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水曜イラスト企画 絵師 涼規じゅんさん(1) 仮名:門屋 司
門屋 司(かどや つかさ)
高校1年生。
文武両道でイケメンなのだが、中性的な顔立ちをしている。性格も良く、リーダーシップに溢れている。だが、中学生時代何度も自分が女の子でそして女に犯されている夢を見てしまい、幼なじみの平沢澪(ひらさみお)以外の女子に少し、恐怖感を抱いている。
ある日、夏の日に溺れてしまい澪に助けられるのだが気が付くと美少女に為ってしまっていたのだった。
そして、女子として司の親戚の 芦屋(あしや)つかさ として学校に通う事に為ってしまい、澪に徹底的に『女の子』を仕込まれてしまうのであった。夏休み明けに、転校生として学校に行くのだが、何の因果か前と同じクラスでそこには慣れ親しんだ男友達や、親しい女子のクラスメイトが居た。
すると、クラスメイトのほぼ全員が、男女両方共つかさに見とれているのだった!
本人は目立ちたく無いのだが、容姿だけで目立ってしまったのであった。
ボロが出てしまうのか? つかさの貞操危うし!!
絵師:涼規じゅん http://rinrin.saiin.net/~h-apple/

水曜イラスト企画の説明はこちら。毎週1枚キャライラストをUPします。
本キャラを主人公/脇役にしたSSを募集しています。コメント欄に書き込んでください。(事故を防ぐため別途ローカル保存推奨)追加イラストを希望する場合は希望シーンに<イラスト希望>と書き込んでください。私が了承し、絵師さんも乗った場合はイラストの作成を開始します。
高校1年生。
文武両道でイケメンなのだが、中性的な顔立ちをしている。性格も良く、リーダーシップに溢れている。だが、中学生時代何度も自分が女の子でそして女に犯されている夢を見てしまい、幼なじみの平沢澪(ひらさみお)以外の女子に少し、恐怖感を抱いている。
ある日、夏の日に溺れてしまい澪に助けられるのだが気が付くと美少女に為ってしまっていたのだった。
そして、女子として司の親戚の 芦屋(あしや)つかさ として学校に通う事に為ってしまい、澪に徹底的に『女の子』を仕込まれてしまうのであった。夏休み明けに、転校生として学校に行くのだが、何の因果か前と同じクラスでそこには慣れ親しんだ男友達や、親しい女子のクラスメイトが居た。
すると、クラスメイトのほぼ全員が、男女両方共つかさに見とれているのだった!
本人は目立ちたく無いのだが、容姿だけで目立ってしまったのであった。
ボロが出てしまうのか? つかさの貞操危うし!!
絵師:涼規じゅん http://rinrin.saiin.net/~h-apple/

水曜イラスト企画の説明はこちら。毎週1枚キャライラストをUPします。
本キャラを主人公/脇役にしたSSを募集しています。コメント欄に書き込んでください。(事故を防ぐため別途ローカル保存推奨)追加イラストを希望する場合は希望シーンに<イラスト希望>と書き込んでください。私が了承し、絵師さんも乗った場合はイラストの作成を開始します。
ビジネス本作家の値打ち
ビジネス書の書評ブロガーにしてジャンルによっては小飼さんより売上が多いオレは楽しく読めました。
てゆうか、そうだよ。バブルだよ。
あの懐かしい、本家日本の1990年前後のバブルの!
2001年前後の光通信やらソフトバンクやらが狂乱したITバブルの!
凡庸でなんの取り柄もないモノに馬鹿げた値段が付くあのバブルの味だよ。
そうかそうか、ビジネス書はバブル。それはそうかもしれないですねぇ。
全員が勉強しても、勝つのは一握りですし、どこかの時点でみんなが気付いたら破裂しちゃうのかもしれませんね。
ちなみにオレの感触では性転換モノや女装モノはバブルではないと思います。
てゆうか、そうだよ。バブルだよ。
あの懐かしい、本家日本の1990年前後のバブルの!
2001年前後の光通信やらソフトバンクやらが狂乱したITバブルの!
凡庸でなんの取り柄もないモノに馬鹿げた値段が付くあのバブルの味だよ。
そうかそうか、ビジネス書はバブル。それはそうかもしれないですねぇ。
全員が勉強しても、勝つのは一握りですし、どこかの時点でみんなが気付いたら破裂しちゃうのかもしれませんね。
ちなみにオレの感触では性転換モノや女装モノはバブルではないと思います。
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どんな人にも大切な「売る力」ノート
売る力は大切だし、伸ばしたいなと言う事で購入、読了。
割と地道に頑張る野村系の営業さん。
エラくなる人は良いですねぇ。
気配りと根性と読みと。
割と地道に頑張る野村系の営業さん。
エラくなる人は良いですねぇ。
気配りと根性と読みと。
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めちゃもえ
内容紹介
巫女なのに幽霊に憑かれてたり、姫なのにオカマだったり、魔女なのに肉弾戦だったり。何かおかしなキャラたちが織り成す爆笑4コマ!
巫女なのに幽霊に憑かれてたり、姫なのにオカマだったり、魔女なのに肉弾戦だったり。何かおかしなキャラたちが織り成す爆笑4コマ!
![]() | めちゃもえ! (KTCワイドコミックス) (2010/06/29) 嘉納あいら 商品詳細を見る |
経済予測脳で人生が変わる!―仕事も投資も成功できる「起こりえる未来」の読み方
そうなんだよなぁ。
リーマンショックの時にサブプライムのニュースを最初に見てから市場崩壊までだいぶ間があったのに逃げ遅れてしまって金融資産に壊滅的被害がでたんだよなぁ。と言った反省に立って読了。
内容は良かったのでしばらく中原先生をフォローしてみましょうかね。
リーマンショックの時にサブプライムのニュースを最初に見てから市場崩壊までだいぶ間があったのに逃げ遅れてしまって金融資産に壊滅的被害がでたんだよなぁ。と言った反省に立って読了。
内容は良かったのでしばらく中原先生をフォローしてみましょうかね。
![]() | 経済予測脳で人生が変わる!―仕事も投資も成功できる「起こりえる未来」の読み方 (2010/04/16) 中原 圭介 商品詳細を見る |
ビジネスマンのための「勉強力」養成講座
読了。
小宮さんの本をだいぶ読んだせいか結構重複が増えてきた感じです。
まぁ、オレは勉強好きですけどね。女の子のカラダの事とかもっと知りたいナリ。
小宮さんの本をだいぶ読んだせいか結構重複が増えてきた感じです。
まぁ、オレは勉強好きですけどね。女の子のカラダの事とかもっと知りたいナリ。
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僕の秘密日記(15) by A.I.
お腹を満たして気分も良くなった僕らは、腹ごなしに街をあちこち散策していた。当初の予定ではすばるさんも一緒についてきて、遊園地か動物園か水族館に行く予定だったらしい。急な仕事ということで去ってしまったけどね。
遊園地は混んでそうだし、動物園は白熊やペンギンならともかくほかの動物は動きが鈍そうだ。水族館はここ数日母親の特訓で魚をさばいてばかりいたから、どうも行く気になれない。今魚を見るとさばき方を頭のなかでシミュレートしそうだ。
そういうわけで商店街を冷やかし歩くということに落ち着いた。ウィンドウショッピングなら財布も傷まないからね。
「とおる、足を止めてどうしたの?」
ゆっくりと歩きながら店を眺めていたとおるの足がぴたりと止まった。こいつの見ている方向を向くと、スポーツショップの店頭にマネキンに着せてスキーグッズが飾られている。
「今は冬だ。冬といえばっ」
「こたつ」
「冬といえばっ」
「みかん」
間違ってはいない。
「……そこでわざと外さないでくれ」
「はいはい、スキーだね」
「行かないか?」
「いちおー僕は退院直後ってこと忘れてないかな?」
激しい運動は禁じられているからね。行きたくても行けない。
「黙っていればわからない」
「日帰りでスキーに行くとしたら夜のうちに出ないといけないからね。また両親に嘘をつくのは気が引けるよ」
それに元からそんなにスキーをやったことがないのに、体格が変わったばかりで滑ろうとしたら転びまくって僕が雪だるまになりそうだ。
「この辺は雪が降らないからな。近場にスキー場があればすぐに行きたかった」
「ホワイトクリスマスなんてありえないからね。降って粉雪だしすぐ溶けちゃうからなぁ」
風が少しあるけど空はよく晴れている。雨も雪も降りはしないだろう。
「スキーなら来年になってから行けばいいんじゃないかな」
「あきらに手取り足取り腰取り口取りじっくりスキーを教えたかったぞ」
「来年なら一緒に行ってもいいかと思ってたけど、あんまり不穏な台詞を言うと行かないよ」
こいつはまたどんなスケベな妄想をしているんだか。つむじを曲げて握っている手に力をこめてみたけど、とおるには大して効きもしない。男の手を握りつぶせるほど僕の掌はもう広くはないんだけどさ。
「今年はアウトドアスポーツに行けないなら、温泉という手もあるな。温泉療養って言葉もあることだし、行ってもおかしくはないだろ」
「よく次から次へと行きたい場所が出てくるね。その意欲だけは感心するよ」
以前は遊ぶことにさほど積極的ではなかったと思うんだけどね。
「もっと褒めてくれい」
「褒めちゃいないからね。でも、温泉ってのは悪くないか」
ここ一ヶ月の疲れを温泉でリフレッシュさせるのはいいかもしれない。
「混浴のあるところを探しておく」
「……ふーん、とおるはほかの男に僕の裸が見られてもいいんだ」
「貸し切りのあるところを探してみる……」
他愛もない話をしながら、目的もなくぶらぶら街をほっつき歩いた。あまりデートらしいといえないかもしれないけど、とおるの目は青星のように輝いている。無表情フェイスはいつもと変わらないんだけどね。
「あ、イルミネーションが灯されたね。一斉に点灯されると幻想的だなぁ」
日が落ちかける午後四時過ぎになると、商店街は一気に光の粒が瞬いた。サンタやトナカイ、靴下や星をかたどったライトは、子供でなくても心がはしゃぐ。
「サンタさんはとおるにプレゼントを持ってきてくれるかな?」
「毎年靴下は吊るしておくんだがな。プレゼントが入っていた試しはない」
とおるの目を見た限りでは本気か冗談かわからない。
「そ、そうなんだ。まだサンタさんを信じてるの?」
「夢のある男だろ。靴下にサンタ姿のあきらが入っていてくれとお願いしたんだがな」
そんなお願いをされてもサンタが迷惑だろう。
「……それはどんなミニチュアサイズの僕だよ」
「ちゃんと手編みで二メートルサイズの靴下だぞ」
机と本棚、ベッドぐらいしかない殺風景な部屋に、巨大な靴下が吊るしてあるというのはシュールな光景だと思う。
「まっ、サンタからのプレゼントはなくとも、俺からあきらへのプレゼントはあるさ」
