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ハーレム (2/4)

作.真城 悠(Mashiro Yuh)
「真城の城」http://kayochan.com 
「真城の居間」blog(http://white.ap.teacup.com/mashiroyuh/)
挿絵:松園

 教室内がむっとする熱気と湿気と、そして女の体臭と化粧の匂いが入り混じった空気に満たされた。
 十六番はなんとレーシングドライバーの格好でミラーサングラスなんぞしながら入ってきた。
 オレたちは嬌声を上げて迎える。それが礼儀であって、そうしなくてはならないことになっているからだ。

 そして、スターのレーシングドライバーとレースクイーンというツーショットは非常に見た目がわかりやすい。
 毎度お馴染みの撮影会は順調に続き、オレも友人も全身をおしつけんばかりにしてサービスしておいてやった。軽く腰に手を回してお尻をなでやがった十六番の奴。
 見てろよ。次にオレがマスターになったらお尻を触り返してやるから。

 だが、ここで軽いハプニングが起きた。
 余りにも大胆な格好の美女が入れ替わり立ち代り肢体を見せ付けてくるもんだから、遂に我慢が出来なくなったのか十六番はなんとその内の一人を抱きしめて唇を奪ったのだった!
 余りにも急なことだったので誰も止められなかった。
 そして、仮に万全の体制であってもこれを停める事は構造上出来ない。マスターは王であり、王のやることは絶対なのである。
 この時点ではまだこのことの真の意味を理解していなかった。

 すぐに理性を取り戻して我に返ったマスターは軽く侘びを入れて撮影を続けた。
 唇を奪われたレースクイーンは笑顔を保ち続けていたが、その場を離れると両手で顔を覆って女みたいに泣き始めた。まあ、肉体的には女なのだが。
 友人らしいレースクイーンたちが寄り添って慰めている。
 全員が艶(なまめ)かしい女たちなので何とも色っぽい構図だが、実際には全員十五歳の男の子なのである。過酷な話だ。
 ある意味において同年代の誰よりも「精神的に大人」(??)に成長せざるを得ない環境…ってことになるんだろうか。
 女形(おやま)も当たり前の旅芸人一座だったりすると、中学生くらいの男の子たちがお互いに女装メイクで日常生活を過ごしたりするわけだが、流石に性転換まではすまい。その意味でオレ達の方がリードだ。何に対抗しているのか分からんが。

 十七週目。
 やっとこの日で九月の最後となる。
 海水浴場は閉まっており、「海の家」も軒並み撤収しているこの時期だが、海水浴をしても全く問題ないほどの暑い日が連日続いていた。
 だが、九月最後の金曜日ともなると流石に少しは涼しくなってきた。
 普通に突っ立っているだけでも全身汗だくになる季節に比べれば非常に過ごしやすくなる。

 そしてこの十七週目がある意味何かの境界線を越えた最初の日でもあった。

 この金曜日は朝から半ば肌寒いほどの天気だった。十月も近いことを考えると全く自然なことである。かといって寒すぎるということもない。秋らしく過ごしやすい日である。
 この日は…これまでで最もセクシーな日だった。

 金曜日のお約束、変身の瞬間が終わって隣に座っている友人の姿を確認したオレは息を飲んだ。
 飲んだと同時に耳元に冷たい感触が走り、ちりりと金属的な音がした。

 そこには濃いメイクをほどこされた友人がいた。
 真っ黒な髪がさらりと流れ落ちており、頭にはカチューシャが嵌(はま)っている。
 いや、それがカチューシャに付属したものであることに気が付いたのは正確にはもう少し後だ。
 頭から突き出したその二本の装飾は、「うさぎの耳」を模したものだった。

 そう、友人はバニーガールの姿になっていたのである。
 一瞬分からなかったのは、「バニータキシード」と呼ばれるタキシードの上着を着ていたからだ。
 当然、このオレも同じくバニーガールになっている。

「あ…」

 真っ赤なマニキュアを施された自分の両手がバニータキシードの襟に添えられる。
 その中にはミニメロンみたいなおっぱいによって形成される胸の谷間が、ぬらぬらと光沢を放つバニースーツに押し付けられている。
 すぐに椅子を引いて下半身を見てみる。
 予想通りそこには網タイツに覆われた脚線美があった。
 大胆なハイレグ状の黒光りするバニースーツ。
 そして同じく黒光りするエナメルのハイヒール…。
 耳元でちりちり鳴っているのは大きなイヤリングだった。

 手を伸ばしてくる友人。

「素敵…」

 憂いを含んだその目つきは本物だ。気持ちはオレも同じではあるが、流石にちと女性化が激しすぎやしないか?と思わんことも無い。

「あなたもよ」

 女言葉しか出ないのが情けないがそういうものだから仕方が無い。
 そして、この瞬間に強烈に自覚した。
 そうか…いま、オレってバニーガールの格好をさせられている…バニーガールにされてしまったんだ…と。

 脳内で「バニーガール」とう単語が乱舞する。
 余りにも日常生活から乖離した浮世離れした抽象的な概念に近いものだった。
 看護婦さんだってウェイトレスさんだってその気になれば会うことは可能だ。
 チャイナドレスの美女だって高級な中華料理屋に行けばいるだろう。行ったことないけど。
 女子高生の制服に至っては毎朝見かける。メイドさんだってメイドカフェに行けばいいし、晴れ着もレースクイーンも「想像の範囲内」だ。

