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UNDER THE BANNER OF TRANSSEXUALISM
☆新バナーを題材にさっそく投稿を頂きました♪
by isako
「プリンセス・トモエのディナーショーにようこそ」
照明が暗くなり、スポットライトをあびた司会がお決まりのセリフをはき始めたので、俺はウェイトレスが持ってきたターキーのロックを飲み干した。
「お代わり」
「かしこまりました」
向かいの席の伊佐子は非難げな視線を一瞬向けたが、すぐ注意をショーに戻す。彼女と付き合い始めたのはつい最近だが、知り合ってからずいぶんになるのでお互いの手の内は知り尽くしている。と言うとまるで敵同士と思われるかもしれない。でも、そういう意味じゃなく、まあ互いに欠点を知っている大人の関係ってやつさ。
例えば今俺はチーズを少しつまんでから2杯目を飲んだ。これは俺の胃のためではなく、伊佐子がうるさく忠告するから『伊』のための行動だ。もちろん看護師の資格を持つ彼女の忠告が無意味と言ってるわけじゃない。実際初対面は、検温にきた看護師とベッド上の患者だったし、ストレスと酒で胃を悪くしていたのも事実だ。もちろん今の胃は伊のおかげで完璧である。
会場は静かなので、クラスを重ねる俺の耳に司会の言葉がいやでも入ってきた。
「奇術、魔術、秘術から手術まで、様々なソルーションで、あなたの悩みを解決するプリンセス・トモエのイリュージョンワールド。最後までお楽しみください」
突っ込みどころ満載のあいさつに客席から小さな笑い声が上がる。すでに俺より酔っ払っている奴がいるらしい。
そもそもこう言うのは好みではない。空想するのはすきだけど、俺はいたって現実家なのだ。まあ、断わりきれなかったのは惚れた弱みってことだ。
「さてショーの開始に先立って、今夜プリンセスのお手伝いをしてくださる男性を募集します」
何人かのもの好きが手を上げていた。
「アムさん、出てよ」
伊佐子が真顔で言う。
「俺が?」
彼女の言いたいことはわかっている。どこへ遊びに行っても俺がつまらな気な顔をしていることに以前から不満を言っていた。正直なところ、今回は別にして、伊佐子の選択はたいてい優れている。まあ、しかし男一匹子供のようにはしゃぐわけにもいくまい。
「プリンセス・トモエの魔術はすごいんだから。それとも怖いのかしら」
「んなわけない」
俺は勢いよく手を上げた。まあ、選ばれるはずもなく……
「そこの二枚目さん」
「俺?」
すかさず返事をした俺をみて伊佐子は笑い転げている。あたりじゃ俺がいちばん美形だったぞ。
ステージに上がった俺は皆に紹介されてから、袖に下がる。そこにはプリンセスが待っていた。デビューからずいぶん経つが近くで見ても若々しく美しい。露出の多い青いステージ衣装がとても似合っておりセクシーだ。
「俺はこの格好でいいのかな」
「あら、私の衣装が気に入りまして?」
「ええ。ところで何をするんです?」
彼女は人体切断マジックをすると言う。
「動きを練習しなくていいのですか」
俺はネットでこのマジックのネタを見たことがある。被験者は素早く確実に動く必要があった。
「じっとしていてもらえばいいのです。何が起こっても声を上げたりしないでね」
と言うことは、実際のマジックは身代わりのスタッフがやるのだろう。例えば目隠しをかけさせマントでも着せれば、体格が同じなら観客には区別がつかない。
「なるほど、わかりました」
時間が来た。
「Welcome to TOMOE world. Do you like illusion ?」
プリンセスと共にスポットライトを浴びて拍手を受ける。結構癖になりそうだ。
手を引かれ舞台の中央に置かれた青い箱に入る。箱は、頭部、胴と手、脚部の3つに分かれるようになっていた。
軽快な音楽と共にプリンセスとアシスタントが箱を動かす。俺は言われるまま手や足を動かすと離れた位置に置かれた箱から飛び出した俺の手や足も動いた。スッタフがやっているのだろうけどさすがに上手い。
それにしても俺の頭の箱の下は観客からは何も無いように見えるらしいが、どうやって錯覚させているのだろう。あとで聞いてみるか――まあ教えてくれないだろうが。
「さて、手伝っていただいているお客様は私の衣装を気に入られたとのこと。でもこのままではサイズが合いませんねえ。でも、私ならできますよ、あなたの望みかなえます」
なんだかキャラが違うぞ。と思っている間に俺の頭の左右の箱、脚と胴の箱に赤い布がかけられた。
ドラムロールと共にプリンセスが呪文を唱える。
「ナシカオナシカオ、ヨジクサイセェ~」
なんだか臭いセリフだが、布をとると箱は赤くなっており、振る手足も女性のものだ。
そして音楽にあわせ、プリンセスとアシスタントは脚の上に胴、そして最後に俺の頭を乗せる。
乗せられたとき妙な感覚がした。まるで一瞬に着替えをさせられたような。
箱の扉が開いたとき俺の首から下は色違いの赤い衣装を着ていた。

いや、重要なのはそこじゃなかった。
決して観客に不愉快な女装を見せたわけじゃ……
これでもない。
プリンセス同様のスタイルのいい女性になっていたのだ。
客席で大笑いしている伊佐子はこれが現実と気づいているのだろうか。
~ おしまい ~
by isako
「プリンセス・トモエのディナーショーにようこそ」
照明が暗くなり、スポットライトをあびた司会がお決まりのセリフをはき始めたので、俺はウェイトレスが持ってきたターキーのロックを飲み干した。
「お代わり」
「かしこまりました」
向かいの席の伊佐子は非難げな視線を一瞬向けたが、すぐ注意をショーに戻す。彼女と付き合い始めたのはつい最近だが、知り合ってからずいぶんになるのでお互いの手の内は知り尽くしている。と言うとまるで敵同士と思われるかもしれない。でも、そういう意味じゃなく、まあ互いに欠点を知っている大人の関係ってやつさ。
例えば今俺はチーズを少しつまんでから2杯目を飲んだ。これは俺の胃のためではなく、伊佐子がうるさく忠告するから『伊』のための行動だ。もちろん看護師の資格を持つ彼女の忠告が無意味と言ってるわけじゃない。実際初対面は、検温にきた看護師とベッド上の患者だったし、ストレスと酒で胃を悪くしていたのも事実だ。もちろん今の胃は伊のおかげで完璧である。
会場は静かなので、クラスを重ねる俺の耳に司会の言葉がいやでも入ってきた。
「奇術、魔術、秘術から手術まで、様々なソルーションで、あなたの悩みを解決するプリンセス・トモエのイリュージョンワールド。最後までお楽しみください」
突っ込みどころ満載のあいさつに客席から小さな笑い声が上がる。すでに俺より酔っ払っている奴がいるらしい。
そもそもこう言うのは好みではない。空想するのはすきだけど、俺はいたって現実家なのだ。まあ、断わりきれなかったのは惚れた弱みってことだ。
「さてショーの開始に先立って、今夜プリンセスのお手伝いをしてくださる男性を募集します」
何人かのもの好きが手を上げていた。
「アムさん、出てよ」
伊佐子が真顔で言う。
「俺が?」
彼女の言いたいことはわかっている。どこへ遊びに行っても俺がつまらな気な顔をしていることに以前から不満を言っていた。正直なところ、今回は別にして、伊佐子の選択はたいてい優れている。まあ、しかし男一匹子供のようにはしゃぐわけにもいくまい。
「プリンセス・トモエの魔術はすごいんだから。それとも怖いのかしら」
「んなわけない」
俺は勢いよく手を上げた。まあ、選ばれるはずもなく……
「そこの二枚目さん」
「俺?」
すかさず返事をした俺をみて伊佐子は笑い転げている。あたりじゃ俺がいちばん美形だったぞ。
ステージに上がった俺は皆に紹介されてから、袖に下がる。そこにはプリンセスが待っていた。デビューからずいぶん経つが近くで見ても若々しく美しい。露出の多い青いステージ衣装がとても似合っておりセクシーだ。
「俺はこの格好でいいのかな」
「あら、私の衣装が気に入りまして?」
「ええ。ところで何をするんです?」
彼女は人体切断マジックをすると言う。
「動きを練習しなくていいのですか」
俺はネットでこのマジックのネタを見たことがある。被験者は素早く確実に動く必要があった。
「じっとしていてもらえばいいのです。何が起こっても声を上げたりしないでね」
と言うことは、実際のマジックは身代わりのスタッフがやるのだろう。例えば目隠しをかけさせマントでも着せれば、体格が同じなら観客には区別がつかない。
「なるほど、わかりました」
時間が来た。
「Welcome to TOMOE world. Do you like illusion ?」
プリンセスと共にスポットライトを浴びて拍手を受ける。結構癖になりそうだ。
手を引かれ舞台の中央に置かれた青い箱に入る。箱は、頭部、胴と手、脚部の3つに分かれるようになっていた。
軽快な音楽と共にプリンセスとアシスタントが箱を動かす。俺は言われるまま手や足を動かすと離れた位置に置かれた箱から飛び出した俺の手や足も動いた。スッタフがやっているのだろうけどさすがに上手い。
それにしても俺の頭の箱の下は観客からは何も無いように見えるらしいが、どうやって錯覚させているのだろう。あとで聞いてみるか――まあ教えてくれないだろうが。
「さて、手伝っていただいているお客様は私の衣装を気に入られたとのこと。でもこのままではサイズが合いませんねえ。でも、私ならできますよ、あなたの望みかなえます」
なんだかキャラが違うぞ。と思っている間に俺の頭の左右の箱、脚と胴の箱に赤い布がかけられた。
ドラムロールと共にプリンセスが呪文を唱える。
「ナシカオナシカオ、ヨジクサイセェ~」
なんだか臭いセリフだが、布をとると箱は赤くなっており、振る手足も女性のものだ。
そして音楽にあわせ、プリンセスとアシスタントは脚の上に胴、そして最後に俺の頭を乗せる。
乗せられたとき妙な感覚がした。まるで一瞬に着替えをさせられたような。
箱の扉が開いたとき俺の首から下は色違いの赤い衣装を着ていた。

いや、重要なのはそこじゃなかった。
決して観客に不愉快な女装を見せたわけじゃ……
これでもない。
プリンセス同様のスタイルのいい女性になっていたのだ。
客席で大笑いしている伊佐子はこれが現実と気づいているのだろうか。
~ おしまい ~
エンゼルバンク ドラゴン桜外伝(14) <完>
エンゼルバンクもついに完結。読み切りました。
性転換は人生のチューニングだ!! みたいな。
性転換は人生のチューニングだ!! みたいな。
![]() | エンゼルバンク ドラゴン桜外伝(14) <完> (モーニングKC) (2010/08/23) 三田 紀房 商品詳細を見る |
TS売れ線速報!(8/16~8/22)
先週の順位
1位 にょたいかっ。2
2位 マガジン WOoooo (ウォー) ! 2010年 09月号 [雑誌]
3位 きゃらスリーブコレクション けいおん! 秋山澪
CHANGE!!
わぁい!Vol.2
アナザー・ワールド
ツイてる娘
世界の果てで愛ましょう 3
午後のお茶は妖精の国で 3
少年式少女(1)
這いよれ!ニャル子さん 5
さてさて低調売り上げを抜け出せるのか、今週の第1位は!!
淫宴玩具姫嬲り (マグナムコミック)
2位は!?
誘蛾灯 (メガストアコミックスシリーズ No. 271)
3位は!!……混戦です。ご覧の皆様の入賞でした!
メイドいんジャパン 4
女装少年アンソロジーむしろ、ごほうび (いずみコミックス)

アナザーセンチュリーズエピソード R
きゃらスリーブコレクション けいおん! 中野梓
きゃらスリーブコレクション けいおん! 秋山澪
1位 にょたいかっ。2
2位 マガジン WOoooo (ウォー) ! 2010年 09月号 [雑誌]
3位 きゃらスリーブコレクション けいおん! 秋山澪
CHANGE!!
わぁい!Vol.2
アナザー・ワールド
ツイてる娘
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少年式少女(1)
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さてさて低調売り上げを抜け出せるのか、今週の第1位は!!
淫宴玩具姫嬲り (マグナムコミック)
![]() | (成)淫宴玩具姫嬲り (マグナムコミック) (2010/05/25) 東航 商品詳細を見る |
2位は!?
誘蛾灯 (メガストアコミックスシリーズ No. 271)
![]() | 誘蛾灯 (メガストアコミックスシリーズ No. 271) (2010/07/17) 堀 博昭 商品詳細を見る |
3位は!!……混戦です。ご覧の皆様の入賞でした!
