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水曜イラスト企画 絵師 うつき滄人(11) 朽木 郁人(いくと)&宇多野 桜(さくら)
朽木 郁人(いくと)&宇多野 桜(さくら)
宇宙人に誘拐されて、脳移植の実験台にされた腐れ縁の高校生の男(一匹狼系のヤンキー、冷たい目のハンサム)&女(学級委員長タイプ、目は良く、グラマーで巨乳)。実は女の子の方は主人公のことが好きで、今まで率直じゃなかった分、主人公の体で暴走してしまい…。
絵師:うつき滄人 http://utukiaoto.fc2web.com/

水曜イラスト企画の説明はこちら。毎週1枚キャライラストをUPします。
本キャラを主人公/脇役にしたSSを募集しています。コメント欄に書き込んでください。(事故を防ぐため別途ローカル保存推奨)追加イラストを希望する場合は希望シーンに<イラスト希望>と書き込んでください。私が了承し、絵師さんも乗った場合はイラストの作成を開始します。
うつき滄人さんはソフトエロOKとの事ですのでよろしくー。
宇宙人に誘拐されて、脳移植の実験台にされた腐れ縁の高校生の男(一匹狼系のヤンキー、冷たい目のハンサム)&女(学級委員長タイプ、目は良く、グラマーで巨乳)。実は女の子の方は主人公のことが好きで、今まで率直じゃなかった分、主人公の体で暴走してしまい…。
絵師:うつき滄人 http://utukiaoto.fc2web.com/

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本キャラを主人公/脇役にしたSSを募集しています。コメント欄に書き込んでください。(事故を防ぐため別途ローカル保存推奨)追加イラストを希望する場合は希望シーンに<イラスト希望>と書き込んでください。私が了承し、絵師さんも乗った場合はイラストの作成を開始します。
うつき滄人さんはソフトエロOKとの事ですのでよろしくー。
MiX! オトコの娘はくじけない!!
![]() | MiX! オトコの娘はくじけない!! (角川スニーカー文庫) (2011/11/30) 岩佐 まもる 商品詳細を見る |
12月の文庫 チェックリスト
12/01 集英社 コバルト文庫 お釈迦様もみてる 超難解問題集 今野緒雪 \500
12/01 角川書店発行/角川グループパブリッシング発売 スニーカー文庫 MiX! オトコの娘はくじけない!! 岩佐まもる \660
12/中 キルタイムコミュニケーション あとみっく文庫 兄よりすぐれた妹などこの世に存在してはいけない 山口昇一 \690
12/中 キルタイムコミュニケーション 二次元ドリーム文庫 このたび男装女子と寮でルームメイトになりました 舞麗辞 \662
12/26 エンターブレイン発行/角川グループパブリッシング発売 ファミ通文庫 バカとテストと召喚獣(10) 井上堅二 \609
12/01 角川書店発行/角川グループパブリッシング発売 スニーカー文庫 MiX! オトコの娘はくじけない!! 岩佐まもる \660
12/中 キルタイムコミュニケーション あとみっく文庫 兄よりすぐれた妹などこの世に存在してはいけない 山口昇一 \690
12/中 キルタイムコミュニケーション 二次元ドリーム文庫 このたび男装女子と寮でルームメイトになりました 舞麗辞 \662
12/26 エンターブレイン発行/角川グループパブリッシング発売 ファミ通文庫 バカとテストと召喚獣(10) 井上堅二 \609
可愛くなんかないからねっ!〈2〉
![]() | 可愛くなんかないからねっ!〈2〉 (電撃文庫) (2011/11/10) 瀬那 和章 商品詳細を見る |
まんがと図解でわかる ドラッカー 使えるマネジメント論
ドラッカー様が女子大生とBODY SWAPとのこと・・・買います。
![]() | まんがと図解でわかるドラッカー 使えるマネジメント論 (別冊宝島) (別冊宝島 1823 スタディー) (2011/11/11) 藤屋 伸二 商品詳細を見る |
現在もいつかもふぁるなルナ
![]() | 現在もいつかもふぁるなルナ (2011/11/25) Windows 商品詳細を見る |
12月のコミック チェックリスト
12/01 エンターブレイン発行/角川グループパブリッシング発売 サキュバス☆ハニー 砂音 鈴 \651
12/01 小学館 らんま1/2~TVドラマ記念・よりぬき完全版~ 上巻 高橋 留美子 \950
12/01 小学館 らんま1/2~TVドラマ記念・よりぬき完全版~ 下巻 高橋 留美子 \950
12/02 集英社 霊媒師いずな 10(完) 岡野 剛 \540
12/02 ティーアイネット (成)姉・コントロール 柚木N’ \1050
12/05 海王社 (成)お嬢様と犬 大波 耀子 \1050
12/05 海王社 (成)ヴァージントレイン 完全版 クリムゾン \1260
12/07 ジャイブ ゴッドバード 3 長谷川 裕一 \590 書籍扱
12/08 祥伝社 幻想異界ウンディーネ 遠藤 淑子 \950
12/09 富士見書房発行/角川グループパブリッシング発売 これはゾンビですか? 4 木村 心一 \609
12/10 久保書店 (成)精霊特捜フェアリィセイバーW処女狩り 上藤 政樹 \1260 書籍扱