 だが、「バニーガール」となるとそれらとは隔絶している。
 どこに行けばこんな破廉恥な格好の女性がいるのか全く想像がつかない。
 にも拘らず、このオレ自身がその「バニーガール」にされてしまっているというのか…。

 軽く身体を動かしてみる。
 たわわな乳房が波打ち、キツく拘束された胴回りが窮屈だ。
 網タイツのざらりとした感触同士が触れ合い、胸の山脈を越えた先には大胆な切れ込みのハイレグに彩られた股間が目に入ってくる。
 つま先を中心に足が窮屈だ。ハイヒールまで履かされて…。

 この教室における「変身」は肉体的な性転換まで伴う。
 そう、肉体的にも服飾的にも、そしてお化粧的にもオレは今、バニーガールになってしまったんだ…。

 ふと自分の手を見る。

 その仕草も手の甲を自分の側にして指先をそらすような実に“女性的な”挙動によってだ。

 細く長く、そして美しい無駄毛一つ無い指先を毒々しいほど真っ赤なマニキュアが彩っている。

 …、これが…これがオレの…手…?

 遠い世界の“綺麗なお姉さん”のパーツじゃないか。

 しかし、確かに自分の感覚が通っており、動かすと自由に動くのだ。

 な、何て…なんて綺麗なんだ…。

 オレは思わずうっとりしてしまった。

 身体を軽く動かすと、長い髪に耳が覆われており、その耳たぶが重いイヤリングに引っ張られ、顔全体がもったりとメイクに覆われた感覚がする。

 ストッキングなので寒くは無いが、ざらざらした感触が粗末な木製の椅子にこすれあい、足首までストラップで留められた黒光りするエナメルのハイヒールが重い。

 教室を見渡すと、当然ながらバニーガールだらけだった。
 普段はこわもてで均(なら)す男子生徒も、がり勉らしくいつも真面目な男子生徒も、そして野球部で活躍する男子生徒も、みんなみんなグラマラスな女性へと性転換させられ、そしてバニーガールの衣装を着せられている。

 こういう「学校の制服でない」衣装は毎度教室というロケーションと見た目のバランスが悪い事この上ないのだが、今回もまた格別だった。
 一部の隙も無く着付けられ、メイクアップされた美女軍団と、男子高校生の生活観丸出しの「教室」では全くイメージが乖離しきっている。
 上手く言えないが「掃き溜めに鶴」という風情だ。

 困惑しきった状態で言葉を発する事も出来ない「男子高生」たちによる「バニーガール」たち。

 お互いの艶姿に困惑し、頬を赤らめて胸を高鳴らせている。

「うーい!」

 十七番が入ってきた。
 正直、彼の印象は薄かった。

「おうみんな!なかなかいいぞ!」

 これまでこういう風な声掛けをした人間がいなかった訳では無いが、この時点で軽い違和感を感じた。まるでおっさんだ。

「ん~でもちとアレだな。みんな上着脱げ!」

 お互いの妖艶な肢体を見詰め合ったバニーガールたちは、オレも含めて一斉にバニータキシードを脱ぎ始めた。
 すると胸から上の肩がむき出しになる、「いわゆる」バニーガールの外見がそこかしこに出現したのだった。
 見た目の光景の「肌色率」が一気に跳ね上がり、オレは女の肉体になっていながら周囲に出現しまくった軽く汗ばんだ「胸の谷間」にドキリとした。

「おお!いいねえいいねえ!そんな感じだよ」

「あの…」

 一人のバニーが声を掛けた。

「これはどこに置けば…」

 バニータキシードの事を言っている。

 オレは間抜けにも“彼女”のお尻の上に施された…ということは当然オレにも…白くて丸い「しっぽ」状の飾りに目が奪われていた。当然、バニータキシードを脱いだことによって露出した背中もだ。
 ちなみにこのバニーガールの衣装は「肩ひも」がなく、その形状のみで全体を支えることの出来る高級本格タイプであったことを後日知ることになる。

 話を戻そう。
 普段は学ランの上着などは椅子の背もたれに掛けたりしている。
 だが、「バニータキシード」は高校生の日常生活で毎日違う服を着替えなくていいための「制服」あたりとは訳が違う。舞台衣装だったりホステスの一張羅であるれっきとした「衣装」なのだ。その辺の粗末な椅子に引っ掛けておくようなものではない。
 そもそも裾が長くて床についてしまうのだ。

「知らん!折り畳んで机の中にでも入れとけ!」

 オレはえっ!?と思った。
 そんな風に扱っていい衣装な訳が無い。そりゃ服が変形してどこからともなく表れ、どこへともなく消えて行く衣装という摩訶不思議な代物には違いないが、それにしてもだ。
 これは恐らく正式にはきちんとハンガーに掛けて壁やらクローゼットに収納しておくべきものだろう。見る限りかなりいい生地や素材を使っているし、ボタン一つチェーン一つとっても高級感がにじみ出ている。

