンプして飛び越えようとしたらスカートが邪魔して、転んでしまった。

「だから言ったじゃないか。走ったら危ないって」
「いいじゃないか、カール。クノも久しぶりで、はしゃいでいるんだろう?」
「もう! ハルまで私のこと子供扱いして!」
「それに今日はピクニックのはずだろう? 木の実集めに来たわけじゃないぞ」
「だって、クララは山のこと知らな過ぎるんだもん。間伐や薪とりだけが山での仕事じゃないのに……」
「はいはい、どうせ僕は半人前の農夫だよ」

 いつまでも半人前じゃ困るんだけど……。
 私は小経の脇に生えていたキノコを見つけた。
 そうだ、この林はキノコが採れるんだっけ。
 私は早速、この林でキノコ狩りをすることにした。

「いい? これが食べられるキノコ。こっちは食べたらダメなキノコ……」
「これと、これはどうやって見分けるんだ?」
「ほら、軸のところに模様があるでしょ? こっちが食べたら駄目なキノコ。しっかり覚えてもらわないと困るわ」
「いいじゃないか、キノコぐらい。かんたんに見分けられる奴だけ、採ってくればいいだろ」
「駄目よ、クララ。見つけるのや見分けるのが難しいキノコほど、高く売れるんだから」
「はいはい……」
「やっぱり、クララは駄目だなぁ。そんなんじゃ、いつまで経っても一人前の農夫になんかなれないよ」
「今日はピクニックだろう? 仕事しに来たわけじゃないんだから、いいじゃないか。遊ぼうよ」
「そりゃそうだけど……。じゃ今度は釣りね。教えてあげる! 沢のほうへ行きましょう。ファリン、手伝って。場所を変えるから」

 ファリンと移動の準備を始めるクノを見ながら、カールはハルに言った。

「まったくクノの奴」
「いいじゃないか、カール。クノが楽しいのなら。そもそもそういう目的で誘ったんだろう?」
「そうだけどさ……」
「そういえば、クノは“山は久しぶりだ”って言っていたね」
「クノには山には入らない様に言い聞かせている。危険がいっぱいだから」
「クノはさ、仕事だから山に入っていたんじゃなくて、好きだから、そこを仕事場にしていたんじゃないかと思うんだけど、カールもそう思うだろう?」
「言われなくても……」
「なら、来ちゃいけないって言われたら、やっぱり辛かったんじゃないのかな」
「僕のしていることは間違いだって、言いたそうだね。ハル」
「君がそう思うのなら、たまにはクノを連れてきてやったらいいと思うよ」
「うーん。しかしなぁ……」

   *―――*―――*―――*―――*―――*―――*―――*―――*―――*―――*

「あ、ハル! こっち来てくれない? 餌をとりたいんだけど……」
「ああ、川虫だね。いいよ、手伝おう。そのスカートじゃ、水の中は大変だろう。僕が岩をどけるから、虫採網を差し込んでくれないかな」
「うん、ありがとう……」
「何か言いたそうだね」
「別に……。ハルは“僕がやる”って言うんじゃなくて、“手伝おう”って言ってくれるんだね」
「クノは、本当は自分ひとりの力で採りたかったんだろう?」
「……さすがだね。私の事、よくわかってる。クララももう少し、私の事わかってくれると、いいんだけどな……」
「カールがさっき言っていたよ。“クノに山へ行っちゃいけない”って言ったのは、間違いだったかなって」
「私、同じことを昔、クララに言ったんだよね……」
「“山の神は女の神様だから、男女が一緒に入ると、神様が嫉妬する”っていうやつかい?」
「そう。別に信じていたわけじゃなくて、どうしても一緒に入ると気遣ってかばってしまうから、収穫が少なくなってしまうだけのことなんだけどね」
「クノは山に入って、どうしたかったんだい?」
「クララはさ、私が畑仕事をしているのを見て、農業に興味を持ったって言ってたんだ。もちろん、農作物の出来は教会の重大関心事だからって言うのもあるけど。だけど、それは私の仕事の一部であって、山の仕事はクララはほとんど知らない。だけどね、畑の作物は村の生活の安定に欠かせないけど、山の仕事だって生活のためには必要なんだ。いつもじゃないけど、思いもかけない収穫が、たくさんある。それはいざと言うときの為の貯えになるんだ。だから、クララがもっと山の仕事が出来るようになれば、今の生活も、少しは楽になると思うんだ」
「生活、苦しいのかい?」
「うん、今はまだ貯えが少しあるけど、冷害や旱魃があったら駄目かも」
「クララは、そのことは?」
「知ってる……と思うけど。教会はさ、もともと村人からの浄財で成り立っているところがあるでしょう。だから、あまり真剣には考えてくれていないみたい……」
「いや、まったくカールがうらやましいね。こんなに素敵な人を嫁にもらえるんだから。僕が欲しい位だ」
「おだてたって駄目だよ。それに……」
「うん、わかっているよ。それに、僕らはもうとっくに“家族”だろう?」
「えへへ、ありがとう。“おにいちゃん”」

