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クジラの人魚姫 10-4 by.黒い枕



白方クジラは、ほんの少し前まで男ではなかった。
否、それどころか、人間の女の子と言っていいかも迷うよう存在だったのだ。
おとぎ話や怪談などで出てくる人魚の女性――『セシリウス』。
それが彼の正体だった。
が、しかし……。
(ふむっ。まずまず……かなっ?)
人間の男の子と肉体が入れ替わり、人間として過ごしていく内に体だけではなく、心すらも人間の男に成りきってしまっていた。
既に自分が雌であったことは遠い過去のようで。
クジラはもう、元の体に戻ることを――随分前向きに――諦めていた。
「ねぇ――この映画って。も、もしかして……みんなが噂している」
「そうそう!かなり前から注目されている恋愛モノの映画だよ!デートとして見るには最適なチョイスじゃない?」
「あっ……そうね!あは、は………はあっ……やだな。この映画……キスが多いってみんなで騒いでいたのに……っ」
幼馴染の女の子と話している姿にさえ、彼は思わず欲情を抱いてしまう。
(うふふっ。やっぱり可愛い。うん、だから絶対に!この体は返さない!……もうあたしが……白方クジラなのよ!)
『セシリウス』は、人魚に戻ること、女に戻ることも諦めていた。
そして同時に、男となった彼は明るく前向きに――自分の体になってしまった元男の子を女の子として調教し――自分の恋人にしようと、企てていたのだ。
「――セラス!沙希!お待たせ!」
「あっ、クジラさん!」
「く、クジラ……っ!あ、ありがっ、とう!」
振り返る少女と美女の顔。
少女の明るい笑顔も好きだったが、美女の頬を赤らめつつ感謝を述べる表情には、何とも形容し難い喜びを覚えてしまう。
「……取り敢えず飲み物はお茶とカフェオレ買ってきたから。はい、沙希はカフェオレで。セラスは、お茶。……合っているだろう」
だから、赤く恥じらう美女であるセラスの顔をじっくりと見ながら、彼は微笑み返した。
「……うん。丁度……お茶飲みたかったから」
顔を俯きにして、差し出された飲み物を受け取る。
明らかに照れ隠しの、その仕草に危うく噴き出しそうになった。
「……っ。は、はい――沙希の分だよ」
(……あははっ。なにこの子……こんなに意識しちゃって!誘っていないなんて嘘だよね!)
白いワンピース姿で、軽く化粧を施されている――白方セラス。
かつては『白方クジラ』と呼ばれていた元少年は、彼女に成り代わって男となっているクジラの目から見ても、濃艶な魅力で溢れていた。
女の子らしくなるように仕向けた調教も影響してか、仕草や反応が、もうほぼ女性だった。
「あっ……あくっ」
沙希に飲み物を手渡し、セラスを挟むようにして席に腰を沈めると、彼女はか細い声を漏らした。
まるで片思い相手が、隣に座ってしまったかのような顔で。
「……ん?どうしたんんだ?」
「な――なんでもない!」
「……そう?……くすっ」
本当は、その理由を知っていたクジラ。
しかし、どんな反応をするのか楽しみたかった彼はワザと口にして、問いかけたのだ。
(やばいなぁ!やばいくらい――かわいい!)
慌てふためき、ぷいっと幼く顔を背けた彼女の行動に胸が煩く騒めいた。
「……後、食べ物としてポップコーンのキャラメル味を買って来たから」
「えぇ!?塩味じゃないんですかぁ……っ?」
「沙希ちゃんは塩味だったのか?まぁ……たまにはいいんじゃないか」
「私は……キャラメルでいいわ」
「まぁ……そうですね!たまには……っ。じゃあ、ください!」
「はいよ、どいぞ!」
「ぅっ、うぁ――ちょっと!?」
沙希とクジラで、セラスを挟むように座っている。
そのため、向こう側の沙希にお菓子を手渡すにはクジラは、彼女の上から腕を伸ばさなければならなかった。
必然的に近づいた彼に困惑しているのだろう――白方セラスの肩がびくん、と震える。
(……くすっ。ごめんね、セラス――)
そんな表情をされると悪戯をしたくなってくる。そして――。
「……おっと」
「んッ!ひゃぁあっ?」
か細い悲鳴が、響いた。
可愛い仕草や反応をするセラスがイケないのだと心で思いながら――クジラがよろめいたフリをして、腕の肘で彼女のおっぱいを拉げたのだ。
「なにするのよぉ!?……はうぅううッ、ッ!」
繊細で巨大――砲弾級の大きさ――の乳房を両手で庇い、セラスが睨み上げてきた。
「わざとじゃないよ。ごめん、ごめん……」
「おまッ!おま――あっ!あ、……あなたまさかワザとじゃないでしょうねえ?」
どうにもにやけてしまう顔を見やり、流石のセラスも偶然ではないことに気が付いた。
もっとも、どう言う心境か――まあ、大方の考えていることは把握しているのだが――
女言葉に直した状態で問い詰められても、怖くもなんともない。
「そんな訳ないだろう?証拠でもあるのかな、セラス」
「あっ、ち、近い!顔が近い!?」
むしろ、ますます欲しくなった。
『白方クジラ』と言う少年ではなく、白方セラスと言う一人の女性になった元少年を。
キスするつもりは現段階ではないものの、また意地悪を思い付き、鼻と鼻がぶつかりそうなほどの近距離で、赤く恥じらう彼女の瞳を見続けた。
「ううぅ!だって!そ、そんな笑っている顔で謝られても!」
案の定、その近距離にパニックを起こし、彼女の瞳に涙が滲み出た。
「だからっ。……顔がちかいっ!近いってばぁああ!」
「ほら!セラスちゃん!静かにしなよ、映画はじまるよ?」
「さ、沙希!……でもっ」
「それにあんまり煩いと、他のお客さんに迷惑だよ?」
「…………分かったわよ!……ううぅ」
まだ不満を残しているものの、周りの視線が気になったのだろう。
幼馴染の言葉に従い、椅子に座り直した。
「……っ!」
ただし、潤んだ瞳で上目遣いに睨んだまま、顔をクジラから離さなかった。
本人からして見れば『後で覚えていろっ!』とでも思っているのだろう――が。
「そんなに怒るなよ」
愛らしく剥れる顔は、反則的に魅力的で。
道中、腕を組めなかった代わりにクジラは、彼女の肩を自分へと抱き寄せる。
「あっ!くぅ――クジラぁ……っ!」
甘い吐息が感じられた。
甘露な快感を覚えつつ、何時までも脳裏に残留する不思議な女の香り。
近くにセラスを感じるだけで、胸いっぱいの幸福感が満たされた。
「……いいだろ?これぐらいっ」
「――ッ、ッ!ば、馬鹿っ……人の気も、しらないでぇ」
セラスは真っ赤な顔でぶつぶつと文句を垂れた。
しかし、本気で嫌がっている訳ではない。
強く引き留めているのではないのだから、離れようとすれば簡単に離れられた。
けれども、伝わってくるセラスの体温と鼓動、そしてその甘ったるい体臭は、映画が上映されても尚残り続けていた。
(かわいい。あたしから離れたくないんだぁ……口では憎まれ口叩いているくせにっ!子猫のように震えて!……いいわ!何が何でもあなたに――女の子がいい、って言わせてあげる。あたしと沙希ちゃんで……絶対に!うふっ!うふふふっ!!)
その後、クジラが映画ではなく、暗闇の中、映画のヒロインと自分とを重ね合わせて、赤く恥じらうセラスの表情に集中していたのは、まあ――言うまでもないことだった。

<つづく>

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