メイドいんジャパン 4
![]() | メイドいんジャパン 4 (チャンピオンREDコミックス) (2010/08/20) おりもと みまな 商品詳細を見る |
女装少年アンソロジーむしろ、ごほうび (いずみコミックス)

アナザーセンチュリーズエピソード R
![]() | アナザーセンチュリーズエピソード R(初回特典: Zガンダム3号機をゲーム序盤から入手できるプロダクトコード同梱) (2010/08/19) PlayStation 3 商品詳細を見る |
きゃらスリーブコレクション けいおん! 中野梓
![]() | きゃらスリーブコレクション けいおん! 中野梓 (2010/08/11) エンスカイ 商品詳細を見る |
きゃらスリーブコレクション けいおん! 秋山澪
![]() | きゃらスリーブコレクション けいおん! 秋山澪 (2010/08/11) エンスカイ 商品詳細を見る |
女装少年マンガ トライピース
![]() | トライピース 7 (ガンガン コミックス) (2010/08/21) 丸 智之 商品詳細を見る |
7巻読了。
女装は出るし、可愛いですけれどウチの客層のニーズとは今巻の内容は外れちゃってますかね。
7巻なのでまずは1巻から。
![]() | トライピース 6 (ガンガンコミックス) (2010/04/22) 丸 智之 商品詳細を見る |
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(2009/08/22)
丸 智之
商品詳細を見る
![]() | トライピース 3 (ガンガンコミックス) (2009/04/22) 丸 智之 商品詳細を見る |
ーーーーーーーーー
2巻でも女装あったよw
この帯で買いかなー。

![]() | トライピース 2 (ガンガンコミックス) (2008/12/22) 丸 智之 商品詳細を見る |
質:中の下 量:取り合えず第一話だが、帯でも女装が特技と書いてあるし、裏表紙でもメイドナナ子があるし、まだあると予想 エロ:特になし 好み:女装姿は可愛い
戦争をなくしたいと思う、主人公ナナ(名無しのナナ)は超・記憶喪失でほとんどの事を覚えていない。そして、特技は女装で敵を欺くこと。彼は戦争を無くせるのか?
みたいな感じです。
女装姿は可愛いけど「コレクターなら」でしょうか。
ナナ子を載せないわけには。

![]() | トライピース 1 (ガンガンコミックス) (2008/08/22) 丸 智之 商品詳細を見る |
20080910
僕の秘密日記(18) by A.I.
電車を乗り継ぎ、北陸に降り立つとそこは一面雪景色だった。僕の住む地域では雪はまず降らないので、降り積もった雪には圧倒される。電車では脱いでいたライトブルーのダウンコートを着ていないと、寒くて凍えてしまいそうだ。
「雪やこんこ~♪ 霰やこんこ~♪」
「あきらはご機嫌だな」
「こんなたくさんの雪を見ると心が無性に騒ぐね。うりゃっ!」
雪を手ですくって雪玉を握ると、とおるに向かって放り投げた。放物線を描いて飛んでいく雪玉は、こいつのダウンジャケットに当たって粉々に砕け落ちる。真面目くさった顔でぱんぱんと雪を払うとおる。たったそれだけのことなのに、僕はとおるを指差して口を開けて笑っていた。
「あとで雪だるまも作りたいね。旅館の前にひらけたスペースがあるといいなぁ」
「そうだな。俺はあきらの雪像でも作るとするか」
ろくでもないものになりそうな気がする。ミロのヴィーナスでも模して裸体像を作りそうだ。
「雪まつりじゃないんだから凝ったものは作らなくてもいいよ。お前ってそういうところはやたら凝り性だからね」
「ちゃんと胸も大きく作るつもりだったんだがな」
「変なところで気を回さんでよろしい」
サッカーボールほどの雪玉をとおるの頭に落とす。頭を白く染めたこいつは、水に濡れた犬のように全身を震わせた。
「送迎用のバスが来たようだね。さぁ、カニが僕らを待ってるよ」
旅館の名前が書かれているバスが駅前に来るのを見て、僕は待ちきれなくなって手を振った。僕ら以外にも続々とバスを目当てに人が集まってくる。潰れかけの旅館かと心配していたけど、繁盛してそうで安心した。これなら料理にも期待が持てるかな。
バスに乗りこむのは夫婦や小さな子連れの人が多くて、僕らのような高校生は見当たらなかった。この近くにはスキー場があるという話なので、そちらに客足が向いているのかもしれない。
「来年になったらスキーにも行きたいね。体力をつけるために毎日歩いているんだよ。冬休み中に体を鍛えておかないと、新学期に入ったら苦労しそうだしね」
「あきらがあまり力をつけると、飛んでくる拳がまた痛くなりそうだな」
「とおるがバカなことをしなきゃそんなことはしないよ。それに本格的にスポーツジムに通うとかしないと、以前と同じ筋力はつかないだろうね」
平均的な女子高生並みの力はあるだろうが、筋肉がつきにくくなったという自覚はある。僕がいつもとおるをやりこめているように見えるけど、本来こいつは僕よりずっと強い。
「そろそろ旅館につくようだな」
「僕たちには分不相応な立派な旅館だね」
雪原を通り抜け木々に囲まれた閑静な小高い丘に、雅な旅館が建てられていた。バスから降りて旅館の門をくぐると、ほのかな硫黄臭が漂ってくる。
旅館に入ると穏やかな笑顔で仲居さんが出迎えてくれた。僕らが通された部屋は旅館の最上階で、一番良さそうな部屋だった。テーブルの置いてある客間のほかにも和室があり、バルコニーに出れば専用の露天風呂まである。
「本当にこの部屋であっているんですか?」
「ええ、ごゆっくりおくつろぎくださいませ」
家族旅行をしたときだって、こんな広い部屋で寝泊りしたことはない。部屋の敷居をまたぐのをためらわれるような快適な空間が広がっている。僕が尻込みしていると、とおるはまるで気にすることなくすたすた部屋に入っていく。こいつの無神経さが少しばかり羨ましい。とおるに続いておずおず部屋に入った僕は、コートを脱いで座布団に座った。
大きく取られた窓からは、氷結した白い木々が眼下に見渡せ、遠方には真っ白な雪山が連なっていた。一面を雪に覆われた世界は、静かで美しい情景を作り上げている。この景色だけでここに来た意味があったように思えた。
「寒かったでしょう。お茶をお入れしますね」
仲居さんの入れてくれたお茶をすぐには飲まず、僕はかじかんだ手を湯のみで温めていた。
「今日はご兄妹でいらしたのですか?」
柔らかな笑みを見せる仲居さん。女になってからあどけなさを増した顔は、実年齢より若いと見られてもおかしくない。一方でとおるは黙ってさえいれば大人びて見える。精神年齢は逆だと言いたくなるけどね。
「いえ、夫婦です」
とおるの言葉に飲んでいたお茶を吹き出しそうになった。むせかけてお茶が鼻に入り、くしゅくしゅする。
「僕らは同級生ですよ。今のはこいつの冗談です」
否定をしておいたけれど、仲居さんは軽くお辞儀をしてにこやかに微笑み返すだけだった。きっと恋人同士だと思われたに違いない。
「押入れに浴衣は入っておりますが、彩り豊かな浴衣も貸し出しております。ぜひ御利用くださいませ」
「それはどこに行けばいいのかな?」
「ロビーのわきに浴衣を無料で貸し出すスペースが設けられております。足袋と草履もご用意しておりますので、お気軽にお申しつけください」
「わかった。ありがとう」
僕が性転換した理由は、綺麗な服を着たいことだから当然興味はある。もっとも、着替える前にしたいことがあった。仲居さんが部屋から立ち去ると、僕は再びコートを身につける。
「温泉に行く前に外に出てみようよ。近くの林で雪だるまを作ってみない?」
「よし、特大のを作るぞ」
旅館の外に出てみると、近くに露天風呂があるようで白い湯気が立っているのが見えた。林にまで行くと僕と同じようなことを考える人はいるようで、崩れた雪だるまが立っている。家族連れが多いようだから、子供が作ったものかもしれない。
「僕は頭を作るから、とおるは胴体を頼むよ」
手でぎゅっぎゅっと硬く握り締めた雪玉をまず作る。これを土台にして転がしながら大きくしようと思って顔を上げると、身長の二倍以上の雪玉が僕を押しつぶさん勢いで迫っていた。
「ぬわぁぁっ!」
危うく横っ飛びに逃げる。僕に肉薄していた雪玉は、鼻先の距離で止まっていた。
「こんなもんでどうだ」
「僕をひき殺す気かぁ!」
一仕事終えたように清々しい目をしたとおるに、僕は氷玉を力の限り投げつけた。こいつは限度ってものを知らない。
「あきら、何を怒っているんだ?」
「氷玉に石を入れられなかっただけましだと思え! 二メートルぐらいの雪だるまでいいだろう?」
あまりにでかくても可愛げがない。
「大きいは正義だ!」
「それは僕の胸が小さいことを暗に皮肉っているのかな?」
「ち、小さいも価値があるぞ!」
「はいはい、それなら雪だるまを作り直すよ。その巨大な雪玉は壊しておいてね」
あらためて雪玉を転がして大きくしていく。雪の降らない地方では雪遊びに対する憧れがあるから、自らの手で雪だるまを作る作業は楽しかった。
「とおる、雪玉が壊れないようにそっと乗せるんだよ」
頭となる雪玉を二人で持ち上げて、慎重に胴体に乗せる。ここで雪玉が割れてしまったら台なしだ。
「よし、完成だ!」
「うーん、このままだと顔が寂しいかもしれないね」
木の枝を拾い集めて、雪だるまに表情を作ってみる。困ったような笑ったような微妙な表情の雪だるまができあがった。ユーモラスといえなくもない。
「よし、意外と汗をかいちゃったね。そろそろ温泉に行こうか」
心地よい疲れが押し寄せてきて、体も心もぽかぽかしてきた。このまま温泉に入ればさぞ気持ち良いだろう。
旅館に戻ると浴衣のコーナーに顔を覗かせてみた。女性用の色浴衣が目に鮮やかにたくさん用意されている。それに比べて男用の浴衣は隅に申し訳程度にあるだけだった。やけに差があるね。
「俺は部屋にあった紺色の浴衣でいい。あきらはゆっくり選んでくれ」
「悪いね。女性だと色々なのが選べて羨ましいでしょ?」
女の子になった僕としては、優越感を感じてしまう。
「俺は自分で着ることよりも、あきらの浴衣姿が楽しみだから問題ない」
「どれにしようかなぁ。とおるは頭の中身がピンクだから桃色が好きなようだけど、そればっかりも飽きるからね」
種類が多すぎて悩んでしまうよ。
「俺の脳みそはちゃんと灰色をしているはずだがな……」
「紫色というのもいいかもしれないね。これなら大人っぽく見えるかな」
先ほど仲居さんにとおるの妹に見られたことを僕は気にしていた。男だったときはそんなことを言われたことがない。むしろ小学生までは陰気なこいつより、僕が年上に見られていた。どうも納得がいかない。
「蝶の模様が入った紫の浴衣にしようかな。帯は白にしてみるよ」
「きっと似合うぞ。着替える姿もじっくり拝見させてもらおう」
本当にとおるはスケベだ。
「……血が足りなくなっても知らないよ。下着姿になるだけだしさ。とおるはそれ以上見ていると思うんだけどね」
「何度見てもいいものはいいんだ」
「堂々と見てきても僕は気にしないから好きにすればいいよ。写真を撮ったら一枚につき千円もらうけどね」
言ってから後悔した。とおるの目が爛々と光り輝いている。高校生の僕にとっては写真一枚で千円なんて暴利もいいところだけど、発明バカには大した金額ではないらしい。これじゃ許可したのも同然だ。
予想通り、着替えている間シャッターの音が途切れることはなかった。肝心のレンズが血で汚れてばかりなので、ろくな写真にならなかったようだけどね。
「帯を綺麗に結びつけるとなると難しいね。とおる、おかしくないかな?」
色んな着付けがあるのだろうけど、あいにくと蝶結びしか知らない。僕は失敗を繰り返して帯を左右均等に揃えた。これから温泉に入るわけだから、あまり気にしなくてもいいとは思うんだけどね。可愛い僕を演出したいというのは、根底にある想いだからなぁ。
「どれどれ」
とおるが帯を手に取ったから、調整でもしてくれると思った僕が浅はかだった。以前こいつが言っていた台詞が完全に抜け落ちていた。
「そぉれぇっ!」
「ぬわぁぁっ!」
垂れている帯の結び目を思いっきり引っ張られて、僕はコマのようにくるりと一回転させられた。馬鹿力で帯を引っ張られた僕は、そのまま高速回転を強要されたあとに畳にべちゃりと鼻を強打する。
「帯が短いから回す楽しみがあまりなかった……」
おい、言いたいことはそれだけか! まだ正月には早いから油断していた。とおるがしたかったお殿様遊びは、帯なら何でも良かったのか!
