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ぴゅあえろ
![]() | ぴゅあえろ (アクションコミックス) (2008/10/28) ZUKI樹 商品詳細を見る |
ここ最近の拍手実績
巴ちゃんが頑張った。
あと、FICTIONMANIAで学ぶ現代英語なんて昔の記事がえらい拍手をw
拍手数
合計 今日 昨日 過去7日 過去30日
8792 12 24 151 517
合計 517
拍手数の記事別統計
エントリー名 グラフ
画像付作品へのリンク(巴ちゃん編) 7.9% 41
日曜巴ちゃん劇場44 ひょっとしたら少しだけ続くかもしれない漫画のつづき CASE1 4.6% 24
FICTIONMANIAで学ぶ現代英語 2.7% 14
日曜巴ちゃん劇場45 ひょっとしたら少しだけ続くかもしれない漫画のつづき CASE2(別ルート) 2.7% 14
投稿TS小説第142番 そんな展開・・・(笑)(20) by.柚子色 1.7% 9
「カストラート」 (そんな、おままごとみたいな……Noch einmal) (20) 作.ありす 挿絵.東宮由依 1.7% 9
元坊ちゃん 1.5% 8
「カストラート」 (そんな、おままごとみたいな……Noch einmal) (終幕) 作.ありす 挿絵.東宮由依 1.5% 8
人造少女 1.4% 7
「男にここまでさせて、何もしないのか?」 1.4% 7
SECRET PLOT DEEP(NeWMeN) 1.2% 6
水曜イラスト企画③ 絵師 stemさん(1) 仮名:松本ゆうすけ 1% 5
新年のご挨拶 1% 5
「カストラート」 (そんな、おままごとみたいな……Noch einmal) (17) 作.ありす 挿絵.東宮由依 1% 5
950万ヒットを突破しました! 1% 5
「カストラート」 (そんな、おままごとみたいな……Noch einmal) (19) 作.ありす 挿絵.東宮由依 1% 5
強制女性化小説第82番 OUT or SAFE !? (前編) 0.8% 4
投稿TS小説 甘い人生の始まり(18禁) <前編> by.GGG 0.8% 4
製作所にようこそ 完結記念イラスト集合 <18禁> 0.8% 4
モートリ/妄想の砦 1 0.8% 4
合計 517
あと、FICTIONMANIAで学ぶ現代英語なんて昔の記事がえらい拍手をw
拍手数
合計 今日 昨日 過去7日 過去30日
8792 12 24 151 517
合計 517
拍手数の記事別統計
エントリー名 グラフ
画像付作品へのリンク(巴ちゃん編) 7.9% 41
日曜巴ちゃん劇場44 ひょっとしたら少しだけ続くかもしれない漫画のつづき CASE1 4.6% 24
FICTIONMANIAで学ぶ現代英語 2.7% 14
日曜巴ちゃん劇場45 ひょっとしたら少しだけ続くかもしれない漫画のつづき CASE2(別ルート) 2.7% 14
投稿TS小説第142番 そんな展開・・・(笑)(20) by.柚子色 1.7% 9
「カストラート」 (そんな、おままごとみたいな……Noch einmal) (20) 作.ありす 挿絵.東宮由依 1.7% 9
元坊ちゃん 1.5% 8
「カストラート」 (そんな、おままごとみたいな……Noch einmal) (終幕) 作.ありす 挿絵.東宮由依 1.5% 8
人造少女 1.4% 7
「男にここまでさせて、何もしないのか?」 1.4% 7
SECRET PLOT DEEP(NeWMeN) 1.2% 6
水曜イラスト企画③ 絵師 stemさん(1) 仮名:松本ゆうすけ 1% 5
新年のご挨拶 1% 5
「カストラート」 (そんな、おままごとみたいな……Noch einmal) (17) 作.ありす 挿絵.東宮由依 1% 5
950万ヒットを突破しました! 1% 5
「カストラート」 (そんな、おままごとみたいな……Noch einmal) (19) 作.ありす 挿絵.東宮由依 1% 5
強制女性化小説第82番 OUT or SAFE !? (前編) 0.8% 4
投稿TS小説 甘い人生の始まり(18禁) <前編> by.GGG 0.8% 4
製作所にようこそ 完結記念イラスト集合 <18禁> 0.8% 4
モートリ/妄想の砦 1 0.8% 4
合計 517
所得税の確定申告用用紙が
岡山東税務署から所得税の確定申告用用紙が送られてきました。
わたくし、基本的にはサラリーマンっぽい仕事をずっとして参りましたので、めったに確定申告はしません。いろいろあって、2回ほどやりましたし、去年もやりましたけれども。
しかし、今年は特にその必要はありませんので確定申告はスルーの予定なのです。
変に気を利かして頂いたのかはしりませんが、わざわざ税金を使って送付して頂くとはもったいない事ですねぇ・・・などと思ったのですがー。
次の日、アマゾンさまから去年の分け前の封筒が・・・って、ひょっとしてこれかぁ!?
まぁ、違うかもしれませんけど。
確かに単純には20万円以上はありますので、経費などが無ければ確定申告の義務がありますな。しかし、去年は経費が嵩んでおり赤字決算なので確定申告の必要はありません。
一度でいいから確定申告が必要なぐらい稼いでみたいものです。
わたくし、基本的にはサラリーマンっぽい仕事をずっとして参りましたので、めったに確定申告はしません。いろいろあって、2回ほどやりましたし、去年もやりましたけれども。
しかし、今年は特にその必要はありませんので確定申告はスルーの予定なのです。
変に気を利かして頂いたのかはしりませんが、わざわざ税金を使って送付して頂くとはもったいない事ですねぇ・・・などと思ったのですがー。
次の日、アマゾンさまから去年の分け前の封筒が・・・って、ひょっとしてこれかぁ!?
まぁ、違うかもしれませんけど。
確かに単純には20万円以上はありますので、経費などが無ければ確定申告の義務がありますな。しかし、去年は経費が嵩んでおり赤字決算なので確定申告の必要はありません。
一度でいいから確定申告が必要なぐらい稼いでみたいものです。
あまーい恋しよ
![]() | あまーい恋しよ (ホットミルクコミックス 275) (ホットミルクコミックス 275) (2008/10/10) Rico 商品詳細を見る |
水曜イラスト企画 絵師 倉塚りこさん(3) 仮名:長澤 達也
一行キャラ設定:ネコアレルギーでネコに触ると女の子になってしまう。女の子になると3日間はそのまま。
絵師:倉塚りこ スルーブレイカー

水曜イラスト企画の説明はこちら。毎週1枚キャライラストをUPします。
本キャラを主人公/脇役にしたSSを募集しています。コメント欄に書き込んでください。(事故を防ぐため別途ローカル保存推奨)追加イラストを希望する場合は希望シーンに<イラスト希望>と書き込んでください。私が了承し、絵師さんも乗った場合はイラストの作成を開始します。
絵師:倉塚りこ スルーブレイカー

水曜イラスト企画の説明はこちら。毎週1枚キャライラストをUPします。
本キャラを主人公/脇役にしたSSを募集しています。コメント欄に書き込んでください。(事故を防ぐため別途ローカル保存推奨)追加イラストを希望する場合は希望シーンに<イラスト希望>と書き込んでください。私が了承し、絵師さんも乗った場合はイラストの作成を開始します。
2008年ベストTSマンガ投票、結果発表!