12/10 コアマガジン (成)女教師地獄篇 千葉 哲太郎 \1050 書籍扱
12/12 双葉社 まじブラ!? 1 歌麿 \630
12/12 双葉社 メイド××じゃありませんっ!! 松波 留美 \650
12/13 講談社 おかしな★ふたり 1 丘上 あい \450
12/15 エンターブレイン発行/角川グループパブリッシング発売 ココロコネクト 2 CUTEG \683 書籍扱
12/16 茜新社 (成)姦-KAN- うるし原 智志 \2480
12/16 講談社 修羅の門 第弐門 4 川原 正敏 \460
12/16 講談社 賭博覇王伝 零 ギャン鬼編 2 福本 伸行 \560
12/16 小学館 絶対可憐チルドレン 28 椎名 高志 \440
12/19 集英社 ねじまきカギュー 3 中山 敦支 \540
12/19 少年画報社 少年よ大志を抱け! 1 花見沢 Q太郎 \600
12/20 秋田書店 しゃーまんず・さんくちゅあり こいで たく \580
12/20 メディアックス (成)オトコのコHEAVEN アンソロジー \1200
12/22 オークス (成)妹催眠調教マニュアル 香月 りお \1155
12/22 オークス (成)ピンクだけ戦隊 すっきりんジャー TAM \1100
12/22 アスキー・メディアワークス発行/角川グループパブリッシング発売 ひめごとははなぞの 5 わたなべ あじあ \609 書籍扱
12/22 講談社 そんな鉄ァいねえ!! 駒井 悠 \
12/22 ジーオーティー (成)隷従契約~美囚芸能オフィス~ 中華 なると \1000 書籍扱
12/22 集英社 うそつきリリィ 6 小村 あゆみ \420
12/22 スクウェア・エニックス 繰繰れ! コックリさん 1 遠藤 ミドリ \590
12/22 スクウェア・エニックス トライピース 11(完) 丸 智之 \440
12/24 辰巳出版 わたしのお嬢様 メイド服のお嬢様編 上 樹 るう \680
12/26 角川書店発行/角川グループパブリッシング発売 乙女はお姉さまに恋してる 2人のエルダー 3 ういら あくる \609 書籍扱
12/26 小学館 姫ギャル パラダイス 5 和央 明 \420
12/26 少年画報社 マンガで分かる心療内科 5 ソウ \680
12/27 ジーウォーク (成)PLUM DX 6 マニ・フェチ新感覚コミックス アンソロジー \1050
12/28 日本文芸社 奥さまは女スパイ 山口 譲司 \620
12/29 エンターブレイン発行/角川グループパブリッシング発売 少年メイド 5 乙 橘 \651 書籍扱
12/下 キルタイムコミュニケーション 少女幻葬ネクロフィリア 1 カズミヤ アキラ \580 書籍扱
12/下 キルタイムコミュニケーション (成)新道一単行本(仮) 新道 一 \990 書籍扱
12/下 キルタイムコミュニケーション (成)人体改造アンソロジーコミックス 助三郎 \990 書籍扱
12/01 小学館 らんま1/2~TVドラマ記念・よりぬき完全版~ 上巻 高橋 留美子 \950
12/01 小学館 らんま1/2~TVドラマ記念・よりぬき完全版~ 下巻 高橋 留美子 \950
12/02 集英社 霊媒師いずな 10(完) 岡野 剛 \540
12/02 ティーアイネット (成)姉・コントロール 柚木N’ \1050
12/05 海王社 (成)お嬢様と犬 大波 耀子 \1050
12/05 海王社 (成)ヴァージントレイン 完全版 クリムゾン \1260
12/07 ジャイブ ゴッドバード 3 長谷川 裕一 \590 書籍扱
12/08 祥伝社 幻想異界ウンディーネ 遠藤 淑子 \950
12/09 富士見書房発行/角川グループパブリッシング発売 これはゾンビですか? 4 木村 心一 \609
12/10 久保書店 (成)精霊特捜フェアリィセイバーW処女狩り 上藤 政樹 \1260 書籍扱
12/10 コアマガジン (成)女教師地獄篇 千葉 哲太郎 \1050 書籍扱
12/12 双葉社 まじブラ!? 1 歌麿 \630
12/12 双葉社 メイド××じゃありませんっ!! 松波 留美 \650
12/13 講談社 おかしな★ふたり 1 丘上 あい \450
12/15 エンターブレイン発行/角川グループパブリッシング発売 ココロコネクト 2 CUTEG \683 書籍扱
12/16 茜新社 (成)姦-KAN- うるし原 智志 \2480
12/16 講談社 修羅の門 第弐門 4 川原 正敏 \460
12/16 講談社 賭博覇王伝 零 ギャン鬼編 2 福本 伸行 \560
12/16 小学館 絶対可憐チルドレン 28 椎名 高志 \440
12/19 集英社 ねじまきカギュー 3 中山 敦支 \540
12/19 少年画報社 少年よ大志を抱け! 1 花見沢 Q太郎 \600
12/20 秋田書店 しゃーまんず・さんくちゅあり こいで たく \580
12/20 メディアックス (成)オトコのコHEAVEN アンソロジー \1200
12/22 オークス (成)妹催眠調教マニュアル 香月 りお \1155
12/22 オークス (成)ピンクだけ戦隊 すっきりんジャー TAM \1100
