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ビーストテイマーズ (1)~(5) By アイニス
合体版です。
(1)

酒場に貼られた手配書を犬神コウはじっと見ていた。ここは酒場であると同時にビーストテイマーのギルドでもあり、依頼の斡旋もしていた。
ビーストテイマーとは猛獣を手足のように使役する職業だ。大道芸人のように猛獣に芸をさせて糧を得る者もいるが、たいていは人に害を与える生物を退治することで生計を立てている。
「腹が減ったなぁ」
ぎゅるぎゅると若い獣使いの腹の音が鳴る。酒場に充満している料理の匂いが空腹を刺激した。ここのところ割りの合わない依頼ばかりで、財布の中身は空っぽに近かった。
「いいよ。俺は大丈夫だから」
「くぅーん」
床で食事を取っていた狼が、申し訳なさそうに乾燥肉をコウに差し出してきた。コウの髪と同じこげ茶色をした狼の毛皮は、艶を失ってくすんでいる。
「ごめんな。今度はお腹一杯に食べさせてやるから」
猛獣使いのコウにとって、相棒である雌狼のチョコは何にも勝る大切な仲間だ。コウが空腹でも、猛獣使いとして相棒を飢えさせるわけにはいかない。それはギルドにおける暗黙の掟でもある。
「これにするか」
「僕も手伝いましょうか?」
目標を定めたところで、荒くれ者が集う酒場にはそぐわない、優しげな声がコウを呼び止めた。聞きたくもない声を聞いて、耳の掃除を半年ほど忘れようかと真剣に考える。
「どうしてお前がいる?」
相席を許可した覚えはないのだが、金髪の少年が真正面に座った。太陽の光を煮詰めたような黄金の髪。エメラルドのような透き通った碧眼が、愛想よくコウを見つめている。
「依頼を終えて帰ってきたところですよ」
整った身だしなみ振る舞いから貴族の御落胤とも噂される獅堂レイは、仕事の疲れを感じさせない微笑みで答えた。彼の容姿に一目惚れする女性は多いらしい。もっとも、この酒場にまで足を踏み入れる一般人はまずいない。ビーストテイマーの相棒である猛獣たちも酒場でくつろいでいるからだ。
「そんなに簡単に終わる仕事じゃなかったと思うが」
「エルが頑張ってくれましてね」
主人に名前を呼ばれたライオンがのっそりと頭を上げた。吠えもせず大人しくしているが、獲物に対しては食い殺すまで獰猛になることを一緒に仕事をしたコウは知っている。
「マスター、料理をお願いしますよ」
多すぎるのではないかと思える食事をレイは注文していた。獲物を追跡している最中は、ろくろく食事を取れないことが多い。仕事帰りでレイは空腹なのだろう。
「エル、お食べ。今日はどうもありがとう」
主人の合図でライオンは骨付き肉にかぶりついた。テーブルの上にも次々と料理が運ばれていく。湯気を放つ温かな料理を並べられて、コウは涎を垂らしそうになった。胃酸で空腹が痛いほどだ。
「コウ君もどうぞ」
「俺には金がない」
「依頼の報酬が入りますし、僕が奢りますよ」
「施しを受ける理由にはならないな」
片意地を張っているとは思うが、同年代の者に奢られる気にはなれない。コウは年齢のほぼ変わらないレイをライバル視していた。もっとも、レイは出会った時からコウを気に入ったらしく世話を焼きたがる。歳が近いということで親近感を持っているようだ。
「そうですか……でも、エルがチョコちゃんに分けてあげたいようなので、その許可を頂ければ助かります」
困ったように笑うレイに心がちくりと痛む。気のいい奴なのだ。
「それは構わない」
猛獣使いの使役する獣は、野生の獣よりも高い知能と協調性を持っている。とはいえ、種が違うにも関わらずチョコとエルは仲がいい。
「ここのマスターの料理は美味しいですよね。料亭より腕がいいと思いますよ」
音を立てて飲み食いする他の客と違って、レイの食事は静かで礼儀正しい。レイが食事をしているというだけで、粗末な食器でさえ高級に見えてくる。他愛のない料理がますます豪華に見えて、コウの胃袋を締めつけた。
