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摘発

作.真城 悠(Mashiro Yuh)
「真城の城」http://kayochan.com
TOPの新作アニメが美味しいので是非行くべし!! 
「真城の居間」blog(http://white.ap.teacup.com/mashiroyuh/)
挿絵:松園


 迷宮入り事件、というカテゴリがある。
 要するに犯人が誰なのかすら分からない未解決事件のことだ。

 だが、中には明確に犯人が分かっているにも関わらず未解決扱いとなった事件もある。

 その女は実にふてぶてしかった。
 数十人にも及ぶ若い女をホステスとして働かせ、労働基準法に完全に違反した長時間労働を強要した挙句にまともに給料すら支払っていなかった。

 その職種は…言うまでも無く性的な奉仕、売春である。
 目の前の老婆はその総元締めだった。

 唯一の救いは、根無し草である彼女たちに住むところを与えていたことだ。
 彼女たちはほぼ24時間を三交代勤務させられていたが、その「社宅」に帰れば個室が与えられ、食事に関しても飢える事はまず無かった。

 それどころか妊娠検査を始めとした各種健康診断はしつこいほど行われており、性病の定期健診も至れり尽くせりだった。
 ただ、着る衣装に関しては下着まで含めて一切の私有が許されず、私有財産も無い状態。
 細かいことを言うと、この場合は「現金以外」の報酬に該当し、一定の基準で現金に換算されて考えられるので無給という訳では無い。
 それでも金額に換算すれば時間給が最低賃金を割り込むのは必至。明確な最低賃金法違反である。
 各種保険料は勿論、税金も払っていない。問題がありすぎる。

 この施設が摘発されたのは、とある顧客のタレこみがきっかけだった。
 いつものようにこの施設から派遣されてくる美女に客として性的に「お世話」になっていながら、支払を渋り、果てはどこから知恵を付けられたのか労働基準監督署に訴えたのである。

 法的には問題ないが、個人的には付き合いたくない類の人種である。

 話を戻そう。

 実は軽い労働基準法の違反ならばほぼ全ての会社組織が犯していると言っても過言ではないのだ。
 例えば朝の朝礼の時間などは多くの企業では労働時間にカウントしていないが、厳密には勤務時間と解釈されるため、賃金の不払いに該当する。
 そもそも「サービス残業」などという用語が罷(まか)り通っている時点で労働基準監督署がまともに機能していない証拠である。
 明確な賃金不払い(一部であっても賃金不払いとなる)であって、明日にも踏み込んで経営者を逮捕しなくてはならないのだ。厳密に言えば。

 こういう場合には、ここだけの話「警告」で済ませ、どうしても改善が見られない場合には強硬手段を取る事もある…と言う風に柔軟に対処するのが普通だ。
 ちなみに国税庁はそんな生ぬるいやりかたはしないのでご用心。これは厚生労働省のお話。ちなみに旧・社会保険庁(現・日本年金機構)はもっとぬるいのだがそれは別の話だ。

 ともあれ、この報告はあっという間に労働基準監督署から所轄の警察署に連絡され、経営者を名乗る老婆と共に事務員の還暦近い女性が数人、及び二十代から三十代の美女たち数十人が逮捕された。
 なんでも新任の管轄署長が点数を稼ごうと、違法売春宿を摘発した…というのが実情らしい。



 この件はマスコミには漏れていないのだが、どうやらネットの世界ではそれなりに評判の通った店らしく、怪情報として乱れ飛んでいる。

 オレはそろそろベテランと呼ばれる年代の刑事だが、ともかくこんな妙な話は聞いたことがなかった。
 だが、目の前にいる老婆は頑として核心に至ることは話そうとしなかった。

 一番の問題は、あれだけの人数の若い美女たちを集めた方法だった。
 全員が住み込み…ということは、この時点で帰る家を持っていないということになる。
 真っ先に疑われたのが違法入国した外国人だったが、彼女たちが税関を通過した形跡は全く無かった。
 だとすると税関を通過せずに住む「密航」などが考えられるのだが、どうやら事態はそれどころでは済まなかったのだ。