「僕を下着姿にひん剥くとはいい度胸しているじゃないか。覚悟はできているんだろうね」
一発ぼこったとおるを正座させると、僕は険悪な表情で睨みつけた。まだ鼻がじんじんと痛むよ。
「すまん。カニの脚を一本進呈するので許してくれ」
「……二本ならいい」
甘いかな。でもあまり騒ぎを起こして旅館から苦情を言われたくないからね。それに石頭のとおるを殴っても僕の手が痛いばかりだ。
浴衣を着直した僕は旅館内の温泉に向かった。館内の温泉は男女別になっているから、とおるは追いかけてこられない。これでバカの顔を見なくてすむ。
「覗きとか警察に通報されるような真似をしないでよ。僕まで呼び出されるんだからね」
念だけは押しておく。
「俺はそんなへまをしないぞ。堂々と覗ける手段だってあるしな」
「……完全犯罪に挑戦しないでくれよ。せっかくの温泉なんだしね」
カニ料理を食べるまでは騒ぎを起こさないで欲しいものだ。
「男湯には精力絶倫になる湯があるらしいしな。女湯には豊乳の湯があるって話だぞ」
「それって本当?」
おっぱいが膨らむような効能があるなら入ってみたいね。もっと大人に見られるようになるかな。
「白濁したお湯のようだからな。そんな効果があっても不思議ではないだろう」
「へーっ」
「さっきのは全て俺が作った話だけどな」
「もっともらしく嘘をつくな!」
したり顔をしていたとおるのすねを蹴とばしてから、ぷりぷりと頬を膨らませて僕は大またで女湯に入っていった。とおるは物知りだからつい鵜呑みにしてしまう。もう少し気をつけないとね。
<つづく>
「雪やこんこ~♪ 霰やこんこ~♪」
「あきらはご機嫌だな」
「こんなたくさんの雪を見ると心が無性に騒ぐね。うりゃっ!」
雪を手ですくって雪玉を握ると、とおるに向かって放り投げた。放物線を描いて飛んでいく雪玉は、こいつのダウンジャケットに当たって粉々に砕け落ちる。真面目くさった顔でぱんぱんと雪を払うとおる。たったそれだけのことなのに、僕はとおるを指差して口を開けて笑っていた。
「あとで雪だるまも作りたいね。旅館の前にひらけたスペースがあるといいなぁ」
「そうだな。俺はあきらの雪像でも作るとするか」
ろくでもないものになりそうな気がする。ミロのヴィーナスでも模して裸体像を作りそうだ。
「雪まつりじゃないんだから凝ったものは作らなくてもいいよ。お前ってそういうところはやたら凝り性だからね」
「ちゃんと胸も大きく作るつもりだったんだがな」
「変なところで気を回さんでよろしい」
サッカーボールほどの雪玉をとおるの頭に落とす。頭を白く染めたこいつは、水に濡れた犬のように全身を震わせた。
「送迎用のバスが来たようだね。さぁ、カニが僕らを待ってるよ」
旅館の名前が書かれているバスが駅前に来るのを見て、僕は待ちきれなくなって手を振った。僕ら以外にも続々とバスを目当てに人が集まってくる。潰れかけの旅館かと心配していたけど、繁盛してそうで安心した。これなら料理にも期待が持てるかな。
バスに乗りこむのは夫婦や小さな子連れの人が多くて、僕らのような高校生は見当たらなかった。この近くにはスキー場があるという話なので、そちらに客足が向いているのかもしれない。
「来年になったらスキーにも行きたいね。体力をつけるために毎日歩いているんだよ。冬休み中に体を鍛えておかないと、新学期に入ったら苦労しそうだしね」
「あきらがあまり力をつけると、飛んでくる拳がまた痛くなりそうだな」
「とおるがバカなことをしなきゃそんなことはしないよ。それに本格的にスポーツジムに通うとかしないと、以前と同じ筋力はつかないだろうね」
平均的な女子高生並みの力はあるだろうが、筋肉がつきにくくなったという自覚はある。僕がいつもとおるをやりこめているように見えるけど、本来こいつは僕よりずっと強い。
「そろそろ旅館につくようだな」
「僕たちには分不相応な立派な旅館だね」
雪原を通り抜け木々に囲まれた閑静な小高い丘に、雅な旅館が建てられていた。バスから降りて旅館の門をくぐると、ほのかな硫黄臭が漂ってくる。
旅館に入ると穏やかな笑顔で仲居さんが出迎えてくれた。僕らが通された部屋は旅館の最上階で、一番良さそうな部屋だった。テーブルの置いてある客間のほかにも和室があり、バルコニーに出れば専用の露天風呂まである。
「本当にこの部屋であっているんですか?」
「ええ、ごゆっくりおくつろぎくださいませ」
家族旅行をしたときだって、こんな広い部屋で寝泊りしたことはない。部屋の敷居をまたぐのをためらわれるような快適な空間が広がっている。僕が尻込みしていると、とおるはまるで気にすることなくすたすた部屋に入っていく。こいつの無神経さが少しばかり羨ましい。とおるに続いておずおず部屋に入った僕は、コートを脱いで座布団に座った。
大きく取られた窓からは、氷結した白い木々が眼下に見渡せ、遠方には真っ白な雪山が連なっていた。一面を雪に覆われた世界は、静かで美しい情景を作り上げている。この景色だけでここに来た意味があったように思えた。
「寒かったでしょう。お茶をお入れしますね」
仲居さんの入れてくれたお茶をすぐには飲まず、僕はかじかんだ手を湯のみで温めていた。
「今日はご兄妹でいらしたのですか?」
柔らかな笑みを見せる仲居さん。女になってからあどけなさを増した顔は、実年齢より若いと見られてもおかしくない。一方でとおるは黙ってさえいれば大人びて見える。精神年齢は逆だと言いたくなるけどね。
「いえ、夫婦です」
とおるの言葉に飲んでいたお茶を吹き出しそうになった。むせかけてお茶が鼻に入り、くしゅくしゅする。
「僕らは同級生ですよ。今のはこいつの冗談です」
否定をしておいたけれど、仲居さんは軽くお辞儀をしてにこやかに微笑み返すだけだった。きっと恋人同士だと思われたに違いない。
「押入れに浴衣は入っておりますが、彩り豊かな浴衣も貸し出しております。ぜひ御利用くださいませ」
「それはどこに行けばいいのかな?」
「ロビーのわきに浴衣を無料で貸し出すスペースが設けられております。足袋と草履もご用意しておりますので、お気軽にお申しつけください」
「わかった。ありがとう」
僕が性転換した理由は、綺麗な服を着たいことだから当然興味はある。もっとも、着替える前にしたいことがあった。仲居さんが部屋から立ち去ると、僕は再びコートを身につける。
「温泉に行く前に外に出てみようよ。近くの林で雪だるまを作ってみない?」
「よし、特大のを作るぞ」
旅館の外に出てみると、近くに露天風呂があるようで白い湯気が立っているのが見えた。林にまで行くと僕と同じようなことを考える人はいるようで、崩れた雪だるまが立っている。家族連れが多いようだから、子供が作ったものかもしれない。
「僕は頭を作るから、とおるは胴体を頼むよ」
手でぎゅっぎゅっと硬く握り締めた雪玉をまず作る。これを土台にして転がしながら大きくしようと思って顔を上げると、身長の二倍以上の雪玉が僕を押しつぶさん勢いで迫っていた。
「ぬわぁぁっ!」
危うく横っ飛びに逃げる。僕に肉薄していた雪玉は、鼻先の距離で止まっていた。
「こんなもんでどうだ」
「僕をひき殺す気かぁ!」
一仕事終えたように清々しい目をしたとおるに、僕は氷玉を力の限り投げつけた。こいつは限度ってものを知らない。
「あきら、何を怒っているんだ?」
「氷玉に石を入れられなかっただけましだと思え! 二メートルぐらいの雪だるまでいいだろう?」
あまりにでかくても可愛げがない。
「大きいは正義だ!」
「それは僕の胸が小さいことを暗に皮肉っているのかな?」
「ち、小さいも価値があるぞ!」
「はいはい、それなら雪だるまを作り直すよ。その巨大な雪玉は壊しておいてね」
あらためて雪玉を転がして大きくしていく。雪の降らない地方では雪遊びに対する憧れがあるから、自らの手で雪だるまを作る作業は楽しかった。
「とおる、雪玉が壊れないようにそっと乗せるんだよ」
頭となる雪玉を二人で持ち上げて、慎重に胴体に乗せる。ここで雪玉が割れてしまったら台なしだ。
「よし、完成だ!」
「うーん、このままだと顔が寂しいかもしれないね」
木の枝を拾い集めて、雪だるまに表情を作ってみる。困ったような笑ったような微妙な表情の雪だるまができあがった。ユーモラスといえなくもない。
「よし、意外と汗をかいちゃったね。そろそろ温泉に行こうか」
心地よい疲れが押し寄せてきて、体も心もぽかぽかしてきた。このまま温泉に入ればさぞ気持ち良いだろう。
旅館に戻ると浴衣のコーナーに顔を覗かせてみた。女性用の色浴衣が目に鮮やかにたくさん用意されている。それに比べて男用の浴衣は隅に申し訳程度にあるだけだった。やけに差があるね。
「俺は部屋にあった紺色の浴衣でいい。あきらはゆっくり選んでくれ」
「悪いね。女性だと色々なのが選べて羨ましいでしょ?」
女の子になった僕としては、優越感を感じてしまう。
「俺は自分で着ることよりも、あきらの浴衣姿が楽しみだから問題ない」
「どれにしようかなぁ。とおるは頭の中身がピンクだから桃色が好きなようだけど、そればっかりも飽きるからね」
種類が多すぎて悩んでしまうよ。
「俺の脳みそはちゃんと灰色をしているはずだがな……」
「紫色というのもいいかもしれないね。これなら大人っぽく見えるかな」
先ほど仲居さんにとおるの妹に見られたことを僕は気にしていた。男だったときはそんなことを言われたことがない。むしろ小学生までは陰気なこいつより、僕が年上に見られていた。どうも納得がいかない。
「蝶の模様が入った紫の浴衣にしようかな。帯は白にしてみるよ」
「きっと似合うぞ。着替える姿もじっくり拝見させてもらおう」
本当にとおるはスケベだ。
「……血が足りなくなっても知らないよ。下着姿になるだけだしさ。とおるはそれ以上見ていると思うんだけどね」
「何度見てもいいものはいいんだ」
「堂々と見てきても僕は気にしないから好きにすればいいよ。写真を撮ったら一枚につき千円もらうけどね」
言ってから後悔した。とおるの目が爛々と光り輝いている。高校生の僕にとっては写真一枚で千円なんて暴利もいいところだけど、発明バカには大した金額ではないらしい。これじゃ許可したのも同然だ。
予想通り、着替えている間シャッターの音が途切れることはなかった。肝心のレンズが血で汚れてばかりなので、ろくな写真にならなかったようだけどね。
「帯を綺麗に結びつけるとなると難しいね。とおる、おかしくないかな?」
色んな着付けがあるのだろうけど、あいにくと蝶結びしか知らない。僕は失敗を繰り返して帯を左右均等に揃えた。これから温泉に入るわけだから、あまり気にしなくてもいいとは思うんだけどね。可愛い僕を演出したいというのは、根底にある想いだからなぁ。
「どれどれ」
とおるが帯を手に取ったから、調整でもしてくれると思った僕が浅はかだった。以前こいつが言っていた台詞が完全に抜け落ちていた。
「そぉれぇっ!」
「ぬわぁぁっ!」
垂れている帯の結び目を思いっきり引っ張られて、僕はコマのようにくるりと一回転させられた。馬鹿力で帯を引っ張られた僕は、そのまま高速回転を強要されたあとに畳にべちゃりと鼻を強打する。
「帯が短いから回す楽しみがあまりなかった……」
おい、言いたいことはそれだけか! まだ正月には早いから油断していた。とおるがしたかったお殿様遊びは、帯なら何でも良かったのか!
「僕を下着姿にひん剥くとはいい度胸しているじゃないか。覚悟はできているんだろうね」
一発ぼこったとおるを正座させると、僕は険悪な表情で睨みつけた。まだ鼻がじんじんと痛むよ。
「すまん。カニの脚を一本進呈するので許してくれ」
「……二本ならいい」
甘いかな。でもあまり騒ぎを起こして旅館から苦情を言われたくないからね。それに石頭のとおるを殴っても僕の手が痛いばかりだ。
浴衣を着直した僕は旅館内の温泉に向かった。館内の温泉は男女別になっているから、とおるは追いかけてこられない。これでバカの顔を見なくてすむ。
「覗きとか警察に通報されるような真似をしないでよ。僕まで呼び出されるんだからね」
念だけは押しておく。
「俺はそんなへまをしないぞ。堂々と覗ける手段だってあるしな」
「……完全犯罪に挑戦しないでくれよ。せっかくの温泉なんだしね」
カニ料理を食べるまでは騒ぎを起こさないで欲しいものだ。
「男湯には精力絶倫になる湯があるらしいしな。女湯には豊乳の湯があるって話だぞ」
「それって本当?」
おっぱいが膨らむような効能があるなら入ってみたいね。もっと大人に見られるようになるかな。
「白濁したお湯のようだからな。そんな効果があっても不思議ではないだろう」
「へーっ」
「さっきのは全て俺が作った話だけどな」
「もっともらしく嘘をつくな!」
したり顔をしていたとおるのすねを蹴とばしてから、ぷりぷりと頬を膨らませて僕は大またで女湯に入っていった。とおるは物知りだからつい鵜呑みにしてしまう。もう少し気をつけないとね。
<つづく>
午後のお茶は妖精の国で (Feelコミックスファンタジー)
3巻が来ました!
