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とある勇者の告白
作.真城 悠(Mashiro Yuh)
「真城の城」http://kayochan.com
「真城の居間」blog(http://white.ap.teacup.com/mashiroyuh/)
挿絵:松園
オレは勇者だ。
正確に言うと、勇者と一緒にパーティを組んで冒険の旅に出ている「魔法戦士」だ。
何やらアニメにカブれた中学生辺りがノートに書き付けた妄想みたいだが、事実だ。
と言うあたりで気が付いたかも知れないが、オレは現代人だ。
実は「中学生」だったのは随分前の話で、今はもう三十代のおっさんである。
都内に一人暮らしをしている平々凡々たるサラリーマン。三流大学を出て三流会社に勤め、大した給料も取れずにどうにか暮らしている。
当然、人間一人がやっと食える程度の給料なので結婚どころか付き合っている彼女にも縁はなし。
ただ、「副業」によってそれなりに稼いでいる。
というかそっちの稼ぎが馬鹿にならないので、それこそ税務署に目をつけられたらどうしようかと戦々恐々としているところだ。
…どの辺から話し始めればいいのか分からんが、結論から言うと、オレは二重生活をしている。
ある日別世界に召還されたんだ。
…あー、病院への通報はしなくて大丈夫だぞ。いたって普通だから。
そこは和製RPGで至極ありがちな中世ヨーロッパ風のファンタジー世界だった。
オレはある朝目が覚めるとそこの馬小屋の中に伸びていた。
当然パニックになったんだが、一日掛けてうろついている間にまた気が付くと自宅のベッドの中にいた。
性質(たち)の悪い夢だと思ったんだが、一日おきにこれが繰り返されるんで嫌になってきた。
どうやら寝ている間に異世界に飛ばされ、「夢」と同じタイミングで体験しているらしいのだ。
あちらの世界に「鏡」が無いので、自分のツラというか見た目がどういうことになっているのか全く分からんのだけど、まあ今のオレとそれほどは変わらないだろう。
余りにも真に迫った夢なので最初は戸惑ったが、暫(しばら)くすると少しは楽しめる余裕が出てきた。
いつもの馬小屋から足を伸ばして宿場町の酒場に入り浸る様になる。
自分のバックパックの中に通貨らしいものが入っていたのでそれで飲めることが分かって来たのだ。
それを繰り返す内に、「いかにも」な勇者、魔法使い、格闘家、僧侶などが集まってきて「一緒に冒険しよう」ということになった。
余りにもベタなシチュエーションに笑ってしまったのだが、折角ならそれも悪くない。
そんなこんなでオレは彼らと一緒に旅をすることにした。
毎日決まった時間にいなくなるオレに最初はパーティのみんなも戸惑っていたが、徐々に慣れてもらった。
毎日ひたすら書類を書き、役所に届けたりする退屈極まりない上にミスが許されないストレスの貯まる職場の格好の息抜きになっていた。
オレの役どころは「魔法戦士」だった。
魔法と戦闘の両方をこなすオールラウンドプレイヤー…というと聞こえはいいんだが、要するに「力任せにぶん殴る」ことと「攻撃魔法を使う」ことしか出来ない。
あと「自分の武器に攻撃属性を付ける」とかな。
専属の魔法使いは何か魔術っぽいことが沢山出来て羨ましい。
僧侶は戦闘時には足手まといになることが多いのだが、何しろ体力回復が出来るので物凄く重宝される。
戦士…勇者は言わずもがなの問答無用の戦闘の強さでパーティの中心を飾る花形だ。
つまり、オレの「魔法戦士」というのは非常に中途半端で「いくらでも替えが効く」存在だった。魔法が使える割には呪いを解除したり夜を照らしたりといった小技が使えず、体力回復は無理。
かといって本職の戦士ほどは強くない。
何度目かの冒険を追え、雇い主から給金を貰った段階でオレの方からパーティの脱退を申し入れた。
戦力として中途半端なのはともかく、「現実世界」に帰らなくてはならないので度々いなくなり、パーティの危機をすっぽかすこともしょっちゅう。この願いは受け入れられた。
となるとこの世界でどう食っていくかなんだが、色々探しているうちに「傭兵募集」の広告に引っ掛かった。
余りにも特殊な戦い方しか出来ないので、こんなのを雇ってくれるかどうか分からなかったのだが、半ば強引に引っ張り込まれた。
この傭兵団には魔法使いがいなかったらしく、隣国との戦争の際、軍隊そのものが鉢合わせをする前にオレが散々にぶっ放した攻撃魔法が相手の陣形をかなり崩すのが非常に珍しがられた。
無論、実際の戦闘においては主力が激突する前に弓矢や投石器でダメージを与えることを狙いはするんだが、こればっかりは攻撃魔法の方が上回ったらしい。
とある戦闘において、百人隊長を直撃しそうになった投石器の大岩を攻撃魔法で粉砕することで救ったことからえらい恩賞を賜った。
戦いは数なので、戦争に勝てるかどうかはどれだけ兵を動員出来るかに寄って決まる。
幸い、オレの所属する軍隊は連戦連勝だった。
徐々にオレの地位は上がっていった。
