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代理出産!? (5)
(5)-------------------------------------------------------
「まったく、高明の馬鹿者が。こんな可愛いお嬢さんを、二度も孕ませるとは……」
年かさの男性が言う。たぶんこの人が高明氏の父親なのだろう。
厳父というのを絵にしたような人物で、口ひげまで生やしている。
ということは、隣に立っている若い男性が、高明氏の本来の姿か……。
「高……いや、ソフィがどうしても二人目が欲しいというものだから……ははは」
「お、お恥ずかしいですわ、オトウサマ」
鈴の音のような声を、ちょっと引きつらせて高明氏が言う。
「いいか、高明。ただでさえ、ソフィア嬢に負担をかけているんだ。十分に労わってやらないと、ハンガリーのご両親に申し訳が立たない。判っているな?」
「ワ、ワタシは十分にしていただいておりますわ、オトウサマ。それよりも、ここにはほら、
他の“妊夫”の方もいらっしゃるのですから、そんなに大声を出されては、ご迷惑になりますわ」
ハイトーンの可愛らしい声で、高明氏が親父殿を諌めた。
「おお、そうであったな。これは失礼」
と、口調の割には終始笑顔のままの、親父殿がおれたちに会釈した。
「あ、いいえ、どうそお構いなく……」
と、曖昧な答えを返す。
一条氏は……というと、毛布をかぶって寝たふりをしている。
微妙に背中が震えているところを見ると、どうやら、一条氏はこの状況の裏事情をご存知らしい。知っていて、笑いをこらえているに違いない。
「では、これで失礼するよ。では、みなさん、お騒がせして申し訳ない。お大事に」
と、二人はおれ達に向かって会釈をした。
「ありがとうございます。道中お気をつけて」
と、当たり障りのなさそうな挨拶を返した。
二人が行ってしまうと、高明氏はベッドの上に手足を投げ出しながら言った。
「あー、びっくりした! 親父のヤツ、急に来やがるんだもんなぁ! 心臓止まるかと思った!」
声音も口調も、すっかり元通りの高明氏に戻っていた。
「ええと、さっきのは……?」
「ああ、俺の親父と妻のソフィアだ」
「な、なかなかに凛々しい方ですね……」
「あ? ああ、俺の体のことか。そうだろう、ソフィの奴、早く元に戻して……おい! 一条! いつまで笑ってんだ!」
振り返ると、一条氏が顔を真赤にして、声を殺して笑っていた。
「だって、だって……うぷぷ、もうダメ! あっはははははは!」
「全く、俺だってソフィのフリするの嫌なんだよ……」
高明氏は少し頬を染め、膨れ面をしながら言う。
妖精の拗ねた顔のようで、見ているとおかしな気分になってくる。
だがベッドの上で腕を組み、あぐらをかいて居るのはいただけないな。
おれは、疑問に思っていた事を口にした。
「ところで、さっきハンガリーのご両親がどうとか……」
「ああ、ソフィの生まれた国だ。俺はもともと商社づとめでな。商用でブダペストに行った時、あいつに出会ったんだ。プラタナスの街路樹にもたれかかって、文庫本を読んでいてよ。つい話しかけたくなって近づいた俺に気がついて、ニコッと笑ってさ。それこそ天使のようだったんだ。いわゆる一目惚れってやつだな。俺はコイツを絶対妻にしてやるって思ったんだ」
はいはいごちそうさま。しかし、話している内容と姿がチグハグすぎますよ、高明氏。
で、俺は出会ってから、ずっと聞きたいことがあった。
「で、おいくつなんですか?」
「あ? 今年で30だが……」
そんなわけないだろう。
「いや、ソフィアさんのほうで……」
「……16。今年な」
な、なんだとー!
心の声が聞こえたのか、高明氏は慌てて弁明するように言った。
「いや、俺だって最初に会った時は、もう少し歳をとっていると思ったんだ。そう、20歳ぐらいに……。
いやいやいや、今のあなたはとてもそんな歳には見えませんよ。
本当の歳が16歳というのはまだ頷ける。
「あれ? そういえば、ソ……じゃなかった、高明さん、確か二人目だと……」
「うむ……出会った時は、まだ14歳だった……って、そんな顔するなよ! 外人の年齢って、ホント見た目じゃわからないよな? ははは……」
ジト目にもなりますよ、このロリコン野郎め!
