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「夕立」(1) by.ありす

(1)-------------------------------------------------------

 なんとなく、胸騒ぎがしていた。
 今日は出かけないほうが、いいんじゃないかって。
 彼女から電話がかかってきた時から、そんな予感がしていた。
 もっとも、あんなことが起ってからと言うもの、僕は人目を避けるようにして、なるべく外に出ない様に、気をつけていたのだけれど、今日は彼女がどうしてもと言うから、仕方なく外出することにしたんだ。
 でも午後になって、“天気が怪しくなってきたから、早く帰ろう"という、僕の意見は聞き入れてくれず、彼女は強引に僕を公園に連れて来ていた。

「ああー、降って来ちゃったね」
「だから言ったのに」
「雨宿り……するにも、この辺り何もないしなぁ」
「どうしよう、傘持ってきていないよ」
「とりあえずあそこ! 木の下!」
「あ、ちょ、ちょっと待って!」

 僕と彼女は、公園の端にある大きな木の下へ駆け込んだ。
 あっという間に空が暗くなり、空に閃光が走ったかと思うと、地響きがするほどの大きな雷鳴が轟いた。
 突然の雷雨。夏の終わりの夕方には、こんなトラブルに会うことも珍しくない。
 履きなれないミュールで、彼女に手を引かれて走るのは、結構つらかった。
 よく途中で転ばなかったなと思う。

「こんな日は、思い出しちゃうよね」
「……うん」

 そう、あの時もこんな、突然の雷雨に見舞われた時だった。
 僕と彼女は、家路を急ぐ余り、偶然にも十字路の角でぶつかってしまった。
 落雷よりも大きな音と衝撃が頭の中で響き、気がついたら二人の体が入れ替わっていた。

 僕は彼女に、彼女は僕になってしまっていた。

 バケツをひっくり返したような雨。ほんの一瞬で、二人ともずぶ濡れになった。
 僕はトートバッグに入れていた、ちっちゃなタオルを出して彼女に渡し、自分はハンカチを出そうとした。
 彼女は自分よりも先に、僕の頭にタオルを被せて、くしゃくしゃっと拭いた。

「僕はいいから、君が風邪を引いたら困る」
「ありがとう、でもそっちだって……」

 入れ替わって、もう2ヶ月。
 彼女とあべこべの生活にも、少しは慣れてきたけれど、僕よりも彼女のほうが順応性が高いみたいだ。
 これじゃまるで……。

「ああっ! それ!」

夕立1
挿絵:針子 http://melo.xii.jp/

 拭き終わったタオルを返すと、彼女が僕を指差した。

「え? 何?」
「何じゃないよ、胸! 透けてるじゃないか!」
「え? わっ!」

 言われてみると、薄手のワンピースの胸元が、濡れたせいでぴったりと体に張り付いていた。
 そのせいで、胸の膨らみと、その先端までが浮き出していた。

「ブラしていないの?」
「え? いや、だって……見えちゃうと思ったから、仕方なく外したんだけど……」

 そう、出かけた時は、ちゃんとブラはつけていた。
 けれど、ブティックに入って、新しく買ってもらった夏用のワンピースに着替えた時に、外したのだ。

 『何時までも暑苦しいかっこして! 夏用の服、買ってあげるから、そっちを先に済ませましょう』
 そういって彼女は、待ちあわせた駅前の広場で、僕の姿を見るなり、そう宣言した。

 恥ずかしがる僕に、布地の面積が狭くて生地も薄手のワンピースを、次から次へと試着させた。
 着る本人よりも、付いてきた男性のほうが、熱心に服を選んでいることに、ブティックの店員さんが目を丸くしていた。
 こんな女の子女の子した服を着せられるのには抵抗があった。
 ただでさえ、この体――彼女は、人目を引きがちな容姿をしていた。
 だからちょっとでも、可愛らしい服装をしようものなら、注目を浴びてしまうのだ。
 他人の視線を気にするなんてことは、男の時にはほとんどなかったことだ。
 けれど彼女の体になってからと言うもの、見知らぬ誰かの視線が気になってしまう。
 特に品定めをされるような、男のギラギラした視線が怖かった。
 だから、どうしても外出しなければならない時は、必ず大き目の帽子を深くかぶり、なるべく目立たない地味な服装で出かけるようにしていた。

