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この魔法少女の主成分は勇気ではありません 3-2 by.inQβ

第3話「想いの在り処」-2

 かすかに夏の兆しを感じるようになってきた日差し。初夏というには早すぎるが、だからといって春というにはいささか強い光。
 悠生は半目になって横の人物を見上げていた。日差しが眩しいからではない。惚けた顔で脇目をちらちらと悠生に向けながら手をひいて歩いている友人がいるからだ。
 「ねえ、僕だけ制服なのっておかしくない? なんで私服じゃダメなの」
 わざとらしく手で顔を扇ぐしぐさをしてみせる。つまるところ、ちょっと熱いんだけど、と悠生は言いたかった。
 それもそうだろう。友人はジーンズを穿き、Tシャツの上にYシャツを羽織り、ボタンをとめずに開けっぴろげ、涼しそうにしているというのに、悠生はセーラー服姿だ。汗が吹き出るほどではないものの、歩いていると暑さを感じる格好である。悠生は不公平を感じざるをえなかった。
 友人はニヤついた顔(ただし少々イケメンなので、傍から見れば爽やかな笑みに脳内変換されるだろう)で、様々な種類の店が立ち並ぶモール街を制服姿の少女連れで歩いていた。
 「分かってないなぁ。制服ってのはだな、学生時代のみ、着たときの魅力が出る素晴らしい服装なのだよ。考えてみろ、会社勤めのOLが制服を着たって痛々しいだけだろう? たとえどんなに童顔でも、『学生』の成分が抜けると、たちまち価値は半減だ」
 また始まった、と悠生は思った。この友人、和人は、顔はそれなりにいいのだが、少々特殊な趣向をしており、またそれに輪をかけるように理解しがたい自論をよく展開する。
 「すなわち! 『学生』であるうちにその制服を存分に満喫しないというのは愚行! 極めて遺憾なことなのだよ、悠生ちゃん。好きな格好なんていつでもできるんだから、貴重な『学生』時代のうちは、少しでも長く制服を着ておくべきなんだ。そして俺の目を養うべきなんだ。学園に通うときだけでなく、俺の目につくときは、常にそうあってほしいものだよ」
 「そこまで付き合いきれないよ……。ていうかさ、お詫びも兼ねての外出じゃなかったの? これじゃお詫びになってないというか、むしろ和人のためになってるような気がするんだけど」
 そう指摘されると、気持ち悪いぐらいに幸せそうにニヤニヤとしていた和人の表情がわずかに崩れた。
 「ふっ……そこに気づくとは……侮れんな、悠生ちゃん。まあ、ぶっちゃけた話、デートだ、これは。しかも、仲睦まじい兄妹が街にお出かけしているだけにしか見えないという、傍から見れば極めて微笑ましい!」
 思った通りだった。薄々気づいてたいたものの、先日の一件がいい口実になってしまったようだ。まあ、姿形は少女とはいえ、悠生からすれば友人と遊びに出かけている感覚でしかない。そのため、和人がデート気分で浮かれて嬉しそうにしているならば、あえてそれに水を注す必要もないだろうと思い、不平は述べなかった。
 「くっ……仕方ない、我が目論見を早くも見破られたとなると、潔く要望に応えようではないか。さあ、さあ! さっそく服を買いに行こうではないか」
 「えっ、えっ!? あ、ちょっと!」
 和人は大げさなくらい心底悔しそうにリアクションを取ると、連れ立って歩いていた悠生の小さな身体を引きずるようにして、“まるで計算しつくされたようなタイミングでそこにあった”百貨店へと入っていった。



