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男などと言う下等な生命体は、
すべて、女の子にしてしまえっ!!
GANTZ 26 figma付初回限定版 に付いた投稿TS小説(6)
(1)(2)はこちら
作.amahaさん
(6) 偽りの平穏
平凡な日々が続いた。勘違いしないでくれよ。文句を言ってるんじゃない。逆にとても感謝しているんだ。球体に拉致されるまで波風のない毎日を退屈で疎ましいと思っていたのが嘘のようである。1日1日がとても貴重に思えた。
そして心のうちでは勝ち目は薄いと悟っていたにかかわらず俺はトレーニングを始め、これからの戦いについて考え抜いた。
そういえば試験は無難な結果に終った。俺としては大満足である。しかし姫野は反省しきりだった。もちろんその対象は俺の成績で彼女は相変わらずトップクラスである。
その日は帰りにスポーツクラブによるので終業のチャイムが鳴ると鞄に荷物を詰め込んだ。鞄の中の乱雑さは姫野によく注意されるが、そう簡単になおるものでもない。
「アム、今日も帰り急ぐの?」
声をかけてきたのはもう1人のアイ、メガネの高木藍だった。
「別にたいした用じゃないから……なんなの?」
人類を破滅から救うためのトレーニングと言っても信じてもらえないだろうなあ。
「恵と買い物に行くんだけど、どうかしら」
振り返ると姫野がにこにこと笑い小さく手を上げた。
「行くわ。でもどうして」
「恵があなたのダイエット体操を邪魔しにくいって言うから私がしゃしゃり出たってことよ」
「なるほど」
自然に小柄でスマートな彼女の胸に視線がいった。男のときなら高木の平手がとんできたに違いない。
「ん? その感心のしかた私への嫌味じゃない」
「まさか」
「今回だけは見逃してしんぜよう」
「ありがたき幸せ」
体が女性になったからと言って俺の中身はそう変わったわけではない。もちろん味覚などには明らかな変化があったから、この状態が長くなれば精神面にも多少影響はでるだろう。でも今のところ大して変った様子はなかった。だから女の買い物に付き合うのは骨が折れる。だいたい欲しいものがあるなら、今回は鞄らしいのだが、なぜ俺たちはさっきからアクセサリーの店にいるのだ。
「この髪飾りなんかアムに似合うんじゃないかしら」
姫野の示すそれはキラキラときれいだが、20万以上する。どう見たって高校生に買える価格じゃない。
「そうかしら」
「さすが恵はセンスがいいわ」
「藍にはこれね」
「すてき!」
などと言う会話が30分続いたあと入ったのはスポーツ用品店だった。なぜ?
「水着買わない?」
「賛成!」
「まだ早くない? 夏休みはまだまだよ。それに紺で体を覆うようにってあるから購買で売っているもので」
姫野はあきれたような顔をし、高木は大きくため息をついてこう言った。
「まあ、あなたのスタイルなら何を着てもいいかもしれないけどさ。私の身にもなってよ」
なんだかまずい話題らしいので素直に謝った。
微妙な色の違いや素材の違い、それに首周りや背中のカットが問題らしく。2人は慎重に選んでいた。俺は一見ワンピースのシルエットのセパレートを見つけたので即断する。女性化してからのトイレの近さに辟易しているので脱ぎ易さは重要ポイントだ。その水着は偶然2人のお気に召したらしく2人もすぐに決めて試着した。もちろん下着の上から着るのだけど、互いに見せ合って批評するのだ。なんだか2人を騙して覗きをしている気分になってしまった。まあ2人の辛らつな批評を受けたのは俺なんだけど。どうも俺の場合もっと大胆なカットのものを選ぶべきだというのだ。
「でもー」
男子や男性教師の注目を浴びるのは気持ち悪いぞ。言いよどんでいると姫野が助け舟を出してくれた。
「そうねえ、大胆なのは夏休み用にして、また今度3人で買いに来れば良いんじゃない?」
「うん。それもいいね」
やっとバッグを買ったときには夕方になっていた。高木は家で夕食を食べるそうなので3人で帰途に着く。
高木の家は駅の東側なので別れて姫野と2人になった。しばらく今日の買い物の話しが続いた後は2人とも黙って歩いている。姫野は何か考え込んでいた。こういう時はそっとしておいた方がいいのは良く知っている。俺は次の戦いについて思い巡らしていた。
「ねえ、士郎君」
「なんだい、姫野」
「あのさー」
「もったい……」
そこで初めて自分の間抜けさに気付いた。ここはこのままごまかすしかない。
「ぶらないで言いなさいよ」
「私をごまかせるって思ってたわけ?」
「なんのことかな」
「ここ知ってる?」
「以前ニュースで取り上げられていたコンビニ」