   *―――*―――*―――*―――*―――*―――*―――*―――*―――*―――*

「どこかに蜂の巣、無いかなぁ?」
「蜂の巣!? そんな危ないもの見つけて、どうするつもりだよ!」
「ん? 蜂蜜が欲しいなぁと思って。クララも探してよ」

 この前ファリンに貰った、蜂蜜を煮詰めて固めたって言っていた飴、凄くおいしかった。
 私はあれが、もう一度舐めたい。

「蜂蜜なら、村で買えばいいじゃないか。わざわざ自分で採らなくったって」
「あら、その村の蜂蜜だって、前は私が山で採ってきてたんだよ」

 村で蜂蜜を買うとけっこう高い。値段が高くなった原因は、私が採って来れなくなったからだけど。

「昔の話だろ。今は危ないからやめた方がいいよ。顔でも刺されたらどうするんだ?」
「大丈夫だってば」
「甘いものが欲しいのなら、僕が買ってやるからさ」
「だからそんな無駄遣いはダメだって、いつも言ってるじゃない。それに直接蜂の巣に手を入れるわけじゃないから大丈夫。やり方教えるから、クララも探してよ」
「しょうがないなぁ……」
「僕らも探すの手伝うよ、クノ」
「ありがとう、ハル」
「なぁに、後で少し分けてくれればいいさ。高く売れそうだ」
「さすが商売人。抜け目が無いね」
「まぁね」

一人クララだけがむすっとして、私たちは蜂の巣を探し始めた。

     *―――*―――*―――*―――*―――*―――*―――*―――*―――*―――*

 いきなりだった。クララが弾き飛ばされたのは。

「カールッ! 大丈夫か!」

 ハルが駆け寄る。ファリンもナイフを抜いて身構えたけれど、相手は私たちの誰よりも大きな熊だった。
 このままでは4人とも熊にやられてしまうだろう。
 いや、動けないクララを置き去りにして全力で逃げれば、3人は助かるかもしれない。
 熊は前足を高々と上げてから、2撃目をクララたちに浴びせようと近づいてきた。
 私は熊との間に割って入った。

「クノさん! 下がって!」

 ファリンが叫ぶ。落ち着け、大丈夫だ。この前みたいに助けは要らない。
 私は肩から提げていたかばんの中から、例のものを取り出した。
 熊は一瞬、私に襲い掛かる素振りを見せたが、私が取り出したものを熊の鼻先に差し出すと、ふんふんと臭いをかいで口にくわえ、森の中へ消えていった。

「万が一のために、持ってきていてよかった。“熊も見逃してくれる熊避けの実”。言い伝えのとおりだね」

 振り返ってにっこりと笑うと、ファリンは力が抜けるようにその場にへたり込んだ。
 ハルがクララに肩を貸しながら、私のところに来た。

「クノ、ひやひやしたよ。まさか、自分が囮になるつもりなんじゃないかって」
「まさか。私なんか一瞬でなぎ払われて、四人ともやられちゃっていたよ」
「でも、あれはお金に換えたんじゃなかったのかい?」
「うん……。もったいなかったから、やっぱりとっておいたんだけど、食べなくて良かった。それにしても銀貨どころか、人四人の命と交換だったんだから、たいした読みだったでしょ? いい取引だったね」
「ああ、君にも商売人の素質がありそうだ」

 私がにっこりと言うと、ハルが笑った。クララがハルの肩から手を離し、私の両肩を掴んだ。
 叩かれると思って両目をつぶると、クララは私のことを強く抱きしめた。

「いつもいつも、お転婆ばかりして……」

 くぐもったクララの声は怒っている風でもなく、むしろ優しいものだった。

「……ごめん、クララ」

<つづく>

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