→読了。性転換ものの醍醐味は引き続きさしてないまま終了です。
3巻通すと、性転換ものとしてあえてプッシュはできませんが、絵がOKなら値段分の価値がある、と評価して終了です。
2巻読みました。面白いマンガですが、性転換モノの醍醐味とかはやはりあまりありません。
一応、中篇×4がすべて性転換モノで、純度100%です。
総合21点と評価。
主人公の造形(Beauty)2、変身前後の格差(Gap)5、エロさ(Eroticizm)1、本の中のTS作品の占める量(Volume)5、ストーリーの個性(Originality)5、オレの個人的好み(Special bonus)3
値段分の価値がある、で評価継続。次巻に続きます。
******************
1巻読みました。
総合19点と評価。
主人公の造形(Beauty)2、変身前後の格差(Gap)5、エロさ(Eroticizm)1、本の中のTS作品の占める量(Volume)3、ストーリーの個性(Originality)5、オレの個人的好み(Special bonus)3
中篇4話収録で後半2篇がTS該当。さらに連載中で続くかも。
妖精にだまされて飲んだ薬によって王子が女になってしまう。
日に日に胸が膨らんだり、非力になったり。
遠藤先生の絵なのでエロ目的には使いづらいですけれど、MC展開とかもあってそれなりにいけます。
値段分の価値がある、で評価。
20080929 一巻について
20091014 二巻へのリンク追加
→読了。性転換ものの醍醐味は引き続きさしてないまま終了です。
3巻通すと、性転換ものとしてあえてプッシュはできませんが、絵がOKなら値段分の価値がある、と評価して終了です。
![]() | 午後のお茶は妖精の国で 3 (Feelコミックスファンタジー) (2010/08/07) 遠藤淑子 商品詳細を見る |
![]() | 午後のお茶は妖精の国で 2 (Feelコミックスファンタジー) (2009/10/08) 遠藤淑子 商品詳細を見る |
2巻読みました。面白いマンガですが、性転換モノの醍醐味とかはやはりあまりありません。
一応、中篇×4がすべて性転換モノで、純度100%です。
総合21点と評価。
主人公の造形(Beauty)2、変身前後の格差(Gap)5、エロさ(Eroticizm)1、本の中のTS作品の占める量(Volume)5、ストーリーの個性(Originality)5、オレの個人的好み(Special bonus)3
値段分の価値がある、で評価継続。次巻に続きます。
******************
1巻読みました。
総合19点と評価。
主人公の造形(Beauty)2、変身前後の格差(Gap)5、エロさ(Eroticizm)1、本の中のTS作品の占める量(Volume)3、ストーリーの個性(Originality)5、オレの個人的好み(Special bonus)3
中篇4話収録で後半2篇がTS該当。さらに連載中で続くかも。
妖精にだまされて飲んだ薬によって王子が女になってしまう。
日に日に胸が膨らんだり、非力になったり。
遠藤先生の絵なのでエロ目的には使いづらいですけれど、MC展開とかもあってそれなりにいけます。
値段分の価値がある、で評価。
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20080929 一巻について
20091014 二巻へのリンク追加
クジラの人魚姫2-3
作:黒い枕
キャラデザ&挿絵:倉塚りこ
――ちょっぴり、自分の姿をしたセシリウスと沙希の仲良さげな姿に嫉妬しながら、彼女たちの勢いにクジラは抗えようなく蹂躙された。
本能が逃げろというが、同時に逃げられないことも結論付けていた。
結局、クジラは為されるがまま二人の女性――、一人は男――にパワフルに支配された。
「ほら、そんな恥かしい水着よりも絶対いいって」
「安心しなさい」
「鏡を見てからいえ!! 目がっ、目がっ――あっちょっ、ちょ、うわあああぁぁぁンン!!」
明らかに平常じゃない充血を起こしている二人の眼球がジロリ、とクジラを捉えた。
蛇に睨まれた蛙のように身体は怖がり、震えるばかり。
その間にも沙希は右側から、セシリウスは左側から、襲い掛かるようにしてクジラを包み込んだ。
反抗しようにも、体が命令を返せないほど苛められた。
デカデカとした巨乳や、むっちりとした新触感を持っている臀部。そして、背筋の触られるだけで全身を撫でられたように浮いてしまう。
敏感過ぎる肌の弱み――未知の情報量にクジラの意識は、さらにドロドロに混ざり合うしかなかった。
――そして、クジラはときめきながら、戦慄した。
「~~――っ!!?」
マーメイドスカートに合わせた単調ながら上品なトップスを着込んだ女性は、自身の変身に驚きを隠せず、うろたえた。
クジラの姿は、もはや際どい黒のエロ水着ではなかった。
体のラインを美しく見せる艶のある青色のスカートと、肉体を限界までエレガントに映し出すピンク上着へと着替えさせられていた。
「どう、いいでしょ?」
「かっ――可愛い」
彼本人からは強制的に着替えさせられたのだが、その見栄えは彼女――麻倉 沙希――に任せて正解だといえる。
裾がフレアで下腿の中間を閉じられた、皮肉にも人魚の尾ひれのようだ。
上半身まで繋がっているように見える体の流線の細工も実にクジラの――セシリウス――の体を色っぽく改造した。
足のつま先が掛けているエレガントチックなサンダルで、首もとには緑の宝石のネックレスが栄えている。指輪まで嵌められていた。
まるで貴婦人のような雰囲気だ。
気品と可愛らしさが見事に調和されている。
尤も、それでもなお小動物のようなか弱さがあるのは、彼自身が恥辱に照れて頬をピンクに染めているからだ。
自分自身の華麗なる変身に手を唇に当てて、恥らっている。ドキドキしている。
沙希は勿論、セシリウスも知っているのだがクジラ本人だけが気が付かず、――セシリウスという素材――元来の麗しさのお陰だと思い込んだ。
それも確かにあるが、やはり一番セシリウスの体から情欲をそそるホルモンが醸し出されているのは、中身が『彼』だからである。
少なくとも、ピンクに染まった頬と潤み救いを求める瞳は、”セシリウス”本人では成し得なかった筈だ。
「じゃあ次は――あたしの番ね」
「あっ、はい……」
「じゃあ着替えさせるのを手伝って、沙希ちゃん」
「は~いィ」
あまりにも綺麗で可愛い姿に、恐怖と不気味な快感にクジラは二人に従い靴を脱ぎ、衣服を取り外すのを手伝った。
手助け、とはいっても腰や腕を着せ易いように動かす程度のモノだったが、確かに彼は自分の意志で着せ替えに参加した。
無論、着飾ることへの疑心は拭えていない。
特に必ずといっていい程、沙希とセシリウスの指は巨乳、臀部、ウェスト、の三つのポイントを集中的に触ってきている。
元来から女だったらセクハラだと彼は叫んで抗議しただろう。
(うわっ、女の人って着替えの時……こう…なんだぁ)
しかし、クジラは女性の着替えとはこんな風なのか、と勘違いし狂いそうな感触に晒された。
指の群がりが乳房をきゅっきゅ、と締め上げ、手が軽くお尻をパンと張らせる。
明らかに”着替え”ではない。
彼女たちの一番の目的は肌で今のクジラを確かめることだった。
尤も、彼自身は脳へ這い登ってくるくすぐったいような疼きよりも――。
(うわっすご…ィ。こんな、ィ――雰囲気って変わるものなんだ)
鏡の中の自分――一卓抜としていくセシリウス――の体に心が奪われていた。
感情が麻痺した感じに要求を飲み込んでいく。
腕を上げてと呟かれれば万歳し、胸を押さえてといえば不安ながら懸命に巨乳を両手で支えた。
その姿はまるで二人の従順な僕だ。
本人には自覚はないかもしれないが、恥辱を忍んで従う姿にそれ以上に似合う言葉はないだろう。
そうして操られ、無意識に、衣服を着こんでいけば――またクジラは別の『セシリウス』に、『美女』になっていた。
(凄いんだな……女の人って…)
思わず胸を高鳴らせたクジラは、変身したセシリウスの体でポーズを取った。
上半身は首元が大きな輪の帯に隠された花柄のオフショルダー。
下半身は深い青のスキニー・ジーンズ。
渋茶色のブーツと右腕には銀製のリング・アクセサリー、そして髪を凛と纏めている。
今度はボーイッシュ感とスマートさを意識した、粋なファッションだ。
だが、お約束とばかりに未だに愛らしい仕草は健在であった。
生娘のような反応で、じっとしてられない心境を顔に表していた。
――が、どこか嬉しそうである。慣れてしまったのだろうか。

「わぁ、凄い――やっぱセシリウスさんの体って超グラマ~~っ」
「ありがとう。あたしたちのあの人間化の術は、元々人間に紛れて遊ぶものだから男は男らしく、女は女らしく、肉体造る術なのよ――だからこんなに大きくなるの。分かった?クジラくん」
「ゆっ指すな!!」
思いっきり指を指されたのはセシリウス――の体であるクジラ――の胸元。
反射的に彼が庇った乳が堂々と揺れ蠢いていた。
押さえつけられているのが不満なように腕から逃れようとしてタプンタプン、と弾ける準備をしている。
規格外な大きさである。
(くそぉぉ~~、胸って奴は!! 胸って奴は!!)
意外や意外――邪魔である。クジラにとってかなり――お邪魔であった。
サイズの合わない衣服によって肺ごと圧迫される苦悶や胸を露出している寒気や恥辱――彼はセシリウスの体になって以来、乳房にはいい思い出が無かった。
なんせ脂肪の塊の筈なのに、肌以上に敏感な皮膚感覚を持っており、上下に揺れるだけで、脳が感電した。
弄られる度――否、触れられだけでくすぐられたように四肢に力が入らない。
だから今こうして隠すように押し込むのも――クジラには精神的に苦しかった。
ジンワリと脳が乳房の感覚に犯される。
結局、クジラは両手の腕の戒めを解き、乳が嬉々しながら弾む。
永遠に震えているその球体の有様には悲しいものがあり、不覚にも涙が零れた。
「泣かないの。第一に巨乳を見られた程度で泣く子なんていないよ?」
「グズ、…うる、さィ!!」
「にしても本当に――むっちりした体よねぇ。じゃあコッチを着ようか、クジラ」
「うん――」
胸にぶら下がる巨乳をとてつもない痴態のように感じてしまうクジラ。どうしても男らしく、開き直ることが出来ない。
女々しく泣きながら沙希とシリウスの二人に付き合わされて、衣装転換を遂げていく。
(あれ――普通に最初の服でもよかったんじゃないのか?)
