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催眠術で女子高生!?(2) by 抹茶レモン
第一話はこちら
「ただいまー……」
タカスケとのあのやりとりから数十分後、俺は自宅にいた。もっというならば家のリビングにいた。
「おかえりなさい」
むかえてくれたのは白いエプロンを着た俺の母さん。
エプロンでわかるだろうが今は丁度夕飯の準備中らしい。
その母さんがふと、近くにある時計を見て、
「おそかったわね」と一言。
俺も見てみると時計は5時過ぎを示していた。
「今日は何かあったの?」と少し心配そうだ。
いつも通り帰れば今の30分ぐらい前に着けただろう。だが、あの面倒くさいやりとりで時間を浪費し、そのせいで遅くなってしまった。
「別に、友達から大切な話があるって言われたからそれに付き合ってただけだよ」
「大切な話ねぇ……」
事実を伝えたのに少しだけ不満そうだ。
(まぁ、そんなに大切ってわけでもなかったけどな)
「ねえ、その友達ってもしかして女の子?」
さっきまで何やら考えていたっぽい母さんが急に話しかけてきた。
「違うよ」
もちろん即答。
何を言い出すんだこの親は。
「告白されたのかと思ったのに……つまんないわ」
(実の息子に対してつまんないとは……)
「無理無理、モテるわけがない俺なんかが女子に告白されるわけがないだろ?」
そもそもモテるとか以前に俺は恋愛というものには興味が無い。無論、経験も無いしこれから経験するつもりも無い。
「そうよねぇ、昔から英ちゃんは異性に興味なかったものね」
片手を頬につけ、はぁと物憂げにため息をつく。
(なんだそのため息は)と、思いつつあえて口に出さない。
ちなみにわかっていると思うが英ちゃんとは俺のことだ。幼少期の俺は、男より女に見えるほど可愛かったということらしく、高校生になった今もちゃん付けで呼ばれている。無論、幼少期のころの自分の顔は覚えて無い。
「ねぇ、英ちゃんが女の子だったら少しは恋なんかしたのかしらねぇ?」
(また変なことを……)
母さんは俺が物心がついたときから(多分それより前からかもしれないが)、唐突に変なことを言って周りを困らせるというおかしい部分がある。
こういう人を天然系というのだろうか。俺にはさっぱりわからん。
「英ちゃんが女の子なら、可愛いお洋服をたくさん買ってあげていっぱいお洒落させてあげたのにねえ?」
「余計なお世話だ」と一言。
こういうときはなるべく言葉を短めにして、会話を早めに切り上げるのが得策だ。
「フリフリの服とか着せちゃって、あんなことやこんなことを……うふふふふ…………」
仕舞いには独り言を始める始末。
こうなったらもう何もできない。
(日曜の夜のことを伝えたほうがいいか?)
だが、変な妄想をしている母さんとは話したくない。
(後で伝えておこう)そう思い、俺は自分の部屋へと向かった。
〈続く〉
「ただいまー……」
タカスケとのあのやりとりから数十分後、俺は自宅にいた。もっというならば家のリビングにいた。
「おかえりなさい」
むかえてくれたのは白いエプロンを着た俺の母さん。
エプロンでわかるだろうが今は丁度夕飯の準備中らしい。
その母さんがふと、近くにある時計を見て、
「おそかったわね」と一言。
俺も見てみると時計は5時過ぎを示していた。
「今日は何かあったの?」と少し心配そうだ。
いつも通り帰れば今の30分ぐらい前に着けただろう。だが、あの面倒くさいやりとりで時間を浪費し、そのせいで遅くなってしまった。
「別に、友達から大切な話があるって言われたからそれに付き合ってただけだよ」
「大切な話ねぇ……」
事実を伝えたのに少しだけ不満そうだ。
(まぁ、そんなに大切ってわけでもなかったけどな)
「ねえ、その友達ってもしかして女の子?」
さっきまで何やら考えていたっぽい母さんが急に話しかけてきた。
「違うよ」
もちろん即答。
何を言い出すんだこの親は。
「告白されたのかと思ったのに……つまんないわ」
(実の息子に対してつまんないとは……)
「無理無理、モテるわけがない俺なんかが女子に告白されるわけがないだろ?」
そもそもモテるとか以前に俺は恋愛というものには興味が無い。無論、経験も無いしこれから経験するつもりも無い。
「そうよねぇ、昔から英ちゃんは異性に興味なかったものね」
片手を頬につけ、はぁと物憂げにため息をつく。
(なんだそのため息は)と、思いつつあえて口に出さない。
ちなみにわかっていると思うが英ちゃんとは俺のことだ。幼少期の俺は、男より女に見えるほど可愛かったということらしく、高校生になった今もちゃん付けで呼ばれている。無論、幼少期のころの自分の顔は覚えて無い。
「ねぇ、英ちゃんが女の子だったら少しは恋なんかしたのかしらねぇ?」
(また変なことを……)
母さんは俺が物心がついたときから(多分それより前からかもしれないが)、唐突に変なことを言って周りを困らせるというおかしい部分がある。
こういう人を天然系というのだろうか。俺にはさっぱりわからん。
「英ちゃんが女の子なら、可愛いお洋服をたくさん買ってあげていっぱいお洒落させてあげたのにねえ?」
「余計なお世話だ」と一言。
こういうときはなるべく言葉を短めにして、会話を早めに切り上げるのが得策だ。
「フリフリの服とか着せちゃって、あんなことやこんなことを……うふふふふ…………」
仕舞いには独り言を始める始末。
こうなったらもう何もできない。
(日曜の夜のことを伝えたほうがいいか?)
だが、変な妄想をしている母さんとは話したくない。
(後で伝えておこう)そう思い、俺は自分の部屋へと向かった。
〈続く〉
執事と妖精と姉さんとメタボと 第一話 by さまらん
第一話
「あぁ…こんな所に閉じ込められてはや2週間…姉さんは元気にしてるかなぁ…。」
彼女がこんな所にいるのはしっかりとした訳がある…それは…。

キャラデザイン:蒼都利音
--------------------------------------------------------
2週間前
「リュシカ君、すまないがこちらの部屋の掃除を頼めるかね。」
「かしこまりた旦那様。」
メタボ気味な男性は一人の優しそうな青年に命令を与えた。
男性はとにかくメタボだった、頭はハゲそう、必死にハゲないような努力はしていると思われる。
ハゲている部分は脂ぎった汗に包まれ臭そうな雰囲気を出している。
さらにトドメを刺すかのように体型はやばかった、そして服装はパジャマだった。
逆に青年のほうはひょろひょろした体型で温厚な印象を与える。
執事が着てそうなスーツ、首周りには蝶ネクタイがこれまた温厚な印象を与えた。
リュシカ…と呼ばれた青年はメタボの命令を聞き掃除の準備を始めた。
メタボは「私はこれから遠出する。」と、いきなり青年から離れて行った。
青年は「いってらっしゃいませ。」と一言告げた後、掃除を始めた。
そういえば旦那様を見送らなければ…いや、いいか。
青年はそう思った。
「第一…考えてみるんだあのメタボ野朗……!
ハゲのくせにいっつも人に命令ばかり与えてどうせ遠出すると言っても浮気相手の女との旅行だろう。
ヤルだけヤって2週間は戻らない…!いっつもそうだ。
メタボの本来の妻である女も浮気してると知ってて何も言わない、何か言ったらどうだあの女も!
くそっ!っていうか何で僕が部屋の掃除なんかするんだ!
こんなモノ…メイドにやらせておけばいいだろ!」
もはや温厚な青年は別人に見える、そして彼は一言間をおいた、その顔には怒り、何かを溜めていた印象しか残らない。
「どちくしょおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
青年の叫び声が館中に響いた…。
それから30分後だった、青年は先ほど掃除していた部屋に座らされていた。
温厚の青年から怒りの青年にシフトしていた青年は…反省の青年にシフトしていた。
「旦那様にあんなこと言ってて…ほぉんとぉにぃ!いいのかしらん?チクるわよ。」
「スミマセン…はんせいしてます…。」
青年は青年より一回り大きい女性に正座を強いられていた。
黒をメインとして白いエプロンに身を包んだ、所詮メイド服を着た女性に反省の青年にさせられていたのだ。
青年より大きい女性は所詮メイド長だ…名前は…
「しっかし…いい!?次そんな事言ったら次こそは 殺 す わ よ !?このリサト、二度目は言いませんからね。」
「はい…申し訳ありません…リサト姉さん。」
「姉さん言わない、メイド長と言いなさい。」
「スミマセン…。」
「ああもう!アンタのせいでもう30分も作業遅れてるじゃない!じゃあそのまま仕事しててね!」
リサト姉さんもといメイド長はスカートを翻し部屋の外に出ていく。
30分作業遅れたのはこっちもだよ…大体誰のせいだと思ってやがんだ…あのクソ姉は…
「冷静に考えろ、一番悪いのはあのクソメタボだ、メタボのせいだリサト姉さんは姉さんでやかましいしお前は僕の保護者かよ!
年だって3歳しか離れてないじゃねーか!僕はもう18歳だぞ!くそっ!そっちはまだ21歳じゃねーか!
