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![]() | トランスガール―変質系少女― (アンリアルコミックス 62) (2010/12/20) 砕骨子 商品詳細を見る |
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![]() | まおまりも 1 (ジェッツコミックス) (2011/02/28) 堀北 蒼 商品詳細を見る |
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3.チェンジH white (TSコミックス)
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4/18~24の順位
1.にょたいかっ。③ (MFコミックス コミックファクトリーシリーズ)
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2.TSF物語 (MUJIN COMICS)
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3.邪悪な魔王が伝説の女勇者に転生したようです (あとみっく文庫 30)
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水曜イラスト企画 絵師 白弥さん(4) 仮名:セシル
セシル(入れ替わり)
蒼髪がトレードマークの美剣士。西洋、東洋、混合の闘技大会の決勝戦出場者。相手は東洋から来たくのいちの女性(長身、姫カット、女の体を武器にした、くのいち衣装、妖艶、肉感的)。主人公は剣技と軽い魔法、女のほうは駆け引きと忍者武器、そして魅惑の女体を使い、戦う。一瞬の隙をつき、くのいちの女が主人公に組み付き、二人はそのまま場外に堕ちて、試合はドロー。意識を取り戻していたら、お互いの体が入れ替わっていた上に何者かが混乱に乗じて優勝賞品を盗んでいた。二人とも優勝賞品が必要で、仕方無しに協定を結ぶ剣士と、くのいち。
しかし、主人公はくのいちの、露出狂じみた忍者衣装を恥かしがるなど、前途多難だった。

絵師:白弥
水曜イラスト企画の説明はこちら。毎週1枚キャライラストをUPします。
本キャラを主人公/脇役にしたSSを募集しています。コメント欄に書き込んでください。(事故を防ぐため別途ローカル保存推奨)追加イラストを希望する場合は希望シーンに<イラスト希望>と書き込んでください。私が了承し、絵師さんも乗った場合はイラストの作成を開始します。
蒼髪がトレードマークの美剣士。西洋、東洋、混合の闘技大会の決勝戦出場者。相手は東洋から来たくのいちの女性(長身、姫カット、女の体を武器にした、くのいち衣装、妖艶、肉感的)。主人公は剣技と軽い魔法、女のほうは駆け引きと忍者武器、そして魅惑の女体を使い、戦う。一瞬の隙をつき、くのいちの女が主人公に組み付き、二人はそのまま場外に堕ちて、試合はドロー。意識を取り戻していたら、お互いの体が入れ替わっていた上に何者かが混乱に乗じて優勝賞品を盗んでいた。二人とも優勝賞品が必要で、仕方無しに協定を結ぶ剣士と、くのいち。
しかし、主人公はくのいちの、露出狂じみた忍者衣装を恥かしがるなど、前途多難だった。

絵師:白弥
水曜イラスト企画の説明はこちら。毎週1枚キャライラストをUPします。
本キャラを主人公/脇役にしたSSを募集しています。コメント欄に書き込んでください。(事故を防ぐため別途ローカル保存推奨)追加イラストを希望する場合は希望シーンに<イラスト希望>と書き込んでください。私が了承し、絵師さんも乗った場合はイラストの作成を開始します。
チェンジH white
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『新入社員はご用心』
作.うずら
挿絵.T
詰め込まれた研修室であくびをかみ殺す。……殺すってどういうことなのだろう。実際に口を閉じてはいるものの、あくび自体はでているわけで。死んでないよな。
春のうららかな日差しの中、夢と現のセンターラインをさまよいながらぼうっと考える。いや、考えている気になっているだけで、ほんとうはただの夢なのかもしれない。
これじゃだめだ。思い直して、姿勢を正す。前や横には、おれと同じように新しいスーツを着た若者が何人も座っている。
ノートにメモを取ってるやつ。睡魔と戦ってるやつ。すでに降伏したやつ。一番多いのは、おれも含めて真ん中だ。でも、それも致し方ないと思う。
ぬるまゆい学生生活を自堕落に過ごしてきた人間は、きっと多い。それがたかが十日間程度でいっぱしの社会人になれるわけがない。わかりきっていることだ。
ああ、ちゃんと聞かないと。そう思うのに、講師担当のなんとかさんの言うことが全然頭に入ってこない。
「寝ているのもいるけどな、これからの人生を左右するんだから、ちゃんと――」
ああ、だめだ、ねむい……。
――長い。そのうえ多い。そして決まりきった一言が添えられる。
「社員の私生活を応援します」
これが新入社員歓迎会でなかったら、通販のコマーシャルか悪徳商法の客引きかと勘違いしかねない。
隣の部屋から歓声が漏れ聞こえてくる。そのすぐ後に、轟きと言っていいようなどよめきまで。ずいぶんと盛り上がっているみたいだ。
それに引き換え、こっちは……。前に並ばされて緊張していたけれど、社長に常務に専務に取締役に……。ぞろぞろと出てきたお偉いさま方の決め台詞に大分飽き飽きしてきた。うんざりといってもいいかもしれない。
もちろん、おれも横に居る同期も、その文句に惹かれて入ってきたのは間違いない。ただ揃いも揃って同じ文句を垂れ流されると、逆に不安になってくる。
言えば言うほど怪しいってわけでもないけど、こびり付いてくる不信感はぬぐえない。
もっとも、それより問題なのは、ずっと続いている眠気だったりする。少し身体を動かしたり、あくびにとどめを刺す方法を考えてたりしても、まぶたは落ちてくる。あとこの状況が五分も続いていたら、立ったまま寝ていたかもしれない。
「以上で私からのお祝いの言葉とさせていただきます」
「ありがとうございました。……さて、それではお待ちかねの時間がやってまいりました!」
司会のなんとかさんが言うなり、会場のボルテージが一気に高まった。
地鳴りのような雄たけびと、黄色い歓声。あまりのテンションの違いに、一気に意識が覚醒させられる。
一応ここ、ホテルなんだけど……出入り禁止とかになりそうな勢いだ。ああ、でも隣も大丈夫そうだったし、いいのか。案外ホテルってなんでもありなのかもしれない。
でも、いったいなんだっていうんだ。日本社会にありがちな、強制一発芸とかだろうか。それにしてはこの盛り上がりは、おかしい気がする。
「なんか、知ってるか?」
顔をあげて、隣のノッポにささやく。途端、何を言っているんだといわんばかりに、眉間にしわが寄った。
別に睨んでいるわけでもないだろうけど、険しい顔で見下ろされるのは心中穏やかでいられない。
「なんだよ?」
「知らないのが、逆に驚きだよ。今日の昼に説明されたし……そもそも……もしかして、知らずに入ってきたわけないよね」
今度は鼻で嗤われてしまった。いままでならいざ知らず、ここで殴りかかるわけにはいかない。おれは大人、おれは社会人……。
「いまここに居るみなさんのなかで、ルールを知らない人は……っているわけありませんね。それでは始めさせていただきます!」
合図があるなり、ガラガラと台車が運ばれてくる。その上に載っているのは……ルーレット? 見ると大小入り混じった枠には営業、開発……などと書かれている。
何日か前につめこまれた知識を引っ張り出す。枠のサイズと人員の割合が、だいたい同じぐらいのようだ。たぶん、きっと、そのはず。え、で、これ、どうするの?
「さあ、それでは飯田くん、どうぞ」
呼ばれてルーレットの前に立たされた飯田某くん。同期の中では社員番号が一番若い。要は、五十音順のトップ。その彼に針……ダーツの矢が手渡された。
もしかして、これで配属が決まる、のか? マジかよ。大丈夫か、そんな適当で、この会社。いや、どう考えてもダメだろ。入社二週間で後悔する羽目になるとは思わなかった。
でも、そんなことを思っているのはおれだけみたいで。先輩達も同期もノリノリだ。社長まで、ちゃんと狙えよなどと声を出している。
「それでは、ルーレット、スタートっ!」
先輩社員が二人、大きな板を力いっぱい回す。すごい勢いだ。文字どころか、枠の色すら判別がつかない。
ややあって、飯田くんが投げた。回転が弱くなり、刺さっていたそこは――
「飯田くん、営業です!」
大きな歓声と小さなブーイング。まあ、比率も一番多いし。ただ、もっさりしたイメージの彼には荷が重いような。……ってあれ、あいつあんなにスマートだったっけ?
見た目が変わっているわけではない、よな。でも、なんだか身のこなしにキレがあるというか、洗練されている印象を受ける。営業になったから、気が引き締まったとか? いやいや、人間そんな簡単な生き物じゃないだろう。
そうこうしているうちに次から次へと同期の配属先が決まっていく。短い付き合いだから、それぞれの深いところまで知っているわけでは、当然ない。でも、明らかにこのルーレットはおかしい。
飯田くんだけではない。開発に当たったやつが急に生真面目な表情になったり。営業に当たったノッポのしかめっ面が柔らかくなったり。
って、あとおれだけか!?
「それでは最後、渡良瀬くん。今年はもうひとつ盛り上がりに掛けるので、トリの彼には期待したいと思います!」
会場の熱気にやられたのか、それとも場の空気のなせる業か。頭がぼうっとして、身体が勝手に動くような錯覚に陥った。手渡された矢の感触すらあいまいだ。
それでも、構えて、投げた。
どくんどくんと心臓が跳ねる。
「さあ……渡良瀬くんは……、おおおおお!?」
おれの矢は、細い細いピンクの枠で。今までにない大歓声が沸き起こる。
「なんとなんと、ここで秘書課だあ!!」
ぐにゃりと視界が歪んだ。テレビである幽体離脱のように、自分が自分を見下ろしている感覚。
手足が小さく、細くなっていく。胴周りや肩幅、胸板もひどく華奢に。目はぱっちりと大きく、対照的に鼻や口は小ぶりに。とがっていたアゴはきれいな曲線を描く。
髪が一瞬持ち上がったかと思うと、ふわふわとウェーブのかかったロングヘアが降っていく。
だぼだぼになった黒いリクルートスーツがぐにょぐにょと形を変える。襟や袖口が丸みを帯び、白く身体にフィットしたものになっていく。ネクタイもボウタイになり、ワイシャツもフリルのついたブラウスへと変わった。
固い革靴がきゅっと縮まり、ヒールがかかとを押し上げる。すべすべの生脚を薄く広がった靴下が覆いつくす。
「ひっ」
その感触に小さく悲鳴を上げたとき、おれはおれの中に戻ってきた。
「あ、え……これ……」
か細い声。顔をさわっても、身体をさわっても自分のものではないことしかわからない。
「渡良瀬くん、いや、渡良瀬さん、今のお気持ちは?」
聞いておきながら司会の先輩はおれからマイクを遠ざける。
「あの、これ、おれ、もとに……」

「ふんふん……なんとなんと、こんなにかわいい女の子になれて嬉しいです! とのコメントでした!!」
「ち、ちがっ」
「さあ、それではみなさん、しばしご歓談をお楽しみください!」
司会の先輩がそういうなり小走りに立ち去った。
追いすがろうとしたおれの前に、甘い壁が立ちふさがった。驚きのあまり、情けない声が出てしまう。
「ひぅっ」
「渡良瀬さん、これから女の子としての心得から、全部教えてあげるからね」
「でも、すごくかわいくなったよねー」
「ほんとほんと。ちっちゃいし、なんか小動物チックだし」
気がつくと、明らかにおれよりでっかいお姉さま方に、四方を囲まれていた。
「それじゃ、せーのっ」
「「「ようこそ、秘書課へ」」」
おれの下宿はその日のうちに、女子寮へと移された。下着も服も本も、すべて女性用に変えられたうえで……。
たしかに“私生活を応援”しているかもしれないけど……。
「こんなのってないよーっ!!」
挿絵.T
詰め込まれた研修室であくびをかみ殺す。……殺すってどういうことなのだろう。実際に口を閉じてはいるものの、あくび自体はでているわけで。死んでないよな。
春のうららかな日差しの中、夢と現のセンターラインをさまよいながらぼうっと考える。いや、考えている気になっているだけで、ほんとうはただの夢なのかもしれない。
これじゃだめだ。思い直して、姿勢を正す。前や横には、おれと同じように新しいスーツを着た若者が何人も座っている。
ノートにメモを取ってるやつ。睡魔と戦ってるやつ。すでに降伏したやつ。一番多いのは、おれも含めて真ん中だ。でも、それも致し方ないと思う。
ぬるまゆい学生生活を自堕落に過ごしてきた人間は、きっと多い。それがたかが十日間程度でいっぱしの社会人になれるわけがない。わかりきっていることだ。
ああ、ちゃんと聞かないと。そう思うのに、講師担当のなんとかさんの言うことが全然頭に入ってこない。
「寝ているのもいるけどな、これからの人生を左右するんだから、ちゃんと――」
ああ、だめだ、ねむい……。
――長い。そのうえ多い。そして決まりきった一言が添えられる。
「社員の私生活を応援します」
これが新入社員歓迎会でなかったら、通販のコマーシャルか悪徳商法の客引きかと勘違いしかねない。
隣の部屋から歓声が漏れ聞こえてくる。そのすぐ後に、轟きと言っていいようなどよめきまで。ずいぶんと盛り上がっているみたいだ。
それに引き換え、こっちは……。前に並ばされて緊張していたけれど、社長に常務に専務に取締役に……。ぞろぞろと出てきたお偉いさま方の決め台詞に大分飽き飽きしてきた。うんざりといってもいいかもしれない。
もちろん、おれも横に居る同期も、その文句に惹かれて入ってきたのは間違いない。ただ揃いも揃って同じ文句を垂れ流されると、逆に不安になってくる。
言えば言うほど怪しいってわけでもないけど、こびり付いてくる不信感はぬぐえない。
もっとも、それより問題なのは、ずっと続いている眠気だったりする。少し身体を動かしたり、あくびにとどめを刺す方法を考えてたりしても、まぶたは落ちてくる。あとこの状況が五分も続いていたら、立ったまま寝ていたかもしれない。
「以上で私からのお祝いの言葉とさせていただきます」
「ありがとうございました。……さて、それではお待ちかねの時間がやってまいりました!」
司会のなんとかさんが言うなり、会場のボルテージが一気に高まった。
地鳴りのような雄たけびと、黄色い歓声。あまりのテンションの違いに、一気に意識が覚醒させられる。
一応ここ、ホテルなんだけど……出入り禁止とかになりそうな勢いだ。ああ、でも隣も大丈夫そうだったし、いいのか。案外ホテルってなんでもありなのかもしれない。
でも、いったいなんだっていうんだ。日本社会にありがちな、強制一発芸とかだろうか。それにしてはこの盛り上がりは、おかしい気がする。
「なんか、知ってるか?」
顔をあげて、隣のノッポにささやく。途端、何を言っているんだといわんばかりに、眉間にしわが寄った。
別に睨んでいるわけでもないだろうけど、険しい顔で見下ろされるのは心中穏やかでいられない。
「なんだよ?」
「知らないのが、逆に驚きだよ。今日の昼に説明されたし……そもそも……もしかして、知らずに入ってきたわけないよね」
今度は鼻で嗤われてしまった。いままでならいざ知らず、ここで殴りかかるわけにはいかない。おれは大人、おれは社会人……。
「いまここに居るみなさんのなかで、ルールを知らない人は……っているわけありませんね。それでは始めさせていただきます!」
合図があるなり、ガラガラと台車が運ばれてくる。その上に載っているのは……ルーレット? 見ると大小入り混じった枠には営業、開発……などと書かれている。
何日か前につめこまれた知識を引っ張り出す。枠のサイズと人員の割合が、だいたい同じぐらいのようだ。たぶん、きっと、そのはず。え、で、これ、どうするの?
