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いつだって僕らは 3-25  by 猫野 丸太丸

25.
 翌日の教室では、クラス全員がブラウス・スカート・白ベスト姿の四人を見守っていた。まるで転校生のように、自己紹介で僕たちは名前を宣言した。初見で衝撃を受けたのだろう、クラスから出た質問は遠慮がちで、数少なかった。
「山下はみつるで変わらないんだな」
「うん、僕はみつる、なにも変わらないよ」
 僕の場合教室が変わったこともあって、なじみの少ない男子生徒たちと顔を合わせるのは本当に転校生気分だ。休み時間も、クラスの連中が話を聞きに集まってきた。山下のところへは二十人くらい、智美ちゃんや篠塚のところへは前からの知りあいたちが集合。そして僕の机には三人くらい、他とは別グループと思える男子生徒が来た。悪い、僕のところに来た男子はもの好き派と呼ばせてもらう。
「休んでいたぶん、受験対策のプリントとか要るか?」
「いいのか? ありがとう、国語は事情話しても分かってもらえなさそうだからな、まじで助かる」
 一気に言ってから、女声で答えたことに気づいた。相手はぎこちない笑みを浮かべている。やばい、自分の方がどきどきしている。新しい制服で女装しているのが、当たり前ながらすごく恥ずかしい。そもそも体がおもちゃみたいに小さすぎる……。女装で、胸が盛り上がっている……。ふくらはぎが露出している……。男子からは懐かしい汗くささがただよってくるのに、こちらの体は女の臭いがするのだろうか? そんなことばかり気になるのだ。
「トイレの場所は分かるか?」
「さすがにそれは知っているって! でもほら、トイレは別のところでするから大丈夫」
「この学校にあったのかよ、女子トイレ」
 その男子は他二人から恥ずかしい質問をしたとツッコまれていたが、表情はうれしそうだった。異性相手にかっこいいことが言えなければバカをやる。男子らしい反応だ。
「なぁ、うちの学校に来るのは大丈夫なのか? トイレもそうだけど男子校で女子って大変だろ」
「僕もそう思うんだけど、山下は絶対この学校がいいって意見だから」
 聞いた男子は喜んだ。
「だから転校しないでくれるわけか。そう言われるとうれしいな」
「うれしいのか?」
「もちろんだろ、俺らを選んでくれたってわけだし」
 隣りの男子も口をはさんだ。
「まぁ、なかには国吉さんみたいな変態もいるかもしれないけどな。うちのクラスは大丈夫だと思うぜ、安心して来いよ」
 あの事件のせいで、国吉さんは下級生から変態と思われているようだ。僕の心に小さなとげが刺さった。つらいのは、一般生徒にとって国吉さんが変態ならば僕だって変態嗜好の側に分類されるということだ。毎日のように追われていた日々を思い出してみた。
 目の前にいるクラスメイトはもう敵ではない。理解しようとしてくれている。でも趣味の違いがあれば、いつか衝突することもあるのだ。そのときは僕が山下を守ればいい。守って、修復して、またもとの高校に通うのだ。
 そう考えていればいいのだろうか? 僕は言った。
「こっちも助かるよ。山下が好きって言ったら本気で学校が好きって意味だからな。楽しく過ごせるように、あと半年間優しくしてやってくれ」
「なんだそれ。新井自身はどうなんだよ?」
「僕は、べつに」
 突然男子のひとりが僕の後ろに回った。ブラウスの肩に両手が乗ってくる。指は肩の上でとまどっていたが、抵抗されないと分かるやぐいぐいとつぼを押してきた。僕は肩をもまれているのだ。
「ひゃ。なんだよその手つきは、おまえプロか」
「会話が硬いぜー、緊張しないで楽しんでいってよ、お客さん。イケメンがサービスするよ?」
「おまえ絶対もむ指を肩より下に伸ばすなよ? 伸ばしたらセクハラだからな?」
 どう言い返したらいいんだろう。僕はTS漫画に出てくる場面を思い出して、なにか逆襲しようと考えた。
「おまえらこそ、硬い会話じゃなくてあれこれ聞いてもいいんだぞ? 『それ、本物ですか』とか」
「言わせんなよそんな台詞、はずかしい! ……で、そのでかいの本物?」
「本物だよ!」
「下も変わってんの? 自分の裸でも見たらエッチいレベル?」
「知るか!」
 僕は肩もみの手をふり払った。教室の他の集団も質問タイムになったのか、背後からは山下に対しての問いかけも聞こえてくる。山下の周囲に集まっているグループが、僕の会話が流れてから、少し遅れて
「それ、本物か?」
 と質問、そして爆笑していた。山下は答えた。
「じつはね、僕はずっと前から本物だったのでした。だから、ほら。似合うでしょう?」
 笑い声が止んだのは、山下の声があまりに真実を物語っていたからだ。聞いた僕はまた背中が落ち着かなくなって席を立つ。見れば山下が座ったまま右手を伸ばして、男子に手を取らせていた。男子はもう笑っていなかった。
「どう?」
「柔らかくていい匂い、です」
 みんな、目の前に現れた美少女に無言で見入っていた。そうだ、山下は他人に見られることに意味を感じていたのだから。学校に来ないという選択肢が初めからあったはずがない。学校で女の子である自分を見せつけてこそ、がんばる理由があったのだ。
 そして山下は教室を見回した。智美ちゃんと、篠塚と、そして僕を見て微笑んだ。
 ほら、あそこにも素敵な女の子たちがいるから、よろしくね。本物、だよ。そう言っている気がした。
「どうしよう。さっきは先生の前で名前を言っただけだし、あらためて自己紹介する?」
「いや、いいよ! 同じ学校でわざわざさぁ!」
 僕たちは口々に否定した。
 山下は女の子になった僕たち三人をもお披露目したがっている。僕にとって、山下を守れればよいなどというのは半端な決意だった。
 僕は山下に自慢してもらえる女の子になれるだろうか。後ろにいる男子たちに尋ねる。
「なぁ、僕って似合っているかな」
 男子たちは顔を見あわせて言った。
「そりゃあまぁ、男言葉なのはちょっちミスマッチだけど、新井らしくていいんじゃないか」
 新井らしくて良いって、僕にとっては半分気休め、半分真実だ。あくまで軽快にそんな言葉をくれるとはハンサムなやつらだった。僕は頭を下げた。
「いまはできない。いまはできないけど、僕、まともにみんなと向かい合えるようになるから。いまは恥ずかしそうで、自信なさそうですまん」
 男子たちは驚いた様子だった。それからにやりと笑われる。
「聞いたか、あの山下親衛隊筆頭、闘犬新井が……。なんだかかわいくなってないか?」
 山下親衛隊筆頭って、僕は山下のクラスではそんなふうに思われていたのか。返事に困っていると両側から手が伸びる。僕はふたりの男子から肩をもまれた。三人目が目の前に迫る。
「ま、そんなおまえがずっと前から好きだったんだけどな」
 僕はその男子を見返した。男子は、当然のようにすました顔をしていた。