身長は無駄に高く僕より約4cmも高い!お前本当に女かよ!175cmはあるだろ!」くそったれ……。
聞こえてるわよ、と声がかかるのはそう遅くなかった。
遅れたが僕とリサト姉さんはこの屋敷で働いている。
メタボが経営するこの屋敷はメタボが先祖から引き継いだ大きな屋敷らしい。
二人とも、親の借金のカタにここに行かされた。
必死に頑張った結果、ここで住み込みで働いて3年。屋敷の運営をほんの少し任せられた執事。
リサト姉さんはメイド長になった。
しかし休日という休日が無く、毎日同じような事してばっかりだ。
客の対応、部屋の掃除…掃除…掃除…そういえば半年前に屋敷の外に出たっきりどこにも行ってない。
ストレスも溜まる、溜まる…溜まる…でも僕には一つ趣味がある。
それはガーデニングだ。
メイド達にも評判がいい僕の手入れた庭は僕の誇りであり象徴であり全てであり僕の希望だ。
僕は仕事の合間、仕事が終わってから手入れを必死に行ってきた。
一時期は向日葵ばっかり植えてて向日葵馬鹿と、メイド達に言われてきたが最近は別の物も植えている。
ラベンダーは後一年もしたら咲くだろうか、そしたらラベンダー風呂とか楽しみたい。
今の時期、そろそろ薔薇のチャイナローズが咲くだろうか。しかし咲いたら咲いたでもう少し経てば冬に入る。
冬に入ったら大抵が葉を落とし枝になる、それが悲しくてたまらない時がある。
食べ物に関しても力を入れている、ハーブも作っている、色々な物を作っているがガーデニングが好きでたまらない。
さくらんぼの木は3年ほど経ち実がついてきた、秋にたくさん実がついたためまとめて採取しお手製さくらんぼジャムを作ってみたが…。
メイド達は甘すぎる、と言ってたぶっ殺してやろうかと思った。
そしてそこらからやってきた野鳥にさくらんぼの実を結構食べられていたりした。
鳥除けを設置したりしたがガン無視で食べる野鳥もいるのでたまらない。
結局は網掛けを木全体に覆うようにしたら、野鳥がその網に引っ掛かっていて笑った、一応逃がしてあげた。
と…これ以上語り出すと止まらないのでやめておこう。
そろそろ休憩時間だ、掃除を中断し(まだやってたんだぜ)僕はその時間を使ってミニトマトの採取に行こうとする。
ミニトマトは生命力が強く大抵の場合水だけやってればたくさん実をつけてくれる猛者だ。
食堂にいるメイド長からボールを借りて(ボールをぶん投げられて渡された頭に当たる所だった)採取に行く。
結構取れただろうか…採取したミニトマトを一つつまんでみる、うまい!
僕はガーデニングの天才だ!僕は一人でニヤニヤした後食堂に採取した物を渡そうとした。
「あ!そのトマトちょうだい!5つ程!」
後ろから声のかかった聞きなれないメイドの声だ、新人だろうか。新人だったら執事の僕に何て口だ。
制裁っ……!と言おうとし振り返ると誰もいない。疲れているのだろうか。
ふぅっ…とため息をついて食堂に行こうとしたが…。
「なによ!一つくらいくれたっていいじゃない!」
「僕に何て言い草だああああああああああああああああああああああああああ!」
「ひぃん!」
驚いた女の子は驚いていた、驚いていた女の子だが普通とは違った。
青いショートカットの髪の毛、青い透き通った羽、白い手足、アレが見えそうなワンピース。
そして身長は僕の頭(15cmくらい?)だった…。
「えーと…そういった生物を何て言うんだっけ…!」
「妖精よ妖精!妖精のアカネ!」
その妖精は、アカネと名乗った…いや、アカネという人種かもしれない。
「トマトトマト言う以前にさっさと仕事に戻ったらどうだい君は。メイド長に報告しておくよ?」
「誰よメイド長って……そもそもあたしはここで働いてないわよ。」
「僕の姉だよ。」
「ふーん…それはいいとして、いきなりだけどあたしを保護してくんない?」
妖精は僕を回るようにして飛びながら物事を要求してくる。
頭をウロチョロしてて鬱陶しい事この上ない、まるで夜間寝てる時にぷ~んという音を鳴らしながら来る蚊みたいだ。
今考えると妖精という物は僕も聞いたことあるが、こうやって実際に見るのは始めてだ。
どうやら生息地不明みたいな感じらしい、どこぞやのゲームでよくこのメッセージが表示された。
ウロチョロしていた場所に残像が残るかのような何か青い点々が残されている、それが太陽で輝いて一層、幻想的な雰囲気を出していた。
それに青い髪の毛(ショートカットではなくリボンでしばっていた、結構長い髪の毛だろうか)に、よく見ると美少女といえる顔、青を基調としたワンピース(今更だがこれはドレスか?)
何より耳が妖精っぽい、人間のそれの形とは違う。妖精の動作の一つ一つがまさしく「女の子」だった。胸も少しはあるのではないだろうか。
「ねぇ、あたしを保護してって言ってるでしょ?」
「保護するにしても何にしても僕は残念ながらロリコンじゃないんだ、僕を誘っているつもりみたいだけど無駄だよ?」
「…アナタ結構ズレてるわね…優しそうなお兄さんなのに…。」
「ズレてて結構……僕はガーデニングの手入れで忙しいんだ、とっとと帰ってくれないかい。」
「だめよ!あたし……。」
「?」
「 家 出 し て き た ん だ も ん 。 」
「…そろそろ休憩時間が終わりそうだ、僕はこれにて失礼するよ家出にしろ何にしろ君は早く帰るんだ。」
「無理だよ!あたしこのままじゃ家の為に結婚させられるの!あたしの結婚する男がこれまたメタボでひどくてハゲで脂ぎってて…オヤジなの!
あたしはまだ14にも満たない女の子なのに…ひどいわ……。」
妖精は涙目になりながら僕の顔を相変わらずウロチョロして必死に僕を説得しようとする。
『ひどいわ』あたりで僕の顔の前から動かずにワンワン泣き始めた。
メタボで脂ぎってるとは、まるでこの屋敷の主人みたいじゃないか。
何だか可哀そうになってきたな…仕方ない。
「僕の部屋、好き勝手に使ってもらって構わない今から案内するよ。今日の食事はこのミニトマトで我慢してくれ。」
「えー!トマトだけじゃ飽きるってー!」
ぶっころしてぇ。
その夜、仕事を全て終えて僕は自室へと上がった。
部屋に入ると僕は絶句した、綺麗に片付いていた部屋がゴチャゴチャになっている。
服という服は散乱している、ゲーム機もありったけ出されて無茶苦茶。タンスは全て開いている。
挙句の果てにベッドの下に置いていたアレがベッドの上に置かれている。
そのアレ…本だがそれが開かれておりアレの上に美少女な妖精がニヤニヤとその本を読んでいるのだ。
所々おお、うわぁー、すごい!とブツブツ言っていた。
「お…ま…えは……。」
怒り、それ以外の言葉以外無かった……。
3時間後、何とか僕は部屋を整理した。
何でも、人間の洋服類そして趣味をありったけ調べてみたかったのゴメンネ!(キリッ とかほざいていた妖精がいたのだ。
その妖精を手ごろなロープで柱に縛りそのまま放置して片づけを行ったのだ。
いざ終わり時計を見ると深夜2時…こんな時間でガサゴソするとは何て情けない……。
「もう!そろそろ許してよ……。」
「もうちょっと反省してろ。」
「ねぇ。」
「なんだよ…僕にこれ以上話しかけるな。」
「そういえば名前聞いてなかったわね、あたしは妖精のアカネ、ピチピチの妖精だよ。」
「ピチピチは余計だ……リュシカ、この屋敷の執事だ。」
「執事!?こんな物読んでるのに!?」
「それは男という男はみんな読むもんだ、ああもう知らん!僕は寝る!おやすみ!」
「ちょっとちょっと!せめてこれほどいてよ!」
ジタバタする妖精をしり目に僕はベッドで睡眠を始める、疲れた。
明日は早い、こんな調子で早く起きれるだろうか…。
------------------------------------------------
朝6時、執事の仕事は早い。
まず本日のスケジュールのチェック、今日はメタボの妻のお客様が来られる日だ。
今日もいい天気だ、朝食が出来ていると思う。起きようと……
「ぐっ!」
意識がグラッとし思うように立ち上がれない、喉がカラカラで顔が熱い…もしかして…。
リサト姉さんに電話し体温計を持ってきてもらい、それを脇に入れる。
3分後、ベルが鳴り響いた。
38.0
と数字が書かれていた、リサト姉さんはため息をついた後「今日は何とかするから寝てて。」と言い部屋から出て行った。
情けない、熱を出してしまうとは執事失格だ…。どれもこれも…
「あの妖精があんな所で現れなければ…深夜2時まで僕は掃除する事はなかったはずだ…一日7時間は寝ようと心掛けているのに…
くそっ!くそっ!熱が出たのもあのクソ妖精吹っ飛べばいいのに………!」
今気がついたが妖精がいない、縛っていた柱の下にロープが落ちている。
何かしらの方法で脱出していたのだろう、色々と叫んでいる妖精を無視して僕は寝ていたからよくわからなかった。
「おはよう、今日もいい天気ね。ご飯を食べない?」
まだいたか……ベッドで寝ている僕の胸の↑に妖精は女の子座りで座る。スカートはうまく両手で押さえてガードしている。
昨日と変わらない服、家出してきたとか言ってたが着替えも何もクソも無いのだろかこの妖精は
というかトイレとか一体どうしてるんだ、妖精の力じゃ外には出られないはずだ。
そして部屋は片付けた後のままだった、ゴチャゴチャになってないのでそれだけは許す。
「僕は今しんどいんだ、早く出て行ってくれ。」
「今出ていくとあたしは見つかってしまうわ、かくまって、って言ったはずでしょ?
それに好き勝手部屋を使っていいって言ったのは誰よ!?」
「使うにしろ何にしろ限度ってものがあるだろ…人のプライバシーも考えずに使いやがって…。」
「いいじゃない!私も性に興味がわく時期なの!」
「女の子がそれ言うなよ…まるでリサト姉さんみたいな奴だな…ったく。」
しばらく沈黙した後だろうか、妙なアングルのまま妖精がこう言った。
「ねえ…あたし達身体を交換しない…?」
何言ってんだこの妖精は、やっぱり吹っ飛べばよかったのではないかと今でもつくづく思う。
ああもう、だるい、寝たい、しんどい、もっとしんどくなってきた、もう何で僕がこんなに貧乏クジばっかり引くんだ。
メタボにしろリサト姉さんにしろこのクソ妖精にしろ、だるい。
「ねえ。」
「ああもう!好き勝手にしろ!勝手にしろ!知らん!何が何だか知らんがやってみるならやってみろ!この馬鹿!」
「……やったね☆!」
Vサインをした妖精は熱を出して死にそうになってる僕を無視して一人ではしゃいでいる。
ここまで煽られて怒らない妖精も珍しい…いや、さっき怒ってたよな…性に興味がわく時期なの!(苦笑)って感じでいやー笑えるな。
僕に大したものだ。
「やり方は簡単なの、目を閉じてね!」
もう閉じて寝る準備をした僕は、何かが顔に近付いてくる感じがする。
まぶたを開こうとした瞬間、ほんの一瞬だけ妖精の小さな小さな顔が僕の唇に当たった感じがした。
何かが空に飛んでいく感じが全身をかけぬけた後、僕の意識は闇に消えて行った………。
「あぁ…こんな所に閉じ込められてはや2週間…姉さんは元気にしてるかなぁ…。」
彼女がこんな所にいるのはしっかりとした訳がある…それは…。

キャラデザイン:蒼都利音
--------------------------------------------------------
2週間前
「リュシカ君、すまないがこちらの部屋の掃除を頼めるかね。」
「かしこまりた旦那様。」
メタボ気味な男性は一人の優しそうな青年に命令を与えた。
男性はとにかくメタボだった、頭はハゲそう、必死にハゲないような努力はしていると思われる。
ハゲている部分は脂ぎった汗に包まれ臭そうな雰囲気を出している。
さらにトドメを刺すかのように体型はやばかった、そして服装はパジャマだった。
逆に青年のほうはひょろひょろした体型で温厚な印象を与える。
執事が着てそうなスーツ、首周りには蝶ネクタイがこれまた温厚な印象を与えた。
リュシカ…と呼ばれた青年はメタボの命令を聞き掃除の準備を始めた。
メタボは「私はこれから遠出する。」と、いきなり青年から離れて行った。
青年は「いってらっしゃいませ。」と一言告げた後、掃除を始めた。
そういえば旦那様を見送らなければ…いや、いいか。
青年はそう思った。
「第一…考えてみるんだあのメタボ野朗……!