 「悠生ちゃんに合う服を選別してくる!」
 そういい残し、悠生を試着室へと押し込んでそこで待つように言ってから広い店内へと和人が消えてから、悠生は何度も自分の持つ次世代携帯端末の画面を確認していた。
 (いつまで待たせるのさ……。そ、そんなに真剣に選ばなくたっていいのに……)
 画面に羅列されている数字を見ると、遅いというほど時間が経過していないのが嫌でも分かってしまう。しかし、和人がどんなものを持ってきてくれるのか分からないため、必要以上に落ち着かなかった。
 (和人はどういう服が僕に合うと思ってるんだろ。ここは普通の百貨店なんだし、まさかスク水を持ってくるとか、そういうぶっ飛んだことはできないはずだし、ちゃんとした普通の服の中から選らんでくれるんだよね……)
 少女の姿で学園に赴いたのがちょうど休日の前で、その前日の夕方は、自宅に付いてからは妹の悠美の服を借りて過ごしていた。
 初め、悠美はこれでもかというほどフリフリの可愛らしい服を勧めてきたが、それは男子としての尊厳に関わる、として、悠生は頑なにそれを拒んだ。結局、悠美が何年も前に着ていたお下がりの服のうち、少しでもボーイッシュな服装を選んでそれを着こなしたのだが、下着まではお下がりなど残っておらず、仕方なく普段妹が使っているものを借りたのだった(少々サイズが合わなかったが)。
 どたばたと忙しかったため、自分の服を用意する暇は当然なく、下着も同様であった。それはつまり、今身につけている制服だけでなく、下着も妹のものであって、しかも下着は普段妹が使っているもので……。
 (うわぁ! な、何考えてるんだ! べべべ別にちゃんと洗ってあるし、こう……間接なんとかみたいなものもないよね!? きょ、兄妹だしね!)
 狭い個室でデートと浮かれる友人を待つが、暇を持て余すあまり、余計なことまで考えてしまう。悠生は顔を真っ赤にしつつ、今考えていたことを振り払うように首を強く振り、赤くなった頬をごまかしたくなって、自身の顔をペチペチと叩いた。
──シャーッ! 
 まだ記憶に新しい、保健室のベッドの周りのカーテンを開けられたときと同じようなレールを滑る金属音がしたかと思うと、何の遠慮もなしに、和人がひょっこりと試着室へと顔を覗かせていた。
 「よーっしお待たせ悠生ちゃん! ……って、何してるんだ?」
 顔を赤くして自身の頬を叩いている悠生と、ばっちり目が合ってしまう。
 「な、何でもないよ! 和人が遅いから、ちょっとウトウトしちゃったんだよ。眠気を覚ましてただけ!!」
 今身につけている服──というより下着が、普段妹が使っているものだと想像して赤くなっていたなど、口が裂けても言えたものではない。
 「なに!? それはつまり、もうちょいゆっくりしてくれば、無防備に眠っている悠生ちゃんをじっくり眺めていられたかもしれないということかね!! ぐわー、なんてもったいないことを!!」
 「は、はあ!? もう、馬鹿言ってないで! どんなの選んできたのか、ほら、さっさと見せて」
 不敵に目を輝かせる和人の顔面に一発拳を入れ、怯んだところを全力で引っ張って試着室の中へ引きずり込む。この変態とのやりとりの一部始終を誰かに見られたらたまったものではなかった。