12/22 アスキー・メディアワークス発行/角川グループパブリッシング発売 ひめごとははなぞの 5 わたなべ あじあ \609 書籍扱
12/22 講談社 そんな鉄ァいねえ!! 駒井 悠 \
12/22 ジーオーティー (成)隷従契約~美囚芸能オフィス~ 中華 なると \1000 書籍扱
12/22 集英社 うそつきリリィ 6 小村 あゆみ \420
12/22 スクウェア・エニックス 繰繰れ! コックリさん 1 遠藤 ミドリ \590
12/22 スクウェア・エニックス トライピース 11(完) 丸 智之 \440
12/24 辰巳出版 わたしのお嬢様 メイド服のお嬢様編 上 樹 るう \680
12/26 角川書店発行/角川グループパブリッシング発売 乙女はお姉さまに恋してる 2人のエルダー 3 ういら あくる \609 書籍扱
12/26 小学館 姫ギャル パラダイス 5 和央 明 \420
12/26 少年画報社 マンガで分かる心療内科 5 ソウ \680
12/27 ジーウォーク (成)PLUM DX 6 マニ・フェチ新感覚コミックス アンソロジー \1050
12/28 日本文芸社 奥さまは女スパイ 山口 譲司 \620
12/29 エンターブレイン発行/角川グループパブリッシング発売 少年メイド 5 乙 橘 \651 書籍扱
12/下 キルタイムコミュニケーション 少女幻葬ネクロフィリア 1 カズミヤ アキラ \580 書籍扱
12/下 キルタイムコミュニケーション (成)新道一単行本(仮) 新道 一 \990 書籍扱
12/下 キルタイムコミュニケーション (成)人体改造アンソロジーコミックス 助三郎 \990 書籍扱
緊急の場合は 1-2 by.amaha
(2)
朝シャワーを使ったときには緊張した。女子の体に興味がないといえば嘘になる。それに佳奈子はかなりの美少女だ。
しかし興味本位で触れるのは彼女に対する裏切りのような気がした。相手を異性と意識する四五年前までは親友、いや兄弟姉妹同然の仲と思っていた。佳奈子が男なら今でもずっと一緒にいたと思う。
そんな訳で極力冷静に洗い始めたのだが、やはり男と違いなめらかで敏感な肌に戸惑い、ずいぶん時間がかかってしまった。
「長すぎるぞ」
と黒猫がドアの隙間から顔を出す。
「わかったってば」
照れ隠しに湯を相手にかけ、シャワーを切り上げた。時計を見ると確かに時間が迫っている。あわてて体を拭いて用意を整えた。
幸い遅刻にはならず、初日はスタートした。
同じクラスだったので普段の佳奈子の雰囲気は知っているし、猫からの情報もある。ただ、今日は静かだねなどと言われるのは避けられなかった。女どもの会話の速さについていけず、どうしても聞き役になってしまう。
ともかく何とか放課後まで無事に過ごした俺は部に少し顔を出し、手首の調子が悪いとつげ、走りこみだけで帰らせてもらった。
中一まで同じ道場に通ったので多少の心得はあるが、そのあとは時々祖父の古武道をかじった程度なので、佳奈子の柔道の真似ができるわけはない。もちろん二週間ずっと仮病で通すのは無理だ。しかし手首をかばって動けば体捌きの違いも多少はごまかせるだろう。
汗の臭いを消すための様々な臭いが漂う女子ロッカーで着替え外に出る。そこで意外な人物が俺を、いや佳奈子を待っていた。
「少し時間いいかな」
荒木レイカだ。
「ええ」
そう返事をして肩を並べて歩いた。雑誌のモデル並みに綺麗なので、今の自分が佳奈子だということを忘れて緊張してしまう。
レイカと佳奈子は親しい。猫情報では休日に二人で何度か買い物に行っていた。それにクラスでも会話をしている場面を見かけることが多かった。
レイカは中庭に入ると立ち止まった。
「姫くん休んだでしょう」
「うん」
「急用で二週間くらい親戚の家に行くって担任が言ってたけど」
「ええ」
「きのう、あなた達が放課後一緒にいたのを見た人がいるんだけど、関係はないのかしら」
女子の情報網恐るべし。
「ないわ」
嘘でごまかすのはまずい。レイカとの友情にヒビが入れば佳奈子が悲しむ。
最後の会話が気になったので、レイカと俺に関してなら――佳奈子自身のプライバシー以外――猫から詳しく聞いていた。
「あなたは察してたと思うけど……姫くんのことが、何ていうか、気になってきたことを」
「憎からず思ってるってこと?」
「まあそんな感じ」
「何となくね」
「じゃあ、ひょっとして」
推測になってしまうが言ったほうがいいだろう。ただ、レイカの内心をのぞき見するようで気が引ける。
「差し出がましいとは思ったけど、それとなく聞いてみた。でも、途中で邪魔が入ってはっきりとは」
「良ければ聞きたいんだけど」
「うん」
「でも、その前に1つ確認」
「なに? なんだか怖い顔だけど」
「あなたはどうなの、姫くんのこと」
「だから単なる幼なじみで」
「姫くんの方は?」
「同じだと思うけど、どうして?」
「二人きりで話したこともないのに気になるのは……決して一目惚れしたからじゃないわ」
まあ、そうだろうさ。それにしても真剣なレイカは身震いするほど美しい。俺は見とれていた。
「あなたの話を聞いているうちに興味を持ったのが第一歩なの」
「レイカには昔のことをよく質問されたわね」
「うん。なんだか羨ましかった」
「でも、レイカは綺麗だけど(自分で言うのはなんだか悔しいが)雛芳はごく平凡じゃない」
