fc2ブログ

Latest Entries

いつだって僕らは 2-18  by 猫野 丸太丸

18.
 その日、皆の気分が落ちつくには三十分以上かかった。ただ困ったことに冷静になってみると、出会って泣いただけなのだからやることがなにも終わっていなかった。
「もっちろん、女の子の服を買いに行くんだよね!」
 山下がひとさし指を立てると和久は元気にうなずいた。
「今日ここに来られたのも服を買うって口実だからね。最初は母さんが買ってくるって言ったんだけど、年ごろの服は友達に訊いたほうがいいからって断ってきたわけ」
「よしよし、良い心がけだよ。今日は僕たちと行こうね、そのかわり今度はお母さんもいっしょにね」
 山下が走って個室を出ていった。戻ったときには当然女の子の正装だ、山下の場合まだ服装だけ、中身は男だけれど。それでも和久に負けず劣らずの軟らかいしぐさで、山下は和久の横に小さいお尻を滑りこませた。下手したらいまの和久よりも女の子らしいくらい。
 山下と和久が、肩を並べて僕の対面に座っている。ソファーが急にオーラに包まれたかのように輝く。オーラというか具体的に、女の子のにおいがただよっていないか? 僕は気押されていすの背にもたれかかった。四人でなんども集まってきたけれど、いままでこんなふうに感じたことがなかった。「女の子」ふたりだと発揮される女子力が二倍以上なのだ。
 そんな僕の気も知らず、ふたりはどこ行こう、あっち行こうと顔を寄せあい、堂々と女子力エンジンを始動している。僕はおそるおそる尋ねた。
「買い物にいくのか。それじゃぼ、僕たちはどうすれば」
「ついてきてよ。新井くんだってそのうち他人事じゃなくなるんだからさ」
 他人事じゃない。そうだ、この輪に入ってこいと言われているのだ。僕は股間がきゅうと縮まるのを感じた。

 美濃さんに別れを告げ、デパートの多い繁華街目指して電車で行った。高校生向けの店は山下に心当たりがあった。裏通りの洋服店が並ぶ道へと、僕らは歩いていく。
 そこは近寄りがたい有名ブランド店からオープンな雰囲気の個人経営店まで、雑多な服が並んでいる場所だった。そういうところで土曜日とくれば、道はおしゃれな女の子のグループでいっぱいである。
「……」
 どうしたのだろうか。まだ道の入り口なのに山下と和久はふたりでくっついてもじもじしている。最初は威勢が良かったはずだが。
「い、いつもはお母さんといっしょだからさ」
「あたしはもちろんはじめてだし」
「問題ないんじゃない?」
 僕は率先してショーウィンドウに近づいた。ギャルっぽい服装のマネキンを指さして言う。
「こういうの、好き?」
「大声でいわないでよ! スカートが短すぎるよぉ」
 ふふふ、和久がスカートの短さを気にしている。僕はとなりの店に行き、軒下に吊ってある葉っぱ模様のワンピースをつついた。
「じゃあこういうのが好みだね」
「新井はあたしを森ガールにする気か」
「え? だめなの? 長いか短いか選ぶしかないよ?」
「新井っていじわる。そういうのが好きなら自分が女の子になったときに着ろよぉ」
 僕は周囲を見た。いまの和久の発言を聞いてこっちを見た客が三人、「女の子になる」の意味に気づいて目を丸くしたのが女性一人。しかし不審そうには見られなかった。なんてことだ、山下に続いて和久が女の子の服を着たせいで、僕たちはどんどんこの場になじんでいるのかもしれない。
 もっと他を見てみようという山下の提案にうなずいて、ふたりは歩きはじめた。僕たち男もついていく。途中篠塚が
「むっ」
 と言って、なにやら半袖の服の一つに向かっていった。山下はその服をつまんで
「かっこいいね」
 とつぶやいたが、和久は「ん」と答えただけで通り過ぎてしまった。
 やがて店の並びが終わり、ここから先はビジネス街といったところで、振り返って相談する。
「店、もうないぞ。デパートに行くか?」
「高いでしょ、あそこは」
 着る本人の意見を聞かなければならない。三人で和久の顔をのぞきこむと、和久は唇に指を当てて「んー」と言ってから、あっさりと後戻りを選択した。
「いい店あった。こっち!」
 ついていくと、なんとそこは篠塚が目をつけた店だった。
「まじですか」
 驚いて篠塚を見れば、篠塚は和久の足どりが軽いのを眺めながらうんうんとうなずいていた。
 店頭で和久は何着かの服を手に取る。店員が「試着しますか」と勧めてくるのに素直にうなずいて、カーテンの小部屋に入っていった。
 どんなふうになるのだろう。女性向けだとはいえジーンズにシャツ姿だった和久にとっては、初めての女の子の服である。山下もいまは遠慮して、カーテンをめくったりせずにおとなしく待っている。
 出てきたのを見て感動した。
「かわいい」
「かわいい……、いや、かっこいい」
「そうだね。智美ちゃんらしいや!」