なみいるエロ作品を尻目に蓋を開けたら一年生になっちゃったらが優勝ですー。
今後とも期待できる良作ですね!
ほかはエロ作品ががんばりましたw
1位 一年生になっちゃったら
35.6% (16票/35.6%)
2位 淫惑メタモルフォーゼ
13.3% (6票/13.3%)
3位 リバーシブル (あずまゆき Cheer up!内)
11.1% (5票/11.1%)
主人公が可愛い!
4位 おかわりナポリタン
8.9% (4票/8.9%)
ツボをしっかりと押さえていると思うのです。
4位 魔淫の聖典 (追加)
8.9% (4票/8.9%)
2008年出版に限ればこれですかね…。個人的には『FLORA ComiX』が好みですが(藍
コンビニん
6.7% (3票/6.7%)
いもーと*もーど
6.7% (3票/6.7%)
可愛らしい少女が浮かべる攻撃的な表情と、乱暴な男口調。このギャップこそTSよ!
白濁の翼アザナエル
4.4% (2票/4.4%)
BULE DROP (追加)
4.4% (2票/4.4%)
結構好きだったんだけどなぁ……
今後とも期待できる良作ですね!
ほかはエロ作品ががんばりましたw
![]() | 一年生になっちゃったら (1) (まんがタイムKRコミックス) (2007/10/27) 大井 昌和 商品詳細を見る |
1位 一年生になっちゃったら
35.6% (16票/35.6%)
2位 淫惑メタモルフォーゼ
13.3% (6票/13.3%)
3位 リバーシブル (あずまゆき Cheer up!内)
11.1% (5票/11.1%)
主人公が可愛い!
4位 おかわりナポリタン
8.9% (4票/8.9%)
ツボをしっかりと押さえていると思うのです。
4位 魔淫の聖典 (追加)
8.9% (4票/8.9%)
2008年出版に限ればこれですかね…。個人的には『FLORA ComiX』が好みですが(藍
コンビニん
6.7% (3票/6.7%)
いもーと*もーど
6.7% (3票/6.7%)
可愛らしい少女が浮かべる攻撃的な表情と、乱暴な男口調。このギャップこそTSよ!
白濁の翼アザナエル
4.4% (2票/4.4%)
BULE DROP (追加)
4.4% (2票/4.4%)
結構好きだったんだけどなぁ……
ラビアンエクスタス 1
主人公の女の子は人質体質である。
よく悪人に逆さづりにされるのだ!
そんな女子高生な彼女の旦那は牛のヒーローで・・・
女の子は可愛いし、ヒーローがEDなのが面白いw
よく悪人に逆さづりにされるのだ!
そんな女子高生な彼女の旦那は牛のヒーローで・・・
女の子は可愛いし、ヒーローがEDなのが面白いw
![]() | ラビアンエクスタス 1 (ヤングジャンプコミックス) (ヤングジャンプコミックス) (2009/01/19) 井上 敏樹まりお金田 商品詳細を見る |
まりあ・ほりっく4.5巻公式ガイドブック
応援中。
著者直筆サインが入ってるセットは安いなw
著者直筆サインが入ってるセットは安いなw
![]() | まりあ・ほりっく4.5巻公式ガイドブック (MFコミックス アライブシリーズ) (2009/01/23) 遠藤 海成 商品詳細を見る |
![]() | まりあ†ほりっく【コミックス1~4+著者直筆サイン入り限定ポストカード付】Amazon.co.jp限定セット (2009/01/31) 遠藤海成 商品詳細を見る |
ニクドレ!
![]() | ニクドレ! (MUJIN COMICS) (2009/01/05) ZUKI樹 商品詳細を見る |
平成21年 お年玉年賀はがき 当選番号
1等 <シャープ> AQUOS 32型デジタルハイビジョン液晶テレビ&ブルーレイディスクレコーダー
<パナソニック> マッサージチェア アーバン・アイ
一度は泊まりたい プレミアムな旅館・ホテル~JTBが日本全国から厳選~
<東芝> 真空圧力IH炊飯ジャー&高級米「吉兆楽」詰合せ
<キヤノン> デジタル一眼レフカメラ EOS DIGITAL&プリンタ PIXUS、三脚セット
<アスクル> 選べるオフィスグッズセット
以上6点の中から1点
100万本に1本
(4,155本) 下6けた
3 4 5 8 9 8
2等 <任天堂> 家庭用ゲーム機 Wii + Wii Fit
<オムロン> 体重体組成計 カラダスキャン PCコントロール
<カシオ> 電子辞書 EX-word
<キヤノン> デジタルカメラ IXY DIGITAL
のんびり日帰り温泉&グルメプラン~ちょっと贅沢な休日を~
<デロンギ> エスプレッソ&コーヒーメーカー
以上6点の中から1点
100万本に3本
(12,465本) 下6けた
6 6 3 8 2 9
9 0 8 7 9 6
0 2 8 9 6 2
3等 <とらや> 中形羊羹2本入
<浅くさ中村屋> 粋なおかき
<銀座ウエスト> ドライケーキ
<帝国ホテル> 焼菓子詰合せ
<赤坂ラ・ポム> フルーツクリスタルゼリー
<ダロワイヨ> フールドゥミセック詰合せ
<中田食品> 紀州梅ぼし田舎漬
<浅草今半> 牛肉佃煮詰合せ
<ニッスイ> ふかひれスープ・かに缶セット
<ホテルニューオータニ> スープ缶詰詰合せ
<静岡茶通信直販センター> お茶ティーバッグ詰合せ(100袋セット)
<トワイニング> クオリティ ティーバッグ コレクション
<ブルックス> なごみのコーヒー5種セット(105袋入)
以上13点の中から1点
1万本に1本
(415,420本) 下4けた
5 0 7 0
4等 お年玉切手シート 100本に2本
(83,083,880本) 下2けた
9 4
4 6
C組限定賞 <パナソニック> 乾燥式生ごみ処理機 リサイクラー
<ブリヂストンサイクル> 折りたたみ自転車 スニーカーライト
<コールマン> キャンプセット
以上3点の中から1点
100万本に2本
(122本) 下6けた
8 8 2 3 4 7
2 2 3 1 0 9
郵便局のSEOがヌルそうに見えたので参戦してみたり。
切手シートが2セット当たった。
<パナソニック> マッサージチェア アーバン・アイ
<東芝> 真空圧力IH炊飯ジャー&高級米「吉兆楽」詰合せ
<キヤノン> デジタル一眼レフカメラ EOS DIGITAL&プリンタ PIXUS、三脚セット
<アスクル> 選べるオフィスグッズセット
以上6点の中から1点
100万本に1本
(4,155本) 下6けた
3 4 5 8 9 8
2等 <任天堂> 家庭用ゲーム機 Wii + Wii Fit
<オムロン> 体重体組成計 カラダスキャン PCコントロール
<カシオ> 電子辞書 EX-word
<キヤノン> デジタルカメラ IXY DIGITAL
<デロンギ> エスプレッソ&コーヒーメーカー
以上6点の中から1点
100万本に3本
(12,465本) 下6けた
6 6 3 8 2 9
9 0 8 7 9 6
0 2 8 9 6 2
3等 <とらや> 中形羊羹2本入
<浅くさ中村屋> 粋なおかき
<銀座ウエスト> ドライケーキ
<帝国ホテル> 焼菓子詰合せ
<赤坂ラ・ポム> フルーツクリスタルゼリー
<ダロワイヨ> フールドゥミセック詰合せ
<中田食品> 紀州梅ぼし田舎漬
<浅草今半> 牛肉佃煮詰合せ
<ニッスイ> ふかひれスープ・かに缶セット
<ホテルニューオータニ> スープ缶詰詰合せ
<静岡茶通信直販センター> お茶ティーバッグ詰合せ(100袋セット)
<トワイニング> クオリティ ティーバッグ コレクション
<ブルックス> なごみのコーヒー5種セット(105袋入)
以上13点の中から1点
1万本に1本
(415,420本) 下4けた
5 0 7 0
4等 お年玉切手シート 100本に2本
(83,083,880本) 下2けた
9 4
4 6
C組限定賞 <パナソニック> 乾燥式生ごみ処理機 リサイクラー
<ブリヂストンサイクル> 折りたたみ自転車 スニーカーライト
<コールマン> キャンプセット
以上3点の中から1点
100万本に2本
(122本) 下6けた
8 8 2 3 4 7
2 2 3 1 0 9
郵便局のSEOがヌルそうに見えたので参戦してみたり。
切手シートが2セット当たった。
960万ヒットを達成しました!
