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茶道部の・・・ (3) by.名無しの権兵衛

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(3)

 私の目論見通り、茶道部は存続することになった。当然だろう。原因であった松本誠司が松本和香になってしまったのだから、そもそもの原因がなくなっているのである。
 副顧問が見つからなかったということになっているせいで中山先生がまだ退職されていないけれども、それは仕方がないことと割り切ってもらおう。そもそも、年度の途中で生徒を放り出して退職するなんて、私は納得できなかったのだし、これも都合がいい。

「ふふふ」
「どうしたの、楽しそうな顔して」
「別にー、ただ放課後が楽しみなだけよ」
「あ! あのちょっと変わった子関連? 家から和菓子の試作品でも持ってきてるの?」

 目の前の友人も、クラスメイトも皆、その変わった子が少し前まで女子から絶大な人気のあった教師だなんて思いもしない。記憶がないのだから当たり前だけれど。

「いいなぁー。私も今日は開放時間に茶道部に遊びに行こうかなぁー」

 友人には申し訳ないが、私が楽しみなのは和菓子ではない。和香ちゃんそのものだったりする。
 私は先生に呪いの全てを話していない。実はあの呪いにはいくつか厄介な点が存在している。
 まず記憶についてだ。和香としての記憶を思い出せば思い出すほど、誠司としての記憶は失われていく。元々が男の、それも成人している先生のことだ。きっと、女子のテンションについていけず、どんどん和香の記憶を使うだろう。
 次に言動だ。言葉使いが女の子らしくなればなるほど、挙動が女の子らしくなればなるほど、それらが無意識に出るほど染付けば染み付くほど――男に戻ろうという意識がなくなっていく。
 もちろん、和香の記憶を思い出せば出すほど、言動も修正される。だから和香の記憶を思い出せば思い出すほど、男には戻りたくなくなるのだ。
 そして一番重要なこと――元に戻れなくなる条件ももう一つ存在する。高校を卒業するまでに実家の喫茶店を立て直す――これだけではなく『和香の記憶の8割以上を思い出す』と、その時点で元には戻れなくなる。厳密には、元に戻る気持ちがなくなるらしいが。

 いずれにせよ、放課後が楽しみだ。放課後の時点では、どれだけ”和香”になってしまっているだろうか。
 私は友人に試作品が来るかどうかは知らないとだけ伝えると、再び思案に戻るのだった。
 とても便利だった。
 教室に行くと自分の机がわからず、俺は、和香の記憶を思い出した。クラスメイトと話すときも、和香の記憶を思い出すと、肩の力が抜け、どんなふうに話せばいいのか、あたしは思い出した。
 あたしは英語の教師だったから、物理は全く覚えてない。だけどこれも、あたしの記憶を思い出したら、ちゃんとわかるようになった。
 体育の時間のとき、女子更衣室に入るのが恥ずかったときも、あたしの記憶を思い出せばもうへっちゃらだった。みんなと楽しくおしゃべりしたり、じゃれあったりしながら体操着に着替えられた。

2014-0115.jpg
挿絵:四葉チカ

 今日の最後の時間、英語の授業の前に友達に質問され、あたしは自分の身に何が起きているのか――何かが起きていたことを初めて知った。

「ここの訳は――松本、言ってみろ!」
「はい!」

 あたしは楽勝だと思いながら元気よく返事をすると、立ち上がった。教科書の言われたところに目を向けたとたん、私は頭の中が真っ白になった。

without fail ってどう言う意味だったっけ。そもそも、この文ってなんだろう。意味がわからない!
 あたしは英語の教師だったのだから、これくらい楽勝だ。いや、楽勝なはずだ。それなのに、全くわからない――そこであたしは気がついた。

「すみません。わかりません」

 あたしは先生に頭を下げると、席に着いた。
――あたしの記憶が増えると、先生だった頃の記憶がなくなっちゃってる。
思い出せないけど、間違いなはず。だって――大学のこともが全く思い出せないのだから。
 後で先輩を問い詰めないといけない。
 あたしはそう決心すると、必死にノートを取るのだった。

「せんぱーい!」

 可愛らしい声に振り向くと、そこには元松本先生がいらっしゃった。たった3コマの授業と掃除があっただけなのに、もう普通の女子と見分けがつかない。

「どうしたの、和香ちゃん」
「せんぱーい、あたしにあたしの記憶を思い出したら、元の記憶がなくなること黙ってだでしょ!」

 可愛らしく頬を膨らましながら怒る子が、元は男子からはチャラ男と侮蔑され、女子からは慕われていた先生だとは思えない。

「だって、それを言ったら思い出そうとしなかったでしょ?」
「当たり前じゃないですかー!」
「だからよ。私はそんな危険物を部室にもう置いておきたくなかったし、部活も残したかった。普通に和香ちゃんに染まらなかったら、元に戻って部活を壊したでしょ。だから、絶対に元に戻れないように、罠を張ったってわけよ」
「そんなの、ひどい!」
「――本当に、そう思ってる?」
「――え?」
「本当に、今も元に戻りたいと思ってるの?」

 私がそう言うと、顔を赤くしながら顔を伏せた。何かを言おうとするが、その度に更に顔を赤くして顔を伏せる。
――間違いなく、もうすでに元に戻りたいとは思わなくなっているだろう。

「ほら、正直に言ってみなさい。まだ元に戻りたいの?」
「――思えません。みんなとおしゃべりしたり、ショッピングに行ったり、おしゃれしたり――そんなことをしたい、こっちのほうがいい。だけど、そんなはずないんです! あたしはちょっと前まで、あんなに戻りたかったはずなのに――」
「それなら問題ないじゃない。それじゃ、部室へ行きましょうか」
「――はい!」

 少し考えたあと、和香ちゃんは元気よく私のあとについてきた。
 部活のあと、和香ちゃんは私に『こんな楽しいところを壊そうとして、ほんとうにすみませんでした!』と謝ってきた。もちろん私はそんな彼女を許し、みんなで彼女の家に遊びにいった。
 その後、私が卒業するまでにお店は学生で賑わうようになった。

「いらっしゃいませ!」
「こんにちは。和香ちゃん居る?」
「はい! てんちょー! 部長さんがきましたよ!」

 何故か卒業したあとも私は部長と呼ばれ――名前も知らない茶道部の後輩にも何故かそう呼ばれている――、親しくしている。

「部長! こんにちは!」
「彼氏とはうまくいってるの?」
「はい!」

 私は就職し、彼女はお店を切り盛りするようになった。
 かつての閑古鳥が鳴いていた――いや、それどころか廃屋になっていたお店とは信じられないほど、地元では名物店となっている。
 結局松本先生は、記憶を1割ほどしか残さずに和香ちゃんに染まってしまった。染まらなかったら徐々に女の子に染めていこうと思っていたのだが、これはこれでいい友達ができたと思えば悪くはない。

 ただ――

「元男に、先を越されないように私も頑張らないとね」

 私はそう呟くと、店の奥にある指定席へと足を運ぶのだった。

(終)

コメント

よろしくお願いしますー。

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hmkさん、感想ありがとうございます。

現在、短編(中編?)を2個、長編?を1個書いています。書きあがりしだい亜夢ァ遺産へ送る予定なので、そちらも楽しんでいただければ嬉しいです。

記憶が残っているのが良いですね。楽しめました。
次回作も楽しみにしています。

 次からはもう少しキャラの区別がわかりやすいように練りこみます。

部長と松本先生(和香)との視点のスイッチポイントに気付くのに時間がかかりました。

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