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星の海で (7) ~苺の憂鬱~ 3

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 補給艦の通信室では、不具合の発生した通信システムの修理を、真理亜たちを乗せてきた駆逐艦と行っていた。

『こちら、駆逐艦カサブランカⅢ、リンクモードフルテスト終了。そちらはどうだ?』
「こちらは補給艦第1107号、やはり出力レベルが下がってくると駄目だ。短距離通信しかできないな」
『そうか。じゃあ艦隊と合流したら、そっちで修理しよう。交換部品の手配を連絡しておく』
「すまないな、頼むよ」
『通信システムをリスタートするので、そちらもこちらに合わせて再リンクよろしく」
「了解」

 補給艦の通信担当は、故障の頻発する老朽化の激しいこの艦から、早く別の艦に移りたいと思っていたが、転属の申請がなかなか通らず、忌々しげにコンソールを睨んだ。

『補給艦1107号、緊急事態だ! 敵の機動爆雷がこっちに向かっている!』
「何だって!? 艦長!」
「うむ、非常警報発令! 護衛艦の通信リンク経由で補給本部へ連絡。合流予定の艦隊とも連絡を取れ、至急来援を請うと伝えろ。機関出力最大! 回避運動に入れ!!」

 突然の敵襲に、補給艦と護衛艦の艦内は騒然となった。

*---*---*---*---*---*---*---*---*---*---*


「非常警報!? 何事だ!」

 突然鳴り響いた警報音に、ディセル曹長は艦内のインターコムを通じて状況を把握しようと、艦橋を呼び出した。
 そして状況を把握すると、若い二人に言った。

「お嬢ちゃんたち! 急いでそのケーキを持って脱出するんだ!」
「え? どうして……きゃあっ!」

 真理亜が問うまもなく、艦に激しい衝撃が加わった。同時に艦内の電源が非常系に切り替わり、赤暗く灯った非常灯と、けたたましい警報が事態の深刻さを告げていた。

「何が起きたんですか?」
「敵襲だ、といっても今から30分ほど前の話だが、敵さんが機動爆雷を放ったらしい!」

 そして再び激しい衝撃とともに、今度は非常灯も消えた。

「こりゃヤバい! おい、二人とも大丈夫か?」
「ケーキなら大丈夫です。暗くてよくわからないけど、端っこが少しつぶれちゃったわ」

 こんな時にまでケーキかよ、と思いつつディセル曹長はポケットからフラッシュライトを取り出して、二人の様子を確かめた。

「おい、新兵! なに呆けてやがる。お姫様を守るのは、お前の仕事だろう!」
「は、はい。真理亜、大丈夫かい?」
「ええ、レオニードは?」
「僕なら平気さ」

 航宙経験の浅いだろう二人は落ち着きを取り戻していたが、電源喪失という事態にディセル曹長はただならない事態であることを感じていた。
 脱出経路を示すバッテリー灯だけが、ぼんやりと灯っていることを確認した曹長は二人に言った。

「いいか? 二人ともよく聞け。この部屋を出て通路を艦尾の方向へ向かって50mほど行ったら右へ曲がれ。突き当りに脱出ポッドがある。そいつに潜り込んだら、お前らの艦の識別番号をコンソールに打ち込むんだ。番号はわかるな?」
「もちろんです。曹長」
「よし! 何が何でもそのお嬢ちゃんと一緒に、お前らの艦隊へ帰還するんだ、これは命令だ!」
「はい、曹長! 行こう、真理亜」
「でも、ケーキを皆さんに切り分けていないわ」
「あー、いいから全部持ってけ!」
「でも、約束ですから」

 そういうと、真理亜はいつの間に手にしていたのか、ケーキ包丁でホールの苺ショートケーキから一切れだけ切り出して、用意してあった手作りのケーキ箱にいれ、残りをディセル曹長に差し出した。

「ありがとうよ、生き残ったらじっくりと味わって食うさ。さぁ、急げ! 長居は無用だ!!」

 急かされるように二人はディセル曹長に会釈すると、通路へと駆け出した。
 直後、真理亜は背後からの耳を劈くような轟音と衝撃に立ちすくんだ。
 振り返ろうとした真理亜の視界を遮るように、レオニード2士は真理亜を抱きかかえる様にかばいながら、炎で燃え盛る通路の先を急いだ。 