「あなたになら言えるけど、私は男の子にもてる」
「そりゃまあ」
「それなりに自分に自信があって告白するんだろうけど、見てるのは明らかに私の外見だけなの」
俺も同じだと思うぞ。
「レイカは優しいし、お話するのがとても楽しいけど」
「あなたは私の内面を見てくれているもの。男なんて、普通の男はそんなところは見ない。餓えた野獣のようなものよ」
いや、まあ、心当たりはありまくりである。
「姫くんなら、私を一人の人間として見て判断してくれると思うな」
買いかぶりすぎです、レイカさん。
「もっと平凡だと思うけど」
「近すぎて見えないのかもよ。それより彼はなんて言ったの、私のこと」
俺は佳奈子の記憶とずれないよう正確にいうことにした。
「えーっとね。『密かに憧れている』って言ったと思う」
「やったわ」
レイカがうれしそうに微笑んだので、なんだか恥ずかしくて頬が熱い。
「どうして、あなたが赤くなってるの?」
「だってほら、兄か弟のような感じだから他人ごととは思えなくて」
「ふ~ん、とにかく戻ってきたら会えるようにして、お願い」
正直言って天にも昇る気持ちだった。
見た目は学内一の美少女だし、佳奈子の評価がとても高いのを今の俺は知っている。そして佳奈子の判断を俺はとても信頼していた。
「わかった」
「ありがとう」
そう言ってレイカが抱きついてきたので俺は舞い上がってしまった。
戸惑いながらも俺なりに上手に佳奈子を演じたと思っている。
授業もしっかり聞いた。筆跡は俺のものなので、ノートをとるのはまずい。だから帰宅後入力しなければならないから集中するしかなかったんだけどね。
部活も何とかこなした。部員に混じっての着替えや乱取りにはさすがに困ってしまうが……
俺が身代わりをしていたことが佳奈子にバレたら殺されるかもしれない。
中でも一番の収穫はレイカをよく知ることができたことかな。
これまでの超美少女という評価は、本人自身も拒否しているが、あまりに表面的すぎる。彼女の中には佳奈子に負けない優しさや魅力がいっぱい詰まっていた。
そんなこんなで二週間はまたたく間に過ぎた。
その日、放課後そろそろ猫と共に山頂公園に行こうかと思っていた日、登校した俺は意外な、まさに想像もしていたなかった人物と会った。
「おはよう佳奈子」
「か、か、佳奈……姫くん!」
あわてて教室の隅に引っ張っていく。
「あ、あなた!」
「えへへ、治ったわよ。偽物の加奈子ちゃん」
「なぜ?」
「刑事さんは急用で帰国、じゃないや、帰星らしいわよ」
「え~!」
俺の黄色い悲鳴が教室に響き渡った。
(おあとがよろしいようで)
朝シャワーを使ったときには緊張した。女子の体に興味がないといえば嘘になる。それに佳奈子はかなりの美少女だ。
しかし興味本位で触れるのは彼女に対する裏切りのような気がした。相手を異性と意識する四五年前までは親友、いや兄弟姉妹同然の仲と思っていた。佳奈子が男なら今でもずっと一緒にいたと思う。
そんな訳で極力冷静に洗い始めたのだが、やはり男と違いなめらかで敏感な肌に戸惑い、ずいぶん時間がかかってしまった。
「長すぎるぞ」
と黒猫がドアの隙間から顔を出す。
「わかったってば」
照れ隠しに湯を相手にかけ、シャワーを切り上げた。時計を見ると確かに時間が迫っている。あわてて体を拭いて用意を整えた。
幸い遅刻にはならず、初日はスタートした。
同じクラスだったので普段の佳奈子の雰囲気は知っているし、猫からの情報もある。ただ、今日は静かだねなどと言われるのは避けられなかった。女どもの会話の速さについていけず、どうしても聞き役になってしまう。
ともかく何とか放課後まで無事に過ごした俺は部に少し顔を出し、手首の調子が悪いとつげ、走りこみだけで帰らせてもらった。
中一まで同じ道場に通ったので多少の心得はあるが、そのあとは時々祖父の古武道をかじった程度なので、佳奈子の柔道の真似ができるわけはない。もちろん二週間ずっと仮病で通すのは無理だ。しかし手首をかばって動けば体捌きの違いも多少はごまかせるだろう。
汗の臭いを消すための様々な臭いが漂う女子ロッカーで着替え外に出る。そこで意外な人物が俺を、いや佳奈子を待っていた。
「少し時間いいかな」
荒木レイカだ。
「ええ」
そう返事をして肩を並べて歩いた。雑誌のモデル並みに綺麗なので、今の自分が佳奈子だということを忘れて緊張してしまう。
レイカと佳奈子は親しい。猫情報では休日に二人で何度か買い物に行っていた。それにクラスでも会話をしている場面を見かけることが多かった。
レイカは中庭に入ると立ち止まった。
「姫くん休んだでしょう」
「うん」
「急用で二週間くらい親戚の家に行くって担任が言ってたけど」
「ええ」
「きのう、あなた達が放課後一緒にいたのを見た人がいるんだけど、関係はないのかしら」
女子の情報網恐るべし。
「ないわ」
嘘でごまかすのはまずい。レイカとの友情にヒビが入れば佳奈子が悲しむ。
最後の会話が気になったので、レイカと俺に関してなら――佳奈子自身のプライバシー以外――猫から詳しく聞いていた。
「あなたは察してたと思うけど……姫くんのことが、何ていうか、気になってきたことを」
「憎からず思ってるってこと?」
「まあそんな感じ」
「何となくね」
「じゃあ、ひょっとして」
推測になってしまうが言ったほうがいいだろう。ただ、レイカの内心をのぞき見するようで気が引ける。