ハゲのくせにいっつも人に命令ばかり与えてどうせ遠出すると言っても浮気相手の女との旅行だろう。
ヤルだけヤって2週間は戻らない…!いっつもそうだ。
メタボの本来の妻である女も浮気してると知ってて何も言わない、何か言ったらどうだあの女も!
くそっ!っていうか何で僕が部屋の掃除なんかするんだ!
こんなモノ…メイドにやらせておけばいいだろ!」
もはや温厚な青年は別人に見える、そして彼は一言間をおいた、その顔には怒り、何かを溜めていた印象しか残らない。
「どちくしょおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
青年の叫び声が館中に響いた…。
それから30分後だった、青年は先ほど掃除していた部屋に座らされていた。
温厚の青年から怒りの青年にシフトしていた青年は…反省の青年にシフトしていた。
「旦那様にあんなこと言ってて…ほぉんとぉにぃ!いいのかしらん?チクるわよ。」
「スミマセン…はんせいしてます…。」
青年は青年より一回り大きい女性に正座を強いられていた。
黒をメインとして白いエプロンに身を包んだ、所詮メイド服を着た女性に反省の青年にさせられていたのだ。
青年より大きい女性は所詮メイド長だ…名前は…
「しっかし…いい!?次そんな事言ったら次こそは 殺 す わ よ !?このリサト、二度目は言いませんからね。」
「はい…申し訳ありません…リサト姉さん。」
「姉さん言わない、メイド長と言いなさい。」
「スミマセン…。」
「ああもう!アンタのせいでもう30分も作業遅れてるじゃない!じゃあそのまま仕事しててね!」
リサト姉さんもといメイド長はスカートを翻し部屋の外に出ていく。
30分作業遅れたのはこっちもだよ…大体誰のせいだと思ってやがんだ…あのクソ姉は…
「冷静に考えろ、一番悪いのはあのクソメタボだ、メタボのせいだリサト姉さんは姉さんでやかましいしお前は僕の保護者かよ!
年だって3歳しか離れてないじゃねーか!僕はもう18歳だぞ!くそっ!そっちはまだ21歳じゃねーか!
身長は無駄に高く僕より約4cmも高い!お前本当に女かよ!175cmはあるだろ!」くそったれ……。
聞こえてるわよ、と声がかかるのはそう遅くなかった。
遅れたが僕とリサト姉さんはこの屋敷で働いている。
メタボが経営するこの屋敷はメタボが先祖から引き継いだ大きな屋敷らしい。
二人とも、親の借金のカタにここに行かされた。
必死に頑張った結果、ここで住み込みで働いて3年。屋敷の運営をほんの少し任せられた執事。
リサト姉さんはメイド長になった。
しかし休日という休日が無く、毎日同じような事してばっかりだ。
客の対応、部屋の掃除…掃除…掃除…そういえば半年前に屋敷の外に出たっきりどこにも行ってない。
ストレスも溜まる、溜まる…溜まる…でも僕には一つ趣味がある。
それはガーデニングだ。
メイド達にも評判がいい僕の手入れた庭は僕の誇りであり象徴であり全てであり僕の希望だ。
僕は仕事の合間、仕事が終わってから手入れを必死に行ってきた。
一時期は向日葵ばっかり植えてて向日葵馬鹿と、メイド達に言われてきたが最近は別の物も植えている。
ラベンダーは後一年もしたら咲くだろうか、そしたらラベンダー風呂とか楽しみたい。
今の時期、そろそろ薔薇のチャイナローズが咲くだろうか。しかし咲いたら咲いたでもう少し経てば冬に入る。
冬に入ったら大抵が葉を落とし枝になる、それが悲しくてたまらない時がある。
食べ物に関しても力を入れている、ハーブも作っている、色々な物を作っているがガーデニングが好きでたまらない。
さくらんぼの木は3年ほど経ち実がついてきた、秋にたくさん実がついたためまとめて採取しお手製さくらんぼジャムを作ってみたが…。
メイド達は甘すぎる、と言ってたぶっ殺してやろうかと思った。
そしてそこらからやってきた野鳥にさくらんぼの実を結構食べられていたりした。
鳥除けを設置したりしたがガン無視で食べる野鳥もいるのでたまらない。
結局は網掛けを木全体に覆うようにしたら、野鳥がその網に引っ掛かっていて笑った、一応逃がしてあげた。
と…これ以上語り出すと止まらないのでやめておこう。
そろそろ休憩時間だ、掃除を中断し(まだやってたんだぜ)僕はその時間を使ってミニトマトの採取に行こうとする。
ミニトマトは生命力が強く大抵の場合水だけやってればたくさん実をつけてくれる猛者だ。
食堂にいるメイド長からボールを借りて(ボールをぶん投げられて渡された頭に当たる所だった)採取に行く。
結構取れただろうか…採取したミニトマトを一つつまんでみる、うまい!
僕はガーデニングの天才だ!僕は一人でニヤニヤした後食堂に採取した物を渡そうとした。
「あ!そのトマトちょうだい!5つ程!」
後ろから声のかかった聞きなれないメイドの声だ、新人だろうか。新人だったら執事の僕に何て口だ。
制裁っ……!と言おうとし振り返ると誰もいない。疲れているのだろうか。
ふぅっ…とため息をついて食堂に行こうとしたが…。
「なによ!一つくらいくれたっていいじゃない!」
「僕に何て言い草だああああああああああああああああああああああああああ!」
「ひぃん!」
驚いた女の子は驚いていた、驚いていた女の子だが普通とは違った。
青いショートカットの髪の毛、青い透き通った羽、白い手足、アレが見えそうなワンピース。
そして身長は僕の頭(15cmくらい?)だった…。
「えーと…そういった生物を何て言うんだっけ…!」
「妖精よ妖精!妖精のアカネ!」
その妖精は、アカネと名乗った…いや、アカネという人種かもしれない。
「トマトトマト言う以前にさっさと仕事に戻ったらどうだい君は。メイド長に報告しておくよ?」
「誰よメイド長って……そもそもあたしはここで働いてないわよ。」
「僕の姉だよ。」
「ふーん…それはいいとして、いきなりだけどあたしを保護してくんない?」
妖精は僕を回るようにして飛びながら物事を要求してくる。
頭をウロチョロしてて鬱陶しい事この上ない、まるで夜間寝てる時にぷ~んという音を鳴らしながら来る蚊みたいだ。
今考えると妖精という物は僕も聞いたことあるが、こうやって実際に見るのは始めてだ。
どうやら生息地不明みたいな感じらしい、どこぞやのゲームでよくこのメッセージが表示された。
ウロチョロしていた場所に残像が残るかのような何か青い点々が残されている、それが太陽で輝いて一層、幻想的な雰囲気を出していた。
それに青い髪の毛(ショートカットではなくリボンでしばっていた、結構長い髪の毛だろうか)に、よく見ると美少女といえる顔、青を基調としたワンピース(今更だがこれはドレスか?)
何より耳が妖精っぽい、人間のそれの形とは違う。妖精の動作の一つ一つがまさしく「女の子」だった。胸も少しはあるのではないだろうか。
「ねぇ、あたしを保護してって言ってるでしょ?」
「保護するにしても何にしても僕は残念ながらロリコンじゃないんだ、僕を誘っているつもりみたいだけど無駄だよ?」
「…アナタ結構ズレてるわね…優しそうなお兄さんなのに…。」
「ズレてて結構……僕はガーデニングの手入れで忙しいんだ、とっとと帰ってくれないかい。」
「だめよ!あたし……。」
「?」
「 家 出 し て き た ん だ も ん 。 」
「…そろそろ休憩時間が終わりそうだ、僕はこれにて失礼するよ家出にしろ何にしろ君は早く帰るんだ。」
「無理だよ!あたしこのままじゃ家の為に結婚させられるの!あたしの結婚する男がこれまたメタボでひどくてハゲで脂ぎってて…オヤジなの!