鏡に映るセシリウスの姿の転身に恥じながら心を弾ませて――気が付いた。
当初の目的はセクシーな水着から生活水準の格好になることだ。
ならば最初の沙希の選んだ奴でも良かった。
けど、それでも。
「うん、そっちもいいけど、コッチもいい」
「ん~、銀も似合うけど金のアクセサリーも捨てがたい……」
二人のはしゃぎ様と削る思い――をしても華麗な変身を遂げる”セシリウス”を見てみたい――という欲求にクジラは幼馴染の少女と自分になってしまった人魚に身を任せた。
結局のところ、クジラはそこに置いてあった衣装の5割ぐらいの分量を試されるまで付き合わされたのだった。
<つづく>
キャラデザ&挿絵:倉塚りこ
――ちょっぴり、自分の姿をしたセシリウスと沙希の仲良さげな姿に嫉妬しながら、彼女たちの勢いにクジラは抗えようなく蹂躙された。
本能が逃げろというが、同時に逃げられないことも結論付けていた。
結局、クジラは為されるがまま二人の女性――、一人は男――にパワフルに支配された。
「ほら、そんな恥かしい水着よりも絶対いいって」
「安心しなさい」
「鏡を見てからいえ!! 目がっ、目がっ――あっちょっ、ちょ、うわあああぁぁぁンン!!」
明らかに平常じゃない充血を起こしている二人の眼球がジロリ、とクジラを捉えた。
蛇に睨まれた蛙のように身体は怖がり、震えるばかり。
その間にも沙希は右側から、セシリウスは左側から、襲い掛かるようにしてクジラを包み込んだ。
反抗しようにも、体が命令を返せないほど苛められた。
デカデカとした巨乳や、むっちりとした新触感を持っている臀部。そして、背筋の触られるだけで全身を撫でられたように浮いてしまう。
敏感過ぎる肌の弱み――未知の情報量にクジラの意識は、さらにドロドロに混ざり合うしかなかった。
――そして、クジラはときめきながら、戦慄した。
「~~――っ!!?」
マーメイドスカートに合わせた単調ながら上品なトップスを着込んだ女性は、自身の変身に驚きを隠せず、うろたえた。
クジラの姿は、もはや際どい黒のエロ水着ではなかった。
体のラインを美しく見せる艶のある青色のスカートと、肉体を限界までエレガントに映し出すピンク上着へと着替えさせられていた。
「どう、いいでしょ?」
「かっ――可愛い」
彼本人からは強制的に着替えさせられたのだが、その見栄えは彼女――麻倉 沙希――に任せて正解だといえる。
裾がフレアで下腿の中間を閉じられた、皮肉にも人魚の尾ひれのようだ。
上半身まで繋がっているように見える体の流線の細工も実にクジラの――セシリウス――の体を色っぽく改造した。
足のつま先が掛けているエレガントチックなサンダルで、首もとには緑の宝石のネックレスが栄えている。指輪まで嵌められていた。
まるで貴婦人のような雰囲気だ。
気品と可愛らしさが見事に調和されている。
尤も、それでもなお小動物のようなか弱さがあるのは、彼自身が恥辱に照れて頬をピンクに染めているからだ。
自分自身の華麗なる変身に手を唇に当てて、恥らっている。ドキドキしている。
沙希は勿論、セシリウスも知っているのだがクジラ本人だけが気が付かず、――セシリウスという素材――元来の麗しさのお陰だと思い込んだ。
それも確かにあるが、やはり一番セシリウスの体から情欲をそそるホルモンが醸し出されているのは、中身が『彼』だからである。
少なくとも、ピンクに染まった頬と潤み救いを求める瞳は、”セシリウス”本人では成し得なかった筈だ。
「じゃあ次は――あたしの番ね」
「あっ、はい……」
「じゃあ着替えさせるのを手伝って、沙希ちゃん」
「は~いィ」
あまりにも綺麗で可愛い姿に、恐怖と不気味な快感にクジラは二人に従い靴を脱ぎ、衣服を取り外すのを手伝った。
手助け、とはいっても腰や腕を着せ易いように動かす程度のモノだったが、確かに彼は自分の意志で着せ替えに参加した。
無論、着飾ることへの疑心は拭えていない。
特に必ずといっていい程、沙希とセシリウスの指は巨乳、臀部、ウェスト、の三つのポイントを集中的に触ってきている。
元来から女だったらセクハラだと彼は叫んで抗議しただろう。
(うわっ、女の人って着替えの時……こう…なんだぁ)
しかし、クジラは女性の着替えとはこんな風なのか、と勘違いし狂いそうな感触に晒された。
指の群がりが乳房をきゅっきゅ、と締め上げ、手が軽くお尻をパンと張らせる。
明らかに”着替え”ではない。
彼女たちの一番の目的は肌で今のクジラを確かめることだった。
尤も、彼自身は脳へ這い登ってくるくすぐったいような疼きよりも――。
(うわっすご…ィ。こんな、ィ――雰囲気って変わるものなんだ)
鏡の中の自分――一卓抜としていくセシリウス――の体に心が奪われていた。
感情が麻痺した感じに要求を飲み込んでいく。
腕を上げてと呟かれれば万歳し、胸を押さえてといえば不安ながら懸命に巨乳を両手で支えた。
その姿はまるで二人の従順な僕だ。
本人には自覚はないかもしれないが、恥辱を忍んで従う姿にそれ以上に似合う言葉はないだろう。
そうして操られ、無意識に、衣服を着こんでいけば――またクジラは別の『セシリウス』に、『美女』になっていた。
(凄いんだな……女の人って…)
思わず胸を高鳴らせたクジラは、変身したセシリウスの体でポーズを取った。
上半身は首元が大きな輪の帯に隠された花柄のオフショルダー。
下半身は深い青のスキニー・ジーンズ。
渋茶色のブーツと右腕には銀製のリング・アクセサリー、そして髪を凛と纏めている。
今度はボーイッシュ感とスマートさを意識した、粋なファッションだ。
だが、お約束とばかりに未だに愛らしい仕草は健在であった。
生娘のような反応で、じっとしてられない心境を顔に表していた。
――が、どこか嬉しそうである。慣れてしまったのだろうか。

「わぁ、凄い――やっぱセシリウスさんの体って超グラマ~~っ」
「ありがとう。あたしたちのあの人間化の術は、元々人間に紛れて遊ぶものだから男は男らしく、女は女らしく、肉体造る術なのよ――だからこんなに大きくなるの。分かった?クジラくん」
「ゆっ指すな!!」
思いっきり指を指されたのはセシリウス――の体であるクジラ――の胸元。
反射的に彼が庇った乳が堂々と揺れ蠢いていた。
押さえつけられているのが不満なように腕から逃れようとしてタプンタプン、と弾ける準備をしている。
規格外な大きさである。
(くそぉぉ~~、胸って奴は!! 胸って奴は!!)
意外や意外――邪魔である。クジラにとってかなり――お邪魔であった。
サイズの合わない衣服によって肺ごと圧迫される苦悶や胸を露出している寒気や恥辱――彼はセシリウスの体になって以来、乳房にはいい思い出が無かった。
なんせ脂肪の塊の筈なのに、肌以上に敏感な皮膚感覚を持っており、上下に揺れるだけで、脳が感電した。
弄られる度――否、触れられだけでくすぐられたように四肢に力が入らない。
だから今こうして隠すように押し込むのも――クジラには精神的に苦しかった。
ジンワリと脳が乳房の感覚に犯される。
結局、クジラは両手の腕の戒めを解き、乳が嬉々しながら弾む。
永遠に震えているその球体の有様には悲しいものがあり、不覚にも涙が零れた。
「泣かないの。第一に巨乳を見られた程度で泣く子なんていないよ?」
「グズ、…うる、さィ!!」
「にしても本当に――むっちりした体よねぇ。じゃあコッチを着ようか、クジラ」
「うん――」
胸にぶら下がる巨乳をとてつもない痴態のように感じてしまうクジラ。どうしても男らしく、開き直ることが出来ない。
女々しく泣きながら沙希とシリウスの二人に付き合わされて、衣装転換を遂げていく。
(あれ――普通に最初の服でもよかったんじゃないのか?)
鏡に映るセシリウスの姿の転身に恥じながら心を弾ませて――気が付いた。
当初の目的はセクシーな水着から生活水準の格好になることだ。
ならば最初の沙希の選んだ奴でも良かった。
けど、それでも。
「うん、そっちもいいけど、コッチもいい」
「ん~、銀も似合うけど金のアクセサリーも捨てがたい……」
二人のはしゃぎ様と削る思い――をしても華麗な変身を遂げる”セシリウス”を見てみたい――という欲求にクジラは幼馴染の少女と自分になってしまった人魚に身を任せた。
結局のところ、クジラはそこに置いてあった衣装の5割ぐらいの分量を試されるまで付き合わされたのだった。
<つづく>
水曜イラスト企画 絵師 まさきねむさん(8) 仮名:若杉 慧(けい)
一行キャラ設定 若杉 慧(けい) 草食系な男の子。肉食系な女に狙われて女の子にされてしまう。
絵師:まさきねむ みうみう

水曜イラスト企画の説明はこちら。毎週1枚キャライラストをUPします。
本キャラを主人公/脇役にしたSSを募集しています。コメント欄に書き込んでください。(事故を防ぐため別途ローカル保存推奨)追加イラストを希望する場合は希望シーンに<イラスト希望>と書き込んでください。私が了承し、絵師さんも乗った場合はイラストの作成を開始します。
絵師:まさきねむ みうみう

水曜イラスト企画の説明はこちら。毎週1枚キャライラストをUPします。
本キャラを主人公/脇役にしたSSを募集しています。コメント欄に書き込んでください。(事故を防ぐため別途ローカル保存推奨)追加イラストを希望する場合は希望シーンに<イラスト希望>と書き込んでください。私が了承し、絵師さんも乗った場合はイラストの作成を開始します。
クジラの人魚姫2-2
作:黒い枕
キャラデザ&挿絵:倉塚りこ
「今の姿なら、間違いなく人が増える!! ――いや、この際、人魚の姿で水の中から挨拶するというのも――」
「オジさん!! クジラがこんな状態なのにそんなことをいうんですか!?」
自分の味方は沙希だけだ、と感動を露にクジラは、幼馴染に感謝した。
「俺は絶対やらないぞ!!」
「なにをいっている!? お前は女装してでも水族館を護ろうとする父親の気持ちが分からないのか!!」
「分かりたくない!と、何度いえば――分かるっ!!」
「第一に今のクジラを見世物にすること自体、人として間違っています!!」
「――ううぅ、母さん。 クジラと沙希ちゃんが私を苛めるよ。おいおい~~」
うそ泣きして懐に忍ばせている写真――クジラの母親――に泣きつく岩志。
クジラそっくりな上に、背丈も小さいので本当の女の子に見えてしまう。
その光景が余計にクジラの心を痛めつけた。
母親――は、自分が生まれて間もなく交通事故で無くなったらしい。
だから、亡き母の為に水族館を維持したいという父親の姿勢は尊敬できる。
――やり方が、徹底的にズレて、いなければだが……。
「ねぇ、沙希ちゃん。 ――この人が女装しているのって」
「うん――。不景気と無計画な施設の増築で経営が厳しくなったのが原因で、オジさんは苦し紛れに女装してお客さんを応対したんだけど……」
「それが意外に好評でね?――中には女装した男の方がいいってお客さんもいたりして、何時の間にか素で嵌まっちゃ――たんだ。ハハ――嫌ダナ。 クジラヨ、オ父サンモ、水族館ノ為シカタナク、ダヨ?」
「……信じる。――と、思うか?」
明らかに嘘だった。
クジラが右拳を固めて持ち上げていなければ、そのまま女装版・”白方イワシ”として、お喋りしていただろう。
だが、彼はため息をつくと、怒りを静めた。
無駄だからだ。無理だからだ。
補正するのは。
なんせ――。
(海を大好きにさせたいからって3歳児から泳がせようとするなんて――まったくの逆効果じゃないかァ)
水族館の息子なら海を知らなければならない、としたならまだ許せるかもしれない。
だが、初回から水深3メートルを泳がせようとするとは、一体どういうスパルタだろうか。
さらに泳げなかったら罰として魚類の世話――と、その中にダイブさせるのだ。
一応、小型の酸素ポンプを与えられたが、それでも陸とは違う海の世界は幼子には許容を超えた異質さで。
水中への親しみは下がる一方だったが、喧嘩の強さはかなりのモノとなり、僅か7歳の頃には父親をノックアウト出来るほどの拳の達人となった。
海と妻を愛する男の手によって――海どころか水すらも嫌いになった白方 玖史羅。
そして、女呼ばわりされるのも、近所で有名なほど女装に嵌まっているバカが身内にいる為だった。
(ん――?)
よく考えたらそもそもの原因はコイツの性格破綻では――と、クジラは考え始める。
そこは親子とばかりに彼の心境の変化を悟り、逃げようとする白方父。
もっとも、その父親に苦しめられてきた”クジラ”本人が、クジラの邪魔をした。
意図的か、どうか、は定かではないが。
「まぁ、今はそこんとこは置いといて――いい加減に水着から着替えたら?」
「あう――ぐぅっ!? たっ確かに…ィ」
「大丈夫だ!! 任せろ、この父に!!」
好機とばかりに蜘蛛の糸を掴んだ岩志は壁に配置されたボタン――の横の壁に隠されたボタンを押した。
四人の座っていた椅子が、廊下に仕舞いこまれていく。
唖然とする”クジラ”と”セシリウス”、そして沙希。
三人の驚きに、自尊心を満たしながら岩志のイメージ通りに、大きく重たい机が
フローリングの床に落ちていく。
後に残ったのは大きな穴。
その穴から重々しい機械音が木霊してくる。
嫌な予感をヒシヒシと募らせながらクジラは、他の二人と同じように暗闇を覗く。
見えるのは小さな輪郭ただ一つ。
だが、それは時間が進むごとに大きく彼らへと向かい――――。
「なんじゃあこりゃあ――――ァア!!??」
一同の前に現われたのは15人分くらいの体積を持つ、カラフルな衣装ロッカー。
母親を失い、唯一この水族館兼住処で女服を着る『イワシ』――には似合わない衣服まで揃っている。
実にお金を掛けた設備と衣類の数々。
上には帽子、下は靴と至れり尽くせりだ。
オマケにコントロール・パネルらしきものが堂々と備わっている。
ボタン一つでさらに眠っているロッカーから衣服を呼び出すシステムなのだろう。
頭が痛むほど――金をつぎ込んでいるのは明白だった。
そんなクジラの頭痛を他所に、驚かせたことを自慢し続ける白方 岩志――否、白方――『イワシ』は、ふんぞり返りながら息子を含めた他人に己が栄華を誇った。
愚行であるとは考えずに。
「私用のお洋服やお母さんの遺服を含め、カタログで気に入ったのを買い漁っちゃたりしていたら何時の間にか膨大な量になっちゃって――5年前に改築しました❤」
「あっあれは!! あの工事は水槽の補強じゃなかったのか!??」
「ごめん嘘」
「おっお前という奴はああああぁぁ!!」
クジラは可愛らしく微笑む少女――の姿をした親父に迫った。
胸元をえぐるようにシャツを握り締める。
そして、父親ながら少女のような容姿の相手を宙吊りに持ち上げる。
「今度という今度は――ッ!!」
「待って!! 待ってくれ!! 今は必要だろ!?」
「ふふっ、ふ。黙れ。今絞め殺してやる――ッ」
「ぐにゅぐぶっ、ぅ」
彼女の体は意外と腕力があったらしくクジラは憎い敵の服を掴み、圧力を強め意識を奪っていく。
血の流動や息遣いを自分自身のように感じる。
それは今の肉体の鋭微な知覚能力の所為であり、彼の怒りの表れだった。
(なにが水族館【うち】――を倒産させない為だ!! 単にお前が無計画に金をつぎ込むだけじゃないかっ!!)