「そこで婚約指輪とか出されても受け取らないからね」
とおるは出しかけた白い小箱を再びポケットに仕舞いこんだ。
「……そういうこともあろうかとほかにも用意してきたさ」
「学習能力がないわけでもないのは褒めてもいいけど、何を持ってきたの?」
「手製の――」
「マフラーとか? それは女性が編むもんじゃない?」
僕はまだ裁縫とかはできないけどね。料理を覚えるだけで手一杯です。
「豊乳クリーム」
「それは意表を突いたつもりなのかな? かな?」
「あきら、金物屋さんから鉈を持ち出して虚ろな目で笑わないでくれ。さすがの俺も怖いぞ」
おかしいな、手がいつの間にか鉈をつかんでいたよ。
「……そりゃ多少は気にしているけどね。人から言われるとショックなことってあるじゃん」
「そういうものか。ではこれはしまっておくとしよう」
「成長の兆しがまるでなかったらまた考えるよ」
ちっとも心が動かなかったと言ったら嘘になるけどね。とおるにしたって悪意はなかっただろう。下心はあったかもだけど。
金物屋さんに謝って鉈を返却して店を出ると、もう外は真っ暗闇だ。
「どっかで食べてく? それともケーキやチキンでも買ってく?」
「あきらの手作りのケーキが食べたいな」
「そこまで手間暇かけていられないけど、とおるのところでシチューぐらいなら作ろうか?」
シチューは僕の好きな料理の一つだ。イブだしクリームシチューってのも悪くない。
「あきらの手料理が食べられるならそれでいい」
「親父さんも一人寂しくしているだろうからね。退院してから顔出ししてないしなぁ」
野菜のうまみが溶けこんだ具だくさんのシチューを作ろう。大なべに作ってとおると親父さんが翌日も食べられるようにすればいいかな。市販の弁当だけじゃ栄養が偏るからね。
デパートからの帰り道では、ケーキの箱と買い物袋でとおるの両手は塞がっていた。もちろん手は繋げないわけで、こいつの目は死んだ魚のように淀んでいる。
僕の家の前を通ってとおるの家に行こうとすると、
「あきらぁぁっ!」
背後から元気な声が僕を呼びかけた。僕ら二人にとっては幼なじみにあたる人物の声だ。たたたたっと駆け寄ってきた足音は僕の真後ろで止まると、いきなり僕を抱きしめてきた。柔らかいおっぱいの感触が背中越しに伝わってくる。
「ケーキを買ってきたから一緒に食べるわよ!」
猪突猛進な元気娘ゆうきは確定事項のように僕の手を引っ張ろうとした。
「困るよ。今からとおるの家に行く約束なんだ」
「あ、いたんだ」
路端の石ころのようにとおるの存在を認識してなかったらしい。とおるとゆうきは仲が悪いってわけじゃないけど、僕が絡むとなるとお互い譲らない。
「なによ、あたしと食べたくないっていうの。駅前のケーキ屋で一時間も待って買ったのよ。すっごく美味しいんだから」
「そんなことは言ってないよ。ただ先約があってとおるとこれから夕飯を食べるんだ」
「これから俺とあきらは一緒の食卓を囲むんだ。残念だったな」
とおるは頼むからそこで勝ち誇った目をしないでくれ。バチバチと目に見えない火花が二人の間に弾けているような気がする。
「イブの夜に男だけで過ごすなんて不毛と思わない? 仕方ないわね。あたしも一緒に行ってあげるわよ。感謝なさい!」
とおるとどっこいの我が道を往く女傑は、怯むことなく言い放ってみせた。天晴れなほどの大口を開けて破顔している。
「そうと決まったらさっさと行くわよ」
ずかずかと歩いていくゆうきに、僕ととおるは顔を見合わせた。
「今日の最後ぐらいはゆうきがいてもいいんじゃない?」
「……あきらがそう言うなら仕方ないな」
ゆうきの勢いに毒気を抜かれたようで渋々とおるはうなずいた。
「ただいま」
「お邪魔します」
「邪魔するわよ」
三者三様の言い方でとおるの家にあがると、僕は早速台所に立った。ゆうきも手伝うと言ったが丁重にお断りしておく。以前に油揚げとネギの味噌汁を作ってもらったら、ゴマ油まみれの溶かした味噌を出されたことがあった。軽いトラウマだ。
「台所は誰も使ってないんだね」
やかんでお湯ぐらいは沸かすだろうが、使われない鍋や食器は埃をかぶっている。おばさんがいなくなってからは誰も使ってないのだろう。
さびの浮いた包丁を砥石で磨いてから野菜の皮むきを始める。皮ごと実を剥き過ぎてしまうことはあるけど、前よりは包丁が手に馴染んできた。
「よし、こんなものかな」
まだアレンジとかするような技量はないから、基本に忠実にクリームシチューを作ってみた。にんじん、たまねぎ、じゃがいも、マッシュルーム、コーンがたっぷり入った鶏肉のシチューだ。味見をした限りではうまくできたと思う。ローストチキンはレンジでチンして終わり。あとはフランスパンを切り分けるだけだ。
「とおる、シチューを入れるお皿を洗って机に持っていってもらえない?」
「はいはい、あたしがそれぐらいやったあげるわよ」
テレビを見ていたゆうきがぶんぶんと手を振り回すが、黙ってとおるは台所に向かっていた。
「なによ、あたしがやるって言ってるじゃないの」
それほど広くもない台所で三人が所狭しと並んでいる。ゆうきはスポンジに洗剤を思いっきり染みこませ、ごきゅごきゅと力をこめて皿を洗っていた。その皿をとおるは水洗いして布巾で拭いている。いがみ合わずにやってくれるなら、僕としては一安心といったところだ。居間にいるとおるの親父さんも、にこにこと台所に立つ幼なじみ三人組を眺めていた。
「美味しい、この味なら一皿千円は取れるわね」
クリームシチューを一口食べたゆうきがうなる。
「大げさだなぁ。シチューの素を使ったよくある味だよ」
「……おかわり」
僕が二口目を味わっている間に、とおるの皿は空になっていた。
「とおる、レディーファーストって言葉を知らないの?」
「まだたくさんあるから喧嘩しないで仲良く食べてね」
親父さんにもおかわりを勧めてから、皿を差し出した二人に交互にシチューをよそう。
「あきらちゃん、お義父さん、こんなに暖かいご飯は久しぶりに食べたよ」
「確かに溶鉱炉みたいのがいますけどね。ゆうきも一緒でしたけど良かったです?」
彼女がいるだけで室温は上がりそうだ。
「もちろんだよ。ゆうきちゃんが遊びに来るのは久しぶりだね」
「あ、はい、おじさんもお元気そうですね」
親父さんが笑顔を向けると、夢中でスプーンを動かしていたゆうきはぺこりとお辞儀をした。
大なべいっぱいに作ったシチューだが食事が終わるころには空になっていた。このところ小食な僕はおかわりしなかったんだけどね。親父さんが一回おかわりしたのは覚えているけど、あの二人は胃がブラックホールにでも通じているのだろうか。
「ほら、ケーキを食べるわよ。好きなのを選んでちょうだい」
ゆうきが買ってきたケーキは、潰れかけていたけどちゃんと四つあった。僕の両親の分も買ってきたのか、それとも彼女が三つ食べるつもりだったのか。後者でないことを祈るよ。
「僕らもケーキ買ってきたんだけどね。それもワンホール」
「美味しいものはいくら食べてもいいじゃない。そのぶん体を動かせばいいだけよ」
ゆうきの一日の消費カロリーは多そうだ。
「お義父さんは残ったのでいいから、先に選んでくれればいいよ」
「俺はモンブランを貰う」
「なかなかいいチョイスするじゃないの。あそこはいい栗使っているわよ。それじゃあたしはショートケーキを貰うわ」
「僕はフルーツケーキにしようかな」
最後に残ったチーズケーキは親父さんが食べることになった。ゆうきが太鼓判を押すだけあって、素材の甘みを生かしたケーキで食後でも美味しく食べられた。僕の選んだケーキは抑えた甘みと爽やかな酸味があとを引いて、いくらでも胃に入りそうだったよ。
僕らが買ってきたチョコレートケーキは、とおるとゆうきが果敢に挑戦していたけど半分残ってしまった。食い意地の張った二人でも、シチュー鍋を空っぽにしたあとでは撤退を余儀なくされたらしい。
「悔しいわ、とおるほらもっと食べなさいよ」
「……ぐむぅ」
とおるはケーキを飲みこもうとしていたが、胃がもう受けつけないらしい。
「いやそんなに無理して食べるもんでもないよ」
「むぅ、出されたものを残すなんて屈辱だわ……」
下唇を噛んで、ゆうきは悔しそうだった。
「…… 太らないよう気をつけてね」
「あたしは明日からスキーに行くから大丈夫よ。よければあきらも一緒に行かない?」
「僕は退院したばかりだからね。まだ体力がないよ」
せっかくのお誘いだったけど断るしかない。
「だらしないわね。しっかり食べてしっかり遊んでしっかり寝るのが元気の秘訣よ」
「心がけとくよ」
勉強してはないんだねと心で思いつつ、ケーキにラップをして調味料しかないがらんどうの冷蔵庫に入れておく。小腹が空いたときにとおるか親父さんが食べるだろう。
「じゃ、そろそろ帰るわね。あきら、とおると遊ぶのはいいけど、ほどほどにしなさいよ」
「なんで?」
「……そりゃあたしとあきらの関係を考えたら当たり前でしょ」
「ゆうきととおるの関係も同じだと思うけどね」
幼なじみであることに変わりはない。もっとも、ゆうきの心を知っていて僕ははぐらかしていた。
「もうつれないわね。ほら、おやすみのキスをしていってよ」
「あきら、俺にもしてくれ」
ゆうきは目を閉じて顎を少しあげた。隣のとおるも口をラッパのように突き出し、目を閉じている。僕は一歩引いてとおるの向きを微調整してから、軽く押してやった。
「額にするの……? ってきゃあぁぁっ、なんでとおるがいるのよっ!」
「…… うわぁぁっ!」
ゆうきのおでこにとおるの唇がぶつかると、二人とも驚いた顔で飛びすさった。両方とも心の底からまずそうな顔をしている。
「二人とも仲がいいね。ゆうき、それじゃおやすみ」
「そんなわけあるわけないじゃない!」
とおるを蹴飛ばしたあと、ぷりぷり怒りながら駆け足でゆうきは玄関を出ていった。悪いことをしたかなと思うけど、今の体では好意に応えられない。
「ううっ、口直しがしたい」
「お茶でも入れるからそれを飲んどけ」
僕にまた唇を向けようとするとおるに、思いっきり濃く渋いお茶を進呈しておいた。ゆうきは性格に向こう見ずなところはあるかもしれないけど、見た目だけならモデルみたいに高水準で整った容姿をしてるんだから、もっと喜んでもいいのにね。
「僕もそろそろ帰るよ」
「あきら、今日は泊まってかないか?」
「遠慮しとく。ああ、でもクリスマスプレゼントがまだだったね」
玄関前で振り返り、背伸びをして触れるか触れないかという微妙な接触。
「これで今日のデートは終わり。明日からはまた友達だよ。おやすみっ」
石像のように硬直したとおるに背を向けて、僕は火照りだした顔を冷ますように風を切って走り出した。
<つづく>
遊園地は混んでそうだし、動物園は白熊やペンギンならともかくほかの動物は動きが鈍そうだ。水族館はここ数日母親の特訓で魚をさばいてばかりいたから、どうも行く気になれない。今魚を見るとさばき方を頭のなかでシミュレートしそうだ。
そういうわけで商店街を冷やかし歩くということに落ち着いた。ウィンドウショッピングなら財布も傷まないからね。
