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「新入社員にご用心」(4)  作.ありす  挿絵.T

(4)-------------------------------------------------------

 勤務評定に差し支えては困るからと何度も自分に言い聞かせ、女子用制服(もちろんスカート)に着替え、部屋に戻った。
 周囲に“おおぉ~”というざわめきが起こる。
 名実ともに女子社員デビューだ。ちくしょぉッ!


 そして昼休み。例によってカオルは、自分とおれの分の昼食を買出しに出かけていた。
 おれは部屋の隅にある応接テーブルに、ランチョンマットと即席みそ汁の入った紙コップを二人分用意していると、甘井先輩が話しかけてきた。

「もうどこから見ても、完璧な女子社員だな」
「余計なお世話です」
「ふむ。ところで、知っていたか? 小鳥遊。 後天性性転換症って、キスぐらいじゃ伝染らないんだそうだぞ」
「へー、そうなんですか……えっ!? い、今なんて?」
「お前たちもヤることはヤってたんだな。遅くなったが脱童貞おめでとう。そしていずれ迎える、或いは迎えたであろう処女喪失に」

 お茶の入った紙コップを、祝杯のように掲げた先輩がニヤニヤしながら言う。

「ちょっと待ってください! キスぐらいじゃ伝染らないって、本当ですか?!」

 既に2度目の声変わりを果たしてしまっていたおれは、ハイトーンの叫び声を上げた。
 性転換症は体液交換で人から人に伝染る。それは聞いた。
 だからおれはあの時、キスされたから自分も感染したと思ったんだ。
 だから、カオルの誘いもあって、その……むにゃむにゃもした。
 お互いに性別が、完全に入れ替わってしまう前にと思って……。
 あの時カオルは、『こんなに早く、僕のことを受け入れてくれるなんて』と感極まって涙ぐんでいた。そのときは、こっちも“童貞喪失の最後のチャンス”と下心があったから、適当に受け流していたのだが、よもやそう言うトラップだったとは!!

「お前ってほんと、面白い奴だよな。特に彼女たちにとっては、格好の餌食みたいだぞ?」

 先輩の指差す先には、もうこれ以上はないっていうぐらいに、好奇の目で悶絶している女子社員達がいた。
 しまった! 今のを聞かれたか……。
 先週までは会社では頑なに男性用スーツで通していたおれと、会社では入社した時から男性として通してきたカオル。
 彼女たちがどんな想像を、おれ達でしているのか考えたくない。

 そういえばあの新人歓迎会の事件、3人で別室に移った時も先輩は、妙に落ち着いていた。
 おれが完全にパニクっていたにもかかわらず、あの二人は平然としていた。

「もしかして先輩、最初から全部知って……。いえ、仕組んでいたんじゃないんですか?」
「さあな。だが、社長は人事から知らされていたみたいだぞ。自分の姪が入社したことをな」

 なんだって!? カオルが社長の姪!? 
 ということは、これは完全に仕組まれていたことで、何も知らなかったのは俺だけだったってことか!?
 
「ちくしょう! ハメられたっ!」

 テーブルをだんっ!と叩くと、

「何を乱暴な言葉遣いしているんだい?」

 ちょうど買出しを終えて戻ってきたカオルに、おれは言葉遣いを咎められた。
 カオルは俺にぞっこんだけあって、色々と甘やかしてくれるが、乱暴な仕草や言葉遣いをすると、顔を曇らせて矯正を試みる。

「せっかくの可愛らしい制服姿が台無しだよ? もう少し、女らしく」

 へっへんーだ!
 おれは自分の事、女だとは思っていないモンね!
 これは歓迎会の時にした女装と同じだと思えば、なんて事は無い!
 体のほうはともかく……。

 だが、あのプレゼント攻勢とイベント賛昧の日々は、社長一族ゆえの資金力があったからか! 
 金にモノを言わせて、おれをカオル好みに染めていたとは、ふてえ野郎だ!

「カオルぅ~。お前俺の事、騙したな!」
「どうしたんだい? 急に、怖い顔して。何のことだかわからないけど、キミを愛しているのに嘘偽りはないよ」
「恥ずかしいセリフを平気で人前で言うな!」 
「昼食を買いに行ったらさ、キミに似合いそうなワンピースを見つけたんだ。今度それを着て、どこかに旅行でも行かないか?」

 ワンピースは御免被るが、旅行は魅力的だな。

「す、スカートは嫌だって、いつも言ってるだろ?」

 会社では仕方ないから制服のスカートを履いたが、普段着はデートの時もジーンズとジャケットで押し通すつもりだ! これからも!

