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ビーストテイマーズ (16)~(20) By A.I.

挿絵:倉塚りこ

(16)

「これなんかいいと思うわ」
「もっと大人の女性じゃないと似合わない気がするぞ」
「いいからいいから」
 ユリが選んだのは桃色の下着だった。レースの飾りがついていて妖艶な雰囲気を醸し出している。滑らかな素材で作られていて光沢があった。
 下着を買わせる為にユリが獣毛を剃ったのは間違いない。
「落ち着かない気分になりそうだ」
 パンツを履いてみると布地がぴったりと皮膚に密着して、男根がないことを意識させられてしまう。お尻を包み込む滑らかな肌触りは馴染みのないものだ。
 毛皮のパンツなら着替えの手間や洗濯すらいらない。面倒なことになったと思うが、毛が生え揃うまでは下着の世話になるしかなかった。
「まさかブラジャーをつける羽目になるとはなぁ」
 奇妙な状況にコウは薄く笑った。肩紐のないタイプで扇情的な模様が彩られている。コウの乳房は同年代に比べれば控えめとはいえ、全力で走ればそれなりに揺れる。しっかりと胸を包んで保護するブラがあるのは便利かもしれない。
「……可愛いな」
 姿見の鏡には頬を朱に染めて恥らう少女の姿がある。贔屓目かもしれないが、異形の獣耳があっても少女の魅力は損なわれていない。服を着ていない時は野性味溢れる活発な感じだったのに、下着をつけただけで妖艶な魅力を発していた。

ビーストテイマーズ(16)修正

 顔に幼さを残した少女が、大人っぽい下着をつけた姿は、倒錯感があって魔性の色気がある。
「そうよ、すごーく可愛いのよ。自信を持っていいから」
 ユリは我がことのように胸を張って自慢げだった。
「服は清純な感じで攻めてみましょうか。普段の彼女とは違った一面を発見して、彼氏は一発でメロメロよ」
「そんなことをしなくても大丈夫だと思うけど……」
 レイから言い寄ってきたのだから、惚れられているのは間違いない。
「油断大敵よ。どこに伏兵が隠れているかわからないんだからね。昨日の味方は今日の敵ってこともあるんだから!」
 口は笑みをかたどってはいるが、ユリの額には青筋が浮かんでいる。負のオーラが放出されているようで怖い。
「……まさかレイ君が……レイ君が……」
 愚痴っぽくユリは呪うようにレイの名前を呟いている。深く追求すると藪蛇になりそうで恐ろしい。
「こ、この服を着ればいいんだな」
 ユリが選んだ服を奪い取るようにして受け取ると、コウは試着室に逃げ込んだ。目で人を殺せる伝説のメデューサのようだった。肉弾戦で勝てない相手には、コウは尻尾を巻くしかない。
「よし、着てみるか」
 別世界の扉を開けるようなら不安と好奇。長袖のブラウスは襟首にフリルをあしらっていて華やかだ。
「なかなかはまらないな」
 初めて着る薄桃色のブラウスは、ボタンの位置が逆で手間取った。狼に育てられた少女というわけではないのに、この年齢になって服で苦戦するとは思わない。滑稽な自分の姿を思って、コウはおかしみを感じた。
「次はスカート……ね」
 眼前にスカートを持ち上げて、コウは吹き出しそうになった。透明感のあるシフォンスカート。恥ずかしさはあるが、冗談のような状況に笑いそうになる。
「そのうち慣れる日がくるのかなぁ」
 若い街娘のように友達とお喋りに興じて、お洒落に気を配るようになるのだろうか。天涯孤独の身で野良犬のように暮らしてきたコウには考えられない話だ。
「ありえないわな」
 こんなのは仮初めの姿だと思う。どうにか着替え終わったコウは鏡に自分の姿を映してみた。
「ふわぁぁっ」
 コウは感嘆の溜息を吐いた。どこぞのお嬢様のように愛らしい少女が立っている。とても暴力の世界で生きているようには見えない。花畑で花を愛でていた方が似合いそうだ。
「……たまにはいいかもしれない」
 コウは前言を撤回しそうになった。別人のような姿に心臓の鼓動が早くなる。自分の可愛らしい姿に自惚れてしまいそうだ。
「いいんじゃないかな。レイ君もきっと惚れ直すわ」
「そ、そうかなぁ」
 ユリに太鼓判を押されて、コウは満更でもなさそうな顔をした。
「ありがとう。大事にするよ」
 ビーストテイマーという職業にいる限り、こんな女らしい格好はなかなかできないだろう。コウ自身、束縛されるような衣服はあまり好きではない。それでも、時には気分転換も必要だろう。
「そろそろ日が暮れるわね」
 服屋から出ると影が長く伸びた。店じまいの準備をしている商店もある。かなり長居してしまったようだ。
「急がないと」
 服を買い終わった時点でコウは終わりだと思ったが、ユリには立ち寄りたい店があるらしい。
「そんなに時間はかからないから」
 最後に立ち寄ったのは靴屋だった。コウの獣足には縁遠い店のような気がする。
「靴なんて履けないぞ」
 小石を踏んだくらいではびくともしない強靭な足裏と肉球。獣毛と鋭爪を備えた足。今まで履いていたブーツのような革靴ではすぐに駄目にしてしまう。
「これならいいでしょ」
 ユリが選んだのは足先が露出しているボーンサンダルだった。これなら爪は気にならないし、毛で蒸すこともないだろう。元々は兵士が着用していたという、強固な作りのサンダルだ。
「険しい場所に行くこともあるだろうからね。足は大事にしないと」
「これなら激しい動きをしても大丈夫そうだ」
 砂漠や氷原を歩くならば、靴は必要となるだろう。依頼によっては遠征もありうる。
「家まで送っていくよ」
 買い物を終えると、外は薄暗くなっていた。この街の治安はさほど悪くないが、無法者が出ないとは限らない。
「送り狼だね」
「もう手は出さないから勘弁して」
 冗談なのだろうが、手を合わせてコウはユリに軽く頭を下げた。
「たまにならいいわよ」
 ユリは悪戯っぽく笑っている。コウは慌てて手を左右に振ったが、女性を相手にしたい気分がないわけではなかった。男のままだったら、ユリを恋人にしていたかもしれない。
「困ったことがあったら相談してね。女の先輩として力になるから」
「その時はお願いするよ」
 ユリは頼りにはなりそうだが、いらぬ気苦労も増えそうだ。でも、同年代の女の子との買い物は楽しかった。手を振ってユリと別れると、コウはレイの待つ家へと帰路を急いだ。一日会っていないだけで、心が騒ぐようだった。