05_20121203220335.jpg
挿絵:シガハナコ

 うまく表現できないけれど、モードというのだろうか。和久は海外留学生、きっとイギリスかフランスでこんな格好を覚えてきたに違いない。イギリスの服なんて僕は知らないけれど。
 しかし篠塚が選んだのとまったく同じ服であったよ。
「おう、さすがに似合うな。それでこそ和久だ」
「ほんとに? だいじょうぶかな」
 試着室の入り口でとまどっている少女を、篠塚の手がうやうやしく支えて連れ出した。歩きにくそうに、足を高く上げて歩くのはスカートのまつわりつく感じに慣れていないからか。
 だからこそ山下の歓声が聞こえてきたのだし、
「智美ちゃん、かわいいよー!」
 僕の口からも勝手にかけ声が出たのに気づいた。
「ひゅー、ひゅー!」
 和久が赤くなっている、赤くなっている。
「からかうなよぉ」
「からかわれてないぜ、本当にかわいいんだ」
 篠塚の優しい言葉に後押しされたのか、和久はその服を買っていくことになった。そのうえ着て帰ることにまでなった。
 帰りはスカート姿のふたりを、はからずも男が両側から防護する形になって歩いた。
 しかしである。僕は考える。和久は昨日の晩にTSしたばかりなのだ。それが翌日家を出て、女物の服を着て帰ってくる。まさに今晩、和久智美は女性になりきったところを家族に見せるのだろう。
 和久は、本当に女の子になったのだ。あのTS薬たった一カプセルによって。考え直せば考えただけ非現実的に思える話だ。僕は横顔を見つめた。小さな鼻と微笑んだ唇が、足をすすめるたびに揺れている。髪の毛の生えぎわ。たかだか昨日散髪しただけだろうに、骨の出っぱり方も違うせいか、耳の後ろまで女の子っぽい。
「和久……。女の子になっちゃったんだな」
「うん」
「どんな感じ?」
「やっと願いがかなった、かな。正直まだ不安だけれど」
「ほんとに願いがかなったんだね。ほかには?」
「身長が低くなるとまわりのもの全部が大きく見えるんだね。まさか新井がたくましく見えるって思わなかった。悪い意味に取らないでね?」
「大丈夫だよ。……それ以外には?」
「まわりの視線も変わるね。新井なんて今日何回あたしの胸を見たことか」
「しょうがないじゃん、気になるんだから!」
「ほかにはほかにはって。もしかしてさっきから、エッチな体験談が聞きたかったりする?」
「いや……。自分のことでもあるわけだし、ちゃんと正常に変身できるのかとは気になる。中性になったりしたら困るし」
「いちおう母さんにはたしかめてもらいました」
 露骨な会話になってしまったかもしれない。山下が顔を出してこちらに言ってきた。
「完璧に決まっているよね! 智美ちゃん、どこからどう見ても女の子だよ。僕も早くなりたい……。正直、いますぐに飲んでもいいくらい」
「待てよ、山下! 本当に変身しちゃうんだぜ。人生の一大事なんだ。慎重に考えたっていいだろう」
「でも……」
 山下を見直したら、どうだろう、思いつめて眉間のしわがとんでもないことになっている。それはそうだ、人生でずっと憧れていた女の子へと本当に変身できた実例が目の前にいるのだ。飛びつきたくなっているかもしれない。
 しかし僕自身は逆に、TS薬が現実だという証拠が現れたせいで混乱してしまう。非科学的な夢がかなったからといってすぐに信じて身を任せていいものかというのがひとつ、かりに女性化したとしても和久のように「うまく」いくとはかぎらないのがひとつ、変身したら父さんはどう言うだろう、なんて家族の問題がひとつ。そもそも僕自身は変身したいんだろうか? 女の子になってなにをする? 将来は? そして……。
 なんのことはない、一週間ちゃんと考えていなかったせいで僕の心は疑問だらけだったのだ。
 優柔不断に思われるだろうか。
 山下を見つめると、難しい顔のまま見返された。山下はきっと僕が素直に結論を出せないでいるのを不満がっているだろう。そういう表情に思えてしかたがなかった。
 しかし助け船をくれたのは、意外にも和久自身だった。
「そうだね、まだまだ情報不足、簡単には決められないと思うよ。あたしだって変身してはじめて、父さん母さんがあんなにショックを受けるんだって分かったから」
「ふうん」
「まぁ、うちは理解してくれるほうだからなんとかなったけれど。篠塚の両親なんて堅物そうだから分かってくれないかも?」
「ちげえねえ」
 篠塚は明るく笑った。僕は足を止めた。気づけばもう駅前、家に帰るならここで解散という状況だ。僕は別れをためらった。
「またカラオケボックスに戻って、しっかり話しあってみる?」
「ごめんね、さっきも言ったとおり本気で親が心配しているから、あたしはもう帰らないといけないんだ。ただみんなはよく話しあって決めたほうがいいと思う。とくに美濃さんは相談に乗ってくれると思うよ」
 和久はふり向いて、買い物の手提げ袋を持ち直した。
「きっと素敵な体験が待っているけどね! じゃ!」
 スカートの下でちょこちょこ足を動かして、和久は階段を上って行ってしまった。僕たち三人は取り残される。弱気が漏れて、ついつぶやいた。
「こんなことになって、どうするかなぁ」
 聞いた山下はオーバーアクションぎみに身ぶりする。
「すごく良かったじゃないか。四人いっしょに変身じゃなかったけれど、女の子になれるのが確実だって分かったんだし。分からないことがあったら明日学校で智美ちゃんに聞けばいいよ」
「学校に来られるのか? 男子校に女子の格好で」
「あれ……? だめ、かな」
 山下は口ごもった。たとえ山下のように百パーセント女性になる準備ができているとしても、考えるべきことはあるはずなのだ。
 そう言おうと思ったら、篠塚が先に言った。
「女になれるのが確実っぽいなら、かえってあと一週間考えてみてもいいでしょ。それから変身しても遅くはない」
 たしかにそうだと、山下は首を振った。僕もうなずいて、なんだか助かったような気がした。一週間あったら美濃さんにも相談できるし、和久に追加の体験談を訊けるかもしれない。もっと安心して変身に臨めるかもしれないのだ。