 クラスには山下を誘拐した連中も当然いた。そいつらがどうしたかといえば休み時間には近づいてこなかったのだが、お昼で授業が終わったあとに、全員そろって山下のところに来た。
「すまん。山下、ちょっといいか」
「……うん」
 教室に集団が現れたから、関係ない生徒は出ていこうとする。だが、おまえらも聞いてくれ、とのかけ声で呼び止められた。机や椅子がどけられて、あの日のゲームセンターを再現したみたいになった。僕たちは急いで山下のもとへ集まる。
 教壇には僕たち四人。集まった二十五人が、こちらを見上げた。自分たちの意志で集まっていたからだろう、正直、威圧感は以前見たときよりもあった。智美ちゃんが携帯を取り出した。なにかあれば先生ではなく警察に直接電話するつもり……。だけれど、ボタンは押さなかった。
 なぜなら気合いは感じられても、殺気は感じられなかったからだ。彼らの呼吸は「や」とも「ゆ」とも響かなかった。
「誠に申し訳ありませんでしたっ!」
 床が揺れるほどのひざをつく音とともに、連中は山下に向かって土下座をした。
 先頭のいかつい男が土下座のまま言った。
「俺たち、山下がこんなに真剣だったとは思っていなかったんだよ。まさか本気で女になっちまうなんて」
「おまえらが女だとしたら許されないレベルのいたずらだったよな……。いいかげんな態度でからかってしまった。すまん」
 許してください、と一同は山下に頭を下げる。いつか国吉さんにむりやり謝らされた芝居くさい謝罪に比べると、なんだか本気っぽかった。
 せっかく向こうから謝ってくれたのにやぶへびと思いつつも、僕は尋ねる。
「……なんで?」
「なんでって、なぁ。匂いとか見た目とか、ありえねぇレベルじゃん」
「ふつうびびるぞ、男が完全に女になっていたら」
 完全でなければいじめていいのか。だいたい僕は完全なんかじゃない。けれどそれを言う意味はないだろう。方法はどうあれ連中は悟ったのだ、山下も智美ちゃんも篠塚も最初から、生まれたときから本気だったってことを。山下は自分の本気さを連中に理解させた。理解してもらったのだから、それでいいのだ。
 それでいいのだけれど。
 山下がにこっと笑って言ってくれた。
「分かってくれてありがとう! それでさ……、みんなのなかにも女の子になってみたい子、いる?」
 言われた一同が、床にひざをついたまま一メートルくらい下がった気がした。
「遠慮しますっ!」

