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クジラの人魚姫 10-5 by.黒い枕



(ううぅ――ドキドキしてる!まだオレ……ドキドキしちゃっている!)
映画館を少し離れた場所にあるオープンカフェで、白方セラスは二人と食事をしていた。
映画の内容は、正直よく覚えていない。
だが、ヒロインの人が恋人と気軽に口付けを交わすシーンだけは記憶していた。
「はぅっ……!」
否――その映像が脳裏に焼き付いて、離れない。
(あんなキス……俺はまだっ……してないィ!)
セラスは、沙希からも、クジラからも口付けをされた経験がある。
しかし、それは恋愛の順番をかっ飛ばし、行き成りディープキスから始まっている上――その後のキスも濃厚でエッチなものばかりだった。
(いいなぁ。あんなキス……されたら)
だから、なのだろう。
セラスの中で映画のワンシーンが妙に心を騒めかせていた。
そして――。
「さっきの映画……やっぱり評判通りで良かったよね!特にヒロインの人と、恋人の人が偶然再会するシーンは素敵だったと思うのよ!セラスちゃん!セラスちゃんはどう?」
「あっ、う……うん。そ、そうね」
「……セラス?俺の顔に……何か付いているのか?」
「っ……!な、ち、ちがう!……ごめんなさい……なんでもないわ」
映画の女優は演技であっても幸せそうな笑みを浮かべていて、彼女と自身を重ね合わせたセラスは唇を赤くしながら、無意識に白方クジラの唇を見ていた。
(な、なにを馬鹿!馬鹿なこと考えている――ッ!?)
またも思考が女性化していた。
心の中で自分が『男』であると言い聞かせる。
――が、しかし、それでも優しく見守るような彼の微笑みに、セラスは甘い困惑を覚えてしまう。
「っ――ぅあっ!んっ……」
むずむず。
落ち着きなく、体を揺らす。――すると、その直後。
「えっ、沙希――どこに?」
隣に座っていた沙希が、唐突に立ち上がった。
「どこって……!もう、化粧室に決まっているでしょ!」
「あっ、ちょっと!!」
簡潔に応えると、幼馴染の女が席から離れていく。
そうなると当然、白方クジラと白方セラスのふたりだけになった。
「……ふたりっきりになっちゃったな。セラス」
「アッ――そう……ねっ!あ、あははッ……」
思わず、ドキンっと胸が跳ねてしまう。
同じことを考えていた以上に、そのタイミングの良さに驚いてしまった。
(あっ――だめぇ!な、なんかヘンな感じにぃ!うっ、あぅ!)
その上、雰囲気が変化してくる。
愛想笑いで、その流れを誤魔化すものの、大した時間稼ぎにはならなかった。
クジラの迷いのない瞳が、セラスを貫く。
すると――。
「……っ、っ」
彼の笑顔を向けられて、セラスの羞恥心はますます加速する。
頬が燃え上がるように熱くなり、汗を身体中から滲ませてしまう。
「それにしても映画面白かったよな。特に主人公とヒロインが朝から愛を確かめ合うシーン、あそこは盛り上がったっ!」
「えっ、ええ!そうね!そ、そうよね!う、うん……面白かったわ。と……とてもっ!」
「セラス……お前――俺と、キスしたいんだろ?」
あまりにも真摯な眼差しと、飾り気のない言葉が心臓に突き刺さる。
「――ッ!」
息を詰まらせ、セラスは瞳を見開いた。
思わず立ち上がってしまいそうなほどの驚きが走り――びくん、と身体が跳ねていた。
「あはっ、その反応……図星かッ!」
「まっ!ちがひぃばぁあ!?ああっ――じだっ、噛んだぁ!?」
「あっ、あははっ!?あはははは――!笑わすなよ……本当に可愛い奴だなお前はっ!」
「あっ、ひぃばあッ!?」
焦りと恥ずかしさに思いっきり舌を噛んでしまったセラス。
涙を滲ませ、右腕で口を押さえていると、伸びてきた彼の手に顎を引っ張られた。
そして、心底愉快そうに大口を開けて笑う彼の顔が、急接近する。
(あっ、そんな――ッ!)
彼の吐息が、顔を擽る。
妙な緊張を覚えずには居られない吐息の熱に、体が切なく震えた。
(待って!だめぇ!そ、そんなの――だってぇ!!)
クジラの企みを察知し、迫り来る顔から――否、唇から逃れようとした。
しかし、舌の痛みで作った隙は思った以上に大きくて。
彼の動きを少しも止められないまま、二人の距離が”ゼロ”に近づいてくる。
「あっ、ひぃっ!」
その時、セラスの脳裏を過ったのは、先ほどの映画でヒロインと恋人が口付けを交わす場面だった。
(あっ、あッ!アッ!――だめぇ!やめて!そんなことされたら……わたし!!)
焼き付いた映像のように、簡単だが甘く切ない口付けを期待して、女の肉体が硬直する。
(――男に戻れなくなる!やめて!や、やだぁああ!!)
このまま口付けをされたら、後戻り出来なくなりそうで、彼女はぎゅうっ、と瞳を閉じた。
そして、心が拒み、体が欲していた感触は何時までも来なかった。
(――ッ!――っ?…………セシリウス?)
暗闇だけが続いていき、一分が経過した頃には瞳を開けてしまう。
沈黙に耐え兼ねて。
「……うん、やっぱりコーヒーはアメリカンだよなぁ」
光りを取り戻した視界の中で彼は――白方クジラは、呑気に珈琲なんかを飲んでいた。
「せ、セシ……じゃなくて……クジラっ?」
平然と過ごしている彼に、思わず疑問を投げかける。すると――。
「ん?どうかしたのか、セラス?」
「えっ……だっ、てぇ。い、いま……キスっ!」
「俺はただお前の舌が気になっただけだよ?……おいおい、まさか?本当にキスを想像していたのか?――さっきの映画みたいな?」
「……ッ馬鹿!そんなわけないだろうッッ!!」
「――くすっ」
「……ッ!うっ、ううぅうう――!」
要するに自分こと、白方セラスは完全に弄ばれていたようだ。
(な、なんだんだよ。そ、そんなの意識するに決まっているじゃないかァ!はぅうう……ばかぁ!い、いじわるぅ……ッ!)
頬だけではなく、体全体が熱くなった。
悔しすぎる――が、同時にどうしようもなくて、セラスはただ恨めしそうに睨み上げるだけで精一杯だった。
後ほんの少しの動揺だけで涙がこぼれそうな、潤んだ瞳で。
(くそぉッ!この!ぜっ、ぜったいに復讐してやる――ッ!!)
『男』に戻ったら――体を入れ替えるのではなく、魔法で性転換したら――今までの事を踏まえて、仕返ししてやる。
稚拙とも言える怒りを抱き、対抗心剥き出しの顔で低く唸った。
「ううぅっ!ううううぅ――」
「おいおいそんなに睨むなよ。……単なる冗談なんだから――――ふふっ」
「ちくっ……しょうゥッ!だ、大っ嫌い……だぁ!」
絶対に許さない。
――と思うのだが。
(うっ……悔しいけど。か、勝てる気が……しない。こ、こんなのってないよ!お、俺の身体なのに――オレ以上に男前だんてぇ!うっ……ううッ)
微笑む彼に見つめられていく内に『一生この人には敵わないかも』と言う事実を、セラスは悟らずにはいられなかった。

【完成】白方玖史羅(挿絵15)
挿絵:倉塚 りこ

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