「とおる、足を止めてどうしたの?」
ゆっくりと歩きながら店を眺めていたとおるの足がぴたりと止まった。こいつの見ている方向を向くと、スポーツショップの店頭にマネキンに着せてスキーグッズが飾られている。
「今は冬だ。冬といえばっ」
「こたつ」
「冬といえばっ」
「みかん」
間違ってはいない。
「……そこでわざと外さないでくれ」
「はいはい、スキーだね」
「行かないか?」
「いちおー僕は退院直後ってこと忘れてないかな?」
激しい運動は禁じられているからね。行きたくても行けない。
「黙っていればわからない」
「日帰りでスキーに行くとしたら夜のうちに出ないといけないからね。また両親に嘘をつくのは気が引けるよ」
それに元からそんなにスキーをやったことがないのに、体格が変わったばかりで滑ろうとしたら転びまくって僕が雪だるまになりそうだ。
「この辺は雪が降らないからな。近場にスキー場があればすぐに行きたかった」
「ホワイトクリスマスなんてありえないからね。降って粉雪だしすぐ溶けちゃうからなぁ」
風が少しあるけど空はよく晴れている。雨も雪も降りはしないだろう。
「スキーなら来年になってから行けばいいんじゃないかな」
「あきらに手取り足取り腰取り口取りじっくりスキーを教えたかったぞ」
「来年なら一緒に行ってもいいかと思ってたけど、あんまり不穏な台詞を言うと行かないよ」
こいつはまたどんなスケベな妄想をしているんだか。つむじを曲げて握っている手に力をこめてみたけど、とおるには大して効きもしない。男の手を握りつぶせるほど僕の掌はもう広くはないんだけどさ。
「今年はアウトドアスポーツに行けないなら、温泉という手もあるな。温泉療養って言葉もあることだし、行ってもおかしくはないだろ」
「よく次から次へと行きたい場所が出てくるね。その意欲だけは感心するよ」
以前は遊ぶことにさほど積極的ではなかったと思うんだけどね。
「もっと褒めてくれい」
「褒めちゃいないからね。でも、温泉ってのは悪くないか」
ここ一ヶ月の疲れを温泉でリフレッシュさせるのはいいかもしれない。
「混浴のあるところを探しておく」
「……ふーん、とおるはほかの男に僕の裸が見られてもいいんだ」
「貸し切りのあるところを探してみる……」
他愛もない話をしながら、目的もなくぶらぶら街をほっつき歩いた。あまりデートらしいといえないかもしれないけど、とおるの目は青星のように輝いている。無表情フェイスはいつもと変わらないんだけどね。
「あ、イルミネーションが灯されたね。一斉に点灯されると幻想的だなぁ」
日が落ちかける午後四時過ぎになると、商店街は一気に光の粒が瞬いた。サンタやトナカイ、靴下や星をかたどったライトは、子供でなくても心がはしゃぐ。
「サンタさんはとおるにプレゼントを持ってきてくれるかな?」
「毎年靴下は吊るしておくんだがな。プレゼントが入っていた試しはない」
とおるの目を見た限りでは本気か冗談かわからない。
「そ、そうなんだ。まだサンタさんを信じてるの?」
「夢のある男だろ。靴下にサンタ姿のあきらが入っていてくれとお願いしたんだがな」
そんなお願いをされてもサンタが迷惑だろう。
「……それはどんなミニチュアサイズの僕だよ」
「ちゃんと手編みで二メートルサイズの靴下だぞ」
机と本棚、ベッドぐらいしかない殺風景な部屋に、巨大な靴下が吊るしてあるというのはシュールな光景だと思う。
「まっ、サンタからのプレゼントはなくとも、俺からあきらへのプレゼントはあるさ」
「そこで婚約指輪とか出されても受け取らないからね」
とおるは出しかけた白い小箱を再びポケットに仕舞いこんだ。
「……そういうこともあろうかとほかにも用意してきたさ」
「学習能力がないわけでもないのは褒めてもいいけど、何を持ってきたの?」
「手製の――」
「マフラーとか? それは女性が編むもんじゃない?」
僕はまだ裁縫とかはできないけどね。料理を覚えるだけで手一杯です。
「豊乳クリーム」
「それは意表を突いたつもりなのかな? かな?」
「あきら、金物屋さんから鉈を持ち出して虚ろな目で笑わないでくれ。さすがの俺も怖いぞ」
おかしいな、手がいつの間にか鉈をつかんでいたよ。
「……そりゃ多少は気にしているけどね。人から言われるとショックなことってあるじゃん」
「そういうものか。ではこれはしまっておくとしよう」
「成長の兆しがまるでなかったらまた考えるよ」
ちっとも心が動かなかったと言ったら嘘になるけどね。とおるにしたって悪意はなかっただろう。下心はあったかもだけど。
金物屋さんに謝って鉈を返却して店を出ると、もう外は真っ暗闇だ。
「どっかで食べてく? それともケーキやチキンでも買ってく?」
「あきらの手作りのケーキが食べたいな」
「そこまで手間暇かけていられないけど、とおるのところでシチューぐらいなら作ろうか?」
シチューは僕の好きな料理の一つだ。イブだしクリームシチューってのも悪くない。
「あきらの手料理が食べられるならそれでいい」
「親父さんも一人寂しくしているだろうからね。退院してから顔出ししてないしなぁ」
野菜のうまみが溶けこんだ具だくさんのシチューを作ろう。大なべに作ってとおると親父さんが翌日も食べられるようにすればいいかな。市販の弁当だけじゃ栄養が偏るからね。
デパートからの帰り道では、ケーキの箱と買い物袋でとおるの両手は塞がっていた。もちろん手は繋げないわけで、こいつの目は死んだ魚のように淀んでいる。
僕の家の前を通ってとおるの家に行こうとすると、
「あきらぁぁっ!」
背後から元気な声が僕を呼びかけた。僕ら二人にとっては幼なじみにあたる人物の声だ。たたたたっと駆け寄ってきた足音は僕の真後ろで止まると、いきなり僕を抱きしめてきた。柔らかいおっぱいの感触が背中越しに伝わってくる。
「ケーキを買ってきたから一緒に食べるわよ!」
猪突猛進な元気娘ゆうきは確定事項のように僕の手を引っ張ろうとした。
「困るよ。今からとおるの家に行く約束なんだ」
「あ、いたんだ」
路端の石ころのようにとおるの存在を認識してなかったらしい。とおるとゆうきは仲が悪いってわけじゃないけど、僕が絡むとなるとお互い譲らない。
「なによ、あたしと食べたくないっていうの。駅前のケーキ屋で一時間も待って買ったのよ。すっごく美味しいんだから」
「そんなことは言ってないよ。ただ先約があってとおるとこれから夕飯を食べるんだ」
「これから俺とあきらは一緒の食卓を囲むんだ。残念だったな」
とおるは頼むからそこで勝ち誇った目をしないでくれ。バチバチと目に見えない火花が二人の間に弾けているような気がする。
「イブの夜に男だけで過ごすなんて不毛と思わない? 仕方ないわね。あたしも一緒に行ってあげるわよ。感謝なさい!」
とおるとどっこいの我が道を往く女傑は、怯むことなく言い放ってみせた。天晴れなほどの大口を開けて破顔している。
「そうと決まったらさっさと行くわよ」
ずかずかと歩いていくゆうきに、僕ととおるは顔を見合わせた。
「今日の最後ぐらいはゆうきがいてもいいんじゃない?」
「……あきらがそう言うなら仕方ないな」
ゆうきの勢いに毒気を抜かれたようで渋々とおるはうなずいた。
「ただいま」
「お邪魔します」
「邪魔するわよ」
三者三様の言い方でとおるの家にあがると、僕は早速台所に立った。ゆうきも手伝うと言ったが丁重にお断りしておく。以前に油揚げとネギの味噌汁を作ってもらったら、ゴマ油まみれの溶かした味噌を出されたことがあった。軽いトラウマだ。
「台所は誰も使ってないんだね」
やかんでお湯ぐらいは沸かすだろうが、使われない鍋や食器は埃をかぶっている。おばさんがいなくなってからは誰も使ってないのだろう。
さびの浮いた包丁を砥石で磨いてから野菜の皮むきを始める。皮ごと実を剥き過ぎてしまうことはあるけど、前よりは包丁が手に馴染んできた。
「よし、こんなものかな」
まだアレンジとかするような技量はないから、基本に忠実にクリームシチューを作ってみた。にんじん、たまねぎ、じゃがいも、マッシュルーム、コーンがたっぷり入った鶏肉のシチューだ。味見をした限りではうまくできたと思う。ローストチキンはレンジでチンして終わり。あとはフランスパンを切り分けるだけだ。
「とおる、シチューを入れるお皿を洗って机に持っていってもらえない?」
「はいはい、あたしがそれぐらいやったあげるわよ」
テレビを見ていたゆうきがぶんぶんと手を振り回すが、黙ってとおるは台所に向かっていた。
「なによ、あたしがやるって言ってるじゃないの」
それほど広くもない台所で三人が所狭しと並んでいる。ゆうきはスポンジに洗剤を思いっきり染みこませ、ごきゅごきゅと力をこめて皿を洗っていた。その皿をとおるは水洗いして布巾で拭いている。いがみ合わずにやってくれるなら、僕としては一安心といったところだ。居間にいるとおるの親父さんも、にこにこと台所に立つ幼なじみ三人組を眺めていた。
「美味しい、この味なら一皿千円は取れるわね」
クリームシチューを一口食べたゆうきがうなる。
「大げさだなぁ。シチューの素を使ったよくある味だよ」
「……おかわり」
僕が二口目を味わっている間に、とおるの皿は空になっていた。
「とおる、レディーファーストって言葉を知らないの?」
「まだたくさんあるから喧嘩しないで仲良く食べてね」
親父さんにもおかわりを勧めてから、皿を差し出した二人に交互にシチューをよそう。
「あきらちゃん、お義父さん、こんなに暖かいご飯は久しぶりに食べたよ」
「確かに溶鉱炉みたいのがいますけどね。ゆうきも一緒でしたけど良かったです?」
彼女がいるだけで室温は上がりそうだ。
「もちろんだよ。ゆうきちゃんが遊びに来るのは久しぶりだね」
「あ、はい、おじさんもお元気そうですね」
親父さんが笑顔を向けると、夢中でスプーンを動かしていたゆうきはぺこりとお辞儀をした。
大なべいっぱいに作ったシチューだが食事が終わるころには空になっていた。このところ小食な僕はおかわりしなかったんだけどね。親父さんが一回おかわりしたのは覚えているけど、あの二人は胃がブラックホールにでも通じているのだろうか。
「ほら、ケーキを食べるわよ。好きなのを選んでちょうだい」
ゆうきが買ってきたケーキは、潰れかけていたけどちゃんと四つあった。僕の両親の分も買ってきたのか、それとも彼女が三つ食べるつもりだったのか。後者でないことを祈るよ。
「僕らもケーキ買ってきたんだけどね。それもワンホール」
「美味しいものはいくら食べてもいいじゃない。そのぶん体を動かせばいいだけよ」
ゆうきの一日の消費カロリーは多そうだ。
「お義父さんは残ったのでいいから、先に選んでくれればいいよ」
「俺はモンブランを貰う」
「なかなかいいチョイスするじゃないの。あそこはいい栗使っているわよ。それじゃあたしはショートケーキを貰うわ」
「僕はフルーツケーキにしようかな」
最後に残ったチーズケーキは親父さんが食べることになった。ゆうきが太鼓判を押すだけあって、素材の甘みを生かしたケーキで食後でも美味しく食べられた。僕の選んだケーキは抑えた甘みと爽やかな酸味があとを引いて、いくらでも胃に入りそうだったよ。