1000万も秒読みでございますな。
ラグナゲドン3はなんと巴ちゃんの頑張りでラフが終わったのです!
あとは最初の1ページさえ1000万ヒットに間に合えば良いですね。
完成は年末ぐらいまで掛かるかもしれませんがーw
ラグナゲドン3はなんと巴ちゃんの頑張りでラフが終わったのです!
あとは最初の1ページさえ1000万ヒットに間に合えば良いですね。
完成は年末ぐらいまで掛かるかもしれませんがーw
コミックヴァルキリー 2009年 03月号
![]() | コミックヴァルキリー 2009年 03月号 [雑誌] (2009/01/27) 不明 商品詳細を見る |
「カストラート」 (そんな、おままごとみたいな……Noch einmal) (終幕) 作.ありす 挿絵.東宮由依
終幕 二人の旅立ち
そして、その日の夜、四人だけの秘密の結婚式をした。
神様にも秘密だから、鐘は鳴らさなかった。
私はカールがくれた、母様のドレスを着て式に臨んだ。
ファリンのカストラートとしての最後の歌声は、とても素晴らしかった。
カストラートが持つすべての音域を駆使して、いくつもの声音を使い分けた、ファリンにしかできない技法。
ファリンが歌ったのは、エルダが教えてくれた、恋の歌。
有名なカンタータの歌詞をちょっとだけ変えた、恋人に永遠の恋を約束する歌。
ファリンの独唱が終わると、私たちは四人揃って合唱した。
Sie sind meine Freude,
(あなたは私の喜び)
Meines Herzens Trost und Saft,
(私の心を慰め潤す生命の君)
Sie wehret allem Leide,
(あなたは諸々の禍いを防ぎ、)
Er ist meines Lebens Kraft,
(私の生きる力の源ととなる)
Meiner Augen Lust und Sonne,
(あなたは私の目に映る、輝く太陽、)
Meiner Seele Schatz und Wonne;
(そして魂の宝であり、拠り所となる)
Darum laβ ich Sie nicht
(だから私はあなたを離さない)
Aus dem Herzen und Gesicht.
(私の魂と目をあなたに捧げる。)
私はみんなと合唱して、初めてわかった。
さっきファリンが使い分けた4つの声音は、私たち四人を意味してたのだということに。
この歌は、私たち四人の誓いなんだ。
そして、ファリンは薬を飲んで、女の子になった。
*―――*―――*―――*―――*―――*―――*―――*―――*―――*―――*
「もう行ってしまうの? ハル」
あわただしい収穫の季節が終わり、冬支度を始めた或る日の朝、ハルたちは村を発つのだと私たちに言った。
聞けばもう旅支度を終えていて、昼前にはもう村を出発するのだという。
「うん、この村に長く留まっていれば、いずれまた人の噂にのって、広まってしまう。そうしたら、今度こそファリンを連れ戻そうとする人たちだって、ここへやってくるかもしれないからね」
「でも、もうファリンは……。それに……」
「私のことなら、ご心配なく」
出会った時よりも少し幼く、でも私よりも年上に見える少女が言った。
凛とした清らかさを感じさせる声だけれど、あの不思議な響きは失われていた。
あの日以来、ファリンは日曜ミサで私と合唱することも無く、村人に好評だった父と母と姉妹の聖歌劇を、二人で演じることも無かった。
私もハルもそのことを気遣ったけれど、ファリンははっきりといった。
「私にとって……、歌は生き甲斐でした。でも、それはあの声だったからではありません。私が歌わなくなったのは、カストラートだった私の最後の歌を、覚えていて欲しかったからです。それに私はもう、新しい生き方を見つけましたから」
そう言ってファリンはハルを見た。ハルもファリンを見つめた。
ファリンも私も、新しい自分の生き方を見つけた。
だからもう、後悔はしない。
「この村は居心地が良すぎるからね。雪が降る前に南の方へ行こうと思う。それにファリンと二人で世界を旅して、もっとたくさんの珍しいものや、いろんな人たちに出会いたい」
「そうか……。元気でね、ハル、ファリン」
「カール司祭とお幸せに、クノさん」
「君たちの事は、ずいぶん気をもまされたけど。安心したよ。いい恋しているじゃないか。クノ、カール、幸せにね。またいつか会おう」
ハルはそういって、手を振って旅立っていった。ファリンをつれて……。
ハルとファリンは、私たちにとっても感謝してくれていたけど、私だってとても感謝している。
二人には……いろいろ教えてもらった。
きっとまたどこかの村の知らない誰かに、商品以上の価値のあるものをおまけに付けて、売り歩くんだろうな。
あの商人たちが私たちに売ったのは、1枚の婚姻申請書。
ただの紙切れだけど、それが意味するものはとても大きい。
「いっちゃったね……」
「ハルとファリン、幸せそうだったね。よかった」
「羨ましくない? クノ」
「ん、まぁね。でもね……」
私は隣のカールを見上げた。
別に言わなくても、判っているでしょう?
でも、カールはちょっと意外なことを言った。
「ファリンはさ、クノの事好きだったって、知ってた?」
「うん……」
「そうか……」
そっか、カールも知ってたんだ……。
私がファリンに“カールと結婚する”って言った夜、ファリンは泣いていた。
でもあの時は、ファリンはカストラートで、男の気持ちで私のことを好きになってくれたんだってことも、わかっていたつもりだった。
「私もついでに、男に戻して欲しかったなぁ」
もちろん本気じゃない。
だけどカールはファリンを女の子にするとき、私をハルに見張らせて別室に行き、絶対に近づけようとしなかった。
何んだかんだ言って、カールはまだ不安なんだ。
でもこれは今後、いろいろと交渉の材料に使えるかも?