あくまでも本当に殺す気はなく寸前の所で止めるつもりのクジラだが、激情は易々と肉体を支配し理性が薄れていく。
――ほんとうに、やってしまおうか。
そんな人として外れた思いすら沸き立つ。
だが、今まさに癇癪みたいな憤怒に駆られ過ちを犯そうとするクジラ――外見はセシリウス――を停止させられる人物がいた。
ウキウキした笑顔を隠しもせず、堂々と彼の後ろへと歩き肩を叩いて惨劇を休止させた。
「ほら――そんなの置いといてさっさと着替えましょ?」
その人物もまた――紛れもない”クジラ”本人だった。
スルスルとクジラの右腕を絡め取ったセシリウスは、強引に自分の体の方に持ち込む。
今まで暴君さながらの強靭さを誇っていた彼が嘘のように従順に連れて行かれる様は、
乱暴な愛犬を引き摺る主人のようだ。
向きすらも変えられ、彼は慌ただしく付いていくしかなかった。
その様子を見届けるのはクジラの幼馴染の沙希一人。
ピシリっと固まり、青筋を立てている。
因みに白方 岩志の方は『そんなのはヒドい』、と言い残し仰向けで倒れ伏した。
命は無論あるし心臓も機能している。
意識を失う程度で済んだのは、岩志の日頃からの行い――ではなく悪運のお陰だろう。
絶対に。
「う~ん。こっちかな? こっちも似合うし……」
大きな鏡の前に立たされたクジラは自身の――セシリウスの姿の卑猥さ――に照れながら、同時に自身の姿をしつつ忙しく衣服をチョイスしている元・人魚が気になった。
どうにも親父や悪友のような空気を纏い、しきりに衣装を持ってきているのが、怖い。
恐怖を拭えず、自身の女々しい仕草を意識しないまま、ふるふる、と唇を震わした。
「あっ、あの…セシリウスさん?」
「なに戸惑ってんのよ? その姿で居たくないのはキミの方でしょ?」
「えっ、いや――そうなんですが」
「だったら黙ってエスコートされている!! あっ――これなんかも凄く似合いそう」
黙々と作業を続ける彼女に対し、もはや続ける言葉も勇気もクジラには無かった。
ただ鏡の中の彼女の姿をした自分に様々な衣装が添えられた。
帽子や靴。
さらには、アクセサリーまでも用意される始末。
「――セシリウスさん!!」
美しく響くも、成分に明らかな怒りが加わった声が耳を穿つ。
沙希の――幼馴染の馴染み深い怒号だった。
彼女はクジラ以上に怒っており、セシリウスに詰め寄った。
(うわっ――!? 沙希…さん?)
視覚では自分――でない”白方 玖史羅”――に沙希が問い詰めているという、他者視点から幼馴染の怒気に威喝。
だが、その威圧感に、刷り込まされた恐怖にクジラは、顔を青くさせる――いけないことなどしていないにも関わらず。
外見が変わっても中身までは変わらない。
少し――悲しいが、クジラは身をもって、それを証明した。
「すこ――」
「ねぇ、ねぇ。沙希ちゃんも、これが似合うとは思わない? それともこっちの方が良いのかな?」
「えっ――あっ、こっち、こっち!! …こっちが似合いますよ、断然!!」
「沙希―――ィイ?!!」
爆発のエネルギーを別の何かに吸収されたみたいにピンク色の気配が濃厚に増加する。
ピンク色に染まった二人は、もう止まらない、とばかりに衣服を持ち出しあう。
「えっ、えっと………自分で探――」
「女の子の服は女の子に任せて置きなさい!!」
「そうよ――あっ、これにしよ」
「セシリウスさん――最高。よし、私も負けてられない」
最早そこには敵対し合う二人の姿はなかった。
女子同士がかならず泥沼の争い――をする訳ではない、と主張するばかりに協力し合って作業を進めていく。
互いのセンスを褒めることも忘れていない。
完璧な協業だった。
瞬く間に各々が選ぶ衣装の数々を乱暴に腕で押さえ込みながら、彼女たちは未だ困惑気味な”セシリウス”――の姿をしたクジラに迫ってくる。
(なんでこんなに息ピッタリなんだよおお!??)
<つづく>
キャラデザ&挿絵:倉塚りこ
「今の姿なら、間違いなく人が増える!! ――いや、この際、人魚の姿で水の中から挨拶するというのも――」
「オジさん!! クジラがこんな状態なのにそんなことをいうんですか!?」
自分の味方は沙希だけだ、と感動を露にクジラは、幼馴染に感謝した。
「俺は絶対やらないぞ!!」
「なにをいっている!? お前は女装してでも水族館を護ろうとする父親の気持ちが分からないのか!!」
「分かりたくない!と、何度いえば――分かるっ!!」
「第一に今のクジラを見世物にすること自体、人として間違っています!!」
「――ううぅ、母さん。 クジラと沙希ちゃんが私を苛めるよ。おいおい~~」
うそ泣きして懐に忍ばせている写真――クジラの母親――に泣きつく岩志。
クジラそっくりな上に、背丈も小さいので本当の女の子に見えてしまう。
その光景が余計にクジラの心を痛めつけた。
母親――は、自分が生まれて間もなく交通事故で無くなったらしい。
だから、亡き母の為に水族館を維持したいという父親の姿勢は尊敬できる。
――やり方が、徹底的にズレて、いなければだが……。
「ねぇ、沙希ちゃん。 ――この人が女装しているのって」
「うん――。不景気と無計画な施設の増築で経営が厳しくなったのが原因で、オジさんは苦し紛れに女装してお客さんを応対したんだけど……」
「それが意外に好評でね?――中には女装した男の方がいいってお客さんもいたりして、何時の間にか素で嵌まっちゃ――たんだ。ハハ――嫌ダナ。 クジラヨ、オ父サンモ、水族館ノ為シカタナク、ダヨ?」
「……信じる。――と、思うか?」
明らかに嘘だった。
クジラが右拳を固めて持ち上げていなければ、そのまま女装版・”白方イワシ”として、お喋りしていただろう。
だが、彼はため息をつくと、怒りを静めた。
無駄だからだ。無理だからだ。
補正するのは。
なんせ――。
(海を大好きにさせたいからって3歳児から泳がせようとするなんて――まったくの逆効果じゃないかァ)
水族館の息子なら海を知らなければならない、としたならまだ許せるかもしれない。
だが、初回から水深3メートルを泳がせようとするとは、一体どういうスパルタだろうか。
さらに泳げなかったら罰として魚類の世話――と、その中にダイブさせるのだ。
一応、小型の酸素ポンプを与えられたが、それでも陸とは違う海の世界は幼子には許容を超えた異質さで。
水中への親しみは下がる一方だったが、喧嘩の強さはかなりのモノとなり、僅か7歳の頃には父親をノックアウト出来るほどの拳の達人となった。
海と妻を愛する男の手によって――海どころか水すらも嫌いになった白方 玖史羅。
そして、女呼ばわりされるのも、近所で有名なほど女装に嵌まっているバカが身内にいる為だった。
(ん――?)
よく考えたらそもそもの原因はコイツの性格破綻では――と、クジラは考え始める。
そこは親子とばかりに彼の心境の変化を悟り、逃げようとする白方父。
もっとも、その父親に苦しめられてきた”クジラ”本人が、クジラの邪魔をした。
意図的か、どうか、は定かではないが。
「まぁ、今はそこんとこは置いといて――いい加減に水着から着替えたら?」
「あう――ぐぅっ!? たっ確かに…ィ」
「大丈夫だ!! 任せろ、この父に!!」
好機とばかりに蜘蛛の糸を掴んだ岩志は壁に配置されたボタン――の横の壁に隠されたボタンを押した。
四人の座っていた椅子が、廊下に仕舞いこまれていく。
唖然とする”クジラ”と”セシリウス”、そして沙希。
三人の驚きに、自尊心を満たしながら岩志のイメージ通りに、大きく重たい机が
フローリングの床に落ちていく。
後に残ったのは大きな穴。
その穴から重々しい機械音が木霊してくる。
嫌な予感をヒシヒシと募らせながらクジラは、他の二人と同じように暗闇を覗く。
見えるのは小さな輪郭ただ一つ。
だが、それは時間が進むごとに大きく彼らへと向かい――――。
「なんじゃあこりゃあ――――ァア!!??」
一同の前に現われたのは15人分くらいの体積を持つ、カラフルな衣装ロッカー。
母親を失い、唯一この水族館兼住処で女服を着る『イワシ』――には似合わない衣服まで揃っている。
実にお金を掛けた設備と衣類の数々。
上には帽子、下は靴と至れり尽くせりだ。
オマケにコントロール・パネルらしきものが堂々と備わっている。
ボタン一つでさらに眠っているロッカーから衣服を呼び出すシステムなのだろう。
頭が痛むほど――金をつぎ込んでいるのは明白だった。
そんなクジラの頭痛を他所に、驚かせたことを自慢し続ける白方 岩志――否、白方――『イワシ』は、ふんぞり返りながら息子を含めた他人に己が栄華を誇った。
愚行であるとは考えずに。
「私用のお洋服やお母さんの遺服を含め、カタログで気に入ったのを買い漁っちゃたりしていたら何時の間にか膨大な量になっちゃって――5年前に改築しました❤」
「あっあれは!! あの工事は水槽の補強じゃなかったのか!??」
「ごめん嘘」
「おっお前という奴はああああぁぁ!!」
クジラは可愛らしく微笑む少女――の姿をした親父に迫った。
胸元をえぐるようにシャツを握り締める。
そして、父親ながら少女のような容姿の相手を宙吊りに持ち上げる。
「今度という今度は――ッ!!」
「待って!! 待ってくれ!! 今は必要だろ!?」
「ふふっ、ふ。黙れ。今絞め殺してやる――ッ」
「ぐにゅぐぶっ、ぅ」
彼女の体は意外と腕力があったらしくクジラは憎い敵の服を掴み、圧力を強め意識を奪っていく。
血の流動や息遣いを自分自身のように感じる。
それは今の肉体の鋭微な知覚能力の所為であり、彼の怒りの表れだった。
(なにが水族館【うち】――を倒産させない為だ!! 単にお前が無計画に金をつぎ込むだけじゃないかっ!!)
あくまでも本当に殺す気はなく寸前の所で止めるつもりのクジラだが、激情は易々と肉体を支配し理性が薄れていく。
――ほんとうに、やってしまおうか。
そんな人として外れた思いすら沸き立つ。
だが、今まさに癇癪みたいな憤怒に駆られ過ちを犯そうとするクジラ――外見はセシリウス――を停止させられる人物がいた。
ウキウキした笑顔を隠しもせず、堂々と彼の後ろへと歩き肩を叩いて惨劇を休止させた。
「ほら――そんなの置いといてさっさと着替えましょ?」
その人物もまた――紛れもない”クジラ”本人だった。
スルスルとクジラの右腕を絡め取ったセシリウスは、強引に自分の体の方に持ち込む。
今まで暴君さながらの強靭さを誇っていた彼が嘘のように従順に連れて行かれる様は、
乱暴な愛犬を引き摺る主人のようだ。
向きすらも変えられ、彼は慌ただしく付いていくしかなかった。
その様子を見届けるのはクジラの幼馴染の沙希一人。
ピシリっと固まり、青筋を立てている。
因みに白方 岩志の方は『そんなのはヒドい』、と言い残し仰向けで倒れ伏した。
命は無論あるし心臓も機能している。
意識を失う程度で済んだのは、岩志の日頃からの行い――ではなく悪運のお陰だろう。
絶対に。
「う~ん。こっちかな? こっちも似合うし……」
大きな鏡の前に立たされたクジラは自身の――セシリウスの姿の卑猥さ――に照れながら、同時に自身の姿をしつつ忙しく衣服をチョイスしている元・人魚が気になった。
どうにも親父や悪友のような空気を纏い、しきりに衣装を持ってきているのが、怖い。
恐怖を拭えず、自身の女々しい仕草を意識しないまま、ふるふる、と唇を震わした。
「あっ、あの…セシリウスさん?」
「なに戸惑ってんのよ? その姿で居たくないのはキミの方でしょ?」
「えっ、いや――そうなんですが」
「だったら黙ってエスコートされている!! あっ――これなんかも凄く似合いそう」
黙々と作業を続ける彼女に対し、もはや続ける言葉も勇気もクジラには無かった。
ただ鏡の中の彼女の姿をした自分に様々な衣装が添えられた。
帽子や靴。
さらには、アクセサリーまでも用意される始末。
「――セシリウスさん!!」
美しく響くも、成分に明らかな怒りが加わった声が耳を穿つ。
沙希の――幼馴染の馴染み深い怒号だった。
彼女はクジラ以上に怒っており、セシリウスに詰め寄った。
(うわっ――!? 沙希…さん?)