「や、本当に出会った時はもっとずっと大人びて見えたんだぞ? 今は2度めの妊娠して、少し太ったから、ちょっと幼く見えるだけだ」
説得力がすごくないんですけど……。
ま、そういうおれの妻も、歳には見えない幼い顔つきをしてはいるが……。
「まったく、犯罪ですよね」
それまで、笑いを押し殺していた一条氏が口を開いた。
「ちゃんと、向こうの両親の許可は貰ってる。もちろん結婚のだぞ」
「ハンガリーのご両親に、模造刀で切腹の真似までしたんですよね?」
「ん? そんなことまで話していたか。まぁ、そういうことだ、ははは……」
高明氏が頭を掻きながら、ごまかしていると、コンコンと開け放しの扉をノックして、赤ん坊を抱えた紳士が現れた。
「失礼します。剛毅さん、お加減はいかがですか?」
「瞳……あ、小鳥遊さん。こちら、妻です」
「はじめまして。小鳥遊さん。剛毅の妻の瞳です。いつも夫がお世話になっております」
“妻”と名乗った紳士は、赤ん坊を抱えたまま、丁寧に頭を下げた。
背が高く、格闘家のようながっしりとした体格の紳士だった。
それに低くよく通る声。男としては理想とも言える体の持ち主。
これが一条さんの本当の体なんだと、感心すると同時に、少し嫉妬のようなものを感じた。
「あ、いえ、奥……いえ、ご主人とは今日お会いしたばかりなので……」
「おや、そうでしたか。ソフィアさんも、こんにちは。何時も剛毅がお世話になっております」
「俺のことは“高明”って呼べと言ったろう?」
「でも、こないだお会いした時は……」
「あん時は親父がいたからだ!」
おお、ニンフがヘラクレスに絡んでる。実に興味深い光景だ(笑)。
「まだ入れ替わっていること、おっしゃっていないんですか?」
「言えるわけ無いだろ? 恥ずかしくてこんなこと言えるか!」
「2年近くも騙し続けていられるなんて、驚きですね」
あ、なるほど。それでさっきの高明氏の豹変ぶりも、理解できた。
「金髪ロリツインテールにツンデレなんて、マニアのツボ突きまくりですね」
「好きでやってるんじゃないっ!」
と、両手を振りかざし、顔を真っ赤にして怒る、高明氏。
そうか、妊娠中期の妊婦って幼児体型なんだ。と、また新たな発見。
でも茶化すのは、この辺にしておいたほうがよさそうだ。
(つづく)
「まったく、高明の馬鹿者が。こんな可愛いお嬢さんを、二度も孕ませるとは……」
年かさの男性が言う。たぶんこの人が高明氏の父親なのだろう。
厳父というのを絵にしたような人物で、口ひげまで生やしている。
ということは、隣に立っている若い男性が、高明氏の本来の姿か……。
「高……いや、ソフィがどうしても二人目が欲しいというものだから……ははは」
「お、お恥ずかしいですわ、オトウサマ」
鈴の音のような声を、ちょっと引きつらせて高明氏が言う。
「いいか、高明。ただでさえ、ソフィア嬢に負担をかけているんだ。十分に労わってやらないと、ハンガリーのご両親に申し訳が立たない。判っているな?」
「ワ、ワタシは十分にしていただいておりますわ、オトウサマ。それよりも、ここにはほら、
他の“妊夫”の方もいらっしゃるのですから、そんなに大声を出されては、ご迷惑になりますわ」
ハイトーンの可愛らしい声で、高明氏が親父殿を諌めた。
「おお、そうであったな。これは失礼」
と、口調の割には終始笑顔のままの、親父殿がおれたちに会釈した。
「あ、いいえ、どうそお構いなく……」
と、曖昧な答えを返す。
一条氏は……というと、毛布をかぶって寝たふりをしている。
微妙に背中が震えているところを見ると、どうやら、一条氏はこの状況の裏事情をご存知らしい。知っていて、笑いをこらえているに違いない。
「では、これで失礼するよ。では、みなさん、お騒がせして申し訳ない。お大事に」
と、二人はおれ達に向かって会釈をした。
「ありがとうございます。道中お気をつけて」
と、当たり障りのなさそうな挨拶を返した。
二人が行ってしまうと、高明氏はベッドの上に手足を投げ出しながら言った。
「あー、びっくりした! 親父のヤツ、急に来やがるんだもんなぁ! 心臓止まるかと思った!」
声音も口調も、すっかり元通りの高明氏に戻っていた。
「ええと、さっきのは……?」
「ああ、俺の親父と妻のソフィアだ」
「な、なかなかに凛々しい方ですね……」
