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この魔法少女の主成分は勇気ではありません 1-1 by.inQβ

作:inQβ
キャライラスト&挿絵:もりや あこ
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第1話 『少年、少女になる』-1

 「【人界】の標的への座標固定完了。魔法陣よし、体調よし、覚悟……よし。これで手はずは整った! もう何も怖くない……。そうだ、やってやるのだ! これだけやったのだ。大丈夫、落ち着け……」
 大きく息を吸えばむせ返るような埃っぽい薄暗いの小部屋で、怯えたような声が響いた。幼くもなく、老いてもいないような声音だ。しかし、男女のどちらとも分からない中性的なものだった。不安に揺れているのか、酷く情けなく聞こえる。
 部屋の中央には発光する円と文字がある。それから発せられる光が、周囲に大量に積みあがった書物や実験器具のようなガラクタを照らし出し、壁に深い影を映していた。
 もぞもぞと動く影が、自身を落ち着つかせようと深呼吸をするが、空気の悪さのあまり思わずむせる。しかし、それによってかえって気が抜けたのか、次に発される言葉は、はっきりと芯の強いものになった。
 「構築……《転送》、《改竄》、《定着》!!」
 声の主は自身の胸に手を当て、唱えた。自身の悲願を叶える──魔法の構築文を。
 声の主は発光し、やがて吸い込まれるようにして消えた。目の前にあった──魔法陣の中に。
 光っていた円と文字は消え失せ、薄汚い小部屋は、漆黒の闇に包まれ、物音ひとつしなくなった。



