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星の海で (7) ~苺の憂鬱~ 2 

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 補給艦の食堂室にある厨房。
 真理亜はロードマスターのディセル曹長に手伝ってもらいながら、ケーキ作りをしていた。

「まさか艦長から許可が出るとは思わなかったぜ、しかし器用だなぁ」

 ディセル曹長は、慣れた手つきでケーキの生地を作る真理亜に感心しながら言った。

「艦長さんもケーキに釣られるなんて、きっと大の甘党なんですね」

 と、目的のものを手に入れることができた真理亜は笑顔で応じた。

「ははは、そうかもしれんなぁ」

 結局のところ、積荷の苺を使うことに関しては、ディセル曹長では判断できず、直に艦長に相談したのだった。艦長も初めは許可しなかったが、真理亜が『先輩の恩人のために、生の苺を使ったケーキを作りたい』と訴えたところ、『1/3は痛みが進んでいたので破棄した、と報告する』といって使用を認めてくれたのだ。“ただし、補給艦の乗組員にも振舞うこと。苺以外の材料については本艦用の分であれば自由に使ってもかまわない”との事だった。

 航行中の艦艇乗組員は、なぜか甘いものに対する渇望感が強くなる。
 それは鮮度維持の難しい青果物や、嗜好品としての菓子類などは、補給物資としては優先度が低く、なかなか口にすることができないからである。もちろん各艦にある厨房に行けばある程度の材料は手に入るが、それを使ってたとえば今回のようにケーキを作るというようなことは、誰もができるわけでもなかった。

「お嬢ちゃんは、どこでこんなことを習ったんだい?」

 真理亜がケーキに使うホイップクリームを作るのを見ていたディセル曹長は、感心したように尋ねた。

「私の生まれ故郷は、開発から取り残されたとても貧乏な村だったんです。だから有り合わせのわずかな材料で、とにかく食べられるものを工夫して作るしかなかったんです。でも、ケーキ作りを覚えたのはラヴァーズになってから。教育課程でですわ」
「君はラヴァーズになる前のことを、覚えているのかい?」
「私、志願制度に応募してラヴァーズになりましたから」

 表情を少し曇らせて、真理亜は答えた。
 ラヴァーズはこの時代にあっても、性犯罪の重い刑罰として強制的にされることが多かった。そして大概のラヴァーズは、過去の自分のことは知らない。性転換を伴うため心理的負担が大きいこと、かつ再犯を防ぐ意味で記憶を操作されることが常であったからである。だが真理亜のように志願してラヴァーズになった場合は、簡単な心理テストで問題がなければ、本人の意思を尊重して性転換前のままという場合が多かった。

「事情を、聞いてもいいかい?」
「事情なんて……。ただ貧しかっただけです。私の生まれた村は、朝から晩まで働いても一日の食事にも事欠く有様でした。取り立ててなんの特技もない父と母は畑仕事で手一杯で、徴兵に行った兄は初陣で戦死して見舞金も僅かでしたし、弟は生まれたときから病弱でした。だから私がたくさん稼いで家族を支えるしかないんです。でも父と母を手伝っているだけでは、どうにもなりませんでした」

 真理亜はラヴァーズになることを決めた時のことを思い出していた。
 学校へもろくに通えず、父と母を支えて畑仕事を手伝っていたこと。
 それでも貧しくて、いつもおなかをすかせていたこと。
 病弱な弟と、働いても働いても貧乏なままの家族を何とかしたいと思っていたこと。
 軍に入るといって、反対されたこと。ラヴァーズに応募するといったら、もっと反対され、怒られた事。
 でも本当は自分は、あの貧しい村から逃げ出したかったのではないかという、後ろめたさもあること。

「それで、ラヴァーズになったって言うのか?」
「はい、軍の広報官の方が村にやってきたことがあって、私は徴兵資格に足りなかったんですけど、何とかなりませんかって、お願いしたんです。広報官の方は“ラヴァーズなら体が変わっちまうから、関係ないけどな”って言うので、必死になって頼んだんです。その時は、ラヴァーズがどんなものかなんて良く知りませんでしたけど……」

 ディセル曹長には、かける言葉が見つからなかった。軍人の家系に生まれて兵士になるのは当然の事として今までやってきたが、真理亜のように生活のために軍に身を置かざるを得ない者もいる事実を改めて意識させられた。それも、性転換をしてまで……。

「その広報官とやらも、ずいぶんなペテン師だな」
「広報官の方もずいぶん悩んでらしたんですけど、記録のほうをごまかしてくれて、『その気があるのなら、何とかしてみるよ』って。あ、“その気”っていっても“女の子になりたい”って意味じゃないですよ。志願兵になるよりも、お給金はいいですし、軍艦に乗るといっても、戦うわけじゃないから、兄みたいに戦死する可能性も低いと思ったんです。……父と母には猛反対されましたけど」

 ラヴァーズがどんなものか、広報のパンフレットを読んだだけでは本当のことはわからなかった。知っていたら、真理亜はそんなことを言い出さなかったかもしれない。けれど両親にも黙ったまま、広報官の車で村を後にした真理亜には、もう他に行くべきところもなかった。