「あ? ああ、俺の体のことか。そうだろう、ソフィの奴、早く元に戻して……おい! 一条! いつまで笑ってんだ!」
振り返ると、一条氏が顔を真赤にして、声を殺して笑っていた。
「だって、だって……うぷぷ、もうダメ! あっはははははは!」
「全く、俺だってソフィのフリするの嫌なんだよ……」
高明氏は少し頬を染め、膨れ面をしながら言う。
妖精の拗ねた顔のようで、見ているとおかしな気分になってくる。
だがベッドの上で腕を組み、あぐらをかいて居るのはいただけないな。
おれは、疑問に思っていた事を口にした。
「ところで、さっきハンガリーのご両親がどうとか……」
「ああ、ソフィの生まれた国だ。俺はもともと商社づとめでな。商用でブダペストに行った時、あいつに出会ったんだ。プラタナスの街路樹にもたれかかって、文庫本を読んでいてよ。つい話しかけたくなって近づいた俺に気がついて、ニコッと笑ってさ。それこそ天使のようだったんだ。いわゆる一目惚れってやつだな。俺はコイツを絶対妻にしてやるって思ったんだ」
はいはいごちそうさま。しかし、話している内容と姿がチグハグすぎますよ、高明氏。
で、俺は出会ってから、ずっと聞きたいことがあった。
「で、おいくつなんですか?」
「あ? 今年で30だが……」
そんなわけないだろう。
「いや、ソフィアさんのほうで……」
「……16。今年な」
な、なんだとー!
心の声が聞こえたのか、高明氏は慌てて弁明するように言った。
「いや、俺だって最初に会った時は、もう少し歳をとっていると思ったんだ。そう、20歳ぐらいに……。
いやいやいや、今のあなたはとてもそんな歳には見えませんよ。
本当の歳が16歳というのはまだ頷ける。
「あれ? そういえば、ソ……じゃなかった、高明さん、確か二人目だと……」
「うむ……出会った時は、まだ14歳だった……って、そんな顔するなよ! 外人の年齢って、ホント見た目じゃわからないよな? ははは……」
ジト目にもなりますよ、このロリコン野郎め!
「や、本当に出会った時はもっとずっと大人びて見えたんだぞ? 今は2度めの妊娠して、少し太ったから、ちょっと幼く見えるだけだ」
説得力がすごくないんですけど……。
ま、そういうおれの妻も、歳には見えない幼い顔つきをしてはいるが……。
「まったく、犯罪ですよね」
それまで、笑いを押し殺していた一条氏が口を開いた。
「ちゃんと、向こうの両親の許可は貰ってる。もちろん結婚のだぞ」
「ハンガリーのご両親に、模造刀で切腹の真似までしたんですよね?」
「ん? そんなことまで話していたか。まぁ、そういうことだ、ははは……」
高明氏が頭を掻きながら、ごまかしていると、コンコンと開け放しの扉をノックして、赤ん坊を抱えた紳士が現れた。
「失礼します。剛毅さん、お加減はいかがですか?」
「瞳……あ、小鳥遊さん。こちら、妻です」
「はじめまして。小鳥遊さん。剛毅の妻の瞳です。いつも夫がお世話になっております」
“妻”と名乗った紳士は、赤ん坊を抱えたまま、丁寧に頭を下げた。
背が高く、格闘家のようながっしりとした体格の紳士だった。
それに低くよく通る声。男としては理想とも言える体の持ち主。
これが一条さんの本当の体なんだと、感心すると同時に、少し嫉妬のようなものを感じた。
「あ、いえ、奥……いえ、ご主人とは今日お会いしたばかりなので……」
「おや、そうでしたか。ソフィアさんも、こんにちは。何時も剛毅がお世話になっております」
「俺のことは“高明”って呼べと言ったろう?」
「でも、こないだお会いした時は……」
「あん時は親父がいたからだ!」
おお、ニンフがヘラクレスに絡んでる。実に興味深い光景だ(笑)。
「まだ入れ替わっていること、おっしゃっていないんですか?」
「言えるわけ無いだろ? 恥ずかしくてこんなこと言えるか!」
「2年近くも騙し続けていられるなんて、驚きですね」
あ、なるほど。それでさっきの高明氏の豹変ぶりも、理解できた。
「金髪ロリツインテールにツンデレなんて、マニアのツボ突きまくりですね」
「好きでやってるんじゃないっ!」
と、両手を振りかざし、顔を真っ赤にして怒る、高明氏。
そうか、妊娠中期の妊婦って幼児体型なんだ。と、また新たな発見。
でも茶化すのは、この辺にしておいたほうがよさそうだ。
(つづく)