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11月の文庫チェック
11/1 角川書店発行/角川グループパブリッシング発売
ビーンズ文庫 魔界カンパニー そのお願い、悪魔が承ります! 夜野しずく 540
11/1 角川書店発行/角川グループパブリッシング発売
ルビー文庫 淫魔が花嫁 天野かづき 540
11/6 宝島社
宝島SUGOI文庫 女性ホルモン力を上げて若返る 渡邉賀子 580
11/6 宝島社
宝島SUGOI文庫 セイギのチカラ アングラサイトに潜入せよ! 上付佑 590
11/7 筑摩書房
ちくま文庫 ランキングの罠 田村秀 777
11/9 宝島社
このライトノベルがすごい!文庫 魔法少女育成計画restart 遠藤浅蜊 690
11/中 キルタイムコミュニケーション
あとみっく文庫 目覚めると従姉妹を護る美少女剣士になっていたF 狩野景 690
11/20 小学館
ガガガ文庫 俺、ツインテールになります。(2) 水沢夢 未定
11/20 小学館
ガガガ文庫 女子高生店長のコンビニは楽しくない(3) 明坂つづり 未定
11/22 角川書店発行/角川グループパブリッシング発売
角川文庫 きまぐれ星のメモ 星新一 780
11/22 二見書房
二見シャレード文庫 妖精男子(仮) 鈴木あみ 650
11/30 エンターブレイン発行/角川グループパブリッシング発売
KCG文庫 バイト先は「悪の組織」!?(2) ケルビム 662
11/30 エンターブレイン発行/角川グループパブリッシング発売
KCG文庫 せいふく!(仮) なぽりたん 662
11/下 パラダイム
まるち文庫 処女はお姉さまに恋してる 2人のエルダー アンソロジー(9)(仮) キャラメルBOX 690
ビーンズ文庫 魔界カンパニー そのお願い、悪魔が承ります! 夜野しずく 540
11/1 角川書店発行/角川グループパブリッシング発売
ルビー文庫 淫魔が花嫁 天野かづき 540
11/6 宝島社
宝島SUGOI文庫 女性ホルモン力を上げて若返る 渡邉賀子 580
11/6 宝島社
宝島SUGOI文庫 セイギのチカラ アングラサイトに潜入せよ! 上付佑 590
11/7 筑摩書房
ちくま文庫 ランキングの罠 田村秀 777
11/9 宝島社
このライトノベルがすごい!文庫 魔法少女育成計画restart 遠藤浅蜊 690
11/中 キルタイムコミュニケーション
あとみっく文庫 目覚めると従姉妹を護る美少女剣士になっていたF 狩野景 690
11/20 小学館
ガガガ文庫 俺、ツインテールになります。(2) 水沢夢 未定
11/20 小学館
ガガガ文庫 女子高生店長のコンビニは楽しくない(3) 明坂つづり 未定
11/22 角川書店発行/角川グループパブリッシング発売
角川文庫 きまぐれ星のメモ 星新一 780
11/22 二見書房
二見シャレード文庫 妖精男子(仮) 鈴木あみ 650
11/30 エンターブレイン発行/角川グループパブリッシング発売
KCG文庫 バイト先は「悪の組織」!?(2) ケルビム 662
11/30 エンターブレイン発行/角川グループパブリッシング発売
KCG文庫 せいふく!(仮) なぽりたん 662
11/下 パラダイム
まるち文庫 処女はお姉さまに恋してる 2人のエルダー アンソロジー(9)(仮) キャラメルBOX 690
いつだって僕らは 1-3 by 猫野 丸太丸
3.
