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いつだって僕らは 1-7  by 猫野 丸太丸

7.
 起こったことを僕はよく理解できなかった。現れたのは見たところ運動部の先輩たちで、級友たちとは顔見知りのようだった。だから殴りあいになるわけでもなかった。動くな、座れの怒号だけで、山下以外の者は全員部屋に正座させられた。
 なかでも一番偉そうにしていた背の高い男は、率先して山下の手を引き部屋の壁側(上座?)に陣取った。男は朗々と話した。
「愛すべき我が校でこんなはずかしい事件が行われていたとはね。僕が間に合って良かったよ」
 つまりこの男は今度卒業する三年生で、友人を引きつれて、山下を救出しにきたのだ。
 僕は正座しながらぼうっと様子を見ていた。僕がなにもしないうちに事件が終わってしまったのだろうか。山下もとまどっているみたいだ、知らない人がどうして助けに来たのか。もしも援軍が来なかったら、僕自身はなにができたのだろうとか。
 しばらくして山下が僕を大声で呼んだ。
「新井くんは僕を助けに来てくれたんです! 解放してあげてください!」
 それは多少事実とは違った。役に立たなかったんだし、見ていただけなのだから、山下がいじめられるのを後ろではやしていた連中と存在感が同レベルとも言える。そう思ったが声には出さなかった。
 一方ヒーローは気前よく、自分の手で僕を助け起こしてくれた。遅れてやってきた和久がその人物を見て「国吉さん!」と呼んだから、偉そうな人の名前だけは分かった。
 あとから聞いた話によると、事件を企んだクラスの関係者は二十五人いたそうだ。二十五人!? とんでもない大人数の策略で、山下はゲームセンターに連れ去られた。店員も見て見ぬふりをしていたらしい。なにをされるか絶体絶命、和久も篠塚も間に合わないといったところで、助けに現れたのが国吉先輩だったのだ。
 国吉さんは今年の卒業生で、生徒会関係者で、以前から和久とは知りあいだった。その性格は「愛すべき我が校で」とか、ふだんからそういう台詞を言う人で間違いないそうだ。
 そんな人の介入で、犯人たちはお説教をされる側に回らされた。事件の場は国吉さんの独演会に変わったのだ。
 さっきまで騒いでいた生徒たちが正座して、そのまわりを上級生が取り囲んでいるのだから部屋の人口密度はとんでもないことになっていた。一部は扉から外へあふれている。その全員が国吉さんに注目していた。国吉さんは山下の肩に手を置いて言った。
「さあ、山下。罪を犯した者たちに君の気持ちを言ってやるんだ」
「僕は、べつに……」
「言うんだ! さもないと解決にならないぞ」
 山下は寂しい表情で言葉をしぼり出した。
「はい。……もう、こんなことはしないでください」
 それを聞いて僕がいやな気分になったところで、篠塚も遅れてやってきた。タイミングを見はからって和久が手を挙げる。
「なんだ」
「国吉さん。一件落着したのでしょうから、もう山下と外に出てもいいでしょうか?」
 加害者が大勢つめかけている部屋などにいたくはないから、僕たちは四人で事務室を出た。外のタバコ臭くない空気を吸ったところで、自然と足が止まった。
 僕は山下のつるりとした頬を見つめた。外見上は被害がない。それがかえって不気味で、どうも落ちつかない雰囲気だった。
 和久が心配そうに言った。
「大丈夫か? 山下」
「うん。みんな来てくれてありがとう」
「本当に大丈夫か? 言葉でも傷つけられていないか」
「だじょうぶだよー。本当になにかされる前に、あの先輩が助けてくれたから」
 僕は足と心が痛んだ。和久がこちらに視線をよこす。
「じゃあ新井は?」
 なんで僕に話を振るのだろう。
「僕はなにもしていないよ、部屋にいただけ。それにしてもどうしてあの国吉って人、事件を解決できたの?」
「国吉先輩はもと生徒会で、運動部も文化部も取りまとめるような人なんだよ。部活をやっている連中には全員顔が利くしさ、しかも頭が切れる人だ」
 だからといって突然現れて山下を救出だなんて納得がいかない。僕の表情をどうとらえたか、篠塚が言った。
「俺なんかまた完全に遅刻だぜ。山下が無事だったから良かったけどよ、なにかされていたら死んでも死にきれなかった」
「大げさだなぁ」
 山下が笑ったので僕たちは救われた気分になった。でもそれで良いのだろうか? この気分のもやもやは、山下救出に僕自身が活躍できなかったからとか、そういう理由のことなのだろうか。あのまま助からなかった可能性を考えれば、国吉さんに感謝すべきなのかもしれないが……、気持ちの整理がつかない。
 残してきた扉が開いて、現れた国吉先輩がまた僕の思考をかっさらっていった。
「おう、元気が出たか。今日は疲れただろうから家に帰れ。明日学校を休むなら担任に連絡しておくぞ」
「休まないで行きます、ありがとうございます!」
 山下が丁寧に頭を下げている。国吉さんはなぜか山下の両肩に手を置いた。
「よし、男の子だな。立派だ」
 僕はもやもやした気分をそのままぶつけた。
「こういうことに時間を使って、先輩、受験は大丈夫なんですか?」
「俺は推薦が決まっているからな。あとに残す後輩の名誉を守ることのほうが大事さ」
 名誉だって? 僕はまたなにか言いかけたが、篠塚が身ぶりで僕の発言を制した。
 僕たちは外が暗くならないうちにゲームセンターを出た。篠塚が僕だけにささやく。
「国吉さんはとんでもない人だからな、張り合う必要はないぜ」
 柔道部中退の篠塚までそう言うならば、有名で有能な人物なのだろう。見た目もいいし、TS娘なら顔を赤くして
「ボクが女の子だったら好きになっちゃいそうだ……。あれ?」
 とか言うシチュエーションなのだろうか。