「さあ、それでは飯田くん、どうぞ」
呼ばれてルーレットの前に立たされた飯田某くん。同期の中では社員番号が一番若い。要は、五十音順のトップ。その彼に針……ダーツの矢が手渡された。
もしかして、これで配属が決まる、のか? マジかよ。大丈夫か、そんな適当で、この会社。いや、どう考えてもダメだろ。入社二週間で後悔する羽目になるとは思わなかった。
でも、そんなことを思っているのはおれだけみたいで。先輩達も同期もノリノリだ。社長まで、ちゃんと狙えよなどと声を出している。
「それでは、ルーレット、スタートっ!」
先輩社員が二人、大きな板を力いっぱい回す。すごい勢いだ。文字どころか、枠の色すら判別がつかない。
ややあって、飯田くんが投げた。回転が弱くなり、刺さっていたそこは――
「飯田くん、営業です!」
大きな歓声と小さなブーイング。まあ、比率も一番多いし。ただ、もっさりしたイメージの彼には荷が重いような。……ってあれ、あいつあんなにスマートだったっけ?
見た目が変わっているわけではない、よな。でも、なんだか身のこなしにキレがあるというか、洗練されている印象を受ける。営業になったから、気が引き締まったとか? いやいや、人間そんな簡単な生き物じゃないだろう。
そうこうしているうちに次から次へと同期の配属先が決まっていく。短い付き合いだから、それぞれの深いところまで知っているわけでは、当然ない。でも、明らかにこのルーレットはおかしい。
飯田くんだけではない。開発に当たったやつが急に生真面目な表情になったり。営業に当たったノッポのしかめっ面が柔らかくなったり。
って、あとおれだけか!?
「それでは最後、渡良瀬くん。今年はもうひとつ盛り上がりに掛けるので、トリの彼には期待したいと思います!」
会場の熱気にやられたのか、それとも場の空気のなせる業か。頭がぼうっとして、身体が勝手に動くような錯覚に陥った。手渡された矢の感触すらあいまいだ。
それでも、構えて、投げた。
どくんどくんと心臓が跳ねる。
「さあ……渡良瀬くんは……、おおおおお!?」
おれの矢は、細い細いピンクの枠で。今までにない大歓声が沸き起こる。
「なんとなんと、ここで秘書課だあ!!」
ぐにゃりと視界が歪んだ。テレビである幽体離脱のように、自分が自分を見下ろしている感覚。
手足が小さく、細くなっていく。胴周りや肩幅、胸板もひどく華奢に。目はぱっちりと大きく、対照的に鼻や口は小ぶりに。とがっていたアゴはきれいな曲線を描く。
髪が一瞬持ち上がったかと思うと、ふわふわとウェーブのかかったロングヘアが降っていく。
だぼだぼになった黒いリクルートスーツがぐにょぐにょと形を変える。襟や袖口が丸みを帯び、白く身体にフィットしたものになっていく。ネクタイもボウタイになり、ワイシャツもフリルのついたブラウスへと変わった。
固い革靴がきゅっと縮まり、ヒールがかかとを押し上げる。すべすべの生脚を薄く広がった靴下が覆いつくす。
「ひっ」
その感触に小さく悲鳴を上げたとき、おれはおれの中に戻ってきた。
「あ、え……これ……」
か細い声。顔をさわっても、身体をさわっても自分のものではないことしかわからない。
「渡良瀬くん、いや、渡良瀬さん、今のお気持ちは?」
聞いておきながら司会の先輩はおれからマイクを遠ざける。
「あの、これ、おれ、もとに……」

「ふんふん……なんとなんと、こんなにかわいい女の子になれて嬉しいです! とのコメントでした!!」
「ち、ちがっ」
「さあ、それではみなさん、しばしご歓談をお楽しみください!」
司会の先輩がそういうなり小走りに立ち去った。
追いすがろうとしたおれの前に、甘い壁が立ちふさがった。驚きのあまり、情けない声が出てしまう。
「ひぅっ」
「渡良瀬さん、これから女の子としての心得から、全部教えてあげるからね」
「でも、すごくかわいくなったよねー」
「ほんとほんと。ちっちゃいし、なんか小動物チックだし」
気がつくと、明らかにおれよりでっかいお姉さま方に、四方を囲まれていた。
「それじゃ、せーのっ」
「「「ようこそ、秘書課へ」」」
おれの下宿はその日のうちに、女子寮へと移された。下着も服も本も、すべて女性用に変えられたうえで……。
たしかに“私生活を応援”しているかもしれないけど……。
「こんなのってないよーっ!!」
―俺が人形のはずがない!― by.Cマリオ
キャライラスト:あまつ凛

初めに言っておくが、これは過去の話だ。
俺は遊園地に来ていた。
まあ、漠然と遊園地といわれてもいろいろあってどんな所かまではわからないだろうが、皆がもつ遊園地の要素をこれでもかってくらいに詰め込んだアトラクション施設だ。…簡単に言えば、国内最大級のアトラクション施設と言えばみんな察してくれるだろう。
今日は久しぶりの休日としてある女性と待ち合わせをしている。
久しぶりというのはどれくらいかと言うと最近始めたバイトが忙しく、一カ月、毎日朝ご飯を食べず、バイト先のまかないだけで衣食住のうちの食を全て済ませてしまうようなほどの日常からするとかなり久しぶりだということが分かってもらえると思う。
そのため、今待っているある女性にとても不愉快な思いをさせてしまったため、償いとしてこの場に招待し、ご機嫌取りをしようとしている真っ最中なのだ。
(しかし、遅いな…。50分くらい経つぞ。それに人が多く集まり始めたし。)
この遊園地内のどこら辺にいるかと言うともちろん入場口だ。待ち合わせとしては駅前でもよかったんだが彼女曰く、駅の待ち合わせに飽きたそうだ。なので彼女の言うとおりに従い、駅ではなく遊園地の入場口付近のベンチに腰を下している。しかし、遊園地などといった数人以上で楽しむ娯楽施設の前で一人でぽっつうんっといるとなんだか孤独感に似た寂しさを感じる。理由は簡単だ。目の前には若い学生くらいの少年少女たちがわいわいと話しながら誰かを待っていたり、人数が集まったのか入場口を通って中に入っていく光景を50分近く見ているからだ。
それに今日が日曜ということもあるだろうが、いつもより客足が多く、二、三割増しで客の人数が多い。今が春先であることが大きな影響をもたらしているのであろう。卒業旅行。今の時期には多く見られる学生たちの最後のイベントだ。
そんな彼らの姿見て、ふと自分が行った高校時代の卒業旅行を思い出し、少し暖かい気持ちになりながら右手首にに付けた時計を見る。
(10時のはずだよな…)
現在時は10時より50分以上経過しており、もうすぐで長い針が11の数字のところまで来そうなくらいだった。
待ち合わせ場所もしくは時間を間違えたのでは?っと思い、ジーパンの右ポケットから最新機!ではないが小奇麗な携帯電話を取り出し、バイトの合間合間に送った彼女とのメールのうち、時間と場所らしき名前が書かれている一件の受信メールを開く。
そこにはやはり10時と書いてあり、場所も今居るベンチのことを指していた。
少し眉を歪めながらも他に時間の指定や、場所の変更したことを告げるような内容はないだろうかと思い、一つずつ彼女から送られてきたメールを見直し始めた。
「お~い。希流く~ん」
再びメールを確認するべく、視線を携帯電話に落としたが、聞き覚えのある声と、自分―雪宮希流を呼ぶ声に気付き、発せられた方向を見る。
そこには一カ月ぶりに見る“彼女”の姿があった。
---
「ごめん!一時間近くも遅刻しちゃって、私から場所も時間も指定したのに…。」
彼女は少し罰の悪い表情をしながら両手を合わせて祈るように謝っていた。
正直待たされたことに対しては別に気にしていない。目の前の彼女が時間を守るのが苦手なのは知っているからである。しかも今回は彼女のご機嫌取りのために行われたデートだ。まあ、これほど長いことはなかったが…。
…話の流れで分かっているとは思うが今、彼女、彼女と目の前にいる女性を呼んでいるが別に三人称の“彼女”という意味で使っていいたわけではない。そうこの目の前の彼女は俺の恋人であるからだ。
今回のお機嫌取りも彼女がデートしてくれないとご立腹な様子がうかがえるようなメールを送ってきたことから始まる。なぜ電話ではないのかと思うだろうが、それには理由があり、彼女が口では遠慮しがちな性分なためだからだ。今回のデートでも彼女が満足しているかどうかは言葉として表しては絶対にしてくれないだろう。だから最大限の配慮と誠意をもって接しなければ今回のご機嫌取りという名のデートも失敗という形になってしまう可能性もあるのだ。
「大丈夫。待つの嫌いじゃないからさ。それよりも行こうか。」
彼女にウソを言うのはベターではないがそれなりのデートらしさの雰囲気を保たないとこの場では及第点をもらえないかもしれない。俺は彼女をエスコートする形で先に買っておいた入場券を取り出し、入場口に向い歩き始めた。それに対して彼女はニコニコしながら俺の腕に寄り添う形で腕を巻きつけてきた。今日はこの笑顔を最後まで保ち続けられるように配慮しなければならない。俺の彼女に尽くすデートプランをある程度用意したから大丈夫だろうと考えながら彼女の様子を窺う。けれど、彼女に今日は尽くそうと考えていたが、それ以上に彼女と会って浮かれている自分がいることに気付いた。彼女の笑顔を見ると何故だか先ほど卒業旅行に来ていた少年少女たちを見ていた時の気持ちの暖かさよりもさらに暖かな感情が渦巻いていることにうすうす気づいたからだろう。
(楽しいな~こういった“普通な日常”。……世界が平和でありますように。)
……しかし、初めにも言ったがこれは過去の話だ。
「お~い、なに呆けてるんだ?正気にもどんな!」
ベシッ
俺の顔面に“大きな中指”がデコピンの要用で放たれた。
その一撃は俺が現実逃避していたことを自覚させ、さらに絶望を知る大きな衝撃の一つとなった。けれど物理的には差ほど大きな力を入れていなかったのだろう、2、3歩後ろに後退したくらいで、倒れるほどもものではなった。
………けれど、逆にいえばある程度力を入れたデコピンなら倒れるのだ、今の俺にとっては。
放ったあとそのままにしてある中指を見る、大きさが“今の俺の頭の3分の2”くらいあるだろう指先を…。そして、さらに指先の根元をたどり、睨むように見る、“今のこの指の持ち主である俺の顔をした誰か”を……
「どうですか? いい加減、私の身体は気に行っていただけましたかな?」
