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僕の秘密日記(29)  by A.I.

僕の秘密日記(29)

 優しい朝陽にたゆたいながら、僕は闇の世界を満喫していた。鼻をくすぐる微香は快適な眠りへと僕をいざなう。覚醒と睡眠の境界線にいる状態が一番気持ちがいい。願わくはこの状態が長く続きますように。
「ふぎゃぁぁっ!」
 儚い祈りは天には届かなかった。背中が痛い、内臓が出る、出ちゃうぅぅっ!
「ぐむぅぅっ!」
 小型爆弾が背中で炸裂して、首がかくんと下がった。なにやら湿り気を帯びた優しい感触が僕の唇に触れている。
「あ、あきら君!」
「……やぁ、おはよう」
 結果として僕はこずえを押し倒した形で唇を奪っていた。僕の背中ではたつみが馬乗りになって、僕を起こそうとポカポカ叩いている。最初に感じた衝撃はフライング・ヒップアタックを喰らったからだろう。
「不潔! 痴漢! 変態!」
「いや、違う。これは不可抗力だぁ!」
 僕の抗弁はこずえに受け入れられなかった。バチィィンと肉が弾ける音が響き、頚椎が急な力を受けてみしっと軋む。熱した火かき棒で口を突かれたような痛みが襲った。
「ううっ、染みるぅぅっ!」
「……あきら君、ごめんなさい」
 左頬には冬だというのに鮮やかな紅葉が刻まれている。口内の粘膜が裂けて、お味噌汁を飲むとジクジクと染みて痛い。
 今朝の朝食は白米とお味噌汁、焼き魚だ。昨夜は新年会でたくさん食べたから、簡素なくらいでちょうどいい。僕は時折渋い顔になりながら、朝食を口に運んだ。
「あきら、災難だったな」
「こずえの味を知ることができたから、悪いばかりでもないですよ」
 つかさ君が気の毒そうにしていたが、笑い話で済ませてしまおうと僕はおどけた顔をしてみせた。
「もぉう、あきら君ったら!」
「僕の味はどうだった? 甘い? 酸っぱい? 苦い?」
 にまにましながら悪戯っぽい顔で聞いてみる。
「味なんてないわよ!」
 膨れっ面で従妹が僕を睨む。まったくもってその通りだ。キスに味なんてものはない。
「正解、残念ながらレモンの味なんかしないね。キスの前にレモン味のキャンディでも舐めればいいのかな」
「彼氏でも作れたら考えとくわ。あきら君にはそんな人がいるの?」
「僕が? まさか――」
 いるわけないと続けて、話を打ち切ろうとしたら、
「あきらには恋人がちゃんといるわよ」
 母親が新しい爆弾を投下した。頼む、空気を読んでください! 僕が女になったことですらニュースなんですから、これ以上騒ぎを大きくしないでぇ!
「えええぇぇぇっ!」
 マイペースなしおりちゃん以外の親戚全員が一斉に驚いた声を出した。
「いや、それは母さんの誤解というか、幼なじみがいるんですけどね。記念撮影をしたら話しますよ」
 格好の話のネタを提供する形になってしまった。物見高い親戚の目が好奇心で光っている。さて、どうやって言い逃れをしようか。
「ごちそうさまでした。歯を磨いて着替えてきますね」
 ご飯を味噌汁で流しこんで速攻で朝食を終わらせた。好奇の目にさらされて居心地が悪いったらない。家に帰ったら母親に釘を刺さないとなぁ。
 スーツを着ると、濡れたタオルを頬に当てて奥の間に隠れていた。腫れは引いてきたけど、完璧を期したいからね。それに痣が残った写真を撮ったら、こずえが後々負い目を感じるだろう。それは避けたい。
「あきら、メイクをすれば痣は隠れるわよ。やりましょうか?」
「あ、そうだね。頼むよ」
 気遣ってか、母親が僕の様子を見に来てくれた。すっぴんのままで撮るつもりだったけど、隠せるものなら隠しておきたい。
「母さん、あまり恋人云々言わないでよ。僕ととおるはそんな関係じゃないからね」
「照れなくてもいいのに……」
 先が思いやられる。僕のいる町内会では同い年はとおるだけだったし、親はヤツに対して甘くなりすぎだよ。
「記念撮影を行うぞーっ!」
 伯父の野太い声が外から聞こえてきた。迷ったけど母親から貰った口紅をつけてから、玄関に向かう。
「……あきら君じゃないみたい」
「おーっほっほっほ、本気になってみたわっ!」
「……中身はやっぱりあきら君なのね」
 顎に手の甲を当て馬鹿笑いしてみたら、こずえに半眼で呆れられた。ビンタのことを気にしてないかと悪乗りしているだけなのに。この様子なら平気かな。
「ほぅ、あきらが別人みたいだな。化けるもんだ」
 つかさ君が僕の顔を眺めて感心している。
「ふっふっふ、僕に惚れちゃう? 惚れちゃいます?」
「それはない。あきらには恋人もいるようだからな」
「うわ、一言で叩き斬った! それに恋人がいるわけじゃないって!」
 ああ、気軽に冗談を言い合える関係というのはいいな。つかさ君とも馬鹿話をしながら、僕らは記念撮影をするために並び始める。祖父母を中心として、子供は椅子に座って前の列。大人はその背後に立つ。
「タイマーをかけるぞ。みんな笑って笑って!」
 カメラにセルフタイマーをセットすると、伯父がどたどたとこちらに向かってくる。太鼓腹で短足の伯父の姿は、ユーモラスで笑いを呼び覚まさずにはいられない。
「それじゃもういっちょいくぞーっ!」
 腕を大きく掲げて指を一本立てると、再び伯父はカメラを構えた。親戚全員の集合写真を何枚か撮ると、その後は家族ごとの写真も撮る。
「最後は子供らで集まれーっ!」
 伯父の号令で僕らは一箇所に集まった。つかさ君は僕とたつみの肩に手を回す。従兄は弟のような二人と肩を組むのが好きなようで、従兄弟だけで写真を撮るときはよくそうする。
「いつまでもこの関係を保ちたいものだな」
 さりげない口調だったけど、万感の思いが乗せられていた気がした。
「僕もだよ」
 頼れる兄に対して僕は笑顔で答えていた。きっと写真の出来映えは良いものになったと思う。