 1時間ほど着せ替え人形をさせられて、彼女が選んだのは、肩なんか丸出しで、胸元も深いデザインの、白のワンピースだった。しかも裾だってずいぶんと短い。
 『こんなの恥ずかしくて着れないよ』という、僕の意見など聞き入れてはくれず、結局彼女のいうとおりにした。
 僕が家から着てきたのは、もっと体の線が隠れる、生地だって厚めの服だったのに。
 だから動きが楽な迷彩柄のスポーツブラを着けてきたけれど、このワンピースではそれが見えてしまう。

「なんで、普通のか、ストラップが無いのにしなかったの?」
「だって、まさかこんな服着させられるとは思っていなかったんだ。だから……」

 彼女は“やれやれ”といった風に、ため息をついた。

「いつも男だか女だかわからないような格好をしているから、たまにはそういう服を着せれば、少しは女の子らしくなるかと……寒いのか?」

 彼女は小言を途中で切って尋ねた。
 僕は、恥ずかしさもあったけど、濡れた服が体に張り付く気持ち悪さと、天候の急変で下がりつつある気温のために、肩を抱いて少し震えていた。

「困ったな、僕も今日はTシャツ一枚だし、かけてあげるものが……」
「着替えも、駅のコインロッカーだよ」
「このままじゃ、風邪を引いてしまうな。雷も近いから、木の下にいると危ないし」

 そう言いながら、彼女は周囲を見渡した。
 いよいよあたりが暗くなり、雷も次第に大きく、激しくなっていた。

「仕方ない、あそこへ行こう」

 彼女は濡れたタオルをぎゅっと絞ってから、僕の頭から被せた。

「ここまで濡れちゃったら同じだ。直ぐそこだから、転ばないように歩いて行こう」

 そう言うと、僕の剥き出しの肩を抱き、歩くのを促した。
 “ちょ、ちょっと、こんなの恥ずかしいよ”
 そう言いたかったけど、なんだか彼女は怒っているみたいで、言い出せなかった。

 雨が少し弱くなったタイミングで、彼女は僕の濡れた体をギュッと引き寄せた。
 濡れて透けてしまった服、直接肌に触れられる彼女の手、密着する体と体、そのどれもが恥ずかしくて、顔を伏せたまま彼女に合わせて、歩き始めた。

学園スキャンダルH

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催眠系を含有。

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男の娘男子校

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体験談

作.真城 悠(Mashiro Yuh)
「真城の城」http://kayochan.com
「真城の居間」blog(http://white.ap.teacup.com/mashiroyuh/)
挿絵:松園

 結論から言うと俺たちは時空の狭間(はざま)に飛ばされ、数年間別の世界で生活した後、こちらに戻ってきたんだ。
 あっちの世界がどういう風になってるのかなんて見当もつかん。どういう風に辻褄をあわせてくれるんだかサッパリ分からん。

 その時俺はライバルのとある男とケンカをしていた。
 兵隊ってのは常に前線にいるわけじゃない。かのベトナム戦争だって実際の戦場は全体の10%に満たないし、大半の兵士は後方支援だ。
 それに近代戦で兵士の死に場所の9割は病院なんだ。戦場でバラバラになって死体も確認出来ないのはむしろ少数派に属する。

 それでもいがみ合っているよりはいない方が生存率は高くなるだろうな。
 戦場に高純度ヘロインが蔓延していたベトナムでの多くは後ろから弾が飛んできたらしい。味方に撃たれてるんだな。正常でなくなった兵士が訳も分からずにぶっ放している場合もあれば、敵よりも憎い仲間をどさくさに紛れてぶち殺している場合もある。

 まあ、とにかく虫の好かない奴だったよ。
 それでも別の部隊に配属されてれば良かったんだろうが、よりにもよって同じ部隊ときた。

 最後の最後、自分の背中を預けなくちゃならん奴にあの野郎が位置するというだけで反吐(へど)が出そうになる。
 そんな時だった。
 取っ組み合いのケンカをしている正にそこに何かの爆弾が落ちたんだ。