「差し出がましいとは思ったけど、それとなく聞いてみた。でも、途中で邪魔が入ってはっきりとは」
「良ければ聞きたいんだけど」
「うん」
「でも、その前に1つ確認」
「なに? なんだか怖い顔だけど」
「あなたはどうなの、姫くんのこと」
「だから単なる幼なじみで」
「姫くんの方は?」
「同じだと思うけど、どうして?」
「二人きりで話したこともないのに気になるのは……決して一目惚れしたからじゃないわ」
まあ、そうだろうさ。それにしても真剣なレイカは身震いするほど美しい。俺は見とれていた。
「あなたの話を聞いているうちに興味を持ったのが第一歩なの」
「レイカには昔のことをよく質問されたわね」
「うん。なんだか羨ましかった」
「でも、レイカは綺麗だけど(自分で言うのはなんだか悔しいが)雛芳はごく平凡じゃない」
「あなたになら言えるけど、私は男の子にもてる」
「そりゃまあ」
「それなりに自分に自信があって告白するんだろうけど、見てるのは明らかに私の外見だけなの」
俺も同じだと思うぞ。
「レイカは優しいし、お話するのがとても楽しいけど」
「あなたは私の内面を見てくれているもの。男なんて、普通の男はそんなところは見ない。餓えた野獣のようなものよ」
いや、まあ、心当たりはありまくりである。
「姫くんなら、私を一人の人間として見て判断してくれると思うな」
買いかぶりすぎです、レイカさん。
「もっと平凡だと思うけど」
「近すぎて見えないのかもよ。それより彼はなんて言ったの、私のこと」
俺は佳奈子の記憶とずれないよう正確にいうことにした。
「えーっとね。『密かに憧れている』って言ったと思う」
「やったわ」
レイカがうれしそうに微笑んだので、なんだか恥ずかしくて頬が熱い。
「どうして、あなたが赤くなってるの?」
「だってほら、兄か弟のような感じだから他人ごととは思えなくて」
「ふ~ん、とにかく戻ってきたら会えるようにして、お願い」
正直言って天にも昇る気持ちだった。
見た目は学内一の美少女だし、佳奈子の評価がとても高いのを今の俺は知っている。そして佳奈子の判断を俺はとても信頼していた。
「わかった」
「ありがとう」
そう言ってレイカが抱きついてきたので俺は舞い上がってしまった。
戸惑いながらも俺なりに上手に佳奈子を演じたと思っている。
授業もしっかり聞いた。筆跡は俺のものなので、ノートをとるのはまずい。だから帰宅後入力しなければならないから集中するしかなかったんだけどね。
部活も何とかこなした。部員に混じっての着替えや乱取りにはさすがに困ってしまうが……
俺が身代わりをしていたことが佳奈子にバレたら殺されるかもしれない。
中でも一番の収穫はレイカをよく知ることができたことかな。
これまでの超美少女という評価は、本人自身も拒否しているが、あまりに表面的すぎる。彼女の中には佳奈子に負けない優しさや魅力がいっぱい詰まっていた。
そんなこんなで二週間はまたたく間に過ぎた。
その日、放課後そろそろ猫と共に山頂公園に行こうかと思っていた日、登校した俺は意外な、まさに想像もしていたなかった人物と会った。
「おはよう佳奈子」
「か、か、佳奈……姫くん!」
あわてて教室の隅に引っ張っていく。
「あ、あなた!」
「えへへ、治ったわよ。偽物の加奈子ちゃん」
「なぜ?」
「刑事さんは急用で帰国、じゃないや、帰星らしいわよ」
「え~!」
俺の黄色い悲鳴が教室に響き渡った。
(おあとがよろしいようで)
緊急の場合は -1 by.amaha
Ⅰ
(1)
宇宙刑事のアイデアとは、肉体の再構成を待つ間、俺が佳奈子の身代わりを務めることだった。彼らの科学力でも自我のコピーはできないが、移すのは容易いらしい。
俺としては引き受けるにしても佳奈子の許可が欲しいところだ。後でバレたら酷い目にあうのは確実なのだから。
ただ医療用の電脳に移された佳奈子の精神は一種のデフラグ中で止めるのは不可能な状態だという。
普通に考えれば俺が半殺しにあった時の記憶を消せばよさそうなものである。聞けば彼らの技術なら易しいことだという。ところがそうはいかないイカの金――いや失礼、俺はしばらく女の子だったっけ。
問題は俺の情報が佳奈子の中で複雑に絡み合っている点だ。俺が犯人に殺されかけた一瞬の間に佳奈子は過去の俺を思い出し、記憶が強く結びついたのだという。下手に事件の記憶を消すと過去の俺の記憶やそれに結びつく幼い頃からの思い出にも虫食いのような穴があくそうだ。
最終的には、佳奈子の肉体を動かしていたのは刑事の助手のAIだと口裏を合わせるよう説得して、俺は引き受けた。
刑事は二つの便利グッズを貸してくれた。あらかじめ説明しておくとヤツは地球の文化をひと通り調べているし、俺と佳奈子の記憶も見ている。
で、最初の一つが俺の横を歩いている黒猫である。佳奈子の飼い猫とそっくりに出来ており、暫くの間本物には眠ってもらい入れ替わる予定だ。中身は刑事の助手のAIで、俺が困らぬように佳奈子の記憶から抽出したデータベースを内蔵している。
「我輩の偽物をどうすればいい」
なんだか偉そうである。
「薬で眠らせてポケット空間とやらに隠すって聞いたぞ」
「それは把握している。それを誰がする」
「誰って……自分でできるのか?」
「吾輩は刑事の助手だぞ。ただ命令がなくては動けない。それは、お主の役目だ」
どうやってキキを、飼い猫の名前だ、捕まえようかと悩んでいたので渡りに舟である。
「家が近づいたら先行してやっちゃってくれ」