「ええ」
姫野は無言で少し離れたファミレスに向かい俺は従った。そこは和食を売りにして生き残ったファミレスチェーンの一つだ。
姫野が再び口を開いたのは注文したコーヒーゼリーぜんざいをおいたウェイトレスが去った後だった。
「反論しないで聞いて。荒唐無稽で自分でも信じられないけど、あなたは岡士郎でしょう」
「さっきのは」
「あの返事が決め手じゃないのよ。例えば筆跡、たぶん意識的にだろうけど丸い文字でごまかしたつもりかもしれないけど数字のくせまでは気付かなかったでしょう。それから暗記するとき下唇をかむくせ、それから、それから……」
姫野の目から涙があふれそうなので慌てて声をかけた。
「恵、恵」
「ごめんなさい。あなたを困らせるつもりじゃ。秘密にしなきゃいけないらしいのはわかる。でもあなたの中に士郎君が生きているなら私は」
俺は幼いころ2人で遊んだ少女2人組みの変身ヒロインのポーズを小さく真似た。
「あ、ああ。あああ」
「恵、頼むから」
「わかってる。秘密なのね」
「うん」
そのあと姫野は俺の重大発表を忘れたように学校の友人たちの話題を始めた。
正体がばれる可能性があることは最初から予想されていた。見破るとしたら家族以外で俺をもっとも知る古田だと思っていたが、姫野なら納得できる結果だ。古田の名誉ために言っておくなら彼にわからなかったのは一緒にいる時間が少なかったのが理由なのだろう。
この異常事態に少しも動揺した様子を見せず、楽しそうに話す姫野の胸中はどうなのか。
俺は相槌をうちながら今後のことを考えた。人類の代表として戦っており、負ければ滅亡するということは極秘である。女性化した俺が元の学校に通うのはスポンサーの望みだった。おそらくこうして姫野に見破られた出来事も面白おかしくドラマ仕立てで紹介されるだろう。まあ、これはしようがない。俺の力ではどうにもできないのだから。
休みなく話し続けながら器用にぜんざいを食べつくす姫野には屈託はない。しかし姫野の好奇心が、今日は俺の正体を見破ったことで満たされるにしても、さらなる詮索を始めるのは必至である。俺は姫野の気分を害せず付き合い続けられるのだろうか。
俺のハムレットなみの悩みは数週後奇妙な解決をみたが、それは俺の意に沿わぬ結果であった。もちろん俺に選択権はなかったのだが。
<つづく>
作.amahaさん
(6) 偽りの平穏
平凡な日々が続いた。勘違いしないでくれよ。文句を言ってるんじゃない。逆にとても感謝しているんだ。球体に拉致されるまで波風のない毎日を退屈で疎ましいと思っていたのが嘘のようである。1日1日がとても貴重に思えた。
そして心のうちでは勝ち目は薄いと悟っていたにかかわらず俺はトレーニングを始め、これからの戦いについて考え抜いた。
そういえば試験は無難な結果に終った。俺としては大満足である。しかし姫野は反省しきりだった。もちろんその対象は俺の成績で彼女は相変わらずトップクラスである。
その日は帰りにスポーツクラブによるので終業のチャイムが鳴ると鞄に荷物を詰め込んだ。鞄の中の乱雑さは姫野によく注意されるが、そう簡単になおるものでもない。
「アム、今日も帰り急ぐの?」
声をかけてきたのはもう1人のアイ、メガネの高木藍だった。
「別にたいした用じゃないから……なんなの?」
人類を破滅から救うためのトレーニングと言っても信じてもらえないだろうなあ。
「恵と買い物に行くんだけど、どうかしら」
振り返ると姫野がにこにこと笑い小さく手を上げた。
「行くわ。でもどうして」
「恵があなたのダイエット体操を邪魔しにくいって言うから私がしゃしゃり出たってことよ」
「なるほど」
自然に小柄でスマートな彼女の胸に視線がいった。男のときなら高木の平手がとんできたに違いない。
「ん? その感心のしかた私への嫌味じゃない」
「まさか」
「今回だけは見逃してしんぜよう」
「ありがたき幸せ」
体が女性になったからと言って俺の中身はそう変わったわけではない。もちろん味覚などには明らかな変化があったから、この状態が長くなれば精神面にも多少影響はでるだろう。でも今のところ大して変った様子はなかった。だから女の買い物に付き合うのは骨が折れる。だいたい欲しいものがあるなら、今回は鞄らしいのだが、なぜ俺たちはさっきからアクセサリーの店にいるのだ。
「この髪飾りなんかアムに似合うんじゃないかしら」
姫野の示すそれはキラキラときれいだが、20万以上する。どう見たって高校生に買える価格じゃない。
「そうかしら」
「さすが恵はセンスがいいわ」
「藍にはこれね」
「すてき!」
などと言う会話が30分続いたあと入ったのはスポーツ用品店だった。なぜ?