目の前の俺は先ほどの乱暴な口調とは違い丁寧な言葉で話す。しかし、誰がどう聞こうとも相手をおちょくるような口調で、なおかつ自分が優越感に浸っているような表情でこちらを見下ろしていた。俺はニヤケテいる自分の顔を見るのが嫌になり、左の方に視線をずらす。
「あれれ~?どうかなさいましたか~?…ああそうか!自分の姿を見たいのですね!」
目の前の俺は、俺にとってありえないほどの巨人で、両手を使えば今の俺の身体全体を包むことも容易ではないだろうかと思わずにはいられないほどの巨体を動かし、あるものを俺の前に突きつけた。それは今の俺の身体より大きな物で、洗面器などでよく見られる大きさのものだ。それは光を反射させ、映るものを両サイド反転させて映らせるというとても便利な道具だった。鏡だ。目の前の俺が俺に突きつけてきたものは鏡なのだ。俺は突きつけられた鏡で今の自分の姿を見てため息を吐いた。何度見ても変わらず、元に戻らない姿。
突きつけられた鏡の中には金髪のカッシャを付けた可愛らしい“人形”の姿があった。
(どうしてこんなことになってしまったんだろう……)
俺は綺麗な金髪をグシャグシャにしながら頭を抱えその場にへ垂れこんだ。

初めに言っておくが、これは過去の話だ。
俺は遊園地に来ていた。
まあ、漠然と遊園地といわれてもいろいろあってどんな所かまではわからないだろうが、皆がもつ遊園地の要素をこれでもかってくらいに詰め込んだアトラクション施設だ。…簡単に言えば、国内最大級のアトラクション施設と言えばみんな察してくれるだろう。
今日は久しぶりの休日としてある女性と待ち合わせをしている。
久しぶりというのはどれくらいかと言うと最近始めたバイトが忙しく、一カ月、毎日朝ご飯を食べず、バイト先のまかないだけで衣食住のうちの食を全て済ませてしまうようなほどの日常からするとかなり久しぶりだということが分かってもらえると思う。
そのため、今待っているある女性にとても不愉快な思いをさせてしまったため、償いとしてこの場に招待し、ご機嫌取りをしようとしている真っ最中なのだ。
(しかし、遅いな…。50分くらい経つぞ。それに人が多く集まり始めたし。)
この遊園地内のどこら辺にいるかと言うともちろん入場口だ。待ち合わせとしては駅前でもよかったんだが彼女曰く、駅の待ち合わせに飽きたそうだ。なので彼女の言うとおりに従い、駅ではなく遊園地の入場口付近のベンチに腰を下している。しかし、遊園地などといった数人以上で楽しむ娯楽施設の前で一人でぽっつうんっといるとなんだか孤独感に似た寂しさを感じる。理由は簡単だ。目の前には若い学生くらいの少年少女たちがわいわいと話しながら誰かを待っていたり、人数が集まったのか入場口を通って中に入っていく光景を50分近く見ているからだ。
それに今日が日曜ということもあるだろうが、いつもより客足が多く、二、三割増しで客の人数が多い。今が春先であることが大きな影響をもたらしているのであろう。卒業旅行。今の時期には多く見られる学生たちの最後のイベントだ。
そんな彼らの姿見て、ふと自分が行った高校時代の卒業旅行を思い出し、少し暖かい気持ちになりながら右手首にに付けた時計を見る。
(10時のはずだよな…)
現在時は10時より50分以上経過しており、もうすぐで長い針が11の数字のところまで来そうなくらいだった。
待ち合わせ場所もしくは時間を間違えたのでは?っと思い、ジーパンの右ポケットから最新機!ではないが小奇麗な携帯電話を取り出し、バイトの合間合間に送った彼女とのメールのうち、時間と場所らしき名前が書かれている一件の受信メールを開く。
そこにはやはり10時と書いてあり、場所も今居るベンチのことを指していた。
少し眉を歪めながらも他に時間の指定や、場所の変更したことを告げるような内容はないだろうかと思い、一つずつ彼女から送られてきたメールを見直し始めた。
「お~い。希流く~ん」
再びメールを確認するべく、視線を携帯電話に落としたが、聞き覚えのある声と、自分―雪宮希流を呼ぶ声に気付き、発せられた方向を見る。
そこには一カ月ぶりに見る“彼女”の姿があった。
---
「ごめん!一時間近くも遅刻しちゃって、私から場所も時間も指定したのに…。」
彼女は少し罰の悪い表情をしながら両手を合わせて祈るように謝っていた。
正直待たされたことに対しては別に気にしていない。目の前の彼女が時間を守るのが苦手なのは知っているからである。しかも今回は彼女のご機嫌取りのために行われたデートだ。まあ、これほど長いことはなかったが…。
…話の流れで分かっているとは思うが今、彼女、彼女と目の前にいる女性を呼んでいるが別に三人称の“彼女”という意味で使っていいたわけではない。そうこの目の前の彼女は俺の恋人であるからだ。
今回のお機嫌取りも彼女がデートしてくれないとご立腹な様子がうかがえるようなメールを送ってきたことから始まる。なぜ電話ではないのかと思うだろうが、それには理由があり、彼女が口では遠慮しがちな性分なためだからだ。今回のデートでも彼女が満足しているかどうかは言葉として表しては絶対にしてくれないだろう。だから最大限の配慮と誠意をもって接しなければ今回のご機嫌取りという名のデートも失敗という形になってしまう可能性もあるのだ。
「大丈夫。待つの嫌いじゃないからさ。それよりも行こうか。」
彼女にウソを言うのはベターではないがそれなりのデートらしさの雰囲気を保たないとこの場では及第点をもらえないかもしれない。俺は彼女をエスコートする形で先に買っておいた入場券を取り出し、入場口に向い歩き始めた。それに対して彼女はニコニコしながら俺の腕に寄り添う形で腕を巻きつけてきた。今日はこの笑顔を最後まで保ち続けられるように配慮しなければならない。俺の彼女に尽くすデートプランをある程度用意したから大丈夫だろうと考えながら彼女の様子を窺う。けれど、彼女に今日は尽くそうと考えていたが、それ以上に彼女と会って浮かれている自分がいることに気付いた。彼女の笑顔を見ると何故だか先ほど卒業旅行に来ていた少年少女たちを見ていた時の気持ちの暖かさよりもさらに暖かな感情が渦巻いていることにうすうす気づいたからだろう。
(楽しいな~こういった“普通な日常”。……世界が平和でありますように。)
……しかし、初めにも言ったがこれは過去の話だ。
「お~い、なに呆けてるんだ?正気にもどんな!」
ベシッ
俺の顔面に“大きな中指”がデコピンの要用で放たれた。
その一撃は俺が現実逃避していたことを自覚させ、さらに絶望を知る大きな衝撃の一つとなった。けれど物理的には差ほど大きな力を入れていなかったのだろう、2、3歩後ろに後退したくらいで、倒れるほどもものではなった。
………けれど、逆にいえばある程度力を入れたデコピンなら倒れるのだ、今の俺にとっては。
放ったあとそのままにしてある中指を見る、大きさが“今の俺の頭の3分の2”くらいあるだろう指先を…。そして、さらに指先の根元をたどり、睨むように見る、“今のこの指の持ち主である俺の顔をした誰か”を……
「どうですか? いい加減、私の身体は気に行っていただけましたかな?」
目の前の俺は先ほどの乱暴な口調とは違い丁寧な言葉で話す。しかし、誰がどう聞こうとも相手をおちょくるような口調で、なおかつ自分が優越感に浸っているような表情でこちらを見下ろしていた。俺はニヤケテいる自分の顔を見るのが嫌になり、左の方に視線をずらす。
「あれれ~?どうかなさいましたか~?…ああそうか!自分の姿を見たいのですね!」
目の前の俺は、俺にとってありえないほどの巨人で、両手を使えば今の俺の身体全体を包むことも容易ではないだろうかと思わずにはいられないほどの巨体を動かし、あるものを俺の前に突きつけた。それは今の俺の身体より大きな物で、洗面器などでよく見られる大きさのものだ。それは光を反射させ、映るものを両サイド反転させて映らせるというとても便利な道具だった。鏡だ。目の前の俺が俺に突きつけてきたものは鏡なのだ。俺は突きつけられた鏡で今の自分の姿を見てため息を吐いた。何度見ても変わらず、元に戻らない姿。
突きつけられた鏡の中には金髪のカッシャを付けた可愛らしい“人形”の姿があった。
(どうしてこんなことになってしまったんだろう……)
俺は綺麗な金髪をグシャグシャにしながら頭を抱えその場にへ垂れこんだ。
にょたいかっ。3
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水曜イラスト企画 絵師:あまつ凛さん(5) 仮名:雪宮 希流【きりゅう】
雪宮 希流【きりゅう】(入れ替わり】
多少、美形だが普通の大学生。恋人有り。
ある日、恋人が買ったアンティーク人形(ゴシックロリータ系の人形)に体を奪われてしまう。その後、なんとか元に戻ろうとするのだが……。
絵師:あまつ凛

水曜イラスト企画の説明はこちら。毎週1枚キャライラストをUPします。
本キャラを主人公/脇役にしたSSを募集しています。コメント欄に書き込んでください。(事故を防ぐため別途ローカル保存推奨)追加イラストを希望する場合は希望シーンに<イラスト希望>と書き込んでください。私が了承し、絵師さんも乗った場合はイラストの作成を開始します。
多少、美形だが普通の大学生。恋人有り。
ある日、恋人が買ったアンティーク人形(ゴシックロリータ系の人形)に体を奪われてしまう。その後、なんとか元に戻ろうとするのだが……。
絵師:あまつ凛

水曜イラスト企画の説明はこちら。毎週1枚キャライラストをUPします。
本キャラを主人公/脇役にしたSSを募集しています。コメント欄に書き込んでください。(事故を防ぐため別途ローカル保存推奨)追加イラストを希望する場合は希望シーンに<イラスト希望>と書き込んでください。私が了承し、絵師さんも乗った場合はイラストの作成を開始します。
「新入社員にご用心」(4) 作.ありす 挿絵.T
(4)-------------------------------------------------------
勤務評定に差し支えては困るからと何度も自分に言い聞かせ、女子用制服(もちろんスカート)に着替え、部屋に戻った。
周囲に“おおぉ~”というざわめきが起こる。
名実ともに女子社員デビューだ。ちくしょぉッ!