 ともあれこうして「教室」は始まった。
 オレと友人は教室の中ほどに位置しているのだが、これまでにも増して圧巻の見た目だった。
 バニータキシードを脱いだことで背中まで露出した衣装のセクシーなこと!そして網タイツの脚の裏側には「バックシーム」という縦線が走っている。
 これは恐らくわざと入れてあるのだろう。確かに脚がまっすぐ長く見えて目を引く。

 毎回思うが、先生はよくもまあこんなショーパブの控え室みたいな有様になった教室でまともに授業を教えられるもんだ。
 そういえばこの学校の教師はみんなこの学校の卒業生だと聞いたことがある。
 ということは…つまりそういうことだな。うん。

「おい、お前こっちこい」

 授業中にも関わらず、十七番が隣に座っているバニーに命じた。

 教室中のバニーたちに戦慄が走る。
 確かにマスターの指示は絶対だが、授業中にまでその権限が及んでいるなんて思ってもみなかったのだ。

 ともあれ、ハーレムの王には逆らえない。哀れなバニーは言われるままに十七番の膝の上にお尻を下ろした。

 絶句して二の句が告げないバニーたちを尻目に教師は淡々と授業を進め続ける。

 十七番は、まるで品定めをするかのように目の前の女体を念入りに眺め、そしてさすった。

「あ…」

 バニースーツの上から乳房を優しくなぞり、その手を胴回りに這わせ、そしてお尻に回す。

「ん…あ…」

 それほど大胆な手の動きと言う訳でも無いのだが、すっかり慣れたはずの性転換と、そして女体の感触も「裸より恥ずかしい」とすらされるセクシー衣装の代名詞、バニーガール扮装をさせられたことで敏感になったのか、羞恥に顔を歪めている。
 見るとあの一番くんである。
 彼にはセーラー服姿でスカートをめくられた覚えもあるし、お互いブレザー姿でスカートをめくりあった事もある。
 普段は大人しそうな気のいい奴である。

 だが今は、真っ赤な口紅を初めとした濃いメイクに彩られた妖艶な美女であり、そしてセクシーなバニーガールの衣装を着せられているのだ。
 …そしてこの手の評価はそのままオレ自身にも跳ね返ってくるわけだ…。
 その彼が全身をやさしく撫で回され、恥ずかしさに顔を赤らめて身悶えしている。

「やかましい。授業に集中できん」

 そういって分厚いバニースーツではなく、ハイレグで網タイツ状になっているお尻の一部をきゅっとつまんだ。

「きゃあっ!」

 思わず悲鳴が出てしまっていた。
 その声はスカートをめくられた時に反射的に出る声や、お互いにおっぱいを揉みあったりするときの声とは全く違っていた。

 教室中が重苦しい空気に包まれていた。
 何しろ全員がバニーガール姿。一歩間違えば一番の彼と同じ立場に置かれかねないのだ。

 十七番の手は止まらず、網タイツのうちももの部分をざ~らざ~らと撫で回し続けていた。

「…っ…あ…ん…」

 思わず出てしまう甘い声を必死に抑えようとする一番バニーだったが、どうしても出てしまうと言う感じだった。

 たまに網タイツの一部を引っ張って浮かし、すぐに離して「ぱしん」と叩きつけられるのを見て遊んでいる十七番。
 お前こそ授業に集中しろと言いたくなる。

 お尻の丸っこい飾りを「ぴよぴよぴよん」と弾いて遊んでいる十七番。
 その都度必死に我慢しても漏れてしまう一番の甘い声が響き渡る。

 もう限界だった。教室中のバニーの胸に何とも言えないいやらしい思いが去来する。

 その魔の手が遂に背中の一部を指で直(じか)に触り、つつつーっと下に向けてなでた。

「ああああっ!!」

 絶頂に達したかの様な声が響き渡り、くったりとしてしまうバニー。

「次」

 冷たく十七番が言い放つ。
 覚悟をしていたであろうが、真っ青になった可憐なバニーガールが立ち上がり、おずおずと十七番の元に歩み寄る。
 一番のバニーはこの涼しい気候なのに汗ばんでおり、はあはあと息が上がり、髪の毛が乱れてその一部が肌に張り付いていた。
 明らかに「何かが起こった後」みたいな有様になってしまっている。

 ごく普通の露出度の低い女物を着ていたとしても強烈なそのたたずまいを、半裸に網タイツや濃いメイク、真っ赤なマニキュアなどのセクシー記号で埋め尽くされた衣装で再現しているのだからその濃厚なエロさは筆舌に尽くしがたいものがある。

 脚をガクガクさせながら自分の席に戻るバニー。
 丸く大きな臀(でん)部に形状が丸出しになって全て網タイツに包まれた脚線美を見せ付けながらお尻を落とす。

 そして十七番は二番のバニーに対しても同じ狼藉を繰り返した。

 普段は「美少女のパラダイス」になるはずの各教科の合間の休み時間も、まるで葬式みたいなムードだった。
 これまでの「和気藹々(わきあいあい)」という雰囲気が明らかに崩れ、ギスギスしたものになってしまっていたのだ。
 机に張り付いたまま動こうとしないバニーたちの間をふんぞり返って歩き回る十七番。
 まんま「高校の粗末な机」にゴージャスな衣装のバニーガールたちが座っている光景の異様さは何度強調しても足らないだろう。

