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いつだって僕らは 2-17  by 猫野 丸太丸

17.
 さんざん考えたあげく、あの薬はニセ薬で和久は腹をこわしただけだと、そんな結論まで想像しながら僕は帰宅した。サラダ菜を適当にちぎって、上に蒸し豚を載せただけのお手軽おかずで夕食を食べた。机で問題集を開いたけれどまるで手につかない。そのうち父さんが帰ってきて、予想通り朝のことを訊かれたけれど例の言い訳、「友達が病気になったから手助けに行った」という本当めかしたうそをついた。
 父さんは食卓でじっと僕を見ていたが、それ以上なにも言わなかった。

 さて、明日は土曜日である。朝からもう一度三人で集まって和久を探しに行こう。僕は部屋に戻って、明日の準備のためかばんを整理し始めた。そんな矢先だった。
 ベッドの上に置いてあった携帯電話が鳴った。予感のあった僕は飛びついた。ばふっ。枕を弾ませながら通話ボタンを押す。
「……えっと、こんばんは」
 聞いたことのない声がきた。聞き慣れない、いや、男子校では絶対に知りあえないタイプの声。僕は足をけいれんさせたようにつっぱった。
「もしもし、新井です」
「もしもし? 俺……あた、和久だよ」
 やった。やった、やった、女の声で和久だーーっ!
「もしもし! かけてくると思ったよ! ぶじすんだか? なぁ?」
「ごめんね、びっくりしたと思うけど時間がないんだ。今日は一日父さんがテンパってしまって、いまもなにかあったかと飛びこんできそうで……。明日の外出が中止になったらかえってまずい」
「明日?」
「そうだ、明日。カラオケボックスで十時に会おう」
 電話はあまりに手短かに切れてしまった。僕の頭のなかにりりしい口調の女声が残る。
 和久だ、それが和久なんだ。しまった、「かわいい声だよ」ってもう一度言うのを忘れた。
 僕は携帯を握りしめてうなった。やった、やった、いよいよいいほうへと風が向いてきた。まだ確証はないけれど、和久はぶじに女の子になれたんだ。
「和久が……女の子に」
 髪は長いのかな、肌は白いのかな、おっぱいは大きいのかな。電話が一瞬だったからうまくイメージがつかめない。声としては、昨夜のかすれた調子とは段違いの自然さだった。
 僕はそのあと、さすがに和久にかけ直すわけにはいかず山下や篠塚とメールしあった。ふたりのところにも電話があったようで、文章からはびんびんに興奮する気持ちが伝わってきた。僕の感情も盛りあがる。
 かわいい和久だなんて、想像するだけでなんだか良いではないか。しかも今度こそ会える。
 かわいい? そんなの明日たっぷり言えばいいんだっ!

 翌日、カラオケボックスに集まった僕と山下、篠塚は、浮かない顔の美濃さんと面することになった。美濃さんは受付でいすを立ったり座ったりしていて、僕たちが揃うとほっとため息をついた。
「あなたたちにお客さんなの。三人といっしょに会いたいとか難しいことを言うのよ、どうしてかしらね……。奥の部屋で待っているわ」
 僕はつばを飲みこんだ。山下が勢いこんで言う。
「その人、男の人ですか? 女の人ですか?」
「女の子よ。とてもかわいらしい」
 美濃さんに即答で女の子と呼んでもらえるなんて、しかもかわいい!? やるな、和久!
 僕たちはなぜか一列に並んで――先頭に山下、その後ろに篠塚、最後に僕の順で――、美濃さんが用意した部屋に向かった。
 扉を開けば、そこに女の子はいた。

