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便利屋

作.真城 悠(Mashiro Yuh)
「真城の城」http://kayochan.com
「真城の居間」blog(http://white.ap.teacup.com/mashiroyuh/)
挿絵:松園

 俺は便利屋だ。

 ガキの頃に何になりたかったかは…あんまり覚えちゃいねえな。そういうことは余り考えなかったかもしれん。

 少なくとも中学校を出る頃には「なりたい職業」だの「社会に出てやりたいこと」なんてほざいていられるのはよほど能天気な奴だけだ。
 実際に仕事として選べるのは「それなら何とか出来る」ってだけの日銭を稼ぐそれだよ。

 少なくとも最初から「サラリーマンになりたい」とは誰も言わねえだろう。あ、この頃のガキは最初から公務員が夢だってか。

 ともあれ俺には特殊能力があった。

 相手の出せる値段ギリギリを見計らって飛び込み、緊急のヘルプを買って出る…そんな仕事だ。

 え?どうやって仕事を探すかって?

 それはまあ、企業秘密だよ。ただ、何件か契約してるところはあるな。都内の結婚式場なんてそうだ。
 あ、これは一応社外秘ってことになってるから用心してくれよ。

 余り無いんだが、稀に新婦が結婚式直前に逃げ出しちまって、式当日に新婦がいないってな事態が起こったりする。
 全く間抜けな話だ。

 普通はそんな有様になったら結婚式なんぞやってる場合じゃないんだが、世間体があるからってんで一応は結婚式を行って、直後に嫁が逃げたという体を取り繕いたい…なんてこともあるらしい。

 それは余計に話がややこしくなりゃせんか?と余計な心配をしちまいそうだが、ともあれそういう場合にピンチヒッターとして俺が出向く訳だ。
 ここの式場とは専属契約を結んでるから、採寸時に取った身体データがあるし、写真や映像も豊富。問題なくなり済ませる。

 ん?

 ああそうだよ。俺が新婦の代わりを務めるのさ。

 女装するのかって?…まあ、形式的にはそうなるわな。女がウェディングドレス着ても“女装”には違いないから。

 ああ。俺は対象の人間に一時的に変身する能力があるんでね。

 ただ、丸一日以上は持たないみたいなんでその間だけってことになる。

 もう数え切れないくらい花嫁役はやったぜ。

 お陰でメイクも上手くなったね。

 女になったことは何度もあったが、やっぱりあのでかいスカートのドレスってのは独特の感慨があるな。
 俺みたいなベテランでも鏡で自分の姿を見た時には一瞬“ドキっ!”となるからな。
 ここだけの話、披露宴で花嫁演じる時にはなるべく鏡は見ないことにしてる。

 結婚式やら披露宴で花嫁にコメント求められることは殆(ほとん)ど無いし、秘密を知ってる主催者や新郎側の計らいでそういう展開にはなるべくしないことになってるんだが、キスだけはしょうがないからな。

 そうだなあ、後はお嬢様学校で「出席率を落とさないため」ってんで当のお嬢様が風邪で寝込んでるのに俺が変わりに出席したことがあったよ。

 え?そりゃ制服姿でだよ。裸で行けとでも言うのか。

 元々学生の着る制服ってのは何年も着る関係からかなり頑丈に出来てるもんだ。そして普通の生徒なら何着も持ってるもんじゃあない。

 だがそこは流石にお嬢様だね。

 一着あれば事足りるはずの制服のスペアを何着も持ってて、その内一度も袖を通したことが無いのを回されたよ。

 その日の授業は全て隠しカメラで録画・録音したし、俺も丁寧に板書を取ったから何とかなったんじゃないのか。

 面白いのはその制服は後で没収の上切り刻まれたってこと。

 他人が袖を通した制服なんて絶対に着たくない、んだと。

 いや、俺が男だってことはあちらには知らせてない。別に女だったとしても同じなんだろうな。
 でもって「それならやる」ってことにもならないのは、中古制服店…発足当時は「ブルセラショップ」なんて言われてたな…に流れて勝手にプレミアが付くのを恐れていたらしい。

 やれやれだ。こちとら守秘義務で食ってるみたいなもんだから依頼主から払い下げの衣装を横流しなんてありえないのに。

 え?じゃあ衣装はどうしてるのかって?
 基本的には返却だ。

 横流ししない以上、持っててもしょうがないからな。

 何?普段こっそり着てるんじゃないかって?