 「なんてこった……こんなに降ってくるなんて。さっきまでは……30分前ぐらいは、まだ晴れてたと思ったのになぁ」
 曇天の空模様に、更に墨をこぼして染み渡らせたような真っ黒な空。そこから流れ落ちる滝のような雨。ムチ打つような勢いのそれは、地面と、生徒らが帰路に就こうとして立ち竦んでいる学び舎の昇降口の玄関天井を使って、不快な音を奏でていた。
 「おい悠生(ゆうき)……傘あるのか?」
 「うん、ないよ。たしか天気予報では、ところにより午後から雨がぱらつくことがあるかもしれないけど、降っても小雨程度だって言ってたから……。傘邪魔だし、もし降っても走って帰っちゃえばいいかなって思ってた」
 「なにやってんだか。バカだなぁお前、家が近いからって面倒がってるから、今日みたいなバチが当たるんだよ」
 「そういう和人は傘持ってきてたの?」
 「無論! いまどき予報を信じないようなやつはいなかろうが、お前みたいにたかをくくる奴はごまんといるだろうさ。しかしだな、備えあれば憂いなしっていうのは基本中の基本だろ? 俺はデキる男だ……お前のように哀れにも傘の用意がない奴を迎え入れ、熱い友情を育んでだな……」
 「あー、はいはい。まったく、傘ひとつでそんなしょうもないこと考えてるなんて、色んな意味で用意周到だよ、和人は」
 空を見上げて途方に暮れていたのが新井悠生(あらいゆうき)。
 自宅からほど近く、レベルも自分に合っているからといった理由で選んだ学園に徒歩で通う、高等部2年の少年だ。容姿端麗というほどでもなく、小柄で童顔(らしい)のため、よく周りからは子供っぽいと言われる。本人ははじめそれを気にしていたが、囃されるうちにどうでもよくなってきて、最近では何とも思わなくなっていた。
 「何も悪びれる必要はあるまい。傘に入れてもらえる奴は助かり、俺としてもささやかな人助けをしつつ、そいつと仲良くなれるという……いいことずくしじゃないか」
 そんなことを考えなければいけないほど友人関係で困っているのか、はたまた悠生を茶化しているだけなのか分からないのが河部和人(かわべかずと)。
 悠生ほど家は近くないものの、隣町に住んでいて通学に不便がなく、かつレベルが自分に合っているため、この学園を選んだらしい。志望動機まで悠生に似たり寄ったりな少年だ。年齢は悠生より1つ上だが、2人の学年は同じ。誕生日の差によるものだ。根は良いのだが、掴みにくいというより面倒な言動をする。悠生がこの学園に来てから一番に仲良くなった奴だ。
 背がそこそこ高く、決して面構えも悪くはないのだが、どうもモテないらしい。悠生にはその理由がなんとなく分かる気がしていた。
 「じゃあさ、その哀れな僕をその傘に迎え入れて、僕の自宅まで付き添ってくれたら、僕たちの友情が今以上に育まれてお得だなー、とか思わない?」
 「おまっ……お前とこれ以上の友情を育んでどうすんだよ。男とくんずほぐれつな展開は、腐女子以外誰も得しないぞ。俺はだな、俺好みのロリ美少女と相合傘がしたいと、そう言っていたんだよ。第一、俺は駅に向かうんだから、お前の帰るほうと逆方向だろうが。男のためにわざわざ寄り道してやる義理はないな!」
 「実に浅はかだよ、和人……。僕はこのまま君と友達をしてていいのか、分からなくなってきた」
 「やかましい! お前のようなショタっ気あふれる美少年と違ってだな! これといって取り柄のない俺は、あらゆる手段で自分をアピールしてかないと……リア充には……なれないのだよ……」
 悠生は話しを聞いていてどっちが哀れなのか分からなくなってきた。
 通り雨のように遠くが明るくなっていて雲の切れ目が見える空でもない今、ここで時間を潰していても仕方がない。さっさと帰ったうがいいかな、などど考えながらふと空を見上げると、
──ゴッ……ゴロロロロン~ッ!!
と、空に稲妻が走ってから間隔を空けずに轟音が聞こえてきた。光ってから音が聞こえるまでの時間が短かかった。落雷の位置は、ここからそう遠くないはずだ。
 「やばいな、今の近かった。ぐずぐずしてないで、とっととお帰りになったほうがよさげだわ」
 「だね……。傘ないからずぶ濡れになるけど、全速力で帰るよ。 和人もロリ美少女探しなんてしてないで、早く帰んなよ?」
 「わーってるっての! てかお前、妹ちゃんは傘持ってったのか!?」
 「あー、多分持ってると思う! 自分はさておき、妹にはちゃんとしてもらいたいから、しっかり言いつけておいたし!」
 和人は傘をさして全速力で駅へ向かった。悠生は傘をささずに全速力で自宅へ向かいながら、若干叫ぶような感じで最後の一言を交わし、別れた。
 去り際になって、悠生はようやく自身の妹のことを思い出した。傘の持ち歩きについて、悠生は“雨が降ると分かっていても持って行かない”のに対して、妹は“雨が降ると知らずに持っていかない”ので、以前、酷くずぶ濡れなって、泣きながら帰宅したことがあった(今日は自分がそうなりそうだが)。
 そんなことがあってからというもの、悠生は降水確率が10%でもあれば、必ず妹に傘か折り畳み傘を持たせていた。今日も例外ではない。
 子供でもないのに兄妹が仲良く帰宅というのは、周りの人間にどう噂されるか分かったものではない。妹のためにも、普段は極力一緒に帰ることは避けていた。しかし、今日ぐらいは一緒に帰るようにしたほうがよかったか、と今更後悔する。
 とはいえ、もうだいぶ時間も過ぎてしまったし、友達と一緒に帰っているだろうと思い、引き返すには至らなかった。
 (でもなぁ、なんでここまで予報が外れたんだろ。天気図とか見た感じ、これからデカいのが来そうって気配はなかったと思ったんだけどなぁ。素人目だけど)
 雨足は一向に弱まる気配がなく、むしろ空が瞬く頻度が増している。傘を持っていきたがらない悠生でも、さすがに焦燥感を煽られた。
 帰宅ルートの途中には、周囲にあまり建物や立ち木などがない土手になっている場所もある。自宅までの道のりが最短で、景観もよいのでいつも使う道だ。落雷を心配して無難にいくならばそこを避けるべきだが、気温も急激に下がってきている。ずぶ濡れで走っている身としては、一刻も早く暖を取りたかった。
 “万が一”のために遠回りをして、建物だらけの道を選んでもよいだろう。しかし、“万が一”のために、ほぼこのままだと確実に風邪をひいてしまうと分かっていて遠回りをするのは、悠生としては憚られた。やはり、土手を通る最短ルートが最善とも思える。
 何度か空が明滅する程度の時間悩んだ末、結局、悠生は最短ルートを選んだ。