僕は和久や篠塚といっしょに山下の護衛に加わることになった。校内ではなるべく山下といっしょにいる。放課後は、帰る方角が違うから付きっきりにはなれなかったけれど、山下から緊急連絡が入ったときにすぐ駆けつける。僕は自転車通学を許されていたから、とっさの移動手段として重宝された。山下を後ろに乗せて逃げることで、安全な範囲がぐんと広がったのだ。
もちろん殺伐とした活動ばかりしていたわけではない。週二、三回は、カラオケボックスに通うようになった。そして趣味について話したり、該当作の小説や漫画を読んだり……、山下の女装を眺めたりした。
山下は本気で女装の勉強をしているらしくって、女性が読むような普通の女性雑誌を見ていることが多かった。僕は不思議がった。
「こういう女性服って見た目はいいけどさ。あれだろう。サイズ、合うのか?」
「なんとか探すんだよ。服よりも大変なのは靴だけどね! あー、骨を伸ばしたくない、お肉もつけたくないや」
キュロットスカートの足をばたばたさせながら山下は堂々と言った。たずねていないのに篠塚がつけ加えた。
「俺は、無理だな」
「ああ、たしかに無理だな」
和久は生徒会やあちこちのクラブに顔を出していたから、今日はいなかった。山下もお母さんの手伝いという理由でときどき休むことがある。なにげに篠塚が皆勤賞だったのが面白かった。
「あれ? 篠塚? 柔道部は?」
「最近行っていないんだよ。ほら、TSのことばっかり考えているとさ、そもそも男女の体ってどうなっているんだって考えるだろう」
「え?」
篠塚は腕組みをして言った。
「男と女ってどう違うんだろ、頭蓋骨のでっぱりの大きさなんかが違うらしいけど、鎖骨や肋骨はどうだ? 尻の肉じゃなくて、骨盤ってそんなに違うもんか? そう考えながら野郎のニクタイを観察してたら……。ホモだって噂を立てられた」
僕はうめいた。柔道部でホモセクシュアル疑惑は痛恨すぎる。女子を観察して痴漢扱いされるのと、どっちがダメージでかいだろう。
「だけれど筋トレは欠かさないようにしてんだぜ? いざというときに守る力がないと困るからなぁ」
篠塚が目の前で二頭筋を上下させたので、僕は思わず見入ってしまった。篠塚も心の奥ではTS好きなのに、男らしい肉体も愛しているのはどうしてだろうか。入れ替わり好きだから、いいのか。
山下が暗い天井に向かって伸びをしてから、言った。
「ここ、いい場所でしょ?」
「ああ、うん」
「堂々と女装して、知っている子たちと遊べる場所。意外とないからね」
たしかに。僕はうなずいた。女装の先輩である美濃さんが気前よく一室を貸してくれているのも、事情を分かってくれてのことなのかもしれない。
「でも僕はここにいていいのかな。べつに女装とかしないけれど」
「いいに決まっているじゃないか! ……それとも新井くんは来たくなかった?」
「あ、うん。いや」
「えーー!」
気軽な返事ができない僕を、山下が頬をふくらませて見ている。篠塚がからかった。
「そんなこと言ってさ。明日朝起きて女の子になっていたら、きっと新井もここに来るぜ」
「いや、そうだけどさ! ……女になったら、服を貸してもらうかもよろしく」
「あはは、うんうん」
山下は、なにをうれしそうに笑っているのだろうか。僕はうつむいてジュースを飲んだ。しかし服の貸し借りってTS的にありえるシチュエーションだけれど、その場合は僕が山下の服を着るということになるじゃないか。……恐ろしくはずかしい。
「ねぇ。現実にTSするとしたら、どんなふうにかな」
山下が急に振った質問に、どきりとした。
「どんなふうにって、変身とか、入れ替わりとか?」
「そうそう。僕は変身がいいなぁ。背丈がかわいくなって、手足も小さくなるの」
男性平均からすれば充分かわいいレベルの指先を見つめてつぶやく山下。篠塚はうなずいた。
「おう、山下はやっぱりそういうのが似合うな。俺は自分が変身した姿なんて想像もつかないから、やっぱ入れ替わり、だな。内気で病弱だった女子校生がさ、中身が俺になったら人が変わったみたいにかっこよくなるんだ」
「サファイア姫みたくなるか? 中身が篠塚だと、態度が男くさいからバレバレになる」
「そうでもないぜ、俺は演技派だからな。新井、おまえ自身はどうする」
まるで喫茶店のメニューをたずねるみたいに気軽に訊かれてしまったので、僕は口ごもった。