 おいおい、俺が女装するのは女に変身した時だけ。第一男の肉体じゃあ、女物の服なんぞサイズが小さすぎて入らねえよ。
 大体、普段もそんなもん着てたら女装趣味者みたいじゃないか。俺はビジネスとして着てるんだから。

 それに俺の部屋のクローゼット漁ったら大量に女子高生の制服が出て来るってか?笑えないな。

 そうそう、制服系で締め付けが厳しかったって言えば何と言ってもCAだな。キャビンアテンダント。
 つーかこの呼び方だと別に男女どっちでも良くなるから、俺は古風な「スチュワーデス」ってな呼び方が好きなんだが。

 ああ、やったことあるよ。臨時のヘルプで。

 「制服マニア垂涎の的」の制服に身を包んで女として一日働いた気分は?って…?

 う~ん、それこそファッションショーみたく制服姿をひたすら鏡に写してうっとりしてられるだけなら存分に楽しめたのかもしれんけど、一応働かないといけないからなあ。

 着替え終わった直後は多少身体のあちこちをギシギシ動かして楽しんだりもしたけど、それ以降はずっと気が抜けなかったよ。
 普通に肉体労働だったし。

 まあ、ここだけの話ごく普通の従業員の時とは別の視線を全身にギンギンに感じたね。

 自分で見下ろしてすら実にいやらしい黒ストッキングを客の男がちらちら見てるのを精神が男の俺が気が付かんわけが無かろう。

 これも終わったら全身の制服全て即没収の上、チェックシートで欠けている備品一つに至るまで総チェックだったね。

 何でもその手のマニアショップには、「制服のボタン」だの「ネームプレート」だのといったパーツ単位でプレミアがついて売られてるらしい。

 しかし、それ買ってどうするんだ?
 それを身に付けていたスチュワーデス思い浮かべて興奮しながら「いたす」のか?

 そういう制服マニアにとっては俺の境遇は羨ましい…のかな?
 まあ、うらやましいっちゃうらやましかろう。何しろ女の肉体になって袖を通すのみならず、「現場」で働ける訳だから。
 ただ、連中の好みと完全に一致してるかは疑問符が付くね。

 少なくとも連中は「スチュワーデスの制服」やら「その制服に身を包んでいる美女」が好きで、お付き合いしたいとか「セックスしたい」とか思ってるのかもしれんけど、別に「スチュワーデスになりたい」と思ってるわけじゃ無かろうからな。

 ああそうそう、職場制服系で言えば看護婦さんもやったよ。今は「看護師」って言うのか?

 逆にこれは制服の管理に関してはえらくルーズだったね。まあ、単なる白衣…ってーと先生が羽織ってるのも白衣になるが…白いワンピースだな…だからさ。

 流石にこの時はヘルプさんなら男でも女でもどっちでも良さそうなもんだが、常にテンパイ状態の緊張の中、突然知らないのが来るよりも馴染みのスタッフの方が安心するんだろう。

 ああ、別に俺は女に変身するのが仕事なんじゃなくて、「他人に成り代わる」のが仕事だから。

 この時は俺…というか、俺が代打を勤めた看護婦さん…になついてたらしい入院患者のガキにからまれてえらく往生したよ。

 子供だってんで調子に乗ってて平気で大人の女の尻をなでたり、スキあらば後ろから抱きついたりしやがる。

 最初は叱ったんだけど、その「綺麗なお姉さん」への憧れのまなざしを見るにちと罪悪感を覚えないことも無かったな。

 その子がどうしてるかって?