 彼女たちが所持していた保険証などの身分証明書は全て偽造だった。
 会社として政府管掌健康保険に加入せず、保険料も払っていない社員が保険証を持てる訳が無い。
 更に言えば労働保険の申請手続きもしていないから、仕事中の怪我だろうと労災保険で面倒を見てやることが出来ない。
 実際には監督署に訴えれば労働者の権利は確保されるのだが、そういうことを行った形跡は無い。
 だから彼女たちは「治療」「応急処置」によってその場で傷は治るかも知れないが、このまま放置すれば何らかの障害が残ったとしても障害補償年金などを受けることが出来ないのだ。

 実は彼女たちを診察していたのは掛かり付けのモグリの医者だったのだ。
 法外な金額を取るものの、腕は確かなその医者の献身的な健康診断によって彼女たちは過酷な就業環境でありながら決定的な健康被害は負っていなかった。
 違法売春宿にしては福利厚生がしっかりしていると褒めたいところだが、当然そういう訳にはいかない。
 何しろ彼女たちの「怪我」の多くは男性客による暴行によって負ったものなのである。これは刑事事件だ。
 女性の性的暴行は「親告罪」といって被害者が訴えない限りは警察が動く事は出来ない。
 だが、暴行による怪我となると建前としては社会的に許してはならない事件なので、被害者がなんと言おうと「事件」として処理される。被害者が「許してあげてください」と泣いて訴えてもそんなことは全く関係ない。犯人を逮捕しなくてはならないのだ。これが親告罪とそうでない場合の最大の違いである。
 ちなみに女性の性的暴行は確かに「親告罪」だが、これが多数による強姦であったり連続して起こった場合は親告罪ではなくなる。つまり、被害者が黙っていても社会的に許されない犯罪ということで罰されるということになる。

 だから、どれほど違法な商売であれ、暴行事件が起こり、それを警察に黙っていることを黙認している時点で経営者の法的責任は免れないのだ。

 そして更に決定的な事態が起こった。
 なんと、彼女たちには「戸籍」すら存在していないというのだ。
 つまり、この世にいるはずの無い女性たちなのである。

 この辺りからこの事件は警察内で隠蔽され、独自に捜査が進められることになった。
 何しろ「行方不明になった女性たち」ですらないのだ。これまで国家によって存在を認識されることなくこの年齢に達したということだ。
 もしそれが本当ならば、まともな義務教育も受けてこなかったことになる。

 ごくごく稀にだがそうした事例はあることはある。
 身勝手な親によって座敷牢みたいな環境で長年過ごさざるを得ない気の毒な子供がだ。

 この場合疑われるのは、国家に隠れて戸籍に残らない子供を育て上げ、その子達をある程度の年齢に達した段階で組織的に働かせる闇組織の存在だ。
 だとしたら恐ろしいことになる。
 ここにいるのは女性ばかりだが、恐らく男の子も大勢育てているはずだ。

 しかも、別の施設からは小学校低学年程度にしか見えない幼女たちすら大量に発見され、マスコミにばれれば半ばパニック状態になることは目に見えていた。
 そして、その幼女たちもまた戸籍が存在しない「正体不明」の子供たちだったのだ。

 ここに来て幹部たちも頭を抱えた。
 これだけ大規模な「人間育成」組織が実在するのであれば、「母親」役を大量に抱える必要があるのだが、そんなことが現実的に可能なのだろうか?
 幼女たちが大量に発見されたことで、すぐに疑われたのが「誘拐」だった。
 だが、これだけの人数が一斉にいなくなればすぐに分かる。

 警視庁に残っていた行方不明事件から提供されたDNA検査なども行われたが、誰一人として一致しなかった。

「おい婆さん。いい加減吐いたらどうだ?あれだけの人数を育成するシステムを」

 ここは取調室である。警視庁が誇るエリートたちが知恵を絞ってどうにかこうにか拘置期間を延長させて連日取り調べている。

「…」

 老婆は提供されたお茶を啜っている。

「あんたが思ってるよりもずっと重大な事件だぞ」

 恐らく同僚がこの取調べの様子を見たら腹を抱えて笑い転げていただろう。余りにも紳士的過ぎるからだ。
 無論、オレとてこれがエロじじい相手だったら死なない程度に痛めつけるくらいのことは普通にやる。
 若い女が大量に売春させられていたことも痛ましいが、オレの娘程度の幼女まで男どもの慰み物にしていた外道だ。絶対に許さん。

