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【ひまわり】(5) by.ダークアリス

(5)-------------------------------------------------------

 北海道へ来て、早くも最初の夏が来ていた。
 不慣れな土地での、慌しい新生活に右往左往しているうちに、やっと一息つけたと感じられたのは、大学が夏休みに入ってからだった。
 俺は都会とは違った、さわやかな初夏の風を感じながら縁側でぼうっとしていた。
 ちょこまかと楽しそうに動き回りながら、庭のひまわりに水をやっている、透子の姿を目で追いかけていた。

 俺は初めは透子を親戚の家に預け、大学に近い場所にアパートでも借りて一人暮らしをするつもりでいた。
 しかし透子は俺と離れるのを嫌がり、かといって透子と2人暮らしというわけにも、行かなかった。
 また両親との約束もあり、結局大学からは電車で2時間かかる、小さな村の外れにある親戚の家で暮らすことになった。
 親戚といっても、年金暮らしの婆さん一人。
 農家を営んでいただけあって、3人では広すぎるぐらいの大きな家だった。

 俺は生活が落ち着いたら、透子も養護学校へ行かせるつもりでいた。
 けれど婆さんの家から通えそうな場所にはそうした施設が無く、元気になったいまでも、婆さんの手伝いをしながら、毎日を過ごしていた。
 俺は透子の為に、大学の近くに透子を受け入れてくれそうな学校を探そうとしたが、婆さんは『病気で女の子になって、しかも心を傷つけられて小さな子供のようになってしまったかわいそうな子を、いったい何処が受け入れてくれるんだね? ここでワシの手伝いをしていたほうが、この子にとっては幸せなんじゃよ』といって、俺の意見など聞き入れそうになかった。

*---*---*---*---*---*---*---*---*---*---*


 庭や裏山のあちこちに雪が残っている間は、慣れない土地と見知った顔の少ないせいなのか、透子は周囲を警戒するように、縮こまった毎日を過ごしていた。
 しかし母親に付けられたと言う傷や痣がきれいに消えた頃には、最初は怖がっていた婆さんとも打ち解けて家の手伝いをするようになり、いつの間にか近所の飼い犬とも友達になっていた。

 犬を追いかけて元気に庭を駆け回る透子を見ていると、俺は医者や婆さんが言うとおり、転地療養の効果があったと安心していた。
 言葉や会話の内容もたどたどしい幼児言葉から、ごく普通の……少女らしいものに変わっていった。
 そして時折見せる透子の仕種は、透子の記憶と人格が回復しつつあるようにも感じられた。
 なんとなくかばんに入れてきた、大学受験の参考書を解かせると、それなりに成績が良かった透には及ばなかったものの、いくつかは正解してみせた。

「お前、本当はもう、治っているんじゃないのか?」
「なぁに? 透子はいつも元気だよ。変なお兄ちゃん」
「いや、そういう意味じゃなくて……」
「あ、ちょうちょ!」

ひまわり2
イラスト.まさき ねむ http://www.h7.dion.ne.jp/~nemiu/

 透子の視野の隅をかすめたのだろう。ひらひらと舞う蝶に、もう関心が移ったようだった。捕まえる気でいるのか、かぶっていた帽子を振り回しながら、蝶を追い掛け回し始めた。
 まぁ、いいか。ロクでもないことは、思い出さないほうが本人のためかもしれない。
 透子がずっとこのままでも、良いじゃないかと俺は思い始めていた。

「でも、おにいちゃんか……。悪くないな」
「なに気持の悪い笑いをしているんじゃ?」

 ノースリーブの白いワンピースに帽子を振り回しながら、近所の犬と一緒に庭を駆け回っている透子を見つめていたら、突然背後から声をかけられた。
 婆さんは、いつの間にか俺の近くに来ていて、よく俺を驚かせる。