そして昼休み。例によってカオルは、自分とおれの分の昼食を買出しに出かけていた。
おれは部屋の隅にある応接テーブルに、ランチョンマットと即席みそ汁の入った紙コップを二人分用意していると、甘井先輩が話しかけてきた。
「もうどこから見ても、完璧な女子社員だな」
「余計なお世話です」
「ふむ。ところで、知っていたか? 小鳥遊。 後天性性転換症って、キスぐらいじゃ伝染らないんだそうだぞ」
「へー、そうなんですか……えっ!? い、今なんて?」
「お前たちもヤることはヤってたんだな。遅くなったが脱童貞おめでとう。そしていずれ迎える、或いは迎えたであろう処女喪失に」
お茶の入った紙コップを、祝杯のように掲げた先輩がニヤニヤしながら言う。
「ちょっと待ってください! キスぐらいじゃ伝染らないって、本当ですか?!」
既に2度目の声変わりを果たしてしまっていたおれは、ハイトーンの叫び声を上げた。
性転換症は体液交換で人から人に伝染る。それは聞いた。
だからおれはあの時、キスされたから自分も感染したと思ったんだ。
だから、カオルの誘いもあって、その……むにゃむにゃもした。
お互いに性別が、完全に入れ替わってしまう前にと思って……。
あの時カオルは、『こんなに早く、僕のことを受け入れてくれるなんて』と感極まって涙ぐんでいた。そのときは、こっちも“童貞喪失の最後のチャンス”と下心があったから、適当に受け流していたのだが、よもやそう言うトラップだったとは!!
「お前ってほんと、面白い奴だよな。特に彼女たちにとっては、格好の餌食みたいだぞ?」
先輩の指差す先には、もうこれ以上はないっていうぐらいに、好奇の目で悶絶している女子社員達がいた。
しまった! 今のを聞かれたか……。
先週までは会社では頑なに男性用スーツで通していたおれと、会社では入社した時から男性として通してきたカオル。
彼女たちがどんな想像を、おれ達でしているのか考えたくない。
そういえばあの新人歓迎会の事件、3人で別室に移った時も先輩は、妙に落ち着いていた。
おれが完全にパニクっていたにもかかわらず、あの二人は平然としていた。
「もしかして先輩、最初から全部知って……。いえ、仕組んでいたんじゃないんですか?」
「さあな。だが、社長は人事から知らされていたみたいだぞ。自分の姪が入社したことをな」
なんだって!? カオルが社長の姪!?
ということは、これは完全に仕組まれていたことで、何も知らなかったのは俺だけだったってことか!?
「ちくしょう! ハメられたっ!」
テーブルをだんっ!と叩くと、
「何を乱暴な言葉遣いしているんだい?」
ちょうど買出しを終えて戻ってきたカオルに、おれは言葉遣いを咎められた。
カオルは俺にぞっこんだけあって、色々と甘やかしてくれるが、乱暴な仕草や言葉遣いをすると、顔を曇らせて矯正を試みる。
「せっかくの可愛らしい制服姿が台無しだよ? もう少し、女らしく」
へっへんーだ!
おれは自分の事、女だとは思っていないモンね!
これは歓迎会の時にした女装と同じだと思えば、なんて事は無い!
体のほうはともかく……。
だが、あのプレゼント攻勢とイベント賛昧の日々は、社長一族ゆえの資金力があったからか!
金にモノを言わせて、おれをカオル好みに染めていたとは、ふてえ野郎だ!
「カオルぅ~。お前俺の事、騙したな!」
「どうしたんだい? 急に、怖い顔して。何のことだかわからないけど、キミを愛しているのに嘘偽りはないよ」
「恥ずかしいセリフを平気で人前で言うな!」
「昼食を買いに行ったらさ、キミに似合いそうなワンピースを見つけたんだ。今度それを着て、どこかに旅行でも行かないか?」
ワンピースは御免被るが、旅行は魅力的だな。
「す、スカートは嫌だって、いつも言ってるだろ?」
会社では仕方ないから制服のスカートを履いたが、普段着はデートの時もジーンズとジャケットで押し通すつもりだ! これからも!
「どうして? 絶対君に似合うからさ、ちょっとだけでもさ……」
「どうしよっかな」
「美人でかわいい女性を連れて歩いていたら、ぼくも君を自慢できるしさ。頼むよ」
「ワタシはアンタのアクセサリじゃない」
「キミがどんどん素敵になっていくのがうれしいんだよ。駄目かい?」
ま、そんなに熱心に勧めるなら、着てやらないわけでもないけどな。
どうせ既に買ってあるんだろう?
家に帰ったら半ば強引に、着せ替え人形させられるのだ。
それに、鏡の中の自分が綺麗になっていくのを見るのが、最近ちょっとだけうれしく感じて……。
いやいや、そうじゃない! そうじゃないだろ!!!
いつの間にか話をそらされているぞ。
俺はカオルの襟をつかんでいった。
「おい、カオル! キスしただけじゃ、伝染らないそうじゃないか!」
「何が? ああ、性転換症のことかい? そうだよ、知らなかったのかい?」
「お前あの時、そんな事言わなかったじゃないか!」
「そんな……キス以上のことをしなきゃ伝染らないなんて、そんな事言えないじゃないか。ボクだってあの時はその、まだ女性だったんだから……」
「もうひとつ! お前、社長の姪なんだってな?」
「それはあまり言って欲しくないな。縁故採用だなんて、馬鹿にされたくないからね」
「もう許さない! おれの事いっぱい、いろいろ騙しやがって!」
俺はカオルに掴みかかろうとすると、振り上げた手を掴まれてあっさりと抱きしめられてしまった。
自分よりも20センチ以上も背の高いカオルには、どうしても体力的には敵わない。
「だから、責任は取るっていっているじゃないか。愛しているよ、圭」
おれの手を両手で包むように握ると、小さな恋人にするように、額に軽くキスされた。
待っていましたとばかりに、女子社員共の黄色い声が上がる。
恥ずかしくて情けなくて、逃げ出したいぐらいだ。
けれど……
困ったことに、あまり心の底から嫌になれない。
こんな恥ずかしい目にあっているのに、どこか嬉しい自分がいる。
いや、絶対に認めたくはないが、多分……幸せ感じている自分がいるのだ。
きゃ、客観的に見ればいわゆる玉の輿だし、決して、イケメンだからだとか、おいしいもの食べさせてくれたりだとか、デートが豪華でロマンチックだからだとか、どんな時もやさしいからだとか、愛してくれているからだとか、そういうんじゃないんだから!!
けど、油断大敵だった!
事もあろうに、カオルのヤツはスキを見たと判断したのか、みんなが見ているというのに、おれをひょいと抱き上げて、今度は唇を重ねた。
うぅ、駄目だ。逆らえない。
どうしたわけか、最近はこんなふうに抱きしめられたりキスされたりすると、体から力が抜けて、カオルのいいようにされてしまう。
で、でももちろん、あの時以来、キス以上のことなんて許していないけどな!
恋人関係にランクアップしたからって、調子に乗るなよ!!
おれはカオルの腕の中から逃れて抗議した。
「キ、キスで誤魔化そうったって、そうはいかないんだから!」
「じゃ、どうして欲しいんだい?」
う、そう言われると、どうして欲しいんだろう?
こんな時は、何を要求すればいいんだ?
女の子なら、服とかアクセサリとか?
イヤ待て! そうじゃない、そうじゃないだろ!
そう言いながら、おれの体の線を確かめるようにして、腰から背中にかけて手を回して肩を抱いた。
やめろってば!! いちいち体に触ろうとするの!
医学的には女性になっていることが知られてしまっているとしても、それをカオルに確かめられるのは嫌だ。
胸や腰にサラシ巻いたりして、可能な限り女性の体型をごまかしているが、触られたらどんな体をしているか、やっぱり解ってしまう。
とにかく、カオルに俺の体の秘密を知られるのは、出来る限り避けたい。
こんな体になってしまったおれを、性的な目でカオルに見られるのだけは嫌だからな。
そういうおれの気持ち知らないで、全く!
「男に戻してくれたら、考えても良いけど?」
「う、それは……」
いつもは男性的にリードしてくれるカオルも、こう言うととたんに歯切れが悪くなる。
「今度の休みに、泊まりで温泉にでも行こうよ。それで許してくれる?」
どうしよっかなー。温泉かぁ……、たまにはいいな。
急な体の変化のせいか、まだ全身が筋肉痛みたいに痛いんだよね。
当然これもカオルには内緒だ。
もし知られたら、何を要求されるか目に見えているからな。
おれの機嫌が直りつつあるのを見てとったのか、カオルがいつものさわやかな笑顔で言った。
「カップルで入れる、穴場の温泉があるんだ。楽しみだね」
穴場かぁ、いいね。あんまり人が居ないほうがいい。
ん? 待てよ? カップルで入れる?? だってそれは、つまり……。
今度は、こっちがうろたえる番だった。
俺は顔に体中の血が集まっていくのを感じながら、カオルに釘を差した。
「お、温泉に入る時は、別々だからねっ!!」
「楽しみだなぁ……」

ニコニコ笑顔のカオルには、おれの言うことが耳に入っていないようだった。
もっともいくらおれがそう宣言したところで、結局のところいつの間にかカオルの好きなようにさせている、おれがいるのだ。
それが本当に癪だけれど、嫌だと思ったことは……たぶん無い。
週明けには、おれ達はもっと仲のよい――
つまり、恋人以上夫婦未満になっていそうな予感がした。
<END?>
勤務評定に差し支えては困るからと何度も自分に言い聞かせ、女子用制服(もちろんスカート)に着替え、部屋に戻った。
周囲に“おおぉ~”というざわめきが起こる。
名実ともに女子社員デビューだ。ちくしょぉッ!
そして昼休み。例によってカオルは、自分とおれの分の昼食を買出しに出かけていた。
おれは部屋の隅にある応接テーブルに、ランチョンマットと即席みそ汁の入った紙コップを二人分用意していると、甘井先輩が話しかけてきた。
「もうどこから見ても、完璧な女子社員だな」
「余計なお世話です」
「ふむ。ところで、知っていたか? 小鳥遊。 後天性性転換症って、キスぐらいじゃ伝染らないんだそうだぞ」
「へー、そうなんですか……えっ!? い、今なんて?」
「お前たちもヤることはヤってたんだな。遅くなったが脱童貞おめでとう。そしていずれ迎える、或いは迎えたであろう処女喪失に」
お茶の入った紙コップを、祝杯のように掲げた先輩がニヤニヤしながら言う。
「ちょっと待ってください! キスぐらいじゃ伝染らないって、本当ですか?!」
既に2度目の声変わりを果たしてしまっていたおれは、ハイトーンの叫び声を上げた。
性転換症は体液交換で人から人に伝染る。それは聞いた。
だからおれはあの時、キスされたから自分も感染したと思ったんだ。
だから、カオルの誘いもあって、その……むにゃむにゃもした。
お互いに性別が、完全に入れ替わってしまう前にと思って……。
あの時カオルは、『こんなに早く、僕のことを受け入れてくれるなんて』と感極まって涙ぐんでいた。そのときは、こっちも“童貞喪失の最後のチャンス”と下心があったから、適当に受け流していたのだが、よもやそう言うトラップだったとは!!
「お前ってほんと、面白い奴だよな。特に彼女たちにとっては、格好の餌食みたいだぞ?」
先輩の指差す先には、もうこれ以上はないっていうぐらいに、好奇の目で悶絶している女子社員達がいた。
しまった! 今のを聞かれたか……。
先週までは会社では頑なに男性用スーツで通していたおれと、会社では入社した時から男性として通してきたカオル。
彼女たちがどんな想像を、おれ達でしているのか考えたくない。
そういえばあの新人歓迎会の事件、3人で別室に移った時も先輩は、妙に落ち着いていた。
おれが完全にパニクっていたにもかかわらず、あの二人は平然としていた。
「もしかして先輩、最初から全部知って……。いえ、仕組んでいたんじゃないんですか?」
「さあな。だが、社長は人事から知らされていたみたいだぞ。自分の姪が入社したことをな」
なんだって!? カオルが社長の姪!?
ということは、これは完全に仕組まれていたことで、何も知らなかったのは俺だけだったってことか!?
「ちくしょう! ハメられたっ!」
テーブルをだんっ!と叩くと、
「何を乱暴な言葉遣いしているんだい?」
ちょうど買出しを終えて戻ってきたカオルに、おれは言葉遣いを咎められた。
カオルは俺にぞっこんだけあって、色々と甘やかしてくれるが、乱暴な仕草や言葉遣いをすると、顔を曇らせて矯正を試みる。
「せっかくの可愛らしい制服姿が台無しだよ? もう少し、女らしく」
へっへんーだ!
