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ビーストテイマーズ (31)~(35) By アイニス

挿絵:倉塚りこ

(31)

 盛り上がった筋肉を革鎧で包んだ男が、憮然とした顔で歩いていた。事件でも起こしそうな物騒な雰囲気。もっとも、男は事件を未然に防ぐ為に派遣されたのだが。
「うがぁっ! なーんも、なーんもなさすぎだーっ!」
 代り映えのしない殺風景な景色に、男は癇癪玉を炸裂された。
 虎を扱うビーストテイマー、虎牙バルは往来の真ん中で叫んでいた。ちょこまかと隣を歩いていた白虎の子ラトが、びくっとなって主人の顔を見上げている。だが、他に聞く者のいない大声は、虚しく潮風に流されていった。
 いい女はいない。うまい酒も飯もなさそうだ。港町とされているレウスだが、漁村よりはましといった規模だった。観光地として発展している温泉街のテルエとは比べようもない。
 潮風の影響で小汚い家が多く、寂れた印象を受ける。本拠地にしているルナルの街を出立する際、娘には土産を約束したのに面白そうなものは見当たらなかった。
「簡単だと思って依頼を引き受けたのによ。貧乏くじを引いたかな」
 後悔しまくっていて、バルは精悍な顔を歪め不機嫌そうにしていた。苛立ちで尖った牙のような犬歯がかちかちと音を立てている。
「つまらなそうな漁村だよな。こんなところで本当に悪い企みなんてあるのかねぇ」
 ぼやきながらバルは町中を見て回っていた。最近になってレウスの近くに点在している村々から人がいなくなる事件が続いている。レウスに邪教が広がっているという噂もあった。その件に猛獣使いが関わっているらしく、バルが偵察に派遣されたというわけだ。ただでさえ悪く言われやすい職業だ。早いうちに不穏な芽は潰しておくに限る。
「無駄足になっちまったか」
 足を使って住民に話を聞いてみたが、よそ者には閉鎖的な町のようだ。ろくに情報が集まらない。苦労して入手した情報は信憑性の薄いものだった。
「明日は教会で話を聞いてみるか。いや、町の外れで夜な夜な変な声が聞こえるらしいから、調べてみるのも手だな」
 海岸沿いの崖に気味の悪い声がするらしい。先日、漁師の新妻が崖から身投げをしたそうだ。漁に出た亭主が荒波に飲まれて亡くなって、思いつめていたという話だった。その近辺では悪霊が出るという話で、荒くれ者揃いの漁師でも近寄らないらしい。
「どうせ海から吹いた風が悪戯をして、変な声に聞こえるだけだろうな。臆病風に吹かれやがって」
 くだらないという顔をして、バルは一件しかない酒場に向かった。町を歩き回った程度で鍛えられた体は疲れないが、太陽が沈み始めて影が長くなっている。ここらで腹ごなしも兼ねて休憩しておいた方がいいだろう。だが、酒場の前でバルは足を止めていた。
「酒場の近くに露店が出ているな。昼間に通った時はいなかったが」
 興味を引かれて商品を見ると、赤珊瑚の細工物が売られていた。まるで血のように真紅で深い色艶をしている。なかなか凝っていて、目が惹きつけられた。
「ほぅ、こいつはあんたが作ったのか。なかなか洒落ているな」
「は、はい。よろしければ手に取ってご覧ください」
 ボロ服を着た青年がぺこぺこと頭を下げた。ほとんど売れてないようで、頬が痩せこけている。こんな田舎町では装飾品は売れないのだろう。
「この二つをくれ」
 マイと娘にやるつもりで気に入った二品を選んだ。無駄遣いをするなとマイには怒られそうではあるが。赤い輝きを放つネックレスは似合うと思ったのだ。
「あ、ありがとうございます。あの、代金が多いのですが……」
 渡された硬貨を見て慌てて青年は釣り銭を用意しようとしていた。
「構わない。それくらいの価値はあると思ったからな。余計なお節介だろうが、これからも商売するつもりなら、この町から引っ越した方がいいぞ。それだけの腕はありそうだ」
「は、はい。ありがとうございます!」
 何度も頭を下げて礼を言う青年を励ましてから、バルは酒場に入った。悪くはない買い物をしたと思う。
「温めたミルクと食い物をくれ」
「おいおい、ここは酒場だぜ」
 先客の漁師たちはバルの注文を聞いて嘲笑ったが、屈強な男の姿を見て居心地悪そうに押し黙った。大酒飲みのバルではあるが調査がまだ控えている。ここで虎になって騒ぎを起こしたら厄介なことになるだろう。
「早く大きくなってくれよ」
 仔猫のようなラトの前にミルクの入った皿を置いて、バルは焼かれた魚の開きを骨ごとバリバリ食べていた。新鮮な魚ではないらしくまずい。邪険にされているかと思ったが、周りの客も似たようなものだ。魚があまり取れないようで、漁師たちはお互いに愚痴っていた。
「さっさと帰りたくなるな」
 これなら娘の焦げた目玉焼きの方がはるかにましだ。
 適当に腹を満たしてから、バルは町外れの海岸へと向かった。ほとんど日は落ちて、辺りは薄暗くなっている。崖の近くまで行くと背負い袋から毛布を出した。
「今のところは波と風の音しか聞こえないな。本当に不気味な声がするか怪しいもんだ」
 懐に毛玉のようなラトを入れて、バルは地面に寝転んだ。海風が当たって寒いが、ラトのお陰で体は暖かい。これなら仮眠くらいは取れそうだ。