「水着買わない?」
「賛成!」
「まだ早くない? 夏休みはまだまだよ。それに紺で体を覆うようにってあるから購買で売っているもので」
姫野はあきれたような顔をし、高木は大きくため息をついてこう言った。
「まあ、あなたのスタイルなら何を着てもいいかもしれないけどさ。私の身にもなってよ」
なんだかまずい話題らしいので素直に謝った。
微妙な色の違いや素材の違い、それに首周りや背中のカットが問題らしく。2人は慎重に選んでいた。俺は一見ワンピースのシルエットのセパレートを見つけたので即断する。女性化してからのトイレの近さに辟易しているので脱ぎ易さは重要ポイントだ。その水着は偶然2人のお気に召したらしく2人もすぐに決めて試着した。もちろん下着の上から着るのだけど、互いに見せ合って批評するのだ。なんだか2人を騙して覗きをしている気分になってしまった。まあ2人の辛らつな批評を受けたのは俺なんだけど。どうも俺の場合もっと大胆なカットのものを選ぶべきだというのだ。
「でもー」
男子や男性教師の注目を浴びるのは気持ち悪いぞ。言いよどんでいると姫野が助け舟を出してくれた。
「そうねえ、大胆なのは夏休み用にして、また今度3人で買いに来れば良いんじゃない?」
「うん。それもいいね」
やっとバッグを買ったときには夕方になっていた。高木は家で夕食を食べるそうなので3人で帰途に着く。
高木の家は駅の東側なので別れて姫野と2人になった。しばらく今日の買い物の話しが続いた後は2人とも黙って歩いている。姫野は何か考え込んでいた。こういう時はそっとしておいた方がいいのは良く知っている。俺は次の戦いについて思い巡らしていた。
「ねえ、士郎君」
「なんだい、姫野」
「あのさー」
「もったい……」
そこで初めて自分の間抜けさに気付いた。ここはこのままごまかすしかない。
「ぶらないで言いなさいよ」
「私をごまかせるって思ってたわけ?」
「なんのことかな」
「ここ知ってる?」
「以前ニュースで取り上げられていたコンビニ」
「ええ」
姫野は無言で少し離れたファミレスに向かい俺は従った。そこは和食を売りにして生き残ったファミレスチェーンの一つだ。
姫野が再び口を開いたのは注文したコーヒーゼリーぜんざいをおいたウェイトレスが去った後だった。
「反論しないで聞いて。荒唐無稽で自分でも信じられないけど、あなたは岡士郎でしょう」
「さっきのは」
「あの返事が決め手じゃないのよ。例えば筆跡、たぶん意識的にだろうけど丸い文字でごまかしたつもりかもしれないけど数字のくせまでは気付かなかったでしょう。それから暗記するとき下唇をかむくせ、それから、それから……」
姫野の目から涙があふれそうなので慌てて声をかけた。
「恵、恵」
「ごめんなさい。あなたを困らせるつもりじゃ。秘密にしなきゃいけないらしいのはわかる。でもあなたの中に士郎君が生きているなら私は」
俺は幼いころ2人で遊んだ少女2人組みの変身ヒロインのポーズを小さく真似た。
「あ、ああ。あああ」
「恵、頼むから」
「わかってる。秘密なのね」
「うん」
そのあと姫野は俺の重大発表を忘れたように学校の友人たちの話題を始めた。
正体がばれる可能性があることは最初から予想されていた。見破るとしたら家族以外で俺をもっとも知る古田だと思っていたが、姫野なら納得できる結果だ。古田の名誉ために言っておくなら彼にわからなかったのは一緒にいる時間が少なかったのが理由なのだろう。
この異常事態に少しも動揺した様子を見せず、楽しそうに話す姫野の胸中はどうなのか。
俺は相槌をうちながら今後のことを考えた。人類の代表として戦っており、負ければ滅亡するということは極秘である。女性化した俺が元の学校に通うのはスポンサーの望みだった。おそらくこうして姫野に見破られた出来事も面白おかしくドラマ仕立てで紹介されるだろう。まあ、これはしようがない。俺の力ではどうにもできないのだから。
休みなく話し続けながら器用にぜんざいを食べつくす姫野には屈託はない。しかし姫野の好奇心が、今日は俺の正体を見破ったことで満たされるにしても、さらなる詮索を始めるのは必至である。俺は姫野の気分を害せず付き合い続けられるのだろうか。
俺のハムレットなみの悩みは数週後奇妙な解決をみたが、それは俺の意に沿わぬ結果であった。もちろん俺に選択権はなかったのだが。
<つづく>
星の海で(4) ~トイブルクのエミリア~ (11)