「困りましたね」
幸せそうな笑顔で肉料理を食べていたレイの手が止まった。気弱そうな笑顔でコウを見ている。
「困りました。本当に困りました」
「どうしたんだよ?」
無理難題でもあっさりと解決しそうな人間が困ったというのは珍しい。どんな大事件が起こったのかとコウは身構えた。
「コウ君、助けてもらえませんか?」
「……俺でいいなら」
単純でお人好しなところもあるコウは素直に頷いた。レイには幾つか借りもある。
「ありがとうございます。いやぁ、空腹で判断を誤りましたよ」
「お前らしくないな」
「ええ、失敗しました。僕一人で片づけるつもりで注文したのですが、料理が多すぎました。手伝ってくださいよ。家訓で食事を残すと、先祖の霊に怒られてしまうのです」
恐ろしいというようにレイは震えてみせる。あまりにも大根役者な演技にコウは呆気に取られた。もっとも、白々しくはあるが嫌味は感じない。好意で言っているからだろう。
「わかったわかった。それならしょうがないな」
「ありがとうございます」
コウはぶっきらぼうに言って、焼きたてのローストチキンにかぶりついた。脂肪の旨みが舌で踊って、相手がレオでもチークダンスをしたくなるほどだ。ここ数日は野草と塩スープだけだったので、胃袋が喜んでいるのがわかる。食べ始めると夢中になって手が止まらなくなった。スキンヘッドをした強面の親父が作っているとは思えない味である。
「誰かと一緒に食事というのは楽しいですね。一人だと味気ないですよ」
料理の半分以上を食い荒らされたというのに、レイは嬉しそうだ。
「ごちそうさん。ああ、美味かった」
久しぶりに満たされた気分になった。テーブルには空になった皿が積み上げられている。レイは食後のお茶を嗜んでいた。
「なぁ、どうして俺に良くしてくれるんだ?」
疑問に思ってコウは尋ねてみた。
「月のお告げです」
「はぁ?」
素っ頓狂な答えにコウは開いた口が塞がらなくなった。猛獣使いは獣と寝食を共にするという職業柄、自然を崇拝していることが多い。そこから考えればレイの答えはおかしいというわけではない。だが、論理的に見えるレイが言うと奇妙に感じる。
「あなたを初めて見た時に衝撃が走りました。運命の出会いを感じましたね。あれは間違いなく天のお告げです」
「そ、そうなのか」
夢見心地な顔で言われて、コウの背筋に怖気が走った。尻の穴がむずむずする。
「僕のパートナーになってください!」
女性の話題を独占できる優雅な顔が、獲物を追う獣のような速さでコウに迫る。餌で太ったところを食われる家畜のような恐怖をコウは感じた。逃げ腰になったコウの手を包むようにしてレイが握り締める。
「か、考えておくよ」
パートナーというのはコンビを組むという意味だろう。その方が依頼の成功率は高くなる。ただ使役する獣の相性もあるので、猛獣使いは大人数でチームを組むことは少ない。もう一つの意味も考えられたが、それはないと思いたい。熱い視線が怖すぎた。
「お願いします」
にこやかにレイは引き下がり、何事もなかったようにお茶を飲んでいる。幻だったと思いたくなるが、手にはレイの温もりが残っていた。親切なように見えても、過酷な職業に身を染めるくらいだ。狂気が隠されていても不思議ではない。
「今度の仕事が終わったら返事をするよ」
そう言いながらもコウにはその気はなかった。受けようと思っている依頼の報酬は、隣町のギルドでも受け取ることができる。それなりの金を手にすることができれば、この辺りから離れるのも手だろう。
慣れた土地を離れるのは痛いが、レイの好意は重いのだ。純粋な好意と笑顔をぶつけられると、何もかも差し出したくなってしまう。罪な男だ。性別が違ったなら、頼りになる男に身を委ねるのも一つの選択なのかもしれないが。
「では、今回の依頼に同行させてもらいますね。二人でやればすぐに片づくでしょう」
