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【ひまわり】(2) by.ダークアリス

(2)-------------------------------------------------------
 秋も終わり、冬が来て受験シーズンになった。
 俺はずっと前から、静岡を離れて北海道の大学へ通うことを、決意していた。
 最初は両親も反対していたが、北海道に住んでいる親戚の家から通うことを条件に、最終的には折れてくれた。
 そして来週から、受験のため北海道へ行く事になっていた。

 だが、ひとつだけ気がかりがあった。
 透のことだ。
 透は一月ほど前から学校を休みがちで、出席してきても何かに怯えるようにしていた。
 俺のことすら避けるようになり、ほとんどまともな会話をしていない。


 出発を前に、俺は透の部屋を無理矢理尋ねていた。

「なぁ、透。俺は来週、東京にはいない。受験で北海道へ行かなきゃ行けないんだ」
「……」

 透は厚手のセーターの裾を盛んに気にしながら伏し目がちに、ちらちらと俺の顔を窺うように見て、ため息をついた。

「おい、聞こえているのか?」

 透のはっきりしない様子に、少しイラっとした俺がそういうと、やがて小さな声で言った。

「……うん、知ってる」
「お前は、近くの専門学校へ行くんだって? 受験はいつなんだ?」
「……僕は、行かないかも」
「何で? 進路変更か? いまの時期に?」
「……

 再び長い沈黙。透はセーターの裾を引っ張ったり、袖口を伸ばして見たりと細かな動きはするが、一向に俺に答えようとしなかった。
 ここで俺が短気になったところで、何の解決にもなりはしないと、諦めの境地でため息をつくと、やがて透は俺の顔を上目がちに見つめて言った。

「……僕も、広志と北海道へ行きたい」

 男の癖に、妙に媚びた物の言い方をするところにも、俺はイラっときた。

「ぁん? 何しにくるんだよ。お前も俺と同じ学校受けるつもりなのか?」
「……」
「何考えてんのか知らんが、今の時期に思いつきで行動したって、何もいいこと無いぜ?」

 はっきりしない透に、つっけんどんに言うと、透は下を向いてしまった。
 伸びた長い髪が奴の顔を覆って、表情が読めなくなった。
 それが何となく気になって、透の肩に手を伸ばして顔を上げさせようとした。

「おい、聞いてるのかよ?」
「きゃっ! や、やめてっ!」
「うっ、す、すまん……」

 透は身を庇うように両手で肩を抱き、俺から後ずさった。
 まるで汚い物に触れられるような、金切り声に近い高い声にびっくりして、俺の方が悪いような気がして、つい謝ってしまった。
 だが、一体何なんだ? 今の透の反応は。
 まるで人に怯える、潔癖症の少女のような……。

「そ、それはそうとお前、その髪もう少し短くしたほうがいいんじゃないか? どこ受けるにしろ、面接あるだろう?」
「切りたくても、切れないんだ……」
「なんで? おふくろさんか? 息子の大切な受験なら、そんな事言わないだろう?」
「ママじゃないんだ、あいつらが……」
「“あいつら”? お前、やっぱりまだいじめられているんだな」
「……」
「だけど、髪の毛なんか伸ばさせて、何を考えているんだ?」
「……“そのほうが、女の子っぽい”って、言うんだ」
「はぁ? 何考えてやがんだ? あのバカ供。透をホモだちにでもしたいのかよ、ははは」
「……これを見て」

 そういって、透は来ていた厚手のセーター脱ぎ、シャツのボタンを外して、胸をはだけた。
 だがそこには、男子であればありえない、二つの膨らみがあった。

「お、お前……」

 俺は混乱した。透は確かに男だった。
 一緒に風呂に入ったことだってあるし、夏の水泳の授業の時だって。
 俺が呆然と透の胸を見つめたまま、固まっていると、透は俺の視線を恥じるように、シャツで胸を隠した。