 実際には、爆弾が落ちたのか、設置式の何かが爆発したのか良く分からん。
 だが、俺たちふたりは一緒になって飛ばされていた。…多分。

 ここから先は余りにも馬鹿馬鹿しいんで、こういう風にインタビュー形式に音声に吹き込むことにする。目の前にインタビュアーがいたんじゃとても無理なんでな。かといっていちいち文字を打ち込むのも面倒だ。だから吹き込み形式にする。

 ともかく、次に目が覚めたのが問題の場所だった。

 目の前に妙な扮装の女がいたんだ。
 その何と言うか…冗談みたいな格好だ。ユーモラスというと聞こえがいいが、人を小馬鹿にしてるみたいな、思わず噴出しちまうみたいな格好だよ。
 実際に観てもらうのが一番なんだが、要するに目の前には『バレリーナ』がいた。

 半裸に近い、下着みたいな格好だ。
 肩ひもが一本ずつしかなくて胸から上が全部露出してる。腕なんかは全部むき出しだな。
 それでいて白くてキラキラ光る素材のぴっちりした衣装が胴回りに張り付いていて、その皺(しわ)から装飾からが乱反射してやがる。
 腰から真横に…スカートが飛び出していて、脚は全部真っ白だ。

 その女は同じくこっちをぼーっとしたツラで眺めて来やがる。
 唇は吸血鬼みたいに真っ赤だし、瞼の上はガキの絵の具のパレットみたいに真っ青。まつ毛はそのまま床掃除が出来そうなほどボーボーだった。「舞台メイク」って奴だ。
 その珍妙な格好と相俟って、とてもじゃないが「妖精」って雰囲気じゃなかったな。

 年増の勘違い女ってところだ。
 まあ、年増ったって二十代も前半の女なんだが。といっても、ピエロもかくやってな厚化粧だから実際のところオカマでも見分けつかんな。

 するとその女が妙なことを言いやがる。
 俺の名前を呼ぶんだよ。

 こんな知り合いなんぞいないから「お前は何を言ってるんだ」…と言いかけた。

 言いかけたってのは、最後まで言えなかったからだ。
 声を発してる途中に違和感に気が付いた。
 全身に感じたことのない違和感があり、同時に動物的なカンで異変を感じ取った俺は物凄く嫌な予感に包まれたね。

 まあ、予想はついたかも知れないが、視線を下げてみるとそこにはギラギラと輝く衣装があった。

真城様挿絵25

 そして窮屈な胸の谷間も。
 そう、俺もバレリーナの格好をしてたんだ。

 思わず飛び上がりそうになった。
 そしてすぐに「格好」だけじゃなくて、肉体も胸以外はガリガリで筋肉質の若い女のそれになってることが分かったんだ。

 ということは…目の前にいるバレリーナもまた、誰なのか連想が働くってもんだ。
 そう、憎いあいつだったのさ。

 俺たちは慣れない身体で必死にそこいら中を駆け回った。
 そして控え室にあったでかい鏡に自分の全身を映してやっと事態を把握したのさ。

 何がどうなってるのかサッパリ分からんが、俺たち二人はどこか異世界に飛ばされ、女の身体に入り込んだ上、バレリーナの格好をさせられてたってこと。
 その上最悪な事に、正に舞台の幕が開く寸前だったってことさ。

 で?どうしたかって?
 俺はオデット姫役だった。

 つまり、女の側の主役だな。演目はバレエといえばの「白鳥の湖」さ。
 しかも今時「これでもか」ってほど原典に忠実な奴だよ。衣装もコテコテでなんのひねりも無い。

 不思議なもんで、こっちの世界の俺はよっぽど練習してたらしくって勝手に身体が動いたな。
 舞台袖で控えて、出番になれば出て行って踊るんだ。

 何と言うか…自分の意思で動かしてるのに勝手に動く感じというか…上手く説明できないな。
 だが、必死に逆らおうというんじゃなくて勝手に自分からやってしまうというか…。

 今でこそこうやって落ち着いて話してるが内心パニック状態さ。
 何十年とまでは行かんが三十年は男をやってた俺が突如女になって、しかもバレリーナとして舞台の上で踊らされてるんだぜ?
 あんな恥ずかしい格好…。

 聞くところによれば、生粋のバレリーナですら「白鳥の湖」の衣装は余りにも男性コメディアンが女装で使いそうなステレオタイプな衣装だから着るのが恥ずかしいって嫌ってることもあるというじゃないか。
 その「女でも恥ずかしい」格好を何の経験も何も無いこの俺が着せられてるんだぜ?

