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「夕立」(2) by.ありす

(2)-------------------------------------------------------

「ここって……」

 彼女に連れられてきたところは、一見普通の建物の様に見えたけれど、入り口には“HOTEL ドルフィン・リゾート”と書かれた看板が立っていて、“休憩…… 宿泊……”と言う文字も見えた。

「仕方ないだろ、そのままじゃ風邪を引いてしまうし、ここなら濡れた服を乾かして、温かいシャワーも浴びることが出来る」
「で、でも……」

 ここはカップルが、その……するところだ。
 
「だけど……」
「じゃあ、他にどうするんだ? 君をそんな格好のまま人目に晒すわけにも、行か……」

 彼女がそう言い掛けたとき、ドーン! と大きな落雷の轟音が鳴り響き、雨がひときわ激しさを増した。

「雷に打たれでもしたら大変だ。入ろう!」

 そういって彼女は躊躇している僕の腕を引っ張り、強引にホテルの中に連れ込んだ。

 彼女に手を引かれるまま、部屋の一つに入ると、室内は海を思わせるような水色の壁紙とカーペット、そして至る所にイルカのシルエット模様が散りばめられていた。
 そして部屋のあちこちに、イルカを模したマスコットが置かれていた。
 壁際には大きなテレビセットと、その反対側に大きなベッドが置いてあった。
 そのベッドの上には、一抱えもあるようなイルカのぬいぐるみが横たわっていた。

「へぇ、結構かわいい部屋じゃん」

 彼女が感心するように言うと、どこから見つけてきたのか、バスタオルを僕に放り投げた。

「早くそれを脱いで、先にシャワー浴びておいで。濡れた服はそのままでいいから。君がシャワーを浴びている間に、僕が乾かしておくよ」
「う、うん……」

 僕は、タオルを脇の棚において、体にぴったりと張り付いて気持ち悪いワンピースを脱いだ。

「お、おい! こんなところで脱ぐなよ! お風呂はそっち! ちゃんとドアも閉めてね。脱衣かごは中にあるから」
「あ、ご、ごめんなさい……」
「まったく、入るのは拒んだくせに、無防備なんだからなぁ」

 こんなところに初めて入ったせいか、僕は気が動転していた。
 濡れたワンピースで体を隠すようにして、バスルームへ入った。

「うわぁ、下着までびちょびちょ……」

 最後の一枚も脱衣籠に入れて、とにかく浴室へ入った。
 中は入り口の方向を除いて、3方向に壁のほとんどを占める大きな鏡があった。
 それらに映る、たくさんの彼女の裸にドキッとした。
 裸になって、自分の体が女の子のそれになっているのにも、ほんの少しだけ慣れた。
 けれどやっぱり後ろめたい。
 彼女から、“着替えや入浴は仕方ないからいいけど、ヘンな事は絶対にしないように”と厳重に念を押されているから、なるべく裸は見ないようにしていた。
 だから、こんな風にまともに見てしまうと、罪を感じてしまう。
 けれど女性の裸には、男の目を釘付けにする特別な力がある。
 彼女の裸は、本当に綺麗でいて、そしてとても悩ましい……。
 目をそらすには口惜しく、見つめ続けるには罪深い。

「入るよ!」

 と背後から、彼女の声がした。
 えっ! と思うまもなくドアが開いた。脱衣所と浴室の間は透明なガラスで仕切られていて、横に開く扉も一枚の大きな透明のガラスに、取っ手が付いているだけ。
 僕は慌ててしゃがんで、裸を隠そうとした。

「服、乾かしておくからね、ゆっくりでいいから、ちゃんと温まったほうがいいよ」
「う、うん……」

 感情のこもらない、早口の彼女の声を後ろに聞きながら、やがてドアの閉まる音に、一息ついた。
 彼女は僕に裸を見ることは赦してくれたけど、彼女の体になった僕の裸を見ようとはしなかった。
 自分の裸が、他人の目に晒されるのを、やはり嫌っているのだろうか?

 彼女は、僕の体になった自分の裸を見るのには、もう慣れたのだろうか?
 
 シャワーを浴びるついでに、湯船にもお湯を張ろうと思って、カランの蛇口をひねって温度を確かめて、それからシャワーを浴びた。
 立ったまま浴びることが出来るように、壁の高いところに据え付けられたシャワーの前に立つと、鏡の壁に映る一糸纏わぬ彼女の裸が顕わになる。
 何でこんなところに……と、思いながらぎゅっと目を閉じて、シャワーの栓をひねった。
 一瞬出る冷たい水に、体をぶるっと震わせた。
 鏡を見ないように目をしっかりと閉じたまま、手探りで温度を調整し、なんとか快適な温度にあわせると、やっと落ち着いてきた。
 温かなお湯が、体を優しく打つのが気持ち良い……。
 なるほど、だから女の人って長風呂なのか……と初めてこの体でシャワーを浴びたときには思った。
 けれど実際には、女はお風呂でする身づくろいの手間が、あまりにたくさんあるからだと気づくのに、そう時間はかからなかった。

 「髪もシャンプーで、ちゃんと洗ったほうが、良いかなぁ……?」

 彼女から教えられた入浴術には、たくさんの工程があって、使うシャンプーやリンス、コンディショナー、ボディーソープ、シェイビングクリーム(ひげをそるんじゃなくて、無駄毛の処理用)など、銘柄から使用方法まで事細かに、指示されていた。もちろん、お風呂から上がった後も、髪の乾かし方やスキンケアのためのアフターローション、いまでも覚え切れなくて、メモを見返しながらでないと出来ないことも多い。
 いったんシャワーを止めて、シャンプーのボトルを手に取ったけど、イルカ模様がプリントされたオリジナルのもので、銘柄までは判らなかった。
 腰に届くような長い髪を洗うのは、とても大変だ。
 それに、彼女だって冷えた体を早く温めたいだろう。
 何か言われたら、また後で入りなおせば良いや……と、思って、十分に体が温まったところで、シャワーを止めた。
 目を空けると、再び彼女の裸身が目に入る。
 
「この鏡、曇らないんだ……」
 
 特殊なコーティングがしてあるのか、そういえば脱衣所と繋がる透明な仕切りも曇ってはいない。
 これって、そういうホテルだから?
 脱衣所から、恋人の入浴姿をあらゆる角度から楽しむ男のために、そんな風にしてあるのだろうか?
 そう思うと、今は女の体になっている、裸の自分を誰かに見られているんじゃないかと、急に不安になった。
 そんなバカな……と、勝手な妄想を振り切るように、頭を振って、髪についた雫を振り払う。
 直ぐに浴室から出て、脱衣所の籠からバスタオルを取って、何時ものように、丁寧に髪の水分を取り、体を拭いて……濡れた下着と、買ってもらったばかりの薄手のワンピースは無かった。
 だから代わりに、真っ白でふわふわのバスローブを纏って、バスルームを出た。

「お風呂、空いたよ? 寒かったでしょう、ごめんね」

 そう彼女に声をかけた。
 けれど彼女は押し黙ったまま、僕の脇をすり抜けて脱衣所に入り、ドアを閉じた。
 やっぱり怒ってるのかな?
 僕がちゃんと傘を持ってきていれば、二人とも大して濡れなくて済んだかも知れないし、そもそも、きちんとブラをつけていれば、こんな恥ずかしい思いをしてラブホテルなんかに入らなくても良かった。
 そういえば彼女の顔は、少し紅かった。
 それが怒っていたせいなのか、雨に濡れた寒さのせいかは、わからなかったけど。

<つづく>

姪とオムツと妹にされた僕

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