 ラヴァーズの研修所は、真理亜にとっては苦労と困惑の連続だった。そもそも若い女性がどんなものかということすら、年配者と子供だけが取り残された貧しい村の出である真理亜には、わかっていなかった。当然ラヴァーズの仕事内容も。
 “男性に奉仕する”というのは、単に戦場へ赴く兵士士官を、ねぎらい励ます仕事という程度の認識しかなかった。だが研修所では……少年の体であった時には何一つ知らなかった、羞恥も屈辱も性的快感も、真理亜はこのとき初めて知った。
 そして同時に、もうあの村に帰ることはできないかもしれないという、漠然とした不安も感じた。
 任期を終えて、退役金を持って村に帰ったとしても、自分はそこで何をすればいいのだろう?
 今の脆弱な少女の体では、前のように畑仕事をするのも大変かもしれない。そもそも家出同然に村を出て行った自分が、今の姿で村へ戻ったとしても、誰も受け入れてはくれないのではないだろうか?
 かろうじてもとの面影だけが残る少女となってしまった姿を、両親は自分だと認めてくれるだろうか?
 そう考えると、真理亜は将来に漠然とした不安を感じていた。
 けれど、自分はまだ初任務で新編された遊撃艦隊に配属されたばかり。任期を終えるのは、まだだいぶ先のことだ。
 村への仕送りは続けなくてはならないし、今はお世話になった先輩の代わりに、会った事もない恩人の恩人のために、ささやかなプレゼントを作ることで手一杯だった。

「真理亜、受領票のチェック、終わったよ」
「ありがとう、レオニード。ごめんね、あなたにばかりやらせて」
「いや、単に端末をコンテナにかざすだけだしね。それよりそっちはどう?」
「クリームができたから、後は盛り付けだけ。手伝ってくれる?」
「ああ、いいとも」

 ディセル曹長は場の雰囲気を変えるように現れた、新兵らしい若い兵士に感謝するとともに、親しげな二人に、つい言ってしまった。

「二人は、恋人同士なのかい?」

 すると二人は顔を真っ赤にして、否定した。

「まさか! 僕たちはそんな関係じゃありません! なぁ、真理亜」
「そ、そうですよ。だって私、まだ男性とは……」
「それなら俺にも、チャンスありってとこか?」

 ディセル曹長は社交辞令的に、軽い冗談のつもりで言っただけだった。
 ラヴァーズは言ってみれば人気商売だ。男性の兵士士官にちやほやされるからこそ、彼女たちの仕事は成り立つし、どんな形であれ彼女たちが必要とされていると感じることで、そのモチベーションが維持されるからだ。

「え、でも……いえ、私は……」

 口ごもる真理亜を庇う様に、レオニード2士は真理亜とディセル曹長の間に割って入った。

「真理亜はまだ未成年です。特別な事情でラヴァーズをしていますが、彼女に“お誘い”なんて、させませんよ!」
「未成年、だって?」
「そうです!」
「レオニード、いいってば!」

 剣呑な雰囲気を察した真理亜が、慌ててレオニード2士の腕を引いて止めようとした。
 真理亜が実年齢でも未成年であることは、公然の秘密だった。
 本来であれば未成年はラヴァーズにはなれない。
 ラヴァーズに応募させてくれた広報官のごまかしも、性転換処置のときに発覚してしまった。
 けれど、既に女性化が進んでいた真理亜への処置を、途中でやめるわけにはいかなかった。
 お役所的な責任逃れの為の書類のたらいまわしの結果、真理亜が未成年であるということはうやむやのうちに性転換処置は終わり、ラヴァーズの応募資格を取り消すという書類が決裁されるころにはラヴァーズの研修期間も終わってしまっていた。
 任期ゼロのまま、少女の姿で村に帰ることなどできないという真理亜の訴えで、とりあえず航宙艦に配属されることにはなったが、軍属として扱われるための階級は与えられなかった。
 それは未成年である真理亜に配慮してのことでもあった。
 ラヴァーズに“お誘い”をかけるには、自分の階級と相手の階級を確かめる必要がある。自分より階級待遇が上のラヴァーズには基本的に“お誘い”がかけられない。かけても大抵やんわりと断られる。そういう決まりが無いとラヴァーズへの負担がとんでもないことになるからであった。
 だが階級待遇を示すチョーカーを真理亜は身に着けてはいないから、兵士士官たちが真理亜に“お誘い”をすることができない。
 だが真理亜は他のラヴァーズと同じように、ラウンジに出て兵士たちの話し相手もするし(当然真理亜本人の飲酒は禁止)、彼女が持つ特技を披露することもある。つまり“お誘い”をかけることはできないが、それ以外は普通のラヴァーズと同じというのが、今の真理亜の立場だった。

「とにかく、真理亜には指一本触れさせませんからね!」

 さっきホイップクリームを作るのを手伝ってもらったときに、手が触れちゃったんだけど……と真理亜の困惑とは別に、レオニード2士は頬を紅潮させて立ちはだかった。

「まぁ、どんな事情があるにせよ、他の艦隊のラヴァーズに手を出すのはご法度だよ。安心しろ、新兵」

 なるほど、まだ若い姫君を守る騎士を仰せつかったのかと、言われてみればところどことに軍人らしからぬ初々しさを感じる二人に、ディセル曹長は苦笑した。

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