 しかも、観客は満員だ。
 その観客の視線が全部この俺の女の肉体に集中してるかと思うと色んなものが噴出してきそうなほど恥ずかしかったぜ。
 しかもまあ、つま先立ちで横移動だの、背筋をのけぞらせたり、脚を高く掲げてまるでスカートの中を見せ付けたりとそんなことばかりさせられた。

 相手方の男が出てきたんだが、軍隊ではまずお目にかからないやせっぽっち野郎だった。
 まあ、こいつも筋肉質で力はかなりあるんだが、細い男には違いない。
 幾ら舞台上の演技とはいえ、この俺が女として男に抱かれて悩ましい表情をしたり、なよっとして“しな”を作るなんぞ考えたくも無いが、身体が勝手にそういう風に動くんだから仕方が無い。

 そのままヘンなところを持って持ち上げられたりとさんざんだった。

 しかもバレエの舞台ってのは妙なもんで、何かって言うと中断して観客に向かってお辞儀して拍手貰うんだよ。何なんだあれは。まあ、段々慣れたけども。

 面倒くさいんでライバルと呼ぶが、ライバルの方はコールドバレエの中の一人になっていた。
 あの集団で一糸乱れずにバレリーナが踊る奴の真ん中だ。

 こいつもこいつで余りにも恥ずかしくて顔から火が出そうだったらしいが、こちとら主役だ。たった一人で延々踊らされる上に男との「からみ」まで濃厚にあるんだぜ?比較するのもおこがましいってんだ。

 しかもこの日の舞台は全幕ものだったから、俺は黒鳥までやらされた。
 あ、オデット役ってのは真っ黒な衣装の悪役も兼ねるのが普通なんだ。
 冗談じゃないぜ。女として何かを着たことも無いのに、いきなり脱いで着替えさせられるんだから。

 それでもまあ、どうにかこなして無事に舞台を終えた。
 もう頭の中はパニックなんてもんじゃなかった。
 だけど、いい加減しつこいアンコールを十回近く繰り返した後は、汗だくの舞台衣装のまんま関係者からの挨拶が延々続く。たまらんぜ全く。
 しかも俺は主役のオデット姫だから注目が集まっちまって延々解放されない。

 といっても、身体が勝手に動く舞台上はともかく、舞台を降りたら現状をどうにかすることを考えなくちゃならん。
 控え室に行ったらお誂え向けに全く違う名前…それがこの世界の俺の名前らしい…無論女の…が書いてある。
 まさかあの道化師みたいな格好で外を歩く訳にもいかん。第一寒いからな。
 なんで着替えようとしたんだが、無理矢理にシャワーを浴びせられた。

 まあ、正直に告白するとここで俺はゼロ距離の女体を初めて直視することになり…はっきり言うと「いたして」しまった。
 目の前の乳首を弄(もてあそ)び、アソコに指を突っ込んだりして色々試したんだ。
 汗だくにもなったし、色んな液体が噴出しただろうが、シャワーの中だったのは幸いだったな。

 せかされていたこともあってすぐに出たんだけど、この世界の俺の控え室に準備されていた「着替え」というか「普段着」も…当たり前だが全部女物だった。
 脱がせた相手とお袋のものしか見たことが無いブラジャーだのパンティだのをするすると身に付ける肉体には、必死に違和感を喚起し続けないと精神が持ちそうに無かったよ。

 しかもまあ、おあつらえ向きにそこに準備されていた私服の「普段着」は全部スカートなのな。
 せめて格好のいいジーンズみたいなもんでも良かろうと思うんだが、床を引きずりそうな長いスカートに野暮ったい上着。
 恐らく着慣れてるはずなんだが、「ちゃんと服を着てる」上に、靴もしっかり履いてるにも関わらずすっぽんぽんみたく素脚がするする接触するスカートのいらつきは生まれつきの女に幾ら説明しても分からんだろうな。
 …と思ったら女も「スカート嫌い派」が結構多いことを後から知るんだが。