「TSウィルスって知ってる?」
「TS、ウィルス……?」
「染色体の中でも、特にY染色体に選択的に働きかけて、その人の性染色体を書き換えてしまうんだって。成長の終わった大人でも赤ちゃんが作れなくなったりとか、影響があるんだけど、僕らぐらいの歳でこのウィルスに感染すると……」
「……女になっちまうってのか?」

 そういえば、確か新聞か何かで呼んだことがある。性同一性障碍の治療薬として、人為的に作られたウィルスだとか言う話だったように記憶している。だが、あれは……。

「あいつらの仲間の中に、医者の息子がいるんだ。それで、僕は毎日あの薬を無理矢理、飲まされていて……」
「いつからだ?」
「半年前から……」
「半年前? そ、それで、そんな体になっちまったのか?」

 透はシャツの襟をぎゅっと握り、床にうずくまる様にしてすすり泣き始めた。

「こんな体になっちゃったのは、先月ぐらいからなんだ。それまで、ちょっとずつ胸が膨らんだりしてきてはいたんだけど……」

 透が不登校を始めて、家にひきこもり始めた頃だ。
 "不登校だけでなく、部屋からもほとんど出なくなった"という透の母親の愚痴が本当ならば、奴らには、透の体のことはまだ、まだバレていないかもしれない。
 だがもし、奴らがこのことを知ってしまったら……。
 俺は念のため、確認しておこうと思った。

「おまえ、あいつらにはまだ、このこと知られていないだろうな?」
「……」

 顔を手で覆ったまま、答えようとしない透に、嫌な予感がした俺は、あえて命令口調ではっきりと言った。

「親父さんか、おふくろさんに事情を話して、医者に行け」
「いやだっ! こんなの、こんな体……、恥ずかしくて……」
「だけど、いつまでもそうしていられないだろう?」
「あいつに、元に戻す薬をもらうよ。そうすれば、元に戻ることができるはずだよ!」
「だけどなんて言ってもらうつもりなんだ? あいつって、お前をいじめている連中の仲間なんだろう?」

 そういうと、透は暗い表情になって、またうつむいてしまった。

「……なんとか、するよ。けど……、広志! お願い! 一緒にあいつらのところに行って!!」
「俺は……、もう明日の朝早くから出かけなきゃ行けないんだ。北海道の大学を受けるって言っていただろう」
「お願い! 助けて……」

 広志はぎゅっと俺に抱きつくようにしがみついた。
 押し付けられた、広志の柔らかな胸の膨らみが、俺に数瞬の迷いを起こさせた。
 俺は気を取り直すと、透の肩をつかんで離して言った。

「悪いがそれは駄目だ。これは、俺にとっても大切なことなんだ……」

 広志は涙を流していた。
 突然体がこんなことになって、不安な気持ちにならないほうがおかしい。
 だが、俺にも俺の都合がある。北海道の大学を受けると言うのは、俺にとっても人生の一大事なのだ。
 俺が渋い顔をしていると、広志はすがる様な表情をさらに曇らせ、目を伏せた。

「そう……。そう、だよね。受験だもんね。僕のせいで、広志にまで迷惑、かけられないよね」
「俺も来週には戻ってくる。それまで、親に話して医者に行くか、ごまかし続けるか……。とにかく、あいつらのところにだけは絶対に行くな。いいな? 透」

 俺の忠告に、透は明確に答えなかった。
 それだけに透のことが心配だった。
 しかし俺にも俺の都合がある。
 俺は翌日の早朝、受験のために北海道の親戚の元へと旅立った。

 だがもし俺が、出発を半日遅らせてでも透に付き合ってやれば、透はあんな目にあわずに、済んだのかもしれなかったと、後で後悔することになった。

<つづく>

経営戦略のトリセツ[取扱説明書]

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まぁ分かりやすいかなぁ。ただ、もう少し何かが足りない気も。

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