 さあ、仕事のその後についてはあちらから依頼でもされない限りは干渉しないのが不文律だから。
 ただ、入院してた病棟から考えてもそう軽い病気じゃああるまい。無事に生きてることを願うよ。
 もっとも、再会したところであの「綺麗なお姉さん」の中身がこんなおっさんだと分かったんじゃ幻滅どころじゃあるまいがね。


 そうそう、変わったところではバレリーナなんかもやったよ。

 ああ、あの踊り子な。

 この時はガイジンだった。

 どこだっけ?フランスだかロシアだかから来たバレエ団の主役のねーちゃんが体調不良で寝込みやがったらしい。

 日程もキツキツだったから振り替え公演も出来ないし、キャンセルすれば莫大な違約金ってことになる。
 そこで俺にお鉢が回ってきた。

 この時はギャラはよかったよ。正に起死回生のピンチを救った訳だから。
 といっても、これまでである意味体力的には一番しんどい仕事だったな。

 何しろ公演そのものは3時間もあって、主役なもんだからその間ほぼ出ずっぱり。

 あの恥ずかしいカッコで飛んだり跳ねたり踊ったり、お辞儀をして拍手されたり、男の手に身体をあずけてのけぞったり持ち上げられたり…。

 踊りの中にはあのただでさえパンツ丸見えみたいなスカートで、脚を思いっきり上に振り上げたまんま股間部分を客席方面に見せ付けてるとしか思えない振り付けまであるんだよ!あれには驚いたなあ。

 え?バレエの経験があるかって?

 そんなもんあるわけねーだろ。

 俺の強みは他人に成り代われるってことなんだから。能力もコピーされるんだよ。

 え?男のクセにあんな格好して恥ずかしくないのかって?

 そりゃ恥ずかしいに決まってるだろ。つってもその時はそのガイジンの女になってるからなあ。そういう意味じゃあ違和感は無いっちゃない。

 驚いたのが舞台の上で踊る以外の仕事が多いこと!

 舞台衣装のまんまで楽屋に来る人来る人の対応までしなくちゃならん。

 それにしてもあいつら何なのかね。広告代理店の関係者だかスポンサーの社長だかしらんけど、疲れ果てたダンサーの所にやってきてしょーもない話をグダグダグダグダと…。

 露出度の高い俺らが着てる衣装とその素肌をちらちら見てるのはこちらからはモロ分かりだぞ?

 …まあ、俺だってこんなシチュエーションになったら間違いなくチラ見するから気持ちは痛いほど分かるけどな。

 団長からは「連中の機嫌を損ねたりすれば、今後の団の存続にも関わるからくれぐれも粗相のない様に」と念を押されたよ。

 まあ、元々バレリーナの露出度の高い格好ってのは「そっち」系の見世物だった時代の名残もあるらしいからな。要はストリップ小屋な。
 今じゃ格調高い芸術みたいな顔をしてるが、案外そういう需要はあるんだぜ。

 だから何かと言うと楽屋に着ちゃあ「踊り子さん」と間近で話す権限を駆使する連中はさしづめパトロンかタニマチってところ。どいつもこいつも社用族みたいなもんのクセに。

 果ては打ち上げの席にまで同席させられた。

 だからこの時は珍しく「普段着」状態だよ。

 ああ、ロシア女の日常の服。バレリーナの舞台衣装じゃなくて。

 流石にTシャツにジーンズだの、スーツにネクタイで出る訳にもいかねえから困ったよこの時は。
 仕方がねえからそのまま近所の安売りの店に行って適当に見繕ってもらった。

 プライベートでまでスカート履く謂れはねえんだが、結局そういうことになったみたいだ。

 必要が無いならなるべく仕事中は鏡を見ない様にしてたんで気が付かなかったが、その時の俺はまるで妖精みたいな美少女だったから、女の店員が見とれてぽ~っとしてたな。
 ガイジンの…ロシアの若い女ってのは金髪碧眼で大理石みたいな肌だから、少なくとも若い内は本当にリアルに妖精みたいな美しさだからさ。
 二十代になると一気に太りすぎのトドみたいに劣化するけど。

 …流石に悪い気はしない。

 その店員の趣味で矢鱈(やたら)に短いスカートを進められたが、頑として押し切って長いスカートにサイズ大き目の服で統一して遅れて打ち上げ会場に飛び込んだよ。

真城様挿絵20

 どうもこのダンサーは普段はやたらにセクシーさを強調する、挑発的な格好が多かったらしい。ついでにそのキツい性格から若干敬遠されてたらしいんだが、この時は成り代わっていたとはいえこの俺だから、丈は偉く長かったが普段履かないスカートに、サイズがぶかぶかの上着ってんでその「可愛らしさ」が最大限強調されて大うけだった。