 たまに俯いているバニーの顎を持ち上げて顔を見たり、首筋に手を這わせて「あ…」と言わせたりしている。
 正に「ハーレムの王」だった。

 そして遂に昼休みが訪れる。
 ウチの高校では昼休みと直後の掃除の時間がひと繋がりになっており、合計すると2時間近い。
 よく訓練された生徒たちはチャイムが鳴れば自然と掃除を始めるのが常だったが、金曜日に関してはそれがなし崩しになっていた。
 普通の女子高生の制服姿ならば問題も無いだろうが、晴れ着だのチャイナドレスなどではまともに掃除など出来ないし、何より時間がもったいないのでその時間も目一杯“楽しむ”ことが事実上黙認されていたのだ。

 ということはつまり、この「王」の持つ時間がそれだけ長くなるということも同時に意味していた。

「お前ら一列に並べ!」

 食事の時間も込みの休み時間に入るやいなや十七番は言い放った。

「机もどかして並べるんだ!」

 掃除の際には机を前方や後方に寄せて床を清掃することになっている。
 十七番は教室内のスペースを多く取るためにそれを命じたのだ。
 真っ赤なマニキュアもまぶしいバニーたちがかいがいしく机を持ち上げては運ぶシュールな光景が展開された。
 まあ、教室中に満載された三十九人のバニーガールが一斉に行うことは大抵はシュールにしか見えないのだが。

 そして一列に並ばされた。
 背丈はバラバラなのだが、出席番号とはまた違う「身長順」に並ばされることで、ある種の統一感があった。
 これまでの王はこういうことはしていなかったので新鮮には違いない。

「両手を背中で組んで胸を突き出せ!」

 王が命じた。

 王に逆らうことが出来ないバニーたちは言われるがままに両手を身体の後ろに回し、顎を突き出すように胸を張り出した。…勿論オレもだし、友人や苅田くん、そして安部くんもだ。

 ずらり並んだ三十九人の妖艶なバニーガールたちが一糸乱れず言うとおりに動くのだからこれほどの悦楽もあるまい。そして見事な光景だ。うっとり見ほれてしまいそうだ。バニーガールとしてその中に参加さえしていなければ。

 そして、十七番は考えられなかった暴挙に及んだ。

 前から順番にまるでピアノの鍵盤を端から音を鳴らすかの様に、おっぱいに手を掛けてそのまま横に歩いたのだ!

 ぼよよん、とおっぱいが次々にその手に押され、弾かれていく。

「あっ!」「…っ!」「あんっ!」「…ゃっ!」

 まるで子供が階段脇の細い柱に棒を叩きつけ、「カンカンカン!」と音を鳴らしてを鳴らして遊んでいるみたいだ。
 それをずらりならんだバニーガールの乳房でやっているのである!
 勿論、オレのおっぱいもその犠牲になった。

「…っぁっ…」

 我慢出来ると思っていたのだが出来ず、思わず甘い声を出してしまった。
 そして端まで行った十七番は、もう一度逆方向に進んだ。全員がもう一度おっぱいを強く弾かれる。

 そうなのだ、「王」の権限はこの程度のことはたやすく実現してのける「強権」なのである。
 今までの王がそれに気が付かなかったとすら言えそうだ。

「ふふふ…おまえらなかなかいいチチしてるじゃねえか」

 十七番ってこんなにおっさんぽいセンスだったのか…と呆れる。
 此処だけの話「バニーガール」というのも若者というよりはおっさん臭いセンスだと言えなくも無い。

「今度は尻を突き出せ!」

 えっ!と思った。
 だが、マスターには逆らえない。
 バニーガールたちはお互いに綺麗にメイクアップされた顔を見合わせながらも後ろを向き、そして前かがみになってお尻を突き出した。

 その光景は正に圧巻だった。
 三十九人ものバニーガールの大きなお尻がずらりと並んでいるのだ。女性の尊厳も何もあったものではない。まるで「物」扱いである。

 十七番は同じように端から網タイツに包まれたお尻を撫で回しながら往復した。

 十七番の横暴はこれに留まらなかった。
 教室の中央にふんぞり返って座り、両手に一人ずつのバニーをはべらせる。絶え間なく身体のあちこちを触りまくるのは基本だ。
 そして、教室の中央で「尻相撲」を強要した。

 「土俵」を設定し、そこからはみ出さないようにお互いに背中合わせに立たせてお尻同士で押し合いをさせるのである。
 ただでさえ不慣れな女体になってしまっている上に、割り箸みたいなハイヒールをはいているのだから安定性は最悪である。
 これで「尻相撲」だから見ている分にはそりゃあセクシーでスリリングだろう。

 この手の「キャットファイト」は柄の悪い風俗の定番だ。「泥プロレス」と同義である。

 クラスメートの男子生徒たちをセクシーなバニーガールに性転換&女装させてキャットファイトを演じさせ、それを高みの見物を決め込むとは悪趣味の極みだ。

「負けた方は“おしおき”な」

 と言われているから手を抜く訳にもいかない。
 オレも当然参加させられた。
 膠着状態に陥ると、お互いのお尻が密着したままの押し合いとなる。
 尻に別の女の尻の感触が感じられる…。それもお互いバニーガールの衣装でだ。
 お互いの尻の部分の網タイツがざらざらとこすれ合い、お尻の肉がむにゅむにゅと押し付けあう。