 僕はこのときの不安をうまく言葉にできなかったから、国吉さんが山下に近づくのを止めることができなかった。もしかしたら僕は疑えば良かったのかもしれない。クラス全員を敵だと疑ったくらいなのだから、国吉さんも最初から敵だと思っておけば良かったのだ。

 事件のあいまいな解決後、山下が普通の生活に戻ったことに僕は驚愕した。クラスの半分近い生徒が敵だとはっきりしたのに、山下は以前と同じ態度で授業に出て、ときどき加害者側と話までしていた。先生たちも事件については国吉さんづてに連絡を受けていたようだ。けれど山下がなにも訴えなかったから、大きな事件として騒がれることもなく、学校は平穏な雰囲気に包まれていた。
 噂といえば今年は大学に何人合格するだろうとか、そんな話題のほうがよほど騒がれるくらいだった。
 僕自身はどうしたか? 級友から事件当日の足止め工作についてなにやら謝られたけれど、生返事ですませた。かわりに受験の話題を振ったところ、相手は安心した表情をうかべた。
「あはは。まぁ、これからもよろしく頼むぜ」
「ええ」
「ええってさぁ……」
 薄笑いを浮かべて相手は去った。そんなものだ。
 帰り道、下校の列が流れていく道路で、僕は和久を見つけて合流した。
「山下は?」
「先にカラオケボックスに行ったんじゃないか」
 そうか、ではちょうど良い。僕はささやいた。
「山下は怖くないのかな、いまの状態」
「どうかな。あの性格だからな」
 断言する言葉がない。このところの和久は切れ味が鈍っている。僕はいらだった。
「山下ってさぁ。もしも助けが来なくて、連中になにかされていたら、実際なにをされていたか想像できているんだろうか」
 聞いた和久は僕をにらんだ。
「考えすぎだぞ、それを山下に直接訊くなよ。いまさらあいつを怖がらせてどうする」
「……でも」
「俺だって心配だけれどな、次の学期にはクラス替えがあるんだ。たぶん悪いやつらも散らばってしまうさ。それに国吉さんだっているし」
 でもいくら国吉さんが押さえこんでも、連中の悪意は収まらないだろうに。かえって僕たち四人のほうが別のクラスに分かれるかもしれないじゃないか。今回計画に加わらなかったほかのクラスの生徒だっていつ豹変するか分からない。当然浮かんだ疑問だったが、僕は口に出せずに飲みこんだ。
 言い合いは隠れ家の前で、現れた人物によって中断される。噂をすれば国吉さんだった。なんと後ろに山下を連れていた。
 高身長の国吉さんはどこにいても目をひいた。身だしなみはもう制服ではなく、ブランド物のセーターにジーンズのラフな格好だ。そして山下といっしょに、ビルの陰がかからない日向に立っていた。まるで山下に国吉さんがつき従ったのではなく、国吉さんが決めた目的地に山下がついてきたみたいだった。
「よぉ、君たち、今日も元気だな」
 国吉さんは悩みのない表情で、山下を前にひっぱり出す。
「王子様の護衛は完了、と」
 山下はこくりとうなずいて、小さな声でありがとうございますを言った。
 王子様ってなんだ、王女様じゃないのか。大きい手がまた山下の肩をさわっている。国吉先輩は学校からここまで山下をエスコートしてきたというのか。本来それは和久あたりの役割だったはずなのに、国吉さんが騎士役を奪ってしまった。たくさんの言葉が頭のなかをよぎった。
 今日に限ったことではない。先輩は言葉たくみに、山下からカラオケボックスや僕たちの行動のことを聞き出していた。学校を卒業してひまになった身を生かして、なぜか僕たちの周辺に出没するようになったのだ。いや、狙いが僕たちというより山下個人なのは明らかだ。