おれは自分の事、女だとは思っていないモンね!
これは歓迎会の時にした女装と同じだと思えば、なんて事は無い!
体のほうはともかく……。
だが、あのプレゼント攻勢とイベント賛昧の日々は、社長一族ゆえの資金力があったからか!
金にモノを言わせて、おれをカオル好みに染めていたとは、ふてえ野郎だ!
「カオルぅ~。お前俺の事、騙したな!」
「どうしたんだい? 急に、怖い顔して。何のことだかわからないけど、キミを愛しているのに嘘偽りはないよ」
「恥ずかしいセリフを平気で人前で言うな!」
「昼食を買いに行ったらさ、キミに似合いそうなワンピースを見つけたんだ。今度それを着て、どこかに旅行でも行かないか?」
ワンピースは御免被るが、旅行は魅力的だな。
「す、スカートは嫌だって、いつも言ってるだろ?」
会社では仕方ないから制服のスカートを履いたが、普段着はデートの時もジーンズとジャケットで押し通すつもりだ! これからも!
「どうして? 絶対君に似合うからさ、ちょっとだけでもさ……」
「どうしよっかな」
「美人でかわいい女性を連れて歩いていたら、ぼくも君を自慢できるしさ。頼むよ」
「ワタシはアンタのアクセサリじゃない」
「キミがどんどん素敵になっていくのがうれしいんだよ。駄目かい?」
ま、そんなに熱心に勧めるなら、着てやらないわけでもないけどな。
どうせ既に買ってあるんだろう?
家に帰ったら半ば強引に、着せ替え人形させられるのだ。
それに、鏡の中の自分が綺麗になっていくのを見るのが、最近ちょっとだけうれしく感じて……。
いやいや、そうじゃない! そうじゃないだろ!!!
いつの間にか話をそらされているぞ。
俺はカオルの襟をつかんでいった。
「おい、カオル! キスしただけじゃ、伝染らないそうじゃないか!」
「何が? ああ、性転換症のことかい? そうだよ、知らなかったのかい?」
「お前あの時、そんな事言わなかったじゃないか!」
「そんな……キス以上のことをしなきゃ伝染らないなんて、そんな事言えないじゃないか。ボクだってあの時はその、まだ女性だったんだから……」
「もうひとつ! お前、社長の姪なんだってな?」
「それはあまり言って欲しくないな。縁故採用だなんて、馬鹿にされたくないからね」
「もう許さない! おれの事いっぱい、いろいろ騙しやがって!」
俺はカオルに掴みかかろうとすると、振り上げた手を掴まれてあっさりと抱きしめられてしまった。
自分よりも20センチ以上も背の高いカオルには、どうしても体力的には敵わない。
「だから、責任は取るっていっているじゃないか。愛しているよ、圭」
おれの手を両手で包むように握ると、小さな恋人にするように、額に軽くキスされた。
待っていましたとばかりに、女子社員共の黄色い声が上がる。
恥ずかしくて情けなくて、逃げ出したいぐらいだ。
けれど……
困ったことに、あまり心の底から嫌になれない。
こんな恥ずかしい目にあっているのに、どこか嬉しい自分がいる。
いや、絶対に認めたくはないが、多分……幸せ感じている自分がいるのだ。
きゃ、客観的に見ればいわゆる玉の輿だし、決して、イケメンだからだとか、おいしいもの食べさせてくれたりだとか、デートが豪華でロマンチックだからだとか、どんな時もやさしいからだとか、愛してくれているからだとか、そういうんじゃないんだから!!
けど、油断大敵だった!
事もあろうに、カオルのヤツはスキを見たと判断したのか、みんなが見ているというのに、おれをひょいと抱き上げて、今度は唇を重ねた。
うぅ、駄目だ。逆らえない。
どうしたわけか、最近はこんなふうに抱きしめられたりキスされたりすると、体から力が抜けて、カオルのいいようにされてしまう。
で、でももちろん、あの時以来、キス以上のことなんて許していないけどな!
恋人関係にランクアップしたからって、調子に乗るなよ!!
おれはカオルの腕の中から逃れて抗議した。
「キ、キスで誤魔化そうったって、そうはいかないんだから!」
「じゃ、どうして欲しいんだい?」
う、そう言われると、どうして欲しいんだろう?
こんな時は、何を要求すればいいんだ?
女の子なら、服とかアクセサリとか?
イヤ待て! そうじゃない、そうじゃないだろ!
そう言いながら、おれの体の線を確かめるようにして、腰から背中にかけて手を回して肩を抱いた。
やめろってば!! いちいち体に触ろうとするの!
医学的には女性になっていることが知られてしまっているとしても、それをカオルに確かめられるのは嫌だ。
胸や腰にサラシ巻いたりして、可能な限り女性の体型をごまかしているが、触られたらどんな体をしているか、やっぱり解ってしまう。
とにかく、カオルに俺の体の秘密を知られるのは、出来る限り避けたい。
こんな体になってしまったおれを、性的な目でカオルに見られるのだけは嫌だからな。
そういうおれの気持ち知らないで、全く!
「男に戻してくれたら、考えても良いけど?」
「う、それは……」
いつもは男性的にリードしてくれるカオルも、こう言うととたんに歯切れが悪くなる。
「今度の休みに、泊まりで温泉にでも行こうよ。それで許してくれる?」
どうしよっかなー。温泉かぁ……、たまにはいいな。
急な体の変化のせいか、まだ全身が筋肉痛みたいに痛いんだよね。
当然これもカオルには内緒だ。
もし知られたら、何を要求されるか目に見えているからな。
おれの機嫌が直りつつあるのを見てとったのか、カオルがいつものさわやかな笑顔で言った。
「カップルで入れる、穴場の温泉があるんだ。楽しみだね」
穴場かぁ、いいね。あんまり人が居ないほうがいい。
ん? 待てよ? カップルで入れる?? だってそれは、つまり……。
今度は、こっちがうろたえる番だった。
俺は顔に体中の血が集まっていくのを感じながら、カオルに釘を差した。
「お、温泉に入る時は、別々だからねっ!!」
「楽しみだなぁ……」

ニコニコ笑顔のカオルには、おれの言うことが耳に入っていないようだった。
もっともいくらおれがそう宣言したところで、結局のところいつの間にかカオルの好きなようにさせている、おれがいるのだ。
それが本当に癪だけれど、嫌だと思ったことは……たぶん無い。
週明けには、おれ達はもっと仲のよい――
つまり、恋人以上夫婦未満になっていそうな予感がした。
<END?>
「新入社員にご用心」(3) 作.ありす 挿絵.T
(3)-------------------------------------------------------
興味津々で周りを取り囲む連中に注視される状況では、落ち着いて話ができない。
俺達は社長の計らいで小さな別室に移ることになった。
もちろん、甘井先輩も無理やり引きずり込んだ。
ソファに3人が腰掛けると、微笑を浮かべたままの彼が、先ず口を開いた。
「後天性性転換症ってご存知ですか?」
「聞いたことがある様な、無い様な……」
「潜伏期間が長いウィルス性の疾患なんです。まだ症例は少ないのですが、発症すると男性は女性に、女性は男性になってしまいます」
「あ、あんたがそうだっていうのか?」
俺が指をさすと、彼はその手をそっと取って握りしめた。
「名前で呼んでいただけませんか? 圭さん」
俺は投げるようにその手を振りほどいた。馴れ馴れしく手を握るな!
お、俺はまだ……。
「か、カオ、ル君がその病気に感染しているって、いうことなのか?」
「そうです。今はまだ体は女性ですけど、あと後半年も経てば、完全な男性になります。“証拠を見せろ”と言われてもこの場ではちょっと……」
「そ、それで……もしかして」
「あなたがとても可愛らしい人であることは、大学時代から知っていました。ミスコンで優勝して伝説まで作った3つ年上の先輩のことをね。そして今日、ようやく念願がかないました」
「だ、だから俺は男で……」
「性転換症は非常に珍しい病気で、めったに人に感染ることはないのですが……その、例えば体液を交換したりすると……」
珍しく少し動揺したように頬を赤くして、カオルは顔を伏せた。
イケメンのくせに、こういう仕草まで絵になるのだから始末に悪い。
いや、本当は女だと言っていたが。
……ん? ちょっとまて、今コイツはなんて言った?
「貴女から好意を得たことで、僕も決心がついたのです。責任は取ります」
「ち、ちょっと待って! 言っていることがよくわからない」
「だから僕の恋人に、出来れば将来、その、結婚していただけたらと……」
責任だと? なんのだ?
もしかして……、体液交換ってまさか、さ、さっきのキスで伝染ったってこと……?
「必ず幸せにします。後悔はさせません」
「な、な……、な……」
おれはあまりの事に、言葉が出なかった。カオルは性転換症を発症していて、半年後には男になって、俺は……、さっきされたキスで、同じ病気を伝染されて……
「あ、圭さん!!」
美青年に体を支えられながら、美少女が言葉もなく気を失う姿は、まさに映画のワンシーンのようだったと、後で甘井先輩に聞かされた。
*---*---*---*---*---*---*---*---*---*---*
数日後、出社した俺の隣の席には、嫌になるぐらいに爽やかな笑顔のカオルが座っていた。
社長も出席していたあの歓迎会のおかげで、俺達は晴れて公認のカップルとなっていたのだった。
傍目には男同士の、気持ち悪いことこの上の無いカップルではある。
が、そう思っていたのは俺だけで、極めて心外なことに見た目はそれほど見苦しくない俺達は、女子社員たちからは、リアルBL少女漫画の世界と、腐った好奇心をもって迎えられ、男の同僚たちからは嘲笑とも同情とも付かない微妙な視線を浴びていた。
そういう周囲の目を気にもとめないカオルは、タチの悪いことに俺を女性の恋人のように扱うものだから、ますます倒錯的なことになっている。
会社公認と言っても、せいぜい友達以上恋人未満ってのが、今の関係の筈だからな!
しかし、カオルは俺以外の誰も止めないのをいいことに、会社でも大っぴらにべたべたするし、休日も一日中付き合わされる羽目になっている。
俺にだってプライベートの時間ってものがあるのに、朝から俺のアパートに高級スポーツカーで乗り付けてくるものだから、始末に負えない。
だが1ヶ月もすると、そんな事にも慣れっこになってしまっていた。
慣れとは恐ろしいものだ。
万が一の望みも空しく、僅かとはいえ体の変調を自覚した俺は、カオルも通っていると言う医者に一緒に通うようになり、やがて俺は俺自身の体の変化を認めざるを得なくなっていた。
そして、医者に通うようになってから1週間ほど経った頃、俺は高熱を発して会社を休んでしまった。
*---*---*---*---*---*---*---*---*---*---*
結局おれは、入院だのリハビリだので、一ヶ月も会社を休んでしまった。
そして久しぶりに出社した日の昼休み。
カオルが二人分の昼食を買いに出かけたのを見計らって、甘井先輩が声をかけてきた。
「小鳥遊、お前も発症したんだってな。性転換症」
「ええ、もう諦めの境地ですよ」
発症したどころか、もう体はほとんど女性のそれになってしまっている。
幸いなことに、服装でごまかせば、まだ男性に見える(はずだ1)。
メンズスーツとインナーでごまかしてはいるが、実際のところ中身は女性とそう変わらない。
あまりに早い体の変化に、おれ自身がまだ戸惑っている。
医者が言うには劇症性だとかで、高熱と全身の痛みで3週間も寝こんで、起きれるようになった頃には、もう男であると主張するには無理のあるからだになってしまっていた。全体に筋肉が落ちるのと入れ替わるように柔らかな脂肪の層が厚みを増し、肌理の細かい白い肌に変化していた。それに今まで気にしたこともなかった、自分の体臭の変化にも気がついていた。
全身の激痛と高熱に気を失った時に、側にいたのはカオルだ。
彼が救急車を呼ばなければ、本当に死んでいたかもしれない。
それだけは感謝している。
だがな、そもそもおれがこうなってしまった直接の原因は、カオルではないか?