 ともあれ、情けないことに俺はライバルを探してた。
 この世界での唯一の知り合いってことになるからな。
 幸か不幸かこの世界の俺は男と同居なんかはしていないし、当然結婚してもいなかった。男の恋人もおらず、フリーだったらしい。
 男の方の主役は別の女と付き合ってるんでこっちはプロとして舞台の上でだけの付き合いらしい。舞台の上では情熱的な恋人同士なんだが、いずれにしてもこっちは助かる。

 訳も分からず女になったその日の夜にいきなり突如妻として夜の営みなんて冗談じゃない。昼間の羞恥舞台だけでおつりが来るってんだ。

 探してみるとライバルは簡単に見つかった。
 こちらはまあ、何と言うかある意味面白みの無いスーツ姿だった。膝丈スカートのな。ダンサーのクセに日常のファッションが冴えない女の典型だ。

 誰言うとも無く視線で状況を把握した俺たちは、所持金を確認すると同じタクシーに乗っていた。この日はまだ千秋楽じゃなかったから打ち上げの類も無かったのが幸いだった。

 愕くべきことにこの世界で俺たちは同居していた。
 そう、女同士で。
 とはいえ、深い関係というのではなくて単なるルームシェアだったらしい。
 恋人でも何でもない男女がルームシェアする例だってあるくらいなんだから同じ職場の女同士なら特に問題なかろう。

 ただ、この晩は困った。
 とにかく訳が分からん。一体俺たちはどうなってしまったのか。
 周囲を見渡してみても、元の世界に戻れそうな手掛かりすら皆無だ。

 元の世界では屈強な兵士だったんだが、心理的不安で爆発しそうだった。
 唯一の救いはこちらの世界での俺たちにはそれなりに「居場所」がありそうなことくらいだ。
 お互いにプロのダンサーとして毎日舞台に立ってるらしいことは流石に認識出来てきていた。この日だけではそれ以上の情報は得にくいんだが、恐らくそれなりのギャラは発生するんだろう。特に俺なんか主役だからさ。
 とはいえ、不安なのは間違いない。
 この世界に事情を知るたった二人の存在だ。

 しかし…こう言っちゃなんだがライバルの野郎は魅力的な女だった。
 まだ主役ではないというだけで素材は抜群。現役ダンサーだけにスタイルも最高だ。
 ショートヘアに整った顔立ち。
 そして…俺のほうも相当に魅力的だったらしい。
 いつの間にか俺たちは抱き合ってお互いの身体をまさぐっていた。
 密着したあいつからは何処(どこ)と無くいい匂いがする。多分俺の方もそうだったはずだ。

 何だかんだいいながら俺たちはいつの間にかお互いの服を下着まで含めてむしりとって全裸でベッドに転がり込んでいた。
 まあ、お互いの性的対象は女だからその意味では趣向と嗜好と需要と供給が一致したというところだろう。ただ、男のアレが無いから全く違うものにならざるを得なかった。
 やったことあるか?お互いの頭と胸を交差する様にしてお互いの乳首を吸いあうの。
 あれは気持ちよさと責めるのが同時に中々出来ないから結構難しいんだ。

 自然とどちらかが責めを担当し、次に攻守ところを変えることが以心伝心で出来た。
 この晩は半ば自暴自棄になってたこともあって朝までお互いに何度も絶頂を迎えたね。

 俺たちは次の日の朝にはもう十年来の恋人同士みたいにベタベタになっていた。
 慣れた手つきで女物に着替えると、レッスン会場に「恋人つなぎ」で手を繋いで向かったよ。

 街中でもお互いの気持ちが高ぶってきて、隙を見ては密着してキスしてたりしたなあ。
 もうレズカップルなのを隠す気も無い感じだった。

 まあ、こちらは主役であっちは端役だからレッスン会場やら開場前の扱いは全く違う。
 だからその日の舞台が終わるまではまるで引き離された恋人同士ってなもんだ。
 ぶっちゃけその手のことがそれほど珍しくない芸能界だから、そこまで異端視されなかったが、それでも余りにも堂々と女同士でイチャつくから一部の団員には白い目で見られていたらしい。