心の中でちょっと舌を出していると、カールは中腰になって私の手をとり、心配そうな顔で言った。
「僕のことが嫌いになったのかい? 僕は今のままのクノがいいな」
カールは私の肩に手を回して抱き寄せ、キスをしようとした。
ヘルマたちだって見ているって言うのに、まったく油断も隙もない。
私が口紅を引くようになってからというもの、カールはキス魔になった。一日に4回は必ずしてる気がする。
私は恥ずかしいからやめて欲しいんだけど、口紅を引くのはやめなかった。
だって、エルダからもらった口紅はまだたくさん残っていて、使わなければもったいない。
私は肩にまわされた手の甲をつねった。
「いたたたた! 酷いなぁ、クノ」
「ドサクサに紛れて調子に乗らないの!」
私たちは相変わらず、スグリの実みたいなけんかと、柿の実みたいな仲直りを繰り返している。
だってカールってば、ちょっと甘やかすと、子供みたいなことばかり言うんだもん。
結婚したら、見た目どおりにカールに甘えてやろうと思っていた私の目論見は、完全に外れてしまった。
「ここは、『ワタシたちもファリンたちみたいになれたらいいね』って、キスのひとつぐらいする場面でしょうが」
「何を寝ぼけたことを……」
「つれないなぁ、せっかく夫婦になったというのに」
「まだ役場の受理は終わっていないけどね」
そう、まだ役場の決済は終わっていない。処女が女性司祭になる条件なのに、叙階前に婚姻申請書を出せるわけが無い。それまでは、私が書類をとあるところに、大切にしまったまま。
それとファリンが、『既成事実はともかく、最低でも1年は婚約期間を延長したほうがいいです。絶対にそうすべきです!』って、私に言い残していったからなんだけど、何か意味があるのかな?
もしかして、ファリンの最後のやきもちなのかしら?
けど、まだ恋人同士って言う関係もいいかもしれない。
「神様だって見逃してくれるさ、抱きしめてキスするぐらい、いいだろう?」
「そのふやけた根性叩きなおしてあげる! 目をつぶって、歯を食いしばりなさい!」
まったく! もう司祭を辞めた気でいるんだから!
私がこぶしを振り上げると、カールはしぶしぶ目をぎゅっと瞑った。
振り上げた私の左手には、指輪が光っている。
陽にかざすと薔薇色に輝く、不思議な指輪。
私はカールの両頬に手を当てて自分に向かせ、目を閉じたままのカールの唇にキスをした。
たまには、私からもキスさせてよ。
びっくりした表情で私の顔を見つめるカールの顔は、でもとても嬉しそう。
「私だってカールのこと、大好きだよ」

照れ隠しにちょっとだけ拗ねた顔をして言ってから、とびきりの笑顔でカールに微笑んだ。
私が悩みを振り切ることができたのも、カールの本当の気持ちを知ることが出来たのも、きっと……。
ありがとう。ハル、ファリン。
(Das Ende)
そして、その日の夜、四人だけの秘密の結婚式をした。
神様にも秘密だから、鐘は鳴らさなかった。
私はカールがくれた、母様のドレスを着て式に臨んだ。
ファリンのカストラートとしての最後の歌声は、とても素晴らしかった。
カストラートが持つすべての音域を駆使して、いくつもの声音を使い分けた、ファリンにしかできない技法。
ファリンが歌ったのは、エルダが教えてくれた、恋の歌。
有名なカンタータの歌詞をちょっとだけ変えた、恋人に永遠の恋を約束する歌。
ファリンの独唱が終わると、私たちは四人揃って合唱した。
Sie sind meine Freude,
(あなたは私の喜び)
Meines Herzens Trost und Saft,
(私の心を慰め潤す生命の君)
Sie wehret allem Leide,
(あなたは諸々の禍いを防ぎ、)
Er ist meines Lebens Kraft,
(私の生きる力の源ととなる)
Meiner Augen Lust und Sonne,
(あなたは私の目に映る、輝く太陽、)
Meiner Seele Schatz und Wonne;
(そして魂の宝であり、拠り所となる)
Darum laβ ich Sie nicht
(だから私はあなたを離さない)
Aus dem Herzen und Gesicht.
(私の魂と目をあなたに捧げる。)
私はみんなと合唱して、初めてわかった。
さっきファリンが使い分けた4つの声音は、私たち四人を意味してたのだということに。
この歌は、私たち四人の誓いなんだ。
そして、ファリンは薬を飲んで、女の子になった。
*―――*―――*―――*―――*―――*―――*―――*―――*―――*―――*
「もう行ってしまうの? ハル」
あわただしい収穫の季節が終わり、冬支度を始めた或る日の朝、ハルたちは村を発つのだと私たちに言った。
聞けばもう旅支度を終えていて、昼前にはもう村を出発するのだという。
「うん、この村に長く留まっていれば、いずれまた人の噂にのって、広まってしまう。そうしたら、今度こそファリンを連れ戻そうとする人たちだって、ここへやってくるかもしれないからね」
「でも、もうファリンは……。それに……」
「私のことなら、ご心配なく」
出会った時よりも少し幼く、でも私よりも年上に見える少女が言った。
凛とした清らかさを感じさせる声だけれど、あの不思議な響きは失われていた。
あの日以来、ファリンは日曜ミサで私と合唱することも無く、村人に好評だった父と母と姉妹の聖歌劇を、二人で演じることも無かった。
私もハルもそのことを気遣ったけれど、ファリンははっきりといった。
「私にとって……、歌は生き甲斐でした。でも、それはあの声だったからではありません。私が歌わなくなったのは、カストラートだった私の最後の歌を、覚えていて欲しかったからです。それに私はもう、新しい生き方を見つけましたから」
そう言ってファリンはハルを見た。ハルもファリンを見つめた。
ファリンも私も、新しい自分の生き方を見つけた。
だからもう、後悔はしない。
「この村は居心地が良すぎるからね。雪が降る前に南の方へ行こうと思う。それにファリンと二人で世界を旅して、もっとたくさんの珍しいものや、いろんな人たちに出会いたい」
「そうか……。元気でね、ハル、ファリン」
「カール司祭とお幸せに、クノさん」
「君たちの事は、ずいぶん気をもまされたけど。安心したよ。いい恋しているじゃないか。クノ、カール、幸せにね。またいつか会おう」
ハルはそういって、手を振って旅立っていった。ファリンをつれて……。
ハルとファリンは、私たちにとっても感謝してくれていたけど、私だってとても感謝している。
二人には……いろいろ教えてもらった。
きっとまたどこかの村の知らない誰かに、商品以上の価値のあるものをおまけに付けて、売り歩くんだろうな。
あの商人たちが私たちに売ったのは、1枚の婚姻申請書。
ただの紙切れだけど、それが意味するものはとても大きい。
「いっちゃったね……」
「ハルとファリン、幸せそうだったね。よかった」
「羨ましくない? クノ」
「ん、まぁね。でもね……」
私は隣のカールを見上げた。
別に言わなくても、判っているでしょう?