そういうとヤツはものすごく悲しそうな表情で黙ってしまうので、その件についてはあまり責めることが出来ないでいる。
体の急な変化に心が追いつくはずも無く、おれはまだ男だと言う気持ちが捨てられない。
そんな不安定で弱っているおれを慰めてくれているのは他ならない、原因であり結果の責任の引き受け先であるカオル自身だ。
そう思うと言葉や態度では表現しきれない、複雑な感情がカオルに対して沸いてくる。
それにカオルにはまだ、体の秘密は内緒にしてはいるが、多分気がついているんじゃないかと思う。
おれがもう、女の体になっているってことに……。
「どうしたんだ? 胸なんか抑えて。まだ体調が悪いのか?」
「え? いや、これは別に……」
そう言ったものの、実のところ胸が痛い。
医者は下着も女性の物を付けるべきだと言ったが、おれはまだ抵抗していた。
ぶ、ブ……なんて付けられるか!
そこに買い物を終えたカオルが帰ってきた。
ヤツは上機嫌で弁当の包みを2つ、おれの机の上におくと、こう言いやがった。
「ただいま、圭。弁当屋さんの隣に、かわいいランジェリーショップができてたよ。帰りに寄って見ない?」
「行かねえよ!」
たった今、男としての矜持だけは守ろうと決意したばっかりだってのに、コイツは!
すると甘井先輩は、馴れ馴れしくおれの肩に腕を寄りかけながら言った。
「森。下着はハードル高そうだから、先ずは外側から変えて行ったらどうだ?」
「彼女、嫌がるんですよ、スカート履くの」
「当然だ! おれは男なんだから!」
「いまさら元女装男が、何言っているんだかw」
「先輩が無理矢理やらせたんでしょうが!!」
「無理矢理ねぇ? 森、それで小鳥遊の体の方は、どうなんだ?」
「何でカオルに聞くんです? 先輩」
「だって小鳥遊。お前、性転換症を発症したんだろ?」
「だから何です? ぼくはまだ男ですよ!」
「ふーん。一ヶ月も会社を休んでいたろ。だからもう、女になっちまったのかと思ってな」
う、するどい。
だがそんなことを公に、特にカオルに知られるわけには、いかない。
主治医にもそう宣言しているから、おれのカラダの秘密を知っているのは、極限られた人間だけのはずだ。
そこへ、社長がやってきた。
職場視察にしちゃ唐突過ぎるが、一体何の用だ?
社長はおれ達の上司と二言三言、挨拶らしきものを交わすと、こちらにやってきた。
ちらと一瞬、カオルの方を見ると、おれとは視線を合わせずにこう言った。
「こほん、あー、なんだ。つまり、女子社員には女子用制服を支給するので、総務に申請書を出して受け取るように」
それだけ言うと、そそくさと部屋を出て行った。
誰だ? チクった奴は!!
「圭ちゃん、社長命令だよ?」
と、カオルの奴がニコニコしながら、いつのまにか抱えていた新品の女子制服の包みをおれによこした。
どこまで用意周到な奴なんだ。
だが断る!
そう固く誓ったのだ。
が……
*---*---*---*---*---*---*---*---*---*---*
あくまで男として通そうとしていておれだったが、無情にも体の方はそうは行かないようだった。
ついにあの、思い出すだけでもおぞましい初潮などという、もはや後戻りのできないイベントを迎え、半ば放心状態だったおれは、先週不完全なままだった、体の一部の外科手術を受けた。
性転換症で女性化するといっても、ちょっとだけ男性の部分が残ってしまうのだ。
簡単な整形手術だと、医者とカオルが熱心に勧めるので、諦めの境地だったおれは半ば惰性で承諾書にサインをしてしまった。
そしてそれをきっかけに、もはやどう言い繕っても、女性としか言えない体になってしまった。
急に胸は膨らんでくるし、腰だって……。
うまく下着を調整したりして誤魔化していた体つきも、もうすっかり――自分で言うのもアレだが、豊満ボディになっていた。
落ち込むおれとは対照的に、喜んだのはカオルだ。
高級下着と化粧品の山、それにドレスだのワンピースだのを満載したトラックがおれのマンション(女性の一人暮らしは心配だからと、セキュリティが厳重なことで有名な女性専用マンションへと、カオルに無理矢理引越しさせられた)に横付けされたときは、他人事と思っていたが、部屋にうずたかく積まれていた箱の中身を開けて、パニックになりかけた。
つーか、こんなにいっぱいの品物どうしたんだ?
金持ちだとは聞いていたが、カオルのヤツは一体どこのボンボンだよ!
カオルがおれに使う、金も時間も半端じゃない。
性転換症を伝染した責任を感じるとは言っても、それが心苦しく感じもするから、まぁヤツの好意を素直に受けて、カオルが喜ぶように振舞ったりもする。
カオルのヤツはもう完全におれの事は“女性の”恋人扱いだし、それに慣れっこになっている自分も冷静に考えると怖い。
だが……。うーん、やっぱり絆(ほだ)されてんのかな? おれ……
半ば呆れながらも、引越ししてきた時の3倍の荷物を整理するだけで、貴重な週末を棒に振った週明けの月曜日。
出勤してきたおれを、甘井先輩が珍しい動物でも見るような顔でおれを見た。
身に付けているのは、一応はビジネススーツだ。
ただし女性用の……。
好きでこんな格好をしていると思われるのも癪なので、手短に手術からの顛末を話した。
「……というわけですよ」
「それで、服も女性用に変えたのか?」
「体型が変わってしまったんですよ。前のが着れなくなったって言ったら、カオルがこれを持ってきたんです」
「どうせなら、スカートにすればいいのに」
「それは勘弁です。それにカオルのヤツ、ミニスカートしか持ってこないんですよ? あんなの履けません」
ぴったりと腰にまとわり付くようなパンツルックは恥ずかしいが、他に着るものが無ければ仕方が無い。そう自分に言い聞かせて我慢しているのに、ミニスカートだなんて!
「自分で買いに行けばいいじゃないか」
「婦人服売り場なんて、一人で行ける訳無いじゃないですか!」
「下着も当然、女物なんだろ?」
「先輩、そういうのはセクハラって言うんですよ」
「おお、すまん。もう女性だったんだよな。あ、ちゃんと女子用制服に着替えておけよ。“社長命令”だしな。ははは」
「くっ……」
ふっと横を見ると、いつの間にか新品の女子用制服を胸に抱えて、期待に目を輝かせるカオルが目に入った。
くそぅ! きっといつか見返してやるからな!
“一体何をだ?”と言われるのがオチの捨てゼリフを心の中だけで呟くと、カオルから女子用制服の包みをひったくると、更衣室へと向かった。
あれ? おれは……入ってもいいんだよな?
<つづく>
興味津々で周りを取り囲む連中に注視される状況では、落ち着いて話ができない。
俺達は社長の計らいで小さな別室に移ることになった。
もちろん、甘井先輩も無理やり引きずり込んだ。
ソファに3人が腰掛けると、微笑を浮かべたままの彼が、先ず口を開いた。
「後天性性転換症ってご存知ですか?」
「聞いたことがある様な、無い様な……」
「潜伏期間が長いウィルス性の疾患なんです。まだ症例は少ないのですが、発症すると男性は女性に、女性は男性になってしまいます」
「あ、あんたがそうだっていうのか?」
俺が指をさすと、彼はその手をそっと取って握りしめた。
「名前で呼んでいただけませんか? 圭さん」
俺は投げるようにその手を振りほどいた。馴れ馴れしく手を握るな!
お、俺はまだ……。
「か、カオ、ル君がその病気に感染しているって、いうことなのか?」
「そうです。今はまだ体は女性ですけど、あと後半年も経てば、完全な男性になります。“証拠を見せろ”と言われてもこの場ではちょっと……」
「そ、それで……もしかして」
「あなたがとても可愛らしい人であることは、大学時代から知っていました。ミスコンで優勝して伝説まで作った3つ年上の先輩のことをね。そして今日、ようやく念願がかないました」
「だ、だから俺は男で……」
「性転換症は非常に珍しい病気で、めったに人に感染ることはないのですが……その、例えば体液を交換したりすると……」
珍しく少し動揺したように頬を赤くして、カオルは顔を伏せた。
イケメンのくせに、こういう仕草まで絵になるのだから始末に悪い。
いや、本当は女だと言っていたが。
……ん? ちょっとまて、今コイツはなんて言った?
「貴女から好意を得たことで、僕も決心がついたのです。責任は取ります」
「ち、ちょっと待って! 言っていることがよくわからない」
「だから僕の恋人に、出来れば将来、その、結婚していただけたらと……」
責任だと? なんのだ?
もしかして……、体液交換ってまさか、さ、さっきのキスで伝染ったってこと……?
「必ず幸せにします。後悔はさせません」
「な、な……、な……」
おれはあまりの事に、言葉が出なかった。カオルは性転換症を発症していて、半年後には男になって、俺は……、さっきされたキスで、同じ病気を伝染されて……
「あ、圭さん!!」
美青年に体を支えられながら、美少女が言葉もなく気を失う姿は、まさに映画のワンシーンのようだったと、後で甘井先輩に聞かされた。
数日後、出社した俺の隣の席には、嫌になるぐらいに爽やかな笑顔のカオルが座っていた。
社長も出席していたあの歓迎会のおかげで、俺達は晴れて公認のカップルとなっていたのだった。
傍目には男同士の、気持ち悪いことこの上の無いカップルではある。
が、そう思っていたのは俺だけで、極めて心外なことに見た目はそれほど見苦しくない俺達は、女子社員たちからは、リアルBL少女漫画の世界と、腐った好奇心をもって迎えられ、男の同僚たちからは嘲笑とも同情とも付かない微妙な視線を浴びていた。
そういう周囲の目を気にもとめないカオルは、タチの悪いことに俺を女性の恋人のように扱うものだから、ますます倒錯的なことになっている。
会社公認と言っても、せいぜい友達以上恋人未満ってのが、今の関係の筈だからな!
しかし、カオルは俺以外の誰も止めないのをいいことに、会社でも大っぴらにべたべたするし、休日も一日中付き合わされる羽目になっている。
俺にだってプライベートの時間ってものがあるのに、朝から俺のアパートに高級スポーツカーで乗り付けてくるものだから、始末に負えない。
だが1ヶ月もすると、そんな事にも慣れっこになってしまっていた。
慣れとは恐ろしいものだ。
万が一の望みも空しく、僅かとはいえ体の変調を自覚した俺は、カオルも通っていると言う医者に一緒に通うようになり、やがて俺は俺自身の体の変化を認めざるを得なくなっていた。
そして、医者に通うようになってから1週間ほど経った頃、俺は高熱を発して会社を休んでしまった。
結局おれは、入院だのリハビリだので、一ヶ月も会社を休んでしまった。
そして久しぶりに出社した日の昼休み。
カオルが二人分の昼食を買いに出かけたのを見計らって、甘井先輩が声をかけてきた。
「小鳥遊、お前も発症したんだってな。性転換症」
「ええ、もう諦めの境地ですよ」
発症したどころか、もう体はほとんど女性のそれになってしまっている。
幸いなことに、服装でごまかせば、まだ男性に見える(はずだ1)。
メンズスーツとインナーでごまかしてはいるが、実際のところ中身は女性とそう変わらない。
あまりに早い体の変化に、おれ自身がまだ戸惑っている。
医者が言うには劇症性だとかで、高熱と全身の痛みで3週間も寝こんで、起きれるようになった頃には、もう男であると主張するには無理のあるからだになってしまっていた。全体に筋肉が落ちるのと入れ替わるように柔らかな脂肪の層が厚みを増し、肌理の細かい白い肌に変化していた。それに今まで気にしたこともなかった、自分の体臭の変化にも気がついていた。
全身の激痛と高熱に気を失った時に、側にいたのはカオルだ。
彼が救急車を呼ばなければ、本当に死んでいたかもしれない。
それだけは感謝している。
だがな、そもそもおれがこうなってしまった直接の原因は、カオルではないか?
そういうとヤツはものすごく悲しそうな表情で黙ってしまうので、その件についてはあまり責めることが出来ないでいる。
体の急な変化に心が追いつくはずも無く、おれはまだ男だと言う気持ちが捨てられない。
そんな不安定で弱っているおれを慰めてくれているのは他ならない、原因であり結果の責任の引き受け先であるカオル自身だ。
そう思うと言葉や態度では表現しきれない、複雑な感情がカオルに対して沸いてくる。
それにカオルにはまだ、体の秘密は内緒にしてはいるが、多分気がついているんじゃないかと思う。
おれがもう、女の体になっているってことに……。
「どうしたんだ? 胸なんか抑えて。まだ体調が悪いのか?」
「え? いや、これは別に……」
そう言ったものの、実のところ胸が痛い。
医者は下着も女性の物を付けるべきだと言ったが、おれはまだ抵抗していた。
ぶ、ブ……なんて付けられるか!