「あんっ!」

 惜しくも負けてしまったオレは前方に倒れこんでしまった。
 ハイヒールなのでかなりの落差だ。
 足をくじかないようにどうにかこうにか上手く倒れこんで両手を付く。

 相撲だけに決着はテキパキと付き、俺たちバニーは勝ちチームと負けチームに分けられた。

「よし、それじゃ負けチームの連中は今隣にいるのとキスしろ」

 オレは重いイヤリングに抱かれた耳を疑った。
 だが、マスターの命令は絶対だ。
 身体が勝手に動き、恐らく同じように身体が勝手に動いているであろう隣にいたバニーもまたこちらに正対した。
 友人でも阿部くんでもない。余り印象に無く、話したこともないクラスメートだった。

 だが、身体が勝手に近づき、両胸の先端が触れ合い、そしてお互いの両手がお互いの身体を抱き寄せる。
 恐らく負けチーム全員の精神が必死の抵抗を試みていたことだろうが、マスターの命令に逆らうことは出来ない。
 お互い女同士ということなのか、目をつぶった二人の唇が重なった。
 むにゅりとしたものが敏感な唇に押し付けられ、生暖かい体温が感じられる。
 鼻先に相手の頬紅の匂いが感じられ、露出部分の多いバニーガール衣装がお互いの体温を感じさせる。
 オレたちバニーは押し付けては離し、角度を変えては何度も押し付けあった。

 教室の一角で10組のカップル…バニーガール同士…が濃厚な接吻を交わしている。

 残りのバニーたちも恥ずかしそうにお互いを見詰め合っている。

「ついでにお前らもしろ!」

 十七番は、隣にはべらせていたバニーの内一人を解放すると、新たに勝ちチーム十八人同士にもキスを強要した。

「あ…」

 彼ら…もとい、彼女ら…に出来るのはせめて抵抗して悩ましい表情をすることと、少し声を出すことくらいだった。

「ほら!次々相手を変えろよ!」

 何度目か忘れた耳を疑う発言だった。
 だが、逆らえない。

 オレは近くにいるバニーたちととっかえひっかえキスをした。いや、実際には身体が勝手に動いてしてしまうのだ。

 口紅がお互いにはみ出してえらいことになっている。口紅部分をおしつけてぬらぬらさせていることを何度も繰り返すのだから当然だ。
 その中に友人がいた。

「あ…」

 お互いに求めていたかの様に熱い抱擁を交し、そして唇を合わせた。
 だが、二人は無残に引き裂かれ、次の相手とのキスに流されていった。

 と、安部くんが目の前に引き出されてきた。

「あ…べく…」

 もう恥らったり、羞恥に表情を歪ませる事も疲れたといった風情の退廃的な雰囲気を感じさせる美女バニーガールという、野球部のエースからはかけ離れた姿になった安部くんは、こちらの姿を認めると一瞬躊躇う様な雰囲気を見せたが、当然ながらマスターの命令に逆らうことなど出来るはずも無く、オレとキスを交した。
 安部くんの手も勝手に動かされているのか、オレのおっぱいをやさしく撫で回し、お尻を揉んできた。
 閉じていないその目は「違う!違うんだ!」と叫んでいる様に見えた。

 お互いに女同士という余りにも特殊過ぎるシチュエーションではあるものの、強引に人間関係を引っ掻き回す残酷な仕打ちだった。

 ひとしきり接吻の嵐が澄んだバニー集団が再び教室の中央に佇(たたず)む。
 汗ばみ、長い髪の毛がへばりつき、メイクも乱れて酷い有様になっている。こんな生生しいところまで本物の女をなぞることもなかろうに、とオレは思っていた。
 教室中がメイクと香水とそして女の汗臭さでむせかえるようだった。

「おいおい、見苦しいなあお前ら。はい!整えろ!」

 そういうと、不思議なことに不快な汗はすっと引き、へばりついていた髪の毛はシャンプー掛けたての様にまっすぐになり、乱れていたメイクは何時間も掛けたそれのように綺麗に整った。

 見違えるほど綺麗に戻ったお互いを見合うバニーたち。
 冷静に考えれば、見る間に男を女に性転換し、望む姿に女装させてのけるこの能力ならば、乱れたメイクを整えるくらいは朝飯前だろう。

「もうあんまり時間がないな…じゃあ、あと5分間お互いにおしくらまんじゅうしろ」

 結論から言うとこれが最後の試練だった。
 教室の中央に集合した三十九人のバニーたちは、お互いに「真ん中」方向に向けて猛烈にぎゅうぎゅうとそのセクシーな肉体を押し付け始めたのだ。

「あんっ!いやっ!あああっ!」
「きゃーっ!やめ…ってええっ!」

真城様挿絵13

 黄色い悲鳴があちこちで上がる。
 不幸にも中央付近に位置していたバニーは、四方八方から押し付けられる女の乳房や臀(でん)部に自らの乳房などを押しつぶされる様だった。
 ハイヒール同士は不幸にもお互いに踏んだり踏まれたりを繰り返し、体重を自分でささえられなくなって目の前の乳房を掴んで身体を支えたりといったことがこの「お互いの女体の海」の中で普通に行われた。