でも、カールはちょっと意外なことを言った。
「ファリンはさ、クノの事好きだったって、知ってた?」
「うん……」
「そうか……」
そっか、カールも知ってたんだ……。
私がファリンに“カールと結婚する”って言った夜、ファリンは泣いていた。
でもあの時は、ファリンはカストラートで、男の気持ちで私のことを好きになってくれたんだってことも、わかっていたつもりだった。
「私もついでに、男に戻して欲しかったなぁ」
もちろん本気じゃない。
だけどカールはファリンを女の子にするとき、私をハルに見張らせて別室に行き、絶対に近づけようとしなかった。
何んだかんだ言って、カールはまだ不安なんだ。
でもこれは今後、いろいろと交渉の材料に使えるかも?
心の中でちょっと舌を出していると、カールは中腰になって私の手をとり、心配そうな顔で言った。
「僕のことが嫌いになったのかい? 僕は今のままのクノがいいな」
カールは私の肩に手を回して抱き寄せ、キスをしようとした。
ヘルマたちだって見ているって言うのに、まったく油断も隙もない。
私が口紅を引くようになってからというもの、カールはキス魔になった。一日に4回は必ずしてる気がする。
私は恥ずかしいからやめて欲しいんだけど、口紅を引くのはやめなかった。
だって、エルダからもらった口紅はまだたくさん残っていて、使わなければもったいない。
私は肩にまわされた手の甲をつねった。
「いたたたた! 酷いなぁ、クノ」
「ドサクサに紛れて調子に乗らないの!」
私たちは相変わらず、スグリの実みたいなけんかと、柿の実みたいな仲直りを繰り返している。
だってカールってば、ちょっと甘やかすと、子供みたいなことばかり言うんだもん。
結婚したら、見た目どおりにカールに甘えてやろうと思っていた私の目論見は、完全に外れてしまった。
「ここは、『ワタシたちもファリンたちみたいになれたらいいね』って、キスのひとつぐらいする場面でしょうが」
「何を寝ぼけたことを……」
「つれないなぁ、せっかく夫婦になったというのに」
「まだ役場の受理は終わっていないけどね」
そう、まだ役場の決済は終わっていない。処女が女性司祭になる条件なのに、叙階前に婚姻申請書を出せるわけが無い。それまでは、私が書類をとあるところに、大切にしまったまま。
それとファリンが、『既成事実はともかく、最低でも1年は婚約期間を延長したほうがいいです。絶対にそうすべきです!』って、私に言い残していったからなんだけど、何か意味があるのかな?
もしかして、ファリンの最後のやきもちなのかしら?
けど、まだ恋人同士って言う関係もいいかもしれない。
「神様だって見逃してくれるさ、抱きしめてキスするぐらい、いいだろう?」
「そのふやけた根性叩きなおしてあげる! 目をつぶって、歯を食いしばりなさい!」
まったく! もう司祭を辞めた気でいるんだから!
私がこぶしを振り上げると、カールはしぶしぶ目をぎゅっと瞑った。
振り上げた私の左手には、指輪が光っている。
陽にかざすと薔薇色に輝く、不思議な指輪。
私はカールの両頬に手を当てて自分に向かせ、目を閉じたままのカールの唇にキスをした。
たまには、私からもキスさせてよ。
びっくりした表情で私の顔を見つめるカールの顔は、でもとても嬉しそう。
「私だってカールのこと、大好きだよ」

照れ隠しにちょっとだけ拗ねた顔をして言ってから、とびきりの笑顔でカールに微笑んだ。
私が悩みを振り切ることができたのも、カールの本当の気持ちを知ることが出来たのも、きっと……。
ありがとう。ハル、ファリン。
(Das Ende)
サファイアリボンの騎士 2
ヒロインが王子に変身(?)したりする手塚御大の作品リメイク。
たまにはエロ無しも良いものですな。
(ネタばれ)
ラスボスと踏んでいた魔女様があっさりお亡くなりになっててw
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「カストラート」 (そんな、おままごとみたいな……Noch einmal) (20) 作.ありす 挿絵.東宮由依
第19幕 交渉
その翌日、あての無い旅支度をのろのろとしていると、ハルが尋ねてきた。
「ファリンがカールから、これを渡して欲しいと預かってきたそうだ」
「何? 手紙?」
教区と書簡をやり取りする時に使う、装飾の入った封筒の中からは、教会の印が押された紙が出てきた。
謹啓
ノイエ・ヴァシュタール教区長 兄
私、カール・K・アインテッセは司祭職を降階し、
還俗することを、神にお許し願いたい。
後継の司祭には、
現デルリン村臨時助祭
コンスタンツェ・C・シュタインベルガー
を推薦するものなり。
謹白
デルリン村司祭 カール・K・アインテッセ 弟拝
「どういうこと? クララが司祭を辞めるって。それに、母様はもうとっくに亡くなっているわ」
「カールには……、司祭には妻帯が許されないそうだ。だから司祭を辞めて、代わりに君を司祭に推薦するという書簡だ。コンスタンツェ・C・シュタインベルガーというのは、君のお母さんの名前ではなくて、君が司祭として洗礼を受けるのに必要な、新しい名前だ」
「意味がわからないわ。司祭だって結婚できるって言ったのはクララだし、それがダメなら、私が司祭になんかなっても同じじゃない。それに世襲でも無いのに、女の私が司祭になんか、なれるわけないじゃない!」
「純潔を守っている女性なら、推薦を受けて司祭になれるそうだ」
「何それ? バカにしてるわ! で、今度は私を永久にあの教会に縛り付けておくってこと? そんなことで、クララは私をこの村に閉じ込めておこうって言うの?!」
「君と結ばれる為には、そうするしかないそうだ」
「……そう、良くわかったわ。クララに伝えて頂戴。“あなたの思い通りになんかならない”って」
「ちょっと待ってくれ! まだ説明は終わっていない、カールの意図は君を自分勝手に縛り付けようなんてところには無い」
「じゃあ何?」
「こういうことらしい、カールが司祭を降りて君が代わりに司祭になれば、カールは還俗したことになり、結婚することができる。君が司祭になったとしても、女性だから結婚は可能だ。“クララ”が司祭でも結婚できるといったのは、そういうことだったのだそうだ」
「それで?」
「君がカールと結婚すればその夫、つまりカールは再び司祭になる。女性の司祭が結婚した場合、その夫が代わりに司祭になるというのが、教区の決まりごとなんだそうだよ」
「つまり、自由になった“カール”は誰とでも結婚できるのね。例えば、エルダとも」
「クノ、僕は君をからかいにきたわけじゃないよ」
「……クララは、いつから知っていたの?」
「ごめん、そこまでは僕も聞いていない」
「そう……」
「クノ、これだけは信じて欲しいんだ、カールは、」
「もういいの! 私……。ありがとう、ハル。面倒かけたね。ファリンにも伝えて。“もういいから”って」
「クノ……」
私は黙ったまま、意味も無く持っていた袋の中身を一つずつ出しては確かめ、また袋に戻した。
「……また明日、出直してくるよ」
*―――*―――*―――*―――*―――*―――*―――*―――*―――*―――*
そして翌日の昼頃、ハルが再び私の家にやってきた。
手には1枚の紙を持っていた。
「手に入れるのには苦労した。これをクノに買ってもらいたいんだ」
そういって懐から取り出したのは、村役場においてある、婚姻申請書だった。
クララのサインも済ませてあった。
いまさらこんなものを持ち出して何の意味があるんだろう?