そこに買い物を終えたカオルが帰ってきた。
ヤツは上機嫌で弁当の包みを2つ、おれの机の上におくと、こう言いやがった。
「ただいま、圭。弁当屋さんの隣に、かわいいランジェリーショップができてたよ。帰りに寄って見ない?」
「行かねえよ!」
たった今、男としての矜持だけは守ろうと決意したばっかりだってのに、コイツは!
すると甘井先輩は、馴れ馴れしくおれの肩に腕を寄りかけながら言った。
「森。下着はハードル高そうだから、先ずは外側から変えて行ったらどうだ?」
「彼女、嫌がるんですよ、スカート履くの」
「当然だ! おれは男なんだから!」
「いまさら元女装男が、何言っているんだかw」
「先輩が無理矢理やらせたんでしょうが!!」
「無理矢理ねぇ? 森、それで小鳥遊の体の方は、どうなんだ?」
「何でカオルに聞くんです? 先輩」
「だって小鳥遊。お前、性転換症を発症したんだろ?」
「だから何です? ぼくはまだ男ですよ!」
「ふーん。一ヶ月も会社を休んでいたろ。だからもう、女になっちまったのかと思ってな」
う、するどい。
だがそんなことを公に、特にカオルに知られるわけには、いかない。
主治医にもそう宣言しているから、おれのカラダの秘密を知っているのは、極限られた人間だけのはずだ。
そこへ、社長がやってきた。
職場視察にしちゃ唐突過ぎるが、一体何の用だ?
社長はおれ達の上司と二言三言、挨拶らしきものを交わすと、こちらにやってきた。
ちらと一瞬、カオルの方を見ると、おれとは視線を合わせずにこう言った。
「こほん、あー、なんだ。つまり、女子社員には女子用制服を支給するので、総務に申請書を出して受け取るように」
それだけ言うと、そそくさと部屋を出て行った。
誰だ? チクった奴は!!
「圭ちゃん、社長命令だよ?」
と、カオルの奴がニコニコしながら、いつのまにか抱えていた新品の女子制服の包みをおれによこした。
どこまで用意周到な奴なんだ。
だが断る!
そう固く誓ったのだ。
が……
あくまで男として通そうとしていておれだったが、無情にも体の方はそうは行かないようだった。
ついにあの、思い出すだけでもおぞましい初潮などという、もはや後戻りのできないイベントを迎え、半ば放心状態だったおれは、先週不完全なままだった、体の一部の外科手術を受けた。
性転換症で女性化するといっても、ちょっとだけ男性の部分が残ってしまうのだ。
簡単な整形手術だと、医者とカオルが熱心に勧めるので、諦めの境地だったおれは半ば惰性で承諾書にサインをしてしまった。
そしてそれをきっかけに、もはやどう言い繕っても、女性としか言えない体になってしまった。
急に胸は膨らんでくるし、腰だって……。
うまく下着を調整したりして誤魔化していた体つきも、もうすっかり――自分で言うのもアレだが、豊満ボディになっていた。
落ち込むおれとは対照的に、喜んだのはカオルだ。
高級下着と化粧品の山、それにドレスだのワンピースだのを満載したトラックがおれのマンション(女性の一人暮らしは心配だからと、セキュリティが厳重なことで有名な女性専用マンションへと、カオルに無理矢理引越しさせられた)に横付けされたときは、他人事と思っていたが、部屋にうずたかく積まれていた箱の中身を開けて、パニックになりかけた。
つーか、こんなにいっぱいの品物どうしたんだ?
金持ちだとは聞いていたが、カオルのヤツは一体どこのボンボンだよ!
カオルがおれに使う、金も時間も半端じゃない。
性転換症を伝染した責任を感じるとは言っても、それが心苦しく感じもするから、まぁヤツの好意を素直に受けて、カオルが喜ぶように振舞ったりもする。
カオルのヤツはもう完全におれの事は“女性の”恋人扱いだし、それに慣れっこになっている自分も冷静に考えると怖い。
だが……。うーん、やっぱり絆(ほだ)されてんのかな? おれ……
半ば呆れながらも、引越ししてきた時の3倍の荷物を整理するだけで、貴重な週末を棒に振った週明けの月曜日。
出勤してきたおれを、甘井先輩が珍しい動物でも見るような顔でおれを見た。
身に付けているのは、一応はビジネススーツだ。
ただし女性用の……。
好きでこんな格好をしていると思われるのも癪なので、手短に手術からの顛末を話した。
「……というわけですよ」
「それで、服も女性用に変えたのか?」
「体型が変わってしまったんですよ。前のが着れなくなったって言ったら、カオルがこれを持ってきたんです」
「どうせなら、スカートにすればいいのに」
「それは勘弁です。それにカオルのヤツ、ミニスカートしか持ってこないんですよ? あんなの履けません」
ぴったりと腰にまとわり付くようなパンツルックは恥ずかしいが、他に着るものが無ければ仕方が無い。そう自分に言い聞かせて我慢しているのに、ミニスカートだなんて!
「自分で買いに行けばいいじゃないか」
「婦人服売り場なんて、一人で行ける訳無いじゃないですか!」
「下着も当然、女物なんだろ?」
「先輩、そういうのはセクハラって言うんですよ」
「おお、すまん。もう女性だったんだよな。あ、ちゃんと女子用制服に着替えておけよ。“社長命令”だしな。ははは」
「くっ……」
ふっと横を見ると、いつの間にか新品の女子用制服を胸に抱えて、期待に目を輝かせるカオルが目に入った。
くそぅ! きっといつか見返してやるからな!
“一体何をだ?”と言われるのがオチの捨てゼリフを心の中だけで呟くと、カオルから女子用制服の包みをひったくると、更衣室へと向かった。
あれ? おれは……入ってもいいんだよな?
<つづく>
「新入社員にご用心」(2) 作.ありす 挿絵.T
(2)-------------------------------------------------------
ホテルの広間を借り切ってのパーティー会場。
テレビドラマの中の様な、こんなイベントに参加するのは初めてのことだった。
会場のただならぬ状況に不安を感じた俺は、甘井先輩に詰め寄った。
周囲をはばかるようにあたりを見まわし、先輩の耳元に口を寄せて、なんとかこの場を乗り切るべく、耳打ちした。
「先輩。これ、シャレになりませんよ。社長まで来ているじゃないですか!」
「案ずるな。これは極秘だが、俺達の企画しているイベントは社長の耳にも届いている。万が一の場合は、社長がとりなしてくれることになっている」
「……って、事は???」
「これは社長公認のイベントということだ」
俺は愕然とした。社長公認ということは、もう後には引けないということだ。
「首尾よくやれば、役員連中の覚えもめでたいぞ? 出世まちがいなし!」
「女装で新人を引っ掛けることで、どんな能力を認めてもらえると言うんです?」
「ま、そうだな……。営業とか秘書かな? 契約たくさん取れるかもしれんぞ、色仕掛けで」
「馬鹿言わないでください!」
「しっ! 大きな地声を出すな! 男だってことがバレるだろう? ちゃんと裏声使え、言葉遣いも気を付けろよ」
「どうせすぐにばれますよ。で、どうするんですか?」
「あそこの新人集団の中に、目立つ奴が居るだろう?」
「どれです?」
「あの白いスーツ着た、キザな野郎だ」
先輩の指さす方向を見ると、見た目にもフレッシュな新人たちの中にあって、ひときわ背が高く目立つ奴がいた。
「あれですか? ホストみたいな格好していますね」
「そうだ。ああいう勘違いした奴こそ、ターゲットにふさわしい」
「なまじイケメンで似合っているだけに、余計ムカつきますね」
「そうだろう? じゃ、行って来い」
「……先輩?」
「なんだ?」
「いま、こっち見ましたけど?」
「怪しまれるとまずい。美少女と内緒話をしているという構図は、傍目には鼻高々だが、正体を知っている俺としてはちっとも嬉しくない。さっさと行け。ただし、あくまでも自然にな」
「まったく、勝手なことばかり言いますね、先輩は」
「よろしく頼んだぞ。みんなが楽しめるようにな」
「はいはい」
頼まれれば、頑張ってしまうのが俺のいいところでもあり、悪いところでもあり……。
なるべく不自然にならないように、俺はターゲットに近づいた。
既に取り付いてマークしていた、悪巧みの仲間でもある先輩女子がおれに気づくと、手を振って呼び、ごく自然に俺のことを紹介する。
「彼女がさっき話した小鳥遊さん。かわいい娘でしょう? じゃ、後は二人でごゆっくり」
魔女のような笑みを浮かべて、先輩女子が離れて行った。
おいおい。何を話していたのか知らんが、この際このイケメン野郎に取り入っておかなくていいんですか?
これだけのイケメンを彼氏に出来たら、大いばりで自慢できると思うぞ?
もっとも俺はごめんだがw……と、心の中でだけ言って、こちらはややひきつった笑顔で見送った。
「初めまして。森 カオルです」
「こちらこそ。小鳥遊 圭です」
この時用とばかりに、先輩に特訓させられた裏声を使った。
本名で自己紹介だが、問題あるまい。
現状を見るに不本意だが、俺の名前は男でも女でも通じるからな。
「噂通りの、かわいらしい方ですね」
「お上手ですね。いつもそんな風に女性を口説くんですか?」
にっこりと笑顔で言った。
まずは軽いジャブだ。
しかし近くで見ると、腹が立つぐらいに美形だなコイツ。
「これはキビシイなぁ。こんな外見で軽く見られがちですが、本当は超オクテなんですよ」
それなら白いスーツにピアスなんかつけてくるな!
それにその髪型はなんだ?
新宿あたりで客引きしていても、全く違和感が無いぞ?!
ま、こっちも一歩間違えば、水商売のキャバ嬢みたいだがな。
「噂通りって、ワタシの事、誰かに聞いていたんですか?」
「ええ、もちろん。入社する前からね」
白々しい。俺はこんな完璧すぎる美少女姿になったのは、今夜が初めてだ。
会ったことも見たことも、ある筈がない。
「ワタシも、どこかでお会いしたような気がいたしますわ」
「それはそれは……。貴女の心の隅にでも覚えておいていただけて、とてもうれしい」
ウソに決まってんだろw?
「少し、お話してもいいかしら?」
「大歓迎だな。実は先ほどからずっと、あなたの事が気になっていたんですよ」
へー。そりゃこっちも好都合だ。
そっちが興味を持ってくれているなら、尚更のこと引っ掛けやすいというものだ。
「座りませんか?」
と、壁際に並べられている椅子に、エスコートされる。
って、当たり前のように腰に手を回すな、気色悪い。
それに並んで歩くと自分の背の小ささを感じさせられて、ますます気に食わない。
しかもにこやかな笑顔の合間にちらちらと視線が……って、どこ見てんだコイツ。
明らかに俺の作り物の胸の谷間を見ている。
でも、まぁ判らないでもない。男はみんなおっぱいにはコダワリがあるからなw
でもその顔は何だ? 鼻の下を伸ばすならまだしも、不思議そうな顔ってのは何だよ?
俺が巨乳じゃ悪いってのか?
俺自身は困るけどさ。
「何か?」
「いえ……なんでもありません」
俺はごく自然に体を寄せて、わざとらしくヤツの腕に胸を押し付けた。
ほれ、ちょっとした感触は本物みたいだろう?
俺もさっき、自分で確かめてみたからなw
「ねぇ、私の事どう思います?」
「素敵な人だと思います。でもちょっと意外だったな」
「意外? どんな風にですか?」
俺は膝を寄せて更に密着度を増した。
ほれほれ、手を出すならさっさとしろ!