(11)-------------------------------------------------------
「……で、何も聞き出せなかったの?」
「はい。すみません、大尉」
「あなたがトイブルク出身だったとは、私もうっかりしていたけど、昔話をするためにカセラート准尉の世話をするように言ったのでは、ありませんよ」
「申し訳ありません。でも……」
「まぁ、いいでしょう。懐かしい人に再会できたのなら、仕方ないわ」
「それで、生存者捜索の件なのですが……」
「15年も前の事件ですからね。無駄でしょう。あの二人のポッドを回収できたのは奇跡に近いわ。彼女たちの蘇生だってぎりぎりだった。あと半日も回収が遅れれば、ポッドの電池が放電しきっていて、完全に凍結していたでしょうね」
コールドスリープと言っても、完全に人体を冷凍させるわけではなく、低温状態で代謝機能を極限にまで下げているだけだった。もし救命ポッドの電池が切れ、宇宙空間と同じ絶対零度にまで肉体が凍結してしまっていたら、蘇生はまず不可能になる。
「それでは……」
「艦隊はこれから訓練に入ります。15年前、本当に敵がいてトイブルク5を陥としたのか、それを検証します」
「検証?」
「艦隊をショートジャンプでカイパーベルト全域に散開させた後、ステルスモードで公転面を時計方向に渦を巻くように、中心に向かって星系内に進入します。カセラート准尉の言うとおりに、早期警戒システムに察知されずに奇襲をかけたのなら、敵はおそらくそうしたはず。艦隊の隊形を維持したまま恒星系内に侵攻したのなら、重力異常で即座に探知できますからね」
「大尉は、エミリア教官の証言を、信じてはいらっしゃらないのですか?」
「それを確かめるのです。それにこの方法を使えば、短時間で恒星系内の探査ができるわ。人工物体の残骸でもあれば、見つけることができるかもしれない」
「あ、ありがとうございます! 大尉」
「あなたはもう一度、カセラート准尉のところに行って、脱出時の話を詳しく聞いてきて下さい」
「判りました!」
メリッサは笑顔で敬礼すると、エミリアの病室へと走った。
フランチェスカも戦闘副官席に着くと、司令が声をかけてきた。
「いっぱしの指揮官らしいじゃないか、フランチェスカ」
「リッカルド。見てたの?」
「まぁな。突然訓練を行いたいとか言うから、何かと思ったが、そういうことだったのか?」
「トイブルク5の事件には、謎の部分が多いからね。何故突然大規模な天体現象が起きたのか。カセラート准尉の言うとおり、敵艦隊の襲撃だとしたら、短時間のうちに惑星ごと焼き尽くすほどの火力を、どうやって投入したのか」
「それが、この方法だというのか? えらく面倒な作戦だな」
「ばかげてるって、思ってる?」
「いや、お前がそういうんなら、きっとそうなんだろう」
リッカルドがフランチェスカの肩に手を伸ばそうとした瞬間、作戦参謀が報告にきた。
「提督。艦隊の配置終了しました。いつでも開始できます」
リッカルドは小さく舌を鳴らすと、フランチェスカに言った。
「お前が考えた訓練メニューだ。お前が指揮を執れ」
「いいの?」
リッカルドはリクライニングシートを倒し、興味がないかのように手をひらひらとさせて応えた。
「では参謀、私が指揮をします。訓練開始!」
「アイ、マム! 訓練開始!」
*---*---*---*---*---*---*---*---*---*---*
「―――以上よ。ジナステラ大尉にも報告したとおり、それ以外のことは何も」
「そうですか……」
「私たち、どうなるのかしら?」
「大丈夫ですよ、エミリア教官。大尉がきっと、教官の嫌疑を晴らしてくれます」
「脱走兵もしくは惑星犯罪者とはね……。私はいいけど、この子が心配だわ」
「あの、教官? その子は本当は誰の子なんですか? 誰にも言いませんから、私には本当のことを教えていただけませんか?」
「この子は……トイブルク最後の、ラヴァーズ候補生」
「ラヴァーズって、こんな小さな子が!?」
「できれば、ラヴァーズにはしたくないわ。この子、記憶がないの。だから普通の女の子として、暮らしていける筈だわ」
メリッサが手を伸ばしてエルザの頭を撫でようとすると、それを避けるようにエミリアの膝の上から飛び降りて、とととっと、ベッドの周りを走りってメリッサとは反対の側に隠れるように身をかがめた。