僕らが買ってきたチョコレートケーキは、とおるとゆうきが果敢に挑戦していたけど半分残ってしまった。食い意地の張った二人でも、シチュー鍋を空っぽにしたあとでは撤退を余儀なくされたらしい。
「悔しいわ、とおるほらもっと食べなさいよ」
「……ぐむぅ」
とおるはケーキを飲みこもうとしていたが、胃がもう受けつけないらしい。
「いやそんなに無理して食べるもんでもないよ」
「むぅ、出されたものを残すなんて屈辱だわ……」
下唇を噛んで、ゆうきは悔しそうだった。
「…… 太らないよう気をつけてね」
「あたしは明日からスキーに行くから大丈夫よ。よければあきらも一緒に行かない?」
「僕は退院したばかりだからね。まだ体力がないよ」
せっかくのお誘いだったけど断るしかない。
「だらしないわね。しっかり食べてしっかり遊んでしっかり寝るのが元気の秘訣よ」
「心がけとくよ」
勉強してはないんだねと心で思いつつ、ケーキにラップをして調味料しかないがらんどうの冷蔵庫に入れておく。小腹が空いたときにとおるか親父さんが食べるだろう。
「じゃ、そろそろ帰るわね。あきら、とおると遊ぶのはいいけど、ほどほどにしなさいよ」
「なんで?」
「……そりゃあたしとあきらの関係を考えたら当たり前でしょ」
「ゆうきととおるの関係も同じだと思うけどね」
幼なじみであることに変わりはない。もっとも、ゆうきの心を知っていて僕ははぐらかしていた。
「もうつれないわね。ほら、おやすみのキスをしていってよ」
「あきら、俺にもしてくれ」
ゆうきは目を閉じて顎を少しあげた。隣のとおるも口をラッパのように突き出し、目を閉じている。僕は一歩引いてとおるの向きを微調整してから、軽く押してやった。
「額にするの……? ってきゃあぁぁっ、なんでとおるがいるのよっ!」
「…… うわぁぁっ!」
ゆうきのおでこにとおるの唇がぶつかると、二人とも驚いた顔で飛びすさった。両方とも心の底からまずそうな顔をしている。
「二人とも仲がいいね。ゆうき、それじゃおやすみ」
「そんなわけあるわけないじゃない!」
とおるを蹴飛ばしたあと、ぷりぷり怒りながら駆け足でゆうきは玄関を出ていった。悪いことをしたかなと思うけど、今の体では好意に応えられない。
「ううっ、口直しがしたい」
「お茶でも入れるからそれを飲んどけ」
僕にまた唇を向けようとするとおるに、思いっきり濃く渋いお茶を進呈しておいた。ゆうきは性格に向こう見ずなところはあるかもしれないけど、見た目だけならモデルみたいに高水準で整った容姿をしてるんだから、もっと喜んでもいいのにね。
「僕もそろそろ帰るよ」
「あきら、今日は泊まってかないか?」
「遠慮しとく。ああ、でもクリスマスプレゼントがまだだったね」
玄関前で振り返り、背伸びをして触れるか触れないかという微妙な接触。
「これで今日のデートは終わり。明日からはまた友達だよ。おやすみっ」
石像のように硬直したとおるに背を向けて、僕は火照りだした顔を冷ますように風を切って走り出した。
<つづく>
狼は女神の匂い ? Ⅳ (2) amaha
(2)
ミントの北門から出て2kmほどからが18禁エリアになる。アダルトIDを持つVRS使用者のみが入れ、持たないものには何も無い草原だけが続くマップである。いずれの場合もシームレスなのだが、通過時に妙な感覚があった。皮膚がピリピリとくすぐったい。そして通過後はなんだが空気が肌にまとわりつく感じだ。
朝比奈さんに聞いてみようと馬を走らせる。僕と朝比奈さん、それに助っ人の2人は騎乗しており、モモとジョアが先頭の馬車に乗り、後ろの2台はオートマタ(Automata 、自動人形)に任せてある。いつものように朝比奈さんが先導していた。
「ムヨウ、ちょっといいですか」
朝比奈さんは振り返り、助っ人2人が最後尾にいるのを確かめた。僕は2人に18禁エリアが初めてだと知られたくないと伝えてある。囁き(wis)を使うにはパーティーを一度抜けねばならず、頻回に使用すれば2人も不快に感じると思い避けていた。
「なにか不快感でも?」
「不快じゃないんですけど、なんだが感覚に変化が」
「ここじゃ触覚などの係数が変化するし、ここでしか働かぬ設定もあるから」
「それって」
「18禁だからね」
18禁エリアでは性的・暴力的体験が可能になる。傷つけば盛大に出血するし、セックスも可能だ。だから僕の感じた違和感は女性として性行為を受ける準備が整ったと言うことなのだろう。心の準備は全然できていないのに。
その時風が吹き、いい匂いがした。
「ムヨウ、香水でもつけたのですか」
「いや、洗いざらしだ。アンナは」
言うと同時に朝比奈さんは馬を寄せ身を乗り出し僕の首筋に鼻を近づけた。
「良い香りがするよ」
「何も付けていませんけど?」
「香水いらずってとこかな」
「まさか、オプションですか」
「役に立ちそうなものは全てチェックしたから。最初からスキルを上げておくこと以外なら全部可能だったしね」
自分の腋を嗅ぐと確かに良い香りがする。しかし最初に感じたのはもっと魅力的だった。
首を伸ばして朝比奈さんに顔を近づける。
「あっ」
驚く僕の顔を見て朝比奈さんは一つ頷いてこう言った。
「アンナがなにか感じたなら、男の匂いがするってことじゃないかな」
僕には返事をする余裕がなかった。排泄の必要がないこの世界であり得ぬ湿りが局部にある。改めて自分が女性キャラであることを意識した。しかも通常のオンラインゲームと違い性交可能だ。
「気分でも……顔色はむしろ良いけど」
「いえ。えーっと、あのー、やはりこのエリアについての説明を」
無論僕だって公式の説明は読んでいる。だから以前朝比奈さんが申し出たエリアの説明は必要ないと断っていた。(現実世界では美女の)朝比奈さんからゲーム内のこととはいえ、セックスの説明をしてもらうのに抵抗があったんだ。でもこれじゃ、見栄は張っていられない。何しろその日馬を降りるまで僕は股を鞍に擦りつけ続けたんだから。
その日は野営地を決めるまでNPC盗賊にさえ教われることなく過ぎ、最初の歩哨のルルが位置につくのを確認して僕は朝比奈さんのテントに入った。
いわゆる18禁エリアは、厳密にではないが、次の三つに分けられると思う。
一つ目は安全な街での恋愛や夫婦関係、せいぜい不倫までの世界だ。これは三つの王国内に何か所も設けられていた。
二つ目はアブノーマルなセックスまで楽しめる地域、例えばマラタムの沿海州にあるチチアの遊郭街である。そこではゲームマネーさえあれば歴史上のいかなる悪徳も体験できるといわれていた。
三つめは辺境、マラタムの南西諸島、フルリの高地地帯、そして、ここアカシアの草原地帯である。そこには他では見られない特殊なモンスターの生息地や無法地帯があり、プレーヤーは意に沿わぬわいせつ行為を受ける可能性があった。もちろん逆も可能だ。ただし辺境を目指すVRS利用者が全て特殊な性癖を持つわけではない。ここでは一攫千金も夢ではなく、全員が望む超レアなアイテムを獲得することが可能だった。
朝比奈さんは雑嚢にもたれリラックスしていた。夜間はパーティー会話を切っているので囁きで話すことにする。
「お疲れのところすみません」
「いいのよ。私たちは寝ても現実世界へは戻れないんだし」
「そういう意味ではNPCに近いのでしょうか」
「現実からは切り離されているという意味ではね」
「なんだか巻き込んでしまったようで」
「志願したのだから気にしない」
そう単純ではないと思うけど、今日はその話をしている暇はない。
「ところで」
最初に気になることを聞いてしまおうと僕は決心していた。
「なにかしら」
「この体の設定ですけど」
「ええ」
「なんというか、効き難いんですけど、そのー感じ易いんでしょうか」
「別にかまわないわ。結論からいうとごく標準よ」
「そうなんですか」
「だって部署こそ違うとはいえ、会社の同僚がモニターしてるし、職務なんだから変更には理由が必要だもの」
「でも体から発散する匂いとか」
「周りに良い印象を与えるのは重要でしょう」
「外見も?」
「まあ私の好みが入っていないと言い訳する気はないわ――そして、もう一つ正直に言うと、あなたの興味をひくための体と言うことかな」
「僕の」
「社があなたのお母様を疑っているのは感じたでしょう?」
「ハッキリ言ってましたよ」
「あら、そうだったかしら。まあ、そういうわけだから、あなたも巻き込まれたわけじゃなく計画的じゃないかと――怒った?」
「そうじゃなくて、それなら互いのキャラクターが入れ替わったのは、朝比奈さんは知らないにしても、スタッフの計略なのでしょうか」
朝比奈さんは小首をかしげて目をぱちぱちした。どことなく女性的なジェスチャーは外見と合わない。
「それはなさそうね。アンナのスキルはこれまで使い慣れたものだし、私たちが向かう北では戦闘スキルが必要なことは誰もが充分知っているはずだもの」
「なるほど」
<つづく>
ミントの北門から出て2kmほどからが18禁エリアになる。アダルトIDを持つVRS使用者のみが入れ、持たないものには何も無い草原だけが続くマップである。いずれの場合もシームレスなのだが、通過時に妙な感覚があった。皮膚がピリピリとくすぐったい。そして通過後はなんだが空気が肌にまとわりつく感じだ。
朝比奈さんに聞いてみようと馬を走らせる。僕と朝比奈さん、それに助っ人の2人は騎乗しており、モモとジョアが先頭の馬車に乗り、後ろの2台はオートマタ(Automata 、自動人形)に任せてある。いつものように朝比奈さんが先導していた。
「ムヨウ、ちょっといいですか」
朝比奈さんは振り返り、助っ人2人が最後尾にいるのを確かめた。僕は2人に18禁エリアが初めてだと知られたくないと伝えてある。囁き(wis)を使うにはパーティーを一度抜けねばならず、頻回に使用すれば2人も不快に感じると思い避けていた。
「なにか不快感でも?」
「不快じゃないんですけど、なんだが感覚に変化が」
「ここじゃ触覚などの係数が変化するし、ここでしか働かぬ設定もあるから」
「それって」
「18禁だからね」
18禁エリアでは性的・暴力的体験が可能になる。傷つけば盛大に出血するし、セックスも可能だ。だから僕の感じた違和感は女性として性行為を受ける準備が整ったと言うことなのだろう。心の準備は全然できていないのに。
その時風が吹き、いい匂いがした。
「ムヨウ、香水でもつけたのですか」
「いや、洗いざらしだ。アンナは」
言うと同時に朝比奈さんは馬を寄せ身を乗り出し僕の首筋に鼻を近づけた。
「良い香りがするよ」
「何も付けていませんけど?」
「香水いらずってとこかな」
「まさか、オプションですか」
「役に立ちそうなものは全てチェックしたから。最初からスキルを上げておくこと以外なら全部可能だったしね」
自分の腋を嗅ぐと確かに良い香りがする。しかし最初に感じたのはもっと魅力的だった。
首を伸ばして朝比奈さんに顔を近づける。
「あっ」
驚く僕の顔を見て朝比奈さんは一つ頷いてこう言った。