だが、所詮は雇われ兵なので、仕官・佐官クラスに昇格して部下を持つことなんて適わなかった。
まあ、元々この世界に住んでいたんならばそれも不満の種だったんだろうが、こちらの世界での出世なんてどうでも良かったから別に不満は無かった。
それもまた雇う側からすると好都合だったらしい。
オレは益々重宝され、あちこちの前線で戦わされた。
これでも「魔法“戦士”」なんで実際の腕っ節もそれなりなんだけど、とにかく遠距離攻撃魔法が強力なのでそればっかりやらされた。
それどころか、オレが撃たれると大幅な戦力ダウンになるので専属の守備兵まで付けてくれている。
正直、地位は大した事ないんだけど待遇がいいのでオレは結構いい気分だった。
それにオレのそばにいると結果として安全性が高いため、多くの傭兵が寄ってくることになる。
オレはこちらの世界のお金とか本当にどうでもいいので、折角ならと大きな戦闘が終わる度に周囲の守備兵たちに酒をおごるために大盤振る舞いした。
特に直接守ってくれる守備兵たちには手厚くし、彼らの労をねぎらうことを忘れなかった。
お陰で人望は益々厚くなり、結束も固くなった。
誰言うと無く「魔法戦士軍団」ということになり、まとまった単位で雇われることとなる。
とある夜、オレたちは夜襲を受けた。
オレはこちらの世界で寝ることは余り無いし、寝たら現実世界に戻れるものなんだが、この夜は違っていた。
夜襲だったため、見張りは皆殺しとなり、かなりの犠牲を出した。
オレが寝ているもっとも警戒厳重なテントも襲撃され、暗殺者が目の前にまでやってきた。
この日がターニングポイントだった。
オレは「ああ、オレはここで死ぬな」と思った瞬間に間抜けなことを考えていた。
「こいつが屈強な暗殺者じゃなくて、か弱い女の子だったらなあ…」というものだ。
ところが次の瞬間、信じられないことが起こった。
実際その通りになったんだ。いやホントに。
細かい鎖を編んだみたいなチェーンメールに乳首が挟まれそうになって痛がる美少女がそこにはいた。
この夜、夜襲を掛けてきた敵軍の暗殺部隊は哀れ全員が小娘へと変身させられていた。
仲間を殺された恨みは深く、「彼女」たちは全員ウチの部隊の慰み物となった。かなりの人数がそのまま殺されたらしい。
戦場でのことだから仕方が無い。しかも「彼女」たちは紛れも無い戦闘員だ。
ともあれ、この戦闘で露(あらわ)になったことの一つは、オレには他人を性転換させる能力があるということだ。
この日から戦闘の意味も変わってきた。
ウチの名前は鳴り響いていたので、名前を聞いただけで敵方に仕える傭兵部隊は逃げ出してしまうと噂されたほどなのだが、地元の兵隊は逃げる訳にはいかない。
オレが雇われている国が一体どんなことをやってるのかよく分からんけど、中世においては「自国の領土を拡大する」のは絶対の正義とされていたことだ。つまり侵略戦争だな。
ただ、どうやら随分前に取られた土地を取り返すための戦いではあるらしいことまでは分かった。
新参の傭兵にはそれくらいが精一杯。
しかし、相手も取り返そうとするからそれを防衛するのもオレたちの任務だった。
傭兵部隊の強みは「兵農分離」していることだ。
つまり、農繁期・農閑期関係なく戦闘が行える。というかそれこそが最大の強みである。
敵国が刈り取り時期に掛かっている間や雪に閉ざされて兵が動かせない時に動く。
この日の防衛戦は凄まじかった。
単なる「圧勝」ではない。
敵方の軍隊を本当に「全滅」させてしまったのだ。
といっても殺したのではない。
オレの能力によって、激突前に全員を小娘へと性転換させたことによって「崩壊」させたのだ。
具足…まあ、鎧兜みたいな鉄製の防具とか、槍とか剣みたいな武器だな…があると厄介だし、武器は危ないので全て消失させた。
考えるのも面倒くさいので、全員をセーラー服姿の女子高生に変えてやった。
相手は変わり果てた自らの姿に驚き、慌てる。
そりゃあそうだろう。女になっただけでも大混乱なのに、見たことも無い可愛い服装をしているのだから。
この時代の女すら経験が無いであろう柔らかな女物の下着は勿論、スカートに長い髪である。
別にオレがセーラー服属性があるわけじゃなくて、とにかく兵隊の格好だと武器や防具が危ないので物騒でない格好に変えただけだ。
折角女になってるんだから、女の制服が良かろうというわけ。単純な理屈だ。
哀れ女子高生たちは散り散りになって四散したが、全員が捕らえられた。
その後の運命は言うまでも無い。
ただ、今回は人数がかなり多かったため、オレの手引きで本国の奴隷商人及び女衒に売り飛ばした。
これが結構な金になったのだ。
え?残酷だって?
何を言ってるんだ。こりゃ戦(いくさ)だよ?
マトモにぶつかれば全員が死んでたかも知れない。つーかオレの戦闘力を持ってすればかなりの人数が死んでただろう。
それを基本的には誰も殺さずに戦闘に勝ったんだ。平和的じゃないかね。
え?男が女にされて売り飛ばされるのは死ぬよりも辛い屈辱じゃないかって?