視覚では自分――でない”白方 玖史羅”――に沙希が問い詰めているという、他者視点から幼馴染の怒気に威喝。
だが、その威圧感に、刷り込まされた恐怖にクジラは、顔を青くさせる――いけないことなどしていないにも関わらず。
外見が変わっても中身までは変わらない。
少し――悲しいが、クジラは身をもって、それを証明した。
「すこ――」
「ねぇ、ねぇ。沙希ちゃんも、これが似合うとは思わない? それともこっちの方が良いのかな?」
「えっ――あっ、こっち、こっち!! …こっちが似合いますよ、断然!!」
「沙希―――ィイ?!!」
爆発のエネルギーを別の何かに吸収されたみたいにピンク色の気配が濃厚に増加する。
ピンク色に染まった二人は、もう止まらない、とばかりに衣服を持ち出しあう。
「えっ、えっと………自分で探――」
「女の子の服は女の子に任せて置きなさい!!」
「そうよ――あっ、これにしよ」
「セシリウスさん――最高。よし、私も負けてられない」
最早そこには敵対し合う二人の姿はなかった。
女子同士がかならず泥沼の争い――をする訳ではない、と主張するばかりに協力し合って作業を進めていく。
互いのセンスを褒めることも忘れていない。
完璧な協業だった。
瞬く間に各々が選ぶ衣装の数々を乱暴に腕で押さえ込みながら、彼女たちは未だ困惑気味な”セシリウス”――の姿をしたクジラに迫ってくる。
(なんでこんなに息ピッタリなんだよおお!??)
<つづく>
ひめごとははなぞの 1 (1)~3
ひめごとははなぞの 3 (シルフコミックス 11-3)
3巻出ました。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
2巻をやっとこ読了。
『彼の一族は思春期の2、3年間性転換する家系だった!』の割にはほとんど葛藤がなく、美味しくないなー。
と、思っていたらクラゲに刺されて男に戻った!?
これでちと面白い展開に……
でも、『「値段分の価値がある」でレーティングしておきますが、BL耐性とかが低めであればスルーも可』と言う評価を継続します。
20100522
ーーーーーーーーーーーーーーー
主人公田中愛12歳は男の中の男(ヤンキー)を目指すが、彼の一族は思春期の2、3年間性転換する家系だった!
女の子になって中学入学となった愛の運命は!?
と書くと正統派のTSなのですがー。
ヤンキー志向という点で感情移入がちと妨げられますなw
お話的にはヤンキーなイケメンとヤクザのお嬢様に好かれた愛の三角関係に、愛の兄弟たちがからんで、とこれまたTS的には良さ気な設定なのですが、あまりエロ展開にはならずちと消化不良気味です。主人公の造形は本来良い(表紙中央のピンク髪)のですが、デフォルメして描かれる事が多いのもちと難点。
一応、「値段分の価値がある」でレーティングしておきますが、BL耐性とかが低めであればスルーも可でしょう。

1巻レビューは20090223
3巻出ました。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
2巻をやっとこ読了。
『彼の一族は思春期の2、3年間性転換する家系だった!』の割にはほとんど葛藤がなく、美味しくないなー。
と、思っていたらクラゲに刺されて男に戻った!?
これでちと面白い展開に……
でも、『「値段分の価値がある」でレーティングしておきますが、BL耐性とかが低めであればスルーも可』と言う評価を継続します。
20100522
![]() | ひめごとははなぞの 2 (シルフコミックス 11-2) (2009/11) わたなべ あじあ 商品詳細を見る |
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主人公田中愛12歳は男の中の男(ヤンキー)を目指すが、彼の一族は思春期の2、3年間性転換する家系だった!
女の子になって中学入学となった愛の運命は!?
と書くと正統派のTSなのですがー。
ヤンキー志向という点で感情移入がちと妨げられますなw
お話的にはヤンキーなイケメンとヤクザのお嬢様に好かれた愛の三角関係に、愛の兄弟たちがからんで、とこれまたTS的には良さ気な設定なのですが、あまりエロ展開にはならずちと消化不良気味です。主人公の造形は本来良い(表紙中央のピンク髪)のですが、デフォルメして描かれる事が多いのもちと難点。
一応、「値段分の価値がある」でレーティングしておきますが、BL耐性とかが低めであればスルーも可でしょう。

1巻レビューは20090223
鉄腕バーディーARCHIVE
積読していたものを読了。
長い付き合いの作品なんでそれなりに面白いのですが、性転換モノとしてはあまり美味しくはないですね。
ウチでも売れ線からは外れます。
ちなみに半分ぐらいは性転換モノではない番外編が入っています。
長い付き合いの作品なんでそれなりに面白いのですが、性転換モノとしてはあまり美味しくはないですね。
ウチでも売れ線からは外れます。
ちなみに半分ぐらいは性転換モノではない番外編が入っています。
![]() | 鉄腕バーディーARCHIVE (ヤングサンデーコミックス ワイド版) (ヤングサンデーコミックススペシャル) (2008/07/04) ゆうき まさみ 商品詳細を見る |
女の子になったあなたは愛されている!
女の子になったあなたは愛されている!
女の子になったあなたはできる!
大事なのは挑戦する事!
自分の行いに責任を持つ!
失敗しても大丈夫!
間違っても修正できる!
自分のやっている事が楽しい!
あなたは変わる事ができる!
女の子になったあなたはできる!
大事なのは挑戦する事!
自分の行いに責任を持つ!
失敗しても大丈夫!
間違っても修正できる!
自分のやっている事が楽しい!
あなたは変わる事ができる!
女装コスプレをしていたら、体に女体化の兆しが!!!
なーんて、脚色してみました。
女装コスプレした後、体に変化が!?原因は何なのでしょうか?
以前から不思議に思っていたのですが、イベントで女装コスプレした後(翌日以降)に
自分の肌がスベスベになるのです。まるで女性のような肌触りに・・・。
決して、ホルモン等の薬や注射などしていません。
最初は、気のせいだと思っていたのですが、過去3回のイベントで同じ現象が出たのです。
それでも気のせいだと思います。(きっぱり)
あっと、それでは終わってしまいますね。
同一の症状が出た方は、今すぐコメント!!
女装コスプレした後、体に変化が!?原因は何なのでしょうか?
以前から不思議に思っていたのですが、イベントで女装コスプレした後(翌日以降)に
自分の肌がスベスベになるのです。まるで女性のような肌触りに・・・。
決して、ホルモン等の薬や注射などしていません。
最初は、気のせいだと思っていたのですが、過去3回のイベントで同じ現象が出たのです。
それでも気のせいだと思います。(きっぱり)
あっと、それでは終わってしまいますね。
同一の症状が出た方は、今すぐコメント!!
クジラの人魚姫2-1
作:黒い枕
キャラデザ&挿絵:倉塚りこ
第一章はこちらから

「ようこそ、白方・水族館へ。――って、クジラに沙希ちゃんと……あらあら」
出迎えた可愛い案内嬢が、セシリウス――の姿をしたクジラに詰め寄る。
軽い口調ながら、獲物を逃さない鋭い詰め寄り方だ。
歳は18未満のような若々しさで、小柄。紅色に近い赤色のスーツを着込んでいる。
そして何より印象深いのは、――。
「同じ顔――?」
「あら、嬉しい。漸く『母さん』のこと認めて――ぶべらぁっ!!?」
――ドっガア!! ――グッ、ジャリ!!
吹き飛ぶのは白方 玖史羅――の顔に非常に良く似た女。
顔面の中心をクジラの右腕に貫かれ、弾けるように飛んでいき、数分の前の辰と同じように地に倒れた。
不思議と顔は人間の形を保っている。
一方、自身と同じ顔の人物を殴り倒したクジラの腕、セシリウスの拳は振りかぶったままである。
「顔が似ているんだから……女装するな、っていっているだろうが、この変態親父――っ」
この時ばかりは入れ替わったことや恥かしい衣装のことを忘れ、クジラは素に戻った。
その要因が身内の――『父親』への憤慨とは悲し過ぎるが。
「親父――ぃ?」
「うん、そうなの。この人がクジラのお父さんで、……ここのオーナーなの」
「そう。…結構、クジラくんも苦労しているのね」
完全に部外者となった二人。
姿でいえば、今のクジラが部外者でセシリウスが関係者なのだが――生憎と身内の恥というものは精神的な痛みなのだ。
上着のチャック式のパーカーを被り、一人考え込むクジラ――の姿をした元人魚と、怒りで瞳が充血しているセシリウス――の体をした元青年。
その中間的な位置に立たされる沙希を交えた空気は、明らかに白けていた。
「どうでもいいけど――話を聞いてもらう前に、この人を気絶させてどうするのよ?」
ハッ――となって気付く彼だったが、時既に遅い。
眼前では鼻血を出し――それでも何故か、骨は折れていない――実の父、白方・岩志(いわし)は意識を失っていた。
どうしようもない沈黙だけが、三人を支配し続けた。
~~~
「いや~~、まさかウチのクジラと見目麗しい人魚であるセシリウスさんと体が入れ替わるなんて――でかした!! 私の息子よ――!!」
「ねぇ――沙希ちゃんや辰くんもそうだけど、何でそんな簡単に信じられるの?」
本当に信じられない。ついでに、なぜ褒めているのか。
それが白方 玖史羅――の中にいるセシリウス――の感想だった。
海で肉体と魂――もしくは身体と精神――が入れ替わったことをお互いが、理解するのでさえ時間が掛かったのに、平然と理解する三人。
自身が学習した人間の常識が間違っていたのか、怖くなる。
しかし、やはり三人は確信した上で、見極めている。
クジラの姿をしたセシリウス――でなく、自分の姿になっている彼を本物だと、分かっている。
困惑するままにさらなる理解者の白方 岩志を交えた対談が進む。
「そりゃあ――息子だったら、”そんなこと”は出来ないよ」
鼻に白い紙を突っ込みながら、どう見ても女顔である白方の父が、積極的に話し掛けてくる。
今は女装を解いているので、彼女は鏡でも覗いている気がしてならない。
6人テーブルで三対一の対話の上、彼女の前に白方 岩志が来るポジションにある為、嫌でも視界に入ってしまう。
数回しか見ていないクジラの外見だが、それでも似ていると認めるしかない親子の造形である。
唯一、違うのは首元の右側にホクロがあるのと、息子が長身であるのに比べ、父親の方はかなり小柄である。
それこそ、クジラの弟といわれても納得するぐらい――若々し過ぎるので、『類似者』ではないかと疑いたくなる。
先ほどの攻撃の後遺症が鼻血だけなのも――人外の気配を感じた。
「…そうかも。――海老一匹で……こんなに怖がる人間なんてキミだけだね。きっと」
まだ納得出来ない感情はあるが、セシリウスは目を瞑った。
彼女が持つのは小海老と言っていいほど小さな海老。
しかし、そのたった一匹にクジラは錯乱した。
今なお、こちらを気にして、幼馴染の背に隠れて、震えている。
その哀れな涙目に負けたセシリウスは、海老を向こう側の岩志に預けた。
人間の手で触れているのは人魚であるセシリウスでも気持ちが悪かったのもあるが、
何だかんだで――強く護ってあげたい、と言う気持ちにさせられたからだ。
クジラの反応一つ一つが、どうしようもなく過保護欲を燃え上がらせる。
「うっ、ううぅ。し、仕方ないじゃないかぁ。そのバカ親父の所為なんだから」
「クジラ――怖いのは分かるけど爪食い込みすぎ……まぁ、クジラの性格は熟知しているので――あの時の慌てようで……」
慣れた手つきで後ろに隠れたクジラの指を外す、麻倉 沙希。
そして促すように再び椅子に座らせる。――何気に彼の左手を離さないまま。
(――そんなに嫌いなんだ)
彼女の頭の中にリフレインするのは、朝倉 沙希と、この場にはいない海風 辰が、クジラとセシリウスが入れ替わっていることを理解した瞬間。
余りにも自身の情けなさ――そして無条件で守りたくなる哀れっぷり――の姿に正直、どう解釈してよいのか不明で唖然としながら『自分の姿』の痴態を見続けた。
もっとも――。
『うぎゃああぁぁぁ蟹ィ!! 蟹ィがああ!!?? 蟹がぁ髪に――ぃ?!!あっ……』
『うっぐ、きつ――あぁ、なんでこんなにィ――』
『あのセシリウス……さん。 巻き込んだのは認めるけど――その上着、俺が使わせて貰っても…いいかな?』
『――あっ、あんまり見るなよ』
『意地悪しないで返せっ!! 元は俺のだろ!?』
(なんだか――楽しい、ってまた)
膨らむクジラの下半身。
セシリウスの、自分の体を使って生み出す彼の表情が、態度が、反応が、奇妙な高揚を彼女にもたらした。
硬いズボンの布地すらも勢いに負けている。
下半身の中心が飢えているのだ。痛みを感じるほどに。
セシリウスは誰に気付かれることなく、魔法で血の激流を操作し、笑う。
心の底から、喜びが途絶えない。
彼女は確実に男の性に染まりつつあった。
「でも実質的な問題――どうするんだい?」
隠れながら興奮する彼女と怖がるクジラに尋ねた白方 岩志。
セシリウスは、その言葉の意味合いを重々分かりながら――歓喜した。
なぜか分からないが、悲しむことはなかったのだ。
~~~
「まず――セシリウスさんの人魚の秘術でいいのかな?」
名前と、彼女が使う不可思議な力の再確認をする白方 岩志。
その問いに内なる高揚を隠し、セシリウスは真面目な顔つきで応える。
「ええそうよ」
「で、その秘術でも”入れ替わり”を元に戻せなかったのか」
「肉体の変身なんかは術の中にあるけど、魂を扱うのはないわねぇ。そもそも魂って概念は人間特有であたしたちには存在しないわ」
「それでさらにいえば、その変身も限界が――あるか」
話に加わらないものの、クジラは、現実の重さに絶句した。
ファンタジー世界の住人であるセシリウスにも、どうすることも出来ないのだ。
自分たち人間の力では、何も出来ない。
元に戻れない可能性が濃厚になる。
(じゃあ俺、このままずっと――っ)
人魚のまま――『女』のままでいるしかないのか。
家庭用の小型ビニール・プールでも耐えられないほど水嫌いな彼だったが、元に戻れない現実に一番に懸念したのは――”それ”――だった。
今更ながら握っていてくれる手の暖かさに熱くなりながらクジラは隣の少女を見た。
麻倉 沙希――は彼を心配するあまり蒼白気味だった。
同じく高校二年生の彼女は、海辺育ち特有の泳ぎの得意な子で、水泳部の副部長。
今は動きやすい簡素な茶色のシャツとジーンズ姿。
シンプルだが、化粧すら必要ない凛々しくも軽快な沙希の良さが演出されている。
背中の半分くらいまでの長さの黒いツインテールも、実に美しく瞳にうつし出されている。
クジラの恋愛は簡単だった。
同じ時を過ごし育った幼馴染――麻倉 沙希――のことを愛していたのだ。
中学3年生の終わり頃から自身の気持ちに気付き始めていて、ようやく動こうとしたのだ、が。
(どうすれば――っ)
今日、彼が海に行ったのも、全ては男を磨く為だった。
沙希と二人きりになる為でもあり、水や海に克服する勢いで思いを告げようとも考えていた。
ついでに悪友の辰が同行したのは誤算だった。
――が、まさか、告白云々の問題に性別の問題になってしまうとは。
クジラは色々なものが崩れていくのを感じ、絶望した。
しかし、現実はどこまでも洪水のように流れて行き、失意の内に岩志とクジラとセシリウスの会話は一通り完了した。
「とにかく、打開策がないならこのまま様子を見るしかないが――時にクジラ。その美貌を役立てようとは思わないか?」
――来た!!