あたしはまだ14にも満たない女の子なのに…ひどいわ……。」
妖精は涙目になりながら僕の顔を相変わらずウロチョロして必死に僕を説得しようとする。
『ひどいわ』あたりで僕の顔の前から動かずにワンワン泣き始めた。
メタボで脂ぎってるとは、まるでこの屋敷の主人みたいじゃないか。
何だか可哀そうになってきたな…仕方ない。
「僕の部屋、好き勝手に使ってもらって構わない今から案内するよ。今日の食事はこのミニトマトで我慢してくれ。」
「えー!トマトだけじゃ飽きるってー!」
ぶっころしてぇ。
その夜、仕事を全て終えて僕は自室へと上がった。
部屋に入ると僕は絶句した、綺麗に片付いていた部屋がゴチャゴチャになっている。
服という服は散乱している、ゲーム機もありったけ出されて無茶苦茶。タンスは全て開いている。
挙句の果てにベッドの下に置いていたアレがベッドの上に置かれている。
そのアレ…本だがそれが開かれておりアレの上に美少女な妖精がニヤニヤとその本を読んでいるのだ。
所々おお、うわぁー、すごい!とブツブツ言っていた。
「お…ま…えは……。」
怒り、それ以外の言葉以外無かった……。
3時間後、何とか僕は部屋を整理した。
何でも、人間の洋服類そして趣味をありったけ調べてみたかったのゴメンネ!(キリッ とかほざいていた妖精がいたのだ。
その妖精を手ごろなロープで柱に縛りそのまま放置して片づけを行ったのだ。
いざ終わり時計を見ると深夜2時…こんな時間でガサゴソするとは何て情けない……。
「もう!そろそろ許してよ……。」
「もうちょっと反省してろ。」
「ねぇ。」
「なんだよ…僕にこれ以上話しかけるな。」
「そういえば名前聞いてなかったわね、あたしは妖精のアカネ、ピチピチの妖精だよ。」
「ピチピチは余計だ……リュシカ、この屋敷の執事だ。」
「執事!?こんな物読んでるのに!?」
「それは男という男はみんな読むもんだ、ああもう知らん!僕は寝る!おやすみ!」
「ちょっとちょっと!せめてこれほどいてよ!」
ジタバタする妖精をしり目に僕はベッドで睡眠を始める、疲れた。
明日は早い、こんな調子で早く起きれるだろうか…。
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朝6時、執事の仕事は早い。
まず本日のスケジュールのチェック、今日はメタボの妻のお客様が来られる日だ。
今日もいい天気だ、朝食が出来ていると思う。起きようと……
「ぐっ!」
意識がグラッとし思うように立ち上がれない、喉がカラカラで顔が熱い…もしかして…。
リサト姉さんに電話し体温計を持ってきてもらい、それを脇に入れる。
3分後、ベルが鳴り響いた。
38.0
と数字が書かれていた、リサト姉さんはため息をついた後「今日は何とかするから寝てて。」と言い部屋から出て行った。
情けない、熱を出してしまうとは執事失格だ…。どれもこれも…
「あの妖精があんな所で現れなければ…深夜2時まで僕は掃除する事はなかったはずだ…一日7時間は寝ようと心掛けているのに…
くそっ!くそっ!熱が出たのもあのクソ妖精吹っ飛べばいいのに………!」
今気がついたが妖精がいない、縛っていた柱の下にロープが落ちている。
何かしらの方法で脱出していたのだろう、色々と叫んでいる妖精を無視して僕は寝ていたからよくわからなかった。
「おはよう、今日もいい天気ね。ご飯を食べない?」
まだいたか……ベッドで寝ている僕の胸の↑に妖精は女の子座りで座る。スカートはうまく両手で押さえてガードしている。
昨日と変わらない服、家出してきたとか言ってたが着替えも何もクソも無いのだろかこの妖精は
というかトイレとか一体どうしてるんだ、妖精の力じゃ外には出られないはずだ。
そして部屋は片付けた後のままだった、ゴチャゴチャになってないのでそれだけは許す。
「僕は今しんどいんだ、早く出て行ってくれ。」
「今出ていくとあたしは見つかってしまうわ、かくまって、って言ったはずでしょ?
それに好き勝手部屋を使っていいって言ったのは誰よ!?」
「使うにしろ何にしろ限度ってものがあるだろ…人のプライバシーも考えずに使いやがって…。」
「いいじゃない!私も性に興味がわく時期なの!」
「女の子がそれ言うなよ…まるでリサト姉さんみたいな奴だな…ったく。」
しばらく沈黙した後だろうか、妙なアングルのまま妖精がこう言った。
「ねえ…あたし達身体を交換しない…?」
何言ってんだこの妖精は、やっぱり吹っ飛べばよかったのではないかと今でもつくづく思う。
ああもう、だるい、寝たい、しんどい、もっとしんどくなってきた、もう何で僕がこんなに貧乏クジばっかり引くんだ。
メタボにしろリサト姉さんにしろこのクソ妖精にしろ、だるい。
「ねえ。」
「ああもう!好き勝手にしろ!勝手にしろ!知らん!何が何だか知らんがやってみるならやってみろ!この馬鹿!」
「……やったね☆!」
Vサインをした妖精は熱を出して死にそうになってる僕を無視して一人ではしゃいでいる。
ここまで煽られて怒らない妖精も珍しい…いや、さっき怒ってたよな…性に興味がわく時期なの!(苦笑)って感じでいやー笑えるな。
僕に大したものだ。
「やり方は簡単なの、目を閉じてね!」
もう閉じて寝る準備をした僕は、何かが顔に近付いてくる感じがする。
まぶたを開こうとした瞬間、ほんの一瞬だけ妖精の小さな小さな顔が僕の唇に当たった感じがした。
何かが空に飛んでいく感じが全身をかけぬけた後、僕の意識は闇に消えて行った………。
水曜イラスト企画 絵師:あまつ凛さん(9) 仮名:幾島 恭也(きょうや)【入れ替わり】
幾島 恭也(きょうや)【入れ替わり】
クール系で通る美青年。だが、本性は無類の女好きで、影でたくさんの女と付き合う。
人気が在るだけに誰も止められず、次に選ばれた新人マネージャーの巨乳メガネっ子(ドジっ子)
にも手を出そうとするが、無理矢理キスした途端に体が入れ替わってしまう。
元に戻るのは彼女の合意が必要なのだが……。
絵師:あまつ凛

水曜イラスト企画の説明はこちら。毎週1枚キャライラストをUPします。
本キャラを主人公/脇役にしたSSを募集しています。コメント欄に書き込んでください。(事故を防ぐため別途ローカル保存推奨)追加イラストを希望する場合は希望シーンに<イラスト希望>と書き込んでください。私が了承し、絵師さんも乗った場合はイラストの作成を開始します。
クール系で通る美青年。だが、本性は無類の女好きで、影でたくさんの女と付き合う。
人気が在るだけに誰も止められず、次に選ばれた新人マネージャーの巨乳メガネっ子(ドジっ子)
にも手を出そうとするが、無理矢理キスした途端に体が入れ替わってしまう。
元に戻るのは彼女の合意が必要なのだが……。
絵師:あまつ凛

水曜イラスト企画の説明はこちら。毎週1枚キャライラストをUPします。
本キャラを主人公/脇役にしたSSを募集しています。コメント欄に書き込んでください。(事故を防ぐため別途ローカル保存推奨)追加イラストを希望する場合は希望シーンに<イラスト希望>と書き込んでください。私が了承し、絵師さんも乗った場合はイラストの作成を開始します。
呪いはわが身に (9) by.isako
(9)
長尾は旧都庁の使われていない地下機械室にいた。準備はしてあるので、ハッキングは場所を選ばない。職場からでも自宅でも可能だ。しかし経路を特定される可能性は常にあった。危険は覚悟しているが、正体がバレれば公安に迷惑をかける事になる。
それに現場に近ければ万一の時、しおんを……
東ではなく、しおんか……
顔に苦笑が浮かぶ。
実際には、しおんの能力を持ってすれば、ほとんど危険はない。五分ほど敵の気をそらしてくれれば良いのだから。
午前0時五十五分、長尾はネットにダイブした。目的は二つ。要人篭絡のため活動している軍団の女性型アンドロイドを使用不能にすることと、敵の極秘情報の奪取である。
機械人間を生身のように動かすには大きく三通りの方法がある。人工知能(AI)の搭載、人の脳または、しおんのように電脳化したものの搭載、そして一時的に意識を躯体にインストールする遠隔操作である。
人工知能は先の大戦で自律型AIが何度かトラブルを起こしたために極めて厳格なプロトコルが定められており、行動を見れば誰にでも正体が分かる。しおんの方法は、倫理的法的制限から通常選択できない。
軍団が使用しているのは遠隔操作である。装置を破壊して行動不能にすれば、色ボケした要人たちも目が覚めるはずだ。それほど精巧なものを送り込める存在は限られていた。
午前0時五十八分。事前の調査では危険なため入らなかった深さの所で、長尾の予想は裏切られた。ハッキング可能な範囲に肝心な情報がないのである。どうやら独立したシステムがあるらしい。
長尾は急いで操作可能な躯体を探す。
あった。
プロトタイプの女性型アンドロイドである。性能は現在作戦遂行中の躯体の上を行くが、この国の男をたらしこむには少し大人びた外見をしていた。

キャライラスト:長尾崇 絵師:まさきねむ
素早くチェックをかける。起動に支障はなく、トラップも無いと思われた。
意識を入れた躯体が損傷を受けると精神にダメージを受ける可能性があった。しかし、すでに作戦は始まっている。しおんが危険を犯しているのに長尾がリスクを避けるわけにはいかない。
午前一時。長尾は軍団の女性型アンドロイドを凍結すると同時に、自身の意識をプロトタイプ『チャンウェ(嫦娥)』へインストールした。
長尾が目覚めたのは四十六階のほぼ中央にある5m四方の部屋の格納タンクの中だ。傷まぬよう生体部品は冷却されていた。急いでジェネレーターを起動して体温を上げる。すでに警報機は鳴り始めていた。
午前一時二分。無人の部屋に出るとかすかに銃撃の音が聞こえてくる。予定より早いが、しおんは大丈夫なのだろうか。
午前一時五分、爆発音に紛れて施錠された鉄のドアを破壊すると、予想通りデータを収めたコンピューターが見つかった。
幸いなことにチャンウェを介したことで比較的容易に進入可能だ。
午前一時九分。すべてを終えた長尾は念のためにしおんの撤退を確認しようと考えた。上のフロアの銃声は衰える様子がない。
三フロア続きで所有しているスーリンは共有エリア外に階段を何箇所か増設しているので、さほど大回りする必要はない。