 放課後カラオケボックスに向かう帰り道は、女子生徒としての初下校だ。かばんを揺さぶりながら山下が先頭を歩いている。その後ろを智美ちゃんと篠塚がのんびり歩く。おしり、おしり、……自転車のサドルに当たる僕のも、おしり。女子のグループそのものである僕たちを眺めていると、今日一日が無事にすんだことにあらためて驚く。
 信じられない。
 さんざん学校の同級生から追いたてられてきたのに、魔法の薬を飲んだら大逆転? たしかにTS話っぽいけれど、世の中そんなふうにはできていないとも思う。
 だからつぶやいた。
「あの連中が本気で謝ってくれるとはびっくりだね。運がいいというかラッキーというか……。山下の日ごろの行いが良かったからかな?」
 智美ちゃんは驚いた顔でふり向いた。
「なに言っているのかな……。偶然なんかじゃない、あたしたちが勝ち取った成果だよ?」
「前向きに考えるとそうなるけどな」
 僕の言葉には、ため息が返ってくるばかりだった。
「じゃあ今日の登校でみつるちゃんがひとりで行ったとしましょう」
「なんでだよ」
「いいから想像して! みつるちゃんがクラスでひとり女の子宣言したとして、反響はどうなるかな」
「山下はもとから女の子っぽかったから、あんまり驚かれなかったかも」
「そこへあたしたち三人が加わったら?」
「先月まで男でしかなかった僕たちが突然女の子、だから非現実的なほどに驚かれた」
 自分でいっておきながら驚いた。つまり智美ちゃんは、今日の成功って山下以外の僕たち三人のおかげだと言いたいのだ。
「あんたが教室でいろいろ言っていたの、聞こえていたんだからね。もしも女の子になるのが似合わない性格なんてものがあって、あんたがそういう性格だったとしても。男子たちはみんな気づきはじめているよ……、ギャップの魅力にね。女の子っぽい子はより女らしく、男っぽい子は驚くほど女らしく。TSってそういう奇跡だよね?」
「いや、萌える性格と萌えない性格はあるって」
「篠塚が柔道部で大人気だって聞いたとき、あんただって納得していたじゃない、ギャップの勝利だって。男の『新井くん』がいままでやってきたことは残念でもしかたなくでもなくて、みつるちゃんを助けるために最善に働いた」
 このとき篠塚や、山下本人はふり返らなかった。どんな顔をして僕と智美ちゃんの会話を聞いていたことだろう。静かに聞いていたのだとしたら僕は納得がいかない。
 僕は山下を、連中からも守れなかったし国吉さんからも守れなかった。その後悔がある限り、智美ちゃんの言い草を素直には受け取れない。