…ま、そうかもしれん。ただ、その世界の平均寿命はせいぜい四十歳というところ。中世なんてそんなもんだ。
とりあえず死んじゃうのに比べれば生きてるだけマシだと思って貰わんとね。
こういう噂ってのは駆け巡るのは早いからねえ。
オレたちの通り名は単なる魔法戦士軍団から「死神軍団」だの「恐怖の女衒戦闘部隊」だのえらいことになっていた。
「激突した敵軍を全員娼婦にして売り飛ばす」という訳の分からん噂は何よりの強みだった。
ガラガラ蛇はそのけたたましい音で相手を威嚇し、逃げ出すのを待つという。
実際に戦っても強いが、「オレは強いぞ」という脅しで相手を屈服させ、無駄な戦闘を避けるのだ。
戦闘なんぞせずに勝つのが一番だ。
しかし、噂を信じない…という訳でも無いのだろうが、敵方は相変わらず攻め込んでくることを止めなかった。
そんなに兵隊が死んじゃったら国が持たないんじゃないの?と思うかも知れないが、オレの世界でのローマ対カルタゴの「ポエニ戦争」では紀元前の古代にも拘らず一回の戦闘で数万人が死ぬ様な戦闘がしょっちゅうおこなわれている。
この辺でやっと分かって来たんだが、どうやらオレが偶然味方することになった国はこの世界では結構な弱小国で、隣の大国がしょっちゅう侵攻を繰り返す位置にあったらしい。
オスマン・トルコ帝国やらペルシアがしょっちゅう攻めてきていた古代ギリシャとかローマ、或いは中東の国みたいなイメージだね。
だから国境線近くに配備されたオレたちは、気の毒な事に次々に投入される侵略軍を撃退し続けることになる。
正直、余りにも女だらけになったので本国では娼婦が余り始める事態になったらしい。これは異例のことだ。
オレによって性転換された兵隊はこの時点で恐らく万単位に近づいていたはずだ。
オレは本国には行ったことが無いので噂でしか知らないけど、オレによって女に変えられた兵隊たちは「変身女」とか「魔法女」とか呼ばれているらしい。
それでも、人数が多く、オレの趣味で結構造形を良くしていることもあって、単なる奴隷や娼婦だけではなくて、「玉の輿」にのって、貴族は無理でも豪商の愛人に納まるようなのも出てきたという。
まるきり人身売買であるが、オレは余り罪悪感は感じていなかった。
元々「彼女」らは戦場で死んでいたはずなのだ。それが女にされてはいるが曲がりなりにも生きてはいるのだ。
その後辛い事もあるだろうが、生きるチャンスを活かせるかどうかは本人次第。
中世ヨーロッパみたいな環境で、根無し草の若い女にどれくらい自活のチャンスがあるかなんて考えたくも無いが、まあ死ぬよりはいいだろう。
余り変な格好をさせてこの世界の文化に影響を与えるのも何なので、努めて無難な格好を選んできたんだけど、どうしても現代日本にある格好をさせてしまうので、この世界ではオーパーツであろうパンティだのワイヤー入りブラジャーだの、スリップだのを量産することになってしまう。
この世界の文化程度がよく分からんのだけど、多分鉄の加工技術だけでもまだまだのはずだ。
セーラー服の胸のボタンやフック、スカートのファスナー部分一つとっても未知のテクノロジーだろう。
これまでは戦場で採取された衣類がそのまま無事に本国に移送されることは余り無かった。
戦場で強姦される際に破り取られてしまうからだ。
だが、女体は勿論のこと、彼女たちが身に付けている衣類こそがお宝であるということに気が付き始めた目ざとい商人たちが、戦場に待機し相手の軍隊が女子高生の集団みたいになっちゃうと同時にウチの傭兵部隊よりも早くかっ飛んで行って服を破かない様に脱がせに掛かるという奇妙なことになってしまった。
荒くれ者揃いのウチの傭兵部隊にとっては犠牲者が着ている服なんぞどうでもいいので、せっせと脱がせてくれるのはお互いのニーズが合致していた。
すっぽんぽんになったところをウチの兵が襲い、裸のままでは何なので商人たちによって提供された粗末な服を着せられて売り飛ばされることになる。
噂ではとある貴族の令嬢がスリップを入手し、余りの肌触りのよさに感激して高値を付けたため、貴族世界の間でその価値が暴騰しているという。
当然「衣装狩り」をしている豪商にとってみればいちいち高値で売れる現代日本の女物の下着軍団はまるで宝石が噴出して来ているみたいなものだ。
この頃では衣装を剥ぎ取るためだけに傭兵部隊を雇って強奪して行く連中までいるらしい。
まあ、戦場で首尾よく全裸に出来たならいいが、衣装を引っ張り合って破いてしまっては元も子もないので、噂ではこの頃はカルテルを結成してローテーションで狩りあっているんだとか。
む~ん、多分その気になればオレが量産出来るから一代で大富豪だなあ…などと思い始めた。
その隣国の「大国」も兵隊が一人も帰ってこない惨状にそろそろ気が付き始めても良さそうなもんだけど、実は隣接しているのは元々別の国で、占領した国をこき使っているに過ぎないのだ。
だから、極論すれば一人もいなくなってしまっても構わないくらいの気持ちである。
ただ、生存率ゼロパーセントのみならず、娼婦として売り飛ばされるという意味不明の戦場伝説が伝播するに従って、死刑を覚悟の兵役拒否と反乱の機運まで聞こえてきた。
正確に数えた訳では無いが、戦場から見たことも無い扮装で逃げ帰ってくる女…要するに無事に逃げ延びた兵隊…は何人かはいるみたいなので、そいつらからの噂も伝わっていると思われる。
その逃げ延びた「女子高生」はどうしてるんだろうね?
別人になっているようにしか見えないから受け入れてもらえないだろうし、頭のおかしい女という扱いになるんだろうか。まあ、知った事じゃないが。
なんというか、たった一人で国政情勢のパワーバランスを左右していることに責任を感じないでもない。
現実の世界では今日も上司に嫌味を言われるだけの平凡なサラリーマンなんだが。
ここで最初の話に繋がる。
オレは思い切って「彼女」たちを現実世界にワープさせることって出来ないかな?と思った。
結論から言うとそれは出来たのだ。
でも言葉はどうするのかって?