「がってんだ」
それじゃあ、岡っ引きだ。
俺と猫が降りたのは山頂公園の近くだ。噂になった二つの光球は犯人と刑事の宇宙船で、俺たち人類には探知できないが、今もそこに隠されていた。
女性の体に違和感はある。しかし夕暮れが迫っているので急がなければならない。
「校門が近い。隠れてくれマオ」
「気をつけろ、銀(イン)」
俺の記憶もしっかりデータベース化しているらしい。
クラブ活動で遅くなった生徒に混じり家路を急ぐ。
佳奈子は何か理由をつけて部をサボったはずなので、女子柔道部員に会わないかとヒヤヒヤしたが杞憂に終わった。何かの事情で練習がなかったのかもしれない。
自宅が近づいた所で二手に分かれる。猫はキキを捕まえに、俺は自宅に俺が消えた言い訳を告げに行くためだ。
「行け、ロデム」
「どうボケればいい」
「いいから、行けって」
「にゃぁ~」
呼び鈴を押すと母がドアを開けた。
「あら、佳奈子ちゃん、珍しいわね。雛芳はまだ帰ってないけど……上がって待つ?」
「こんばんわ、おばさん。姫くんは帰らないそうです」
「あら」
「なんだか修行のために山篭りするからって、突然」
「まあ。お祖父様のところかしら」
俺の祖父は定年後古武道にのめり込んだ変わり者だ。気が合うので長期休暇に何度か一緒に山ごもりをしたことがある。
女の子を助けたいからとメールでアリバイ工作を頼んだから何とかしてくれるだろう。弱きを助けろと俺にいつも言っていたことだし。
ちなみに祖父は叩き上げの警官で警視正・署長になり定年を迎えた。 父も警察官だが、キャリア組で、三十才までに地方の警察署長を経験し、今は警視監・警視庁局長になっている。二人は仲が悪かった。
「そうかもしれません」
「でもどうして急に。まさか勉強をさぼるきじゃ」
母は怒らせると怖い。
「前期の定期試験は終わったばかりですし、後でノートを見せてくれって言ってましたから」
「ちゃんとやっているならいいんだけど、どのくらいって?」
「二週間くらい」
「明日学校には連絡しておくから」
「はい」
怒らせさえしなければ母はかなり大雑把である。生真面目な優等生の父とは正反対なのだ。そんな二人が結婚するのだから世の中は面白い。
「ところで話はそれだけだったの?」
帰ろうとしかけた俺に母が声をかけてきた。
「どういうことでしょう」
「二人だけで会ったんでしょう?」
「ええ、まあ」
「急に山ごもりだなんて。あなたに柔道で負けたとか」
「そんなことしてません」
「告白して振られたとか」
「姫くんにとって私は単なる幼馴染だと思います」
「そうなのかしら。あなたはどう?」
「わ、私ですか」
俺には見せない母の探るような目線は心の奥まで見通す気がした。
「お、おじゃましました。失礼します」
「ご苦労様」
自宅で疲れてしまったが、本番はこれからだ。
「ただいま~」
と森家のドアを開ける。
キッチンで母親が返事をした。四五年前まではよく来ていた、勝手知ったる他人の家である。
靴を脱いでいると猫がよってきた。
キキなのか、もう入れ替わったのかと戸惑っていると、突然二本足で立ち上がって、こう鳴いた。
「ハンドルネームは黒猫!」
ああ、やれやれ。沙織バジーナとでも呼んでくれ。
手を洗い、二階の自室に荷物を置いてからキッチンに降りた。
黒猫氏の情報によれば最近の佳奈子は手伝おうと頑張っているらしい。
「ああ、佳奈子ありがとう。でも、もうできでるの。配膳をお願いね」
母親は小柄で今では佳奈子よりも少し背が低い。
「う、うん」
いつもと様子が違うとばれないかと少し緊張した。
母親は気にせず調理器具を片付けている。
「お風呂先じゃなくて良いの」
「え゛?」
「ああ、今日は練習お休みだっけ」
「え、ええ」
「お父さんは遅くなるって連絡があったから、先にいただきましょう」
「うん」
もう一人の家族である大学生の姉は一人ぐらしをしている。
メニューはチキンソテーとポトフにサラダ、そしてご飯ではなくパンが付く。父と祖父の好み(こればかりは息が合う)で和食ばかりの我が家と違うので小さい時はおよばれを楽しみにしていたのを思い出す。
「おいしい」
「珍しいわね。佳奈子が褒めてくれるなんて」
しくじったのか。日常会話まで打ち合わせをする暇はなかった。
「そ、そうかな」
「五日ぶりよ」
「これからは毎日言うわ」
「それじゃ、ありがたみが減るかも」
なんとかボロは出さずに世間話に相槌をうっているうちに食事は終わった。
「後片付けは私がするからね」
佳奈子がいつもしていることだ。
「すまないね」
黒猫氏は全てを記録していた。佳奈子の精神が目覚めるとき記憶に穴を開けないためである。
洗濯物を片付けている母親に今日は入浴しない声をかけて部屋に戻った。今日はこれ以上イベントをクリアする気力はない。
部屋に入ると黒猫氏は器用に窓を開けた。
「吾輩はパトロールだ」
外に飛び出すと姿が消える。これは刑事が貸してくれた二つ目の便利グッズ、サーフボード状の飛行物体に彼が飛び乗ったためで、ボードは熱光学迷彩と高度なステルス性能をもち地球で探知されることは……
「何やってるんだ、黒猫氏」
猫は格好をつけてボードの上に立っていた。
「シルバーサーファー? しかし黒いぞ」
「にゃぁ」
「とにかく姿を消せ。ニャンコ先生」
またネタを披露されてはたまらないので窓を閉める。
