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俳優人生 (7) By A.I.

(7)

 いよいよ公演最終日。カーテンから差し込む朝日を感じて、友和は眠たい目を擦っていた。ここ数日、睡眠不足だ。浅い眠りを繰り返して熟睡してない。それも全て栄作が原因だ。
「無防備に寝やがって」
 幸せそうに眠る同居人を見て悪態を吐く。栄作は男用のパジャマではなく、ピンクのベビードールを着ていた。垂涎物の優雅な生足が惜しむことなく露出されている。心臓の鼓動が正常を保っていられない。間違いを犯してしまいそうだ。
 部屋を見回してみると、女性的なものが増えていた。服や下着だけではなく、化粧品が入っているポーチも置かれている。浴室には髪を潤すという女性用のシャンプーがあった。部屋が女性的なものに侵食されている。それを友和はおかしいとは思えなくなっていた。
「男を誘うような際どい下着を穿いているなぁ」
 ベビードールの短い裾から、布地が少ない過激なショーツが見えた。刺繍が施された光沢のある生地を見ていると、喉が鳴りそうになる。股間は舗装された道路のように平面だった。邪魔に思えた突起物がない。
「いかんいかん。今回の公演さえ終われば、栄作は女装の必要がなくなる。そうすれば、まともに戻るだろう」
 栄作の艶姿が見られなくなるのは残念だが、生活の安寧には代えられない。友和は深々とした溜息を吐いた。

「先輩、おはようございます」
「……おはよう」
 情欲を煽るような恰好をしてみたが、物堅い友和は手を出してこない。それが栄作には物足りないが好ましくもあった。
「先輩が求めてくれれば受け止められるのに」
 朝のトイレに入った栄作は、股間の割れ目を見ていた。肌の黒ずみが薄くなって、慎ましい花が咲いている。成熟して大人の女性に相応しい形になっていた。広さも奥行きもペニスを受け入れるには十分だろう。
「少しクリちゃんがはみ出しているけど」
 割れ目の上端に隠れきれないクリトリスがあったが、もはや些細な問題だろう。
 腰に力を入れると、尿が一気に流れていく。快適にトイレを済ませて、栄作は憂いのない気分だった。

 劇場に到着すると、占い師の老人は腰が立たない様子だった。顔も土気色で生気がない。老人と親しい栄作は心配して駆け寄った。
「大丈夫ですか?」
「どうにか術は成功させるわい。さすがに二週間はきつかったがのぉ」
「無理をさせてしまってすいません」
「よいよい。ただ少し元気を分けてもらえんかのぉ」
「僕ができることでしたら」
 老人の頼みを栄作が快諾すると、枯れ木のような手がするりと伸びた。桃のように熟れた尻をしわがれた手が撫でている。
「ひゃうっ」
「ふっくらと柔らかでいい尻じゃのぉ。若い女の肌に触れると、もうひと頑張りしようという気になるわい」
「……いけないお爺さんですね」
 栄作は頬を染めて膨れっ面で睨んだが、老人が悪びれない態度なので憎めない。それに無理を言ってお世話になっているのだ。
「気合が入ったのぉ。今日が最後の仕上げ、儂に任せておくのじゃ」
 老人は気合を甦らせて、自信満々に請け負った。

 老人の言葉に違いはない。宣言した通り、貫録のある演技だった。
「この水晶玉を見よ。お主は身も心も女に生まれ変わるのじゃ!」
 潤いのない会社に入った新入社員を演じる栄作は、老人に導かれるままに水晶玉を覗きこむ。最後ということで派手な演出がかかった。水晶玉から放たれた七色の光の帯が、観客席にまで届いて人々を魅了する。
「はぁ、素敵」
 栄作の姿は天井まで届く光の柱に包まれていた。服は光の粒子に分解されて、生まれたままの姿で立っている。光のシャワーを浴びて、栄作の裸体は白さを増すようだ。
「均整の取れた見事な体じゃのぉ。これでお主を男性だったとは誰も思わぬわい」
 惜しげもなく晒された豊満な肉体を見て、老人は満足そうだった。
「よし、これで終わりじゃ!」
「ああぁぁっ!」
 雷に打たれたような衝撃が体を貫いた。麗しい髪が肩まで伸びていく。最後まで抗った股間の肉片が、溶けるように縮んでいる。魂に残っていた男の欠片が、綺麗に清められていた。
「ああ、嬉しい」
 栄作の体から男の痕跡は消えていた。新しい女の魂が喜びに震えている。栄作は誇らしい顔をしていた。