…どうするんだろうね。まあ、知った事じゃない。オレがイメージしているのは日本の女子高生だから、こっちの世界に引っ張ってくれば日本語話せるんじゃないかな。適当で悪いんだけど。
つーか元々オレだって日本語しか話せないけど、こちらの世界では普通に会話してるから、多分その辺りは何とかなるんだろう。
ということで、試しに十人の「女子高生」たちを伴って現実世界に帰って来て見た。
変わり果てた自らの肉体と服装に戸惑いまくる屈強な男たちだった女子高生たち。
痴漢で通報されるのも面白くないので人の気配に注意しながらも挨拶代わりにスカートをめくってみる。
ちゃんと「きゃーっ!」といったリアクションも出来るみたいだ。精神的には男のままだけど、仕草や言葉遣いなどは女のものに変わっているのでその点問題なかろう。
本人たちにとってはたまらんだろうけどね。
で、まあ黒いルートを使って彼女たちを売り飛ばさせてもらった。
どうやら今は売春宿を兼ねる違法カジノでバニーガールをさせられているらしい。
というかオレは実際その様子を確かめに行った。
そこで「売ってくれた御礼に」と一人をあてがわれた。
これまでも何度と無く戦場で「成果」を頂いてはいたが、こんな妖艶な格好の「獲物」と対峙するのは初めてだった。
なんと皮肉なことだろうか、その「彼女」はかつて一緒に冒険をした「勇者」のなれの果てだったことが分かった。
結局「冒険」では食えず、いい加減年も取ってきたところで駐留していた国ごと侵略され、自ら侵略軍として片棒を担がされていたのだという。残りのパーティは四散していて行方も分からないらしい。
オレは自分でやらかしたこととはいえ、「彼女」のふるいつきたくなるような見事なプロポーションに圧倒されていた。
仕草も二十年は女をやっているかのように滑らかで、化粧のりもバッチリ。
正に「頭のてっぺんからつま先まで」100パーセントバニーガールだった。
「同じ冒険をしていたよしみで元に戻してくれ」と懇願された。無論女言葉で。

え?で、どうしたかって?
悪いんだけど、かつての勇者の姿を思い浮かべながらおいしく頂いたよ。どうやらまだ処女だったらしく、この日が初めての男を知る日になったらしい。
きっと全身をまさぐられ、女体の快感に打ち震えながら脳内ではかつての冒険の日々やら、救出したお姫様との「男として」のラブロマンスやらを思い出してたかも知れないねえ。
あと、仲間との楽しい酒場での馬鹿話とか。
結婚したのかどうか余り聞いてなかったが、定宿の看板娘とは「できて」たみたいだった。
折角なんでそのことを聞いてみると、イヤイヤながら事実を認めた。どうも一家を構えて子供までいたらしい。
それが今じゃ水商売で身体を売る女に転落…、自ら女房の乳首を吸ってた者が今じゃ女にされて恥ずかしいコスチュームを着せられた上に見ず知らずの男の客に乳首を吸われてるんだからたまったもんじゃない。
ふと視線を落とせばそこには自らの乳房やらバニースーツやら網タイツやらハイヒールなんかがあるわけだ。
まあ、…悪夢だわな。どう考えても。
けどさ、そういうのを考えながら犯すのが男ってもんじゃないかい?違うか。
多分、「魔法女」が人気なのは、そういう男の征服欲を満足させてくれるからじゃないか…とこの頃は勝手に思っている。
つーかいい年こいた勇者崩れなんぞあの世界でももう役には立つまいよ。
平和な日本でバニーガールとして生きて行くほうがナンボかマシな人生だって。
その後「彼女」には会っていない。
元に戻してくれないと分かっても「身請けしてくれるかも」なんて希望だけは持ってたみたいだけど、悪いが元・男でしかも魔法で女に変えられた奴なんてまっぴらゴメンだね。
それこそ男の時代のことを思い出して対等に振舞おうとされた日にゃ手を出さない自信が無いもん。
なんだか鬼畜みたいだが、要するに男同士の意識で結婚なんて無理だってこと。同性愛カップルって少なくとも意識の上では男と女だろ?でもあのバニーって完全に意識男だもん。
まあ、性機能やプロポーションは勿論、仕草から何から完全に女にしてるけど多分意識は男のまんまだから抵抗あると思うぜ?
ま、いいや細かいことは。
と言うわけでオレの副業はこれ。
そう「人身売買」だよ。
これがまた結構カネになるんだわ。
中世世界と違って余りに一度に大量に持ってくると怪しまれるんで少しずつにしてる。
それに流石にこの頃は「大国」も懲りたのか、かつてほど頻繁な侵略は起こしてこない。
ところがどうもウチの方の国王がスケベ心を出してむしろ逆に隣の「大国」を食ってやるみたいなことをほざいてるらしい。
なんでも、一応国交があった頃に屈辱的な土下座外交をさせられたことを根に持っていて、相手方の大王を小娘にして自分の愛人にしてやるとのたまっているとかいないとか。
つーか勝手に話を進めないで欲しいなあ。それはオレがいないと出来ないことなんじゃないの?
そんなこんなでこれから一旦引き上げて国王に会ってくる。
隣国への侵略計画が愈々始まるんだってさ。だから呼び出されたんだ。
まるで貴族みたいなあの送迎の隊列みてみろって。まあ、この国始まって以来の戦功をあげた防衛部隊の隊長だからね。
え?そんなに多くの人間の人生を狂わせておいて罪悪感は感じないのかって?
…感じないね。
何度も言うけど、彼らは本来なら戦場で死んでるんだ。
それが…まあ悲惨ではあるが曲がりなりにも生きてる。
人間、死んじゃあ終わりだけど、生きてれば何とかなることもあるじゃん?
ハンニバルやアレクサンダー大王、乾隆帝やチンギス・ハーンみたいな侵略者ならともかく、スキピオやカエサルだって戦争で何万人殺したと思ってんの?
しかもベビーフェイス(善玉)イメージの強いカエサルだって兵隊のための略奪・虐殺もしょっちゅうやってるんだよ?
