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星の海で (7) ~苺の憂鬱~ 1 

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キャラクターデザイン:菓子之助 http://pasti.blog81.fc2.com/

(1)-------------------------------------------------------

「全部で2000品目以上あるのかぁ。できるかなぁ……」

 腰まであるくるくると巻いたボリュームのある金髪を揺らしながら、真理亜は補給予定物資リストの確認をしていた。

「心配しなくても大丈夫だよ、真理亜。基本的にはこうやって端末をコンテナにかざせば、中身のチェックは終わるから。もちろんコンテナの封印が解除されていなければだけどね」

 不安気な真理亜を気遣うように、補給課のレオニード2等航宙士が言った。
 戦艦ピエンツァのラヴァーズの一人である真理亜は、ラウンジの調理を手伝うこともあり、ラウンジのマスターから“補給物資の確認に、貴女もついていってください”と言われたのが一昨日の午後だった。
 そしてその晩には、補給課の新米兵士であるレオニード2士と、艦隊に先行して合流する護衛駆逐艦に同乗し、補給艦に来ていたのだった。

「こんなことするの初めてだから、良くわからなくて……あ!」
「どうしたんだい? 何か問題でも?」
「ねぇ、レオニード。このコンテナって……」
「ああ、これはうちのじゃないね。トリポリの艦隊司令部へ行く荷物だ」
「少し分けてもらえないかなぁ?」
「何を言ってるんだい、真理亜。そんなことできるわけ無いじゃないか!」
「だって! このコンテナの中に……」
「このコンテナは僕らとは関係ないよ。こっちのコンテナを……」
「でもでも、このコンテナには苺が!」
「苺? 苺がどうしたのさ」
「私、このコンテナの中の苺が欲しいの」
「だからそんなの駄目に決まっているよ。これは僕らとは関係のない荷物だよ」
「だって!」
「何を騒いでいるんだい、お嬢ちゃん達?」,

 二人が言い合っているところに、大柄な男が近寄ってきた。

「いえ、何でもありません。曹長」
「なんでもなくは無いわ!」
「一体なんの話しかね?」
「このコンテナの中に、生の苺があるんです。それを少しでいいから、分けてほしいんです」
「はぁ? そんなこと出来るわけ無いだろ」

 補給艦のロードマスター(荷物扱いの責任者)の大男-ディセル曹長は呆れ顔で言った。

「ほらね。無理だって言ったじゃないか」
「でも私は、どうしてもその苺がほしいの!」
「まぁ、可愛いお嬢さんが付きあってくれるのなら、2、3粒ぐらい減っていたとしても、たいした話にはならんだろうけどな」

 ディセル曹長は、真理亜にねっとりとした視線を絡み付けてきた。
 その視線が意味することは、真理亜にもわかっていた。だが所属艦の要員でもない彼の誘いを受けることが、許可されることなのかそうでないことなのか、経験の浅いラヴァーズの彼女には判断が付かなかった。それにまだ、彼女自身は―――-

「ん? 君はラヴァーズ徽章をつけていないな。制服でないからてっきり……」
「彼女はラヴァーズだけど、“お誘い”は受けないことになっているんです」

 真理亜がどう説明しようかと思うまもなく、レオニード2士が真理亜を庇うようにディセル曹長との間に立ちはだかった。

「レオニード、私は大丈夫だから……」

 自分はラヴァーズなのだから、兵士の誘いを受けるのは任務の内だから、それは仕方がない。
 だが仮にとはいえ、男と女の関係を要求されているだけに、その範囲は各艦毎に細かい取り決めがあった。けれど自分さえ納得して受けるのであれば、後で説明なり釈明なりはできるだろうとも思った。

「やめときなよ、真理亜。たかが苺2、3粒のために、そんなこと」

 レオニード2士は真理亜を気遣うように言った。
 だが真理亜は、そんな彼の言葉など意に介さないかのように、しばらく悩んでから言った。

「“お誘い”を受けたら、本当に分けてくれますか?」
「あ、いや、冗談のつもりで言ったんだが、そんなに苺が食べたいのかい?」

 レオニード2士のほうをちらっと見てから、ディセル曹長はばつが悪そうに言った。
 よく見れば自分の娘といってもおかしくない年頃の容姿を持つ彼女に、ディセル曹長は頼みを無碍に断ることもできなかった。

「私が食べたいんじゃないの。食べてもらいたい人がいるの」
「食べてもらいたい人?」

 交渉すればなんとかなると思った真理亜は、拝むように両手を胸の前で握り、目を輝かせながら言った。一般女性の平均的身長よりもずっと背の低い真理亜は、上目使いで男性を見つめるこの仕草が効果的であることを知っていた。なりたてのラヴァーズで、まだ会話を駆使した機微のある駆け引きはまだ無理ではあったが、幼いが整った顔立ちを持つ彼女の外見は、それを補って余りあるものだった。

「私がとてもお世話になった大切な先輩がいて、先輩はもう退役してしまったんだけど、その先輩が退役前に病気にかかってしまったんです。それでその時所属していた艦隊旗艦の幕僚幹部の方に、先輩がとってもお世話になったんです。もしかしたら命にかかわるかもしれない病気だったかもしれなかったんですけど、その幹部の方がいろいろ手を尽くしてくださって、それで先輩の病気は完治したんです」

