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2600万ヒット記念 「恋人たちの時間」(1) by.ありす
「恋人たちの時間」
(1)-------------------------------------------------------

挿絵:まさきねむ
僕たちを乗せたバスは、山奥のとある施設に向かっていた。
2泊3日の宿泊学習で、数年前からカリキュラムに入ることになった、かなり人気のイベント……いや、体験学習だ。
宿泊学習の内容は、恋人や夫婦の関係を体験するというもの。
VR(仮想現実)空間の中で、くじ引きで男女ペアをつくり、恋人同士や夫婦のあり方を体験学習するというものだった。
言ってみれば、一種の“おままごと”みたいなものだ。
ただし、少し大人の。
急激な少子化が深刻化してから、もうすでに十数年。
出生率も小数点以下が常態化して、何とかしなければこのままでは国が維持できなくなると、政府も躍起になっていた。原因は晩婚化・非婚化にあるという文部科学省の分析結果を元に、あるプログラムの実験が行われた。
半分冗談のようなプログラムだったけど、その効果は劇的だった。
何年か前に行われたその実験プログラムの結果では、被験者の5年後結婚率は10倍。そのカップルがもうける子供の数の平均は、なんと20倍以上にもなったというのだから。
その実績を踏まえて、3年前から改良版のプログラムが実施されるようになった。
それが今回僕たちの受ける、「明るい未来家族計画体験カリキュラム」と呼ばれる体験学習だった。
“子供の人権を守る教職員連合”とかなんとか言う、いつも不平不満ばかり言っている一部の先生たちは、この体験学習には反対してる。
政府による人権侵害だとか、行過ぎた性教育だとか、もっともらしいことを言うけど、僕らから言わせてもらえば、はっきりいって迷惑だ。
先輩たちの体験談を聞けば、それは非常に興味をひかれる内容で、異性に興味を持ち始める年頃の僕らは、ぜひとも体験してみたい。
学校を出るとき、周到に用意された横断幕や、どこから集めてきたのか、何とか市民団体とか、中には日本語には到底見えないプラカードを持った人たちが、出発前のバスを取り囲んでいたけど、もちろん僕らはそんなもの、気にも留めていない。
どっちにしろ大人の都合で振り回されるなら、楽しいほうが良いに決まっている。
先輩たちはこの「体験学習」で、校内にいくつもの公認カップルを作っていた。
卒業後にそのまま結婚した先輩たちも多いと聞く。
もちろん僕だって、誰か気の合う女子と、楽しい学園生活を過ごしたい……。
気の合う女子……もちろん僕には、まだそんなのはいなかった。
いや、僕の知る限り、このクラスにはカップルはいない。
そもそも今の時代、中学校までは男女別々の学校だ。
兄弟がいるほうが珍しい僕たちの世代は、自分の肉親でもない限り、異性と触れ合う機会はほとんどない。
僕らの親の世代の頃に、性犯罪の低年齢化の影響だとかで、そうなったらしいけど、詳しいことは良く知らないし、学校の授業でもそのことについては何もなかった。
でも高校からは、男女共学が普通になる。
そして僕たちは今、高校生活最初の二学期。
男女一緒の授業にもだいぶ慣れたけれど、やはり男子と女子の間には、なんとなく壁のようなものがあった。
もちろん日直の仕事やクラス係の都合上、女子と会話をしなきゃいけないこともあるけど、お互いにとてもぎこちなくて、会話というには程遠い。
こんな状況で彼女なんて、どうやって作ればいいって言うんだ?
