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リュウの道 <前篇> by.isako

「罠だ、逃げろ」
 無線に叫び終わる前に複数の銃弾が私の体を貫いた。
 急激な失血で意識が薄れる。痛みはなく、ただ熱かった。


 新浜市警七分署のセブンスドラゴン七尾竜也もとうとう年貢の納め時らしい。
 心配する妻や娘の反対を押し切り、いい年して現場にこだわったむくいなのか……




(1)

 目覚めたのは豪華な病室のベッドの上だった。
 私は死ななかった――のではない。七尾竜也はすでに死んでいる。それが納得できたのは目覚めて一ヶ月後、向精神薬が減量されてからだった。

 主治医が最初に面会を許したのは、妻でも娘でもなく七分署の署長、花山大吾である。
 二〇代なかばで署長になったエリートの花山は、いつもの高飛車な感じではなくいくらか戸惑っていた。
「君は七尾なのか」
「自分では、そう思いますし、心理テストでも」
「それは聞いているのだが……」
 花山の困惑は私の困惑でもある。私は、女の、後輩の婦警の肉体で復活したのだ。しかも、その婦警、霧島マヤは花山のいとこで、私の娘アヤカの友人ときている。

宮前 陸
イラスト.ひびき

「手術の決断は署長がされたとうかがいました」
 臓器提供に同意していた私の体で唯一無傷だった脳の一部が、昏睡状態だった霧島マヤの手術に利用された。
「ああ。術前には、いくらか記憶の混乱は起きるかもしれないが、マヤの意識が目覚めると予想されていたんだ」
 脳に関する科学は十年前の大戦以後大きく進歩しており、今回の出来事は突発的な事故といえるらしい。
「なんと申し上げて良いか」
「君があやまる必要はない」
「はあ」
「ただ言っておくことがある」
「なんでしょう」
 花山は少し間をおいた。
「主治医から精神は安定してると聞いている」
「心配ないと思います」
 最初の混乱と錯乱は繰り返された催眠療法と薬物で収まって久しい。そして何を聞かされるにしても、二十才以上若返って、しかも性転換までする以上の驚きがあろうはずがなかった。
「法的には七尾竜也は死亡している」
「わかっています」
「生物学的にも移植された数百グラムの脳以外、君は霧島マヤだ」
「否定するつもりはありません」
「中身も完全に霧島マヤとして暮らす。それが退院の条件だ。主治医も賛成している」
「しかし」
「ご家族が君を夫として、父親として受け入れることはないだろう」
「それは覚悟しています」
 そう言いながら私は無意識のうちに手の甲を顎に当てていた。
「なら霧島家の人たちを無用に悲しませることはあるまい」
「騙すことになりませんか」
「手術の影響による記憶の混乱で説明はつく」
「……」
「それに君は百パーセント七尾という訳でもない」
「確かに肉体は」
「そうじゃない。例えばさっき手を顎に当てていたろう」
「はい」
「あれは悩んでいる時のマヤの仕草で七尾のものではない」
「そうなんですか」
 無意識に女性らしい動きをするのは知っていた。それに例えばブラを付けたり化粧をしたりは意識さえしなければ自然にできてしまう。が、それほどはっきり霧島マヤの癖が出るとは知らなかった。
「記憶だけが上書きされた可能性もあると説明を受けただろう?」
「ええ、まあ」
 それは僅かな可能性だった。私の記憶を霧島マヤが獲得しても、今の私になるとは思えない。心理テストでも明々白々なことである。しかし、花山相手に強く否定する気にはならない。
「では」
「でも、ご家族にバレたら」
「記憶の混乱のことは承知している。資料も用意した。見終わったら処分してくれ。自動的には消滅しないからな」
 そう言って私にメモリを手渡した。
 霧島マヤとして生きる決心をするしかなさそうだ。
 それに主治医もロールプレイをするつもりで生活を始めたほうが精神的混乱は少ないだろうとアドバイスしていた。

 こうして私の霧島マヤとしての人生が始まった。
(2)

 霧島マヤは私と同じく市警七分署の刑事である。 美しく活気があり愛想のいい彼女は花山署長のいとこと言うこともあり、プリンセスとか姫と呼ばれ署内のアイドル的存在であり、独身男性刑事の憧れだった。
 そのため一年ほど前、ある捜査、私を襲撃した組織に対する捜査中の事故で昏睡状態になったときは署内に重苦しい空気が広がったものだ。
 個人的にも新人のとき三ヶ月ほど指導したのでよく知っている。
 また娘のアヤカとは大学の同期だが、アヤカは二年軍にいたので二歳年下になる。