 ただ、男が女を尋問する際には女性捜査官が同行することが義務付けられている。万が一の国家賠償に備えた対策だ。
 とはいえ、四十代のベテラン刑事であるその女性とてこの事件の重大性は理解しているはずだ。
 この婆あの指の一本や二本へし折っても黙っているくらいの器量は見せて欲しい。

「何が問題かね」

 一体どういう法律的な根拠があるのか知らんが、拘置から四十日目にして遂に謎の老婆は口を開いた。

「あぁ!?テメエ何をほざいてやがる!女の人権を何だと思ってんだ!」

 オレは思わず机を殴りつけた。

 自分で言うのも何だが、オレの怒声は凄い迫力だ。
 髪の毛を染めていきがっている不良どもや、誰もが道を譲る極道ですらこの怒鳴り声で震え上がると言われているのである。

 だが、目の前の老婆は特に動じた素振りも見せない。

 逮捕された若い女性たちにはこれまた徹底的な健康診断が行われていた。
 全員がこれといった健康障害こそ負っていないが、相当な頻度での性交渉を行わされていたことだけは明白だった。
 それに、現時点でこそ治癒しているが、かなり激しく殴打された後や、骨折の跡なども見られた。激しい暴力を伴う性交渉を強要されていた証拠なのは間違いあるまい。
 中には歯を全て抜き取られ、若いみそらで総入れ歯の女性すらいた。
 そして、恐ろしいことが発覚した。
 全員が子宮を摘出されており、性交渉は出来ても妊娠することはそもそも不可能だったのである。
 幼女も同じく性交渉の後が明確に認められた。こちらは妊娠の心配が無いということなのか、子宮の摘出は行われていなかったが、そんなことは全く救いになどならない。
 担当していた女医はこの事実が発覚したと同時に号泣が止まらずそのまま精神的ショックで寝込んでしまったという。

 空前にして未曾有の売春事件の幕開けだった。
 こうした女衒(ぜげん)を女が行うことはそれほど珍しくは無い。
 だが、これほど性質(たち)の悪いそれは見たことも無い。

「ふん…まあ、あたしゃもうそろそろ解放されるからさ、あんたに喋ってやる義理は無いんだよ」

「何だと…!?」

 そんな馬鹿な話があるか?人こそ殺していないが、こんな極悪人は何十年でもぶち込むべきだろう。
 唯一気がかりなのは働かされていた人員…つまり、若い女たちに幼女たち…が何一つまともに喋ろうとしないことだった。
 ただでさえ身元の手掛かりが掴めないのでどんな情報も欲しいところだったのに、「被害者」であるはずの彼女たちが全く口を割らないのだ。

 無論、「客」たちも捜査の対象となっていた。
 店に残っていた顧客リストから一度でも利用したりした人間は勿論のこと、問い合わせのメールを送った人間すら全員が取り調べられた。
 幼女は勿論、未成年に見える幼い少女もいたので、その相手は全員淫行条例が適用されるはずだ。戸籍が無いために正確な年齢が分からないのがネックだが、そこは国家権力が何とかしてくれるだろう。

「大体被害者被害者って言うけどね。女の方こそ被害者なんだよ」

「…何だって?」

「ウチに来てるのは札付きのワルばっかりさ!そのまま放置すればそこいら中でレイプだ何だって起こしかねないケモノみたいな連中ばかりだよ」

「だったら何だってんだ!?あぁ!?」

 ちなみにこの様子は全て記録に収められている。
 人権を配慮して被疑者のために「可視化」しているのではない。この婆あのあらゆる言動を記録に収めるためだ。

 ここで女性捜査官に止められた。外部から連絡があったという。
 今すぐ暴れたい衝動をどうにか押しとどめるのに苦労した。

 仕方なく尋問室を離れる。

「…やっと喋りました。で、客の素性はどんなんです?」

 そこには派遣されてきた分析官がいた。
 彼が代表してここに来ているが、同時に警察関係者や幹部たちが大勢この取調べを注目している。これが終わってからの報告書を書くことを考えると憂鬱になってくる。