 オレは不幸にも比較的中央に近い位置にいた。
 目の前にはバニースーツを閉じた背中があり、ということはお尻が下腹部に押し付けられた。
 腕や背中には明らかに乳房の感触が押し付けられており、その脚には同じく網タイツに包まれた脚がからみついてくる。
 濃厚なメイクの匂いが鼻を突く。
 爽やかな女の口の匂いが押し付けられ、周囲の熱気で体温が上昇して行く。
 うさみみを模したバニーカチューシャはいつのまにか剥ぎ取られ、目の前のバニーが心ならずもおっぱいをオレの顔面に押し付けるかの様な形になってしまう。
 本人は首を振って泣くほど嫌がっているが、こっちだってこうなってくると楽しむどころではない。
 それはこの集団おしくらまんじゅうに参加させられたバニーたちの総意だっただろう。

 十七週目の悪夢はこうして終わった。
 「王」がその気になればどこまでも傍若無人に振舞う事が出来ることがはっきりと証明されてしまったのである。
 これまでは、確かに肉体も女になってはいたが、どこか集団で女装しているみたいな気楽さがあったクラスの男子たちも、ああも女体の感触を濃厚に感じさせられることばかりやられて、やっと事態の深刻さが分かって来たみたいだった。
 この第十七週目の悪夢は、誰言うともなく「バニー地獄」と称され、語り伝えられて行くことになる。

 とはいえ、これで終わった訳では無い。
 あと二十三週を残しているのだ。

 十八週目。遂に十月に突入した。世間では「衣替え」の季節である。
 ぺらっぺらの生地で出来た「夏服」から厚手の「冬服」になる。
 通学時の電車でも比較的暖かそうな装いの女子高生たちが目を引く。…相変わらず脚が殆(ほとん)ど全露出した短いスカートだから余り意味が無い気もするが。
 変な話だが、少なくともオレに関して言うならば彼女たちに気後れすることが余りなくなっていた。
 今の世の中、「男である」ことはイコール「ダサい」のだ。
 ましてや「イケメン」でも何でもない不細工男の世間的なイメージなど最悪だろう。

 だが、オレらはお前ら女子高生がそうやって着こなす「可愛い制服」にだって袖を通してる。
 女装趣味の変態って訳ではなくて、本当に肉体的にも“少女”になって可愛らしくなってるんだ。
 …自分で何を考えているのか分からなくなってきた。

 金曜日の「変身」については口をつぐむのが暗黙のルールだったが、先週の「バニー地獄」は流石に精神的にコタエた。
 完全にトラウマものだ。
 オレなどは流石にこれは何度も夢に見た。
 周囲を多い尽くすバニー女体の海に飲み込まれ、押しつぶされそうになって目が覚めるのだ。

 十七番は仮病を使って欠席を決め込んでいた。
 当然の様に「マスター」に対しての「報復」は認められていない。ただ、自分がマスターになっての…まあ言ってみれば「セクハラ」は認められている。
 何より、これまで「報復」を行おうとする機運など皆無だった。
 「感謝している」とまでは言わないが、お互いに「持ちつ持たれつ」という関係が成立していたのだ。
 だから、次の週の月曜日や祝日後の火曜日には「水に流し」て再会するのが常だった。

 だが、今回ばかりは様子が違う。
 流石に男として取り囲んで集団暴行まではしないだろうが、明らかに「よくもやったな」という雰囲気が渦巻いている。
 キャットファイトくらいならば逆に良かったかも知れないが、ずらりと並べてセクハラなどは「一線を越えていた」と言えるのだろう。

 ただ、金曜日に休むことは認められていない。欠席が認められるのであれば歯止めが利かないからだ。風邪くらいではまず認められず、入院措置になっても日程をずらして強行される。

 そしてこの週末のスタイルは「浴衣」だった。
 夏祭りに着ていく様なそれである。
 季節は十月に入ってしまっていて明らかに外れている上にそもそも肌寒い。だが、その「夏」の時期は大半が夏休みだったので、ここに持ってくるしかなかったのだ。

 そして、先週のそれが余りにも強烈だったことへの反動なのか、この淡白なスタイルは概(おおむ)ねクラスに好意的に受け入れられた。
 また、制服やコスチュームがほぼ全員が統一したデザインとされることが多いのに比べて、浴衣の柄などが全員異なっており、髪型も自由であったことも評価のポイントとされた。
 十八番は十七番と違って専横的なことは一切行わず、せいぜい浴衣美人たちにちやほやされるだけで満足するという従来のマスター的に振舞っていた。

 十九週目。
 この週はとある女子校の制服だった。
 これまでに着たことが無いタイプだったが、茶色を基調としたものでとてもオシャレである。いわゆる「デザイナーズブランド」って奴なのだろう。チェック柄のミニスカートは相変わらずだが、その部分は「可愛らしさ優先」ってことなのだろう。
 
 いつもにも増して教室は盛り上がった。
 「また制服かよ」という空気も無いことは無かったが、記号的な「コスチューム」然としたスタイルに嫌気がさしかけていたところに持ってきてこの選択は良かったのだ。