「何これ? ただの紙きれじゃない」
「クノ。僕達は商人だよ。契約書は絶対だ。何があっても守らなくてはならないものなんだ。婚姻申請書だって同じことだよ。クララは本心から君との結婚を望んでいる」
「へぇ? それで、私はハルにいくら払えばいいの?」
「お金には換算できないだろう。君には、ファリンのために、例の薬を手に入れる交渉をお願いしたい」
「イヤだって、言ったら? それに、クララが私の言うことなんか聞くかしら?」
「この婚姻申請書に君がサインをしてくれるのなら、という条件付で交渉に応じるそうだ」
「信じられないわ」
「僕がクノの損になるような取引を、持ちかけると思うかい?」
「……思わないわ」
私は考えた。婚姻申請書は私がサインしたところで、村役場の印がなければただの紙切れに過ぎない。
つまり、あの紙はもう一度村役場に戻されて、決済を受けなければならない。
その時私が取り戻して、破り捨ててしまうことは簡単だ。“不受理”の印を押したっていい。
「その申請書に、サインすればいいのね?」
「ああ」
たかがこんな紙切れ1枚で仲直りできるとは思えないし、そんな気もなかった。
だがこれは、あの薬を手に入れる、チャンスかもしれない。
ファリンのためにも、私のためにも……。
「クノ、何を考えているんだい?」
「別に……」
ハルは私の顔をじっと見つめたまま、視線をそらそうとはしなかった。
私は下を向いてずっと黙っていたけど、ハルにだけは私の不安と胸の内を理解して欲しかった。
「……私ね、ずっと不安だった。こんな体になってしまって、今まで一人で出来ていたことも出来なくなってしまって。クララやヘルマに毎日『もっと女の子らしく』って言われ続けて……。だからもし、クララに見放されてしまったらどうしようって、いつも思ってた」
「クノ……」
「ううん、クララはそんなことしないって、そう信じてたけど。だけど、クララは司祭だから……。例え誰であろうと、困っている人がいたら手を差し伸べなくちゃいけなくて……だけど、それじゃ嫌だったの。クララの特別だって、そう思い続けたかった。だから私は覚悟を決めて、もう男だったことは忘れて、クララの妻になれるようにって努力した。でも多分それは無理だったんだろうと思う。だってそれは私が私ではなくなってしまうって事だもの。だから、どうしても言って欲しかった。“今のままでもいいよ、愛してるよ”って。だけど、クララはそんなこと一言も言ってくれなくて……。それに、あんな大切なこと、どうして私にちゃんと打ち明けてくれなかったのかしら。私と結婚したいのなら、それは私の問題でもあるわ。でも、クララは何も言ってくれなかった。だから、もう駄目だって思った」
「言葉だけが、気持ちを伝える手段じゃないよ……と言っても、説得力はなさそうだね」
「神様に“嘘はつかない”って誓いを立てた司祭の言葉なら、どんなに意地悪されても、そっけなくされても、私、信じることが出来たと思うの。でも判った。クララは司祭である限り、もう言ってはくれないのね」
「クノは、カールに“愛している”って言ったのかい?」
「ううん、言えなかった。だって、もしそれでクララが応えてくれなかったら……。神様を引き合いに出されたり、キスだけで誤魔化されたら、多分私、ずっとクララのこと、信じられなくなっちゃう」
「それで、どうするんだい? 君は本当にカールとは別れるつもりなのかい?」
「ごめんね、ハル。私は覚悟を決めたの。だからもう、私のすることを黙って見ていて」
「……解った。でも僕達との契約は履行してもらうよ。明日、僕達とカールに会ってくれるね?」
「ええ、いいわ」
私はハルとファリンと共に、クララに会うことにした。
*―――*―――*―――*―――*―――*―――*―――*―――*―――*―――*
交渉の場は教会の礼拝堂。
わざわざこんなところを指定してくるなんて、神の前でうそはつけないということらしいけど、クララやファリンはともかく、私は臨時の司祭代理だから、そんなこと関係ない。
「私はハル達と取引をしたの。それはクララもわかっているよね?」
「ああ」
私の顔を見もせずに、ぶっきらぼうに答えるクララ。本当に仲直りする気がある人の態度とは思えない。
「じゃあ、例の薬のことも、わかっているよね?」
「あの薬のことは、まだよくわかっていない。僕とクノは偶然にも口にしてこんな姿になったけど、実のところは手に余る代物だ。危険が伴う」
「でも、このままじゃ、ファリンは」
「それに、これは神の教えにも反することだ。司祭としては許可できない」
「ファリンとハルが不幸になるということが、わかっていたとしても?」
「ファリンはどうなんだ? 本当にあの薬を飲みたいと思っているのかい? その声を失うとしても?」
「はい……」
「どういう結果になろうと、元に戻る事はできないよ」
「私、クノさんとカールさんを見ていて、思ったんです。自分の本当の気持ちを言わなければ、不幸になるだけだって。自分の人生は、自分の手で切り開いていかないと、いけないんだと思います。だから私言います。クノさんたちが飲んだという薬を、私にもください。私、ハルさんとずっと一緒にいたい。お願いします」
そういってファリンは、クララに深々と頭を下げた。ハルも一緒になって頭を下げている。
「クララ、私からも頼むわ。ハルとファリンには幸せになってもらいたい。だから二人のために、あの薬を出してあげて」
私もクララに頭を下げた。
「駄目だといったら?」
「この紙は何かしら?」
私は例の婚姻申請書を出した。
「仕方ないね……」
「ありがとう、クララ」
これで、私のとるべき道も定まった。
隙を見てクララからあの薬を奪いとって、ファリンと二人で分ける。
そして私は直ちに村を出る。その後のことは、その場で考えよう。
そしてこれからは、自分一人の力で生きていかなきゃならないんだ。
「でも、ひとつだけ条件がある。僕の頼みも聞いてくれるのなら、薬を使ってもいい」
クララが私を見つめた。ファリンたちも不安そうに私たちを窺う。
「私に?」