 少女の顔は和久に似ていた。似ていたけれど、初見ですぐに女だと判断できる顔だった。つまりある意味では似ても似つかない。たとえて言えば歌舞伎役者が顔を白塗りにして女に化けるだろう。あの女顔からもとの男の顔が連想できるか、とそういう違いだ。
 部屋は比較的明るかったから、少女が麻のシャツにジーンズというボーイッシュな格好なのがすぐにわかった。はずかしいことに僕の目はすぐに胸もとへと向かった。ある。大きくはないけれど、高校三年生にふさわしいたしかな形の胸が、シャツを押し上げている。
 髪は長く、簡単にアップでまとめられていた。いや、敬意を表してポニーテールと呼んであげたい。
 少女はこちらを見て立ちあがった。そこで身長が低いと分かった。僕より低くて、山下より高い。なにより立ちあがったことで、ジーンズに包まれた骨盤の形が本当に女らしいのが分かってしまった。
 ……チャックのところが平らで、軽く丸みを帯びている。
 まさか僕の視線に気づいたからではないだろうが、彼女の腰が弧を描く動きで揺れた。

 山下の震える声。
「和久、だよね?」
「はい。えっと、あたしが和久ともみです」
 あたし? それに「ともみ」って誰だ。話し方に違和感があって、僕は頬をこわばらせた。しかし山下は納得がいったようで、そのまま少女に近づいていく。
「そーだよ! 思い出した、智美(ともみ)さんになるんだよね?」
「はいっ。本当に智美になれたみたい。あらためてよろしく、山下!」
 堂々と少女のとなりに座る山下をよそに、僕と篠塚は離れたソファに座ってしまう。
「ねーねー、服、どうしたの? てっきりぶかぶかの制服とか着てくるものかと」
「急いで買ってきてもらったんだ。でもいきなりスカートとかはね……。度胸がなくって」
「チャンスだよ! あとで着てみようよー」
 楽しそうに話しはじめる山下と少女に、ばん、と手をたたいて割って入ったのは篠塚だ。
「ちょっと待ってくれ山下、まるでわけが分からん!」
「知らなかったっけ? 『智美』ってね、前から和久くんが女の子になったら名乗りたい名前だったんだよ」
「そうじゃなくて! なんで話し方まで変わっているんだよ、まるで別人じゃねぇか」
 僕が言いたいことを思いきり代弁してもらった。こほん、と咳払いして少女が答えた。
「女の子になるのが夢だったからかな。前から、TSしたら絶対女らしくしゃべろうって思っていた。すごいよ、女の格好になると自信がつくみたいで、思いっきり女らしく振る舞えちゃう」
「言い方っちゅうか内容からおかしい……。和久ならもっと『俺の分析では、女子の会話は学術的な漢語を避け、形容詞副詞の多用によって相手への同意を求める文体が多いんだ』くらい言っていたことないか」
「そこまで極端じゃなかったつもり……。心当たりあるけど」
 少女は肩をすくめ、僕は頭を抱えた。和久が篠塚にツッコまれるほど変になるだなんて信じられない。和久の会話が論理的じゃなくなったら、もはやそれは和久ではないとすら思える。
 僕は言わざるをえなかった。
「あの……、質問していいでしょうか」
「ていねい語じゃなくっても大丈夫だよぉ、新井」
「和久とは別人の可能性って、なくないでしょうか?」
 山下は、なに言っているんだよという不満顔。篠塚は、ややこしすぎて分からないと無言で手をひらひら。そして少女は、僕に正対して真面目な顔で言った。
「うん。やっぱり新井だったら気になるよね、そういうこと」
「別に……。和久を信じていないとかそういうわけじゃないけど」
「分かっているよ。TSしたんじゃなくて、別の女の子が演技でフリをしているって話※、漫画でもよくあるしね」
 そのとおりだ。がっかりの非該当、というか一般作者がTS作品を書くつもりがないときに、TSと思ったけれどじつは別人の女子でしたと誤認オチで締めるのだ。それをいま和久がわざわざやる意味がないが……、目の前の態度が違う少女を和久だと言われてもすぐには信じられない。
 篠塚が言った。
「いつもの男言葉に戻してくれるだけでも本人かどうかの判断つくかもしれないぜ」