 そして、この週はこれまた画期的な出来事が起こった。
 なんと、教室に現れた十九番は、オレたちと同じく女子になって制服に身を包んでいたのである。長い髪は腰にまで達し、大きな髪飾りが目を引く。
 正に男子の理想「黒髪ロングの美少女」となっていた。

 教室にいた“女子”たちが一斉に駆け寄って歓迎する。

「ねえ、なんであんたもそんな格好してるのよ」

 文言だけ見ると非難がましいが、とても嬉しそうにクラスメートの一人が言う。

「だって…衣装が選べるのは自分だけど、『着てみたい衣装』を選んだら自分で着られないじゃない。そしたら自分が変身してもいいからって言われたから…ね」

 そういうとスカートをつまんでくるりとその場で一回転した。

 「ぶわあ」とスカートが釣鐘型に広がってすぐに落ち着く。
 「わああ!」と歓迎する少女たちのため息が漏れた。

 そうなのである。
 マスターは男のままであることが許されたその週唯一の存在ではあるが、別に自分自身が性転換&女装してしまうことを妨げられる訳では無いのだ。
 これまでも男の姿に「変身」するマスターはいたが、自分自身も女に「変身」するという発想が無かった。

「あ、でもあんたたち甘えるんじゃないわよ。今日はあたしがマスターなんだからちやほやして貰うわ」

 といってウィンクする。完全にノリノリだ。

 そして彼…彼女は姿かたちは全く同じ制服女子高生ながら、同じように「ハーレムの王」として振舞った。
 両手に美少女をはべらせ、周囲に配置してニコニコさせる。
 時には腰や肩に手を回し、抱きしめたり頬にキスしたりする。

 ただ、お互いに全く同じ制服姿の美女なので、「セクハラ」という雰囲気では全く無い。
 何と言うか百合っぽいことになってしまっている。

 調子に乗って「お姉さま…」などと呼ばせ…るまでもなく、みんな勝手にマスターである十九番を「お姉さま」と呼んで大歓迎した。
 抱きしめられたりスカートをめくられたりしても、悲鳴はあげるのだが「きゃいきゃい」ととても楽しそうだ。
 本当に仲のいい女子高生同士がじゃれている風にしか見えない。
 久しぶりにスカートめくり大合戦が再現された。

 というか明らかに「あなた!あたしのおっぱいもみなさい!」などと命令している。
 マスターの言うことには逆らえない(?)ので喜んで揉むことになる。

 この制度がスタートして以来、初となる「教室中女子率100パーセント」状態だった。
 え?オレたち?
 勿論楽しんだよ。オレと友人はバニー以前から女同士になったらももう普通にキスくらいはする間柄になってたけど、教室中に吹き荒れる百合の嵐に乗ってこの日もキスした。
 嫌がる制服姿の安部くんに写真まで撮ってもらった。
 見てみると完全にお互いが制服美少女なので何とも言えない。

 そして…運命の二十週目が到来した。
 この日は安部くんのマスターの番だったのだ。

 これまで散々好き放題性転換と女装させられてきた立場として、公式に「やり返し」ていい日だったのだ。
 だが、この日は以外すぎるスタイルとなった。
 此処だけの話、「誰がどういう衣装を選択するのか」は非常に興味を引く項目となっていたのだ。何しろランダム(無作為)ではなくて、マスターの希望が通る制度であるため、「潜在意識」がむき出しになる。
 十九番みたいにそれを隠さない人間もいたりするし、周囲のリクエスト要求に流されるタイプもいる。悪夢の十七番みたいに己(おのれ)の煩悩に忠実なのもいる。

 そして「何も選ばない」ことは許されない。絶対に何か選ばなくてはならないのだ。
 どうやら別室には「資料」の類は充実していて、恐らく女の服装にはそれほど詳しくないであろう十五歳の男子高生のサポートとなっているらしい。

 いつもの通り、性転換が到来するタイミングを待っていた。
 オレはこの頃は服が変わりきるまで目をつぶる様にしていた。目を閉じたまま脚を動かしてスカートなのかどうかを確認し、目を開けてスタイルを確かめるのが一つの楽しみになっていたのだ。
 そして…この日はどうやらスカートらしかった。
 目を開けてみると…??…なんだこれ?

 オレは背中まである長い髪に無地のセーター…お陰で形のいいおっぱいが妙に強調されることになったが…、そしてこれまた野暮ったい無地のスカート姿だった。くるぶし辺りまで隠しそうな長くて生地の厚いスカートに靴下、そしてスリッパである。
 ゆさっと身体を揺らすと、ストッキングは履いていないが、ブラ、パンティは完備で、ロングスリップを履いていることまでは分かる。

 隣を見ると、ショートカットの友人が派手なTシャツにジャケット、そしてミニスカート…ではなくてキュロットスカートを履いている。

 お互いに顔を見合わせる。
 …何だこれ?こんなにバラバラな格好ってありなのか?