「どうして? 絶対君に似合うからさ、ちょっとだけでもさ……」
「どうしよっかな」
「美人でかわいい女性を連れて歩いていたら、ぼくも君を自慢できるしさ。頼むよ」
「ワタシはアンタのアクセサリじゃない」
「キミがどんどん素敵になっていくのがうれしいんだよ。駄目かい?」

 ま、そんなに熱心に勧めるなら、着てやらないわけでもないけどな。
 どうせ既に買ってあるんだろう?
 家に帰ったら半ば強引に、着せ替え人形させられるのだ。
 それに、鏡の中の自分が綺麗になっていくのを見るのが、最近ちょっとだけうれしく感じて……。
 いやいや、そうじゃない! そうじゃないだろ!!!
 いつの間にか話をそらされているぞ。
 俺はカオルの襟をつかんでいった。
 
「おい、カオル! キスしただけじゃ、伝染らないそうじゃないか!」
「何が? ああ、性転換症のことかい? そうだよ、知らなかったのかい?」
「お前あの時、そんな事言わなかったじゃないか!」
「そんな……キス以上のことをしなきゃ伝染らないなんて、そんな事言えないじゃないか。ボクだってあの時はその、まだ女性だったんだから……」
「もうひとつ! お前、社長の姪なんだってな?」
「それはあまり言って欲しくないな。縁故採用だなんて、馬鹿にされたくないからね」
「もう許さない! おれの事いっぱい、いろいろ騙しやがって!」

 俺はカオルに掴みかかろうとすると、振り上げた手を掴まれてあっさりと抱きしめられてしまった。
 自分よりも20センチ以上も背の高いカオルには、どうしても体力的には敵わない。

「だから、責任は取るっていっているじゃないか。愛しているよ、圭」

 おれの手を両手で包むように握ると、小さな恋人にするように、額に軽くキスされた。
 待っていましたとばかりに、女子社員共の黄色い声が上がる。
 恥ずかしくて情けなくて、逃げ出したいぐらいだ。

 けれど……

 困ったことに、あまり心の底から嫌になれない。
 こんな恥ずかしい目にあっているのに、どこか嬉しい自分がいる。
 いや、絶対に認めたくはないが、多分……幸せ感じている自分がいるのだ。
 きゃ、客観的に見ればいわゆる玉の輿だし、決して、イケメンだからだとか、おいしいもの食べさせてくれたりだとか、デートが豪華でロマンチックだからだとか、どんな時もやさしいからだとか、愛してくれているからだとか、そういうんじゃないんだから!!

 けど、油断大敵だった! 
 事もあろうに、カオルのヤツはスキを見たと判断したのか、みんなが見ているというのに、おれをひょいと抱き上げて、今度は唇を重ねた。
 うぅ、駄目だ。逆らえない。
 どうしたわけか、最近はこんなふうに抱きしめられたりキスされたりすると、体から力が抜けて、カオルのいいようにされてしまう。
 で、でももちろん、あの時以来、キス以上のことなんて許していないけどな!
 恋人関係にランクアップしたからって、調子に乗るなよ!!
 おれはカオルの腕の中から逃れて抗議した。

「キ、キスで誤魔化そうったって、そうはいかないんだから!」
「じゃ、どうして欲しいんだい?」

 う、そう言われると、どうして欲しいんだろう?
 こんな時は、何を要求すればいいんだ?
 女の子なら、服とかアクセサリとか?
 イヤ待て! そうじゃない、そうじゃないだろ!

 そう言いながら、おれの体の線を確かめるようにして、腰から背中にかけて手を回して肩を抱いた。
 やめろってば!! いちいち体に触ろうとするの!
 医学的には女性になっていることが知られてしまっているとしても、それをカオルに確かめられるのは嫌だ。
 胸や腰にサラシ巻いたりして、可能な限り女性の体型をごまかしているが、触られたらどんな体をしているか、やっぱり解ってしまう。
 とにかく、カオルに俺の体の秘密を知られるのは、出来る限り避けたい。
 こんな体になってしまったおれを、性的な目でカオルに見られるのだけは嫌だからな。
 そういうおれの気持ち知らないで、全く!

「男に戻してくれたら、考えても良いけど?」
「う、それは……」

 いつもは男性的にリードしてくれるカオルも、こう言うととたんに歯切れが悪くなる。

「今度の休みに、泊まりで温泉にでも行こうよ。それで許してくれる?」

 どうしよっかなー。温泉かぁ……、たまにはいいな。
 急な体の変化のせいか、まだ全身が筋肉痛みたいに痛いんだよね。
 当然これもカオルには内緒だ。
 もし知られたら、何を要求されるか目に見えているからな。
 おれの機嫌が直りつつあるのを見てとったのか、カオルがいつものさわやかな笑顔で言った。

「カップルで入れる、穴場の温泉があるんだ。楽しみだね」

 穴場かぁ、いいね。あんまり人が居ないほうがいい。
 ん? 待てよ? カップルで入れる?? だってそれは、つまり……。
 今度は、こっちがうろたえる番だった。
 俺は顔に体中の血が集まっていくのを感じながら、カオルに釘を差した。 

「お、温泉に入る時は、別々だからねっ!!」
「楽しみだなぁ……」

ありす様_挿絵 2

 ニコニコ笑顔のカオルには、おれの言うことが耳に入っていないようだった。

 もっともいくらおれがそう宣言したところで、結局のところいつの間にかカオルの好きなようにさせている、おれがいるのだ。
 それが本当に癪だけれど、嫌だと思ったことは……たぶん無い。


 週明けには、おれ達はもっと仲のよい――
 つまり、恋人以上夫婦未満になっていそうな予感がした。

<END?>

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