「それはいや。せっかく女の子になれたのに男っぽいしゃべり方とかしたくない。あたしの『いつも』は昨日から女になったんだもの」
 和久が言いそうな台詞ではあるが、この場合どうだろうか。
「あたしも変身したあとでは気づいたんだよ? もしかして疑われるかもしれないってね。あー、変身前に暗号の合い言葉とか決めておけばよかったかなって」
「……せっかくだから言うけど、和久本人がグルだったなら合い言葉系の方法は無効だよ」
「本当に困るんだねー。じゃ、あたしだけが知っているはずのことをランダムでたくさん聞いてみてよ」
 僕は気づいた。この切り出し方、発想のしかたは……。
「それって、つまり」
 山下が手をたたいた。
「みんなで思い出話をするんだよ!」
 僕たちは話をした。とたんに元気になったのは山下で、和久の正確すぎる形の餃子とか、カラオケボックス秘蔵のTS資料とか、そういえば僕に貸すと約束した漫画を和久がまだ渡していないとか、どうして山下がそこまで知っているのだろうという話題を振った。少女は全てに答えた。
 悪漢から逃げる場面を想い出すとき、山下は遠い目をした。
「智美ちゃんとは走ったよね、海も、丘も、商店街も」
「悪いやつらにつかまっちゃだめと思って、最初は必死だったよね」
「男だった智美ちゃんはスカートじゃないうえに脚が長かったじゃないか。僕といっしょに走るのは楽勝だったんじゃないの?」
「そしたら新井が来たんじゃない。山下と新井は自転車で逃げるのにあたしは徒歩だから、追いかけるのが大変になって」
「へとへとになる前に篠塚くんが来てキックするんだよね!」
 僕たちは笑った。
「歌ってよ、智美ちゃん! いつもの好きだった歌を!」
「初挑戦、うまくいくかな」
 少女はマイクを持って高い声で歌い始めた。いつか聞いた『いきものがかり』のあの歌だ。
 伴奏の後に、軽快なリズムで歌詞が聞こえてくる。僕は聴いた。そうか、和久ってずっとこんな感じに歌いたかったんだな。女声のヴォーカル、悪くない。
 まるで本当に夢を見つけたかのように、彼女は歌う。
 ヒットチャートに載るような歌って、どこか僕たちとは遠い世界のことを歌っていると思っていた。ノーマルな人間関係、異性との恋愛、誰もが賛同する流行の生き方――。僕には関係ないから、わざわざ気にするまでもないと思っていた。でも和久はいま、歌われているのと同じ風に乗っている気がした。
 自由で、そして未来へと羽ばたく感情、か。僕たちは愛を手に入れたのだろうか?
「……新井くん?」
 気づけば山下が僕の顔を見つめていた。音楽は終わっていて、少女がマイクをテーブルに置いた。その像がぼやける。
「なんで、僕、泣いているのか」
 本人ではなく僕が先に泣いてしまったなんて。さすがに抱きつくことはできなかったから、僕は和久の袖をつかんだ。
「よかったなぁ、和久」
 そのあとは大変だった。山下が和久の肩を抱いて振り回しはじめた。
「そうだよ! よかったよ、智美ちゃん!」
 篠塚も続いて感情を爆発させた。
「和久っ、こんにゃろ、ちくしょぉ、きれいになりやがってぇ!」
 叫びながら全員の背をたたいてくる篠塚。僕は和久の袖をつかんだまま、変に思われるかもしれないけれど、静かに泣き続けた。和久の細い手首、細くて骨の浮き出ている手首!
 やがて騒ぎを聞きつけてやってきた美濃さんに、僕たちは口々に
「和久なんです、この子は和久なんです」
 と訴えた。美濃さんは信じられないという顔で「あらまぁ……」とつぶやいたが、分かってくれたのか和久に向かって
「そうなの、良かったわね、智美ちゃん」
 と言ってくれた。
 和久の頬は濡れていたけれどあくまで笑顔で、美濃さんに礼儀正しく一礼、そして山下や篠塚の顔も無言で見つめるのだった。和久らしいと言えば和久らしい。


別の女の子が演技でフリをしているって話:漫画『わたしの沖田くん』など

<つづく>

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