こっちもいつまでもこんなこと、やってられんからな。
「もしかして、僕のこと誘ってます?」
「さぁ? どうかしら? 確かめて見たら?」
俺は意味ありげな笑みを浮かべて、ヤツの目を見つめながら手を重ねた。
すると事もあろうに、ヤツは俺の背中に手を回してぐっと抱き寄せると、あごの下に指を添えて上を向かせ、キスをしようとした。
「い、嫌ですわ。いきなりこんなところで」
あわてて、ヤツの口元に手を当てて制した。
会場の衆目を集めているのは、これはあくまでイベントだからであって、冗談なんだからな。
「どうしてです?」
「みんなこっちを見ているじゃないですか。こんなところで、堂々とキスなんてしていたら、お互いにまずいでしょう?」
「どうして? 僕はかまいませんよ」
こっちはかまうっての!
だがヤツは俺の手を取り上げて、押し倒すようにして無理やりのキスをしようとした。
「ま、待った! 降参する! 俺はホントは男なんだっー!」
貞操?の危機再びを感じた俺は、そう叫んだ。
ちょっと早いが、ここでタネ明かしだ。
一瞬の静寂の後、事情を知っている連中からは喝采と拍手が。
事情を知らなかった者たちからは、驚愕の声が上がった。
俺は身の危険がまだ去っていないのにもにもかかわらず、少々引きつった勝利の笑みを浮かべた。
だが奴は少しの動揺も見せなかった。
俺は背中に回された奴の腕と、握り締められた両手に挟まれ、半ば押し倒される体勢のまま、逃れる術を失っていた。
そして奴は余裕の笑みを浮かべ、余裕を無くしかけている俺を見下ろしていた。
ヤバい、目がマジだ。
俺達は会場中の注目を集めていた。
動きのない二人に、会場が静まり返っていた。
ただならぬ緊張状態に、不測の事態も予想された。
俺は彼に抱き抱えられたまま、一刻も早く先輩か、恐れ多くも社長の助け舟を期待して固まっていた。
「もちろん、知っていますよ。僕は貴女がいるから、この会社に入ったのです」
「へ?」
「貴女から誘っていただけるなんて、本当に嬉しい」
予想外の言葉に、一瞬気を取られた俺の隙を突いて顔を近づけ、そのまま俺の唇をふさいだ。
(☆◆!」@’%$Θqっっ――――!!!!)
「「「「キャあーーーーっっ!!!!!!」」」」
俺は抵抗できないほど強い力でぎゅっと抱きしめられ、キスで口を塞がれていた。
声にならない俺の叫び声の代わりに、女子社員たちの黄色い歓声が上がった。
「な……なななななな!!」
俺はようやっとの思いで、彼の腕の中から抜けだすと、口を腕で拭った。
何たる不覚! なんたる失敗! 昨年に続いてまたもや男に無理やりキスされるとは!!
「僕の恋人になってくれますね?」
「お、おおお、俺は男なんだぞっ! 騙して悪かったとは思うが、お、俺にはそんな気は……」
「僕は、本当は女性なんですよ。だからそんなに慌てなくてもいいじゃないですか」
「だから俺は男だって……、へ? 女性?」
「そうです。今はまだ体は女性なんですが。気が付きませんでしたか?」
これには俺だけじゃなくて、会場全体が驚いた。
「「「「「「えええええっ~!!!!!!??????」」」」」」
このとき、俺は気がつかなかったのだが、この場で驚かなかった人間が他に2人いた。
<つづく>
ホテルの広間を借り切ってのパーティー会場。
テレビドラマの中の様な、こんなイベントに参加するのは初めてのことだった。
会場のただならぬ状況に不安を感じた俺は、甘井先輩に詰め寄った。
周囲をはばかるようにあたりを見まわし、先輩の耳元に口を寄せて、なんとかこの場を乗り切るべく、耳打ちした。
「先輩。これ、シャレになりませんよ。社長まで来ているじゃないですか!」
「案ずるな。これは極秘だが、俺達の企画しているイベントは社長の耳にも届いている。万が一の場合は、社長がとりなしてくれることになっている」
「……って、事は???」
「これは社長公認のイベントということだ」
俺は愕然とした。社長公認ということは、もう後には引けないということだ。
「首尾よくやれば、役員連中の覚えもめでたいぞ? 出世まちがいなし!」
「女装で新人を引っ掛けることで、どんな能力を認めてもらえると言うんです?」
「ま、そうだな……。営業とか秘書かな? 契約たくさん取れるかもしれんぞ、色仕掛けで」
「馬鹿言わないでください!」
「しっ! 大きな地声を出すな! 男だってことがバレるだろう? ちゃんと裏声使え、言葉遣いも気を付けろよ」
「どうせすぐにばれますよ。で、どうするんですか?」
「あそこの新人集団の中に、目立つ奴が居るだろう?」
「どれです?」
「あの白いスーツ着た、キザな野郎だ」
先輩の指さす方向を見ると、見た目にもフレッシュな新人たちの中にあって、ひときわ背が高く目立つ奴がいた。
「あれですか? ホストみたいな格好していますね」
「そうだ。ああいう勘違いした奴こそ、ターゲットにふさわしい」
「なまじイケメンで似合っているだけに、余計ムカつきますね」
「そうだろう? じゃ、行って来い」
「……先輩?」
「なんだ?」
「いま、こっち見ましたけど?」
「怪しまれるとまずい。美少女と内緒話をしているという構図は、傍目には鼻高々だが、正体を知っている俺としてはちっとも嬉しくない。さっさと行け。ただし、あくまでも自然にな」
「まったく、勝手なことばかり言いますね、先輩は」
「よろしく頼んだぞ。みんなが楽しめるようにな」
「はいはい」
頼まれれば、頑張ってしまうのが俺のいいところでもあり、悪いところでもあり……。
なるべく不自然にならないように、俺はターゲットに近づいた。
既に取り付いてマークしていた、悪巧みの仲間でもある先輩女子がおれに気づくと、手を振って呼び、ごく自然に俺のことを紹介する。
「彼女がさっき話した小鳥遊さん。かわいい娘でしょう? じゃ、後は二人でごゆっくり」
魔女のような笑みを浮かべて、先輩女子が離れて行った。
おいおい。何を話していたのか知らんが、この際このイケメン野郎に取り入っておかなくていいんですか?
これだけのイケメンを彼氏に出来たら、大いばりで自慢できると思うぞ?
もっとも俺はごめんだがw……と、心の中でだけ言って、こちらはややひきつった笑顔で見送った。
「初めまして。森 カオルです」
「こちらこそ。小鳥遊 圭です」
この時用とばかりに、先輩に特訓させられた裏声を使った。
本名で自己紹介だが、問題あるまい。
現状を見るに不本意だが、俺の名前は男でも女でも通じるからな。
「噂通りの、かわいらしい方ですね」
「お上手ですね。いつもそんな風に女性を口説くんですか?」
にっこりと笑顔で言った。
まずは軽いジャブだ。
しかし近くで見ると、腹が立つぐらいに美形だなコイツ。
「これはキビシイなぁ。こんな外見で軽く見られがちですが、本当は超オクテなんですよ」
それなら白いスーツにピアスなんかつけてくるな!
それにその髪型はなんだ?
新宿あたりで客引きしていても、全く違和感が無いぞ?!
ま、こっちも一歩間違えば、水商売のキャバ嬢みたいだがな。
「噂通りって、ワタシの事、誰かに聞いていたんですか?」
「ええ、もちろん。入社する前からね」
白々しい。俺はこんな完璧すぎる美少女姿になったのは、今夜が初めてだ。
会ったことも見たことも、ある筈がない。
「ワタシも、どこかでお会いしたような気がいたしますわ」
「それはそれは……。貴女の心の隅にでも覚えておいていただけて、とてもうれしい」
ウソに決まってんだろw?
「少し、お話してもいいかしら?」
「大歓迎だな。実は先ほどからずっと、あなたの事が気になっていたんですよ」
へー。そりゃこっちも好都合だ。
そっちが興味を持ってくれているなら、尚更のこと引っ掛けやすいというものだ。
「座りませんか?」
と、壁際に並べられている椅子に、エスコートされる。
って、当たり前のように腰に手を回すな、気色悪い。
それに並んで歩くと自分の背の小ささを感じさせられて、ますます気に食わない。
しかもにこやかな笑顔の合間にちらちらと視線が……って、どこ見てんだコイツ。
明らかに俺の作り物の胸の谷間を見ている。
でも、まぁ判らないでもない。男はみんなおっぱいにはコダワリがあるからなw
でもその顔は何だ? 鼻の下を伸ばすならまだしも、不思議そうな顔ってのは何だよ?
俺が巨乳じゃ悪いってのか?
俺自身は困るけどさ。
「何か?」
「いえ……なんでもありません」
俺はごく自然に体を寄せて、わざとらしくヤツの腕に胸を押し付けた。
ほれ、ちょっとした感触は本物みたいだろう?
俺もさっき、自分で確かめてみたからなw
「ねぇ、私の事どう思います?」
「素敵な人だと思います。でもちょっと意外だったな」
「意外? どんな風にですか?」
俺は膝を寄せて更に密着度を増した。
ほれほれ、手を出すならさっさとしろ!
こっちもいつまでもこんなこと、やってられんからな。
「もしかして、僕のこと誘ってます?」
「さぁ? どうかしら? 確かめて見たら?」
俺は意味ありげな笑みを浮かべて、ヤツの目を見つめながら手を重ねた。
すると事もあろうに、ヤツは俺の背中に手を回してぐっと抱き寄せると、あごの下に指を添えて上を向かせ、キスをしようとした。
「い、嫌ですわ。いきなりこんなところで」
あわてて、ヤツの口元に手を当てて制した。
会場の衆目を集めているのは、これはあくまでイベントだからであって、冗談なんだからな。
「どうしてです?」
「みんなこっちを見ているじゃないですか。こんなところで、堂々とキスなんてしていたら、お互いにまずいでしょう?」
「どうして? 僕はかまいませんよ」
こっちはかまうっての!
だがヤツは俺の手を取り上げて、押し倒すようにして無理やりのキスをしようとした。
「ま、待った! 降参する! 俺はホントは男なんだっー!」
貞操?の危機再びを感じた俺は、そう叫んだ。
ちょっと早いが、ここでタネ明かしだ。
一瞬の静寂の後、事情を知っている連中からは喝采と拍手が。
事情を知らなかった者たちからは、驚愕の声が上がった。
俺は身の危険がまだ去っていないのにもにもかかわらず、少々引きつった勝利の笑みを浮かべた。
だが奴は少しの動揺も見せなかった。
俺は背中に回された奴の腕と、握り締められた両手に挟まれ、半ば押し倒される体勢のまま、逃れる術を失っていた。
そして奴は余裕の笑みを浮かべ、余裕を無くしかけている俺を見下ろしていた。
ヤバい、目がマジだ。
俺達は会場中の注目を集めていた。
動きのない二人に、会場が静まり返っていた。
ただならぬ緊張状態に、不測の事態も予想された。
俺は彼に抱き抱えられたまま、一刻も早く先輩か、恐れ多くも社長の助け舟を期待して固まっていた。
「もちろん、知っていますよ。僕は貴女がいるから、この会社に入ったのです」
「へ?」
「貴女から誘っていただけるなんて、本当に嬉しい」
予想外の言葉に、一瞬気を取られた俺の隙を突いて顔を近づけ、そのまま俺の唇をふさいだ。
(☆◆!」@’%$Θqっっ――――!!!!)
「「「「キャあーーーーっっ!!!!!!」」」」
俺は抵抗できないほど強い力でぎゅっと抱きしめられ、キスで口を塞がれていた。
声にならない俺の叫び声の代わりに、女子社員たちの黄色い歓声が上がった。
「な……なななななな!!」
俺はようやっとの思いで、彼の腕の中から抜けだすと、口を腕で拭った。
何たる不覚! なんたる失敗! 昨年に続いてまたもや男に無理やりキスされるとは!!
「僕の恋人になってくれますね?」
「お、おおお、俺は男なんだぞっ! 騙して悪かったとは思うが、お、俺にはそんな気は……」
「僕は、本当は女性なんですよ。だからそんなに慌てなくてもいいじゃないですか」
「だから俺は男だって……、へ? 女性?」
「そうです。今はまだ体は女性なんですが。気が付きませんでしたか?」
これには俺だけじゃなくて、会場全体が驚いた。
「「「「「「えええええっ~!!!!!!??????」」」」」」
このとき、俺は気がつかなかったのだが、この場で驚かなかった人間が他に2人いた。
<つづく>
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