慣れない体でいらぬ音を立てて気付かれぬよう、慎重に四十七階に上がる。
長尾がパーテーションの陰からのぞくと十人ほどがしおんを取り囲んでいる。北の窓までの通路にも二人ほど回り込んでいた。
一体何をやっているのだ。長尾のために敵を引きつけるにしてもこれは危険過ぎる。
周波数があっているため敵のインカムの通話が聞こえていた。何度か自爆という言葉が聞こえ、みな長尾が上がってきた階段へ向かっていく。
良い作戦だと自分の体に戻ろうとしたが、しおんに動きが無いので思い直して接近してみた。
しおんの鋭い聴覚が長尾の動きをとらえ振り向く。
その表情には死を望む陰があった。
「しおん!」
「誰? 逃げなさい、あと二秒」
長尾は体ごとしおんにぶつかっていく。
閃光と共に巻き起こった爆風で二人の体は外に飛び出した。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
午前七時半。
東家のLDK。
「お母さん、新宿で事件だって言ってるよ」
「早く食べなさい。遅刻するわよ」
「だってぇ」
風邪気味のアスカの前に薬と水を置きながら、ミナもニュースの画面を見た。
『今朝一時ころ新宿区西新宿二丁目の通称三角ビルで火災が発生しました。現在は鎮火していますが、出火時には爆発音が続き辺りは一時騒然としました。また避難した方から、銃声らしき音を聞いたという証言もあり、警察は事件、事故、両面から捜索を進めています。この事件は、最近世界で多発しているテロとの関連も指摘されて……』
「アスカが心配する必要はないから」
「でも、さあ」
「なにか気になるの?」
「あのね」
アスカはそのまま黙って画面を見た。
『また周囲の地面にはロボットの部品と思われるものが飛び散って……』
「なにかしら?」
「おじさん、大丈夫かな」
いまアスカがそう呼ぶのは長尾だけだ。
「ニュースの事件とは関係ないわよ。彼は現場に出る必要はないし」
「知ってるわ。おじさんの仕事、シギントって言うんでしょう?」
「あら」
「だって、私にゲームで負けた時にさあ」
ミナは笑い出した。
「確かに彼は負けず嫌いではあるようね」
「じゃあ、大丈夫? また来てくれるかなあ?」
「きっと」
「お願いしてくれる?」
「約束する」
「わぁーい」
『現場の写真をロボット工学の権威スーザン・カルヴィン博士にお見せして意見を伺いました』
『It is difficult to determin from the picture of …… 』
『現場の映像から判断するのは困難ですが、女性型のアンドロイドの一部と思われます。その完成度は驚くほど高く、先の大戦のおり、ルーシー共和国で製作されたバイオノイドとの近似性……』
(おわり)
長尾は旧都庁の使われていない地下機械室にいた。準備はしてあるので、ハッキングは場所を選ばない。職場からでも自宅でも可能だ。しかし経路を特定される可能性は常にあった。危険は覚悟しているが、正体がバレれば公安に迷惑をかける事になる。
それに現場に近ければ万一の時、しおんを……
東ではなく、しおんか……
顔に苦笑が浮かぶ。
実際には、しおんの能力を持ってすれば、ほとんど危険はない。五分ほど敵の気をそらしてくれれば良いのだから。
午前0時五十五分、長尾はネットにダイブした。目的は二つ。要人篭絡のため活動している軍団の女性型アンドロイドを使用不能にすることと、敵の極秘情報の奪取である。
機械人間を生身のように動かすには大きく三通りの方法がある。人工知能(AI)の搭載、人の脳または、しおんのように電脳化したものの搭載、そして一時的に意識を躯体にインストールする遠隔操作である。
人工知能は先の大戦で自律型AIが何度かトラブルを起こしたために極めて厳格なプロトコルが定められており、行動を見れば誰にでも正体が分かる。しおんの方法は、倫理的法的制限から通常選択できない。
軍団が使用しているのは遠隔操作である。装置を破壊して行動不能にすれば、色ボケした要人たちも目が覚めるはずだ。それほど精巧なものを送り込める存在は限られていた。
午前0時五十八分。事前の調査では危険なため入らなかった深さの所で、長尾の予想は裏切られた。ハッキング可能な範囲に肝心な情報がないのである。どうやら独立したシステムがあるらしい。
長尾は急いで操作可能な躯体を探す。
あった。
プロトタイプの女性型アンドロイドである。性能は現在作戦遂行中の躯体の上を行くが、この国の男をたらしこむには少し大人びた外見をしていた。

キャライラスト:長尾崇 絵師:まさきねむ
素早くチェックをかける。起動に支障はなく、トラップも無いと思われた。
意識を入れた躯体が損傷を受けると精神にダメージを受ける可能性があった。しかし、すでに作戦は始まっている。しおんが危険を犯しているのに長尾がリスクを避けるわけにはいかない。
午前一時。長尾は軍団の女性型アンドロイドを凍結すると同時に、自身の意識をプロトタイプ『チャンウェ(嫦娥)』へインストールした。
長尾が目覚めたのは四十六階のほぼ中央にある5m四方の部屋の格納タンクの中だ。傷まぬよう生体部品は冷却されていた。急いでジェネレーターを起動して体温を上げる。すでに警報機は鳴り始めていた。
午前一時二分。無人の部屋に出るとかすかに銃撃の音が聞こえてくる。予定より早いが、しおんは大丈夫なのだろうか。
午前一時五分、爆発音に紛れて施錠された鉄のドアを破壊すると、予想通りデータを収めたコンピューターが見つかった。
幸いなことにチャンウェを介したことで比較的容易に進入可能だ。
午前一時九分。すべてを終えた長尾は念のためにしおんの撤退を確認しようと考えた。上のフロアの銃声は衰える様子がない。
三フロア続きで所有しているスーリンは共有エリア外に階段を何箇所か増設しているので、さほど大回りする必要はない。
慣れない体でいらぬ音を立てて気付かれぬよう、慎重に四十七階に上がる。
長尾がパーテーションの陰からのぞくと十人ほどがしおんを取り囲んでいる。北の窓までの通路にも二人ほど回り込んでいた。
一体何をやっているのだ。長尾のために敵を引きつけるにしてもこれは危険過ぎる。
周波数があっているため敵のインカムの通話が聞こえていた。何度か自爆という言葉が聞こえ、みな長尾が上がってきた階段へ向かっていく。
良い作戦だと自分の体に戻ろうとしたが、しおんに動きが無いので思い直して接近してみた。
しおんの鋭い聴覚が長尾の動きをとらえ振り向く。
その表情には死を望む陰があった。
「しおん!」
「誰? 逃げなさい、あと二秒」
長尾は体ごとしおんにぶつかっていく。
閃光と共に巻き起こった爆風で二人の体は外に飛び出した。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
午前七時半。
東家のLDK。
「お母さん、新宿で事件だって言ってるよ」
「早く食べなさい。遅刻するわよ」
「だってぇ」
風邪気味のアスカの前に薬と水を置きながら、ミナもニュースの画面を見た。
『今朝一時ころ新宿区西新宿二丁目の通称三角ビルで火災が発生しました。現在は鎮火していますが、出火時には爆発音が続き辺りは一時騒然としました。また避難した方から、銃声らしき音を聞いたという証言もあり、警察は事件、事故、両面から捜索を進めています。この事件は、最近世界で多発しているテロとの関連も指摘されて……』
「アスカが心配する必要はないから」
「でも、さあ」
「なにか気になるの?」
「あのね」
アスカはそのまま黙って画面を見た。
『また周囲の地面にはロボットの部品と思われるものが飛び散って……』
「なにかしら?」
「おじさん、大丈夫かな」
いまアスカがそう呼ぶのは長尾だけだ。
「ニュースの事件とは関係ないわよ。彼は現場に出る必要はないし」
「知ってるわ。おじさんの仕事、シギントって言うんでしょう?」
「あら」
「だって、私にゲームで負けた時にさあ」
ミナは笑い出した。
「確かに彼は負けず嫌いではあるようね」
「じゃあ、大丈夫? また来てくれるかなあ?」
「きっと」
「お願いしてくれる?」
「約束する」
「わぁーい」
『現場の写真をロボット工学の権威スーザン・カルヴィン博士にお見せして意見を伺いました』
『It is difficult to determin from the picture of …… 』
『現場の映像から判断するのは困難ですが、女性型のアンドロイドの一部と思われます。その完成度は驚くほど高く、先の大戦のおり、ルーシー共和国で製作されたバイオノイドとの近似性……』
(おわり)
呪いはわが身に (8) by.isako
(8)
決行当日、昼間のうちに業者を装って四十八階のレストラン街にある普段は使われない倉庫に潜入した。
作戦は比較的単純だ。ここの店は殆どが午後十時半に閉店する。ほぼ無人になる午前一時に煙をあげ火災警報器を作動させる。残っていた人も客さえいなければ消防が到着するまでの五分で退避できるはずだ。
そこで四十五階にしかけたC4を爆発させる。逃げたければ脱出できるように非常口から遠いところから順に爆発する。爆発と同時に私は上階から侵入し攻撃を始める。
これだけのことだ。
私の攻撃は陽動で敵の注意を引きつけ長尾の仕事をやり易くし、直接攻撃と思わせることで貴重なデータが消去されるのを少しでも遅らせるのが目的だ。
非常時に残ると予想されているのは十二名の戦闘員で、こちらが無勢で撃退できると判断すれば復旧の難しいメインコンピューターのリセットをためらうに違いない。
長尾は五分欲しいと言っていた。
長いはずの待機時間は、思い出に浸るうちにまたたく間に過ぎた。気になる妻と娘のことは、長尾に託すという手紙を直接マンションの郵便受け箱に入れてきた。防犯カメラに映る私に警視庁は気づくだろうが、親友の長尾あてなら疑問を持つことはあるまい。
ライフルをもう一度確認し、アダプターに銃剣を取り付けた。
ミナ、アスカ、本当のお別れだ。長尾、あとは頼むぞ。
午前一時、私は起爆タイマーを作動させ廊下に出た。
いくつもの発炎筒をたき、警報機を鳴らす。
