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断章の少年探偵 作 猫野 丸太丸 キャラ・挿絵 灰田かつれつ ④
「チカ……、僕のヘルベチカ……。早く戻ってきて、チカの細い肩、さらさらの髪、かわいい声……」
また別の日に女装して話していたら、メイ=リオがどうしても僕の事務所を訪ねたいそぶりを見せた。
「いいけど、どうしていままで来たことがなかったんだっけ?」
「あたいはオフの時間に遊ぶ相手だったからね、仕事とは区切るのが礼儀じゃない。それにときどき事務所は危ないことがあるってチカが言っていた」
「真犯人が訪ねてきたこともあったねー、一回だけだけど」
地下鉄に乗って数駅移動した。事務所があるビルに来た時点で、メイ=リオは
「一階が喫茶店で二階が探偵事務所! 探偵がいそうな雰囲気があるねえ」
と、よく分からない驚き方をしていた。
「そして事務所に入ったところで思ったんだけれど」
「急に声が怖いね」
「予想していたけれど予想以上ね! 部屋の掃除をしているのかな?」
「チカがいなくなってからは……、一、二回」
「していないでしょう? 服がホコリ臭くなっていたから怪しんでいたのよ」
メイ=リオは窓際の書類をどけて、ずっと開けていなかった窓を開きはじめた。道路を走る車の音が一気に事務所に入ってくる。
「するよ、掃除を」
「ありがとう」
「なに言っているの、あなたがするの! チカがしていたとおりのことをあなたもやりたいのだから当然取り組むよね」
「そうか! ありがとう」
メイ=リオがコートを脱ぐと、下はしっかりノースリーブのカットソーを着ていた。覚悟した僕もシャワー室に行ってTシャツに着がえようとする。後ろでメイ=リオの足音がする。
「まあ、探偵さんにお胸がある。変態になっちゃったの?」
「自分でブラジャーを工夫してたりして。デパートの店員さんと顔見知りになったからね、下着売り場の人も紹介してもらっていろいろアドバイスを受けた」
「探偵さんは無駄に行動力があるね」
「それはともかく掃除だろう?」
せっかくなのでメイ=リオに話した。
「机の上と横に書類の山がある。あっちが二年前、開設当初からの。こっちがだいたい一年前からの書類だよ。個人情報が載っている書類とお金関係の書類、それからどうでもいい書類が混ざっているんだ。事件後に警察がひっくり返したからよけいに分類されていない」
「捜索された日からずっとそのまま?」
「うん。残ったのはもう事件には関係ないと思うけど」
「捨てたらだめなんだよね……。箱に詰めようか」
僕がメイ=リオから習ったことは、とにかく物をどけて場所を空けること、実際使っているものと使っていないものを分けること、不要なものは思い切って部屋から出すことだった。
床の上をきれいにして掃除機で掃いて、半日かけたらずいぶんきれいになった。メイ=リオの言うとおり、窓から冷たい排気ガスが入ってくるにしても掃除前の部屋よりずっと空気が良くなった。
「でも考えたら変よね。チカがいながら開設当時からの書類が散らかしっぱなしだったなんて」
「自分で片づけろって何回も言われたよ? ただメイ=リオみたく直接手を出しては来なかったんだ。ほこりをはたくくらいだった」
メイ=リオがなにかつぶやいて、舌打ちする音が聞こえた。
「ごめん。あたい余計なことをしたかも」
「いやいや、もう片づけても事件には関係ないから」
「事務所をはじめたときからチカはわざとエリアルの机には触らなかったんだよ」
「厳しい助手だったからね。ちゃんと僕自身に掃除をさせたかったんだろう」
「違うの! チカは探偵のお仕事を大切だと思っていたからエリアルの邪魔にならないようにしていたんだよ。お掃除するけど捜査には響かないようにって。あたいを事務所に入れなかったのもきっと私用で邪魔したくなかったから」
僕の捜査を妨害しないように資料に触らなかったってことか? その発想はなかった。僕は二つ並んだ机を見くらべた。悩ましい僕の机と、静かに作業を進めるチカの机。どうして、どうしてチカがキーボードを打つ音はあんなに静かだったのだろう。
「僕の仕事をチカが認めてくれていたとか、そういうの? いやだ恥ずかしいなあ」
「ありがたがりなさい、あなただからこその恩恵よ? 一方のあたいにはね、もっと勉強しろとか習っているバイオリンをがんばれとか厳しかったんだから」
「あはは、言いそう」
二人で笑ったけれど、ちょっといたたまれない雰囲気も残った。僕は机の上にあえて残した紙束を手に取る。
「チカがさらわれたときに僕が関わっていた事件はこれだけ。子供好きのモリソンが誘拐犯に疑われていたんだ。結局無罪だったけれどね」