「前科者が多いのは確かだ。だがいずれも未遂。実際にコトに及んだのはいない」

「女の方は?誰か何か吐きましたか?」

 分析官は首を振る。

「見事なまでに何も喋らない。自分の健康調査についてさえ何も言わないんだ。医師の質問に頷くか首を振るだけ」

「どうなってやがる…」

「まずいことに彼女たちには戸籍が無い。つまり日本国籍が無い」

「…だから?」

「はっきり言えば人権に一部制限を受ける」

「はぁ?」

「無論、だから好きに殺していいなんてわけじゃない。ただ、裁判をやるとなると相当面倒なことになる。そもそも何処(どこ)の誰かも分からないし、本当に国籍が無いなら分かりようも無い」

「…そんなのどうにかなるでしょうが。あの婆あをぶち込まずにデカなんてやってられませんよ!」

「これは刑事ドラマじゃないんだ。オレたちの仕事はワッパ(手錠)を掛けた後、公判を維持出来る様にするところまでなんだぞ」

「…」

 似たような台詞は嫌と言うほど聞かされてきた。
 無実の罪で警察が決め付けた冤罪に泣く気の毒な人間も勿論いるが、どう考えても犯人なのに法律の不備で逃れるのもいる。

「ただ、顧客の中で気になるのが何人かいる」

「それは?」

「次の捜査会議で発表する予定だったが、先に教えとくと、実際にレイプ事件を起こしたアホが何人かいるんだ」

「そいつらはどうしてます?」

「分からん」

「…?分からん…?」

「全員が行方不明になってる」

「ガイシャ(被害者)の方は?」

「かなり酷いレイプだったらしい。顧客が起こしたレイプ事件で確定しているのは二件。一人は意識が戻らず、もう一人は精神的なショックを苦にして自殺した。昨日の事だ」

「…外道が…警察は何をしてる」

 自分自身が警察官…刑事だ。これは皮肉である。

「店に残っていた記録を見ると、レイプ事件を起こした翌日にあの婆あの店に行ってる。そしてその後の足取りが分からない」

 …そういえばあの婆あは気になることを言っていた気がする。

「すいませんが、行方不明者の記録ってありますか?」

「…そりゃあるが、どういう行方不明者のだ?」

「男のです。それも性犯罪者の」

「何か今回の事件に関係あるのか?」

「ええ。もしかしたら」

 分析官は肩をすくめた。

「オレの権限で話を通しとくからここに行ってみろ」


 その後も捜査は続いたが、謎の女性たち及び幼女たちの正体は一切不明なままだった。
 マスコミが幾つかこの事件をかぎつけたらしかったが、どこからかの圧力でその報道はもみけされた。
 分かっていることが余りにも少ないのでニュースバリューが無いと判断されたこともあったのだろうか。
 いずれにせよ、セックスマシーンに半ば改造された大量の若い女性という後味の悪すぎる始末をどうにかしなくてはならないのだが、捜査は全く進展せず、遂に何の起訴もされないまま女衒婆あは解放されることになった。

「…ばあさん。あんたにゃ負けたよ」

「だから言ったじゃろ?ワシは解放されると」

「その様だ」

 オレは婆あの目の前に資料を広げた。
 文字とグラフに表だらけで一見何のことか分かりにくい。

「どうせあんたは認めないだろう。だからオレが勝手に喋る。それでいいか?」

「勝手にすればいいさ」

「ある時期からこの国において性犯罪の前科者が一斉に行方不明になる事態が起こった」

 ばあさんがお茶をすする。

「レイプ及び性犯罪は重罪ではあるが、終身刑…そもそもウチの国には無いが…にも死刑にもならない。いつかは娑婆(しゃば)に出て来ることになる」

「…」

「数ある犯罪の内でも特に再犯率が高いのがこの性犯罪だ。しかも逆恨みした犯人が刑事や被害者を再び襲うなんて例すらある厄介な事件だ」

 ばあさんがオレの目を見た。

「それでいて、性欲そのものが悪というわけじゃない。それは人間の本能だからな。社会的に制御出来ず、嫌がる女を無理矢理に犯すから悪いのであって、お互いの合意の元であるならば性欲を解放することは何も悪いことじゃない。それどころか男女お互いにとって喜ばしいことだ。でないと人類は滅ぶ。子孫が作れないからな。そうだな?」

「…」

「だから男には“犠牲者がいない”状態で、制御出来ない性欲を無理なく発散させることが必要だ。例えばマクラをムチャクチャに殴ることで気が晴れて、人間を殴らなくて済む様になるなら、…まあマクラには気の毒だが…万々歳ってことになる」