長尾の計画では、ここでしばらく待機して爆発と前後して突入する。私の安全のためだ。敵を混乱させるには充分ということだろう。
しかし彼の目的だけを考えれば、制圧可能な襲撃だと思わせるほうが良いはずだ。
非常階段を降り、施錠されたドアを吹き飛ばして私は四十七階に討ち入り、怒鳴った。
「fùchóu (復讐)!」
私怨だと思わせるほうが良いだろう。AUTOのままSG550の引き金を引いた。
「díxí(敵襲)!」
応戦に重火器はない。拳銃、92式手槍らしい。
腰までの高さのパテーションの陰を駆け抜けながら弾倉を交換した。そのまま腰を伸ばし狙わず適当に撃つ。
ジェネレーターの出力を上げ全力疾走すると後方から弾痕が追いかけてくる。
「yīrén(一人)!」
「nǚ(女)?」
午前一時三分。下階から新手がきた。避けきれず一瞬射線に入ってしまう。数発が当たりバランスを崩して転倒した。
ライフル弾だ。事前の情報が正しいなら、H&K MP7のデッドコピーだろう。素早くボディーアーマーを探ると分厚いセラミックプレートがぎりぎりの所で弾丸を防いでくれていた。
死ぬ気とはいえ、今はまだ早い。長尾の役に立つつもりなら。
ライフル上部のストッパーを操作しバーストオンリーにしてデスクの陰で構えた。事務椅子を押し出すとうかつな一人が顔をだした。
壁に飛び散る血と脳漿が目に入る。
悪かったな。十分もすれば私も後を追うから機嫌よく迎えてくれ。もっとも飛び散るのはオイルとメモリだけどね。
敵は退路を断つように回りこんできている。囲まれては時間稼ぎがやりづらい。
殺した敵の横からダッシュして隣室との境の分厚いガラス壁に頭から飛び込んだ。
敵の血で床に赤い筋を引きながら部屋の反対側まで移動した。背中側は作戦では脱出経路になる北向の窓で、リモコンで窓拭き業者が使うロープを屋上から垂らすことができる。
午前一時五分。タイマーが作動して爆発が次々と起こった。たった一人の侵入者が怪我をしたと思い込んでいた敵に動揺が走る。
相手の気を引くだけなら死を覚悟した私だけで充分。爆発はかえって敵を警戒させてしまう。しかし、長尾の行動のカモフラージュでもあるので外せないのだ。
あと五分付き合ってくれたまえ、諸君。
<つづく>
決行当日、昼間のうちに業者を装って四十八階のレストラン街にある普段は使われない倉庫に潜入した。
作戦は比較的単純だ。ここの店は殆どが午後十時半に閉店する。ほぼ無人になる午前一時に煙をあげ火災警報器を作動させる。残っていた人も客さえいなければ消防が到着するまでの五分で退避できるはずだ。
そこで四十五階にしかけたC4を爆発させる。逃げたければ脱出できるように非常口から遠いところから順に爆発する。爆発と同時に私は上階から侵入し攻撃を始める。
これだけのことだ。
私の攻撃は陽動で敵の注意を引きつけ長尾の仕事をやり易くし、直接攻撃と思わせることで貴重なデータが消去されるのを少しでも遅らせるのが目的だ。
非常時に残ると予想されているのは十二名の戦闘員で、こちらが無勢で撃退できると判断すれば復旧の難しいメインコンピューターのリセットをためらうに違いない。
長尾は五分欲しいと言っていた。
長いはずの待機時間は、思い出に浸るうちにまたたく間に過ぎた。気になる妻と娘のことは、長尾に託すという手紙を直接マンションの郵便受け箱に入れてきた。防犯カメラに映る私に警視庁は気づくだろうが、親友の長尾あてなら疑問を持つことはあるまい。
ライフルをもう一度確認し、アダプターに銃剣を取り付けた。
ミナ、アスカ、本当のお別れだ。長尾、あとは頼むぞ。
午前一時、私は起爆タイマーを作動させ廊下に出た。
いくつもの発炎筒をたき、警報機を鳴らす。
長尾の計画では、ここでしばらく待機して爆発と前後して突入する。私の安全のためだ。敵を混乱させるには充分ということだろう。
しかし彼の目的だけを考えれば、制圧可能な襲撃だと思わせるほうが良いはずだ。
非常階段を降り、施錠されたドアを吹き飛ばして私は四十七階に討ち入り、怒鳴った。
「fùchóu (復讐)!」
私怨だと思わせるほうが良いだろう。AUTOのままSG550の引き金を引いた。
「díxí(敵襲)!」
応戦に重火器はない。拳銃、92式手槍らしい。
腰までの高さのパテーションの陰を駆け抜けながら弾倉を交換した。そのまま腰を伸ばし狙わず適当に撃つ。
ジェネレーターの出力を上げ全力疾走すると後方から弾痕が追いかけてくる。
「yīrén(一人)!」
「nǚ(女)?」
午前一時三分。下階から新手がきた。避けきれず一瞬射線に入ってしまう。数発が当たりバランスを崩して転倒した。
ライフル弾だ。事前の情報が正しいなら、H&K MP7のデッドコピーだろう。素早くボディーアーマーを探ると分厚いセラミックプレートがぎりぎりの所で弾丸を防いでくれていた。
死ぬ気とはいえ、今はまだ早い。長尾の役に立つつもりなら。
ライフル上部のストッパーを操作しバーストオンリーにしてデスクの陰で構えた。事務椅子を押し出すとうかつな一人が顔をだした。
壁に飛び散る血と脳漿が目に入る。
悪かったな。十分もすれば私も後を追うから機嫌よく迎えてくれ。もっとも飛び散るのはオイルとメモリだけどね。
敵は退路を断つように回りこんできている。囲まれては時間稼ぎがやりづらい。
殺した敵の横からダッシュして隣室との境の分厚いガラス壁に頭から飛び込んだ。
敵の血で床に赤い筋を引きながら部屋の反対側まで移動した。背中側は作戦では脱出経路になる北向の窓で、リモコンで窓拭き業者が使うロープを屋上から垂らすことができる。
午前一時五分。タイマーが作動して爆発が次々と起こった。たった一人の侵入者が怪我をしたと思い込んでいた敵に動揺が走る。
相手の気を引くだけなら死を覚悟した私だけで充分。爆発はかえって敵を警戒させてしまう。しかし、長尾の行動のカモフラージュでもあるので外せないのだ。
あと五分付き合ってくれたまえ、諸君。
<つづく>
呪いはわが身に (7) by.isako
(7)
休暇の初日、午前中に墓参りを済ませた長尾は、昼前に東ミナとの待ち合わせるため所沢駅に着いた。官舎をでたミナは一人娘のアスカと駅から一五分ほどの高層アパートに住んでいる。
「お待たせしたかしら」
約束の西口近くのファストフード店前に着くとすぐ声をかけられた。
「今きたところ――いや、本当に」
「なにも言ってないわ。変わらないわね、長尾くんは」
白いワンピースを着たミナこそ大学の頃そのままだった。最後に会った葬儀の時とは別人である。
長尾は、ミナにとっては死者である哲也のことを頭から振り払った。彼はもう加賀美しおんとして生きている。それが昨夜のメッセージだと理解していた。
「ほめられたわけじゃなさそうだな」
「あらあら、僻まないでよ」
「ところで、どうして待ち合わせを? 住所まで出向くのに」
「ところで」
ミナは長尾の問を無視している。
「今日は終電まで空けてくれたんでしょうね」
できれば先に位牌に手をあわせて明るいうちに帰りたかった。母子家庭なのは近所に知られているだろう。それに大学時代の友人では、嘘でなくても、奥様連中の噂を止める理由にはなるまい。しかし約束は約束である。
「もちろん、ミナお嬢様」
「そうそう、あなたはついて来れば良いの」
「はい」
そう言って深々と頭を下げると、たいていのことには無関心な通行人も忍び笑いを漏らした。
「ちょっとやり過ぎだってば」
笑顔のミナは美しかった。
「それで予定は?」
「まずはアスカのおむかえよ。今日は短縮授業なの」
「アスカちゃん?」
「もう一年生よ」
「そうか年を取るわけだ、俺も」
「私も同じ年なんだけどなあ」
「そういう意味じゃ」
「とにかく罰としてお昼をおごること」
「へいへい。でも、アスカちゃんの方は、いいのかい」
「新しいパパってこと?」
「おい! 今日は東に挨拶にきたんだぞ」
「ごめん、そういうつもりでは」
「すまない。強く言うつもりじゃなかったんだ」
「アスカはあなたと会うの楽しみにしているから」
「顔くらいは覚えてくれているかもしれないけど」
「この一年間アルバムを見てたから。家にある東の写真はほとんどが大学以降のものばかりだからね」
「そうか」
それなら長尾はおじゃま虫のごとく登場しているに違いない。
「だからあなたはアスカの中では親しいおじさんなんだ」
「同じ年だろう?」
「そうよ。アスカの同級生にお姉さんとは呼ばれないもの」
そのまま二人は黙ったまま並んで歩いていた。
「なぜ無言なの、長尾くん」
「え?」
「あなた付き合っている娘いないでしょう?」
長尾の頭に、ちらりとしおんの顔が浮かんだが、娘とはいえない。
「図星だ」
「仕事一筋もいいけれど身を固めないと昇進にもひびくでしょう、そろそろ」
「まあね」
今の事件に方をつけない限り、昇進のことなど考えられない。
長尾がどう話すか迷う間もなく、小学校の前についた。駅から1kmもない。
アスカは、もう待っていたらしく校門あたりから駆けてきた。一年で驚くほど肢体が伸び、幼女から少女に脱皮している。
「お母さん!」
「アスカ」
「あっ、こんにちは、長尾さん」
「こんにちは、アスカちゃん」
三人はアスカの希望で近くのモールにあるレストランに向かって歩き始めた。長尾がランドセルを持つとアスカは少し先行してショーウィンドウをのぞくのを繰り返している。
「なんだか楽しそうだね」
「あら、気をきかせているつもりなのよ、あの子」
「それは、しかし」
「まあ大学時代の写真を見るかぎり、私たち三人の距離はおなじに見えるから」
「それぞれ別の人と付き合っていただろう。それは」
「そう言えばカナメちゃんとは?」
仰木カナメは長尾が学生時代付き合っていた同期生だ。
「卒業後はほとんど連絡も取らなかった。軍に入ったのがダメだったらしいよ」
「軍といっても情報本部でしょう」
「彼女の主義にはあわないからな」
「なるほどね」
モールが近づいてきたので長尾は思い切って切り出してみた。アスカが一緒では聞きづらい。
「アスカちゃんが気を使ってくれるのは、ひょっとしてそういう話がきているせいなのかい?」
「職場復帰を相談した上司からね。そういうの警察じゃ今もあるんだなって初めて知ったわ」
「なかなか理解してもらいにくい職業だからなあ。機密保持の点でも関係者で固めた方が安全ってことなのかな。それで会ったのかい」