最初に目覚めたときの印象が良くなかったのか、エルザはメリッサに警戒心を解かなかった。
「教官は、ラヴァーズ法には、今でも反対なのですね」
「あなただって、好きでなったわけではないでしょう?」
「そうですね。でも、今はだいぶ変わりましたよ。ラヴァーズを取り巻く環境も」
「そういえば、ずっと気になっていたんだけど、そのチョーカーは何? 階級章みたいに見えるけど」
メリッサの首元に光る、ラヴァーズ徽章に気づいたエミリアは尋ねた。
「これですか? これは……そういえば、教官はご存じないですよね。10年ほど前から、ラヴァーズにも階級待遇制度が導入されたんです。軍属と同じように給料も支払われますし、民間施設でも軍人と同じ扱いになるんですよ」
「そうなの? 信じられないわ」
「今はどこも人手不足で……。昔みたいに死刑囚をラヴァーズにしているだけでは足りないんです。それに性奴隷みたいな扱いで軍隊に従事させられている人間がいるなんて、人権委員会が黙っていませんから」
「そう、なの……?」
「ほらこの徽章。星じゃなくてハートの形になっていますけど、曹長待遇なんですよ、私。その気になれば退役もできますし、自分よりも下の階級の下士官や兵士なら、“お誘い”を断ることもできるんです。もちろん、上官だからって、無理やりに乱暴されることはありません」
「眠っている間に、ずいぶん変わったのね」
「ジナステラ大尉も、元ラヴァーズだったそうです。もっとも大尉の場合は、ちょっと事情が違いますけど」
「あの若い女性士官の方が?」
「ええそうです。私たちラヴァーズのことを気にかけてくださっていて、いろいろ便宜を図ってくださっています。艦隊幕僚とはいえ、今は尉官なので人事権は無いそうですが、『少佐になったら艦隊全体のラヴァーズを集めて、部隊を編成する』って言ってましたよ」
「部隊を?」
「今は個人ごとにバラバラなので、艦隊全体のラヴァーズを統括して、なるべく個人毎の負担が少なくなるようにしたいと、おっしゃっていました」
「なんだか信じがたい話だわ」
「この艦に限っては、既にジナステラ大尉の発案で当番制が試行されていて、私たちこの艦のラヴァーズの負担は、だいぶ軽減されていると思います」
「そう、なんだ……」
「教官はおっしゃっていましたよね。“いつかきっとラヴァーズだからって虐げられたり虐待されない、そんな風な仕組みを作りたい”って。少しずつですが、教官の望んでた事が実現してきていると思います」
「……」
「昔は……本当にこの仕事が嫌でした。戦闘に巻き込まれて死ぬかもしれないし、そうで無くても毎日、不安や不満を抱えた兵士たちのはけ口にされて、心も体もボロボロでした」
「そうね。だから私は、そんな状況を何とかしたかった」
「教官、初めてお会いしたときの事、覚えていらっしゃいますか?」
「ええ、あなたはとても泣き虫だったわ」
「私、今思い出しても恥ずかしいぐらいの、泣き虫でしたからね」
「突然記憶のほとんどを奪われて、罪悪感だけを心に深く刻み込まれたうえに、あんな教育を受けさせられていたんですものね。無理も無いと思うわ」
「そうですね。女であることを意識させられる服を着せられて、言葉遣いとかお化粧やら立ち居振る舞いやら……。特にセックスの授業が一番嫌だった」
「あなた、最初の授業のとき、内容を聞かされるなり逃げ出して、トイレに立てこもったこと覚えてる?」
「ええ、もちろん。あのときのゲンコツの痛みは、今でも思い出すと頭がずきずきします」
その時の罪滅ぼしであるかのように、エミリアはメリッサの頭をそっと撫でた。
「あなたたちの将来に、直接関る事だったからね。心を鬼にしてゲンコツでも何でもしたわ」
「将来ですか……。あの頃は、私の人生は完全に終わったと思っていました。記録では死刑囚だったんだからとっくに終わっていてもおかしくなかったんですけど。私はそれをどうやって終わらせるか、そんな事ばかり考えていたときもありましたよ」
「でも、私は自殺なんて絶対に許さなかった」
「そうですね。教官はそんなときにいつも言ってましたね」
「「ラヴァーズだって、悲しいことばかりじゃない。生まれ変わったんだから、絶対に、幸せになれる権利がある」」
二人はお互いの顔を見合わせると、くすっと笑った。
「教官のおっしゃっていた事は、本当だったんだって、つい最近知りました」
「?」