「アンナがなにか感じたなら、男の匂いがするってことじゃないかな」
僕には返事をする余裕がなかった。排泄の必要がないこの世界であり得ぬ湿りが局部にある。改めて自分が女性キャラであることを意識した。しかも通常のオンラインゲームと違い性交可能だ。
「気分でも……顔色はむしろ良いけど」
「いえ。えーっと、あのー、やはりこのエリアについての説明を」
無論僕だって公式の説明は読んでいる。だから以前朝比奈さんが申し出たエリアの説明は必要ないと断っていた。(現実世界では美女の)朝比奈さんからゲーム内のこととはいえ、セックスの説明をしてもらうのに抵抗があったんだ。でもこれじゃ、見栄は張っていられない。何しろその日馬を降りるまで僕は股を鞍に擦りつけ続けたんだから。
その日は野営地を決めるまでNPC盗賊にさえ教われることなく過ぎ、最初の歩哨のルルが位置につくのを確認して僕は朝比奈さんのテントに入った。
いわゆる18禁エリアは、厳密にではないが、次の三つに分けられると思う。
一つ目は安全な街での恋愛や夫婦関係、せいぜい不倫までの世界だ。これは三つの王国内に何か所も設けられていた。
二つ目はアブノーマルなセックスまで楽しめる地域、例えばマラタムの沿海州にあるチチアの遊郭街である。そこではゲームマネーさえあれば歴史上のいかなる悪徳も体験できるといわれていた。
三つめは辺境、マラタムの南西諸島、フルリの高地地帯、そして、ここアカシアの草原地帯である。そこには他では見られない特殊なモンスターの生息地や無法地帯があり、プレーヤーは意に沿わぬわいせつ行為を受ける可能性があった。もちろん逆も可能だ。ただし辺境を目指すVRS利用者が全て特殊な性癖を持つわけではない。ここでは一攫千金も夢ではなく、全員が望む超レアなアイテムを獲得することが可能だった。
朝比奈さんは雑嚢にもたれリラックスしていた。夜間はパーティー会話を切っているので囁きで話すことにする。
「お疲れのところすみません」
「いいのよ。私たちは寝ても現実世界へは戻れないんだし」
「そういう意味ではNPCに近いのでしょうか」
「現実からは切り離されているという意味ではね」
「なんだか巻き込んでしまったようで」
「志願したのだから気にしない」
そう単純ではないと思うけど、今日はその話をしている暇はない。
「ところで」
最初に気になることを聞いてしまおうと僕は決心していた。
「なにかしら」
「この体の設定ですけど」
「ええ」
「なんというか、効き難いんですけど、そのー感じ易いんでしょうか」
「別にかまわないわ。結論からいうとごく標準よ」
「そうなんですか」
「だって部署こそ違うとはいえ、会社の同僚がモニターしてるし、職務なんだから変更には理由が必要だもの」
「でも体から発散する匂いとか」
「周りに良い印象を与えるのは重要でしょう」
「外見も?」
「まあ私の好みが入っていないと言い訳する気はないわ――そして、もう一つ正直に言うと、あなたの興味をひくための体と言うことかな」
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「それはなさそうね。アンナのスキルはこれまで使い慣れたものだし、私たちが向かう北では戦闘スキルが必要なことは誰もが充分知っているはずだもの」
「なるほど」
<つづく>
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僕の秘密日記(14) by A.I
クリスマスイブ。あちらこちらにクリスマスツリーが飾られ、大通りではサンタの衣装をした店員が客引きをしている。街は賑わいを見せて、クリスマス関連の商品が店頭にこれでもかと並べられていた。夜となればイルミネーションが灯され、星を散りばめたように光り輝くことだろう。
今日は家族や恋人と過ごす人が大半に違いない。ケーキとチキンとゴムの消費が多くなりそうだ。
そんな聖なる日に僕は恋人でも家族でもない男と会おうとしている。約束だから仕方ないとはいえ、ちょっと前までは僕も男だったのだ。別次元の僕がいるならば、今頃はゆうきとデートをしているかもしれない。どこで運命の歯車が狂ったのだろう。
嘆いていても仕方ない。可愛らしいフェミニンな服を着ると、防寒のために袖を通したコートのボタンは外しておいた。多少は中身も見せたいからね。気合の入った格好をすると、玄関でキュートなロングブーツを履いて準備は完了だ。今の僕は上下左右どこから見ても女の子。僕を見て男だと断定するのは一人しかいないだろう。
いよいよ約束の日。僕が女の子になったのはこの日のためだ。たった一日、デートの真似をするために女にさせられたと知れば両親は仰天するだろう。そりゃ僕やとおるにだってそれ以上の思惑はあったのだけど、今日という日がなければ女にならなかったに違いない。
「女の子を待たすなんてひどい男だね」
口に出してみると、男を待つ女というシチュエーションに何となく笑ってしまった。もちろん怒っているわけではなく、待ち合わせ時間まであと二十分ほどはある。僕が早く来すぎただけだ。
いつもは直接とおるの家に行くことがほとんどだから、場所を決めて待ち合わせなんてまずない。とおるは従兄を連れてくるので、八楠公園のシンボルとなっている大きな楠で会うことになっていた。ちなみにこの木の下で告白すると幸せになるというジンクスはない。
「……えーっと、何のつもりだろう?」
実験着としてよく使われる白衣に作業用の保護メガネをかけて、とおるはひょっこりと現れた。確かに実験が趣味とは知っているけど、あの格好でデートに行くつもりなんだろうか。こいつのセンスを疑う。
「バカァァッ!」
「ぐふぁぁっ!」
せっかく僕が張り切っておめかししてきたのに、デートにはそれなりの格好ってものがあるだろう。断じて白衣なんかで行くようなものじゃない。気づいたらとおるを殴り飛ばしていた。今日は手ぐらいなら握ってあげようと思っていたのにっ!
「待たせてすまん」
金太郎飴のように倒れたとおるの背後にとおるが立っていた。白い蝶ネクタイに後部が燕のような長いジャケット、白無地のシャツとどこから見ても燕尾服を着こんでいる。まるでどこぞの舞踏会にでも行くかのような格好だ。
「……あれ?」
とおるが二人いた。白衣姿のとおるは普段なら即座に復活するというのに未だ立ち上がらない。
「ああ、紹介する。あそこで倒れているのが従兄のすばるだ」
「へっ?」
淡々と従兄を紹介するとおる。気絶したすばるさんを見ると、双子のようにとおるとよく似ている。うん、これなら勘違いしても無理はないね。これは不幸な事故だ。仕方ない。では、済ませられないよなぁ、やっぱり。
「うわぁぁっ、大丈夫ですか?」
頬に見事な青あざをこしらえたすばるさんを助け起こす。あいにくと驚異的な回復力を持っているのはとおるだけのようで、すばるさんは白目を剥いたままだった。
「とおる、ベンチまですばるさんを運ぼう!」
「……ん、わかった」
身内に対してつれない態度を取るとおるをどやしつけ、僕らはすばるさんをベンチで寝かせると濡らしたハンカチを頬にあてがった。僕の膝枕で気絶したままの従兄を、とおるは面白くなさそうな表情で見ている。
「う、あ、わぁぁっ!」
うなされながら目覚めたすばるさんは僕の顔を見ると、器用にも腹筋の力だけで横っ飛びに逃げた。恐怖で足がすくんでいるのかシャクトリムシのように腰を折り曲げて僕から離れようとしている。こんな奇抜な行動を取るなんて、やっぱりとおるの血縁者に違いない。
「あ、あの。先ほどは申し訳ありませんでした。大丈夫ですか?」
「すばる君、こちらが俺の恋人のあきらだ。どうだ素敵で可愛くて超絶無敵だぞ!」
とおるは意味もなく胸を張って、錯乱気味の従兄に僕を紹介する。すばるさんは青ざめた顔でポツリと呟いた。
「……はっ、あ、ああ、殴られた挙句に関節技をかけられた夢を見ていた」
「俺のあきらに密着してもらえるとは夢でも許しがたいな」
「待て、とおる。私は悪夢にうなされていたんだぞ。何かおかしくはないか?」
まるで恋人を寝取られたかのような幽鬼の表情で、とおるは手にメスやら注射器やらを握っている。
「待て待て。あとで関節技ならいくらでもかけてやるというか、腕ぐらいは組んでやるから大人しくしていろ!」
「……わかった。あきらと腕組み……ふふふふふふっ……」
暴走しかけているとおるを肘で小突くと、僕はもう一度すばるさんに頭を下げた。
「本当にごめんなさい。あの、頬は大丈夫ですか?」
「これくらいならどうってことないよ。君がとおるの恋人のあきらさんか」
頬の痛みに顔をしかめながら、すばるさんは白衣の埃を払いながら立ち上がった。こうして見るととおるより僅かに背が高くて、目元が穏やかな気がする。
「初めまして。会えて嬉しいですよ」
と言うわりには腰が引けていて、目には隠しきれない恐怖の色が浮かんでいる。初対面の印象は衝撃的だったに違いない。それもマイナスのベクトルに向けてだ。
「初めまして。とおるとおつき合いさせてもらっています」
僕としては精一杯の微笑みを浮かべてみせたつもりなのだけど、握手をしたすばるさんの手は震えていた。
「お似合いの二人だね。とおるに相応しいお嬢さんじゃないか」
まったくもって褒められている気がしないのはどうしてだろう。
「とおる、デジカメを持ってきているだろうから私が撮ってあげるよ。そろそろ仕事に戻らないといけないからね」
大きな楠の下でとおると腕を組んだ僕は、にっこりと可愛く笑ってみせた。今さら遅すぎるかもしれないが、せいぜい仲が良い風を装おう。すばるさんが帰るまでの辛抱だ。
「な、なかなかうまく撮れないな。何枚か撮らせてくれ」
すばるさんは十枚近くの写真を撮ってくれたけど、一枚目と二枚目は手ぶれで画像が歪んでいた。はぁ、きっと死神と悪魔のカップルとでも思っているんだろうなぁ。早とちりしたばっかりにとんだ誤解だ。
「これからもとおると仲良くしてくださいね」
最後に人好きのする柔和な笑みで手を振りながら、すばるさんはチェルノブイリから離れるように駆け足で去っていった。
「……最悪だったね」
「…… 完璧だったな」
すばるさんに強く僕の印象を植えつけたのは間違いない。別れろと言い出されても不思議ではないけど、似た者夫婦と思われている可能性のほうが高そうだ。可愛い女の子を演じるつもりだったのに、これじゃ痛い女の子じゃないか。
「邪魔者は消えたしランチにでも行くか」
「今度すばるさんと話す機会があったら、もう一度謝っておいてよ」
「……覚えていれば」
こいつ伝える気がこれっぽっちもないな。
「それより髪型を変えたんだな。可憐で愛くるしくて俺のハートを捕らえて離さないぞ」
「えへへ、そ、そうかなぁ」
容姿を褒められて悪い気分にならない女の子はいないと思う。とおるの褒め言葉はいつものことかもしれないけど、今日は特に気合を入れてきたからね。やっぱり嬉しい。
「…… とおるは正装もいいところだね。今日はイブだからそこまで目立たないかもだけど」