 空を飛んでみよう。夏の空をどこまでも飛んでいく。山下も智美ちゃんも篠塚も、そして僕も小さく豆粒になって、男か女かも分からなくなる。
 なんでこだわるのか。僕は認めなければならない。最善の形で成功するよりも、僕自身は大失敗の思い出を大事にしていたいのだ。
 なぜならそのほうが楽だから。あのとき失敗した、無駄な努力だったと諦めてしまえば、この先待ちかまえる何重もの試練に立ち向かわずにすむ、わずかの幸せを探して奮闘しなくてすむ。クラスの連中が残酷無比だと思いこんでしまえば、教室で囲まれて吊し上げられている状況で理解を求めて苦悶しなくてすむ。
 失敗した方が楽でいい? いや、そうやって強い言葉で言い切るのは逃げだろう。なぜならそのほうが楽だから。僕は卑怯だ、正しいのは山下や智美ちゃんだと言い切れば、それ以上の細かいことを考えずにすむ。考えるのが好きだなんてとんでもない、僕は自分に都合の悪いことは考えない手抜き男だ。
 自分を責めればいいというものではない。自分を責めれば、他人を見たり耳を傾けたりしなくてすむから。智美ちゃんや篠塚や、山下自身の立場とか気持ちを考えないで、全部自分への攻撃だと思っておけばびっくりするほど世の中は単純になるだろう。それも逃げにしかならない。
 ポジティブ。まるで明るくて軽くてお日さまみたいな言葉。他の人はどうだか知らない、でも僕にとってそれは重荷で苦痛で、まるでアトラスの担ぐ天球儀のようにぐるぐる回り、全身から血を流しながら受けとめなければならない、屈辱と絶望が詰まった言葉だ……。
 だけど。僕の魂は地上に舞い戻り、自転車を押している熱いこの体に戻ってくる。山下がくれた女の子の体だけは、僕がどうなってもここにある。消えず、崩れず、僕が考えるのをじっと辛抱強く待っていてくれる。
 しつこいけれど、山下はそれだけのことを僕にしてくれたのだ。

<つづく>

メタモルフォーゼ Love or Fake 第3話

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編集メモ 1206

現在連載中:猫野さんのいつだって僕らは 18日に最終回予定!!

次の掲載予定 :⑥Fさんの挿絵付新作 with 四葉チカさんのイラスト
④真城さんの新作 いくつか待機中

待機中: オレ おむにばす的なやつ アキさんがイラスト完成。どんな形で掲載するか検討~。

完成間近 ⑤ありすさんの新作2 まさきねむさんがイラスト作成中 PCトラブルで遅れるかも。

製作中:④真城さんの新作 挿絵作成中
    ⑦漫画 ヴァン・ぱい・ヤ3・4 15ページ完成w 続き鋭意製作中。
    ⑪オレ 漫画新作32ページ! 松園さんに発注してペン入れ終了。着色中。
    ③A.I.さんのビーストテイマーズの続き 倉塚さんのイラスト長期で待ち
    ⑫オレ 2ページ漫画 神山さんが作成中。
    ⑬オレ 1ページ漫画 神山さんに打診。
    ⑭オレ 1ページ漫画 神山さんに打診。
    ⑮オレ 2ページ漫画 アキさんに依頼中。
    ⑯黒い枕さんおクジラの人魚姫7 準備中

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