「私、前の艦隊で恋人ができたんです。がさつでデリカシーのかけらも無い人でしたけど、妙に私とウマがあって、付き合いが長かったんです。その彼が、結婚しようって言ってくれた時は、その言葉が信じられませんでした。だって、私はラヴァーズですから」
メリッサは目を閉じチョーカーのラヴァーズ徽章をそっと手で押さえた。
「でも、前の寄港地で、その恋人を亡くしたんです。事故でした。彼は私をかばうようにして亡くなりました」
「それは……、残念だったわね」
「軍属だから、人が死ぬ事には慣れていました。医務室で前の晩に寝た兵士を看取った事もあった。でも……今でも信じられない……」
メリッサは手をぎゅっと握り締め、うつむいた。
「だから私、本当は信じてなんかいないんです。彼が死んだなんて。きっとどこかにいるって。だから私はこの艦に乗って、彼を探し続けているんです」
エミリアはすっと手を伸ばして、メリッサの頬に手を当てた。
メリッサは昔、良くこんな風にエミリアに慰めてもらっていたことを、思い出した。
懐かしい人の懐かしい仕草に、辛かった15年以上も前のあの頃の思い出が、鮮明によみがえってきた。
15年前、メリッサは泣き虫で弱虫で、何も出来ないラヴァーズだった。
自分の身に起きた出来事を受け入れることができず、エミリアを困らせてばかりいた。
食事にも手をつけず、死んだ方がマシだと何度も訴えて、自殺しようとしたこともあった。
だがそうせずに今生きているのは、エミリアが献身的にメリッサのことを慰め、励ましてくれたからだった。
「教官がおっしゃったとおりでした。ラヴァーズだって、悲しいことばかりじゃないって。生まれ変わったんだから、絶対に、幸せになれる……権利が、あるんだって……ぐすっ。でも……、会いたい! もう一度、マルチェロに……会いたいよぉ……」

挿絵:東宵 由依
メリッサは泣きべそをかきながら、エミリアにしがみついた。
そんなメリッサをエミリアは優しく抱きとめながら、泣きじゃくるメリッサの頭を撫でた。
「泣き虫メリッサに戻ってしまったわね……」
「だって、ひくっ……。ずっと、我慢してたのに……。ぐすっ、教官が、あんまり昔のままだから……」
エミリアは膝の上で子供のように泣きじゃくるメリッサの頭を、泣き止むまでずっと撫で続けた。
<つづく>
「……で、何も聞き出せなかったの?」
「はい。すみません、大尉」
「あなたがトイブルク出身だったとは、私もうっかりしていたけど、昔話をするためにカセラート准尉の世話をするように言ったのでは、ありませんよ」
「申し訳ありません。でも……」
「まぁ、いいでしょう。懐かしい人に再会できたのなら、仕方ないわ」
「それで、生存者捜索の件なのですが……」
「15年も前の事件ですからね。無駄でしょう。あの二人のポッドを回収できたのは奇跡に近いわ。彼女たちの蘇生だってぎりぎりだった。あと半日も回収が遅れれば、ポッドの電池が放電しきっていて、完全に凍結していたでしょうね」
コールドスリープと言っても、完全に人体を冷凍させるわけではなく、低温状態で代謝機能を極限にまで下げているだけだった。もし救命ポッドの電池が切れ、宇宙空間と同じ絶対零度にまで肉体が凍結してしまっていたら、蘇生はまず不可能になる。
「それでは……」
「艦隊はこれから訓練に入ります。15年前、本当に敵がいてトイブルク5を陥としたのか、それを検証します」
「検証?」
「艦隊をショートジャンプでカイパーベルト全域に散開させた後、ステルスモードで公転面を時計方向に渦を巻くように、中心に向かって星系内に進入します。カセラート准尉の言うとおりに、早期警戒システムに察知されずに奇襲をかけたのなら、敵はおそらくそうしたはず。艦隊の隊形を維持したまま恒星系内に侵攻したのなら、重力異常で即座に探知できますからね」
「大尉は、エミリア教官の証言を、信じてはいらっしゃらないのですか?」
「それを確かめるのです。それにこの方法を使えば、短時間で恒星系内の探査ができるわ。人工物体の残骸でもあれば、見つけることができるかもしれない」
「あ、ありがとうございます! 大尉」
「あなたはもう一度、カセラート准尉のところに行って、脱出時の話を詳しく聞いてきて下さい」
「判りました!」
メリッサは笑顔で敬礼すると、エミリアの病室へと走った。
フランチェスカも戦闘副官席に着くと、司令が声をかけてきた。
「いっぱしの指揮官らしいじゃないか、フランチェスカ」