 ばばあはじっとこちらを見ている。

「婆さん。あんたはあの店を経営し、放っておけば性犯罪者になりかねない連中の“性欲”を処理することで言ってみれば犯罪を阻止してたんだ。そうだろ」

「…くだらないね」

「確証は持てんが、確かにあんたのところの顧客にはいつ逮捕されてもおかしくない札付きが揃ってる。だが、少なくとも道端で行きずりの女を襲うということはしてこなかった。一部を除いてはな」

「…あいつらは馬鹿だよ」

「それには同意だ。確かに、元々男が持っている“性欲”を犠牲者が出ない形で処理し、コントロールすることが出来れば男にとっても女にとっても有益だろう。それは認める」

「…デカがそんなこと言っていいのかい」

「独り言さ。…だが、最大の問題はその「性欲の処理」に生身の女を使わなくちゃならないことだ。不特定多数の女の安全性は上がるかも知れないが、お前の店のホステス…というか売春婦だな…にとってはたまったもんじゃあるまい」

「…」

「誰だって好きでこんな仕事なんぞやるまいよ。単なるセックスだけじゃなく、中にはかなり暴力的な奴だっていたみたいじゃないか」

「医者が何の為にいると思ってるんだね」

「…医者は患者を治すためにいる。基本的にはな」

「あんたに何が分かる」

「…正直、ある程度以上のところは分からん。だが、一つだけ言える。そういう「男の性欲処理施設」を作るのはいい。機能するなら性犯罪も減る。それに収入にだってなる。八方丸く収まって万々歳だ。唯一、そこで実際の「処理」を担当する女以外は」

 婆さんはこちらの目をじっと見ている。初めてのことだ。

「幻覚を見せてバーチャル・リアリティの中で性欲を処理させるなんて方法も出来るならばやるべきだろう。だがあいにく今のゲームはそこまでよくできてない」

「…」

「それに、警察のオレが言うのは問題があるが、金さえ払えばやれる施設は幾らでもある。だが、にも拘らず、生身の本当の女を実際に犯罪で犯すことに喜びを見出すいかれ野郎も多い」

「…」

「そこであんたは考えたんだ。無法者の性欲を処理して未来の無実の犠牲者を救い、そして男どものケモノみたいに無軌道な性欲も解消するこの施設の建設を。一番の問題になる「処理担当」の女たちだが…元・性犯罪者の男たちを使ったんだ」

 婆さんはこちらから視線を逸らさなかった。

「我ながら馬鹿馬鹿しいことを言ってるが、そうとしか思えん。あんたの店が開いた十年前あたりから、服役から開けて出てきた短期の性犯罪前科者が次々に行方不明になってる。…何をどうしたのかサッパリ分からんが、こいつらを女に性転換して未来の犯罪者の性処理に使う…。

真城様挿絵16

こうすれば、「生身の女」たちに負担を強いる事もないし、こいつらに真の意味で罪を償わせることも出来る…一石二鳥だ。いや、こいつら自身が引き起こしたかもしれない再犯を防いでる事も考えれば一石三鳥とすら言える」

「…」

「だから結果としてこの女たちには戸籍が無い。あるわけが無い。ある日男から女に変身しちまったんだからな。連中は行方不明者ということになる。日本人は一億人もいるんだ。今も年間に万単位の人間が蒸発し、行方不明になってる。こいつらはその中の一部になったに過ぎないし、元々札付きなところに持ってきて性犯罪の前科者と来た。まともな就職口なんぞあるわけもない。放っておいて社会に解き放てばいずれはまた何か事件を起こす」

「…」

「だが、「女の幸せ」なんぞ享受させるわけにはいかないから子宮を切除して妊娠できない様にした。避妊が面倒だし、事故が起こって妊娠でもされた日には新たな人殺しをしなくてはならなくなる。それに生理用品を支給しなくて良くなるし、客は絶対に妊娠しない女相手にどんなプレイでもし放題。…理想的だ」