 ちなみにこの時に専門誌に掲載された写真が評判になり、着てたスカート含めたコーディネートが大いに売り上げを伸ばしたらしい。

 それどころか当のバレリーナ本人…この時風邪で寝てたねーちゃんだな…もカルト人気が出ちまったらしく、このブランドのモデルに引っ張り出されて一時期CMに出演してた。結構なギャラだったらしい。

 それって明らかにおれのお陰なんだから多少なりともお零(こぼ)れを貰いたいところだが…まあ、こちらは最初から裏方で契約してるからいいんだけどさ。

 え?そういう時に自分の美貌に溺れたりしないのかって?

 …それはないな。うん。

 これが俺自身の美しさってんならともかく、他人のそれを借りてるだけだからさ。

 流石にまがりなりにも有名人の身代わりをしたのは珍しいよ。この時くらい。

 大抵は名も無き人々のピンチヒッターだね。
 実はそういう場合って、結構ギャラの払い逃げが多かったりするんだ。いやホントに。

 だって居酒屋のシフトをすっぽかしたねーちゃんの代わりに入ったこともあるけど…さっきから女ばっかりだって?いいから黙って聞きなさい…この時はバイト代しかもらえんかった。

 あのさあ、それじゃあ普通の派遣雇えよって。わざわざ俺みたいな特殊な能力者引っ張る意味無いじゃねえか。

 散々交渉したけど結局この時はどうにもならんかった。この時以来だね、必ず前金で貰うようになったのは。泣きながら「間に合わない!金は何としても後から工面するから何とかしてくれ!」って頼まれてもそういうのに限って危機を脱した途端に掌返すからね。

 となるとおいらは勢い「単価の高いバイト」ってことにしかならないから、自然とVIP御用達みたいなことになっていく。

 何しろ前払い制を取ってなかった時なんてバニーズバーでバニーガールで接客やった時も普通の時給しかもらえんかったからさ。

 …なんだよ。だからやったんだってバニーガール。

 ああ、そりゃ着たよ。バニーの制服。着なきゃだたの女じゃんか。メイクも濃い目にしてな。
 俺あんなにでかいイヤリングして仕事したの中華レストランでチャイナドレスでバイトした時以来だよ。

 そりゃ着たっての。チャイナドレス着ないと中華レストランのバイトは務まらんだろうに。いちいち制服に過剰反応する奴だなあ。

 ああそうだよ!わき腹近くまでスリットが入ったあの朱色に金色の刺繍の入ったチャイナドレス!床を引きずりそうな長さだったけど、スリットが深いから歩く度に真横からは脚全体がちら見出来たもんだ。あれって普通にパンティ一丁で歩くよりよっぽとやらしいよ。不思議なもんで。

 だから俺はそういうバイトしてる時はメイク終わったらもう鏡は見ないんだよ。何か気恥ずかしいから。


 他にも沢山あるけど…まあ、こんなもんかな。

 ああ、これが俺の仕事。成り代わり屋だ。頼まれればその場にいない奴の代役を勤めるぜ。

 ただその…非常に残念な話なんだが、実はどういう因果なのか知らんが、俺は女にしか変身できないんだ。

 男も随分試したんだが、どうしても上手く行かない。

 本当なら男の代役の方が上手く出来ると思うんだがね。仕方が無い。女にしかなれないんだから。

 ギャラは高いが突発的な出来事にも対応するぞ。
 その代わりデータはしっかり用意すること。それから着てる服まで変形させられる訳じゃないから衣装は依頼側持ちな。下着まで含めて「本人」が着ていたものか、そうでないなら全く同じサイズのものを準備すること。

 仕事が1日以上に及ぶ場合は「普段着」まで持ってもらう。仕事が終わった後の衣類の扱いについては任せるけど、基本的に引き取りはしてない。そちらで処分するなり本人に返すなりしてくれ。

 それからさっきも説明したみたいにギャラは前払い。一部後払いにしてもいいが交渉次第だね。

 さて、今回の仕事は何だい?





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