「脅かすなよ! ばあちゃん。 な、なんでもないよ、うん」
「広志、あの子に邪な感情など抱くでないぞ。わかっておろうな?」
「そ、そりゃもちろん!」
「どうだか。くれぐれも言っておくが、あの子を泣かせるような事をしたら、如何に孫とて容赦はせんからな」
「わかってますって、ばあちゃん」

 言われなくても、透子につけられた深い傷の重さは、わかっているつもりだった。
 俺は純粋に……そう、兄として、透子をかわいがっているだけなんだ。
 改めて俺は、そう自分に言い聞かせた。

*---*---*---*---*---*---*---*---*---*---*


 元気になった透子と遊んでいると、時間が立つのを忘れてしまうことがある。
 俺が夏休みに入ってからと言うもの、透子は全力全開状態だった。
 大学が休みで、一日中俺が家に居るのがうれしいのか、透子は毎日を元気いっぱいに過ごした。
 朝は鶏が無くと同時に俺を叩き起こし、裏山のフクロウが啼き始めて、布団に入り寝付くまで、俺は透子のペースに巻き込まれっぱなしだった。

 透子は一日中忙しそうに動き回り、目に入るもの耳に聞こえるもの全てに興味を示した。
 そして、俺がちょっとでも暇そうにしているのを見つけると駆け寄って来て、一緒に遊んでくれとせがんだ。
 俺は一刻も休むことなく、はしゃぎまわる透子につき合わされて、少々うんざりしていた。
 だが、透が透子になってしまったことには、俺は責任の一端を感じていた。

 それにまぁ、なんというか、こういうのも悪くない。

 透子は家の近くに広がる花畑で、かくれんぼをするのが大好きだった。

 背の高い黄色い花。かくれんぼをするには絶好の場所だ。
 田舎で何もないところだけど、この花畑は透子のお気に入りの場所で、俺とかくれんぼをして遊ぶのが、何よりも楽しいようだった。

「もう、いいかーい?」
「まぁーだだよ!」
「もう、いいかーい?」
「まぁーだだよ!」
「……もう、いいかーい?」
「まぁーだだよ。まだこっちにきちゃ駄目!」

 大学生にもなって、女の子と花畑でかくれんぼとは恥ずかしかったが、透子が喜んでくれるならばと、俺はそれに付き合った。
 どうせ、誰も見ちゃいないしな。

「もう、いいかーい?」
「もういいよー」

 『いいよー』といっても、俺からは透子の居るところは丸見えだった。
 透子は背中を俺に向けていれば、自分は見つからないとでも思っているのだろうか?
 背の高い黄色い花の隙間から、白いワンピースに大きな帽子をかぶった、透子の後ろ姿が見えている。

「みーつけた!」

 俺は透子の帽子をとって、高く掲げた。

「ぷぅー! もう見つかっちゃった。じゃ今度は透子がオニね」
「透子はかくれんぼが好きだな」
「んー? 透子が好きなのはかくれんぼじゃないよ。この花が好きなの」
「この花って、ひまわりのことか?」
「そう。背が高くって大きくて、てっぺんにお顔がついているの。それでね、いつも笑っているんだよ」

 そういってにっこり笑う透子は、ひまわりの花のようだった。
 透子は両手を広げてくるりと体を一回転させると、こう言った。

「それにね、この花はお兄ちゃんなの」
「俺?」
「背が高くって、いつもニコニコしていて。だから、お兄ちゃんなの」

 俺がひまわりなら、透子は太陽だな……。

「透子ね、たくさんのお兄ちゃんの花に囲まれて、本当のお兄ちゃんを見つけるのが、大好きなの。だって……」

 透子は夕陽よりも顔を紅く染め、はにかむような笑顔でいった。

「わたし、お兄ちゃんが大好きだから……」

 そう言って少し恥ずかしそうに微笑む透子の顔は、ひまわりよりも明るく、夏の太陽よりも輝いていた。

 澄み切った青空が、熱風さえも心地よくさせる、何もかもが元気いっぱいの季節だった。

<つづく>

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