彼の言うパトロールとは当然異星人に対する警戒だ。例の犯人の宇宙船には複数乗っていた痕跡があった。まだ生存しているなら、ろくな装備は持ち出せなかったはずなので近辺に潜んでいる可能性が高いと聞いている。
パジャマに着替えて指示されている肌の手入れとやらに挑戦する。そんな必要を感じないほどつやつやピカピカなのだけれど佳奈子が毎日していたことは続けてあげたかった。
おっかなびっくり、乳液をつけていると廊下から母親の声が聞こえた。
「ちょっといい?」
「あの化粧中なんだけど」
「どれどれ」
入ってくると笑いながら仕上げてくれた。
「はい、おしまい」
「ありがとう」
「もう寝るの?」
「今日はとても疲れたから」
決して嘘じゃない。何しろ現代医療では救えないくらいのグロ死体になったんだから。
「そう」
「なにかお話?」
「さっき姫さんから電話があったわ」
「母、姫くんのお母さんから?」
「お訪ねした時のあなたの様子が心配だったようよ。そうそう、雛芳君のことは心配しないでって。お祖父様から無事だと連絡があったから」
「そう」
さすが祖父は頼りになる。
「あのね」
「はい?」
「雛芳くんと何かあったの?」
ありすぎたんだが……あとで佳奈子の記憶とズレが生じないように慎重に説明する。
「私の相談事に付き合ってもらって――そのときしばらく家を離れると伝えて欲しいって頼まれたの。携帯じゃ気まずいからって」
「あなたの相談事って」
「秘密秘密」
「当ててみましょうか?」
「え?」
「恋愛問題でしょう」
げっ、さすが母親、鋭いぞ。
「さあどうかしら」
「まあ良いわ。後悔しないようにね」
「う、うん」
「じゃあ、お休み」
「おやすみなさい」
いろんな不安にも関わらず、ニャンコ先生が戻ると俺はすぐ寝てしまった。
<つづく>
(1)
宇宙刑事のアイデアとは、肉体の再構成を待つ間、俺が佳奈子の身代わりを務めることだった。彼らの科学力でも自我のコピーはできないが、移すのは容易いらしい。
俺としては引き受けるにしても佳奈子の許可が欲しいところだ。後でバレたら酷い目にあうのは確実なのだから。
ただ医療用の電脳に移された佳奈子の精神は一種のデフラグ中で止めるのは不可能な状態だという。
普通に考えれば俺が半殺しにあった時の記憶を消せばよさそうなものである。聞けば彼らの技術なら易しいことだという。ところがそうはいかないイカの金――いや失礼、俺はしばらく女の子だったっけ。
問題は俺の情報が佳奈子の中で複雑に絡み合っている点だ。俺が犯人に殺されかけた一瞬の間に佳奈子は過去の俺を思い出し、記憶が強く結びついたのだという。下手に事件の記憶を消すと過去の俺の記憶やそれに結びつく幼い頃からの思い出にも虫食いのような穴があくそうだ。
最終的には、佳奈子の肉体を動かしていたのは刑事の助手のAIだと口裏を合わせるよう説得して、俺は引き受けた。
刑事は二つの便利グッズを貸してくれた。あらかじめ説明しておくとヤツは地球の文化をひと通り調べているし、俺と佳奈子の記憶も見ている。
で、最初の一つが俺の横を歩いている黒猫である。佳奈子の飼い猫とそっくりに出来ており、暫くの間本物には眠ってもらい入れ替わる予定だ。中身は刑事の助手のAIで、俺が困らぬように佳奈子の記憶から抽出したデータベースを内蔵している。
「我輩の偽物をどうすればいい」
なんだか偉そうである。
「薬で眠らせてポケット空間とやらに隠すって聞いたぞ」
「それは把握している。それを誰がする」
「誰って……自分でできるのか?」
「吾輩は刑事の助手だぞ。ただ命令がなくては動けない。それは、お主の役目だ」
どうやってキキを、飼い猫の名前だ、捕まえようかと悩んでいたので渡りに舟である。
「家が近づいたら先行してやっちゃってくれ」
「がってんだ」
それじゃあ、岡っ引きだ。
俺と猫が降りたのは山頂公園の近くだ。噂になった二つの光球は犯人と刑事の宇宙船で、俺たち人類には探知できないが、今もそこに隠されていた。
女性の体に違和感はある。しかし夕暮れが迫っているので急がなければならない。
「校門が近い。隠れてくれマオ」
「気をつけろ、銀(イン)」
俺の記憶もしっかりデータベース化しているらしい。
クラブ活動で遅くなった生徒に混じり家路を急ぐ。
佳奈子は何か理由をつけて部をサボったはずなので、女子柔道部員に会わないかとヒヤヒヤしたが杞憂に終わった。何かの事情で練習がなかったのかもしれない。
自宅が近づいた所で二手に分かれる。猫はキキを捕まえに、俺は自宅に俺が消えた言い訳を告げに行くためだ。
「行け、ロデム」
「どうボケればいい」
「いいから、行けって」
「にゃぁ~」
呼び鈴を押すと母がドアを開けた。
「あら、佳奈子ちゃん、珍しいわね。雛芳はまだ帰ってないけど……上がって待つ?」
「こんばんわ、おばさん。姫くんは帰らないそうです」
「あら」
「なんだか修行のために山篭りするからって、突然」
「まあ。お祖父様のところかしら」
俺の祖父は定年後古武道にのめり込んだ変わり者だ。気が合うので長期休暇に何度か一緒に山ごもりをしたことがある。
女の子を助けたいからとメールでアリバイ工作を頼んだから何とかしてくれるだろう。弱きを助けろと俺にいつも言っていたことだし。
ちなみに祖父は叩き上げの警官で警視正・署長になり定年を迎えた。 父も警察官だが、キャリア組で、三十才までに地方の警察署長を経験し、今は警視監・警視庁局長になっている。二人は仲が悪かった。
「そうかもしれません」