 「んのおおおおおおおう!!」
 珍しくヤケクソになった悠生は、奇声を上げながら土手を駆けていた。自身の無様な現状を否定するためか、あるいは体が冷えるのを紛らわすためか。それとも、小雨どころか嵐になっている天気を予想してくれなかった気象庁と気象予報士への怒りなのか……。
 全身ずぶ濡れで下着までぐっちょりなので、跳ね上がる水溜りの水が制服のズボンにかかろうがお構いなしだ。次第に、状況に呑まれて気分が高揚してきたためか、普段の冷静さは失われていた。憎々しげに空を見上げ、睨み付けながら走る。
 するとどうだろう。まるで空がそれに応えるかのように、自分の上でゴロゴロと雲の向こうが光っているように見えるではないか。らしくもなく、悠生の脳裏に、和人のようなしょうもない考えが浮かんできた。
 「あー、もう! 魔法か何かで、この真っ黒な雲をビームとかでブチ抜いてやりたくなっちゃうなぁ!」
 その言葉に、空が応えた。
 真上から降ってくる稲妻を人間の目で確認できるわけがないと思いながら(思う余裕があったように感じた)、なぜか悠生は、空に向かって光のトンネルに突入していくような感覚に陥った。
──くんっ……ユ……!
──同程度……2人……!? ど……いう……だ……!
 しかしなぜだろう、自分を呼ぶ声が2つ聞こえる気がした。ひとつは、聞き覚えのある女の子の声。もうひとつは、幼くもなく、老いてもいないような声。しかし、それは、男女のどちらとも分からない中性的なものだった。
 少年の意識は、そこで途絶えた。



 気がついたときには、周りの全てが変わっていた。
 目に入ったものは、白い天井と、恐らく窓から差し込んでいるのであろう光。耳に届くのは、聞き覚えのある声。肌に感じるのは、柔らかで暖かい布の感触。鼻で嗅げるのは、消毒液のようなにおい。覚醒していく意識の中で、ここは病院で、ベッドに横たわっているのだろう、と思った。また、よく助かったな、とも思った。
 「ユウ君! 気がついたんだね!? ユウ君!!」
 聞き覚えのある声の正体は、妹の悠美(ゆみ)だった。
 学校帰りでそのまま病院に寄ったのだろうか。セーラー服姿だった。反応があった悠生の顔を覗き込んでいるようだ。
 悠美は悠生と同じ学園に通っているが、学年はひとつ下。学園の高等部1年生で、当然、悠生のひとつ下にあたる。兄の悠生から見ても、悠美はいつも笑顔で元気があり、今時珍しく兄を慕ってべったりなところを特に可愛いと思っていた。次いで、栗色の長髪をツインテールにした髪型が似合うのもポイントが高い。残念なところが咄嗟に浮かばないあたり、多分にバカ兄としての脚色があるかもしれない。
 父親は海外に単身赴任中で、家庭には仕送りと、多忙のため時々の連絡を送っている。母親は悠生と悠美が幼い頃に事故で亡くなっている。両親共に家庭にいない新井家では、こうなったのもある意味必然だったのかもしれない。
 「ん……大丈夫……。ん?」
 体に力が入ったので、悠生がゆっくりと体を起こそうとしながら声を発すると……まず、違和感を感じた。体に力は入るのに、どうも上体を起こすのが辛い。まあそれは、ずっと床に就いていた病人であるとすれば何ら不思議ではないが、しかし、筋力や怪我などのせいとは違うような……どう表現するのが適切だろうか。“腹筋が無くなった”ような気がする。無論、腹筋がない人間はいないのだが。
 そして、声がおかしい。
 「あー、あー……。あ、あれ? なんか声おかしくない? 妙に高いような」
 急に不安になって、ベッドの脇からこちらを見つめている悠美を見つめ返す。悠美の表情には、悠生が意識を取り戻したことへの喜びと、困惑のような色が浮かんでいた。
 「ユウ君、落ち着いて聞いて。ユウ君はね……女の子になったの」
 悠美から突拍子も無い話を聞かされ、ショックで再び意識を失いそうになるのを堪えるのに必死だった。
 「え? も、もしかして声が高い感じがするのって……」
 「うん。今のユウ君は、どこの誰がどう見ても、可愛い女の子だよ。ほら、鏡見てみる? ここ病院の個室だから、好きなだけびっくりしていいよ。ほどほどに、だけど」
 悠美がベッドの脇から悠生の顔の前へ鏡を差し出す。その鏡に映っていたのは、妹と比べるべくもなく幼い、病院の寝巻きを身につけた少女だった。
 パッチリ開いた大きな目に、見るからにきめ細やかな肌の柔らかそうな頬。今はベッドに半身を起こした状態でいるから正確なところは分からないが、恐らく、立ち上がれば腰まで伸びていそうな髪。
 状況を理解してくると、驚きと衝撃のあまり、悠美がここは個室であると言ったからには、こう叫ばずにはいられなかった。
 「えぇぇぇぇええええ!?」

<つづく>

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