「そう。クノには自分が女の子であることを認めて欲しい。君は男だった自分を失うことを、いつも怖がっている。でももう認めて欲しいんだ。僕はもう女だった頃の自分には戻れない。新しく生まれ変わった自分を認めてしまったからだ。だからクノにも、僕と同じように、生まれ変わった自分を認めて欲しいんだ」
「過去の、今までの私を否定しろってこと……?」
「違う。過去は過去として、今のキミ自身を認めて欲しいんだ」
「今の……私?」
「僕のために、僕の理想の女性に……いや、違う。そうじゃない」
クララは、私をさっと抱き上げてテーブルの上に座らせ、目線を合わせた。
「我侭な僕を赦してくれる、この世でたった一人の女性になって欲しい」
クララの気迫のこもった真剣な態度に、私は圧倒されていた。
「喜び、悲しみ。希望、絶望。出会うもの、別れるもの。越し方、行く末。諸々の全ては、我と君と彼と彼方とともに……」
聖典にある、神と世界と人々を結びつける言葉だ。
司祭であるクララの、クララなりの全てを分かち合い、共にこの世にありたいという真剣な気持ち……。
クララは自分に向けて指で空を切ってから、じっとしたままの私を抱き寄せて、長い長いキスをした。
私はなぜだかわからないけど、自然に涙がこぼれてきた。
嬉しかったのか、悲しかったのか、よくわからなかった。
さっきまでのクララへの怒りも、あの薬を手に入れた後にしようと考えていたことも全部、唇に封じられてしまった。
でも私は、この人の妻になるんだと、それだけは確信していた。
抱きしめられた腕の中が、自分の居場所なんだと、そう思った。
だから、クララがポケットからローゼンシルバニウムの指輪を取り出したとき、私は黙って左手を差し出した。
私の手に指輪をはめると、クララは私のことをもう一度抱き寄せ、耳元で私が一番言って欲しかったことを言ってくれた。
「ばか……」
「薬を取ってくるよ」
照れ隠しのように言うクララの顔はまっ赤だった。多分、私も。
ぱたんと部屋の戸が閉じられると、ファリンが私のそばに駆け寄ってきて、私の手を握った。
「私、とっても感動しました。あんなに真剣なプロポーズなんて、まるで物語みたいでしたよ」
「大げさだよ、ファリン」
「いいえ! 私、目の前で見ていても、あんな感動的な場面に立ち会えたなんて、信じられません。神に仕える司祭がその立場を超えて、一人の女性に真剣な愛を誓ったんですよ!」
「実感、わかないけど」
「いいえ! クノさん、本当にカールさんの気持ち、わかりました?」
「うん、なんとなく……ファリンの言いたいこともわかるよ。司祭は村で一番神に近い立場だから。村人の悩みを聞き、何かを助言することはあっても、自分の悩みは、誰にも打ち明けられない。だから、誰にも自分のわがままが言えない」
「そうです。だけど唯一それが出来る人を、たったひとりだけ求めたということですよ」
「それが、私……」
私は左手の指に嵌められた指輪を撫でた。
<つづく>
その翌日、あての無い旅支度をのろのろとしていると、ハルが尋ねてきた。
「ファリンがカールから、これを渡して欲しいと預かってきたそうだ」
「何? 手紙?」
教区と書簡をやり取りする時に使う、装飾の入った封筒の中からは、教会の印が押された紙が出てきた。
謹啓
ノイエ・ヴァシュタール教区長 兄
私、カール・K・アインテッセは司祭職を降階し、
還俗することを、神にお許し願いたい。
後継の司祭には、
現デルリン村臨時助祭
コンスタンツェ・C・シュタインベルガー
を推薦するものなり。
謹白
デルリン村司祭 カール・K・アインテッセ 弟拝
「どういうこと? クララが司祭を辞めるって。それに、母様はもうとっくに亡くなっているわ」
「カールには……、司祭には妻帯が許されないそうだ。だから司祭を辞めて、代わりに君を司祭に推薦するという書簡だ。コンスタンツェ・C・シュタインベルガーというのは、君のお母さんの名前ではなくて、君が司祭として洗礼を受けるのに必要な、新しい名前だ」
「意味がわからないわ。司祭だって結婚できるって言ったのはクララだし、それがダメなら、私が司祭になんかなっても同じじゃない。それに世襲でも無いのに、女の私が司祭になんか、なれるわけないじゃない!」
「純潔を守っている女性なら、推薦を受けて司祭になれるそうだ」
「何それ? バカにしてるわ! で、今度は私を永久にあの教会に縛り付けておくってこと? そんなことで、クララは私をこの村に閉じ込めておこうって言うの?!」
「君と結ばれる為には、そうするしかないそうだ」
「……そう、良くわかったわ。クララに伝えて頂戴。“あなたの思い通りになんかならない”って」
「ちょっと待ってくれ! まだ説明は終わっていない、カールの意図は君を自分勝手に縛り付けようなんてところには無い」
「じゃあ何?」
「こういうことらしい、カールが司祭を降りて君が代わりに司祭になれば、カールは還俗したことになり、結婚することができる。君が司祭になったとしても、女性だから結婚は可能だ。“クララ”が司祭でも結婚できるといったのは、そういうことだったのだそうだ」
「それで?」
「君がカールと結婚すればその夫、つまりカールは再び司祭になる。女性の司祭が結婚した場合、その夫が代わりに司祭になるというのが、教区の決まりごとなんだそうだよ」
「つまり、自由になった“カール”は誰とでも結婚できるのね。例えば、エルダとも」
「クノ、僕は君をからかいにきたわけじゃないよ」
「……クララは、いつから知っていたの?」
「ごめん、そこまでは僕も聞いていない」
「そう……」
「クノ、これだけは信じて欲しいんだ、カールは、」
「もういいの! 私……。ありがとう、ハル。面倒かけたね。ファリンにも伝えて。“もういいから”って」
「クノ……」
私は黙ったまま、意味も無く持っていた袋の中身を一つずつ出しては確かめ、また袋に戻した。
「……また明日、出直してくるよ」
*―――*―――*―――*―――*―――*―――*―――*―――*―――*―――*
そして翌日の昼頃、ハルが再び私の家にやってきた。
手には1枚の紙を持っていた。
「手に入れるのには苦労した。これをクノに買ってもらいたいんだ」
そういって懐から取り出したのは、村役場においてある、婚姻申請書だった。
クララのサインも済ませてあった。
いまさらこんなものを持ち出して何の意味があるんだろう?