「……魔法で簡単にちゃっちゃっとすんでくれればいいよ。服も、魔法で適当なのを」
「だめだよぉ。せっかく女の子になるんだったら、おしゃれを楽しまないと」
山下が手持ちのポーチからブラシを取り出した。なにをするのかと思ったら、僕の後ろに回って髪をとかしはじめた。他人にそんなことをされるなんて、すごく昔に誰かにやってもらって以来だった。
背後で気密の良い扉が開いて、長身の誰かが入ってきた気配がした。山下が避けたわきをすり抜けて、和久のひざが目の前に現れた。頭上ではやった声が聞こえた。
「俺は断じて改造だ。痛みの少ないナイフを一本くれればいい。体の不快な部分を切り落として、砂糖にスパイス、素敵なものいっぱいをすりこめばいいんだ」
素敵なものいっぱい、はマザー・グースの詩歌※なのに、なんとも痛い表現をするやつだった。僕は不思議がった。もしかして和久は、自分の男性自身を嫌いなんだろうか。
話が盛りあがって、というか山下がそういうのが好きだったので、カラオケのマイク相手に高音を出す練習が始まった。
「ファルセット、ファルセットっていうんだよ。それができたらつぎはメラニー法※だからね!」
昔のコメディアンがするような偽のオカマしゃべりじゃなくて、きれいな高音で山下がしゃべった。僕もせっかくなので真似したが、うまくいかない。正確には、自分の耳だけで聴いているぶんにはかわいいんだけれど、和久がボイスレコーダーで録音してくれたのを聴き直したら変な裏声なのだ。
「でも声楽だとみんな練習するんだからね。きっと新井くんもうまくいくよ」
「そうだな、このくらい普通だよな!」
和久がマイクを奪うと、カラオケに合わせて歌い始めた。そう、カラオケボックスなのだから歌うことだってできるのだ。きれいなカウンター・テナー――それともアルト――で、和久は流行りの曲を歌った。
目をつぶれば、よく知っている男子の声が歌っている。聞き方を変えれば女の声になるかな、いや、あと一歩で足りないけれど。
「和久って『いきものがかり』とか好きなのか」
和久はうなずいて答えた。
「詩のようには、いかないけれどな」
その日遅くなって八時に家に帰ると、父さんが先に夕食を始めていた。冬の最中も色が黒い父さんは、ワイシャツを腕まくりしてテーブルについている。ただいまを言うと、おかえりではなく本人が聞きたい質問をしてきた。
「なにしていたんだ」
「友達とカラオケ」
ふん、と承認とも不承認とも取れない鼻息で答えて、父さんは白菜の味噌汁をすすった。僕は自分の茶碗に電子ジャーのご飯をよそって、席についた。
「のどが痛い」
「そうだな。声がかん高くなっている、女みたいだ」
僕は茶碗をテーブルに置いた。父さんは苦笑して冗談だよ、と言う。
テレビではサッカーをやっていた。名も知らぬ選手の動きがぼうっとして網膜に映る。裏番組では孫悟空が乙女に化ける話を今日これからやるはずだけれど、わざわざ見たいと言うこともないだろう。
カレイの煮付けの身が固くなってきているのを、ごはんといっしょにむりやり飲みこんだ。
「会社はどう?」
「ひどいもんだよ、まったく」
父さんは仕事であったことを話しはじめた。部下が頭痛ですぐ休むもので、面倒な仕事を押しつけられているらしい。学校と同じだなぁと思いつつ、僕は黙って聞いていた。
かつて■■■は仕事のそういう話を聞きたがらなかった。そしてそのまま家が壊れた。だから反動で父さんはいま、僕にお話をぶつけているわけだった。僕は話を聞いてあげたほうがいい。
「……それでおまえは? 明日も遅くなるか」
「大丈夫だよ、夕飯は僕が作る」
白菜がまだ余っていたから、白菜料理になるだろうけれど。豚肉と白菜の煮物……、ううん、どうせ豚との組み合わせなら餃子(ギョウザ)にしよう。たくさん作っても、男ふたりいればなんとか消費できる。
そういえば、山下も料理を作るって言っていたな。僕は山下の白い手がキッチンシンクの上で踊るところを想像した。きっと洋風料理、マカロニグラタンとかを作るのだろう。
エプロンをつけて、手にはピンク色の鍋つかみをつけているだろう。
父さんがどこかで、最近のあれは、とか言っている。
「最近遅いのは……。好きな子でもできたのか」
「違げぇよ、男子校で出会いがあるわけないだろ」
註
『マザー・グースの詩歌』(壺齋散人訳)
男の子って何でできてる?
