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いつだって僕らは 3-27  by 猫野 丸太丸

27.
 しばらくみんなと遊んだあとに、智美ちゃんとふたりきりになることがあった。ごつごつした岩の上に座って、ふたり並んで海を見た。智美ちゃんの横顔はりりしい。雰囲気だけは大人の女性っぽさがあるのがすごい。
「智美ちゃん聞きたいことがあるんだけど」
「なあに」
 なにを質問されるか知っているそぶりで、智美ちゃんはこちらを見ずに水着の胸を直した。
「……聞いていいよってば」
「みつるって体が男のままだよね」
「そうだね」
 あっさりと智美は認めた。
「ぴん子はいつ分かったの?」
「さすがに水着で抱きかかえられたら、ね」
 ふたりの会話に驚いたのは、波飛沫の音だけだった。
 智美ちゃんと話して分かったのは、飲み薬が不完全だったということだ。飲んでも百パーセント効くわけではない。だから僕たち三人だけが女性化して、山下が失敗したのだ。
「信じられないな。いちばん女の子になりたかったみつるがまだ男だなんて」
「残念だよね」
 僕はうなずいた。ただあのとき、カラオケボックスの前で山下と抱きあったとき背中に感じたのは本物の胸だった気もするのだ。僕はさらに質問した。
「みつるってもしかして、一度は女性化できていたってことないか? そのあと体が女から男に戻ったとか」
 山下の変身後、カラオケボックスで体を確かめたのは和久智美のはずだ。だが智美ちゃんは首を縦にも横にも振らなかった。
「どうだろうね。それ、考えないであげられない?」
「なんでだよ」
「納得しないか。うーん、理由をどう話すべきか……」
 智美ちゃんはまた謎かけのようなことを言った。
「TS薬ってさ、どうしていまだにニュースでも大騒ぎになっていないと思う?」
「……あの薬はニセ物だったから?」
「ブー。惜しいね。正確には、あの薬はバイオテクノロジーでも超技術でもなかったの。飲んだ人の心を開いて、強い想いのままに肉体を変化させる薬。決意のない人にはただのゴミ」
「いや、怪しくて危ない薬だろう、それ」
 むしろとんでもない。TS薬とは、深層心理を現実に反映させる薬だった。だから成功例が少ないことを智美ちゃん自身は知っていた。不安のままに薬を飲めば男から変われないし、最悪失敗を恐れるあまり悪い結果ばかり考えてしまえば、ブタとかハエとかに変身する可能性だってあるのではないか。
「……あの薬を成功させるためには、飲んだ人が女の子になれるって信じきる必要があったの」
「それで智美ちゃん、ヌード写真まで送ってくれたのか」
「うふふ、効いたでしょ」
「まぁな」
 でも僕は悲しい事実にも気づいてしまった。僕が変身したのは、山下の言葉こそが最後のきっかけだったということ。そのときの山下の台詞はこうだった。
「新井くんが幸せな女の子になれるなら、僕、山下みつるは男に戻ってもいい。自分が一生男の子のままでもいい!」
 やっぱり山下は変身後しばらくだけ女性で、僕と話したあとに男に戻ったのだろう。決意がそのまま体形に反映されるならば、山下は本気で僕を女の子にするために自分を犠牲にしたのだ。僕の心を思いきらせるために、僕が絶対衝撃を受けるだろうあの宣言をした。
 その結果山下は男に戻り、一生男でいるのだ。たとえばもう一度薬を飲んだとしても山下の体は変化しないだろう。そう決意してしまったからだ。
 山下はあのとき一生男でいることを選んだのだ。僕のために。僕はとんでもないことをしてしまったのかもしれなかった。
 僕が表情を変えると智美ちゃんがため息をついた。きっと知られたくなかった事実だったのだろう。
「……。死にたい」
「まだ言うか! ぴん子はすごく大事なことをしたんだから、あたしが嫉妬するくらい」
 智美ちゃんは僕に肩をぶつけてきた。ふにゃり。お互いの肌が柔らかく弾ける。
「ぴん子って腹の立つところもあるけどねー。あたしにとっては命の恩人なんだよ? あたしが変身したときのことを思いだしてよ」
「夜中の電話? ……まさか」
「寝ぼけてTS薬を飲んだけれど、仕組みを知っていただけにうまく変身できるか自信がなかった、すごく怖かった。まともな女の子になれるように誰かに支えてほしかったの。篠塚じゃおおざっぱな返答だろうし、みつるちゃんだとかえってパニックっちゃうと思うし。だからぴん子に電話かけたんだよ? そしたら『声がかわいい』だなんて嬉しいこと言ってくれたじゃない? おかげで」
 すっかり女言葉の女の子になっちゃった、と。僕のおかげか。そんなにうまくいくものなのか。信じられないとは、もう言えなかった。
「人が役に立ったり役に立たなかったりはね、絶対決まっているものじゃないのよ。偶然のやりとりで楽しいことが起こったっていいじゃない。この世に百パーセントの役立たずなんていないんだから」
 僕は答えた。
「智美ちゃんとはケンカしてばかりだけれど、こうやって同レベルで話をしてくれるのは本気で感謝している。変身前も、変身後も」
「同レベルかぁ。まぁ、あたしとぴん子はいい勝負だね。みつるちゃんはすごく心が丈夫な子で、太陽みたいに見上げたくなるタイプだし。なにげに最強なのは篠塚」
「おう。篠塚って変身するとき、きっと一ミリも迷わなかったと思うぜ」
 僕らはなんだかんだで助け合いながら目的を達成したのだ。山下がDNAレベルで女の子になれなかったのは残念だ。このストーリーを分類するとしたらジャンルは「傷心」となるだろう。
 だけれど僕が謝ることを山下は許してくれないにちがいない。山下自身が下した、こんなに大きな決断を無下になんてできない。
 なにより一時的にでも女の子になったことで、山下の女装はめざましくレベルアップしていた。今日の水着女装なんて神がかっていた、触りさえしなければ、やせた女の子と区別つかないのではないだろうか。学校でも山下の評価は完全に女の子だった。女の子になったのだ。
 僕は、山下のもうひとつの信念を知っている。
「新井くんはかわいい僕が大好きなんだよ。新井くんが好きでいてくれるかぎり、僕はずうっとかわいいよ」
 仮定に仮定を重ねているけれど、山下はTS薬で女になれなかったかわりに――、永遠にかわいい男の娘(おとこのこ)になれたかもしれないのだ。
 だったら僕は一生、山下をかわいくて幸せだと信じてあげたい。信じて支える必要があるのだ。