 記念撮影が終わると茶の間で団欒。話題はもちろん僕の恋人についてだ。勘弁してもらいたいものだよ。
「隠すようなことでもないんですけどね。とおるって幼なじみがいるんですよ」
「以前名前を聞いたことがあるような気がするな。医者の息子だったか?」
「そういえば会話の端に名前を出したことがあったかもしれないですね」
 記憶力に優れているつかさ君は、とおるの名前に聞き覚えがあるようだ。とおるとは十年以上の付き合いがあるし、僕が従兄に話題として提供したことがあるかもしれない。なんしろ騒ぎにはこと欠かないヤツだからなぁ。
「先月、例の病気で僕はとおるの親父さんが経営している医院に入院したんですよ」
「ほぅ、同じ屋根の下で暮らしたというわけか」
「伯父さん、あまり茶化さないでくださいよ」
 どっと盛り上がりを見せる親戚たち。こほんと咳払いをしてから、僕は話を続ける。
「入院生活ってのは暇ですからね。とおるには学校の様子や勉強を教えてもらうとか、とにかく面倒を見てもらったんですよ」
「そして盛り上がる情熱!」
 親戚でなければ灰皿を投げつけているところだ。
「世話にはなりましたからね。その恩返しってわけでもないですが、食事ぐらいは作りに行ったことがあるんですよ。あいつの家は父子家庭で、まともな食生活をしてないですから」
「ああ、なるほどなぁ」
 話の締め括りに伯父はやや神妙な顔になって頷く。僕らは親族全員健在だ。片親がいないという話は同情を引くに充分で、しんみりとなってしまったのだろう。これで話から解放してもらえるかな。
「それでこれが神社で撮った写真なのよ」
 しんみりとしているのは男性陣だけで、女性陣は輪になって何やら見ている。黄色い声が飛び交っていた。はて、なんだろう?
「うぐぐぅ、いつ現像したんだよ」
 背伸びをしてちらりと目に入った写真だけで致命傷になった。一気に心拍数がトップスピードを刻み、顔が真っ赤に染まる。うわぁぁぁん、いつ撮ったんだぁ!
「仲いいわねぇ」
「ラブラブじゃないの」
「これで恋人同士じゃないというほうが信じられないわ」
 そりゃ多少は意識する部分はあると自覚するけど、本当に恋人じゃないですから。言い訳を重ねても信じてもらえそうにないので、僕は黙るしかない。
「母さん、ひどいよ。隠し撮りするなんて」
「あら、撮ったのはお父さんよ。それに親が晴れ着を着ている子供の姿を撮らないわけないじゃない」
 ごもっともです。それならそれで親戚には見せないでもらいたかったけどさ。
 親戚が回し見をしているのは、薄っぺらいアルバム。そこに挟まれていたのは元旦に初詣に行ったときの写真だ。羽織袴のとおると振袖姿の僕が手を繋いでいる姿。とおるが髪飾りを僕に挿している姿。思わずふすまを破って床を転げまわりたくなった。やめて、お願いだからそんな僕を見ないでぇっ!
「これ、誰?」
 たつみだけは僕だとわからないのは救いというべきなのだろうか。昨日は頑張って兄貴ぶり見せたのだから、せめてその印象を崩さないで欲しい。これでも年上の意地ってもんがあるんですよ。
「あきら君って女の子生活を満喫しているのね。もっと悩んでいるのかと思ったわ」
