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いつだって僕らは 2-16  by 猫野 丸太丸

16.
 一日一日考えを深めるよりも、早く一週間が過ぎることを期待していたと思う。なぜか世界が軽く明るくなって、なんだ、これなら女の子になるなんて楽勝じゃないか。そんな思いでいたのだった。世界がバラ色かピンク色に見えていたのだと思う。でもそれはTSのことを本気で考えていなかった裏返しであって、僕は自分の甘さをもう木曜の夜には思い知らされることになった。
 思い出せばその週、僕は和久の足どりをちゃんとつかんでいなかった。一週間後にまた会おうと言ってしまったから、なんとなく話しあうのは日曜日でいいかなと思っていたのだ。
 和久は誰にも言い出せず、ひとりで悩んでいたのかもしれない。
 木曜の夜、いや金曜の未明。一時か二時だったろうか。僕は携帯電話の振動音で目が覚めた。深夜にメールなんてたいてい広告だから無視することにしているのだけれど、部屋が暑かったから目が冴えていたのだと思う。せっかくなので表示を読んでみた。
 和久からだった。またひと言だけの内容。
「TS薬を飲んじゃったよ」
 どうして衝撃的な内容をまたもや送ってくるのか! たたきつけるように返事を打とうとしたところで、携帯が再度鳴った。もうひとつメールか……、違う、この着信音は直接の通話だ。
 僕はベッドでうつぶせになったまま、おそるおそる話すボタンを押した。
「……こんばんは」
「つながったか。良かった」
「和久か、おい!? 大丈夫か?」
 ささやいたつもりなのに、闇のなかへと自分の声が大きく響く。返事は男声でたしかに和久だった。
「大丈夫かって、なにも変化はない……。いまのところは」
「TS薬を飲んだって、どういうことだよ」
「すごく悩んで、毎日眠れなかったんだ。寝ぼけていたのかもしれない。気がついたら机に突っ伏していて、手のなかで箱が開いていた。中身がなくて口が苦い苦い苦い」
「落ち着けよ! 飲むとしても日曜日にしようって言ったじゃないか?」
「しかたがないだろ! おまえたちはTS薬のことを知ってまだ数日だろうが、俺はインドにいて、ずっと飲まないで我慢していたんだ! 待ちきれなかったんだ、でもおまえたちが決心するまでは勝手に先に変身しちゃいけないと思ってうええ」
「おいどうなったんだよ!?」
 通信の雑音だろうか、それともまさか吐いた音か? 僕は携帯にしがみついて、すこしでも電波の向こう側の様子を探ろうとする。
 かすかに、異質な声が響いた。
「……こわいよ」
「怖くなんてないさ! こんなこと言っていいか分からないけど、和久の声がかわいい気がする」
 再び沈黙。せきこむ音とともに通話が切れた。
「和久っ!?」
 かわいい声が聞こえなくなったとたん、目の前の暗闇が痛いほど感じられる。外を車が走る音もせず、階下で寝ているはずの父さんの気配は感じられない。僕は連続で電話をかけ直した。和久は出なかった。どうする。直接家に助けに行けるだろうか。そう考えたけれど、(最近は生徒の名簿を学校が配らないから)僕は和久の住所を知らない。
 山下と篠塚に電話をかけた。深夜だからかどちらも留守番電話だった。それはそうだ、和久がうちに緊急の電話をかけてきたのも、山下と篠塚に先に電話したけれどふたりが目を覚まさなかったからではないか。
 僕はやることがなくなり、しかたなく服を着がえて携帯の反応を待った。もう二回電話して、反応がなくて、待っている間にすこし眠ったと思う、気づいたら外が明るくなっていた。
 もはやじっとはしていられない。
 足音を忍ばせて階段を下り、テーブルの上に「早いめに家を出ます」とメモを書き置きしてから外に出た。
 初夏の早朝、自転車で涼しい風を切りながら走ると寝ぼけた頭がはっきりしてきた。僕は考える。和久の住所は学校に尋ねてみよう。あるいは生徒会が知っているかもしれない。和久が急病だと言えば分かってくれるだろう。父さんにも僕自身の不審な行動(夜中に電話をいじって早朝に出かけていく)について説明がつくはずだ。
 いつもの道は明るさを取り戻していたけれど、すれ違うのは犬の散歩くらいでまるで休日のようだ。僕は通行人が少ないのをいいことにスピードを出してしまったかもしれない。校門前でまだ六時ちょうどだった。
 なのに、校門前にはすでに山下がいた。山下は、山下のくせに寝ぐせのついた頭で僕を見るや走ってきた。
「新井くんっ! 新井くんっ! 新井くんっ!」
「なんでだよっ!」
 思わず叫んでからあらためて考える、和久が苦しんでいたとして、僕ひとりで行ってなにかできるとも思えない。やっぱりこういうときには山下が必要だ。だから山下がいたのはとても良かった。
「あはは、おはよう、山下」