それに比べたら兵隊を全員娼婦にして売り飛ばすなんて良心的もいいところだっての。
そんなこんなでこれからもオレの活躍は続きそうなんで楽しみにしてるところ。
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「真城の城」http://kayochan.com
「真城の居間」blog(http://white.ap.teacup.com/mashiroyuh/)
挿絵:松園
オレは勇者だ。
正確に言うと、勇者と一緒にパーティを組んで冒険の旅に出ている「魔法戦士」だ。
何やらアニメにカブれた中学生辺りがノートに書き付けた妄想みたいだが、事実だ。
と言うあたりで気が付いたかも知れないが、オレは現代人だ。
実は「中学生」だったのは随分前の話で、今はもう三十代のおっさんである。
都内に一人暮らしをしている平々凡々たるサラリーマン。三流大学を出て三流会社に勤め、大した給料も取れずにどうにか暮らしている。
当然、人間一人がやっと食える程度の給料なので結婚どころか付き合っている彼女にも縁はなし。
ただ、「副業」によってそれなりに稼いでいる。
というかそっちの稼ぎが馬鹿にならないので、それこそ税務署に目をつけられたらどうしようかと戦々恐々としているところだ。
…どの辺から話し始めればいいのか分からんが、結論から言うと、オレは二重生活をしている。
ある日別世界に召還されたんだ。
…あー、病院への通報はしなくて大丈夫だぞ。いたって普通だから。
そこは和製RPGで至極ありがちな中世ヨーロッパ風のファンタジー世界だった。
オレはある朝目が覚めるとそこの馬小屋の中に伸びていた。
当然パニックになったんだが、一日掛けてうろついている間にまた気が付くと自宅のベッドの中にいた。
性質(たち)の悪い夢だと思ったんだが、一日おきにこれが繰り返されるんで嫌になってきた。
どうやら寝ている間に異世界に飛ばされ、「夢」と同じタイミングで体験しているらしいのだ。
あちらの世界に「鏡」が無いので、自分のツラというか見た目がどういうことになっているのか全く分からんのだけど、まあ今のオレとそれほどは変わらないだろう。
余りにも真に迫った夢なので最初は戸惑ったが、暫(しばら)くすると少しは楽しめる余裕が出てきた。
いつもの馬小屋から足を伸ばして宿場町の酒場に入り浸る様になる。
自分のバックパックの中に通貨らしいものが入っていたのでそれで飲めることが分かって来たのだ。
それを繰り返す内に、「いかにも」な勇者、魔法使い、格闘家、僧侶などが集まってきて「一緒に冒険しよう」ということになった。
余りにもベタなシチュエーションに笑ってしまったのだが、折角ならそれも悪くない。
そんなこんなでオレは彼らと一緒に旅をすることにした。
毎日決まった時間にいなくなるオレに最初はパーティのみんなも戸惑っていたが、徐々に慣れてもらった。
毎日ひたすら書類を書き、役所に届けたりする退屈極まりない上にミスが許されないストレスの貯まる職場の格好の息抜きになっていた。
オレの役どころは「魔法戦士」だった。
魔法と戦闘の両方をこなすオールラウンドプレイヤー…というと聞こえはいいんだが、要するに「力任せにぶん殴る」ことと「攻撃魔法を使う」ことしか出来ない。
あと「自分の武器に攻撃属性を付ける」とかな。
専属の魔法使いは何か魔術っぽいことが沢山出来て羨ましい。
僧侶は戦闘時には足手まといになることが多いのだが、何しろ体力回復が出来るので物凄く重宝される。
戦士…勇者は言わずもがなの問答無用の戦闘の強さでパーティの中心を飾る花形だ。
つまり、オレの「魔法戦士」というのは非常に中途半端で「いくらでも替えが効く」存在だった。魔法が使える割には呪いを解除したり夜を照らしたりといった小技が使えず、体力回復は無理。
かといって本職の戦士ほどは強くない。
何度目かの冒険を追え、雇い主から給金を貰った段階でオレの方からパーティの脱退を申し入れた。
戦力として中途半端なのはともかく、「現実世界」に帰らなくてはならないので度々いなくなり、パーティの危機をすっぽかすこともしょっちゅう。この願いは受け入れられた。
となるとこの世界でどう食っていくかなんだが、色々探しているうちに「傭兵募集」の広告に引っ掛かった。
余りにも特殊な戦い方しか出来ないので、こんなのを雇ってくれるかどうか分からなかったのだが、半ば強引に引っ張り込まれた。
この傭兵団には魔法使いがいなかったらしく、隣国との戦争の際、軍隊そのものが鉢合わせをする前にオレが散々にぶっ放した攻撃魔法が相手の陣形をかなり崩すのが非常に珍しがられた。
無論、実際の戦闘においては主力が激突する前に弓矢や投石器でダメージを与えることを狙いはするんだが、こればっかりは攻撃魔法の方が上回ったらしい。
とある戦闘において、百人隊長を直撃しそうになった投石器の大岩を攻撃魔法で粉砕することで救ったことからえらい恩賞を賜った。
戦いは数なので、戦争に勝てるかどうかはどれだけ兵を動員出来るかに寄って決まる。
