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クジラの人魚姫 10-6 by.黒い枕




それからデートは、あっという間に進んでいく。
オープンカフェで、お腹を満たした三人は次に商店街を回った。
女子に人気のお店で、色違いのチョーカを沙希とセラスは、クジラに購入して貰う。
その後は、海辺に近い大きな公園に向かった。
ここでも幾つかの露店を見かけたので、今度はお返しと沙希がセラスには可愛い髪飾りを、クジラには銀色のアクセサリーをプレゼントした。
この時、自分もお返しがしたいとセラスも切り出したのだが、二人に揃って――曰く、今日は可愛がられる側に徹しなさい、と――止められて、歯痒い思いをした。
そして、もう日は夕暮れ時。
公園から海を一望できるその丘で、三人は夕日の色に染め上げられている海を見ていた。
(どうしようこの空気……こんなハズじゃなかったのに。胸がぽかぽか……している)
数分前から重たい沈黙が続いていた。
当初の考えていた予定とは異なり、セラス自身もこのデートを楽しんでしまったがために、まるで本物の『男』と『女』が戯れているような雰囲気が身体を包み込む。
それが何ともむずむず痒くて、彼女は考えを上手くまとめられなかった。
「……はっ……ゥ!」
夕日の色は海を染め上げただけではなく、セラスの赤らんだ頬もその色の中に誤魔化した。
(ああッ――もう……こんな時間なんだ。きれい……だな)
今日一日だけでも、本当に色々なことがあった。
沙希と触れ合い、クジラにからかわれて、何度も不安になった。恥ずかしくなった。
そして、何よりも――。
(……おれは、クジラ……。ほんとうは男ッ!それなのに……沙希と女の子として遊んで面白かったなんて。せ、セシリウスの奴がそばに居て、嬉しかったんて。あっ、ああッ!)
クジラと沙希にプレゼントを貰った気恥ずかしい喜びが、忘れられない。
三人で笑いながら、ソフトクリームを食べた時間の心地よさが、今も胸奥に残っている。
(おれ……まさかッ!ほんとうに――女の子……になりたいのか?い、いや……そんなわけッ、ない!……で、でもっ)
『男』に戻るためには、あまりにも邪魔な感情にセラスは苛む。
「……そろそろ夕日が消えるな」
「あっ……そうね」
「もうすぐ終わりだね」
「――うん」
それはデートの終了を意味し、つまりは『男』に戻れることも意味していた。
一日過ごした中で、セラスは一度も『女の子のままでいい』とは口に出してはいない。
約束通りに、セラスは――以前の体を取り戻せはしないものの――『男』と言う性別は手に入れられる筈なのだ。
だが、しかし、なぜか気分は思うように晴れない。
(胸がイタイ……イタイよぉぉ!なんで……こんなに嬉しく……ないんだぁ?)
むしろ、胸の不安と恐れが募っていく。
意味が分からない。
自らの心境を理解できないセラスは、やがて突然吹いた強風に煽られる。
「きゃぁッ!」
「おっと!危ない!」
巨大な乳房を迸らせながら倒れそうだった体を、クジラが支えた。
「あっ、ありがとう……ッ!」
胸のときめきが、セラスを襲う。瞳がますます潤んでいた。
「いいよ、別に……これくらい」
「……あ!まっ……」
遠ざかる彼の体を思わず引き留めようと声を上げた――その直後。
「ねえ、セラスちゃん!」
沙希に声を掛けられてしまう。
直に自分の行動が恥ずかしいことだと気が付いた彼女は、慌てて幼馴染に向き合った。
「なっ!なんなのっ!……沙希?」
「最後にキス――しようよ?」
「えっ……?」
「だからキス。ねえ……もしかしたら最後になるかもしれないんだし、私たちでキスしようよ!」
「だっ……だめ。そ、んなの――」
迫り来る沙希にオロオロしつつ、彼女の目線は一人の少年に釘付けになった。
――否、正確にはその唇に。
「うーん、いいんじゃないか?最後くらい、こんな魅力的な状況でキスするのも」
「だ、だめよ。い、いやっ……」
「まぁまぁ、いいじゃない!いいじゃない!ねっ?しようよ、セラスちゃん!!」
顔を赤くし、瞳に涙を滲ませる。
すると、沙希が本性を現したのか。身体を擦り寄らせ、荒い息で説得して来た。
「そうだな。今日は約束通りに無理やりにするなんてなかったんだし……最後くらい。……そうだっ、さっきのお返しと言うことで!!」
「流石、クジラさん!!ほら、クジラさんの言う通りね!」
「あ、あんまりだぁ!そんなの……ないよぉ」
こんなことになるなら、お返しなんて言い出さなければ良かった。
しかし、もう遅い。
すっかりその気になってしまった沙希の唇が突きでてくる。
「ほらっ、セラスちゃんからでいいからさあ!!」
「あっ……でも!そ、んな――」
これは逃れられる空気ではなかった。