 闇に包まれた港町が静まり返り、家の明かりも消えた頃、崖の下から苦しげな女の声らしきものがし始めた。完全に熟睡したように見えたバルだが、女の声がするとすぐに目を開いて耳を澄ました。
「……ふぅん、俺の耳でも捉えきれないが、確かに女の悲痛な声に聞こえるな」
 虎の組織を儀式によって移植したバルは、常人よりも小さな音まで拾うことができる。ただ女の声は海風に紛れて聞き取りにくかった。
「声からすると美人そうだが」
 俄然興味を引かれたバルは不敵に笑っていた。毛布を背負い袋に入れると、軽く体を動かして筋肉を温める。
「ラトは大人しく寝ていろ」
 襟から眠そうに目を擦りながら仔猫が顔を出した。主人の声を聞いて、安心したように目を瞑っている。
 崖から景色を見下ろすと、真っ暗になった海が見えた。足を踏み外したら命のなさそうな断崖絶壁だが、バルは気軽な足取りで飛び降りた。
「これくらいなら楽勝だ」
 真っ暗闇で足場が限られているのに、平気な顔で崖を下っていく。虎の力を得たバルは夜でも目が見えるし、瞬発力に優れたしなやかな筋肉をしている。爪先しか置けないような場所でも、抜群の平衡感覚を生かして危なげがない。
「ここから聞こえるようだな」
 海水が押し寄せている波打ち際まで下りると、ぽっかりと口を開けた洞窟があった。波に浸食されて崖に穴が開いたのだろう。引き潮になったので、洞窟が姿を現したようだ。
「さて、何が出るか……」
 助けを求めるような女の悲鳴は明らかに聞こえていた。遭難者という可能性はあるが、何が出るかはわからない。不穏な気配が漂う洞窟だが、バルは豪胆な笑みを浮かべて楽しそうだ。怖いもの知らずの顔で洞窟に踏み入っていく。あちこちに水溜りがあって滑りやすかったが、足音は微塵もしなかった。
「魚臭くなってきたな」
 何者かが生活しているようだが、どうしてこの場所なのかという疑問はある。奥から聞こえる女の声は、悲しそうではあるが熱っぽい響きがあった。呼吸は乱れがちで荒っぽくなっている。
「女が体を慰めているようにも聞こえるが……」
 人を歌声で惑わすというセイレーンのような美しい声だ。長年の勘から判断して妙齢の美人だろう。遭難して一人寂しい夜を過ごしてきたのかもしれない。助け出して恩を売れば、美味しい展開が待ってそうだ。女には目がないバルは目を輝かせた。
「一人かと思ったが違う声もするな。男なら見殺しにしたいところだが、二人とも女のようだ」
 両手に花という妄想を抱いて、バルは頬を緩ませていた。女の冷えた体を男の温もりで癒してやろう。
 洞窟の奥はオレンジ色の光で明るくなっている。焚き火でも燃やしているようだ。空気が暖かくなって、生臭い魚の臭いが一層強くなった。
「さて、美女の顔を拝見するか」
 気配を殺して物陰から中の様子を窺う。青い髪と赤い髪をした二人の女の顔が見えた。かなりの美人と評してもいい。
「なっ……!」
 それ自体は女好きのバルにとっては喜ばしいはずなのに、絶句したまま動けなくなっている。予想外の光景に額から汗が流れた。絡まり合う二人の女の姿をバルは固唾を呑んで観察していた。