幸い、オレの所属する軍隊は連戦連勝だった。
徐々にオレの地位は上がっていった。
だが、所詮は雇われ兵なので、仕官・佐官クラスに昇格して部下を持つことなんて適わなかった。
まあ、元々この世界に住んでいたんならばそれも不満の種だったんだろうが、こちらの世界での出世なんてどうでも良かったから別に不満は無かった。
それもまた雇う側からすると好都合だったらしい。
オレは益々重宝され、あちこちの前線で戦わされた。
これでも「魔法“戦士”」なんで実際の腕っ節もそれなりなんだけど、とにかく遠距離攻撃魔法が強力なのでそればっかりやらされた。
それどころか、オレが撃たれると大幅な戦力ダウンになるので専属の守備兵まで付けてくれている。
正直、地位は大した事ないんだけど待遇がいいのでオレは結構いい気分だった。
それにオレのそばにいると結果として安全性が高いため、多くの傭兵が寄ってくることになる。
オレはこちらの世界のお金とか本当にどうでもいいので、折角ならと大きな戦闘が終わる度に周囲の守備兵たちに酒をおごるために大盤振る舞いした。
特に直接守ってくれる守備兵たちには手厚くし、彼らの労をねぎらうことを忘れなかった。
お陰で人望は益々厚くなり、結束も固くなった。
誰言うと無く「魔法戦士軍団」ということになり、まとまった単位で雇われることとなる。
とある夜、オレたちは夜襲を受けた。
オレはこちらの世界で寝ることは余り無いし、寝たら現実世界に戻れるものなんだが、この夜は違っていた。
夜襲だったため、見張りは皆殺しとなり、かなりの犠牲を出した。
オレが寝ているもっとも警戒厳重なテントも襲撃され、暗殺者が目の前にまでやってきた。
この日がターニングポイントだった。
オレは「ああ、オレはここで死ぬな」と思った瞬間に間抜けなことを考えていた。
「こいつが屈強な暗殺者じゃなくて、か弱い女の子だったらなあ…」というものだ。
ところが次の瞬間、信じられないことが起こった。
実際その通りになったんだ。いやホントに。
細かい鎖を編んだみたいなチェーンメールに乳首が挟まれそうになって痛がる美少女がそこにはいた。
この夜、夜襲を掛けてきた敵軍の暗殺部隊は哀れ全員が小娘へと変身させられていた。
仲間を殺された恨みは深く、「彼女」たちは全員ウチの部隊の慰み物となった。かなりの人数がそのまま殺されたらしい。
戦場でのことだから仕方が無い。しかも「彼女」たちは紛れも無い戦闘員だ。
ともあれ、この戦闘で露(あらわ)になったことの一つは、オレには他人を性転換させる能力があるということだ。
この日から戦闘の意味も変わってきた。
ウチの名前は鳴り響いていたので、名前を聞いただけで敵方に仕える傭兵部隊は逃げ出してしまうと噂されたほどなのだが、地元の兵隊は逃げる訳にはいかない。
オレが雇われている国が一体どんなことをやってるのかよく分からんけど、中世においては「自国の領土を拡大する」のは絶対の正義とされていたことだ。つまり侵略戦争だな。
ただ、どうやら随分前に取られた土地を取り返すための戦いではあるらしいことまでは分かった。
新参の傭兵にはそれくらいが精一杯。
しかし、相手も取り返そうとするからそれを防衛するのもオレたちの任務だった。
傭兵部隊の強みは「兵農分離」していることだ。
つまり、農繁期・農閑期関係なく戦闘が行える。というかそれこそが最大の強みである。
敵国が刈り取り時期に掛かっている間や雪に閉ざされて兵が動かせない時に動く。
この日の防衛戦は凄まじかった。
単なる「圧勝」ではない。
敵方の軍隊を本当に「全滅」させてしまったのだ。
といっても殺したのではない。
オレの能力によって、激突前に全員を小娘へと性転換させたことによって「崩壊」させたのだ。
具足…まあ、鎧兜みたいな鉄製の防具とか、槍とか剣みたいな武器だな…があると厄介だし、武器は危ないので全て消失させた。
考えるのも面倒くさいので、全員をセーラー服姿の女子高生に変えてやった。
相手は変わり果てた自らの姿に驚き、慌てる。
そりゃあそうだろう。女になっただけでも大混乱なのに、見たことも無い可愛い服装をしているのだから。
この時代の女すら経験が無いであろう柔らかな女物の下着は勿論、スカートに長い髪である。
別にオレがセーラー服属性があるわけじゃなくて、とにかく兵隊の格好だと武器や防具が危ないので物騒でない格好に変えただけだ。
折角女になってるんだから、女の制服が良かろうというわけ。単純な理屈だ。
哀れ女子高生たちは散り散りになって四散したが、全員が捕らえられた。
その後の運命は言うまでも無い。
ただ、今回は人数がかなり多かったため、オレの手引きで本国の奴隷商人及び女衒に売り飛ばした。
これが結構な金になったのだ。
え?残酷だって?
何を言ってるんだ。こりゃ戦(いくさ)だよ?
マトモにぶつかれば全員が死んでたかも知れない。つーかオレの戦闘力を持ってすればかなりの人数が死んでただろう。
それを基本的には誰も殺さずに戦闘に勝ったんだ。平和的じゃないかね。
え?男が女にされて売り飛ばされるのは死ぬよりも辛い屈辱じゃないかって?