セシリウスの姿をしたクジラと沙希は同時に岩志の発言に意識の帯を締め直した。
二人の反応に戸惑うセシリウスを置き去りにして、人の父であり、水族館オーナーでもある岩志は交渉を開始する。
<つづく>
キャラデザ&挿絵:倉塚りこ
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「ようこそ、白方・水族館へ。――って、クジラに沙希ちゃんと……あらあら」
出迎えた可愛い案内嬢が、セシリウス――の姿をしたクジラに詰め寄る。
軽い口調ながら、獲物を逃さない鋭い詰め寄り方だ。
歳は18未満のような若々しさで、小柄。紅色に近い赤色のスーツを着込んでいる。
そして何より印象深いのは、――。
「同じ顔――?」
「あら、嬉しい。漸く『母さん』のこと認めて――ぶべらぁっ!!?」
――ドっガア!! ――グッ、ジャリ!!
吹き飛ぶのは白方 玖史羅――の顔に非常に良く似た女。
顔面の中心をクジラの右腕に貫かれ、弾けるように飛んでいき、数分の前の辰と同じように地に倒れた。
不思議と顔は人間の形を保っている。
一方、自身と同じ顔の人物を殴り倒したクジラの腕、セシリウスの拳は振りかぶったままである。
「顔が似ているんだから……女装するな、っていっているだろうが、この変態親父――っ」
この時ばかりは入れ替わったことや恥かしい衣装のことを忘れ、クジラは素に戻った。
その要因が身内の――『父親』への憤慨とは悲し過ぎるが。
「親父――ぃ?」
「うん、そうなの。この人がクジラのお父さんで、……ここのオーナーなの」
「そう。…結構、クジラくんも苦労しているのね」
完全に部外者となった二人。
姿でいえば、今のクジラが部外者でセシリウスが関係者なのだが――生憎と身内の恥というものは精神的な痛みなのだ。
上着のチャック式のパーカーを被り、一人考え込むクジラ――の姿をした元人魚と、怒りで瞳が充血しているセシリウス――の体をした元青年。
その中間的な位置に立たされる沙希を交えた空気は、明らかに白けていた。
「どうでもいいけど――話を聞いてもらう前に、この人を気絶させてどうするのよ?」
ハッ――となって気付く彼だったが、時既に遅い。
眼前では鼻血を出し――それでも何故か、骨は折れていない――実の父、白方・岩志(いわし)は意識を失っていた。
どうしようもない沈黙だけが、三人を支配し続けた。
~~~
「いや~~、まさかウチのクジラと見目麗しい人魚であるセシリウスさんと体が入れ替わるなんて――でかした!! 私の息子よ――!!」
「ねぇ――沙希ちゃんや辰くんもそうだけど、何でそんな簡単に信じられるの?」
本当に信じられない。ついでに、なぜ褒めているのか。
それが白方 玖史羅――の中にいるセシリウス――の感想だった。
海で肉体と魂――もしくは身体と精神――が入れ替わったことをお互いが、理解するのでさえ時間が掛かったのに、平然と理解する三人。
自身が学習した人間の常識が間違っていたのか、怖くなる。
しかし、やはり三人は確信した上で、見極めている。
クジラの姿をしたセシリウス――でなく、自分の姿になっている彼を本物だと、分かっている。
困惑するままにさらなる理解者の白方 岩志を交えた対談が進む。
「そりゃあ――息子だったら、”そんなこと”は出来ないよ」
鼻に白い紙を突っ込みながら、どう見ても女顔である白方の父が、積極的に話し掛けてくる。
今は女装を解いているので、彼女は鏡でも覗いている気がしてならない。
6人テーブルで三対一の対話の上、彼女の前に白方 岩志が来るポジションにある為、嫌でも視界に入ってしまう。
数回しか見ていないクジラの外見だが、それでも似ていると認めるしかない親子の造形である。
唯一、違うのは首元の右側にホクロがあるのと、息子が長身であるのに比べ、父親の方はかなり小柄である。
それこそ、クジラの弟といわれても納得するぐらい――若々し過ぎるので、『類似者』ではないかと疑いたくなる。
先ほどの攻撃の後遺症が鼻血だけなのも――人外の気配を感じた。
「…そうかも。――海老一匹で……こんなに怖がる人間なんてキミだけだね。きっと」
まだ納得出来ない感情はあるが、セシリウスは目を瞑った。
彼女が持つのは小海老と言っていいほど小さな海老。
しかし、そのたった一匹にクジラは錯乱した。
今なお、こちらを気にして、幼馴染の背に隠れて、震えている。
その哀れな涙目に負けたセシリウスは、海老を向こう側の岩志に預けた。
人間の手で触れているのは人魚であるセシリウスでも気持ちが悪かったのもあるが、
何だかんだで――強く護ってあげたい、と言う気持ちにさせられたからだ。
クジラの反応一つ一つが、どうしようもなく過保護欲を燃え上がらせる。
「うっ、ううぅ。し、仕方ないじゃないかぁ。そのバカ親父の所為なんだから」
「クジラ――怖いのは分かるけど爪食い込みすぎ……まぁ、クジラの性格は熟知しているので――あの時の慌てようで……」
慣れた手つきで後ろに隠れたクジラの指を外す、麻倉 沙希。
そして促すように再び椅子に座らせる。――何気に彼の左手を離さないまま。
(――そんなに嫌いなんだ)
彼女の頭の中にリフレインするのは、朝倉 沙希と、この場にはいない海風 辰が、クジラとセシリウスが入れ替わっていることを理解した瞬間。
余りにも自身の情けなさ――そして無条件で守りたくなる哀れっぷり――の姿に正直、どう解釈してよいのか不明で唖然としながら『自分の姿』の痴態を見続けた。
もっとも――。
『うぎゃああぁぁぁ蟹ィ!! 蟹ィがああ!!?? 蟹がぁ髪に――ぃ?!!あっ……』
『うっぐ、きつ――あぁ、なんでこんなにィ――』
『あのセシリウス……さん。 巻き込んだのは認めるけど――その上着、俺が使わせて貰っても…いいかな?』
『――あっ、あんまり見るなよ』
『意地悪しないで返せっ!! 元は俺のだろ!?』
(なんだか――楽しい、ってまた)
膨らむクジラの下半身。
セシリウスの、自分の体を使って生み出す彼の表情が、態度が、反応が、奇妙な高揚を彼女にもたらした。
硬いズボンの布地すらも勢いに負けている。
下半身の中心が飢えているのだ。痛みを感じるほどに。
セシリウスは誰に気付かれることなく、魔法で血の激流を操作し、笑う。
心の底から、喜びが途絶えない。
彼女は確実に男の性に染まりつつあった。
「でも実質的な問題――どうするんだい?」
隠れながら興奮する彼女と怖がるクジラに尋ねた白方 岩志。
セシリウスは、その言葉の意味合いを重々分かりながら――歓喜した。
なぜか分からないが、悲しむことはなかったのだ。
~~~
「まず――セシリウスさんの人魚の秘術でいいのかな?」
名前と、彼女が使う不可思議な力の再確認をする白方 岩志。
その問いに内なる高揚を隠し、セシリウスは真面目な顔つきで応える。
「ええそうよ」
「で、その秘術でも”入れ替わり”を元に戻せなかったのか」
「肉体の変身なんかは術の中にあるけど、魂を扱うのはないわねぇ。そもそも魂って概念は人間特有であたしたちには存在しないわ」
「それでさらにいえば、その変身も限界が――あるか」
話に加わらないものの、クジラは、現実の重さに絶句した。
ファンタジー世界の住人であるセシリウスにも、どうすることも出来ないのだ。
自分たち人間の力では、何も出来ない。
元に戻れない可能性が濃厚になる。
(じゃあ俺、このままずっと――っ)
人魚のまま――『女』のままでいるしかないのか。
家庭用の小型ビニール・プールでも耐えられないほど水嫌いな彼だったが、元に戻れない現実に一番に懸念したのは――”それ”――だった。
今更ながら握っていてくれる手の暖かさに熱くなりながらクジラは隣の少女を見た。
麻倉 沙希――は彼を心配するあまり蒼白気味だった。
同じく高校二年生の彼女は、海辺育ち特有の泳ぎの得意な子で、水泳部の副部長。
今は動きやすい簡素な茶色のシャツとジーンズ姿。
シンプルだが、化粧すら必要ない凛々しくも軽快な沙希の良さが演出されている。
背中の半分くらいまでの長さの黒いツインテールも、実に美しく瞳にうつし出されている。
クジラの恋愛は簡単だった。
同じ時を過ごし育った幼馴染――麻倉 沙希――のことを愛していたのだ。
中学3年生の終わり頃から自身の気持ちに気付き始めていて、ようやく動こうとしたのだ、が。
(どうすれば――っ)
今日、彼が海に行ったのも、全ては男を磨く為だった。
沙希と二人きりになる為でもあり、水や海に克服する勢いで思いを告げようとも考えていた。
ついでに悪友の辰が同行したのは誤算だった。
――が、まさか、告白云々の問題に性別の問題になってしまうとは。
クジラは色々なものが崩れていくのを感じ、絶望した。
しかし、現実はどこまでも洪水のように流れて行き、失意の内に岩志とクジラとセシリウスの会話は一通り完了した。
「とにかく、打開策がないならこのまま様子を見るしかないが――時にクジラ。その美貌を役立てようとは思わないか?」
――来た!!
セシリウスの姿をしたクジラと沙希は同時に岩志の発言に意識の帯を締め直した。
二人の反応に戸惑うセシリウスを置き去りにして、人の父であり、水族館オーナーでもある岩志は交渉を開始する。
<つづく>
死神博士の人気はゾル大佐のおよそ20倍
見える化してみました。
ブラック将軍の陰が薄いですね。
ブラック将軍の陰が薄いですね。