ぼろきれやカタツムリ
子犬の尻尾
そんなものでできてるよ
女の子って何でできてる?
砂糖やスパイス
すてきなことがら
そんなものでできてるよ
ジェンダーの差について敏感になる少年少女時代の特徴を、素敵に表した詩である。
『メラニー法』:ボイストレーニングにより女声を出す方法。自身も性同一性障害者である、アメリカのメラニー・アン・フィリップス によって開発された。
<つづく>
僕は和久や篠塚といっしょに山下の護衛に加わることになった。校内ではなるべく山下といっしょにいる。放課後は、帰る方角が違うから付きっきりにはなれなかったけれど、山下から緊急連絡が入ったときにすぐ駆けつける。僕は自転車通学を許されていたから、とっさの移動手段として重宝された。山下を後ろに乗せて逃げることで、安全な範囲がぐんと広がったのだ。
もちろん殺伐とした活動ばかりしていたわけではない。週二、三回は、カラオケボックスに通うようになった。そして趣味について話したり、該当作の小説や漫画を読んだり……、山下の女装を眺めたりした。
山下は本気で女装の勉強をしているらしくって、女性が読むような普通の女性雑誌を見ていることが多かった。僕は不思議がった。
「こういう女性服って見た目はいいけどさ。あれだろう。サイズ、合うのか?」
「なんとか探すんだよ。服よりも大変なのは靴だけどね! あー、骨を伸ばしたくない、お肉もつけたくないや」
キュロットスカートの足をばたばたさせながら山下は堂々と言った。たずねていないのに篠塚がつけ加えた。
「俺は、無理だな」
「ああ、たしかに無理だな」
和久は生徒会やあちこちのクラブに顔を出していたから、今日はいなかった。山下もお母さんの手伝いという理由でときどき休むことがある。なにげに篠塚が皆勤賞だったのが面白かった。
「あれ? 篠塚? 柔道部は?」
「最近行っていないんだよ。ほら、TSのことばっかり考えているとさ、そもそも男女の体ってどうなっているんだって考えるだろう」
「え?」
篠塚は腕組みをして言った。
「男と女ってどう違うんだろ、頭蓋骨のでっぱりの大きさなんかが違うらしいけど、鎖骨や肋骨はどうだ? 尻の肉じゃなくて、骨盤ってそんなに違うもんか? そう考えながら野郎のニクタイを観察してたら……。ホモだって噂を立てられた」
僕はうめいた。柔道部でホモセクシュアル疑惑は痛恨すぎる。女子を観察して痴漢扱いされるのと、どっちがダメージでかいだろう。
「だけれど筋トレは欠かさないようにしてんだぜ? いざというときに守る力がないと困るからなぁ」
篠塚が目の前で二頭筋を上下させたので、僕は思わず見入ってしまった。篠塚も心の奥ではTS好きなのに、男らしい肉体も愛しているのはどうしてだろうか。入れ替わり好きだから、いいのか。
山下が暗い天井に向かって伸びをしてから、言った。
「ここ、いい場所でしょ?」
「ああ、うん」
「堂々と女装して、知っている子たちと遊べる場所。意外とないからね」
たしかに。僕はうなずいた。女装の先輩である美濃さんが気前よく一室を貸してくれているのも、事情を分かってくれてのことなのかもしれない。
「でも僕はここにいていいのかな。べつに女装とかしないけれど」
「いいに決まっているじゃないか! ……それとも新井くんは来たくなかった?」
「あ、うん。いや」
「えーー!」
気軽な返事ができない僕を、山下が頬をふくらませて見ている。篠塚がからかった。
「そんなこと言ってさ。明日朝起きて女の子になっていたら、きっと新井もここに来るぜ」
「いや、そうだけどさ! ……女になったら、服を貸してもらうかもよろしく」
「あはは、うんうん」
山下は、なにをうれしそうに笑っているのだろうか。僕はうつむいてジュースを飲んだ。しかし服の貸し借りってTS的にありえるシチュエーションだけれど、その場合は僕が山下の服を着るということになるじゃないか。……恐ろしくはずかしい。
「ねぇ。現実にTSするとしたら、どんなふうにかな」
山下が急に振った質問に、どきりとした。
「どんなふうにって、変身とか、入れ替わりとか?」
「そうそう。僕は変身がいいなぁ。背丈がかわいくなって、手足も小さくなるの」
男性平均からすれば充分かわいいレベルの指先を見つめてつぶやく山下。篠塚はうなずいた。
「おう、山下はやっぱりそういうのが似合うな。俺は自分が変身した姿なんて想像もつかないから、やっぱ入れ替わり、だな。内気で病弱だった女子校生がさ、中身が俺になったら人が変わったみたいにかっこよくなるんだ」
「サファイア姫みたくなるか? 中身が篠塚だと、態度が男くさいからバレバレになる」