「リッカルド。見てたの?」
「まぁな。突然訓練を行いたいとか言うから、何かと思ったが、そういうことだったのか?」
「トイブルク5の事件には、謎の部分が多いからね。何故突然大規模な天体現象が起きたのか。カセラート准尉の言うとおり、敵艦隊の襲撃だとしたら、短時間のうちに惑星ごと焼き尽くすほどの火力を、どうやって投入したのか」
「それが、この方法だというのか? えらく面倒な作戦だな」
「ばかげてるって、思ってる?」
「いや、お前がそういうんなら、きっとそうなんだろう」
リッカルドがフランチェスカの肩に手を伸ばそうとした瞬間、作戦参謀が報告にきた。
「提督。艦隊の配置終了しました。いつでも開始できます」
リッカルドは小さく舌を鳴らすと、フランチェスカに言った。
「お前が考えた訓練メニューだ。お前が指揮を執れ」
「いいの?」
リッカルドはリクライニングシートを倒し、興味がないかのように手をひらひらとさせて応えた。
「では参謀、私が指揮をします。訓練開始!」
「アイ、マム! 訓練開始!」
*---*---*---*---*---*---*---*---*---*---*
「―――以上よ。ジナステラ大尉にも報告したとおり、それ以外のことは何も」
「そうですか……」
「私たち、どうなるのかしら?」
「大丈夫ですよ、エミリア教官。大尉がきっと、教官の嫌疑を晴らしてくれます」
「脱走兵もしくは惑星犯罪者とはね……。私はいいけど、この子が心配だわ」
「あの、教官? その子は本当は誰の子なんですか? 誰にも言いませんから、私には本当のことを教えていただけませんか?」
「この子は……トイブルク最後の、ラヴァーズ候補生」
「ラヴァーズって、こんな小さな子が!?」
「できれば、ラヴァーズにはしたくないわ。この子、記憶がないの。だから普通の女の子として、暮らしていける筈だわ」
メリッサが手を伸ばしてエルザの頭を撫でようとすると、それを避けるようにエミリアの膝の上から飛び降りて、とととっと、ベッドの周りを走りってメリッサとは反対の側に隠れるように身をかがめた。
最初に目覚めたときの印象が良くなかったのか、エルザはメリッサに警戒心を解かなかった。
「教官は、ラヴァーズ法には、今でも反対なのですね」
「あなただって、好きでなったわけではないでしょう?」
「そうですね。でも、今はだいぶ変わりましたよ。ラヴァーズを取り巻く環境も」
「そういえば、ずっと気になっていたんだけど、そのチョーカーは何? 階級章みたいに見えるけど」
メリッサの首元に光る、ラヴァーズ徽章に気づいたエミリアは尋ねた。
「これですか? これは……そういえば、教官はご存じないですよね。10年ほど前から、ラヴァーズにも階級待遇制度が導入されたんです。軍属と同じように給料も支払われますし、民間施設でも軍人と同じ扱いになるんですよ」
「そうなの? 信じられないわ」
「今はどこも人手不足で……。昔みたいに死刑囚をラヴァーズにしているだけでは足りないんです。それに性奴隷みたいな扱いで軍隊に従事させられている人間がいるなんて、人権委員会が黙っていませんから」
「そう、なの……?」
「ほらこの徽章。星じゃなくてハートの形になっていますけど、曹長待遇なんですよ、私。その気になれば退役もできますし、自分よりも下の階級の下士官や兵士なら、“お誘い”を断ることもできるんです。もちろん、上官だからって、無理やりに乱暴されることはありません」
「眠っている間に、ずいぶん変わったのね」
「ジナステラ大尉も、元ラヴァーズだったそうです。もっとも大尉の場合は、ちょっと事情が違いますけど」
「あの若い女性士官の方が?」
「ええそうです。私たちラヴァーズのことを気にかけてくださっていて、いろいろ便宜を図ってくださっています。艦隊幕僚とはいえ、今は尉官なので人事権は無いそうですが、『少佐になったら艦隊全体のラヴァーズを集めて、部隊を編成する』って言ってましたよ」
「部隊を?」
「今は個人ごとにバラバラなので、艦隊全体のラヴァーズを統括して、なるべく個人毎の負担が少なくなるようにしたいと、おっしゃっていました」
「なんだか信じがたい話だわ」
「この艦に限っては、既にジナステラ大尉の発案で当番制が試行されていて、私たちこの艦のラヴァーズの負担は、だいぶ軽減されていると思います」
「そう、なんだ……」