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2015年6月の文庫チェック



06/02 講談社
講談社ラノベ文庫 異世界支配のスキルテイカー ~ゼロから始める奴隷ハーレム~ 柑橘ゆすら 未定
06/03 ポニーキャニオン
ぽにきゃんBOOKS ライトノベルシリーズ 星くず英雄伝(7) ファニージュエルふたたび 新木伸 702
06/04 河出書房新社
河出文庫 日本の童貞 澁谷知美 821
06/04 宝島社
宝島社文庫 JC科学捜査官 雛菊こまりと“くねくね”殺人事件 上甲宣之 702
06/04 早川書房
ハヤカワ文庫NF 大日本帝国の興亡〔新版〕(1) 暁のZ作戦 ジョン・トーランド 864
06/04 早川書房
ハヤカワ文庫NF 大日本帝国の興亡〔新版〕(2) 昇る太陽 ジョン・トーランド 864
06/05 KADOKAWA
B-PRINCE文庫 ランジェリー男子 小中大豆 691
06/10 KADOKAWA
電撃文庫 乙女な王子と魔獣騎士 柊遊馬 637
06/10 フランス書院
フランス書院文庫X 闘う熟女ヒロイン、堕ちる 御堂乱 未定
06/11 光文社
光文社文庫 アルスラーン戦記8 仮面兵団 田中芳樹 未定
06/15 SBクリエイティブ
GA文庫 おと×まほ(16) 白瀬修 680
06/15 KADOKAWA
富士見L文庫 女装王子の聡明にして華麗なたくらみ 一石月下 648
06/中 キルタイムコミュニケーション
二次元ドリーム文庫 強くてニューゲーム(仮) 竹内けん 721
06/中 キルタイムコミュニケーション
二次元ドリーム文庫 淫魔エステ 搾精コースはじめました(仮) 高岡智空 721
06/20 一迅社
一迅社文庫 千変不壊の魔黒鎧(仮) 宮沢周 689
06/20 KADOKAWA
ファンタジア文庫 これはゾンビですか?(19) はい、お前じゃねぇよ! 木村心一 648
06/23 中央公論新社
中公文庫 海軍戦略家キングと太平洋戦争 谷光太郎 972
06/下 キルタイムコミュニケーション
あとみっく文庫 勇者が魔王!(仮) 羽沢向一 740






06/03のツイートまとめ

amulai

RT @eroetwit: ヤリチン男子は女体化してもスケベだし、男友達には結構優しいというお話 http://t.co/ZEsksYovLq
06-03 07:05

RT @KU__MA__NO__MI: TSっ娘は「女の子になったから」男性の親友に惹かれる訳だし、親友もTSっ娘が「女の子になったから」惹かれるんだよですし。身体の性別が変わっただけで揺らいでしまう様な強くて脆くて甘酸っぱい関係が見たいんだよですし。
06-03 06:42

悪の組織の幹部が失敗したらボスから女体化光線を浴びせられて、他の幹部や怪人に輪姦される図。#TSFの卵
06-03 00:10

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