(ひぃーん、ンッ!!これじゃあ……いつもと同じじゃないかぁ!!)
あの強引に犯されてしまった日の恐怖が蘇り、身体が思うように動かない。――と。
「なんなら、セラスが決めてくれよ。今、キスしたいと思う方を……それでそっちの方にキスをする。これならどうだ?」
クジラが思わぬ提案を口走った。
この状況においても心読めない微笑に向けて、潤み切った視線と、呆れたような視線が注がれる。
「ふぇええッ!?えっ、ええ――!?そんなの……ッ!」
「クジラさん?それって自分が選ばれると確信しての言動ですか?」
「まさかっ」
「……まぁ、私はいいや。どうするセラスちゃん?」
「えっ、えぇ?――はぅううっ……ううッ!」
キスをすること自体は決定事項らしい。
強く拒めばいいものの、今日一日の経験がかなりセラスを精神的に女性に近づけていた。
(しょう、がないのか……でも……するって言っても――うっ、うう!決められないよォ!)
涙で潤んだ瞳が、沙希とクジラの顔を行き交う。
そう彼女の中ででも、『キスを中止する』と言う選択肢がなくなっていたのだ。
(――でもっ!二人の内どっちかなら……だったら、わたしは……俺は!)
彼女の中で答えが出た。
沙希とクジラ――。
もしもこの時、この場所で、片方だけにキスをしなければならないとするならば――。
「……沙希っ」
「えっ?……聞こえないよ?」
「だっ、だから!」
上手く聞こえなかったのか、それとも信じられないのか。
幼馴染の少女が、顔を赤くするセラスにもう一度訪ねた。
「沙希が……いい!沙希にするの!」
「……うそ……えっ、いいの?……ほんとに私……で?」
「……うん。いいの……っ」
少し唖然としていた沙希だったが、直に元気いっぱい――好きな人に選ばれた優越感たっぷり――の、笑顔になった。
「えへへっ。残念でした、クジラさん!セラスちゃんが選んだのは私でしたね!」
「――まあ、うん。残念だな……確かに」
「……ごッ。ご……ごめん、なさい!」
「おいおい。謝ることはないだろ?」
「…………でもっ」
クールに事実を受け入れるクジラに、セラスは途方もない罪悪感を覚える。
なぜなら……。
(だっ、だって――したかったのは……本当に口付けをしたかったのは!!)
この時、この場所でセラスが口付けをしたかった相手は――白方クジラだった。
しかし、それでも彼女は沙希を口付けの相手に選んだのだ。
(クジラとキスを許したらっ……ワタシはオレに――男に戻れなくなる、ぜったいにィ)
昼頃のオープンカフェでからかわれた時から、ずっとクジラの唇に意識が向いていた。
しかし、もしも状況に流されてクジラの唇と触れ合ってしまったが最後、セラスの心はもう二度と『男』に戻れなくなる確信が有った。
だから、沙希を選んだ。
沙希と口付けを交わしても――男だった頃から好きだった相手と言うことで――まだ『男』としての気持ちが消えないと思ったからだ。
(こ、こんな女々しい自分だけど。女の子に慣れて行っているけど……それでも俺はおとこ……男に戻るんだ!)
白方セラスとして選びたかったのはクジラである。それに嘘偽りはない。
しかし、彼女が男に戻るためには、朝倉沙希を選択するしかなかったのだ。
「じゃあ、クジラの方からお願いね」
「分かった……わっ」
「ちゃんと見ているから、しっかりやるんだぞ!」
「……っ、っっ!」
純粋に喜ぶ沙希と、すっかり気持ちを切り替えているクジラ。
二人を騙している罪悪感に加え、自ら好き相手に口付けを交わすドキドキ感。
そして、クジラに沙希との口付けを見られてしまう羞恥に、理性が逆上せていく。
(あっ、ああっ――!)
沙希の若々しく、元気な唇だけはくっきりと視界の中で確認できる。
このキスを皮切りに身も心も『男』に戻るんだ。
「はぁ……はぁ……さァ、きぃ!」
――そう心を決めながら、セラスの悩ましく上気した唇が……。
「んっふむぅっ……っ!」
「あむっ……んんっ!」
幼馴染の唇と重なった。
身長差があるので、セラスの方が体を折らなければならず、少々姿勢が痛い。しかし。
(あっ、ああ!アッ!沙希の唇、やわらかい!いい匂い……俺の沙希!!)
くちゅ、ぬちゅる、ぬじゅん!
塞ぎ合っている唇から漏れ出す、彼女の吐息の香りが、あまりにも甘ったるい。
脳がクラクラと瞬いてしまうほど、に。
(んあっ、アァ!今度は……男として沙希とキスするんだぁ……!!)
今は女同士の口付けだが、近い将来『男』と女としてキスをしようと、セラスは決意する。
「沙希……好きだっ」
「あっ、あぁっ……うん。わたし……も」
「良かったね、沙希ちゃん。そして――セラスも」
「はい、ありがとうございます」
「うん……っ」
元人魚の女性からの祝福を、沙希とセラスは頬を赤くしながら受け取った。