*---*---*---*---*---*---*---*---*---*---*


「第三、第四ブロック、応答ありません! あっ! 艦長、補給艦が!」
「全員直ちに退艦せよ。本艦も、もうもたない!」

 補給艦の盾となるように、護衛の駆逐艦は艦砲射撃による爆砕破片の迎撃を続けたが、猛スピードで飛来する破片群の全てを蒸発させることはできなかった。
 合流予定の艦隊からと思われる支援砲撃も、補給艦が進路を変えたことで、効果が半減していた。
 駆逐艦よりも遥かに大きな艦容を持つ補給艦はバラバラになり、最後に残ったバイタルパートも砕け散っていった。
 既に火の回りつつある艦橋では、懸命の復旧作業を続けていたが、もう手に負えない状態であることは、誰の目にも明らかだった。
 
「補給艦からの脱出ポッドは確認できたか?」
「いえ、まだです! うわーっ!」

 通信コンソールも画面が一瞬フラッシュしたかと思うと、電気火花を散らしながら燃え上がった。
 艦長により全員退艦の命が下されていたが、次々と爆雷の破片が襲い掛かり、ずたずたに艦体が引き裂かれていく駆逐艦から、脱出できた者はいなかった。


*---*---*---*---*---*---*---*---*---*---*


 第106遊撃艦隊旗艦、アンドレア・ドリア艦内。
 艦隊幕僚幹部である、フランチェスカ・ジナステラ大尉の私室兼執務室。

 補給艦と護衛駆逐艦の殉職者遺族への訃報を知らせる文面に、フランチェスカ大尉は頭を悩ませていた。

「毎度のこととは言え、気が滅入るわ……」
「戦闘で人が死ぬのは、避けられないですし。それは私も覚悟はしていますけどね」

 フランチェスカの手伝いに来ていたメリッサは、フランチェスカの無聊を慰めるため、紅茶と菓子の用意をしながら言った。

「あら?」
「どうしたんですか?」
「迎えに行った護衛駆逐艦の方の殉職者リストの中に、“真理亜・ベリー・ファリーナ”って名前が」
「ああ、この前退役した、戦艦ピエンツァの葉月さんが可愛がっていた、新任のラヴァーズの名前ですね。可哀相に、亡くなったんですか……」
「ラヴァーズが、補給物資の確認に行くの?」
「ラヴァーズの中には料理の上手な人もいて、ラウンジで出すパイだとかケーキだとか、特別なメニューを作ることも多いんですよ。補給物資の中に珍しい食材とかあったら、需給統制課と調整して、夜のメニューに加えるんです」
「ふーん、知らなかったわ。メリッサも何か作れるの?」
「私は調理の授業は落第ギリギリでした。自分で食べる賄いぐらいならともかく、お客様に出すようなものは作れませんね」
「私も料理はぜんぜん駄目だわ。っていうかそんな教育、催眠学習の中には無かったわ」
「フランチェスカさんは元ラヴァーズといっても、私たちとはちょっと違いますからね」

 作業を中断し、ソファーで休憩することにしたフランチェスカは、メリッサの用意してくれた紅茶とクッキーに手を伸ばした。

「補給艦がやられてしまったから、しばらくは食堂もラウンジも、メニューがさびしくなりますね」
「もしかして、このクッキーも?」
「これで最後です。味わって食べてください」
「ぐぬぬ……。甘いもの無しでやっていけるかしら? そういえば……」
「何か気になることでも?」
「うん……なんとなくなんだけど、今度の補給で苺のショートケーキが食べられるような、そんな気がしていたのよ」
「苺ショートですか?」
「うん」
「苺は鮮度維持が難しいですし、ショートケーキなら生の苺でしょう? そんなの戦闘航海中は無理ですよ」
「それもそうね……」

 フランチェスカは電子窓の向こうに広がる、星々の海を眺めた。
 戦闘で人が死ぬのは避けられないと、今回も割り切ることができた。
 だがいつもそうだとは限らない。
 残された者の悲しみはどんなものだろうかと、フランチェスカは思った。
 書きかけの訃報通知を表示させたままの端末を刹那見つめると、再び視線を電子窓に戻し、なんとなく呟いた。

「でも食べたかったなぁ、苺ショート……」


(第8話に続く)



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