 すなわち山下がカラオケボックス以外の場所で、国吉さんと話をしていることが多くなった。たとえば僕たち三人が待っていても山下が来なくて、心配した和久が電話をかけたら山下が国吉さんといっしょに喫茶店にいるとか、そういうことがあった。
「国吉さん、最近よく来ますね」
 僕はあからさまにたずねた。山下がかわりに答えた。
「女装とかTSとかに興味があるんだって。だから今日も教えてあげているんだ」
 山下は屈託なくそう言うけれど……。興味だって? 僕はまた疑問に思った。
「国吉さんの興味って、僕たちと同じ気持ちなんでしょうか?」
 同じ気持ちって具体的にはなんのことだ。そう聞き返されたら困る質問をしてしまった。しかし国吉さんは平然と答えた。
「さあなぁ。もし違ったとしても、それはそれで話をしていて楽しいよ」
「そりゃそうだけど」
 僕は口ごもった。
 和久も生徒会でお世話になった義理から、文句を言いづらそうだった。一方篠塚はむっつりとした顔で、国吉先輩が去っていくまで無言を通していた。
 影が消えたころに言葉が発せられた。
「なんかさぁ、最近の山下と国吉先輩って、デートしているみたいじゃね?」
 山下本人の目の前でそんなことを言わないでほしい。僕はあわてて篠塚をとがめた。
「相手が国吉さんで、デートっていうのはおかしいだろう、なぁ?」
 僕は同意を求めたのだが、和久は言葉を濁して、ううん、まぁなと答えるだけだった。
 山下本人は、とびきり寂しい顔をしてからすぐに笑顔になり、
「篠塚くんの言うとおりだね。そんなふうに見られてしまうかもしれないね」
 などと言った。
 おかしな発言は僕のほうだという雰囲気に、僕はたじろいだ。考えてみて思い当たった。もし山下が本当の女の子なら、国吉先輩とこれだけの接点を持っていればおたがい付きあっている、と噂されてもしかたがないのだ。
 立ち話も変だと思い、四人はカラオケボックスに入った。

 僕は見回す。いつもの面々は、山下を除いて女というには無理がある見た目だけれど、みんな同性である。
 もしも万が一なにかが起こって、この四人が本当に女の子になったなら。カラオケボックスの集まりは女子会と呼ばれるだろうか。女子会というのも不思議な言葉だ。わざわざそんな呼び名がつくってことは、飲食店にはカップルとか家族とか、男女混合で行くのが普通ってことだ。
 山下が国吉さんといっしょにいることを選んだ場合、女子会レベルの仲である僕にはそれを止める理由がない。ましてや山下が自ら好んでそうしている場合には。僕と国吉さんは生物学的には同じ男なのにだ。……あれ?
 僕はまた自分の立ち位置が分からなくなった。さんざん考えたが答えは出ない。断じて同性愛ではない。ではいったいなんなんだ?
 そういえば女の友情はもろいという言葉があった。女の友達づきあいが長続きしないのにはいろいろな原因があるという。ひとつは男の影響で、女は彼氏ができると、彼氏に好かれようとして生活が変わってしまう。だから友達づきあいが疎遠になるというのだ。
 僕は女の友情を疑似体験しているのかもしれなかった。
 いま山下は国吉さんに影響されてしまっているのか? そして僕たちから、離れようとしているのか?
 山下の横顔はいつにもまして白い。見つめていても答えが出なかった。こんなに遠くにいるように、山下を感じたことはなかった。

<つづく>

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