 俺は次の日もその次の日もオデット姫を演じ続けた。仕方ないだろ。仕事なんだから。
 舞台の上から見る景色ってのはまた独特でね。自分の周囲の舞台だけが明るくて、客席は薄暗いのな。そこにぼんやりと大勢の人間が座っているのが分かる。でもってその殆(ほとん)ど全員が俺の女の肉体を凝視してるのさ。
 何かやるたびに腰周りのスカートがふわふわと上下動し、華奢な肉体美を見せ付ける。
 最初の内は恥ずかしさに震えてたけど、徐々に「見られる快感」に目覚めてきたね。半ばヤケクソともいうけどさ。

 こういう立場になってみないと分からないだろうが、どんなに女性的な衣装を着てようが、舞台上で情熱的な恋を踊る女を演じていようが、鏡を見ないことには自分の外見は自覚できない。
 だから鏡を見るたびに心臓が跳ね上がりそうになる。そこにいるぞろっとした女が自分であると言う風に脳の情報がリンクしないんだ。
 いつも一瞬遅れて「ああ、これは俺か。今の」ってなもんだ。

 だからオシャレする趣味もショッピングを楽しんで鏡に向かって何度も試着を繰り返す趣味も無い。舞台以外ではメイクもしないからあまり鏡に向かって己(おのれ)のツラを延々睨む機会も多くなかった。
 それなりに金はあるし、ちょっと言えば多少の贅沢を許してくれるスポンサーだっていたから、その気になれば目が飛び出る様な値段の最新ファッションだのデザイナーズブランドだのを着倒すことだって出来たんだろう。

 しかし駄目なんだよ。
 なんつーか、日々ルームメイトに女体のあちこち責められてあえいだり甘い声を上げたりもするし、仕事となればこっぱずかしい格好で鏡に映る自分に固まって剥がれそうになる濃いメイクをすることも出来るし、おっぱい丸出しで舞台衣装あわせだって出来る。何より舞台上で女として男と絡みながら踊るのを大勢に見られてその快感に震えることも楽しめる様にはなった。
 けど、根本的なところで精神が男みたいで、プライベートで鏡を見ながら自分の可愛らしさ美しさに酔いしれながら一人ファッションショーをする価値観がどうしても育たなかったんだ。

 確かに人形みたいな美人なんだけど、毎日見続けてるとあちこち不満が出て来る。
 だからプライベートでは反対を押し切って全くメイクをしない。というか鏡を殆(ほとん)ど見ない。自分と認識出来る女がそこに映っている現実に耐えられないんだ。
 その割には女物の服をするすると着られるのは矛盾してるかも知れないが、何と言うかそこは仕方が無いって言うかさ。
 大体「男にモテ無い」って悩みは皆無なもんでね。むしろモテたくないっていうか。
 その意味でもライバルの奴は絶好の「男よけ」ではあったね。
 といっても相手も二人連れでまとめてナンパされたことは数限りなくあったりするんだが。

 あんまりしつこくて断っても断っても追いかけてくる場合は二人でそのまま情熱的なキスをすると肩をすくめるか軽く口笛を吹いて退散ってなもんだった。

 いわゆる月経っての?も当然ながら体験した。
 いやあ、女って大変だね。あんなもん定期的に食らってるのか。まあこれもこの世界の俺が慣れていたのか身体のほうは手馴れていて道具も何もかも全部すんなり装着も外すのも捨てるのもお手の物なのが何となくむかつくが。

 どうやらこの世界で俺は売れっ子だったらしく、仕事が途切れることが無かった。
 ある意味においてこれ以上女性的な格好は無いほどの格好を日々させられているに等しい訳だが、慣れてくるともう流れ作業になってくるね。
 どんなにきらびやかな衣装を合わせても、これを着た状態でどんな風に踊らなくちゃならんのか考えるだけで余りはっちゃける気にもならないというか…。

 そんな生活が五年も続いた。
 その間、お互いに進む道も違ってきて、ライバルの方も若干小さな箱ながらオデット姫を射止めたりして、遂に別居するようになった。
 別に不仲じゃないんだけど、ダンサーは仕事そのものに言葉がいらんこともあって極論すれば世界中どのバレエ団でも所属出来るところがある。
 なので別々の国に所属することになった段階で同居は不可能になった。