わざわざデートのために用意したんだろうけど、間近で燕尾服を着ている人を見るなんて初めてだよ。燕尾服を着る人なんて、オーケストラの指揮者ぐらいしか思い浮かばない。
「今日は張り切ってみた」
「クリスマス限定なら似合ってると思うよ」
仮装大賞じゃないんだから、何かのたびにその格好では悪目立ちし過ぎる。とおるは気合が空回りしているよ。
「この間は僕の服を買いに行ったわけだし、今度はとおるの服を選びに行ったほうがいいかもね」
ここでとおるをあまり褒めると、このバカは毎日燕尾服で現れかねない。こいつはそれぐらいのことは平気でやる男だ。
「あきらの元旦の着物を見に行きたいしな」
「着物なんてここ何年も着た覚えがないよ」
七五三のときに着たっきりじゃないかな。まさかとおるが着物姿を見たいと言い出すとは思わなかった。
「着物って高いだろ。たった一日のために買うなんてもったいないよ」
「お殿様遊びもしてみたいんだがな」
「着物を着た女の子をくるくると回して脱がしたいのか!」
それで僕が「お殿様おやめになって」とは言いたくない。
「憧れないかっ」
そこで同意を求められても困る。先々月までなら僕も興味を持ったかもしれないけど、自分が回されるほうなら遠慮したい。
「バカなことを言ってないでどこに食べに行く?」
「良さげな店を見つけたんでな。そこに行くとしよう」
とおるが僕に掌を差し出してきたので、一分ほど逡巡したあとに手を取った。すばるさんは帰ったけれど、今日一日はつき合うという約束だ。ここでいきなり態度を豹変させるというのも、あまりに情けない話だろう。
その店に向かうために商店街の大通りを横切ると、僕たちと同じように手を繋いだ男女の姿が見えた。はたから見れば僕ととおるもカップルに見えたりするのかな。
「ここがそうだ」
ちょっとお洒落な佇まいを見せる洋風レストランに入ると、木調で整えられたレトロ漂う暖かな空間があった。木の壁で仕切られた個室のような席に通されると、イケメンな店員さんがグラスに水を注いでくれた。
「何を頼もうか迷っちゃうね」
行くとしたらファミレスばかりだから、大人の雰囲気が漂うレストランだと緊張してしまう。お値段もそれなりにするしね。
「僕はこれにするよ」
メニューに書いてあるデザートとサラダがつくエビとキノコのドリアセットを指差すと、とおるも注文するものを決めたようで店員さんを呼んだ。
「お子様ランチ一つ、エビとキノコのドリアセット一つですね」
とおるの注文に、顔色一つ変えずに注文を復唱する店員さん。畏まりましたと言って下がっていったけど、僕は頬が熱くなってきたのを感じたよ。
「……何故にお子様ランチ?」
「そこにお子様ランチがあったからだ」
確かにメニューにはお子様ランチと堂々と書かれていたけどね。まさか頼むとは思わなかった。周りの目があったなら帰りたくなったかもしれない。
「お待たせしました」
僕がサラダを食べ終わってしばらくすると、香ばしい匂いとともにドリアが運ばれてきた。とおるのお子様ランチもほぼ同時にやってくる。
ホットプレートの上にハート型のオムライス、エビフライ、ハンバーグ、タコさんウィンナーなどが綺麗に飾りつけられている。子供だましの品ではなく一品一品が丁寧に作られていた。
「大人のお子様ランチがあると聞いていたからな。以前から興味があった」
「思ったよりちゃんとした料理だったね。驚いたよ」
しっかりとしたレストランで手抜きの料理が運ばれてくるはずもないか。正直あなどっていたかもしれない。これなら僕でも頼みたくなるかも。
「うまい、うまいぞぉぉっ!」
大人のと書いてあるけど、食べるほうは精神的にお子様なんだけどね。
「あーあ、口の周りがソースでべとべとだよ。困ったやつだね」
まったく手のかかる子供みたいだ。誰も取りはしないから、もっとゆっくり食べればいいと思うけどね。苦笑しながら僕はナプキンでとおるの口を拭いてやった。今日は一緒に歩くのだからそれぐらいしないと恥ずかしいだろ?
ドリアはチーズがいっぱい、エビがぷりっとして美味しかった。デザートのミニパフェもアイスと生クリームにかかったキャラメルソースが絶品だったよ。
「すっごく美味しかったね」
ほっぺたが落ちそうな料理に、にへらと頬が緩んでしまう。不思議なもので美味しいものを食べると心が軽やかになって、今ならたいていのことを許せてしまいそうだ。
「僕も半分だすよ」
食後のコーヒーを飲み干し割り勘でいいかなと声をかけると、
「今日はデートだからな。こういうときは男が出すもんだ」
紳士の皮をかぶったお子様は、僕に先立ってレジの前に出ると会計を済ませていた。素早い。男友達だったからあまり甘えて奢られるって気になれないんだよね。今現在でも男友達と言われたほうがしっくりくる。
ちょっとやそっとじゃ十年以上続いている感覚は変わらない。女としての自覚を持たなきゃいけないのだろうけど、もう少しこのぬるま湯のような関係でいいかな。せめて新学期が始まるまでは。
<つづく>
今日は家族や恋人と過ごす人が大半に違いない。ケーキとチキンとゴムの消費が多くなりそうだ。
そんな聖なる日に僕は恋人でも家族でもない男と会おうとしている。約束だから仕方ないとはいえ、ちょっと前までは僕も男だったのだ。別次元の僕がいるならば、今頃はゆうきとデートをしているかもしれない。どこで運命の歯車が狂ったのだろう。
嘆いていても仕方ない。可愛らしいフェミニンな服を着ると、防寒のために袖を通したコートのボタンは外しておいた。多少は中身も見せたいからね。気合の入った格好をすると、玄関でキュートなロングブーツを履いて準備は完了だ。今の僕は上下左右どこから見ても女の子。僕を見て男だと断定するのは一人しかいないだろう。
いよいよ約束の日。僕が女の子になったのはこの日のためだ。たった一日、デートの真似をするために女にさせられたと知れば両親は仰天するだろう。そりゃ僕やとおるにだってそれ以上の思惑はあったのだけど、今日という日がなければ女にならなかったに違いない。
「女の子を待たすなんてひどい男だね」
口に出してみると、男を待つ女というシチュエーションに何となく笑ってしまった。もちろん怒っているわけではなく、待ち合わせ時間まであと二十分ほどはある。僕が早く来すぎただけだ。
いつもは直接とおるの家に行くことがほとんどだから、場所を決めて待ち合わせなんてまずない。とおるは従兄を連れてくるので、八楠公園のシンボルとなっている大きな楠で会うことになっていた。ちなみにこの木の下で告白すると幸せになるというジンクスはない。
「……えーっと、何のつもりだろう?」
実験着としてよく使われる白衣に作業用の保護メガネをかけて、とおるはひょっこりと現れた。確かに実験が趣味とは知っているけど、あの格好でデートに行くつもりなんだろうか。こいつのセンスを疑う。
「バカァァッ!」
「ぐふぁぁっ!」
せっかく僕が張り切っておめかししてきたのに、デートにはそれなりの格好ってものがあるだろう。断じて白衣なんかで行くようなものじゃない。気づいたらとおるを殴り飛ばしていた。今日は手ぐらいなら握ってあげようと思っていたのにっ!
「待たせてすまん」
金太郎飴のように倒れたとおるの背後にとおるが立っていた。白い蝶ネクタイに後部が燕のような長いジャケット、白無地のシャツとどこから見ても燕尾服を着こんでいる。まるでどこぞの舞踏会にでも行くかのような格好だ。
「……あれ?」
とおるが二人いた。白衣姿のとおるは普段なら即座に復活するというのに未だ立ち上がらない。
「ああ、紹介する。あそこで倒れているのが従兄のすばるだ」
「へっ?」
淡々と従兄を紹介するとおる。気絶したすばるさんを見ると、双子のようにとおるとよく似ている。うん、これなら勘違いしても無理はないね。これは不幸な事故だ。仕方ない。では、済ませられないよなぁ、やっぱり。
「うわぁぁっ、大丈夫ですか?」
頬に見事な青あざをこしらえたすばるさんを助け起こす。あいにくと驚異的な回復力を持っているのはとおるだけのようで、すばるさんは白目を剥いたままだった。
「とおる、ベンチまですばるさんを運ぼう!」
「……ん、わかった」
身内に対してつれない態度を取るとおるをどやしつけ、僕らはすばるさんをベンチで寝かせると濡らしたハンカチを頬にあてがった。僕の膝枕で気絶したままの従兄を、とおるは面白くなさそうな表情で見ている。
「う、あ、わぁぁっ!」
うなされながら目覚めたすばるさんは僕の顔を見ると、器用にも腹筋の力だけで横っ飛びに逃げた。恐怖で足がすくんでいるのかシャクトリムシのように腰を折り曲げて僕から離れようとしている。こんな奇抜な行動を取るなんて、やっぱりとおるの血縁者に違いない。
「あ、あの。先ほどは申し訳ありませんでした。大丈夫ですか?」
「すばる君、こちらが俺の恋人のあきらだ。どうだ素敵で可愛くて超絶無敵だぞ!」
とおるは意味もなく胸を張って、錯乱気味の従兄に僕を紹介する。すばるさんは青ざめた顔でポツリと呟いた。
「……はっ、あ、ああ、殴られた挙句に関節技をかけられた夢を見ていた」
「俺のあきらに密着してもらえるとは夢でも許しがたいな」
「待て、とおる。私は悪夢にうなされていたんだぞ。何かおかしくはないか?」
まるで恋人を寝取られたかのような幽鬼の表情で、とおるは手にメスやら注射器やらを握っている。
「待て待て。あとで関節技ならいくらでもかけてやるというか、腕ぐらいは組んでやるから大人しくしていろ!」
「……わかった。あきらと腕組み……ふふふふふふっ……」
暴走しかけているとおるを肘で小突くと、僕はもう一度すばるさんに頭を下げた。
「本当にごめんなさい。あの、頬は大丈夫ですか?」
「これくらいならどうってことないよ。君がとおるの恋人のあきらさんか」
頬の痛みに顔をしかめながら、すばるさんは白衣の埃を払いながら立ち上がった。こうして見るととおるより僅かに背が高くて、目元が穏やかな気がする。
「初めまして。会えて嬉しいですよ」
と言うわりには腰が引けていて、目には隠しきれない恐怖の色が浮かんでいる。初対面の印象は衝撃的だったに違いない。それもマイナスのベクトルに向けてだ。
「初めまして。とおるとおつき合いさせてもらっています」
僕としては精一杯の微笑みを浮かべてみせたつもりなのだけど、握手をしたすばるさんの手は震えていた。
「お似合いの二人だね。とおるに相応しいお嬢さんじゃないか」
まったくもって褒められている気がしないのはどうしてだろう。
「とおる、デジカメを持ってきているだろうから私が撮ってあげるよ。そろそろ仕事に戻らないといけないからね」
大きな楠の下でとおると腕を組んだ僕は、にっこりと可愛く笑ってみせた。今さら遅すぎるかもしれないが、せいぜい仲が良い風を装おう。すばるさんが帰るまでの辛抱だ。
「な、なかなかうまく撮れないな。何枚か撮らせてくれ」
すばるさんは十枚近くの写真を撮ってくれたけど、一枚目と二枚目は手ぶれで画像が歪んでいた。はぁ、きっと死神と悪魔のカップルとでも思っているんだろうなぁ。早とちりしたばっかりにとんだ誤解だ。