「元とはいえ上司の顔はつぶせないもの、一度だけ。中島……中島陸人って言うんだけど嫌なやつ。東のことを妙に聞きたがるんだもの」
口をだす必要がなくなったようなので長尾はほっとした。
「知り合いなの?」
「まさか。警視庁に知り合いはいるけど中島は一人もいないよ」
昼食は楽しかった。独身を通している長尾が将来の結婚を意識するほど。
二人の自宅へ向かう途中、長尾はミナの許可を得てアスカが望んだ大きなぬいぐるみをプレゼントした。子供たちの間では有名らしい猫のキャラクターのものだ。アパート住まいにはちょっとと、ミナに相談したのだが、アスカは一部屋与えられているので心配ないらしい。
十階南向きの3LDKはきれいに片付けられていた。東の位牌は小さな団地サイズの仏壇に納められ唯一の和室で長尾を待っていた。
一人だけにしてもらい、線香をあげる。
思いは複雑だった。加賀美しおんは極秘事項なので二人に告げるわけにはいかない。しかし逆はどうなのだろう。しおんは接触を禁じられているし、警視庁からはなんの情報もない。では、彼が話すのか。会って楽しかったと……
加賀美しおんの存在を知っただけでなく、寝てしまったことで長尾の心は乱れていた。
ふすまの外からアスカに声をかけられて長尾はずいぶん長い間一人でいた事に気づいた。もう三時を過ぎている。
「長尾さん、大丈夫? おやつあるわよ」
「ああ、ごめん」
ふすまを開けると笑顔のアスカが迎えてくれた。
「お母さんは」
「買い物よ」
「そうか」
おやつはショートケーキでアスカは自分にはオレンジジュースを長尾には紅茶を用意していた。
「ケーキには紅茶なんでしょう」
「よく知ってるね」
「へへ」
十分ほどで長尾はアスカのクラスメートのほとんどの特徴を覚えてしまった。
「それでね、みっちゃんは、たかしくんを殴り倒しちゃったの」
「たかしくんは空手習ってる子だよね」
「ケンカは気合なんだってみっちゃんが言っていた」
「強いんだ」
「あのね、アスカが一番なんだよ」
長尾が驚いて見つめるとアスカは得意そうに胸をはった。
「ねえ、私の部屋でゲームする?」
ずいぶん気に入られたらしい。
「格闘ゲームなら、おじさんはけっこう強いぞ」
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
東ミナが帰宅するとゲームパッドを手にしたアスカが勇んで飛び出してきた。
「二十連勝よ」
「あらあら」
<つづく>
休暇の初日、午前中に墓参りを済ませた長尾は、昼前に東ミナとの待ち合わせるため所沢駅に着いた。官舎をでたミナは一人娘のアスカと駅から一五分ほどの高層アパートに住んでいる。
「お待たせしたかしら」
約束の西口近くのファストフード店前に着くとすぐ声をかけられた。
「今きたところ――いや、本当に」
「なにも言ってないわ。変わらないわね、長尾くんは」
白いワンピースを着たミナこそ大学の頃そのままだった。最後に会った葬儀の時とは別人である。
長尾は、ミナにとっては死者である哲也のことを頭から振り払った。彼はもう加賀美しおんとして生きている。それが昨夜のメッセージだと理解していた。
「ほめられたわけじゃなさそうだな」
「あらあら、僻まないでよ」
「ところで、どうして待ち合わせを? 住所まで出向くのに」
「ところで」
ミナは長尾の問を無視している。
「今日は終電まで空けてくれたんでしょうね」
できれば先に位牌に手をあわせて明るいうちに帰りたかった。母子家庭なのは近所に知られているだろう。それに大学時代の友人では、嘘でなくても、奥様連中の噂を止める理由にはなるまい。しかし約束は約束である。
「もちろん、ミナお嬢様」
「そうそう、あなたはついて来れば良いの」
「はい」
そう言って深々と頭を下げると、たいていのことには無関心な通行人も忍び笑いを漏らした。
「ちょっとやり過ぎだってば」
笑顔のミナは美しかった。
「それで予定は?」
「まずはアスカのおむかえよ。今日は短縮授業なの」
「アスカちゃん?」
「もう一年生よ」
「そうか年を取るわけだ、俺も」
「私も同じ年なんだけどなあ」
「そういう意味じゃ」
「とにかく罰としてお昼をおごること」
「へいへい。でも、アスカちゃんの方は、いいのかい」
「新しいパパってこと?」
「おい! 今日は東に挨拶にきたんだぞ」
「ごめん、そういうつもりでは」
「すまない。強く言うつもりじゃなかったんだ」
「アスカはあなたと会うの楽しみにしているから」
「顔くらいは覚えてくれているかもしれないけど」
「この一年間アルバムを見てたから。家にある東の写真はほとんどが大学以降のものばかりだからね」
「そうか」
それなら長尾はおじゃま虫のごとく登場しているに違いない。
「だからあなたはアスカの中では親しいおじさんなんだ」
「同じ年だろう?」
「そうよ。アスカの同級生にお姉さんとは呼ばれないもの」
そのまま二人は黙ったまま並んで歩いていた。
「なぜ無言なの、長尾くん」
「え?」
「あなた付き合っている娘いないでしょう?」
長尾の頭に、ちらりとしおんの顔が浮かんだが、娘とはいえない。
「図星だ」
「仕事一筋もいいけれど身を固めないと昇進にもひびくでしょう、そろそろ」
「まあね」
今の事件に方をつけない限り、昇進のことなど考えられない。
長尾がどう話すか迷う間もなく、小学校の前についた。駅から1kmもない。
アスカは、もう待っていたらしく校門あたりから駆けてきた。一年で驚くほど肢体が伸び、幼女から少女に脱皮している。
「お母さん!」
「アスカ」
「あっ、こんにちは、長尾さん」
「こんにちは、アスカちゃん」
三人はアスカの希望で近くのモールにあるレストランに向かって歩き始めた。長尾がランドセルを持つとアスカは少し先行してショーウィンドウをのぞくのを繰り返している。
「なんだか楽しそうだね」
「あら、気をきかせているつもりなのよ、あの子」
「それは、しかし」
「まあ大学時代の写真を見るかぎり、私たち三人の距離はおなじに見えるから」
「それぞれ別の人と付き合っていただろう。それは」
「そう言えばカナメちゃんとは?」
仰木カナメは長尾が学生時代付き合っていた同期生だ。
「卒業後はほとんど連絡も取らなかった。軍に入ったのがダメだったらしいよ」
「軍といっても情報本部でしょう」
「彼女の主義にはあわないからな」
「なるほどね」
モールが近づいてきたので長尾は思い切って切り出してみた。アスカが一緒では聞きづらい。
「アスカちゃんが気を使ってくれるのは、ひょっとしてそういう話がきているせいなのかい?」
「職場復帰を相談した上司からね。そういうの警察じゃ今もあるんだなって初めて知ったわ」
「なかなか理解してもらいにくい職業だからなあ。機密保持の点でも関係者で固めた方が安全ってことなのかな。それで会ったのかい」
「元とはいえ上司の顔はつぶせないもの、一度だけ。中島……中島陸人って言うんだけど嫌なやつ。東のことを妙に聞きたがるんだもの」
口をだす必要がなくなったようなので長尾はほっとした。
「知り合いなの?」
「まさか。警視庁に知り合いはいるけど中島は一人もいないよ」
昼食は楽しかった。独身を通している長尾が将来の結婚を意識するほど。
二人の自宅へ向かう途中、長尾はミナの許可を得てアスカが望んだ大きなぬいぐるみをプレゼントした。子供たちの間では有名らしい猫のキャラクターのものだ。アパート住まいにはちょっとと、ミナに相談したのだが、アスカは一部屋与えられているので心配ないらしい。
十階南向きの3LDKはきれいに片付けられていた。東の位牌は小さな団地サイズの仏壇に納められ唯一の和室で長尾を待っていた。
一人だけにしてもらい、線香をあげる。
思いは複雑だった。加賀美しおんは極秘事項なので二人に告げるわけにはいかない。しかし逆はどうなのだろう。しおんは接触を禁じられているし、警視庁からはなんの情報もない。では、彼が話すのか。会って楽しかったと……
加賀美しおんの存在を知っただけでなく、寝てしまったことで長尾の心は乱れていた。
ふすまの外からアスカに声をかけられて長尾はずいぶん長い間一人でいた事に気づいた。もう三時を過ぎている。
「長尾さん、大丈夫? おやつあるわよ」
「ああ、ごめん」
ふすまを開けると笑顔のアスカが迎えてくれた。
「お母さんは」
「買い物よ」
「そうか」
おやつはショートケーキでアスカは自分にはオレンジジュースを長尾には紅茶を用意していた。
「ケーキには紅茶なんでしょう」
「よく知ってるね」
「へへ」
十分ほどで長尾はアスカのクラスメートのほとんどの特徴を覚えてしまった。
「それでね、みっちゃんは、たかしくんを殴り倒しちゃったの」
「たかしくんは空手習ってる子だよね」
「ケンカは気合なんだってみっちゃんが言っていた」
「強いんだ」
「あのね、アスカが一番なんだよ」
長尾が驚いて見つめるとアスカは得意そうに胸をはった。
「ねえ、私の部屋でゲームする?」
ずいぶん気に入られたらしい。
「格闘ゲームなら、おじさんはけっこう強いぞ」
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
東ミナが帰宅するとゲームパッドを手にしたアスカが勇んで飛び出してきた。
「二十連勝よ」
「あらあら」
<つづく>
呪いはわが身に (6) by.isako
(6)
店を出たところから長尾の腕を掻き抱くようにして歩いた。
親友に女として抱いてもらう。こう言葉にすれば立派な変態である。しかし、死を覚悟した今、ただ一度でいいから普通の女として満足したいという欲求を満たしてくれるのは彼しかいない。
ホテル街に足を向けた時点で長尾は私の意図に気づいたに違いない。しかし何も言わず、歩みさえゆるめなかった。理由を問わずに従ってくれたのは私を哀れんで、それとも彼の望みを叶える代償としてなのか……
別にどちらでもかまわなかった。私を人として扱ってくれるなら。
彼が選んだのはゴージャスだが、ごくノーマルな部屋。まあ、その方が嬉しいかも。
黙ったままの彼の服を脱がせた。 東鉄也を意識させないよう店を出てから話しかけていない。
「シャワーは?」
