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「夕立」(1) by.ありす

(1)-------------------------------------------------------

 なんとなく、胸騒ぎがしていた。
 今日は出かけないほうが、いいんじゃないかって。
 彼女から電話がかかってきた時から、そんな予感がしていた。
 もっとも、あんなことが起ってからと言うもの、僕は人目を避けるようにして、なるべく外に出ない様に、気をつけていたのだけれど、今日は彼女がどうしてもと言うから、仕方なく外出することにしたんだ。
 でも午後になって、“天気が怪しくなってきたから、早く帰ろう"という、僕の意見は聞き入れてくれず、彼女は強引に僕を公園に連れて来ていた。

「ああー、降って来ちゃったね」
「だから言ったのに」
「雨宿り……するにも、この辺り何もないしなぁ」
「どうしよう、傘持ってきていないよ」
「とりあえずあそこ! 木の下!」
「あ、ちょ、ちょっと待って!」

 僕と彼女は、公園の端にある大きな木の下へ駆け込んだ。
 あっという間に空が暗くなり、空に閃光が走ったかと思うと、地響きがするほどの大きな雷鳴が轟いた。
 突然の雷雨。夏の終わりの夕方には、こんなトラブルに会うことも珍しくない。
 履きなれないミュールで、彼女に手を引かれて走るのは、結構つらかった。
 よく途中で転ばなかったなと思う。

「こんな日は、思い出しちゃうよね」
「……うん」

 そう、あの時もこんな、突然の雷雨に見舞われた時だった。
 僕と彼女は、家路を急ぐ余り、偶然にも十字路の角でぶつかってしまった。
 落雷よりも大きな音と衝撃が頭の中で響き、気がついたら二人の体が入れ替わっていた。

 僕は彼女に、彼女は僕になってしまっていた。

 バケツをひっくり返したような雨。ほんの一瞬で、二人ともずぶ濡れになった。
 僕はトートバッグに入れていた、ちっちゃなタオルを出して彼女に渡し、自分はハンカチを出そうとした。
 彼女は自分よりも先に、僕の頭にタオルを被せて、くしゃくしゃっと拭いた。

「僕はいいから、君が風邪を引いたら困る」
「ありがとう、でもそっちだって……」

 入れ替わって、もう2ヶ月。
 彼女とあべこべの生活にも、少しは慣れてきたけれど、僕よりも彼女のほうが順応性が高いみたいだ。
 これじゃまるで……。

「ああっ! それ!」

夕立1
挿絵:針子 http://melo.xii.jp/

 拭き終わったタオルを返すと、彼女が僕を指差した。

「え? 何?」
「何じゃないよ、胸! 透けてるじゃないか!」
「え? わっ!」

 言われてみると、薄手のワンピースの胸元が、濡れたせいでぴったりと体に張り付いていた。
 そのせいで、胸の膨らみと、その先端までが浮き出していた。

「ブラしていないの?」
「え? いや、だって……見えちゃうと思ったから、仕方なく外したんだけど……」

 そう、出かけた時は、ちゃんとブラはつけていた。
 けれど、ブティックに入って、新しく買ってもらった夏用のワンピースに着替えた時に、外したのだ。

 『何時までも暑苦しいかっこして! 夏用の服、買ってあげるから、そっちを先に済ませましょう』
 そういって彼女は、待ちあわせた駅前の広場で、僕の姿を見るなり、そう宣言した。

 恥ずかしがる僕に、布地の面積が狭くて生地も薄手のワンピースを、次から次へと試着させた。
 着る本人よりも、付いてきた男性のほうが、熱心に服を選んでいることに、ブティックの店員さんが目を丸くしていた。
 こんな女の子女の子した服を着せられるのには抵抗があった。
 ただでさえ、この体――彼女は、人目を引きがちな容姿をしていた。
 だからちょっとでも、可愛らしい服装をしようものなら、注目を浴びてしまうのだ。
 他人の視線を気にするなんてことは、男の時にはほとんどなかったことだ。
 けれど彼女の体になってからと言うもの、見知らぬ誰かの視線が気になってしまう。
 特に品定めをされるような、男のギラギラした視線が怖かった。
 だから、どうしても外出しなければならない時は、必ず大き目の帽子を深くかぶり、なるべく目立たない地味な服装で出かけるようにしていた。

 1時間ほど着せ替え人形をさせられて、彼女が選んだのは、肩なんか丸出しで、胸元も深いデザインの、白のワンピースだった。しかも裾だってずいぶんと短い。
 『こんなの恥ずかしくて着れないよ』という、僕の意見など聞き入れてはくれず、結局彼女のいうとおりにした。
 僕が家から着てきたのは、もっと体の線が隠れる、生地だって厚めの服だったのに。
 だから動きが楽な迷彩柄のスポーツブラを着けてきたけれど、このワンピースではそれが見えてしまう。

「なんで、普通のか、ストラップが無いのにしなかったの?」
「だって、まさかこんな服着させられるとは思っていなかったんだ。だから……」

 彼女は“やれやれ”といった風に、ため息をついた。

「いつも男だか女だかわからないような格好をしているから、たまにはそういう服を着せれば、少しは女の子らしくなるかと……寒いのか?」

 彼女は小言を途中で切って尋ねた。
 僕は、恥ずかしさもあったけど、濡れた服が体に張り付く気持ち悪さと、天候の急変で下がりつつある気温のために、肩を抱いて少し震えていた。

「困ったな、僕も今日はTシャツ一枚だし、かけてあげるものが……」
「着替えも、駅のコインロッカーだよ」
「このままじゃ、風邪を引いてしまうな。雷も近いから、木の下にいると危ないし」

 そう言いながら、彼女は周囲を見渡した。
 いよいよあたりが暗くなり、雷も次第に大きく、激しくなっていた。

「仕方ない、あそこへ行こう」

 彼女は濡れたタオルをぎゅっと絞ってから、僕の頭から被せた。

「ここまで濡れちゃったら同じだ。直ぐそこだから、転ばないように歩いて行こう」

 そう言うと、僕の剥き出しの肩を抱き、歩くのを促した。
 “ちょ、ちょっと、こんなの恥ずかしいよ”
 そう言いたかったけど、なんだか彼女は怒っているみたいで、言い出せなかった。

 雨が少し弱くなったタイミングで、彼女は僕の濡れた体をギュッと引き寄せた。
 濡れて透けてしまった服、直接肌に触れられる彼女の手、密着する体と体、そのどれもが恥ずかしくて、顔を伏せたまま彼女に合わせて、歩き始めた。

コメント

ご主人様:
一応、生きています。
壊れかけですけれど。

おお、るしぃ久しぶり~。
元気してたぁ?

あ、る姉様だぁ~……スリスリ

今回のお話はストーリー的にはヒネってはいないので、雰囲気をお楽しみ下さいまし。

こんばんは。
可愛い話っぽいので、楽しみにしています。

最近夕立が多くて困ります。朝は快晴だったのに、帰る時に限ってとんでも無い豪雨。駐車場まで歩く間にずぶ濡れになっちゃいます。傘さしてるのにw
みなさんも、夕立の時には、隣の異性と、薄着にご用心。

全4回です。

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