 この頃にはお互いに一端(いっぱし)のバレリーナとして立派にひとり立ちしてた。
 この世界に飛ばされた当初の心細さはどこへやらだ。お互いの舞台を一観客として鑑賞しに行って控え室で抱き合って健闘をたたえ合う俺たちは周囲にはどう見えたんだろうな。

 二人とも…自分で言うけど絶世の美女だから、さぞ美しい光景だっただろう。

 お互いに忙しい身だから、それぞれの期間中大抵は一日しか出会えない。
 そしてお互いにやるべきことは分かっている。
 何も会話を交さなくても適当なホテルにしけこんで、朝までくんずほぐれつだ。
 徐々に刺激も足らなくなってきたのでお互いに過激なボンデージを着込んだり縛ったりなんてこともやり始めた。

 実は意外なことにこの時期までやったことが無かった片方が男役になっての二人での踊りなんかもやったりした。
 何と言うか主従関係がコロコロ入れ替わる快感というのが決め手というかね。

 ここだけの話、もう元々自分がどこの誰で、この生活がスタートするまでどんな人生を送ってきたのかなんてすっかり忘れかけていた。
 あの状態になってから興味を持ってニューハーフのインタビュー記事なんかも読むようになったけど、自分が元男だってことをしょっちゅう忘れるとか書いてあって「んなアホな」とは思えなくなってたな。うん。実際忘れる。
 ある時なんぞ風呂に入っていてかつて自分にちんちんあったと思い出してぞっとしたりな。

 だが、それも唐突に終わった。
 ある朝新作の舞台の打ち合わせに向かって道を歩いていた時の事だ。

 その時俺は…自分で言うのもなんだが、どこかのファッション雑誌から抜け出してきたみたいなコーディネートで全身キメていた。
 といっても自分で買ったものなんぞ皆無。はっきり言って俺くらいの売れっ子バレリーナともなると、パトロンみたいなのが勝手に色んなもん買ってくれるんだよ。
 下手するとメーカーが勝手に押し付けてくる。
 無碍に断るのも失礼だと思って使うようになると、いつの間にやら適当な日用品を継ぎ接ぎで着ていた貧相なおっさん崩れ女が、洗練された世界的美女になってるんだから困ったもんだ。
 流石にこの頃になると部外者と会う日にはちゃんとメイクするようになったよ。

 もう毎朝美女が映る鏡を見ながら着替えたりメイクしたりするのにも抵抗がなくなっていた。
 思えば兵士として常に汗まみれの泥まみれになりながら、その命さえ粗末に扱われていた荒くれ生活が、いつのまにやらこんな美女になってきらびやかな装飾品にオシャレな衣装に日々身を包んで鏡に向かってメイクと来たもんだ。
 自分ですらうっとりする美しさの長い髪をなびかせつつ海外遠征の飛行機のビジネスクラスに乗り込んで、妖精みたいな美貌を振りまきながら眠りにつく感慨はかつての人生では得られなかったものだ。
 行く先々で若い女の子にはきゃーきゃー言われ、紅顔の美少年が憧れの視線で見上げてきて、おっさんたちが鼻の下を伸ばす。
 フン族の王がシンデレラになったみてーなもんだ。王子様はいねーが。
 ただ、私生活の王子様はいなくても舞台上では常にお姫様だからそれこそ男には困らない。ぶっちゃけ男に対してはこの時点でもまだ処女だった。女相手にはやりまくりだったが。
 こんな人生も悪くないかなと思いかけていた。

 最後の記憶を何となく辿ってみると、恐らく交差点を横切ろうとした時に中央で接触事故を起こした車が俺の方に向かってかっ飛んで来たらしかった。

 どうして記憶がハッキリしないかといえば、その後すぐに戦場の真っ只中に取り残されていたことに気が付いた俺は、命からがら逃げ出してくるのが精一杯だったんだ。

 もう数年来味わっていなかった感覚だった。

 日々その乙女の柔肌を官能的な感触を持つ女物の下着に包み、爪の形一つにも最新の気を遣う生活が、突如「生きていれば上等」の泥まみれの戦場に舞い戻ったのだ。
 地面を転がりまわるなんて、服のどの部分が破損するかもしれないし、数千ドルも掛けて整えた髪形が一瞬でパーになる危険もあるから絶対にありえなかったものが、身体が反射的に動いてゴリラみたいにゴツい身体をあちこちぶつけながら走り回った。
 俺はその足でジャングルに駆け込み、食うや食わずでそこいらの蛇だのケモノだのをひっとらえてはサバイバルナイフで引き裂いて食らった。