だって女子には……ううん! そんな僕らのための、この体験学習なんだ。
僕は隣の席の大地に言った。
「なんかドキドキするね」
「そうか? まぁ、エロい期待に興奮するのは、健康な証拠だが?」
「エロいって……それだけかよ?」
「今回は、“体験実習”だぜ。ま、“仮想現実の中で”だけどな」
「いや、そうじゃなくて、他にもあるだろ? その……彼女が出来るかな、とか」
「やれやれ。お前もあの、うしろできゃーきゃーうるさい、女子どもと同じか?」
「悪いか!」
「いや別に。ただ俺は、興味ないね」
「ふうーん?」
大地に自覚はないかもしれないけれど、ぶっきらぼうだけどルックスもそこそこで、クールな印象の大地は、実は女子にも人気がある。
大地のことをじっと見つめる女子が、意外に多いってことを、この鈍感な男は全く気がついてなんて、いないだろうな。
「何だよ?」
「別にぃ」
「引っかかるな、その言い方。それよかお前のことだ、出来るのは男子の恋人だったりしてな、わはは!」
「酷い! 大地までそんなこというのかよ!」
小学生ならともかく、中学生ともなれば、身近にいなくとも異性は意識するようになる。
男子生徒しかいない中学校の文化祭だの体育祭だのというイベントで、何が行われるかなんて大体想像がつくと思う。
そういうときに真っ先に犠牲になるのは、僕みたいに小柄でおとなしそうな外見の奴に、大抵決まっている。
“城南中のプリンセス”などと、ありがたくも無いあだ名まで貰っていた僕は、ことあるたびに女装させられていた。
劇でドレスを着て、お姫様役もやった。
メイド服でウェイトレスも、セーラー服で撮影会もさせられたし、体育祭ではポンポンを持たされ、超ミニスカートのチアガール姿で、クラスの応援もさせられた。
それぐらいならまだ良い。
勘違いした奴に迫られることもしょっちゅうで、その度に嫌な思いもした。
けれどそんなときに助けてくれたり、フォローしてくれたりしていたのは、今隣の席に座っている大地だった。
「お、そろそろ着くみたいだぜ?」
「……」
車窓から外を見ると、ずうっと続いていた森の中の道の先に、白い大きな建物が見えてきた。
<つづく>
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挿絵:まさきねむ
僕たちを乗せたバスは、山奥のとある施設に向かっていた。
2泊3日の宿泊学習で、数年前からカリキュラムに入ることになった、かなり人気のイベント……いや、体験学習だ。
宿泊学習の内容は、恋人や夫婦の関係を体験するというもの。
VR(仮想現実)空間の中で、くじ引きで男女ペアをつくり、恋人同士や夫婦のあり方を体験学習するというものだった。
言ってみれば、一種の“おままごと”みたいなものだ。
ただし、少し大人の。
急激な少子化が深刻化してから、もうすでに十数年。
出生率も小数点以下が常態化して、何とかしなければこのままでは国が維持できなくなると、政府も躍起になっていた。原因は晩婚化・非婚化にあるという文部科学省の分析結果を元に、あるプログラムの実験が行われた。
半分冗談のようなプログラムだったけど、その効果は劇的だった。
何年か前に行われたその実験プログラムの結果では、被験者の5年後結婚率は10倍。そのカップルがもうける子供の数の平均は、なんと20倍以上にもなったというのだから。
その実績を踏まえて、3年前から改良版のプログラムが実施されるようになった。
それが今回僕たちの受ける、「明るい未来家族計画体験カリキュラム」と呼ばれる体験学習だった。
“子供の人権を守る教職員連合”とかなんとか言う、いつも不平不満ばかり言っている一部の先生たちは、この体験学習には反対してる。
政府による人権侵害だとか、行過ぎた性教育だとか、もっともらしいことを言うけど、僕らから言わせてもらえば、はっきりいって迷惑だ。
先輩たちの体験談を聞けば、それは非常に興味をひかれる内容で、異性に興味を持ち始める年頃の僕らは、ぜひとも体験してみたい。
学校を出るとき、周到に用意された横断幕や、どこから集めてきたのか、何とか市民団体とか、中には日本語には到底見えないプラカードを持った人たちが、出発前のバスを取り囲んでいたけど、もちろん僕らはそんなもの、気にも留めていない。
どっちにしろ大人の都合で振り回されるなら、楽しいほうが良いに決まっている。
先輩たちはこの「体験学習」で、校内にいくつもの公認カップルを作っていた。
卒業後にそのまま結婚した先輩たちも多いと聞く。
もちろん僕だって、誰か気の合う女子と、楽しい学園生活を過ごしたい……。
気の合う女子……もちろん僕には、まだそんなのはいなかった。
いや、僕の知る限り、このクラスにはカップルはいない。
そもそも今の時代、中学校までは男女別々の学校だ。
兄弟がいるほうが珍しい僕たちの世代は、自分の肉親でもない限り、異性と触れ合う機会はほとんどない。
僕らの親の世代の頃に、性犯罪の低年齢化の影響だとかで、そうなったらしいけど、詳しいことは良く知らないし、学校の授業でもそのことについては何もなかった。
でも高校からは、男女共学が普通になる。
そして僕たちは今、高校生活最初の二学期。
男女一緒の授業にもだいぶ慣れたけれど、やはり男子と女子の間には、なんとなく壁のようなものがあった。
もちろん日直の仕事やクラス係の都合上、女子と会話をしなきゃいけないこともあるけど、お互いにとてもぎこちなくて、会話というには程遠い。
こんな状況で彼女なんて、どうやって作ればいいって言うんだ?