 退院したあとは両親がそのまま維持してくれていたマンションに戻った。職を辞して実家に戻って欲しいという両親も、職場復帰の堅い決心を告げると休日にはなるべく帰ると約束することで認めてくれた。
 霧島家の人達との面談も花山が用意してくれた情報で大きな破綻はなかった。ただご両親の喜びようを見ると目覚めたのが私なのを心の底から申し訳なく思う。

 慣れない体で早い復帰を目指すのは、マヤと私の敵(かたき)、マヤの心と私の肉体を殺した組織に敵討ちしたいためである。
 
 それにしてもアヤカのことを考えると頭がいたい。娘とは中学生になった頃からあまり話をしなくなった。義母にあたる妻キララとの方がずっとウマが合うらしい。その娘とこれから友人として付き合うのだ。それに花山の情報にはいくつか気になる点があった。
 常識で考えれば、女性化した事のほうが大問題である。しかし、この問題は繰り返された催眠療法のおかげか、戸惑いはあるものの何とか受け入れることができた。目覚めた当初は混乱し大暴れしたり、うつ状態になったのが嘘のようだ。

 とにかく復帰まで一週間になったある日、私はやっとアヤカに会う決心をした。
 大学を出て軍に戻ったアヤカは、私が殉職した後、市警の訓練施設の教官になっていた。当分のあいだ午前中は内勤、午後はリハビリを兼ねた再訓練を花山から命じられているので、このままでは、親友同士が教官と生徒としていきなり会うことになってしまう。さすがに、それはまずい。

 頭の中に赤ん坊や園児服を着た幼女、あるいは軍服をまとった凛々しいアヤカの姿が湧き上がる。
 その間も、私の体はシャワーを使い、下着を選び、カツラをつけていた。手術から三ヶ月なのでまだ髪は4cmほどしか伸びていない。
 マヤが選んだ服は下着とお揃いのライトピンクのツイードのジャケットとミニスカートである。
 できればパンツルックにしたいところだが、自分の好みを通せばひどいファッションになることは、これまでで身にしみていた。

 駅に向かう途中に娘の好きな洋菓子の店があることを思い出し、ショートケーキとクッキーを買った。少しでも場繋ぎになればと考えた結果である。一体何を話せばいいのか見当もつかなかった。花山の用意したデータはプラーベートな関係も網羅していたが、さすがに盗聴記録はない。

 町を歩くといまだに視線が気になる。なるほど、マヤほど可愛ければ視線を集めるのは当然かも知れない。もちろんそれも気になるのだが、私にとっての一番の違和感は見下ろされることにあった。ヒールをはいても視線は二十cm以上低くなっている。無意識に今の自分を確認しようとショウウィンドウに映る姿に視線を移し、慣れぬヒールに転けそうになった。ふと我に返り階段を踏み外すような感じだ。
 なんとかケーキの箱を大きく傾けず体勢を立て直し、慌ててその場を去った。周りの男達が助けようと動いたからである。

 アヤカの住まいは旧市街の海を望む高層マンションの上階にあった。年令や収入には不相応な高級マンションは、彼女の実母、先妻レイカの遺産や保険金で購入したものである。私も父親として何度か訪れたことがあった。 
 エントランスから内線で連絡をとると、本来なら二度と聞けるはずのなかった娘の声が応えた。
「待ちかねたわよ、マヤ」
 ロックの外れたドアを抜け、エレベーターに乗る。階数を示すパネルの数字が増えるに従い緊張が高まった。東の角部屋までの長い廊下を歩みドアホンを押すとすぐドアが開いた。
 カットジーンズに丈の短いタンクトップというラフな格好のアヤカは何も言わず私を招き入れ、挨拶の暇(いとま)も与えず強く抱きしめた。
 ケーキの箱が潰れぬよう慌てて袋を持つ手を上げたので第三者がいたら私の姿は間抜けなものに見えただろう。
 少しするとアヤカも私の不自然な体勢に気づき手をはなした。
「まあ!」
 と声をあげ、涙を指で拭いながら、笑い出す。気がつくと私も涙で視界が歪んでいた。別に芝居ではない。ただ父親として娘との再会に感激してなのか、マヤの体の反応なのかは判然としなかった。
「別に笑わなくても……はい、おみやげ」
 身長差が逆転しているので、以前は見下ろしていたアヤカの目は、ずっと上にある。タンクトップの下はノーブラなので目のやり場に困るが、女どうしで目をそむけるのも変だろうと極力無視した。
「あら、ありがとう」
 と少し驚いた顔をして袋を受け取る。
 互いに訪ねる時に手土産を持参したことは確認されているので、久しぶりのことで戸惑ったに違いない。