「そうでもないぜ、俺は演技派だからな。新井、おまえ自身はどうする」
まるで喫茶店のメニューをたずねるみたいに気軽に訊かれてしまったので、僕は口ごもった。
「……魔法で簡単にちゃっちゃっとすんでくれればいいよ。服も、魔法で適当なのを」
「だめだよぉ。せっかく女の子になるんだったら、おしゃれを楽しまないと」
山下が手持ちのポーチからブラシを取り出した。なにをするのかと思ったら、僕の後ろに回って髪をとかしはじめた。他人にそんなことをされるなんて、すごく昔に誰かにやってもらって以来だった。
背後で気密の良い扉が開いて、長身の誰かが入ってきた気配がした。山下が避けたわきをすり抜けて、和久のひざが目の前に現れた。頭上ではやった声が聞こえた。
「俺は断じて改造だ。痛みの少ないナイフを一本くれればいい。体の不快な部分を切り落として、砂糖にスパイス、素敵なものいっぱいをすりこめばいいんだ」
素敵なものいっぱい、はマザー・グースの詩歌※なのに、なんとも痛い表現をするやつだった。僕は不思議がった。もしかして和久は、自分の男性自身を嫌いなんだろうか。
話が盛りあがって、というか山下がそういうのが好きだったので、カラオケのマイク相手に高音を出す練習が始まった。
「ファルセット、ファルセットっていうんだよ。それができたらつぎはメラニー法※だからね!」
昔のコメディアンがするような偽のオカマしゃべりじゃなくて、きれいな高音で山下がしゃべった。僕もせっかくなので真似したが、うまくいかない。正確には、自分の耳だけで聴いているぶんにはかわいいんだけれど、和久がボイスレコーダーで録音してくれたのを聴き直したら変な裏声なのだ。
「でも声楽だとみんな練習するんだからね。きっと新井くんもうまくいくよ」
「そうだな、このくらい普通だよな!」
和久がマイクを奪うと、カラオケに合わせて歌い始めた。そう、カラオケボックスなのだから歌うことだってできるのだ。きれいなカウンター・テナー――それともアルト――で、和久は流行りの曲を歌った。
目をつぶれば、よく知っている男子の声が歌っている。聞き方を変えれば女の声になるかな、いや、あと一歩で足りないけれど。
「和久って『いきものがかり』とか好きなのか」
和久はうなずいて答えた。
「詩のようには、いかないけれどな」
その日遅くなって八時に家に帰ると、父さんが先に夕食を始めていた。冬の最中も色が黒い父さんは、ワイシャツを腕まくりしてテーブルについている。ただいまを言うと、おかえりではなく本人が聞きたい質問をしてきた。
「なにしていたんだ」
「友達とカラオケ」
ふん、と承認とも不承認とも取れない鼻息で答えて、父さんは白菜の味噌汁をすすった。僕は自分の茶碗に電子ジャーのご飯をよそって、席についた。
「のどが痛い」
「そうだな。声がかん高くなっている、女みたいだ」
僕は茶碗をテーブルに置いた。父さんは苦笑して冗談だよ、と言う。
テレビではサッカーをやっていた。名も知らぬ選手の動きがぼうっとして網膜に映る。裏番組では孫悟空が乙女に化ける話を今日これからやるはずだけれど、わざわざ見たいと言うこともないだろう。
カレイの煮付けの身が固くなってきているのを、ごはんといっしょにむりやり飲みこんだ。
「会社はどう?」
「ひどいもんだよ、まったく」
父さんは仕事であったことを話しはじめた。部下が頭痛ですぐ休むもので、面倒な仕事を押しつけられているらしい。学校と同じだなぁと思いつつ、僕は黙って聞いていた。
かつて■■■は仕事のそういう話を聞きたがらなかった。そしてそのまま家が壊れた。だから反動で父さんはいま、僕にお話をぶつけているわけだった。僕は話を聞いてあげたほうがいい。
「……それでおまえは? 明日も遅くなるか」
「大丈夫だよ、夕飯は僕が作る」
白菜がまだ余っていたから、白菜料理になるだろうけれど。豚肉と白菜の煮物……、ううん、どうせ豚との組み合わせなら餃子(ギョウザ)にしよう。たくさん作っても、男ふたりいればなんとか消費できる。
そういえば、山下も料理を作るって言っていたな。僕は山下の白い手がキッチンシンクの上で踊るところを想像した。きっと洋風料理、マカロニグラタンとかを作るのだろう。
エプロンをつけて、手にはピンク色の鍋つかみをつけているだろう。
父さんがどこかで、最近のあれは、とか言っている。
「最近遅いのは……。好きな子でもできたのか」
「違げぇよ、男子校で出会いがあるわけないだろ」
註
『マザー・グースの詩歌』(壺齋散人訳)
男の子って何でできてる?