「何これ? ただの紙きれじゃない」
「クノ。僕達は商人だよ。契約書は絶対だ。何があっても守らなくてはならないものなんだ。婚姻申請書だって同じことだよ。クララは本心から君との結婚を望んでいる」
「へぇ? それで、私はハルにいくら払えばいいの?」
「お金には換算できないだろう。君には、ファリンのために、例の薬を手に入れる交渉をお願いしたい」
「イヤだって、言ったら? それに、クララが私の言うことなんか聞くかしら?」
「この婚姻申請書に君がサインをしてくれるのなら、という条件付で交渉に応じるそうだ」
「信じられないわ」
「僕がクノの損になるような取引を、持ちかけると思うかい?」
「……思わないわ」
私は考えた。婚姻申請書は私がサインしたところで、村役場の印がなければただの紙切れに過ぎない。
つまり、あの紙はもう一度村役場に戻されて、決済を受けなければならない。
その時私が取り戻して、破り捨ててしまうことは簡単だ。“不受理”の印を押したっていい。
「その申請書に、サインすればいいのね?」
「ああ」
たかがこんな紙切れ1枚で仲直りできるとは思えないし、そんな気もなかった。
だがこれは、あの薬を手に入れる、チャンスかもしれない。
ファリンのためにも、私のためにも……。
「クノ、何を考えているんだい?」
「別に……」
ハルは私の顔をじっと見つめたまま、視線をそらそうとはしなかった。
私は下を向いてずっと黙っていたけど、ハルにだけは私の不安と胸の内を理解して欲しかった。
「……私ね、ずっと不安だった。こんな体になってしまって、今まで一人で出来ていたことも出来なくなってしまって。クララやヘルマに毎日『もっと女の子らしく』って言われ続けて……。だからもし、クララに見放されてしまったらどうしようって、いつも思ってた」
「クノ……」
「ううん、クララはそんなことしないって、そう信じてたけど。だけど、クララは司祭だから……。例え誰であろうと、困っている人がいたら手を差し伸べなくちゃいけなくて……だけど、それじゃ嫌だったの。クララの特別だって、そう思い続けたかった。だから私は覚悟を決めて、もう男だったことは忘れて、クララの妻になれるようにって努力した。でも多分それは無理だったんだろうと思う。だってそれは私が私ではなくなってしまうって事だもの。だから、どうしても言って欲しかった。“今のままでもいいよ、愛してるよ”って。だけど、クララはそんなこと一言も言ってくれなくて……。それに、あんな大切なこと、どうして私にちゃんと打ち明けてくれなかったのかしら。私と結婚したいのなら、それは私の問題でもあるわ。でも、クララは何も言ってくれなかった。だから、もう駄目だって思った」
「言葉だけが、気持ちを伝える手段じゃないよ……と言っても、説得力はなさそうだね」
「神様に“嘘はつかない”って誓いを立てた司祭の言葉なら、どんなに意地悪されても、そっけなくされても、私、信じることが出来たと思うの。でも判った。クララは司祭である限り、もう言ってはくれないのね」
「クノは、カールに“愛している”って言ったのかい?」
「ううん、言えなかった。だって、もしそれでクララが応えてくれなかったら……。神様を引き合いに出されたり、キスだけで誤魔化されたら、多分私、ずっとクララのこと、信じられなくなっちゃう」
「それで、どうするんだい? 君は本当にカールとは別れるつもりなのかい?」
「ごめんね、ハル。私は覚悟を決めたの。だからもう、私のすることを黙って見ていて」
「……解った。でも僕達との契約は履行してもらうよ。明日、僕達とカールに会ってくれるね?」
「ええ、いいわ」
私はハルとファリンと共に、クララに会うことにした。
*―――*―――*―――*―――*―――*―――*―――*―――*―――*―――*
交渉の場は教会の礼拝堂。
わざわざこんなところを指定してくるなんて、神の前でうそはつけないということらしいけど、クララやファリンはともかく、私は臨時の司祭代理だから、そんなこと関係ない。
「私はハル達と取引をしたの。それはクララもわかっているよね?」
「ああ」
私の顔を見もせずに、ぶっきらぼうに答えるクララ。本当に仲直りする気がある人の態度とは思えない。
「じゃあ、例の薬のことも、わかっているよね?」
「あの薬のことは、まだよくわかっていない。僕とクノは偶然にも口にしてこんな姿になったけど、実のところは手に余る代物だ。危険が伴う」
「でも、このままじゃ、ファリンは」
「それに、これは神の教えにも反することだ。司祭としては許可できない」
「ファリンとハルが不幸になるということが、わかっていたとしても?」
「ファリンはどうなんだ? 本当にあの薬を飲みたいと思っているのかい? その声を失うとしても?」
「はい……」
「どういう結果になろうと、元に戻る事はできないよ」
「私、クノさんとカールさんを見ていて、思ったんです。自分の本当の気持ちを言わなければ、不幸になるだけだって。自分の人生は、自分の手で切り開いていかないと、いけないんだと思います。だから私言います。クノさんたちが飲んだという薬を、私にもください。私、ハルさんとずっと一緒にいたい。お願いします」
そういってファリンは、クララに深々と頭を下げた。ハルも一緒になって頭を下げている。
「クララ、私からも頼むわ。ハルとファリンには幸せになってもらいたい。だから二人のために、あの薬を出してあげて」
私もクララに頭を下げた。
「駄目だといったら?」
「この紙は何かしら?」
私は例の婚姻申請書を出した。
「仕方ないね……」
「ありがとう、クララ」
これで、私のとるべき道も定まった。
隙を見てクララからあの薬を奪いとって、ファリンと二人で分ける。
そして私は直ちに村を出る。その後のことは、その場で考えよう。
そしてこれからは、自分一人の力で生きていかなきゃならないんだ。
「でも、ひとつだけ条件がある。僕の頼みも聞いてくれるのなら、薬を使ってもいい」
クララが私を見つめた。ファリンたちも不安そうに私たちを窺う。
「私に?」
「そう。クノには自分が女の子であることを認めて欲しい。君は男だった自分を失うことを、いつも怖がっている。でももう認めて欲しいんだ。僕はもう女だった頃の自分には戻れない。新しく生まれ変わった自分を認めてしまったからだ。だからクノにも、僕と同じように、生まれ変わった自分を認めて欲しいんだ」
「過去の、今までの私を否定しろってこと……?」
「違う。過去は過去として、今のキミ自身を認めて欲しいんだ」
「今の……私?」
「僕のために、僕の理想の女性に……いや、違う。そうじゃない」
クララは、私をさっと抱き上げてテーブルの上に座らせ、目線を合わせた。
「我侭な僕を赦してくれる、この世でたった一人の女性になって欲しい」
クララの気迫のこもった真剣な態度に、私は圧倒されていた。
「喜び、悲しみ。希望、絶望。出会うもの、別れるもの。越し方、行く末。諸々の全ては、我と君と彼と彼方とともに……」
聖典にある、神と世界と人々を結びつける言葉だ。
司祭であるクララの、クララなりの全てを分かち合い、共にこの世にありたいという真剣な気持ち……。
クララは自分に向けて指で空を切ってから、じっとしたままの私を抱き寄せて、長い長いキスをした。
私はなぜだかわからないけど、自然に涙がこぼれてきた。
嬉しかったのか、悲しかったのか、よくわからなかった。
さっきまでのクララへの怒りも、あの薬を手に入れた後にしようと考えていたことも全部、唇に封じられてしまった。
でも私は、この人の妻になるんだと、それだけは確信していた。
抱きしめられた腕の中が、自分の居場所なんだと、そう思った。
だから、クララがポケットからローゼンシルバニウムの指輪を取り出したとき、私は黙って左手を差し出した。
私の手に指輪をはめると、クララは私のことをもう一度抱き寄せ、耳元で私が一番言って欲しかったことを言ってくれた。
「ばか……」
「薬を取ってくるよ」
照れ隠しのように言うクララの顔はまっ赤だった。多分、私も。
ぱたんと部屋の戸が閉じられると、ファリンが私のそばに駆け寄ってきて、私の手を握った。
「私、とっても感動しました。あんなに真剣なプロポーズなんて、まるで物語みたいでしたよ」
「大げさだよ、ファリン」
「いいえ! 私、目の前で見ていても、あんな感動的な場面に立ち会えたなんて、信じられません。神に仕える司祭がその立場を超えて、一人の女性に真剣な愛を誓ったんですよ!」
「実感、わかないけど」
「いいえ! クノさん、本当にカールさんの気持ち、わかりました?」
「うん、なんとなく……ファリンの言いたいこともわかるよ。司祭は村で一番神に近い立場だから。村人の悩みを聞き、何かを助言することはあっても、自分の悩みは、誰にも打ち明けられない。だから、誰にも自分のわがままが言えない」
「そうです。だけど唯一それが出来る人を、たったひとりだけ求めたということですよ」
「それが、私……」
私は左手の指に嵌められた指輪を撫でた。
<つづく>