「ちょっといいかい」
「急ぐので」
「つれないなぁ。少しぐらい相手をしてくれよ」
 路地裏を通って近道をしようとしたコウは、不審な人物に呼び止められた。コウは無視して通り過ぎようとしたが、酒臭い息を吐く巨漢は通せんぼをしてきた。
「……道を変えるか」
 苛立ったコウは巨漢を殴り飛ばしたくなったが、折角の服を汚したくはなかった。退路を求めて後ろを振り返ると、凶悪な人相をした男が行く手を遮っている。どうやら巨漢の仲間らしい。
「まさか俺が狙われるとはなぁ」
 コウは肩を竦めて嘆息した。ユリを送り届けた後に、無法者に絡まれるとは思わなかった。暗い路地裏なので、コウの姿が完全にはわからないのだろう。せいぜい見えているのはスカートを履いた女の子といったところだろうか。
「お嬢ちゃん、いいことしようぜ」
「やめろよ」
 下卑た笑いを浮かべて巨漢が馴れ馴れしく近寄ってくる。酒臭くて鼻が曲がりそうだ。巨漢が不躾に伸ばしてきた手をコウは上半身だけで避け続けたが、そのせいで後ろにいる凶漢の対処が遅れた。
「ひゃっはーっ、足元がお留守だぜ」
 奇声を発して凶漢がコウの足元を払う。コウは無様に転んでしまい、買ったばかりの服が砂だらけになってしまった。
「……あ、あれ……変だな……」
 転んだ衝撃は大して痛くはなかったが、コウの目からぽろぽろと涙がこぼれた。涙を押し留めようとするが、悲しくなって涙が溢れてしまう。まるで小さな女の子になってしまったかのようだ。
「……うわぁぁん、ああぁん……」
 少女は嗚咽を漏らして泣いていた。レイに披露する前に新しい服を汚してしまったことが、コウが思う以上に胸に突き刺さった。

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