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【ひまわり】(6) by.ダークアリス

(6)-------------------------------------------------------

 透子はこの頃から、女の子らしさを増していった。
 元気いっぱいなのは変わらないが、真っ白なワンピースの裾を翻すのを恥ずかしがったり、庭の水撒きが口実の水遊びで、服が濡れたりしないように気を使うようになった。
 ちょっと前までは、ブラ……いや、確かに役得と言えないような目の保養的な……いや、婆ぁさんとの誓いで邪な感情を抱かないと決めた俺を、戸惑わせるようなことをしていた。
 暇そうにしている俺のところに駆け寄ってきて、抱き付こうとする時も、すこし遠慮がちに、しかししっかりと体をくっつけてくる透子に、俺は戸惑うしかなかった。
 
 いったい、どう反応すればいいんだ! 俺は!

 透子自身は自分を女の子としての自覚を持ち始めたのかもしれないが、俺にとってはまだ、透でもあり、透子でもあった。
 多少は年頃の女子にするように気遣いはできたとしても、そう簡単に他人の認識を変えられるほど、器用じゃないのだ。
 だが、そんな俺の戸惑いを意識しているのかそうでないのか、時々訳のわからない態度をすることもある。
 あるとき突然機嫌が悪くなるのだ。
 心配になった俺は、最初婆ぁさんに“あいつ、毎月のアレが始まったのか?”と訪ねてみたのだが、“この鈍感男め!”と言われただけでさっぱりわからなかった。
 ゲンコツ食らった頭をなでながら記憶を辿っても見たが、何が透子の気に触っているのか、皆目見当もつかなかった。

 こんなことがあった。
 昼寝をしていた俺は、ふと気がついて目を覚ますと、透子の顔がくっつきそうなほど目の前にあった。
 さては寝ている俺の顔に悪戯でもしようと考えたのかと、俺は透子の考えを見透かすようにニヤリと笑って、『残念だったな、透子。悪事は露見したぞ!』というと、透子はツンと口を尖らせて俺の腹に足で一撃を加えると、夕食まで口も聞かなかった。
 ちょっと前までなら、『ばれたかー』などと誤魔化すように笑って、一緒に遊んでくれとせがんでいたくせに。

 かといって、機嫌が悪かった日の翌朝は決まって、俺の寝床に潜り込んでいたりする。
 いやたぶん、深夜に俺が寝ているうちに、潜り込んでいるのだろう。
 だが困るんだよ。健康な男子の朝一番ってのは!
 だいたい、男ならそんなことぐらい……いや、もう女の子なのだろうけど。
 透子は……。

 透子自身は、俺のことを、どう思っているのだろうか?

 俺は透子に、どう接してやるのが、一番いいのだろうか?

 
*---*---*---*---*---*---*---*---*---*---*


 日射病が心配になりそうなほどの暑い日。
 庭の大きな木がつくる木陰の縁側で、透子はクレヨンを持って、白い画用紙に何かの絵を描いていた。
 ふと思いついて、俺は言ってみた。

「そうだ、透子。元気になったのなら、手紙を書かないか?」
「手紙? 誰に出すの?」
「誰にって、透子のお父さんとお母さんにだよ。“透子は元気です”って」

 いかにネグレクトな両親だったとしても、自分の血を分けた子供だ。他人に預けた実の娘の安否は気になる筈だ。
 それにあの時、透子の父親は言っていた。“いつか帰っておいで”と。
 情けない父親だったが、透子の母親を説得して、また元のように家族として暮らせるかもしれない。
 透子が元気になったのなら、“ごく普通の娘”として、受け入れられるかもしれない。
 そんな期待を、俺はしていたのだった。

 しかし透子は表情を曇らせると、小さな声で呟いた。

「ママ、許してくれるかなぁ……」
「何を言ってるんだ、透子。子供を許さない母親なんて居ないよ。それに透子は何も悪いことなんかしていないだろう?」
「でもね、透子、……ママに嫌われちゃったから」
「本当に嫌ってなんか、いないよ」