「これからもとおると仲良くしてくださいね」
最後に人好きのする柔和な笑みで手を振りながら、すばるさんはチェルノブイリから離れるように駆け足で去っていった。
「……最悪だったね」
「…… 完璧だったな」
すばるさんに強く僕の印象を植えつけたのは間違いない。別れろと言い出されても不思議ではないけど、似た者夫婦と思われている可能性のほうが高そうだ。可愛い女の子を演じるつもりだったのに、これじゃ痛い女の子じゃないか。
「邪魔者は消えたしランチにでも行くか」
「今度すばるさんと話す機会があったら、もう一度謝っておいてよ」
「……覚えていれば」
こいつ伝える気がこれっぽっちもないな。
「それより髪型を変えたんだな。可憐で愛くるしくて俺のハートを捕らえて離さないぞ」
「えへへ、そ、そうかなぁ」
容姿を褒められて悪い気分にならない女の子はいないと思う。とおるの褒め言葉はいつものことかもしれないけど、今日は特に気合を入れてきたからね。やっぱり嬉しい。
「…… とおるは正装もいいところだね。今日はイブだからそこまで目立たないかもだけど」
わざわざデートのために用意したんだろうけど、間近で燕尾服を着ている人を見るなんて初めてだよ。燕尾服を着る人なんて、オーケストラの指揮者ぐらいしか思い浮かばない。
「今日は張り切ってみた」
「クリスマス限定なら似合ってると思うよ」
仮装大賞じゃないんだから、何かのたびにその格好では悪目立ちし過ぎる。とおるは気合が空回りしているよ。
「この間は僕の服を買いに行ったわけだし、今度はとおるの服を選びに行ったほうがいいかもね」
ここでとおるをあまり褒めると、このバカは毎日燕尾服で現れかねない。こいつはそれぐらいのことは平気でやる男だ。
「あきらの元旦の着物を見に行きたいしな」
「着物なんてここ何年も着た覚えがないよ」
七五三のときに着たっきりじゃないかな。まさかとおるが着物姿を見たいと言い出すとは思わなかった。
「着物って高いだろ。たった一日のために買うなんてもったいないよ」
「お殿様遊びもしてみたいんだがな」
「着物を着た女の子をくるくると回して脱がしたいのか!」
それで僕が「お殿様おやめになって」とは言いたくない。
「憧れないかっ」
そこで同意を求められても困る。先々月までなら僕も興味を持ったかもしれないけど、自分が回されるほうなら遠慮したい。
「バカなことを言ってないでどこに食べに行く?」
「良さげな店を見つけたんでな。そこに行くとしよう」
とおるが僕に掌を差し出してきたので、一分ほど逡巡したあとに手を取った。すばるさんは帰ったけれど、今日一日はつき合うという約束だ。ここでいきなり態度を豹変させるというのも、あまりに情けない話だろう。
その店に向かうために商店街の大通りを横切ると、僕たちと同じように手を繋いだ男女の姿が見えた。はたから見れば僕ととおるもカップルに見えたりするのかな。
「ここがそうだ」
ちょっとお洒落な佇まいを見せる洋風レストランに入ると、木調で整えられたレトロ漂う暖かな空間があった。木の壁で仕切られた個室のような席に通されると、イケメンな店員さんがグラスに水を注いでくれた。
「何を頼もうか迷っちゃうね」
行くとしたらファミレスばかりだから、大人の雰囲気が漂うレストランだと緊張してしまう。お値段もそれなりにするしね。
「僕はこれにするよ」
メニューに書いてあるデザートとサラダがつくエビとキノコのドリアセットを指差すと、とおるも注文するものを決めたようで店員さんを呼んだ。
「お子様ランチ一つ、エビとキノコのドリアセット一つですね」
とおるの注文に、顔色一つ変えずに注文を復唱する店員さん。畏まりましたと言って下がっていったけど、僕は頬が熱くなってきたのを感じたよ。
「……何故にお子様ランチ?」
「そこにお子様ランチがあったからだ」
確かにメニューにはお子様ランチと堂々と書かれていたけどね。まさか頼むとは思わなかった。周りの目があったなら帰りたくなったかもしれない。
「お待たせしました」
僕がサラダを食べ終わってしばらくすると、香ばしい匂いとともにドリアが運ばれてきた。とおるのお子様ランチもほぼ同時にやってくる。
ホットプレートの上にハート型のオムライス、エビフライ、ハンバーグ、タコさんウィンナーなどが綺麗に飾りつけられている。子供だましの品ではなく一品一品が丁寧に作られていた。
「大人のお子様ランチがあると聞いていたからな。以前から興味があった」
「思ったよりちゃんとした料理だったね。驚いたよ」
しっかりとしたレストランで手抜きの料理が運ばれてくるはずもないか。正直あなどっていたかもしれない。これなら僕でも頼みたくなるかも。
「うまい、うまいぞぉぉっ!」
大人のと書いてあるけど、食べるほうは精神的にお子様なんだけどね。
「あーあ、口の周りがソースでべとべとだよ。困ったやつだね」
まったく手のかかる子供みたいだ。誰も取りはしないから、もっとゆっくり食べればいいと思うけどね。苦笑しながら僕はナプキンでとおるの口を拭いてやった。今日は一緒に歩くのだからそれぐらいしないと恥ずかしいだろ?
ドリアはチーズがいっぱい、エビがぷりっとして美味しかった。デザートのミニパフェもアイスと生クリームにかかったキャラメルソースが絶品だったよ。
「すっごく美味しかったね」
ほっぺたが落ちそうな料理に、にへらと頬が緩んでしまう。不思議なもので美味しいものを食べると心が軽やかになって、今ならたいていのことを許せてしまいそうだ。
「僕も半分だすよ」
食後のコーヒーを飲み干し割り勘でいいかなと声をかけると、
「今日はデートだからな。こういうときは男が出すもんだ」
紳士の皮をかぶったお子様は、僕に先立ってレジの前に出ると会計を済ませていた。素早い。男友達だったからあまり甘えて奢られるって気になれないんだよね。今現在でも男友達と言われたほうがしっくりくる。
ちょっとやそっとじゃ十年以上続いている感覚は変わらない。女としての自覚を持たなきゃいけないのだろうけど、もう少しこのぬるま湯のような関係でいいかな。せめて新学期が始まるまでは。
<つづく>
タユタマ -Kiss on my Deity-
2009年おかし製作所売り上げランキング(アマゾン) 第28位
内容紹介にもあるように女体化します。
表紙には残念ながら出ていませんが、なかなか可愛いうえにおっぱいも大きめです。
水着、パジャマ、私服(デート用)、メイド服に着替え、妄想シーンで体操服&ナースありと衣装のバリエーションも豊か。ぶっちゃけ、エロは無いモノの全体の半分ぐらい女体化していますので、それなりにコストパフォーマンスは良いかなと。『値段分の価値がある』と評価。

内容紹介
太転依(たゆたい)と呼ばれる人外の存在と人間との共生を実現させたキュートな神様・ましろと神社のひとり息子・泉戸裕理。でも現実は甘くなかった。突然女性の身体になった彼は、元の姿を取り戻せるのか!?
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内容紹介
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狼は女神の匂い ? Ⅳ (1) amaha
天河の母親探索は、しばらくの間なんの成果もあげられなかった。これには理由がある。それは最も手がかりが多いはずの18禁マップを避けていたことだ。スキルが低かったのも1つの理由と言えなくもない。けれど18禁エリアの全てでPKが認められているわけでもなかった。天河本人のためらいは女体化したことにあるのだと私は考えている。
しかしアカシアの北の国境にあるノカオに着いたとき天河もついに18禁エリアに入る決断をした。物語もここから再開しよう。
(1)
ここまで読めば、君のことだ、僕が18禁エリアに入るのをためらっていることや、その理由はお見通しだろう。しかし女性の肉体での性行為以外にも気になることがあった。
まず朝比奈さんの存在。これまでもずいぶん助けられた。ゲーム内では信頼できるパートナーがいるかどうかで効率は大きく変る。僕の目的、母の捜索でもそれは同じだろう。本人も会社の命令に反しない限り僕の意見を尊重すると言ってくれたし、実際、僕が18禁エリアへの侵入を拒否しても文句一つ言わなかった。彼女自身はインターフェイスこそ違え、18禁エリアも男のキャラも充分経験しているのに。だが母を見つけた後、AGA社はどうする気なのだろう。連れ戻す? もし母が拒否すれば? それに母が行方不明になった理由は何なのか。システムトラブル、あるいは自らの意思。担当者は母を疑っているふうだった。しかし社を困らせるだけに雲隠れする母ではない。母が拒否しても連れ戻せという社名なら、僕は朝比奈さんと戦わねばならないかもしれない。
それにもう一つ。鏡にうつした僕の左目の下には小さなホクロがある。リアルの僕を知る君はそれを当たり前だと言うかもしれない。でも、これはゲームのキャラクターで、しかも朝比奈さんが作り上げたものなんだ。同じ位置に偶然ホクロを、それとも僕の顔を見た朝比奈さんがわざと……一度だけさり気なく話題をふったときには目を選んだときにランダムに入るデザインじゃないのと言う説明だった。僕の顔で目立つホクロを朝比奈さんが憶えていないのは、記憶に残るほどの男ではないから? まあ、それが真実かもしれない。しかし、こうは考えられないだろうか、母に中身が僕であることを示す印かもしれないと。 僕に会うと意思表示をした母が目印を求めるのは当然な気もする。そしてわざとキャラを入れ替えた。しかし何のために僕を女に。朝比奈さんが男キャラを選んだとしてもなんの不思議もないのに……
鏡の前で考え込んでいた僕は、控えめなノックで我に返る。
「だれ?」
ドアを少し開けモモが顔を出す。
「アンナ様、気分でもお悪いのですか?」
「違うよ。これまでより危険な旅だから緊張したの」
「それなら大丈夫!」
モモはドアを大きく開けて部屋に入ると胸をはる。
「私が守るもの」
あまりの可愛さに微笑まざるを得ない。
「ありがとう。そんなに待たせたかなあ」
「まだ、時間前ですよ」
「心配で来てくれたんだ」
「そうでーす」
朝比奈さんが呆れるほど僕はモモやジョアと対等に付き合っていた。もっとも2人の行動や会話はごく自然で、知らずに会えばNPCと気づかない。母の仕事は完璧だと思う。
手回り品を詰めてあった雑嚢を背負いモモと一緒に部屋をでた。すでに朝比奈さんがチェックアウトを済ませてくれていたので裏手にまわる。そこには商館から約束の荷馬車が3台到着していた。この地方の隊商としては小規模だけれど、偽装だと疑われる程ではない。実際、予定通り遊牧民が集まる馬揃え市まで無事につけばかなりの収益を上げることができる。
そして今回、馬車3台を4人で守るのはきついので護衛を2人雇った。酔拳使いの男セキカと槍使いの女ゲイレルルだ。2人ともかなり完成に近いスキル値で、遠距離攻撃技も取得している。セキカはアルコールを含んだ口から火炎を、ルルは投げても戻る魔槍ジャベリンを操る。同レベルの魔法使いは、防御に穴があるのでもう少しパーティーの人数が多くないと威力を発揮できない。