と言う彼にかぶりを振ってベッドに腰掛けさせ、ゆっくり脱いだ……恥ずかしそうに。でも下着は残す。
悩みぬいて選んだのはシンプルな白。でも生地は薄く小さくセクシーなもの。
勃起はしていない。やはり東鉄也の影が尾を引くのか。しかし、これは想定内。仰向けに寝かせ、迷わず口に含む。
息を呑む音が聞こえた。気づかぬふりをして舌を絡ませて丁寧に舐め上げる、強く弱く。吸い上げても極力音は出さない。風俗を連想させては逆効果だ。
膝で移動してショーツが彼の目の前になるように胴をまたぐ。自分でもはっきり分かるほど湿っているからシミが見えるはずだ。
待つほどもなく手がショーツにかかる。脱がせやすいように足を片方ずつ上げた。
彼のものは、もう口からはみ出るほど膨らんでいる。ブラを自分でむしりとって、向きあうように方向をかえて鼠径部で腹を擦ると自分の濡れた陰毛でくすぐったい。
しかし効果は彼の方に強く出たようだ。思い切って彼の顔見るとすでに一匹の雄になっていた。
腰を浮かせ手を添えたペニスの上に移動すると、滴り落ちる愛液がペニスを伝い手を濡らす。
興奮が高まるまま、腰を下ろしていくと先端が私に触れた。視線を意識して焦らせるように迎え入れる。私が彼を飲み込み、彼は私を満たす。
この興奮は正常な男と女の愛とは言えないかもしれない。しかし死にゆく私には、加賀美しおんとして死のうとする私には充分すぎるものだ。
最後の三分の一は力が抜け腰が落ちてしまう。
「ヒィ」
腰を振ろうとしても力が入らない。十分場数を踏んできたのに……こんなことは初めてだった。
長尾が腰に手を添え挿入したまま、ゆっくりと体勢を入れ替え正常位になる。私は身を任せ命じられるまま脚を開いた。
「恥ずかしい」
私の言葉は優しいキスで封じられた。
彼が耳元で何かささやき、腰をゆっくりと振りはじめる。
興奮は高まるばかりでその後のことは、はっきり思い出せない。
<つづく>
店を出たところから長尾の腕を掻き抱くようにして歩いた。
親友に女として抱いてもらう。こう言葉にすれば立派な変態である。しかし、死を覚悟した今、ただ一度でいいから普通の女として満足したいという欲求を満たしてくれるのは彼しかいない。
ホテル街に足を向けた時点で長尾は私の意図に気づいたに違いない。しかし何も言わず、歩みさえゆるめなかった。理由を問わずに従ってくれたのは私を哀れんで、それとも彼の望みを叶える代償としてなのか……
別にどちらでもかまわなかった。私を人として扱ってくれるなら。
彼が選んだのはゴージャスだが、ごくノーマルな部屋。まあ、その方が嬉しいかも。
黙ったままの彼の服を脱がせた。 東鉄也を意識させないよう店を出てから話しかけていない。
「シャワーは?」
と言う彼にかぶりを振ってベッドに腰掛けさせ、ゆっくり脱いだ……恥ずかしそうに。でも下着は残す。
悩みぬいて選んだのはシンプルな白。でも生地は薄く小さくセクシーなもの。
勃起はしていない。やはり東鉄也の影が尾を引くのか。しかし、これは想定内。仰向けに寝かせ、迷わず口に含む。
息を呑む音が聞こえた。気づかぬふりをして舌を絡ませて丁寧に舐め上げる、強く弱く。吸い上げても極力音は出さない。風俗を連想させては逆効果だ。
膝で移動してショーツが彼の目の前になるように胴をまたぐ。自分でもはっきり分かるほど湿っているからシミが見えるはずだ。
待つほどもなく手がショーツにかかる。脱がせやすいように足を片方ずつ上げた。
彼のものは、もう口からはみ出るほど膨らんでいる。ブラを自分でむしりとって、向きあうように方向をかえて鼠径部で腹を擦ると自分の濡れた陰毛でくすぐったい。
しかし効果は彼の方に強く出たようだ。思い切って彼の顔見るとすでに一匹の雄になっていた。
腰を浮かせ手を添えたペニスの上に移動すると、滴り落ちる愛液がペニスを伝い手を濡らす。
興奮が高まるまま、腰を下ろしていくと先端が私に触れた。視線を意識して焦らせるように迎え入れる。私が彼を飲み込み、彼は私を満たす。
この興奮は正常な男と女の愛とは言えないかもしれない。しかし死にゆく私には、加賀美しおんとして死のうとする私には充分すぎるものだ。
最後の三分の一は力が抜け腰が落ちてしまう。
「ヒィ」
腰を振ろうとしても力が入らない。十分場数を踏んできたのに……こんなことは初めてだった。
長尾が腰に手を添え挿入したまま、ゆっくりと体勢を入れ替え正常位になる。私は身を任せ命じられるまま脚を開いた。
「恥ずかしい」
私の言葉は優しいキスで封じられた。
彼が耳元で何かささやき、腰をゆっくりと振りはじめる。
興奮は高まるばかりでその後のことは、はっきり思い出せない。
<つづく>
うそつきリリィ 6
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呪いはわが身に (5) by.isako
(5)
長尾が東から会いたいと連絡を受けたのは休暇前日の夜だった。
会うと即答できなかったのには、二つの理由がある。一つは機械化した東がしてきた仕事の内容を知っていること。もう一つは加賀美しおんとしての東が気になって……一目惚れしたかもしれないこと。だから、もう一度会うのは辛かった。
しかし使い捨て携帯からかけてきた東の口調は真剣そのものである。おまけに明日会う約束の東ミナのことだと言われては、できる返事は一つしかなかった。
ミナ、香川ミナと東鉄也は長尾の大学時代の友人である。国際問題研究会で知り合い、常につるんでいたものだ。長尾が疎遠になったのは卒業後一人軍に入ったことが原因で、駐留先から戻ってからは結婚した二人を何度か訪ねたことがある。
長尾が選んだのは渋谷駅から15分ほどのビルにあるイタリア料理の店で、座席が16ほどの小さな店である。学生時代に利用したことがあり、東もよく知っていた。
待つほどもなく加賀美はやってきた。店には学生風の男性客が三人と一組のペアがいたが、男四人の視線は東に釘付けになる。にこやかな笑顔で向かいの席に座った加賀美は特にめかし込んでいるわけではない。服も簡素なパンツルックだし、化粧も薄かった。どうやら先日は、意識して目立たぬ化粧をしていたようだ。長尾を驚かせないためにだろうか。
「お待たせしたかしら」
「いや」
今きたところだと続けようとして、 まるで三文芝居のデートのようだと苦笑が浮かぶ。
「なにか変かしら、私」
「いや、君のことじゃない」
「ほんとにぃ?」
一人きりのウェイトレスが注文を聞きに来たのでしばらく会話は中断する。
加賀美はパスタとサラダを長尾はディナーセットを頼み、冷えた白ワインをボトルで注文した。
「……ご注文は以上でよろしいでしょうか」
「ああ」
「はい」
「しばらくお待ちくださいませ」
ウェイトレスが席を離れると加賀美は願いを話す。実行は簡単なようで難しかった。
それは元妻ミナの再婚は望むが、中島陸人以外にすることだという。
東の心が加賀美に宿っていることを秘密にしたままで伝えるのは難しい。
「どのみち一度は訪ねようと思っていたんだ。努力してみる」
そう答えるだけで精一杯だった。。
しかし加賀美はそれ以上この話題に拘泥せず話題を変える。自然に長尾の休暇にも触れることになった。
「ちょっと親戚の用事でね」
まさか、お前の墓参りだというわけにもいかない。
「そう」
食事が届く頃には、話題が最近の不順な天候や流行になり、長尾も気楽に話し合えるようになる。加賀美と話すのは楽しく、久しぶりに愉快なひと時を過ごした。
<つづく>
長尾が東から会いたいと連絡を受けたのは休暇前日の夜だった。
会うと即答できなかったのには、二つの理由がある。一つは機械化した東がしてきた仕事の内容を知っていること。もう一つは加賀美しおんとしての東が気になって……一目惚れしたかもしれないこと。だから、もう一度会うのは辛かった。
しかし使い捨て携帯からかけてきた東の口調は真剣そのものである。おまけに明日会う約束の東ミナのことだと言われては、できる返事は一つしかなかった。
ミナ、香川ミナと東鉄也は長尾の大学時代の友人である。国際問題研究会で知り合い、常につるんでいたものだ。長尾が疎遠になったのは卒業後一人軍に入ったことが原因で、駐留先から戻ってからは結婚した二人を何度か訪ねたことがある。
長尾が選んだのは渋谷駅から15分ほどのビルにあるイタリア料理の店で、座席が16ほどの小さな店である。学生時代に利用したことがあり、東もよく知っていた。
待つほどもなく加賀美はやってきた。店には学生風の男性客が三人と一組のペアがいたが、男四人の視線は東に釘付けになる。にこやかな笑顔で向かいの席に座った加賀美は特にめかし込んでいるわけではない。服も簡素なパンツルックだし、化粧も薄かった。どうやら先日は、意識して目立たぬ化粧をしていたようだ。長尾を驚かせないためにだろうか。
「お待たせしたかしら」
「いや」
今きたところだと続けようとして、 まるで三文芝居のデートのようだと苦笑が浮かぶ。
「なにか変かしら、私」
「いや、君のことじゃない」
「ほんとにぃ?」
一人きりのウェイトレスが注文を聞きに来たのでしばらく会話は中断する。
加賀美はパスタとサラダを長尾はディナーセットを頼み、冷えた白ワインをボトルで注文した。
「……ご注文は以上でよろしいでしょうか」
「ああ」
「はい」
「しばらくお待ちくださいませ」
ウェイトレスが席を離れると加賀美は願いを話す。実行は簡単なようで難しかった。
それは元妻ミナの再婚は望むが、中島陸人以外にすることだという。
東の心が加賀美に宿っていることを秘密にしたままで伝えるのは難しい。
「どのみち一度は訪ねようと思っていたんだ。努力してみる」
そう答えるだけで精一杯だった。。
しかし加賀美はそれ以上この話題に拘泥せず話題を変える。自然に長尾の休暇にも触れることになった。
「ちょっと親戚の用事でね」
まさか、お前の墓参りだというわけにもいかない。
「そう」
食事が届く頃には、話題が最近の不順な天候や流行になり、長尾も気楽に話し合えるようになる。加賀美と話すのは楽しく、久しぶりに愉快なひと時を過ごした。
<つづく>
女装少年アンソロジー可愛すぎるボク 2
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