 透子はそれでも不安そうな表情をして、俺を見つめた。

「きっと透子のお母さんも、少し戸惑っているだけなんだ。でも、今はきっと怒ってなんかいないと思うよ」

 そういうと透子は、しばらくクレヨンをもったまま、じっと描きかけの絵を見つめていた。
 俺は居間の茶箪笥から、新しいはがきを持ってきて透子に差し出した。

「これに、書くの?」
「手紙が嫌なら、絵はがきでもいいじゃないか。きっと、透子のパパとママも喜ぶと思うよ?」

 暫くじっと真っ白なはがきの裏を見ていた透子は、やがて大きなひまわりの絵と、自画像のつもりなのだろうか、帽子を被った白いワンピースの女の子の絵に、“とおこはげんきです”と書いた。

*---*---*---*---*---*---*---*---*---*---*


 夏休みも終わりに近づいたある日、ちょっとした出来事があった。
 大学の夏期合宿で3日程留守にしていた俺が帰宅すると、いつもは元気よく出迎えてくれる透子の姿がなかった。
 代わりに出迎えてくれた婆さんに聞くと、透子は2日前から元気が無いのだという。
 透子の部屋に行くと、泣きそうな目で俺を見つめたかと思うと、俺に抱きついて泣き始めた。

「おにいちゃんは……、ひろしおにいちゃんは、とおこのこと、キライになんかならないよね?」
「どうしたんだ透子、なんかあったのか?」

 俺は訳も分からず泣きじゃくる透子が心配になった。
 訳を聞こうと透子に話しかけたが、ただ泣きじゃくるだけで、何も答えようとはしなかった。
 だがひとしきり泣きまくると、落ち着いたのかそのまま俺の腕の中で眠ってしまった。
 起こさないように気をつけながら、ベッドに寝かしつけ、婆さんに事情を問いただした。
 話によれば2日前、透子の実家から透子宛に荷物が届いたらしいのだが、それ以来様子がおかしいのだという。
 あのネグレクト両親が、何か透子の気に触るような物でも送ってきたのかとも思ったのだが、婆さんの話では、荷物の中身は洋服とかの類で手紙すらなく、当たり障りの無い言葉が書かれた、メモが付いていただけだという。

「一緒に入っていたウサギのぬいぐるみは、たいそう気に入っておったようだったのじゃがのう……」

 うさぎのぬいぐるみ? そんなのあったか?

「まぁ、おまえさんが居なくて、寂しかったんじゃろう。すぐに元気になるじゃろうて……」

 夕食の時間に目を覚ました透子は、俺にべったりとくっついて離れず、結局寝付くまで手を握ってやらなければ、愚図って眠りもしなかった。
 また子供に戻っちまったかと俺は心配したが、婆さんは

「ま、一晩寝れば元気になるじゃろう」

と特に心配してはいなかった。

 婆さんの言葉は正しく、次の日の朝起きると、いつもの元気な透子に戻っていた。

*---*---*---*---*---*---*---*---*---*---*


 そんな事があってから数日後、差出人不明のメモリーカードが送られてきた。
 不審に思った俺は、誰も見ていないことを確認してから、自分の部屋のPCで再生してみた。
 メモリーカードには、忌まわしいビデオファイルが入っていた。
 透子があの不良連中に、輪姦されているところだった。
 驚いた俺は、透子や婆さんには絶対に見つからないように、机の奥に隠した。
 おそらく、あの連中の仲間が送って来たに違いない。
 こんなものまで撮っていたとは許せないが、透子にとっては捨てちまうべき過去だ。
 いずれ犯人を見つけ出して、全部捨てさせよう。
 そう決心した。

 それから一週間後、また差出人不明のメモリーカードが送られてきた。
 今度も同じ嫌がらせかもしれないと思った俺は無視していたが、犯人からのメッセージがあるかもしれないと考え、夜中にこっそりとビデオファイルを再生した。
 しかし今度送られてきたのは、透子と実の父親とのセックスシーンだった。
 なぜ母親にまで透子が虐待されていたのか、なぜ透子の父親があんなに情けない態度だったのか、疑問が氷解した。
 そして、メモリーカードを送ってきた犯人というのは……。

 怒りに震えた俺がふと気がつくと、部屋の入り口には透子が立っていた。
 声をかけようとしたが、透子は泣きながら、部屋を出て行ってしまった。
 俺もあわてて後を追いかけたが、夜の闇が透子の足跡を隠し、捜索の手を阻んだ。
 俺はある予感がして、急いでその場所へと向かったが、少し遅かった。

 透子は大好きだった花畑で死んでいた。


 自殺だった。






<つづく>

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