 「……ね、ねえ、やっぱり着ないとダメ?」
 「ダメだ。間違いなく似合うと確信していたからな、もう会計も済ませてしまった。自分だけ制服なのは嫌なんだろう? 着る以外ないな」
 店内の衣服コーナーに1つずつ点在していた試着室の中で、悠生は最後の抵抗を試みていた。
 「いや、そうだけど。で、でもさ……これ、女の子っぽすぎない? フリっとしすぎてない? スカート短くない?」
 「何を言っている? 今穿いてるスカートだって充分短いだろう。悠美ちゃんよりちっこいから、若干長く見えるが。それに、こっちはしゃれっ気も利いていて、悠生ちゃんの可愛さを引き立てるのに一役買うこと間違いなし! 悠生ちゃんは大人しい性格だが、挑戦的なファッションで着飾ることによって、ギャップが生まれる! 背伸びしたい感がにじみ出る! そこに痺れる!!」
 試着室は本来1人で入るものであるから、いつもならば声を大にしているところでも、さすがに今は和人も声を潜めながらの熱弁となった。
 「えぇー……恥ずかしいよ……」
 厳選してきたという、和人の御眼鏡に叶った新品の服を摘み上げるようにして、悠生はまじまじと眺めていた。納得がいかないというより、納得したくない一心で、悠生は袖を通さずにいた。
 トップスは、薄茶色の縮れ加工のなされた生地が肩と腕を包んでいて、胴の部分は、鎖骨を覗かせるようにして、白い布地が垂れている。可愛らしさを醸し出すためだろうか、ご丁寧に胸の上の高さのところに黒く細いリボンが通されていて、正面で小さな蝶結び成されていた。季節に合う薄手のもので、夏も着ることができそうだ。
 そしてボトムズは、赤と黒のチェックの入ったショートスカートだ。悠生の身体に合うサイズのもので、歩いているだけで下着が見えるようなものではないが、気をつけないと、階段ではパンティが見えてしまうと思われる長さである。端に黒のラインでフリルもあしらわれている。
 ソックスは、おそらくニーソックスと言われるものだ。微妙な長さの違いで名前が違うそうだが、悠生には分別できるほどの知識はないので、判断がつかない。色は白を基調とした白黒のストライプ模様で、横に入った線が交互に並んでいる。これを穿いた上でスカートも穿くと、“絶対領域”というものが生まれるのだろう。
 そしてシューズは、革製の英国風のコンフォートデザインのものだった。ローファーの先端に丸みを帯びさせて、足の甲の部分の中央の革をくり貫いた……と表現するとよいだろうか。園児が履いていそうな靴を黒くして、もう少しオトナっぽくした感じのものだ。
 ベルトも用意されていたが、あまりこれが目立って他の特徴と競合しないためか、よくある黒の革製のものに穴が開いている部分に金属製のリングがはめこまれているだけで、それ以外は説明するところがなかった。
 (……スク水とかブルマではないにせよ、やっぱりすごいの持ってきたなぁ)
 今まで、自分の着こなしについて深く考え悩んだことがない悠生が、今回初めて悩んでいた。悩まされていた。
 和人が持ってきた服は、確かに可愛いものだと思われる。活発さ、明るさ、そして若干のオトナっぽさを演出しつつも、少女が着るのに無難なラインに収めているだろう。入念に観察し、表現できうる限りで頭の中で整理した結果、悠生もこの選別は認めざるをえなかった。
 だが、問題はそこではない。着る人物が、元々は男であったということだ。見た目は紛れも無く少女である。しかし、中身はつい先日まで男であった新井悠生なのだ。
 (これを着れば、僕のことを知らない人は可愛らしいカッコした女の子として見てくれるかもしれないけど、僕のことを知ってる人はどうなんだろう……。中身で言うと、女装ってことになっちゃうのかな……)
 先日、制服姿で学園の級友と接したときは、制服という“個”を霞ませるものを身につけ、集団の中に溶け込んでいたからよかった。制服だから仕方なく、ということで、女の格好をしていても違和感はなかっただろう。
 しかし、この私服は“個”を前面に押し出すものになる。あるいは、それに脚色を加えるものである。私服姿が人目に触れたとき、自分の心情はどうなるのか、周りの反応はどうなるのか、いまいち想像ができず、悠生は尻込みしてしまう。そして、姿は女でも、心は男である悠生は、この“少女らしい”服装を着ることに、少なからず背徳感を感じていた。
 「は~……っ! 悠生ちゃんな、今は俺しかいないわけだ。そんな恥ずかしがることはないだろう? とりあえず着てみたまえよ。その上で判断するといい。きっと考えが変わるぞ」
 和人に背を向けて服と睨めっこをして動かない悠生に痺れを切らし、和人は悠生の手から服を奪うと、悠生の制服に手を伸ばした。
 「あ、ちょっと!?」
 予期せぬ事態に対応が遅れる。悠生が和人の手を振り払おうとしたときには、既にスカートは脱がされ、下半身は下着が見えていた。あまりに早業かつ強引な手段に抗議しようとするが、今度はセーラー服を下からひっくりかえされる。布地が裏返しになるのも構わず、悠生は両手を万歳させられて、そのまま下着を残すのみとなった。
 「よし。……って、悠生ちゃん、ブラは!?」
 悠生の胸元を見て和人が言った。その視線の先、下着の下に透けて見えるはずの別の布地が見えなかった。
 「いや、『ブラは?』じゃないよ! なに勝手に脱がせてるの!! 制服返してよ!」
 ひったくられる形となって、和人の背後へと隠された制服に手を伸ばすが、その手が届く前に、和人は制服を頭上に高らかと持ち上げてしまう。
 「いやいやいや、ブラだよ。悠生ちゃん、ダメじゃないか。いくら平らとはいえ、女の子の胸っていうのは、ちゃんと保護しなくては。……ん、いや、ちょっと膨らみがあるかな、これは?」
 そういうと、制服を持ち上げていない片手で、悠生の胸元を優しく撫で回す。
 「っー!!」
 咄嗟に、悠生はどうせ届くことのない和人の頭上へ伸ばしていた手をひっこめ、和人の手を叩き落すようにして払うと、触られた部分を抱くようにして隠した。
 「あ、それイイ! 可愛い! たまらん!! 顔を真っ赤にして胸を隠しながら恥らう少女! 萌えの極みだ」
 「か、和人の馬鹿! もうっ! 大声出すよ!? 変態がいるって大声出すよ!?」
 「うお! それはまずいって悠生ちゃん! 悪かった! 俺はもう外に出てるから、着れたら外に出ておいで」
 悠生の手が和人へと伸びる前に、和人はそそくさと試着室を出て行った。悠生の着ていた制服を持ったまま。

<つづく>

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