まるでコウの心を読んだようなレイの申し出に、全身の水分が汗となって出そうになる。
「報酬は高くないから、分け前はあまりないぞ」
これにはやや嘘が混じっている。レイのような凄腕にとってはさほどの報酬ではないが、経験の浅いコウにとっては十分な金額だ。もっとも、報酬に相応しい難易度ではある。
「今回の報酬は僕にはいりませんよ。グリズリーを討伐するつもりですよね? お一人では大変ですよ」
「俺には荷が重いとでもいうのか!」
内心の動揺を気取られないようにわざと怒鳴る。それにプライドを傷つけられたということもあった。
レイの推察通り、この辺りに出没するという人食い熊を倒すつもりでいた。コウの腕前では大変だというのは、本人にもわかっている。ただそれを指摘されるのは悔しい。
「すいません。そんなつもりではないのですが……」
「俺とチョコにかかれば、これくらいは楽勝だ。邪魔はするなよ」
言い捨ててコウは椅子から立ち上がった。
「チョコ、行くぞ」
ライオンに毛繕いをしていた狼が謝るように低く鳴いて、主人の後ろをついてきた。レイの心配そうな視線が背中に突き刺さったが、コウは後ろを振り返らなかった。
05/21のツイートまとめ
amulai
RT @4K4T4: 昨日女子会で「年収6〜700マンの男なんてスーパー銭湯だよ」っていう集団聞き間違えを思い出してまたわらってる笑。正しくは数㌫。私の知らない格付け用語でもあるんかとおもったよ。ユニットバス男とか、源泉掛け流し男とか
05-21 23:08RT @ayua_a: 今日、話の流れで、諦めましたと言うと「諦めたらそこで試合終了ですよ」と返されたので、「安西先生…」と言ったら「誰それ」と言われた。このような漫画発で元ネタと切り離されて使われるような台詞は、平成の慣用句として辞書に載ってもいいと思うし、一冊にまとめた本が…
05-21 23:07我がブラックスゥイートの世界征服の為の今回の作戦だが、このダツゴクイートの放つ怪光線で刑務所に服役中の犯罪者の皆様をすべて美少女の姿に変えてしまい、野に放つことにより世界中を大混乱に陥れ、そのスキをついて一気に世界を征服するのだ!#TSFの卵
05-21 21:56@masatomaikata うぃ!特攻予定です!
05-21 21:52RT @foktr: 神龍にお願いして、可愛い女の子にしてもらいたいんですけど、「多人数が女の子になってパニック」みたいなシチュエーションが好きなので、どうお願いしたらいいですかね?やっぱり「善人だけ美少女にしてくれー!神龍ー!」みたいなのがいいんですかね?
05-21 21:52RT @foktr: TS物が変態的なフェチシズムだと思ってて、言うのも憚れてたけど、インターネットが発達して、同じ変態的なヤツが「俺も」「俺もだ」「オイラも居るでやんす」みたいな感じで出てきて、男塾で仲間が勢ぞろいしていくあの感じになる。もしくは「ゴン…お前だったのか…」みた…
05-21 21:51RT @hal_unkoteikoku: 福岡太朗さん(@foktr)リスペクトの朝起きたら女の子になってた漫画の3本目を描きました。とりあえずここまで。新たなネタが投下されたらまた燃えます。 http://t.co/4WAlRM5Htb
05-21 21:50RT @hal_unkoteikoku: @hal_unkoteikoku 福岡太朗さん(@foktr)リスペクトの朝起きたら女の子になってた漫画の2本目を描きました!なんかすまん!!! http://t.co/H8VcxUsxj5
05-21 21:50RT @hal_unkoteikoku: 福岡太朗さんリスペクトで朝起きたら女の子になってた漫画を描きました!! http://t.co/WhKwienpbU
05-21 21:50RT @kagurayam: 女を口説けないから女装に迫ってくるような男、ダサ過ぎて絶対相手できない。
05-21 20:06