 早口でまくし立てるように話す真理亜に、少々引き気味になりながら曹長は尋ねた。

「とにかく、その幹部の人に食べてもらいたいって、言うのかい?」
「ええ、私たちラヴァーズは軍人じゃなくて、ただの軍属で民間人でしかないから、本来ならそこまでしてくださるなんてこと、普通は無いんです。重い病気やケガをしたら艦隊からは追い出して、代わりの人を連れてくればいいんですから」
「まぁ、ラヴァーズは不足がちで、交代がそう簡単には来ないけどな」
「でもその方は先輩を気遣って、手を尽くしてくれたそうなんです。先輩はその御恩返しをしたがっていたんですけど、結局先輩は艦隊を去ることになって、そのことをとても気にしていたんです。もっときちんとお礼をしたかったって。でも、私たちはただのラヴァーズですし、何が御恩返しになるのかなんて……」
「それで、珍しい生の苺が手に入れば、その恩が返せると思ったのかい?」
「私、ケーキ作りが得意なんです。だから苺のショートケーキを作ってその方に差し上げたら、きっと喜んでくださるんじゃないかって思ったんです」
「ほう、苺ショートケーキねぇ……。だがその人は、甘いものが好きなのかい?」
「その方は、私はまだ一度もお会いしたことは無いし、その方も私のことは知らないと思うんですけど、でもきっと好きに違いないんです!」
「どうして?」
「その方も元ラヴァーズで女性ですけど、艦隊旗艦の幕僚幹部なんですよ。私あこがれちゃいます!」

 胸に手を当ててうっとりとした表情の真理亜に、ディセル曹長はやれやれといった風に首をすくめた。だが、生の苺を使ったショートケーキという話には興味が惹かれた。

*---*---*---*---*---*---*---*---*---*---*


 第106遊撃艦隊旗艦、アンドレア・ドリアの艦橋。
 突然の警報に、当直勤務中のリッカルド・ガルバルディ提督は、すばやく反応した。

「全艦隊非常体制、レベル3発令! 何事だ!?」
「先行艦からのデータリンクによる自動発報です。現在問い合わせ中……」

 忙しげにキーボードを叩きながら、通信士官が答えた。

「……確認。敵の哨戒艦です。ステルス艦のようです」
「数は?」
「3隻、10分ほど前に機動爆雷を投射して、既に転進。逃走体制に入っているそうです。先行艦に追撃させますか?」

 手元のディスプレイに送られてきた敵艦、先行艦、それに自艦隊の位置と航跡予測図を見たガルバルディ提督は、追撃しても意味がなさそうだと判断した。

「警報解除。掃海艇を出して、機動爆雷の処理に当たれ」
「それが……」
「どうした?」
「敵艦はどうも接近中の補給艦を狙ったらしく、艦隊の掃海可能範囲から外れています」
「なんだと? 機動爆雷の爆散範囲と被害予想範囲を、メインスクリーンに出せ!」

 艦橋正面の大型ディスプレイに、艦隊から離れた位置で邂逅中の補給艦と、もう一隻の護衛駆逐艦が光点で表示された。
 そしてその2隻の予定航跡のかなりの部分が、機動爆雷の爆散予測範囲にすっぽりと包まれていた。しかも重大な被害が及ぶと予測される、赤い色の帯が2隻を待ち構えるかのように伸びていた。
 ガルバルディ提督は、苦虫をつぶしたような顔で言った。

「補給艦と護衛の駆逐艦に連絡は?」
「それが、応答しないんです。さっきから何度も試しているんですが……」
「ECM(電子妨害)か?」
「いえ、それならスクリーンの光点が点滅しているはずなんです」
「通信機の故障か? いや、バックアップもある筈だし、2隻とも応答しないのはおかしいな」
「どうしますか? 提督」
「2隻が機動爆雷の爆散範囲に入るのは、いつだ?」
「約17分後」
「全艦スピンアップ(機関出力上げ)! 艦隊右舷方向、照準本艦に同調。目標、敵機動爆雷!」
「提督、機動爆雷を迎撃するんですか? 艦砲射撃で、しかもこの距離で?」
「復唱はどうした!」
「は、はい、艦隊全艦艇スピンアップ。FCS(火器管制システム)を旗艦と同調。でも提督!」
「なんだ?」
「爆雷の会敵軌道まで、1000光秒近くあるんですよ、レールガンどころか、ビーム砲だって間に合いません!」
「起爆前に当たらなくてもいい! 爆散破片を蒸発させるんだ。補給艦に命中する前に!」
「ア、アイアイサー! 艦隊全艦、FCSを旗艦と同調開始! カウントダウン始め! 完全同調まで10秒!」
「同調完了と同時に、全艦射撃開始。いや、一発だけ今すぐ撃て! 補給艦を掠めるように」
「通信代わりですか?」
「そうだ、それで何かしらおきていると気が付くだろう、当てるなよ!」
「アイアイサー!」

 即座に艦橋正面の主砲が発砲し、まばゆい光芒が艦隊の右舷方向の空間へと吸い込まれていった。
 尽くせるだけの手は尽くした、とガルバルディ提督は思った。
 だが、起爆前ならばいざ知らず、爆散後の破片の全てを蒸発させるのは艦隊全ての砲口を向けたとしても、不可能に近かった。そのため、機動爆雷の会敵軌道と補給艦の間の限られた空間に向けて照準を絞ったが、補給艦が既に爆雷に気づいて艦隊との邂逅軌道を変えていたら、撃ち漏らした破片群に突っ込む可能性もある。
 いや、それ以前に護衛の駆逐艦がいち早く状況を察知し、軌道爆雷の迎撃に成功していれば、そんな心配も必要がないが……。
 メインスクリーンの光点をにらみながら、ガルバルディ提督は護衛駆逐艦を呼び出し続けている通信士官の声を、もどかしく聞いていた。

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