<つづく>

HUNTER×HUNTER 31

アルカちゃんは男の娘って事で良いのかしら。

HUNTER×HUNTER 31 (ジャンプコミックス)HUNTER×HUNTER 31 (ジャンプコミックス)
(2012/12/04)
冨樫 義博

商品詳細を見る

魔法少女プリティ☆ベル 9

魔法少女プリティ☆ベル 9 (BLADE COMICS)魔法少女プリティ☆ベル 9 (BLADE COMICS)
(2012/12/10)
KAKERU

商品詳細を見る

お姉ちゃんの友達に女装させられて可愛がられちゃう弟

お姉ちゃんの友達に女装させられて可愛がられちゃう弟

妖魔征伐戦士ランカスター

妖魔征伐戦士ランカスター

おかし製作所 第9回企画会議 終了しました

予定時間 12/8 22:50~24:00頃まで
議題 最近の良作について
   新たなSS創作の為のディスカッション

創作素材 

決め台詞
意気地なし
選択肢 (ぎゃるげ)
人権標語
身代わりウェディング
ハリー・ポッター
夢であいましょう


参加予定 オレ


チャットルームはこちら

なぶるおー

なぶるおー DMM版
なぶるおー DLsitecom版

妹は鬼畜系

妹は鬼畜系 DMM版
妹は鬼畜系 DLsitecom版

妹は鬼畜系

«  | HOME |  »

FANZAさんの宣伝

 

初めての人はこちら

ts_novel.jpg

 

性の揺らぎに関する作品でお勧めのもの

ts_syouhin_20090318225626.jpg

 

性の揺らぎに関する作品(一般)

ts_syouhinもと

 

FANZA専売品コーナー

ブログ内検索

 

最近のコメント

プロフィール

あむぁい

  • Author:あむぁい
  • 男の子が女の子に変身してひどい目にあっちゃうような小説を作ってます。イラストはパートナーの巴ちゃん画のオレの変身前後の姿。リンクフリーです。本ブログに掲載されている文章・画像のうち著作物であるものに関しては、無断転載禁止です。わたし自身が著作者または著作権者である部分については、4000文字あたり10000円で掲載を許可しますが、著作者表記などはきちんと行ってください。もちろん、法的に正しい引用や私的複製に関しては無許可かつ無料でOKです。適当におだてれば無料掲載も可能です。
    二次著作は禁止しません。改変やアレンジ、パロディもご自由に。連絡欲しいですし、投稿希望ですけど。

 

全記事表示リンク

月別アーカイブ

 

最近の記事

 

カテゴリー

新メールフォーム

イラスト企画ご案内

20080810semini.jpg

 

リンク

RSSフィード

2012-12