「怪しいんじゃないの? チカの誘拐犯と関係あるのかも」
「単純に結びつけてはいけないさ」
モリソンの書類を崩さないようにして僕たちは掃除を続けた。話しているうちにメイ=リオは僕の声帯模写を理解した。そしたらご興味がわいたらしい。
「あたいもチカを助手にしている気分が味わいたい」
だそうだ。
「だからチカの声であたいと会話して」
「じゃあ君が少年探偵役だね。朝の場面なんてどうだろう」
メイ=リオをせかして僕のベッドに入ってもらった。目覚ましの針を回して枕元でわざと鳴らす。
「おはようエリアル。少し遅いの」
僕の女声にメイ=リオは「チカだ!」と叫んでとび起きた。そして目を見開いた。僕がなぜか蒸しタオルを持って待っていたからだ。
「チカだ! ……おはよう。これで顔を拭いて髪を直しちゃうんだ」
「十時から弁護士会館なの、その前にバーダン警部のところへお話にいくんだよね。面談が終わったらフェスティバル・マーケットに行ってあげてね、店長さんが今週こそ会いたいって言っていたから。マーケットでグレープフルーツって手に入るかなぁ? 夕食に作りたいものがあるの」
「なによ、その助手兼奥さん兼お母さんみたいなのは……、あなた少年探偵のくせに同棲生活してたの?」
「違うの。エリアルは探偵さんだしあたしは助手なの、ダメかな?」

08/22のツイートまとめ
amulai
RT @sirokurge: 名古屋でオフ会とかやりたいけどそもそも近くに誰がいるのかがワカラナイ
08-22 23:53RT @Simon_Sin: 「この中に1人、アルバイトがいる!」学生ボランティアの間に噂が流れる。疑心暗鬼に陥るボランティアたち。あいつか?あいつがアルバイトなのか?なぜ俺たちがタダ働きなのにあいつだけ…疑いが疑いを生み崩れる結束。崩壊する現場。次回『疑心』来週もボランティ…
08-22 22:26RT @amulai: そこは不思議な村だった。https://t.co/O6V9Gu1tnq美少女ばかり目につくのだ。彼女たちは、オレにすぐにこの村から出ていくように警告する。やがてオレは、この町が一人の少年に支配されていることに気付く。…てな設定で、SKIMA経由で螺子…
08-22 21:01RT @ko_second: このざまさんとの合作で今ちまちま作ってるものです戦隊的な人たちと悪の女幹部がたたかうんじゃないかなって思います https://t.co/X3XSxZuRKU
08-22 20:21RT @Pwe3x4wPeQ9j3yA: 「タダで描いてくれ」って依頼には「これこれこういうわけで出来ません」と時間かけて理解してもらうための気を使った文章書くんだけど、返信があったことは一度もない。ほんとに一度もない。「タダで」と頼んでくる人なんてのは所詮そんなもの。
08-22 17:53RT @takuya_uruno: とにかく漫画家やイラストレーターなどは基本的にフリーランス=個人事業主なので、自分で自分の事業をコントロールできなきゃ振り回されるだけになる。そしてお金のことはコントロールすべき最重要な部分の1つなので、話しづらくても話さなきゃならないのだ。…
08-22 16:40RT @takuya_uruno: ↓ ボクも普通にお金の話はするなぁ。いきなり聞くことは少ないけど最後には必ず確認するし、提示できないようならコッチから見積もりを出す。生臭い話は切り出しにくいってのはわかるけど、漫画だろうが広告だろうが、お金の話をしないまま仕事に着手すること…
08-22 16:39RT @Yuriy_Julius: 日共の何がヤバイかって。「自衛隊は民間イベントに出るべきではない」という、立法府議員の立場から十分発議可能な議論をすっとばして、立場の弱い民間側に直接圧力を掛けに行く事なんだよな。 https://t.co/xBNw0vXBhh
08-22 16:37RT @BlackBorder: 派遣の若い子が暗い顔してきた「単金良いから移れって言われて来たのに給料変わらない」すぐ派遣会社に営業に連絡「こっちはこれだけ出してんのにお前んとこはどんだけ抜いてんだ、支障が出るから単金あげろや」次の日ウキウキな若い子「10万上がりま…
08-22 16:35RT @hama1200: そういえば、完全に趣味の同人誌描くのに、ネームをわざわざ描く人多いんですね。面倒でも完成度あげたいってことなのかなあ。頭から描きたいところを描いて、飽きたらやめる、って本の作り方しちゃダメなのかなあ。僕はそういう仕事がしたい(おい
08-22 16:31