ぼろきれやカタツムリ
子犬の尻尾
そんなものでできてるよ
女の子って何でできてる?
砂糖やスパイス
すてきなことがら
そんなものでできてるよ
ジェンダーの差について敏感になる少年少女時代の特徴を、素敵に表した詩である。
『メラニー法』:ボイストレーニングにより女声を出す方法。自身も性同一性障害者である、アメリカのメラニー・アン・フィリップス によって開発された。
<つづく>
化粧男子
![]() | 化粧男子 男と女、人生を2倍楽しむ方法 (2012/09/27) 井上魅夜 商品詳細を見る |
11月のコミックチェック
11/01 一水社 (成)女装奴隷 3 アンソロジー 1000
11/05 海王社 (成)淫堕の鬼姫アンネローゼ たいら はじめ 1050
11/05 白泉社 パタリロ! 89 魔夜 峰央 420
11/05 ぶんか社 性別が、ない! 12 新井 祥 780
11/06 講談社 戦闘破壊学園ダンゲロス 2 横田 卓馬/架神 恭介 580
11/06 講談社 戦闘破壊学園ダンゲロス 初回限定版 2 横田 卓馬/架神 恭介 650
11/07 講談社 蹴球少女 6 若宮 弘明 570
11/09 角川書店発行/角川グループパブリッシング発売 ねらわれた学園 1 石川 樹/「ねらわれた学園」製作委員会 588 書籍扱
11/09 富士見書房発行/角川グループパブリッシング発売 これはゾンビですか? 6 木村 心一/さっち 609 書籍扱
11/09 富士見書房発行/角川グループパブリッシング発売 せんごくっ!? ~悠久乱世恋華譚~ 5 RustySoul/或十 せねか 756 書籍扱
11/09 講談社 怪物王女 19 光永 康則 580
11/14 大洋図書 非リア充集団がクラスメイトを女装させて彼女にしてみた 松本 ミトヒ。 680
11/15 エンターブレイン発行/角川グループパブリッシング発売 鉄鋼奇士シュヴァリオン 1 嵐田 佐和子 651 書籍扱
11/16 秋田書店 っていうか恋じゃね? 7 武藤 啓 440
11/16 講談社 賭博覇王伝 零 ギャン鬼編 6 福本 伸行 560
11/16 講談社 AKB49~恋愛禁止条例~ 特装版 11 宮島 礼吏/元麻布ファクトリー 740
11/16 講談社 AKB49~恋愛禁止条例~ 11 宮島 礼吏/元麻布ファクトリー 440
11/17 竹書房 オス♂ブラ 生田 いくじ 690
11/19 集英社 NEEDLESS 15 今井 神 630
11/19 集英社 ねじまきカギュー 8 中山 敦支 540
11/20 白泉社 オレンジ チョコレート 10 山田 南平 420
11/22 オークス (成)パイズリアンドロイド 鈴根 らい 1000
11/22 講談社 変身のニュース 1 宮崎 夏次系 630
11/22 スクウェア・エニックス 女声男子 2 険持 ちよ 590
11/22 スクウェア・エニックス 月刊少女野崎くん 2 椿 いづみ 500
11/22 メディアファクトリー まりあ†ほりっく 10 遠藤 海成 500
11/24 メディアックス (成)罠 だまされ汚されたカップル しのざき 嶺 1000
11/26 角川書店発行/角川グループパブリッシング発売 新世紀エヴァンゲリオン 13 貞本 義行/カラー 588 書籍扱
11/28 日本文芸社 激マン! 6 永井 豪&ダイナミックプロ 630
11/28 双葉社 まりかセヴン 3 伊藤 伸平 630