…ま、そうかもしれん。ただ、その世界の平均寿命はせいぜい四十歳というところ。中世なんてそんなもんだ。
とりあえず死んじゃうのに比べれば生きてるだけマシだと思って貰わんとね。
こういう噂ってのは駆け巡るのは早いからねえ。
オレたちの通り名は単なる魔法戦士軍団から「死神軍団」だの「恐怖の女衒戦闘部隊」だのえらいことになっていた。
「激突した敵軍を全員娼婦にして売り飛ばす」という訳の分からん噂は何よりの強みだった。
ガラガラ蛇はそのけたたましい音で相手を威嚇し、逃げ出すのを待つという。
実際に戦っても強いが、「オレは強いぞ」という脅しで相手を屈服させ、無駄な戦闘を避けるのだ。
戦闘なんぞせずに勝つのが一番だ。
しかし、噂を信じない…という訳でも無いのだろうが、敵方は相変わらず攻め込んでくることを止めなかった。
そんなに兵隊が死んじゃったら国が持たないんじゃないの?と思うかも知れないが、オレの世界でのローマ対カルタゴの「ポエニ戦争」では紀元前の古代にも拘らず一回の戦闘で数万人が死ぬ様な戦闘がしょっちゅうおこなわれている。
この辺でやっと分かって来たんだが、どうやらオレが偶然味方することになった国はこの世界では結構な弱小国で、隣の大国がしょっちゅう侵攻を繰り返す位置にあったらしい。
オスマン・トルコ帝国やらペルシアがしょっちゅう攻めてきていた古代ギリシャとかローマ、或いは中東の国みたいなイメージだね。
だから国境線近くに配備されたオレたちは、気の毒な事に次々に投入される侵略軍を撃退し続けることになる。
正直、余りにも女だらけになったので本国では娼婦が余り始める事態になったらしい。これは異例のことだ。
オレによって性転換された兵隊はこの時点で恐らく万単位に近づいていたはずだ。
オレは本国には行ったことが無いので噂でしか知らないけど、オレによって女に変えられた兵隊たちは「変身女」とか「魔法女」とか呼ばれているらしい。
それでも、人数が多く、オレの趣味で結構造形を良くしていることもあって、単なる奴隷や娼婦だけではなくて、「玉の輿」にのって、貴族は無理でも豪商の愛人に納まるようなのも出てきたという。
まるきり人身売買であるが、オレは余り罪悪感は感じていなかった。
元々「彼女」らは戦場で死んでいたはずなのだ。それが女にされてはいるが曲がりなりにも生きてはいるのだ。
その後辛い事もあるだろうが、生きるチャンスを活かせるかどうかは本人次第。
中世ヨーロッパみたいな環境で、根無し草の若い女にどれくらい自活のチャンスがあるかなんて考えたくも無いが、まあ死ぬよりはいいだろう。
余り変な格好をさせてこの世界の文化に影響を与えるのも何なので、努めて無難な格好を選んできたんだけど、どうしても現代日本にある格好をさせてしまうので、この世界ではオーパーツであろうパンティだのワイヤー入りブラジャーだの、スリップだのを量産することになってしまう。
この世界の文化程度がよく分からんのだけど、多分鉄の加工技術だけでもまだまだのはずだ。
セーラー服の胸のボタンやフック、スカートのファスナー部分一つとっても未知のテクノロジーだろう。
これまでは戦場で採取された衣類がそのまま無事に本国に移送されることは余り無かった。
戦場で強姦される際に破り取られてしまうからだ。
だが、女体は勿論のこと、彼女たちが身に付けている衣類こそがお宝であるということに気が付き始めた目ざとい商人たちが、戦場に待機し相手の軍隊が女子高生の集団みたいになっちゃうと同時にウチの傭兵部隊よりも早くかっ飛んで行って服を破かない様に脱がせに掛かるという奇妙なことになってしまった。
荒くれ者揃いのウチの傭兵部隊にとっては犠牲者が着ている服なんぞどうでもいいので、せっせと脱がせてくれるのはお互いのニーズが合致していた。
すっぽんぽんになったところをウチの兵が襲い、裸のままでは何なので商人たちによって提供された粗末な服を着せられて売り飛ばされることになる。
噂ではとある貴族の令嬢がスリップを入手し、余りの肌触りのよさに感激して高値を付けたため、貴族世界の間でその価値が暴騰しているという。
当然「衣装狩り」をしている豪商にとってみればいちいち高値で売れる現代日本の女物の下着軍団はまるで宝石が噴出して来ているみたいなものだ。
この頃では衣装を剥ぎ取るためだけに傭兵部隊を雇って強奪して行く連中までいるらしい。
まあ、戦場で首尾よく全裸に出来たならいいが、衣装を引っ張り合って破いてしまっては元も子もないので、噂ではこの頃はカルテルを結成してローテーションで狩りあっているんだとか。
む~ん、多分その気になればオレが量産出来るから一代で大富豪だなあ…などと思い始めた。
その隣国の「大国」も兵隊が一人も帰ってこない惨状にそろそろ気が付き始めても良さそうなもんだけど、実は隣接しているのは元々別の国で、占領した国をこき使っているに過ぎないのだ。
だから、極論すれば一人もいなくなってしまっても構わないくらいの気持ちである。
ただ、生存率ゼロパーセントのみならず、娼婦として売り飛ばされるという意味不明の戦場伝説が伝播するに従って、死刑を覚悟の兵役拒否と反乱の機運まで聞こえてきた。
正確に数えた訳では無いが、戦場から見たことも無い扮装で逃げ帰ってくる女…要するに無事に逃げ延びた兵隊…は何人かはいるみたいなので、そいつらからの噂も伝わっていると思われる。
その逃げ延びた「女子高生」はどうしてるんだろうね?
別人になっているようにしか見えないから受け入れてもらえないだろうし、頭のおかしい女という扱いになるんだろうか。まあ、知った事じゃないが。
なんというか、たった一人で国政情勢のパワーバランスを左右していることに責任を感じないでもない。
現実の世界では今日も上司に嫌味を言われるだけの平凡なサラリーマンなんだが。
ここで最初の話に繋がる。
オレは思い切って「彼女」たちを現実世界にワープさせることって出来ないかな?と思った。
結論から言うとそれは出来たのだ。
でも言葉はどうするのかって?