だって女子には……ううん! そんな僕らのための、この体験学習なんだ。
僕は隣の席の大地に言った。
「なんかドキドキするね」
「そうか? まぁ、エロい期待に興奮するのは、健康な証拠だが?」
「エロいって……それだけかよ?」
「今回は、“体験実習”だぜ。ま、“仮想現実の中で”だけどな」
「いや、そうじゃなくて、他にもあるだろ? その……彼女が出来るかな、とか」
「やれやれ。お前もあの、うしろできゃーきゃーうるさい、女子どもと同じか?」
「悪いか!」
「いや別に。ただ俺は、興味ないね」
「ふうーん?」
大地に自覚はないかもしれないけれど、ぶっきらぼうだけどルックスもそこそこで、クールな印象の大地は、実は女子にも人気がある。
大地のことをじっと見つめる女子が、意外に多いってことを、この鈍感な男は全く気がついてなんて、いないだろうな。
「何だよ?」
「別にぃ」
「引っかかるな、その言い方。それよかお前のことだ、出来るのは男子の恋人だったりしてな、わはは!」
「酷い! 大地までそんなこというのかよ!」
小学生ならともかく、中学生ともなれば、身近にいなくとも異性は意識するようになる。
男子生徒しかいない中学校の文化祭だの体育祭だのというイベントで、何が行われるかなんて大体想像がつくと思う。
そういうときに真っ先に犠牲になるのは、僕みたいに小柄でおとなしそうな外見の奴に、大抵決まっている。
“城南中のプリンセス”などと、ありがたくも無いあだ名まで貰っていた僕は、ことあるたびに女装させられていた。
劇でドレスを着て、お姫様役もやった。
メイド服でウェイトレスも、セーラー服で撮影会もさせられたし、体育祭ではポンポンを持たされ、超ミニスカートのチアガール姿で、クラスの応援もさせられた。
それぐらいならまだ良い。
勘違いした奴に迫られることもしょっちゅうで、その度に嫌な思いもした。
けれどそんなときに助けてくれたり、フォローしてくれたりしていたのは、今隣の席に座っている大地だった。
「お、そろそろ着くみたいだぜ?」
「……」
車窓から外を見ると、ずうっと続いていた森の中の道の先に、白い大きな建物が見えてきた。
<つづく>
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まさきねむさんの可愛らしいイラストに萌えてください。
VR体とかハルカ先生とか、どっかで見たようなキーワードが登場しますが、関連はありません。
ネタ帳を見ると、プロット作ったのは2008年の5月。で、放置のまま本格的に書き始めたのが2010年の11月頃。あむぁいさんと交渉して連載が決まったのが2012年の7月の末頃w。
そんだけ考えぬいた作品なのかというと、そうではなくてw お仕事が忙しいと執筆が滞っちゃうのと、プロット思いついたらすぐ、どどっと殴り書きだけして、ネタ帳に貯めておいて、あとは気まぐれでその中から書き始めるから、という理由だったりして……。
で、何が言いたいかというと、2600万ヒット記念作品となったのは、単なる偶然というネタばらしなのでしたw