そして――海も崖も、彼らすらも赤く染めていた夕日が地平線の彼方へと沈んだ。

「……――これで」

デートは終了だとセラスは思った。……が。

「夕焼け鑑賞も終了――」
「じゃあ、次の場所に行きましょうか」
「…………はあ?」

何かが違う、何か変だ。
湧き上がる疑問と恐怖にセラスは、ギッギッギッ、と首を回した。
「沙希さん?クジラさん?……これでデートは……終わり……なんですよね?」
そう問いかける。すると――。
「……何を言っているんだ、セラス?」
「まさか『夕日が暮れたらもう帰ろう』みたいな、今の時の中学生でも遣らないようデートだと思っていたの?ちょっとあんた――頭大丈夫なの?」
二人の悪魔たちは、平然とそう言って退けた。
「うそっ……ちょっと!おまっ!待てよ!?」
暗くなったせいだろうか――?
先ほどの優しい二人とは打って変わって、沙希とクジラの背中に蝙蝠の羽が見える。
「ううっ!そんなぁだって!さっき最後って!!」
「最後って――もしかしたら”セラスちゃんと夕日を見るのが最後になるかも”って言う意味で言ったんだけど?」
首を小さく傾げながら、さも心外とばかり幼馴染が反論する。
「……朝、俺は”今日一日”って言ったよな?だったら日付が今日から明日に変わるまでがデートに決まっているだろう?まったくちゃんと人の話を聞けよな」
「――ひ、卑怯だ!反則だ!!」
「俺は言ったぞ。ちゃんと……それを誤解していたセラスが悪い――と言う訳で、次に行くぞっ!」
「おおォォ――!!」
「はぅううう!ふぇーんんっ!あんっ!!あんまりだぁああ――ッッ!!」
泣いても喚いても、勿論――沙希もクジラも譲らない。
その上『これ以上、時間を無駄にしたらセラスの棄権扱いで、約束はなしだから』と言われれば――セラス曰く、悪質な脅迫をされたら――従うしかなかった。
「……っ、ひぐっ!ぐスッ……えぐっ、っ!どこ……いくの?」
「セラスは知っているか?――世の中には”自宅デート”って言うのがあることを。あははっ、楽しみにしてろよな?」
「あっ?……ああ!?……ひぃ、ひいいっ――」
涙をこぼしながら見上げたセラスは、クジラの意地悪くつり上がった口元を見て確信した。
このデートの試練は、これからが本番なのだと。
彼の攻撃的に輝くギラギラとした瞳を見た瞬間、彼女の身体は大きく――戦慄いていた。

<つづく>

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