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俳優人生 (3) By A.I.

(3)

 劇団の主演俳優をしている新田友和は、日々の戸惑いを隠せないでいた。
 上演している劇は上手くいっている。新人俳優の栄作は友和の期待に応えて、抜群の演技を見せていた。占い師の老人を催眠術師として起用したのも正解だったと思う。催眠術を行う際に放つ神秘的なオーロラは、圧倒的な光景で誰にも真似できそうにない。
「何も問題はないはずなんだが」
 演技で疲れているのに、目が冴えて眠れない。室内には一週間前まで嗅いだことのない甘い空気が漂っている。男の情欲を刺激する匂いだ。疲れていることもあって、股間が熱く勃起していた。
「栄作は香水でも使っているのか」
 男でも香水を使って不思議ではないが、本能に訴えてくる匂いなのが困る。それに寝返りを打った栄作が、友和に近づいてくるのも閉口した。パジャマから見える細い首筋がやけに色っぽい。
「役が板についているのはいいが、女っぽくなった気がするぞ」
 演技に集中しようと態度や言動を変えているのかもしれないが、栄作の物腰が柔らかくなった気がする。男だとわかっているのに、艶めかしく見えることがあった。
「あと一週間の我慢だ」
 今回の公演が終われば、栄作も元に戻るだろう。そう思ったが、栄作の行動は悪化していった。

 そわそわして出かけた栄作が昼過ぎに戻ってくると、劇で着る女性の服と似たような恰好をしていた。まさか普段から女装をするとは思わなかったので、友和は落ち着かない気分になった。しかも、その女装姿が案外似合っている。ちょっと肩幅が広い女にしか見えない。
「遅くなってすいません。昼食を作りますね」
「それは劇で着ている服に似ているな」
「普段から同じものを着ていれば、演技も自然になりますからね」
「そ、そうだな」
 落ち着かなくなる恰好なので着替えさせようと思ったが、もっともらしい理由をつけられると嫌とは言えない。台所で鼻歌を歌いながら料理をする栄作の後ろ姿をついつい見てしまった。男の尻だというのに触りたくなる形だと思う。栄作の鼻歌は可愛らしい響きなので、耳をそばだてて聴いてしまった。
「料理が上達したな」
「そんなことはないと思いますけど、美味しいと思ってくれたなら嬉しいです」
 はにかんだ笑顔を向けられて、友和は心臓が大きく高鳴った。太ったわけではないが、栄作は頬が丸くなったように思う。瞳が大きく開かれて、表情が豊かになっている。唇を見ると潤いがあって艶々としていた。
 演技が上手くいっていると、気分が明るくなるのだろう。それが外見に反映しているのだと友和は考えていた。

 劇場に向かう時間になっても、栄作は着替える気配を見せなかった。女装のまま歩いていくようだ。白いストッキングに桃色のパンプスを履いていた。
「歩きにくくないか?」
「これも訓練ですよ」
 友和はじろじろと不躾に脚を見ていた。舞台でいつも穿いていたのは白い靴下だ。演技とはいっても、観客にしてみればごつい男の脚が透けてみえるのは面白くないだろう。そう思っていたのだが、栄作の脚には無駄な毛がなかった。
「剃ったのか。処理が面倒だっただろう」
「元からこんな脚ですよ」
「そ、そうだったか」
 多少は毛が生えていたと思うのだが、脱毛処理をしたように滑々の脚だ。それに筋肉の角張が抜けて、脚の線が優雅になったように思う。
 パンプスで歩いている栄作には不自然なところはない。左右の太ももが擦れそうな感じで、スカートの中身が見えない歩き方をしている。後ろから見ると、恰好も含めて女性のように見えた。
「時間には余裕があるからいいが……」
 ただ歩幅が狭いので、どうしても栄作の歩く速度が遅い。普段なら速足で歩いても問題ないのだが、今日は友和が意識しないと栄作を置いていきそうになる。
「すいません」
「構わないさ。並んで歩いていると、デートをしている気分だよ」
 申し訳なさそうにする栄作を笑わそうと、おどけた顔で冗談を言った。声を聞かなければ、栄作は男だと気づかれないだろう。
「僕が先輩とデート……」
 冗談を聞いた栄作は、頬をほんのりと染めていた。妄想に耽っているようで、幸せそうな顔をしている。友和は気まずい思いをしながらも、何も言えなかった。

 劇場で新入社員のスーツに着替えた栄作は、息苦しそうにしていた。安物とはいえ栄作の体型に合わせたはずだが、スーツが窮屈らしい。男の服を着た栄作は、冴えない顔をしている。それでも、舞台ではきちっと役割をこなしていた。
 今日の公演が終わると、栄作は楽しそうに衣装係の女性と話していた。服についての相談をしているらしい。以前はさほど親しくなかったと思うが、かなり打ち解けているように見えた。他愛のない雑談も含まれているので、長話になりそうだ。
「今日もお疲れさん。ちゃんと栄作ちゃんを送ってやれよ」
 劇団長は先に帰ろうとした友和に声をかけた。栄作を呼び捨てにしていたのに、今回の舞台で評価を上げたのだろうか。それにしたって、ちゃんと呼ぶのはどうかと思う。
「わかりました。ちゃんと待ちますよ。帰る方向は一緒ですしね」
「そうだぞ。女を置いていくような男はもてないからな」
 変な忠告をされて、友和は怪訝な顔をしていた。
「送り狼にはなるなよ」
「それはないですって」
 劇団長の冗談は面白くない。男に手を出すはずがないだろう。友和は憮然としていた。
「お待たせしてすいません」
 衣装係と話し終えた栄作は、女装姿のままだった。舞台の衣装から着替えたようだが、全く同じように見える。帰り道ぐらい気楽な恰好をすればいいのにと友和は思った。それだけ今回の公演には力を入れているのだろうか。
「整理するとかで、いらなくなった服を貰えましたよ」
「ふぅん」
 友和は気のない返事をした。紙袋に入っているのは、女性用の服ばかりだ。今回の公演で栄作が変な趣味に目覚めたのかと心配になる。それにしても衣装係の女性が快く服を譲ったのが不思議だった。男にどんな使われ方をされても構わないのだろうか。
「これくらい俺が持ってやるよ」
「ありがとうございます」
 パンプスだと歩きにくいと思って、友和は栄作の荷物を持ってやった。大した労力ではないが、栄作の表情が輝く。
「夜道だと暗くて怖いですね」
「そんなに近寄られると歩きにくいぞ。手を繋いでやるから、それで勘弁してくれ」
「はい!」
 最近の栄作は怖がりで困る。男同士で手を繋ぐのは嫌がるかと思ったが、栄作はハイテンションで手を握ってきた。
「これで安心できますよ」
「あ、ああ。それなら良かった」
 栄作に手を握られたとは思えなくて、友和は騙されているような気分だった。隣にいるのがまだ幽霊という方が信じられる。それだけ栄作の手は華奢で柔らかかった。強く握ってしまうと、壊れてしまいそうだ。おっかなびっくりといった感じで、友和は慎重に手を握りながら帰った。

<つづく>

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