僕は予定通り銃と素手、朝比奈さんもスキルを絞り始めているので3つ、剣、弓、それに初級の補助魔法が使える。ジョアは回復・補助魔法がもうすぐ中級になる。モモは取引など生産系のスキルを上げていてスキル値の余裕は少ないが、自衛のため朝比奈さんから弓をならっていた。
新メンバーの2人についてもう少し話しておこう。
ルルことゲイレルルは、強さを追求するプレイヤー、脳筋型かな。着用アーマーはACも耐久も高いドラゴンナイト女性用で、デザインはゲームにありがちな露出の多いものだ。比較的無口なこととアクセサリーのセンスから朝比奈さんは中身を男と考えている。
セキカはどうやらロールプレイを重視しているらしく、言動がおかしい。それに戦闘力は充分で頼もしい反面、暇さえあれば女キャラを(僕も含め)口説こうとするので皆からうるさがられていた。
今も新しい武器、スキルが上がったので購入したアサルトライフル、を確認している僕に後ろから話しかけてくる。
「涙の通り道にホクロがある人は悲しい恋をしているって言うね?」
僕のホクロに気づいたのがこんなきざ野郎とはね。
「私の恋の相手は決して裏切らないわよ」
と銃口を向ける。
「アンナちゃんは、おっかないなあ」
「私の後ろに立たないでね」
「君の恋人が黙っちゃいないってか」
そう言いながらライフルの銃身をつまんで上に押しやる。
「それで、何のようかしら」
ジョアとモモは交易品の確認を、ルルは朝比奈さんに使用技の説明をしていた。
「つれないなあ。取っておきの古酒を一緒に楽しもうかと。酒は強いんだろう」
朝比奈さんの設定で酩酊度には余裕がある。でも、
「けっこうです。他の人が仕事の準備をしているのに。なぜあなたは暇なの?」
「そいつぁひどい言い草だね。アンナちゃんと打ち合わせに来たのさ」
「なんですって?」
「いや、ほら、俺たちって前衛後衛になることあるでしょう」
「あ、ああ、そうね」
「俺、銃スキルのことあまり知らないんだ」
銃はモンスターやNPCに対して最も有効な武器の1つである。問題は威力のある弾丸が高価なことと、ゲーム内ではあまり尊敬されない――近接職重視なので破壊魔とともに嫌われる――ことである。ただ今回の場合朝比奈さんの選択は正しいだろう。そして多分僕の選択も。
ただし、リアル世界と違い対人において銃は絶対有利と言うわけではない。それはそうだろう。全員がガンマンのゲームなんて考えられない。銃をはじめとする武器と剣士が対等の条件で戦えるためにこのゲームにはATフィールド(Anti-Technical Field)と言うものが存在した。(AMF:Anti-Magical Fieldもある)戦士の意思で出現するATFを貫くにはそれ以上のフィールドで中和しなければならない。だから対人エリアに入るなら単純な脳筋ではだめで精神力をあげておく必要があった。
「こんなことろだけど」
「ふーん。それで弾丸の特徴は? もちろんアンデッドに銀の弾丸くらいは知ってるぜ」
「私のレベルだとまだグレネードランチャーやスティンガーは使えないんだけど」
「おいおい、この世界に武装ヘリがあ……ああ」
「あるかもしれないけど、今のところは不明。だから現状ではスティンガーはドラゴン用よ」
「なるほど」
「でもミスリル弾はエンチャントできるし、オリハル弾はドラゴンの鱗も貫通し、内部で炸裂する。高価なので狩りには使えないけど隊商の護衛には役に立つわ」
「そんな銃でねえ」
「まあ上のスキルの武器を持った方が安上がりなんだけどね」
「俺に万一の時は特別高価な弾丸で援護を頼むよ」
「後で弾代請求するわよ」
「こいつぁー手きびしいなあ」
<つづく>
しかしアカシアの北の国境にあるノカオに着いたとき天河もついに18禁エリアに入る決断をした。物語もここから再開しよう。
(1)
ここまで読めば、君のことだ、僕が18禁エリアに入るのをためらっていることや、その理由はお見通しだろう。しかし女性の肉体での性行為以外にも気になることがあった。
まず朝比奈さんの存在。これまでもずいぶん助けられた。ゲーム内では信頼できるパートナーがいるかどうかで効率は大きく変る。僕の目的、母の捜索でもそれは同じだろう。本人も会社の命令に反しない限り僕の意見を尊重すると言ってくれたし、実際、僕が18禁エリアへの侵入を拒否しても文句一つ言わなかった。彼女自身はインターフェイスこそ違え、18禁エリアも男のキャラも充分経験しているのに。だが母を見つけた後、AGA社はどうする気なのだろう。連れ戻す? もし母が拒否すれば? それに母が行方不明になった理由は何なのか。システムトラブル、あるいは自らの意思。担当者は母を疑っているふうだった。しかし社を困らせるだけに雲隠れする母ではない。母が拒否しても連れ戻せという社名なら、僕は朝比奈さんと戦わねばならないかもしれない。
それにもう一つ。鏡にうつした僕の左目の下には小さなホクロがある。リアルの僕を知る君はそれを当たり前だと言うかもしれない。でも、これはゲームのキャラクターで、しかも朝比奈さんが作り上げたものなんだ。同じ位置に偶然ホクロを、それとも僕の顔を見た朝比奈さんがわざと……一度だけさり気なく話題をふったときには目を選んだときにランダムに入るデザインじゃないのと言う説明だった。僕の顔で目立つホクロを朝比奈さんが憶えていないのは、記憶に残るほどの男ではないから? まあ、それが真実かもしれない。しかし、こうは考えられないだろうか、母に中身が僕であることを示す印かもしれないと。 僕に会うと意思表示をした母が目印を求めるのは当然な気もする。そしてわざとキャラを入れ替えた。しかし何のために僕を女に。朝比奈さんが男キャラを選んだとしてもなんの不思議もないのに……
鏡の前で考え込んでいた僕は、控えめなノックで我に返る。
「だれ?」
ドアを少し開けモモが顔を出す。
「アンナ様、気分でもお悪いのですか?」
「違うよ。これまでより危険な旅だから緊張したの」
「それなら大丈夫!」
モモはドアを大きく開けて部屋に入ると胸をはる。
「私が守るもの」
あまりの可愛さに微笑まざるを得ない。
「ありがとう。そんなに待たせたかなあ」
「まだ、時間前ですよ」
「心配で来てくれたんだ」
「そうでーす」
朝比奈さんが呆れるほど僕はモモやジョアと対等に付き合っていた。もっとも2人の行動や会話はごく自然で、知らずに会えばNPCと気づかない。母の仕事は完璧だと思う。
手回り品を詰めてあった雑嚢を背負いモモと一緒に部屋をでた。すでに朝比奈さんがチェックアウトを済ませてくれていたので裏手にまわる。そこには商館から約束の荷馬車が3台到着していた。この地方の隊商としては小規模だけれど、偽装だと疑われる程ではない。実際、予定通り遊牧民が集まる馬揃え市まで無事につけばかなりの収益を上げることができる。
そして今回、馬車3台を4人で守るのはきついので護衛を2人雇った。酔拳使いの男セキカと槍使いの女ゲイレルルだ。2人ともかなり完成に近いスキル値で、遠距離攻撃技も取得している。セキカはアルコールを含んだ口から火炎を、ルルは投げても戻る魔槍ジャベリンを操る。同レベルの魔法使いは、防御に穴があるのでもう少しパーティーの人数が多くないと威力を発揮できない。
僕は予定通り銃と素手、朝比奈さんもスキルを絞り始めているので3つ、剣、弓、それに初級の補助魔法が使える。ジョアは回復・補助魔法がもうすぐ中級になる。モモは取引など生産系のスキルを上げていてスキル値の余裕は少ないが、自衛のため朝比奈さんから弓をならっていた。
新メンバーの2人についてもう少し話しておこう。
ルルことゲイレルルは、強さを追求するプレイヤー、脳筋型かな。着用アーマーはACも耐久も高いドラゴンナイト女性用で、デザインはゲームにありがちな露出の多いものだ。比較的無口なこととアクセサリーのセンスから朝比奈さんは中身を男と考えている。
セキカはどうやらロールプレイを重視しているらしく、言動がおかしい。それに戦闘力は充分で頼もしい反面、暇さえあれば女キャラを(僕も含め)口説こうとするので皆からうるさがられていた。
今も新しい武器、スキルが上がったので購入したアサルトライフル、を確認している僕に後ろから話しかけてくる。
「涙の通り道にホクロがある人は悲しい恋をしているって言うね?」
僕のホクロに気づいたのがこんなきざ野郎とはね。
「私の恋の相手は決して裏切らないわよ」
と銃口を向ける。
「アンナちゃんは、おっかないなあ」
「私の後ろに立たないでね」
「君の恋人が黙っちゃいないってか」
そう言いながらライフルの銃身をつまんで上に押しやる。
「それで、何のようかしら」
ジョアとモモは交易品の確認を、ルルは朝比奈さんに使用技の説明をしていた。
「つれないなあ。取っておきの古酒を一緒に楽しもうかと。酒は強いんだろう」
朝比奈さんの設定で酩酊度には余裕がある。でも、
「けっこうです。他の人が仕事の準備をしているのに。なぜあなたは暇なの?」
「そいつぁひどい言い草だね。アンナちゃんと打ち合わせに来たのさ」
「なんですって?」
「いや、ほら、俺たちって前衛後衛になることあるでしょう」
「あ、ああ、そうね」
「俺、銃スキルのことあまり知らないんだ」
銃はモンスターやNPCに対して最も有効な武器の1つである。問題は威力のある弾丸が高価なことと、ゲーム内ではあまり尊敬されない――近接職重視なので破壊魔とともに嫌われる――ことである。ただ今回の場合朝比奈さんの選択は正しいだろう。そして多分僕の選択も。
ただし、リアル世界と違い対人において銃は絶対有利と言うわけではない。それはそうだろう。全員がガンマンのゲームなんて考えられない。銃をはじめとする武器と剣士が対等の条件で戦えるためにこのゲームにはATフィールド(Anti-Technical Field)と言うものが存在した。(AMF:Anti-Magical Fieldもある)戦士の意思で出現するATFを貫くにはそれ以上のフィールドで中和しなければならない。だから対人エリアに入るなら単純な脳筋ではだめで精神力をあげておく必要があった。
「こんなことろだけど」
「ふーん。それで弾丸の特徴は? もちろんアンデッドに銀の弾丸くらいは知ってるぜ」
「私のレベルだとまだグレネードランチャーやスティンガーは使えないんだけど」
「おいおい、この世界に武装ヘリがあ……ああ」
「あるかもしれないけど、今のところは不明。だから現状ではスティンガーはドラゴン用よ」
「なるほど」
「でもミスリル弾はエンチャントできるし、オリハル弾はドラゴンの鱗も貫通し、内部で炸裂する。高価なので狩りには使えないけど隊商の護衛には役に立つわ」
「そんな銃でねえ」
「まあ上のスキルの武器を持った方が安上がりなんだけどね」
「俺に万一の時は特別高価な弾丸で援護を頼むよ」
「後で弾代請求するわよ」
「こいつぁー手きびしいなあ」
<つづく>