「でもどうして急に。まさか勉強をさぼるきじゃ」
母は怒らせると怖い。
「前期の定期試験は終わったばかりですし、後でノートを見せてくれって言ってましたから」
「ちゃんとやっているならいいんだけど、どのくらいって?」
「二週間くらい」
「明日学校には連絡しておくから」
「はい」
怒らせさえしなければ母はかなり大雑把である。生真面目な優等生の父とは正反対なのだ。そんな二人が結婚するのだから世の中は面白い。
「ところで話はそれだけだったの?」
帰ろうとしかけた俺に母が声をかけてきた。
「どういうことでしょう」
「二人だけで会ったんでしょう?」
「ええ、まあ」
「急に山ごもりだなんて。あなたに柔道で負けたとか」
「そんなことしてません」
「告白して振られたとか」
「姫くんにとって私は単なる幼馴染だと思います」
「そうなのかしら。あなたはどう?」
「わ、私ですか」
俺には見せない母の探るような目線は心の奥まで見通す気がした。
「お、おじゃましました。失礼します」
「ご苦労様」
自宅で疲れてしまったが、本番はこれからだ。
「ただいま~」
と森家のドアを開ける。
キッチンで母親が返事をした。四五年前まではよく来ていた、勝手知ったる他人の家である。
靴を脱いでいると猫がよってきた。
キキなのか、もう入れ替わったのかと戸惑っていると、突然二本足で立ち上がって、こう鳴いた。
「ハンドルネームは黒猫!」
ああ、やれやれ。沙織バジーナとでも呼んでくれ。
手を洗い、二階の自室に荷物を置いてからキッチンに降りた。
黒猫氏の情報によれば最近の佳奈子は手伝おうと頑張っているらしい。
「ああ、佳奈子ありがとう。でも、もうできでるの。配膳をお願いね」
母親は小柄で今では佳奈子よりも少し背が低い。
「う、うん」
いつもと様子が違うとばれないかと少し緊張した。
母親は気にせず調理器具を片付けている。
「お風呂先じゃなくて良いの」
「え゛?」
「ああ、今日は練習お休みだっけ」
「え、ええ」
「お父さんは遅くなるって連絡があったから、先にいただきましょう」
「うん」
もう一人の家族である大学生の姉は一人ぐらしをしている。
メニューはチキンソテーとポトフにサラダ、そしてご飯ではなくパンが付く。父と祖父の好み(こればかりは息が合う)で和食ばかりの我が家と違うので小さい時はおよばれを楽しみにしていたのを思い出す。
「おいしい」
「珍しいわね。佳奈子が褒めてくれるなんて」
しくじったのか。日常会話まで打ち合わせをする暇はなかった。
「そ、そうかな」
「五日ぶりよ」
「これからは毎日言うわ」
「それじゃ、ありがたみが減るかも」
なんとかボロは出さずに世間話に相槌をうっているうちに食事は終わった。
「後片付けは私がするからね」
佳奈子がいつもしていることだ。
「すまないね」
黒猫氏は全てを記録していた。佳奈子の精神が目覚めるとき記憶に穴を開けないためである。
洗濯物を片付けている母親に今日は入浴しない声をかけて部屋に戻った。今日はこれ以上イベントをクリアする気力はない。
部屋に入ると黒猫氏は器用に窓を開けた。
「吾輩はパトロールだ」
外に飛び出すと姿が消える。これは刑事が貸してくれた二つ目の便利グッズ、サーフボード状の飛行物体に彼が飛び乗ったためで、ボードは熱光学迷彩と高度なステルス性能をもち地球で探知されることは……
「何やってるんだ、黒猫氏」
猫は格好をつけてボードの上に立っていた。
「シルバーサーファー? しかし黒いぞ」
「にゃぁ」
「とにかく姿を消せ。ニャンコ先生」
またネタを披露されてはたまらないので窓を閉める。
彼の言うパトロールとは当然異星人に対する警戒だ。例の犯人の宇宙船には複数乗っていた痕跡があった。まだ生存しているなら、ろくな装備は持ち出せなかったはずなので近辺に潜んでいる可能性が高いと聞いている。
パジャマに着替えて指示されている肌の手入れとやらに挑戦する。そんな必要を感じないほどつやつやピカピカなのだけれど佳奈子が毎日していたことは続けてあげたかった。
おっかなびっくり、乳液をつけていると廊下から母親の声が聞こえた。
「ちょっといい?」
「あの化粧中なんだけど」
「どれどれ」
入ってくると笑いながら仕上げてくれた。
「はい、おしまい」
「ありがとう」
「もう寝るの?」
「今日はとても疲れたから」
決して嘘じゃない。何しろ現代医療では救えないくらいのグロ死体になったんだから。
「そう」
「なにかお話?」
「さっき姫さんから電話があったわ」
「母、姫くんのお母さんから?」
「お訪ねした時のあなたの様子が心配だったようよ。そうそう、雛芳君のことは心配しないでって。お祖父様から無事だと連絡があったから」
「そう」
さすが祖父は頼りになる。
「あのね」
「はい?」
「雛芳くんと何かあったの?」
ありすぎたんだが……あとで佳奈子の記憶とズレが生じないように慎重に説明する。
「私の相談事に付き合ってもらって――そのときしばらく家を離れると伝えて欲しいって頼まれたの。携帯じゃ気まずいからって」
「あなたの相談事って」
「秘密秘密」
「当ててみましょうか?」
「え?」
「恋愛問題でしょう」
げっ、さすが母親、鋭いぞ。
「さあどうかしら」
「まあ良いわ。後悔しないようにね」
「う、うん」
「じゃあ、お休み」
「おやすみなさい」
いろんな不安にも関わらず、ニャンコ先生が戻ると俺はすぐ寝てしまった。
<つづく>