「教官はおっしゃっていましたよね。“いつかきっとラヴァーズだからって虐げられたり虐待されない、そんな風な仕組みを作りたい”って。少しずつですが、教官の望んでた事が実現してきていると思います」
「……」
「昔は……本当にこの仕事が嫌でした。戦闘に巻き込まれて死ぬかもしれないし、そうで無くても毎日、不安や不満を抱えた兵士たちのはけ口にされて、心も体もボロボロでした」
「そうね。だから私は、そんな状況を何とかしたかった」
「教官、初めてお会いしたときの事、覚えていらっしゃいますか?」
「ええ、あなたはとても泣き虫だったわ」
「私、今思い出しても恥ずかしいぐらいの、泣き虫でしたからね」
「突然記憶のほとんどを奪われて、罪悪感だけを心に深く刻み込まれたうえに、あんな教育を受けさせられていたんですものね。無理も無いと思うわ」
「そうですね。女であることを意識させられる服を着せられて、言葉遣いとかお化粧やら立ち居振る舞いやら……。特にセックスの授業が一番嫌だった」
「あなた、最初の授業のとき、内容を聞かされるなり逃げ出して、トイレに立てこもったこと覚えてる?」
「ええ、もちろん。あのときのゲンコツの痛みは、今でも思い出すと頭がずきずきします」
その時の罪滅ぼしであるかのように、エミリアはメリッサの頭をそっと撫でた。
「あなたたちの将来に、直接関る事だったからね。心を鬼にしてゲンコツでも何でもしたわ」
「将来ですか……。あの頃は、私の人生は完全に終わったと思っていました。記録では死刑囚だったんだからとっくに終わっていてもおかしくなかったんですけど。私はそれをどうやって終わらせるか、そんな事ばかり考えていたときもありましたよ」
「でも、私は自殺なんて絶対に許さなかった」
「そうですね。教官はそんなときにいつも言ってましたね」
「「ラヴァーズだって、悲しいことばかりじゃない。生まれ変わったんだから、絶対に、幸せになれる権利がある」」
二人はお互いの顔を見合わせると、くすっと笑った。
「教官のおっしゃっていた事は、本当だったんだって、つい最近知りました」
「?」
「私、前の艦隊で恋人ができたんです。がさつでデリカシーのかけらも無い人でしたけど、妙に私とウマがあって、付き合いが長かったんです。その彼が、結婚しようって言ってくれた時は、その言葉が信じられませんでした。だって、私はラヴァーズですから」
メリッサは目を閉じチョーカーのラヴァーズ徽章をそっと手で押さえた。
「でも、前の寄港地で、その恋人を亡くしたんです。事故でした。彼は私をかばうようにして亡くなりました」
「それは……、残念だったわね」
「軍属だから、人が死ぬ事には慣れていました。医務室で前の晩に寝た兵士を看取った事もあった。でも……今でも信じられない……」
メリッサは手をぎゅっと握り締め、うつむいた。
「だから私、本当は信じてなんかいないんです。彼が死んだなんて。きっとどこかにいるって。だから私はこの艦に乗って、彼を探し続けているんです」
エミリアはすっと手を伸ばして、メリッサの頬に手を当てた。
メリッサは昔、良くこんな風にエミリアに慰めてもらっていたことを、思い出した。
懐かしい人の懐かしい仕草に、辛かった15年以上も前のあの頃の思い出が、鮮明によみがえってきた。
15年前、メリッサは泣き虫で弱虫で、何も出来ないラヴァーズだった。
自分の身に起きた出来事を受け入れることができず、エミリアを困らせてばかりいた。
食事にも手をつけず、死んだ方がマシだと何度も訴えて、自殺しようとしたこともあった。
だがそうせずに今生きているのは、エミリアが献身的にメリッサのことを慰め、励ましてくれたからだった。
「教官がおっしゃったとおりでした。ラヴァーズだって、悲しいことばかりじゃないって。生まれ変わったんだから、絶対に、幸せになれる……権利が、あるんだって……ぐすっ。でも……、会いたい! もう一度、マルチェロに……会いたいよぉ……」

挿絵:東宵 由依
メリッサは泣きべそをかきながら、エミリアにしがみついた。
そんなメリッサをエミリアは優しく抱きとめながら、泣きじゃくるメリッサの頭を撫でた。
「泣き虫メリッサに戻ってしまったわね……」
「だって、ひくっ……。ずっと、我慢してたのに……。ぐすっ、教官が、あんまり昔のままだから……」
エミリアは膝の上で子供のように泣きじゃくるメリッサの頭を、泣き止むまでずっと撫で続けた。
<つづく>