「まあ、かたくるしい話はここまでにして。男の娘のみつるちゃんと、これからどうするのよ」
「どうするって?」
「分かっているくせに!」
 僕は海中に突き落とされた。塩からい水にむせこんでいると、智美ちゃんも入ってきた。
「ぴん子ちゃんがはっきり恋人になってくれないって、みつるちゃんが悲しがっていたよ」
「ありえないだろ、それ!?」
「なんでよ! ぴん子、これまでみつるちゃんに何回大好きって言われた?」
「今日を含めて三、四回」
「このやろ」
 智美ちゃんが抱きついて僕を海に沈めようとする。水の中で智美ちゃんの胸が見えたことに僕は安心する。夢でも妄想でもない、これが現実だ。
「でもでも、恋人役って僕でいいのか? 親衛隊メンバーのいわゆる抜けがけになるじゃないか」
「いいのよ! みつるちゃん自身がぴん子を好きだっていうんだから、反論しようがないじゃない。それにあたしは恋人を作るなら、もっと男らしい殿方にしたいし」
「まじで!?」
「まじで。きっと篠塚だって」
 そのとき水中からなにかが近づく波動、そしてとびきり柔らかいものが僕を抱きしめてきた。
「うわ」
「こらぁ。ふたりでなにこそこそやっているんだ!」
 潜水してきた篠塚だった。海水で乱れた頭はそれなりに怖い。僕らは爆笑した。
 話を聞いた篠塚は言った。
「俺は山下のいちばんの親友だからな。その席は譲らないぜ。恋人の方は……、祝福するぜ、好きにしな」
「そうと分かれば、さぁ、みつるちゃんのところへ戻りましょ!」

07.jpg
挿絵:シガハナコ

 海から上がれば、砂浜では山下と父さんが待っていて、こちらに手を振ってくれた。お昼ご飯は浜辺でバーベキューらしい。野菜がクーラーの上に山積みになっている。僕はビーチサンダルを探した。早く行ってトウモロコシやカボチャを切ろう。山下に任せると転がして砂だらけにしてしまうかもしれない。
 山下の後ろには年配の女性がいて、僕の方にいち早く近づいてきた。彼女を追い越すように山下が走ってきて、僕を先に抱き止めた。
「ぴん子ちゃん、むぎゅっ」
 いや、違う。抱き止めたというか、山下の顔が胸に当たっている。僕より背が高いのにわざと身をかがめて、僕の胸に顔を埋めているのだと理解するのに数秒かかった。
 山下の大胆な行為にみんながこっちを見ている。僕は顔が熱くなるのを感じる。それでも感触を確かめたくて、山下の背中にそうっと手を回してみた。
 僕の胸に甘えるみつる……。男の子の体を抱き返す、僕。ふたりがつきあったら、言葉じゃない、女の子と女の子みたいな肌の触れあいが何回もあるんだろうか。
 年配の女性が追いついて言った。
「ぴん子ちゃん、体を洗ったら長袖を着ておきなさい。日焼けするとあとがつらいわよ……」
 僕は微笑んだ。こんな状況ですらぶれない発言だ。僕の性格が変わらないなら、他にも変わらない人たちは存在する。この胸に抱いている山下が男の子のままなら、もしかして……、数年後はみつるジュニアを抱っこすることになるかもしれない?

 ■■■。僕は、母さんみたいになれるかもしれない。


母さん:TSっ娘の憧れ、理解のある母親。もしかして母親は男が大嫌いだったかもしれない。だからTSっ娘は女の子を目指したのかもしれない。そして愛と理解を、手に入れたいのかもしれない。






(了)

かまきりの時代―妻に妊娠させられる夫達

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