「いったいどうなっているの? ていうか和久くんは無事なの? 知っているの? 留守電が何回も入っていたけれど!」
「僕も詳しくは……。とりあえず篠塚にも聞いてみたいかな」
 と言った僕の足もとへ、ずざざざ、と肉の塊が滑りこんできた。
「うぃっ、参上っ!」
「……篠塚」
 みんな気が気でなかったのだろう。校門前で三人はすぐに集まった。
「和久がTSしたようだな!?」
「見たの?」
「いや、見ていない! 家もどこか知らない!」
「俺は知っている!」
「よっしゃ!」
 そこで幸か不幸か、校門が中から開いた。なんだおまえら、と声をかけてきたのは顔見知りの先生だ。先生は僕たちの顔を見回して、なぜかぎょっとした顔をしている。僕は意外にも正直に、まぁTS薬のことは黙っていたけれど、和久が急病らしくて助けに行きたいと言った。
「あ、でも今から行ったら授業に遅れるかも」
「分かったよ、理由は伝えておくから、行ってこい。無事だったら連絡しろよ」
 僕は心のなかでガッツポーズをした。
 住所が分かってほっとして、今日の先生が異常に話の分かる人だったこともあってこれならうまくいくという気分になった。バスで移動が近い、との篠塚の機転に任せて幹線バスに乗りこんでみたのだが、座って落ちついてみると「うまくいった」とは「和久はもう女の子」ということではないか。あわてて振り向くと、後ろの席の山下も篠塚も目がらんらんとしていた。
 先生はこの顔たちを見てただならぬ事態だと分かってくれたのだ、なるほど。
「なぁ、もしうまくいっていたら、女の子だよな」
 ふたりは口々に答えた。
「ちげえねえ。女になった和久には山下が声をかけたほうがいいな」
「うんっ! じゃあ篠塚くんはお湯を沸かしてね」
 それは天然ボケか、と篠塚がツッコんだら、山下はあわててあとから言い足した。
「違うよ、お風呂のことだよ! TSしたあとはお風呂に入ってさっぱりするのがお約束だよね?」
 和久が、お風呂。その瞬間脳裏に浮かんだのはいつかの夢、胸だけがくっついた男和久の姿だ。とんでもない、それはやめてほしい。
 しかしTS薬の効き目は分からないのだ。右半身が男で左半身が女のアシュラ男爵みたいになっていてもおかしくはない。漫画なら笑い話ですむけれど、現実には恐ろしい。
「新井は考えすぎなんだよ」
 篠塚が後ろから背中をもんできた。僕は座席の背もたれに身を預けてなされるままになる。また考えすぎだと言われてしまったわけだが、そうだろうか。いちばん気になることではないだろうか?
 和久の家は、バスから降りてすぐに見つかった。お金のかかった感じの洋風な一軒家だ。いつか空港で見たお父さんが住んでいる家なんだなと、一発で分かるのだ。僕は二階の窓をたしかめた。和久も……、「まだ見ぬ女の子」も顔を出してはいなかった。
 山下が真剣な表情で呼び鈴を押した。反応がない。篠塚も横から手を出して押した。やっぱり反応はない。門の外に三人寄り集まって聞き耳をたてたが、家のなかからはなんの音も聞こえなかった。
「留守だね」
「家、合っているか? 表札は『和久』ってなっているけど」
「ここしかないぜ記憶はたしかだ」
 予想していなかった事態に僕は困惑した。こんな朝早くに、しかもたぶん大事件が起こったあとに家が留守なのはなぜだろうか。
「……きっと朝起きたらTSしていたから、家族があわてて病院に連れていったんじゃないかな」
「それだ」
 お約束展開ならそれなのだろうけれど、和久に直接会ってたしかめられない不安は消せなかった。山下が僕の顔を見つめてまた言う。
「心配ないと思うよ。きっといまごろ病院で『この子は生まれつきの女の子でしょう』※とか言われているよ!」
 そんなうまいこと言われているだろうか?
 あらためて電話をかけたけれどやっぱり通じず、和久が入れ違いで学校に行っている万にひとつの可能性を考えて僕らは学校に戻った。余裕で始業に間に合う時刻に着いたが、教室に和久はいなかった。
 六月の午前中の、ぼうっとした学校。サボるはずだった授業に真面目に出ているのは不思議な気分で、机に座ってもなんだか落ちつかなかった。午後には窓に雨粒がぽつぽつと当たる音がして、やがて梅雨にしては激しい雨がグラウンドを包むのが見えた。
 和久……。いまごろどこでどうしているのだろうか。


病院で『この子は生まれつきの女の子でしょう』とか言われている:ファンタジーTSっ娘に対するひと言。完全に女になっている証拠とされる。でもどうして性別の確認って病院で行われるのだろう?

<つづく>

こりは難問

本日の宿題です。小学5年生。

一辺が5cmで対角線がそれぞれ4cmと6cmのひし形の面積を求めよ。

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