 教室を見渡すと、めいめい勝手なスタイルである。スカートとパンツルックは半々くらい。
 中にはジャージ姿なんてのまでいる。

 不機嫌そうな阿部くんが入ってきた。

「あー、今日は何もしないから、みんな自由に過ごしてくれ」

 しばらくお互いに顔を見合わせていた少女たちだったが、「それなら」とばかりにガールズトークに花を咲かせる。

 オレと友人はすぐに阿部くんの所に跳んで行った。

「ねえねえ、今日の基準は何なの?」

「…女みたいな喋り方やめろよ」

 嫌そうに言う阿部くん。彼とは回数は多く無いが男の時にも話す様になっているので、クラスメートが女になって女っぽく話しかけてくるのが決まり悪いのだろう。

「何言ってんのよ。自然にこうなっちゃうのはあんたでも知ってるでしょ?」

 オレとしてはそういうしかない。

「そーよそーよ」

 抗議しているみたいだが、楽しそうに乗ってくる友人。

「じゃあ命令だ。お前らの口調は男に戻る」

「…そんなこと出来るのかな?」
「だよなあ」

 と言ってオレと友人は美少女同士の顔を見合わせた。

「戻ってる!普通に喋れるぞ!」
「マジかよ!本当だ!」

 と言っても声質まで変わる訳では無い。まるで「ボク」を自称するボーイッシュな女の子みたいな雰囲気になってしまう二人。

「で、どうなんだよ?どんなテーマなんだい?」

 行動まで元に戻ったらしいオレは目の前の椅子に余裕を持って座った。
 短いスカートだったりすると、綺麗になでつけて脚を揃えないといけないんだけど、床掃除できそうな長いスカートなので適当に済ませる。

「別に…普段着っていうか」

 何故か照れて視線を逸らしながら言う安部くん。
 しかし、この一言で合点が行った。
 要するに統一したコスチュームとかではなく、もしもそれぞれが普通の女子だったらしていたであろう「(女の子としての)普段着」を意識した自由な服装、ということだったんだろう。

「ふーん、つーことはオレって女だったらこういう格好ってイメージなんだ」

 これは友人である。
 活動的なショートカットに派手なTシャツにジャケット、そして半ズボンたるキュロットスカート。「活発な女の子」のショーウィンドウみたいなスタイルだ。
 二人とも口調は完全に男なのに見た目は完全に美少女のまま、声も女の子のそれである。

「じゃあオレはこんな感じか」

 といって自分の格好を見下ろす。
 背中まであるまっすぐな長い黒髪に、無地のセーターと床に付きそうな長い無地のスカート。
 …大人しいインドア女ってところか。

「にしてもおっぱい大きすぎね?」

 といって自分で持ち上げるようにしてむにむに揉む。

「や、やめろよ!」

 今度こそ真っ赤になって明後日(あさって)の方を向く阿部くん。
 その態度の真意がやっと分かって来た。

「ははあ…阿部くんってオレみたいな巨乳女がこんな近くにいるから照れてるんだろ…?」

「ち、違う!」

 もうバレバレである。

「安部くんなら幾ら触られてもいいや。ほれ、揉んでみなよ」

 といって手を取ろうとする。

「やめろって!」

 安部くんが思い切り振り払う。

「きゃっ!」

 オレは調子に乗ってびっくりした素振りをして蹲(うずくま)る。

「大丈夫!?」

 友人も芝居がかった“少女”っぷりでオレに駆け寄る。

「いやあの…」

 しどろもどろになっている阿部くん。
 ははあ、こういうことだったのか。
 要するに安部くんは女性恐怖症というか、極端に「女性慣れ」していないウブでオクテな少年だった訳だ。
 だって、どう考えても「中身」は男であることが分かりきっているこの「ニセ女」であるオレたちに対してすらこんなに照れまくるんだから。

 …何だか可愛らしいな…とオレは思った。

 妙な話だが、これが母性本能って奴なんだろうか。

「阿部くん…きゃっ!」

 友人が安部くんの方に歩み寄ろうとして、わざとらしく転んで覆いかぶさる。

「うわっ!」

 なんとそのまま自分のおっぱいを阿部くんの顔に押し付けたのだ。

「うわわわわっ!」

「あー!何してんだよ!」

 オレも負けずに立ち上がって阿部くんにのしかかり、自慢の巨乳をおしつけた。

 この日はずっとこんな調子で、オレたちに対してすら照れまくる阿部くんに存分に「100パーセント友好的」な女を演じて話し掛け捲った。
 お互い精神的には男だから「嫌われる」ことを恐れる必要は全く無い。特にオレなんか女にもてたことも無いし、母親とコンビニ店員以外の女と話た経験すらロクに無い。
 だから彼の気持ちが良く分かる。

 口調を女に戻してもらって、少しでも彼の経験値になるべくコミュニケーションしまくった。
 なるほどこれならばいい経験になるだろうな。

 それにしてもこの日の教室の光景は魅力的だった。
 制服やコスチュームの類も悪く無いが、「普段着」の少女たちの可愛らしさの輝きは何物にも変えがたい魅力がある。…中身は男だけども…。

 「予行演習だ」と称して「女を抱きしめてキスする」シチュエーションの実験台にも喜んでなってやった。
 結局ほっぺにチューするのが精一杯だったけども。

 それにしても、これほど女慣れしていない阿部くんが毎週女にされ、女装させられてスカートめくられたりおっぱい揉まれたりするのはさぞ苦痛だったろうなあ…と同情した。
 ただ、前途多難でもある。
 何しろ、この教室のラインナップはまだ折り返し点に差し掛かったに過ぎないからだ。

(続く)

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続編、待ってます!

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