…どうするんだろうね。まあ、知った事じゃない。オレがイメージしているのは日本の女子高生だから、こっちの世界に引っ張ってくれば日本語話せるんじゃないかな。適当で悪いんだけど。
つーか元々オレだって日本語しか話せないけど、こちらの世界では普通に会話してるから、多分その辺りは何とかなるんだろう。
ということで、試しに十人の「女子高生」たちを伴って現実世界に帰って来て見た。
変わり果てた自らの肉体と服装に戸惑いまくる屈強な男たちだった女子高生たち。
痴漢で通報されるのも面白くないので人の気配に注意しながらも挨拶代わりにスカートをめくってみる。
ちゃんと「きゃーっ!」といったリアクションも出来るみたいだ。精神的には男のままだけど、仕草や言葉遣いなどは女のものに変わっているのでその点問題なかろう。
本人たちにとってはたまらんだろうけどね。
で、まあ黒いルートを使って彼女たちを売り飛ばさせてもらった。
どうやら今は売春宿を兼ねる違法カジノでバニーガールをさせられているらしい。
というかオレは実際その様子を確かめに行った。
そこで「売ってくれた御礼に」と一人をあてがわれた。
これまでも何度と無く戦場で「成果」を頂いてはいたが、こんな妖艶な格好の「獲物」と対峙するのは初めてだった。
なんと皮肉なことだろうか、その「彼女」はかつて一緒に冒険をした「勇者」のなれの果てだったことが分かった。
結局「冒険」では食えず、いい加減年も取ってきたところで駐留していた国ごと侵略され、自ら侵略軍として片棒を担がされていたのだという。残りのパーティは四散していて行方も分からないらしい。
オレは自分でやらかしたこととはいえ、「彼女」のふるいつきたくなるような見事なプロポーションに圧倒されていた。
仕草も二十年は女をやっているかのように滑らかで、化粧のりもバッチリ。
正に「頭のてっぺんからつま先まで」100パーセントバニーガールだった。
「同じ冒険をしていたよしみで元に戻してくれ」と懇願された。無論女言葉で。

え?で、どうしたかって?
悪いんだけど、かつての勇者の姿を思い浮かべながらおいしく頂いたよ。どうやらまだ処女だったらしく、この日が初めての男を知る日になったらしい。
きっと全身をまさぐられ、女体の快感に打ち震えながら脳内ではかつての冒険の日々やら、救出したお姫様との「男として」のラブロマンスやらを思い出してたかも知れないねえ。
あと、仲間との楽しい酒場での馬鹿話とか。
結婚したのかどうか余り聞いてなかったが、定宿の看板娘とは「できて」たみたいだった。
折角なんでそのことを聞いてみると、イヤイヤながら事実を認めた。どうも一家を構えて子供までいたらしい。
それが今じゃ水商売で身体を売る女に転落…、自ら女房の乳首を吸ってた者が今じゃ女にされて恥ずかしいコスチュームを着せられた上に見ず知らずの男の客に乳首を吸われてるんだからたまったもんじゃない。
ふと視線を落とせばそこには自らの乳房やらバニースーツやら網タイツやらハイヒールなんかがあるわけだ。
まあ、…悪夢だわな。どう考えても。
けどさ、そういうのを考えながら犯すのが男ってもんじゃないかい?違うか。
多分、「魔法女」が人気なのは、そういう男の征服欲を満足させてくれるからじゃないか…とこの頃は勝手に思っている。
つーかいい年こいた勇者崩れなんぞあの世界でももう役には立つまいよ。
平和な日本でバニーガールとして生きて行くほうがナンボかマシな人生だって。
その後「彼女」には会っていない。
元に戻してくれないと分かっても「身請けしてくれるかも」なんて希望だけは持ってたみたいだけど、悪いが元・男でしかも魔法で女に変えられた奴なんてまっぴらゴメンだね。
それこそ男の時代のことを思い出して対等に振舞おうとされた日にゃ手を出さない自信が無いもん。
なんだか鬼畜みたいだが、要するに男同士の意識で結婚なんて無理だってこと。同性愛カップルって少なくとも意識の上では男と女だろ?でもあのバニーって完全に意識男だもん。
まあ、性機能やプロポーションは勿論、仕草から何から完全に女にしてるけど多分意識は男のまんまだから抵抗あると思うぜ?
ま、いいや細かいことは。
と言うわけでオレの副業はこれ。
そう「人身売買」だよ。
これがまた結構カネになるんだわ。
中世世界と違って余りに一度に大量に持ってくると怪しまれるんで少しずつにしてる。
それに流石にこの頃は「大国」も懲りたのか、かつてほど頻繁な侵略は起こしてこない。
ところがどうもウチの方の国王がスケベ心を出してむしろ逆に隣の「大国」を食ってやるみたいなことをほざいてるらしい。
なんでも、一応国交があった頃に屈辱的な土下座外交をさせられたことを根に持っていて、相手方の大王を小娘にして自分の愛人にしてやるとのたまっているとかいないとか。
つーか勝手に話を進めないで欲しいなあ。それはオレがいないと出来ないことなんじゃないの?
そんなこんなでこれから一旦引き上げて国王に会ってくる。
隣国への侵略計画が愈々始まるんだってさ。だから呼び出されたんだ。
まるで貴族みたいなあの送迎の隊列みてみろって。まあ、この国始まって以来の戦功をあげた防衛部隊の隊長だからね。
え?そんなに多くの人間の人生を狂わせておいて罪悪感は感じないのかって?
…感じないね。
何度も言うけど、彼らは本来なら戦場で死んでるんだ。
それが…まあ悲惨ではあるが曲がりなりにも生きてる。
人間、死んじゃあ終わりだけど、生きてれば何とかなることもあるじゃん?
ハンニバルやアレクサンダー大王、乾隆帝やチンギス・ハーンみたいな侵略者ならともかく、スキピオやカエサルだって戦争で何万人殺したと思ってんの?
しかもベビーフェイス(善玉)イメージの強いカエサルだって兵隊のための略奪・虐殺もしょっちゅうやってるんだよ?
それに比べたら兵隊を全員娼婦にして売り飛ばすなんて良心的もいいところだっての。
そんなこんなでこれからもオレの活躍は続きそうなんで楽しみにしてるところ。
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