11/30 小学館 姫ギャル パラダイス 7 和央 明 420
11/30 少年画報社 アリョーシャ! 4 近藤 るるる 600
11/下 キルタイムコミュニケーション (成)アジシオ単行本(仮) アジシオ 990 書籍扱
11/05 海王社 (成)淫堕の鬼姫アンネローゼ たいら はじめ 1050
11/05 白泉社 パタリロ! 89 魔夜 峰央 420
11/05 ぶんか社 性別が、ない! 12 新井 祥 780
11/06 講談社 戦闘破壊学園ダンゲロス 2 横田 卓馬/架神 恭介 580
11/06 講談社 戦闘破壊学園ダンゲロス 初回限定版 2 横田 卓馬/架神 恭介 650
11/07 講談社 蹴球少女 6 若宮 弘明 570
11/09 角川書店発行/角川グループパブリッシング発売 ねらわれた学園 1 石川 樹/「ねらわれた学園」製作委員会 588 書籍扱
11/09 富士見書房発行/角川グループパブリッシング発売 これはゾンビですか? 6 木村 心一/さっち 609 書籍扱
11/09 富士見書房発行/角川グループパブリッシング発売 せんごくっ!? ~悠久乱世恋華譚~ 5 RustySoul/或十 せねか 756 書籍扱
11/09 講談社 怪物王女 19 光永 康則 580
11/14 大洋図書 非リア充集団がクラスメイトを女装させて彼女にしてみた 松本 ミトヒ。 680
11/15 エンターブレイン発行/角川グループパブリッシング発売 鉄鋼奇士シュヴァリオン 1 嵐田 佐和子 651 書籍扱
11/16 秋田書店 っていうか恋じゃね? 7 武藤 啓 440
11/16 講談社 賭博覇王伝 零 ギャン鬼編 6 福本 伸行 560
11/16 講談社 AKB49~恋愛禁止条例~ 特装版 11 宮島 礼吏/元麻布ファクトリー 740
11/16 講談社 AKB49~恋愛禁止条例~ 11 宮島 礼吏/元麻布ファクトリー 440
11/17 竹書房 オス♂ブラ 生田 いくじ 690
11/19 集英社 NEEDLESS 15 今井 神 630
11/19 集英社 ねじまきカギュー 8 中山 敦支 540
11/20 白泉社 オレンジ チョコレート 10 山田 南平 420
11/22 オークス (成)パイズリアンドロイド 鈴根 らい 1000
11/22 講談社 変身のニュース 1 宮崎 夏次系 630
11/22 スクウェア・エニックス 女声男子 2 険持 ちよ 590
11/22 スクウェア・エニックス 月刊少女野崎くん 2 椿 いづみ 500
11/22 メディアファクトリー まりあ†ほりっく 10 遠藤 海成 500
11/24 メディアックス (成)罠 だまされ汚されたカップル しのざき 嶺 1000
11/26 角川書店発行/角川グループパブリッシング発売 新世紀エヴァンゲリオン 13 貞本 義行/カラー 588 書籍扱
11/28 日本文芸社 激マン! 6 永井 豪&ダイナミックプロ 630
11/28 双葉社 まりかセヴン 3 伊藤 伸平 630
11/30 小学館 姫ギャル パラダイス 7 和央 明 420
11/30 少年画報社 アリョーシャ! 4 近藤 るるる 600
11/下 キルタイムコミュニケーション (成)アジシオ単行本(仮) アジシオ 990 書籍扱
女子高生店長のコンビニは楽しくない 3
![]() | 女子高生店長のコンビニは楽しくない 3 (ガガガ文庫) (2012/11/20) 明坂 つづり 商品詳細を見る |