 仕方が無いから川にたまった生水を啜って腹を壊し、ゲロまみれクソまみれになりながらどうにか這い出し、友軍に保護されてそのまま一週間ほど病院で寝続け、ついこの間目が覚めたんだ。

 ライバルは生死不明だった。今もあっちの世界に取り残されて孤独なバレリーナをやっているのか、或いは戻った瞬間に吹っ飛ばされて跡形も無くなっているのかどっちなのかは分からない。
 ドッグタグすら発見されていないから、恐らくまだあっちにいるんだろう。

 こうしていると、ブラをしていない自分が妙に落ち着かないと感じることもあるしそうでないとも言える。
 久しぶりに男の象徴がいきり立った俺は、瀕死だってのに弄(いじ)り倒してタダでさえ少ない体力を使い果たし、軍医に一生分怒られた。

 今にして思えばあの舞台の上での白鳥生活は何もかも幻だったのかとも思えてくる。
 しかし、肉体の奥底に刻まれた“感覚”や“感触”は残っている…積りだ。

 とはいえ、あの流麗で細かった手足は丸太みたいにごつくなり、大理石みたいだった表面は見るも無残な毛むくじゃらだ。仮にその毛を全部そり落としたとしても、ワニ皮みたいにごわごわとデコボコなその皮膚ではとてもあの踊り子を再現することは出来ない。

 楽に出来ていたポジションだって足首が痛くてとてもじゃないが一番すら出来ない。五番なんてやったらこの丸太みたいな足首がへし折れるだろう。
 試す気も無いからやってないがポワント(つま先立ち)なんて夢のまた夢だろう。大体体重が倍以上も重くなってるからお話にならん。
 もう華麗なバレリーナとして男にリフトされることも無いのか…と思うと一抹の寂しさはある。

 そう考えるとあの甘ったるいメイク道具の匂いやら、こっぱずかしいとしか思わなかったユーモラスな衣装にも妙な懐かしさを覚えちまう。
 確かに肉体は男というメジャーセックスから女というマイナーセックスに転落はしていたよ。
 だが、世界的な有名ダンサーとして、何より絶世の美女としてその大きな影響力を振るい、自分で仕事を得ては気ままに振舞っていたバレリーナの俺は間違いなく「強者」だった。
 だが、今じゃ有名人でもなんでもない。中途半端に年をくった負傷した兵隊のおっさんでしかない。誰も俺の一挙手一投足に注目なんぞしない。

 これじゃあどちらがどちらに転落なのかわかりゃしないな。

 とても信じてもらえるとは思わんが、これが俺の体験談だ。
 俺としては爆弾で吹き飛ばされた瞬間に観た一瞬の幻覚だったと思いたい。
 或いは今の俺の軍隊生活の方が車に轢かれた哀れなバレリーナの見ている長い夢なのかもしれないなあ。






★マリアの悦楽音叉催眠・ダッチワイフにしてあげる

2012Q3おかし製作所DMM販売数93位
★マリアの悦楽音叉催眠・ダッチワイフにしてあげる DMM版
マリアの悦楽音叉催眠~ダッチワイフにしてあげる DLsitecom版

★この作品は女体化催眠ボイスドラマです。

★あなたはヒーリングルームへと訪れます。
そこで店主のマリアから、音叉を使ったカウンセリングを施されます。
次第に意識が朦朧として、心地いい世界へと導かれていきます。
しかしそれはマリアの陰謀。あなたはダッチワイフにされてしまう。
そして触手に性感帯の検査をされてしまいます…。

★マリアの悦楽音叉催眠・ダッチワイフにしてあげる

平行鏡世界のエトランゼ 強制TSF性転換

2012Q3おかし製作所DMM販売数83位
2011Q3おかし製作所DMM販売数9位

買ってみました♪
頑張って描かれていて、なかなか楽しめましたよ。

平行鏡世界のエトランゼ 強制TSF性転換 DMM版
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