「……いやまぁ、お世話になった人に振袖姿を見たいと言われて断りきれなかったんだよ」
 こずえが呆れたような羨ましそうな微妙な表情をしている。弁解はしてみたけど、疑いは晴れてないだろうな。スーツだってスカートではなくズボンを選んだし、普段着だって女の子っぽいのは避けたのに、どうしてこんな羽目に陥るんだぁ!
「あきら、そう嘆くなよ。みんなだって面白がっているだけだからな。暗くなられるよりはずっといいだろ」
 つかさ君だけが僕を慰めてくれた。そりゃ精神疾患を疑われないだけましだろうけどね。女になってすぐ順応するなんて、おかしいと思われても不思議ではない。
「いやぁ、良いものを見せてもらったよ。はい、これお年玉」
 伯父が歯を見せて満面の笑みを浮かべている。お年玉袋はパンパンに膨れていた。
「……ありがとうございます」
 泣き笑いで僕はお年玉を受け取った。こんな状況では素直に喜べない。
「あきらの人生だ。あきらの好きにするといいさ。大いに励み、大いに恋をする。あきらを見ていると伯父さんも再び青春を謳歌したくなるね」
 達観したような台詞を言う伯父。伯父は教師をしているから、教育者らしい言葉なのかもしれない。
「あきら、彼氏とはどこまで進んだの?」
「だから、彼氏とかじゃないから」
 興味津々な表情でしおりちゃんが尋ねてきた。まさか遊びのようなものとはいえ、Aまでは済ませてるとかは言えないよ。
「それよりみんなには恋人はいないの?」
 そろそろ反撃させてもらおう。大学生になって色恋沙汰の一つもないとは言わせないよ。
「う、それは……」
 奥手っぽいつかさ君に恋人がいないのは予想できた。気の良い性格はしているし、そのうちいい人が見つかるだろうと祈るしかない。
「しおりちゃんは?」
 矛先を変えて従姉に聞いてみる。子供の中でしおりちゃんだけが成人しているし、浮いた話の一つぐらい聞かせて欲しいもんだ。
「いないわね」
 ほのぼのとした調子で答えられてしまった。もうちょっと違う反応を期待したのに、拍子抜けもいいところだ。
「姉さんは遠回しに告白されても、それと気づかないから……」
 小声でつかさ君が教えてくれた。さもありなん。なけなしの勇気を出した男どもは憐れだが、相手が悪かったというほかない。従姉に春が訪れるのはまだ先のようだ。
「あきら、昼食を頂いたら帰るからな」
「父さん、わかったよ」
 わいわいと騒いでいるうちにもう正午近い。恥ずかしい思いをしたけれども、嫌味のない語らいだからね。喉元を過ぎてしまえば、あとに残るようなこともない。
 昼食にお雑煮を食べてから、帰り支度を始める。伯父さんたちも帰る準備をしているようだ。たつみは寂しそうな顔で年上の従兄弟たちを見ている。賑やかだったからから寂しさもひとしおなのだろう。
「また来てね!」
 車に乗った僕らの姿が見えなくなるまで、たつみとこずえは手を振り続けていた。僕も手を振り返す。やっぱり来て良かった。しみじみとそう思えるよ。

<つづく>

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