 老人は水晶玉にかざした手をゆっくりと回転させている。近くにいる友和の目には栄作が光の柱に包まれて、消滅したように思えた。虹の帯が会場を優雅に泳いでいるが、後輩が心配で見ている余裕はない。
(無事だったか)
 光の柱が収まっていく。艶めかしい裸体が一瞬見えて、友和はどきりとした。栄作の姿が光から現れると、ちゃんとサラリーマンのスーツを着ている。栄作は恍惚としながら放心していたが、虹の帯が消える前に正気に戻っていた。
(今は俺も演技に集中しよう)
 栄作の身に何かが起こったようだが、演技に乱れたところはない。友和は疑問を抱えながらも、最後の公演を見事に演じきった。

 公演が無事に終わると、正式な劇団員ではない老人はまとまった金を劇団長から受け取っていた。老人の演出で観客が増えたので、劇団長は奮発したようだった。
「これだけあれば国に帰れそうじゃのぉ」
「今までお疲れ様でした。これでお別れとは寂しいですね」
「ほっほっほ、下手を打ってこの国に流れ着いたのじゃが、儂もお主と会えて楽しかったぞ。彼氏と仲良くすることじゃな」
「ありがとうございました」
 老人は愛嬌のある笑顔で片目を瞑った。栄作が頭を下げると、老人の笑い声が遠くなっていく。栄作が頭を上げると、老人の姿は消えていた。使っていた道具も全て消えている。
「まるで手品師のようなお爺さんだなぁ」
 どこかに隠れたかと思ったが、老人を見つけることはできなかった。劇団員に尋ねてみても、要領を得ない答えが返ってくるだけだ。誰も老人のことを覚えていないのだ。催眠術師の役を行ったのは、怪我をした劇団員ということになっていた。狐や狸に化かされた気分だった。

 栄作からの伝言で、友和は公演の終わった舞台に向かっていた。まだ体に興奮が残っている。舞台の背景や小道具は片づけられていたが、照明は灯されていた。舞台から見る観客席は誰もいなくて寒々としている。さっきまでの熱気が嘘のようだ。
「俺を呼び出して何の用だ?」
 奇しくも新入社員に屋上に呼び出された先輩社員と同じ台詞を喋っていた。状況が似ていたからだろうか。
「いつも優しくて頼りがいのある先輩のことを私は愛しています。付き合って下さい」
 舞台の上で待っていた栄作は、演劇と同じ台詞を口にした。その表情は役を演じていた時よりも真剣で心が込められている。演劇ではこれから新入社員が先輩を追い掛け回すドタバタ劇が展開されるのだが、栄作の表情は冗談のようではない。友和は困惑していた。
「その、困る」
 いくら可愛く見えても後輩は男だ。結局は同じ台詞を言って、結論を避けてしまった。その返事を聞いた栄作は悲しそうな顔をして、大粒の涙をこぼして泣き始める。顔を手で覆って舞台から逃げ出してしまった。
「お、おい。待てよ」
 罪悪感が胸を占めた。舞台に立ち尽くしたまま、友和は動けない。この展開で逃げるとしたら、先輩の友和のはずだろう。
「どうしろってんだ」
「早く彼女を追いかけるのじゃ」
 友和が戸惑っていると、後ろから尻を蹴られた。振り向くと、占い師の老人が怒った顔をしている。
「あんなめんこい娘はなかなかおらぬぞ。好きという感情があるなら、応えてやるべきじゃろ」
「で、でも」
「男は度胸と男気じゃろ。ここで動けぬならへたれじゃわい」
「くっ、わかったよ!」
 老人に叱咤されて、友和は走り出した。愛情ではないかもしれないが、栄作を大切に思っているのは確かだ。ここで尻込みしている暇はない。
「儂の出番はこれで終わりじゃな」
 友和を見送ると、老人の姿が消える。舞台の灯りも消えて、真っ暗闇になった。

<つづく>

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