 広い、40平方メートルほど(24畳)あるLDKに入り、アヤカがお茶を淹れるのを長椅子で待った。対面キッチンのためその様子を見ることができる。
「記憶の混乱ってひどいの?」

 食器棚から出しているウェッジウッドは、元はわが家にあったものだ。そう言えば今座っているモスグリーンの革張りの長椅子も、レイカの選んだ品でアヤカの希望でマンション購入時にここに運ばれた。

「最初よりはずいぶんまし」
 アールグレイの良い香りが漂ってくる。アヤカがトレイをもってやって来て、向かいのソファーに座った。
「友人の軍医に聞いたんだけど、今じゃその手のトラブル、ドナーの記憶が混じることはほとんどないそうじゃない」
 脳だけは移植に培養臓器が使えない。もちろん培養は可能なのだが、ニューロンの発育が悪く能力が低かった。また部分脳移植は戦場で発達した医学であり、軍医の言うことは真実である。
「移植ではなく、私の脳が外傷以外、物理的なもの以外の損傷を受けていたらしいわ」
 これが脳の断片にわずかにあった私の意識が目覚めた理由だと主治医は考えている。
「それって?」
「それはわからないって、電気的なもの、化学的なもの、あるいは心理的なものかも」
 注がれたティーカップを受け取る。おもわず三人で過ごした平和な日を思いだし……
「ああ、ごめんなさい。アヤカ」
「どうしたの、急に」
「まっ先に言うべきだったのに」
「だから何を」
「お悔やみ、お父様の」
 アヤカに抱きつかれてすっかり忘れていた。なにしろ実際の私はこうして生きているのだから。
「別に構わないわ」
「えっ」
 父親の死より親友の帰還を喜ぶと正面切って言われるなら、ちょっとショックだ。
「父は満足だったんじゃないかしら。私と義母の願いを聞き入れで机の前で定年を迎えるよりは」
「それは、そうかもしれないけど」
「それに、あなただってショックだったでしょう。目覚めて父の死を聞いた時」
「それはもう。新人研修のとき、良くしていただいたし」
 自分で言うのはなんだか恥ずかしい。
「あなたは父が好きだったんでしょう」
「……」
 マヤがアヤカにそういったのだろうか。
「記憶になくて当然。あなたがはっきり言ったわけじゃないもの。でも、側で見てればわかるって」
「そうかなあ」
「とにかく、あなたが父のことを忘れるわけはない。だから親友との再会の喜びを先にしたとしても私は気にしない。むしろ嬉しい」
「ありがとう」
「ところで記憶に話に戻るけど、どのくらい覚えているの」
 変に言い訳するのはまずい。マヤとアヤカが二人きりで過ごした時間の記録は殆ど無かった。
「最近の――あっ、意識がなかった間は当然として、昏睡状態になる前のことね」
「そりゃそうね」
「新しい記憶ほど靄がかかったようになっているの。ごめんなさい」
「あやまる必要はない。思い出はまた作れば良いから」
 そう言いながらアヤカは立ち上がり私の右隣りに座る。
「ありがとう」
 言い終わる前に唇が重ねられた。驚いたが、全く予想外というわけではない。花山に渡された資料によれば、大学卒業後二人は、休みが合えばよく会っていたし、長期休暇も一緒に過ごすことが多かった。大学時代共通の友人二人を加えた四人で行動していた続きともとれる。しかし、二人とも付き合っている男性はいるものの、デートはごくまれにしかしていない。同性愛はさほど珍しいものではないし、特に軍ではありふれていた。
 だからといって、もちろん平然としていられたわけではない。なにしろ相手は私にとって娘なのだ。
 止めさせる言い訳を口にするため離れようともがくが、今の力の差は歴然としていた。それにこれが普段通りだとしたら強く拒絶すればアヤカを傷つけてしまうだろう。差し入れられた舌と私の舌が絡むと何とも言えない不思議な感覚が起こり、それまで硬くなっていた体の力が抜けてしまった。アヤカは器用に手早く私の服をはぎ、下着姿の私を抱きすくめる。
 どうしていいのかわからず、両腕をアヤカの背中に回すと今の私にはとてもたくましく感じられた。

<つづく>

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