「…」

「分からんが、幼女たちは幼女に対する性的暴行で服役していたクズどものなれの果てだろう。恐らく自分がやらかした性犯罪と「同じ目」に遭ってると推測するが…どうかな」

 婆さんは肯定も否定もしなかった。
 それはそうだろう。
 こんなものは夢物語だ。
 実際に出来るならば…国家が行う訳にはいかないが…ある意味において理想的なサイクルではないか。
 性犯罪の加害者の慣れの果てが無償で働かせる売春宿に女として住み込まされ、男の言うなりにレイプされ、果ては殴られたりする毎日。
 だが、同情する気にはなれない。かつて自分自身が女性にやらかしたことの「報い」なのだから。

 そして、何よりも大事な前提が抜けている。
 それは、この婆さんが「男を女にする」能力を有している…ということでなくては話が通らないのである。
 だが、そんな馬鹿なことがあるわけが無い。
 この世の物理法則…というか、オレがそんなに詳しい訳じゃないが、生物学的にもあそこまで男を女にすることなど出来るわけが無い。
 魔法なのか呪術なのか。

 現に摘発後に彼女たちを診断した医者たちは「外科手術による性転換をされた男」だとは誰一人思わなかったし、何より「子宮を摘出した痕跡」があるのだ。
 生まれつきの男にそんなものは無い。
 それに行方不明になった男たちはどいつもこいつもゴリラみたいなむさくるしい連中ばかりで、この頃テレビに出て来るその辺のおばさんよりよっぽと女らしいモデルみたいなニューハーフなどとは似ても似つかない。
 こんな鬼瓦みたいなのをどう手術したって、あの施設にいた美人たちになるとは思えない…いや、絶対に不可能だろう。
 つまり、外科手術でない手段で男から女に変えていたとしか思えないのだ。

「ホステスの若い女たちはいい。問題は事務員の還暦ババアたちだ」

「…」

「このババア…初老の女性たちの正体も同じく不明で戸籍なし。みんなその正体と存在意義を訝しがってた。だが、こいつらはこの施設で働いて長い元・男たちの老けた姿なんだろ?」

「それにしてはあれだけしか人数がいないのが不思議だが、多分健康を害して死ぬか、自分から死ぬかして数が減ったんだろう。そして生き残ったババアには若い女の取りまとめ役とカウンセリングを担当させてた。同じ立場の元・男としてな」

「馬鹿馬鹿しいね」

 婆さんの声を聞いたのはこれが最後だった。

 結局釈放されてしまった老婆はすぐに行方が分からなくなり、問題の施設ももぬけの殻となっていた。
 正体不明の女たちも、幼女含めて全員が再び行方不明となった。

 余りにも酷い警察の手落ちなんだが、実はオレは最後に婆さんに話しかけた時点でこうなるだろうということは予想出来ていた。

 実は過去にあの施設は何度も摘発されかけたらしいのだ。
 報告書を隅から隅まで読み込んでみるとその痕跡が見えてくる。
 だが、いつの間にかどこからか入った圧力によって事件そのものが無かったことにされてしまうのだ。


 あの婆さんに話したことも全て推測に過ぎない。
 だが、推測を重ねるならば、あの施設そのものはこの国を支配する「組織」によって半ば黙認されているものなのではあるまいか。
 今回あそこまで大々的に摘発したのは、新任の署長による勇み足で「あれには触れないこと」になっていたのではあるまいか…。

 オレが独り言だろうと勝手に喋ったのはこのことをせめて記録に残すためだ。
 何十年か先、もしもあの録音テープが記録に残されていたならば、その時に何らかの手掛かりになるのではないかということを期待してだ。

 無論、それが記録に残ることを好ましく思わない「勢力」なるものが存在しているのだとしたらあのテープは隠蔽されるだろう。
 そして、それを吹き込んだこのオレ自身の身も安全とは言いかねることになる。そのリスクは覚悟している。

 とりとめのない喋りだったが、オレはこのテープを自宅の金庫にこうやって保管することにする。いわゆる「音楽テープ」でどのくらいまでこの再生装置そのものが生産され、再現が可能なのかどうか分からないが、近所で買って来た安いプレイヤーとたっぷりの電池も一緒に入れておくから例え津波で流されても何とかなると思う。

 気のせいか分からないが、この頃どうも男としての性欲がイマイチ沸いて来ない。
 運動不足のせいか全身が贅肉で脂肪だらけになってきてるんだよ。
 だから寄せてあげればまるで(聞き取れず)みたいな胸…(雑音)

*ここでテープは終わっている*


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